好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Steely Dan

追悼 ウォルター・ベッカー – Steely Dan 『Can’t Buy a Thrill』

folder -60年代終わり、大学でDonald Fagenと出会い、Steely Danを結成したWalter Beckerが、日曜日(9月3日)亡くなった。67歳だった。
 Beckerは体調不良のため、7月にアメリカで開かれた2つのフェスティバル<Classic West><Classic East>でのSteely Danのパフォーマンスに参加していなかった。
 Fagenは先月初め、『Billboard』誌のインタビューで、病名などには触れなかったが、「Walterは回復しつつあり、すぐに元気になることを願ってる」と話していた。
 その願いは届かず、長年の友人、相棒を失ったFagenは、Beckerとの思い出を振り返り、「僕らは永遠に彼を恋しく思う」との追悼文をFacebookに寄せている。
 Walter Becker が亡くなった。事実上、Steely Danは永遠の活動休止状態となった。
 そんなFagenが独り、日本にやって来る。これまでのソロ活動をまとめたアンソロジー『Cheap Christmas』 がリリースされるため、そのプロモーションが目的なのだろうけど、Becker の体調が思わしくないことは、以前から織り込み済みだったのだろう。近年はほぼ毎年、Danのツアーを行なっていたのに、ここに来てBeckerは帯同しなかったのだから。

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 途中、長い休止期間はあったけれど、デビューからずっと2トップでDanを引っ張ってきた2人である。腐れ縁だろうと何だろうと、互いに必要不可欠な存在だったことはわかる。でも、Danに対する彼の貢献度がどれだけのものだったのか、具体的に語れる人は少ない。実際、俺もそうだし。
 作詞・作曲・メインヴォーカルまで務めるFagenに対し、彼の仕事はなかなかつかみづらい。Steely Danのサウンド・メイキングのプロセスにおいて、メロディとはあくまで素材の一部に過ぎず、作業の多くを占めるのは、途方もない時間をかけたスタジオ・ワークである。あまり目だったプレイを見せないギター担当のBecker が担っていたのは、多くの楽曲でひねり出したアレンジのアイディアであり、今では考えられない豪華メンツらによる録音テイクの取捨選択である。
 それらは主に裏方の仕事であり、目に見えてわかりやすい作業ではない。Steely Danにとって彼が、「Fagenじゃない方」、または「宮崎駿似のオッさん」というイメージは、なかなか拭えない。

 もともとSteely Danというユニットは、Fagen & Beckerによるソングライター・チームとして発足したもので、表舞台で脚光を浴びることを目的としたプロジェクトではない。レコード会社へ送るデモ・テープ作成のため、一応バンドという形態を取ってはいたけれど、Fagen とBecker以外のメンバーは、いずれもかりそめの頭数合わせ程度の存在でしかなかった。
 よく言う運命共同体的なバンド・ストーリーとは、無縁の存在である。

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 「自ら歌い演じることは想定せず、どうにも収まりの悪い曖昧な、良く言えばルーティンを外した浮遊感漂うメロディと、思わせぶりな暗喩だらけのように思えるけど、実際は大して意味のない言葉の羅列を、あんまり頭のよろしくないシンガーに歌わせてシングル・ヒットを狙う」といった、あまりに無謀な皮算用。
 もちろん、そんな歌がヒットするはずもなく、進んで歌いたがる者もそんなにいなかった。そりゃ嫌がるよね、こんな歌いづらい曲ばっか。
 誰も歌ってくれないので、仕方なく自分たちでプレイする他なく、取り敢えずやっつけで作ったデモ・テープが、彼ら以上に斜め上だったGary Katzに認められ、「いいからまずLAに来い」と引っ張られ、取り急ぎ目ぼしいメンツをかき集めて結成されたのが、Steely Danである。

 で、話はずっと飛んで活動休止後、ソロになったFagenの作品を聴いて思うのは、案外まともな感性を持つ彼のパーソナリティである。
 カマキリのまっ正面どアップというポートレートの『Katy Lied』や、悪意と皮肉の塊だった『Can’t Buy a Thrill』のジャケット・デザインから察せられるように、Danの作風は基本、非日常性を基点とした奇抜な題材やシチュエーションを取り上げることが多い。2人とも、生粋のアメリカ人であるにもかかわらず、作風やユーモアのセンスは英国人的に屈折度が強い。EU圏内での根強い人気が、それを証明している。
 対してソロでのFagenは、多分、Danとはキャラかぶりしないよう配慮しているのだろうか、基本、少年時代の実体験や中年期の鬱屈や葛藤など、極私的なテーマの作品が目立つ。9.11同時多発テロがモチーフの一部となった『Morph the Cat』も、Fagen自身がNY在住であるからこそリアリティが増しているわけで、彼にとっては絵空事ではない。それは「特別な日常」だ。

