Todd Rundgren

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

「ひとりでできるもんっ」と開き直る、アメリカ・ポップ馬鹿 - Todd Rundgren 『Something / Anything』

folder 1972年リリース、Toddソロ3枚目にして2枚組のアルバム。前作『Ballad of』から半年ちょっとのインターバルは、全体的にリリース・スパンの短かったこの時期としても群を抜いている。同時期に創作力のピークを迎えていたアーティストとして、Frank Zappaも膨大な作品を残してるけど、彼の場合はライブ音源の編集モノが多いため、純粋なスタジオ・レコーディングの作品としては、Toddの方が実数は多い。と言っても、こういうのって別に勝ち負けじゃないけどね。
 雑誌「ローリング・ストーン」の企画「500グレイテスト・アルバム・オブ・オール・タイム」において173位にランクインしており、Toddの代表作としてこれを挙げるファンも多い。2枚組にもかかわらず、ビルボード最高29位を記録、最終的にゴールド・ディスクも獲得しており、Toddの人気はここで火が点いたと言ってもよい。当時の日本では、さすがにそこまでは売れなかったけど、一応1枚に編集した国内盤はリリースされており、そこで使用されたド派手メイクのToddのポートレートを使用したジャケットは、後の再評価時に話題になった。
 文句なしの代表作にもかかわらず、これまで取り上げてこなかったのは、正直長いから。何年かに一度引っ張り出して聴いてはほったらかし、また思い出したように引っ張り出す、といったループを繰り返して30年、もう長い付き合いなので思い入れは強いのだけど、日常的に聴くにはちょっと濃すぎる。
 なので、最近ではほとんど聴き返してなく、引っ張り出すのがめんどくさかったのが真相。でもやるよ、今回は。

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 もともとはBeatlesのフォロワー的な立場のビート・グループNazzでデビューしたTodd、当初は真っ当な4人グループとしてバランスが取れていたのだけど、60年代末というサイケデリック勃興の時代に、マージー・ビートのコピーが売れるはずもなく、セールスの苦戦に伴ってメンバーも続々脱退、末期はほぼToddのワンマン・バンドに変容してしまった末の解散、スタジオ・エンジニアの裏方仕事を経てソロ・デビュー、3人組バンドRuntを結成して2枚のアルバムを立て続けにリリースする。ここまでが、これまでのあらすじ。
 この時期のToddの立ち位置は、端的に言ってしまえば、「フォーク風味の薄いシンガー・ソングライター」といった感じである。フォークでは大きなウェイトを占める「メッセージ性の強い歌詞」やら「韻を踏んだ言葉遊び」なんかとは、ほぼ無縁である。ていうか隠喩を含んだ言葉などには興味がなく、お決まりのフレーズをノリ一発でシャウトするイメージの方が強い。言葉の力が強くなると、自然、コード進行はオーソドックスになり、メロディもシンプルなものになりがちだけど、思いついたメロディを無理やりコードにあてはめるため、まぁ不安定に揺れることといったら。
 ついでに、同時期のアメリカのシンガ・ーソングライター・シーンについて調べてみると、『Tapestry』がバカ売れしたCarole Kingを筆頭に、同じく『Hervest』がバカ売れしたNeil Young、ソロになって『There Goes Rhymin' Simon』がバカ売れしたPaul Simonが続く。『For the Roses』がそこそこ売れた、マイペースなJoni Mitchell。この頃から、彼女はちょっと異端だった。Jackson Browneのデビューもこの年だったんだな。
 今も語り継がれる名盤がボコボコ出ていたのが、この70年代前半という時代である。Eaglesもこの年だしね。

 当時彼が所属していたレーベル「ベアズヴィル」は、かつてDylanのマネージャーだったAlbert Grossmanによって、1970年に設立されている。当時はほとんど売れなかったけど、後に70年代シンガー・ソングライターの再評価ブームによって発掘されることになるJesse WinchesterやBobby Charlesが在籍していたことで、ごくごく一部では知られている。地味だけど、良質なソングライターにリリースの機会を与える、商業性を無理に押しつけないレーベル、という印象が強い。とは言っても、ある程度の収益確保を見込んでなのか、すでにブルース・バンドで実績のあったPaul Butterfieldや、UKハード・ブギ・バンドのFoghatも所属していたりして、運営のバランスは一応考えていたようである。
 で、そんな中でToddのスタンスはと言えば、アーティストとしてはもちろんだけど、そのベアズヴィル・スタジオのハウス・エンジニアも担っており、特にこの時期はスタジオに籠ってる率が高い。そういった裏方作業を請け負う見返りとして、スケジュールが空いている時は機材を自由に使い、理論そっちのけOJTで得たスキルを自分の作品にフィードバックさせていたと思われる。

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 普通、独り宅録路線に走ってしまうと、どうしても視野が狭くなりがちで、あまり一般ウケしない冗長な作品ができてしまいがちなのだけど、Toddの場合、このハウス・エンジニアとしての経験がうまく作用している。第三者的なプロデューサー視点が養われたことによって、独りよがりなマニアック路線に陥ってしまいがちなところが、うまく軌道修正されている。もともとの資質にバランス感覚が働いてできあがったのが、「ちょっとヘンテコだけど美メロ」という、Toddの基本フォーマットがここで確立されている。
 今になって冷静な視点で聴いてみると、「バンドでやった方がもうちょっと楽にできたんじゃね?」と思ってしまう部分もある。作業効率を考えるとそうなのだけど、でも、そういったことではないのだ。
 -だって、独りでどこまでできるかやってみたかったんだよっ
 彼にとって、サウンドのクオリティとかアンサンブルとか、そんなのは問題ではなかった。「独りヴァーチャル・バンド・サウンド」をどこまで追求できるか。そういった思い付きの産物が、この2枚組大作に膨れ上がったのだ。
 なので、多少リズムがモタつこうがピッチがズレようとも、そこはツッコミどころではない。
 「ズレてるよ、だからナニ?」
 重箱の隅を突っつき回るマニアたちの前で、その重箱をひっくり返し、豪快に笑い飛ばすToddの顔が思い浮かぶ。

