folder Aztec Camera 『Dreamland』からの続き。ほんとはこっちを先に書いていたのだけど、だんだん方向性がずれた上、ズルズル長くなってしまったので、えぇいっ!と半分にぶった切った。
 前回レビューとの関連性は薄いので、続きも何もない。まぁいつも通り、通常運転で。

 前作『Western Skies』から8年ぶり、Roddy Frameは2014年に待望のソロ・アルバム『Seven Dials』をリリースした。その間にも、単発的なライブや盟友Edwyn Collinsとのコラボで名前が出たりしていたけど、ついぞ本格的なソロ活動に入る様子は見られなかった。
 一時は音楽業界への不信感が募って、音楽活動そのものに距離を置いていた期間もあったらしい。Aztec Cameraとしては、最後のアルバムになった『Frestonia』を最後にワーナーと契約終了、ソロに転じてからはインディーに活動の場を移したRoddy。前回レビューの『Dreamland』が予想していたほどは売れなかったこと、また、それに伴うはずのプロモーション体制が貧弱だったことから、メジャーへの不信感というしこりが残ったのだろう。
 これまでの実績から鑑みて、優雅な印税生活ができるほどのポジションではないため、どうやって食ってんだろう、と余計な心配までしてしまう。副業があるのか奥さんが稼いでいるのか、はたまた金持ちのボンボンなのか、などなど。
 そこまで悠々自適でなかったことは、急速に老け込んだ風貌から察せられる。かつてはゆで卵の殻をツルンと剥いたような、苦労知らずのルックスだったというのに。ここに来て、やっと外見が年齢に追いついたといった感じ。

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 Edwyn Collins人脈のプロデューサーSebastian Lewsleyを迎え、ほぼ2人だけで作ったと思われるサウンド・プロダクションは、お世辞にも華やかなものではなく、どうひいき目に見たって、バカ売れする要素は見当たらない。
 実際、セールスも地味だったのだけど、まぁ生きてくれてるだけで十分、まだ歌ってくれてる分だけいいじゃないの、という事で、おおむね往年のファンからは歓迎された。
 『Surf』、『Western Skies』と、今世紀に入ってからの作品がどれもシンプルっていうか、簡素なアコースティック・スタイルが主体だったため、今回もまた地味〜なアルバムなんだろうな、と誰もが思っていたところ、案外、ちゃんとしたバンド・スタイルだったことも、好評の要因だった。あら、まだやれるじゃないの。
 さすがのRoddyも50を過ぎているため、高らかに伸びのあった往年のアルト・ヴォイスは失われているけど、老いを自覚した上での、無理のないキー設定やシンプルなリズム・アレンジは、今の身の丈にちょうど合っていると思う。

 ただ、今のRoddy、ツアーだテレビ主演だレコーディングだ、話題に何かと事欠かなかった80年代のプチ全盛期に比べ、今世紀に入ってからは、サウンドも活動ペースもすっかり地味になっちゃったことは否定できない。地元を中心に地道なソロ・ツアーでもやっててくれてるんならまだしも、まったく音沙汰すらない始末。
 たまに音信不通になっちゃうアーティストとして、俺的に思い浮かぶのが、Roddyとほぼ同世代のPaddy McAloon。奴も同じ臭いがする。ただPaddyと違ってRoddy、アルバム・リリース後にはきちんと人前に出て、ライブをやってる分だけ、まだマシである。
 おいPaddy 、YouTube に新曲「America」アップしてからしばらく経つけど、あれから何も音沙汰ねぇじゃねぇか何やってんだ。まぁ待っちゃうんだけどさ。
 で、そんなPaddyとは絡むこともなく、Roddy はアルバム・リリース後、2014年から2年越しで、イギリス国内とEUを中心に、小さな会場を回った。以前よりちょっとくたびれた風貌にはなっちゃったけど、まぁ取りあえず生きている。アルバムもパフォーマンスも、ささやかではあったけれど好評を得た。

