好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Prince

邦題『愛のペガサス』。…まぁその通りだけど。 - Prince 『Prince』

folder 1979年にリリースされた2枚目のアルバム。デビュー作からはほぼ1年半のブランクを置いての作品である。
 すべての楽曲の作詞・作曲・プロデュース・演奏をほぼ独りで行なったデビュー作『For You』は、レコード会社お得意の「早熟の天才!」という定番フレーズがほんのちょっと話題になったくらいで、実際のセールスにはほとんど結びつかなかった。US最高138位UK最高156位というチャート・アクションは、これといってセールス・ポイントもないポッと出の新人なら及第点、今後の成長株としてはまずまずの成績だったけど、その後の快進撃を知っている今となっては、「あれ、こんな程度だったの?」と思ってしまっても不思議ではない。

 大メジャーレーベルのワーナーから、破格の契約金と3枚のアルバム制作契約を勝ち取ったのは、主に当時のマネージャーだったOwen Husneyの手腕によるものが大きい。何の実績もないド新人をいかにして売り込んだのか、はたまたそれほど首脳陣を即決させてしまうほどの才能の萌芽が生えまくっていたのか。まぁ多分どっちもだとは思う。
 冷静に考えれば、それまで故郷のミネアポリスを中心に活動していたため、全米をくまなくツアーで回っていたはずもないので、当然知名度はない。デビュー間もないため方向性が定まっていなかったのか、ジャケットの横顔もどこか自信なさげ、華があるとは決して言えない。アーティストと言えば自己顕示欲が強いはずなのに、作品の上では自信家だけど、元来の人見知りが祟って、まともなインタビューさえできやしない。
 新人なら新人らしく、もっと自己アピールしろよ、と口出ししたくなってしまうけど、考えてみれば彼はPrinceだった。昔から変わんなかったんだな、こいつ。

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 とは言ってもやっぱりデビュー作、周囲に大見得切ってしまったおかげもあって、初レコーディングにはかなり気合が入っている。27種類もの楽器を独りで操り、納得行くまで繰り返されるリテイクやオーバーダヴは半年に及び、レコーディング予算は最終的に2万ドル以上オーバーした。
 彼に限らないけど、デビュー・アルバムは誰でも肩の力が入るものなのだ。実際、ここでのPrinceはそれまで培った19年分の蓄積をすべて吐き出している。ほぼここでしか聴くことのできないカノン風の多重コーラスを筆頭に、ロック風、バラード、ハード・ロック、ライト・ファンクなど、ありとあらゆるジャンルの音楽が詰め込まれている。確かにすごい。何の実績もない19歳の男が、ここまで作り込んだ完全パッケージの作品を提示してきたのだから。そりゃすごい。

 でも、ただそれだけ。
 「よくできてるねぇ」以上の賛辞はほとんどなく、むしろマーケットからはほぼ無視の状態のまま、その後を思えば信じられぬくらい地味なデビューとなった。
 思えば時代はディスコ全盛期の真っただ中で、当時、ブラック系アーティストに求められている音楽は、ほぼディスコの一択しかなかった。Isleyに端を発する、ブラコン系のムーディなバラードが辛うじて息をつないでいたけど、Princeはそのどちらにも属していなかった。
 もともと生まれ育った環境が黒人オンリーというわけではなく、あらゆる人種が混在していたため、インプットがファンクやゴスペルだけではなかったことが、その後のPrinceの音楽性を決定づけている。それらと同様、ロックやフォークもまた、彼の中では同列だったのだ。
 そういった影響もあってこのデビュー作、どちらかと言えば白人テイストの強い楽曲が多い。黒人が器用にロックのマネをしているところは何ていうか、「ようできてまんなぁ」という皮肉交じりの賞賛しか出てこない。最初だからとテンパっちゃったのか、『あれも出ますこれもできます』的に幕の内弁当になってしまったことが、逆に主要ターゲットであるはずの黒人層からソッポを向かれてしまった、というのが初動ミス。

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 ワーナーからすれば、まぁ若気の至りということもわかっていたはずだし、取りあえずセールスは別として、意気込みは感じられる成長株的な見方はしてたんじゃないかと思われる。いまと違って当時のレコード会社は、まだ売り上げには貢献できていないけど、有望な新人をじっくり育てる気概と環境とを整えていた。Led ZeppelinやPaul Simonなどの大物を擁していたワーナーにとって、新人アーティストの面倒を見ることは先行投資的に余裕だったので、「まぁそんあ焦らなくても、じっくりオリジナリティー育ててけばいいんじゃね?」くらいにしか思っていなかった。懐の深い企業だったんだな、ワーナーも昔は。

 ただ、そんな生暖かい庇護を良しとせず、逆にプライドを傷つけられたとでも言いたげに、面白く思わないのがこの男、Princeである。そりゃ最初だからして、プロ仕様のレコーディング機材やスタジオ環境に慣れていなかったせいもある。ワーナーからのアドバイスも適当に聞き流してセルフ・プロデュースを押し通してしまったが挙句、セールス・ポイントがぼやけた仕上がりのアルバムを作ってしまったことは、後のインタビューでも反省点として明らかになっている。
 ただ、当時から選ばれし者と勝手に思っていたPrinceであるからして、精魂込めた作品に大きな自信を持っていたことは否定できない。これまで培ってきた自分の美学に基づいて作ってみたはいいものの、世間の理解を得るには至らず、そこがちょっと不満に思っていたのは殿下らしいところ。多分、ずいぶん前から自分が主人公のサクセス・ストーリーなんかを夢想していたんだろうな。なのに結果は成功とも失敗とも言えない中途半端なセールス。そりゃプライドも打ち砕かれる。
 「何でみんな、この良さをわからないんだっ」と声高に叫ばず、ブツブツ小声で呟くチュッパチャップス片手の彼の姿が思い浮かぶ。

