好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Temptations

1972年、モータウンのお家事情 その2 - Temptations 『All Directions』

folder 1972年リリース、Temptations(テンプス)にとって16枚目のオリジナルアルバム。LPレコードというメディアの容量制限に合わせ、この時期のアルバムは大抵10〜12曲入りというのが定番だけど、このアルバムは8曲のみ。11分にも及ぶ「Papa was a Rolling Stone」が、3曲分は尺を取っているためである。
 ただ、それでもトータルでは35分程度、がんばればもう2、3曲くらい入りそうなものだけど、その辺はプロデューサーNorman Whitfieldの美学なのかな。コンセプトとしては、これで完璧、これ以上、足すモノも引くモノもない、ってな感じで。
 あともうひとつは、テクニカル面での問題。男臭いド迫力のヴォーカル、そこにアタック音の強いリズムが被さると、たちまちピーク・レベルを食ってしまう。なので、カッティングするとレコードの溝はどうしても太くなってしまい、長時間の収録は難しくなる。無理やり詰め込むと針が飛んでしまうし。

 「初期モータウンの男性コーラス・グループ」といって連想するのは、テンプスとFour Tops(トップス)に異論はないと思う。Miraclesは女性が1人いるし、Spinnersもちょっとメジャーになったら、すぐ移籍しちゃったし。
 あんまり詳しくない人だと、メンバーが4人または5人かの違い、または、「マイ・ガールを歌ってる方」と「そうじゃない方」くらいでしか、区別がつかないと思われる。ちょっと知ってる人なら、「サイケデリック・ソウル」と「そうじゃない方」、こんな風にザックリ分けられる。
 「ちょっと乱暴すぎるだろ「リーチアウト」(Reach Out, I’ll be There)があるじゃないか」という声もあるだろうけど、ゴメン、実はFour Topsあんまり聴いたことないんだ。だって地味だし。
 そのうち、ちゃんと聴いてみる。

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 モータウン内ではこの2つのグループ、一見するとあんまり違いはなさそうだけど、それぞれのデビュー当時まで遡ってみると、微妙な違いがあらわれてくる。
 オーディションを受けてモータウンに入社、その後、創業者Berry Gordy が手塩にかけて育て上げたのがテンプスであり、実際、ブレイクしたのは彼らの方が早い。
 対してトップスは、モータウンに移籍してきた時点で、すでに10年近くのキャリアがあった。まだ大きなシングル・ヒットこそなかったけれど、地元デトロイト界隈では知られた存在だった。絶対的なリーダーLevi Stubbs の力強いバリトン・ヴォイスはグループの牽引力となり、熱くダイナミックなステージ・パフォーマンスには定評があった。
 まだ実績の少ないモータウンに箔をつけるため、Gordy はトップスの獲得に奔走、幾度かのアプローチの末、熱意を受け取ったLeviは移籍に同意する。いわゆるヘッド・ハンティング、最初からポテンシャルを見込まれた、即戦力人材である。ある程度、基礎はできあがっているので、社員教育の手間も大幅に減る。

 モータウン以前のトップスのレパートリーは、男くさいゴスペル・ソウルが中心だった。モータウン入社後はコンセプトを一新、H=D=H(Holland – Dozier – Holland)によるポップ・ソウル路線を柔軟に受け入れている。「剛に入れば剛に従え」的な振る舞いは、やっぱり大人だよなトップス。
 ただ基本、トップスが歌う楽曲は正統派のR&Bが多く、極端にはみ出した作風にチャレンジすることは、ほぼなかった。マッチョな無頼漢を前面に出したヴォーカル・スタイルの前では、こざかしいギミックやアレンジでは陰が薄い。
 なので、テンプスのようなサイケデリック・ソウル路線、またはMarvin Gaye やStevie Wonder のようなニュー・ソウル路線にも、まったく見向きもしていない。一応、Norman の楽曲もいくつか歌ってはいるけど、まだサイケ路線に走る前のばかりで、そこまではっちゃけた作風のモノには手をつけていない。多分、上層部からもサイケ路線の要請があったんだろうけど、そこはLevi、全力で拒否したんじゃないかと思われる。

