folder そう、Beautiful Southが解散して、もう10年の月日が経っていたのだった。俺も年を取るわけだ。

 「音楽性の類似のため、解散する」。
 そんな意味不明のコメントを残してバンドの歴史に終止符を打った彼ら、2006年にリリースされたラスト・アルバム『Superbi』は、UK最高6 位にチャートインした。最盛期にはチャート1位は当たり前、ゴールドやプラチナ・ディスクも何枚も獲得していたのにもかかわらず、特にソニー移籍後は尻つぼみの成績で終わってしまった。
 当時のソニーUKといえば Franz Ferdinandが稼ぎ頭であり、90年代のJポップをそのまんま移植したようなバンド・サウンドが幅を利かせていた。なので、サウンド的にインパクトの薄い彼らにとって、メジャーのソニーは場違い感が強かった。
 キャッチーなメロディと音圧の高いサウンドによってティーンエイジャーの耳目を惹きつけるソニー戦略の中、くたびれた中年そのまんまのビジュアルの彼らを売り込むノウハウを持つスタッフはいなかった。
 何がどうなってソニーへ移籍することになったのか、そして何をどう間違えてソニーが彼らと契約するに至ったのか、その辺の真相は不明だけど、双方にとって不完全燃焼的な結末となってしまったのは不幸である。まぁソニー以外だったらどうだったかと言えば、それもちょっと微妙だけど。

 そんな彼らの最盛期と言えるのが、1996年『Blue is the Color』リリースの頃。UKでは5枚のプラチナムを獲得、90年代UKヒット曲コンピでは定番となっている彼らの代表曲「Rotterdam」「Don't Marry Her」もそれぞれシングル・チャートで健闘し、シルバー・ディスクを獲得している。いま思えば、時代遅れのネオアコ・タッチの地味な曲が普通にトップ10にチャートインしていたのだから、英国人の寛容性と屈折具合が窺える。
 この時期の彼らの売れ方はお茶の間レベルに深く食い込んでおり、一家に1枚、ほぼ誰かしらアルバムを持っている状態で、日本では想像もつかないほどのメジャー待遇だった。イギリスで言えばQueenかElton John、日本で言えばサザンのポジションと考えればわかりやすい。だからといって、崇め奉るほどのカリスマ性はない人たちなので、扱いとしては軽いものだったけど。
 そんなメジャー感を謳歌していた彼らも、96年をピークとしてセールスは緩やかに下降してゆき、もともと地味だったビジュアルもさらに磨きがかかり、どんどんむさ苦しくなってゆく。華がない普通の人たちの集まりなのだけど、どこで浪費していたのか、また誰が搾取していたのか、その辺は謎である。

p01bqlvn

 彼らの場合、まぁ前者2組もそうなのだけど、共通しているのは覚えやすい歌メロとわかりやすいサビ、それほど凝らないコード進行の妙がある。単純な組み合わせにこそ黄金パターンがあることを理解している、そんな楽曲が多い。ただ甘い聴きざわりだけでなく、そこにスパイスとして辛辣で皮肉な歌詞を乗せて歌い上げることが、大方の英国人のツボにはまった。
 ただ、QueenはFreddie亡き後もGeorge MichaelやPaul Rogersを迎えて衆目を引いたり、残されたブレーンの緻密な戦略によって、話題が途切れないよう配慮されている。Eltonもまた、旬のアーティストとデュエットしたり同性婚などのゴシップ的な話題を提供したりなど、何かと存在感の保持に気を配っている。いや、この人の場合、やりたいようにやってるだけか。
 対してBeautiful South。
 彼らの場合、ニュー・アイテムのリリース以外の話題は皆無と言ってよいくらい、ほんと何もない。ただコンスタントに、いつもと同じ変わらぬクオリティの作品を提供し続けるだけ。それは真摯なアーティストとして、当然の行動ではあるのだけれど、エンタテインメント的な視点で見れば、あまりに起伏に乏しい活動状況のため、追いかけていても面白みがない。いつもと同じ顔でそこにいるのだから、追いかける必要も特別フィーチャーする必要もない。インタビューしても面白くなさそうだしね。
 なので、音楽誌以外で取り上げられることはもともと少なかったのだけど、その音楽誌からも次第に距離を置かれてしまったことが、バンドの終息を速めてしまったのかもしれない。