ダウンロード

 散漫な仕上がりだった『For You』の反省を踏まえ、ソウル系のラジオでオンエアされやすいディスコ/ファンク系のリズムを強調していったのが、この『Prince』である。セルフ・プロデュースで作り込んでゆくサウンドのスタイルは変わらないけど、ビジュアル面においてもPrinceというアーティスト・イメージを細部まで作り込んでいる。そのディテールまでこだわったキャラクター設定の結果が「エロ」だったのは、結果的に的を得ていたのだけれど、まぁそこまでやるか、といった印象。キモカワという言葉がまだなかった時代、「キモい」という定冠詞は正しくPrinceのためにあるようなものだった。

 セクシャリティとは無縁の、ある種の猥雑さを内包したエロティシズムをコンセプトとして掲げ、次第に言行一致のキャラクターを作り上げた黒人アーティストの先駆けがPrinceである。
 ファンクの純化と並行してマッチョイズムを強めていった60年代のJBは、ステージ上ではむしろストイック、純音楽主義的なパフォーマンスを展開していた。『Stand!』以降、一時的な引退状態にあったSly Stoneは、『暴動』以降はアブストラクトなファンクの探求に明け暮れ、そのサウンドや出で立ちからは、暴発寸前の狂気が内包されていた。猥雑さという点においては、P-FunkがPrinceに近い路線を先行していたけど、その「エロ」は社会風刺や誇大妄想にかき消されており、総帥George Clintonの山師的カンに左右されることが多かった。
 なので、男性特有のイカ臭くパーソナルなエロを放つアーティストとして、Princeのスタンスは隙間にすっぽり収まる。無理やりこじつければRick Jamesが同じベクトルで重なり合うのだけれど、彼の場合、ほぼパターン化された下品なディスコが中心であり、Princeほどの幅の広さがなかった。肝心のサウンドがビジュアルに追いつかず、ディスコの終焉と共に存在自体がフェードアウトしていったのが悔やまれる。

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 のちにChaka Khanカバーによって注目を浴びることになる「I Feel for You」を始めとして、『For You』よりヒット要素の強い楽曲が多く収録されており、結果、「エロでありながらキャッチー」「キャッチーでありながらエロい」という評が高まり、セールス的にも一躍US22位という結果を残すことになる。当時のUKチャートではランクインしていないのだけれど、最終的にシルバー・ディスクを獲得しているので、息の長い売れ方をしていたことがわかる。
 前述のRick Jamesサウンドのフォーマットを借りて作られたサウンドもあるけど、単調な2流のディスコに終わっておらず、彼自身のパーソナリティをふんだんに盛り込んだ楽曲は密度が高い。次々流れ作業で量産されてゆく他のディスコ・ミュージックと違って、かなりの計算打算を盛り込んで練り上げられた作品のため、単純で刹那的なダンス・ミュージックとは一線を引いている。一時の流行ものとして消費されてしまう類のサウンドではないのだ。

 すでにこの時点でオリジナリティあふれるサウンドを提示することによって、Princeは短期間で消費されてしまうダンス・ミュージックの呪縛から逃れることができた。それは単純なファンク・ビートだけじゃなく、一度は引っ込めたけど『Purple Rain』で開花するロック・テイストの素養も持ち合わせていたからに他ならない。
 その独自性・他アーティストとの差別化として明快だったのが「エロ」路線であり、ビジュアル面においてもその点を貫いていたのは、ビジネス戦略だったのか、はたまた単なる天然だったのか。


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1. I Wanna Be Your Love
 ベストに入ってることも多い、初期Princeの代表曲。同時代のディスコ・サウンドに倣いながら、最もサウンドとフィットしたファルセットで全編通すことによってファンクネスが生まれているサウンドの構成的にはほぼロック的にシンプルなセッティングなのだけど、ここが良い意味での手癖なんだと思う。カッティング主体のギターはちょっと大人しめ。この塩梅の良さがR&Bチャート1位という好評を得たのだろう。
 アルバム・ヴァージョンはアウトロが2分と長く、マルチ・プレイヤー振りのアピール全開。



2. Why You Wanna Treat Me So Bad?
 で、ここではそのギターを弾き倒している。ユニゾンするチープ・シンセの音色も来たるべき80’sサウンドの萌芽が見られる。こちらもアメリカR&Bチャート最高13位。『Purple Rain』に入ってても違和感ないロック・テイストは、どっちつかずだった『For You』より強い音圧によってアップグレードされている。
 売れ線狙いのキャッチーな曲ではあるけれど、きちんとヒットさせちゃってるんだから、そこはさすが殿下ならでは。

3. Sexy Dancer
 ヒット狙いのアルバムのセオリーに則って、A面3曲までアップテンポ系、ノリのよい曲が続く。ここでディスコ寄りのファンキー・チューンをぶち込んでくるのは、単なるソウル/ファンク・アーティストに収まるつもりではないことが、しっかり証明されている。ふつうなら、これがリード・トラックだもんね。
 主にシンプルなギター・カッティングと四つ打ちビートで構成されているけど、時々ピアノ・ソロを挿入してきたりなど、独自の美意識が窺える。

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4. When We're Dancing Close and Slow
 ここでシフト・チェンジ、彼のもう一つの特性であるロマンティックな一面、あまり特筆されることはないけれど、稀代のメロディ・メーカー振りをここで発揮している。軽くサスティンを効かせたアルペジオがメロウさを強めている。後の「Sometimes It Snows in April」にも通ずるバラードは、意図不明のシンセ・エフェクトと共にフェードアウト。