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 基本、等身大のテーマを取り上げることによって、Dan時代との差別化を図っていたFagenだったけど、「エコロジカルなカマキリ型のハイテク・カー」なんて突飛なコンセプトを、クソ真面目な態度で語りながらも実は壮大な冗談だった『Kamakiriado』なんてアルバムは、Fagen単独では作れない。Beckerによるプロデュースだったからこそ成せる業だったわけで。
 もちろん、Fagenの中にもBecker 的なエキセントリック性はあるのだけど、ソロになると、作家性や内面性を優先してしまって、曖昧さと不条理さというのは副次的なものになってしまう。やっぱかしこまっちゃうんだろうな。
 そんな彼のSteely Dan性を引き出してしまうのがBecker であり、かつてはそこにKatzとの化学反応が加わっていた。そして、そんなFagenを尻目に、単独でその不条理性を表現できていたのがBecker だったわけで。
 彼のソロ・アルバムなんて、そんな不可解さ・不条理性だけで構成されてるもんだから、まぁアクの強いこと。やっぱ、スパイスだけの料理はちょっとキツいよね。まず、味わい方からわかんないんだもの。

 そんなことは2人とも、とっくの昔にわかっていたのだろう。
 Fagen独りで『Nightfly』はできるけど、「リキの電話番号』はできない。万人向け(とは言っても、単純に一般受けするような代物じゃないけど)する精巧なAORはできるけど、Becker がいとも簡単に放ついびつな感触は再現できないのだ。Fagen、Becker、Katz三者三様による絶妙なバランスのもと、全盛期のSteely Danは成立していた。70年代という空気もまた、彼らに味方していた。
 ただ、そういった緊張関係は長く続くものではない。年がら年中、顔を突き合わせていると、互いの顔さえ見るのもイヤになるのは、普通の会社勤めでもよくある話であって。特にエゴの強い人間が集まると、その感情はさらに助長される。
 何年かに1度、顔を合わせてツアーを回る程度の気楽さがあれば、バンドの寿命はもう少し延びていたことだろう。過剰なスタジオ・ワークは、払う犠牲があまりに多すぎる。

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 で、そんなBecker の貢献度が最もわかりやすいDanのアルバムといえば何なのか。
 これを機に、ちょっと真剣に考えてみた。
 基本、どの曲もFagen のキャラクターが強いのだけれど、まぁほとんどの曲でメインで歌っているのだから、これはどうにも致し方ない。そんな彼のパーソナリティが目立たない時期はどの辺りなのか―。というわけで、行き着いたのがデビュー・アルバムだった、という結論。
 楽曲こそ、ほぼすべてFagen / Becker の共作で占められているけれど、ここでは後年と違って、Fagenがすべてヴォーカルを取っているわけではなく、David Palmer という人と半分ずつ分け合っている。まだフロントマンとして立つことに吹っ切れてなかったのか、はたまたソングライターとしてはともかく、ヴォーカリストとしての適性に疑問を抱いていたKatzの横やりだったのか。
 まぁそんなのは不明だけど、まだデビューしてポッと出の急造バンドであるからして、どこかチグハグ感は否めない。Fagenメインの楽曲でも、カリスマ性の薄い彼のパフォーマンスより、突飛なアレンジ技を繰り出すBecker の奇矯さの方が目立ってしまうことが多い。そのミスマッチ感こそが初期Danの魅力であり、ヴァーチャル感あふれるバンド・サウンドは、「どうにか商品として成立させるんだ」というKatzの意地が見え隠れしている。

 『Can’t Buy a Thrill』以降は、ほぼFagenがメイン・ヴォーカルを取るようになり、Beckerのプレイヤビリティは、時々見せる変なギター・ワークのみとなってしまう。ただそれは、徐々にメンバーが脱退してユニット形態へ移行してゆく過渡期であり、目に見えぬトータル・サウンドへの貢献度は、むしろ高まってゆく。
 最後には、オリメンはFagen とBecker の2人だけになり、運命共同体的バンド・マジックを捨てた『Aja』『Gaucho』では、クレバーなサウンド・メイキングの魔力が顕在化してゆく。


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1. Do It Again
 1972年のリリースでラテン・リズムの導入ということで、Santanaを意識してたのかと思ったけど、多分違うと思う。「Do It Again」という楽曲がラテン・テイストを希求しただけで、最初からラテンありきではなかったと思われる。だってこんな曲調、彼らはこれしか作ってないし。
 エレクトリック・シタールのインパクトが強くて影に隠れがちだけど、Jeff Baxterのドブロなギター・ソロも印象深く、初期のDanが案外バンド・アンサンブルのひらめきに頼っていたことが窺える。そりゃそうだよな、デビュー作だもの。後半から地味にテンポアップするJim Hodderのプレイも堅実かつスクエアで、もしこのまま民主的なバンドになったとしたら、それはそれで面白かったと思うのだけど。



2. Dirty Work
 ここでヴォーカルがPalmerに後退。序盤は気の抜けたカントリー・ロックな風情。生真面目なNeil Youngといった感じかな。サビのコーラス・ワークは後年のDanを思わせるけど、間奏のあんまり芸のないサックス・ソロは、ちょっといらなかったと思う。
 復活後のライブでも、Fagenはヴォーカルを取らず、主に女性シンガーに投げっぱなしなので、あんまり歌いたくないんだろうな。だったらセットリストに入れなきゃいいのに。

