好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Todd Rundgren

トッドの音楽療法 - Todd Rundgren 『Healing』

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 1981年リリース9枚目、前作『Hermit of Mink Hollow』から3年振りのオリジナル・アルバム。この頃のトッドにしてはブランクが空いてるよなぁ、と思ってしまいがちだけど、この間にユートピアとして2枚、ライブを1枚リリースしているので、いやいや相変わらずのワーカホリック振りである。ほぼ同時期、日本では大滝詠一が同様のリリース・ペースで活動していたけど、こちらは途中で息切れ。まぁ勝ち負けの問題じゃないけど。
 トッドの場合、市場のニーズに応えての多作ではなく、誰も頼んでないのにレコーディングしまくっていただけなので、このアルバムもビルボード最高48位と、何とも微妙な成績。「Can We Still Be Friends」のようなキラー・チューンもなかったため、ヒットの基準のひとつであるトップ40入りは逃してしまう。
 とはいえ、もともとトップ40入りすること自体が珍しいので、本人的にはそこまで気にはしていなかったと思われる。正直、周囲もその辺は諦めていただろうし。
 別にこの時期に限ったことではなく、キャリアを通して大きなヒットを飛ばしたことはないけど、一部の熱狂的マニアや業界人にはウケが良いため、存在がフェードアウトすることはないのが、この人の特質である。何かと使い勝手が良いのか、リンゴ・スターのオールスター・バンドでワールド・ツアーを回ったり、ほとんど関連性のないカーズ再結成に参加したり、まぁフットワークの軽いこと。あ、カーズは黒歴史だったな。

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 叙情的なメロディメーカーしての一面が強く浮き出た『Hermit of Mink Hollow』製作後、その反動からかトッド、ライブ活動に力を入れるようになる。地味で悶々とした宅録レコーディング作業は、精神衛生上、長く続けるものではない。
 べアズヴィルのハウス・エンジニアもプロデュース・ワークも最小限に抑え、引きこもり生活からの脱却を図ったトッド、ライブ・シーン本格参戦のため、ユートピアの改革に手をつける。
 表向きには「プログレッシブ・ロックによる壮大な音世界の構築」というお題目を掲げながら、実は「単にステージでギターを弾きまくりたいだけ」という動機で結成されたユートピアは、オリジナル2枚目の『太陽神RA』がUS79位UK27位と、この時点でもそこそこの支持を得ていた。ジャンルとしてのプログレはすでに行き詰まっていたけど、ハードロック要素が強く、ライブ映えするアメリカン・プログレには、まだ需要があったのだ。
 当時のプログレ・セオリーに則って、主旋律より各パートのインプロビゼーションの方が長いため、どの曲も最低10分以上だった。―何となく神秘っぽく、何となくミステリアス。「大風呂敷ではあるけれど、その実、大したことは何も言ってない」コンセプト至上主義は、大ざっぱなアメリカ人には受け入れられやすいものだった。そこにキラキラしたシンセ・フレーズや、手クセ満載の速弾きギター・ソロを付け加えれば、レコード売り上げはともかくライブではウケた。

 なので、初期ユートピアが決して悪かったわけではないのだけど、活動のメインをバンドに据えることにしたトッドの意向もあって、大掛かりな方向転換が行なわれる。当時のトッドの構想としては、「ユートピアで商業的な成功を収めることで経済的な基盤を固め、バンド活動の合間に趣味的なソロを作る」というのがあったらしい。この時点では、わずかにソロの方が上だったけど、まぁどっちもどっち。戦略としては、間違ってないんだよな。
 ライブ・バンドとしてはそこそこ定評があったけど、セールス的にはあと一歩だったユートピアのテコ入れとして、従来のアメリカン・ハード・プログレ路線から、ハード・ギター・ポップ路線に転換する。字面だけではちょっとわかりづらいけど、要するに、曲の尺が短くなった。
 アルバム片面をまるまる費やす冗長な一大組曲は一掃され、ラジオでオンエアされやすい4分程度にダウン・サイジングされた。何となく高尚で斜に構えたコンセプトも取っ払われ、歌詞のテーマはごく普通のロック・バンドと変わらなくなった。
 トッド的には、同じ音楽性だったスティックスやジャーニーが宗旨替えしてブレイクしたのだから、そこに追随したのだろうけど、ユートピアは思惑ほど売れなかった。両バンドにならって、キャッチーな音楽性を志向するのは間違ってはいなかったけど、もうひとつ肝心なところを忘れていた。
 トミー・ショウやスティーブ・ペリーなど、ビジュアル映えするフロントマンの存在が、ユートピアには欠けていた。トッドも決して見栄えが悪い方ではないのだけど、トミーのような美少年要素も、またスティーブのようなハイトーン・ヴォイスもなかったのは致命的だった。
 もしかして、最初から気づいてたのかも、と思う反面、トッドの性格を考えれば「ガチでイケる」と思っていた節もある。だってこの人、自意識強そうだもの。

