好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Sting

17年ぶり、ノスタルジーじゃないロック - Sting 『57th & 9th』

folder 一般的に粗野なイメージが強いとされるパンク・ミュージシャンの中では、知性派と思われているのがStingである。世代的に見てロートルの部類に入るキャリアながら、敢えてその技を封印して直情的なパンク・ビートを戦略的に演じきったデビュー当初を経て、確固たるポジションを確立してからは、IRA紛争だユングの同時性だ熱帯雨林の保護だ、と考えてみれば享楽的とされている80年代ポピュラーの中では異彩を放つメッセージ性を露わにしていた。そう考えれば、やはりこの人は70年代の感性を持つアーティスト、既存の体制に向けてしっかりnonを表明できるキャラクターである。

 難解な専門用語をさも当然のように語り連ねることでインタビュアーを煙に巻いたり、何かと弁が立つ人なので、それゆえ誤解されることも多い。本人としては、アマゾンの自然破壊もアムネスティ活動も真摯に受け止め、本気で何とかしようとして熱弁を奮ったり作品に反映させたりしているのだけど、常に冷静さを感じさせるクレバーな印象は、地位も名声も手に入れてしまったロック・セレブの余技として映ってしまう。
 もっとBonoみたいに、下世話に押しを強く打ち出せば、必死さが伝わって共鳴する者も多いのだろうけど、その辺は本人のプライドの問題なのか、口角泡を飛ばす雰囲気は出さない。彼はあくまで代弁者、「世界ではこんな悲劇が連日起こっていて、僕はそんな現状があることをみんなに訴えたい」というスタンスを崩さない。これがBonoだと、本気で世界を変えようとしているのか、世界中のVIPと会談したり声高に訴えたり、何かと忙しそう。まぁ本気でそう思ってるのかは別として。

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 21世紀に入ってからはSting、クラシック方面での活動も多くなる。Paul McCartneyやKeith Emarsonのようにポップ/ロックのバリエーションのうちのひとつといった選択肢ではなく、名門ドイツ・グラモフォンと契約したりなど、わりとガチな活動ぶりである。
 一応、「これまでの既発曲をクラシック・アレンジで再解釈を試みる」といったコンセプトであり、まぁ彼のことだからそつなくこなしてるんだろうな、とは思っていた。でもタイトルが『Symphonicities』。こりゃないんじゃない?どう深読みしたって過去のセルフ・パロディとしか思えないネーミングである。そういえばSting、以前も書いたけどジャケット・センスも良くなかったもんな、Police の時代から。

 これがまっさら状態で挑むのなら、そういったタイトルもアリなんだろうけど、考えてみればコアなファン向けのアイテムであるがゆえ、これまでStingの作品をまったく聴いたことがありません的なユーザーが、このアルバムを進んで聴くとは思えない。どうしても従来のStingファンが聴く方が圧倒的に多いわけであって、前述のセルフ・パロディを連想して失笑してしまう情景が思い浮かぶ。ほんとのコア・ユーザー向けのアイテムだよね、これって。なので俺、これはまったく聴いたことがない。

 という事情もあって、今後も多分聴くことはないと思う。こうなったら意地でも聴くもんか。クラシック・アレンジ?興味ねぇよそんなの。
 なので、『Symphonicities』のリリース・インフォメーションを読んだ俺の印象は、非常にネガティヴなものだった。
 「あぁ、もうキャリアとしては上がりなんだな」「あとはゆっくりとリタイアしてゆくのだな」とも。
 今さら新境地なんて必要ない。ロックのフィールドでやれることはやってしまったし、ていうかロックに革新性を求める風潮はなくなってしまったし。ロック・セレブとしてのスタンスはよほどのことがない限り盤石だし、あくせく働く必要もない。5年に1度、今でもメイン・ユーザーである40代以上のミドル・エイジに合わせた「大人のロック」を演じればよい。
 グラミー賞のセレモニーやNBAのハーフタイム・ショーで、クライアントの要望に合わせたサイズのステージ・パフォーマンスを演じるStingを見ていると、そう思う。誰も損しない世界。多くを望まなければ、そこではほどほどの充足感が得られる。このペースを崩さず、ゆっくりとフェードアウトしてゆけば、晩節を汚さずに済む。
 と思っていた矢先、ここに来てのロック・フィールドへの前線復帰である。どうしちゃったの?覚醒?

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 Stingと言う人は、コメントやインタビューでの弁が立つおかげで、緻密なロジックを行動規範としていると思われがちだけど、案外その時その時の感情をストレートに作品へと昇華してしまう、根は素直な人である。
 これまで培ったロックのスキルを一旦脇に置いて、若き無名のジャズ・ミュージシャンとコラボして独自の世界観を確立した『The Dream of the Blue Turtles』『Nothing Like the Sun』の時期は、Stingの創作意欲がピークに達していた頃である。ジャズともロックともカテゴライズできない、正しくSting’s Musicと形容されるサウンドは、その後のアシッド・ジャズともコミットしない独自のものである。
 このままこの路線で行ってたら、エスニック・ビートの導入からPeter Gabriel的なサウンドのシンクロニシティもあり得たのだろうけど、前後して実父の死を始めとしたプライベートでのトラブルが重なり、ソングライターとしてのStingに内的変化が生じてくる。センチメンタリズムを排除したこれまでのドライな音楽性に、内的なヒューマニズムの影が差しこむようになる。

 プライベートな感情吐露を自伝的に綴ったシンガー・ソングライター的作品『Soul Cage』は、前作の勢いもあってセールス的にはアベレージ・クリア、これまでにないStingの人間的な側面が垣間見られた作品だったけど、当時の俺的には内省的な干渉がウェットに思え、1、2回聞いた程度ですぐ売っぱらってしまった。
 普通、鉄面皮だったアーティストがこれまで見せなかった心情面をさらけ出す作風の変化は、ファンにとって喜ばしい行為であるはずなのに、彼の場合、そういった風には取られなかった。こう思っていたのは俺だけじゃないはずで、実際、『Soul Cage』以降の作品はセールス的には成功を収めているけど、クリエイティヴな面で評価されることはほとんどない。以前より多くのユーザーに、「普通の大物ロッカーの新譜」として消費されていったのだ。なので、後に残るものは少ない。
 真の意味でプログレッシブな存在だったStingは、一旦ここで終わってしまったのだ。

