folder 2006年リリース、オーストラリアではバツグンの知名度を誇るジャズ・ファンク・バンドBamboosの記念すべきデビュー・アルバム。結成が2001年ということで、アルバム・デビューは遅かったけれど、基本シングル中心の活動というのは、現代ジャズ・ファンク・バンドにとってはよくある話。
 彼らが一気に話題になったのは、2003年2枚目のシングル”Tighten Up”から。日本ではYMOが『増殖』でカバーしてから話題になり、近年もビールのCMで起用されるなど、忘れられる前に誰かが取り上げることによって、息の長いヒットになっている。そんなヴィンテージなファンク・インストを、ほんと何の衒いもない直球ストレートなアレンジで彼らがカバーすることによって、一躍クラブ・シーンに躍り出たBamboos、そんな前評判もあっての、満を持してのデビュー・アルバムとなったのが、本作。

 順調かつ地道にキャリアを積んできたことによって、本国オーストラリアではポピュラー・シーンにおいて、それなりのポジションでは収まっているらしい。いわゆる一般的な大ヒットまではいかないけど、現時点での最新アルバム『Fever in the Road』が、国内アルバム・チャートでトップ20に入る程度の固定ファンは掴んでいる。
 20位がやっとなのか、という見方もあるかもしれないけど、ライブ中心で活動している彼らのようなジャンルでありながら、ここまでのチャート・アクションというのは、世界的に見ても立派なものである。それほど枚数が捌けるジャンルではないのだ。ここまで国内メジャーのポジションを獲得したバンドは、俺が知る限りでは日本のスカパラくらいのものである。

0003266546_10

 ちなみにここ数枚の彼らのサウンドの傾向だけど、あくまでアルバム単位に絞って言うと、得意のジャズ・ファンク・テイストはあまり前面に出さず、もっと一般リスナーに開かれたコンテンポラリーなサウンドを展開している。デビュー当時からずっとオーストラリア国内のレーベルTru Thoughtsに所属していたのだけど、最新作からは配給元が変わり、同じくオーストラリアのInertiaというレーベルに移籍している。
 オーストラリアのエンタメ・シーンがどうなってるのか、正直俺の認識では、AC/DCとINXSとOlivia Newton-Johnで止まっちゃってるので、詳しいところはわからないのだけど、オフィシャル・サイトを見る限りでは、オルタナ・ロックからダンス・ポップまで扱う総合レーベルのようである。多分、販売力もしっかりしてそうなので、半インディー的なスタンスであるTru Thoughtsでは賄いきれなくなった部分もあるのだろう。

 そういった事情もあって、近年は多彩なゲストを入れたポップ寄りのサウンドに変化してきたわけで、今やアルバムだけで考えると、まったく別のバンドになっちゃってるのが現状。セールス的には上向きになっているので、バンド運営的には正しい戦略だったと言わざるを得ない。得ないのだけど。
 ただし、完全にメジャーに魂を売ってしまったわけではないようで、近年のライブ映像では、相変わらずのジャズ・ファンク振り、オールド・スタイルのソウル・ショウを展開している。プレイヤー・サイドから見れば、パッケージとライブとでコンセプトを変えることによって、うまい具合にガス抜きしてるんじゃないかと思う。ほんとのBamboosを見たければ、ライブに来なよ、とでも言ってるかのように。
 でも、あんまり日本に来てくれないじゃん。
 
bamboos

 その『Fever in the Road』から急激に売れ線に走ったというわけではなく、緩やかな変化はもう少し前、5枚目の『Medicine Man』あたりからヴォーカル・ナンバーが増えている。しかも、それまではほぼ出ずっぱりでヴォーカルを取っていたAlice RusselやKylie Auldistが次第にソロ活動を重視してきて、参加するのが少なくなってきたことに合わせて、次第に複数のゲスト・ヴォーカルを迎えることが多くなってきている。
 そのような戦略によるため、アルバムだけで見ると、だんだん普通のバンド化しているのが現状である。グローバル戦略としては正しいのだろうけど、古くからのファンからすれば、その変節に複雑な思いを抱くことも多いのかもしれない。俺はその『Medicine Man』から彼らの存在を知って、そこから遡って聴いてきたクチなので、そこまで強く初期サウンドに固執しているわけではない。しかし、ジャズ・ファンク・バンドを漁ってきた身からすれば、次第に洗練されつつある近年の作品は、以前ほど聴く機会が少なくなっているのが事実。

 どのジャズ・ファンク・バンドもそうだけど、サウンドの性質上、どうしても大所帯になってしまい、バンドの維持にはどこも苦労している。他アーティストのサポートやホーン・セクションの外部委託に頼らず、バンド単体で自立してゆくためには、こういったスタイルで生き残ってゆくのもひとつの生き方ではある。

 初期のBamboosは、そういったポピュラリティーをあまり考慮しないところで音作りしているので、現代ジャズ・ファンクが好きな人なら、まずハズレはない。JBやMetersなど、シンプルに自分たちの趣味、自分たちが影響を受けてきたモノにこだわり、出したい音をそのままストレートに出しているスタイルなので、何も考えずにノルことができる。


Step It Up
Step It Up
posted with amazlet at 16.02.14
Bamboos
Ubiquity (2006-03-07)
売り上げランキング: 214,255




