Van Morrison

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

誰が何を言おうと、「俺は俺」。 - Van Morrison 『Poetic Champions Compose』

folder 1987年リリース、17枚目のソロ・アルバム。Themを脱退して間もなくレコーディングされた『Blowin’ Your Mind』が1967年なので、20年間ほぼ一定のリリース・ペースを守っていることになる。それに加えて何枚かライブ・アルバムや2枚組オリジナルもリリースしているので、アイテム数は相当な量にのぼる。なので、軽い気持ちで「ちょっと集めてみようかな」と思うのは早計。とんでもない量だから。
 ちなみに、そんな大量のオフィシャルもほんの氷山の一角に過ぎず、ブートの世界に足を踏み入れたら、そりゃもう奥深い迷宮から抜け出せなく恐れがある。Grateful Deadのファン・コミュニティーによって確立されたテープ・ツリー・システムが御大のコミュニティー内でも運用されており、比較的初期の未発表音源も聴くことが容易となっている。今じゃ普通にトレント・ファイルでも出回っているので、コンプしようと思ったが最後、一生を棒に振ってしまう。
 ダメだよな、これからレビューするのにこんなこと書いてちゃ。

 以前、布袋寅泰『Guitarhythm』をレビューした際、「問答無用の音楽」と形容したことがあったけど、デビューから一貫してその「問答無用の音楽」ばっかり作り続けてきたのが、Van Morrisonである。
 日本のアーティストで例えれば、浜田省吾あたりが最も近いポジションなんじゃないかと思われる。「団塊ジュニアの演歌」とも例えられる彼の楽曲は、その長い熟成を経て余分な雑味や脂が削ぎ落とされ、バラード系は一聴して判別がつきづらい楽曲も多いけど、それを「拡大再生産」と指摘するものは少ない。彼が奏でるのは、真摯に音楽と向き合った姿勢の末、紡ぎ出されたものだ。安易に一朝一夕で仕上がる、そんなお手軽なものではない。
 80年代中葉の『J. Boy』で心を鷲づかみにされた俺世代以上からは、熱烈な支持を受ける浜省だけど、全盛期を知らない若造にとっては、堀内孝雄との区別がつかないかもしれないし、人によって「合う/合わない」や「好き/嫌い」もあるだろうけど、でもそんな瑣末な個人の嗜好を鼻で笑い飛ばしてしまうのが、浜省の音楽であり御大の音楽である。
 多分、浜省なら言わないだろうけど、「ゴチャゴチャ言わんでいいから黙って聴けやっ、嫌なら聴くな」と言い放ってしまえる豪快さこそが、御大のキャラクターである。

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 年季の入ったヴォーカリストのアルバムというのは、「圧倒的な存在感を有する歌声」と、「あくまで引き立て役としてしゃしゃり出ず、それでいてそこそこのオリジナリティを付与した堅実なバッキング」という構図が一般的となっている。なので、それほど興味のない人にとっては楽曲の優劣がつけづらい。要するに、どれを聴いても同じに聴こえてしまうのだ。
 浜省のバラード系同様、御大もまたビギナーにとってはハードルの高いアーティストである。「一貫した音楽性」ということはイコール「初期の段階である程度、基本フォーマットが完成されている」のと同義である。時を経るにつれて熟成加減は深まるけど、その作品群は時系列とは無関係の座標にある。繰り返すけど、どれを聴いても同じに聴こえてしまうのだ。
 微妙な声の若さやアレンジの素っ気なさなんかで、「これは60年代後期のアルバムかな?」というのは判別できるけど、これがリマスターされたものになってしまうと、どっちが1976年モノでどっちが2015年モノなのか、ちょっとわからなくなってしまう。
 たまにちょっと寄り道して、アイリッシュ・トラッドやジャズ、カントリーに手をつけたりはしてるけど、基本、ブレの少ない人である。ていうか、「俺が歌えば全部Van Morrison なんだから文句ないだろ?」という無言のプレッシャーが、音から滲み出ている。その辺の圧は浜省よりかなり強い。