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 なので、『Soul Cage』以降のStingとは、俺の私観で言えば長い長い余生、引き伸ばされたエピローグのようなものである。そういうわけで俺、『Mercury Falling』も『Last Ship』も聴いてない。俺の中でのStingは、『Nothing Like the Sun』までの人だったのだ。
 この間にPoliceの再結成があったけど、現在進行形を捉えたサウンドの提示はなかった。それはあくまでデビュー30周年というお題目で集まったセレモニー的なイベントであり、継続する活動ではなかった。契約的に新曲制作ができなかったこともあるしね。

 その後のStingのキャリアは、総決算的な活動に収束して行く。新境地開拓として、クラシックへのアプローチは果敢なチャレンジなのだろうけど、あくまでロックのフィールドに踏みとどまっている彼を支持していた多くのファンからすれば、「そうじゃないんだけど」感が強かったはず。ていうか、ファンが求めるSting像とは円熟や深化であって、今さら別に新しいものを求めてるわけじゃないのだ。
 その時々の感情の揺らぎがコンセプトに反映するStingだけど、それなりに優秀なブレーンも揃っているだろうし、また自身も常に第三者的な視線を持ち合わせているので、ファンのニーズは常に気にしているはず。
 そういう人だからこそ、何かとリスクの多いPolice再結成にも同意したわけで。

 思えば、前回レビューでも取り上げたPeter Gabrielとのジョイント・ツアーが、今回のポップ・フィールドへの回帰のきっかけになったんじゃないかと思われる。
 近年のこの手のジョイント・ツアーは、主に北米を中心に行なわれるため、映像で見ただけだけど、2人とも良い意味で伝統芸能の域に達していた。StingもGabrielも、自分のパートを全盛期にも勝るテンションでプレイしながらも、パート・チェンジに差し掛かるとスッと身を引き、メインのサポートに徹する。その間、アーティスト・エゴのコントロールが絶妙なのだ。
 これが80年代だったら、お互いエゴのぶつかり合いで俺が俺がになっていただろうし、そもそもタッグを組むことなどあり得なかった。一応は現役だけど、第一線からはセミリタイア気味の両名、年月を経てキャリアも確立したゆえの、いわゆる大人の余裕である。
 入念なリハーサルとシミュレーションによって、緻密にコントロールされたステージ構成には破綻がない。多少のサプライズがあっても即時対応できる、熟練のバンド・メンバー、ベテラン・スタッフが後ろに控えている。メイン・キャスト2名は思うがまま、真摯なエンタテインメントとしてプレイするだけ。でも、安心して聴くことができる。危機管理が徹底しているのだ。

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 Genesis時代のGabrielは、自己陶酔と自虐の入り混じったシアトリカルなステージング、ソロ以降のStingは、カッチリ構成されたジャジーな大人向けのサウンドを展開していた。その2人のアーティスト・エゴは高く評価されたけれど、その完成度の高さゆえもあって、息苦しささえ感じられたことは事実。ある意味、ユーザーへの課題提示、「この世界観を理解できなきゃダメだ」的な圧迫感を漂わせていた。一見さんはお断りなんだよな、昔の2人って。
 で、今ではすっかり角の取れた2人である。もはや先へ進む冒険は必要ない。彼らに求められているのは、共感できるノスタルジーだ。事前リサーチによってセレクトされた、観客のニーズを的確に捉えたヒット曲を、可能な限り往年のテンションで、きちんとアリーナ・サイズに収めてプレイする。
 そこには、音楽的挑戦やアクシデントはないけれど、確実にwin-winの関係が築かれている。

 そのツアーに入る前に作られた、「ポップ・フィールドへの前線復帰」とされているのが、今回の『57th & 9th』。
 先日、スマスマでもプレイしていた、冒頭のシングル曲だけ聴いてると何だか微妙だけど、アルバム後半に進むに従って、ロック的なダイナミズムが復帰しているのがわかる。まぁ戦略上のつかみとして、「オーソドックスな大人のAOR」というのは、一般人が思うところのSting像であり、マーケティング・リサーチに基づいた構成なのだろう。『Nothing Like the Sun』でも、CM曲の「We’ll Be Together」だけ妙に浮いてたけど、アルバムのウリとしては必要不可欠だったし。
 今回、彼がやりたかったのは、もっと初期衝動に基づいた粗野なビート、それでいて65歳の自分の身の丈にあった、回顧モードじゃないロックを演ってみたかった、というのが正直な気持ちだろう。ここ20年くらい、事実上の固定メンバーとなっているDominic Miller (g)、Vinnie Colaiuta (dr)との3名で断続的に行なわれた荒々しいセッションをもとに、ほんの少しのコンテンポラリーな味付けを施されて、このアルバムはリリースされた。

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 年末の慌ただしいプロモーション来日を経て、2月のバンクーバーから始まる世界ツアーが始まるわけだけど、インフォメーションを見ても日本公演の予定は入っていない。スケジュール的なものなのかギャラ的なものなのか、その辺はちょっとわかりかねるけど、夏フェスあたりに照準を合わせているのか。
 今年いっぱいはロック・モードのStingだけど、その後もロック・サウンドの深化を図るのか、それとも再度クラシック方面へ回帰してしまうのか。まぁ好きでやることだろうから、こちらからは何も言えないけど、飽きたらまた戻ってきてよ、としか言いようがない。
 それよりさ、もう一回、Policeやってみれば?今度はソロ作品持ち寄って、「せーの」で3人でセッションするみたいな。Stingがすっごく身を引けばできるんじゃないかと思うんだけど。
 まぁ無理か。Stewartが暴君になるのを耐えられないよな。