3. Kings
 なんだかユルい2.の後、再びFagen登場。やっぱヴォーカルが締まって聴こえるんだな。ヴォーカルだけ取り出して聴けば、疾走感あふれるロック・チューンなのだけど、間奏の神経症なギター・ソロといい、従来のロック的尺度で測れば奇妙な味わい。オーソドックスなロッカバラードのはずなのに、帰着点の曖昧なメロディを創り上げたことで、彼らの目論見は達成されている。

4. Midnite Cruiser
 なぜかヴォーカルがドラムJim Hodder。コーラスのかぶせ方やロック的なリズム・パターンからして、見事なカントリー・ロック。こういうのを聴くと、バンド・アンサンブルの偶然性に頼ったグルーヴ感というのは、ソングライター・チームの本意ではなかったことがうかがい知れる。プレイヤー側ではなく、ブレーン側の主導によってアンサンブルを構築することが、本来の彼らの構想だったのだろう。Katzから吹き込まれた部分もあるんだろうけど。

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5. Only a Fool Would Say That
 ここではボサノヴァっぽいギター・プレイを見せるBaxter。カントリー・ロック性から遠く離れて無国籍性こそが、初期Danの持ち味であったことを証明している。3分程度の小品で、スタジオ内の会話でフェードアウトという、肩の力の抜けた楽曲。ただこのアルバム以降は、5.のような曲調がメインとなってゆく。

6. Reelin' In the Years
 ベストやブートのタイトルになったりで、何かと人気の高い初期の代表作。ロック・マナーに沿ったギター・プレイと、洗練されたカントリー・ロック風のコーラスが、一般的なロック・ユーザーからも好評を得た。シングルとしてUS最高11位。

7. Fire in the Hole
 ジャズ・ヴォーカル色の濃いFagenヴォーカル・ナンバー。すでに後期の味わいを感じさせる楽曲となっており、無国籍感漂う彼らの作風がすでに固まっていることを証明している。Fagen自身が弾くピアノ・ソロは正直拙く、その後はあまりレコーディングでは弾かなくなってしまう。ヴォーカルとアレンジに専念することによって、楽曲としての完成度は高まってゆくのだけど。

Walter-Becker

8. Brooklyn (Owes the Charmer Under Me) 
 Palmer登場。歌い方自体はFagenに似せようとしているのだけど、その素直な性質ゆえ、凡庸なミディアム・バラードに落ち着いてしまっているのが惜しい。
 考えてみればDanのカバーで真っ向から勝負したものって、あまり見当たらない。De La Soulがトラックを使ったことで再評価が高まったこともあったけど、あれはまぁカバーっていうかサンプリング・ネタとしての評価だし。
 逆説的に、Donald Fagenという声はSteely Danの楽曲にとって不可分である、ということなのだろう。

9. Change of the Guard
 ブギウギっぽいピアノとリズム・パターン、ラララというベタなコーラスといい、非常に西海岸ロック的。まぁたまにこういったのも一曲入れといた方がウケもいいし、ライブ映えもするだろうし。カッチリしたプレイが多くなるバンドのフラストレーション発散のためには、こういったセッション的な楽曲も必要なのだろう。ソングライター・チーム思うところの「ロック的」なメソッドに沿って書かれた曲。

10. Turn That Heartbeat Over Again
 最後はFagen 、Palmer、そしてBeckerも登場してのトリプル・ヴォーカル。大団円といったムードで締めくくるはずが、ちっとも盛り上がるような曲ではない。ていうか、別にFagenだけでよかったんじゃない?
 楽曲自体は変則コード進行による、居心地の悪さが目立つ作り。ナチュラル・トーンのギターの音色もどこか場違いだし。でも、その違和感こそがSteely Danである、と言ってもよい。まだデビュー作なだけあって未消化の部分もあるけど、目指すベクトルだけは伝わってくる。




 -私は我々が一緒に作り出した音楽を、私ができる限り、Steely Danと一緒に生き続けるようにしておくつもりです。
 
 Donald Fagen
 2017/09/03



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20年たっても変わらない、熟成された皮肉屋たち - Steely Dan 『Two Against Nature』

folder 2000年にリリースされた、前作『Gaucho』からは20年振りのSteely Dan 8枚目のオリジナル・アルバム。純粋な創作活動としての空白期間は結構長かったけど、Donald FagenとWalter Becker 2人のコラボはもっと前に復活しており、1993年リリースのFagenのソロ・アルバム『kamakiriad』で再会、そのまま意気投合して揃ってツアー突入、Dan名義でのライブ・アルバム『Alive in America』を1995年にリリースしている。
 その後も断続的に世界ツアーを行なったりBeckerがソロ・アルバムを製作したり、マイペースな活動は行なっていたのだけど、ファンなら誰もが待ち望んでいたオリジナル・アルバムの噂はまったく立たず、レコーディングする気配すら見えなかった。このまま新作を作ることもなく、懐が寂しくなってきた時だけ集まって集金活動に励む、Beach BoysやVenturesのようなドサ回りバンドとしての余生を過ごしてゆくんじゃないか、と誰もが思ってた矢先、突然のニュー・アイテムの登場だった。

