Prince

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

久々に現場復帰した殿下、21世紀の代表作 - Prince『Musicology』

folder 2004年にリリースされた、Princeなんと28枚目のスタジオ・アルバム。ワーナーを離れてからの彼は、主に自主レーベルNPGと、各メジャー・レーベルとの単発契約という変則的なリリース形態で活動していたため、この時期の詳細は日本では掴みづらかったのだけど、実は大量のアイテムを世に送り出している。何かと創作の自由を妨げていた「Prince」というクレジットを捨てて、既存の慣習に捉われない作品を量産していたのがこの時期だけど、何しろアルバムごとに配給元がコロコロ変わり、特に日本においてはスキャンダラスな面ばかりにスポットライトが当たり、きちんとしたプロモーションや評価が為されていなかったのも事実。

 そのNPGでは、ダウンロード限定のアフターショウのジャム・セッションやら、インストどファンクやら、メジャー・レーベルではリリースしづらい面白い作品も多いのだけど、一般のファンを取り込める内容かと言えば、チョット微妙な仕上がり。広い対象へアピールできるサウンドではないのだ。
 まぁそれもこれもワーナーとの契約がこじれにこじれちゃったおかげでもあるのだけど、その法務関係が完全にクリアになったと同時に「Prince」のアーティスト・クレジットが復活する。
 その復活第1弾が、コンセプチュアルな作風のジャジー・テイストな『Rainbow Children』だった。従来のPrinceのコアなファンにとっては、しっかりした骨組みのシンプルなサウンドが好評だったけど、これもライト・ユーザーが気軽に聴く雰囲気の作品ではなかった。-まぁ一発目だから、カンが戻ってないのかな?取り敢えずメジャー復活を喜ぶ機運はあった。
 そんな周囲の生温かい期待を裏切るようにリリースされたのが、全編ジャズ・インスト・ナンバーで構成された『N.E.W.S.』だった。メジャー・フィールドへの反発を通り越して、なんかスピリチュアルな世界へ行っちゃったのかなぁ、と思ってしまった俺。この時期もNPGを介した音源配信は継続しており、そこでもジャズ要素の強いインスト作品を連発していた。プライベートでも何やかや騒がしかったPrince、ネガティヴな心境が晴れるまでには時間がかかったのだろう。とは言っても。
 正直、ジャズ・インストに走ったPrince、既存フォーマットに乗っかったPrinceほどつまらないものはない。確かにレベルは高いんだろうけど、誰もそんなもの、あんたに求めちゃいないのだ。

musicology

 そんな状況に終止符を打ったのが、このアルバム。完全にメジャー仕様、自己満足なセッションではなく、きちんと作り込みつつ大衆性も意識した、それでいて同時代性もしっかり意識した作品に仕上がっている。世界中のPrinceファンはもちろんの事、特に欧米では熱狂的な歓迎を受け、US・UKとも最高3位にチャートイン、それぞれダブル・プラチナム、ゴールド・ディスクを獲得している。このアルバムを引っさげて行なわれたツアーは各地で盛況を記し、この年のアメリカではツアー興行収入トップとなっている。
 やっぱり、ちゃんとやる気になればできる人なのだ。

 彼が亡くなってから、1ヶ月ほど経つ。
 その間、ほんと久しぶりに彼のアルバムをまとめて聴いていた。1人のアーティストのアルバムをこれだけ集中して聴くのは、多分大滝詠一以来だと思う。
 特にこのブログを始めてからだけど、そういった聴き方は少なくなった。このアーティスト・このアルバムについて書きたい・語りたいという動機が先立ち、純粋に「ただ聴いてみたい」と思ってCDを探す行為は、以前よりずっと減った。
 先日逝去したDavid BowieやMaurice White も、結局聴き返したのは好きなアルバムばかりだったのだけど、彼に関しては今も、全キャリアを総ざらいしている最中。
 それだけPrinceとは、俺にとって特別なアーティストだったのだろう。

 デビューから順を追って、時系列に聴いてるわけではない。その日の気分、ランダムに選んで聴いている。何となく、その方がいい気がしたのだ。
 なので、『Controversy』の次に『3121』を、次に『Crystal Ball』をと、ほんと節操がない聴き方だ。時代ごとにサウンドは激変しているけど、根っこは同じものだし、駄作という物がない人なので、それほど違和感はない。
 で、リリース当時にちゃんと聴いてなかったため、新鮮な感動があったのが復活以降、2000年代のアルバム群だった。リアルタイムで聴いてはいたし、いま手元になくても確実に一度は購入していたはずなのに、ほとんど記憶に残ってなかった。
 この時期の俺は音楽への興味が薄れていた頃で、お手軽なJポップばかり聴いていた。それまで日常的に聴いていたロックを聴くことに疲れてしまい、耳障りの良い音ばかりを求めていた。
 Princeもまた例外ではなく、ほんの1、2回流し聴きした程度で済ませていた。音楽が俺にとって、重要なファクターではなかったのだ。

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 時代の数歩先を歩むことによって、独自のスタンスを築いた80年代のPrinceだけど、その先進性が失われてしまったのが、一体いつなのか。
 『Lovesexy』を境に語られることが多いけど、その前の『Black Album』製作後とも言われてるし、主演映画『Graffiti Bridge』が大コケしてしちゃってから、という説も目にする。どれもそれなりに説得力があるし、納得してしまったりする。
 俺的には作品がどうこうというよりも、ワーナー副社長就任を機に身動きが取りづらくなったことが、そもそもの始まりだったと思うのだけど。

 とは言っても、そのワーナーと揉め出した頃からのPrinceの音楽性レベルが落ちたのかといえば、それはちょっと話が違ってくる。確かにここでの彼は半ばやけっぱち、契約消化のため、枚数稼ぎでやたらめったらリリースしていたようなもので、やっつけ感は強い。
 当てつけのようなサブタイトルを冠した『Come』や、ベーシックはほぼ一発通し録りのセッション・アルバム『Chaos & Disorder』など、ワーナーへの不平不満を露わにした作品が続いている。この時期のPrinceはまだ創作力のピークの最中で、契約消化を目的とするのなら、それこそ膨大なストックから何曲か引っ張り出してくれば済むものなのに、わざわざ時間を割いてニュー・アイテムをレコーディングしているのだから、相当憤りをぶつけたかったのがわかる。
 リリース当時はPrince自身もネガティヴな発言を連発しており、この時期のアルバムは評価もそれほど高くなかったのだけど、時代を経て作品にまつわるゴシップ性も薄くなり、再評価の機運が高まっていることもまた事実。時代の最先端でミュージック・シーン全体をリードしていたPrinceではなく、明確な対象へ向けて明確な怒りを表明する一アーティストの熱量のあふれ具合。当時の事情を知らぬ世代のフラットな視点によって、案外評価が高いのがこの時代のアルバムである。

