Prince

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

現時点で殿下の最終作 - Prince 『Hitnrun Phase Two』

folder 「プリンス、急逝。ペイズリーパーク スタジオの自宅で」
 プリンスが急逝した。享年57歳。

 彼の広報担当者によると、現地時間の4月21日午前、プリンス(Prince Rogers Nelson)が、ミネソタ州チャンハッセン郊外にあるペイズリーパーク スタジオの自宅で亡くなっていることを確認したという。

 また現地での報道によると、保安官事務所からの話として、同日9時半過ぎにペイズリーパーク スタジオから緊急通報を受け、エレベーターの中で意識不明の状態のプリンスを発見したという。

 プリンスはインフルエンザにかかり、4月7日の公演をキャンセル。また、4月15日にはアトランタでパフォーマンス後、プライベートジェットで移動中に体調が悪化。イリノイ州モリーンの空港に緊急着陸し、病院へ搬送されていた。
(BARKS記事より)

 俺の朝の日課のひとつが、このブログのアクセス数チェックなのだけど、いつもと変わらない午前7時、いつものペースより異常に伸びてることに驚いた。うちのような個人弱小ブログにしては、とんでもない量のPV数がカウントされている。どこかでリツイートされまくったのかなぁ、と思ってTwitterを覗いてみて、この記事がヒットしてきた。なるほど、そういうことか。
 まだ寝ぼけてたせいもあって、最初は何のことかよくわからなかった。Princeが、彼が死んだという事実が、どうにも上手く飲み込めなかった。徐々に頭が覚めてきて、「あ、Princeも死ぬんだな」という想いがあらわれた。そうだよな、彼も人間だもんな。

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 俺がPrinceの存在を知ったのは、大方の日本のファン同様、『Purple Rain』からだった。最初はMichaelの対抗馬として、「やたらエロくて淫靡な香りの漂う怪しげな黒人」という印象が拭えずにいた。ファンクというにはポップだったしね。俺が彼に強く惹かれるようになったのは、むしろ次作の『Around the World in a Day』から。前作で見せたポップ・ロックの部分をほとんど捨て去って、サイケデリックな世界観とサウンド、そして強まったファンクネスは洋楽を聴きかじったばかりの田舎の高校生を夢中にさせた。
 その後の『Parade』『Sign O the Times』『Lovesexy』の一連の作品もまた、どれも違う音楽性ながらもクオリティは高かった。ヒット・チャートに一切迎合しない音楽性ながら、その完成度の高さゆえ、特別ユーザーに媚びなくとも高いセールスを維持できるそのスタンスは、80年代の音楽シーンをただ独り邁進していた、と形容しても足りないくらい。

 今年初めのDavid Bowieの訃報は声を上げて驚いてしまった俺だけど、今回は声が出なかった。驚いて声が出ない、ということがこういったことなのか、と初めて知った瞬間でもある。
 俺がBowieというアーティストを知ったのは『Let’s Dance』からなのだけど、一般的にBowieのアーティストのピークは70年代と言われている。晩年も旺盛な創作力だったらしいけど、世間に与えたインパクトという点においては、やはり『Ziggy Stardust』やベルリン3部作など、あの時代に集中している。
 当然、その時期を俺はリアルタイムで知らない。アーティストの最大のピークを後追いではなく、当時の空気感も含めて体験することは、思い入れの深さと比例する。
 なので、そういった80年代の問答無用のアーティスト・オーラを感じ取ってきた身としては、思い入れは当然深くなる。
 深い分だけ、まだ混乱している。
 多分、もう少し引きずることだろう。

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 数日前に倒れてプライベート・ジェットで緊急搬送されたことは知っていた。インフルエンザと報道されたけど、そんな大ごととは思っていなかった。あぁ57歳にもなると、そろそろ体のあちこちにガタが来るんだなぁ。俺もそろそろ他人事とは言ってられないよなぁ、と思う程度に他人事だった。
 若い頃のムチャが後になって出てくるのは、誰にだって当てはまることだ。特にPrinceの場合、JBのステージングをモチーフとして完璧に構築されたソウル・ショウを世界中で行ない、アフターショウで目星をつけたグルーピーらをホテルに引っ張りこんで夜のアフター・ステージを延々と繰り返していた。それ以外の時間はほぼすべて、24時間体制でレコーディングを続けていた男だ。
 彼が長期バカンスを取ったとか、リゾート地で乱痴気騒ぎを繰り広げたとか、そういったロック・スター特有のエピソードは聞いたことがない。女とチュッパチャップス以外には目もくれぬ、激動の80年代を疾走していたのだ。昔のような無理が効かなくなるのもしょうがないことである。
 そんな風に思っていた矢先の出来事だった。

 昔から大のマスコミ嫌いだったため、インタビューに応じることは少なかったし、テレビ出演だってそんなに多くない。もともと饒舌な人柄ではない。
 どちらかと言えば引っ込み思案でシャイ、人見知りの激しい性質である。人種や身長など、あらゆるコンプレックスの裏返しとして、ただひとつ他人より秀でていた音楽へ向かわざるを得なかったのが、Prince Rogers Nelsonというひとりの男の生きざまである。
 その対極として、大手ワーナーとの契約にも臆することなく、デビュー当時から異例の自己プロデュース権を手に入れるほどの謀略家、周辺スタッフには絶対服従を誓わせる傍若無人な面もまた、彼の持つ側面のひとつである。
 どちらもほんとのPrinceだ。
 そういった二極性、陰陽を自らコントロールすることによって、Prince Rogers Nelsonという一個人が「Prince」というアーティストをプロデュースしてきた。
 ワーナーとの最初の決別まで、その絶妙なバランス・コントロールは続く。