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 対してテンプス、ほぼ見習い社員的ポジションからスタートしたモータウンの申し子、いわゆるプロパー社員である。経営陣の命令は、基本断らない。気の進まないコラボだってやるし、「ちょっと合わねぇな」って曲にも文句は言わない。
 Gordyの大プッシュのおかげで、モータウンの歌姫として君臨していたDiana Ross との共演だって、文句は言わない。どうしたって彼女の引き立て役になるだけだから、みんなあんまりやりたくないはずなのに、彼らはやる。「よろこんで!」と、元気いっぱいに。仕事選ばんのか?

 モータウンのヒット生産システムの優れた点のひとつとして、「楽曲のリサイクル率の高さ」が挙げられる。
 ソングライター・チームが楽曲を書き上げると、スタジオ・ミュージシャンらによって演奏トラックが作られる。次にプロデューサーは、複数のアーティストでヴォーカル録りを行なう。この時点では、まだ誰のヴァージョンが正規リリースされるのか、まったく決まっていない。
 毎週金曜日に行なわれる本社ミーティングで試聴会が行なわれ、Gordyを始めとした幹部たちのお墨付きを得たものが、シングルとしてリリースされる。基準はただひとつ、「ヒットするかしないか」それだけ。数値であらわすものではない。
 そこまで厳選したとしても、ヒットするかしないかは、運次第。で、運良くそれがヒットすると、コンペ落選のストックからデキの良いものを引っ張り出すか、イキの良い新人に歌わせるかして、二番煎じ・三番煎じと繋いでゆく。まるで日本の演歌みたいなシステムだよな。
 演歌とモータウン、どっちが先なんだろうか。

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 トップスもテンプスも、メンバー内にソングライターはいなかったため、基本、社内ソングライターから降りてきたモノか、スタンダード・ナンバーを歌う立場だった。
 最盛期のモータウンは、「ヒット・ファクトリー」という名が表すように、とにかく作っては出し作っては出し、のベルトコンベア状態だった。レコーディング・スタジオは24時間フル稼働、ミュージシャンもずっと常駐していたくらいだから、とにかく体が空いてて声が出る者だったら、どんどんブースに押し込んで歌わせていた。
 そんなしっちゃかめっちゃか状態の中、テンプスは与えられた楽曲に不満を漏らすこともなく、次々にレコーディングしていった。初期のポップ・ソウルと比べ、Norman時代はカオティックな展開の楽曲が多くなっていたけど、声高に不満を表明する者はいなかった。「なんかイレギュラーな方向へ行ってるよなぁ」くらいは思ってたかもしれないけど、そこは会社への忠誠心が強いテンプス、思ってても口に出せるはずがない。
 対してトップス、ていうかLevi、「イヤなものはイヤ」とはっきり言っちゃうタイプである。あんまり知らないけど、多分きっとそうだ。あの強面を前にすると、無茶な要求なんてできないよな。
 そんなパワー・バランスなので、ちょっと面倒な案件、イレギュラーな楽曲はテンプスに回ってくる。やたらハイテンションな居酒屋店員みたいに「よろこんで!」って言っちゃうんだろうな。目は決して笑わず、顔筋だけの満面の笑みで。

