folder で、前回の続き。ほんとはこっちが本題だったんだけど、思いのほか前置きが長くなっちゃったので、2つに分けちゃった。

 2枚目の『Pic-Nic』までは、フェアライト・マスター松浦によるジャストなリズムと、ピーク・クライマックスの薄いサウンド、そこにナチュラル・コンプの声質を持つチャカが、童謡歌手のようなフラットなヴォーカルを乗せるという、-何かこうして書いてると、味も素っ気もない、コンセプチュアルなサウンドを展開していたのだった。
 そのくせ、楽理とテクノロジーで理論武装した頭でっかちと思いきや、松浦の手から編み出されるシンプルで口ずさみやすいメロディは、当初からごく一部のポップ・マニアの注目を集めていた。過剰にマシンスペックにこだわった「キーボード・マガジン」読者より、サブカル寄りな「テッチー」読者に人気があったのは、そんな理由が大きい。

 典型的な理系脳の松浦と、アクティブなバンドマン系列のチャカとのチグハグなコンビネーションのズレは、単発的に見れば面白いものだけど、継続して活動するユニットとなると、普通はあっという間にネタ切れになる。当時はシンセ周りの技術革新が、ハイパーインフレ状態だったおかげもあって、当初のウリだったフェアライトも物珍しさが薄れつつあった。
 ここで松浦が、当初のコンセプトを頑固に貫いて、マシンのアップデートを主軸としたサウンドを続けたとしても、新型マシンの品評会になるだけだし、それだってキリがない。CDとして発表すると同時に新たなアップデートが告知され、途端に過去の遺物となる繰り返しだ。
 もう5年くらい遅くデビューしていたら、テクノポップの「ポップ」を取って、テクノ〜ニュージャック・スウィング~ハウス方面へ向かっていたのかもしれないけど、まぁ踊れない松浦なら無理か。「レーベル・カラーと合わない」とか言って、ソニーも止めてただろうし。

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 そんなディープな方向へ向かわなかったのは、デビュー時同様、これまたラジオの企画、当時松浦がDJを務めていたNHK –FM「サウンド・ストリート」内の企画がきっかけだった。既発表曲のリアレンジや、ソニー系アーティストを中心としたコラボから交流が生まれ、以前レビューしたコンピレーション・アルバム『Collection』として結実することになる。そんな共同作業を介してから、松浦の音楽制作への姿勢が微妙に変化してゆく。
 長時間スタジオに篭り、すべてのベーシック・トラックをほぼ独りで作るというのは、想像以上に孤独な作業である。ほんの少しのドラム・リヴァーブの長短や、ストリングスのピッチ調整など、こだわればキリがない。
 頭の中で鳴っている音が確実なわけではない。あぁだこうだとCRT画面とにらめっこしながら延々、「これかな?」という音を探すのだ。ただ、そこまでこだわり抜いた音だって、完成テイクというわけではない。時間に追われ締め切りに追われ、「まぁこれなら大体満足できるかな」程度のレベルであって、ほんとなら、時間さえ許せば永遠に終わることはない。しかも、それらの細部へのこだわりとは、多くのリスナーに理解できるものではなく、報われることはほんのわずかなのだ。
 バービーいまみちやゼルダらとスタジオを共にすることによって、何もかもフェアライトでまかなってしまっていた従来のサウンドは、『Collection』を境に大きく変化する。基本のシンセ・サウンドは変わらないけど、バンド演奏によるアンサンブル・マジックを目の当たりにしたことによって、少しずつそのエッセンスを導入するようになる。
 もちろん、そこは理系脳の松浦であるからして、レコーディングの段階でいろいろ加工はしているけど。