57TH & 9TH
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STING
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1. I Can't Stop Thinking About You
 アルバムからのファースト・カット・シングル。リリース前のインフォメーションで紹介されるのはほぼこの曲だったし、前述のスマスマでも選曲されていたので、それほど感心がなくても耳にしたことがある人は多いはず。Stingも現役でガンバッてるんだなぁと感慨に耽りながらカーステレオで聴き流してしまう、そんな曲。FMで流れてると、「おっStingだっ」と反応してしまうけど、でもそれだけ。別に購買意欲を掻き立てられるほどではない。アベレージはクリアしましたよ的な佳曲。



2. 50,000
 アルバムリリース前に配信された、Prince死去を受けて書かれたトーキング・ブルース風バラード。BowieやGlenn Frey、MotörheadのLemmyについても言及しており、ロック全盛期を担ったアーティストらの鎮魂歌となっている。Sting自身も65歳、そろそろ終活的な楽曲がリアルに響いてきた。そんな歳なんだな、アーティストも俺も。

3. Down, Down, Down
 曲調としては1.と似てるけど、キーが低めのヴォーカルとピッチを落とした演奏が90年代アメリカ・オルタナっぽい印象。ギターの音なんてまさにソレ。Police時代ならもっと速いテンポでプレイするのだろうけど、ここではじっくり腰を落とした大人のロック。タイトル通りだな。

4. One Fine Day
 畳み掛けるようなサビがSting節といったところ。メロディからは『Soul Cage』時代のシンガー・ソングライター的なテイストが感じられる。なので、ロックっぽくはない。ただ、メロディ的には収録曲の中では群を抜いている。

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5. Pretty Young Soldier
 出だしのギターの音色がXTCっぽく感じられたけど、考えてみれば同世代だった。ポップ要素を混ぜた変則リズムのロックは、俺世代にとってはツボ。ステレオタイプのロックではないけど、Stingらしさが発揮されたナンバー。屈折してないAndy Partridgeといった風情、俺は好き。

6. Petrol Head
 わかりやすいギター・リフ、そしてここにきて初めてシャウトするSting。コード進行も至ってシンプル、ステレオタイプではあるけれど、ファンからすればテンションが上がる一曲。しかも、たったの3分間。勢いだけじゃなく、きちんと練り上げられたうえでのストレート・アヘッド。Policeでやったらもっと面白いのに、と無いものねだりしてしまう。

7. Heading South on the Great North Road
 ここでいったん休憩、アクセント的にブリティッシュ・トラッド風味のアコースティック・チューン。わかりやすくいえば「Fragile」。
 しかし、どの曲も3分程度で心地よい。CD時代になってから、やたらイントロ・アウトロの長い5~6分サイズの曲ばっかりになったけど、配信時代になってからはその辺も自由になった。

8. If You Can't Love Me
 で、この曲が4分半。ギターのアルペジオはきれいに響いてるけど、それだけの印象。7.との組曲的扱いとなっているらしいけど正直、7.だけでいいかな。

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9. Inshallah
 ある意味、このアルバムのハイライト。これまでリズムやメロディ面でのアプローチとして、第三世界のマテリアルを咀嚼し、活用することはあったけど、アラビア圏のイディオムの使用は初めて。これ見よがしにアラビアン・テイストを使っているわけではない。あくまでコンセプトとしてのInshallah、構成しているのはすべてロックの言語である。
 ボーナス・トラックのベルリン・セッション・ヴァージョンでは、もっと中近東テイスト満載なのだけど、そこをうまく咀嚼して明快なパッケージにしてしまうのが、やはりStingの成せる業。あからさまにアラビックに染めてしまうのは、どこか抵抗があったのだろう。



10. The Empty Chair
 ラストはしんみり、アコギ一本で奏でられるバラード。正直、これってStingじゃなくってもいいんじゃね?的な無難なバラードだけど、2分半といったコンパクト・サイズは好感が持てる。ここでドラマティックなエピローグにしないところが、彼の趣味の良さなのだ。
 でも、相変わらずジャケット・デザインはダサいままだよね。




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意識高い系ロックの最先鋒、最後の大風呂敷 - Sting『Nothing Like the Sun』

folder 先日、Peter Gabrielのレビューの時にチラッと紹介した、Sting & Gabrielのジョイント・ツアーがアメリカのコロンバスからスタートした。
 映像を見てもらえれば分かるように、左がGabriel、右がStingで、両方のバンド・セットが同時にステージに上がっている。通常、大体同じステイタスのアーティストが共同でツアーを行なう場合、前半・後半それぞれのセットに分かれた二部構成形式で進行し、実際にコラボを行なうのはアンコールで1、2曲程度、ということが多いのだけど、ここではセット・チェンジもなく、2バンドともほぼ出ずっぱりでプレイしている。


 
 曲順構成も独特で、自身の持ち歌を3曲以上ソロで続けて歌うことはほとんどなく、例えばStingが「Driven to Tears」「Fragile」とプレイすると、続けてGabrielサイドが「Red Rain」になだれ込む、という豪華すぎる展開になっている。2人で交互に「Games with Frontiers」をデュエットしたり、Gabrielが「Set Them Free」を歌ったりなどサービス精神もフル稼働、チケット代以上の価値があることに間違いはない。
 一番高いシートでも325ドル前後なので、2016年夏現在、円高傾向の日本人、特に45歳以上の洋楽好きにとってはヨダレが出ちゃうほどお得な話なのだけど、まぁ今さら買えるはずもないか。とっくの昔にソールド・アウトしちゃってるし。