PrinceBirmingham

 で、ワーナーと対立し、メディアと対立し、遂には自分自身とも対立して「Prince」の名前も捨ててしまった頃。自らをSlave(奴隷)と自嘲してやさぐれていた頃である。ピーク・ハイだった80年代には相手にならなかったヒップホップ・ムーヴメントが先鋭性と大衆性とを併せ持ち、さらにテクノ/ハウス・ビートの席巻によって、最先端だったPrinceに陰りが見え始めた頃である。
 独立するとかしないとか、純粋な作品クオリティとは離れたところでの話題が多かった彼だったけど、その風向きが変わったのが新しい家族の誕生。バックダンサーMayteとの結婚、そして新しい生命の誕生だった。
 ワーナーとも解放されて自由な音楽活動が可能となった。それがよほど嬉しかったのか、いきなり3枚組のオリジナル・アルバム『Emancipation』をリリースしてしまうくらいだった。ビジネスの問題もクリアになり、プライベートも充実、さて、これからという時に。
 先天性の病により、息子の命は長くもたなかった。当然、Mayteとの仲もこじれ、2000年には離婚という結末となった。その後再婚したらしいけど、やはりうまく行かなかった。
 それからはずっと独り。

 このプライベートな事情を契機として、彼の音楽の新規アップデートは歩みを止めてしまう。この後はアーカイブの焼き直し的作品や、既存サウンド・フォーマットを流用した作品が多くなる。
 これまでは、そのフォーマット自体をどんどん作り替え、「Prince」というオンリーワンの音楽ジャンルの自己増殖を行なっていたのだけど、そういった行為に関心が薄れてきている。
 音楽自体に興味がなくなったのではない。だって、それを取り上げられちゃったら、存在理由がなくなってしまうから。
 あいにく彼の才能は尽きていなかった。リリース・ペースは落ちたけど、レコーディング自体は順調に継続していた。発表する手段を講じるのに時間がかかっていたのと、昔のように夜通しスタジオにこもるような無茶を控えるようになったためだ。
 オールド・ファンなら手放しでで大喜びする、80年代的フォーマットのサウンドやワン・コード・ファンクなら、ほんと1日でアルバム1枚分作ることはできたけど、世に出すことはなかった。
 やろうと思えば、ヒット・ナンバーの量産だって可能だった。「Prince」というブランドを最大限活用して、リスペクトしてくれる若手ラッパーとコラボすれば、それは難しいことではなかった。
 でも、それをすることはなかった。もう、そういったことに関心がなかったのだろう。あとは自分の好きな音楽を、自分のペースで創ってゆくだけだった。
 無理に新しいものを追おうとはせず、ただその時その時に、自分の興味が強いモノを少しずつ。
 それがたとえベタなモノでも構いやしない。
 今やりたいことは、「これ」なのだから。


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1. Baltimore 
 2015年に発表されたロック調ナンバー。Soundcloudを通して公開されたため、発売されたものではない。こういった自由な発表形態、インスピレーションを得てすぐに世界中に配信できるシステムの多様化は、既存メディアへの不信感の塊だったPrinceにとっては良い時代だったんじゃないかと思われる。
80年代全盛期のメロディを持ち、ポップな女性コーラス、マッタリしたリズムとギター・ソロで彩られているけど、内実は結構シリアスなプロテスト・ソング。
 銃刀法違反の疑いで拘束された黒人Freddie Gray。彼が護送車の中で過剰ともいえる尋問(暴行?)により死に至ったことによって、それまで市民の間で溜まっていた不信感と欝憤が大規模デモに発展する。
 そんな彼らの運動への支援表明として発表された経緯があるので、普通に歌っただけなら、重苦しいサウンドになってしまうはず。ただ、曲がりなりにもメジャー・アーティストのPrince、人に想いを届けるために、シリアスなメッセージをシリアスに語ってしまうと、拒絶が多いことを知っている。万人に抵抗なく真意を伝えるため、耳障りの良いポップなサウンドでコーティングしている。さすがプロの仕事だ。
 甘いチョコレートのコーティングの下は、ビターな味わい。そこが彼の狙いだ。

2. RocknRoll Love Affair 
 こちらもアルバム・リリース前、2014年に発表されたシングル。発表当時はなんか陳腐なロックだよなと思ってたけど、このアルバムの流れに入ってしまうと、それが逆に心地よくなってしまう不思議。最初からこうすりゃ良かったのに。
 囁きかけるようなヴォーカルといい、ブギ・スタイルのギター・リフといい、まんまT.Rex。このユルさは貴重だよな、今の時代には。
 ロックンロールという音楽の本質がラウドなものではなく、シンプルな8ビートであることを教えてくれる、貴重なナンバー。

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3. 2 Y. 2 D. 
 今回のPrinceのスタイルは、ホーン・セクションの大幅な導入。16ビートもほとんどなく、レアグルーヴとも形容できる古めのサウンドに乗せて、ロック寄りのメロディ&ヴォーカルを被せている。
 なので、正直どの曲も、独特のPrince臭さが薄いのは共通している。ただ、あくまで「これまでの」Princeではないだけで、これが今のPrinceの新たな方向性と受け止めるのが正しい。まぁ新しさはないけど。
 方向性も何もないけどさ、もう。

4. Look at Me, Look at U 
 ジャズ・ファンク風味が強め、ジャジーなコード進行ながら、明らかに楽曲の進化が窺える。確かに新機軸はない。ローズ・ピアノだって使い古された音だ。ただ、その音色に相応しい楽曲は明らかに、小手先のアレンジでは崩せない可能性を秘めている。
 この快適な心地よさ、確実にPrinceは「進化」している。