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 金遣いの荒さやドラッグ問題など、何かとお騒がせなトラブルメーカーになっていたDavid Ruffinの脱退は、ほんの一瞬だけ、テンプスの人気に影を落とした。軽やかなダンス・ステップと、「官能的」とも形容された歌声は、グループの人気を独占していた。なので、後任で加入したDenis Edwards は、相当荷が重かったんじゃないかと思われる。
 Ruffin カラー払底のため、モータウンは総力を挙げてテンプスのイメチェンを図る。ちょうど上り調子だったNorman の作風の変化ともシンクロしていたため、また頑ななトップスへの当てつけとして、彼らはサイケデリック・ソウル路線へと、大きく舵を切る。
 もともとRuffin 在籍時から、その兆候はあった。従来のポップ・ソウルをベースに、JBを筆頭に台頭しつつあったファンクの要素、破裂音混じりのシャウト・ヴォーカルをフィーチャーしたのが、この路線の初ヒット「Get Ready」だった。
 当初はエッセンス程度だったのが、Ruffin と入れ替わるようにサウンドは激変する。ラジオ・オンエアを想定して、3分前後でまとめられていた楽曲は、ダンスフロア仕様を重視するかのように、10分前後まで引き伸ばされた。
 延々続くリズム・セクションの洪水は、次第にヴォーカル・パートを侵食してゆく。トラックメイカーNormanの才気煥発ぶりは、ポップ・ソングのセオリーからどんどんはずれ、しまいには、ほぼ3分の2くらいがインストになってしまう曲まであらわれた。
 そこまで行っちゃうと、もはやプログレ状態。

 トラックメイカーによる理想のサウンドと、基礎のしっかりした重心の低いヴォーカル&コーラス・ワーク。丹念に磨き上げられた歯車がうまく噛み合い、最良のギア比を叩き出したのが、この『All Directions』だった。
 テンプスのメンバー自身がサウンド・メイキングに関与したわけではないけど、やっぱトップスには頼みづらいサウンドである。だって、ヴォーカル・トラックを抜いても、充分成立しちゃうんだもの。
 トラディショナルなソウルから遠く離れたサウンドは、ヴォーカル・グループとしてのアイデンティを揺るがす。いくら彼らでも不満が募ったのか、これ以降、サイケデリック・ソウル路線は緩やかに沈静化してゆく。



All Directions
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1. Funky Music Sho Nuff Turns Me On
 熱狂的なライブのMCパフォーマンスを導入部とした、ソリッドなファンク・チューン。もちろん疑似ライブ。だけど、当時のエキサイト振りを忠実に再現している。
 当時、Normanと多く行動を共にしていたBarrett Strongによってシノプシスが描かれ、いつものようにFunk Brothersに委ねられ、ほとんどリズムしか入ってないトラックのいっちょ上がり。ヴォーカル抜いちゃえば、どれも大差ないもんな。
 この後に「Papa」が控えてることを思えば、何ともコンパクトであっさりした仕上がりと錯覚してしまうけど、イヤイヤちゃんとコッテリした味わいに仕上がっている。

2. Run Charlie Run
 トラディショナル・ソウルなホーン・セクションと、やたらキーの高いベース・ラインが印象的な横ノリ・チューン。ややゆったり目のテンポはボトムが低く、その後の大爆発の予感を孕む。ファンクネスはジリジリと、確実にユーザーの快楽中枢を刺激してゆく。

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3. Papa Was a Rollin' Stone
 彼らにとっては4枚目の全米No.1シングル。当然、各国でも軒並み上位チャートインを果たした、テンプスにとっての代表曲のひとつ。ポップ・ソウルなら「My Girl」、バラードなら「Just My Imagination」など、人それぞれ思い浮かべるテンプスは違うけど、「ファンキーなテンプス」として真っ先に挙げなければならないのが、コレ。他にも良い楽曲はあるし、あまりにベタな曲なんで、もう誰もインスパイアされることもなくなったけど、決定打といえば、やっぱり外せない。
 リズム・トラックのループ、ヴォーカルのカットアップ、エフェクトのダビングなど、あらゆるレコーディング・テクニックが駆使され披露されている。考えてみればこういうのって、特別目新しい技ではなかったはず。それがここでは、クリエィティブ的にもセールス的にも最大限の効果を上げている。なぜか?
 粗野で無骨なソウル・ミュージックは、時にクセが強すぎ拒否反応を示す場合がある。ロックの発展とシンクロしたレコーディング機材の進歩に乗じて、彼らはスピリットはそのままに、ソウルを摂取しやすい形に加工した。白人たちによって作られたテクノロジーを借用して。
 -それの何が悪い?そもそもソウル(魂)を収奪したのは、お前らの方じゃないのか?
 そんな叫びと嘲笑を含みながら、延々と曲は続く。



