好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Prince

肩の力を抜いても傑作。それが殿下クオリティ。 - Prince 『20ten』

folder 殿下35枚目のスタジオ・アルバム。正規にショップ店頭に並んだわけではなく、当初はEU諸国の新聞のオマケとして、実質タダで配布された。なので、大多数の国ではリリースされなかったため、チャートも売り上げもない。
 これ以前にも、フリー・ペーパーのおまけにしたり、はたまたライブ会場で無料配布したりの前科があったため、殿下ファンからすれば、「あーまた始まった」程度の反応だったけど、マスメディアは面白がって取り上げるよな。それがまた、ライブの宣伝になるわけで、結局殿下の思うツボ。
 ちょっと遅れて日本でもタワレコで扱われていたけど、ハーフ・オフィシャルみたいな感じなのかね、いつの間にか、店頭からも消えていた記憶がある。
 何もそんなイレギュラーな手段じゃなくて、普通にレコード会社の流通ルートを使う方が、ずっと効率はいい。さすがに制作実費くらいは負担してもらってるだろうけど、もろもろ経費を計上すると、完全に赤字のはず。
 ここに至るまで殿下、契約してきた歴々のレコード会社とは多かれ少なかれ、確実に揉めてきた経緯がある。長年所属してきたワーナー以降、どのメジャーともワンナイト・ラブの関係で、2枚以上の契約はない。
 長く関係を続けるほど、互いに不満も出て揉めるのは明白なので、無理に関係修復するより、さっぱりビジネスライクに割り切った方が、無駄なエネルギーを使わなくて済む。
 何の話だ、こりゃ。

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 トップ・ギアのターボ全開で80年代をぶっちぎり、その余力で90年代を乗り切った殿下、21世紀に入ってからは、グッと創作ペースを落としている。別に才能が枯渇したわけではなく、メジャーで活動すること以前に、ツアー → レコーディング → ツアーのルーティンに嫌気がさしていたのだった。
 そんな偏屈さに拍車がかかり、開設当初は更新もマメだったNPGの配信サービスも、いつの間にやらフェードアウト、早いうちからオファーがあったはずのiTunesも、鼻で笑って相手にしない始末。殿下のことだから、圧縮音源のクオリティに不満があるとかではなく、単に自分以外の他者に利益をかすめ取られる、それがガマンならなかったのだろう。
 ニール・ヤングのように、音声フォーマットから自前のサーバー設置まで、自身で一元管理できるシステムを持ってたらアリだったのかもしれないけど、まぁまずないな。そんな時間あったら、一曲でも多くレコーディングしてた方がいい、って考える人だし。

 ただ、いくらひねくれて頑固になったとしても(これは昔からか)、アーティストとしてリタイアしていたわけではない。90年代後半以降の殿下は、活動のメインをレコーディングからライブへ軸足を移している。
 それ以前も、新作リリース → 大規模ツアーという流れはあったけど、21世紀に入ってからは、そのルーティンに変化が生じている。新作なしで短期ツアー → ちょっと休んでまたツアー → またツアー、といった具合。リリース・ペースはそこまで長くはないけど、毎回変則的な流通経路、しかもサプライズなタイミングでのアルバム発表だったため、周辺スタッフもファンも翻弄されていたのが、末期の殿下だった。
 秒単位で構築された完璧なフォーメーション・ダンス、バンド・アンサンブルの応酬だったソウル・ショーは、殿下によるJBリスペクトの忠実な再現といってよい。軍隊並みに統率されたバンドとダンサー、そして殿下とのコラボレーションは、多くのアーティストのステージ演出の模範となった。
 ただ、さすがに四十を過ぎると体力的な問題もあってか、後年はダンス・パフォーマンスもほどほど、ギター・プレイが中心となった。最期のツアーなんて、ピアノ弾き語りだもの。しなやかだった肉体も、徐々に体にガタが生じていたのだろう。

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 「常にイノベイティブでなければならない」「世間をアッと言わせるサウンドを提示しなければならない」という強迫観念に追われていたのが、殿下が駆け抜けた20世紀だった。時代に愛された幸福な80年代、殿下オリジナルのリズム・アプローチやメロディは、多くのアーティストに影響を及ぼし、世界中に多くの信奉者を生み出した。
 ただ、時代が常に殿下の後塵を拝しているはずがない。ぶっちぎりのトップ・ランナーも、どこかの潮目でひと息ついてしまう。足踏みしている間に、新しい世代が彼の横を駆け抜けてゆく。
 ファンク・ミュージックでは追随を許さなかった殿下も、ラップやハウス、EDMには相当手を焼いた。新たなジャンルの進化スピードは想像以上に早く、殿下が手がけたモノはどれも古臭く、付け焼き刃感が否めなかった。
 いや、二流のアーティストと比べると、出来は段違いだよ。でも殿下が手掛けたモノだから、どうしてもハードルは上がっちゃうわけで。