5. Stare 
 こちらはアルバム・リリース前、Spotifyで先行公開されたミディアム・テンポのファンク・ナンバー。曲中で”Kiss”のギター・カッティングがサンプリングされているのが話題になった。
 基本、ワンコードなので、起伏の乏しい展開ではあるけれど、それを飽きずに聴かせてしまう力技は相変わらず。自分ではうまく吹けないため、あまりフィーチャーされて来なかったブラスを前面に出しているのは心境の変化か。

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6. Xtraloveable 
 シングルとして2011年にリリースされたのが初出だけど、もともとは1982年頃のアウトテイクのリライト版。確かに『Contronersy』~『1999』期の音が聴こえる。もちろんリリースするにあたって新しい音もいろいろ被せているのだろうけど、ちょうどポップに移行しかけていた頃のギラギラ感と軽みとが同居した、親しみやすいナンバー。
 でも、これが当時未発表だったとは。Princeの才気煥発振りが窺える。

7. Groovy Potential 
 2013年リリース、当時結成された3rdEyeGirl公式サイトを通して発売された、ロック成分の強い長尺曲。ちゃんと聴いてみると、”Purple Rain”と同じ構成だった。『Sign O the Times』期のサウンドが好きな人ならはまるんじゃないかと思われる。つまり俺世代、アラフィフにはヒットするかな。
 
8. When She Comes 
 このアルバムでは唯一、ファルセットを使用したバラード・ナンバー。テンポの遅いフィリー・ソウルといった趣きのメロウなテイスト。
 こういったソウル・ナンバーになると、年期を積んできたベテランに勝てる要素はとても少ない。なので、こういったバラードを歌う際、若手は大抵打ち込みサウンドを使うことによってヴォーカルの力強さを引き立てるのだけれど、ここではPrince、正攻法で押し通している。もうあいつかどうだとか、そんなのはどうでもよくなっちゃったんだろうな、きっと。だって、歌いたいなだもん、こういうので。

Prince

9. Screwdriver 
 7.同様、こちらも公式サイトで先行発売されたナンバー。2.と同じコンセプトなのか、ロックンロール・スタイルで、しかもブギになっている。マイブームだったのかな、きっと。
 コーラスの"I'm your driver and you're my screw."をやる気なさそうに歌っているところが、一筋縄ではいかないロック・イディオムを体現している。

10. Black Muse 
 80年代のヒット・チャートを彷彿させるメロディ・ラインだけど、テンポがモッサリしているため、どこかもどかしさを感じてしまうのは俺だけじゃないはず。もう少しテンポを上げていけば、もっとポップな雰囲気になると思うのだけれど、どこか遠慮がち。ずっと7割5分程度のパワーで走り続けている印象。

11. Revelation 
 再びファルセット・バラード。ここではギターも多めに弾いてるけど、やっぱり寸止め感覚でちょっと物足りない。ラストのサビで大きなカタルシスを演出するため、大きく盛り上がるのがPrinceのバラードの特徴なのだけど、ここでは大きな起伏はなく、淡々と終わってしまう。もうちょっと捻ればドラマティックになったのに。

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12. Big City
 このアルバムの中では比較的アップ・テンポなファンク・ナンバー。複雑なリズムを使うのではなく、Tower of Towerのようにオーソドックスな集団プレイの集積によってグルーヴ感を編み出してゆく方向性で挑んでいる。
とは言ってもPrinceはソロ・アーティスト、しかも大抵の楽器は独りでこなせるマルチ・プレイヤーでもある。集団演奏によるグルーヴ感は生みだすことは困難なので、頭の中で鳴ってる音を忠実に再現するしかないのだけど、そのヴァーチャル感を違和感なく再現できるのは、やはり熟練の業に尽きる。




 何しろ今日のことなので、レーベルやエージェント側も混乱の極みの状態。今後の動向はもう少し落ち着いてからだろうけど、徐々にトリビュート盤やライブの企画も進行するんじゃないかと思われる。これはあくまで希望的観測だけど、以前から噂レベルだった『Purple Rain』のアニバーサリー企画、ワーナー時代のアーカイブのリマスター作業も、スムーズに行なわれるんじゃないかと思われる。
 管財人が誰なのか、この時点ではまだはっきりしないけど、それなりに彼の遺志を継ぐ者によって、きちんとした形での整理は行なわれるだろう。何しろうるさ型のファンが多いから。それに合わせて、膨大な未発表音源も少しずつお蔵出しされるかもしれない。それはもうちょっと先になるだろうけど。
 近年の彼は自伝の執筆に執心しており、かなり本格的に準備も整えていた、とのこと。
 何か言葉で残したいことがあったのか、それとも音楽では伝えることはもうない、と悟ったのか。
 それは誰にもわからない。



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ジャイアニズム最初のつまずき - Prince 『Graffiti Bridge』

folder 1990年リリース、Princeにとっては12枚目のスタジオ・アルバム。同名タイトルの主演映画3作目のサウンドトラックとして製作されたのだけど、一応ファンの間では好意的に迎えられた前作『Under the Cherry Moon』よりも、興行的にも作品レベル的にも大きく下回った。かつての盟友The Timeの復活を祝い、Prince自身によって彼らのための映画を企画、大ヒット映画『Purple Rain』の続編というフレコミで、ファミリー総動員で挑んだのだけど、日本では公開はおろかビデオ発売さえ叶わず。
 よって、Princeの映画事業への関与はこれは最後になった。多分、よっぽど懲りたんだろうな、この後はサントラひとつ製作してないし。ていうか俺も当然見てないし。