 形態的には一応対バンなのだけど、場末のライブハウス・レベルの鬼気迫ったムードはなく、そこは分別ある大人同士、一方が見せ場の時は引き立たせ役としてスッと引っ込み、「どうぞどうぞ」とメインを譲り合っている。
 かつては2人ともアーティスト・エゴの権化のような丁々発止を繰り広げていたけど、すっかりアクの抜けきったここでの彼らの所作は、まるでサラリーマンの接待カラオケのよう。そんなユルいスタイルのステージなので、相手を凌駕しようとする気は、お互いまるでない。
 ユルいムードなのは観客も同じで、だだっ広いスタジアム級の会場は、コンサートというより野球観戦の雰囲気に近い。ドリンク片手にスタンドをウロついているのは普通で、StingのファンはGabrielメインの時は平気でトイレ・タイムに立ってるし、そのStingメインの時も釘付けになるのではなく、終始リラックス・モードでくつろいでいる。
 そう、スタンドからアリーナまで一体感を共有し、総立ちになる類いのライブではないのだ。ここで行なわれているのは、もっとカジュアルな、外野スタンドの芝生で寝っ転がりながらビールをあおる、そんなスタイルのライブなのだ。

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 多分アーティスト側も、通常のソロ・ライブのように、ステージ構成を緻密に組み立てたり、観客へのスタンディングを強要する感じではない。言ってしまえば「ふたりのビッグショー」的な、お茶の間で家族そろって安心して見ていられる、そんな和やかなムードに満ちている。
 ここで演じられているのは極上のエンタテインメント、ラスベガスの常設ステージに立つCeline DionやRod Stewartを彷彿させる、そんなショーである。
 ロックの歴史の長いアメリカでは、こういったジョイント・ツアーが主流となりつつある。ステージ設営など諸々の経費も半分で済むし、体力的な問題でフルセット演奏するのが辛くなってきたアーティスト側の負担も、大幅に解消される。
 なんだ、そう考えりゃいい事ばかりじゃん。

 今では懐メロショーの大御所的立場となってしまったStingだけど、そんな彼のクリエイティヴィティがまだ高く、ロックの可能性の新たな地平を切り開いていたのが、80年代後半という時代である。
 お子様向けのポップ・ソングや、お手軽なシーケンスでお茶を濁したような駄曲も多かったけど、そんなのはいつの時代も変わらないわけで、極端な話、ロックが真の意味で進歩的であった最後の時代が、この80年代後半だったと思うのだ、俺的には。
 何かと言えば「ロックは70年代まで、いや60年代で終わってしまった」と訳知り顔でのたまう連中も多いけど、その時代をリアルタイムで過ごしてきた俺にとって、ロックの全盛期はやはりこの時代なのだ。「空白の80年代」「商業性を優先した産業ロック」など、流し聴き下だけできちんと聴こうともせず、思考停止状態で昔の音楽ばかりを無条件で崇め奉ったりする輩が多すぎる。
 昔のレココレって、そんな空気が充満してたよね。

 で、Sting。
 ある意味、発展的解消を遂げたPolice解散後、彼の創作意欲はとどまるところを知らず、ソロ・デビュー・アルバム『The Dream of the Blue Turtles』リリースに伴う長期世界ツアーを終えると、あまりブランクを空けずリリースされたのが、この2枚目のアルバム『Nothing Like the Sun』。
 バブル絶頂期の1987年にリリースされたこのアルバム、当時の勢いからしてUK1位US9位は順当な実績だけど、なんとここ日本においてもオリコン1位を獲得している。確かに「We'll be Together」がCMに起用されたため、お茶の間への浸透度もそれなりにあったけど、こんな地味なサウンドがユーミンや明菜と肩を並べてチャートインしてしまうのも、まだ海外アーティストに対する憧れが強かった時代の特徴である。深夜だったけど、「ベスト・ヒットUSA」も「MTV」も普通に見れたしね。
 しかもこのアルバム、収録時間が中途半端でレコードでは1枚半、要するに2枚組で販売されていた。今はCDやダウンロード販売が主流なので、このアルバムも普通にシングル・アルバムとして分類されているけど、当時のレコードの2枚目裏はツルツルの塩ビ盤で何も録音されておらず、ちょっぴり損した気分になった人も多いはず。
 価格こそ、シングルとダブルのほぼ中間帯に設定されていたけど、「もったいない」という気持ちを強く持ってしまうのは、平均的な日本人の性である。シングルB面でもライブ・テイクでも、何かしら埋めてしまえばお得感もあるのに、と余計な助言までしてしまいそうである。まぁ、アーティストに経済性をもとめてもしょうがないか。
 当時、このアルバムがリリースされたレーベルA&Mでは、Joe Jacksonも全新曲のライブ・アルバム『Big World』において、同様のフォーマットでリリースしている。考えてみれば、JoeもSting同様、意識高い系アーティストの先鋒的ポジションであるからして、奇跡的なシンクロニシティがあったのだろうか。
 まぁ、偶然なんだろうけど。

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 ここで奏でられるサウンドは、基本前作を踏襲した「若手ジャズ・ミュージシャンのジャズ的解釈によるドライなAOR」となっており、前作に引き続いて参加のKenny Kirkland (key)、Branford Marsalis (sax) が、一層こなれたプレイを披露している。ドラムには、Gabriel 『So』でのプレイで名を挙げたManu Katché と、安定のベテラン・ミュージシャンAndy Newmark を起用しており、これまでよりさらに複合的なリズム・プレイを追求している。
 のちに公開された、デビュー・アルバムと同タイトルのドキュメンタリー映画では、若手ミュージシャンの強化合宿の如く、タコ部屋的な短期集中レコーディングが行なわれていたけど、ここでは比較的時間をゆったり取った、半年に及ぶ断続的なスタイルでレコーディングが行なわれている。
 意識高い系ミュージシャンの筆頭として、常にクリエイティヴィティを追求していた彼としては、前回と同じアプローチの作業スタイルでは、デビュー・アルバムを超えるものができないことを悟っていたのだろう。基本コンセプトは前作のそれをなぞりながらも、まったく別のアプローチを取る必然性があった。
 レコーディング時期が多岐に渡っているおかげもあって、有名無名ジャンルを問わず、バラエティに富んだミュージシャンが名を連ねている。同じロック・セレブとして王道を歩んでいたEric Claptonや、ジャズ畑の大御所Gil Evansなど、話題を集めるメンツも多い。共通しているのは、鼻につくほどの選民性、インテリジェンス臭漂う意識の高さである。
 そんな中、顔を合わせれば殴り合うことが挨拶代わりだったPolice時代の盟友Andy Summersが何食わぬ顔で参加しているけど、まぁこれは話題性というより腐れ縁と言った方がよい。ていうか、あのバンドの鬼っ子はダントツにStewart Copelandだし。