 常に新機軸を求められる音源リリース主体の活動は、プレッシャーとの戦いである。いくら殿下とはいえ、そのストレスはハンパなかったはずだ。ギリギリまで自分を追い詰める作業の反動は、前述の偏執狂的なライブ・パフォーマンスや、夜のベッド・パフォーマンスとして昇華していった。
 以前より作り込みをユルくしたライブを活動の中心に据えることにとって、ストレスの一部は軽減された。そりゃスタジオにこもって音源制作するより、好き勝手に歌って好き勝手にギター弾きまくる方が、そりゃ楽しいに決まってる。
 今さら世間を震撼させるようなサウンドを作る気もないし、多分そこまで求められてもいないけど、これまでのファンに対して、ちょっとくらいサービスしたっていい。たまたま気分がいいので、ニュー・アルバムを出すのも悪くない。
 新たにメジャーと契約するのも面倒だし、そんなに儲ける必要もないから、もういっそタダで配っちまえ。ホントなら、適当にCDどっかに積み上げて、勝手に持ってってもらえばいいんだけど、場所も取るから現実的じゃないし。
 で、あれこれ検討した結果、最も配布効率が良かったのが、新聞のルートだった、といったいきさつ。

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 だいたいそんな成り行きで作られたアルバムなので、まとまったコンセプトはない。リリース時にもささやかれていたように、過去のアウトテイクの再構成、または初期の楽曲をアップデートしたような、70〜80年代テイストが漂う楽曲が多い。
 なので、決して前向きなモノではないけど、そこを突っ込むのは、お門違い。殿下的には、あくまでファン・サービスのようなもの、イノベイティブを追求したものではない。言ってしまえば、ノベルティ・グッズのようなものだし。
 往年のどファンク成分は少なく、ほどほどのグルーヴ感、ソフトなファンク・サウンドが展開されている。メジャー・リリースしても違和感ないくらい、そんなコンテンポラリー殿下が、コンセプトと言えばコンセプトなのかね。
 番外編的な77曲目のトラックだけは、向こう見ずな若き日の殿下の面影が垣間見えるけど、そこでも無鉄砲さはマイルドに制御されている。昔なら、「ここからもういっちょ」といったところで寸止めされてしまう、そんな感じ。
 考えてみれば、いくら無料のオマケとはいえ、新聞本体の評判を損なうアルバムに許可が下りるはずもない。例えば『N·E·W·S』のような、どっぷりインストのジャズ・ファンクだったら、さすがのデイリー・ミラーも拒否するだろうし。


20Ten
20Ten
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Prince
Daily Mirror (2010-08-03)
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1. Compassion
 2006年にレコーディングされた、80年代初期を彷彿させるポップ・ファンク。女性コーラスとの掛け合いが60年代ガールズ・グループのリバイバルっぽく、単なるファンクだけではなく、あらゆるジャンルをバックボーンとした殿下の多彩さが光る。
 終盤でスパイスのように挿入されるギターのオブリガードが心地よい。この辺のほどほど感、当時、メジャーで出さなかったのはやっぱり当てつけだな。

2. Beginning Endlessly
 ほぼメドレーのように続く、テンポを落としたロッカバラード風ファンク。ベタっとしたレトロな音色のシンセを基調に、案外リズムは複雑怪奇、フレーズごとに趣向を凝らした作りになっている。それでいて、ヴォーカル・スタイルは抑揚も少なく、至極冷静。そのコントラストが『Black Album』っぽい。

3. Future Soul Song
 ここに来て、甘くビターなテイストの極上バラード。構成としては完璧だな、これ。シングルになりそうなキャッチ―な曲はないけど、すべての曲が『20ten』というひとつのアルバムのパーツとして、然るべき個所に収まっている。コンセプトも何もないけど、この一体感はさすが殿下。
 昔だったら間奏で奇声を発したり、どんなにスローでもファンクネスの痕跡を残していたはずなのだけど、ここでは女性コーラスとの熟成したコンビネーションを披露している。殿下のギター、こういったベタなバラードでは最も映える。もともとがロマンチストだしね。

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4. Sticky Like Glue
 そう言ってたら、ここでどファンクの登場。無駄をそぎ落とし、リズム以外のバッキングをほぼ取り払った、骨格だけのディープ・ファンク。ファルセットで通していた初期を彷彿させる、唯一無二の世界観は紫の迷宮の中で完結している。終盤に差し掛かるにつれ、ファルセットが地声に戻り、テンションも徐々に上がってゆくところは、殿下の真骨頂。これだけで丼3杯は余裕でイケる。
 でもね、中盤に一瞬だけ披露されるラップ・パート、これだけがちょっと余計かな。無理して時流に合わせることないのに。

5. Act of God
 ブルース・テイストの入った、疾走感あふれるロッカバラード。リズムこそファンクだけど、ソウルっぽいコール&レスポンスも入っているため、ビギナーにとってはマイルドな殿下サウンド。どれだけマイルドにしたって、声がアレだから、殿下のパーソナリティは失われていない。ロックを通過してきた耳だと、案外心地よいサウンド。

6. Lavaux
 80年代っぽいシンセの使い方、シンプルなリズム・パターンが『1999』頃のアウトテイクっぽい。ちょっと神経質っぽい抑えたヴォーカルも、往年のパターン。この時期のファンが最も多いはずだから、『20ten』自体の好評にもつながったんじゃないかと思われる。安心して聴けるんだよな、ホント。下手にトレンド追わなくたって、これだけのことができるんだから。

