好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Prince

プリンス、逝く(ほんとに逝くとは言ってない)。 - Prince 『Come』

folder 1994年リリース、殿下15枚目のオリジナル・アルバム。このアルバムのリリース当時、殿下とワーナーとの関係は、もはや修復不可能なほど悪化していた。契約消化のため、しぶしぶマスターテープを提出はしたものの、できればワーナーには一銭も儲けさせたくなかった殿下、プロモーションには一切協力しなかった。
 なので、US15位UK1位というチャート・アクションは、当然といえば当然。アーティスト側がこれじゃ、現場営業も力入らないよな。
 レジに持って行くにはめちゃめちゃ気恥ずかしい、あの『Lovesexy』以来、アメリカでは久々のトップ10陥落となった。「でもイギリスじゃ、まだトップ維持してんじゃないの?」という見方もできるけど、英米とでは、マーケットの規模が全然違う。
 アメリカのゴールド・ディスク基準は50万枚以上だけど、日本のほぼ半分程度のシェアしかないイギリスでは、10万枚でゴールドがもらえる。世界規模で活躍するアーティストとしては、なんともショボい売り上げである。
 ちなみに、イギリスのほぼ倍の市場の日本に置き換えてみると、当時、20万枚のイニシャル・オーダーだったのが、電気グルーブだった。「殿下」と「電気」か。並べてみると語呂はいいよな。ただそれだけだけど。

 殿下としては、ワーナーに利するような行為は極力避けたかったのだけど、こちらから契約破棄を申し出ても、膨大な違約金で自分の首を絞めることはわかっていたはずだった。はずだったのだけど、それでも駄々をこねるところなんて、さすが常識では計り知れないお方である。まぁ単なる子どものワガママみたいなものだけど。
 苦肉の策というか単なる自己満足というか、表ジャケットのアーティスト・クレジット「Prince」の下に、「1958ー1993」と、意味深な数字が記されている。「これを最後に、Princeとしての活動は終わりにする」という意思表示なのだろう。時代が違えば、厨二病って呼ばれてたんだろうな。
 そんな殿下のこじらせ振りにうまく乗っかったのが、日本のワーナー。なにしろ当時のキャッチコピーが「プリンス、逝く」。ロキノンでこのアルバムの広告を見た俺、「あぁこれで殿下も引退しちゃうんだな」とバカ正直にセンチになってしまったことを覚えている。ネット普及以前、情報に飢えていた洋楽ファンは、みな純粋だったのだ。
 その後の天衣無縫・やりたい放題の殿下の傍若無人っぷりを思えば、その頃まともに一喜一憂していた自分が恥ずかしくもある。バカバカ、25年前の俺のバカッ。

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 そんな音楽以外のトラブルによるストレスも手伝ってか、従来のワーカホリック振りに拍車がかかり、24時間フル稼働していたのが、当時の殿下である。
 例の紫の御殿では、夜な夜なレコーディングとメイク・ラブが繰り返されていた。ツアーに出たら出たで、緻密に構成されたライブとリハーサル、興が乗ればアフターショウを行なっていた。客席に目ぼしいグルーピーを見つけると、声をかけて夜のアフターショウに勤しんで…。なんだイチャイチャしてばっかじゃねぇか。
 無尽蔵に放出されるアドレナリンを発散する場所がSEXだったのか創作活動だったのか。多分、両方だろうな。この時期に残された膨大な未発表音源が、それを証明している。