4. Love Woke Me Up This Morning
 ほぼ「Papa」メインのA面を終え、ここからはテンプスの通常営業、いわゆるソフト&メロウ路線。営業政策的には、こうした折衷案を受け入れることも必要である。全編サイケデリックでやりたいのなら、自分のグループ(Undisputed Truth)でやればいいんだし。
 オリジナルは1969年リリース、Marvin Gaye & Tammi Terrell 。基本アレンジはほとんど変わらないのに、オリジナルの甘酸っぱさがなくなり、力強い朝の目覚めを想起させる。マービンとタミーが夜明けのコーヒーなら、テンプス・ヴァージョンはラジオ体操。そんな印象を与える。

5. I Ain't Got Nothin'
 「メロウの極み」とも言えるフィリー・ソウルの表面をなぞって模倣したかのような、まぁ退屈な曲。これも営業政策的に、チーク・タイム的な楽曲が必要だったんだろうけど、誰もそこら辺をテンプスには求めていないのだった。

6. The First Time Ever (I Saw Your Face)
 Roberta Flackがデビュー・アルバムで取り上げたことで有名になった曲だけど、ほんとのオリジナルは1957年、イギリスのフォーク・シンガー作によるもの。Wikiを見ると、プレスリーからローリン・ヒルまで幅広いアーティストがカバーしてるけど、まぁテンプスがやるにはちょっとフックが弱い曲だよな。前曲同様、つい聴き流してしまうバラード。

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7. Mother Nature
 ユルいフィリー・ソウルが2曲続いたところで、やっとメリハリの効いた絶唱。ここはバッキングも、やたら気合が入っている。多分にA面で燃え尽きちゃって、B面はカバーでなんとか埋め尽くし、バラードの中ではデキの良いコレがあったから、どうにかアルバムの体裁は整っているけど、まぁやる気なかったんだろうな、Norman。B面の適当さが際立っており、だからこそ、このナンバーが一層映えて聴こえる。

8. Do Your Thing
 ラストはIsaac Hayes、当時の流行だったブラックスプロイテーション・ムービーの傑作『Shuft』からのシングル・カットのカバー。まるで最後っ屁のように、ドス黒ファンクがラストを飾る。
 テンプス的には多分、映像とシンクロしたトラックを作るHayesとの方が、相性が良かったんじゃないかと思われ。ドラッグ文化を中心に据えたNormanのサウンドはむしろ抽象的、時に散漫さが先行するので、歌の解釈という面ではHayesのサウンドの方が明快。もしNormanの意図を理解して歌い込んだとしても、どうせテープ編集で切り刻まれちゃうんだろうし。
 ヴォーカルとインストの配分を目分量で行なうと、頭でっかちの仕上がりになってしまう。その配分を超えてしまったのが「Papa」だった。まぁ何度もできるものじゃない。メンバーに怒られても当然だ。








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プロデュース次第で音はこんなに違う - Temptations 『Cloud Nine』

folder 1969年リリース、モータウンでは9枚目のオリジナル・アルバム。セールスとしてはUS最高4位UK最高32位となっているけど、当時のモータウンはまだシングル至上主義の勢力が強く、アルバムについてあぁだこうだと論じるのは、ちょっと難しい。だって、営業的にアルバム・プロモーションは二の次だったし。
 明るく楽しく元気なポップ・ソウルの量産体制によってチャート上位を独占していられた初期と違って、不穏な社会情勢とリンクするかのように、その強固な牙城は次第に綻びを見せてゆく。レコード販売の主力がシングルからアルバムへシフトしつつあったのと、ヒット曲を生み出す嗅覚に長けていたBerry Gordieのカリスマ性が逆に災いしたのも、時代に即応できなかった要因である。なんだ、今でも親族経営のブラック企業ならよくある話じゃん。
 前回のStevieのレビューでもちょっと触れたけど、そんな後期モータウン内の革新勢力の筆頭と言えるのがプロデューサーNorman Whitefieldだった。実際、その後期と称される60年代末から70年代初期、ほぼセルフ・プロデュース体制だったStevieとMarvin Gayeは別として、同時代性とうまくリンクさせたサウンドを構築していたのがNorman、そして彼がプロデュースに関わったアーティストらだった。

