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 2011年リリース、生涯で2枚のオリジナル・アルバムしか残せなかったAmy Winehouse、死後に出された追悼アルバム。多分、これからも何年かごとに発掘音源がまとめられるのだろうけど、とりあえず最初のお蔵出し。デビュー前の音源から最後のTonyとのデュエットまで、敢えて時系列はバラバラに構成されている。もともと活動期間自体が短いので、その辺の違和感はほとんどない。
 データだけ見ると寄せ集め感満載であり、アルバムの性質上、統一されたコンセプトはないのだけど、彼女の個性的なヴォーカルによって不思議と統一感が生まれ、サウンドのニュアンスの違いはほとんど気にならない。
 
 とにかく突っ込みどころの多い女である。絵にかいたようなアバズレというか、あまりにも類型的なビッチっぽいルックスのため、どうしてもパパラッチの餌食になりやすい女でもある。なのに、そんな自分を曲げようともしない。もう少し、品行方正とまでは行かないにしても、うまい魅せ方ややり方だってあったはずだし、多分周囲のスタッフも口を酸っぱくして身辺に気を付けるよう助言していたはずだけど、最後まで変わることはなかった。
 年中スピリタスとシガーとを交互にせわしなく口に運び、朦朧とした意識のままステージに上がってマイクを握る。ステージ前はあれだけボロボロだったのに、歌が始まった途端、誰もが虜になる。何だこれ、聴いたこともない。でもスゴイ。ステージでは特別なパフォーマンスはない。今どきの女性シンガーなら複雑なダンスや振り付けも当たり前だけど、彼女はただ歌うだけ。たまに体を揺らしてステップらしきものを踏むこともあるけど、振りというほどのものではない。ていうか、歌だけで充分観衆の視線を釘付けにできる。そんな自信に満ちあふれたパフォーマンスだ。オフステージではあれほど破天荒な所業を繰り広げたというのに、ステージ上では真摯に歌うことに全霊を傾けていた。そう、末期をのぞいては。

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 デビュー前後はメジャー・シーン進出にあたって、多少は畏まった部分もあった。今ではトップ・プロデューサーのMark Ronson主導で作られたトラック、それはちょっとダルだけど基本はヒット・パターンに則った、今どきのヒット・ソングだった。実際ヒットもしたし、おかげでAmyのキャラも浸透した。
 いい事ばかりあるわけじゃない。自分ではごく普通のつもりなのに、どこか人に映る印象は違う。自分はただ、かつてのBilly Holidayみたいに歌いたいだけなのに、注目されるのはビッチなファッションとビッグ・マウス。レーベルの戦略上、そういった自分を演じていた部分もあったけど、見てもらいたいのはそこじゃないのに。
 増大するセールス、それに伴って激増するプレッシャー。そして、日に日に増えゆくアルコールと紫煙。一時のストレス発散や安息に、それらは最適だ。だけど、確実に躰を蝕んでゆく。少しずつではあるけれど、パフォーマンスにズレが生じてくる。
 最初、それはごくわずかなものだ。大して気に留めるほどじゃない、自覚できてるうちは修正だって簡単だ、大丈夫、私はできる
 しかし、ズレは次第に多くなってゆく。でも次の日にはすぐ軌道修正できた。そんな深刻に受け止めなくたっていい。ていうかオーディエンスも予想外のハプニングは大歓迎だ、サプライズとして受け止めてくれる。そう、まだ私はできる
 さらにズレは大きくなる。しかもそのズレ幅は、もはや自分ではどうにもならないくらい大きくなる。最初はまっすぐだった線も、次第に蛇行してゆく。ここまでゆくと、ステージ上のサプライズは日常的になる。平穏な日常と突発的なサプライズとは相反するものであり、ただでさえ奔放だったライブ・パフォーマンスは次第に予測不可能となる。
 進行を無視したパフォーマンス、ロレツの回らない意味不明なMC、そしてバック・バンドから乖離してゆくヴォーカル―。
 終いには、歌が歌でなくなる。リズムは走るかヨタるもの、スキャットは歌詞を忘れたのを誤魔化すため、世界中のオーディエンスを魅了したハスキー・ヴォイスは、アルコールと不摂生のおかげですっかり焼け爛れてしまった。
 それでも観客のため契約消化のため、そしてかつての自分を取り戻すため、何とかステージを最後まで勤めようとする。深刻な体調不良の中、無理やり上げたテンションが続くはずもなく、結局はライブを中断、最期にはステージへ上がることすらできなくなった。死後1か月前、セルビアの野外コンサートが、彼女が公に姿を現わした最期となる。

