folder 1992年リリース、英国が生んだポップ馬鹿Andy Partridge 率いる屈折ポップ・バンドXTCのコンピレーション・アルバム。よくあるヒット曲集ではなく、これまであちこちのオムニバスや限定シングルにカップリングされていた曲を集めたものなので、いわゆるベスト盤とは主旨が微妙に違っている。
 配給先が変わるたびに編集盤がリリースされるのは、彼らに限らずベテラン中堅どころならよくあることだけど、このバンド、ていうかAndyは新曲制作よりむしろアーカイブ発掘にかける時間の方が多い。未発表ライブだのラジオ音源だの、その後ろ向きな情熱のカロリーに比類するのは、同じく英国の偏屈親父Robert Frippくらいだろう。
 ファンクラブ向けのカセット音源までかき集めた壮大なデモ音源集『Fuzzy Warbles』シリーズは全8枚、さらにおまけでもう1枚と、考えてみれば全オリジナル・アルバムよりも枚数を重ねている。それとはまた別に、同じ主旨の4枚組『Coat of Many Cupboards』、さらに最後の作品となった『Apple Venus』シリーズ2枚、それぞれのデモ・アルバムがオフィシャルでリリースされている。
 「一旦レコーディングしてしまった物は、とにかく片っぱしから市場に出してゆく」という極端な「取って出し」方針は、印税トラブルによってきちんとした対価が得られなかったヴァージン時代の反動なんじゃないかと思われる。何しろメジャー・アーティストのくせに、「銀行口座にほとんど残高がないんだよ」とインタビュアーに半分自嘲半分本気で嘆いていたくらいだから。
 そういった事情をマニアもまた理解していて、そういった半完成品的なアイテムも律儀に買っちゃうものだから始末が悪い。そりゃ真面目に作らなくなっちゃうよね。そういった事情を含んで考えればこのコンピレーション、個々のトラックは大量に流通してたわけではないけれど、一応オフィシャル音源をまとめたものなので、まだちゃんと作られた方である。

 最近のXTC、ていうかAndyの近況はといえば、
 ① 再結成Monkeysのシングル曲を書き下ろし提供
 ② 一連のオリジナル・アルバムの5.1chミックスの監修
 ③ 『Fuzzy warbles』新装リリース
 …まぁ見事に後ろ向きな企画ばかり。コアなマニア向けのニッチなアーティストとして生きてゆくことを覚悟した活動ぶりである。
 かつてJeff Lynneが、Beatlesへのオマージュに溢れたプロデュース・ワークによってGeorge Harrisonを復活に導いたように、AndyとMonkeysだって、やり方次第ではとんでもない化学反応が起こるかもしれないのに、やってる事はただの楽曲提供だけ。まぁレーベル側がAndyにそこまでの仕事を求めてなかっただけなのだけれど、要はその程度のポジションでしかなかった、という見方もできる。
 まぁそれでもAndyのささやかなネーム・バリューによって、買っちゃうんだろうなマニアだったら。コアなファン層とは言っても、その点在する範囲は世界レベルなので、チリも積もれば的に結構な数になる。マーケティングの観点から見れば、変に売れ線に走らず、それでいてちょっぴりフック・ラインの効いた曲も書けるAndyは都合の良いポジションなのだろう。要は便利屋的扱い、メインには決してなり得ない。

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 じゃあもう1人の便利屋、XTCの「普通の人」担当であるColin Mouldingは今どうしているのか。
 『Apple Venus』以降、具体的なアクションを起こそうとしないAndyと軋轢が生じた末に脱退、いろいろなしがらみから解放されて、持ち前のメロウな作風を深化させつつマイペースな活動ぶりなんだろうかと思いきや、YesのBilly Sherwoodの昨年リリースされたソロ・シングルにヴォーカルで参加したのが最後。ていうか、それ以前も特筆するような活動は行なっていない。「XTCが終わってお前ら何やってんだっ」と、膝を突き合わせて問い質したくなってしまう。
 彼らの立場から見ると、何しろ2人ユニットでどちらもソングライター、セールス云々は別にして、それぞれソロでやっていけるスキルはあるのだから、「別にグループでいる必要ないんじゃね?」という考えになってしまってもおかしくはない。特にColin、キャリアを重ねるにつれて、XTCの特徴である「エキセントリックかつアバンギャルド性を内包したギター・ポップ」という音楽性から乖離するようになったため、「XTC」というブランドが逆にジャマになってきた部分もある。
 まぁそんなこんながあってXTCの活動は次第にフェード・アウト、はっきりした解散宣言を行なうこともなく、次第にソロ・ワーク、外部コラボ活動が多くなってゆくわけだけど、これがまた2人とも、出来上がった作品がつまらない。俺自身、「多分つまんねぇんだろうなぁ」と先入観を持って聴いてしまっているので、さらにつまらなさが増すというのもあるのだけど、ほんと期待通りのつまらなさである。
 多分本人たちも、今さらメジャー・ヒットを求めてる風でもないので、趣味の延長線上みたいな作品ばっかりである。
 まぁ今までだって、趣味っぽかったけどね。