 で、メインである音楽の方だけど、セールス的にチョイコケした『Lovesexy』→開き直りが福に転じた前作『Batman』という流れから、今度はサウンドもビジュアルも俺様プロデュースでウハウハだ!と思ってたかどうかは不明。「この音楽を理解できないのはお前らが悪い」と平然とした顔で言ってしまう人なので、US6位・UK1位は彼にとっては消化不良的な実績である。大ヒット作『Batman』を抜きにして考えればそこそこなんだろうけど、今回の『Graffiti Bridge』がUS・UK共にゴールド・ディスク止まりだったのに対し、『Lovesexy』はUKでプラチナを獲得している。好き放題マニアックに作り込んでのプラチナ・ディスク、豪華ゲストを迎え入れて販促予算もかけたのにゴールド止まり…。こう書いてしまうと随分贅沢な悩みっぽく思えてしまうけど、周辺スタッフのアワワアワワ具合が、殿下の不機嫌具合にさらに拍車をかけたんじゃないかと思われる。

 前代未聞の衝撃的なジャケットを飾った『Lovesexy』は、曲間の切れ目をなくしたアルバム全1曲という型破りな仕様によって、ライトなファン層をドン引きさせてしまった。そういった反省もあって、ワーナーの要請によるサントラ『Batman』では思いっきりわかりやすく大衆向けに舵を切り、キャッチーで明快なポップ・チューンを多めに入れることによって、Prince顕在をアピールした。この路線を続ければよかったのだ。
 それなのにどこをどう間違えてしまったのか、George Clintonなど、明らかに自分より「濃い」キャラクターのゲストを入れ過ぎてしまった。おかげでメインであるはずのPrinceの存在感が霞んでしまい、サウンド・コンセプトのフォーカスがボケてしまっている。
 本格的なCD時代に対応して、収録時間も70分弱と大幅にスケール・アップしているのだけど、同等のボリュームであるはずの『1999』や『Sign “o” the Times』と比べて冗長な感じがしてしまうのは、多分俺だけではないはず。ゲストのトラックは映画オンリーに止め、アルバムは純粋にPrinceのトラックだけでまとめてしまった方が、聴きやすくソリッドな作品に仕上がったはずなのに、映画のコンセプトとの親和性など、余計なことを考えちゃったのが、このアルバムの弱点である。

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 ちなみにこのアルバムがリリースされた1990年後半のビルボード・アルバム・チャートを見てみると…、ひでぇなこれ。
 前半をMC Hammer、後半をVanilla Iceが独占している。この年はSinéad O'ConnorがPrince作”Nothing Compares 2 U”でUS1位を獲得、変態ファンクばかりフィーチャーされてきたPrinceのソング・ライティング能力に注目が集まった年でもある。そう、このくらいのことはやればできる人なのだ。Bangles “Manic Monday”だって書いてるんだし。
 その前年にはJanet Jacksonが『Rhythm Nation』で才能が開花、Jackson ファミリーの末娘というキャラクターからの脱皮を図っていた。もう少し経つと、NirvanaやPearl Jam、Nine Inch Nailsなどのオルタナ/グランジ系バンドがメジャー・デビューするようになる。いわゆるロキノン系アーティストの勢力が拡大しており、ダンス・シーンでも先鋭的なグラウンド・ビートが席巻し始めていた。
 なのに、セールス的には「こんな奴ら」にすら歯が立たなかったのだ。New Kids on the Blockやあのインチキ・ユニットMilli Vanilliがチャート・トップに立っていた時代である。このメンツだと、Phil Collinsさえひどくマジメなアーティストに見えてしまう。
 時代の徒花として刹那的な流行りモノが上位にランクインするのは、今も変わらず見られる傾向である。あるのだけれど、でもね。
 選りにも選ってMC Hammerに通算21週もトップを取らせるだなんて、なに考えてんだアメリカ人。

 よく言われていることだけど、Princeのサウンド傾向の節目と言えば、やはり『Lovesexy』以前と以後という形になる。この『Lovesexy』まではPrince無双、彼の革新的なサウンドが音楽シーン全体をリードしている空気感が確実にあった。もっと特定してしまうと『Purple Rain』から『Lovesexy』まで、ニュー・アルバムが出るたび注目が集まっていたのがこの時代である。言ってしまえば「モテキ」である。やる事なす事絶賛の嵐、すっかり舞い上がってジャイアン状態が助長されている。映画出演や製作についてはちょっとアレだったけど、当時はそんな躓きも殿下のオアソビ的扱いで、さしてシリアスな批判も湧かなかった。
 革新的なリズム・アプローチ、予測不能でありながらキッチリ計算し尽くされたステージ・パフォーマンス、滅多にインタビューを受けない事によって神秘のヴェールに包まれたプライベート。何から何まで思うがまま、リアル・ジャイアニズムが通用していたのがPrinceの80年代である。