5. With You
 B面トップは4.に続くようにシットリしたバラード。よく言われてるけど、ここでのPrinceはかなり女性的。ていうか女性ヴォーカルを想定して作られたかのようなサウンド、メロディである。Natalie Coleあたりに提供していたら、もっと売れたかもしれない。

6. Bambi
 こちらも初期Princeの代表曲とされる、ロック要素の強いアッパー・チューン。ここでもヴォーカルはファルセットで通しているので、ファンクの要素もちょっぴり添加。
 80年代以降のNWOBHMにも通ずるハードなギター・プレイは、単純に聴いてて気持ちがよく、コンパクトに4分程度にまとめているのもファンからの人気の高さの要因でもある。
 好きになってしまったレズビアンの女性をどうにか振り向かせたい男の心情を描いた歌詞もまた、当時としては画期的だったはず。

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7. Still Waiting
 いきなりカントリー・タッチのイントロで始まる、こちらはちょっとほのぼのしてしまうミディアム・バラード。彼のカントリー・ホンク的な楽曲はキャリアの中でも数えるほどなので、ある意味貴重。これも女性ヴォーカルを想定して作られたっぽい楽曲なので、これも誰かカバーしてくれたらイイ味出してくれるんじゃないかと思われる。
 後年、そういった曲が溜まったせいもあるのか、楽曲提供だけじゃもう追いつかず、ついにはイコライザーで変調させまくった疑似女性ヴォーカル・アルバム『Camille』を制作するに至るのだけど。

8. I Feel for You
 で、これはそんな需要側と供給側の思惑が一致した楽曲。正直、ここでのヴァージョンはPriceとしては佳曲程度の印象しかないけど、思いっきりグレードアップしたChaka Khanヴァージョンは壮観。
 プロデューサーArif Mardinはこのシンプルな楽曲を思いっきり80年代テイスト満載のシンセで埋め尽くしたのだけど、やはり強烈なインパクトだったのは冒頭のサンプリング・ヴォイス。Grandmaster Flashを引っ張り出してきて、畳み掛けるような「チャカカーン」攻撃。この力技だけでChakaに関心がなかった層をも強引に振り向かせ、US3位UK1位をもぎ取った。
 あぁもう、Chakaの顔しか思い浮かばない。言葉通りの本歌取りとなった楽曲。



9. It's Gonna Be Lonely
 で、最後はクールダウン的にあっさりした味付けのバラード。ウェットになり過ぎず、変に余韻を残さないスロー・チューン。普通なら流し聴きしてしまいそうなものだけど、案外リズムにメリハリがあり、最後まで飽きずに聴くことができる。



 ジャケット表での、上半身裸でこちらをキッと見据えるPrince。その表情に迷いはない。
 そしてジャケット裏。ペガサスに見立てるため、無理やり翼をくっつけられて不快感丸出しの白馬。そして彼の上に跨るのは全裸のPrince。
 馬にとっちゃ、迷惑な話だっただろう。

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久々に現場復帰した殿下、21世紀の代表作 - Prince『Musicology』

folder 2004年にリリースされた、Princeなんと28枚目のスタジオ・アルバム。ワーナーを離れてからの彼は、主に自主レーベルNPGと、各メジャー・レーベルとの単発契約という変則的なリリース形態で活動していたため、この時期の詳細は日本では掴みづらかったのだけど、実は大量のアイテムを世に送り出している。何かと創作の自由を妨げていた「Prince」というクレジットを捨てて、既存の慣習に捉われない作品を量産していたのがこの時期だけど、何しろアルバムごとに配給元がコロコロ変わり、特に日本においてはスキャンダラスな面ばかりにスポットライトが当たり、きちんとしたプロモーションや評価が為されていなかったのも事実。

 そのNPGでは、ダウンロード限定のアフターショウのジャム・セッションやら、インストどファンクやら、メジャー・レーベルではリリースしづらい面白い作品も多いのだけど、一般のファンを取り込める内容かと言えば、チョット微妙な仕上がり。広い対象へアピールできるサウンドではないのだ。
 まぁそれもこれもワーナーとの契約がこじれにこじれちゃったおかげでもあるのだけど、その法務関係が完全にクリアになったと同時に「Prince」のアーティスト・クレジットが復活する。
 その復活第1弾が、コンセプチュアルな作風のジャジー・テイストな『Rainbow Children』だった。従来のPrinceのコアなファンにとっては、しっかりした骨組みのシンプルなサウンドが好評だったけど、これもライト・ユーザーが気軽に聴く雰囲気の作品ではなかった。-まぁ一発目だから、カンが戻ってないのかな?取り敢えずメジャー復活を喜ぶ機運はあった。
 そんな周囲の生温かい期待を裏切るようにリリースされたのが、全編ジャズ・インスト・ナンバーで構成された『N.E.W.S.』だった。メジャー・フィールドへの反発を通り越して、なんかスピリチュアルな世界へ行っちゃったのかなぁ、と思ってしまった俺。この時期もNPGを介した音源配信は継続しており、そこでもジャズ要素の強いインスト作品を連発していた。プライベートでも何やかや騒がしかったPrince、ネガティヴな心境が晴れるまでには時間がかかったのだろう。とは言っても。
 正直、ジャズ・インストに走ったPrince、既存フォーマットに乗っかったPrinceほどつまらないものはない。確かにレベルは高いんだろうけど、誰もそんなもの、あんたに求めちゃいないのだ。

musicology

 そんな状況に終止符を打ったのが、このアルバム。完全にメジャー仕様、自己満足なセッションではなく、きちんと作り込みつつ大衆性も意識した、それでいて同時代性もしっかり意識した作品に仕上がっている。世界中のPrinceファンはもちろんの事、特に欧米では熱狂的な歓迎を受け、US・UKとも最高3位にチャートイン、それぞれダブル・プラチナム、ゴールド・ディスクを獲得している。このアルバムを引っさげて行なわれたツアーは各地で盛況を記し、この年のアメリカではツアー興行収入トップとなっている。
 やっぱり、ちゃんとやる気になればできる人なのだ。