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 そういった人なので、どの時代から入ったとしてもクオリティは高く、一度馴染んでしまえば居心地の良い環境は保証されている。ただ、いくら同じような作風といっても前述の深化とリンクして、時代を追うごとに微妙に変化しており、当然好みも分かれてくる。
 一般的に間口の広さとして、ロック名盤ガイドなんかで紹介されることの多い『Moon dance』〜『Astral Weeks』を入り口とする場合が多い。実際、俺もワーナーの廉価版CDで入ったクチだし。
 その2枚を入手したのは確か20歳頃で、当時はロックの歴史をなぞるように、名盤ガイドに載ってるアルバムを片っぱしから聴き漁っていた。最初は、上位にランクインしているBeatlesやStones、Dylanなどの手堅いところを攻めてゆくのだけど、聴き進めるにつれて、あまり興味のないモノが残るようになる。そのうちリストを埋めることが目的化してゆき、一応下位打線のアイテムも聴くことは聴くのだけれど、そう何回もプレイヤーに入れることもなく、早々に売っ払ってしまう。

 当時の俺にとっての御大が、その中古レコ屋行き物件に当たっていた。その渋く地味な作風を受け入れる準備が、俺にはまだ整っていなかったのだ。結局のところ、自ら望んだモノでないと身につかない、という教訓は得た。汎用性の高い教訓だよな。
 「『Moonsance』周辺の70年代の作品群を抜きにして、Van Morrison を語ることはできない」という空気が、昔から日本の権威的メディア周辺では蔓延している。Stonesだったら『Let it Bleed』、Pink Floydなら『Dark Side of the Moon』が最高傑作だ、という論調。前評判や絶賛のレビューによって期待値が上がり、で実際に聴いてみると…、で、速攻中古レコ屋行き。そういった「何か思ってたのと違う」名盤をかき分けて、ずっと底の方で打ち捨てられた「真の名盤」たちよ。

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 Van Morrisonの場合だと、初期の泥くさいブルー・アイド・ソウル路線と併せて、本線から大きく逸脱したフォークロア作品『Irish Heartbeat』なんかも、評論家筋に結構持ち上げられている。民俗学的には貴重な記録かもしれないけど、正直、聴いてて面白いものではない。どうせやるのなら、大滝詠一『Let’s Ondo Again』ぐらいまでパロディーに噛み砕いてくれればまだ聴けるけど、あまりにアカデミック過ぎるそのスタンスは、ちょっと肩が凝ってしまう。

 そんな彼の音楽をきちんと聴けるようになったのは、ほんとここ数年、60〜70年代のソウル/ファンクを通過した耳を持ってからである。評論家の見当違いな絶賛に惑わされず、能動的にジャンルの開拓を行なうことによって、やっと自分のフィーリングとシンクロしたVan Morrisonサウンドを見つけられた、といった経緯である。単純に、年を取ったおかげもあるんだけどね。
 最大公約数的に、70年代派がファンの多勢を占めるのは事実だけど、それでも80年代以降の洗練されたAOR的サウンドを好むユーザーも多いのも、また事実である。俺がよく聴いて入るのも、ちょうどそこら辺だし。
 特別なギミックや小技もなく、単純に良い曲を素直に、感情の赴くまま歌い上げるだけ。
 たったそれだけなのに、お腹いっぱいになるくらいのクオリティが保証されている。あまりに安心できる仕上がりなので、良い意味で高機能なムード・ミュージックとしても活用できるのが、80年代Van Morrisonの大きな特徴である。

