folder 1980年にリリースされた、なんと通算19枚目のオリジナル・アルバム。
 当時Stevieは30歳、デビューが12歳前後だったため、単純に考えれば、ほぼ年1枚のペースでフル・アルバムをリリースしていたという計算になる。早熟の天才に恥じぬ多作ぶり、と言いたいのだけど、案外これも眉唾ものである。
 Stevieがデビューした当時のモータウンは、もっぱらシングル主体のリリース戦略を取っていた。45回転の8インチの塩ビ盤に、どれだけのクリエイティビティを盛り込めるかを、メーカーが競っていた時代である。ユーザーの購買力やラジオでのエアプレイを考慮すると、何よりもシングルをいかに売っていくか、そのためにはどのようなプロモート戦略が必要かを、各スタッフが知恵を絞り技術を向上させていた。

 なので、アルバム制作とはほんとついで、ついでと言ったら言い過ぎかもしれないけど、その姿勢はシングルに向ける労力と比べれば、ほんの僅かでしかなかった。
 そもそも、アルバム用に新たに楽曲を制作する姿勢が薄い。適当なシングルのリリース枚数が溜まったら、B面曲はもちろんのこと、これまた適当なカバー曲やら没テイクやらを一緒くたに詰め込んで、取り敢えずアルバムとしての体裁を整えることが常態化していた。なので、曲順なんかも適当で、全体の流れを考えた構成?何それ?といった感じである。
 これは別にモータウンだけの話ではなく、当時のメーカーならどこでも事情は似たようなものである。なので、モータウンに限らず、60年台中盤までのアルバムリリース事情というのはアバウトだったため、通算アルバム枚数というのはあまり意味を成さない。

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 Stevieに話を戻すと、未公開映画のサウンドトラックという変則的な形態だった前作『Journey Through the Secret Life of Plants』からは1年ぶりなのだけど、そのまた前作である大作 『Songs in the Key of Life』からは、さらに3年のブランクがある。

 70年代に一世を風靡し、セールスだけでなく、グラミーを含む数々の栄冠に輝いた三部作の後、さらに新奇な才能とアイディアに満ち溢れた大作『Key of Life』をリリースしたStevie、その後はまるで憑き物が落ちてしまったかのように、ごくノーマルな作風に変わってしまったことは、よく言われている。

 Robert MargouleffとMalcom Cecilとのコラボによって、当時の最新機器ムーグをとことん使い倒し、未完成作も含めて1000曲にも及ぶ楽曲を制作したのが、Stevieの70年代前半である。この時期はとにかくレコーディングに明け暮れていたらしく、ライブ・パフォーマンスに関しては控えめである。オフィシャルのライブ音源は、まとまった形ではほぼ皆無だし、ブートでもそんなに数は出ていない。それだけ頭の中に溢れ出すアイディアを具現化するだけで精いっぱいだったことが窺える。
 なので、そのプロジェクトが一段落してしまった後のStevieは結構シリアスな虚脱状態に陥ってしまっている。あまりに濃密な時間を短期間で過ごしたため、長いインターバルをおく必要があったのだろう。

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 再び創作活動に復帰するまでには長い年月を要することになってしまったのだけど、そのStevieが鳴りを潜めていた1975年から78年というのは、同じくニュー・ソウル・ムーヴメントを牽引していたアーティストらの栄枯盛衰が如実に表れている。
 Marvin Gayeは自身の離婚騒動にまつわる壮大な独り語り『Here My Dear』をリリース後、行き詰まりの末、なぜかアメフト選手を目指していたし、Curtis Mayfieldも名作『There's No Place Like America Today』リリース後は迷走状態に入り、出来のよくないディスコまがいのアルバムを連発していた。Donny Hathawayに至っては、長年苦しんでいた鬱状態がこじれて、遂には自ら命を絶ってしまう結末となってしまう。

 なので、そう考えるとこの時期、Stevieが表舞台に出なかったのは正解だったのだろう。もしかしてレコーディング自体は続けていたのかもしれないけど、変に時流に合わせたディスコまがいの作品を出して酷評されるよりは、むしろ沈黙を守っていた方が、精神衛生上も良い。

 そう考えると、一応復帰作としてリリースされた『Secret Life』が地味な作品だったのは、その後の流れを考えると、ある意味正解だったんじゃないかと思う。Curtisのように中途半端に世間におもねった作品を作ったら、それまでのキャリアが台無しになってしまうし、かといって『Key of Life』のような作品を作るには、もうあそこまでのテンションに自分を追い込むほどの意欲はなくなってしまっている。いや、意欲はあるのだけど、同じものではダメなのだ。
 あくまでポピュラー音楽のフィールドではなく、学術的要素の濃い、未公開映画のサウンドトラックという体裁をを取ったアルバムを助走としてはさみ込むことによって、Stevieはディスコ・ブームに沸いた70年代後半を乗り切ることができた。ちょっとめんどくさい経緯だけど、そうせざるを得なかったのだ。

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 そんなこんなを経て、本格的な復帰作となったこのアルバム、『Secret Life』の次という順序を踏まえれば、決して悪いアルバムではないけど、俺のように後追いでStevieを聴く者にとっては、どうしても型落ち感は否めない。何しろ 3部作や『Key of Life』からランダムに手をつけているので、比較してしまうのは致し方ない。あそこまでの先鋭性がなくなってるのは事実。事実なのだけど、俺的にはそれほど嫌いになれないアルバムでもある。

 全体的な印象として、ロック・サウンドのフォーマットを使用した曲が多い。ギターの音色やリズム・パターンは従来のコンテンポラリーなロックそのものだし、バラード系もそれほど凝ったサウンドではなく、シンプルなバッキングでヴォーカルを聞かせるサウンドになっている。いま現在、「Stevie Wonder」というアーティストの一般的なイメージの元となった、オーソドックスなMOR的な展開になっている。