 当然、伝説的バンドの本格的な復活にはファンもレコード会社も揃って色めき立ち、US6位UK11位という好成績をマークした。レコード会社的にも久々の大型リリースで気張ったのか、全世界レベルでのプロモーション攻勢は類を見ないもので、それに便乗した各メディアでの取り上げ方も広範囲に渡った。
 『Aja』以降の彼ら関連のリリースはひとつの大きなイベントになっていたけど、それらはあくまで音楽ファンへ向けてのものだった。そこから年月を経て、今回はかつて彼らの音楽を好んで聴いていた30〜40代へ向けてのプロモーション訴求に力を入れていたため、一般誌などお堅いメディアへの出稿が多かった。
 もはやロックは若者の音楽ではない。金と時間に余裕を持ったヤッピーたちに向けられるものなのだ。

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 2000年のビルボード・アルバム・チャートを見てみると、圧倒的にSantana 『Supernatural』が強い。Dan同様、彼も久々の前線復帰作で怪気炎を吐いていた頃である。他にはJay-ZやD'Angeloなどのヒップホップ/ネオ・ソウル系、中盤もEminemが強く、年末商戦はBeatlesのベスト『1』で締めるという流れ。そうか、Radiohead 『Kid A』もこの年だったか。
 チャート上位の大方がギャングスタ・ラップやビッグ・ビート/ダンス系で占められているのは、いま現在も延々と続いている世界的な傾向であって、多分今後もこのその流れは続くんじゃないかと思う。同時に、オーソドックスなベテラン・ロック勢の肩身が狭くなっているのも、90年代から続く流れである。
 そんな中、かつてヘヴィーなロック・ユーザーだったミドル・アダルト層へ向けてピンポイントにアピールした彼らの健闘振りは特筆に値する。StonesやPaul McCartneyさえ切り崩せなかった世紀末のアメリカ・マーケットにここまで食い込んだのだから、それはもうすごいこと。同時代を生き抜いてきたベテラン勢で彼らに匹敵するのは、Rod Stewartくらいなんじゃないかと思う。まぁRodの場合はちょっとアメリカに媚び過ぎだけど。
 グラミー賞でもアルバム・オブ・ザ・イヤーを始め4部門を受賞、各国でも上位にチャート・インした。ちなみに日本ではオリコン最高24位をマーク。宇多田ヒカルと浜崎あゆみがバカ売れしていた中ではかなり頑張ったんじゃないかと思う。

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 リリース時にそれほど大絶賛され、セールスだって活動休止前を凌ぐほどだというのに、この『Two Against Nature』、その次の『Everything Must Go』の2枚はあまり評判がよろしくない。特にリアルタイムで聴いてた世代など、一応絶賛してはいるものの、もろ手を挙げての感じではない。どうしても全盛期の名作『Aja』『Gaucho』を引き合いに出しての判断となってしまい、なのでどうしても分が悪い。
 Danの新作であることを抜きにすれば、非常に良くできた硬派なAORなのだけど、権威主義的な古参ロック・ファンほどその辺は頑固になり、「やっぱ昔の方が良かった」的に後ろ向きな評価になってしまう。もう少し暖かい目で見てあげればいいのに、といつも思ってしまう。

 最新機材を揃えたスタジオと有能なエンジニアを年単位で押さえ、数々の著名プレイヤー達を長時間拘束、同じフレーズを何十回もプレイさせてはリテイクを繰り返すレコーディング・スタイルを作り上げたのは、かつて第3のDanと称されたこともあるプロデューサーGary Katzである。
 以前も別のレビューで述べたのだけどこのKatz、Danのレコーディングという大義名分のもと、実はまるっきり自分本位、自らが思い描く理想のサウンドを追求していた節が強かった。そんな野望遂行のためにあらゆるスタッフを道具のようにこき使い、スタジオ・ワークの頂点を極めた作業を繰り返した。それほど大差ないフレーズのニュアンスにこだわって精巧なガラス細工のようなサウンドを構築していったのだけど、Katzについて最も評価しなければいけないのはむしろ、その理想のサウンドをより引き立たせるためにこだわり抜いた録音テクニック、音質である。
 すべてに当てはまるわけではないけれど、往々にしてスタジオ・ワークに凝るタイプのアーティストはトラック数が多く、分厚い音の壁を作りたがる。特に複数の楽器を操れるマルチ・ミュージシャンなら、思いついたアイディア、録った音は全部入れてしまわないと気が済まないため、あればあるだけのトラックを音で埋めてしまう。今のようにDTMでの作業ならそれほど問題ではないのだけど、ハード・ディスク・レコーディング以前の環境だと、音を詰め込みすぎるとテープにコンプがかかって潰れてしまい、SN比の狭いダンゴ状態になってしまう。
 そう考えると、余計な音は容赦なくとことん削ぎ落とし、必要な音のみを収受選択して残すKatzのプロデュース能力は、もっと評価されてもいい。

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 で、今回はそのKatzがいない。基本的なサウンドは後期Danのサウンドを継承しているし、無論録音だってめちゃめちゃ良い。ただ、以前のような偏執狂的なサウンドへのこだわりはない。
 再始動後のDanがもっぱらライブ・バンドとして活動しているのは、もうあれほどのスタジオ・ワークに注ぐほどのパッションを失っているからだと思われる。あの理想のサウンドは、あの時期・あのタイミングであの3人が揃ったから可能だったのであって、もしまた集結したとしても、同じマジックが生まれるはずがない。そんなことは3人とも承知の上なのだろう。