 ペイズリー・パークはもちろんのこと、ツアー先でもひとたびインスピレーションが湧けば、即座にスタジオ機材やスタッフを揃えるのが、殿下スタッフの役割のひとつだった。とにかくアイディアを思いついたら、その場で吐き出さないと気が済まない質なので、周辺スタッフは急なオファーに即座に応えられるよう、気が休まらなかったんじゃないかと思われる。それならいっそ、適当にメイク・ラブしてくれてた方が、その間は休めるわけだし。
 ツアー以外はほぼスタジオに篭りきりだった90年代前半の殿下、それはデジタル・レコーディング技術の過渡期に当たる。
 当時のシンセ機材はインターフェースが充分でなく、初心者が手軽に取り扱えるものではなかった。ちょっとしたサウンド合成やシーケンス・リズムでも、多くはマニピュレーターの助力を必要とした。
 機材セッティングだけでも数時間を要するため、思いついたら即録音というわけにもいかない。もし時間が許したとしても、殿下のコミュ力でマニピュレーターにサウンドのイメージを伝えることなんて、できるはずがない。
 21世紀に入ってからは、パソコン上で動かせるソフト・シンセのクオリティが上がり、スタジオ・レコーディングと遜色なくなった。ただ、そんな技術革新と反比例するかのように、殿下の創作ペースはとっくの昔にピークを過ぎていた。
 21世紀を過ぎてから、オフィシャルのアルバム・リリースもそうだけど、流出音源もガクッと減ったのは、殿下の関心がレコーディングよりライブ・パフォーマンスの方に傾いたことも、ひとつの要因である。レコーディング作品だって、タダで配ったり新聞のおまけにつけたりで、売る気なさそうだったし。
 もし殿下が20年くらい遅く生まれていたら、DTM機材を使いまくって、延々終わりの見えないレコーディグを続けていたかも…。いやないな、チャチャっと自分で演奏した方が早いだろうし。

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 最近、殿下の回顧エピソードというテーマでインタビューを受けたSheila Eが、いろいろとぶっちゃけている。
 Michael Jacksonがコラボを熱望して、「BAD」のデモテープを殿下に送った話、真偽はともかく、これは結構知られている。デュエットに消極的だった殿下が首を縦に振らず、幻の企画に終わった、とされていたのだけど、Sheila 曰く、その続きがある。
 Michaelヴァージョンを一聴した殿下、普通なら倉庫にポイといったところを、何か刺激を受けたのか、突如レコーディングを開始する。「コラボはしない」と決めたにもかかわらず、独りセッションは進行する。
 できあがったのは、「BAD」。しかもリ・レコーディングされた殿下ヴァージョン。その新たなテイクをSheila に聴かせてご満悦の殿下。聴かせるだけ聴かせると、それで満足しちゃったのか、その場でテープを消去してしまった、とのこと。なんちゅうエピソードだ。
 もしこれがほんとなら、俺世代の音楽ファンにとって、驚愕のエピソードである。マスターなりコピーでも発掘されたら、そりゃあもう大騒ぎ。
 Sinead O'Connor に提供して世界的大ヒットとなった「Nothing Compares 2 U」も、長らく殿下のスタジオ・ヴァージョンは存在しないとされていたけど、今年に入ってから発掘され、発表されている。死後、残された未発表テイクの山は、まだ収拾がつかない状態が続いているため、その「BAD」も倉庫のどこかでひっそり眠っているのかもしれない。
 もしかして、もうサルベージされているのかな。権利関係が複雑そうだから、表に出すのが難しいだけで。

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 で、『Come』。
 もともとはシングル・アルバムではなく、『Dawn』という3枚組アルバムとしてリリースする構想だったらしい。さっさと契約満了したいがため、リリース枚数を稼ぐ殿下の思惑とは裏腹に、できるだけ小出しにしたい、ていうかセールス的に不利な3枚組なんてもってのほか、というワーナーの主張により、計画は却下される。そりゃ当たり前だ。
 どう交渉しても、年1枚のリリース・ペースを崩すことはできず、結局1枚だけを抜き出して『Come』としてリリースする。ダークなテイストの楽曲を『Come』に振り分け、それとは対照的な、アッパー・リズムなダンス仕様の楽曲を『Gold Experience』として再構成し、プライベート・レーベルのNPGからリリース、というところで話は落ち着く。粗さの残るもう1枚分は、のちに『Chaos and Disorder』として、ワーナーが面倒を見る、といったおまけもついて。
 オフィシャルでリリースされた、3枚組以上の殿下のアルバムといえば、『Crystal Ball』と『Emancipation』だけど、考えてみればどちらも冗長さが先立って、一気に聴き通すことは少ない。お腹一杯の内容であることは重々承知ではあるけれど、かなりの体力を要するし、胸やけ必至は避けられない。なので、このように分割してシングル・アルバムでリリースしたのは、ある意味正解だったかもしれない。
 ここら辺をもうちょっと突っ込んで考えると―、例えば確信犯で3枚組『Damn』の企画を出したとする。ワーナーに却下されることは、承知の上で。案の定、渋るワーナー、シングル・アルバムでしか許可を出さない。
 「あぁそりゃそうだよね」と、拍子抜けするほど素直に応じる殿下。ちょっと安心するワーナー。でも、そこから先が殿下の本当の目的である。
 「じゃあ『Come』だけでいいけど、ほかの残りはいらないね?」
 その辺から、雲行きがちょっと怪しくなる。さんざん振り回されてきただけあって、ワーナーも何となく察してくる。
 「残り2枚分は、別名義で他のレコード会社と契約するから」
 当然、ワーナーは契約を楯に阻止しようとする。想定通りの流れにほくそ笑みながら、さらにごねる殿下。「どうせあとは使わないんだから、どうしようと勝手だろ?」
 お互い腹の内を探りながら、丁々発止が続く。どこかで妥協点を見出さなければならない。
 最終的な落としどころとして、『Come』はワーナーから、そして『Gold Experience』をNPGからリリース、という形にまとまる。下手にメジャーへ売り込まれるより、所詮はインディー、殿下の個人レーベルであるNPGの方が、ワーナーのリスクは少ない。その辺もワーナー側としては、ある程度織り込み済みだったんじゃないかと。
 -そんな化かし合いがあったんじゃないのかな、とひとりごちる、もうすぐ49の秋の夜長。