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 あらゆる方面から天才と崇め奉られたPrinceだったけど、一から十まですべてを独力で創り上げたわけではない。良質な音楽は良質な体験のもとに育まれるものであって、Princeもまた例外ではない。
 このアルバムではPrinceのオファーによって実現したGeorge Clintonとのコラボが収録されているのだけど、「ファンクと言えばJB、JBと言えばP-Funk」といったように、大いなる過去の遺産へのリスペクトに基づいたものである。もちろんJB周辺人脈だけではなく、のちにコラボすることになるLarry GrahamやSlyなど、他のファンク・レジェンドからの影響も色濃いけど、彼の場合はそこにプラスしてSantanaやジミヘン、Joni Mitchellなどのロック/シンガー・ソングライター的要素も自身のオリジナリティにミックスしたため、他のソウル/ファンク系アーティストとの差別化を図れたんじゃないかと思う。
 彼の先鋭性が通用した80年代中盤というのは、他ジャンルとのミクスチュアが充分浸透していなかったせいもあって、ひどく目新しく映っていた。ブラック・ロックと称されたFishboneも目立った存在ではなかったし、レッチリも当時はアングラ・シーンでの活動だった。
 その風向きが変わり始めたのが80年代後半くらいから、ソウル・シーンにおいての絶対王者Princeとは別のラインで台頭し始めたのが、ヒップホップ/ラップ・ムーヴメントのメジャー展開。
 「楽器が弾けない/歌えないのなら、レコードからいいフレーズを抜き出して繋げりゃいいじゃん」というコペルニクス的転回からスタートしたヒップホップは、レコード・スクラッチや低予算ゆえのチープ機材使用など、さらなる発想の転換によって80年代に大きく飛躍していった。
 メジャーで最初に大きく売れ出したのがRun D.M.C. “Walk This Way”なのだけど、当時ロートル・バンドのレッテルを貼られていたAerosmithをフィーチャーして作られたトラックは衝撃的で、MCバトルの原型とも言えるPVもお茶の間では案外好意的に迎えられた。ただ、30年ほど経った今になって聴いてみると、Aerosmithのオリジナルが秀逸だったのであって、Run D.M.C.のライムやトラック処理などは稚拙なものである。
 彼らだけじゃなく、当時のヒップホップのアルバムと言えば、JB周辺のシングルのフレーズを無造作につなぐだけ、そのつなぎとなるライムもまだきちんと確立されておらず、クオリティとしてはお粗末な状況だった。Beastie Boysだって最初は”Smoke on the Water”のリフに合わせてウェーイ的にガナるだけだったし。
 それがうまく回り始めたのがDe La Soulが出てきた辺りなんじゃないか、というのはいまだヒップホップに興味のない俺の私見。それまではむき出しの素材を無造作にくっつけていただけだったのが、バトルと言うよりリア充の会話っぽい脱力系のライムや、Steely Danまでネタに使ってしまう卓越したセンスによって、一般のロック・リスナーの関心も惹きつけてしまったのは、彼らの功績なんじゃないかと思う。彼ら以前までは、ロックのリスナーはロックしか聴かず、その逆もまた然りだったのだけど、彼らやA Tribe Called Questの登場によってボーダーレス化が一気に進んだ。

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 他ジャンル・アーティストとの交流やコラボが活性化することによって、ミクスチュア・ミュージックの裾野は大きく広がっていった。Rage Against the Machine が登場するのはもうちょっと後だけど、Public Enemyの先駆性はその下地を整えつつあった。かつてPrinceが行なったミクスチュアはエッセンス程度のささやかなものだったけど、彼らはもっと大胆に、しかも彼が切り開いてきたニュー・ファンク・スタイルを踏み台として、未開の領域を次々と邁進していった。
 かつてはPrinceも、JBの発見した未開の地を疾走する1人だった。歴史は繰り返す。

 そういった行程を辿ってきたこともあって、自分の音楽がオールド・スタイルになりつつあることは、Prince自身理解はしてたんじゃないかと思われる。いくら俺様とはいえ、世間の趨勢には勝てないのだ。ただ、理解はしているけど即納得できるかといえば、それはまた別問題。
 ワーナーとの契約上、これまでの路線から逸脱し過ぎたアルバムを作るわけにもいかない。『Black Album』は自分のジャッジで販売中止にしたけど、あの頃とは状況が違っている。今のダンス・シーンに寄り添い過ぎたアルバムを作ってもワーナーに拒否されそうだし、第一それは自分のプライドが許さない。
 といった経緯があったのかどうかは想像でしかないけど、こう考えると、のちの一連の改名騒動にも説明がつく。別人格・別プロジェクトで違う音楽をやってみたいと思うのは、真摯なアーティストの抑えきれない表現欲求の発露である。Princeのブランドを維持しながら、現代のコンテンポラリー・サウンドにおもねってゆくのは限界がある。バランス次第ではチャートに媚びたように映り、商品価値は大幅に目減りする。安易にブランドを安売りするわけにはいかないのだ。
 世界を股にかけてきたジャイアンに、迷いが見えてきた頃である。


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1. Can't Stop This Feeling I Got
 軽快なポップ・ロック。難しいことを考えなければ、普通にノリも良くて好きなタイプ。4分ちょっとの間にコロコロ曲調も変わり、あれこれいろいろ詰め込んでいるのに、コンパクトにわかりやすくまとめられている。Princeイコール独創性と捉えるのは短絡的。こういったのもアリ。

2. New Power Generation
 次作から使用されるバンド名義を冠したポップ調のファンク・チューン。呪術的なサビのコーラス、映画のワン・シーンから流用されたエフェクトも臨場感がある。中毒性のあるリフレイン。
 第2弾シングル・カットとして、US64位UK26位という成績。もっと上に行ってほしかったな。

3. Release It
 ここでのアーティスト・クレジットはThe Time。ま、バック・トラックはほとんどPrinceなんだけど。なぜかサックスにCandy Dulferが参加。確かにいつものホーン・セクションと比べるとファンキー成分がちょっと薄め。なんで彼女だったの?
 Morris Dayのラップのうまい下手はともかくとして、エッセンス的にラップを導入するのではなく、ここまでガッツリ取り組んだのは、多分このトラックが初。まずはMorrisで試してみたんじゃないかと思われる。

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4. The Question Of U
 『Parade』期のサウンドと直結したスロー・ナンバー。得意のSantana風ギター・ソロも健在。深いルーム・エコーを使ったハンド・クラッピングは、わかっちゃいるのにいつもドキッとさせられる。やっぱこれでいいんだよ、この人は。変にラップに色目を使うより、手癖の多いギターを弾いてる方がしっくり来る。

5. Elephants & Flowers
 象と花。歌詞を読んでないのでわからないけど、多分何かのメタファー。曲調的に1.と近いけど、コンセプト的に繋がってるのかな?
 相変わらずギター・プレイはかっこいい。そこに合わせたのか、ヴォーカルもワイルドになっている。