 彼が亡くなってから、1ヶ月ほど経つ。
 その間、ほんと久しぶりに彼のアルバムをまとめて聴いていた。1人のアーティストのアルバムをこれだけ集中して聴くのは、多分大滝詠一以来だと思う。
 特にこのブログを始めてからだけど、そういった聴き方は少なくなった。このアーティスト・このアルバムについて書きたい・語りたいという動機が先立ち、純粋に「ただ聴いてみたい」と思ってCDを探す行為は、以前よりずっと減った。
 先日逝去したDavid BowieやMaurice White も、結局聴き返したのは好きなアルバムばかりだったのだけど、彼に関しては今も、全キャリアを総ざらいしている最中。
 それだけPrinceとは、俺にとって特別なアーティストだったのだろう。

 デビューから順を追って、時系列に聴いてるわけではない。その日の気分、ランダムに選んで聴いている。何となく、その方がいい気がしたのだ。
 なので、『Controversy』の次に『3121』を、次に『Crystal Ball』をと、ほんと節操がない聴き方だ。時代ごとにサウンドは激変しているけど、根っこは同じものだし、駄作という物がない人なので、それほど違和感はない。
 で、リリース当時にちゃんと聴いてなかったため、新鮮な感動があったのが復活以降、2000年代のアルバム群だった。リアルタイムで聴いてはいたし、いま手元になくても確実に一度は購入していたはずなのに、ほとんど記憶に残ってなかった。
 この時期の俺は音楽への興味が薄れていた頃で、お手軽なJポップばかり聴いていた。それまで日常的に聴いていたロックを聴くことに疲れてしまい、耳障りの良い音ばかりを求めていた。
 Princeもまた例外ではなく、ほんの1、2回流し聴きした程度で済ませていた。音楽が俺にとって、重要なファクターではなかったのだ。

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 時代の数歩先を歩むことによって、独自のスタンスを築いた80年代のPrinceだけど、その先進性が失われてしまったのが、一体いつなのか。
 『Lovesexy』を境に語られることが多いけど、その前の『Black Album』製作後とも言われてるし、主演映画『Graffiti Bridge』が大コケしてしちゃってから、という説も目にする。どれもそれなりに説得力があるし、納得してしまったりする。
 俺的には作品がどうこうというよりも、ワーナー副社長就任を機に身動きが取りづらくなったことが、そもそもの始まりだったと思うのだけど。

 とは言っても、そのワーナーと揉め出した頃からのPrinceの音楽性レベルが落ちたのかといえば、それはちょっと話が違ってくる。確かにここでの彼は半ばやけっぱち、契約消化のため、枚数稼ぎでやたらめったらリリースしていたようなもので、やっつけ感は強い。
 当てつけのようなサブタイトルを冠した『Come』や、ベーシックはほぼ一発通し録りのセッション・アルバム『Chaos & Disorder』など、ワーナーへの不平不満を露わにした作品が続いている。この時期のPrinceはまだ創作力のピークの最中で、契約消化を目的とするのなら、それこそ膨大なストックから何曲か引っ張り出してくれば済むものなのに、わざわざ時間を割いてニュー・アイテムをレコーディングしているのだから、相当憤りをぶつけたかったのがわかる。
 リリース当時はPrince自身もネガティヴな発言を連発しており、この時期のアルバムは評価もそれほど高くなかったのだけど、時代を経て作品にまつわるゴシップ性も薄くなり、再評価の機運が高まっていることもまた事実。時代の最先端でミュージック・シーン全体をリードしていたPrinceではなく、明確な対象へ向けて明確な怒りを表明する一アーティストの熱量のあふれ具合。当時の事情を知らぬ世代のフラットな視点によって、案外評価が高いのがこの時代のアルバムである。

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 対して改名騒動を経てからのPrinceの作品だけど、どうにもフォーカスがズレた作品が多い。
 晴れてワーナーから解放された充実感を、これでもかと言わんばかりにアルバム3枚で表現した『Emancipation』。まぁ気持ちはわかるし今後の意気込みも理解はできるのだけど、だからといってここまでの大作にする必要があったのかといえば、正直胸やけした人が多かったんじゃないかと思われる。クオリティ云々より、とにかく長いんだもん。
 この時期にボコボコ配信されたNPG音源もまた、メジャー仕様のアルバムもあるにはあるけど、ほとんどはアフターショウやジャズ・インストが多くを占めている。ネット配信の利点である「速報性」「録って出し」というコンセプトを推し進めて行きたかったのだろう、と今では理解できるけど、その理念が先行し過ぎた挙句、パッケージとしてのクオリティの追求が甘くなっていることは否定できない。
 彼に限らないけど、制約を取っぱらいすぎて、あまりにやりたい放題の環境に身を置いてしまうと、まとまりがなくなってしまうという実例である。