 Berry Gordieの右腕的存在として多くの曲を書き、また自らもMiraclesを率いて初期モータウンのプロトタイプを創り上げたのが、マルチ・クリエイターの先駆けSmokey Robinsonである。Bob Dylan をして「アメリカ最高の詩人」と言わしめるほどのソングライティング・スキルは、そのクオリティと量産性によって磨き上げられた。泥臭いブルースかゴスペルくらいしか選択肢がなかった黒人エンタメ業界に、白人ポップスと肩を並べるほどの洗練されたサウンドを創出したことで、モータウンの歴史的功績は大きい。
 で、ほぼSmokeyとGordieで作り上げた土台を基に、そらなるモータウンの飛躍に貢献したのが、Brian & Eddie Holland、Lamont Dozierから成るソングライター・チームH=D=Hである。全盛期のSupremesやFour Topsらの楽曲制作の大半を担い、Smokeyとの双頭体制によってレーベルの発展に貢献した。Beatlesを始めとした第1次ブリティッシュ・インヴェイジョンの攻勢に対抗できる唯一の存在として、Supremesを筆頭としたモータウン勢は当時、アメリカ国内では無敵の存在だった。

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 ただ、そんなのぼり調子もいつまでも続かない。モータウンの象徴とされていたSmokeyの制作ペースの衰えとクオリティのムラが目立ってきた頃と相まって、印税配分のトラブルその他もろもろによってH=D=Hが退社・独立する。制作部門の2トップが一時不在となったことにより、モータウンは深刻な人材不足にあえぐことになる。
 会社の成長に伴って、正当な利益配分を主張するのは当然の権利であり、流れとしては予測できる範囲なのだけど、単純な製造・販売業と違ってモータウンはレコード会社、制作部門においても利潤だけではなく、採算ベースに収まる範囲での芸術性が問われる。
 H=D=H側の主張としては、レーベルの方針通り、JIS規格的に特色のないポップ・ソウルばかりを作ることに辟易していた頃だった。キャリアを重ねるに連れ、判で押したような類似曲ばかりを量産することに飽きてきた彼らは、次第に創作上の自由を欲するようになる。
 ルーティンからの脱却という目的もあったけど、彼らがそんな志向へ至るには外的な要因、政治・社会的に激動しまくっていた60年代末という時代の要請も大きかった。
 「サイケ」「ラブ&ピース」がキーワードのフラワー・ムーヴメントの波が押し寄せてきており、それまでティーンエイジャー限定の通過儀礼と思われていたロックが、またロックに限らず音楽産業全体が成熟しつつあり、強固なイデオロギーを内包したメッセージ性の強いアーティストが台頭し始めていた。「明るくハッピーな60年代」は過ぎ去りつつあり、「不穏な70年代」の予兆がすぐそこまで迫っていることは、特別政治に関心がない者にでも身近な話題となっていた。

 そんな状況なので、その「明るい」象徴であるモータウンのサウンドは、すでに時代に取り残されたものだった。モータウン以外の黒人アーティスト、例えばJBはこの時期、アンチ・ポップとしてのファンキー・チューンを量産、その完成型である「Sex Machine」製作に向けて研鑽を重ねていた。モータウンが白人マーケットへ進出する際、ソフィスティケートするため削ぎ落としていた泥臭い要素、語義通りのリズム&ブルースを純化させたスタックスは、Otis ReddingやSam & Dave、Wilson Pickettらを擁してモータウン一択のダンス・シーンを着々と浸食していった。
 JBやスタックスが支持されたのは、どちらもモータウンと違って、作り物っぽくない生のソウルをあまり加工せず、素材の味を前面に出して市場に送り出したことによる。工場で厳密に品質管理されたポップ・ソウルより、生搾り大吟醸のごとく、未加工で荒削りなソウルが支持されるようになったのは、何も彼らが飽きられただけではない。公民権問題で自分たちの地位向上に意識的になった黒人層の増大が、時代がそう要請したのだ。

