1200x1200-75 多分、今の人はあまり知らないだろうけど、80年代のソニー(現SME)はCBSとエピック、2つのレコード会社に分かれていた。
 同じ企業グループでわざわざ別会社にしているくらいだから、一応それぞれに特色があり、1968年に設立されたCBSは、山口百恵や松田聖子などのアイドル歌謡曲から、大滝詠一や尾崎豊などのポップ/ニュー・ミュージック系まで、比較的ソフト・サウンディングの広い範囲の音楽をカバーしていた。
 で、1978年にCBS内レーベルから独立分社化したエピックは、CBSでフォローしていないジャンル、ロックやニュー・ウェイヴ系などを主に取り扱っていた。初期の代表的アーティストとしては、佐野元春や一風堂、シャネルズなんかが有名どころ。まぁクセの強いメンツである。

 で、今回のストリート・スライダーズ、知ってる人なら予想はつくと思うけど、もちろんエピックのアーティストである。CBSアーティストのようなキラキラ感は、あるわけない。そういったポジションのアーティストではないのだ。
 ていうか、実は彼ら、特別エピックを象徴するアーティストでもない。そういったカテゴライズを拒否した、ある意味オンリー・ワン、孤高の存在的なバンドなのだけど、シリーズ一発目はどうしても彼らを取り上げたかったので、ここで紹介。

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 彼らのサウンドの特徴をあらわす例えとして、「Rolling Stonesと村八分の融合」という表現が用いられることが多い。ワイルドでシンプルなロックン・ロールという点において、Stonesとリンクする部分は多いけど、そのフォロワー的バンドである村八分を引き合いに出すのは、昔からちょっと疑問に思っていた。
 デビュー当初に醸し出していた、ネガティヴな暴力性とミステリアスなバンド・イメージ、ステージや取材で露骨に見せる不遜な態度が、往年の70年代ロック・バンド的イメージと相まって、ひと括りに捉えられたのだろうけど、実際に音源を比較してみると、双方の違いは歴然としている。
 シンプルなテンポと、ドライブするツイン・ギター・アンサンブルを中心としたロックン・ロールがベースとなっているのは同じだけど、アングラの臭いを引きずった村八分が、スキャンダラスな歌詞世界と破綻寸前の演奏、ヴォーカルのチャー坊の強烈なパーソナリティがセールス・ポイントだったのに対し、スライダーズも同じく、暴力的な歌詞やタイトルのインパクトは強かったものの、演奏はあくまでクレバーで、飛び道具に頼ったステージングではない。むしろライブ・パフォーマンスは淡々としており、一見熱いライブに見えても、ヴォーカルのハリーを始め、メンバーのプレイはいつもどこか冷めきった印象が強い。
 パフォーマンス的な部分を強調することによって、その存在だけは日本のロック史に残っているけど、バンド存命中は遂にまともなスタジオ録音アルバムや代表曲を残せなかった村八分。この違いはいろいろあるのだろうけど、一番大きいのは「バンド」として機能しているかどうか。スライダーズの場合、ヴォーカル兼サイド・ギターのハリーと、メイン・ギターの蘭丸が2トップで目立ってはいたけれど、バンドの屋台骨であるリズム・セクション、ズズ(dr)とジェームス(b)の存在が大きかったため、ライブが収拾不可能になることはなかった。
 「ロック」をやりたいのか、それとも「ライブ」をやりたいのか、の違いである。

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 スタートはこの手のロック・バンド同様、彼らもまた手本としていたのは、『Let it Bleed』以降、Bryan Jonesが事実上脱退してからのStonesだったけど、アルバム・リリースとライブを重ねるにつれて、ガチャガチャしたバンド・アンサンブルが次第に整理され、曲調のバリエーションも増えてゆく。これはバンド自体の演奏力の進化の賜物でもあるし、また、それに伴うハリーのソング・ライティング・スキルの進化とも直結する。
 で、これまでのステージから一気に飛躍しようと思い立ったのは、エピックからの要請だったのか、それともバンド自身が変化を望む時期に差し掛かっていたのか―。
 前作『夢遊病』が比較的好セールスを記録したこともあって、レコーディング予算がアップ、エピック側のコーディネートによって、これまでとは違って、ミュージシャン畑のプロデューサーがつくことになる。

 ブレイク寸前のBOOWYから近年の早川義夫まで、ジャンルに関係なく幅広いアーティストを手がけていた佐久間正英、四人囃子〜プラスチックスを経て、こちらもかなりクセのある人である。自らも現役ミュージシャンという強みを活かして、サウンド・メイキングが未熟なバンドに対し、かなり具体的かつテクニカルなアドバイスができるため、現場の評判も良かった。それでいてきちんとセールスに繋げることもできるため、レコード会社的にも重宝されていた。