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7. Walk in Sand
 ブラコンっぽいオープニング、ムーディーなファルセット。殿下お気に入りのパターンである。一聴してシンプルなアンサンブルだけど、ピアノやらホーンやらエフェクト的な音色がさりげなくぶち込まれており、一筋縄では行かないようになっている。
 一聴してシンプル、でも作りは複雑。聴き流しちゃうとわかりづらくもある。

8. Sea of Everything
 多分、殿下的にはレコードで言えば、5.あたりからB面突入、ここまでずっとメドレー形式でブランクを入れず、曲がつながっている。
 フィリー・ソウルっぽいバラードは、なんと殿下にしては珍しく正攻法、対して仕掛けもない。なので、7.と違ってスルッと聴き流してしまう。こういったホントにシンプルなのも、たまにはいい。昔だったら即ボツだったんだろうけど。

9. Everybody Loves Me
 本編ラストはちょっと能天気なエレポップ。ポップが主流で、ファンクっぽさはほぼない。これを聴くといつも、Cars「You Might Think」を連想してしまう。要はそんな曲調。
 
10. Laydown
 「The Artist Formerly Known as Prince」を名乗っていた時期、時流に乗らなきゃ、とやっつけ仕事のヒップホップをやってた頃のサウンドに近い、ハードなサウンド。ここまでの流れをひっくり返すような、ネガティブでダークな殿下の側面があらわれている。リズムが単調なのと、3分程度でまとめられているため、後味はそれほどしつこくない。




Ultimate
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Warner Bros. (2010-04-07)
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プリンス、逝く(ほんとに逝くとは言ってない)。 - Prince 『Come』

folder 1994年リリース、殿下15枚目のオリジナル・アルバム。このアルバムのリリース当時、殿下とワーナーとの関係は、もはや修復不可能なほど悪化していた。契約消化のため、しぶしぶマスターテープを提出はしたものの、できればワーナーには一銭も儲けさせたくなかった殿下、プロモーションには一切協力しなかった。
 なので、US15位UK1位というチャート・アクションは、当然といえば当然。アーティスト側がこれじゃ、現場営業も力入らないよな。
 レジに持って行くにはめちゃめちゃ気恥ずかしい、あの『Lovesexy』以来、アメリカでは久々のトップ10陥落となった。「でもイギリスじゃ、まだトップ維持してんじゃないの?」という見方もできるけど、英米とでは、マーケットの規模が全然違う。
 アメリカのゴールド・ディスク基準は50万枚以上だけど、日本のほぼ半分程度のシェアしかないイギリスでは、10万枚でゴールドがもらえる。世界規模で活躍するアーティストとしては、なんともショボい売り上げである。
 ちなみに、イギリスのほぼ倍の市場の日本に置き換えてみると、当時、20万枚のイニシャル・オーダーだったのが、電気グルーブだった。「殿下」と「電気」か。並べてみると語呂はいいよな。ただそれだけだけど。

 殿下としては、ワーナーに利するような行為は極力避けたかったのだけど、こちらから契約破棄を申し出ても、膨大な違約金で自分の首を絞めることはわかっていたはずだった。はずだったのだけど、それでも駄々をこねるところなんて、さすが常識では計り知れないお方である。まぁ単なる子どものワガママみたいなものだけど。
 苦肉の策というか単なる自己満足というか、表ジャケットのアーティスト・クレジット「Prince」の下に、「1958ー1993」と、意味深な数字が記されている。「これを最後に、Princeとしての活動は終わりにする」という意思表示なのだろう。時代が違えば、厨二病って呼ばれてたんだろうな。
 そんな殿下のこじらせ振りにうまく乗っかったのが、日本のワーナー。なにしろ当時のキャッチコピーが「プリンス、逝く」。ロキノンでこのアルバムの広告を見た俺、「あぁこれで殿下も引退しちゃうんだな」とバカ正直にセンチになってしまったことを覚えている。ネット普及以前、情報に飢えていた洋楽ファンは、みな純粋だったのだ。
 その後の天衣無縫・やりたい放題の殿下の傍若無人っぷりを思えば、その頃まともに一喜一憂していた自分が恥ずかしくもある。バカバカ、25年前の俺のバカッ。

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 そんな音楽以外のトラブルによるストレスも手伝ってか、従来のワーカホリック振りに拍車がかかり、24時間フル稼働していたのが、当時の殿下である。
 例の紫の御殿では、夜な夜なレコーディングとメイク・ラブが繰り返されていた。ツアーに出たら出たで、緻密に構成されたライブとリハーサル、興が乗ればアフターショウを行なっていた。客席に目ぼしいグルーピーを見つけると、声をかけて夜のアフターショウに勤しんで…。なんだイチャイチャしてばっかじゃねぇか。
 無尽蔵に放出されるアドレナリンを発散する場所がSEXだったのか創作活動だったのか。多分、両方だろうな。この時期に残された膨大な未発表音源が、それを証明している。