Come [Explicit]
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1. Come
 トータル11分に及ぶファンク・オデッセイ。優雅でありながら猥雑な、それでいて高貴な質感を醸し出したスロウ・ファンクは、悠々たる大河のような存在感。冒頭に波のSEが入るのは、川の流れか、それとも胎内回帰をイメージしているのか。
 ほどよく抑制されたこの曲をオープニングに持ってくること自体、ただならぬ雰囲気を演出している。

2. Space
 USR&Bチャートで最高71位、2枚目のシングル・カット。ちょっとアンビエントっぽい緩いビートと、宇宙飛行士の通信記録SEが、独特の浮遊感となっている。ジャジー・ラップっぽいクールなヴォーカル・スタイルと、打ち込みのポップ・ファンク・サウンドとのコントラストは、やはり殿下独特のアイディア。地味だけど、心地よく聴いていられるので、くどくない殿下を求めるビギナーだったら、うまくはまるかもしれない。
 でも考えてみりゃ、マイルドな殿下を求めるファンなんて、いるのだろうか?いないよな、きっと。

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3. Pheromone
 ラップというより、トーキング・スタイルで始まる、パーカッシブな質感のリズムが心地よいファンク。どのトラックもそうだけど、『Come』に収録された曲のほとんどは、通常の殿下のBPMより80%くらいで鳴らされている。ユーロビート~ジャングルに慣れた耳ではゆったりし過ぎるかもしれないけど、いつものダンスフロア仕様の早いテンポより、細やかなアレンジの妙が浮き上がってくる。

4. Loose!
 キンキーなシャウトから始まるハード・ファンク。ここで一気にBPMが上がる。初めてギター・ソロが登場。そうだ、殿下と言えばやっぱりギター、それをすっかり忘れてた。ハード・テクノなシンセ、絶叫系のシャウトなど、てんこ盛り。ディープな殿下を堪能したいのなら、このアルバムではこの曲だな。

5. Papa
 静かなモノローグが延々続く、奇妙な味わいのスロウ・ファンク。時にアクセントのようにシャウトが入るので、しっかりメリハリはついている。ほぼワンコードで終わるかと思ったら、最後はスペーシーなギターをフィーチャーしたロック・チューンに変化。

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6. Race
 『Parade』のアウトテイクにヒップホップ風味のエフェクトを足したような、基本は骨格だけのワンコード・ファンク。前から言われているように、殿下のラップはあんまりラップっぽく聴こえないので、あくまでファンクの延長線上で捉えた方がよい。コンパクトにまとめてるけど、こんなのは殿下、いくらでもできる。

7. Dark
 70年代の泥臭いフィリー・ソウルを連想させる、考えてみれば殿下にしてみれば珍しいスタイル。ここまでベタなホーン・セクションを入れるのも、あんまり聴いたことがない。オールド・スタイルのエレピもゴスペル風コーラスも、案外ハマっている。もともとメロウな感性の人なので、こういうのだってできるのだ。