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 そんな外部環境の変化と社内でのパワー・バランスの変化、依然家族経営的なアバウトな運営に危機感を覚えたのが、社内では傍流に属していたNormanら若手クリエイターである。
 景気の波にうまく乗っている時はいいけど、一旦経営が不安定になるとかつての成功体験・必勝パターンにしがみつき、フットワークが重くなる。気分次第で作りまくった役職の多さが祟って命令系統がガタガタになり、何をするにも冗長な会議が必要となり、承認が下りた頃には、そのアイディアは時代遅れになっている。どこの会社も一緒だな。
 ヒットのお手本のような前任者2組はおらず、現場は若手ばかりである。上層部は混乱するばかりだ。何しろ制作チームが機能不全となっており、しかもリリース・スケジュールだけは決まっている。何かしらアイテムはリリースしなければならないけど、何しろタマが少ない。とにかく制作陣が物理的に足りないのだ。外部から引っ張ってきたりカバー曲で埋めたとしても、キラー・チューンはやはり自前で押さえておきたい。印税額が全然違うのだ。
 取りあえず、今いるチームで回してゆくしかない。少しでも実務経験がある若手なら、どんどんチャンスを与えてやった方がいい。骨格さえできてしまえば、あとは演奏陣Funk Brothersがどうにか形にしてくれる。ていうか、曲の体裁さえ整っていれば何でもいい。無音のシングルをリリースするわけにもいかない。何でもいいからサウンドが必要なのだ。例えそれが従来モータウンのサウンドっぽくなかったとしても。

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 そんな社内事情を逆手に取ったのか、この時期のNormanのプロデュース/サウンド・デザインはかなりはっちゃけたクオリティに仕上がっている。従来の親しみやすいメロディや軽快なビート、ひたすらポジティヴな歌詞はとことん無視され、ほぼ逆のベクトルを持つ楽曲が採用されることが多くなる。
 ラジオ・オンエアを無視した10分を超える長尺曲、ファンクイズムに基づいたシンコペーション主体のバック・トラック、住所不定のオヤジを嘆く歌詞など、後年のニュー・ソウルに通ずる構成パーツばかりなのだけど、いずれも否モータウンを表明するものばかりだった。従来ならほぼ100%が不採用となる案件ばかりだったけど、この時期は新曲コンペに出品できる作品自体が少なかったため、Normanの楽曲が採用されることも多くなる。それに比例して、彼の社内的ポジションも次第に有利なものとなってゆく。

 で、Temps。
 華麗なステージ・アクションと寸分違わずそろったダンス・ステップ。洗練されたルックスと小ぎれいなスーツの着こなしは、他モータウン・アーティストの範となるものであり、本流を歩んできたグループとしての佇まいは随一の人気を保っていた。しなやかなファルセットで女性ファンを魅了するEddie Kendricks、野太い男性的なテナーで全体を司るDavid Ruffinの2トップ体制は、永遠のスタンダード「My Girl」から始まる連続ヒットを生み出す原動力となった。
 正統派男性コーラス・グループとしてメロウ・チューンをメインとしていた彼らの転機となったのが、Ruffinをメインとしたヴォーカル構成、マッチョイズムを前面に押し出したパワフルなサウンドだった。特に「Ain't Too Proud to Beg」のスマッシュ・ヒットは彼らの脱・モータウン化をさらに助長させた。
 作曲とサウンド・プロデュースを行なったNormanもまた、スタジオ内で起こったマジックに興奮を覚えた一人だった。ハーモナイズを重視したこれまでのコーラス・グループという発想ではなく、5人のソロ・シンガーの集合体として、彼らそれぞれの見せ場を作るためには、既存のモータウン・システムではどうしても収まりきれない。新たなフォーマットが必要となる。ただ順繰りにメインを替えるのではなく、サウンド自体にストーリーを持たせることによって、そのシフト・チェンジはさらに効果的となる。