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 その後のPSY・Sは、本来のレコーディング・ユニットとは別に、ライブ演奏用に結成された流動的ユニット「Live PSY・S」を始動、それぞれ独自の進化を遂げてゆくことになる。
 テクノポップのライブといえば、YMOを端とするシンセ機材の山積み、メーカー協賛による品評会的な物々しさを想像しがちだけど、Live PSY・Sはそのセオリーから大きく外れている。もともと本格的なライブ活動を開始したのが、オーソドックスなバンド・アンサンブルを前面に出した3枚目『Mint-Electric』リリース後からだったこともあって、アルバム音源をベースとしたバンド・サウンドを、可能な限り忠実に再現することに力を注いでいた。
 共同作業によるスタジオ・マジックには、ある程度の理解は示したけど、だからといって、冗長なアドリブやインプロビゼーション、それにまつわるバンド・マジックを盲信する松浦ではない。隅々までシミュレートし、破綻のないアンサンブルをかっちり作り込んだ。そして、チャカには敢えて縛りを課さず、ステージ上では自由奔放に歌わせた。
 ただこれも計算のうち、もともと松浦が書く楽曲は、突発的な転調や不協和音を使わず、案外オーソドックスなコード進行で構成されており、譜割りを崩したりフェイクを入れたりの小技が使いづらいのだ。カラオケで歌ってみればわかるよ、譜面通りに歌うだけで精いっぱいだから。

 そんな理路整然さを推し進め過ぎることが、逆にライブ感を損なってしまうことを危惧したのか、ステージ演出はやたらエンタメ性が爆発している。80年代特有のサブカル系が調子に乗った、やたらデコボコ立体的な機能性無視のコスチュームに身をまとうチャカを中心に、ポップ系アーティストのステージ・パフォーマンスの走りとなった、南流石による振り付けは、当時のソニー系アーティストでも目立って注目を引くものだった。バンマスである松浦は、一歩引いて機材の山に埋もれるのが定位置だったけど、時々ハンディ・キーボードやギターを抱えて前に出たりして、裏方に徹するストレスをほんの少し解消したりしていた。
 次第にシーケンスの割合が少なくなって、キーボードのベンダーを小刻みに動かしたり手弾きが多くなったり、次第に普通のバンド化してゆくことになるLive PSY・S=松浦だったけど、果たしてそれは進化だったのか、はたまた試行錯誤だったのか。

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 で、『Two Spirits』。
 ライブ・アルバムという体裁でリリースされている。いるのだけれど、正直、臨場感はかなり薄い。普通は収録されているMCや歓声がばっさりカットされているため、「ちょっとエコーが多めの演奏かな?」と意識してからやっと、「そういえばライブだったんだ」と気づくくらいである。
 ライブ録音したテープ音源を加工・手直しするという発想は、何もPSY・Sが始めてではない。ライブ時の偶発的なインプロビゼーションを素材として、Frank Zappa やKing Crimsonは、数々のアルバムを量産した。レコーディングしていない新曲を試したり、また既発表曲でも、その日によって全然違うアドリブやオブリガードが繰り出されたりなど、演奏のたび違うテイクがボコボコ生み出された70年代。そりゃ未だにブートやアーカイブも売れ続けるわけだよな。
 ただ松浦の場合だと、ちょっと事情が違ってくる。彼の中で、ライブ録音されたテープ素材とスタジオ・テイクとは、同列のものである。ちょっとしたタッチ・ミスやピッチのズレは、ライブならではの醍醐味ではない。それらはファンが聴きやすい商品として、また、自身の納得ゆく形に整えられなければならないのだ。

 アンサンブルを整えるためにテイクの差し替えを行ない、歓声やMCをノイズと捉え、ばっさりカットしてしまう。複数のライブ音源をひとつにまとめるため、ピークレベルは均等にそろえる。
 大幅に編集されたトラックは、精密部品のごとくきれいに研磨され、スタジオ・テイクと遜色ないオーディオ・クオリティとなった。
 -え?CDと変わんないの?
 理系脳ゆえの細部へのこだわりと潔癖さが過剰にフル回転したあげく、トータリティは増して、収録時期の違いは目立たなくなった。多分最初こそ、先にリリースされたベスト・アルバム『Two Hearts』から漏れた人気曲の補完として、スタジオ・テイクとは別の側面を見せる思惑だったのだろう。ただ松浦のアーティスティックな暴走によって、次第にコンセプトが変容してゆくのを、ソニー側は誰も止めようとしなかったのか。
 サウンド的にも円熟期に入り、セールスもそこそこのポジションで落ち着いてしまったし、今のところ新局面も見当たらないしで、ちょっとした閉塞感を見せつつあったのが、この時期にあたる。もともとシンセを中心としたサウンド作りゆえ、長期的活動のビジョンが見えづらい形態なのだ。なので、10年も続いただけで、それはもう奇跡と言ってもよい。