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 せっかく路線変更したにもかかわらず、プログレ時代とそんなに変わらぬチャート・アクションが続いたため、打開策としてユートピアはライブ本数を増やしてゆく。
 当たればデカいアメリカン・ドリームだけど、そこに至るまでは相当の努力を要する。ただレコードを出しだけではダメで、世に広く知らしめる手段を取らなければならない。そのためには、ラジオでパワー・プレイされなければならないし、全米くまなく地道にライブで回らなければならない。
 いわゆるプロモーション・ツアー、言ってしまえばドサ回りだけど、そんなにすぐ効果があらわれるものではない。演歌のドブ板営業よろしく、粗末な設備の会場だってあるし、常に満員御礼というわけでもない。
 べアズヴィルに手厚いサポートを期待できるわけもなし、当時のライブ収支はどんぶり勘定。先の展望が見えず、肉体的にも精神的にも疲弊してゆくメンバー。そしてトッド―。
 約2年、バンド活動に専念したトッドが出した結論が、「…俺ってやっぱ、ソロ体質だよな」という自覚だった。ソロとバンド、並行してやるからストレスも分散するのであって、どっちかに偏ってしまうと、たちまちストレスが集中してしまう。
 考えてみれば当たり前の結果だけど、こういうのってやってみないとわからない。

 で、『Healing』。
 当時の邦題『トッドの音楽療法』が象徴するように、疲弊した自身への癒しとも言える、穏やかなサウンドで構成されている。激しいディストーション・ギターや強烈なバスドラを排し、シンセとリズム・マシンを用いて、ほぼ独りでレコーディングされている。
 長年練り上げたものではなく、衝動的にスタジオに飛び込んで、一気呵成に組み立てられたそのサウンドは、プライベートな色彩に満ちている。生来のポップ気質が滲み出ているため、息が詰まるほど厭世的ではないけど、発表を前提としない個人的な音で満たされている。
 「聴きたかったら聴けば。サービスはないけど」。自己陶酔と憐憫の強いその空間は、他者に開かれたサウンドを追求していた当時のユートピアとは、一線を画している。
 ヒット性やライブ・パフォーマンスを考えず、最もヴォーカル映えするキーで作ったサウンドをバックに、悦に入って歌うトッド。言ってしまえば自作カラオケ、またはニコ動の歌い手的な、自己満足優先の楽曲が並んでいる。

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 でも、考えてみればトッド、人のプロデュースは別として、自己満足を優先しない作品を作ったことは、後にも先にもないのだった。商業的な成功よりはむしろ、とにかく自分で「あ、コレやりたい」というシンプルな動機、初期衝動だけで「やってみた」作品群が、のちのち再評価で盛り上がったわけで。
 ドラムを叩けばリズムが揺れたりヨレたり、ヴォーカル・ピッチがズレても問題なし。練習してうまくプレイするより、いまやりたいことを優先する。録音もミックスも、細かいことにはこだわらない。まずは、やってみる。失敗も振り返らず、常に新しいことにチャレンジする。そんなロック少年的なシンプルな衝動が、狭いけどコアな層にヒットして、熱狂的な固定ファンを今も生み出し続けている。
 なので、何度も聴くには痛い『Healing』だけど、これもトッドのサウンド一大絵巻のひとつなのだ。ワーナー以降は正直、当たりハズレも多いトッドだけど、べアズヴィル時代のアルバムは、どれもはずすことができない。


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1. Healer
 ケルト民謡のようなオープニングでちょっとビックリするけど、そこから先はいつものトッドのメロディ。山下達郎も顔負けの多重コーラスは入るわ品評会のような多彩なシンセの音色、案外ツボにハマるリズム・パターンといい、お腹いっぱい。ていうか詰め込み過ぎだよな、ビギナーが聴くと。でも、これが過剰こそ至高であるトッドなのだ。

2. Pulse
 タイトルが象徴するように、新たな波動を様々な音色のシンセで表現している。中盤からのリズミカルなマリンバっぽいリズム・パートは、ガチのプログレ。セオリーならここから10分以上続くところを、ここでは3分に圧縮。これ以上は沼にハマってしまう。

3. Flesh
 かなりエモーショナルなヴォーカルを支える、荘厳なシンセの響き。これこそまさしく独りカラオケ状態。他人からすれば癒しには聴こえないけど、作る本人としては、カタルシスを得ることで充分満たされたことが窺える。音圧が高いのといろいろ詰め込んだおかげで、ナチュラルにコンプがかかっている。ここまでやって、トッドの通常パターン。

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4. Golden Goose
 『Runt』のアウトテイクにシンセ・パートを加えたような、思いっきり脱力してしまうマーチ風ポップ・チューン。これもまたひとつの癒しの形。アルバム構成的にも、ひと息つくにはちょうどいい頃合い。やっぱプロデューサー目線ははずせない。

5. Compassion
 誰もが認める名曲バラード。ややフラット気味のハスキーなヴォーカル、黄金パターンからははずれているのに親しみやすい美メロ、いずれもトッドの必勝パターンである。正直、このヴァージョンはシンセがコッテリなので、ヴォーカルをメインとしたライブ・ヴァージョンの方がいい。



6. Shine
 8分を超えるアメリカン・ハード・プログレ。ユートピアでもそうだけど、トッドの場合、ここに加えてオールド・タイプのロックンロール風味も添加されるので、他のプログレ・バンドと比べてポピュラー性が強いのが、ひとつの特徴である。なので、このトラックも序章の重厚なパートさえ抜いちゃえば、ノリも良いソリッドなロックなのだけど、本人的には全部含めての「Shine」なので、そんなのは余計なお世話。終盤なんてライブ映えするギター・ソロも炸裂しているので、間口が狭いのがちょっと惜しい。
 ここまでレコードではA面。トータル・タイム27分ちょっと。音質を優先しての理想的な収録時間が20分程度なので、当然カッティング・レベルは低くなる。それもトッド的には通常営業。