 ペイズリー・パークはもちろんのこと、ツアー先でもひとたびインスピレーションが湧けば、即座にスタジオ機材やスタッフを揃えるのが、殿下スタッフの役割のひとつだった。とにかくアイディアを思いついたら、その場で吐き出さないと気が済まない質なので、周辺スタッフは急なオファーに即座に応えられるよう、気が休まらなかったんじゃないかと思われる。それならいっそ、適当にメイク・ラブしてくれてた方が、その間は休めるわけだし。
 ツアー以外はほぼスタジオに篭りきりだった90年代前半の殿下、それはデジタル・レコーディング技術の過渡期に当たる。
 当時のシンセ機材はインターフェースが充分でなく、初心者が手軽に取り扱えるものではなかった。ちょっとしたサウンド合成やシーケンス・リズムでも、多くはマニピュレーターの助力を必要とした。
 機材セッティングだけでも数時間を要するため、思いついたら即録音というわけにもいかない。もし時間が許したとしても、殿下のコミュ力でマニピュレーターにサウンドのイメージを伝えることなんて、できるはずがない。
 21世紀に入ってからは、パソコン上で動かせるソフト・シンセのクオリティが上がり、スタジオ・レコーディングと遜色なくなった。ただ、そんな技術革新と反比例するかのように、殿下の創作ペースはとっくの昔にピークを過ぎていた。
 21世紀を過ぎてから、オフィシャルのアルバム・リリースもそうだけど、流出音源もガクッと減ったのは、殿下の関心がレコーディングよりライブ・パフォーマンスの方に傾いたことも、ひとつの要因である。レコーディング作品だって、タダで配ったり新聞のおまけにつけたりで、売る気なさそうだったし。
 もし殿下が20年くらい遅く生まれていたら、DTM機材を使いまくって、延々終わりの見えないレコーディグを続けていたかも…。いやないな、チャチャっと自分で演奏した方が早いだろうし。

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 最近、殿下の回顧エピソードというテーマでインタビューを受けたSheila Eが、いろいろとぶっちゃけている。
 Michael Jacksonがコラボを熱望して、「BAD」のデモテープを殿下に送った話、真偽はともかく、これは結構知られている。デュエットに消極的だった殿下が首を縦に振らず、幻の企画に終わった、とされていたのだけど、Sheila 曰く、その続きがある。
 Michaelヴァージョンを一聴した殿下、普通なら倉庫にポイといったところを、何か刺激を受けたのか、突如レコーディングを開始する。「コラボはしない」と決めたにもかかわらず、独りセッションは進行する。
 できあがったのは、「BAD」。しかもリ・レコーディングされた殿下ヴァージョン。その新たなテイクをSheila に聴かせてご満悦の殿下。聴かせるだけ聴かせると、それで満足しちゃったのか、その場でテープを消去してしまった、とのこと。なんちゅうエピソードだ。
 もしこれがほんとなら、俺世代の音楽ファンにとって、驚愕のエピソードである。マスターなりコピーでも発掘されたら、そりゃあもう大騒ぎ。
 Sinead O'Connor に提供して世界的大ヒットとなった「Nothing Compares 2 U」も、長らく殿下のスタジオ・ヴァージョンは存在しないとされていたけど、今年に入ってから発掘され、発表されている。死後、残された未発表テイクの山は、まだ収拾がつかない状態が続いているため、その「BAD」も倉庫のどこかでひっそり眠っているのかもしれない。
 もしかして、もうサルベージされているのかな。権利関係が複雑そうだから、表に出すのが難しいだけで。

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 で、『Come』。
 もともとはシングル・アルバムではなく、『Dawn』という3枚組アルバムとしてリリースする構想だったらしい。さっさと契約満了したいがため、リリース枚数を稼ぐ殿下の思惑とは裏腹に、できるだけ小出しにしたい、ていうかセールス的に不利な3枚組なんてもってのほか、というワーナーの主張により、計画は却下される。そりゃ当たり前だ。
 どう交渉しても、年1枚のリリース・ペースを崩すことはできず、結局1枚だけを抜き出して『Come』としてリリースする。ダークなテイストの楽曲を『Come』に振り分け、それとは対照的な、アッパー・リズムなダンス仕様の楽曲を『Gold Experience』として再構成し、プライベート・レーベルのNPGからリリース、というところで話は落ち着く。粗さの残るもう1枚分は、のちに『Chaos and Disorder』として、ワーナーが面倒を見る、といったおまけもついて。
 オフィシャルでリリースされた、3枚組以上の殿下のアルバムといえば、『Crystal Ball』と『Emancipation』だけど、考えてみればどちらも冗長さが先立って、一気に聴き通すことは少ない。お腹一杯の内容であることは重々承知ではあるけれど、かなりの体力を要するし、胸やけ必至は避けられない。なので、このように分割してシングル・アルバムでリリースしたのは、ある意味正解だったかもしれない。
 ここら辺をもうちょっと突っ込んで考えると―、例えば確信犯で3枚組『Damn』の企画を出したとする。ワーナーに却下されることは、承知の上で。案の定、渋るワーナー、シングル・アルバムでしか許可を出さない。
 「あぁそりゃそうだよね」と、拍子抜けするほど素直に応じる殿下。ちょっと安心するワーナー。でも、そこから先が殿下の本当の目的である。
 「じゃあ『Come』だけでいいけど、ほかの残りはいらないね?」
 その辺から、雲行きがちょっと怪しくなる。さんざん振り回されてきただけあって、ワーナーも何となく察してくる。
 「残り2枚分は、別名義で他のレコード会社と契約するから」
 当然、ワーナーは契約を楯に阻止しようとする。想定通りの流れにほくそ笑みながら、さらにごねる殿下。「どうせあとは使わないんだから、どうしようと勝手だろ?」
 お互い腹の内を探りながら、丁々発止が続く。どこかで妥協点を見出さなければならない。
 最終的な落としどころとして、『Come』はワーナーから、そして『Gold Experience』をNPGからリリース、という形にまとまる。下手にメジャーへ売り込まれるより、所詮はインディー、殿下の個人レーベルであるNPGの方が、ワーナーのリスクは少ない。その辺もワーナー側としては、ある程度織り込み済みだったんじゃないかと。
 -そんな化かし合いがあったんじゃないのかな、とひとりごちる、もうすぐ49の秋の夜長。