 それまでのサウンドはかなり作り込んだものが多く、聴いていると新しい発見が多く革新性もあったのだけど、実のところ聴き続けていると疲れてしまうのも事実である。『Key of Life』なんて通常の2枚組プラスアルファの大盤振る舞いのボリュームで、才能とアイディアの濃縮エキスが詰まっているのだけれど、Stevieのエゴが強く出過ぎていたり、曲によっては冗長に感じる部分もある。
 これもよく言われているのだけど、ダブル・アルバムにこだわらず、1枚に収まるように絞り込んでゆけば、そりゃもうとんでもない傑作になったんじゃないかと思われる。

 なので、このアルバムはもっとユーザー目線で、長いスパンで聴き続けられる配慮なのか、サウンド的にはオーソドックスに、分量も程よく仕上げられている。 ただ汎用のポップ・サウンドを使用したとしても、そこはやはりStevie、他のアーティストでは作り得ないメロディ・ライン、特に白玉主体の旋律は相変わらずである。ベースがしっかりしてるから聴けるけど、こんな曲、普通は作れない。


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1. Did I Hear You Say You Love Me
 Stevie流に解釈したディスコ・サウンド。単純な四つ打ちじゃなくて、ちゃんと考えられた構成になっている。こういったニュー・ウェイヴを通過したギターの音色は、休養前はなかった。新境地も開拓している、アルバム・リードとしては最適。
 邦題は「愛と嘘」。なんで?3枚目のシングルとして、ビルボード・ソウル・チャート最高74位。



2. All I Do
 1.から切れ目なしに続く、Paul McCartneyとやった”Say Say Say”と同じイントロのミドル・テンポ・ナンバー。コーラスにMichael Jacksonが参加しているのだけど、あまりキャラは濃くない。

3. Rocket Love
 これまであまり取り上げてなかった、メロディ主体のシンプルなバラード。3部作の中ではちょっと甘めの『First Finale』に入ってても違和感がなさそう。後半のストリングス導入部あたりから、ちょっとコード進行が不安定になるのだけど、そこをきちんと曲として成立させているのが、やはりStevieの力技。俺的にはこれ、結構好きなのだけど。

4. I Ain't Gonna Stand For It
 Eric Claptonがカバーしてから再評価が進んだ曲だけど、まぁそのまんま。Claptonって、多分オリジナルへのリスペクトが強いのか、この曲に限らず、ストレートなカバーが多い。
 ドラムの音処理が80年代っぽく軽いのと、もっとリズムを強調してファンキーなシンセの音色にすれば、俺的にはもっと満足なのだけど、時代的にこのくらいマイルドにしてやらないと、他のヒット曲から浮きまくっちゃったのかもしれない。それほど、Stevieというのは異質な存在なのだ。
 セカンド・シングルとして、US最高4位、UKでも10位まで上昇。



5. As If You Read My Mind
 サンバのリズムを応用した、俺的にはこのアルバムの中では一番好き。『Innnervisions』のモダン進化系といった感じのサウンドは、もっと評価されてもいいはず。重くないリズムながらもファンキーで、しかもクールさを忘れないヴォーカルのStevie。時々興が乗ってシャウトする様がカッコいい。

6. Master Blaster (Jammin')
 ファースト・シングルとして、US最高5位UK2位。言わずと知れた、Stevieが本格的にレゲエに取り組んだナンバー。これまでのような「レゲエ・テイストを取り込んだ」のではなく、「まんまレゲエ」。
 はっきり言ってBob Marleyそのまんまなのだけど、StevieがMarleyを敢えて模倣したのか、それともレゲエというリズム/ビートというのが、Stevieをしてもねじ伏せることのできない、それほど強烈な音楽なのか-。
 アルバム・ジャケットを象徴するような、ホットなナンバー。しかし、その汗は氷のように冷たい。

7. Do Like You
 ゴーゴーのリズムも取り込んだ、80年代以降のStevieのプロトタイプ的なナンバー。ノリが良くってちょっぴりファンキーなシャウトで、という「一般的に想像されるStevie Wonder」がここにいる。ポップな曲調なので、軽快なドラム・パターンもちょうどフィットしている。でもStevie、全体的に言えるけど、アタック音が強いよね。そこが味なのだけど。

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8. Cash In Your Face
 ちょっぴりレゲエ・ビートで、ゆったりしたリズムのミディアム・ナンバー。あまりコード感のないナンバーで、こういったのはStevieの独壇場。
 この人の凄いところは、「ただ漫然とプレイしながら、きちんと曲として成立させてしまう」点なのだけど、そこら辺はあまり取り上げられていない。逆に言えば、この曲を他の人がカバーしても、きっとうまく行かないはず。だって、通常ルーティンからは大きく外れているのだから。

9. Lately
 で、このアルバムのハイライトで、王道バラード。7.がStevieの「動」とすれば、この曲が「静」を表す、誰もが文句のつけようのないナンバー。US最高4位UK最高3位は妥当。



10. Happy Birthday
 ある意味、『Hotter Than July』は9.で完結しており、俺的にはこれ、ボーナス・トラック的扱い。Stevieということは意識してなくても、TVのサウンド・クリップとしても頻繁に使用されているため、「ポップなStevie」といえば、これを連想する人も多い。
 もともとはMartin Luther Kingに捧げた曲で、彼の誕生日を国民の祝日にする運動を後押しするために作られた曲なのだけど、そういった背景を抜きにして、優秀なポップ・ソングとして仕上げている。
 サウンドといいメロディといい、しかもきちんと織り込まれたメッセージ。啓蒙という意味でいえば、完璧なポップ・ソング。




Song Review: A Greatest Hits Collection
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