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 そういったわけで、この『Poetic Champions Compose』も品質保証付きのクオリティである。いつも通りなので特別な新機軸はないのだけれど、ちょっと御大、この時はジャズをやってみたかったのか、自らサックスを吹きまくったインストを3曲も収録している。アルバム構成上、ほんとは大して必要ないパートであり、無理やりねじ込んだ感もあるのだけど、でも案外サマになってるのはキャリアの為せる技。
 何かに似てるかと思ったらアレだ、部下の結婚披露宴の余興で自ら立候補して楽器演奏してしまう上司。やらせてみたら案外うまくて注目を集めてしまい、ドヤ顔で席に戻って酒を煽る中年男。いつも上から目線だけど、でも何だか憎めないんだよな。


Poetic Champions Compose
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1. Spanish Steps
 
2. The Mystery
 御大自身によるサックスを大々的にフィーチャーしたインストの後に広がるのは、雄大なアイルランドの地を思わせる、スケール感のある力強いバラード。広々とした農作地帯を思わせる奥行きは、ストリングスの音色さえフィドルのような響きに変えてしまう。

3. Queen of the Slipstream
 その肥沃たる大地をクローズアップしたかのような、古き良き19世紀の情景を振り返るような、懐かしささえ感じさせるバラード。考えてみりゃバラードばっかりだよな、この時期って。さらにカントリー志向が深まって、御大自ら弾くギターの音色も時々バンジョーっぽく響く。一応、シングル・カットはされているらしいけど、チャートインせず。



4. I Forgot That Love Existed
 ノスタルジックなムードから趣を変えて、もう少しリズムの効いたミドル・バラード。ヴィンテージ・ソウルからインスパイアされたメロディもフックが効いており、俺的には好きな世界。
 ほんと色づけ程度にシンセが使われているのだけど、この程良さ加減が絶妙である。同時代のアーティスト、例えば名前を出しちゃ悪いけどDylanのこの時期の作品なんて、変に時代に色目を使ってしまったのが仇で自爆しちゃってるし。
 ボトムがしっかりしてれば、無理にトレンドを追うことはないのに、つい目先に食いついて黒歴史化してしまったのが、多くのシンガー・ソングライター系のアーティストである。

5. Sometimes I Feel Like a Motherless Child
 こちらもメロディにメリハリがついたバラードで、ヴォーカル・スタイルはもう少しソウル寄り。基本のドラム・ビートに加えてアンビエント・テクノっぽいシーケンスが裏でなっているのだけど、こういった使い方ってあまり注目されてないけど、生音とのミックス具合はもっと注目されても良いと思う。スローなのに程よい疾走感がうまく表現されている。

6. Celtic Excavation

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7. Someone Like You
 B面冒頭のインスト、ていうか御大の独演会をプロローグとして、多分、一般リスナーも含めて最も良く聴かれている正統派バラード。最近になって、どこかで聴いたことがあると思ってたら、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』でフィーチャーされていたのだった。そりゃ知名度あるよな。
 もう少し調べてみるとこの曲、映画挿入歌としてかなり優秀らしく、他にも6本の映画で何かしらのシーンで採用されている。クセがなくて、それでいてセンチメンタルで熱いバラードなので、ビギナーにも入りやすいんじゃないかと思われる。



8. Alan Watts Blues
 女性ヴォーカルが入ると、やっぱりゴスペルになるのは定番。タイトルにブルースって入るくらいだから、サウンドはほんと黒い。手クセの多いギターも粗い響きのドラムも、すべてがアメリカン。知らされずに聴いてると、ほんと黒人のヴォーカルと勘違いしてしまう。

9. Give Me My Rapture
 ニューオーリンズ風味は再び続く。アーシーなオルガンと強いリズムが曲をリードする。しかしこういった曲を聴いてると、ほんと演歌と同じ土着性の強さを感じさせる。

10. Did Ye Get Healed? 
 これまでの曲より洗練された、サックス・ソロからリードするジャズ・タッチのミドル・チューン。心もちヴォーカルの圧も抑え、オールディーズ・スタイルの女性ヴォーカルとのコンビネーションがレトロ・フューチャー。間奏のソロも軽やかだし、聴いてるとついついスウィングしてしまう。
 いい年だけど、ちょっぴりファニーで一皮むけた大人の茶目っ気を見せる御大。こういった大人に憧れてしまう。ていうかリリース当時の御大は42歳。今の俺よりだいぶ下じゃないの。まずいな。

