0b3ca82f5dbe44abc4df6c9d51173421 -2014年7月12日、自身の女性器を3Dプリンタ用データにし、2013年10月以降、活動資金を寄付した男性らにデータ送付の形でダウンロードさせたとして、警視庁はわいせつ物頒布等の罪等の疑いで、アーティストろくでなし子を逮捕。
 「警察がわいせつ物と認めたことに納得がいかない。私にとっては手足と一緒」と容疑を否認。この事件は世界中に反響を巻き起こし、イギリスのロック・アーティストMike Scottはいち早く彼女の指示を表明、オリジナルソング「ROK ROK ROKUDENASHIKO」を制作発表、ネット上に拡散させて、法治国家であるはずの日本の理不尽な対応を批判した。これをきっかけとして両者は交流を深め、2016年4月婚約を発表、上記にまつわる裁判は継続中ながらも今年1月に出産、控訴審では生後間もない我が子を抱きながら、傍聴席に座るMikeの姿があったという。

 ほんの数年前まで、「Waterboys」で検索しても、例の男子シンクロ映画が上位に来て、バンドの方は何ページも追わないと公式サイトさえ出てこない状況が長らく続いていた。それが今では時代が変わり、まぁ男子シンクロwikiにはかなわないけど、3番目には公式サイトがヒットするようになってきている。画像検索を見てみると、逆に男子シンクロの方はほんのちょっぴりで、今ではMikeのフォトショットの方が多い状態である。
 試しに検索ワードを「マイクスコット」に変えてみると…、もう出るわ出るわろくでなし子との2ショット。ていうか主役はほとんどろくでなし子で、マイクの方は添え物的扱いとなっている。この画像を検索したほとんどの人は、ほぼ「ろくでなし子」か「ろくでなし子 結婚」などのワードを使っており、正体不明の謎のオッサンのことなど眼中になかったはずである。「ていうか、この外人さんは誰?何やってる人なの?」という間奏の方が多いはずである。普通の人生を歩んでて、「マイクスコット」という名前にかかわり合う機会なんて、まずないもの。

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 80年代UKを通過していない人ならあまり知られてないように、Mike Scott = Waterboys自体、ロック史においては微妙な立場である。
 U2と同じくらい、キャリアは長い。UKやEU諸国を中心に定期的にツアーを行なっているくらいだから、少数ではあるけれど熱心な固定ファンが世界中に散らばっている。セールス的にはU2の足元にも及ばない。客観的なチャート分析では、シングル「The Whole of the Moon」UK3位のみの一発屋である。無頼漢漂う風貌はワイルドネスというより無骨すぎて地味に映る。
 インタビューなんかではもともと饒舌ではあったけれど、音楽への真摯な向き合い方がステレオタイプすぎて、正直読んでてもあまり面白くない。変に清廉潔白な態度は、80年代当時のUKロック・シーンでもちょっと浮いていた。カッコよく言えば孤高の存在だけど、むせ返るほどのエモーションは冷笑的なニヒリズムがトレンドとされていた当時では、明らかに異端すぎる。
 まぁ近年の饒舌さはベクトルが全然違ってるけどね。彼女によって趣味嗜好が変わるタイプなのかな。

