folder 続けてCostelloの紹介。
 リリース当時、日本では未発売となった『Blood & Chocolate』発表後、メジャーのレコード会社から契約を外れたCostelloの動向は掴みづらくなる。途切れ途切れ単発的な情報のみが、雑誌に申し訳程度に発信された。ネットもない当時、なおさら情報は入ってこない。
 
 リリース契約もないので、次回作未定のまま、気楽なツアーを単発的に行なうことになるのだが、その内容が前代未聞である。
 リリース直後の1986年から翌年にかけて、彼は2つのバンドを率いている。ひとつは従来のAttractions、そしてもうひとつは『King Of America』のレコーディング・メンバー(James Burton、Jerry Scheff 、Jim Keltner、Benmont Tench、T-Bone Wolk)で構成したConfederates。
 時期によってこの2つを短期間に使い分けているのだけど、当然バンドのニュアンスが全然違うので、企画したはいいが、Costello自身もかなりのストレスが生じたと思う。どっちにしろ、Costelloのヴォーカルが入ってしまえば、どんなサウンドもすべてCostello節になってしまうのだけど、わざわざ自分から苦労をしょい込むちうか、こういったことを平気でする人なのだ。
 
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 それすらもマンネリが生じてきたのか、バンドを変えるだけではなく、もっと行き当たりばったりのスリリングなライブをやりたい、という意向で行なわれたのが、今や伝説となった『Spectacular Spinning Songbook』である。
 ランダムに曲名を羅列した巨大なルーレットをステージに上げ、それを指名された観客が手回しして、針が刺した曲をリクエストとして歌う、という、まるで東京フレンドパークのラストみたいなアトラクションを行なっていた。
 何が歌われるかわからない、というのは、熱心なファンにとってはサプライズ満載の楽しいライブになるだろうが、一見さんだと、もしかして知らない曲ばかりが歌われる可能性もあり、非常にギャンブル性の高いショーとなる。
 それは演者にとっても言えることで、当然ルーレットの全ての曲を熟知していなければならず、ストレスは溜まる一方。
 主役のCostelloと言えば、いざとなればギター1本で大観衆を沸かせることもできるほど、ミュージシャン・スキルの高い人なので、どうということはない。いつも振り回されるのは脇役ばかりだ。

 ちなみに、Costello本人はこのスタイルのライブが気に入ったらしく、近年この形でのツアーを復活させ、それまであまり乗り気ではなかったライブ・アルバムまでリリースしている。ここまでのキャリアになると、何かしらの緊張感で自分を追い立てないと、テンションも上がらないのだろう。
 
 マイナー映画のサントラへの参加や他アーティストとのコラボ(Nick Lowe、Jimmy Cliffや実父まで様々)など、主に単発的な活動が続いている。
 おそらく契約的な縛りもあったのだろう、1987年いっぱいで大々的なツアーを終えるとAttractionsは解散(Steve NieveだけはCostelloの元に残り、その後現在まで続く長いパートナーシップを築くことになる)、大メジャーWarnerとの全世界契約を結ぶことになる。今まではUK、US、他の国でもそれぞれ微妙にレーベルやレコード会社が違っていたのだが、これを機にWarnerで全世界統一されることになる。

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 このアルバムのジャケットは、タータン・チェックの柄の中央にWarnerのロゴ型の窓、そこから顔を出す陰陽のメイクを施したピエロ姿のCostelloといった構図となっている。大メジャーの販売ルートに乗ることが出来て、よほどうれしかったと見えるCostelloがそこにいる。
 この頃のワーナーはRed Hot Chili Peppersを筆頭に、オルタナ・ロック系に力を入れていた時期である。Princeを取締役に入れたりインディー・チャートの常連だったR.E.M.を多額の契約金で獲得したり、今の惨状と違い、勢いがあった。
 
 とにかくメジャー感溢れるアルバムである。前述した『Punch The Clock』『Goodbye Cruel World』のような無理やり感がなく、きちんとしたスタッフによってしっかりお金をかけて作られた作品・サウンドに仕上がっている。メジャーの販売ルートなので、プロモーションにかけられる予算もノウハウも段違いである。
 そのあまりのメジャー感によって、リリース当時は「CostelloにしてはPOP過ぎる」として、好評不評が入り交じった微妙な評価だったが、25年も経った今となっては、プロフェッショナルなエンターテイナーElvis Costelloの誕生が記録された、貴重な作品である。


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エルヴィス・コステロ
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1. ...This Town
 なぜかここでも『King Of America』時に使用したDeclan Patrick Aloysius MacManusでのクレジット。作詞作曲はすべてこの名義なのだが、この曲だけMacManus名義でのプレイ。
 ちなみにRoger McGuinnが12弦ギター、Paul McCartneyがベースをプレイ、という超豪華メンツでのレコーディング。
 またちなみに、ちょうどPaulとのコラボを積極的に行なっていた時期であり、この曲もBeatles っぽく聴こえるが、作ったのはCostello。逆にPaulがCostelloっぽい曲を書いたりして、相互作用がいい感じで結果に表れている。

  
 