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11. Allow Me
 ベッタベタなカクテル・ジャズだけど、まぁムード・ミュージックとして捉えれば充分な仕上がり。最後くらい、好きにやったっていいじゃん。あ、でも全部好き放題か。


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何をやっても俺はオレ - Van Morrison 『Avalon Sunset』

folder 唐突だけど、俺の周りにVan Morrisonのファンはいない。ていうか、彼のファンがどれだけいるのか、ちょっと想像つかない。
 名前は一応知られている。欧米、特に母国アイルランドでは有無を言わせぬ国民的ミュージシャンとして名が通っている。キャリアと言い実績と言い、Dylanに匹敵するほどのポジションの人のはずなのだけど、日本では恐ろしく知名度が低い。ちょっと洋楽をかじってる人でやっと、「Gloria」の人程度の認識しかないんじゃないかと思われる。
 60年代から活動している中ではもう数少なくなった、来日していないアーティストの一人である。俺が知る限り、長いこと機会を逸していたWhoも単独公演を行なってしまったので、多分最後の一人になっちゃったはずである。
 彼らもVan同様、その全盛期に来日公演を行なわなかったため、日本での人気がイマイチだった、とされている。確かにWhoの場合、型破りとも言えるライブでのパフォーマンスを生で披露できなかったことが、日本のメディア媒体を奮起させられなかった要因だったと思われるけど、Vanについてはちょっと違っている。
 Vanの場合、昔も今も頑固ジジイ的な風貌は変わらないけど、70年代は荒削りなブルー・アイド・ソウル・スタイルが持ち味だった。近年は、年齢を重ねることによって得た熟成感と気品とがまろやかな風味を醸し出しているけど、当時はもっと強めのヴォーカル・スタイルだった。

 これもまたVan以外にも当てはまるのだけど、ここ日本においては強いシャウトのヴォーカル・スタイルの白人シンガーは、どうにもパッとしない傾向にある。欧米ではいまだ絶大なライブ動員を誇るNeil DiamondもTom Jonesも、懐メロ・シンガー的な扱いである。彼らのように押しの強いアーティストは、どうにも敬遠されている。もっと繊細なタッチのGilbert O'Sullivanがウケるお国柄だし。

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 そうは言っても、Dylanと並ぶほどのキャリアを有しているのと、来日していない分、実際のライブを見た者が数少ないため、ある意味神格化されている部分もある。「何かよく知らないけど、とにかくスゴイ人」というイメージが強い。UMAみたいだな、これじゃ。
 通好みの印象が強いため、必然的にメイン層となるのが評論家やミュージシャンの類が多く、よって国内盤でのリリースが途絶えずにいる。損益分岐点だけを考えれば確実に赤字なのだろうけど、文化事業的な側面で見れば、こういった人のリリースは半ば業界の使命感で行なわれており、多分、それは今後も変わらないだろう。あんまり売れることはないから、どうしても少量ロットでしかプレスされないけど。
 バックオーダーがかかるほどバカ売れするわけではないので、近年のアルバムを国内盤で入手することは難しくなっている。たまに再発されたとしても、期間限定の廉価版か紙ジャケ仕様だし、しかもリリースされるのは初期の名盤と称されるものばかり。まだまだ現役バリバリなのにね。

 で、その初期の『Moondance』や『Astral Weeks』が代表作とされている。ものすごく乱暴な見方だけど、ヒット曲という視点で見れば、Them時代の「Gloria」だけの一発屋である。軽く口ずさめるタイプの楽曲を歌う人ではない。でも、コアなファンが多いため、少量ではあるけれど安定したセールスを維持している。
 そこそこの売り上げを見込めるアーティストというのは、レーベルとしては手放しがたい存在である。特に彼クラスのベテランともなると、それほど大々的にプロモーション展開しなくとも、大コケすることもないので、コスパが良い。だからリリース契約も途絶えないんだな。
 同じスタンスのアーティストとして有名なのが、Loo Reedがいる。もうニュー・アイテムが届くこともないけど、彼もまた浮き沈みはあれど、業界からフェードアウトすることなく、コンスタントなリリースを続けていた。日本で該当するのは矢野顕子あたりかな。