 当時のスライダーズのレコーディングといえば、ほぼスタジオ一発録り、細かなミックスやエフェクトにこだわることは、彼らの美学が許さなかった。
 なので、この佐久間の起用によって、『夢遊病』から実験的に導入されていたゴシック要素にプラスして、リアルタイムのニュー・ウェイヴのノウハウがもたらされ、サウンドは明らかに変化している。
 基本はこれまで同様、Stonesフォーマットのルーズなロックンロールながらも、深いゲート・リバーヴや、強力にイコライジングされて歪んだ音色のギター・サウンドなど、UKニュー・ウェイヴ、特に4AD系のエッセンスを積極的に導入している。
 ありそうでなかったStonesとBauhausとの奇跡的な融合は、これまでスライダーズに興味がなかった層にもアピールしたため、潜在的なファンの掘り起こしに貢献した。

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 この『天使たち』のサウンドが、ほんとにバンドの望む方向性だったのか、それは神のみぞ知るところだけど、それまでレコーディング自体にさほど興味がなかったハリーがその後、ギター+ベース+ドラムの基本編成だけでなく、ブラスやシンセなど、他のアイテムにも興味を持つようになったことは、バンドにとっては一つの進化である。
 その変容はとどまることを知らず、Sex & Drug & Rock'n' Rollのトライアングルで円環していた歌詞の世界観が広がりを見せ、次のアルバム『Bad Influence』収録「風が強い日」で見事結実する。

 佐久間によるスライダーズのコンテンポラリー化は、新規ファンの獲得と、バンドのメジャー契約継続によって、その後のバンド運営に明確な道筋をつけた。
 ハデなエフェクトやスッキリしたサウンド・プロダクションによって、外面的な変化はあったけど、根幹の部分は何も変わってない。ハリーはいつも通りのマイペース、バンドを壊さない程度に新味を持ち込む蘭丸、いつも無言ながらも重厚な存在感でリズムを支えるズズとジェームス。
 とは言っても、古参ファンの中ではこのアルバム、結構賛否両論だったらしく、従来通りのルーズなロックンロールを求めていた者は、ここから離れてしまうケースも多かった。
 ただ、そこの部分だけを大事にしていても、前に進むことはできない。
 「ロックンロールは進化できるものだ」と、かつてKeith Richardsは言った。
 ロックする事は誰でもできるけど、ロールすること、転がり続けて行くためには、何かを捨てることも必要なのだ。


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1. Boys Jump The Midnight
 冒頭の、何か得体の知れない不穏を想起させるハリーのギター・ソロ。けれど曲が始まると、ノリの良いいつものゴキゲンなロックンロールだった。これを、あの夜ヒットで演奏したのをリアルタイムで見たのだけれど、そのまぁカッコイイこと。
 バンドとしての代表曲だけあって、いろいろと映像が残っている。カラオケにも入っているので、認知度は一番高い。
 初期のファンほど、この曲に拒否感を示す。特に『がんじがらめ』あたりまで残っていた倦怠感、デカダンな雰囲気が薄れ、あっけらかんとしたロックンロールになっているのが気に食わないのだろう。
 ―いいから聴けよ。
 単純にゴキゲンなロックン・ロールの何が悪い。シンプルなものほど、人にはダイレクトに届きやすいのだ。



2. スペシャル・ウーマン
 重いベースと、ゲート・エコーをバリバリ効かせたリズム・セクションががんばっているナンバー。スライダーズはリズムがしっかりしているのがデビュー当時より定評があり、よってこの曲もリズムが立っており、イイ感じのダンス・チューンになっている。
 Stonesだって"Miss You"など、思いっきりディスコ・サウンドへ振り切った曲もあるけど、ロック・バンドのダンス・チューンとしては、日本のスライダーズの方が有能。佐久間がブラス・セクションで彩りを添えているけど、サウンド自体は盤石でビクともしない。それだけ曲・アレンジのベースがしっかりしているということ。



3. Back To Back
 こちらも基本はロックンロールながら、リズム・セクションがノリノリのため、良質のダンス・チューンになっちゃっている。このアルバムでの蘭丸のギター・プレイは、多分この曲が一番冴えわたっているんじゃないかと思われるけど、あの印象的なリフ中心のハリーのプレイもなかなか。ていうか、なんだ全部いいじゃねぇか。
 この当時隆盛だった12インチ・シングル・ヴァージョンもリリースされているのだけど、冒頭のギター・リフが左右にパンされており、いかにもダンス・ミックスっぽくなっているのだけど、躍動感はオリジナルの方が強い。いや、それだけ良くできてるんだって。