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 対して改名騒動を経てからのPrinceの作品だけど、どうにもフォーカスがズレた作品が多い。
 晴れてワーナーから解放された充実感を、これでもかと言わんばかりにアルバム3枚で表現した『Emancipation』。まぁ気持ちはわかるし今後の意気込みも理解はできるのだけど、だからといってここまでの大作にする必要があったのかといえば、正直胸やけした人が多かったんじゃないかと思われる。クオリティ云々より、とにかく長いんだもん。
 この時期にボコボコ配信されたNPG音源もまた、メジャー仕様のアルバムもあるにはあるけど、ほとんどはアフターショウやジャズ・インストが多くを占めている。ネット配信の利点である「速報性」「録って出し」というコンセプトを推し進めて行きたかったのだろう、と今では理解できるけど、その理念が先行し過ぎた挙句、パッケージとしてのクオリティの追求が甘くなっていることは否定できない。
 彼に限らないけど、制約を取っぱらいすぎて、あまりにやりたい放題の環境に身を置いてしまうと、まとまりがなくなってしまうという実例である。

 で、様々な条件がクリアとなってメジャー活動の環境も整い、『Musicology』に至る。
 ここからのPrinceのアルバムは、全体を通してのコンセプトを設定していない。それにもかかわらず、サウンドのトータリティは統一されている。無理に縛りを入れなくても、NPG音源のようなとっ散らかり振りや、冗長な部分はない。きちんと一般流通向けにブラッシュ・アップされた、ライト・ユーザーも取り込めるサウンドでまとまっている。
 新しい試みはない。どの曲にも「かつて聴いたことのあるPrince」サウンドが凝縮されており、そのエッセンスは濃厚である。なのに、くどくない。その辺のさじ加減はやはり一流のアーティストたる所以だろう。
 自己模倣とか拡大再生産という意見もあるだろうけど、ここに来てPrince、やっと自分を振り返られる余裕ができたのだ。これまではイノベイターとして時代に先頭に立ち、人々をアッと驚かせるサウンドを作っていくことによって、モチベーションを維持していた。実際、ワーナー時代はその役割を全うしていたし、それがセールスにも反映されていたのだけど、次第にビジネス上の問題が彼を苦しめ、その嗅覚が世間とズレつつあったのが事実。
 優秀なブレーンがついたのか、それとも最後まで駄々を突き通したのか、とにかく権利関係もクリアになって心機一転、先鋭的な部分を抑えてこれまでのPrinceサウンドをわかりやすい形で翻訳して創り上げられたのが『Musicology』である。これまで聴いたことあるようなサウンドにあふれているけど、そのオリジネイターは彼自身だ。
 -俺がやってきたことを俺がやって、なんか悪い?
 そんな開き直りさえ感じられる、それでいて素直な音がここでは鳴っている。
 この後も、同様のPrince的サウンドを展開した『3121』や『Planet Earth』をリリースすることになるのだけれど、そこは一筋縄では行かない男、次第にその歯車は再び、アバンギャルドな方向へスライドして行くことになる。


Musicology
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1. Musicology
 ファンキーな雄たけびから入るオープニング。この声だけで、Princeが本格復帰したことを教えてくれる。ほぼ基本のベースとドラム、ホーン・セクションとギターだけ。で作られたサウンドは、『Parade』期と同じ構造なのだけど、時代が違うだけあって、音のボトムが太い。アップデートしたファンキーなPrinceを堪能するのなら、まずはこの曲から。
 先達のアーティストらへのリスペクトを露わにした歌詞、ダンサブルなPVなど、何かと話題になった。ちなみに最後に少しだけ、「Kiss」の一部をサンプリングとして使用。EU諸国では先行シングルとしてもリリースされ、最高はベルギーの4位。てか、なんでUSでは120位なの?



2. Illusion, Coma, Pimp & Circumstance
 あまり派手な曲ではないけど、以前のPrinceが好きな人なら確実にツボにはまる、ほぼワンコードのスロウ・ファンク。ギターの音が太いのが俺好みなのと、効果的に使われるスクラッチは、彼にしてはフィットしている。ヒップホップに接近するとヤケドしてしまうのが90年代のPrinceだけど、このくらいのエッセンス程度なら、全然OK。

3. A Million Days
 ベタなバラードだけど、相変わらずギターの自己主張が強いおかげで、平凡にならずに済んでいる。アメリカン・ロックっぽい響きのリフは、メロウに流され過ぎないようにサウンドを引き締めている。
 響きはやっぱ80年代だよね。『Purple Rain』期だな。あの頃よりもドラマティックな展開になってるのは、年を取ったせいか。

4. Life 'O' The Party
 女性ヴォーカルとしてCandy Dulferが参加。そう、あのサックス・プレイヤーの。何でもできる人なんだな。まぁアクがない分だけソロではちょっと厳しいけど。
 ライブだったら、この掛け合いもなかなか面白いものだと思う。シンプルなコード展開だし、構成的にこういった曲がないとライブでは盛り上がらない。

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5. Call My Name
 ベッタリと、それでいてスウィートなソウル・バラード。この辺は『One Nite Alone』からのフィードバックが考えられる。最後のツアーがピアノ・ソロを中心としたライブだったので、特に復活後はこの方向性も視野に入れていたのだと思われる。JBのように生涯現役のステージ・パフォーマーというのも理想ではあるけれど、それだけに収まらない可能性を秘めていたのが、Princeだった。多彩な方向性を持つ彼だからこそ、楽曲のバリエーションを模索することは重要だった。