7. Healing, Part I
 ポリリズミックなシンセのリフを基調に、控えめなギター・ストロークとリズムが挿入される、トッドにしては抑えたアンサンブルが印象的なトラック。終盤はジャジーななサックス・ソロがムーディに締める。
 タイトルが示すように、ここからがトッド言うところの「癒し」であり、それは聴き手にも向けられるような、柔らかな感覚。宗教的な崇高ささえ漂う世界。

8. Healing, Part II
 宗教的な真っ向臭さはさらに強まり、ガムランからインド風味から、隠し味としてのアフロ・タッチ、もう何もかもごちゃまぜにぶち込んだ模様。ギターのアルペジオのみが正気を保っているけど、ダウンの時に聴いたら持ってかれそうな危険さを孕んでいる。

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9. Healing, Part III
 1・2部のエッセンスをミックスした、組曲のまとめ。8.のようなダウナー感は一掃され、もっとポップに開かれた感が増している。ここまで3部作、よくあるコンセプト・アルバムと違って、パーツの切り貼りというよりは楽曲として独立しているため、重苦しさはそれほどでもない。まぁでも8.だけはちょっと勘弁だな。

10. Time Heals
 初回リリース時はボーナス・シングルとして収録されており、実際に単独でシングル・カットもされた。CDになってからはほぼ正規扱いとして収録されており、実際、俺もボーナス扱いだとは長らく思っていなかった。
 「これがユートピアの理想形だったんじゃないの?」と思ってしまうくらい、キャッチ―でソリッド、それでいてトッドのエッセンスもしっかり織り込まれている。なので、ビルボードのMainstream Rockという専門チャートではあるけれど18位にランクインしているくらい。
 ただトッドからすれば、壮大な組曲の後に、こんなポップ・チューンが続くと、世界観が壊れてしまうことを恐れたのだろう。だからボーナス扱いだったのであって、同時にそれだけのインパクトを残す楽曲でもあるという証明。



11. Tiny Demons
 で、そのシングルB面。こちらはもう少しダークな質感。いつ盛り上がるか、待っているうちに終わってしまう、そんなナンバー。タイトルと言い、UKゴシック系のバンドっぽいよな、そういえば。Cureとか聴いてたのかな、トッドも。



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アメリカ人がプログレをやってみた。 - Todd Rundgren 『Initiation』

folder 1975年リリース、6枚目のソロアルバム。当時のUSチャートでは、なんと最高86位。意外と売れている。もっと売れてないと思っていた。次のアルバムが出せる程度には、そこそこ売れていたのだ。

 ソロとバンド活動を並行して行なっていた70年代、大量のアイテムをリリースしてきたToddだけど、この年の純粋な新作は『Initiation』のみ。前年プロデュースしたGrand Funkが大ヒットして、オファーだってそこそこあったかと思われるけど、そういった形跡もない。表立ったスタジオ・ワークは、あんまりやってなかったようだ。
 この時期のToddの活動は、スタジオ・ワークより、むしろライブの方に重点が置いている。レコード・デビューはしたけど、まだソロ・プロジェクトの色彩が濃かったUtopia が、メンバーの固定化によってコンセプトが決まり、徐々にバンドらしくなっていた頃と一致する。
 その後、サウンド・メイキングの柱となるRoger Powellが加入したことで、Toddのワンマン・バンド色は薄くなってゆく。それは彼自身が望んだことでもあった。
 なので、意思疎通やアンサンブル固めもあって、この年はライブ三昧。70年代のToddといえば、ずっとスタジオに引きこもってレコーディングばっかりやっていた印象が強いけど、その合間を縫って数多くのライブをこなしている。

 オフィシャルでのリリースはなかったけど、デモ制作や後年発掘された『Disco Jets』など、当時は未発表に終わったプロジェクトも数多い。べアズヴィルのエンジニアとして、ちょっとしたスタジオ・ワークや、付き合いのあるアーティストからの依頼もちょくちょくあっただろうし。ソロでもバンドでもツアーをやっていたから、まとまった時間が必要なプロデュースまではできないけど、軽いフットワークで短期の仕事を請け負ったりしている。なんか派遣社員みたいだな。
 ちょっと偏屈なところもあるけど、長年の経験に基づいた仕事の早さと要領の良さは、ベテランならではの得難いスキルである。まぁちょっと雑でアバウトなところはあるけど、納期と予算はきっちり守る。時に散漫になりがちなスタジオ・ワークにおいて、彼のような取りまとめ役は、引く手あまただった。

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 案外エゴを押しつけず、クライアントの意向に沿うToddの仕事ぶりは、おおむね好評だった。ジャンルや音楽性にこだわらず、長年の経験に基づく引き出しの多さから、全方位どのアーティストにも対応できる順応性。それでいて予算管理もしっかり行なうし、アーティストの意向を可能な限り受け止めつつ、実際のポテンシャルよりちょっと背伸びした程度のレベルに導いてしまう印象操作。こう書いちゃうと、なんかすごい人徳者みたいだな。
 実際のところ、彼が手がけたプロデュース・ワークは多岐に及ぶ。Mitch RyderとXTCなんて、そりゃ両極端だもの。それでいて、もちろん全部が全部じゃないけど時々デカいヒットを飛ばしちゃうんだから、評判はさらに高くなる。成果を出すほど、あらゆる方面からさらにオファーが舞い込む。アーティストとしてはイマイチだけど、プロデュース業はずっと緩やかな右肩上がりだった。
 でも時々、「ちょっと場違いじゃね?」って案件も、軽く引き受けちゃったりするのが、この人のお茶目なところ。Beatlesへの長年のリスペクトが実った、Ringo Starr のオールスター・バンド参加はわかるとして、フロントマンRic Ocasekの代わりにNew Cars加入っていうのは、ちょっと節操なさ過ぎ。まぁTodd以外、引き受け手がなかったんだろうな。
 去年だって、なぜかYesと一緒に全米ツアーを回ってたりするし、一体どこに接点があったのか、一般人にはなんとも不明。多分、我々には知る由もない、業界内での繋がりがあるのだろう。

