好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Sharon Jones

ダップトーンの歌姫、最期の歌たち。 - Sharon Jones & The Dap-Kings 『Soul of a Woman』

folder エイミー・ワインハウスが亡くなった2011年以降、バッキングを務めていたダップ・キングスの活動は、主にシャロン・ジョーンズとのコラボへとシフトしてゆく。チャートや知名度で比べたら、とてもエイミーと肩を並べるものではなかったけれど、ヴィンテージ・ソウルという共通言語から生まれた絆は強固なものだった。
 ビリー・ホリディやエラ・フィッツジェラルドなど、往年のジャズ・ヴォーカルをルーツに持ったエイミーとの相性は良かったけれど、プロデューサー=マーク・ロンソンによってブーストされたサウンドは、厳密に言えば彼らが望んだものではなかった。大衆向けに若干コンテンポラリーに寄せたミックスは、普段の彼らとしては、ちょっとよそ行き過ぎた。本来の彼らの持ち味である泥臭さは、巧妙なエフェクト処理によってマイルドに加工されていた。
 リーダー=ボスコ・マンによって設立され、またシャロンが所属するレーベル「ダップトーン」の事務所兼スタジオは、ブルックリンの古いマンションの一室を改装したものだった。音響的にも設備的にも充分とは言えず、それほど広いものでもない。ただ、彼らが志向するサウンドを作るには、絶好のシチュエーションだった。
 オートチューンもDAWもない、あるのは苦労してひっかき集めたヴィンテージのマイクやコンソール、それらを駆使して作り上げたサウンドと最もフィットするのが、シャロンのヴォーカルだった。ヒットチャートとは無縁のレトロ・ソウルは、互いのパーソナリティを最もうまく引き出していた。

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 その名から想像できるように、ダップ・キングスを軸に運営されていたダップトーンは、かなりむさ苦しい男社会だった。リー・フィールズやチャールズ・ブラッドリーなど、年季の入った実力派男性シンガーを擁してはいたけれど、もうひとつの柱となる女性シンガー部門が空席になっていた。切実な事情として、大きな収入源となっていたエイミーの不在を埋めるべく、女性シンガーの育成は急務だった。
 エイミーの不在によって、シャロンの稼働日数は増えていった。コンスタントなシングル・リリースやライブ実績の地道な積み上げによって、いくつかのメディアでは、好意的なレビューも出るようになった。
 長い長い下積みを経て、マイナー・レーベルであるにせよ、四十を過ぎてやっと自分名義のレコードを出せるようになった。エイミーと比べ、セールスは取るに足らないけど、次のリリースの目処が立つ程度には、売れるようになった。
 セールスもレビューも悪ければ、次を出すことはできない。いくら良心的なダップトーンとはいえ、採算割れはおろか評判も悪い作品だったら、リリースはそこまで。あとは次のチャンスを待つしかない。
 次?次なんてもうない。何しろ、ここに来るまで30年近くも待ったのだ。再び30年後のチャンスを信じて待つには、年を取りすぎている。

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 本来のフィールドであるレトロ・ソウル路線は、ダップ・キングスの望むところではあったけれど、レーベル・オーナー兼リーダーのボスコは、理想と現実の狭間を行き来しなければならなかった。レーベル運営の足しとして、また純粋にバンド・マンとして、興味のあるジャンルからのオファーを断ることはできなかった。
 代表的なところでは、デビッド・バーンとセイント・ヴィンセントというクセ者同士とのコラボ、そして再びマーク・ロンソンに呼び出され、あのブルーノ・マーズ「Uptown Funk」にも参加している。かなり両極端な仕事だよな、こうして並べてみると。
 方向性の違うエイミーと比べられることもなく、それほど大がかりに騒がれることもなく、シャロンは地道にキャリアを築いていった。レトロ・フューチャーというよりはレトロまんま、60年代から冷凍保存されてたんじゃないかと思ってしまうパフォーマンスは、時代性を超える支持を得た。
 長く下積みを経てきた彼女がやれることは、大好きなヴィンテージ・ソウルを歌うこと、ただそれだけだった。
 このままマイペースに活動できればよい。そう思っていたはずだった。
 だったのだけど。