6. Cinnamon Girl
 Princeが歌ってるからソウル/ファンクにカテゴライズされているけど、楽曲自体はオーソドックスなパワー・ポップ。ストレートでギミックもない、ノリの良いギター・ロック。近年では珍しくエモーショナルなソロを弾いてるし。
 2枚目のシングルとして、UK43位。彼じゃなかったらポップ・チャートでもっと上に行ったかもしれないな。

7. What Do U Want Me 2 Do?
 リリース当時から各方面で囁かれていたように、『Sign `o` the Times』期のサウンドに酷似したミディアム・バラード。ていうかシンセの使い方はまんま「The Ballad Of Dorothy Parker」。自己模倣というよりはインスパイア、または自身によるリスペクトと思った方が良い。良い素材はうまくリサイクルすることも、アーティストとしての寿命を延ばす策のひとつだ。
 とはいってもしっかり以前よりヴァージョン・アップしており、特にサビ前~サビのメロディは絶品。

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8. The Marrying Kind
 バロック調のギター・ソロは北欧ゴシック・メタルを連想させ、それに伴ってなのかドラムの音も重い。コーラスの重ね方とギターの音が90年代前期を模しており、まだワーナーとの良好な関係を想起させる。

9. If Eye Was The Man In Ur Life
 この曲を含み、8.から10.までクレジットは一緒なので、ほぼ同じ日のせっしょをベースとして制作されたと思われる。御大Maceo Parkerも参加しているのだけど、あんまり目立った働きはしていない。やはりPrinceの独壇場。ゲストに花を持たせるという考えがないのは昔から。

10. On The Couch
 初期Princeには必ずあったエロ・バラードがここで復活。ファルセットが入ると一気に夜のムードがアップするのは、この人ならでは。しかし、50近くになってこんな歌を気持ちを込めて歌えるのだから、一流のエンターテイナーはやはり違う。
 石井竜也あたりもスカした歌ばかり歌ってないで、自分の適性はこっちにあることを早く気づいてもらいたい。

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11. Dear Mr. Man
 シリアスなトーンでまとめられたミディアム・ファンク。わかりやすいファンキーさではないけど、当時の大統領を含めたアメリカ政治への不満を綴っているため、自然、曲調も重厚感を伴っている。
 21世紀に入ってからのPrinceは盛んに社会問題への”Non”を突きつける、問題提起を促す楽曲を発表していた。こういった時の即決で対応できるネット文化は、彼にとっては都合の良いメディアだったのに。

12. Reflection
 キャリアの中でも珍しい、アコギ1本で弾き語るシンプルなバラード。Joni Mitchellにも影響を受けているPrince、あまり見せてはいなかったけど、こういう面だってあるのだ。そりゃいつもファンクばっかりできるわけじゃないし、こういったのも作りたくなるだろう。
 こういったサウンドばかり集めたのが例の公式ブートレグ『Crystal Ball』のおまけディスク『Truth』なのだけど、あれよりも爽やかな感触。



 現時点でのPrinceのアーカイブ的な話題といえば、アナログ・ディスクのリマスター一挙再発といったところ。パパラッチ的な話題は事欠かないけど、ファンにとって重要な情報はこれくらい。エピソードも大事だけど、やはり気になるのは膨大に残されてるはずのマテリアルだ。
 未発表曲が多数発掘されているらしいけど、リリースされるのはいつになることやら。続報を待とう。



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現時点で殿下の最終作 - Prince 『Hitnrun Phase Two』

folder 「プリンス、急逝。ペイズリーパーク スタジオの自宅で」
 プリンスが急逝した。享年57歳。

 彼の広報担当者によると、現地時間の4月21日午前、プリンス(Prince Rogers Nelson)が、ミネソタ州チャンハッセン郊外にあるペイズリーパーク スタジオの自宅で亡くなっていることを確認したという。

 また現地での報道によると、保安官事務所からの話として、同日9時半過ぎにペイズリーパーク スタジオから緊急通報を受け、エレベーターの中で意識不明の状態のプリンスを発見したという。

 プリンスはインフルエンザにかかり、4月7日の公演をキャンセル。また、4月15日にはアトランタでパフォーマンス後、プライベートジェットで移動中に体調が悪化。イリノイ州モリーンの空港に緊急着陸し、病院へ搬送されていた。
(BARKS記事より)

 俺の朝の日課のひとつが、このブログのアクセス数チェックなのだけど、いつもと変わらない午前7時、いつものペースより異常に伸びてることに驚いた。うちのような個人弱小ブログにしては、とんでもない量のPV数がカウントされている。どこかでリツイートされまくったのかなぁ、と思ってTwitterを覗いてみて、この記事がヒットしてきた。なるほど、そういうことか。
 まだ寝ぼけてたせいもあって、最初は何のことかよくわからなかった。Princeが、彼が死んだという事実が、どうにも上手く飲み込めなかった。徐々に頭が覚めてきて、「あ、Princeも死ぬんだな」という想いがあらわれた。そうだよな、彼も人間だもんな。

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 俺がPrinceの存在を知ったのは、大方の日本のファン同様、『Purple Rain』からだった。最初はMichaelの対抗馬として、「やたらエロくて淫靡な香りの漂う怪しげな黒人」という印象が拭えずにいた。ファンクというにはポップだったしね。俺が彼に強く惹かれるようになったのは、むしろ次作の『Around the World in a Day』から。前作で見せたポップ・ロックの部分をほとんど捨て去って、サイケデリックな世界観とサウンド、そして強まったファンクネスは洋楽を聴きかじったばかりの田舎の高校生を夢中にさせた。
 その後の『Parade』『Sign O the Times』『Lovesexy』の一連の作品もまた、どれも違う音楽性ながらもクオリティは高かった。ヒット・チャートに一切迎合しない音楽性ながら、その完成度の高さゆえ、特別ユーザーに媚びなくとも高いセールスを維持できるそのスタンスは、80年代の音楽シーンをただ独り邁進していた、と形容しても足りないくらい。