 70年代のToddのアルバムどれにも言えることだけど、とにかくアイディアの量がハンパない。弱小レーベルのベアズヴィルでは、リリース・アイテムもそれほど多くはないので、ほぼスタジオに張り付きだったTodd、時間だけはたっぷりある。思いついたことは即実行に移せる環境にあるので、ストックは膨大になる。スタジオ・ワーク好きにとっては、夢の空間である。
 いくらプロデューサー視点を持っていたとはいえ、セルフ・プロデュースともなると歯止めをかける者がいないため、どうしてもアラは出てくるし、多少なりとも綻びも出てしまう。Toddの場合、それが顕著にあらわれるのがアイディアのまとめ方。このアルバムにも言えることだけど、とにかく収録時間が長い。
 特にベアズヴィル期のアルバムでは、とにかく思いついたことを片っぱしからレコーディングしているため、レコード片面に無理やり30分以上詰め込んだ『Initiation』に代表されるように、音質が悪いものが多い。CD時代に入ってからは、リマスターされたり高音質素材でリリースされたりして、音質向上へのたゆまない努力の跡が窺えるけど、そもそもの録音レベルがアバウトなので、正直見違えるほどの効果はない。大体が、ピーク・レベルがどうのダイナミック・レンジがこうの、といった些事にこだわる人ではない。エンジニア経験者のクセして。
 「エフェクターの種類?そんなの後でいいから、まず演奏しようよ。これ以上重ねると音が歪む?ナチュラルにコンプかかっていいじゃん」
 結果オーライよろしく、無邪気な笑みを浮かべるToddの面長顔が、つい思い浮かんでしまう。

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 「習うより慣れろ」的な方針のもと、とにかく思いついたことは全部やってみて、まぁ多少のズレや音質の悪さは見なかったことに、取り敢えず全曲完パケしてみると、どれも気に入っちゃったし、全部繋げてみると流れも良かったんで、全部入れちまえ」という経緯で仕上がったのが、この『Something / Anything』。
 普通の考えなら、ここからシングル・アルバムに仕上げるため、コンセプトを絞り込んでスッキリした流れにまとめるのだけど、それが絞りきれないのが、この人の長所であり短所でもある。
 多分、当初はプロデューサー的観点から1枚に収めようとは思ったのだろうけど、作業が進んでいくうち、ミュージシャンとしてのエゴが勝ってしまったのだろう。創作意欲のピークに達したアーティストに、歯止めをかけるのは容易でない。ましてやプロデューサーは自分自身だし。
 これも製作途中で気づいたのだろうけど、2枚組でリリース決定したはいいけど、曲が足りないのに気づく。どうしたって2枚分の曲数には足りない。かといって、今から新たにレコーディングするにも時間が足りない。今さら営業に、「やっぱ1枚にするわ」と言うこともできない。
 どうする?
 どうにか2枚組に尺を合わせるため、急遽旧知の仲間を呼んでスタジオ・セッションを敢行、完全セルフ・レコーディングのコンセプトもグダグダになっちゃったのは、この人らしい微笑ましいエピソード。
 それでも、何となく許せちゃうのは、人柄である。


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1. I Saw The Light
 第一弾シングルとして、USポップ・チャートで16位、UKでも36位のスマッシュ・ヒットを記録、カナダでも15位と、滑り出しとしては上々のリードとなった、Toddの人気投票では確実に3本の指に入る名曲。この曲に限らず、隙は多い。ドラムのアタックは安定しないし、時々挟み込まれるギター・ソロの響きもどこか不安定。しっかりリハーサルを行なってリテイクを繰り返せば、もっと見栄えの良いサウンドになったかもしれない。
 でも、そうじゃないんだよな。このヨレ具合もまた、楽曲にほど良いエッセンスを添加している。



2. It Wouldn't Have Made Any Difference
 『Runt』的なシンガー・ソングライター・タッチのバラードは、シングル第2弾としてリリースされたけど、US最高93位という、ちょっと残念な成績。当時のシンガー・ソングライター・ブームの渦中であったはずなのに、このチャート・アクションはちょっと残念。こっちの方が素直にメロウなので好き、という人も多いのにね。



3. Wolfman Jack
 で、バラードばかりだと飽きてしまうのか、ここでショーアップされたロックンロール・ナンバー。今の若い人だとピンと来ないかもしれないけど、タイトルはまんま、70年代を駆け抜けた伝説のDJへのリスペクト。小林克也が範としたマシンガン・トークは、もちろんアメリカでもカリスマ的な人気を誇り、全世界のラジオ局へ配信された。
 ここではTodd、ひとつの曲をラジオ・ショーに見立て、ノリノリのDJスタイルでプレイしている。考えてみりゃこれ、独りでやってるんだよな。ゴスペル要素も入った多重コーラスはもちろんのこと、そのテンションの高さはハンパない。

4. Cold Morning Light
 Toddの名曲として、もう1.では当たり前すぎるので、近年ではこの曲への再評価が著しい。イントロのクリアなアコギ・ソロ、中盤でのテンポ・チェンジなど、技巧を凝らした楽曲はレベルが高かったのだけど、これまでは2枚組というボリュームの中で埋もれがちだった。ミックス・テープやレアグルーヴの流れでは人気が高い。

5. It Takes Two To Tango [This Is For The Girls]
 イントロが『A Wizard, A True Star』収録のインスト・ナンバー「Tic Tic Tic, It Wears off」とリンクしており、Toddファンにはなじみの深い曲。タイトルのわりに全然タンゴっぽくないのだけど、手クセで作ったようなメロディは中毒性がある。