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 ソロ・デビューから換算してももうすぐ50年、何しろキャリアの長い人なので、純然たるオリジナル・アルバムだけでも30枚ほどになる。ここにライブや、他アーティストとのコラボ & デュエット・アルバムが加わるので、そりゃもうとんでもない数になる。
 一般的に多作のアーティストと言えばPrinceやZappaを連想してしまうけど、彼らのようにライブ音源をベースに編集したり、一気呵成に2枚組・3枚組をハイペースでリリースするのではなく、Vanの場合、極めてオーソドックスなリリース・スタイルを堅持している。
 熟練のバンド・メンバーを従えて、じっくり時間をかけて楽曲を熟成、ほぼ1年に1度、年代物のスコッチの如くまろやかで味わい深くなった楽曲をアルバムにまとめている。そんな作業をマイペースで半世紀続けている。21世紀に入ってからは、さすがにちょっとお年を召したせいもあるのか、カバーやコラボなどの企画モノが多くなってきたけれど、年1回、何らかのニュー・アイテムをリリースし続けている。こういった所は頑固に遵守するんだろうな、この手の人って

 60年代から活動しているベテランによくありがちだけど、ちょっと興味を持ったはいいけど、その膨大なバック・カタログを前にすると途方に暮れてしまい、お手軽なベスト・アルバムで済ませてしまうことも多々ある。俺だって、例えば急にLou Reedに興味を持ったとして、一体どこから手を付けていいのかわからないし。なので、キャリアが長いアーティストほど、ビギナーにとっては近寄りがたい存在になっていることも事実。
 特にVanの場合、基本は「古いソウルやジャズからインスパイアされたシンガー・ソングライター」であり、これはデビュー当時から揺るぎないスタイルとなっている。時代によって多少のアップデートはあれど、当たりはずれの少ない作風である。どのアマゾン・レビューを見ても、大抵の作品は「傑作」のひとことで済まされてしまっている場合が多い。いや実際、どの作品もクオリティは高いのだけど、あまりに安定しているため、ビギナーにとってはどれも同じように聴こえてしまう。実際、俺もそうだった。
 急にダンサブルになったり、目先のトレンドに泳がされることもなく、これまで影響を受けてきた音楽へのリスペクト、自ら創り上げてきた楽曲を深化させてゆくのが、この人の芸風でもある。要するにツッコミどころの少ない人なのだ。

Van Morrison - Avalon Sunset-back

 Vanの代表作は何なのか、と問われれば、多くの場合、『Moondance』か『Astral Weeks』という答えが返ってくる。ただ、今も現役バリバリでライブも精力的に行なっており、アルバムのアイディアも枯渇してなさそうなので、そんな半世紀も前のアルバムの評価に捉われているのは、何よりも本人がかわいそうである。名盤ガイドの定番となっているこの2作以外にも、味わい深いアルバムはいくつもあるのに。

 なので、ほんと俺の独断になるけど、「俺思うところのVanの変遷」を区分けしてみた。全部が全部、細かく聴いてるわけではないので、節目のあたりは多少のズレはあるだろうけど、まぁまぁ間違ってないんじゃないかと思う。
 年季の入ったファンからは異論もあるかもしれないけど、あくまで個人の視点ということで。