 で、様々な条件がクリアとなってメジャー活動の環境も整い、『Musicology』に至る。
 ここからのPrinceのアルバムは、全体を通してのコンセプトを設定していない。それにもかかわらず、サウンドのトータリティは統一されている。無理に縛りを入れなくても、NPG音源のようなとっ散らかり振りや、冗長な部分はない。きちんと一般流通向けにブラッシュ・アップされた、ライト・ユーザーも取り込めるサウンドでまとまっている。
 新しい試みはない。どの曲にも「かつて聴いたことのあるPrince」サウンドが凝縮されており、そのエッセンスは濃厚である。なのに、くどくない。その辺のさじ加減はやはり一流のアーティストたる所以だろう。
 自己模倣とか拡大再生産という意見もあるだろうけど、ここに来てPrince、やっと自分を振り返られる余裕ができたのだ。これまではイノベイターとして時代に先頭に立ち、人々をアッと驚かせるサウンドを作っていくことによって、モチベーションを維持していた。実際、ワーナー時代はその役割を全うしていたし、それがセールスにも反映されていたのだけど、次第にビジネス上の問題が彼を苦しめ、その嗅覚が世間とズレつつあったのが事実。
 優秀なブレーンがついたのか、それとも最後まで駄々を突き通したのか、とにかく権利関係もクリアになって心機一転、先鋭的な部分を抑えてこれまでのPrinceサウンドをわかりやすい形で翻訳して創り上げられたのが『Musicology』である。これまで聴いたことあるようなサウンドにあふれているけど、そのオリジネイターは彼自身だ。
 -俺がやってきたことを俺がやって、なんか悪い?
 そんな開き直りさえ感じられる、それでいて素直な音がここでは鳴っている。
 この後も、同様のPrince的サウンドを展開した『3121』や『Planet Earth』をリリースすることになるのだけれど、そこは一筋縄では行かない男、次第にその歯車は再び、アバンギャルドな方向へスライドして行くことになる。


Musicology
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1. Musicology
 ファンキーな雄たけびから入るオープニング。この声だけで、Princeが本格復帰したことを教えてくれる。ほぼ基本のベースとドラム、ホーン・セクションとギターだけ。で作られたサウンドは、『Parade』期と同じ構造なのだけど、時代が違うだけあって、音のボトムが太い。アップデートしたファンキーなPrinceを堪能するのなら、まずはこの曲から。
 先達のアーティストらへのリスペクトを露わにした歌詞、ダンサブルなPVなど、何かと話題になった。ちなみに最後に少しだけ、「Kiss」の一部をサンプリングとして使用。EU諸国では先行シングルとしてもリリースされ、最高はベルギーの4位。てか、なんでUSでは120位なの?



2. Illusion, Coma, Pimp & Circumstance
 あまり派手な曲ではないけど、以前のPrinceが好きな人なら確実にツボにはまる、ほぼワンコードのスロウ・ファンク。ギターの音が太いのが俺好みなのと、効果的に使われるスクラッチは、彼にしてはフィットしている。ヒップホップに接近するとヤケドしてしまうのが90年代のPrinceだけど、このくらいのエッセンス程度なら、全然OK。

3. A Million Days
 ベタなバラードだけど、相変わらずギターの自己主張が強いおかげで、平凡にならずに済んでいる。アメリカン・ロックっぽい響きのリフは、メロウに流され過ぎないようにサウンドを引き締めている。
 響きはやっぱ80年代だよね。『Purple Rain』期だな。あの頃よりもドラマティックな展開になってるのは、年を取ったせいか。

4. Life 'O' The Party
 女性ヴォーカルとしてCandy Dulferが参加。そう、あのサックス・プレイヤーの。何でもできる人なんだな。まぁアクがない分だけソロではちょっと厳しいけど。
 ライブだったら、この掛け合いもなかなか面白いものだと思う。シンプルなコード展開だし、構成的にこういった曲がないとライブでは盛り上がらない。

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5. Call My Name
 ベッタリと、それでいてスウィートなソウル・バラード。この辺は『One Nite Alone』からのフィードバックが考えられる。最後のツアーがピアノ・ソロを中心としたライブだったので、特に復活後はこの方向性も視野に入れていたのだと思われる。JBのように生涯現役のステージ・パフォーマーというのも理想ではあるけれど、それだけに収まらない可能性を秘めていたのが、Princeだった。多彩な方向性を持つ彼だからこそ、楽曲のバリエーションを模索することは重要だった。

6. Cinnamon Girl
 Princeが歌ってるからソウル/ファンクにカテゴライズされているけど、楽曲自体はオーソドックスなパワー・ポップ。ストレートでギミックもない、ノリの良いギター・ロック。近年では珍しくエモーショナルなソロを弾いてるし。
 2枚目のシングルとして、UK43位。彼じゃなかったらポップ・チャートでもっと上に行ったかもしれないな。

7. What Do U Want Me 2 Do?
 リリース当時から各方面で囁かれていたように、『Sign `o` the Times』期のサウンドに酷似したミディアム・バラード。ていうかシンセの使い方はまんま「The Ballad Of Dorothy Parker」。自己模倣というよりはインスパイア、または自身によるリスペクトと思った方が良い。良い素材はうまくリサイクルすることも、アーティストとしての寿命を延ばす策のひとつだ。
 とはいってもしっかり以前よりヴァージョン・アップしており、特にサビ前~サビのメロディは絶品。

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8. The Marrying Kind
 バロック調のギター・ソロは北欧ゴシック・メタルを連想させ、それに伴ってなのかドラムの音も重い。コーラスの重ね方とギターの音が90年代前期を模しており、まだワーナーとの良好な関係を想起させる。

9. If Eye Was The Man In Ur Life
 この曲を含み、8.から10.までクレジットは一緒なので、ほぼ同じ日のせっしょをベースとして制作されたと思われる。御大Maceo Parkerも参加しているのだけど、あんまり目立った働きはしていない。やはりPrinceの独壇場。ゲストに花を持たせるという考えがないのは昔から。

10. On The Couch
 初期Princeには必ずあったエロ・バラードがここで復活。ファルセットが入ると一気に夜のムードがアップするのは、この人ならでは。しかし、50近くになってこんな歌を気持ちを込めて歌えるのだから、一流のエンターテイナーはやはり違う。
 石井竜也あたりもスカした歌ばかり歌ってないで、自分の適性はこっちにあることを早く気づいてもらいたい。