Temptations

 グループ自体のシフト・チェンジにあたるのが、この時代のTempsであり、モータウン・ファン的には「サイケデリック・ソウル」として位置づけられている。このサイケ・ソウル期終焉後、彼らはほんの一瞬だけディスコに走り、60年代サウンドをMIDI機材によってアップデートしたサウンドを提示した80年代を経、その後は緩やかなスロー・リタイアに至るわけだけど、やはり初期から70年代初頭までのこの時期に人気が集中しており、実際アルバム制作を中心とした音作り、イメージ戦略が行なわれている。

 これって中島みゆきでいうところの80年代、いわゆるご乱心期に当たるのだけど、そのみゆきご乱心期はファン的に「姫のお戯れ」、「夜会へ向かうまでの過渡期」として位置付けられている。サウンド的・コンセプト的にも時代とリンクしようと抗うみゆきの葛藤が色濃く刻まれているのだけれど、どこか傍流として扱われ、正当な評価がきちんと成されていない。
 それに対してTempsの場合、優等生的な初期と並んでサイケ・ソウル期もまたキッチュさが好評を得ており、古参のファンからも同列で支持されている。考えてみれば、これまで無数にリリースされてきた彼らのベスト盤にはどれも、「My Girl」と「Papa was a Rolling Stone」が収録されており、しかも違和感なく受け入れられている。
 冷静に考えればすごいことだよな、これって。ヴォーカリストは同じだけど、サウンド的にはまったく別物だもの。

 で、そんな彼らのサイケ・ソウル期の本格的なスタートとされているのが、この『Cloud Nine』。10分弱もある1曲を除き、他9曲はだいたい2~3分程度のサイズに収まっているけど、タイトル曲を含め、従来モータウンではほぼ使われることのないファズ・ギターや不穏なベース・ソロなど、プレイヤビリティあふれる演奏が収録されている。こういったところ、やはりNormanの持ち味全開である。下手すると、ヴォーカル抜きでも十分成立してしまうくらい、インスト・パートの完成度がハンパない。
 もうひとつの特色として挙げられるのが、David Ruffin の脱退劇。Buddy Holy並みにインパクトの強いセルフレームを着用していたDavid、外部にそそのかされたのか、それともNormanとソリが合わなかったのかどうかは不明だけど、代わりに入ってきたのが、力強いテナー・ヴォイスを持ち味としたDenis Edwards。力強さはあったけれど、どこか品の良さが窺えたRuffinに対し、パワフルさに加えて泥臭さを備えたEdwardsの声質は、原音を変調させた音色を好むNormanのコンセプトにうまく合致していた。
 ここから数年、従来モータウンの内部崩壊をよそに、新生Tempsの果敢なサウンドへの挑戦の日々が続く。いやもっぱらNormanの苦闘だけど。


Cloud Nine
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1. Cloud Nine
 ハイハットが大きめにミックスされたリズム・トラックにファズ・ギターがからむ、これまでのモータウン・サウンドとの違いを明確にした決意表明。よく聴くとギター自体は決して突飛なプレイではなく、あくまでモータウン・マナーに則った範囲のものであり、これはやはりNormanのプロダクションの成せる業と言える。ちなみに弾いてるのは若き日のDennis Coffey。US6位UK15位まで上昇した、サイケ・ソウル期の幕開けを飾るグルーヴィー・ファンク。



2. I Heard It Through the Grapevine
 わかりやすく邦題に直すと「悲しいうわさ」。ちょっぴりアーシーな泥臭い仕上がりは、ファンクとはまた別のベクトル、当時のアトランティック系ソウルへのオマージュとして受け止めればスッキリする。
 もっとも有名なMarvinのヴァージョンはもっと軽やかなポップ・チューンだったけど、作者であるNormanからすれば、これが本来の理想形である、と言わんばかりに別の仕上がり具合になっている。あまりにMarvinヴァージョンが定番となっているので、やっぱりパンチとしては弱い。いい仕上がりなんだけどね。