 Bob DylanやBruce Springsteenらを範とした、メッセージ性が強くエモーショナルな骨太ロックを主軸としたデビュー当時のWaterboysは、時に過剰なドラマティックさが前時代的に捉えられ、80年代UKニューウェイヴにおいては異端の存在だった。ペシミズムやデカダンが共通言語となっていたポスト・パンク時代において、泥臭さの拭えない彼らの感性は、やたら享楽的だった他のアーティストとの差別化は容易だった。普通に歌っても過剰な激情が露わになってしまうMikeのヴォーカルは、すでに時代遅れのものだった。
 ほぼ同世代で、同じくやたらと暑苦しく、時に過剰に濃密な主張を織り交ぜた音楽を志向していたのがU2。プロデューサーSteve Lillywhiteのおかげでもう少しニューウェイヴ寄りのサウンドは、Waterboysより一歩先に大衆の支持を得ていた。
 最も政情的に不安定だった80年代のアイルランドで青春時代を過ごしていたこともあって、「Sunday Bloody Sunday」 や「New Year’s Day」などに代表される、政治的メッセージ色の強い楽曲は物議を巻き起こしたけど、それでも彼らの言葉が経験・環境に裏付けされたリアリティを含んでいることは否定できなかった。
 また、デビュー間もなくからオリジナリティ溢れるアイディアを作品につぎ込んでいたEdgeの進化は目覚ましく、今ではスタンダードとなった、カッティングやアルペジオ、ハーモニクスを多用したギター・サウンドにディレイを効果的に織り交ぜた音響空間は、後に多くのエピゴーネンを生み出した。そのディレイ空間は、プロデューサーBryan Enoによってさらに磨きをかけられ、アメリカ南部の泥臭さをヨーロッパ的な荘厳たる感性によって演出した『The Joshua Tree』として結実、これで彼らのスタンスは世界的なものになった。

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 イギリスというのはイングランドの一枚岩国家ではなく、4つの独立地方共同体による連立国家であることはあまり知られていない。日本のような中央集権型ではなく、アメリカのように各地方が独立国家的体裁を取った「共同体」というのが正確である。
 その4つのうち、スコットランドとアイルランドとは友好国的な関係であるらしい。いわゆる宗主国的立場にあるイングランドへの敵対心という点で共通しており、政治的・文化的にも友好関係にある。ちなみにアイルランドとイングランドとは古くから険悪で、それが一連のテロ騒動に繋がってくるのだけれど、それはまた別の話。
 今も活動を共にするバイオリン奏者Steve Wickhamの参加が契機となり、バンド・メンバー総出でアイルランドへ移住、ニューウェイヴ以降のポップな音楽性と、アイリッシュ・フォークの土着性をミックスした『Fisherman’s Blues』を生み出すことになる。
 朴訥な不器用さが災いして、U2と違って大きくブレイクし切れなかった彼らだったけれど、このアルバムのヒットがターニング・ポイントとなって、巷のUKインディー・バンドとは一歩抜きん出たポジションに立つことになる。言ってしまえばイギリスの民謡をロック風にアレンジした音楽のため、海外でのセールスは大きいものではなかったけれど、概ね評論家筋のウケは良く、一目置かれる存在になった。
 80年代末に興った日本のバンド・ブームにおいて、単なるホコテン出身のバンドだったブームが、琉球民謡をベースとした「島唄」のヒットを契機として、ラテンやアフロなど欧米以外の音楽を貪欲に吸収していったプロセスと比較すると、ちょっとわかりやすいと思う。若い人にはわかんないか。

 その後、MikeはWaterboysを解散、アイリッシュ・フォークのイメージが強くなり過ぎたことに危惧を覚えたのか、ソロになってからは程よいAOR的なロック志向のアルバムをリリースする。当時の彼にとって、アイリッシュという要素は数多くある音楽ジャンルのひとつに過ぎず、逆にブレイクのきっかけとなった地点からさらに一歩進んだ音楽に手を広げてみたい、という野心があったのだろう。セールス的には盛り上がらなかったけどね。
 そんなセールス不振を受けて、苦渋の決断ではあったけれど再びWaterboys名義を復活させ、その後はコンスタントなライブを軸とした活動が続く。俺個人としては、ちょうどこの時期、ライブのトレントサイトから未発表ライブをダウンロードすることにハマっていた。WaterboysやMike名義のファイルは結構転がっており、片っぱしからダウンロードしていた。今のようにハードディスクの容量も多くはなかったため、落とすたびにCD-Rに焼いていたのは良い思い出。
 でも、CDに焼いちゃったらそれで満足してしまい、結局それほど聴かなかったよな。