 入念にプロデュースされたオリジナル・アルバムと性質が違い、死後4か月ほどでリリースされたこのアルバムは、モノによってはデモ・テープ・レベル、それほど大がかりなオーバーダビングも施されておらず、サウンド的にはさほど意匠を凝らしていない。この種のアルバムはタイミング命、出しちゃったモン勝ち的なところがあるので、多少のやっつけ仕事には目をつぶり、取り敢えずリリースしちまえ的になっちゃった部分が大きい。ただ余計なスタジオ・ワークで過剰に悲劇的になることもなく、結果的にはサウンドがシンプルな分だけ、生身のAmy、初々しいデビュー当時から末期までのヴォーカルの変遷を俯瞰することができる。

20123

 Amyのように歌うことは努力すれば可能だ。だけど、Amyのように人の心を動かすことはできない。そういうことだ。


Lioness: Hidden Treasu
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Amy Winehouse
Islan (2011-12-02)
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1. Our Day Will Come
 2002年録音、デビュー作『Frank』がその翌年リリースなので、プレ・デビュー前、ほぼデモテープと考えてよいテイクだけど、サウンドはともかくとして、彼女のヴォーカルはすでに完成されている。バック・トラックは敢えてベタなレゲエ・ビートのオールディーズだけど、それが却ってAmyの個性を引き立たせている。
 
2. Between The Cheats  
 2008年録音、やはりオールディーズっぽいスタンダード調のナンバーが続く。
 生前はポップ歌手としての認知度が高かった彼女、こうして続けて聴いてみると、やはりジャズ・スタンダードとしての素養が高かったことがわかる。
 
3. Tears Dry (Original Version) 
 少しテンポの速い『Back to Black』収録ヴァージョンが先に世に出てるけど、録音時期としてはこちらの方が早い。
 ドスの利いたバラードが、聴く者の心臓を鷲掴みにする。一気に引き込まれるようなヴォーカル・パフォーマンスが繰り広げられる。両ヴァージョンを比較すると、確かにこちらのテイクの方が惹きつける力は強いのだけど、ポップ・ソングとしては濃厚過ぎるのかもしれない。ワールドワイドで売れるためには、多少マイルドにしておいた方が口当たりは良い。ただすぐに物足りなくなる。
 それが消費サイクルの速いポップ・ソングの宿命ではあるのだけれど。



4. Will You Still Love Me Tomorrow? 
 往年のハリウッドのミュージカル映画オープニングを思い起こさせる、壮大なストリングスのイントロ。なんと作者はあのCarole King、もともとはブリル・ビルディング一派のコーラス・グループThe Shirellesに書いたナンバーで、オールディーズでは結構定番とのこと。まぁ俺はそっち方面は詳しくない。
 ここでのリズム・トラックはお馴染みThe Dap Kings。近年ではずっとフォローし続けてきたSharon Jonesのバック・バンドとしての顔が強く、Amyとのコラボもすっかり目立たなくなってしまったけど、彼らとAmyとの相性はSharonをも凌駕する瞬間がある。もともとベクトルが全然違うので、比べるものじゃないけどね。
 
5. Like Smoke [feat. NAS] 
 デュエットという感じではなくて、あくまでAmyのヴォーカル・パートとNASによるラップ・パートとの組み合わせ。スタンダード一辺倒だけでなく、こういったリアルタイムのアーティストとも積極的にコラボしていることも、Amyの飽くなき探究心の表れであるだろうし、プロデューサーとして終生永く寄り添ったSalaam Remiの舵取りの上手さなのだろう。

 
 
6. Valerie ('68 Version)
 『Back to Black』ヴァージョンよりギター・カッティングが強調されている、The Dap Kings参加のナンバー。バンドの音が少し大きくなっており、それに呼応してなのか、Amyもサウンドの一体感を感じてリラックスしたヴォーカルを披露している。
 Amy本人もお気に入りの曲だったとのことなので、ライブで歌い込んでゆけば、もっと違ったヴァージョンも聴くことができたのかもしれない。
 