1. Step It Up
 どストレートなファンク・ナンバー。歌うは歌姫Alice Russel。彼女の声はソウルフルではあるけれどそれほど泥臭くなく、同じく洗練されたバンド・サウンドにはうまく馴染んでいる。この後のAliceはソロ活動も盛んとなって、近年ではQuanticとコラボすることが多くなって、ちょっとソウル方面とはご無沙汰になってしまうのだけど、ここではパワー全開のソウル・チューンを難なく歌いこなしている。ライブを見てもらえればわかるように、ほんとずっと聴いてたくなるようなナンバー。たった3分で終わってしまうのは惜しい。



2. Tighten Up/Album Version
 オリジナルは言わずと知れたArchie Bell & The Drellsによる1968年のヒット・ナンバー。基本オリジナルに忠実なカバーなのだけど、リズムはこちらの方が立っている。オリジナルはスッカスカのリズムと間の抜けたホーンとのアンサンブルが絶妙だったのだけど、ここでは敢えてコントラストを強調している。ギターのカッティングもソリッドになっている。



3. In The Bamboo Grove
 タイトルはもちろんJBの”In the Jungle Groove”からインスパイアされたもの。立ち上がりはネチッこいスロウ・ファンクだけど、終盤に向かうにつれテンポ・アップして、ラストはうまくまとめている。

4. Golden Rough
 ほんとJB'sが好きなんだな、と感心してしまうナンバー。リズムのボトムが思いっきり腰より下で響き、ホーン・セクションとのコンビネーションも絶妙。この辺はリーダーLance Ferguson(G)のセンスによるものだと思う。

5. Black Foot
前2曲からテンポ・アップし、今度はBen Graysonによるハモンドが主役のナンバー。シンプルなミニマル・リズムに的確にフレーズを叩きこむBenのプレイは、地味だけど数多の黒人ファンク・バンドを凌駕するテクニックを発揮している。こちらも恐ろしくコンパクトに、3分ちょっとにまとめている。フェード・アウトしてしまうのが惜しい。

6. Transcend Me
 人力ブロークン・ビーツに乗せて、再びAlice登場。この辺は古き良きジャズ・ファンクだけでなく、Bamboos独自のモダン・ファンク・サウンドを感じさせる。ただ往年のサウンドの再現だけじゃダメなのだ。こういった曲も、バンドを前進させてゆくためには必要である。俺はシンプルなジャズ・ファンクが好きだけどね。

The_Bamboos-Step_It_Up_back_b

7. Tobago Strut
ホーン・セクションが出ずっぱりで活躍するナンバー。ちなみにこの時点でのホーン担当はAnton Delecca(Tenor S), Ross Irwin(Tr)のたった2名。フルートなどブラス系全般をまかなっていたわけだけど、とても2人でやっているとは思えないほどの音の厚みを実感してほしい。

8. Another Day In The Life Of Mr. Jones
 ちょっとセカンド・ラインも入ったオールド・タイプのファンク・チューン。Lanceという人はリーダーでありながら、あまり前に出ない人だけど、ここでもひたすらバッキングに徹し、クレバーなリフや細かなオブリガードを刻んでいる。

9. Crooked Cop
 再びスロウ・ファンク。ファンクと言えば高速カッティングと16ビートの切迫したリズムが持ち味だと先入観を持ってる人にこそ、ぜひ一度聴いてほしいナンバー。これだけリズムのタメがありながら、ファンキーさを出せるバンドは、なかなかいないはず。



10. Eel Oil
 直訳すれば「ウナギ油」。もちろんインストのため、どの辺がウナギなのかは不明。脂っこさはそこそこあるけど、うまくソフィスティケートされているため、クドさは感じない。
 スネア中心の音作り、そして珍しくソロを聴かせるLanceもまた、ここが見せ場と張り切っている。とにかくスネアの音が乾いて軽くて気持ちよく、シングルとしてリリースされたのも頷ける。

11. Voodoo Doll/Album Version
 これまでとはちょっと毛色の違った、どこかセッション的な雰囲気を感じさせるナンバー。比較的カッチリした構成の演奏を見せるBamboosだけど、ここではリラックスして、やや緩めのアンサンブルを見せている。ギターのセカンド・ライン・テイスト、ハイハットの響きがとても印象的。




Tru Thoughts Funk [日本語解説付き国内盤] (BRUFD011)
オムニバス The Quantic Soul Orchestra The Bamboos The Broken Keys Payback Saravah Soul Nostalgia 77 Lizzy Parks Kylie Auldist Spanky Wilson Natural Self Hot 8 Brass Band The Limp Twins TM Juke & The Jack Baker Trio Beta Hector
TRU THOUGHTS / BEAT RECORDS (2010-05-15)
売り上げランキング: 15,183
TRU THOUGHTS 10TH ANNIVERSARYy(3CD Special Edition BOX SET)
The Quantic Soul Orchestra The Nostalgia 77 Kylie Auldist Hot 8 Brass Band Alice Russell TM Juke Bonobo Natural Self Hint Milez Benjiman Me&You Stonephace The Bamboos Azaxx Domu Barakas
TRU THOUGHTS (2009-10-10)
売り上げランキング: 626,068