8. Solo
 洞窟のような深いリヴァーブがかけられた、幽玄さの漂う無常の世界。滅びの美学を体現したようなデカダンなムードは、自己陶酔の極致。聴いてると怖く感じることもあるけど、避けては通れない。殿下にとって、これまでのキャリアの幕引きを控えているのだ。

9. Letitgo
 8.で終わってたら陰鬱としたエンディングだったけど、ここでキャッチ―なサビを持つこの曲があったから、アルバムとしてはうまく閉めることができる。USR&Bチャートでは10位を記録しており、決してバカ売れするほどではないけど、きちんと先行シングルの役割を果たしている。



10. Orgasm
 9.で終わっておけばよかったものの、まとまりが良過ぎと感じたんだろうか、ていうか出したくて出したスタイルじゃないし。せっかくなら全部ぶち壊してしまえ、と言わんばかりにこっぱずかしいラスト。カーステで聴けねぇじゃねぇかこんなの。



Piano & A Microphone 1983
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殿下、社会人デビュー。 - Prince 『1999』

folder 1982年リリース、オリジナルとしては5枚目、そしてアナログ2枚組の大作。とは言っても、ほとんどの曲が5分以上のロングサイズのため、収録曲は全11曲、曲数だけ見ればシングル・アルバムと大差ない。なので、のちの『Sign of the Times』と比べればカワイイものだし、そのまたあとに『Crystal Ball』や『Emancipation』が控えてることを思えば、怖いものなんて何もない。
 LPと比べて収録時間に余裕があるはずなのに、なぜだか初期の CDでは「D.M.S.R.」だけカットするという、なんだか意味不明の編集が行なわれていたけど、今はオリジナルに準じた形で収録されている。「何でこれだけ削ったんだ」「アーティストの意向を無視したワーナーの横暴だ」など、いまだにファンの間では議論されている。まぁ、思いっきり「SEX!」って連呼してる曲なので、ラジオではかけづらい、っていうのが、ひとつの結論なのかな。

 重くてかさばるし、価格に二の足を踏む2枚組であるにもかかわらず、USでは最高9位まで上昇、なぜかニュージーランドでも6位にチャートインしている。ただ、目立った成績はこれくらいで、他の国だと、それほどの存在感はない。
 『Purple Rain』以降のセールス・アクションと比べると、地味な売り上げである。でも、当時の殿下の知名度はまだ全国区ではなかったため、これでも十分営業予測は超えていたと思われる。たまに総合チャート100位以内に入ることはあったけど、基本はR&B/ソウル・チャートの人という認識だったし。
 殿下ファン御用達のバイブルprincevaultのデータを見てみると、『1999』リリースまでは、アメリカとカナダでしかツアーを行なっていない。81年に入ってから、イギリスやフランスでショウを行なっているけど、いずれも単発の顔見せ興行的なもので、欧州ではまだ無名だったことがわかる。
 なので、当時のPrinceというアーティストの認知度は、ほぼ国内限定、それもソウル/ディスコ方面に明るいユーザー間での人気だった。多少名前が知られていたとしても、それは「すぐ裸になる奴」だとか「エロキモい歌手」といった、音楽的には直接関係ない、スキャンダラス面でのクローズアップだった。

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 で、この『1999』がR&Bチャートの枠を超えて、総合チャートでも好成績をマークしたことによって、ここから音楽的にきちんと認知されるようになる。なるのだけれど、逆説的に言えば、それまではスキャンダラス面ばかりが先行して、音楽面で注目されることは、あんまりなかった、ということでもある。
 すべての楽器演奏とプロデュース、作詞作曲を1人でこなすマルチプレイヤーとしてデビューした殿下だったけど、当時はその才能は発展途上、まだ十分開花しているとは言えず、売り上げとしてはそこそこの成績だった。「みんながおれのれこーどをかう」という、小学生のノートの落書きのようなサクセス・ストーリーは、見事に思惑がはずれてしまう。
 なので殿下、注目を集めるためにビジュアルと歌詞を軌道修正、競争率の少ないエロ路線へ向かう。このジャンルの先駆者であるRick Jamesの手法にならい、殿下もハイレグビキニ姿でシャワーを浴びたり、全裸でペガサスもどきに跨ったり、あれこれいろいろやってみた。いや待てよ、エロい女性との絡みが多かったRickに対し、殿下のアートワークってほぼ自分中心だよな。なんだ、単なる自分の趣味か。
 確かにこの路線によって、Princeというアーティストの存在証明は叶ったけど、そのインパクトはちょっと極端すぎた。殿下が打ち出した「猥雑なナルシシズム」は、ごく一部の熱狂的な信者を生みはしたけれど、多くの一般人にとっては、生理的な拒否感を抱くだけだった。
 タブロイド紙が興味本位で取り上げることはあったけれど、夕食後の一家団欒のテレビで映せるようなキャラではなかったため、幅広い層へのアピールには至らなかった。

