folder 1989年リリース、UKネオ・アコ・ムーヴメントの流れで紹介されることの多い、今でも人気の高いファースト・アルバム。あまりに人気が高いので、レコード会社のネオ・アコ再発キャンペーンの際には、ほぼ必ずリスト・アップされているのだけれど、逆にBeautiful Southといえばコレ、という感じで、ほぼコレ1枚だけで終わってしまい、他のアルバムはあまり見向きもされていない現状にある。ベストやライブ盤だけじゃなく、まずはオリジナル・アルバムの安定供給を考えてくれよ、と言いたくなってしまう。

 Housemartinsという文科系帰宅部バンドが母体となって結成されたこのバンド、中心メンバーはほぼそのままスライドしているので、一聴してあまり変化はなさそう、看板変えただけじゃね?と思ってしまいがちだけど、一応、明確な新機軸のもと、新バンドは結成されている。
 人懐っこいポップ性はそのまま引き継いだのだけど、大きな変化は、これまでより更に英国気質を強めた歌詞、爽やかなサウンドに乗せて下世話な世界を軽やかに歌う、非常にニッチでドメスティックなコンセプトは、同じく根底は下世話な英国人の間で長く支持された。
 デビューしてしばらくは、ロキノンやクロスビートなど、「何てないことをさも小難しく語る」系の雑誌で頻繁に紹介されていたので、この時期にロックをかじってた人なら、名前くらいは何となく聞いたことがあると思うし、一曲くらいなら何となく耳にしたことがあるはずである。

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 基本、ソフト・サウンディングをベースにして、男2女1のメイン・ヴォーカルを曲によって組み合わせを変える方式を採用していた。「していた」というのは、もう解散してしまったから。
 徹底的に国内需要にこたえるスタイルを貫いていたおかげで、イギリス国内での人気は安定れして高く、一時は「国民的バンド」と称されて、高目安定なコンスタントな売り上げをキープしていた。いたのだけど、同じ曲調によるマンネリ化が進むに連れて、英国労働者階級出身そのまんまの飾らないキャラクターが仇となった。おかげでテコ入れのためのイメージ・チェンジも思うように進まず、活動自体が次第にフェード・アウトしていった次第。
 曲は聴いたことあるけど、どんなメンバーが在籍していたのか、またどんなバンドが歌ってるのかも充分認知されなかったのは、日本に限らずイギリスでも同じ状況だった。
 
 セールス的に陰りが見えてきた頃になってから、多分レコード会社からの要請だと思うけど、かつての盟友Norman Cook(別名Fatboy Slim)にプロデュースを依頼、クラブ系サウンドの導入で起死回生を狙った時期もあったのだけど、誰よりも本人たちの予想通り、それほどの支持は得られなかった。誰もBeautiful Southにそんなサウンドは望んでいなかったこと、また彼ら自身もアッパー系なクラブよりも、場末のパブで呑んだくれながらダラダラ演奏してる方が性に合っていることを自覚していた。
 
 Housemartinsの時代からその兆候はあったのだけど、黄金比メロディを基調としたアコースティック・サウンドに、ウィットに富んだ皮肉な歌詞を載せるというコンセプト自体は、決して間違っていなかった。現に、ひねくれてねじ曲がった国民性の英国では、末長い支持を得ていたし、本人らもサウンドの進歩などはあまり考えず、このまま美メロの拡大再生産で、細く長く生き延びて行くはずだったのだから。
 ただ21世紀に近づくにつれて、ヒット・チャートの主流がエレクトロ・ベースのダンス・ミュージック中心となってゆき、自然と彼らの居場所が少なくなっていった。同じカテゴリーで語られるEverything But The Girlもまた生き残りを賭けてテクノ・サウンドに活路を見出し、一時は物珍しさにより持て囃されたけど、やはりスタイルに無理があったせいか、次第にネタ切れとなり、自然に失速していった。
 一方、Beautiful Southは最後までほぼ基本姿勢を崩さぬまま、潔く解散の道を選んだ。EBTGのようなデュオならまだしも、6人編成バンドという大所帯は、方向性を変えるにも全員の意見がまとまらず、そんな不安定な状態でバンドを維持するのは難しかったのだろう。
 
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 で、このファースト・アルバム、最後のアルバムと比べても区別がつかないくらい、この時点で既に偉大なるワン・パターンを創りあげてしまっている。前回の『Solid Bronze』のレビューでも書いたけど、全期間を通して、サウンド的な変遷のあまり見られないバンドなので、時系列をシャッフルした曲順構成だと、どのアルバムに入ってた曲なのか、相当のファンでも混乱してしまうはず。それだけブレずに安定したソング・ライティングを行なっていた、という逆説的な証明にはなるのだけれど。
 
 今もメイン・ヴォーカルの2人、Paul HeatonとJacqui Abbottは、デュオとして地道に活動、今年アルバムをリリース、それに伴って国内ツアーや野外フェスに参加したりしているのだけど、映像を見ると温かい大歓声の中、非常にリラックスしたムードで楽しげに歌っている。それだけファン層のすそ野が広く、愛されてきた証なのだけれど、穿った見方をすれば、いわゆる懐メロ歌手的扱いにも見える。もはや、新しいアクションは期待されていないのだろう。
 