 XTCが最後にニュー・アイテムを発表したのがいつだったのか、そんなに興味はないけど一応調べてみた。こういう時手っ取り早いのは、有名なファンサイトChalkhills。世界中のXTCマニアがあぁだこうだと書き込んでいるので、情報は早いし一番正確。
 ディスコグラフィーのページを見ると、2005年のiTunes限定シングル”Where Did The Ordinary People Go?”が最後になっている。Youtubeにもあったので試しに聴いてみると、Colinヴォーカルによる軽快なロック・ビートを効果的に使ったポップ・ソングだった。キャッチーなナンバーなので、これを軸にしてAndyとの二面性をうまく組み合わせればミニ・アルバムくらいはできたと思うのだけど、これ以降活動が終息してしまったのはちょっと残念。
 ていうかもうちょっと調べてみると、この後にリリースされる13枚組(!)7インチ・シングル・ボックス『Apple Vinyls』のおまけテイクだった。ちょっと褒めて損したな。
 で、『Apple Venus』と並行してリリースしていた『Fuzzy Warbles』シリーズも完結してやる事がなくなったAndy、前述した5.1chミックスの監修やら、「初回ミックス時にエンジニアがプラグの左右を間違えたので、最初の構想通り、正しい極性につないでミックスをやり直した」という、「今さらなに言ってんの」的な理由で制作された『Skylarking』ニュー・ミックスなど、完全に墓守り人モードに入っている。なので、今はすっかり長い余生を過ごしている、といった塩梅、時々、友人知人のセッションに参加したりコラボしたりなど、悠々自適な身分である。
 セールス状況から察すると、それほど身入りがいいとは思えないのだけど、Andy言うところの「奴隷契約」だったヴァージン時代と比べれば、今のプライベート・レーベルの方が取り分はずっと多いだろうし、第一、すでに減価償却の終わったアイテムにちょこっと手を加えているだけなのだから、経費も相当抑えられる。『Fuzzy Warbles』の一連のジャケットなんて見ると、「金かけてませんよ」感アリアリだし。
 
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 かと言ってプレッシャーのない状況、ノン・ストレスな状態が続くのも考えものである。どんな仕事でも言えることだけど、多少の負荷やストレスがかかってる方がチームの結束力も強くなるし、クオリティが高い結果になることが多い。人間、楽ばっかりしてちゃダメなのだ。
 印税トラブルやライブに伴う神経症など、あらゆる災難が立ちはだかってきたことによって、思い通りの活動ができなかったヴァージン時代。本人たちからすれば環境的に満足ゆくものではなかったけど、限られた条件下で知恵を絞り工夫を凝らしていくことで、どうにか目先のミッションを乗り越え、結果的に後世に残る作品を作り出してきた。
 勇み足ではあるけれど強いパッション、多くのリスナーに聴いてもらいたいという強い欲求と意志とが、そのサウンドには刻まれている。ギターのカッティングひとつ、ちょっとしたドラムのオカズひとつにしたって、それらの有無次第で、伝わる響きはまるで違ってくる。
 今の彼らにそんなものはない。あるのはどこまでも緩やかな自己満足、そして「理解できないなら聴くな」という選民意識。しかもそこに、音楽へ向かう必然性、真摯な姿勢が見られないことに腹が立つのだ。
 …どうしてXTCにこんなに熱くなってんだ、俺。


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1. Extrovert
 1986年シングル”Grass”のB面曲。初期ギター・ポップのポップ成分強めの進化形。

2. Ten Feet Tall
 もともとは『Drums and Wires』収録。アメリカ限定でシングル・カットする予定だったのだけど、諸般の事情で発売中止になったところを、ここで初出。まだTerry Chambersがいた頃なので、バンド・サウンド主体の音作り。この頃はまだ密室性が薄い。