 ソロでは多重録音で作り込んだミニマムなポップ・ソングを、Utopiaではメロディックな特性を生かしつつ、壮大なテーマを掲げたアメリカン・ハード・プログレを。その時の気分によって、表裏一体の活動を並行してゆくのが、当時のトッドの初期構想だった。
 アルバムごとにコンセプトがコロコロ変わるのがこの人の特徴なので、「別に分けなくてもよかったんじゃね?」と後年のファンは思ってしまう。「複数のプロジェクトを難なくこなしてる俺」に憧れたんだろうな。
 アカデミックな楽理を学んだわけではない人なので、いちいち譜面に書き起こすことはなく、大抵はギターやピアノを前にフフンと鼻歌、そこから展開してゆく、といったスタイルの作曲法である。そんなだからして、楽曲の傾向としてはメロディ主体、コードのルーティンをはずした進行になる。
 感性を優先するため、調和やバランスは後回しとなる。なので、後づけとなるコード展開は、どうにも奇妙で不安定なモノになる。だからといって、それが耐え難い不協和音になるわけではなく、むしろそれが突出した個性として、乱調の美を形作ってしまう不思議。

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 なので、いわゆる職業作家のような器用な人ではない。ドンピシャにハマった時の名曲は数あれど、それと同じくらいハズしまくった曲も、また多い。プロデュース依頼は多いけど、思いのほか楽曲提供というのが少ないのも、その辺に由来する。
 自由に、何の制約もなければ、不安定ながら引っ掛かりを残し、琴線に触れるメロディを作れる人である。ただ、これが何かしら縛りを入れたりすると、途端につまらなくなるのも、この人の特徴である。
 たとえば、シンプルな3コードのロックンロール。Toddのルーツのひとつであり、どのアルバムにも必ず1曲くらいは入っているのだけど、これのハズし率は結構高い。先人によって開拓し尽くされた黄金コード進行は、メロディ先行のToddの奔放さとは相反するものだ。本人は演奏してて楽しそうだけど、これがまた、どうにも凡庸な仕上がりになることが多い。

 70年代の英国ミュージック・シーンで勃興したプログレッシブ・ロックは、一時活況を呈したけど、本国でのピークはほんの数年だった。英国では旧世代の遺物として、パンクに一蹴されたプログレだったけど、「何となく知的に見えるロック」というコンセプトは、多くのインテリもどきの共感を呼んだ。その後、世界各国へ拡散されたプログレは、それぞれ独自の変化を遂げる。
 ヨーロッパ諸国では、クラシックを由来としたシンフォニックなサウンドが大きくフィーチャーされ、後に換骨奪胎されて心地よいBGMへと退化、スピリチュアル風味を加えたニューエイジへ昇華してゆく。プログレとも親和性の高いミニマル・ミュージックの下地があったドイツでは、KraftwerkやTangerine Dreamなど、プログレよりもプログレらしいアブストラクトな音楽が続々誕生する。
 日本では当初、バカテクと理屈先行のCrimson人気が高く、ジャズとの融合によってクロスオーバー的な展開を見せた時代もあったけど、次第に毒気が抜けてニューエイジと大差なくなり、理屈の行き先を失った挙句、アニソンへ取り込まれていった。

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 で、海を渡ったアメリカでは。
 ヨーロッパほどクラシックも根付いてないし、小難しい理屈はウケが悪い。Grateful Deadに端を発する、やたら長くて眠くなる曲のニーズはあるけど、それだってドラッグありきの話だし。どっちにしろ、純粋プログレとアメリカ人とは、相性が良くないのだ。
 なので、「人生の意義」や「葛藤」など、そういったしちめんどくさい主張はひとまず置いといて、テクニカル面や組曲志向は残しとこう。そこにわかりやすいハードロックのダイナミズムを持ち込んじゃえば―。
 あっという間にアメリカン・ハード・プログレのできあがり。
 コンセプト?なんかほら、あるじゃん。「太古の謎」とか「宇宙の神秘」とか。適当にデカいスケールのテーマ、でっち上げときゃいいんじゃね?さらにアルバム・ジャケットを幻想的なイラストで飾れば、もう完璧。
 初期のKansas やRush なんかはまだ真面目にやってたけど、次第に大作主義は少数派となり、4分台の曲が多くなる。ラジオでのオンエアを考えると、自然、曲はコンパクトんせざるを得ない。
 それが、俗に言う産業ロック。Journey やStyxなんかが、代表的アーティスト。ここまで来ると、原型がなんだかわからない。

 Toddもまた純正アメリカ人ゆえ、選んだコンセプトは「太陽神」やら「宇宙の神秘」やら、壮大でドラマティック、スケール感の大きい題材を取り上げている。他国プログレとの違いが、ここで大きく浮き彫りとなっている。
 対象を自身以外の「外部」に求めるアメリカに対し、特にヨーロッパ諸国のプログレはインドア志向、深淵たる「内面」へ向かって、深く掘り下げてゆく。ミニマル主体のドイツなんかだと、フレーズの無限反復やドローン音から誘発される不安によって、ゲシュタルト崩壊しちゃってるし。
 「わざわざ掘り下げるほど、内面なんて詰まってない」と開き直っちゃってるのか、それとも「内面なんて知りようがない」と合理的に判断しちゃってるのか。
 「宇宙炎に関する論文」?
 すごくファジーなテーマだよな。