Come [Explicit]
Come [Explicit]
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Rhino/Warner Bros. (2007-07-30)
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1. Come
 トータル11分に及ぶファンク・オデッセイ。優雅でありながら猥雑な、それでいて高貴な質感を醸し出したスロウ・ファンクは、悠々たる大河のような存在感。冒頭に波のSEが入るのは、川の流れか、それとも胎内回帰をイメージしているのか。
 ほどよく抑制されたこの曲をオープニングに持ってくること自体、ただならぬ雰囲気を演出している。

2. Space
 USR&Bチャートで最高71位、2枚目のシングル・カット。ちょっとアンビエントっぽい緩いビートと、宇宙飛行士の通信記録SEが、独特の浮遊感となっている。ジャジー・ラップっぽいクールなヴォーカル・スタイルと、打ち込みのポップ・ファンク・サウンドとのコントラストは、やはり殿下独特のアイディア。地味だけど、心地よく聴いていられるので、くどくない殿下を求めるビギナーだったら、うまくはまるかもしれない。
 でも考えてみりゃ、マイルドな殿下を求めるファンなんて、いるのだろうか?いないよな、きっと。

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3. Pheromone
 ラップというより、トーキング・スタイルで始まる、パーカッシブな質感のリズムが心地よいファンク。どのトラックもそうだけど、『Come』に収録された曲のほとんどは、通常の殿下のBPMより80%くらいで鳴らされている。ユーロビート~ジャングルに慣れた耳ではゆったりし過ぎるかもしれないけど、いつものダンスフロア仕様の早いテンポより、細やかなアレンジの妙が浮き上がってくる。

4. Loose!
 キンキーなシャウトから始まるハード・ファンク。ここで一気にBPMが上がる。初めてギター・ソロが登場。そうだ、殿下と言えばやっぱりギター、それをすっかり忘れてた。ハード・テクノなシンセ、絶叫系のシャウトなど、てんこ盛り。ディープな殿下を堪能したいのなら、このアルバムではこの曲だな。

5. Papa
 静かなモノローグが延々続く、奇妙な味わいのスロウ・ファンク。時にアクセントのようにシャウトが入るので、しっかりメリハリはついている。ほぼワンコードで終わるかと思ったら、最後はスペーシーなギターをフィーチャーしたロック・チューンに変化。

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6. Race
 『Parade』のアウトテイクにヒップホップ風味のエフェクトを足したような、基本は骨格だけのワンコード・ファンク。前から言われているように、殿下のラップはあんまりラップっぽく聴こえないので、あくまでファンクの延長線上で捉えた方がよい。コンパクトにまとめてるけど、こんなのは殿下、いくらでもできる。

7. Dark
 70年代の泥臭いフィリー・ソウルを連想させる、考えてみれば殿下にしてみれば珍しいスタイル。ここまでベタなホーン・セクションを入れるのも、あんまり聴いたことがない。オールド・スタイルのエレピもゴスペル風コーラスも、案外ハマっている。もともとメロウな感性の人なので、こういうのだってできるのだ。

8. Solo
 洞窟のような深いリヴァーブがかけられた、幽玄さの漂う無常の世界。滅びの美学を体現したようなデカダンなムードは、自己陶酔の極致。聴いてると怖く感じることもあるけど、避けては通れない。殿下にとって、これまでのキャリアの幕引きを控えているのだ。

9. Letitgo
 8.で終わってたら陰鬱としたエンディングだったけど、ここでキャッチ―なサビを持つこの曲があったから、アルバムとしてはうまく閉めることができる。USR&Bチャートでは10位を記録しており、決してバカ売れするほどではないけど、きちんと先行シングルの役割を果たしている。



10. Orgasm
 9.で終わっておけばよかったものの、まとまりが良過ぎと感じたんだろうか、ていうか出したくて出したスタイルじゃないし。せっかくなら全部ぶち壊してしまえ、と言わんばかりにこっぱずかしいラスト。カーステで聴けねぇじゃねぇかこんなの。



Piano & A Microphone 1983
Piano & A Microphone 1983
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Warner Bros. (2018-09-21)
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4Ever
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Warner Bros. (2016-11-25)
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殿下、社会人デビュー。 - Prince 『1999』

folder 1982年リリース、オリジナルとしては5枚目、そしてアナログ2枚組の大作。とは言っても、ほとんどの曲が5分以上のロングサイズのため、収録曲は全11曲、曲数だけ見ればシングル・アルバムと大差ない。なので、のちの『Sign of the Times』と比べればカワイイものだし、そのまたあとに『Crystal Ball』や『Emancipation』が控えてることを思えば、怖いものなんて何もない。
 LPと比べて収録時間に余裕があるはずなのに、なぜだか初期の CDでは「D.M.S.R.」だけカットするという、なんだか意味不明の編集が行なわれていたけど、今はオリジナルに準じた形で収録されている。「何でこれだけ削ったんだ」「アーティストの意向を無視したワーナーの横暴だ」など、いまだにファンの間では議論されている。まぁ、思いっきり「SEX!」って連呼してる曲なので、ラジオではかけづらい、っていうのが、ひとつの結論なのかな。