The-Waterboys

 トレントファイルを漁ることに飽きると、彼らへの関心もだいぶ薄れていった。新しいアルバムが出たと聞いても、さして食指も動かず、「ふ~ん、そ」てな感じだった。そんなわけで、もう何年もMikeの音はまともに聴いていなかった。
 なので、去年のちょうど今ごろ、全世界のWaterboysファンだけでなく、多くの80年代洋楽好きを驚愕させたろくでなし子との婚約にまつわるニュースは、ビックリというよりは不意を突かれた印象だった。「そう来たか」というファースト・インプレッションは、思わずスマホ画面を二度見してしまったほど。しかも、Twitterで滅多につぶやくことのない俺が、勢いで「マジで?」とつぶやいちゃったくらいである。そのくらい、彼女との婚約は驚きだった。

 アーティストとしての活動より、芸術か否かの論争にまつわる訴訟沙汰によって、彼女の動向は何となく耳に入っていた。男の本能として、取り敢えず一回は興味本位でブログを覘いてみたりしたけど、まぁ彼女の主張に熱烈な賛意を抱くほどではなかった。ただ、興味本位のその先、ステレオタイプな猥褻さ・隠微さを押し通すためにシリアスになるのではなく、目くじらを立てて無用な茶々を入れてくる自称「良識派」をおちょくる姿勢はずっと気になっていた。世間に理解されづらいポリシーを貫くためには、鉄壁の意思と莫大なパワーを必要とする。周りから見ると「くっだらねぇ」のかもしれないけど、本人からすれば大真面目なのだ。
 最初は純粋な支援活動だった。極東の女性アーティストが表現の自由を奪われ、刑事告発までされている。そんな不当な扱いが許されるのか-。純粋な義憤に駆られていち早く支援を表明し、そして純粋な衝動によって頻繁に来日して親交を深めたが末、いつの間にかプライベートでも行動を共にすることになる。互いの純粋さが導きあった結果と見てよい。
 ろくでなし子の立場からすれば、60近くの「自称」ミュージシャンに純粋に迫られ、支援者という立場を超えた一男性として意識できたかと言えば、多分できなかったんじゃないかと思われる。お金を出してくれて歌も作ってくれて、世界中の支援の輪を広げるのに手を貸してはくれたけど、ところでこのオッサン誰?てな感じだったと思われる。どこかしらかで素性を知ったとして、微妙な賞罰経歴のミュージシャンだったしね。
 まぁそれでも「芸術性」という共通項によって親交を深め、まぁ子供もできちゃったことだし、今後の彼の活動ぶりが期待される。しばらくは一家でダブリン住まいみたいだけど。


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1. A Girl Called Johnny
 1983年リリース、UK80位にチャートインしたデビュー・シングル。80年代初期ということもあって、ドラムがスカスカなことを除けば充分完成された楽曲。ピアノとサックスの音色、微妙に濡れた肌合いのMikeのヴォーカルとがブレンドして、メロウなアメリカン・ロックといった風情。でもアメリカじゃ出せないだろうな、こういったサウンドは。ドライな空気を演じようとしながら、スコットランドの潮風は冷たく濡れそぼっている。この曲が収録されたデビュー・アルバム『Waterboys』はチャートインせず。



2. The Big Music
 3枚目のシングルであり、セカンド・アルバム『A Pagan Place』に収録。ちなみにどちらもチャートインせず。1.よりさらにサウンドはドラマティックに、女性コーラス隊も入れてゴージャスに展開している。スケール感が求められる楽曲とMikeのキャラクターには、このような壮大さがフィットしている。でもね、いいんだけどさ、サックスが前に出過ぎ。アウトロのドラムソロは聴きごたえあり。

3. All The Things She Gave Me
 5枚目のシングルも、同じく『A Pagan Place』から。当然、チャートインせず。ここでアメリカン・ロックへのリスペクトをちょっぴり薄めたのか、UKバンドっぽくサスティンを利かせたギターを投入。サックスは相変わらずブロウしまくっているけど、少し後ろに引っ込んでいる。ある意味、バランスが取れた構成だけど、やはりアウトロに入ってからは出しゃばりまくり。これがMikeの意向だったのかはわかりかねるけど、ちょっとクドいくらい。久しぶりに聴いてみると、改めてクドい。