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1. Real Man
 この時期の代表作として、大抵のベストには収録されているスペーシー・ポップ。ソロ名義ではあるけれど、キーボード3名体制だった初期Utopia布陣でレコーディングされている。バンド初期は正統プログレ・スタイルを志向してため、こういったコンパクトでポップな曲は、ソロに振り向けられることになった。ドラムがちょっと大味だけど、響きが80年代っぽくて、それはそれで俺は好き。ヴォーカルへのコンプのかけ方とかを聴いてると、John Lennonっぽく聴こえる瞬間もある。
 シングルとしては、US最高88位。



2. Born to Synthesize
 ちょっとエスニックっぽい演出のアカペラ・チューン。俺的に、「アフリカ奥地に住む現地民族にシンセサイザーをあげたら、こんな感じに仕上がっちゃった」イメージ。
 ヴォーカルにいろいろエフェクトかけまくってサウンドの一部とする発想は、後の『A Cappella』で生きてくる。
 オーソドックスなアカペラ・スタイルではなく、ちょっとエキセントリックなヴォーカライズが下地となっているので、その辺はやはりひと捻りしないと気が済まない性分があらわれている。

3. The Death of Rock and Roll
 Toddのロックンロール・チューンの中では珍しく良質の、それでいて突き抜けたアホらしさ。だから良い。ロックなんて結局、知的要素とは相反するものだ。
 ギタリストのRick Derringerがなぜかベースで参加しており、それがToddのロック魂に火をつけたのか、いい感じのスタジアム・ロックに仕上がってる。
 繊細さのかけらもない、大味なロックンロール。本職のDerringerを押しのけて、ガンガンギターを弾きまくってて楽しそう。

4. Eastern Intrigue
 アメリカ人考えるところのオリエンタル・テイストが充満する、なんともインチキ臭漂うポップ組曲。「Easten」と銘打っておきながら、アジアと言っても中近東や、ずっと飛んでスコットランド民謡っぽさもあり、いろいろとごちゃまぜ。なので、「Todd流無国籍サウンド」と言った方が近いかも。マントラみたいなコーラスも入ってるし、お得感満載の幕の内弁当。
 でも、そんな未整理感こそが、Toddの魅力のひとつであることもまた事実。この人にきっちり整理されたモノを求めるのはお門違い。

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5. Initiation
 ドラムにRick MarottaとBernard Purdieが参加。いわゆるプロの職人肌の人たちで、こういうメンツになると、途端にサウンドがプロっぽくなる。大抵、Toddがリズム刻むと揺れまくって安定しないんだけど、ファンとってはそれもまた「独特の味」となっており、逆にこのように「ちゃんとしている」と違和感を感じてしまう。
 プログレの人たちがシングル・ヒット狙いを余儀なくされ、3分間ポップスに挑んだのがAsiaだけど、あそこまでメロウに寄ってるわけではなく、ここで展開されるサウンドはもっとストイック。ちゃんとそれぞれのパートの見せ場も作り、それでいてメロディはしっかりポップ。いつもはもっとシックなプレイのDavid Sanbornも、血が騒いだのか、ここでは白熱のブロウを披露している。

6. Fair Warning
 Toddお得意のフィリー・ソウルのスケール感を広げ、さらに力強く仕上げたのが、これ。なぜかEdgar Winterがサックスで参加。あんまり聴いたことないけど、Edgar Winterといえば、ギタリストというイメージが強かったのだけど、いやいやここでは本職顔負けのメロウなプレイ。むしろ、こっちの方がSanbornっぽい。
 ラストが「Real Men」のサビへとループしてフェードアウト、構成も言うことなし。
 このA面のコンセプトでB面も統一しちゃってよかったはずなのだけど、むしろこっちは片手間仕事。やりたかったのはB面だったのだ。まぁひねくれてること。

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7. A Treatise on Cosmic Fire
 35分に及ぶ一大絵巻、ほぼToddの多重録音による大作。レコードB面を埋め尽くす全編インストを、きちんと対峙して聴き通すのは、相当の難行。俺もちゃんと聴いたの一回きりだし。
 シンセを主体とした、「シンフォニックかつドラマティックな組曲をやりたい」と思いつきが先立っており、多分コンセプトは後付け。前述したように、何となく壮大なテーマをぶち上げたかったんじゃないかと思われる。そこまで深く思い詰める人じゃないし。
 Utopiaでやってみようと思ってデモ・ヴァージョンを作り、ちょっと足りないところをRoger Powellに手伝ってもらったら、「あれ、これでもう完成じゃね?オレ天才」てな感じだったんじゃないかと思われる。
 大方のアメリカ人同様、プログレという「思想」ではなく「スタイル」から入ったToddであるからして、ここでは彼が思うところの「プログレっぽさ」が、これでもかというぐらいにまで詰め込まれている。「シンセがピャーッと鳴って、時にはハード、時には切なくギターを弾いて、なんとなく高尚なヤツ」。こうして言葉にしちゃうと、なんか身もふたもないな、大味すぎて。
 中盤のドラムン・ベースっぽいサウンドは、久しぶりに再聴してみての新たな発見。終盤のドローン音やSFっぽいエフェクトは、それこそフォーマットとしてのプログレ的展開。
 プログレに限らず、奇想なアイディアがいっぱい詰まっているトラックのため、律儀に通して聴かなくても、好きなパートだけ抜き出して聴くのも、ひとつの方法。何しろ長いしね。
 CDで聴いてるからそれほど気にならないけど、多分これ、レコードで聴いてたら、終盤なんて音質悪かったんだろうな。内周ギリギリまでこんなに詰め込むと、音はもう潰れまくり。