6. Round & Round
 若干15歳の天才ヴォーカリストTevin Campbellとのデュエット・ナンバー。ていうかここはほぼTevinが主役、Princeはコーラス程度の働きしかしていない。よっぽどTevinを売り出したかったのか、ほとんどドラム・マシーンのみのシンプルなバッキングで、彼の歌を活かした作りになっている。
 Princeのファルセット仕様人格Camille的なものを狙ったのかもしれないけど、声質的にPrinceのメロディとの親和性は薄い印象。Soul II Soul的なサウンドを志向したのかもしれないけど、合わねぇなやっぱ。

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7. We Can Funk
 P-Funkの総帥であり、ファンクの御大George Clintonとのデュエット・ナンバー。単なるアッパー系ファンクが多かったPrinceだけど、ここでの彼は「タメ」のファンク。こういったサウンドのとっ散らかりようこそがP-Funkなのだな、というのが理解できる。当時の御大はP-Funk休止中で本調子じゃなかったのだけど、ねっとりまとわりつくオーラは健在。無言の圧力に押されたPrince、ここでは持てる手の内をすべてさらしている。

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8. Joy In Repetition
 メドレー形式に続くロッカバラード。”When Doves Cry”と似た曲調なので、ビギナーも馴染めるはず。いや無理かな?俺的には全然アリだけど。
 デカダン的な終盤のギター・ソロはドラマティック。相変わらずいつもの手癖なギターだけど、こういったのは定番が一番。しかしPrinceのギター・フレーズって、先読みしやすいよね。リズムは神出鬼没なのに。

9. Love Machine
 メイン・クレジットはThe Timeだけど、ほとんどのリードはElisa Fiorilloという女性シンガー。今までずっとCamillと思っていたのだけど、ほんとの女性が歌っていることに驚いてしまったという、なんとも複雑ないきさつ。
 まぁ正直取るに足らないナンバーなのだけど、多分当時のお気に入りだったのか、それともワーナーのねじ込みだったのか。

10. Tick, Tick, Bang
 『Parade』のアウトテイクのレストア版と思われる、ワンコードで押し通すシンプルなファンク・チューン。変に凝ったサウンドより、こういったごまかしの効かない構造は、古株のファンにほど人気が高い。3分間という短さに詰め込まれたファンクネスは強烈な個性の塊。

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11. Shake!
 再びThe Time。なんていうかファニーな、ポップなだけの曲。でもそれがいい。Prince本人がやっちゃうと、もっと攻撃的などファンク・ナンバーになっちゃうところを、Morrisの程よいチャラさが軽くしている。続けてファンク・ナンバーになるとクドくなってしまうのを避けたのかもしれないな。

12. Thieves In The Temple
 先行シングルとしてリリースされた、ソリッドなロック・ナンバー。US6位UK7位は順当なところ。実際、日本でもFMでかかりまくってた。この時期のPrince、セールス的にはピークを過ぎていたけど、FMリスナーや輸入盤専門店ユーザーの間ではまだ絶大な人気を誇っていた。
 最初からシングル向けとして考えていたのか、非常にコンテンポラリーな構造の曲なのだけど、いま聴くと大衆性は薄い。サビも弱いのだけど、Princeのへヴィー・リスナーからすればベタ過ぎなくて人気は高い。

13. The Latest Fashion
 PrinceプラスThe Time名義での疾走感あふれるファンク・ロック・チューン。わかりやすいリズム・アレンジがダンス・チューンとしても機能しており、ノリも良い。『Parade』『Lovesexy』のコンテンポラリー・アレンジといった感じで、この路線でアルバム1枚作ってくれれば、ダンス・シーンへのニーズも満たしてくれたんじゃないか、とは俺の勝手な希望。

14. Melody Cool
 Mavis Staplesヴォーカルによるクールなファンク・バラード。この時点ですでにレジェンド枠だったため、押しの強さは絶品。ていうか存在感がありまくりなので、Princeがすっかり霞んじゃってる。バック・トラックのギミックっぽいエフェクトも、この音圧の前ではすっかりかき消されている。
 アシッド・ジャズ的なムードが漂っているため、俺的にはベスト・トラックのひとつ。

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15. Still Would Stand All Time
 深い闇夜を想起させる静かなバラード・ナンバー。地味だけどきれいなメロディ。こういったナンバーをアルバムに必ず1曲は入れるのが、この人の特色。中盤からのゴスペル・コーラスが神々しさを添えている。

16. Graffiti Bridge
 そのゴスペルに呼応されたように、ドラマティックに盛り上がりを見せるテーマ曲。Mavis、Tevinもコーラスに参加。大団円といった雰囲気は決して嫌いじゃない。全然Princeっぽくないといった意見もあるけど、こういった面もあるということは認めてあげてもいいと思う。ゴスペル・マナーに則った曲である反面、サイド・ヴォーカル2人の力量に頼りすぎる気もするけど。

17. New Power Generation (Pt II)
 2.のバック・トラックを流用したリミックス的エピローグ。ここでの主役はラッパーT.C. Ellis。まぁこんなもんじゃね?的なプレイ。正直ラップは俺、優劣はわからない。トラックの力が強すぎる気がして存在感が薄いような気もするのだけど、これはPrinceのアルバムなので、それで良いのかもしれない。




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ちょっとセンチな紫色の雨 - Prince 『Purple Rain』

folder 1984年リリース、初めての映画主演とサウンドトラックを担当した6枚目のアルバム。これまではライブでのバック・バンド扱いだったRevolutionを、初めてメイン・クレジットに入れているのが、新機軸と言えば新機軸。
 もちろんPrinceなので、実際のレコーディングはほぼワンマン、メンバーは細かく指定されたフレーズを指示通りにプレイするだけ、アドリブなんて入れようものなら、その場でクビを宣告されてしまうため、ほとんど道具扱いだったのが実状。だったら全部自分でやればいいじゃねぇかとも思ってしまうけど、その辺はいろいろとめんどくさい人である。