4. 蜃気楼
 アクセントで入ってるアコギの使い方は、やっぱりStonesっぽく聴こえてしまう。スライダーズとしてはマイナー調のメロディが引き立っている曲で、ちょっと気を抜くとフォークっぽくなってしまうのだけど、ハリーの吐き捨てるようでいて丁寧なヴォーカル、それにしっとりしそうな曲でも全力でプレイするリズム・セクションが作用して、きちんとロックになっている。
 でもあれだよな、敢えて言っちゃうと、ちょっとギターがクリア過ぎ。音の分離が良すぎてロックを感じなくなった、というのも、初期のファンが離れちゃった要因なんだろうな。

5. VELVET SKY
 サビのメタル・パーカッションがプログレっぽく聴こえてしまうのは、やはりプロデューサー佐久間だからか。初期の退廃さを想起させる曲だけど、やはり演奏力・表現力も向上によって、ベーシックなロックンロールからの進化が見えてくる。

6. Angel Duster
 1.同様、これが起爆剤となって一気にファン層が広がった。俺もこの曲で初めてスライダーズを知った、自分的にも大事な曲。
 ロックというのがノリが良いモノだけじゃないこと、単に気持ちイイことだけがロックじゃなく、時には自ら傷を負うことも必要であることを、この曲から学んだ。
 ギターの音色はこれが一番エフェクトを強くかけており、アラビックな響きのサウンドはニュー・ウェイヴというフィルターを通過して、オンリー・ワンの響きになっている。



7. Bun Bun
 ここらで息抜きなのか、思いっきり意表をついて、どシンプルなロックンロール。似たような曲、RCもやってたよな。こういったブルース経由のロックンロール、もとはもちろんChack Berryなのだけど、シンプルだからこそバンド自体の技量が問われる曲でもある。

8. Lay down the city
 蘭丸のヴォーカルによる、こちらもちょっと息抜き的なナンバー。まぁギタリストが余技で歌いそうな曲なので、あまり厳しいことは言えないけど、たまにはこんなのもいいんじゃね?的な曲と思ってもらえればよろしい。

9. Shake My Head
 ギターの音色は思いっきりXTCなので、これは佐久間か蘭丸が持ち込んできたと思われる。ハリーもXTCなんか聴くのかな?まぁ誰かが聴いてるのを耳にはしてるだろうけど。
 こういったダウン・トゥ・アース的なブルース丸出しの曲に、このギター・サウンドは結構発明なんじゃないかと思うのだけど、多分、海外の誰かがやってるのかな?

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10. Up & Down Baby
 またまた蘭丸ヴォーカルのナンバー。当時の彼はほんと中性的なルックスで、ある意味スライダーズのビジュアル面を大きく担っていたため、営業政策上、彼メインの曲もいくつかは必要だった。ギタリストゆえ、どうしてもなんちゃってヴォーカルになってしまうのだけど、彼目当ての女性ファンが多かったため、これはこれでよかったのだろう。

11. NO DOWN
 再びハリー登場。このギターもかなり音色をいじっているのだけど、これはこれでハリーも気に入っているよう。シンプルな構造のロックンロールなので、ちょっとやそっとのエフェクトでは曲は壊れない。
 実はメロディはかなりポップで、コード進行にはBeatlesの影響も垣間見える。そりゃそうだよな、何が何でもStones一筋ってわけじゃないだろうし。

12. Party Is Over
 これって思いっきり”Street Fighting Man”だったことを、今回久しぶりに聴き返してみて初めて気づいた。モロだよな、これ。
 パクリと言いたいのではなく、「うまく消化してるんだな」という優しい目線である。

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13. 嵐のあと
 後の"風が強い日"の前哨戦とも言える、かなり身に詰まされた情緒的な歌詞が印象的。でもハリーのキャラクターなのか、どれだけウェットに傾いても、発せられる言葉はとてもドライに聴こえてしまう。




 スライダーズ解散後、ソロとしてマイペースな活動振りのハリー、もともとプロモーション的な活動には消極的で、今もそれはあまり変わっていない。
 一応オフィシャル・サイトもあるのだけど、何しろ本人からの情報がかなり少ないので、ほんと簡素なインフォメーションくらいしかネタのない状態が続いている。
 -でも俺は俺で、どうにかやってるぜベイビー。
 そう言いながら飄々と生きる、ハリーの生き方もまた、憧れの人生のひとつである。



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