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11. Dear Mr. Man
 シリアスなトーンでまとめられたミディアム・ファンク。わかりやすいファンキーさではないけど、当時の大統領を含めたアメリカ政治への不満を綴っているため、自然、曲調も重厚感を伴っている。
 21世紀に入ってからのPrinceは盛んに社会問題への”Non”を突きつける、問題提起を促す楽曲を発表していた。こういった時の即決で対応できるネット文化は、彼にとっては都合の良いメディアだったのに。

12. Reflection
 キャリアの中でも珍しい、アコギ1本で弾き語るシンプルなバラード。Joni Mitchellにも影響を受けているPrince、あまり見せてはいなかったけど、こういう面だってあるのだ。そりゃいつもファンクばっかりできるわけじゃないし、こういったのも作りたくなるだろう。
 こういったサウンドばかり集めたのが例の公式ブートレグ『Crystal Ball』のおまけディスク『Truth』なのだけど、あれよりも爽やかな感触。



 現時点でのPrinceのアーカイブ的な話題といえば、アナログ・ディスクのリマスター一挙再発といったところ。パパラッチ的な話題は事欠かないけど、ファンにとって重要な情報はこれくらい。エピソードも大事だけど、やはり気になるのは膨大に残されてるはずのマテリアルだ。
 未発表曲が多数発掘されているらしいけど、リリースされるのはいつになることやら。続報を待とう。



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現時点で殿下の最終作 - Prince 『Hitnrun Phase Two』

folder 「プリンス、急逝。ペイズリーパーク スタジオの自宅で」
 プリンスが急逝した。享年57歳。

 彼の広報担当者によると、現地時間の4月21日午前、プリンス(Prince Rogers Nelson)が、ミネソタ州チャンハッセン郊外にあるペイズリーパーク スタジオの自宅で亡くなっていることを確認したという。

 また現地での報道によると、保安官事務所からの話として、同日9時半過ぎにペイズリーパーク スタジオから緊急通報を受け、エレベーターの中で意識不明の状態のプリンスを発見したという。

 プリンスはインフルエンザにかかり、4月7日の公演をキャンセル。また、4月15日にはアトランタでパフォーマンス後、プライベートジェットで移動中に体調が悪化。イリノイ州モリーンの空港に緊急着陸し、病院へ搬送されていた。
(BARKS記事より)

 俺の朝の日課のひとつが、このブログのアクセス数チェックなのだけど、いつもと変わらない午前7時、いつものペースより異常に伸びてることに驚いた。うちのような個人弱小ブログにしては、とんでもない量のPV数がカウントされている。どこかでリツイートされまくったのかなぁ、と思ってTwitterを覗いてみて、この記事がヒットしてきた。なるほど、そういうことか。
 まだ寝ぼけてたせいもあって、最初は何のことかよくわからなかった。Princeが、彼が死んだという事実が、どうにも上手く飲み込めなかった。徐々に頭が覚めてきて、「あ、Princeも死ぬんだな」という想いがあらわれた。そうだよな、彼も人間だもんな。

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 俺がPrinceの存在を知ったのは、大方の日本のファン同様、『Purple Rain』からだった。最初はMichaelの対抗馬として、「やたらエロくて淫靡な香りの漂う怪しげな黒人」という印象が拭えずにいた。ファンクというにはポップだったしね。俺が彼に強く惹かれるようになったのは、むしろ次作の『Around the World in a Day』から。前作で見せたポップ・ロックの部分をほとんど捨て去って、サイケデリックな世界観とサウンド、そして強まったファンクネスは洋楽を聴きかじったばかりの田舎の高校生を夢中にさせた。
 その後の『Parade』『Sign O the Times』『Lovesexy』の一連の作品もまた、どれも違う音楽性ながらもクオリティは高かった。ヒット・チャートに一切迎合しない音楽性ながら、その完成度の高さゆえ、特別ユーザーに媚びなくとも高いセールスを維持できるそのスタンスは、80年代の音楽シーンをただ独り邁進していた、と形容しても足りないくらい。

 今年初めのDavid Bowieの訃報は声を上げて驚いてしまった俺だけど、今回は声が出なかった。驚いて声が出ない、ということがこういったことなのか、と初めて知った瞬間でもある。
 俺がBowieというアーティストを知ったのは『Let’s Dance』からなのだけど、一般的にBowieのアーティストのピークは70年代と言われている。晩年も旺盛な創作力だったらしいけど、世間に与えたインパクトという点においては、やはり『Ziggy Stardust』やベルリン3部作など、あの時代に集中している。
 当然、その時期を俺はリアルタイムで知らない。アーティストの最大のピークを後追いではなく、当時の空気感も含めて体験することは、思い入れの深さと比例する。
 なので、そういった80年代の問答無用のアーティスト・オーラを感じ取ってきた身としては、思い入れは当然深くなる。
 深い分だけ、まだ混乱している。
 多分、もう少し引きずることだろう。

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 数日前に倒れてプライベート・ジェットで緊急搬送されたことは知っていた。インフルエンザと報道されたけど、そんな大ごととは思っていなかった。あぁ57歳にもなると、そろそろ体のあちこちにガタが来るんだなぁ。俺もそろそろ他人事とは言ってられないよなぁ、と思う程度に他人事だった。
 若い頃のムチャが後になって出てくるのは、誰にだって当てはまることだ。特にPrinceの場合、JBのステージングをモチーフとして完璧に構築されたソウル・ショウを世界中で行ない、アフターショウで目星をつけたグルーピーらをホテルに引っ張りこんで夜のアフター・ステージを延々と繰り返していた。それ以外の時間はほぼすべて、24時間体制でレコーディングを続けていた男だ。
 彼が長期バカンスを取ったとか、リゾート地で乱痴気騒ぎを繰り広げたとか、そういったロック・スター特有のエピソードは聞いたことがない。女とチュッパチャップス以外には目もくれぬ、激動の80年代を疾走していたのだ。昔のような無理が効かなくなるのもしょうがないことである。
 そんな風に思っていた矢先の出来事だった。