 この時期のStingは、プライベートで母親を亡くし、精神的にまいっていた頃となっている。これまでメディアに登場するたび、ユングだ同時代性だ熱帯雨林保護だArthur Koestlerだと、何かと理屈っぽい大風呂敷を広げてきた彼が、このアルバムでは素の自分、Gordon Matthew Thomas Sumnerとしてのパーソナリティを垣間見せている。
 そういったウェットな感性とは無縁の、極めてドライな純音楽主義を体現していたこれまでのSting、今でもプライベートを切り売りするタイプのアーティストではないけど、特にこのアルバムでは各曲の政治的なテーマも含め、全体的にネガティヴなトーンが影を落としている。
 前作収録の「Russians」に代表されるように、積極的な社会参加意識、ジャーナリスティックな意識の高い視点の芽生えが窺えるのが、この時期の特徴でもある。特にこのアルバムでは、その傾向が強い。
 近年はイルカ保護団体への支援表明でメディアに姿を見せたSting、ご意見番的ロック・セレブとして、常に問題意識を持ち続ける姿勢は変わらないけど、肝腎の作品内容にそれがフィードバックされていないのが、ちょっと寂しい。

 ロックにとって大言壮語、わかりやすく言えば。広げる4大風呂敷は必要である。正直、どれだけ広げようと広げっぱなしだろうと、そんなのはどうでもよい。結局のところ、ロックという音楽表現は、大多数のマスを相手にしてゆくため、明快でも小難しくても、何がしかのインパクトが必要なのだ。
 風呂敷を畳むことなど、考えなくてもよい。そのうちファンなりサポート陣がうまく畳んでくれるだろうし、むしろその乱雑な広がり具合や皺くちゃの具合こそがロックであるからして。
 前回のJoe Jacksonの時にも書いたけど、彼もまた、こぢんまりしたパーソナルな部分を見せられても、興味を惹くタイプのアーティストではない。もっとハッタリを、もっと完璧に構築された大ボラを吹ける者こそが、一流のアーティストと言えるのだ。
 そのロジックで行くと、最強なのはRobert Frippということになる。ブレないよな、あの人は。


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1. The Lazarus Heart
 オープニングはBranfordのソプラノ・サックスをリードとしたミドル・テンポ・ナンバー。なのにあまり軽快さがなく閉塞感が漂うのは、中二病的なメタファーの飛び交う歌詞。母親の亡くなる直前に見た夢から着想を得て作られた、とのことなので、重くて当たり前。ユング経由やキリスト教条主義的な観点から見ると、一条の光が差し込むシーンもあるため、まったく出口なしというわけではないのだけど、Stingのヴォーカルもどこかノリきれていない。
 しかし、冒頭からこんな重い曲を持ってくるあたり、当時の彼の切迫さが伝わってくる。でも、アンサンブルは最高。ロックというよりはAOR、しかもかなりジャズ的イディオムを添加したサウンドは変幻自在。変則リズムも気にならないくらい。あまり前面に出てないけど、時々印象的なフレーズをぶっ込んで来るのがAndy。さすがツボもわかってらっしゃる。

2. Be Still My Beating Heart
 US最高15位にチャートインしたのに、なぜかUKではシングル・カットされなかった、こちらもAndy傘下のミドル・チューン。ミステリアスな雰囲気が全編を覆っているけど、決して重苦しくない、きちんとヒット性も意識して組み立てられた、最もAOR性の高いナンバー。
 しかしAndy、エフェクト的な使い方しかされてないけど、これでよかったのかな?まぁあんまり俺が俺がという感じの人ではないし。

3. Englishman In New York
 多分、Stingのディスコグラフィの中では、1、2を争う有名曲。AOR的フュージョン・サウンドにスウィング・ジャズとレゲエを無理やり合体させてしまい、しかもそれが違和感なくすべてが融合した奇跡の曲。ただ当時のチャートを見ると、UK51位US84位というチャート・アクションにはちょっとビックリ。もう少し上に行ってると思ったのだけど。やっぱりCM曲は耳に残るので、印象としては強い。
 この曲のクライマックスは2分半を経過した当たり、軽快な突然Branfordのサックス・ソロが奏でられる中、突然挿入される地響きのようなバスドラ。優雅な旋律を打ち破るその轟音は、ただ流麗なだけに終わってしまいそうなところにインパクトを与え、永遠のスタンダードへと昇華した。



4. History Will Teach Us Nothing
 真夏の夜に奏でられる、怪しげな場末のクラブで演奏されるレゲエ・ナンバー。猥雑ながらクール、Sting含めプレイヤーは皆、こうべを垂れながら演奏に集中している。そんな曲。繰り返される「Sooner or later」のフレーズはどこか呪術的で、真夜中の迷宮に誘い込む。

5. They Dance Alone (Cueca Solo)
 UKでは4枚目のシングルとして94位という成績に終わったけど、チャート的な実績よりはむしろ、よくこんな政治的な楽曲をシングルとしてリリースした、というところに大きな意義がある。
 南米チリで起こった軍事政権による大規模クーデター。国民に愛される大統領だったSalvador Allendeに反旗を翻し、政権を奪還したのが陸軍司令官Augusto Pinochet だった。アメリカをバックに猛威を振るったPinochet 政権の残虐振りはとどまるところを知らず、国際的にも大きな批判の渦が巻き起こった。