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6. Sweeter Memories
 骨格はシンプルなバラードなのだけど、なぜかドラムを大きくミックスしているのと、やたらと挿入されるギターのオブリガードが事態をちょっと複雑にしている。どれも思い付きの産物なのだろうけど、クセがある分だけつい引き込まれてしまう魅力がある。市井のミュージシャンが同じようなことをやると、あまりに漫然としすぎて退屈してしまうのだけど、そこはさすが一筋縄では行かない男、屈折した流れを覗かせながら、結局最後まで聴かせてしまう。

7. Intro
 レコードではB面。副題「The Cerebral Side」のご挨拶。

8. Breathless 
 で、始まると思ったらインスト。この辺は次作『A Wizard, A True Star』のA面のモチーフになったんじゃないかと思われる。ここで培われた世界観に変態性を加えて組曲にしたのが、あの壮大な組曲に成長する。

9. The Night The Carousel Burned Down
 このセクションを「知性」と名付けたTodd。A面サイド「A Bouquet of Ear-catching Melodies」が比較的キャッチーなポップ・チューンが並んでいたのに対し、ここでは顔ティックな小品が並んでいる。1曲単体で完結してるのではなく、すべてを結集させて一大シンフォニーを形成している。次作ほどまでは徹底していないので、ここで試行錯誤しているようである。まぁ4面もあるのだから、1面くらいはこういったのもあってもいいや、と思っていたのかもしれない。

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10. Saving Grace
 おどろおどろしいモノローグが不穏さを煽るけど、実際に曲が始まると、普通にポップ・ソウルの影響が素直にフィードバックされたナンバー。ギターのオブリガードが心地よく響き、今の時代に合ったアレンジにすると、ドライブ・ミュージックとしても充分機能するメロディ。

11. Marlene
 たどたどしいマリンバが印象的なポップ・バラード。中盤に変なブレイクを入れるのは、この人の特徴。一筋縄なポップ・ソングにはしないんだな。

12. Song Of The Viking
 音色からして少しバロック調のアレンジに挑戦している。当時のシンガー・ソングライターでこんなアレンジするのって、Paul Simonくらいだろうか。しかも題材がバイキング。なんだそりゃ。ロックンロール誕生以前のポップスなのかな?こういうのって。

13. I Went To The Mirror
 最初は真っ当なバラードなのだけど、次第にミステリアスなムードが全体を支配し、ゴシック調のダウナーなムードがさらに混乱を増し、なぜか終盤をブルース・セッションとなって幕引き。変な曲だよな、いつも混乱させられてしまう。

14. Black Maria
 ここからがCD・レコードとも2枚目。副題が「The Kid Gets Heavy」。タイトル通り、一発目は代表曲のひとつであるへヴィなロック・チューン。多分、ギターを弾きまくりたくて書いたと思われるナンバー。サウンド的には、きっちり作り込まれたリフやドラムの響きから、ZEPの影響が色濃い。純粋にカッコいいのひとこと。ポップ馬鹿な面ばかりが取り沙汰されるけど、基本、この人はロックンローラーなのだ。声質が細いんでマッチしてないんだけどね。でも、これは特別。曲がステキ過ぎる。



15. One More Day [No Word]
 曲調としてはポップなシンガー・ソングライター・タッチの佳曲なのだけど、Toddの歌い上げっぷりが特筆もの。彼のヴォーカライズによってスケール感が増し、ドラマティックな聞かせっぷりになっている。こういうのって持って生まれたものだから、努力うんぬんではないよね。

16. Couldn't I Just Tell You
 スタジオ・セッションっぽいブレイクから始まる、こちらもアコギを効果的に使ったハード・ロック・チューン。この曲はTodd自身お気に入りらしく、今でもセットリストに入ってる率が高い。ストレートなロック・ナンバーなので、理屈抜きでファンからの人気も高い。アメリカン・ロックの良質な部分を抽出してメジャー展開したのが、このナンバー。後のJourneyら産業ロックのプロトタイプになった。

17. Torch Song
 深いエコーのかかったピアノはスペイシーな感覚を醸し出している。でもクリアな響きにならず、若干潰れ気味なのはいつものこと。こういうところで音質向上って考えないんだな。後で直すことを考えるより、先へ進んで新たな曲を作る、という考えなんだろうな。後の初期Utopiaともリンクするプログレ的フレーズの乱れうち。

18. Little Red Lights
 再びへヴィなリフが先導するハードなロック・チューン。Toddのいつもの声なのでわかりづらいけど、バック・トラックだけ取り出すと、結構な重厚具合。Black Sabbathあたりからインスパイアされたと思われるボトムの太さは、とても2.を作った人とは思えない。こういうったのをやりつつ、ポップなものもやりたいんだろうね。
 完全宅録モードは、ここで終了。レコードD面からはセッションの寄せ集め的な帳尻合わせである。

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19. Overture - My Roots: Money [That's What I Want]//Messin' With The Kid
 1曲目は、言わずと知れたモータウンの大スタンダード。2曲目も、これも有名なブルース・シンガーJunior Wellsの1960年のヒット曲、らしい。らしい、というのは2曲目は俺、あまりよく知らなかった。だって、ブルースって苦手なんだもん。
 もともとこのアルバムのためにレコーディングされたものではなく、Todd秘蔵の1966年ライブ音源を使用。なので、とにかく音質が悪い。しかも2曲目なんて音飛びしてるし。
 故意なのか曲数稼ぎの苦しまぎれだったのか。多分、両方だろう。