3. Run Away Child, Running Wild
 約10分に渡る壮大なファンク・シンフォニー。ここまでNormanがおぼろげに描いていたビジョンが一気に具現化された、この時点での彼の到達点。シンプルなリズム・トラックながら複雑なコーラス・アレンジが絡む構成は、到底単一のヴォーカリストで実現できるはずもなく、多彩なキャラクターの集合体であるTempsでなければ実現しなかった。
 長尺のナンバーのため、プログレと比較されることも多いけど、あそこまで理屈やプレイヤビリティが重視されているわけではなく、スタイル的にはあくまでヴォーカル & インストゥルメンタル、不可分のスタンスとなっている。

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4. Love is a Hurtin' Thing
 で、主役Tempsを一素材として扱うといった、贅沢な実験としてのA面が終わり、ここからはアナログB面。後期は実験的ファンク路線をさらに推し進めていったNormanだけど、この頃はまだ社内バランスを考慮しており、オーソドックスな従来モータウン・ナンバーが軒を連ねている。
 甘くゆったりしたバラード。これはこれで良い。同時進行でもう一枚作っちゃえばよかったのに、と思ってしまうほどのクオリティ。

5. Hey Girl
 野太いバリトンを受け持つPaul Williamsがリードを取る、まるで『ジェット・ストリーム』のようなストリングスをバックに力強く歌い上げるミディアム・バラード。メンバーそれぞれがピンを張れる力量を持っているため、これだけバラエティに富んだサウンドが散りばめられている。

6. Why Did She Have to Leave Me (Why Did She Have to Go) 
 しかしA面3曲/B面7曲という構成は、かなりいびつなものである。3.以外のナンバーはほぼ3分弱、これまでとまるで変わらないポップ・ソウルで占められている。
 時代的にどの歌声にもやや泥臭さが窺えるけど、これこそがTempsの得難いパーソナリティでもある。このような凡庸な曲でも最後まで聴かせてしまう、良い意味での力技が存分に発揮されている。

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7. I Need Your Lovin
 Eddieのファルセットが冴える、後のStylisticsにも通ずる軽いメロウ・サウンドが映えるミディアム・チューン。よく聴くと走るベース・ラインが耳を引く。何気ないポップ・サウンドでも小技を利かせているのは、若いながらも目端の利くプロデューサーNormanの力量による。これまでならベタなホーンで埋めてしまうところを、シンプルなバッキングで歌を引き立てている。

8. Don't Let Him Take Your Love From Me
 これまでの初期Tempsを愛するファンにも受けの良い、サザン・ソウルのフェイク的なアレンジが光るナンバー。「~風で」というオーダーに乗ったFunk Brothers勢のグルーヴ感が真空パックされている。
 やっぱすごいグループだよな、Tempsって。ヴォーカリストによってまるっきり別のグループに聴こえてしまうほど、個々のスキルが高すぎる。ここまで別の側面を見せられるグループを、俺はThe ALFEE以外に知らない。ちゃんと聴いたことないけど。

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9. I Gotta Find a Way (To Get You Back) 
 ビート感は完全に従来モータウン。ホーンの配置、シンコペートするリズムといい、この時代ではすでに時代遅れ。ユニゾンするストリングスの使い方もちょっとダサめだし。これなら初期チューンを聴いた方がいいや、とまで思ってしまう。出来はいいんだけどね。

10. Gonna Keep on Tryin' till I Win Your Love
 ランニング・ベースがリードを取る、従来モータウンのホーンとコーラスとを奥に引っ込めたナンバーがラスト。むせ返るほどの男臭さが特徴のEdwardsのヴォーカルは、一聴するとFour Topsの方がしっくり来るんじゃね?と思ってしまいがちだけど、ユニゾン志向のTopsよりは、個性を尊重したハーモニー志向のTempsの方がずっとパーソナリティを活かしきっている。適材適所というのがあるんだな、どの世界にも。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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