 昔から大のマスコミ嫌いだったため、インタビューに応じることは少なかったし、テレビ出演だってそんなに多くない。もともと饒舌な人柄ではない。
 どちらかと言えば引っ込み思案でシャイ、人見知りの激しい性質である。人種や身長など、あらゆるコンプレックスの裏返しとして、ただひとつ他人より秀でていた音楽へ向かわざるを得なかったのが、Prince Rogers Nelsonというひとりの男の生きざまである。
 その対極として、大手ワーナーとの契約にも臆することなく、デビュー当時から異例の自己プロデュース権を手に入れるほどの謀略家、周辺スタッフには絶対服従を誓わせる傍若無人な面もまた、彼の持つ側面のひとつである。
 どちらもほんとのPrinceだ。
 そういった二極性、陰陽を自らコントロールすることによって、Prince Rogers Nelsonという一個人が「Prince」というアーティストをプロデュースしてきた。
 ワーナーとの最初の決別まで、その絶妙なバランス・コントロールは続く。

PrinceBirmingham

 で、ワーナーと対立し、メディアと対立し、遂には自分自身とも対立して「Prince」の名前も捨ててしまった頃。自らをSlave(奴隷)と自嘲してやさぐれていた頃である。ピーク・ハイだった80年代には相手にならなかったヒップホップ・ムーヴメントが先鋭性と大衆性とを併せ持ち、さらにテクノ/ハウス・ビートの席巻によって、最先端だったPrinceに陰りが見え始めた頃である。
 独立するとかしないとか、純粋な作品クオリティとは離れたところでの話題が多かった彼だったけど、その風向きが変わったのが新しい家族の誕生。バックダンサーMayteとの結婚、そして新しい生命の誕生だった。
 ワーナーとも解放されて自由な音楽活動が可能となった。それがよほど嬉しかったのか、いきなり3枚組のオリジナル・アルバム『Emancipation』をリリースしてしまうくらいだった。ビジネスの問題もクリアになり、プライベートも充実、さて、これからという時に。
 先天性の病により、息子の命は長くもたなかった。当然、Mayteとの仲もこじれ、2000年には離婚という結末となった。その後再婚したらしいけど、やはりうまく行かなかった。
 それからはずっと独り。

 このプライベートな事情を契機として、彼の音楽の新規アップデートは歩みを止めてしまう。この後はアーカイブの焼き直し的作品や、既存サウンド・フォーマットを流用した作品が多くなる。
 これまでは、そのフォーマット自体をどんどん作り替え、「Prince」というオンリーワンの音楽ジャンルの自己増殖を行なっていたのだけど、そういった行為に関心が薄れてきている。
 音楽自体に興味がなくなったのではない。だって、それを取り上げられちゃったら、存在理由がなくなってしまうから。
 あいにく彼の才能は尽きていなかった。リリース・ペースは落ちたけど、レコーディング自体は順調に継続していた。発表する手段を講じるのに時間がかかっていたのと、昔のように夜通しスタジオにこもるような無茶を控えるようになったためだ。
 オールド・ファンなら手放しでで大喜びする、80年代的フォーマットのサウンドやワン・コード・ファンクなら、ほんと1日でアルバム1枚分作ることはできたけど、世に出すことはなかった。
 やろうと思えば、ヒット・ナンバーの量産だって可能だった。「Prince」というブランドを最大限活用して、リスペクトしてくれる若手ラッパーとコラボすれば、それは難しいことではなかった。
 でも、それをすることはなかった。もう、そういったことに関心がなかったのだろう。あとは自分の好きな音楽を、自分のペースで創ってゆくだけだった。
 無理に新しいものを追おうとはせず、ただその時その時に、自分の興味が強いモノを少しずつ。
 それがたとえベタなモノでも構いやしない。
 今やりたいことは、「これ」なのだから。


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1. Baltimore 
 2015年に発表されたロック調ナンバー。Soundcloudを通して公開されたため、発売されたものではない。こういった自由な発表形態、インスピレーションを得てすぐに世界中に配信できるシステムの多様化は、既存メディアへの不信感の塊だったPrinceにとっては良い時代だったんじゃないかと思われる。
80年代全盛期のメロディを持ち、ポップな女性コーラス、マッタリしたリズムとギター・ソロで彩られているけど、内実は結構シリアスなプロテスト・ソング。
 銃刀法違反の疑いで拘束された黒人Freddie Gray。彼が護送車の中で過剰ともいえる尋問(暴行?)により死に至ったことによって、それまで市民の間で溜まっていた不信感と欝憤が大規模デモに発展する。
 そんな彼らの運動への支援表明として発表された経緯があるので、普通に歌っただけなら、重苦しいサウンドになってしまうはず。ただ、曲がりなりにもメジャー・アーティストのPrince、人に想いを届けるために、シリアスなメッセージをシリアスに語ってしまうと、拒絶が多いことを知っている。万人に抵抗なく真意を伝えるため、耳障りの良いポップなサウンドでコーティングしている。さすがプロの仕事だ。
 甘いチョコレートのコーティングの下は、ビターな味わい。そこが彼の狙いだ。

2. RocknRoll Love Affair 
 こちらもアルバム・リリース前、2014年に発表されたシングル。発表当時はなんか陳腐なロックだよなと思ってたけど、このアルバムの流れに入ってしまうと、それが逆に心地よくなってしまう不思議。最初からこうすりゃ良かったのに。
 囁きかけるようなヴォーカルといい、ブギ・スタイルのギター・リフといい、まんまT.Rex。このユルさは貴重だよな、今の時代には。
 ロックンロールという音楽の本質がラウドなものではなく、シンプルな8ビートであることを教えてくれる、貴重なナンバー。