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 ワーナーとの確執に端を発する破天荒伝説、契約消化を早めるための矢継ぎ早なリリース攻勢など、絶対権力を振りかざす独裁者的なイメージの強い殿下だけど、そういったのはすべて『Purple Rain』以降のエピソードである。彼のオーラが強くなったのは『1999』以降であって、それまでは「イロモノ枠だけど、ジョークが通じないのでいじりづらいファンク・ミュージシャン」に過ぎなかった。
 時代の趨勢として、それまで主流だったファンキー・ディスコから、ソフトなブラコン系バラードに嗜好が移り、殿下のような生々しいファンクは、傍流となっていた。これは殿下に限らず、ファンク・ミュージシャン全般に言えることで、George Clinton もJBも、この時期は不遇を囲っていた。
 正攻法のファンクで勝負しても相手にされないし、かと言って、「アフロでキメてディスコでフィーバー」っていうほど、開き直れるタイプでもない。Marvin Gayeほどのセックス・アピールがあれば、ムーディーなR&B路線もアリだったかもしれないけど、あいにく殿下、「セクシー」の定義が人とちょっと違ってるし。

 殿下が描くサクセス・ストーリーとは裏腹に、ワーナーとしては、第二のRick James的ポジションに導いていこうとしていた節がある。実際、当時は格上だったRickのライブのオープニング・アクトに殿下が起用されたこともあったし、それを彼も好意的に受け入れている。周囲のお膳立てによって、「イロモノ枠」というキャラ付けは定着し、エロ路線によるシングル/アルバムは、R&Bチャートでも好成績を残すようになる。
 ただそれは同時に、総合チャート進出への断念、「みんながおれのれこーどをかう」夢の諦めを意味していた。
 アメリカという国は、我々日本人が思ってる以上に、実は清廉潔白を理想とする国家であり、特にポルノを始めとした猥褻物の取り扱いについては厳格である。エロをメインとした雑誌や映像などが表舞台に出ることはなく、健全な市民の目には入らないよう、巧妙に隔離されている。
 2004年に行なわれたスーパーボウルのハーフタイム・ショウに出演したJanet Jackson は、パフォーマンスに熱が入り過ぎてしまって衣装がズレ、カメラの前で乳首を露出してしまう。世界有数の視聴率を誇るコンテンツで、そのハプニングは大きな波紋を呼び、国をひっくり返すような大騒動に発展した。
 ザックリ言っちゃえば「乳首ポロリ」、昔のアイドル水泳大会だったら「あるある」だけど、時代も違えば視聴者数のスケールも段違い。昔ならPTAがざわつく程度の騒動が、分別ある大人たちを振り回した。それくらい、表向きは取り繕わなければならないのだ。
 その抑圧もあってか、水面下で出回るコンテンツは、ここには書けないドギツイものがあることも、また事実。興味があれば、それは各自勝手に調べてね。
 そんなお国柄もあって、殿下やRick のような、猥褻が服を着て歩いてるような(いやよく脱いでるか)、見た目も歌の中身もエロ全開のアーティストが、お茶の間のテレビに出られるはずもない。MTVだって積極的に流したがらないし。
 なので、一般大衆との乖離は進む一方。そこそこの知名度はあったけど、別枠的な扱いが続いていた。