3. Mermaid Smiled
 『Skylarking』収録曲。アレンジもほとんどいじっておらず、そのまんま入れたんじゃないかと思われる。どこか違うのかな?

4. Too Many Cooks In The Kitchen
 1980年リリース、Colinの変名ソロ・プロジェクトThe Colonelによるシングル。能天気なスカ・ビートながらどこか陰鬱さが漂ってしまうのは、正統な英国紳士のたしなみによるもの。

5. Respectable Street
 1980年リリース、『Black Sea』からのシングル・ヴァージョン。2.同様、きちんとバンドの音だけで構成された音なので、勢いに任せた部分もあるけど、一体感はハンパない。この時期のXTCの評価が高いのも納得。久しぶりに聴いたけど、フヌケたポップスよりは全然いいや。



6. Looking For Footprints
 1982年リリース、雑誌『Flexipop!』のおまけソノシートに収録。もともとは『Go 2』時にレコーディングされたまま未発表となっていたのだけど、『Flexipop!』サイドからの持ち込み企画として、選ばれたのがこれ。まだポスト・パンク色が強かった頃の作品で、アクの強い楽曲のため、どこにもはめ込むことができなかったんじゃないかと思われる。

7. Over Rusty Water
 1982年リリース、シングル” No Thugs In Our House”のB面で初登場。1分程度の短いインスト曲、しかも起伏のないアンビエント的な展開の楽曲のため、コメントに困ってしまう。好きか嫌いか聴かれれば、どっちでもいいと答える人が多いはず。

8. Heaven Is Paved With Broken Glass
 『English Settlement』制作時にレコーディングされ、シングル・カットされた” Ball and Chain”のB面としてリリース。ここに収録されているのは別ミックス。ギター・ロックとポップ・センスとのバランスが絶妙。これ以降はポップ風味が強くなり過ぎる感もある。

9. The World Is Full Of Angry Young Men
 こういったメロウ・タッチはもちろんMoulding作なのだけど、もともとは『Mummer』セッション時に生まれた曲。それが巡り巡ってオフィシャル・リリースされたのが1989年、シングル”The Loving”のB面としてだった。充分寝かされて満を持しての登場だったのか、それとも単なるネタ切れだったのかはわかりかねるけど、時期的にロック色を抑えたアレンジは大正解だったと思う。

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10. Punch And Judy
 変則リズムが印象的、Andyの饒舌なヴォーカルが目立つラグタイム風ギター・ロックは8.同様、”Ball and Chain”のB面としてリリース。こんなソリッドなチューンも漏れてしまうくらい、この時期の彼らの才気煥発振りが窺える。だって『English Settlement』って、もともと2枚組だよ?

11. Thanks For Christmas
 またまた変名ユニットThe Three Wise Menによる、1983年にリリースされたクリスマス・シングル。時期的には『Mummer』制作後まもなくで、体調的にはどん底だったはずなのに、出来上がったのは一点の曇りもない清廉潔白なポップ・チューン。XTCに関係なく、これは知る人ぞ知るクリスマス・ソングとしておススメ。XTCのくせに聴いた後にホッコリした気分になってしまうのはこの曲くらい。
 日本でも好評だったらしく、CDシングルがリリースされている。



12. Tissue Tigers (The Arguers)
 『English Settlement』セッションは名曲の宝庫で、スカっぽいリズムも混じるソリッドなガレージ・ポップのこれも、アルバムからは選外。UK最高10位まで上昇したシングル”Senses Working Overtime”のB面としてリリース。初期のポスト・パンクの風味を残した佳曲。

13. I Need Protection
 4.のB面としてリリース。Andyっぽいコーラスとエフェクトなのだけど、れっきとしたMouldingの作品。彼の暗黒面を映し出している?

14. Another Satellite
 BBCのラジオ番組内のスタジオ・ライブ・ヴァージョン。もちろん原曲は『Skylarking』より。シングル”Dear God”の12インチ・シングルのB面としてリリース。簡素なリズム・ボックスとシンセのエフェクト、ディストーション・ギターとのシンプルな編成だけど、オリジナルの雰囲気を忠実に再現している。人に見られなきゃできるんだな、この男。

15. Strange Tales, Strange Tails
 1981年リリースのシングル” Respectable Street”のB面としてリリース。ニュー・ウェイブの残り香がプンプンしてくる、俺的には普通のロック・バンドの楽曲。間奏のテープ逆回転ギター・ソロだけオッと思わせるけど、ただそれだけ。この時期はまだちょっと斜め上のバンドでしかない。