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3. 2 Y. 2 D. 
 今回のPrinceのスタイルは、ホーン・セクションの大幅な導入。16ビートもほとんどなく、レアグルーヴとも形容できる古めのサウンドに乗せて、ロック寄りのメロディ&ヴォーカルを被せている。
 なので、正直どの曲も、独特のPrince臭さが薄いのは共通している。ただ、あくまで「これまでの」Princeではないだけで、これが今のPrinceの新たな方向性と受け止めるのが正しい。まぁ新しさはないけど。
 方向性も何もないけどさ、もう。

4. Look at Me, Look at U 
 ジャズ・ファンク風味が強め、ジャジーなコード進行ながら、明らかに楽曲の進化が窺える。確かに新機軸はない。ローズ・ピアノだって使い古された音だ。ただ、その音色に相応しい楽曲は明らかに、小手先のアレンジでは崩せない可能性を秘めている。
 この快適な心地よさ、確実にPrinceは「進化」している。

5. Stare 
 こちらはアルバム・リリース前、Spotifyで先行公開されたミディアム・テンポのファンク・ナンバー。曲中で”Kiss”のギター・カッティングがサンプリングされているのが話題になった。
 基本、ワンコードなので、起伏の乏しい展開ではあるけれど、それを飽きずに聴かせてしまう力技は相変わらず。自分ではうまく吹けないため、あまりフィーチャーされて来なかったブラスを前面に出しているのは心境の変化か。

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6. Xtraloveable 
 シングルとして2011年にリリースされたのが初出だけど、もともとは1982年頃のアウトテイクのリライト版。確かに『Contronersy』~『1999』期の音が聴こえる。もちろんリリースするにあたって新しい音もいろいろ被せているのだろうけど、ちょうどポップに移行しかけていた頃のギラギラ感と軽みとが同居した、親しみやすいナンバー。
 でも、これが当時未発表だったとは。Princeの才気煥発振りが窺える。

7. Groovy Potential 
 2013年リリース、当時結成された3rdEyeGirl公式サイトを通して発売された、ロック成分の強い長尺曲。ちゃんと聴いてみると、”Purple Rain”と同じ構成だった。『Sign O the Times』期のサウンドが好きな人ならはまるんじゃないかと思われる。つまり俺世代、アラフィフにはヒットするかな。
 
8. When She Comes 
 このアルバムでは唯一、ファルセットを使用したバラード・ナンバー。テンポの遅いフィリー・ソウルといった趣きのメロウなテイスト。
 こういったソウル・ナンバーになると、年期を積んできたベテランに勝てる要素はとても少ない。なので、こういったバラードを歌う際、若手は大抵打ち込みサウンドを使うことによってヴォーカルの力強さを引き立てるのだけれど、ここではPrince、正攻法で押し通している。もうあいつかどうだとか、そんなのはどうでもよくなっちゃったんだろうな、きっと。だって、歌いたいなだもん、こういうので。

Prince

9. Screwdriver 
 7.同様、こちらも公式サイトで先行発売されたナンバー。2.と同じコンセプトなのか、ロックンロール・スタイルで、しかもブギになっている。マイブームだったのかな、きっと。
 コーラスの"I'm your driver and you're my screw."をやる気なさそうに歌っているところが、一筋縄ではいかないロック・イディオムを体現している。

10. Black Muse 
 80年代のヒット・チャートを彷彿させるメロディ・ラインだけど、テンポがモッサリしているため、どこかもどかしさを感じてしまうのは俺だけじゃないはず。もう少しテンポを上げていけば、もっとポップな雰囲気になると思うのだけれど、どこか遠慮がち。ずっと7割5分程度のパワーで走り続けている印象。

11. Revelation 
 再びファルセット・バラード。ここではギターも多めに弾いてるけど、やっぱり寸止め感覚でちょっと物足りない。ラストのサビで大きなカタルシスを演出するため、大きく盛り上がるのがPrinceのバラードの特徴なのだけど、ここでは大きな起伏はなく、淡々と終わってしまう。もうちょっと捻ればドラマティックになったのに。

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12. Big City
 このアルバムの中では比較的アップ・テンポなファンク・ナンバー。複雑なリズムを使うのではなく、Tower of Towerのようにオーソドックスな集団プレイの集積によってグルーヴ感を編み出してゆく方向性で挑んでいる。
とは言ってもPrinceはソロ・アーティスト、しかも大抵の楽器は独りでこなせるマルチ・プレイヤーでもある。集団演奏によるグルーヴ感は生みだすことは困難なので、頭の中で鳴ってる音を忠実に再現するしかないのだけど、そのヴァーチャル感を違和感なく再現できるのは、やはり熟練の業に尽きる。




 何しろ今日のことなので、レーベルやエージェント側も混乱の極みの状態。今後の動向はもう少し落ち着いてからだろうけど、徐々にトリビュート盤やライブの企画も進行するんじゃないかと思われる。これはあくまで希望的観測だけど、以前から噂レベルだった『Purple Rain』のアニバーサリー企画、ワーナー時代のアーカイブのリマスター作業も、スムーズに行なわれるんじゃないかと思われる。
 管財人が誰なのか、この時点ではまだはっきりしないけど、それなりに彼の遺志を継ぐ者によって、きちんとした形での整理は行なわれるだろう。何しろうるさ型のファンが多いから。それに合わせて、膨大な未発表音源も少しずつお蔵出しされるかもしれない。それはもうちょっと先になるだろうけど。
 近年の彼は自伝の執筆に執心しており、かなり本格的に準備も整えていた、とのこと。
 何か言葉で残したいことがあったのか、それとも音楽では伝えることはもうない、と悟ったのか。
 それは誰にもわからない。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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