20. Dust In The Wind
 で、ここからがまともなスタジオ・セッション。曲の配置的に地味なポジションにあるけど、恐らくこのアルバムの中ではベスト・テイクと言っていいかもしれない。少なくとも、俺的にはそうだ。
 後にUtopiaでToddと長らく行動を共にすることになるMoogy Klingman作曲、セッションではオルガンで参加している。当時つるむ機会の多かったRick Derringer、テナー・サックスにMichael Breckerを従え、コーラスを含め総勢13人の大所帯の一発録りでレコーディングされており、当然、音圧レベルがまるで違っている。サザン・ソウルを吸収したロック・バンドのスタイルは見事にハマっており、Todd自身のテンションも違っている。こういった場所も合うんだよな、この人は。

21. Piss Aaron
 ベアズヴィル・スタジオでレコーディングされた、シンプルなコード進行からして即興セッションと思われる。こういったブルース・ロックもやってみたかったんだろうな、好き嫌いは別にして。わざと偽悪的な表情でブルース・マンを気取ってるけど、生来のお人よしが出てしまうため、どこか抜けて聴こえてしまうのは仕方ない。

22. Hello It's Me
 20.のセッションからRick Derringerが抜け、代わりにお兄ちゃんRandyとコンバート、Brecker Brothersがここで誕生、ていうかまだ結成はされてなかったんだけどね。
 もともとはNazz時代に書かれた曲で、当時はStylisticsみたいなスロー・テンポだったけど、大編成セッションを行なうにあたり、ここではアップテンポにアレンジし直されている。フ抜けたプログレみたいなNazzヴァージョンから比べると、やはりこちらの方が聴きなれてる分もあって、ずば抜けて良く聴こえてしまう。まぁNazzヴァージョンなんて誰も知らないか。
 US5位まで上昇した、当然ながら1.と並ぶToddの代表曲。あまりに定番過ぎて、ファンの間では逆に敬遠されているけど、やっぱりこの世界観・空気感はつい馴染んでしまう。70年代の平和な部分を真空パックした永遠の名曲。



23. Some Folks Is Even Whiter Than Me
 再びベアズヴィル・セッションより。Toddにしてはよっとシリアス・ヴァージョンのロッカバラード。伴奏のサックスとピアノがカッコいい。あまりにエキサイトしすぎたのか、ギター・ソロはちょっとハシリ気味。でも、それがセッションっぽくていい。

24. You Left Me Sore
 歌い出しでつい笑ってしまい、2度もやり直してしまう、ドキュメント・タッチのセッション。メロディ・ラインはこのアルバムの中でも1,2を争う秀逸さ。さすが一流どころを揃えただけあって、ベアズヴィル・セッションとはクオリティが違っている。丁寧な作りだしね。
 このセッションで1枚まるごと作ってしまえば、また歴史も変わったのかもしれないけど―、いやないな、きっと。もしやったとしても、すぐ違う方向性へ興味が向いてしまうのがこの人だし。

25. Slut
 ラストはこれまでとは違うセッション、LAへ発ったTodd、今度はかつて共にRunt2部作を制作したTony & Hunt Sales兄弟を迎え、ソリッドなロックンロール。理屈抜きのゴキゲンなロックンロールは、ギミックなしのストレートな作り。あらゆるジャンルを網羅した幅広い音楽性。お疲れさまでした。




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アメリカ代表ポップ馬鹿、はじめて普通に歌ってみる - Todd Rundgren 『Hermit of Mink Hollow』

folder 1978年発売、ソロ・デビューしてから10年弱だというのに、なんともう8枚目のアルバム。当時はUtopiaの活動も並行して行なっており、しかも小銭稼ぎ(ていうか、むしろこちらが収入源のメインだったのだけど)として、他アーティストのプロデュースも行なっていたのだから、かなりのワーカホリック振りである。

 当時、ToddはAerosmithのSteven Tylorと別れたばかりのファッション・モデルBebe Buellと結婚したばかり、一家の長として稼いでゆく必要があった。そりゃ気合いも入るだろう。
 ちなみにStevenと別れた当時、Bebeは彼の子を身籠っており、生まれたのが後のLiv Tyler。直接血は繋がっていなかったにもかかわらず、実の娘として育てたTodd、かなり懐の深い男振りである。なかなかできることではない。

 そんな青い使命感に燃えていた時期に作ったのがこのアルバムなのだけど、発売当時の邦題が『ミンク・ホロウの世捨て人』。そのまんまの直訳で、ジャケットから漂う幽玄としたムードや世界観をうまく表現したタイトルなのだけど、営業政策的に売る気があるのかといえば、ちょっと疑問。第一、新婚だったのに、どうしてこんなネガティヴなジャケットだったのか。
 日本の担当ディレクターもそうだけど、そもそもTodd自身に、「本気で売る気あるの?」と問い質したくなってしまう。まぁバンド・スタイルだった近作と違って、独りスタジオに篭って作り上げた作品なので、内省的にならざるを得ないのだろうけど。

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 当時のToddはソロ作品の合間を縫って、リーダーを務めるバンドUtopiaを率いて精力的にツアーを行なっていた頃である。
 アメリカン・ハード・プログレとパワー・ポップのハイブリッド的位置付けの『Ra』と、基本路線はそのままながら、ポップ成分の割り合いを増やした『Woops! Wrong Planet』とを、立て続けにリリースしていたのだけど、この2作のリリース間において、Utopia並びにToddは微妙な軌道修正・路線変更を強いられている。

 70年代末期という時代の趨勢として、相変わらずシーンの中心はディスコ・サウンドが大きな割り合いを占めていたのだけれど、残されたわずかなパイの中で、徐々に頭角を現わしてきたのが、JourneyやStyxに代表される産業ロック勢。バンド・アンサンブルに重点を置いた、ハード・ロック成分の強いサウンドはUtopiaにも共通するところだけど、気の遠くなるほど延々と、全米各地をくまなくツアーで回っていた彼ら、長いロードの中で、ライブでの効果的な演出、観客にウケが良かったフレーズやプレイ・スタイルを徹底的にリサーチし、その結果をレコードにフィード・バックさせた。
 その答えが、ものすごくベタなバラード曲、ギターとバスドラ、シンセが前面に出てベースがほとんど聴こえない、ボトムの薄いサウンド。それまで6分や7分は当たり前、アルバム片面まるまる使い切った組曲などは姿を消し、3分程度で収まるコンパクトな楽曲が大半となった。