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 その歩みが止まったのは、突然だった。
 リリース間近だった5枚目のアルバム『Give the People What Want』は、シャロンの体調不良によって発売延期となった。病名はすい臓がん、ステージ2まで進行していた。
 長い療養と化学療法を経て、次第に体調は回復へ向かう。どうにかガンを押さえつけることはできたけど、体力は確実に衰えていた。抗がん剤の副作用によって、頭髪はほぼすべて抜け落ちた。
 変わり果てた風貌となったシャロンだったけれど、それを隠そうともせず、回復するとすぐステージへ戻った。
 -歌を歌うのに、髪の毛は関係ない。
 彼女にとって大事なのは、歌い続けることだった。
 発症してから回復へ向かい、そこからカムバックまでの過程が、ドキュメンタリー映画として記録されている。死の一年前に公開された『Miss Sharon Jones!』の中で、彼女は生い立ちや生きざま、そして真摯に音楽へ向き合う姿勢について語っている。あまり演出過多にもならず、客観的かつ丹念に、生前の彼女の面影と肉声が記録されている。
 ステージでのシャロンの笑顔は、混じり気なしの笑顔、ミューズに愛された、たおやかな表情となっている。
 -ステージこそが、彼女のいるべき場所だった。

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 そして―。
 復帰して間もなく、シャロンのガンは再発した。弱りきって抵抗力が衰えた躰に対し、病魔は容赦がなかった。残された時間がわずかであることは、誰の目から見ても明らかだった。
 体調が少しでも回復すると、シャロンは短期集中でライブとレコーディングを繰り返した。長期のセッションやリハーサルで曲を練り上げるには、時間もスタミナも残されていなかった。レコーディングは一気呵成に、1、2テイクを録って切り上げなければならなかった。
 ステージの上では、病身とは思えぬパフォーマンスを披露していたけれど、一歩ステージを降りて気を抜いてしまうと、もはやまともに歩く体力さえ残らなかった。
 そんな最期の1年のセッション音源を中心にまとめたのが、この『Soul of a Woman』。前作に引き続き、ますますレトロ感が増している。「60年代初期ノーザン・ソウルの泡沫グループの発掘音源」ってコメント付けたら、きっとみんな信じちゃうんじゃないかと思われる。
 なので、基本はいつも通り、通常営業のシャロン・ジョーンズのサウンドである。その次も、またその次も、彼女の歌は変わらない。きっと、いつも同じ、安定したワンパターンを続けていてくれたことだろう。

 でも、もう彼女はいない。新たな歌を聴くことはなくなった。
 そして、ダップ・キングス。彼らは再び、歌うカナリアを失った。


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1. Matter of Time
 野太いコール&レスポンスが印象的なオープニング。ドラム・ベース・ギター・ホーンそれぞれに見せ場があり、束になってかかっていきながらも、強烈なヴォーカルとギリギリの戦いを迫られている。
 そう、彼らにとってステージとは生きる場所であり、そして取るか取られるかだ。そこまで真剣じゃないと、このグルーヴ感は生まれない。もうほとんどHPも残されていなかったシャロン、鬼気迫るものがある。

2. Sail On!
 シンプルな編成でファンクを追及してゆくと、やっぱりJBになってしまう。冒頭のシャウトは、バンドを制圧する。ソウル・クイーンに従うしかないのだ。次は歌えなくなるかもしれない、という思いに駆られながらのプレイは、刹那的であるがゆえ美しい。
 これから盛り上がる展開と思わせるサックス・ソロが、そのままフェードアウトしてゆくのが、ちょっと切ない。
 
3. Just Give Me Your Time
 ちょっとひと息つくように、テンポを落としたバラード。JB直系の女性シンガーと言えばマーサ・ハイやリン・コリンズが有名だけど、彼女らとの違いはバラードの表現力。緩急の使い分けはシャロンの方が上手だと思う。まぁ全盛期JB’sとは、バンドの性格もだいぶ違うし。

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4. Come and Be a Winner
 山下達郎っぽいギター・カッティングが印象的な、軽めのファンク・チューン。「What’s Going On」にもちょっと雰囲気が似てる。ただここでのシャロンのヴォーカル、ちょっと苦しそう。録音時期は不明だけど、体調の不具合が窺える。

5. Rumors
 トーンを変えて、ラテン・フレーバーを足したダンス・チューン。ていうかほとんどラテンだよな、リズムが。バンドもなんだか楽しそう。

6. Pass Me By
 オールド・ソウル好きにはたまらないソウル・バラード。ギターの音色、ハモンドの加減、サザン・ソウル風味のコーラスも絶品。もし活動していたら、シングル候補は間違いなかったと思うし、今後の代表曲となる可能性もあったはず。アッパー系リズムだけじゃなく、ドメスティックなバラードもこなせるシンガーとして。