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 かつてJoe Jackson は、全曲書き下ろしの新曲で構成したライブ・アルバム『Big World』をリリースした。開演前/公開レコーディング前の注意として、「観客は一切の物音や歓声を上げてはならない」。「これはレコーディングを優先したものであり、いわば観客であるあなたもレコーディング・メンバーの一員なのだ」と。
 やたら上から目線で常識破りな指示だったけど、ほとんどの観客はみな固唾を飲んでステージを見守った。参加ミュージシャンらも、通常のライブとは違う緊張感の中、ひたすら演奏に集中した。異様なテンションによる相乗効果は、尋常じゃないクオリティの完成品として昇華した。
 『Big World』も『Two Spirits』同様、余計な音は刻まれていない。ただ明らかに違うのは、『Two Spirits』の曲間が無音であるのに対し、『Big World』の曲間、音と音の隙間に込められているのは、ミュージシャンらの高潔なプライドと、信頼関係で結ばれた観客、それらがステージ上で一体となった連帯感である。そして、そんな空気感を余すところなく記録しようと奮闘するエンジニアらの献身ぶりである。
 すべては音楽のミューズのもと、単純に良い音楽を作るためのプロセスなのだ。

 イコライジング前のライブ音源を聴きまくった松浦は、編集作業時、何を思ったのか。
 ミューズの囁きを耳にした上で、ライブ感をフォーマットしたのか、それともミューズの存在に気づけなかったのか。
 それは松浦自身にしかわからないことだ。


トゥ・スピリッツ
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PSY・S
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1. Parachute Limit
 5枚目のアルバム『Non-Fiction』収録、こちらでもオープニング・ナンバー。スタジオ・ヴァージョンはリズム・セクションが強く、バンド・サウンド的なミックスでチャカの存在感もちょっと薄めだけど、ここではヴォーカルが大きくミックスされ、女性コーラスもフィーチャーされて臨場感がある。

2. Teenage
 デビュー・アルバム『Different View』のオープングを飾った曲。ほぼフェアライト一台で作られたオリジナルより、当然サウンドの厚みは段違い。頭でっかちなテクノポップが、ステージではドライブ感あふれるハイパー・ポップに生まれ変わっている。しかしチャカ、ライブでも安定した歌唱力をキープしているのはさすが。

3. Kisses
 6枚目『Signal』収録、またまたオープニング・ナンバーの3連発。なんかこだわりでもあるのかそれとも偶然か。Supremesを思わせるモータウン・ビートを持ってくるとは裏をかかれたな、と感心した思い出がある俺。だって、松浦にそんな素養があるとは思わなかったんだもの。アルバム自体がLive PSY・Sによって制作されているので、スタジオ・ライブともあまり違和感が少ないのが、この時期の曲。

 女のコ あれもしたいし これもしたいの
 キス したい スキよ
 男のコ 迷わないでね 遊ばないでよ
 キス してね

 単純だけどきちんと練られたポップな歌詞、それに一体感のあるサウンド。この辺がユニットとしてのピークだったんだろうな。



4. Christmas in the air
 オリジナルは1986年リリース、杉真理主導でソニー系アーティスト中心に企画されたクリスマス・アルバム『Winter Lounge』に収録。当然、入手困難な時期が長かったため、この時点ではいわゆる「幻の曲」扱い、ここでのライブ・ヴァージョンでしか聴く機会がなかった。なので、こっちがオリジナル的な感覚を持つファンも多い。
 時期的に2枚目『Pic-Nic』のアウトテイクと思われ、ガジェット的な使い方のギターやベースがテクノポップさを演出していたのだけど、ここではアコギもナチュラルな響きで、むしろオーガニックな味わい。でもクリスマスのワクワク感はちょっと足りないかな。