 前作『1999』のヒットによってそれなりの知名度は確立していたけど、あくまでR&Bチャートでの盛り上がりであって、総合チャートでの反応はまだ薄く、ごく一部での評価に過ぎなかった。当時のアメリカ国内での彼の印象はと言えば、「体毛が濃いくせにすぐ裸になりたがるキワモノ」、日本で言えばDJ.OZMAのようなイロモノ的扱いだった。なので、音楽性が云々というレベルではなく、見た目の爬虫類的なキモさの方が先行していた。そのキモさは多分、当時隆盛を極めていたRick Jamesとタメを張ってたんじゃないかと思う。
 それがここに来て一躍大ヒット、アメリカだけでなく世界中が新しいカリスマの登場に目を見張り、Princeは怒涛の勢いでスターダムにのし上がった。

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 当時の勢いがどれだけすごかったのかというと、この年の総合チャート1位を獲得したアルバムは5枚のみ。春までは前年の勢いで『Thriller』が独占していたのだけど、5月・6月に首位の座についたのがFootlooseのサントラ、で、次にほんの一瞬だけHuey Lewis がその座に就き、7月いっぱいは『Born in the USA』が独占している。
 その後8月に入ってから『Purple Rain』の一人無双が始まるのだけど、これがもう年内いっぱいずーーーっと、『Purple Rain』。他のアーティストの猛攻を許さず、ほんとずっと。年明けに再び『Born in the USA』 に奪還されるのだけど、結果的にこの年のほぼ1/3はPrinceの独壇場となっている。
 この年は他にもVan Halen、Jacksons、Bryan Adamsらによる大ヒット・アルバムが目白押しだったのにもかかわらず、それらを抑えての独占状態だったのだから、その勢いは推して知るべし。

 これだけ売れてしまったせいもあって、この『Purple Rain』、Princeファンの中ではあまり評判はよろしくない。それまでの先鋭的な密室ファンクと毛色が違って、これまでにないくらい思いっきりロック寄りに舵を切ったサウンド、中毒性を持つワン・コード・ファンクから脱却した、フックとサビの効いたメロディ・ラインは、従来のファンの期待を裏切るものだった。その最たる結果がラストのタイトル曲、これはPrinceのキャリアの中でもダントツにベタなロッカバラードで、特にディープなマニアほど拒否反応が強い。
 なので、以前のPrince、そしてその後のPrinceのアルバムと比べると、このアルバムだけ明らかに浮いており、これが好きだというファンは肩身の狭い思いをしている。当時のヒット・チャートの基準でいけば、そのサウンドは「ちょっと場違いだけど新鮮なファンク・テイストのロック」なのだけど、ディスコグラフィーの中では明らかに異彩を放っている。先物買いのソウル/ファンク・マニアから「大衆に魂を売った」と言われても「はいその通りですけど何か?」と返されてしまいそうなほどのサービスぶりである。

Purple-Rain-10

 要は映画のオファーが来たので、さすがのPrinceも今後の戦略をいろいろ考えたのだろう。これまではローカルでアンダーグラウンドなダンス・ミュージックの範疇であれこれやってたのを、大がかりなビジュアルとのシンクロを図る映画音楽ともなれば、ダンス機能に特化した単調なファンクばかりというわけにもいかない。シチュエーションごとにマッチングしたサウンドが必要になる。
 なので、それまでとは打って変わって明快な8ビートを多用し、主にリズム・カッティングに使用していたギターにはディストーションをかけ、産業ロック張りの長尺泣きのソロを弾いた。そのような変化は、従来のソウルファンからはロック・シーンへの過剰な迎合と映っただろうけど、そう単純に決めつけるものでもない。Princeの音楽的なレンジは広いので、「こんなこともやればできるんだぜ」的なアピールの1つであり、その後の変遷を見れば、本質的には変わってないことは明らか。

 なぜこの時期にPrince に映画主演のオファーが来たかというと、当時空前の大ヒットによってアメリカのエンタメ界を揺さぶっていたMichael Jacksonへの対抗馬、ていうかもっと大きな括りの「ソニーvs.ワーナー」という世界的コングロマリット・レベルの戦いに巻き込まれた感が強い。
 Michaelがシングル”Thriller”において、ロードショー映画1本に匹敵する予算と物量を費やして、前代未聞の30分超長尺PVを製作したことに対抗して、「それならこちらは本格的に劇場公開だ」とワーナーがいきり立ち、白羽の矢が立ったのがPrinceだった。
 打倒ソニーを掲げて、ワーナーも大きく予算を投入する手はずとなった。いま思えば、すでに業界内において彼がめんどくさい性格であることは知られていたはずなのに、なぜわざわざオファーしたのか、そしてまた、いろいろめんどくさい条件はつけたのだろうけど、そんな彼がオファーを受けたことも謎である。当時なら、Rick JamesやShicらの方が知名度もあったし、少なくともPrinceよりは懐柔しやすそうな気もするのだけど。まぁ大企業ワーナーだって一枚岩ではないだろうし、社内の派閥でいろいろ駆け引きもあったのだろう。

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 『1999』くらいまでは、本国アメリカにおいてもソウル・チャートの上位常連的ポジションだったのが、ここに来てセールスがドカンと爆発したのは、まぁPrince自身は素直に認めないだろうけど、やはりワーナーの宣伝力・イメージ操作の影響が大きい。普通に考えて、不特定多数の大衆にアピールする音楽ではないのだ。
 ただ、並みのアーティストが『Purple Rain』的アルバムをリリースしても、安易な迎合路線としてコアなファンからはそっぽを向かれてしまうはずである。一時的にセールスは上向くだろうけど、ファンの欲求は尽きることを知らない。彼らが求めるのは『Purple Rain Ⅱ』や『III』、永続的な拡大再生産なのだ。そのスパイラルにはまってしまうと、最早抜け出すのは容易ではない。ひたすら無責任なファンの欲求に応え続け、終いにはネタ切れとなって飽きられてフェード・アウトしてゆくのが関の山だ。
 そう考えると、そのスパイラルを易々と回避するため、さっさとこの路線に見切りをつけ、まったく別コンセプトの作品『Around the World in a Day』をリリースしたことは、先見の明があったのかもしれない。