7. Searching for a New Day
 初期マーヴィン・ゲイを彷彿させる冒頭のコーラスと、重層的なギター・フレーズが、そこはかとないレア・グルーヴ感を漂わせている。リリースされたばかりなのに、すでに懐かしい。そんなミドル・バラード。
 彼らとしてはめずらしく、ストリングスを入れることによって、ほんの少しコンテンポラリー感が増している。一般向けに、こういった楽曲が紹介されても良かったよな。

8. These Tears (No Longer for You) 
 ヴォーカル・キーが高めに設定された、7.よりさらにストリングスを多くフィーチャーしたバラード。コーラスの入れかたといい、ソウルというよりは、ミュージカルや映画音楽のようなグレード感がある。
 ショーン・コネリー時代の007シリーズのタイトルバック、そんなイメージ。

9. When I Saw Your Face
 なぜかヴォーカル・トラックを右に、ホーンとストリングスを左に配した、大昔のステレオっぽさを再現したような、こちらもソウル・テイストの薄いナンバー。発売されたばかりの初期ビートルズのCDって、たしかこんなだったよな。
 こういったジャズ・スタンダード的なナンバーは、バリエーションのひとつだったのか、それともこういった方向性も考慮されていたのだろうか。古株のファンからすれば素直に喜べないところだけど、今後のグローバル展開としては、それもアリだったのかも。

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10. Girl! (You Got to Forgive Him)
 疾風怒濤のストリングスと重厚なホーン・セクション、やけにドラマティックなコーラス。ダップ・キングスは完全にわき役に徹し、ここではゴージャスなサウンドに単身拮抗するシャロンの姿がある。
 ここまで重厚なサウンドになると、逆にシャロンのヴォーカルが映えてくる。あと一歩でベタになり過ぎるところを、さらに情緒的なストリングスがうまく打ち消している。ライブハウスではなく、それなりの設備を持ったホール・ツアーという可能性が、このトラックに凝縮されている。



11. Call on God
 グルーヴィーなハモンドに導かれ、朗々と歌い上げられるゴスペル・バラード。確かなバッキングから醸し出されるスケール感、そしてほっこりしてしまうシャロンのヴォーカル。声の圧こそ相変わらずだけど、そこに無理やり感はなく、崇高ささえ感じられる。



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追悼 Sharon Jones。 - Sharon Jones & The Dap-Kings 『Soul Time!』

folder -ソウル&ファンク・バンド、シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングス(Sharon Jones And The Dap-Kings)のリード・シンガー、シャロン・ジョーンズ(Sharon Jones)がすい臓癌からの合併症のため死去。シャロンは2013年に癌と診断。その後、手術と治療を行って一時音楽シーンに復帰するものの、2015年に癌が再発していました。60歳でした。
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 癌であることを告知された後のSharonは、ある程度の中・長期的な休暇を挟みながら、ライブにレコーディングにゲスト出演に精力的に顔を出していた。去年はDavid Byrneのトリビュート・ライブにも参加してオーディエンスの注目を総取りしてしまう、圧倒的なパフォーマンスを披露していたし、今年の夏はもっぱら夫婦ブルース・ロック・バンド Tedeschi Trucks Bandと全米を回っていた。ジャンルは違えど通ずるものがあったのか、今年の夏は何かと彼らのセッションに呼ばれてパフォーマンス映像が公開されたり、断続的ではあるけれど快方に向かいつつある姿を見ることができた。
 ついこの前は、あのIggy PopとDavid Bowieの「Tonight」をデュエットしたり、これまでソウルのカテゴリーで収まっていたのが、より花広い交友関係が築かれつつあった。

 ここまで業界内でSharonブームが盛り上がったのは、昨年から制作中だった彼女の半生とライブ・パフォーマンスを交えたドキュメンタリー映画『Miss Sharon Jones!』の前評判とリンクしている。冷静に考えてみると、ワールドワイドでは大きなセールスを挙げているわけでもない、主にニューヨーク周辺で活動しているローカル・ソウル・バンドのヴォーカルが映画の主演に抜擢されること自体、極めて異例である。そんな彼女と共演をオファーする大物ミュージシャンが引きも切らなかったことから、やはり何かしら通ずるものがあったのだろうし、フォトジェニックなパフォーマンスに惹かれるものがあったのだろう。少なくともDaptoneが映画プロジェクトに積極的だったとは思えない。彼らも自分たちのことで精いっぱいだし。