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 産業ロックの楽曲が短くなった要因として最も大きいのが、アメリカにおけるラジオの影響力である。
 上記のバンドが次々とゴールドやプラチナ・ディスクを連発していたのに対し、当時のUtopiaはせいぜいTOP100にチャート・インできるかできないかで一喜一憂するレベルのバンドだった。彼らとの大きな違いは、即ちラジオでのエアプレイ頻度に直結している。
 長尺の曲が多くを占めるUtopiaの楽曲は、家でじっくり腰を据えてのアルバム鑑賞としてはピッタリだろうけど、やはりラジオ向きではない。大半のリスナーがドライブや何か作業しながら聴くラジオでは、短い時間でインパクトを与え、起承転結がはっきりしていないと、見向きもされないのだ。

 多分当初のビジョンとして、今後はバンド活動をメインとして、アンサンブル重視のライブ・バンドで幅広い音楽性とキャッチーな商業性との両立、そこからこぼれ落ちた要素をすくい上げる形で、パーソナルな作業としてのソロ活動を並行して行なってゆくはずだったのだろうけど、人間そんなにうまくはいかないものである。
 思ったほどUtopiaのセールスが伸びず、しかもバンドに集中していたため、ソロとしてのスキルも低下してゆくという体たらく。このまま行けば、どちらの活動も共倒れになってしまうことに、さすがのToddも危機感を抱く。何しろ自宅では乳飲み子、未来のLiv Tylerが腹を空かせているのだ。

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 そんな状況下で製作したこのアルバム、これまでのToddなら、やれ2枚組だ、やれ片面全部使った組曲だ、やれ完全再現カバー・アルバムだと、何かしらお題目みたいなのが必ずあったのだけれど、今回は特別なコンセプトや凝った構成もなく、ただ単純に良いメロディの曲を普通に並べた、ごく普通のポップ・ソング集として仕上げている。この時点まででも、相応のキャリアは積んできているはずなのに、これだけまっとうな形のソロ・アルバムはこれが初めてというのも、なんだかToddらしいところ。

 この路線を突き詰めていけば、もしかしてBilly Joelクラスも夢ではなかったのかもしれないけど、そうは行かないのが、この人のいいところでもあり、またブレの多いところ。
 この頃、自身の音楽活動については低迷していたけれど、イモ臭さの極みだったGrand Funkを成功に導いたことに端を発してから、プロデューサーとしてのオファーは依然途切れなく続いていた。特にこの時期はGrand Funkより更に大ヒットを記録したMeat Loaf (『Bat out of Hell』)のプロデュースによって、業界内での信頼度は高まっている。
 アーティストの然るべき方向性や適性、伸びしろに対する嗅覚はハンパないはずなのに、自己プロデュース能力となるとそこが鈍ってしまうことも、この人の弱点の一つ。ソロ、バンドにかかわらず、どのアルバムにも言えることだけど、焦点が定まらず散漫な作品の多いこと多いこと。楽曲単体で見ると、今やロック・クラシックとなっているキラー・チューンも多いのだけど、トータルとしてのまとまりが薄く、全編通して聴くとグタグタになっちゃうアルバム(特に近作)も多いのが、今ひとつ惜しいところ。

 下手の横好きとは言い過ぎかもしれないけど、とにかく自分で何でもやりたがる人である。このアルバムもほとんど全てを自分でプレイしているので、よくマルチ・プレイヤーの元祖的扱いを受けているけど、プレイしたその後のまとめ方は、これも正直グタグタである。
 微妙に揺れるリズムとアタック音のズレ、よたるヴォーカル、これらを思いつくまますべてをマルチ・トラックにぶち込んでダビングを繰り返すため、全体的に音は潰れ、ピーク・レベルを下げざるを得なくなる。レコーディングが終了すると、細かなディテールについてはあまり関心が薄くなることについては、過去・現在を問わず一貫している。

 作り込んでいるわりには、アラも目立つ。アメリカの白人ヤンキーらしく、DIY精神豊かでありながら、「細けぇことはいいんだよっ」と言い切ってしまえるそのキャラクターだからこそ、ファンにとっても感情移入がしやすいのだろう。何から何まで完璧で隙がないと、息苦しくなってしまうのはお互い様だ。
 そんな天然で大らかなキャラクターは同業者からの評判も良く、だからこそ今でも若手や、特に日本人アーティストからのリスペクトが多く、ちょっとしたサポートやコラボのオファーも世界中から途切れずにいる。


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1. All the Children Sing
 こういう言い方はなんだけど、Toddとしては非常に「まともな」スタイルのポップ・ソング。ちょっとリズム走り過ぎじゃね?と思うくらいの性急なテンポだけど、それすら気にならなくなってしまうくらい、極上の3分間ポップスとして仕上げている。
 


2. Can We Still Be Friends
 恐らくToddのナンバーでは最も有名な部類に入る、ビルボード最高29位の傑作ポップ・ソング。独特のメロディの揺れからわかるように、コード進行も定番のヒット・パターンから外れて独特なのだけれど、1.同様、細かなアラすら凌駕してしまう完成度の高さである。ほんの少し未完成な要素を残した分だけ、聴き手にとっても引っかかりが残り、印象が刻まれやすいのだろう。
 そんな不安定な構造こそが逆に新鮮に映り、Rod StewartやRobert Palmerのような手練れのシンガーらにも好評を得、末永くカバーされ続けたのだと思う。
 
僕たちはこれからも友達でいられるかな?
いつかまた 一緒にいられるかな?
 