 今年初めのDavid Bowieの訃報は声を上げて驚いてしまった俺だけど、今回は声が出なかった。驚いて声が出ない、ということがこういったことなのか、と初めて知った瞬間でもある。
 俺がBowieというアーティストを知ったのは『Let’s Dance』からなのだけど、一般的にBowieのアーティストのピークは70年代と言われている。晩年も旺盛な創作力だったらしいけど、世間に与えたインパクトという点においては、やはり『Ziggy Stardust』やベルリン3部作など、あの時代に集中している。
 当然、その時期を俺はリアルタイムで知らない。アーティストの最大のピークを後追いではなく、当時の空気感も含めて体験することは、思い入れの深さと比例する。
 なので、そういった80年代の問答無用のアーティスト・オーラを感じ取ってきた身としては、思い入れは当然深くなる。
 深い分だけ、まだ混乱している。
 多分、もう少し引きずることだろう。

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 数日前に倒れてプライベート・ジェットで緊急搬送されたことは知っていた。インフルエンザと報道されたけど、そんな大ごととは思っていなかった。あぁ57歳にもなると、そろそろ体のあちこちにガタが来るんだなぁ。俺もそろそろ他人事とは言ってられないよなぁ、と思う程度に他人事だった。
 若い頃のムチャが後になって出てくるのは、誰にだって当てはまることだ。特にPrinceの場合、JBのステージングをモチーフとして完璧に構築されたソウル・ショウを世界中で行ない、アフターショウで目星をつけたグルーピーらをホテルに引っ張りこんで夜のアフター・ステージを延々と繰り返していた。それ以外の時間はほぼすべて、24時間体制でレコーディングを続けていた男だ。
 彼が長期バカンスを取ったとか、リゾート地で乱痴気騒ぎを繰り広げたとか、そういったロック・スター特有のエピソードは聞いたことがない。女とチュッパチャップス以外には目もくれぬ、激動の80年代を疾走していたのだ。昔のような無理が効かなくなるのもしょうがないことである。
 そんな風に思っていた矢先の出来事だった。

 昔から大のマスコミ嫌いだったため、インタビューに応じることは少なかったし、テレビ出演だってそんなに多くない。もともと饒舌な人柄ではない。
 どちらかと言えば引っ込み思案でシャイ、人見知りの激しい性質である。人種や身長など、あらゆるコンプレックスの裏返しとして、ただひとつ他人より秀でていた音楽へ向かわざるを得なかったのが、Prince Rogers Nelsonというひとりの男の生きざまである。
 その対極として、大手ワーナーとの契約にも臆することなく、デビュー当時から異例の自己プロデュース権を手に入れるほどの謀略家、周辺スタッフには絶対服従を誓わせる傍若無人な面もまた、彼の持つ側面のひとつである。
 どちらもほんとのPrinceだ。
 そういった二極性、陰陽を自らコントロールすることによって、Prince Rogers Nelsonという一個人が「Prince」というアーティストをプロデュースしてきた。
 ワーナーとの最初の決別まで、その絶妙なバランス・コントロールは続く。

PrinceBirmingham

 で、ワーナーと対立し、メディアと対立し、遂には自分自身とも対立して「Prince」の名前も捨ててしまった頃。自らをSlave(奴隷)と自嘲してやさぐれていた頃である。ピーク・ハイだった80年代には相手にならなかったヒップホップ・ムーヴメントが先鋭性と大衆性とを併せ持ち、さらにテクノ/ハウス・ビートの席巻によって、最先端だったPrinceに陰りが見え始めた頃である。
 独立するとかしないとか、純粋な作品クオリティとは離れたところでの話題が多かった彼だったけど、その風向きが変わったのが新しい家族の誕生。バックダンサーMayteとの結婚、そして新しい生命の誕生だった。
 ワーナーとも解放されて自由な音楽活動が可能となった。それがよほど嬉しかったのか、いきなり3枚組のオリジナル・アルバム『Emancipation』をリリースしてしまうくらいだった。ビジネスの問題もクリアになり、プライベートも充実、さて、これからという時に。
 先天性の病により、息子の命は長くもたなかった。当然、Mayteとの仲もこじれ、2000年には離婚という結末となった。その後再婚したらしいけど、やはりうまく行かなかった。
 それからはずっと独り。

 このプライベートな事情を契機として、彼の音楽の新規アップデートは歩みを止めてしまう。この後はアーカイブの焼き直し的作品や、既存サウンド・フォーマットを流用した作品が多くなる。
 これまでは、そのフォーマット自体をどんどん作り替え、「Prince」というオンリーワンの音楽ジャンルの自己増殖を行なっていたのだけど、そういった行為に関心が薄れてきている。
 音楽自体に興味がなくなったのではない。だって、それを取り上げられちゃったら、存在理由がなくなってしまうから。
 あいにく彼の才能は尽きていなかった。リリース・ペースは落ちたけど、レコーディング自体は順調に継続していた。発表する手段を講じるのに時間がかかっていたのと、昔のように夜通しスタジオにこもるような無茶を控えるようになったためだ。
 オールド・ファンなら手放しでで大喜びする、80年代的フォーマットのサウンドやワン・コード・ファンクなら、ほんと1日でアルバム1枚分作ることはできたけど、世に出すことはなかった。
 やろうと思えば、ヒット・ナンバーの量産だって可能だった。「Prince」というブランドを最大限活用して、リスペクトしてくれる若手ラッパーとコラボすれば、それは難しいことではなかった。
 でも、それをすることはなかった。もう、そういったことに関心がなかったのだろう。あとは自分の好きな音楽を、自分のペースで創ってゆくだけだった。
 無理に新しいものを追おうとはせず、ただその時その時に、自分の興味が強いモノを少しずつ。
 それがたとえベタなモノでも構いやしない。
 今やりたいことは、「これ」なのだから。


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1. Baltimore 
 2015年に発表されたロック調ナンバー。Soundcloudを通して公開されたため、発売されたものではない。こういった自由な発表形態、インスピレーションを得てすぐに世界中に配信できるシステムの多様化は、既存メディアへの不信感の塊だったPrinceにとっては良い時代だったんじゃないかと思われる。
80年代全盛期のメロディを持ち、ポップな女性コーラス、マッタリしたリズムとギター・ソロで彩られているけど、内実は結構シリアスなプロテスト・ソング。
 銃刀法違反の疑いで拘束された黒人Freddie Gray。彼が護送車の中で過剰ともいえる尋問(暴行?)により死に至ったことによって、それまで市民の間で溜まっていた不信感と欝憤が大規模デモに発展する。
 そんな彼らの運動への支援表明として発表された経緯があるので、普通に歌っただけなら、重苦しいサウンドになってしまうはず。ただ、曲がりなりにもメジャー・アーティストのPrince、人に想いを届けるために、シリアスなメッセージをシリアスに語ってしまうと、拒絶が多いことを知っている。万人に抵抗なく真意を伝えるため、耳障りの良いポップなサウンドでコーティングしている。さすがプロの仕事だ。
 甘いチョコレートのコーティングの下は、ビターな味わい。そこが彼の狙いだ。

