folder 80年代ソニー黄金時代にデビュー、演奏・作曲担当の松浦雅也、ヴォーカル担当のChakaによる2人組テクノ風ポップ・ユニットPSY・S。爆発的なヒットは残せなかったけど、アニメ「シティ・ハンター」の主題歌"Angel Night"や、マンガでありながら疾走感あふれる高い作画能力によって、実在のロック・バンドよりロックらしかった稀代の傑作「TO-Y」のオリジナル・ビデオ・アニメの主題歌”レモンの勇気”など、アーティストとしてはよく知らないけど、曲の認知度はそこそこ高い。

 筋金入りのシンセ少年だった松浦は、シンセ・サウンドをお茶の間レベルにまで浸透させたYMOや、その始祖的存在であるMike OldfieldやJean Michel Jarreを通過した後、筋金入りのシンセ青年へと成長した。当時日本での個人所有者は冨田勲を含め数人程度しかいなかったフェアライトCMIを個人で購入して、まだエフェクト効果の用途しかなかったサンプリング機能やペンライト使用によるタッチ・スクリーン上での波形操作を最大限に活用して、まだデジタル化突入間もない音楽業界で名を売った。その実績をベースにPSY・Sの雛型となるデモ・テープを製作、後にソニーからメジャー・デビューしている。
 解散後はゲーム音楽の世界に足を踏み入れ、最初に手掛けたのがあの「パラッパラッパー」、リズムに合わせてラップを奏でるという新発想が評判を呼んで大ヒットを記録、PSY・S時代を遥かに超える脚光を浴びることになった。今もゲーム業界周辺でウロウロしつつ、最近では悠々自適なペースではあるけれど、本格的な音楽活動を再開したりしている。

 PSY・Sとしてデビューする前は、関西のライブ・シーンでも有数のソウル・ヴォーカリストとしてブイブイ言わせていたチャカ。ちょっと大きめ程度のホールくらいなら、マイクなしでも最後尾まで充分響かせることができる声量と、確実な音程コントロールを持ち味として、デビュー前はファンク・バンドで活動していた。そこからどういった馴れ初めなのか松浦との出会いによって、これまでの熱いグルーヴィーなサウンドから一転、人為的な揺れのないジャストなリズムをベースとした無機的なサウンドとのミスマッチに興味を抱き、松浦と共にPSY・S結成に動く。
 ゲスト・ヴォーカルや他アーティストのコーラスなど課外活動もこなしつつ、徐々にソロ活動の割合が増えてくると共に、松浦との共同作業との間にすれ違いが大きくなってゆく。もともと音楽性のまったく違う2人が10年以上もコラボレートしてきたこと自体が奇跡であり、発展的解消は避けられない事態だった。

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 で、基本的なプロフィール紹介はここまで。
 それほどポテンシャルの高い2人が手を組んだにもかかわらず、また様々なヒット要素を抱えていながら、なぜ大きなブレイクに至らなかったのか―、それが今回のレビューのテーマである。

 彼らと同時代・同形態のエレクトロ・ポップ・ユニットといえば、YazooやEurythmicsあたりの名が挙がる。山積みのキーボードやシンセに取り囲まれ、リアルタイムでプログラミングやセッティングに夢中になるがあまり、ほとんどステージ・アクションもなく、黙々と演奏に没頭しているサウンド担当の男と、やたら声量があって、ライブ映えするビジュアルや身のこなしを見せる華麗な女性ヴォーカルという点は、ほぼ世界中、どのバンドにも共通する基本フォーマットとなっている。
 当初、所属事務所やレコード会社が設定した路線も、その辺のラインをビジネス・モデルとして設定していたと思われる。特に初期のPSY・Sは、博覧強記の知識と技術を併せ持つ松浦のテクノ・ポップ的サウンドに、デビュー前は爆発させていた昂る感情やグルーヴを敢えてセーブしたチャカのヴォーカルが乗る、というサウンド・コンセプトを明確に押し出してプロモーション展開していた。新進気鋭のサウンド・クリエイター松浦が最新機材を操って近未来的なビジョンを提示する、というニュアンスが強かったため、爆発娘チャカの覚醒はもう少し後になる。