 なので、この再始動後のDan、以前とは別物と捉えられることがとても多い。そりゃそうだ、そもそものコンセプトが違ってるんだし。
 これまで往年のSteely Danナンバーを演奏していたライブ・バンドが、コンディション的に脂が乗ってきたのを機に、Danのサウンド・フォーマットをベースにレコーディングしたのが、この『Two Against Nature』である。一聴した印象は限りなくDanに近いけど、限りなく微妙に違っているのは、これまでプロデュース・サイドで編集していたインタープレイやアドリブを、ほぼ各プレイヤー主導にシフトさせたことによるのが大きい。
 また、これまではそれぞれがバンマス的存在の著名プレイヤーばかりを起用していたのが、ここで主にプレイしているのは、ほぼ無名のミュージシャンが多い。その辺が以前より型落ち感が漂うのは否めないのだけど、あれだけめんどくさいDanの楽曲をライブでプレイしていたくらいだから、どのプレイヤーも演奏スキルは折り紙つきである。
 リズム&ブルースをルーツとしたミュージシャンの起用が多いせいもあって、以前はジャズ/フュージョン色の強いインタープレイが印象的だったのに対し、ここではオーソドックスなリズム・アレンジに乗せた簡潔なオブリガードやオカズが前面に出ている。こういったマイナー・チェンジはFagenの音楽的ルーツとリンクしており、彼の本来の資質に沿ったサウンドではあるのだけれど、後期Danのファンからすれば、フレーズやリフの物足りなさとかFagenのヴォーカル圧の弱さ(まぁこれは加齢によるものだから仕方ないとして)など、何かと薄味で物足りなかったのは事実。

 とは言ってもDanのブランドで出すわけだから、すべてのアベレージは難なくクリアしている。決して駄作ではないのだ。
 拡大再生産のループにはまり込んだ軟弱AORバンドとは違って新たな試みにチャレンジしているし、トータルとしての完成度はむしろ後期Danより高い。高いのだけれど、以前のような独裁的に築き上げられた作品と比べると、小さくまとまり過ぎてインパクトは弱い。
 どこか聴き流せてしまうそのサウンドは物足りないのかもしれないけど、長く聴き続けられる証でもある。刺激が強い作品は、飽きられるのも速い。
 そう考えると、シャレオツで意識高い系の環境音楽としては最適なんじゃないかと思う。悪い意味じゃないよ。


トゥ・アゲインスト・ネイチャー
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1. Gaslighting Abbie 
 単純にガス灯のことを歌ってるのかと思って調べてみると、”Gaslight”というのは心理学用語として使われている言葉。相手に間違った情報を伝えて正気を疑い、混乱に陥れる行為を指す。往年のハリウッド女優Ingrid Bergman主演映画『ガス灯』のストーリーから名付けられており、その映画からインスパイアを受けてのナンバー。冒頭からマニアックな題材で、相変わらずひねくれ具合は健在。
 ジャストなリズムを基調としたスロー・ファンクだけど、ドラム・アタックが跳ねててグルーブ感を強調している。



2. What A Shame About Me 
 Larry Carltonを彷彿とさせるギター・ソロから始まるオープニングだけど、当然別人。でもうまいよね。サビの転調具合なんて、往年のファンも思わず腰を浮かせてしまう運び。
 ちょっと気になるのがFagenのヴォーカル。もともと綺麗な声の人ではないけど、枯れ具合が円熟というよりは後退を感じさせる。声質に合わせるとなると、サウンドのインパクトをマイルドに抑えるのは必然だったか。とは言っても、レベルはめちゃめちゃ高いんだけどね。
 女性コーラスが入ってる分、ヴォーカル・トラックの厚みをうまく補っている。そういう意味で、バランス感覚はやっぱり絶妙。

3. Two Against Nature 
 喧騒の中の静けさを演出するラテン・ビートを導入してるけど、Fagenが歌い始めた途端に特有の無国籍感が漂うタイトル・トラック。思えばデビュー曲”Do it Again”も妖しさてんこ盛りだった。それでも中盤に差し掛かると、テンポ・アップした大人のロック・ナンバーに変化する。
 そこかしこに登場するサックスは、完全にジャズの音色。こういったテイストを自然と導入してしまえるのが、彼等の懐の深さ。

4. Janie Runaway
 アルバムから3枚目のシングル・カット。ちなみにチャート・インせず。もともとシングル・ヒット狙いの人たちではないので、まぁそこはあまり突っ込まず。
 どのトラックもそうだけど、こちらも小ぢんまりしたメンバーでのセッションをベースに音作りがされている。俺的に注目は、サックスのLou Marini。もちろんBlues Brothers Bandの一員だった人である。どっかで聞いたことある名前だよなぁと思ってたら、やっぱりそうだった。あそこではもっとファンキー・スタイルのプレイだったし、大人数のホーン・セクションの一人だったため、こうしたオーソドックスなソロを聴くのは初めて。やっぱり根っこはジャズの人だよね。