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 予兆は8月のEUツアーのキャンセルからあった。復帰後にリリースされたクリスマス企画アルバム『It's a Holiday Soul Party』で健在ぶりをアピールしていたのだけど、まだ60前だっただけに癌の進行は予想以上に早かった。本人も、周囲もその辺は承知の上だったのだろう。これまでとは畑違いのストレスがあったに違いない映画撮影も、体を気遣うならストップさせるべきだっただろうけど、それでも彼女はカメラを回すことを拒みはしなかった。多分、残された命を考えると、少しでも歌えるうちにその姿を収めておくことが、自分にも、そしてファンにも納得行く結果に落ち着く、と判断したのだろう。

 彼女が所属していたレーベルDaptoneは、60年代ヴィンテージ・ソウルを真空パックから開封したような、ある意味時代遅れのサウンドを主に取り扱っている。ダイナミック・レンジと録音トラック数の多さによって、音圧自体は現代の主流サウンドと引けを取らないようになってはいるけど、やはり古臭い。AMラジオで聴いたら時代感覚を失ってしまうようなサウンドばかりである。なので、決して万人受けするような音楽ではない。かつて60年代にティーンエイジャーだった者が懐古的に聴き直すわけでもない。彼らの主力ターゲットはもっと若い世代のレアグルーヴ愛好家だ。
 そういった戦略で自転車操業を続けてきたレーベルの性格上、マーケットはどうしてもニッチなものになってしまう。なので、瞬間的にバカ売れする類のものではなく、ゆっくりじっくりと、ロングテールで地道に売れ続ける音楽である。どんな時代でも一定数、彼らのような音を求める層は存在する。
 そんな事情もあって、ヒットチャートの常連的なポストにはたどり着けなかったけど、デビュー後は一度も契約が切れることもなく、コンスタントにシングルやアルバムをリリースしていた。着実に実績は積み上がっていて、『Miss Sharon Jones!』公開を間近に控え、次回作ではチャート・アクション的にも期待を持てそうだ、と誰もが思っていた。レーベル・メイトであるCharles Bladleyが、EUシングル・チャートにランクインするようになっていたため、それに続いてSharon もまたEU本格進出の足掛かりを得た。
 そんな矢先、突然の訃報である。

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 1956年、アメリカ南部のオーガスタで、6人兄弟の末っ子として生を受けたSharon Lafaye Jonesは、ブルックリンの高校・大学に進んだ。その傍ら、多くの敬虔な黒人に倣ってゴスペル・シンガーからキャリアをスタートさせ、銀行勤務と並行しながら地元のR&B、ファンクバンドを渡り歩いた。80年代に入ってからは、バック・コーラスとして多くのレコーディングに参加、後にDaptoneに入るきっかけとなったLee Fieldsのレコーディング・セッションを機に、もっぱら裏方だった彼女にデビューのチャンスが巡ってくる。
 1996年、シングル「Damn It's Hot」でデビューした頃、彼女はすでに40歳を迎えていた。いくら満を持しての実力派シンガーと言っても、ちょっと遅咲き過ぎるくらいのデビューである。
 その小柄な全身からみなぎる彼女の破裂的なヴォーカルや、熱狂的なステージ・パフォーマンスは草の根的に口コミが口コミを呼び、当時所属していたレーベルDescoのコンピレーション・アルバムには高確率で収録されるまでになるのだけれど、NYの弱小インディー・レーベルでは単独名義のアルバムを制作できるほどの体力はなかった。これは大多数の弱小零細レーベルだとよくある話で、大量のアルバム在庫を抱え込むほどの資本がないため、どうしても低単価のシングル中心のリリースになってしまう。そのシングルだって、レーベルの基礎体力以上に爆発的に売れてしまうとバックオーダーが追い付かず、売れまくったがゆえに倒産、という逆転現象を引き起こしてしまう事例だってある。会社が潰れない程度にほどほどに売れてくれた方が、会社としては好都合なのだ。