 重くてかさばるし、価格に二の足を踏む2枚組であるにもかかわらず、USでは最高9位まで上昇、なぜかニュージーランドでも6位にチャートインしている。ただ、目立った成績はこれくらいで、他の国だと、それほどの存在感はない。
 『Purple Rain』以降のセールス・アクションと比べると、地味な売り上げである。でも、当時の殿下の知名度はまだ全国区ではなかったため、これでも十分営業予測は超えていたと思われる。たまに総合チャート100位以内に入ることはあったけど、基本はR&B/ソウル・チャートの人という認識だったし。
 殿下ファン御用達のバイブルprincevaultのデータを見てみると、『1999』リリースまでは、アメリカとカナダでしかツアーを行なっていない。81年に入ってから、イギリスやフランスでショウを行なっているけど、いずれも単発の顔見せ興行的なもので、欧州ではまだ無名だったことがわかる。
 なので、当時のPrinceというアーティストの認知度は、ほぼ国内限定、それもソウル/ディスコ方面に明るいユーザー間での人気だった。多少名前が知られていたとしても、それは「すぐ裸になる奴」だとか「エロキモい歌手」といった、音楽的には直接関係ない、スキャンダラス面でのクローズアップだった。

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 で、この『1999』がR&Bチャートの枠を超えて、総合チャートでも好成績をマークしたことによって、ここから音楽的にきちんと認知されるようになる。なるのだけれど、逆説的に言えば、それまではスキャンダラス面ばかりが先行して、音楽面で注目されることは、あんまりなかった、ということでもある。
 すべての楽器演奏とプロデュース、作詞作曲を1人でこなすマルチプレイヤーとしてデビューした殿下だったけど、当時はその才能は発展途上、まだ十分開花しているとは言えず、売り上げとしてはそこそこの成績だった。「みんながおれのれこーどをかう」という、小学生のノートの落書きのようなサクセス・ストーリーは、見事に思惑がはずれてしまう。
 なので殿下、注目を集めるためにビジュアルと歌詞を軌道修正、競争率の少ないエロ路線へ向かう。このジャンルの先駆者であるRick Jamesの手法にならい、殿下もハイレグビキニ姿でシャワーを浴びたり、全裸でペガサスもどきに跨ったり、あれこれいろいろやってみた。いや待てよ、エロい女性との絡みが多かったRickに対し、殿下のアートワークってほぼ自分中心だよな。なんだ、単なる自分の趣味か。
 確かにこの路線によって、Princeというアーティストの存在証明は叶ったけど、そのインパクトはちょっと極端すぎた。殿下が打ち出した「猥雑なナルシシズム」は、ごく一部の熱狂的な信者を生みはしたけれど、多くの一般人にとっては、生理的な拒否感を抱くだけだった。
 タブロイド紙が興味本位で取り上げることはあったけれど、夕食後の一家団欒のテレビで映せるようなキャラではなかったため、幅広い層へのアピールには至らなかった。

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 ワーナーとの確執に端を発する破天荒伝説、契約消化を早めるための矢継ぎ早なリリース攻勢など、絶対権力を振りかざす独裁者的なイメージの強い殿下だけど、そういったのはすべて『Purple Rain』以降のエピソードである。彼のオーラが強くなったのは『1999』以降であって、それまでは「イロモノ枠だけど、ジョークが通じないのでいじりづらいファンク・ミュージシャン」に過ぎなかった。
 時代の趨勢として、それまで主流だったファンキー・ディスコから、ソフトなブラコン系バラードに嗜好が移り、殿下のような生々しいファンクは、傍流となっていた。これは殿下に限らず、ファンク・ミュージシャン全般に言えることで、George Clinton もJBも、この時期は不遇を囲っていた。
 正攻法のファンクで勝負しても相手にされないし、かと言って、「アフロでキメてディスコでフィーバー」っていうほど、開き直れるタイプでもない。Marvin Gayeほどのセックス・アピールがあれば、ムーディーなR&B路線もアリだったかもしれないけど、あいにく殿下、「セクシー」の定義が人とちょっと違ってるし。