2. RocknRoll Love Affair 
 こちらもアルバム・リリース前、2014年に発表されたシングル。発表当時はなんか陳腐なロックだよなと思ってたけど、このアルバムの流れに入ってしまうと、それが逆に心地よくなってしまう不思議。最初からこうすりゃ良かったのに。
 囁きかけるようなヴォーカルといい、ブギ・スタイルのギター・リフといい、まんまT.Rex。このユルさは貴重だよな、今の時代には。
 ロックンロールという音楽の本質がラウドなものではなく、シンプルな8ビートであることを教えてくれる、貴重なナンバー。

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3. 2 Y. 2 D. 
 今回のPrinceのスタイルは、ホーン・セクションの大幅な導入。16ビートもほとんどなく、レアグルーヴとも形容できる古めのサウンドに乗せて、ロック寄りのメロディ&ヴォーカルを被せている。
 なので、正直どの曲も、独特のPrince臭さが薄いのは共通している。ただ、あくまで「これまでの」Princeではないだけで、これが今のPrinceの新たな方向性と受け止めるのが正しい。まぁ新しさはないけど。
 方向性も何もないけどさ、もう。

4. Look at Me, Look at U 
 ジャズ・ファンク風味が強め、ジャジーなコード進行ながら、明らかに楽曲の進化が窺える。確かに新機軸はない。ローズ・ピアノだって使い古された音だ。ただ、その音色に相応しい楽曲は明らかに、小手先のアレンジでは崩せない可能性を秘めている。
 この快適な心地よさ、確実にPrinceは「進化」している。

5. Stare 
 こちらはアルバム・リリース前、Spotifyで先行公開されたミディアム・テンポのファンク・ナンバー。曲中で”Kiss”のギター・カッティングがサンプリングされているのが話題になった。
 基本、ワンコードなので、起伏の乏しい展開ではあるけれど、それを飽きずに聴かせてしまう力技は相変わらず。自分ではうまく吹けないため、あまりフィーチャーされて来なかったブラスを前面に出しているのは心境の変化か。

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6. Xtraloveable 
 シングルとして2011年にリリースされたのが初出だけど、もともとは1982年頃のアウトテイクのリライト版。確かに『Contronersy』~『1999』期の音が聴こえる。もちろんリリースするにあたって新しい音もいろいろ被せているのだろうけど、ちょうどポップに移行しかけていた頃のギラギラ感と軽みとが同居した、親しみやすいナンバー。
 でも、これが当時未発表だったとは。Princeの才気煥発振りが窺える。

7. Groovy Potential 
 2013年リリース、当時結成された3rdEyeGirl公式サイトを通して発売された、ロック成分の強い長尺曲。ちゃんと聴いてみると、”Purple Rain”と同じ構成だった。『Sign O the Times』期のサウンドが好きな人ならはまるんじゃないかと思われる。つまり俺世代、アラフィフにはヒットするかな。
 
8. When She Comes 
 このアルバムでは唯一、ファルセットを使用したバラード・ナンバー。テンポの遅いフィリー・ソウルといった趣きのメロウなテイスト。
 こういったソウル・ナンバーになると、年期を積んできたベテランに勝てる要素はとても少ない。なので、こういったバラードを歌う際、若手は大抵打ち込みサウンドを使うことによってヴォーカルの力強さを引き立てるのだけれど、ここではPrince、正攻法で押し通している。もうあいつかどうだとか、そんなのはどうでもよくなっちゃったんだろうな、きっと。だって、歌いたいなだもん、こういうので。

Prince

9. Screwdriver 
 7.同様、こちらも公式サイトで先行発売されたナンバー。2.と同じコンセプトなのか、ロックンロール・スタイルで、しかもブギになっている。マイブームだったのかな、きっと。
 コーラスの"I'm your driver and you're my screw."をやる気なさそうに歌っているところが、一筋縄ではいかないロック・イディオムを体現している。

10. Black Muse 
 80年代のヒット・チャートを彷彿させるメロディ・ラインだけど、テンポがモッサリしているため、どこかもどかしさを感じてしまうのは俺だけじゃないはず。もう少しテンポを上げていけば、もっとポップな雰囲気になると思うのだけれど、どこか遠慮がち。ずっと7割5分程度のパワーで走り続けている印象。

11. Revelation 
 再びファルセット・バラード。ここではギターも多めに弾いてるけど、やっぱり寸止め感覚でちょっと物足りない。ラストのサビで大きなカタルシスを演出するため、大きく盛り上がるのがPrinceのバラードの特徴なのだけど、ここでは大きな起伏はなく、淡々と終わってしまう。もうちょっと捻ればドラマティックになったのに。

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12. Big City
 このアルバムの中では比較的アップ・テンポなファンク・ナンバー。複雑なリズムを使うのではなく、Tower of Towerのようにオーソドックスな集団プレイの集積によってグルーヴ感を編み出してゆく方向性で挑んでいる。
とは言ってもPrinceはソロ・アーティスト、しかも大抵の楽器は独りでこなせるマルチ・プレイヤーでもある。集団演奏によるグルーヴ感は生みだすことは困難なので、頭の中で鳴ってる音を忠実に再現するしかないのだけど、そのヴァーチャル感を違和感なく再現できるのは、やはり熟練の業に尽きる。