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 そんなイロモノ枠からの脱却、「みんながおれのれこーどをかう」総合チャートへのステップアップとして、ロック・サウンドへの傾倒は必然だった。
 前述のファンクの衰退によって、ブラック・ミュージックの進化は、足踏みしている状態が続いていた。工業製品のようなディスコやラブ・バラードが切れ目なく量産され、またそれが需要もあったのだけど、どれも70年代からの使い回しであり、目新しいものではなかった。
 80年代に入るとSugarhill GangやGrandmaster Flashらがデビューしており、ヒップホップ・ムーヴメントの萌芽が出てきた頃だけど、この頃はまだサブカル扱い、大きな勢力となるには、Run-DMCの登場を待たなければならなかった。ニューヨークを中心としたローカル・ジャンルの音楽は、殿下の住むミネアポリスまでは届いていなかった。
 いや、多分知ってはいたんだろうけど、まだ主流になるとは思っていなかっただろうし、自分には合わないと思ったんだろうな。真摯なミュージシャンほど、サンプリングやDJプレイには抵抗があった時代だし。後年のラップを聴いても、うまいとは思えないもの。

 ロックやポップのエッセンスを加えたことによって、これまでより間口は広くなり、ここからシングルも総合チャートの上位に入るようになった。エロさはあんまり変わっていないけど、チープなシンセと、ドラム・マシンの軽いビートでコーティングされたファンク・サウンドは、コンテンポラリーな世界への門戸を開いた。
 ここから殿下の快進撃が始まるわけだけど、実はまだ助走に過ぎない。ポップ要素を取り入れたファンクは、それでもまだ胃もたれする程度に重く、グローバルな支持を得るには味が濃すぎた。
 ファンクのマナーでリズムに凝りすぎた分、曲はどうしても長くなる。万人向けにするには、もっとポップやロックのように、単調なリズムにしなければならない。
 『1999』で得た白人音楽のスキルを咀嚼・吸収し、ファンク<ポップというパワー・バランスにシフトしたのが、『Purple Rain』である。



1999
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PRINCE
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1. 1999
 チープなシンセによるリフからスタートの、Jill Jones、Lisa Coleman、Dez Dickersonらとのリレー形式のコール&レスポンスが印象的。バンドとの一体感によるグルーヴ、と言いたいところだけど、当然バックトラックはほぼ殿下によるもの。ヴォーカルが同録なのか別録りなのかは不明だけど、まぁ多分個別にやってるんだろうな、それでいろいろ編集したりして。
 アルバム・リリース後、すぐにシングルカットされ、US総合44位・ダンスチャートでは堂々の1位。世紀末を悲観的に迎えるのではなく、「最後だからパーティやって盛り上がろうぜ」と煽りながら、「でもいつかはみんな死んじゃうのさ」と醒めた視点を入れてくるのは、ちょっとひねてる殿下といったところ。
 ほんとの世紀末になってニューマスター版が作られたけど、あんまり評判は良くなかった。発売当時、アルバム丸ごとニューヴァージョンとアナウンスされて、いわば予告編的な形でシングル・リリースされたけど、その後音沙汰なく、中途半端に終わってしまう。
 「全トラック作ってるはずなのに、勿体ぶってお蔵入りさせた」「大風呂敷広げて1999だけ手をつけたけど、気が変わって計画自体が頓挫した」「いやいや単にワーナーへの当てつけで作っただけだから、これだけで目的は果たしてる」など、様々な風評が流れたけど、真相は不明。どの説も真実と思えてしまうのが、殿下の懐の深さと言える。
 俺的には、6分以降のインチキ・オリエンタルな展開が結構好きだけど。



2. Little Red Corvette
 US総合6位、UKでも最高2位をマークした、殿下の実質的なブレイク曲。ファンク要素はほとんどなく、MTV仕様のポップ・ロックといったサウンドでまとめられており、普通に「1982年のヒット曲」という括りにおいても高いクオリティ。サビをなぞったシンセのリフと、1.でもヴォーカルを披露したDez Dickersonによるギターとのアンサンブルは、耳に残るポップ性。
 殿下が一歩引いて、別のギタリストにソロを弾かせるのはかなり珍しい。よっぽど機嫌が良かったか、うまくハマったんだろうな。Dezによるブルース要素は、その後の殿下のギター・スタイルにも大きく影響を及ぼすことになる。



3. Delirious
 3枚目のシングルカットとして、こちらもUS総合8位にチャートイン。シンセがチープであればあるほど、ファンキーさを増す殿下、ここではその安っぽさがピークを飛び越え、8ビートとワルツのハイブリッド・リズムを発明している。クセになるんだよな、音もリズムも。
 エロい暗喩を巧みに混ぜた、車を舞台装置としたチープなラブソングは、使い捨てヒットには相応しい主題。あまりに出来が良すぎて、代表曲のひとつになっちゃうんだけどね。