5. Paper Love (English Version)
 『Different View』収録、なんとここではスローなレゲエ、これはこれでまたクール。オリジナルは日本語だったけど、ここでは全編英語で通しており、前身プレイテックス時代の痕跡を見ることができる。

6. 青空は天気雨
 3枚目『Mint-Electric』収録、ここではベースのボトムが効いたクール・ファンクなテイスト。ファンの間でもオリジナル以上に人気が高く、またよほどアレンジが気に入ったのか、ライブ・アルバムとしては珍しくシングル・カットもされている。



7. TOYHOLIC
 続いて『Mint-Electric』収録曲。タイトルからわかるように、当時、絶大な人気を誇ったロックバンド漫画『TO-Y』のオリジナル・ビデオ・アニメの主要テーマとなったナンバー。印象的なコマの空白と細い線描のイメージに合致した、浮遊感のあるサウンドは、映像にマッチしていた。その世界観は変わらない。

8. Everyday
 『Pic-Nic』収録。ギターのフレーズが結構ファンクしているのだけど、奥に引っ込んだ配列となっているので、アンサンブルを損なわず切れ味の鋭いポップ・チューンに生まれ変わっている。オリジナルは、ベースがやたらブーストされたテクノポップといった味わいだけど、俺的にはライブ・ヴァージョンの方が好みかな。

9. Friends or Lovers
 そういえばそうか、これってアルバム未収録曲だったんだ、たった今気がついた。PSY・Sの中では最も高いセールスを記録した、人気としてもクオリティとしても、文句なしの代表曲なのに、そうか入ってなかったんだ。ドラマの主題歌にもなったしPVもよく深夜テレビで流れてたしで、よく聴いたよな。
 
 友達と 恋人と
 決めるから こじれるのかな
 クラッシュしてる みんな
 宝石も 香水も
 好きだけど 満たされないね
 (ねぇもっと) リラックスして

 この時代になると主に松尾由紀夫が作詞を手掛けており、コンセプトにもブレがないため、普通にオリコン・シングルとも渡り合えるクオリティになっている。やっぱりあれだな、抽象的な歌詞もある程度、ターゲットやテーマを絞り込まないと散漫なだけなんだな。

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10. 冬の街は
 今となってはPSY・Sにとっても、そしてシオンにとっても代表曲のひとつになっている、これまたアルバム未収録曲。この曲が生まれる発端となった『Collection』がソニー系アーティストで固められていたため、他のレコード会社所属だったシオンのこの曲は、リリースが見送られてしまった、という大人の事情が絡んでいる。
 ただ楽曲の力はあまりに強い。PSY・S、シオンとしてだけでなく、80年代を代表する裏名曲としての座をずっと保持し、ここに収録となった。
 暗喩の多い抽象的な歌詞は、Led Zeppelin 「Stairway to Heaven」からインスパイアされてると思うのだけど、それって俺だけかな。



11. EARTH~木の上の方舟~
 『Non-Fiction』収録、大味なアメリカン・ロックをベースに、MIDI混入率を多めにしてみました的な仕上がり。前の曲と比べるとちょっと地味かな。ここでひと休みといった印象。

12. Silent Song
 『Collection』収録、当時から人気の高かったパワー・ポップ。バービーいまみち参加によって楽曲の完成度は約束されたようなもので、時代を思い起こさせるギターのディレイもリフも、適度にからむ松浦のソロも、何もかも完璧。でもね、いまみちの音はもうちょっと大きめにしても良かったんじゃないかと思う。

13. 私は流行、あなたは世間
 ラストを飾るにふさわしい、PSY・Sの出発点。シンセドラムの音やリズムは時代によって微妙に変化していくけど、チャカの声は不変だ。特にこの曲ではビブラートもコブシもシャウトも何もない、小手先の技を使わずストレートな、正弦波ヴォイスで朗々と言葉を紡ぐ。松浦が奏でるサウンドも、敢えて最先端ではなく、原初のテクノ的メソッドの音をあえて探して使っている。

 しっかし、名曲ばっかりだな、こうやって聴き通すと。




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