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 彼らがデビューした80年代中盤は、テープの切り貼り編集や職人的なマイク・セッティングなど、アナログ的な作業が中心だったレコーディング現場に、デジタル録音の波が進出しつつあった時代である。シンセ機材と言えばエレクトーンまがいの無味乾燥な単音の手弾きか、実は結構原始的な構造のメロトロンくらいしか選択肢がなかったのが、midi規格の普及によって音色の選択肢が無限に広がった。まるでメトロノームのようなクリック音しか出せなかったシーケンスなどのリズム機材は、物理エコーの急速な進化によって、こちらも様々な響きを選べるようになった。
 これまで軽音楽部上がりが支配していたレコーディング・スタジオの空間に、ロジカルな思考を持つ理系ミュージシャンへの門戸が開かれた時代でもある。この辺りからエンジニア系の作業が爆発的に増え、アナログ的思考ノリ一発系のミュージシャンは次第にスポイルされてゆくのだけれど、それはもうちょっと後の話。

 周囲の環境・条件は結構いい感じに整えられていたにもかかわらず、ソニーの皮算用ほどのブレイクに至らなかったのは、様々な要因が考えられる。
 そのひとつが、フェアライト使用を前面に押し出し過ぎたプロモーション展開。それぞれの楽器のスペシャリストであるスタジオ・ミュージシャンらがトラックごとに個別のテクニックを注入する既存の手法に対して、生楽器を使用せず、すべてのバック・トラックを1人のコンポーザーが最新機材で作り上げる、というスタイルは斬新だった。
 楽器としてのシンセサイザーのスペックがまだ低く、ちょっとした効果音やエフェクトなど、スパイス的に使用するか、それとも開き直って喜多郎のようにニュー・エイジ的に展開するかのどちらかしかなかった時代、松浦のようなスタイルは珍しかったのだ。珍しかったのだけど、それ以上のインパクトを与えられなかったのは、純粋にサウンド本体の弱さ。
 いくらフェアライトが画期的だったとはいえ、所詮は30年以上前の機材、スペック的には3DSにも劣るくらいである。当時のアナログ・レコーディング技術は完成の極みに達しており、音圧やダイナミズムなどは比べるべくもなかった。数字では表せないスペックの部分では、明らかにアナログ楽器の方に分があった。ポピュラー音楽におけるデジタル音源のミックスや録音のノウハウがまだ確立していなかったことも、彼らの不幸だろう。
 敢えてそのサウンドのチープさを逆手に取って、複合的なメディア・ミックスを駆使してヒットに導いたのが、Trevor Horn率いるArt of Noiseなのだけど、Trevorに匹敵する山師的プロデューサーの不在が、これまたPSY・Sの不運。もうちょっと下世話なメロディ・ラインがあったら、情勢は変わってたかもしれない。

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 で、『Collection』。
 このアルバムは通常フォーマットのオリジナルとは違い、当時松浦がパーソナリティを務めていたNHK-FM「サウンド・ストリート」内の企画から派生したアルバム。NHKというパブリックな発表の場所と、微々たるソニーの予算とコーディネート権を得た松浦が、ほぼ自分の興味本位でミュージシャンをセレクト、そんな彼らとコラボして楽曲を作り込み、その結果を月イチの割合でオンエアしてゆくという企画である。番組でオンエアすること以外に共通のテーマはなく、ユニットごとに合わせたサウンド・アレンジとなっており、出来栄えはそれぞれ見事にバラバラである。

 参加アーティストのほとんどはソニー系なのだけど、その当時のソニー系アーティストは結構バラエティに富んでいて、特にクセのあるメンツの参加が多い。当時はまだ知る人ぞ知る的ポジションだったけど、スキルとポリシーのしっかりしたアーティストを人選する先見の明があったのか、ほとんどのアーティストは現在でも現役で活動を続けている。そう考えれば、ソニー系アーティストのショー・ケース的オムニバスという見方もできる。