 QueenにはFreddie Mercuryという絶対的な、ビジュアル的にカリカチュアライズしやすいカリスマがいたこと、またBryan MayやJohn Taylorなど、70年代少女漫画的美形キャラを揃えていたこともあって、各メンバーのキャラクターが明確になっていた。しかもそんな濃いキャラ陣の中で、「無個性」という最強の個性を発揮していたJohn Deaconというオマケもつけて。
 Eltonの場合、決してルックスに秀でていたわけではなかったけれど、当時としては絶対口外できなかったホモセクシャルというコンプレックスの反動からか、ド派手なステージ・コスチュームに身を包み、エンタテインメントに徹したライブ・パフォーマンスを披露した。辛辣な言動でたびたびゴシップ欄の常連となったけれど、それに反して彼の指先から生み出されるメロディは世界中のファンを魅了し、多くの資産と名声、それに醜聞と笑えるエピソードを残した。

513PI3cqEGL
 
 対してBeautiful South。よほどのファンでも、Paul Heaton以外のメンバーの名前、メンバー数、歴代女性ヴォーカリストのラインナップなどなど、それらを正確に言えるファンがどれだけいるか。ごめん、俺も全部知らないわ。彼らがどんな生活をしているのか生い立ちなのか、あまり記事でもみたことがない。ていうか、あまりに普通っぽい人たちなので、そこまで突っ込んだ質問をするインタビュアーもいないのだろう。前者2組と違って、いまでも普通に素顔でパブで飲んだくれてそうだし。多分、誰も気づかないんだろうな。
 彼らのアルバムは常に高いクオリティの楽曲を揃えているのだけど、特別トータル・コンセプトに沿った作りではなく、どのアルバムも各曲が独立した小品集的な構成になっている。なので、アルバムごとの特徴が薄く、どの時期のものを聴いてもそれほど変わり映えしないのが、ある意味特徴でもある。女性ヴォーカル以外はほぼメンバーは不動、ドラスティックなサウンドの変遷もほぼ皆無のため、正直、どのアルバムを聴いても変わり映えしない。
『Miaow』と『Quench』、どっちが先にリリースされたのか、またそれぞれの収録シングル曲を挙げよ、というカルトQクイズが主題されたとして、正確に答えられるコア・ユーザーが世界中にどれだけいるだろうか?俺?俺はムリ、だっていま適当に出題してみただけだもん。

 ある意味、それは純音楽的主義を貫いている逆説的な証明なのかもしれない。
 アーティストが亡くなっても、音楽は残る。
 キャラクターで聴かせるのではなく、予備知識なしの純粋な音楽的クオリティだけでここまで這い上がってきたのが彼らなのだ。がむしゃらに這い上がってきたというよりは、地道にコツコツ活動してきたら、いつの間にかここまで上がってきちゃった、という感じが強いのだけど、それだけのポテンシャルを有してる集団であることは確かである。
 でも歴史に残るのは、前者2組だろうなやっぱ。この先、「Bohemian Rhapsody」や「Your Song」が歴史に埋もれるとは考えづらいし。

The Beautiful South_ Sony Music Distribution

 21世紀に入ってからのBeautiful South はチャート的にも、そしてバンド内のテンション的にも下降の一途を辿っていた。全盛期をけん引した2代目女性ヴォーカリストJacqui Abbott が脱退、新たにAlison Wheelerを補充してバンドの維持に努めたのだけど、やはり一度落ちたテンションを取り戻すことはできなかった。
 同じ曲調であるはずなのに、なんか違う。
 彼らが変わったわけではない。聴き手の意識がすっかり変わってしまったのだ。
 