2. Let Him Dangle
 Marc Ribotのギターがイイ味出している、やや怪しげなムードの曲。もともとはジャズや現代音楽のフィールドの人なので、多ジャンルとの化学反応が良い方向に働いた好例。こういった幅広い人選ができるのも、メジャーの底力なのだろう。
 ドラムのJerry MarottaはHall & OatesからPeter Gabrielまで、幅広いジャンルを網羅する職人肌の、それでいて個性バリバリのドラマー。
 
3. Deep Dark Truthful Mirror
 のちにコラボ・アルバムまで出すことになる、Allen Toussaintのピアノが南部アメリカっぽいムードを醸し出す。
 ホーン・セクションもいい感じで泥臭く、Costelloのヴォーカルも一皮むけた感じで、このアルバムのおすすめ曲の一つ。『King Of America』セッションを通過したことによって、味のあるヴォーカルである。

  
 
4. Veronica
 このアルバムの、というよりCostelloの有名曲としては三本の指に入るほどのネーム・バリュー。
 日本中のTVの朝8時に一斉に流れていたが、もともとリリース当時もUK31位US19位とヒットしており,古参のファンの間でも認知度の高い曲だった。なので、何を今さら感が強かったのは確かである。
 ちなみにPaulとの共作なのだが、Costelloの創作力に対し脅威を感じていたのか、これまでの蓄積をさらけ出した上、敢えて禁じ手としていたBeatles路線のメロディに回帰している。おかげでその後のソロ・ツアーでBeatlesナンバーが大量に演奏されるようになったのだから、PaulファンにとってはCostello様々である。

  
 
5. God's Comic
 Marc、Jim Keltner(Dr)参加による激シブの一曲。Marc参加の曲はどれも一癖あり、これまでのCostelloの曲とテイストが違っている。やはりこれも相互作用のあらわれなのか。
 
6. Chewing Gum
 こちらもMarc参加、リズムがかなりアブストラクトな、通常フォーマットのロック/ポップスの範疇から外れた曲。ホーン・セクションが入ると変態ファンクになる。タイトルもどことなくファンキー。
 
7. Tramp The Dirt Down
『コンドルは飛んでゆく』を連想させる、南米民謡っぽさ溢れる曲。
 何故かAttractionsのPete Thomas(Dr)参加だが、大して目立った活躍はしていない。というか、非常に存在感が薄い。もうCostelloにとってはこの時点で、Attractionsとの蜜月は遠い昔の事だったのだろう。
 ロック一辺倒ではできない曲。

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8. Stalin Malone
 後にリリースされるDeluxe Editionでは短編小説的な歌詞が朗読されているが、このヴァージョンはインスト。Dirty Dozen Brass BandのセッションはCostelloにアメリカ南部への郷愁を想起させ、この後も度々南部テイストの作品・コラボを繰り返すことになる。

9. Satellite
 スタンダードな3連バラード。少しワルツっぽく聴こえる瞬間もあり。
 何となくAttractionsっぽいプレイも聴こえるが、メンツはまったく別物である。
 ちなみにバック・ヴォーカルでChrissie Hyndeが参加しているらしいが、ほとんど目立ってない。そういえばPretendersも『とくダネ』のオープニング歌ってたよな(”Don’t Get Me Wrong”)。
 
10. Pads, Paws And Claws
 Paulとの共作3曲目。ちなみにMarc参加のため、これもアバンギャルド風味が添加されている。
 よって、大御所の作品にしては面白い構成の曲なのだけれど、サビのところはごく普通のロックン・ロール。ここがポップ職人としての性なのだろう。
 
11. Baby Plays Around
 ほぼCostelloのフル弾き語り。PoguesのCait O'Riordanとの共作。
 この時、彼女と結婚していたことは今回初めて知った。一度バンドのプロデュースを請け負ったことが縁らしいが、後に離婚。
 しかし、地味な曲なのに、どうしてシングル・カットしたのだろう。ライブでは時たま取り上げられているので、本人としてはお気に入りに曲だと思われる。

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12. Miss Macbeth
 Dirty Dozen Brass Band大活躍の、なんか変な構成の曲。曲調がコロコロ変わる、実は実験的な曲。
 
13. Any King's Shilling
 アイルランド民謡っぽさがVan Morrisonを連想させる、地味だけど染み入る曲。
 
14. Coal-Train Robberies
『Spike』の中で一番疾走感溢れる曲。タイトル通り石炭列車強盗の事を歌っているのだが、怪しさ満載のVoxのオルガンの響きが、70年代スパイ映画っぽい。
 こう言った曲はAttractionsの専売特許だったのだが、もう彼らを必要としなくなったCostelloが弾けている。
 
15. Last Boat Leaving
 ラストはしんみり、でもせわしなくCostello自身が様々な楽器をとっかえひっかえして演奏している。
 今年になってから急にライブのレパートリーに復活し、定番の位置に収まっていた。後半の盛り上がりは確かにCostelloの真骨頂。




 チャート的にはUK5位US32位と久々のヒットとなり、シングルも多数カットされた。作品のクオリティとセールスとがうまく合致した、幸せな結果となった。
 この路線に自信を持ったおかげで、続けて同路線の『Mighty Like A Rose』をリリースすることになるが、それはまた後日。


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