 彼女たちは行方知らずの者たちと踊る
 死者たちと踊る
 目に見えない愛と共に踊る
 言葉にならない苦しみを抱え
 父親たちと踊る
 息子たちと踊る
 夫たちと踊る
 彼女たちは一人ぼっちで踊る 一人ぼっちで

 今ではすっかり政治家としての顔が有名になってしまったRubén Bladesのスポークン・ワードが挿入されている。その語りは冷静ながら、熱がこもっている。
 一応、Clapton やMark Knopfler が参加しているけど、正直特筆するプレイではない。音楽にイデオロギーは必要ないと思ってるけど、この曲はそんな理屈も関係なく、引き込まれてしまう。

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6. Fragile
 UK70位にランクインしたシングル・ナンバー。てか、5.同様、こんな地味な曲もシングル・カットしていたんだな、そういったのも許される時代だったんだよな。
 ニカラグアの水力発電ダムで働いていたアメリカ人エンジニア Ben Linderが、アメリカ政府の支援を受けていた反サンディニスタ軍コントラによって殺害された。アメリカ政府の資金提供を受けていた軍隊によって、1人の善良なアメリカ市民が何の罪もないのに虐殺されたことに、世界中から政府への非難が集中した。
 そんな報道を耳にして(本当に)心を痛めたStingはひとつの歌を書き上げた。

 いつまでも雨は降り続けるだろう
 それはまるで、星が涙を流しているように見える
 いつまでも雨は教え続けるだろう
 僕らがどれほど壊れやすい存在かを

 リリースから14年後、9月11日のアメリカで同時多発テロが勃発した。その日、Stingは自宅の中庭でのライブを計画していた。テロの一報を聞いて、中止も考えていたが、寸前まで迷いに迷って追悼コンサートとして敢行、すべての予定を変更して1曲目に歌われたのが、この「Fragile」だった。
 その10日後、アメリカ4大ネットワークの総力を結集して、急遽放送されたテロ犠牲者追悼チャリティ番組「America; A Tribute To Heroes」においても再び、彼はこのナンバーを歌った。
 もし再び理不尽な諍いが起こった時、Stingはこの曲を歌うのだろう。
 でも、そんな形ではあまり聴きたくないな。



7. We'll Be Together
 シングル・リリースとアルバムとの間に結構ブランクが空いてるのは、もともと日本のキリンビールのCM用に制作された曲だから。US7位UK41位と、アップテンポ系の受けが良いアメリカでは好評だった。アウトロでフェイク的に、前作「If You Love Somebody Set Them Free」のフレーズを歌ってること、またコーラスにAnnie Lennox が参加しているのが、特徴と言えば特徴。
 ファンキーでノリも良く、発売当時は俺も大好きな曲のひとつだったけど、Sting的にはあくまでCMサイズでオファーがあったから作っただけで、そんなに思い入れはないらしい。確かに後になってから聴いてみると、明らかにアルバムのトーンからこの曲だけはっちゃけ過ぎて浮いてるのと、そのはっちゃけ具合も脳天気なものではなく、どこかヤケクソ気味に映る。
 単体で聴いてれば、いい曲だけどね。

8. Straight To My Heart
 ソリッドなリズムが印象的な、ダンサブルなポップ・ナンバー。楽曲の完成度は高いのだけど、クセの強い楽曲が揃っているこのアルバムの中では、ちょっと地味に聴こえてしまう。ポリリズミックなビート主体のバッキングは、時代を超えて古びない響きを持っている。

9. Rock Steady
 ジャジーなアドリブっぽいフェイクも混じるポップ・チューン。多分、こんなセッション・スタイルのナンバーなら、いくらでも作れたのだろう。当時のStingの充実ぶりが窺える、肩の力の抜けたヴォーカルが聴いてて心地よい。

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10. Sister Moon
 「Moon Over Bourbon Street」を彷彿とさせる、スタンダード・ジャズをモチーフとしたバラード・ナンバー。Police時代との大きな違いは、スロー・テンポのバラードをプレイするようになった点が大きい。どれだけスロー・タッチにしてもStewart がリズムをいじくってしまうので、ここまでムーディにはできなかった。
 デュエットしてるかのように寄り添いながら咽ぶBranfordのホーン・プレイは、このアルバムの中では最もの見せ場。

11. Little Wing
 言わずと知れたジミヘンのカバー。これまでのセッションとは趣が違って、ここでは御大Gil Evansのプロダクションとなっており、ある意味、アルバムのクライマックスでもある。ギター・ソロもジミヘンに倣ったエモーショナルなプレイなのだけど、弾いてるのはHiram Bullock というフュージョン畑の人。調べてみると、何と日本生まれ、大阪の堺市生まれとのこと。マジで?
 で、今回オリジナルと比較するため、本家Jimi Hendrix ヴァージョンを聴いてみたのだけど、確かにJimiの方がブルース色が強く、ギター・オリエンテッドなサウンドになっている。対してStingヴァージョンは80年代という時代に即したモダン・スタイルのアレンジ。マイルドで聴きやすくなっている。Hiramのプレイもジミヘン・スタイルのマナーに則ってはいるけど、コンパクトで聴きやすい作りになっている。
 多分、世の中には多くの「Little Wing」が存在しているはずなので、いろいろ聴き比べてみるのも一興かと。
 誤解を恐れずに言ってしまうけど、これってGil Evansアレンジじゃないとダメだったの?その辺がちょっと疑問。



12. The Secret Marriage
 ラストはシンプルに、Ken Helmanのピアノだけをバックに歌う小品。短く地味なポジションだけど、メロディは恐らく全キャリアの中でも最も美しい響きを奏でている。
 こういったことをサラッとやってしまえることが、当時のStingの持つ美学だった。壮大なストリングスで締めることは、こっ恥ずかしくてできなかったのだろう。