 彼らがデビューしてから解散するまで、ほぼ15年の間だったけど、その間、イギリスでは様々なムーヴメントが巻き起こっていた。グラウンド・ビートからブリット・ポップ、ミクスチャー、シューゲイザー、グランジ、ドラムンベース、エレクトロニカ、ビッグ・ビートなどなど、90年代UKにそれほど詳しくない俺が、パッと思いついただけでこれだけあったので、細分化するとそりゃ膨大な量になる。
 なるのだけれど、そのブームのどれにも関わらず、またコミットすることなく活動してきたのが彼らである。もともとは前進バンドHousemartinsの流れから、80年代ネオアコ・ムーヴメントの追い風に乗ってデビューした彼らだったけど、その後は時流に流されることもなく、独自のオーソドックスなポップ路線を貫いている。他のバンドとのコラボや対バンもほとんどなく、せいぜい相手にしてくれるのは、盟友 Norman Cookくらい。起死回生のコラボだったはずなのに、イマイチ消化不良に終わってしまったけど。
 曲調は極めてオーソドックスで流麗なメロディ、だけど言ってることはエログロナンセンスの極み、アブノーマルな内容なので、日本だったらイロモノ扱いされているはずである。ジャンルは違うけど、面影ラッキーホール(いまはOnly Love Hurtsと改名して活動中)がそのポジションに近いんじゃないかと思われる。
 想像してみてほしい。一家団欒の金曜夜8時、Mステで「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれ」を高らかに歌い上げる彼らの姿を。他にもグロい曲はあるのだけれど、恥ずかしくてここには書けない。あとは各自調べてみて。
 ニュアンス的に、こんな認識だと思われる。

 少なくとも7人に1人、ほぼどの家庭にも彼らのベスト・アルバムがあるくらいだから、ごく普通の英国人が彼らを受け入れる土壌はあるのだろう。
 面影ラッキーホールをCDプレイヤーにセットして家族で談笑するまでに、日本はまだどれほどの暗黒と抑圧を受け入れなければならないのか。
 階級闘争のない日本人にとって、英国人のどす黒い深淵は永遠の謎である。謎のままだろうな、きっと。


Superbi
Superbi
posted with amazlet at 16.06.30
Beautiful South
Sony Bmg Europe (2006-08-01)
売り上げランキング: 646,635



1. The Rose of My Cologne
 全然ブルースっぽくないドブロ・ギター、まぁこれは何となく「らしく」っぽく聴こえるバンジョーが、新機軸といえば新機軸。まぁ歌に入っちゃえばいつもの彼らなのだけど。
 カントリー・テイストあふれるのどかなポップ・ソングの体裁を取っているけど、歌われてる中身はいつも通り、三文ゴシップ誌も裸足で逃げ出すゲスの極みな世界。アル中、あばずれ、チンピラ、痴話喧嘩、駆け落ち、もう何でもあり。そんな現実を癒してくれるのが、「バラの香り」と称される謎の女。
 救いのない結末には皮肉もペーソスもなく、ただただ陰惨。第2弾シングルとしてリリースされてるけど、さすがの彼らも99位が最高だった。



2. Manchester
 で、これが先行リード・シングルとしてリリースされ、UK最高41位。全盛期のPaul McCartneyを彷彿とさせるベース・ライン、それと歌声。前曲同様、アコースティック色が強い。サビもキャッチーだし売れそうなものだけど。
 晴れ間の見えることの少ない、そんな英国のよどんだ天候を象徴するサエない都市、それがManhester。サッカー選手にでもならなければ、一生階級制度の奴隷として張り付いていなければならない、そんな取り柄のない小都市への逆説的な賛辞。ひねってるよなぁ、英国人。



3. There Is Song
 そんな英国にもいいところはある。前向きなラブ・ソング、それに人生賛歌。皮肉もなく、真っ当でストレートな賛辞と憧れとが満ちあふれた、もうちょっとウェットに振れればElton Johnの後を継ぐ者として、いくらか生き永らえたかもしれない。
 でも、こんな流麗な曲サビの最後に「Frog」なんて入れてしまうあたりが、エンタメになり切れなかった男たちの悲劇である。

4. The Cat Loves the Mouse
 これまでのパターンでもよくあった、女性ヴォーカルとの掛け合いが絶妙なロッカバラード。Paul Heatonもこれまでにないエモーショナルなヴォーカルを披露している。ハスキー・ヴォイスが特徴のAlison Wheeler、本来ならアクが強すぎてデュエットには向かない人である。だけどそこはベテランの演奏陣プラスHeaton、うまく彼女の歌声を最大限に活かしたアレンジで組み立てている。 