 殿下が描くサクセス・ストーリーとは裏腹に、ワーナーとしては、第二のRick James的ポジションに導いていこうとしていた節がある。実際、当時は格上だったRickのライブのオープニング・アクトに殿下が起用されたこともあったし、それを彼も好意的に受け入れている。周囲のお膳立てによって、「イロモノ枠」というキャラ付けは定着し、エロ路線によるシングル/アルバムは、R&Bチャートでも好成績を残すようになる。
 ただそれは同時に、総合チャート進出への断念、「みんながおれのれこーどをかう」夢の諦めを意味していた。
 アメリカという国は、我々日本人が思ってる以上に、実は清廉潔白を理想とする国家であり、特にポルノを始めとした猥褻物の取り扱いについては厳格である。エロをメインとした雑誌や映像などが表舞台に出ることはなく、健全な市民の目には入らないよう、巧妙に隔離されている。
 2004年に行なわれたスーパーボウルのハーフタイム・ショウに出演したJanet Jackson は、パフォーマンスに熱が入り過ぎてしまって衣装がズレ、カメラの前で乳首を露出してしまう。世界有数の視聴率を誇るコンテンツで、そのハプニングは大きな波紋を呼び、国をひっくり返すような大騒動に発展した。
 ザックリ言っちゃえば「乳首ポロリ」、昔のアイドル水泳大会だったら「あるある」だけど、時代も違えば視聴者数のスケールも段違い。昔ならPTAがざわつく程度の騒動が、分別ある大人たちを振り回した。それくらい、表向きは取り繕わなければならないのだ。
 その抑圧もあってか、水面下で出回るコンテンツは、ここには書けないドギツイものがあることも、また事実。興味があれば、それは各自勝手に調べてね。
 そんなお国柄もあって、殿下やRick のような、猥褻が服を着て歩いてるような(いやよく脱いでるか)、見た目も歌の中身もエロ全開のアーティストが、お茶の間のテレビに出られるはずもない。MTVだって積極的に流したがらないし。
 なので、一般大衆との乖離は進む一方。そこそこの知名度はあったけど、別枠的な扱いが続いていた。

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 そんなイロモノ枠からの脱却、「みんながおれのれこーどをかう」総合チャートへのステップアップとして、ロック・サウンドへの傾倒は必然だった。
 前述のファンクの衰退によって、ブラック・ミュージックの進化は、足踏みしている状態が続いていた。工業製品のようなディスコやラブ・バラードが切れ目なく量産され、またそれが需要もあったのだけど、どれも70年代からの使い回しであり、目新しいものではなかった。
 80年代に入るとSugarhill GangやGrandmaster Flashらがデビューしており、ヒップホップ・ムーヴメントの萌芽が出てきた頃だけど、この頃はまだサブカル扱い、大きな勢力となるには、Run-DMCの登場を待たなければならなかった。ニューヨークを中心としたローカル・ジャンルの音楽は、殿下の住むミネアポリスまでは届いていなかった。
 いや、多分知ってはいたんだろうけど、まだ主流になるとは思っていなかっただろうし、自分には合わないと思ったんだろうな。真摯なミュージシャンほど、サンプリングやDJプレイには抵抗があった時代だし。後年のラップを聴いても、うまいとは思えないもの。

 ロックやポップのエッセンスを加えたことによって、これまでより間口は広くなり、ここからシングルも総合チャートの上位に入るようになった。エロさはあんまり変わっていないけど、チープなシンセと、ドラム・マシンの軽いビートでコーティングされたファンク・サウンドは、コンテンポラリーな世界への門戸を開いた。
 ここから殿下の快進撃が始まるわけだけど、実はまだ助走に過ぎない。ポップ要素を取り入れたファンクは、それでもまだ胃もたれする程度に重く、グローバルな支持を得るには味が濃すぎた。
 ファンクのマナーでリズムに凝りすぎた分、曲はどうしても長くなる。万人向けにするには、もっとポップやロックのように、単調なリズムにしなければならない。
 『1999』で得た白人音楽のスキルを咀嚼・吸収し、ファンク<ポップというパワー・バランスにシフトしたのが、『Purple Rain』である。



1999
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1. 1999
 チープなシンセによるリフからスタートの、Jill Jones、Lisa Coleman、Dez Dickersonらとのリレー形式のコール&レスポンスが印象的。バンドとの一体感によるグルーヴ、と言いたいところだけど、当然バックトラックはほぼ殿下によるもの。ヴォーカルが同録なのか別録りなのかは不明だけど、まぁ多分個別にやってるんだろうな、それでいろいろ編集したりして。
 アルバム・リリース後、すぐにシングルカットされ、US総合44位・ダンスチャートでは堂々の1位。世紀末を悲観的に迎えるのではなく、「最後だからパーティやって盛り上がろうぜ」と煽りながら、「でもいつかはみんな死んじゃうのさ」と醒めた視点を入れてくるのは、ちょっとひねてる殿下といったところ。
 ほんとの世紀末になってニューマスター版が作られたけど、あんまり評判は良くなかった。発売当時、アルバム丸ごとニューヴァージョンとアナウンスされて、いわば予告編的な形でシングル・リリースされたけど、その後音沙汰なく、中途半端に終わってしまう。
 「全トラック作ってるはずなのに、勿体ぶってお蔵入りさせた」「大風呂敷広げて1999だけ手をつけたけど、気が変わって計画自体が頓挫した」「いやいや単にワーナーへの当てつけで作っただけだから、これだけで目的は果たしてる」など、様々な風評が流れたけど、真相は不明。どの説も真実と思えてしまうのが、殿下の懐の深さと言える。
 俺的には、6分以降のインチキ・オリエンタルな展開が結構好きだけど。