 ここまでで、やっとレビュー199本目。
 次は200回記念、特別企画。
 そこまで大げさなモノじゃないけどね。



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最高のソロの始まりであり、そして到達点 - Sting 『The Dream of the Blue Turtles』

folder 最高傑作であると共に大ヒット作となった『Synchronicity』リリース後、Policeは活動を休止、しばし開店休業となった。グループ内の人間関係はとっくの昔に破綻しており、それに加えてバンドとしてやれる事はやり切ってしまったため、実質的な解散であることは明白だった。そんな中、『Synchronicity』ツアー終了と共にいち早く動き出したのがStingで、できあがったのがこのアルバム。
 前評判も高かったため、リリースと同時にUS2位UK3位と大ヒット、特に日本ではオリコン最高9位と、Police時代のチャート記録を塗り替えた。
 最初にシングル・カットされた"If You Love Somebody Set Them Free"は、US3位UK26位と好成績の口火を切り、最終的にはシングル・カットが6枚と、ほぼ半数が単独リリースされたことになる。今でこそ、先行リリースされたシングル数枚がまとめられてアルバム・リリースされるケースが増えているけど、80年代まではアルバムからのシングル・カットが多い時代だった。Michael Jackson『Thriller』なんて、ほぼ全部がシングル・カットされてるはず。

 Policeのサウンドの変遷を、ものすごく大ざっぱに分けてみると、「アバンギャルド・ジャズ → パンク+レゲエ → オルタナティヴ色を強めたロック・サウンド」という感じ。それぞれ別の個性を持つ3人のプレイヤーが、これまたそれぞれの音楽性を持ち寄ってハイ・レベルの演奏を披露し、最終的には過去のどのサウンドにも当てはまらない、正しくオンリー・ワンのオリジナル・フォーマットを確立した。ただそれは、同時にバンド終焉の始まりでもあった。

turtle 2

 『Synchronicity』リリースによって、トップ・アーティストとしてのスタンスを確立したPoliceだったけど、その頂きの向こうにあったのは果てしなく広がる虚無、行き止まりの袋小路だった。もはやトリオ・スタイルでのクリエイティヴィティは失われており、これ以上前に進むことは単なる自己模倣でしかなかった。
 それは Sting 1人に限ったことではなく、他のメンバー Stewart Copelandや Andy Summersにとっても、思うところは同じだった。なので3人とも、ツアー終了後は、三者三様の手法でソロ・プロジェクトに着手することになる。

 もともとエスニック志向の強いStewart は、ドラマーのキャリアを活かした、アフリカン・リズムをメインとしたサウンドのアルバム『Rhythmatist』をリリースした。当時はまだそれほどメジャーではなかったアフロ・ビートとシンセサイザーとのミクスチャー・サウンドは画期的だったけど、まぁ当然ながら売れなかった。本格的なワールド・ミュージック・ブームが盛り上がる前にリリースされた作品なので、もう数年寝かせておけば、エスニックのドサクサで売れたかもしれない。

 同時期にAndyもアルバムをリリースしているのだけど、純粋なソロではなく、あのRobert Frippとの共同名義となっている。彼とプログレ伏魔殿 King Crimson の総帥との間にどんな接点があったのか、誰がそんなコラボを思いついたのか、いまいち不明である。「同郷だから」という、誰も本気で受け取らない理由があった気もするけど、まぁ多分レーベル主導のプロジェクトだと思う。どう考えても「意気投合してバンド結成」というムードの2人ではない。
 それぞれ2人の経歴から想像するに、Andy特有の空間を活かしたディレイ・サウンドと無機質なフリッパートロニクスとの融合と思ってしまいがちだけど、まったくその通り、想像してみた通りの音である。それらにほんのちょっぴり、当時最先端だったテクノ・ポップ風のオケを薄く被せており、その辺は80年代という時代を感じさせる。
 昔「ポッパーズMTV 」でこのアルバムのPVが流れたことがあって、たまたまそれを見てた俺、「あれ、以外とイケるんじゃね?」と思った記憶がある。 PV が作られるくらいだから、レコード会社的にもそこそこ力を入れたのだろうし、またそこそこ売れたのだろう。それでレーベル側が味をしめたのか、それとも2人ともメイン・バンドが休業中でヒマだったのか、再び共同名義・ほぼ同コンセプトでもう1枚製作されている。ミスマッチがうまく嵌った好例である。

turtle 3

 で、 Sting の話。これまでの経歴・実績から比較すると、かなりコンパクトなバジェット、メンツ的にも地味な顔ぶれでスタートしている。その気になれば、もっと大物ミュージシャンを招聘したり、ビッグ・ネームのプロデューサーを起用した、ゴージャスなレコーディングも可能だったはず。しかしStingは過去の実績やネーム・バリューに頼ることを良しとせず、敢えて無名に近い若手ジャズ・ミュージシャンを多く起用、これまでのPoliceとはまったく違ったサウンドを、一から創り上げてゆくメソッドを選択した。
 ここでStingは、バンド・リーダーでありながらも、あくまでStingバンドの一メンバーとして振る舞っている。ボスとして威厳を振るうのではなく、あくまで音楽の前ではすべてのメンバーは平等、切磋琢磨しながらStingサウンドを創り上げてゆく同志というスタンスで参加している。
 普通のバック・バンドなら、大御所Stingの指示通り動き、彼のビジョンを最優先してしまいがちだけど、ここではSting、あくまで素材、触媒の役割を全うしている。未知の可能性を秘めた次世代ミュージシャンらによる、卓越したテクニックとパッションの応酬によって、Sting自身、予想もしなかったほどのバンド・マジックが日々生まれていった。サウンドから曖昧な予定調和は排除され、贅沢ながらも嫌みのない、キチンと均整の取れたサウンド、唯一無二の『Sting’s Music』 が完成した。

turtle 4

 Sting にとってはこれがソロ・キャリアのスタートであり、また悲しいことに、これが同時に到達点でもある。ライブ・アルバムを挟んでの2作目『Nothing Like the Sun』において、ここで提示されたサウンドは完成の極みを見たけど、進み具合はごくわずかだった。これ以降、サウンド的な冒険は鳴りを潜めた。
 この後 Sting は、主にプライベートな問題(主に肉親の死)を抱えることによってテンションが下がってゆき、ごくパーソナルで地味な内容のソロ・アルバムを連発することになる。
 邦題『ブルー・タートルの夢』。
 これはSting が音楽的冒険に邁進していた頃、幸福な時代の幸福な傑作である。