Purple Rain (1984 Film)
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1. Let's Go Crazy 
 セカンド・シングルとしてリリース、US1位UK7位。この年はなんと4枚もシングルを切っており、しかもB面は未発表の”Erotic City”。こういったサービス振りは80年代アーティストならよくあったことで、とにかく短いスパンでアイテムをリリース、チャートに常に名前を残すことによって、本丸のアルバム・セールスに貢献させるのが常套手段だった。
 基本リズムは往年の軽快なモータウン・ビートなのだけど、そこにPrinceの暗示的なSFチックなモノローグ、ロック的なセンチメンタリズムを想起させるギター・ソロ、ソウル・レビューを思わせるPrince自身のコーラスなど、パーティのオープニングには相応しいビジュアライズなポップ・ナンバー。
 ただPrince独自の発明だった密室ファンク要素は皆無。アウトロなんてギターが泣きまくってるし。こういった情緒的な部分が一般ファンの獲得には寄与したけど、うるさ型のR&Bファンには不評だった。普通にカッコいいんだけどね。

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2. Take Me with U
 で、こちらはシングル・カットの最後、5枚目。さすがにモンスター・セールスのアルバムだったとはいえ、さすがに年明けてのリリースだったため、全米最高25位。でもUKでは7位まで上昇というのは、独特のシャッフル・ビートが英国人のツボにはまったため?どちらにせよ、この辺ではもうPrince自身、次のアルバム・レコーディングで頭がいっぱいで、もう興味も失っていたはず。
 この曲もフォーク・ロック的なポップ・ソウルで、ロック・ファンには耳あたりは良かった。歌詞はエロイけどね。

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3. The Beautiful Ones
 彼としては珍しくオーソドックスなバラード。バッキングもいわゆる”Sexual Healing”以降のR&B的サウンド・フォーマットを使用。メロディも美しく、特にPrinceのエモーショナルを通り越して激情MAXのラストのシャウトが絶品。
 こういうのを聴いていると、欧米アーティストのIsley Brothersへのリスペクトの強さが窺える。普通にロマンティックなバラードなので、Mariah Carryが歌いたくなっちゃったのも無理はない。

4. Computer Blue
 この時期のキーパーソンであるWendy & Lisaの登場。単調な4つ打ちファンクでありながら、多彩なエフェクト、へヴィ・メタル・ライクなギター・プレイ、2分半からの突然の転調など、聴きどころの多い4分。構成的にはもっとも凝ったナンバー。

5. Darling Nikki
 Princeの曲中、最もセクシャリティの強いナンバーとして有名。この曲が入ってたおかげで『Purple Rain』というアルバム自体がParental Advisory(アメリカの18禁指定みたいなもの)指定されてしまったのだけど、話題作りとしては効果的だった。セールスに影響があったのかと言えば、悪い方向にはいかなかったわけだし。
 ラストの逆回転ヴォーカルはいつ聴いてもキモイけど、やはり最後まで聴いてしまう。

6. When Doves Cry
 先行シングルとしてリリースされ、US1位UK4位という好成績をマーク。原題とまったくニュアンスの違う邦題『ビートに抱かれて』は、なんかよくわからないけど結果的に名ネーミングだったんじゃないかと思われる。
 ヘヴィなギター・ソロのオープニングからアフロティックなドラム・パターンに繋がる導入部、敢えてベースを排して無機質なシンセでリズムを奏でることによって、逆にファンクの本質を捉えたバッキングなど、結構ポイントは高い。ヒット曲だからと敬遠せず、きちんと聴いてみれば、そこから放たれる中毒性に気づくはず。

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7. I Would Die 4 U
 4枚目のシングル・カット。US8位UK58位。イントロのシンセが80年代っぽさを感じるけど、リズムがキレてるため、今の時代に聴いても新鮮。当時流行っていたエレポップとファンクとの奇跡的な融合。大ヒット・ナンバーだけでなく、こういったちょっと目立たない曲でもしっかりクオリティを維持しているのが、当時の彼のすごさ。 

8. Baby I'm a Star
 シングル2.のB面としてもリリース。疾走感というか勢いイッパツのロック・ナンバー。ほんとにロック・テイストが強いため、もしPrinceがヴォーカルじゃなかったら無難なロックにしか聴こえない。後半のブレイクとシンセ・ソロはすごくファンキーなので、このテイストで全編やってくれたらもっとカッコいいのだけど。でもシンプルな構造のため、ライブでは盛り上がる曲。

9. Purple Rain
 最後を飾るのはタイトル・ナンバー。映画本編でも効果的な使われ方をされている、Princeファンじゃなくても知ってる人が多い極上のバラード。本人プレイの延々と続くギター・ソロはモロSantanaにインスパイアされており、彼同様、ギター・ソロは「顔」で弾くものだということを改めて思い知らされる曲。
 ここまで明快なセンチメンタリズムを前面に押し出したナンバーは異色だけど、映画のシノプシスに沿って作られたと思えば、何ら不思議はない。
 もともとPrince、ミネアポリスでは裕福な部類の環境に育ち、ゆえにストリート的なブラック・コミュニティとの繋がりは薄く、自然と白人ロックに触れることが多かった。なので、このようなベタなロッカバラードを作ったとしても、それはそれで自然の流れ。何がなんでもファンク一辺倒といったわけでもない、幅広い音楽性が証明された一曲である。

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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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