 何しろ今日のことなので、レーベルやエージェント側も混乱の極みの状態。今後の動向はもう少し落ち着いてからだろうけど、徐々にトリビュート盤やライブの企画も進行するんじゃないかと思われる。これはあくまで希望的観測だけど、以前から噂レベルだった『Purple Rain』のアニバーサリー企画、ワーナー時代のアーカイブのリマスター作業も、スムーズに行なわれるんじゃないかと思われる。
 管財人が誰なのか、この時点ではまだはっきりしないけど、それなりに彼の遺志を継ぐ者によって、きちんとした形での整理は行なわれるだろう。何しろうるさ型のファンが多いから。それに合わせて、膨大な未発表音源も少しずつお蔵出しされるかもしれない。それはもうちょっと先になるだろうけど。
 近年の彼は自伝の執筆に執心しており、かなり本格的に準備も整えていた、とのこと。
 何か言葉で残したいことがあったのか、それとも音楽では伝えることはもうない、と悟ったのか。
 それは誰にもわからない。



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ジャイアニズム最初のつまずき - Prince 『Graffiti Bridge』

folder 1990年リリース、Princeにとっては12枚目のスタジオ・アルバム。同名タイトルの主演映画3作目のサウンドトラックとして製作されたのだけど、一応ファンの間では好意的に迎えられた前作『Under the Cherry Moon』よりも、興行的にも作品レベル的にも大きく下回った。かつての盟友The Timeの復活を祝い、Prince自身によって彼らのための映画を企画、大ヒット映画『Purple Rain』の続編というフレコミで、ファミリー総動員で挑んだのだけど、日本では公開はおろかビデオ発売さえ叶わず。
 よって、Princeの映画事業への関与はこれは最後になった。多分、よっぽど懲りたんだろうな、この後はサントラひとつ製作してないし。ていうか俺も当然見てないし。

 で、メインである音楽の方だけど、セールス的にチョイコケした『Lovesexy』→開き直りが福に転じた前作『Batman』という流れから、今度はサウンドもビジュアルも俺様プロデュースでウハウハだ!と思ってたかどうかは不明。「この音楽を理解できないのはお前らが悪い」と平然とした顔で言ってしまう人なので、US6位・UK1位は彼にとっては消化不良的な実績である。大ヒット作『Batman』を抜きにして考えればそこそこなんだろうけど、今回の『Graffiti Bridge』がUS・UK共にゴールド・ディスク止まりだったのに対し、『Lovesexy』はUKでプラチナを獲得している。好き放題マニアックに作り込んでのプラチナ・ディスク、豪華ゲストを迎え入れて販促予算もかけたのにゴールド止まり…。こう書いてしまうと随分贅沢な悩みっぽく思えてしまうけど、周辺スタッフのアワワアワワ具合が、殿下の不機嫌具合にさらに拍車をかけたんじゃないかと思われる。

 前代未聞の衝撃的なジャケットを飾った『Lovesexy』は、曲間の切れ目をなくしたアルバム全1曲という型破りな仕様によって、ライトなファン層をドン引きさせてしまった。そういった反省もあって、ワーナーの要請によるサントラ『Batman』では思いっきりわかりやすく大衆向けに舵を切り、キャッチーで明快なポップ・チューンを多めに入れることによって、Prince顕在をアピールした。この路線を続ければよかったのだ。
 それなのにどこをどう間違えてしまったのか、George Clintonなど、明らかに自分より「濃い」キャラクターのゲストを入れ過ぎてしまった。おかげでメインであるはずのPrinceの存在感が霞んでしまい、サウンド・コンセプトのフォーカスがボケてしまっている。
 本格的なCD時代に対応して、収録時間も70分弱と大幅にスケール・アップしているのだけど、同等のボリュームであるはずの『1999』や『Sign “o” the Times』と比べて冗長な感じがしてしまうのは、多分俺だけではないはず。ゲストのトラックは映画オンリーに止め、アルバムは純粋にPrinceのトラックだけでまとめてしまった方が、聴きやすくソリッドな作品に仕上がったはずなのに、映画のコンセプトとの親和性など、余計なことを考えちゃったのが、このアルバムの弱点である。

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 ちなみにこのアルバムがリリースされた1990年後半のビルボード・アルバム・チャートを見てみると…、ひでぇなこれ。
 前半をMC Hammer、後半をVanilla Iceが独占している。この年はSinéad O'ConnorがPrince作”Nothing Compares 2 U”でUS1位を獲得、変態ファンクばかりフィーチャーされてきたPrinceのソング・ライティング能力に注目が集まった年でもある。そう、このくらいのことはやればできる人なのだ。Bangles “Manic Monday”だって書いてるんだし。
 その前年にはJanet Jacksonが『Rhythm Nation』で才能が開花、Jackson ファミリーの末娘というキャラクターからの脱皮を図っていた。もう少し経つと、NirvanaやPearl Jam、Nine Inch Nailsなどのオルタナ/グランジ系バンドがメジャー・デビューするようになる。いわゆるロキノン系アーティストの勢力が拡大しており、ダンス・シーンでも先鋭的なグラウンド・ビートが席巻し始めていた。
 なのに、セールス的には「こんな奴ら」にすら歯が立たなかったのだ。New Kids on the Blockやあのインチキ・ユニットMilli Vanilliがチャート・トップに立っていた時代である。このメンツだと、Phil Collinsさえひどくマジメなアーティストに見えてしまう。
 時代の徒花として刹那的な流行りモノが上位にランクインするのは、今も変わらず見られる傾向である。あるのだけれど、でもね。
 選りにも選ってMC Hammerに通算21週もトップを取らせるだなんて、なに考えてんだアメリカ人。

 よく言われていることだけど、Princeのサウンド傾向の節目と言えば、やはり『Lovesexy』以前と以後という形になる。この『Lovesexy』まではPrince無双、彼の革新的なサウンドが音楽シーン全体をリードしている空気感が確実にあった。もっと特定してしまうと『Purple Rain』から『Lovesexy』まで、ニュー・アルバムが出るたび注目が集まっていたのがこの時代である。言ってしまえば「モテキ」である。やる事なす事絶賛の嵐、すっかり舞い上がってジャイアン状態が助長されている。映画出演や製作についてはちょっとアレだったけど、当時はそんな躓きも殿下のオアソビ的扱いで、さしてシリアスな批判も湧かなかった。
 革新的なリズム・アプローチ、予測不能でありながらキッチリ計算し尽くされたステージ・パフォーマンス、滅多にインタビューを受けない事によって神秘のヴェールに包まれたプライベート。何から何まで思うがまま、リアル・ジャイアニズムが通用していたのがPrinceの80年代である。