5. The Next Verse
 ここまで聴いてもらえればわかるのだけど、今回の彼らはかなりアメリカ寄りのサウンドで統一している。と言っても、アメリカで売れようだなんて下心ではなく、単にちょっと新味も試してみたかったから、という感触が強い。まぁこの期に及んで大ヒットを狙うはずもないな。
 彼らにしては珍しいブルース・ナンバー。さっきも書いたように、ちっともブルース特有の泥臭さは感じられない。まぁこのフェイク感を楽しむのが興。

The+Beautiful+South+Superbi+-+Medium+424563

6. When Romance Is Dead
 ここでAlisonとリードを分けるのは、なんとギターのDavid Rotheray。彼が歌うのは初めてじゃないかと思われる。ていうか、何で?
 「ロマンスが死に絶えた時」というタイトルを逆説的に捉えるなら、まだ話は分かるのだけれど、歌詞は陰鬱としてそのまんま。それを情感たっぷりに歌い上げる2人。何がしたいんだ?

7. Meanwhile
 3分程度の小品の中にめちゃめちゃ言葉が詰め込まれているのだけれど、冒頭から離婚の相談を持ち掛ける三文メロドラマ。2ちゃんの書き込みみたいな陳腐なストーリーを練り上げられたメロディに乗せて歌うことが、ゴシップ誌とTV以外に関心のない層には受けたのだろうけど、もはや現実はフィクションを追い越していた。フィクションだけじゃ、もう満たされないのだ。

8. Space
 Monty Pythonのサウンドトラックに通ずるものがある、ロックからは遠く離れたサウンドを持ったナンバー。BPMの早い8ビートは心地よいけど、歌われてる内容は相変わらず屈折しまくり。

_SCLZZZZZZZ_

9. Bed of Nails
 アコギをメインに出したスウィートなデュエット・バラード。

 もし他のすべてがダメになったら
 このバラのベッドを 
 針のむしろに取り替えてあげるよ

 でも、歌ってることはこんな内容。ブレないよね。

10. Never Lost a Chicken to a Fox
 『Miaow』期を彷彿とさせる、軽快なアップテンポ・ナンバー。以前と違ってカントリー・タッチが入っているのは新機軸のあらわれ。と言ってもスパイス程度で根っこは変わらないけど。
 心なしか、ヴォーカル・スタイルもDylanっぽくラフなタッチになっている。アコースティックでアップテンポになると、みんなDylanっぽくなってしまう。そう感じるのは俺だけ?

11. From Now On
 ずっと聴いてると、カントリー・テイストというのがまだるっこしく聴こえてしまう。アルバムも終盤になると、楽曲自体の良さは変わらないのだけど、冗漫に聴こえてしまう。
 彼らと同じく、古き良きアメリカへの憧憬を表明しているPaddy McAloonは、その世界観を具現化するため、録音テクニックを駆使した音像で表現していたけど、ここではそういった技を使った形跡はない。ただいつものBeautiful Southがカントリーっぽくやってみただけに過ぎないのだ。ソングライティング的にはPaddyとヒケを取らないHeaton、でもサウンド・メイキングに無頓着だったのが、その後の命運を分けることになる。

12. Tears
 ラストは正攻法、直球ストレートなバラード。こういったちゃんとした曲も書けるのだ。『Blue is the Color』収録「Artifical Flowers」と同じ構造のベタなメロディは、大団円としては相応しいのかもしれない。この時点でバンドが集結を迎えると思ってたのかは分かりかねるけど。




 現状、Beautiful Southは解散状態にある、と冒頭に書いたけど、正確にはHeatonとJacqui Abbott以外のメンバーは、「The New Beautiful South」と改名して活動継続中、今も英国を中心に、ていうかほぼ英国だけでツアー活動を展開中である。それほど大きな会場でプレイできているわけではないけど、各地でお呼びがかかるということは、それなりに盛況なのだろう。
 HeatonとAbbottも何年かに一度、デュエット・アルバムをリリースしたりしているので、互いにマイペースでいられるのは、結果的には良かったんじゃないかと思われる。
 何かの弾みでオリメンで再結成しようものなら…、まぁあんまり盛り上がらないか。多分、誰が誰だかわからないだろうし。



Gold
Gold
posted with amazlet at 16.06.30
Beautiful South
Go (2006-09-22)
売り上げランキング: 430,769
The Bbc Sessions
The Bbc Sessions
posted with amazlet at 16.06.30
Beautiful South
Mercu (2007-06-19)
売り上げランキング: 646,745