4. The Whole of the Moon
 2作目でも思うような結果が出なかったことに危機感を覚えたのか、ここで思いっきり方向転換、頑なに拒んでいたシンセも導入、泥臭いサックスに取って代わってフリューゲル・ホーンによって軽快さを前面に出してくる。3枚目のアルバム『This is the Sea』 の先行シングルとして、UK最高26位をマークした。Mikeのポップ・センスはもちろんだけど、ここに来て才能が開花したKarl Wallinger (key)によるBeatlesオマージュなアレンジとがシンクロしたことが、成功の要因である。
 ちなみにこの曲、このベスト・アルバムがリリースされた際にもシングルカットされており、何と自己最高のUK3位、アイルランド・チャートにおいても2位をマークしている。



5. Spirit
 『This is the Sea』収録、Mike自身によるコード弾きピアノの小品。約2分弱の楽曲をわざわざベストに選曲しているくらいだから、多分に思い入れも強いのだろうけど。ちなみにオリジナル・アルバムではこのベスト同様、4.と続いており、エピローグ的な意味合いもあるんじゃないかと思われる。

6. Don't Bang the Drum
 『This is the Sea』からのシングルカットで、当時はチャートインしなかったけれど、いまもライブではほぼ欠かさず演奏されており、人気の高い曲のひとつ。ここまで聴いてきて、やっとWaterboysというロックバンドのサウンドが固まった印象。Mikeの一枚岩的な印象が強いバンドだけど、ロック・サウンドとしての要となるのがKarlだったことが証明されている。

7. Fisherman's Blues
 せっかく前作でロックバンドとしてのスタンスを獲得したというのに、どこか物足りなかったのだろう。どこの時点でKarlが脱退してしまったのかは不明だけど、Steve Wickham という頼もしい相棒を得てからのMikeの決断は早く、もう一人のオリジナル・メンバーAnthony Thistlethwaite (サックスの人)を引き連れてダブリンへ移住、現在の活動にも繋がる『Fisherman’s Blues』を制作する。UK32位にチャートイン、ここですっかり「アイリッシュの人」というイメージが定着する。
 ここでのMikeのテンションは凄まじく、膨大なレコーディング素材を残しており、その制作過程もなかなか興味深いのだけど、それを書くのは次の機会だな。盛りだくさんすぎるんだもの。

8. Killing My Heart
 当時は未発表につき、ボーナス・トラック扱いだった『Fisherman’s Blues』のアウトテイク。アイリッシュ以前と以後のサウンドがうまくミックスされて、Dylan & The Bandが10年経ってアップグレードしたらこんな風になったのかなぁと夢想してしまう、ロック・テイストを添加したグル―ヴィー・チューン。こんな曲をアルバムに入れなかったくらいだから、このクラスの未発表テイクってっぱいあるんだろうなあ、と漠然と思っていた当時。20数年経ってから、その膨大なアウトテイクの山にビックリしちゃうことになるのだけれど。

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9. Strange Boat
 シンプルなバンド・セットによる穏やかなフォーク・ロック。特段アイリッシュ・テイストは感じさせないけど、やはりSteveのフィドルが強烈な個性を放っている。壮大なアイルランドの自然を想起させる音色は、ほっと一息つかせてくれる。

10. And a Bang on the Ear
 なので、田園風景を思わせる和やかなナンバーは、ロックというジャンルの懐の深ささえ感じてしまう。UKは時々、トレンドの音の飽和状態に呼応するかのように、トラディショナルっぽい楽曲が突然チャートインしたりする。「Come On Eileen」や「Perfect」など、英国人は無性に泥臭いフィドルを求めてしまう時期があるのだ。

11. Old England
 『This is the Sea』収録、ここでは89年グラスゴーでのライブ音源を使用している。

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12. A Man Is in Love
 『Room to Roam』収録。このアルバムを最後にMikeはWaterboysを一旦解散、その流れでこのベストがリリースされたという経緯なのだけど、さらにアイリッシュ色が強くなり、楽曲自体もソロ的な色彩が濃くなってきているので、バンドを維持する必然性が見えなくなってきたのだろう。もっと違う音楽もやってみたかったんだろうし。


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