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 Sharon自身としては、シングル・リリースだけでも降って湧いたような話であり、アルバム・リリースまでの野心は想像もつかないので持てなかった、というのが実情。取りあえず名刺代わりにシングルを切ってレパートリーを増やし、それが話題になることでライブ動員が安定してくれれば、といった程度の心積もりだった。セッション・シンガーとして、レーベル内外で声をかけられることも多く、バッキングを務めるDap KingsらもAmy WinehouseやMark Ronsonなど、UKの一流どころとのセッションやレコーディングに忙殺されていた。週末の趣味的なバンド活動は、外部活動による生活基盤の安定のもとに成り立っていた。
 そんな状況が変わり始めたのが、DescoのオーナーだったGabriel Roth とPhilip Lehmanとが袂を分かってレーベルは発展的解消、RothとNeal Sugarmanによって創設されたDaptoneに移籍してからである。自らインスト・ソウル/ファンク・バンド Sugarman 3を率いるSugarmanの意向を受け、アルバム・リリースをひとつの柱としたDaptoneが第一弾アルバム・アーティストとして指名したのがSharonだった。前述のLee Fieldsと並んで看板アーティストとなったSharonは、その後、5枚のオリジナルと2枚のコンピレーションを残し、今年は『Miss Sharon Jones!』のサントラをリリースした。

 コンスタントに2年の1枚程度の割合で安定したクオリティのアルバムを残した彼らだけど、その個性がもっともよく表れているのは、やはりシングル中心で編まれたコンピレーションである、というのが俺の主観。時期はバラバラだけど、Daptoneのアーティストは基本、自社スタジオでアナログ・レコーディング、バンドのプレイヤビリティは絶妙の安定感のため、ツギハギ感はほとんどない。
 2004年から2011年くらいまで、ほぼ10年の足取りがここに収められており、これから聴こうとする人には最適なんじゃないかと思われる。この手のバンドあるあるだけど、シングル中心・売り切り在庫なしのパターンが多いため、まだ日本にそれほど生息していないと思われるSharon Jonesマニア以外のライト層にも十分アピールできるラインナップとなっている。

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 訃報をきっかけに存在を知り、再評価されるというパターンは昔から多い。死後の遺産を発掘してリリースする作業は今後になると思われるので、今のところはこれが一番とっつきやすい。
 彼女の新しい歌を聴くことは、もうできない。
 でも、今後も時々、思い出すことはできる。取りあえず、今はそれだけで十分だ。
 今年もBowieやPrinceを始め、好きなアーティストをずいぶん見送ってきた。
 残された作品を聴き続けること、そしてこうやって時たま思いを書き留めておくこと。
 誰に頼まれたわけではないけど、多分、これからも俺はそんな行為を続けるのだろう。


Soul Time!
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1. Genuine Pt. 1
 2004年リリース6枚目のシングル。日本人からすれば馴染みの深いチンドン屋風のオープニングは、親近感を持ってしまう。古来の土着性のダンス・ミュージックという点で共通点は多い。SharonよりはむしろDap-Kingsにフォーカスを当てたミックスは、アナログ・シングル特有の音圧を引き出している。

2. Genuine Pt. 2
 1.の続き。ヴィンテージ・ソウルによくあったスタイルだけど、アナログ・ディスクのカッティング・レベルの維持と、ラジオ・オンエアでかかりやすくするため、長尺の曲を二分割して収録するケースが多かった。21世紀に入ってからも、そういったソウル・マナーにこだわる辺りが、Daptoneが支持される理由。



3. Longer and Stronger
 2010年アメリカで公開された映画『For Colored Girls』のサウンドトラックより収録。タイトルから何となくわかるように、黒人女性を主軸とした人生模様を描いたオムニバス・コメディで、キャストがWhoopi GoldbergやなぜかJanet Jacksonなど、映画にはほとんど明るくない俺でも知ってるメンツが出演している。日本では未公開だったらしく、俺自身も未見。
 ストーリー・コンセプトに基づいた選曲となっており、クレジットを見ると、Sharon以外にもLalah HathawayやLeona Lewis、懐かし枠ではGladys KnightやNina Simoneもピックアップされている。
 スタックス系のホーン・セクションがカントリーっぽくプレイしたような、郷愁漂うスロー・チューンは、映像が目に浮かぶよう。見たことないけどね。

4. He Said I Can
 2011年リリース、出世作となった4枚目『I Learned the Hard Way』リリース後にリリースされたシングル。その後、すぐにこの『Soul Time』に収録されたため、この時点でもっとも新鮮なSharonたちのパフォーマンスが封入されている。
 ファンキーなワウワウ・ギターとオルガン、ホーン・セクションとの軽快なコール&レスポンスなど、聴きどころ満載のチューン。ほぼワン・コードで押し通しているのに、この表情の豊かさといったら。