 こんな切ない歌詞、Toddのヘロヘロの音程で歌われると、逆にそれが郷愁を誘うのだ。



3. Hurting For You
 3連続で「切ない」系のバラードをぶつけてくるTodd。泣きのメロディ、間奏で突然飛び出してくる泣きのギター、どれも琴線を震わせる効果を有している。
 でもこれって、徳永英明と系統そっくりだよね。



4. Too Far Gone
 裏の複雑なリズムがTodd特有の凝りよう。これも一時期ライブで良く取り上げられていた。曲自体はミドル・テンポのバラードなのだけど、時々ボサノヴァっぽくも聴こえる、一見シンプル、実は考え抜かれたナンバーである。
 って、多分思いつきだと思うけど。

5. Onomatopoeia
 シンセによるシャッフルしたリズムのオープニング、『A Wizard, A True Star』に入っててもおかしくない小品。単品で聴くと、なんかエフェクト多様でお遊び的な楽曲に聴こえるけど、4曲連続でしっとりし過ぎたのに緩急をつける役割として、この辺に入ってるとちょうど良く、箸休め的に聴き流すことも可能。

6. Determination
 こちらもUtopia名義でもおかしくないパワー・ポップ。でもバンドよりもソロ指向のベクトルが強いため、メロディ・ラインはこちらの方がキャッチーでコンパクト。バンドとなるとそれぞれの楽器に見せ場を用意しなければならず、それが時に冗長になってしまう場合も多いのだけれど、ここではきれいにコンパクトにまとめている。

7. Bread
 疾走感溢れるストリート・ロック。シングル曲ばかりがフィーチャーされる中、この曲も地味だけど、かなりのキラー・チューン。バンド・スタイルの曲だけど、どこか密室感が漂うのはセルフ・プロデュース、セルフ・プレイの影響が多い。
 普通にJourneyと渡り合えるレベルのハード・ロック。こういった面ももっと取り上げられてもいいのに。



8. Bag Lady
 ベタなバラードだけど、甘くなりすぎる寸前でちょっと外したメロディをぶち込むところは、いかにもToddらしい。
 ノン・クレジットだけど、間奏のテナー・サックスの咽び具合がなかなかイイ感じ。クレジットがない場合はTodd自身のプレイらしいけど、多分違うと思う。だって、こんな上手く吹けるわけないじゃん。

9. You Cried Wolf
 単純でシンプルなコード進行のアップ・テンポ・ナンバー。極甘なバラードを好みながらも、こういったベッタベタなロックン・ロールもこなせること、そして好きでプレイしてしまうのが、典型的なヤンキーの特徴である(日本のヤンキーって意味じゃないよ)。

10. Lucky Guy
 単純なコード、メロディだけど、有名になり過ぎた2.に代わって人気の高い楽曲。ちょっとバグパイプっぽい音色のシンセといい、やはり時々よたるピアノ伴奏といい、手作り感満載の内容(と、ここまで書いててご指摘あり、シンセじゃなくってE-bowというギター・アタッチメントによる音色、とのこと。勉強になりました)。
 この隙だらけで大らかなところが、ファンだけでなく、周囲の女性すらも母性が疼くのだろう。



11. Out Of Control
 ストレートなアメリカン・ハード・ロック。好きなんだろうな、こういったのが。本来細い声質であるToddにバスドラが利いた曲はあまり合わないのだけれど、もう30年近く聴いているため、そんなミスマッチ感も気にならなくなってきた。
 Princeなんかもそうだけど、この人、手癖はそれなりにあれど、ギターは普通にうまい。特に間奏のギター・ソロ。コンパクトにうまくまとめている。もうちょっと評価されてもいいのに、といつも思う俺。

12. Fade Away
 ちょっとフィリー・ソウル風味が入っているのは、Toddなりのリスペクト。これも冒頭3曲同様、柔らかなタッチのポップ・バラード。こういったソウル・テイストの入ったバラードこそ、ちょっとベタ過ぎるけどToddの真骨頂全開である。
 前述したように、音は潰れちゃってるのだけど、この曲については特にドラム、いい感じにコンプ効果が働いて、ドリーミーな響きになっている。




 ごく普通の曲を、独りスタジオに篭ってコツコツ作り上げ、それほど手をかけることもなく、単純に皿に盛りつけただけ。スパイスはほんの少し、味つけもできるだけ素材の持ち味を活かすため、ごくシンプルに。
 一見、味も素っ気もないはずなのに、ゆっくり時間をかけて噛みしめるたび、じんわりと極上のエキスが口中に広がってゆく。
 例えは微妙だけど、そんなアルバムである。
 たまに切れてない野菜や、生焼けの部分があるのは、ご愛嬌ということで。


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アメリカ代表ポップ馬鹿、完コピに熱中する、の巻 - Todd Rundgren 『Faithful』

folder ずっと引っかかっていたのだけど、要はコンセプトありきの人なのだと思ったら、妙に納得してしまった。
 
 Nazzを解散して最初の2枚はシンガー・ソングライター・ブームの先駆けとも言えるシンプルなサウンド、続く『Something / Anything』では一転して、レコード溝の振り切れる限界まで音を詰め込み、こちらも宅録の先駆けとも言えるセルフ・レコーディングを2枚組大作で極めるつもりだったが、途中で力尽きたのかネタ切れしたのか、最後の2枚目D面はゆるいジャム・セッションでグダグダのエンディング。体力と気力の限界を痛感した反省を踏まえてなのか、続く『A Wizard, A True Star』ではAbbey Road方式を採用、A面のみ丸ごと組曲という構成に落ち着いた。
 「2枚組アルバムを作るんだ!!」という以外は特別なコンセプトのないセルフ・タイトルの2枚組は、一応まとまってはいるけど、逆にこれといったフックが少なく、やや散漫な印象。中途半端な仕上がりに再び反省したのか、続く『Initiation』ではB面が1曲のみ、アメリカン・ハード・自己満足・ポップ・プログレ” A Treatise on Cosmic Fire“で埋め尽くした。
 