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16. Officer Blue
 しかしこのアルバム、Moulding率が高い。Andy主導のユニットなので、フロントマンの楽曲が優先されるのは仕方ないとして、隠れた名曲率が高いのが実は彼だということに改めて気づかされる。この曲のリリースは1981年のシングル”Respectable Street”のB面としてだけど、実際にレコーディングされたのはその1年くらい前。シャッフル気味の変則レゲエ・ビートの包装をはがすと、残るのは親しみやすいメロディ・ライン。

17. Scissor Man
 有名なBBCのラジオ・プログラム「John Peel Session」で演奏された『Drums and Wires』収録のオルタネイト・ヴァージョン。2枚組限定シングル”Towers of London”のB面曲としてリリース。ここでのプレイは即興性も重視して間奏で結構遊びのフレーズも入れまくりで楽しそう。

18. Cockpit Dance Mixture
 1982年シングル”Ball and Chan”のB面曲。タイトルにあるようにかなりミックスをいじくったダブ的なサウンドを展開している。オリジナルはオーソドックスなロックだったように思われるけど、テープ編集とリズムの妙でこれだけダンサブルになっちゃうなんて、当時の彼らがどれだけエキセントリックな存在だったかを知らしめる逸品。後付けで挿入されているベース・ラインなんて、当時のニュー・ウェイブ系バンドには出せない感触。

19. Pulsing Pulsing
 1979年のシングル” Making Plans for Nigel”、邦題「がんばれナイジェル」のB面としてリリース。ほとんどワンコードで作られたシンプルなトラックなのだけど、この時期からエンジニアとしてSteve LillywhiteとHugh Padghamが参加するようになり、サウンドのパーツのひとつひとつが丁寧にひと捻りされていて、下手すると不協和音になってしまいそうなところを、調和のとれたミックスで楽曲として成立させている。絵に描いたようなニュー・ウェイブ。

20. Happy Families
 原曲は『Mummer』の時に書かれたもので、しばらく未完成のまま放っておいたのを、鈴木さえ子『Studio Romantic』セッション時に「これは使える」と思い立ってリライトし、「き、君のために作った新曲だょ…」とか何とか言って提供した経緯を持つ、Andy流屈折ポップが良い方向へ転じたファニーでポップで、それでいてちょっぴり毒味を添加したナンバー。
プレイしてみて自分でもイケると思ったのか、XTCとしてレコーディングしたところ、映画プロデューサーに気に入られて、日本でもスマッシュ・ヒットした『スリーメン・アンド・ベイビー』挿入歌として使われることに。好評だったため、さらにシングル” King For a Day”のB面としてもリリースされた。



21. Countdown To Christmas Party Time
 11.のB面としてリリース。ホッコリするA面とは対照的に、ここでは本来のギター・ポップ・バンドとしての面目躍如、ソリッドかつコンパクトながら、きちんとインパクトの強いサウンドに仕上げている。クリスマス感は薄いけど、パーティ・ソングとしての雰囲気は充分出ている。

22. Blame The Weather
 1982年のシングル” Senses Working Overtime”のB面としてリリース。ロック色を薄めたPaul McCartneyみたいなメロディ・ラインで歌うMoulding、やはりこの人は適性がポップ寄りのため、こういったメロディ主体のナンバーはうまい。でも単体だと甘すぎちゃうので、やっぱりAndyとのコンビがバランスが取れてよい。Andyにも同じことが言えるけどね。

23. Take This Town
 ここでやっと出てきた『Black Sea』セッション。1980年に公開された映画『Times Square』に提供したトラックということだけど、その映画自体、俺は見たことないので詳しいところはわかりかねる。制作にRSOが絡んでいるため、音楽を中心にした映画らしいけど。
 これぞニュー・ウェイブといった感じのロック・テイストの強いナンバー。

24. History Of Rock 'N' Roll
 Morgan Fisher制作による、1分前後のコンパクトな楽曲ばかりを50曲も集めたアルバム『Miniatures』への提供曲。Andy以外にも、David CunninghamやRobert Frippなどなかなか錚々たるメンツが顔を揃えており、ジョーク交じりの音楽を大真面目にやっているところがミソ。
 ここでのAndyはタイトル通り、50’s・60’s・70’s、そして80’sを様々なギター・エフェクトで表現している。その間、約20秒。そこに凝縮されたロックの歴史。






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