7. The Girl From Ipanema
 あまりにスタンダード過ぎるため、今までオリジナルをまともに聴いたことがなかったけど、改めてこのアルバムで「こんな曲だったんだ」ということを知った。
 あらゆるシンガーに歌い尽くされた曲ながら、当時若干18歳のAmyが臆することなく、奔放に自分の解釈で歌い上げている。古色蒼然としたスタンダード・ナンバーにドラム・ループを導入して、現代にうまくリンクさせたRemiのサウンド・メイキングが良い仕事。
 
8. Half Time 
 やはりRemiプロデュースによる、ややポップ寄りのバラード・ナンバー。ドラム・ループを中心とした、シンプルなバック・トラックは同時代性ときちんとリンクしている。ちゃんとしたリズムさえあれば、彼女的にはバックはあまりこだわらなかったのかもしれないけど、やはり熟練の技がそこかしこで光るナンバーはAmyの神がかったパフォーマンスが脳裏に映る。
 めずらしく噛みしめるように、丁寧に歌うAmy。こんな一面もあるんだな、と再発見できる。

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9. Wake Up Alone (Original Recording) 
 いわゆるデモ・テイクをどうにか商品レベルにブラッシュ・アップしたナンバー。エンジニアの苦労が偲ばれる。シンプルなギターのアルペジオとドラムのみのバッキングで、まだアルコールやドラッグに蝕まれていない頃のAmyが聴ける。
 ファースト・テイクに近いせいもあって、まだあまり曲を呑み込めていないのか、手探りで歌ってる感が強い。なので、『Back to Black』ヴァージョンとは違うフェイクも聴こえる。
 
10. Best Friends, Right?
 ライブではオープニングの定番だった曲が初収録。
 なぜこれほどクオリティの高い曲が今までリリースされなかったのか―。まぁ諸事情はいろいろあるだろうけど、単純にアルバムのどこかに嵌め込みづらかったんじゃないかと思われる。こういった形と言ってはなんだけど、まずは公式に音源化されたことを素直に喜びたい。
 ジャズ、ソウル、ポップそれぞれのオイシい要素がうまくイイとこ取りされた、ほんとオススメのナンバー。ご挨拶代わりとしては最適。
 
11. Body And Soul
 生前最後となった、憧れの大先輩Tony Bennettとのレコーディング。
 プロデュースは大御所Phil Ramone、ド定番のジャズ・スタンダードのカバーと、直球メインストリームのフィールド。さすがに小手先技や誤魔化しが効くはずもなく、さすがのAmyもここでは若干畏まった表情となっている。
 もともとTony主導で始まった企画なので、ある意味ゲスト的なスタンスで参加したAmy、無理やり振り絞るような晩年のパフォーマンスとは打って変わって、いい意味で責任丸投げでリラックスした感のAmyがそこにいる。

 
 
12. A Song For You
 Leon Russell作曲による、まぁ誰もが知ってるポップのスタンダード・ナンバー。
 実は俺がAmyに引き込まれたきっかけとなった曲である。生前のAmyについてはタブロイド紙のスキャンダルな側面しか知らず、このアルバム・リリースに伴うラジオOAで集中的に流れていたのが、ちょうどこの曲だった。
 初めて耳にした時のことは、結構鮮烈に覚えている。前述した通り、何というかこう、音楽を聴いて心臓を鷲掴みされた感覚を覚えたのは、結構久しぶりのことだった。
 ”Rehab”くらいは耳にしたことがあるけど、単なるポップ・スター程度の認識であって、それ以上の関心は起こらなかった。「スキャンダラスな死に方をしたビッチっぽい人」という、まぁほとんどの人が思ってた程度の認識だったため、先入観としてはネガティヴな印象だった。
 それがこの曲、Amyの歌い出しを聴いた瞬間、すっかりその世界に引き込まれ、ほんとその場ですぐamazonにオーダーしたくらい。そのくらい、Amyの歌は一時俺を虜にさせた。
 体調的には最悪だった2009年のレコーディングということもあって、ヴォーカルはかなり荒れている。ピッチも正確でじゃないし、曲間のフェイクだってヨレヨレだ。
 でも、そんなことは大した問題じゃない。どれだけきれいに譜面通りに歌おうとも、大勢の人を感動させるのは、また別の問題だ。聴く者の心臓を鷲掴みできるほどの衝撃を与えるためには、技術以外の才能が必要になる。
 しかも、それは自ら努力して獲得する類のものではない。神に選ばれし者のみが、その力を行使できる。そして選ばれし者は、決して歌うことを止めてはならないのだ。






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