(60年代末~70年代まで)
 ほんとのごく初期は、ソウルフルなヴォーカルのフォーク歌手といった風情。この辺はVan原理主義者からの支持が厚い。時代を経るにつれ、ソウル特有の泥臭さが薄れ、サウンドもAOR寄りにマイルドになってゆく。
(80年代初期~中期)
 ジャケットに宇宙をモチーフとした抽象的なイラストが使われるなど、どこかスピリチュアルなムードが蔓延している。荘厳としたエコーの深いサウンドは、荘厳で宗教的な趣さえ感じさせる。ライブでのパフォーマンスは相変わらずのガナリ声が健在だったけど、スタジオ音源でのヴォーカルは、深い霧の奥深くで鳴っている。
 ファンの間ではニューエイジ期とも称されるこの時期、地元アイルランドの重鎮Chieftainsとのコラボによる原点回帰など、何かと迷いが見られる。評価としても、この時期のアルバムは過渡期的な扱いが多い。
 俺個人としては純粋にサウンドとして好きだけどね。
(80年代末~90年代)
 そんな試行錯誤を経てふっ切れたのか、いきなりヴォーカルが力強くなる。「悩んでたってしょうがねぇ、俺はやりたい事をやるんだ」とでも言いたげに、ホーン・セクションもメインを張るようになり、ヴォーカルは再びソウルフルへの回帰。かつてのリスペクトから由来する模倣ではなく、ここから聴かれるVanのサウンドは完全にオリジナルとなる。
 さらに力技だけではなく、これまでモッサリ感のあったバラードは、熟練から来る深みと表現力によって、説得力が増した。セールス的に低め安定化していたVanがアルバム・チャートで上位に入るようになったのもこの頃。ただ年期の長いベテランではなく、実力に伴った実績が追いついてきた。
(21世紀)
 円熟を通り越して、もはや安定期。何をやってもVan Morrison。だって俺、これしかできないんだもん。さすがに年1のオリジナルはキツくなってきたのか、デュエットやカントリー・アルバムなど、企画モノが目立つようになる。でもやっぱりVan Morrison。彼が歌えばそれでオッケーなのだ。
 未発表曲を追加したリマスター盤や、『Moondance』リリース40周年記念ライブなど、回顧モードも並行中。
 -すごくザックリだけど、こんな感じ。自分で書いていながら、「何をやってもVan Morrison」というのは的を射ていると自画自賛してしまう。

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 で、今回取り上げるのが、1989年にリリースされた19作目のオリジナル『Avalon Sunset』。UK最高13位と久し振りに大復活した、と喧伝された作品である。ヨーロッパ界隈でもオランダ8位、スウェーデン10位、ノルウェー11位にチャートインしている。この時期の音楽シーンといえば、Soul II Soulから始まるグラウンド・ビートの勃興、今も連綿と続くダンス系が席巻していた頃で、中途半端なシンガー・ソングライターにとっては不遇の時代でもある。
 結局、どの時代でも地道にキャリアを積み上げてきた者は、どうにか生き残ってしまうものだということを、彼を見てると思ってしまう。甘口の心情吐露ばかりのラブソングより、豪快なブルー・アイド・ソウルの方が幅広い支持を得るのは、ポッと出の新人とは違う所以でもある。今後もバカ売れすることはないだろうけど、秋の夜長、家族が寝静まったあと、お気に入りのお酒と音楽、そういったシチュエーションに合う音である。



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1. Whenever God Shines His Light
 俺の先入観として、イギリスの国民的歌手Cliff Richardとは、日本で言えば加山雄三的ポジションだと勝手に思っていたのだけど、多分間違ってないと思う。何しろBeatles以前から活動している英国芸能界の重鎮たる人物である。
 そんな大物を引っ張りだしたのが、同じくアイルランドの大物とされるVan。ただCliffほどの大衆性はなく、エンタメ的には圧倒的にCliffが勝っており、一見接点はなさそうだけど、互いにそれなりに敬意は表していたんじゃないかと思われる。
 ボトムの低い音を中心に構成されていた前作までと打って変わって、ピアノの響きも軽やか。でもこれ、デュエット向けのナンバーじゃないよね。いい曲ではあるけれど。