 しつこいようだけど、大きなブレイクは遂に果たせなかったPSY・S、とはいえ今でも再結成を願うファンは多く、時々思い出したようにリマスターや未発表音源映像がお蔵出しされている。当時のファン層は俺と同じアラフォー以上、ちょっとしたセンチメンタルな気まぐれで小金を吐き出すことのできる年代だ。まだCDという物理メディアに愛着を抱いてる世代なので、比較的マーケティングしやすいのだろう。

 今ではまったく別のベクトルに向かってる2人なので、多分復活はありえないだろうけど、時々思い出したように聴きたくなるアーティストである。


Collection(紙ジャケット仕様)
PSY・S
Sony Music Direct (2007-10-24)
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1. ウェイク・アップ (ア・ショート・ヴァージョン)
 ご存じ「ミュートマJAPAN」のオープニングで流れまくっていたため、80年代に青春を過ごしてきた者にとってはDNAに刷り込まれているはず。誰の曲かは知らないけれど、誰もが必ず一度は聴いたことがある、俺世代周辺にとっては有名な曲。
 ドラム・エフェクトが時代性を感じさせるのだけど、そんなところが俺世代は脊髄反射で過敏に反応してしまう。ちなみにゲスト・ミュージシャンは鈴木賢司。一般には馴染み薄い名前だけど、その求道的なギターへの切磋琢磨ぶりは、あのJack Bruceさえも手玉に取るほどだった。後に渡英して音信が途絶えたけど、気がつけばいつの間にかSimply Redのメンバーになっていた。

2. ドリーム・スープ
 ムーンライダーズの岡田徹(kb)とゼルダの高橋佐代子(vo・作詞)、それとChirorinというガールズ・テクノ・ポップ・ユニットの島崎夏実(vo)参加。最後の人だけよく知らんけど、アニメ声っぽいスウィート・ヴォイスは全国の青臭い童貞たちの下半身をやんわりと刺激した。
 当時のムーンライダーズは偏執狂的なサウンド・メイキングが極限に達しており、この曲もほぼすべての楽器が本来の音色ではなく、様々に歪んだエフェクトを噛ませた上で鳴り響いている。こういった屈折した音楽が持てはやされた時代だったのだよ、80年代とは。

3. 本当の嘘
 ゲストはゴンチチ、ていうか作詞作曲ギター演奏ヴォーカルもすべて彼らによるもの。ゲストというよりはほぼゴンチチの曲である。ギター以外の演奏が松浦によるものなのだけど、実はゴンチチ、デビュー作からしばらくは松浦にアレンジを依頼しており、切っても切れぬ旧知の仲なのだった。90年代初頭までそのコラボは続いたので、相性が良かったのだろう。
 なので、いつものゴンチチである。変わんねぇな、ホント。

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4. ビー玉坂
 れっきとした音大出ピアニストながら、ポップ・フィールドでの活動が多い村松健と松浦との連弾によるピアノ・インスト。
 何というか、郷愁を掻き立てる曲。一時期よくテレビのサウンド・クリップにも多用されたらしく、非常にわかりやすいながらも技巧を凝らした曲であり、しかもひどく心に残る曲である。
 そう感じるのは俺だけかと思ってたら、調べてみると、意外とこの曲のファンが多いことにちょっと驚き。決して売れたアルバムでもないし、曲順からいっても目立つ配置でもない。
 なのに、いい曲というのはきちんと残っていく、という好例。



5. ウーマン・S (ボサ・ノヴァ・ヴァージョン)
 前年にリリースされたセカンド・アルバム『Pic-Nic』収録曲のリアレンジ・ヴァージョン。夏の午睡にはぴったりの曲。バドワイザー片手にまどろんだら、ちょっとした村上春樹の気分に浸ることができる。
 ゲストはくじらの杉林恭雄。コーラスのみの参加だけど、その個性的なヴォイスは存在感タップリ。ソロ・ユニットとなってしまったけど、今でも地道な活動を続けているのは、ちょっと驚いたこと。