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5. Almost Gothic
 『Aja』っぽいコード進行でプレイされるスロー・ナンバー。ホーン・セクションなんてモロそのまんま。新しいサウンドではないけど、ついまったり落ち着いて聴いてしまうのは、やはり手練れの技。
 最後のギターのストロークには、ちょっとブルッと来てしまう。

6. Jack Of Speed
 2枚目のシングルだけど、これもチャート・インせず。すでにシングルは売れない時代に差しかかっていたのに、よく3枚も切ったもんだと思う。基本、後期Danのサウンドを踏襲してるけど、ブルース色が濃いのが新機軸と言えば新機軸。でも単体でヒットするような曲だとはどうしても思えない。アルバムの流れで聴くのならすごくはまっているのだけど。
 もしかして、来たるべきダウンロード販売に備えた実験だったのか?まさかねぇ。

7. Cousin Dupree
 で、これがアルバムより先にリリースされた先行シングル。ビルボードAORチャートでは30位にランク・イン。日本でもFMでそこそこオンエアされていたので、ちょっと馴染み深いナンバー。
 これまでのDanよりソウル色が強いのが特徴で、この辺に新たな方向性を見出せばよかったのだけど、反応が薄かったのか、あまり深く掘り下げられることはなかった。
 どちらかと言えばFagenソロのテイストに近い。オブリガードバリバリの手クセの強いギター・ソロが好きな人にはオススメ。俺的にはちょっとポップ過ぎるけど。



8. Negative Girl
 静かなシャッフル・ビートがジャジー・テイストを印象づけている。細かく刻まれるナチュラル・トーンのギターがリードしている。この起伏のないメロディは、やはり後期Dan のテイストが強い。

9. West Of Hollywood
 ラストは8分という長尺。ソリッドなファンク・テイストのロック・ナンバー。アーバンでトレンディなサウンドには、ニューヨークの夜景がよく似合う。要するにそんなシャレこいた曲である。
 ラストを意識してるのか、Fagenも声を張って強い音圧のヴォーカルを聴かせている。とは言っても前半4分はギターのオブリガードがヴォーカルを引き立てているのだけど、後半になると曲本体は終わってしまい、残りは延々と続くサックス・ソロ。まるでライブのセット・チェンジのような演奏が続く。
 どこで終わるのか知れない、永遠に続くDanの世界の幕開けと終焉。
 いつまで続くのか、それともかつてのセッションも、こんな感じでずっとプレイし続け、Katzがうまいこと編集していたのか。
 それは誰にもわからない。






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完璧すぎてとっつきづらい、クセのある傑作 - Steely Dan『Gaucho』

folder 『Aja』リリース後の Steely Dan、Donald FagenとWalter Beckerはしばしの休養期間に入るはずだったのだけど、アメリカ人にしては珍しく享楽的ではない彼ら、結局のところはせっかくのバカンスも持て余し、これまでと変わらない日常が流れるだけなのだった。
 ライブ活動から長く遠ざかっていたせいもあって、今さらツアーに出ろと強制する者はいなかった。プロモーション活動と言っても、むさ苦しいヒゲ面の二人組では、TVショーでも絵面が持たないだろうし、またそれほど気の利いたことが言えるキャラクターでもない。せいぜい『Rolling Stone』など、有名雑誌のインタビューをいくつか受けて、それで終わり。あとはダラダラとバカンスが終わるのを待ち、手持無沙汰にレコーディング準備に入るくらいしか、やることがなかった。

 前作同様、世界的にも好セールスを記録したアルバムではあったけど、ほぼレコーディング・スタジオに入りびたりの毎日だった当の本人たちにしてみれば、大して実感は湧かなかったはずである。
 ビルボード最高9位と、地味なサウンドの割にはなかなか健闘していたし、タイムラグはあれど、次第にまとまった額の印税も入ってくる。ラジオをつければ、自分たちの曲が流れてくることも度々ある。でも、直接生の反応を聞いていないので、何だか別世界の出来事に思えてしまうのだ。
 確かに雑誌などでは好意的に書かれているし、実際、レコード・ショップの店頭を覗いてみれば、目立つ所にディスプレイされており、それで何となくではあるけれど、自分たちの周りで大きな力が働いているのが実感できる。
 でも、レコーディングを中心とした自分たちの生活は、以前となんら変わりがない。

 デビューして間もない頃は、とにかく自分たち名義のアルバムが出るだけで狂喜乱舞した。サウンドや曲のディテールなんて二の次だ。まずはリリースできることだけで大成功。
 キャリアを積み上げリリース・アイテムも増えてくると、それに比例して売り上げも増えてゆく。レコーディングにも慣れてくると、試してみたくなるアイディアやサウンドの理想形が、漠然とではあるけど描けるようになる。すると、ルーティンな作業では飽き足らず、アーティスティックな方向転換を図るようになる。これまで触れようとしなかったミキサー卓にも興味を抱き、理想の音を出してくれるミュージシャンを招聘する。
 それでも最初は妥協の連続だ。限られた時間と予算の中で、最良のものを作り上げようと、スタッフも含めて頭を寄せ合い、知恵をしぼり出し、完成形へ向かって努力する。さらに倍々ゲームでセールスが伸びてゆくに従って、主従関係の立場だったレコード会社とアーティストとの均衡が崩れ始める。微妙なバランスが一度崩れると、もう止まらない。膨大な売り上げ貢献によって発言権が増し、次第にアーティスト側が優位になってゆく。そしてアーティストは理想のサウンド実現のため、恐怖政治の王と化す。完璧なサウンドを具現化するため、ありとあらゆる暴挙を繰り返し、膨大な時間と予算を浪費する。