 ちなみに、これでレビュー299回目。
 300回目突入記念で、次回から2回に分けて特別企画を実施します。
 乞うご期待。



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細けぇ事はいいんだよっ - Todd Rundgren 『Nearly Human』

folder 1989年にリリースされた、「ポップの魔術師」Todd Rundgren 16枚目のオリジナル・アルバム。長いキャリアにおいて初のワールドワイド契約を結んでのリリースは話題を集め、US102位はまぁしょうがないとして、UKでは久々に87位にチャートイン、再発ブームで湧いていたここ日本でも、オリコン最高85位と、小粒ではありながら存在感をアピールした。そのブーム以降、リアルタイムでは初のアルバムだったため、ミュージックマガジン界隈では盛り上がっていた記憶がある君は45歳以上。

 以前紹介した前作『A Cappella』は、「イコライジングした自分の肉声ですべての楽器パートを表現する」という、単なる思いつきを全力でやらかしてしまった実験作だったため、広く大衆にアピールするアルバムではなかった。US最高128位以外はどの国でもカスリもせず、日本でも一応リリースはされたのだけど、ジャケットも含めてキワモノ扱いだったし。
 そんな反省を踏まえたのか単なる気まぐれなのか、今回は古巣べアズヴィル・スタジオを離れ、名門スタジオ「レコード・プラント」を使用、大御所Bobby Womackとのデュエットなどゲストも豪華、ラストの「I Love My Wife」では、総勢22名のゲスト・ミュージシャンを迎え、カタルシス満載のホワイト・ゴスペルを展開している。
 それまでの密室作業中心のソロや、コロコロ音楽性の変わるUtopiaと違って、ボトムが太く直球ど真ん中、それまで培ったブルー・アイド・ソウルとストレートなロック・サウンドとのハイブリッドは、小手先の技を弄することもなく、これまでになかったグルーヴ感を醸し出している。
 やればできるじゃん。

 これまで業界内において、単に気が良くて中途半端な便利屋扱いされていたToddに転機が訪れたのは、80年代洋楽をかじっていた者なら誰もが知っている、XTC 『Skylarking』でのプロデュース・ワークである。
 本来、主役であるはずの気難し屋Andy Partridgeの意向など右から左へ聞き流し、中~後期Beatles へのオマージュを強調したサウンド・デザインと、べアズヴィル・スタジオ特有のデッドな響きのミックスは、ファン以外の耳目をも虜にした。今でも彼らのインタビュー記事といえば、当時の確執が落語のマクラ的に語られるほどである。まぁリリースから四半世紀経ち、今となっては2人ともギラついたエゴは薄くなり、互いに持ちネタ化してしまっているけど。

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 Andy同様、Todd自身にとっても彼らとのコラボはターニング・ポイントとなり、再度アーティスト活動に本腰を入れるようになる。
 LPからCDへのメディア切り替えのタイミングと相まって、ベアズヴィル時代の作品がまとめてリイッシューされたことも、Toddにとっては追い風となった。それまでコアなファンの間でさえ幻の作品となっていたアーカイブも入手が容易になり、ファン層は一気に広がった。日本でも雑誌メディアを中心に再評価の機運が高まり、新譜もないのに来日公演まで行なわれるほどの盛況ぶりだった。
 俺がToddの事を知ったのも丁度この頃で、まだ雑居ビルの2階でせせこましく営業していた札幌のタワレコで、日本未発売の『A Wizard, A True Star』のLPを買った。その後、札幌に住むようになってからCDを買い漁ったのは良き思い出。

 Toddといえば「密室ポップの魔術師」の異名で独りスタジオに篭り、特に70年代を中心に趣味的な作品を乱発していたイメージが強いけど、実際のところはUtopiaの活動も並行して行なっており、幼いLiv Tylerを養うためかそれとも家に居場所がなかったのか、かなりの頻度でツアーも行なっている。なので、一般的な宅録アーティストと違って、他人との共同作業を避けていたわけではない。ソロを作った後はバンドでのアルバム、完パケ後はそれをひっさげてライブを行なう、といったローテーションが自然とできあがっていたようである。
 彼が描いた当初の構想としては、産業ロックの前身であるアメリカン・ハード・プログレをバンドで展開して経済面を確保し、実験作や地味な作風のものをソロでやる、という予定だった。しかし実際には、地味なバラードが多いソロの方が好評を博し、ブームが過ぎると冗長さばかりが鼻につく、シンフォニック・ロック路線のUtopiaは苦戦を強いられる。
 そんな事情もあって、Utopiaの音楽性は次第にポップ色が強くなり、終いには凡庸なパワーポップ・バンドとしてフェードアウトしていった、というのは余談。