2. Contacting My Angel
 アイルランド民謡テイストの入った、重厚ながら軽やかさも併せ持ったバラード。やっぱりこういうのって、若気の至りで眉間に皺を寄せてシリアスに歌っても、どこか薄っぺらさ・無理してる感が鼻についてしまう。ある程度の経験と年期を経て、小細工なしのストレートな表現となると、こういった楽曲が自然と歌えるようになるのだ。
 そう、バックのサウンド自体は重いのだけど、Vanのヴォーカルがイイ感じで軽やかに響いている。

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3. I'd Love to Write Another Song
 ここでGeorgie Fameによるハモンドが登場。彼が入るだけで一気にグルーヴ感が増すのは、持って生まれたもの。本格的なデルタ・ブルースは泥臭さを抑えてモダンな風味を醸し出している。現代にも通用するよう、サウンドはきちんとアップデートされている。

4. Have I Told You Lately
 カクテル・ピアノをそっと覆いつくす幽玄なストリングス。直球のバラードはどこまでも誠実で、メロディも正攻法、堂々とした「泣き」を演出している。後にRod Stewartにカバーされ、US32位にチャートインするほどのヒットになり、そこからこのアルバム再評価のきっかけにもなった。
 しかしRod、ほんとカバー曲のセンスが良い。正直、自作曲はそんなに好きじゃないのだけど、こういった地味だけど良質の楽曲を探し出し、きちんと自分の歌として消化できてしまうのは、稀有な才能の賜物である。オリジナルを損なわず、オマージュとオリジナリティの絶妙なバランスが絶品。あ、もちろんVanもいいんだけど。



5. Coney Island
 「ジェット・ストリーム」的バックグラウンドに乗せて、終始ポエトリー・リーディングを演じるVan。メロディが浮かばなかったのか、または言葉の力が強すぎて、中途半端なメロディを載せることを拒んだのか。
 ブリッジ的な小品なので、そこまで深読みする意味はない。

6. I'm Tired Joey Boy
 メロディというより節回し。抑揚はあんまりない。Dylanのカバーみたいな曲。ストリングスはムード満載なので、ヴォーカルもうちょっと気張ってもよかったんじゃね?と余計なおせっかいを焼きたくなってしまう。

7. When Will I Ever Learn to Live in God
 俺的には、このアルバムの中でのベスト・トラック。こういった抑えめのロッカバラードを歌わせたら、なかなか右に出る者はいないんじゃないかと思われる。
 ソウル・シンガーとタメを張るため、必要以上に暑苦しかった70年代、スピリチュアルなサウンドゆえ、迷いと甘さが混在していた80年代。猪突猛進と右往左往を繰り返した末、行き着いたのがここ。甘さもエモーションも、そして迷いさえも取り込んで表現できてしまう、90年代Vanのキャリアのスタートを飾る上で重要な位置にある楽曲。



8. Orangefield
 前曲からの流れはそのままに、さらに拳を強く握りしめたマイナー調のロッカバラード。時に臭いと思われていたストリングスも、これでもかというほどベタに使い、しかもそれが結果的にマッチングしている。
 鈴木雅之にカバーしてもらったら、結構ハマると思うのだけど、最近あの人、歌謡曲カバーばっかだしな。俺が勝手に妄想していたナイアガラ・ナンバーでまとめたカバー・アルバムも出そうにないし。

9. Daring Night
 通常モードのVanながら、ちょっぴりアメリカン・ロックのテイストも混入したロッカバラード。ストリングスがあまり入らない分、テンポアップしているのが特徴。これでハイ・テンポの方である。この人にとっては。

10. These Are the Days
 しかしB面は名曲ぞろいだな、このアルバム。久しぶりに通して聴いてみて初めて知った。正直、ちゃんときいたのはもう20年くらい前だったし。
 ドラムが大きくミックスされているのだけど、テンポはそのまんま、Vanも相変わらずの唯我独尊振り。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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