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 -で、あれから2年。
 また音沙汰がなくなってしまったRoddyであった。Paddy とやってること変わんねぇの。
 日本では、すっかりマイナーな存在になので、待っていても情報は入ってこない。なので、Twitterとフェイスブックのアカウントが残っていたので、久し振りに覗いてみた。
 ツアーが終わったら、すっかりやる気なくなっちゃったのか、2年前を最後にツイートは止まっていた。ただ、しょっちゅうスマホは使っているのか、今年の8月、名古屋のインターFMの番組セットリストにAztec Cameraがリストアップされていたらしく、その記事に「イイね」をつけている。
 そんな極東のローカルFMまでチェックしているのかよ。やっぱヒマなんだろうな。

 ちなみに、フェイスブックには関心が薄いらしく、アカウントはあるけど、記事なんてひとっつもない。プロフィール・フォトなんて、『Western Skies』のジャケ写をそのまま使ってるくらいだから、もう10年くらい放置したまんまである。もうちょっとやる気出してもいいんじゃないかと、余計な心配までしてしまう。
 先日レビューしたBetty Wright や、あのKeith Richardsでさえ、いまは独自のアカウントを持っており、「あそこへ行った」「あいつに会った」など、他愛のない日常をつぶやいたりしている。生み出す音楽と直接関係はないけど、「あぁ、こんなことやってるんだなぁ」という近況が伝わってくるのは、俺的には素直にうれしい。
 ネット普及以前と比べて、ファンとの距離感が格段に近くなったおかげで、「謎の存在感」や「カリスマ性」を演出しづらくなった弊害は、確かにある。ここまで情報があふれまくる現代社会になっちゃうと、昔のような情報統制は不可能に近い。
 カリスマティックなスターは生まれづらくなったけど、まぁRoddy には関係のない話である。もともとカリスマ性とは縁遠いキャラだしね。

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 そんな活動状況ではあるけれど、良く言えば、周囲に振り回されない、マイペースな仕事ぶりである。『Dreamland』のレビューでも書いたけど、何も無理に定期的なリリース・ペースを守らなくてもいいのだ。良い曲を少しずつ、良質の珈琲を落とすように、曲ができるのをじっくり待てばよい。無理やり絞り出したって、いいモノはできないし、それはRoddy本人が一番よくわかっているはずだ。
 アルバムごとに違うサウンドを指向していたバンド時代を経て、今のRoddyに迷いはない。もう、包装やデコレーションで飾り立てる時期は過ぎてしまったのだ。
 変化すること、留まらないことが、Aztec Cameraのアイデンティティのひとつだった時代は、確かにあった。ブラコン風だギター・ポップだAORだ、様々なスタイルを試しては捨てて来たけれど、結局、最後まで変わらなかったのは、アコギを中心に静かに奏でられるシンプルな歌だった。
 どれだけ意匠を変えたとしても、その根幹は失われず、最初からそのまんまだったのだ。

 『Seven Dials』には、初期のネオアコ期を連想させるタイトルの楽曲も収録されている。こういったセンチメンタルに流されがちな曲も、ここでは程よい情感で歌っている。
 50を過ぎて、そろそろ人生的には最終コーナー、ちょっと振り返るにはいい頃合いだ。決して数は多くないけれど、長く応援してくれる熱心なファンを生み出したキャリアは、恥ずかしいものではない。だから、ちょっと歩みを止めたって、誰も何も言えるはずがない。
 4年前、デビュー作『High Land, Hard Rain』リリースから30周年を迎え、Roddy はファンのために、3回の全曲再現ライブを行なった。アニバーサリー的なイベントとは縁がない人だと思っていたけど、それだけ待っててくれる人がいた。そういうことだ。

 だからRoddy、あともう一回くらい、日本に来てくれないかな?
 みんな、優しく迎えてくれるよ、きっと。



Seven Dials
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1. White Pony
 大人しいオープング。またアコギだけかよ、と思ってたら、すぐバンド・セットが入ってきて、印象が変わった。直球勝負のメロディックなバラードに、控えめながら力強いバッキングとの相性は抜群。現在のRoddyの作風にフィットした、程よく抑制されたサウンド・プロダクション。