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 そうやって仕上がったアルバムに対して抱くのは、達成感や愛情ではなく、むしろ解放感だ。何やかや試行錯誤の末、やっとの思いで仕上げたアルバムだ。愛憎半ば、愛着はもちろんあるが、もはや顔も見たくなるくらい、彼らは疲弊してしまうのだ。
 ただ、休む時間はない。既に次のレコーディング予定が控えているのだ。

 思えばこのグループ、メイン・ソングライターを押しのけて、実質的に支配していたのはプロデューサーGary Katzであったことは、周知の事実である。
『Aja』から『Gaucho』 までのブランクが約3年、その間FagenとBekkerの確執、イージー・ミスによる完成マスター・テープの紛失、レーベル移籍のトラブルなど、様々な要素が複雑に絡み合って完成が遅れた、というのが定説だけど、そもそも引っかき回してるのはこの男に他ならない。
 
 70年代アメリカで活動するバンドの宿命として、初期のSteely Danも例外でなく、延々と続く長期ツアーを廻っていた。直接観客に晒されることによって鍛えられ、バンドのHPと結束力は日増しに強くなっていった。
 ただし、彼ら同様、理想のサウンドの確立と実現を目論んでいるKatzにとって、そんなウェットな感性には何の興味もなかった。彼にとって重要なのは、理想とするサウンドを具現化することであり、そのためには大してサウンドに貢献できないメンバーはむしろ排除すべきだ、と考えていた。。実際、彼はゆっくり時間と手間をかけてFagenとBekkerを巧みに誘導、次第にSteely Danというバンドを解体、理想のサウンドを実現するためのプロジェクト・チームへと造り替えていった。

 一流のセッション・ミュージシャンに同じフレーズを何度も弾かせ、ダメ出しとリテイクの連発(それでかなりヘコんでしまったのがMark Knopfler)、最終的に何十ものテイクの中から、ほんのちょっぴりのリフやフレーズを抜き出し、パズルのように当てはめてゆく作業。ひどい場合には、まったく使用されない場合もある。
 英米のミュージシャン組合はミュージシャンの権利システムがしっかりしているので、没テイクであったとしてもギャラはきちんと発生し、金銭的な面では問題ないのだけど、それでも傷つけられたプライドの問題は大きい。
 基本、彼らが指名するのは名うてのミュージシャンばかりなので、ボツやリテイクには不慣れな連中ばかりである。そういった感情的なケアを行なうのもプロデューサーの仕事の一つなのだけど、まぁKatzは多分うまくやっていたんじゃないかと思いたい。やってはいたのだけれど、そうはうまく割り切れないのも人間である。演奏クオリティに対する要求のインフレがひどすぎて、次第に参加ミュージシャンの確保が難しくなったことも、Steely Dan活動休止の要因の一つである。

MUSIC-STEELY-DAN

 そういっためんどくさい経緯を踏まえた上で、『Aja』『Gaucho』の2枚は制作された。死屍累々となった数多のミュージシャンたちの、もはや徒労とも言える犠牲のもと、完璧に磨き上げられたサウンドがパッケージングされた。あまりにも無駄を削ぎ落としたそのサウンドは、一部の隙もない分だけ、中途半端な感情移入すら寄せ付けない神々しさがある。
 同じ経緯を辿ったはずの2枚のアルバムだけど、アナログ・レコーディングの技術の粋を結集したのが『Aja』、そしてその最終進化型としての『Gaucho』がある、という位置付けである。
『Aja』と比較して地味に映る『Gaucho』のサウンドは、一聴してすぐ虜になる類のものではないのだけれど、繰り返し聴き込んでゆけば、ジワジワと魅力が伝わってくる作品である。俺自身も常時聴くわけではないけど、年に一、二度は聴きたくなってしまうため、どうしても手放せずにいるアルバムである。あるのだけれど、もっぱら聴くのはやはり『Aja』であり、『Gaucho』はそのついで、単体で聴くことはほとんどない。

 せっかく完璧を目指して作ったはずだったのに、支持されるのは、やや不出来な長男の方。
 音楽に限らず、ここが創作物全般の面白いところである。


Gaucho
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Steely Dan
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1. Babylon Sisters
 Chuck Rainey(B)とBernard Purdie(Dr)の最強タッグによるリズム・セクション。Tom Scott(T.Sax)とRandy Brecker(Tr)を中心としたブラス・アンサンブル。もうこれだけで名曲と保証されたようなものである。マニア/ビギナーを問わず、一般的に抱くSteely Dan的サウンドをそのまま具現化したナンバー。ジャズ・テイストとNYシンガー・ソングライター的抒情の融合としては、この時点においての到達点だったと思う。
 