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 あらゆる方面から天才と崇め奉られたPrinceだったけど、一から十まですべてを独力で創り上げたわけではない。良質な音楽は良質な体験のもとに育まれるものであって、Princeもまた例外ではない。
 このアルバムではPrinceのオファーによって実現したGeorge Clintonとのコラボが収録されているのだけど、「ファンクと言えばJB、JBと言えばP-Funk」といったように、大いなる過去の遺産へのリスペクトに基づいたものである。もちろんJB周辺人脈だけではなく、のちにコラボすることになるLarry GrahamやSlyなど、他のファンク・レジェンドからの影響も色濃いけど、彼の場合はそこにプラスしてSantanaやジミヘン、Joni Mitchellなどのロック/シンガー・ソングライター的要素も自身のオリジナリティにミックスしたため、他のソウル/ファンク系アーティストとの差別化を図れたんじゃないかと思う。
 彼の先鋭性が通用した80年代中盤というのは、他ジャンルとのミクスチュアが充分浸透していなかったせいもあって、ひどく目新しく映っていた。ブラック・ロックと称されたFishboneも目立った存在ではなかったし、レッチリも当時はアングラ・シーンでの活動だった。
 その風向きが変わり始めたのが80年代後半くらいから、ソウル・シーンにおいての絶対王者Princeとは別のラインで台頭し始めたのが、ヒップホップ/ラップ・ムーヴメントのメジャー展開。
 「楽器が弾けない/歌えないのなら、レコードからいいフレーズを抜き出して繋げりゃいいじゃん」というコペルニクス的転回からスタートしたヒップホップは、レコード・スクラッチや低予算ゆえのチープ機材使用など、さらなる発想の転換によって80年代に大きく飛躍していった。
 メジャーで最初に大きく売れ出したのがRun D.M.C. “Walk This Way”なのだけど、当時ロートル・バンドのレッテルを貼られていたAerosmithをフィーチャーして作られたトラックは衝撃的で、MCバトルの原型とも言えるPVもお茶の間では案外好意的に迎えられた。ただ、30年ほど経った今になって聴いてみると、Aerosmithのオリジナルが秀逸だったのであって、Run D.M.C.のライムやトラック処理などは稚拙なものである。
 彼らだけじゃなく、当時のヒップホップのアルバムと言えば、JB周辺のシングルのフレーズを無造作につなぐだけ、そのつなぎとなるライムもまだきちんと確立されておらず、クオリティとしてはお粗末な状況だった。Beastie Boysだって最初は”Smoke on the Water”のリフに合わせてウェーイ的にガナるだけだったし。
 それがうまく回り始めたのがDe La Soulが出てきた辺りなんじゃないか、というのはいまだヒップホップに興味のない俺の私見。それまではむき出しの素材を無造作にくっつけていただけだったのが、バトルと言うよりリア充の会話っぽい脱力系のライムや、Steely Danまでネタに使ってしまう卓越したセンスによって、一般のロック・リスナーの関心も惹きつけてしまったのは、彼らの功績なんじゃないかと思う。彼ら以前までは、ロックのリスナーはロックしか聴かず、その逆もまた然りだったのだけど、彼らやA Tribe Called Questの登場によってボーダーレス化が一気に進んだ。

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 他ジャンル・アーティストとの交流やコラボが活性化することによって、ミクスチュア・ミュージックの裾野は大きく広がっていった。Rage Against the Machine が登場するのはもうちょっと後だけど、Public Enemyの先駆性はその下地を整えつつあった。かつてPrinceが行なったミクスチュアはエッセンス程度のささやかなものだったけど、彼らはもっと大胆に、しかも彼が切り開いてきたニュー・ファンク・スタイルを踏み台として、未開の領域を次々と邁進していった。
 かつてはPrinceも、JBの発見した未開の地を疾走する1人だった。歴史は繰り返す。

 そういった行程を辿ってきたこともあって、自分の音楽がオールド・スタイルになりつつあることは、Prince自身理解はしてたんじゃないかと思われる。いくら俺様とはいえ、世間の趨勢には勝てないのだ。ただ、理解はしているけど即納得できるかといえば、それはまた別問題。
 ワーナーとの契約上、これまでの路線から逸脱し過ぎたアルバムを作るわけにもいかない。『Black Album』は自分のジャッジで販売中止にしたけど、あの頃とは状況が違っている。今のダンス・シーンに寄り添い過ぎたアルバムを作ってもワーナーに拒否されそうだし、第一それは自分のプライドが許さない。
 といった経緯があったのかどうかは想像でしかないけど、こう考えると、のちの一連の改名騒動にも説明がつく。別人格・別プロジェクトで違う音楽をやってみたいと思うのは、真摯なアーティストの抑えきれない表現欲求の発露である。Princeのブランドを維持しながら、現代のコンテンポラリー・サウンドにおもねってゆくのは限界がある。バランス次第ではチャートに媚びたように映り、商品価値は大幅に目減りする。安易にブランドを安売りするわけにはいかないのだ。
 世界を股にかけてきたジャイアンに、迷いが見えてきた頃である。


Graffiti Bridge
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1. Can't Stop This Feeling I Got
 軽快なポップ・ロック。難しいことを考えなければ、普通にノリも良くて好きなタイプ。4分ちょっとの間にコロコロ曲調も変わり、あれこれいろいろ詰め込んでいるのに、コンパクトにわかりやすくまとめられている。Princeイコール独創性と捉えるのは短絡的。こういったのもアリ。

2. New Power Generation
 次作から使用されるバンド名義を冠したポップ調のファンク・チューン。呪術的なサビのコーラス、映画のワン・シーンから流用されたエフェクトも臨場感がある。中毒性のあるリフレイン。
 第2弾シングル・カットとして、US64位UK26位という成績。もっと上に行ってほしかったな。