2. Little Red Corvette
 US総合6位、UKでも最高2位をマークした、殿下の実質的なブレイク曲。ファンク要素はほとんどなく、MTV仕様のポップ・ロックといったサウンドでまとめられており、普通に「1982年のヒット曲」という括りにおいても高いクオリティ。サビをなぞったシンセのリフと、1.でもヴォーカルを披露したDez Dickersonによるギターとのアンサンブルは、耳に残るポップ性。
 殿下が一歩引いて、別のギタリストにソロを弾かせるのはかなり珍しい。よっぽど機嫌が良かったか、うまくハマったんだろうな。Dezによるブルース要素は、その後の殿下のギター・スタイルにも大きく影響を及ぼすことになる。



3. Delirious
 3枚目のシングルカットとして、こちらもUS総合8位にチャートイン。シンセがチープであればあるほど、ファンキーさを増す殿下、ここではその安っぽさがピークを飛び越え、8ビートとワルツのハイブリッド・リズムを発明している。クセになるんだよな、音もリズムも。
 エロい暗喩を巧みに混ぜた、車を舞台装置としたチープなラブソングは、使い捨てヒットには相応しい主題。あまりに出来が良すぎて、代表曲のひとつになっちゃうんだけどね。

4. Let's Pretend We're Married
 シンプルな8ビートが延々続き、シンセ・ベースやシモンズがサウンドを彩る、こちらもポップでキャッチーなサビが耳に残るナンバー。こうして聴いてみると、ファルセットの入れ方がうまいよなぁ、と改めて思う。同時に、ベースが入ってることでドラムが単調になっちゃうんだな、この後、しばらくベースを抜いちゃうのは正解だな、とも。
 こちらもシングルカットされており、US総合52位。ダンスフロア仕様としては、このサイズがいいんだろうけど、シングル/アルバムとしては7分はちょっと長い。ダンス・ミックスでもないし、普通のポップ・ナンバーなんだから、もうちょっと短くしても良かったんじゃないかと思う。まぁ今さらだけど。

5. D.M.S.R. 
 「Dance, Music, Sex, Romance」。本文でもちょっと触れたけど、「CDから外された」というエピソードでかなり損をしている、かなりディープなシンセ・ファンク。シンプルなコール&レスポンスとシンセ、時々カッティング・ギター。余計なものを削ぎ落とした、ワンコードのファンク・ジャムは、殿下の最も得意とするところ。逆にこれこそ、8分では物足りない。レコード片面を埋め尽くすくらいのポテンシャルを秘めた演奏、そして殿下のヴォーカル。

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6. Automatic
 前曲同様、シンセをメインとしたテクノ・ファンク。単純な「Automatic」ではなく、「A・U・T・Omatic」と読ませるところが、殿下独自の言語感覚。こういったのはやっぱり、ファンクの人ならではだよね。4.同様、エクステンデッド・ヴァージョンのように間奏が引き伸ばされてる印象があるので、もうちょっとまとめたエディット・ヴァージョンが欲しいところ。

7. Something in the Water (Does Not Compute) 
 新しいシンセを購入して、いろいろいじってみたらできちゃいました的な、シーケンサーのプリセット・リズムをベースに、あれこれ足してみたナンバー。せっつくようなリズムをバックに、メランコリックなエフェクト、独白するようなヴォーカルの殿下。
 「あいつらが飲んでる水には、何か入ってるに違いない」。
 極端な被害妄想の末、絶叫、感情の爆発。
 4分台にまとめて正解。英語ネイティヴなら、こじれたニートの独白に聴こえるのかね。

8. Free
 ここで直球勝負のファルセット・バラード。元来ロマンチストの殿下、ここではクサさを通り越して崇高ささえ漂わせて自由を謳う。ロックっぽいギターの音色も、ナルシシズムをいい意味で助長する。コーラスのクサさも、ここでは気にならない。
 この感性が、次作タイトル・ナンバーとして結実する。

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9. Lady Cab Driver
 ほぼリズムとギターだけのスカスカしたバッキングは、『Parade』が好きな人ならがっつりハマってしまう。凝ったドラム・ワークとシンプルなギター・カッティング。スパイスとしてのチープなシンセ・エフェクト。Jill Jonesとの醒めた感じのデュエット。
 「女タクシー・ドライバー」というワードから、ここまでエロい妄想を広げて具現化してしまう、殿下の才能がもっとも全開しているナンバー。間奏の寸劇はまぁいいとして、リズム・ソロ両面のギター・プレイを堪能できる楽曲としても秀逸。

10. All the Critics Love U in New York
 リズム・マシンを回しっぱなしに、終始低いテンションのヴォーカルが続くナンバー。ファンクというよりはテクノ・ポップだよな、これって。『BGM』『テクノデリック』期のYMOっぽい。一緒にやってたらおもしろそうだよな、と一瞬思ったけど、多分ムリだったよな。教授が見下しそうだし、殿下もコミュ症だし。

11. International Lover
 ラストは、ナルシシズム全開ファルセット・バラード。タイトルこそアレだけど、どうしても色眼鏡で見られがちだった殿下のピュアなエモーションが、見事に表現されている。グラミーで最優秀R&Bボーカル・パフォーマンスにノミネートされたのも納得。モノローグはちょっとウザいと思われたんだろうけど、真っ当なブラコン・ナンバーだって、書こうと思えば書けるのだ。






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。ただでさえ時間ないのに、また新しい音楽ブログ『80年代の歌謡曲のアルバムをちゃんと聴いてみる』を始めてしまい、どうしようかと思案中。
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