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5. I'm Not Gonna Cry
 3枚目のアルバム『100 Days, 100 Nights』のレコーディングと同時期に録音され、シングル・オンリーでリリースされたナンバー。南部テイストの濃い演奏は泥臭く、初期の彼女らの音楽性を象徴している。バンドの方向性がSharonメインに移行し、ソウルっぽさが強まるのはもう少し後から。

6. When I Come Home
 2010年リリースのシングル。初期より洗練されたソリッドなファンキー・チューン。ますますJBっぽさが堂に入りつつある。ギターのオカズと音色が黒っぽさを助長させている。

7. What If We All Stopped Paying Taxes?
 かなりストレートなタイトルのジャンプ・チューン。2004年リリースということでDap-Kingsの黒っぽさがハンパない。この後はAmy Winehouseプロジェクトの参加を経て、ゴツゴツ角の尖った演奏が次第に丸みを帯びてゆくのだけど、ここではまだキレッキレの頃。特にテーマがテーマなだけに、Sharonのヴォーカルも攻撃的。

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8. Settling In
 シングル・カットされた『100 Days, 100 Nights』のタイトル・チューンのB面収録曲。多分同時期にレコーディングされたと思われるけど、なぜかドップリ黒いスロー・ブルース。こういった曲も歌えるのはわかるけど、やはりもっとダンサブルで熱いサウンドの方が、彼女の声質には合っている。まぁB面だし、ちょっとやってみたかったんだろうな。

9. Ain't No Chimneys In The Projects
 2009年、クリスマス・シーズンにリリースされたシングル。この時期になるとDap-KingsとSharonとのパワー・バランスもいい塩梅となり、どちらの良さも引き立ったプレイとなっている。
 甘くて切なくて、それでいて楽しみなクリスマス。そんなムードを盛り上げるには絶好のチューン。結果的に生前最後となった企画アルバム『It's a Holiday Soul Party』にも再録された。



10. New Shoes
 2011年リリースのクリスマス・シングル。サウンド的にはソウル間が薄く、勢いと疾走感が印象強い。それでもどんな音でも自分たちの音として聴かせてしまう力技が、この時点で確立されている。

11. Without A Trace
 ゴスペル色が強いサウンドで、ここでのSharonは通常のファンキーな勢いではなく、もっと言葉を噛みしめるようにエモーショナルなヴォーカライズとなっている。この曲だけどうしても初出がわからなかったのだけど、多分ダウンロード・オンリーかこのアルバムのみ収録だと思われる。

12. Inspiration Information
 前曲に続き、こちらもしっとりヴォーカルを聴かせるスロー・チューン。2009年のコンピレーション『Dark Was the Night』収録、オリジナルはShuggie Otis、1974年の作品。ファンクを通過してからのオールド・ソウル風味は、聴き手を和ませる。パーティもそろそろ終わり。帰る時間だな。
 
SharonJones
 
 お疲れさま。ゆっくり休んでね。




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2015年のソウル・クリスマス - Sharon Jones & The Dap-Kings 『It's a Holiday Soul Party』

folder 2015年も末にリリースされたばかりの、初のクリスマス・アルバム。相変わらずの平常運転、いつも通りの60年代ヴィンテージ・ソウルっぷりである。

 考えてみると、近年クリスマス・アルバムといえば定番曲を集めたコンピレーションが主流で、単独アーティストによる作品はほとんど聴いてなかったのだけど、調べてみると結構な数のアルバムがリリースされており、単に俺がそういったイベントから縁遠くなっていただけだった。
 Mariah Careyはド定番として、今年はKylie Minogueが参戦しており、Mary J.BligeやRod Stewartまで、錚々たるメンツが名を連ねている。どちらにせよ、どれも俺の趣味とは微妙にズレてる人たちばかりである。
 ちなみにここ日本では、アイドルやアニメ関連での企画物は多々あるけど、アーティストがしっかり本腰入れて作ったものは少ない。十分生活に根ざしたイベントだと思うのだけど、あまり需要がないのか季節商品に力を入れるのに気が進まないのか。
 全然関係ないけど、調べてみてちょっと気になっちゃったのが、これ。

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 前回のレビューでもちょっと触れたように、ヴォーカルのSharon、胆管ガンの手術成功後、間髪を入れずにオリジナル・アルバム『Give the People What They Want』をリリース、グラミー賞にノミネートされるほどの絶賛を受けたのだけど、この秋にガンが再発したと公表、「今後は化学療法を受けながら病魔と闘ってゆく」というステイトメントを発表した。遅咲きのキャリアのため、年齢はすでに50オーバーだけど、肉体的にガンの進行は予断を許さない。長い目で付き合ってゆくしかないのだ。