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 彼のソロ作品の傾向のひとつとして、同じくスタジオ・ワーカホリックのPrince同様、凝りに凝りまくったサウンドというのは思っていたより数少ない。トータルのアルバム・コンセプトや楽曲単位でのこだわりは相応だけど、楽器の音色へのこだわりはそれほどでもない印象。コンプをかけたりテープ逆回転を使ったり、経験則に基づいたギミックを使うこともあるのだけれど、それらも衝動的・単なる思いつきで使用されたものが多く、熟考を重ねたものではない。
 思いついたアイディアはとにかく片っぱしから詰め込んでしまうため、正規リリースなのに音質はブート・レベルのモノも多い。幾度にも渡るピンポン録音によってナチュラルにコンプがかかっている上、2枚組サイズの収録時間を無理やり1枚に詰め込んでしまってカッティング・レベルは下がり、さらに音は割れまくる。思いついたらすぐ手をつけないと気が済まないのか、ベテラン・アーティストにありがちな、シンセやドラムの音決めに丸一日かけるなんてことはせず、ほぼプリセットのまんまでスタジオ・ブース入りしてしまう。エフェクターだって、そんなに持ってないんだろうな。
 当然、じっくり練り上げて熟成させるなんてことは頭になく、思いついたアイディアを考えもせず、とにかくまずはプレイしてみる。ほぼ勢いのみでセッションしてしまうので、正確なピッチやリズム?何それ?といった塩梅。完璧なバンド・アンサンブルやインタープレイなんてのもあまり重要視せず、一回通してせーのでプレイしてみて、大まかな流れやソロ・パートの配分を決めると、即本チャン突入、あとは自分のパートで気持ちよくギター・ソロが弾ければ、それでオッケー。

 結局のところこの人の場合、「こうするとどうなるんだろう?」といった無邪気な少年の視点が、すべての行動パターンの発露である。
 独得のコード進行による揺らぐメロディは多くのファンの心をつかみ、Roger Powellら手練れのプレイヤーを擁するUtopiaは、自由奔放なバンマスに振り回されることもなく、完璧なバンド・アンサンブルを構築していた。
 それなのにこの人は、既存のお約束・予定調和的なものを自ら崩そうと一生懸命である。普通にバンドでやればバランスよく仕上がるのに、わざわざ全パートをマルチ・レコーディングでもって自分独りで演奏したり、わざわざ手間ヒマかけて肉声を加工して変態アカペラ・アルバムを作ったり、しまいには「インタラクティブ」と称して演奏素材をバラバラに収録、リスナー側が各自でリミックスして曲を仕上げるという、何とも微妙な作品をリリースしたり。
 すべては、単なる好奇心をきっかけとした「やりっぱなしの産物」である。そもそもこの人、この時点まで2枚続けて同じコンセプトでアルバムを作ったことがないので、新譜リリースごとに音楽性が変わり、ライト・ユーザーは皆無、ほぼコアなファンしか残らない。好きな人からすれば「何をやってもToddだよね〜、もうしょうがないんだから」といったところだけど、そりゃファン層も拡大しないわな。

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 で、『Nearly Human』。
 これまでになくコンテンポラリー向きで、外に開かれたサウンドではあるけれど、結局のところ、これもまたToddの壮大な気まぐれの具現化と捉えれば、異質でも何でもない。ていうかこの人の場合、ほとんど全部異色作ばっかだけど。
 -大掛かりな予算と豪華なゲストを使って、スタジオで一同に介してプレイしてみたら、一体どうなるんだろう?
 そんな素朴な疑問と探究心が、このプロジェクトのカギとなっている。これまでは自ら積極的に楽器を操っていたけれど、ここではシンガーとプロデュース、むしろコンダクターに徹しているため、バンド・サウンドの足腰の強さが全体にも大きく影響を及ぼしている。設備としては貧弱極まりないべアズヴィル・スタジオと違って、レコード・プラントでのレコーディングは音の仕上がりが違っており、バック・トラックの音圧は強い。
 眼前に立ちはだかるゴージャスな音の壁の前では、流麗かつ不安定なメロディの微妙な揺らぎはかき消されしまうけれど、ここでのToddはメジャー仕様のサウンドに堂々と対峙して、細かなディテールを排除したストレートなメロディ・ラインでまとめている。「細けぇ事はいいんだよっ」とでも言いたげに。
 結果的に大味に仕上がった作風は、コアなファンからは不評であり、70年代の作品と比べるといまだ正当な評価が与えられていない。直球勝負のパワーポップ風味ブルー・アイド・ソウルと捉えれば、クオリティ的には申し分ないのだけれど。

Nearly Human
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1. The Want of a Nail
 ビルボード・メインストリーム・チャートで最高15位にチャートインした、Toddの大味なロック志向と不安定な揺らぎのメロディ・ラインとの奇跡的な融合。ゲスト・ヴォーカルのBobby Womackの参加がクローズアップされることが多いけど、俺的にはToddのヴォーカルにしか耳が行かない。この時期のBobbyは「ラスト・ソウル・マン」と称して第2のピークを迎え、Rolling Stones 「Harlem Shuffle」などロック系の客演も多かった時期だったのだけど、俺的にはこの人、演歌なんだよな。
 2分20秒当たりの転調の部分がとても美しいのだけれど、Bobbyのガサツなヴォーカルがちょっと興醒めしてしまう。生粋のソウル・ファンなら垂涎なんだろうけど。



2. The Waiting Game
 従来Toddのメロウな部分が80年代サウンドにアップデートされた、ソウル・テイストのポップ・チューン。ただこれまでと違うのは、Utopiaとは違うメンツでセッションを行なったことによる、外に開かれた楽曲であること。内に籠った落としどころのないメロディではなく、そりゃ普通の黄金コード進行とは違うけど、いつものToddよりは起承転結がはっきりした構造。やればできるのに。