4. Let's Pretend We're Married
 シンプルな8ビートが延々続き、シンセ・ベースやシモンズがサウンドを彩る、こちらもポップでキャッチーなサビが耳に残るナンバー。こうして聴いてみると、ファルセットの入れ方がうまいよなぁ、と改めて思う。同時に、ベースが入ってることでドラムが単調になっちゃうんだな、この後、しばらくベースを抜いちゃうのは正解だな、とも。
 こちらもシングルカットされており、US総合52位。ダンスフロア仕様としては、このサイズがいいんだろうけど、シングル/アルバムとしては7分はちょっと長い。ダンス・ミックスでもないし、普通のポップ・ナンバーなんだから、もうちょっと短くしても良かったんじゃないかと思う。まぁ今さらだけど。

5. D.M.S.R. 
 「Dance, Music, Sex, Romance」。本文でもちょっと触れたけど、「CDから外された」というエピソードでかなり損をしている、かなりディープなシンセ・ファンク。シンプルなコール&レスポンスとシンセ、時々カッティング・ギター。余計なものを削ぎ落とした、ワンコードのファンク・ジャムは、殿下の最も得意とするところ。逆にこれこそ、8分では物足りない。レコード片面を埋め尽くすくらいのポテンシャルを秘めた演奏、そして殿下のヴォーカル。

Prince

6. Automatic
 前曲同様、シンセをメインとしたテクノ・ファンク。単純な「Automatic」ではなく、「A・U・T・Omatic」と読ませるところが、殿下独自の言語感覚。こういったのはやっぱり、ファンクの人ならではだよね。4.同様、エクステンデッド・ヴァージョンのように間奏が引き伸ばされてる印象があるので、もうちょっとまとめたエディット・ヴァージョンが欲しいところ。

7. Something in the Water (Does Not Compute) 
 新しいシンセを購入して、いろいろいじってみたらできちゃいました的な、シーケンサーのプリセット・リズムをベースに、あれこれ足してみたナンバー。せっつくようなリズムをバックに、メランコリックなエフェクト、独白するようなヴォーカルの殿下。
 「あいつらが飲んでる水には、何か入ってるに違いない」。
 極端な被害妄想の末、絶叫、感情の爆発。
 4分台にまとめて正解。英語ネイティヴなら、こじれたニートの独白に聴こえるのかね。

8. Free
 ここで直球勝負のファルセット・バラード。元来ロマンチストの殿下、ここではクサさを通り越して崇高ささえ漂わせて自由を謳う。ロックっぽいギターの音色も、ナルシシズムをいい意味で助長する。コーラスのクサさも、ここでは気にならない。
 この感性が、次作タイトル・ナンバーとして結実する。

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9. Lady Cab Driver
 ほぼリズムとギターだけのスカスカしたバッキングは、『Parade』が好きな人ならがっつりハマってしまう。凝ったドラム・ワークとシンプルなギター・カッティング。スパイスとしてのチープなシンセ・エフェクト。Jill Jonesとの醒めた感じのデュエット。
 「女タクシー・ドライバー」というワードから、ここまでエロい妄想を広げて具現化してしまう、殿下の才能がもっとも全開しているナンバー。間奏の寸劇はまぁいいとして、リズム・ソロ両面のギター・プレイを堪能できる楽曲としても秀逸。

10. All the Critics Love U in New York
 リズム・マシンを回しっぱなしに、終始低いテンションのヴォーカルが続くナンバー。ファンクというよりはテクノ・ポップだよな、これって。『BGM』『テクノデリック』期のYMOっぽい。一緒にやってたらおもしろそうだよな、と一瞬思ったけど、多分ムリだったよな。教授が見下しそうだし、殿下もコミュ症だし。

11. International Lover
 ラストは、ナルシシズム全開ファルセット・バラード。タイトルこそアレだけど、どうしても色眼鏡で見られがちだった殿下のピュアなエモーションが、見事に表現されている。グラミーで最優秀R&Bボーカル・パフォーマンスにノミネートされたのも納得。モノローグはちょっとウザいと思われたんだろうけど、真っ当なブラコン・ナンバーだって、書こうと思えば書けるのだ。