 公式サイトを見てみると、この夏からTedeschi Truksとのツアーを開始、最近ではドキュメンタリー映画が製作されるほどの多忙さのため、取り敢えず病状的には安定はしているらしい。単発ではあるけれど、余裕を持った日程のツアーも年末からスタートするので、無理しない程度に頑張ってほしい。
 でも、ペース配分とか考える人じゃないよな、きっと。

 そんな不穏な状態の中でリリースされた、突然のニュー・アルバムである。
 このように手馴れたスタンダード曲を交え、企画ミニ・アルバム的スタイルでのリリースは、多分Sharonの都合上、オリジナルを充分に練り上げる時間がなかったためと思われる。まぁどちらにしろ、彼らのようなライブ主体のバンドでは、スタジオでじっくり音を作るより、本番一発せーので合わせるほうが性に合っているので、結果的にそんなに音は変わらないけど。

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 デビュー当時から所属しているDaptoneは、2002年にニューヨークで設立された60〜70年代のソウル/ファンク/ジャズをベースとしたアーティストを専門に扱うレーベルで、彼女が看板アーティストの1人。
 基本、過去タイトルのリイシューではなく、新規録音が主体であり、一応自社スタジオも構えている、ちゃんとしたレーベルである。しかもそこのスタジオ機材が、今どきヴィンテージのアナログ・テープ使用というところも徹底している。メンテナンスやエンジニアリングも含め、収益優先で考えたらとてもできることじゃないけど、理想のサウンドを求めた結果なのか、どのアーティストのリリースにおいても、このスタイルを貫き通している。
 そんな頑固な姿勢によるレーベル運営は、短期的に回収できるビジネス・モデルではないけど、全世界を相手にすることによってどうにか成り立つことが可能であり、地味ではあるけど、どのカタログもロング・テール型のセールスを記録している。

 彼女の他にも、Charles Bradley やLee Fields、Budos Bandなど、70年代から進化を止めてしまったようなオールド・スタイルのアーティストを多々抱えているのだけど、まぁ日本じゃほとんど名前を知られてない人ばかりである。オールディーズ系の発掘は世界一進んでいる日本だけど、現役のアーティストに対しては紹介すらされない状況、それは昔から。
 Stylisticsなどの甘茶系スウィート・ソウルの需要は昔からあるのだけれど、彼女にようなアッパー・チューンを主体としたファンクネスはあまり受け入れられないのも、メロウな旋律につい惹かれてしまう日本人の特徴でもある。
 なので彼らのアルバム、Sharonを除いてほとんどは、日本発売さえ見送られているのが現状である。
 そんな中でもSharon はすでに6枚のアルバムをリリース、他のアーティストも着実にキャリアを重ね、地味ではあるけれどコンスタントな活動状況なので、海外においてはそれなりのニーズがあることがわかる。なので、なにも無理して日本くんだりまで来てプロモーションしなければならない必然性もない。別に日本だけが上客ではないのだ。

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 で、Daptone 、日本で例えるなら若手演歌歌手専門レーベルみたいなものだけど、取り巻く環境はどこも同じらしく、ドサ回りともいえる地道なロードによって活動を維持している。これもどこの国でも言えることだけど、トラディショナルなジャンルは案外息が長いのだ。
 ただ、日本の演歌の平均的ユーザーが後期高齢者で占められているのに対し、Daptone のアーティストらは老若男女バランス良い分布となっている。実際、若手アーティストとのコラボも多く、年齢層の若いフェスにも普通に参戦している。若手との交流が上手く行ってるのは、ベテランが偏見を持たないこと、そして若手がきちんとリスペクトしていること、それでいながらナァナァにならず、真摯な姿勢で音楽に対して向き合っていられる環境だからなのだろう。

 そういった恵まれた環境の中、Sharonも業界内ではウケが良く、Michael Buble からPhishまで幅広いアーティストとコラボしており、グラミー効果とドキュメンタリー公開時に行われた迫真のパフォーマンスによって、一般的な認知は高まっている。何しろあのめんどくさいPrinceともライブで共演しているくらいだから、実力のほどは言わずもがな。
 大物アーティストのサポートから場末のクラブでのささやかなセッションまで、ありとあらゆるオファーをこなすDap KingsもSharon 同様、経済的基盤を確保しつつ、外部セッションで得たクリエイティビティをバンド本体にフィードバックさせている。
 そういった好循環によって、過度にセールスを気にすることなく、とことん自分たちの好きな音楽をやってゆけるので、バンドとしてはいい状態が続いている。