3. Release It
 ここでのアーティスト・クレジットはThe Time。ま、バック・トラックはほとんどPrinceなんだけど。なぜかサックスにCandy Dulferが参加。確かにいつものホーン・セクションと比べるとファンキー成分がちょっと薄め。なんで彼女だったの?
 Morris Dayのラップのうまい下手はともかくとして、エッセンス的にラップを導入するのではなく、ここまでガッツリ取り組んだのは、多分このトラックが初。まずはMorrisで試してみたんじゃないかと思われる。

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4. The Question Of U
 『Parade』期のサウンドと直結したスロー・ナンバー。得意のSantana風ギター・ソロも健在。深いルーム・エコーを使ったハンド・クラッピングは、わかっちゃいるのにいつもドキッとさせられる。やっぱこれでいいんだよ、この人は。変にラップに色目を使うより、手癖の多いギターを弾いてる方がしっくり来る。

5. Elephants & Flowers
 象と花。歌詞を読んでないのでわからないけど、多分何かのメタファー。曲調的に1.と近いけど、コンセプト的に繋がってるのかな?
 相変わらずギター・プレイはかっこいい。そこに合わせたのか、ヴォーカルもワイルドになっている。

6. Round & Round
 若干15歳の天才ヴォーカリストTevin Campbellとのデュエット・ナンバー。ていうかここはほぼTevinが主役、Princeはコーラス程度の働きしかしていない。よっぽどTevinを売り出したかったのか、ほとんどドラム・マシーンのみのシンプルなバッキングで、彼の歌を活かした作りになっている。
 Princeのファルセット仕様人格Camille的なものを狙ったのかもしれないけど、声質的にPrinceのメロディとの親和性は薄い印象。Soul II Soul的なサウンドを志向したのかもしれないけど、合わねぇなやっぱ。

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7. We Can Funk
 P-Funkの総帥であり、ファンクの御大George Clintonとのデュエット・ナンバー。単なるアッパー系ファンクが多かったPrinceだけど、ここでの彼は「タメ」のファンク。こういったサウンドのとっ散らかりようこそがP-Funkなのだな、というのが理解できる。当時の御大はP-Funk休止中で本調子じゃなかったのだけど、ねっとりまとわりつくオーラは健在。無言の圧力に押されたPrince、ここでは持てる手の内をすべてさらしている。

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8. Joy In Repetition
 メドレー形式に続くロッカバラード。”When Doves Cry”と似た曲調なので、ビギナーも馴染めるはず。いや無理かな?俺的には全然アリだけど。
 デカダン的な終盤のギター・ソロはドラマティック。相変わらずいつもの手癖なギターだけど、こういったのは定番が一番。しかしPrinceのギター・フレーズって、先読みしやすいよね。リズムは神出鬼没なのに。

9. Love Machine
 メイン・クレジットはThe Timeだけど、ほとんどのリードはElisa Fiorilloという女性シンガー。今までずっとCamillと思っていたのだけど、ほんとの女性が歌っていることに驚いてしまったという、なんとも複雑ないきさつ。
 まぁ正直取るに足らないナンバーなのだけど、多分当時のお気に入りだったのか、それともワーナーのねじ込みだったのか。

10. Tick, Tick, Bang
 『Parade』のアウトテイクのレストア版と思われる、ワンコードで押し通すシンプルなファンク・チューン。変に凝ったサウンドより、こういったごまかしの効かない構造は、古株のファンにほど人気が高い。3分間という短さに詰め込まれたファンクネスは強烈な個性の塊。

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11. Shake!
 再びThe Time。なんていうかファニーな、ポップなだけの曲。でもそれがいい。Prince本人がやっちゃうと、もっと攻撃的などファンク・ナンバーになっちゃうところを、Morrisの程よいチャラさが軽くしている。続けてファンク・ナンバーになるとクドくなってしまうのを避けたのかもしれないな。

12. Thieves In The Temple
 先行シングルとしてリリースされた、ソリッドなロック・ナンバー。US6位UK7位は順当なところ。実際、日本でもFMでかかりまくってた。この時期のPrince、セールス的にはピークを過ぎていたけど、FMリスナーや輸入盤専門店ユーザーの間ではまだ絶大な人気を誇っていた。
 最初からシングル向けとして考えていたのか、非常にコンテンポラリーな構造の曲なのだけど、いま聴くと大衆性は薄い。サビも弱いのだけど、Princeのへヴィー・リスナーからすればベタ過ぎなくて人気は高い。

13. The Latest Fashion
 PrinceプラスThe Time名義での疾走感あふれるファンク・ロック・チューン。わかりやすいリズム・アレンジがダンス・チューンとしても機能しており、ノリも良い。『Parade』『Lovesexy』のコンテンポラリー・アレンジといった感じで、この路線でアルバム1枚作ってくれれば、ダンス・シーンへのニーズも満たしてくれたんじゃないか、とは俺の勝手な希望。

14. Melody Cool
 Mavis Staplesヴォーカルによるクールなファンク・バラード。この時点ですでにレジェンド枠だったため、押しの強さは絶品。ていうか存在感がありまくりなので、Princeがすっかり霞んじゃってる。バック・トラックのギミックっぽいエフェクトも、この音圧の前ではすっかりかき消されている。
 アシッド・ジャズ的なムードが漂っているため、俺的にはベスト・トラックのひとつ。

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15. Still Would Stand All Time
 深い闇夜を想起させる静かなバラード・ナンバー。地味だけどきれいなメロディ。こういったナンバーをアルバムに必ず1曲は入れるのが、この人の特色。中盤からのゴスペル・コーラスが神々しさを添えている。

16. Graffiti Bridge
 そのゴスペルに呼応されたように、ドラマティックに盛り上がりを見せるテーマ曲。Mavis、Tevinもコーラスに参加。大団円といった雰囲気は決して嫌いじゃない。全然Princeっぽくないといった意見もあるけど、こういった面もあるということは認めてあげてもいいと思う。ゴスペル・マナーに則った曲である反面、サイド・ヴォーカル2人の力量に頼りすぎる気もするけど。

17. New Power Generation (Pt II)
 2.のバック・トラックを流用したリミックス的エピローグ。ここでの主役はラッパーT.C. Ellis。まぁこんなもんじゃね?的なプレイ。正直ラップは俺、優劣はわからない。トラックの力が強すぎる気がして存在感が薄いような気もするのだけど、これはPrinceのアルバムなので、それで良いのかもしれない。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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