 コンセプトがしっかりしているアルバムは、結果的に構成もしっかりしているので何度も愛聴できるのだけど、冗長な2枚組ともなると、ピントのボケた単なる寄せ集め的なアルバムになってしまい、聴く機会もほんとわずかになってしまう。多分アルバム片面くらいなら集中力も続くのだろうけど、それ以上となると関心が他の方面へ、例えば次に制作予定のアルバムへ意識が向いてしまうのだろう。

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 で、今回の『Faithful』。A面が60年代ロックのカバー、B面がオリジナルという構成。これまでの経緯を踏まえると、「コンセプト系+オーソドックス系」といった風に二面性を効果的に演出する方が、一枚フルに通したテーマよりまとまりやすいのだろう。
 Todd自身としては、こうした二面性を「絶妙なバランス感覚」と良い方に受け取っているのだろうけど、客観的に見ればどっちもどっち、それほど大差はない。
 そう、それは趣味性全開の密室ポップ。どこから切っても金太郎アメ、個性の強い馬ヅラToddの顔面が視界いっぱいに広がり、そしてむせ返るようなToddの世界観を凝縮した濃密サウンドが展開される。
 
 それが如実に現れるのが、やはりA面のカバー群。
 今なら素人でもちょっと勉強すれば、フリー・ソフトを駆使することによって、そこそこのスペックのパソコンでもそれなりのサウンドを作ることも可能になったけど、何しろ時は1976年、電卓がやっと卓上式になり、やっとマッキントッシュが創業された頃である。シンセでさえまだアナログの時代、そんな中、Toddは限定された条件の中であらゆる手法を駆使、自らも生きてきた60年代の空気感の再現に挑戦している。
 さすがにこだわりが強かったのか、レコーディング当時でも既にヴィンテージ扱いだったギターやドラムなどの楽器類だけでなく、マイクやテープ・レコーダーなどのレコーディング機材も、可能な限りオリジナル・ヴァージョンと同じ条件のものを揃えている。
 
 駆け出しのコピー・バンドならまだしも、経歴の長いプロのミュージシャンが有名曲のカバーを行なうことは、時としてデメリットになる場合がある。
 ミュージシャンとしてのスキルが高ければ高いほど、プロならではの視点・独自性が求められ、よって要求されるハードルは高くなる。これが思いっきり的はずれのアレンジなら、それはまたそれで潔く受け止められるかもしれないけど、大してひねりもない、アレンジもほぼそのまんまのカバーだと、同業者だけでなく、長年のファンからもソッポを向かれ兼ねない。下手すると、それまで築き上げてきたファンとの信頼関係も、一瞬にして失いかねない危険性を孕んでいる。
 それだけカバーという行為は、下手なオリジナル曲よりシビアな目で評価される。

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 ただこのアルバムのTodd、特徴のあるヴォーカル以外はオリジナルを忠実になぞった作り、批評性・客観性のかけらもないサウンドを提示している。ギターの音色やスネアの反響具合など、細かなディテールまでこだわって作り込んだトラックに合わせて、エコー成分やブレスのカウントまで忠実に再現するTodd。ここまで精密に作り込んでしまったら、もう笑うしかないくらいである。
 何のためにここまでするのか。
 そして、何の意味があるのか。
 多分、意味なんてない、ただの思いつきだ。思いつきという行為を突き詰めてゆくことによって、見えてくるものもあるのだろう。
 
 ただこの人、ここまで読んでいくと偏屈に思われそうだが、基本的には「いい人」なので、昔からのファンに向けて、B面は極上のポップ・ソングを用意している。これがまたイイ感じの美メロを取り揃えており、純粋なシンガー・ソングライターとしてのToddを存分に堪能できる、
 「ほんと、やりゃ出来るじゃん」とでも言いたくなってきてしまうけど、事はそう単純でもない。
 偏執狂的なポップ馬鹿のファンもまた同族、聴き手の方も屈折している者が多く、ただ流麗なだけ、ただ美メロなだけの曲、では肩透かしを食らった気になってしまう。
「え、これで終わりなの?これじゃちょっと素直すぎね?」
 ―ファンというのは身勝手なものである。


Faithful
Faithful
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Todd Rundgren
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1. Happenings Ten Years Time Ago
 オリジナルはYardbirds、Jimmy PageとJeff Beckとの双頭ツイン・リード体制でリリースされた唯一のシングル、というのが一般的なインフォメーション。Toddのファンなら大体が同じはずだけど、俺が最初にこの曲を知ったのは、Toddのこのアルバムから。なので、オリジナルは後付けで知った、という人が案外多い。いや、リアルタイムで聴いてました、って人なら別ですけどね。
 当時はちゃんとやっていたPageのリフも、曲間のモノローグまでできる限り忠実に再現している。やりたかったんだろうな、こういうの。

2. Good Vibrations
 これは有名、Beach Boys、ていうかBrian Wilson作詞・作曲・プロデュースによる、一大ポップ・シンフォニー。ポップ馬鹿とは多分、この人が元祖。
 何重にも複雑にかみ合わせたコーラスを、これまた忠実にミックスして再現したところ、それとチューニングが難しいと言われているテルミンの音色もクリソツ。ま、でも最初に作った人が一番すごいんであって、結局は完コピに過ぎないんだけどね。
 それでもキワモノ的な珍しさがあったのか、アメリカではこのToddヴァージョンがシングル・カットされ、34位にランク・インしている。
 