 それでも危惧してしまうのは、やはりSharonの体調。あり余る精力が漲ってる彼女だけれど、決して楽観できる状態ではないので、お身体だけはお大事に。
 それとDaptone、綱渡りの経営だろうけど、できるだけそのまんまの規模で、これまで通りの仕事を続けてくれ。


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1. 8 Days (of Hanukkah)
 Hanukkahとはユダヤ教のイベントで、これがクリスマスにあたるらしいけど、よくわからん。8日間取り行われることがタイトルの由来。一般的にクリスマスと言えばやっぱキリスト教だけど、その辺分け隔てなく、みんなでクリスマスを祝いましょう的ムードが流れているオープニング・ナンバー。

2. Ain't No Chimneys In The Projects 
 そこからちょっとしっとりした、静かだけどパワフルなソウル・バラード。サックスのフレーズにジングルベルが挿入されているあたり、クリスマス・ムード。ビデオがアニメ仕立てになっており、本人たちは出演してないけど、これがなかなか可愛くて、それでいてちょっぴりホラー・チック。



3. White Christmas 
 スタンダードをファンキーにアレンジしたナンバー。こういうサウンドって、どこか泥くさくって、スタックス系、Otis Reddingへの経緯が感じられる。だってこれ、オケだけ聴いてたらまんま”Shake”だもの。でも、それがよい。

4. Just Another Christmas Song 
 イントロから再びジングルベル。パーティも序盤を過ぎ、一旦小休止、歓談の時間。思い思いにオードブルをつまみながらシャンパンやワインに口をつけ、プレゼントの交換。タイトルとは裏腹に、親密なムードの漂うミドル・バラード。



5. Silent Night 
 再びスタンダード・ナンバー。こちらはちょっとブルース調でカバー。スローなリズムはチーク・タイムにピッタリ。遠くで微かに聴こえるベルがムードを盛り上げている。しかしこれでアナログ録音なのだから、恐ろしいテクニック。

6. Big Bulbs
 タイトルはクリスマス・ツリーの飾り付けに使うライトのこと。もともとはSaundra WilliamsとStarr Duncanから成る女性二人組Dapettesのナンバーで、彼女らもコーラスに参加している。こういった曲をきちんと探してこれること、そんなところにアメリカという国の奥の深さを感じさせる。

7. Please Come Home For Christmas
 もともとはブルース・シンガーCharles Brownが1961年にリリースしたナンバーのカバーだけど、Bon JoviやEaglesのカバー”ふたりのクリスマス”の方が有名。オリジナルに敬意を表したスロー・ブルースになっており、日本人好みのナンバーになっている。

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8. Funky Little Drummer Boy
 ひと昔前のキャバレーっぽいバックとコーラス。パラッパラッパーというフェイク、タメの効いたリズム、ほとんどコード移行もない、いわゆる大人のクリスマス。クリスマスも仕事で遅くなり、単身赴任などで家に帰れないお父さんたちが独り、盛り場で過ごす聖夜のひととき。そういった人たちにも、平等にクリスマスは訪れる。

9. Silver Bells 
 オリジナルはBing Crosbyによる1951年のコメディー映画『The Lemon Drop Kid』の挿入歌。Elvis Presley、Stevie Wonder、Barry Manilowなどカバーも多く、アメリカでは”クリスマス・イヴ”的ポジションの大有名曲。俺は知らなかったけど。
 アメリカのゴールデン・フィフティーズを象徴するような、ポジティヴ感満載の曲に理屈はいらない。ここではバックも手堅い演奏、妙なアドリブもほとんどなく、パーティのハウス・バンドに徹している。

10. World of Love 
 Dap-KingsのギタリストBinky Griptiteが2007年にリリースしたソロ・シングル。ここだけ彼がリードを取っており、普段はなかなかメインに出てこないながら、なかなか堂々とした正統派ソウル・バラード。ストリングスの使い方もスリリングかつ効果的。60年代末にリリースされたまま埋もれてた発掘レア・グルーヴ系ナンバーと言われても見分けがつかないくらいの仕上がり。褒め言葉だよ、言っとくけど。



11. God Rest Ye Merry Gents 
 パーティも終わり。蛍の光的クロージング・ナンバー。歌姫Sharonも袖に引っ込んでしまい、あとはバンドが閉店まで延々と、好き放題なアドリブをかましながらの自由なセッション。




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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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