folder あくまで一般論だけど、ソウル/ファンク系ミュージシャンのライブ・アルバムというのは、会場の熱気をそのまま逃さず、すぐさま真空パックに封じ込めたような、とにかくエネルギッシュなものが多い。これはソウルだけに限らず、ロックでもポップスでも似たようなものだ。一度、日本のアシッド・フォーク(森田童子だったかな?)のライブ・アルバムを興味本位で耳にしたのだけど、なんかすっごいダウナー系で、聴いてるうちにやり切れない心境になった記憶があるけど、そういったのはごく少数だろう。

 特異な例外は抜きにして、ほぼすべてのライブ・アルバムに共通しているのは、スタジオだけでは再現できないリアルな臨場感だろう。直にオーディエンスの前で反応を見ることによって、演奏にもパフォーマンスにもアッパー系の化学反応が生じる。オーディエンスから多量のアドレナリンが放出されることによって、会場は興奮の熱気に包まれ、そしてアーティスト側も普段じゃとてもできないプレイを繰り出すことが可能となる。ライブ・パフォーマンスの理想的なフォルムである。

 で、 Donny Hathaway のこのライブ・アルバム。ビルボードでは最高18位だけど、ロング・ヒットになったおかげでゴールド・ディスクを獲得しており、いまだソウルのライブ・アルバムの中では、確実に5本の指に入る名盤である。で、他の4本は何かと言われたら、え~、JBとファンカ、Sam Cookeにアースと…、ダメだ思いつかね。

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 時代はちょうど70年代初頭、ニュー・ソウルの嵐が吹き荒れていた頃である。ヒット・ファクトリーでの大量生産的極甘ポップ・ソウルばかり歌わされることに辟易したソウル・アーティストらが、自分の深層心理に深く切り込み、または外部の社会情勢や政治に辛辣な視点を向けたり、様々な角度からオリジナリティを追求していったその時代。
 Donnyもまた、既存のパーティ・ソングからは距離を置き、博愛主義的自己主張を強めた、サウンド的にも歌詞世界的にも内省を極めたアルバムをリリースしていた。誰もが右なり左の立場に立ち、そしてその根拠や主張を求められる時代。ベトナム戦争と公民権問題に揺れるアメリカにおいて、意識的な黒人アーティストは、確固たるステイトメントを求められていた。

 シャイな人柄ゆえ、パフォーマーというよりはむしろコンポーザーに向いていたのだと思う。このアルバムにおいては素晴らしいパフォーマンスなのだけど、常に最上のプレイができるとは限らない。もし彼がKeith Richards並みのメンタルだったら、多少の躓きくらいなら、ジャック・ダニエルをあおってドラッグのひとつでもキメてしまえば忘れてしまうのだろうけど、あいにくDonnyはそういったタイプではなかった。Keithのような、ある種の図太さ・図々しさが足りなかったのだろう。
 作品への強いこだわりがこじれて捻じれてしまったがゆえ、晩年はなかなか作品を仕上げられず、半隠遁状態に陥ってしまう。
 そしてその後、悲劇的な結末へと繋がる。

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 Donnyの心の闇がどれだけ深かったのか、主因は如何なるものだったのか、今でもはっきりとはわかっていない。創作上のトラブルなのかプライベートな問題なのか、それとももっと根の深い問題だったのか―。
 それは家族でさえ、そして盟友Roberta Flack でさえ触れることのできない、とてもとても深く暗い核があったのだろう。
 もしその苦しみを、ほんの少しでも和らげるものがあったのなら―。
 
 Keithを含む様々なミュージシャンのように、酒やドラッグに走ることが最も手っ取り早い手段のはずだが、自らを厳しく律するDonnyの人柄から、そういった方面へ逃げることは考えにくい。逆境から逃避することもひとつの方法のはずなのに、それもまた自己修練として捉えてしまい、さらに負のスパイラルに嵌まる。
 そして、結局自分で自分の尻尾を喰ってしまうような自家中毒に陥った挙句、最終的にはホテルの屋上から飛び降りることによって、自ら強引に人生の幕を引いてしまった。何もそこまで思い詰めなくても良かったのに…、とは、残された者の戯言に過ぎない。
 彼にとっては、これが最上の方法だった。
 自らすべての落とし前をつけるためには、この方法しか残されていなかったのだ。


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1. What's Goin' On
 大定番のMarvin Gaye。このアルバム・リリースが1972年、『What’s Going On』が1971年リリースのため、ほぼ直後にライブで披露されている。ライブのオープニングからカバー曲というのは、オリジナリティ的にはかなりマイナスのはずなのだけど、いい曲であれば無問題なのか、そういったこだわりは薄いのだろう。オーディエンスの反応も良く、バンドのプレイも冒頭からグルーヴ感あふれまくり。
 ギターはPhil Upchurchというセッション系のミュージシャン。自己主張はそれほど強くないのに存在感があり、ナチュラル・トーンとメロディに沿ったオブリガードが特徴。David T.Walkerが好きな人なら気に入るはず。
 
2. The Ghetto
 早くもA面クライマックスとなる12分超の長尺曲。デビュー・アルバム『Everything is Everuthing』に収録。アタックの弱いドラムとコンガをメインとしたソフト・リズム・サウンドは、一聴するとMarvin Gayeへのリスペクトと思われがちだけど、本人的にはさほどそんな意識はなく、ただメロディと歌詞に合った響きを求めると、こんな感じになりました、という結果。確かにMarvinと比べると、自らエレピを弾いているだけあって、鍵盤系の出番が非常に多い。この辺がやはり他アーティストとの差別化、オリジナリティなのだろう。
 オリジナルも7分超の大作。音の分離が良いため、リズムと鍵盤とがきれいにキッチリ分かれており、スロウ・ファンク的な趣があるのだけど、このライブ・ヴァージョンではもう少しまったりと、バンド・グルーヴを重視した演奏になっている。俺的には、このライブ・ヴァージョンの方が好み。
 