 でも、懐メロとさえ認識されずに消えていった、幾多のミュージシャンと比べれば、これはこれで幸せな状況なのかもしれない。


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1. Song For Whoever
「ペンケースの底から君を愛す」という歌詞は何かの比喩なのだろうけど、よくわからん。昔日本版も持っていたのだけれど、あいにく大昔に売っぱらってしまったため、いま手元にあるのは輸入盤。
 ファースト・シングルのはずだけれど、なぜか6分超もある。ラジオのオンエア対策など、考えてなかったんだろうか。
 オーソドックスなポップスと言うには、なんかいびつさを感じるのは、ポップとは無縁な男性ヴォーカルの声質だろうか。
 こういった曲がUKチャート2位まで上昇したというのは、思えば懐の深い時代だったのだろう。



2. Have You Ever Been Away
 初代女性ヴォーカルであるBriana Corrigan、この頃はまだゲスト・ヴォーカル扱いなので、やや影は薄い。あまり考えずに女性ヴォーカルを入れてみたところ、思ったより出来が良くバンドのカラーにもフィットしたので正式加入となったのだろう。
 一応リズムはレゲエなのだけど、全然それっぽく聴こえないのは、英国の曇り空を愛するバンドだから。
 
3. From Under The Covers
 Housemartinsの面影が感じられる、バンド・スタイルのシンプルなサウンド。ベースの音がやたら響くので、ヴォーカル隊ではなくバンド主導で作られた曲と思われる。
 
4. I'll Sail This Ship Alone
 UKチャート31位まで上昇。Housemartinsではできなかった、ピアノ主体のしっとりした曲。彼らの曲の中では比較的ストレートなラブ・ソング。サウンド・詞・メロディ三位一体きちんと整った曲である。これだけ取り上げて聴いていると、実はすごくまともなバンドであることがわかる。
 皮肉を盛り込んだ歌詞は照れの裏返しとも取れるが、だからといってこのような曲ばかり作ってても、イギリスではなかなか芽が出ない。あのElton Johnだって、最初期のステージはかなりぶっとんだ衣装だったし、何かしらスキャンダラスな二面性も見せないと、評価すらしてくれないのだ。



5. Girlfriend
 彼らにしてはモダンなサウンド。リズムを強調したホワイトR&Bといったイメージ、バック・トラックだけ聴いてるとRobert Palmerみたいにも聴こえる。ギターがきちんとギターの音を出しているのも、なかなかバンドっぽい音でかっこいい。
 
6. Straight In At 37
 当時チャートの常連だったDuran DuranのSimon le BonとPaul Youngを徹底的に揶揄した歌。サウンドも何だか小馬鹿にしたような80年代ビート・ポップサウンドを模している。最後には何故か女優Nastassia Kinskiの名前も。
 
7.  You Keep It All In
 UKチャート8位まで上昇。気怠い感じのBrianaと元気ハツラツなPaul Heatonとのヴォーカルの対比が妙。男女の絡みのヴォーカルと言えばバービーボーイズが思い出され、非常に仲睦まじいポップな3分間だが、内容は殺伐としており、強盗殺人犯に拘束されてる現状を嘆いている。



8. Woman In The Wall
 爽やかなヨーデル調のポップ・ソングながら、歌詞はこのアルバム中、最もグロテスク。酔っぱらった際、つい魔が刺して妻を殺害、死体を壁に塗り込めて隠ぺいしようとするが、腐臭が漂ってこりゃたまらん、という、書いててもムカムカするような内容。でも曲・メロディはきれい。
 
9. Oh Blackpool
 ちなみにBlackpoolとはイギリスの有名な保養地。日本で言えば、軽井沢や葉山マリーナあたりをイメージしてもらえればよい。
 ヒトラーやカール・マルクスを引き合いに出して、資本主義の悲哀を嘆く歌を、これでもかというくらい爽やかに歌っている。俺的に、英語はまったくネイティヴではないので、メロディ中心に好きこのんで聴いていたのだけど、まぁこれからも歌詞に重きを置いて聴くことは、あまりないと思う。それだけサウンドとメロディが良いのだ。

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10. Love Is... 
 なぜか7分超の大作。キャッチーなメロディが持ち味のポップ・バンドにとって、長尺の曲はあまり必要とされていない。ホント昔ながらの3分間ポップスが一番需要が高いのだ。なのに彼ら、時たま冒険を侵す場合があるのだが、その大概は失敗に終わっている。
 この曲もそこまで引き延ばすべき曲かと言えば、そこまででもないような気がする。まぁせっかくのファースト・アルバムなので、多少サウンドの幅を持たせたかったのだろう。
 
11. I Love You (But You're Boring)
 歌詞中に出てくるCarouselとはメリーゴーラウンドのこと。珍しくSEなども使いながら多重トラックを組み合わせながら、曲に奥行きを与えている。アコースティックを多用したシンプルなサウンド、ヴォーカルも熱を帯びて、ラスト曲をうまく締めくくろうといった気概が見える。




 ファースト・アルバムながら、チャート的に好成績を収めたBeautiful South、今後十年ほどは安定した人気でイギリスのお茶の間までをも席巻し、コンスタントにアルバムを発表することになる。かなりポピュラー・ミュージック寄り、非ロック性の強いアルバムであり、ブルース&ロック色が導入されるのはこの後から。純粋なメロディを堪能するのなら、このアルバムが一番だろう。


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