6. サイレント・ソング
 バービーボーイズのいまみちともたかが作曲・ギターで参加。このアルバムの中では最も松浦色が薄い楽曲である。ていうか、そのバービーの”Noisy”という曲とメロディがまったく同じで、ここではチャカが作詞・ヴォーカルを担当している。もちろん本家はバービーなのだけど、いま現在ググってみて多くヒットするのは、圧倒的にPSY・Sの方。それだけファンの間でも人気の高い曲である。



7. 絵に描いたよりPictureness
 6.に続き、ストレートなギター・ポップ。ちょっとハスキーで少年性を感じさせるヴォーカルは、蒼いセクシャリティを感じさせる。
 作詞・作曲・ヴォーカルの久保田洋司は当時、THE 東南西北でデビューして間もない頃。プラトニックなカップルの甘酸っぱい放課後を飾り気なく表現した”内心Thank You”をスマッシュ・ヒットさせた。その後はどうにもパッとせず、フェード・アウトしてしまったと思ってたら、いつの間にジャニーズ御用達作詞家となっていてビックリした。俺の好きな”ファンタスティポ”が彼の手による作だとは、これもついさっき知ってビックリ。もっと最近ではももクロとも仕事していたのをwikiで知って、これまた3度ビックリ。

8. 風の中で
 当時はまだ無名だったにもかかわらず、ソニー所属による企業パワーによって、様々なアーティストへのコーラス参加、そして今回のようなコラボが多かった楠瀬誠志郎。”ほっとけいないよ”で本格的なブレイクを果たすのはもう少し先のこと。
 
 眠れない時間 通り過ぎて
 人ごみの中 近づく 鼓動きいた

 作曲松浦・作詞チャカによる、何ていうこともないメロディ・ライン、何ていうこともない歌詞である。しかし、この何でもなさが誠志郎の丁寧なヴォイシングにかかると、何ともいえない郷愁を掻き立てられる。
 このアルバムのリリース当時、やはり華やかな6.や7.の方に興味が強かったけど、リリースから四半世紀を経過して、そして自分も年を取ると、むしろ強く惹かれるのはこういった曲。歌を邪魔しない松浦のシンプルな、そして後半になるにつれて壮大になるバック・トラック。チャカと誠志郎による多重コーラスは、心が弱ってる時に聴くと、つい涙もろくなってしまう。

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9. 私は流行,あなたは世間(インストゥルメンタル・ヴァージョン)
 マルチな才能のチェロ奏者溝口肇のオーケストラ・アレンジによる、PSY・Sデビュー・アルバム収録曲のインスト・ヴァージョン。この曲は彼らにとっての出発点であって、そして到達点とも言える。コンセプト・メロディ・歌詞、どれを取ってもポップ・ユニットPSY・Sのエッセンスが凝縮されている。それだけベースがしっかりしている曲なので、フル・オーケストラで演奏されても遜色なく、きちんとメロディが立っているし、壮大なアレンジにも充分拮抗している。
 メロディが引き立っているので、演奏においてのパーソナリティはやや弱く聴こえてしまい、しばらく聴いていると、普通にBGMとしても聴き流せてしまう。俺のイメージとしては『世界の車窓から』が連想されたのだけれど、調べてみたらテーマ曲を作ってたのはこの人だった。




 この後、PSY・Sはメジャー展開を図るべく、デビューしてからほとんど行なっていなかったライブ活動に積極的になる。孤独で地道な作業となるレコーディングとは一線を画し、「Live PSY・S」と称してバンド・スタイルでのエンタテインメントを追求、シンセ素材はほぼ使用せず、生楽器の多用とチャカの爆裂ヴォーカルを最大限に活かしたショーを行なっていた。彼女のエキセントリックなステージ衣装と、振付師南流石による奇抜なパフォーマンスが話題になったのは、「ミュートマJAPAN」を見てた人なら記憶に残っているはず。
 思えば、このアルバム製作に伴う他アーティストとのコラボ・共同作業が、個人主義の松浦の心を動かしたのだろう。多分、相当なひねくれ者と思われるので認めたがらないだろうけど、他人とのモノづくりの歓びは、これまでの引きこもり作業よりはずっと前向きである。


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