2. Postcard
 タイトル通り、イントロから往年のネオアコっぽいアレンジに、ファンは狂喜したのだった。キャリアのスタートとなったシングル「Just Like Gold」をリリースしたポストカード・レーベルのことを直接歌っているわけではないけど、当時のキラキラした躍動感が伝わってくる。懐メロとしてではなく、今の等身大の言葉と声で、Roddyは歌う。そう、まだ老いるには若すぎるのだ、体も心も。



3. Into The Sun
 『Stray』期を彷彿とさせる、大人のギター・ポップ・チューン。しかし、声が衰えてないよな。ギターだって、ちゃんとラウドなプレイだってできるはずなのに、自分の楽曲に合わないとなれば、きちんと抑えたプレイでまとめちゃうし。あくまで歌とメロディが優先なのだ。そこに至るまで、ここまでかかっちゃったけど。

4. Rear View Mirror
 ちょっとジャジーなギターから始まるシックなバラード。いろんなサウンドに手をつけてきただけあって、レパートリーの幅が広いのも、この人の強みである。二流のシンガー・ソングライターなら、こういった抑揚の少ないバラードだったら退屈で最後まで聴き通せないのだけど、飽きさせないところは熟練の技なのか。リズム・セクションによる中盤の静かなインタープレイに、ちょっとオッとなってしまう。

5. In Orbit
 Elton Johnみたいなオープニングから、徐々に熱を帯びてくる、壮大なスケール感を持つポップ・バラード。Aztec時代なら、もっとコッテリしたアレンジにしていたんだろうけど、シンプルなバンドセットが逆に、Roddyのヴォーカルの存在感を引き立たせている。
やっぱりこの人は、メロディと声で成立しちゃうんだよな。重厚なサウンドだと、それらが全部埋もれちゃう。

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6. Forty Days Of Rain
 ここでいきなりハーモニカが来るとは思わなかった。軽快なネオアコ・サウンドをバックに、ちょっとスカしたクール・ガイといった体で歌うRoddy。いや全然衰えてないわ、この人。人生折り返しちゃったんで、急に覚醒しちゃったのかな。このスタイルなら年齢的にも無理がないんだから、もっと外に出て、世に広めちゃえばいいのに。まぁ、静かな生活を望んでいるのかな。

7. English Garden
 ちょっとクール・ダウンするバラード。最初に聴いた印象が、「あれ、歌うまくなってね?」。もともとヴォーカルに関しては一定の評価はあったけど、ここに来て熟成された深みを増してきている。ソロになってからのRoddyは、ダウナーな楽曲が多く、そんな心境が声の質感にも反映されていた。そして、『Seven Dials』で聴かれるヴォーカルは、どの曲調においても前向きな姿勢が顕著となっている。これは、以前のソロ・セット主体のアンサンブルから、バンド・セットに移行した影響が大きいんじゃないかと思われる。
 
8. On The Waves
 無理を感じさせない若さ、ネオアコの枠ではなく、新たなRoddy オリジナルを作るんだ、という気概を感じさせるパワー・ポップ。80年代サウンドをこよなく愛する者なら、ほとんどの人が気にいるはず。重苦しくなく、程よく軽くて口ずさみやすく、丁寧に作られたメロディ・ライン。そんな曲。



9. The Other Side
 アコギを主体とした、前向きな視線のポップ・バラード。久々にロック・スタイルのギター・ソロが聴けるのがポイント。楽曲の芯の強さが、繊細なサスティンよりも、荒ぶるラウドな音を求めた、ということなのだろう。
 こういった楽曲を再び書けるようになるまで、大きく回り道をした。
 でも、まだ遅くはない。

10. From A Train
 ラストは繊細に、流麗なアルペジオを使った弾き語り。『Surf』はこんな曲調ばっかりだったため、さすがに食傷気味だったけど、最後のシメとしてはちょうどいい塩梅。
 どの曲も共通して、3分台でまとめているので、しつこいイントロ・アウトロは極力排除されている。混じり気のない、Roddyの「今」が過不足なく真空パックされている。






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