2. Hey Nineteen
  Hugh McCracken (G)の印象的なチョーキングから始まる、彼らにしてはややロック寄りのナンバー。Rick Marotta(Dr)のスティックの跳ね具合が、全体的にサウンドの躍動感を与えている。
 エレピは全編Fagenによるもの。このメンツの中では拙いプレイだけど、曲のテーマに合った演奏が味わい深い。
 


3. Glamour Profession
 ここでのドラムはSteve Gadd。シンプルだけど、はっきりGaddとわかるようなプレイ。
 ここでもFagenはシンセをプレイ。まぁほとんどエフェクト的な扱いだけれど。
 前半は、やや硬質のAORといった感じのサウンドで、Fagenもヴォーカルに力を入れている。当時、ライブでやったら盛り上がったんじゃないかと思う。
 中盤のTom Scottによるホーン・セクションもなかなか。7分超の長い曲なので、飽きさせないよう聴きどころは多い。

4. Gaucho
 リゾート系のAORといった趣きの、ミディアム・テンポのタイトル・ナンバー。ここまでのサウンドに比べると、ヴォーカルを中心に据えている。
 ここでもTomが大活躍、全編に渡って流暢なソロを聴かせている。それほどテンポは速くないはずなのだけど、Jeff Porcaro(Dr)が叩くとやはり躍動感が出て、曲自体が跳ねる印象。
 ちなみにタイトルのGauchoとは、南米在住の先住民とスペイン人とのハーフを指す、とのこと。地元では、「他人のために自己犠牲を惜しまない人、人のために尽くす人」と捉えられており、かなりの人格者の総称であるらしい。それがこのSteely Danの音楽とどう関係があるのか、といえば、よくわからない。歌詞だってそんな感じでもないし。
 
5. Time Out of Mind
 ステレオタイプのSteely Danサウンドと言える、ファンやリスナーのニーズをリサーチして、そのまま作っちゃいました、という感じのサウンド。悪い意味ではない。スリルはないけど、安心できるサウンドである。
 Rickのドラムは良く跳ね、Michael BreckerのT.Saxもいい感じでブロウしているのだけど、やはりこの曲で一番注目されるのは、散々リテイクを繰り返された挙句、ほんのちょっぴり間奏で地味に採用されただけの、Mark Knopflerのギターだろう。
 
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6. My Rival
 古色蒼然としたハモンドっぽい響きと、Steely Danにしては珍しく、ロック的な響きのディストーションを効かせたギター。メロディ自体は相変わらず不安定なSteely Danそのものだけど、サウンド自体にやや練りが足りない印象。もうちょっと別なアプローチでも行けたんじゃないかと思う。
 で、何の気なしにクレジットを見ると、Rick Derringer(G)が参加していた。なるほど、フュージョン系の響きとは違うはずだ。

7. Third World Man
 不思議な響きの続く、何となく始まって、何となく終わる感じの曲。これも悪い意味ではない。これこそが彼らの追い求めていたサウンド、この時点での最終到達点だったと思う。
 ラジオを点けてみて、何となく流れている曲、何て曲だっけ?そう思うころには、曲はもうアウトロに入っている。
 夜の帳が降りる頃、枕元のラジオを点けてみる、またあの曲だ、何て曲だっけ?…いつの間にか寝入ってしまい、朝になっている。
 そして、あの曲はまだ続いている…。
 Joe Sample(P) 、Steve Khan(G)、 Chuck Rainey、Steve Gaddによる鉄壁のリズム・セクションに、Larry Carlton(G)がしつっこく情緒たっぷりなソロを聴かせる。一流ミュージシャンらの技術を極限まで結集した、地味ながらもこの時点での最高作。
 





 この後、彼らは明確な解散宣言を行なわず、長い長い休養、そしてソロ活動に入る。残されたKatzはといえば、その後もSteely Danの夢よもう一度、といった体で、フォロワー的ミュージシャンのプロデュースなど、いろいろ頑張ってはみたようだけれど、思うようにはいかなかったようだ。やはりあの時代、あの場所で、あの二人と出会ったことがむしろ奇跡であり、いくら敏腕とはいえ、同じフォーマット・同じシステムを使用したとしても、再現は難しいのだろう。
 その後、Fagenは名作『Nightfly』リリース後、超絶スランプに陥って、10年に渡る音信不通状態。
 Beckerはというと、音楽性はともかくとして、風貌の宮崎駿化がますます進行し、プロデュース業の傍ら、ハワイでドラッグ漬けの日々。
 二人とも、現場復帰を果たすまでには、長い長い休養が必要だったのだ。

 そして二人は再会し、今でも時々、アメリカ国内限定で短期のツアーを行なっている。ほぼ懐メロ・ツアーといった風情のため、全体的にユルい感じのステージ内容を、これまたダラダラと行なっている。
 復活後もオリジナル・アルバムを2枚リリースしており、それなりのアベレージはクリアしているのだけど、当然、『Aja』『Gaucho』ほどの求心力を持つ作品は、今のところない。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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