3. Parallel Lines
 もともとはオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『Up Against It!』のために書かれた楽曲。もうちょっと突っ込んで調べてみると、要は我々日本人が想像する煌びやかなショー・ビジネスの世界とは違って2軍扱い、もともとはJoe Ortonという脚本家がBeatesにインスパイアされた戯曲を読んで、さらにToddがインスパイアを受けてデモテープを作り、その中の1曲という代物。あぁややこしい。その同名タイトルのデモテープ集が1997年にリリースされているのだけれど、ごめん聴いてない。この時期のToddはいささか空回り気味だったので、まともに追いかけている人はごく少数のはず。いつかちゃんと聴かなきゃと思いつつ、ずっと後回しだな。
 ここまで言ってなんだけど、楽曲の出来としては秀逸。後にライブでもたびたび披露されるくらいだし、本人としても会心の出来と自負があるのだろうと思われる。イヤミなく、良質のAORロッカバラードとして聴いてみてほしい。



4. Two Little Hitlers
 アナログでは未収録だった、CDボーナス扱いのElvis Costelloカバー。まだCD/LP同時発売の過渡期において、収録時間の都合上、こういった扱いの楽曲が存在した時代の話。
 オリジナル・リリースが『Armed Forces』なので、Costelloのキャリアとしてはかなり初期の作品で、正直、目立った楽曲ではないので、逆にToddの選曲眼が目ざとく働いた結果に落ち着いた。リズム面を補強した以外はオリジナルとほぼ同じアレンジだったのも、Costelloファンである俺にとっては好感が持てた。
 しかし今じゃ絶対承認降りなさそうなタイトルだよな。まぁこれ以上、深追いするのはやめておこう。

5. Can't Stop Running
 Utopiaメンバー全面参加、リリース当時、ソウル・オリンピックのアメリカ応援ソングとして制作されたことで注目を浴びた、とのことなのだけど、正直記憶にない。
 そういった宣伝コメントを抜きにしても、楽曲のクオリティはめちゃめちゃ高い。やはり旧知のメンバーが入るとスイッチの入り方が違うのか、ここではTodd、思いっきりギターを弾きまくっている。またソロが映えやすい構造になってるもんな。
 キャッチーなサビのコーラスといい各メンバーのソロの見せ所ぶりといい、路線が迷走した挙句、尻切れトンボ気味に収束してしまったUtopiaとしての理想形がここにある。プログレもソウルもビート・ポップも産業ロックもすべて飲み込んだ、耳にした誰もが自然と高揚感を想起させるエモーショナルが内包されている。



6. Unloved Children
 アナログだと本来、4.のポジションに配置されていたブルース・ロック。シャッフル気味のリズム・パターンが単調になるのを防いでいる。やっぱりロック・チューンになると血が騒ぐのか、ここでも短いけれど印象的なギター・ソロを弾いている。
 こうして5.と続けて聴いてみると、あぁUtopiaというバンドはロック向きじゃなかったんだな、と改めて実感する。前述のRogerといいKasim Sultonといい、どちらかといえばシンフォニック/プログレッシヴがバックボーンだし、ブルース要素が皆無だもの。

7. Fidelity
 3.と同じく良質のAORバラード。曲調や構成もほぼ似たようなもので、でも二番煎じとはとても呼べぬクオリティのメロディが炸裂している。ここまでロック路線とフィリー・ソウル・バラードとがほぼ交互にうまく配置されており、やはりこの人はプロデューサーなんだなと思わされる。バランスの取り方ひとつでクドくなってしまいそうになるのを、うまく回避している。あんな人だけど、ちゃんと第三者的な目線は持ってるんだな。

8. Feel It
 ニュー・ソウル期のMarvin Gayeを思わせるドラマティックなストリングスで幕を開ける、以前、プロデュースしたThe Tubes『Love Bomb』収録曲のカバー。正直、Tubesはちゃんと聴いたことがないので判断しかねるのだけど、Youtubeで聴き比べてみたところでは、アレンジのテイストはそんなに変わらない。ニューウェイヴ期のバンドという以上の印象がなく、これからも俺的な興味は引きそうにないので、まぁ無難なポップ・バラードということで。

Todd_Rundgren_and_Utopia

9. Hawking
 なんとなく無難な穴埋め曲の後は、そろそろアルバムも終盤、クライマックスに向けて走り出す。タイトルが示すように、テーマがあのホーキング博士。ドラマティックかつソウルフルに彼の足跡と今後の展望を讃えている。何かと最新テクノロジー系に興味深々のTodd、ここではゴスペルライクなコーラスと咽び泣くサックスの調べによって、アーバンかつムーディな…、って宇宙論や理論物理学とは相反するサウンドだな。

10. I Love My Life
 ラストはなんと9分弱に及ぶ一大セッション。総勢30名以上をまとめるのはNarada Michael Walden。何ていうかこう、「いい」とか「悪い」とか「好き」とか「嫌い」という次元を超えて、「人海戦術」ってのはこういうことなんだな、というのを実感させられてしまう。一大絵巻。何だかんだ言っても「We are the World」だって「Do They Know y It's Christmas」だって、どんな批判や中傷も、あの圧力の前では無力だ。個人個人のパワーを結集すると、とんでもないパワーが生まれるのだ、って恥ずかしいことをつい呟かせてしまうパワーを持った問答無用のナンバー。
 ちなみに大コーラス隊のメンツの中で、なんでこの人が?というのが、Mr.BigのEric MartinとPaul Gilbert。世代的にもClarence Clemonsは何となく繋がりがありそうだけど、なんでこの人たち?






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。ただでさえ時間ないのに、また新しい音楽ブログ『80年代の歌謡曲のアルバムをちゃんと聴いてみる』を始めてしまい、どうしようかと思案中。
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