3. Rain
 こちらもご存じBeatles、ただ後期のシングルB面曲だったため、ファン以外の認知度はちょっと少ない。Ringo Starr曰くが自身のベスト・プレイだったと振り返った、力強いバスドラの響きも忠実に再現。打楽器のニュアンスを再現するにはかなりの苦労があったと察するけど、そこは筋金入りのBeatlesオタク(後年Ringoのオール・スター・バンドに加入して世界中を廻ることになる)、この程度の苦労は苦労とも思わなかったのだろう。
 鼻濁音の辺りで、時々John Lennonが憑依したように聴こえる瞬間があるのだけれど、考えてみればこの頃Johnはまだ健在だった。憑依も何もないや。

4. Most Likely You Go Your Way [And I'll Go Mine]
 Bob Dylan『Blonde on Blonde』収録。この頃のDylanは一介のフォーク・シンガーから後のThe Bandとなる手練れの連中を従えロックのフィールドに進出し、更に音楽性を広げていた頃、世間一般のイメージよりもポップな曲となっている。ちょっと上ずり加減でダルそうに歌うと、誰でもDylanっぽく聴こえるというのは、アメリカ人でも同じなのだろうか。日本でいう森進一のような、マネしやすいシンガーの一人である。

5. If 6 Was 9
 あまり接点が感じられないけど」、Jimi Hendrixのカバー。ブルースを基調にした、ややポップ性を意識した曲なので、Toddもカバーしやすかったのだろう。
 初めて『Faithful』を購入した10代の頃、ジミヘンはほぼ接点がなかったため、このヴァージョンで聴くのが初。Jeff Beckと並んでジミヘンの場合、カスタムメイドのエフェクター使用などによって、完コピが難しいギタリストの一人に数えられるけど、Toddヴァージョンもまた、なかなか近い音色を作り出している。
 Lenny Kravitzのカバーしてたので、一応この機会に聴いてみたのだけど、ジミヘンっぽいギターの鳴り方はいいとして、そこかしこで中途半端にオリジナリティーを入れちゃってることにより、聴いていると次第に違和感の方が強くなってしまう。まぁどっちにしろ俺の場合、Lennyはイマイチ受け付けないので、どうしても点は辛くなってしまうけど。

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6. Strawberry Fields Forever
 超有名なBeatlesのカバー。懐かし番組でBeatlesの足跡が語られる場合、だいたい中盤あたりでこのPVが流されるので、まったく興味がなくても聴いてる人は多いはず。思えばこの曲、Beatlesがライブ活動を停止してレコーディングに没頭していた頃の産物である。当時のトップ・アーティストがレコーディング中心の活動にシフトしたことによって、ポピュラー音楽の音響技術は飛躍的にアップしたけど、それに伴って後年有象無象のポップ馬鹿を産み出す次第となったのは、彼らの功罪のひとつである。
 そのポップ馬鹿集団のトップ・ランナーに位置するTodd、テープ逆回転やスプライシング技術などを可能な限り解明して、Beatesサウンドの再現に努めている。よくやるよ、ほんと。

7. Black And White
 Utopiaでの課外活動、またGrand Funkのプロデュースなどで得たアメリカン・ハード・サウンドのノウハウを全開、重いギター・リフを中心とした、単純明快なハード・ポップ。そう、Toddがからんでくると、どんなハードな曲でもポップになってしまう。
 後半で重くトリッキーなギター・ソロが挿入されるけど、やはり音色はどこかポップで変態チック。

8. Love of the Common Man
 何かに似てると思ったら、George Harrison”My Sweet Road”に構成がそっくりだった。バック・トラック固定のまま、互いの歌だけ取り換えても、何ら違和感がない。Toddにしては珍しくコード進行も安定しており、よって独特なメロディの揺れやムラもなく、きちんと一曲にまとまっている。
 こういった曲だけ集めて作ったアルバムもあるのだけど(『Hermit of Mink Hollow』)、それはまた後日。
 


9. When I Pray
 ゴスペル・コーラスが中心となって構成された曲。珍しくメイン・ヴォーカルのキーが低く設定されており、そこにやや違和感。バック・トラックだけ聴けば、伝統的なゴスペル・ソングの白人的解釈とも言える小品なのだけど、ヴォーカルとのミスマッチ感の方が強く印象に残る。でもそのギャップ感こそが、普通のポップスとはひと味違うところ。

10. Cliché
 Runtシリーズに入ってててもおかしくない、シンガー・ソングライターとしてのスペックを最大限活用したナンバー。コードの不安定感やサスティンを効かせたギターの揺れる音色によって、Toddの楽曲の最大の特徴である「未完成ゆえの調和」を演出している。ただ俺的にはちょっと甘口。もう少しビターな風味があったら、さらに良かったかも。

11. The Verb To Love
 「甘さはチョット…」と言いながら、この曲は別格なのだった。Toddが得意とするスウィートなフィリー・ソウルをベースとした、ドラマティックなポップ・バラード。もともとこのアルバム全体が、当時のUtopiaのメンバーをそのまま演奏に起用しているため、特にこの曲においてはそれがうまく作用して、Utopia特有のアメリカン・プログレ風味とがうまくマッチしている。
 


12. Boogies [Hamburger Hell]
 ラストはGrand Funkっぽいブギ・テイストのロックン・ロール。こういった曲ならいくらでも書けそうだし、Todd自身も好んでこういったタイプの曲をアルバムごとに2~3曲くらいはぶち込んでくるのだけど、まぁあまり需要がないのだろう。世間的に、ロックンローラーとしてのToddはあまり求められていないのである。




 この後、Utopiaはプログレ風味を薄めてハード・ポップ路線を強めてゆくのだけど、その路線変更が功を奏したのか、そこそこのセールスを記録するようになる。次第に活動のメインがUtopia中心にシフト、Toddのソロは次第にフォーカスが定まらなくなる。
 その迷走状態の直前、ソロとバンドとの均衡が取れていた最後の状態を記録したのが、この『Faithful』である。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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