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1. If You Love Somebody Set Them Free
「free, free, set them free」というコーラスが終始ループしているけど、こういった形のポップ・ソングはあまりなかったんじゃないだろうか。ていうかこれ以後もあまりない、唯一無二のStingのオリジナル。ロックにしては複雑なコード進行、ジャズにしてはポップという、どうにもカテゴライズしづらい音楽である。
 サックスのBranford Marsalisはもろジャズの人。父親は往年のジャズ・ミュージシャン、弟のWyntonもサックス・プレイヤーで、当時はWyntonの方が評論家受けが良かった。スタンダード・ジャズ至上主義のWyntonは兄のロック・フィールドへの進出に反対し、実際小馬鹿にして長年確執が伝えられていた。いたのだけど結果、参加して正解だった、というのを、この曲が証明している。
 


2. Love Is The Seventh Wave
 リゾート気分を連想させる、レゲエというより享楽的なカリビアンなリズムが印象的なナンバー。Police時代ならもう少しアップ・テンポに、キーも高めに歌っていたStingだけど、ここでのキーは低め。ポップ・ソング的に穏やかに歌うことによって、ゆったりとしたグルーヴ感が生まれている。

3. Russians
 当時、意識的な英米のミュージシャンが政治的な立場を明言すること、社会情勢に対して過激な発言を連発することは、日常的な事だった。当時最先端だったシンクラヴィアのエフェクトに包まれながら、冷戦時代のアメリカとソビエトとの対立について歌っている。
 こんな政治的主張の強い曲がUS16位UK12位にチャート・インしたのだから、当時のポピュラー・ソングがいかに社会情勢と密接していたかがわかる。
 


4. Children's Crusade
 紛争地帯の少年兵士の事を嘆く、センチメンタルな曲。ここでのBranfordの切ないソロはもちろん聴きどころだけど、Sting(b)とのリズム・セクション・タッグのOmar Hakim(Dr)もまた、複雑な展開を難なく作り出している。末期のWeather Reportに参加、その後も様々なセッションを行ない始めた頃で、当時若干23歳、売出し中の若手だった。

5. Shadows In The Rain
 Police『Zenyatta Mondatta』収録のセルフ・カバー。前述のレビューでも書いたように、Policeヴァージョンは掴みどころのない地味な曲扱いだったけど、ここでは若手ミュージシャンと組むことによって、ジャズ・テイストのジャンプ・ナンバーとして見事に蘇った。バンド・マジック誕生の瞬間が垣間見えるナンバーであり、セッションの様子が生々しく記録されている。
 このナンバーではどのプレイも光っているのだけど、特に際立っているのが、当時Marsalis兄弟周辺のセッションを集中的にこなしていたKenny Kirkland(key)による、ファンキーな間奏ソロ。フュージョン・ブームに対抗する新伝承派ムーヴメントの中でデビュー、古典に忠実なスタンダード・プレイばかりが取り上げられていたけど、このアルバムでは印象が一遍、若さを剥き出しにした荒削りともいえるグルーヴを醸し出している。

sting

6. We Work The Black Seam
 エスニック・ムードあふれるリズムに合わせ、感情を抑えて歌うSting。ここでは少し『Synchronicity』時代を髣髴させる、後期Policeサウンドを展開している。
 自由奔放でアタックの強いStewartと、あくまでメインストリーム・ジャズのマナーに則って、硬軟取り混ぜたアプローチのOmar。この時代のStingには、Omarのプレイがしっくりきていたのだろう。

7. Consider Me Gone
 ブルース・テイストの濃い、ジャズ寄りのナンバー。Policeの前に所属していたジャズ・ファンク・バンドLast Exitの発展型とも取れるサウンドを展開している。ジャケット・フォトが象徴するように、モノクロ調のナンバーが並ぶアルバムの中でも、この曲は特に地味さが突出している。俺自身、アルバム・リリース当時はまだ二十歳前、こういった地味な曲はガンガン飛ばして聴いてたけど、40を過ぎてくると、こういったのもアリじゃね?と寛容な心で聴けるようになっている。
 こんな曲を30台半ばで作ってしまったこと、そしてそれをマス・セールスに乗せてしまう手腕は、改めて当時のアーティスト・パワーを感じさせる。

8. The Dream Of The Blue Turtles
 タイトル・ナンバーであり、1分少々のインスト・ナンバー。ここでの主役はKirkland。セッションの合間のお遊び的肩慣らし的なナンバーと思われるが、さすが実力派ミュージシャンの集団であり、キッチリひとつの作品として仕上げている。

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9. Moon Over Bourbon Street
 Stingが唯一アップライト・ベースを使用した純粋なジャズ・ナンバー。伝統的な4ビートをバックに、荘厳なオーケストラをバックに渋く歌い上げている。音数は少ないけど、かなり時間をかけてレコーディングしたと思われ、贅沢に磨き上げられたサウンドに仕上がっている。

10. Fortress Around Your Heart
 3枚目のシングル・カットで、US8位UK49位まで上昇。最初はクレバーなプレイだった演奏陣も次第に熱が入ってきて、大きなグルーヴを作り出している。Stingの饒舌なヴォーカルがそうさせているのだ。
 キャッチーさも併せ持つポップ・ソングながら、プレイヤビリティも満足させる、微妙なバランスの基で成り立っている、Sting渾身のオリジナル・ナンバー。
 





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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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