3. Hey Girl
 コンガで参加しているEarl DeRouenによる作品。Donnyといえば重く考えさせられる社会的な歌も多いのだけど、本人作ではないせいか、全キャリアを通してもポップな作りである。リズムが立っているのが特徴だが、メロディも覚えやすく口ずさみやすいことが、この曲の魅力。
 ドラマー制作による楽曲は往々にしてリズム中心で、歌はおざなりな曲が多いのだけれど、Donnyとの相性が良かったのか、ヴォーカルの個性を生かした音作りになっている。前にも取り上げたけど、Alice Clarkもカバーしているので、ミュージシャン好み、プロとしても取り上げたくなる楽曲なのだろう。
 


4. You've Got A Friend
 イントロのピアノのフレーズが始まった途端、会場から沸く歓声。オリジナルはご存じCarole King、同じ年に盟友James Taylorもカバーしており、すでにこの時点から名曲扱いされていたと思われる。Roberta Flackとのデュエット・ヴァージョンもあり、そちらも有名なのだけれど、圧倒的にこのライブ・ヴァージョンの方が良い。
 この曲に限らずこのアルバム、全編通して「白熱のライブ!!」とか「熱狂の観衆!!」など、一般的なライブ・アルバムとはちょっと方向性が違っている。熱狂と表現するには根幹の部分はクレバーであり、いい感じに温かみのあるムードが漂っている。
 サビに入る頃、Donnyは客席へマイクを向け、みんなにコーラスを求める。彼の自宅で行なわれるホーム・パーティがステージ・サイズにスケール・アップしたような、非常に居心地の良い空気感とムードが、ここでは流れている。

5. Little Ghetto Boy
 ここからはレコードで言えばB面。ちなみにA面がLAのライブハウスTroubadour、そしてこちらはNYはBitter Endでの収録。
 この曲はEarl DeRouenとDonnyとの共作。オリジナルはアルバム未収録で、サウンドトラック『Come Back Charleston Blue』が初出。タイトルからわかるように、ゲットー在住の黒人少年へ呼びかける歌詞で、微かな希望と正義を訴える内容である。性善説が信条のDonnyにとって、これほどしっくりくる歌はないだろう。彼のメッセージのエッセンスが、ここには凝縮されている。
 歌詞はシリアスで重い内容だけど、ライブではそこまで深刻な流れになっていない。ひとつの良質なソウル・ナンバーとしてしっかり作られており、決してメッセージ優先というわけではない。
 NYという土地の空気がそうさせるのか、LAよりも少しファンキー指数が高まっているのは、気のせいだろうか。それともギターがCornell Dupreeにチェンジしたせいもあるのか。
 ちなみに近年ではJohn LegendがThe Rootsとコラボしたアルバム『Wake Up!』にて、愛情あふれるカバーを披露している。サウンドはモダンになっているが、根っこの部分はしっかり押さえているので、こちらも必聴。

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6. We're Still Friends
 ちょっとしたMCの後、シンプルなコード演奏、ミステリアスな導入部。すこしダークでネガティブな曲調が、ライブの一連の流れのアクセントとしては絶妙。でもやっぱ重いな、ちょっと。

7. Jealous Guy
 ご存じJohn Lennonの屈指の名曲。情けなくちょっぴり弱気な数多くの男たちへの応援歌でもあり、それはDonnyにとっても同じだったのだろう。Johnよりはもう少し力強いヴォーカルで、ピアノも打楽器的なアプローチでプレイされている。

 


8. Voices Inside (Everything Is Everything)
 オリジナルは3分程度だけど、ここではなんと13分超、ほぼジャム・セッション的に演奏が延々と続く。Donnyのエレピ・ソロを中心として、各メンバーのソロを挟めつつ、観客の興奮のヴォルテージと比例して、グルーヴも最高潮に達してゆく。特にWillie Weeks(B)、この時点では若干24歳。なのに、どうしてこんなベースが弾けたのだろう。Donnyとの相性が良かったのか、それともこのライブという空間がそうさせたのか。




 もともと量産タイプの人ではなかった。
 人ひとりが言いたい事訴えたい事なんて限られてる。そう次々と新しいメッセージや主張がポンポン出てくるわけがないのだ。
 多くの表現者が過去作の拡大再生産や主張の水増しによって延命を図ることは、Donnyにとってはファンへの裏切り、そして自身に対する欺瞞として映った。そのあまりの誠実は逆に自身の表現活動を窮屈にし、そして遂には自身の生活をも追い込んでいった。
 自身の表現を妥協せずに追求してゆくことは、必然的に寡作にならざるを得ない。どれだけ作業に打ち込んだとしても、ファースト・インプレッションからは次第に遠のいてゆき、そしてそれは二度と戻って来ないのだ。

 早逝したDonnyの死を悼むファンは今でも多い。いま現在においても未発表音源やライブの発掘は続いているが、やはりこのアルバム以上のクオリティの物は存在しない。
 あの時代、あのメンバーで、そしてあの場所の磁力が生み出したサウンドである。
 歌は永遠に残るけれど、あの空気感を再現することは、もはや不可能だ。


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