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世紀末に便乗した蔵出大吟醸 - Prince『The Vault: Old Friends 4 Sale』

folder 世紀末も押し迫った1999年にリリースされた、殿下22枚目のスタジオ・アルバム。とは言っても、リリースされたのはワーナーを離れて3年も経ってから、しかも未発表曲集という、在庫一掃セールのような形態だった。アーティスト不在によるリリースだったため、当然本人が積極的にプロモーションするはずもなく、チャート的にはUS85位UK47位という惨敗に終わった。
 これとは別にワーナーは、巷に蔓延していたミレニアム・ムードに便乗するため、殿下の「1999」をシングルとしてリリースしている。世紀末の狂騒のドサクサに一枚噛んで、小銭を稼ごう、といった魂胆がミエミエである。まぁ商売としては正しい。
 当然だけど、そんなワーナーの目論見を殿下が放っておくはずもなく、ほぼ間髪を入れず、新たにリミックスしたヴァージョンを複数収録したミニアルバム『1999 The New Master』をリリース、市場を撹乱させる。どっちが元祖でどっちが本家か、出処は結局同じだけど、何かと大人の事情が露わになったせいもあって、セールス的には共倒れに終わってしまう。
 殿下としては、ワーナーの足を引っ張ることができれば良かったわけで、売れる・売れないについては、どっちでも良かったんだろうと思われる。
 恐るべし、負のパワーよ。

 とにかく一刻も早く、ワーナーから抜け出したかった殿下は、3日で作ってしまった粗い仕上がりの『Chaos and Disorder』をリリース、さらに休むヒマもなく、手持ちの未発表曲をかき集め、『The Vault: Old Friends 4 Sale』という、皮肉たっぷりのタイトルをつけて、マスター・テープを提出する。
 取り敢えず、これでレコーディング契約はクリアした。あとは好きにすればいい。
 当時の殿下の制作ペースは凄まじいもので、まだ世に出ていない未発表曲が、いまだ発表のあてもなく膨大に残されている。なので、その気になれば月刊ペース、下手すりゃデアゴスティーニ並みのリリースも可能だったかもしれない。
 ただワーナーからすれば、殿下の意向ばかり聞いてるわけにもいかない。他アーティストも含めて、全体のリリース・スケジュールは年度始めに決まっており、無理やりねじ込むのは並大抵ではない。まだ前作がチャートに残っているのに、すぐ次の作品を出すのも、営業戦略的によろしくない。
 そんなワーナーの思惑を知って知らずか、とっとと契約解消したい殿下、メディアを通して被害妄想の独白と罵詈雑言の言い放題。
 あぁ、めんどくさい男。

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 で、そんなワーナーが取った殿下対策というのが、ワーナー副社長としての招聘、自陣への取り込みだった。
 下手に契約解除して膨大な違約金を取られるより、多少の報酬を払って側においた方が、何かと都合が良い。少なくとも、他のメジャーに移籍されてシェアを奪われるよりは、ずっとマシだ。
 変名を使って自主レーベルNPGでコソコソやってるけど、それだって規模としては小さいものなので、たかが知れている。契約終了までのガス抜きと考えれば安いものだ。
 結局、完パケしたはずの『The Vault』は、長らくリリースを保留された。いつ出すかって?そんなの、決めるのはこっちだよ、と。

 契約終了したとはいえ、マスター・テープはワーナーが所持しており、同時にバック・カタログの販売権も握っていた。ただし、マスターの内容をいじる権利は持っていなかった。それができるのは、殿下だけ。ここまでが前提。
 メジャー・アーティストのレコード→CDへの移行が一巡した90年代を経て、どこのレコード会社もバック・カタログの付加価値を高めるため、ボックス・セットやリマスター・リミックスなど、あらゆる手を講じていた。
 そんな中、殿下のアルバムだけはいまだ旧フォーマット、リリース当時のままの状態が続いている。ピーク・レベルを上げる程度のことでさえ、殿下の許可がなければできない。で当然、彼がそれを許すはずがない。だって、ワーナーの利益になっちゃうもの。殿下のCDの音がショボいのは、そんな理由がある。

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 とはいえ、ラジオで自分の曲が流れると、そこだけ急にレベルが下がっちゃうのを、ちょっとは気にしたのだろう。レコード会社はともかく、ファンは大切にする人だから、要望には応えたいし。でも、ワーナーの連中とは口も聞きたくないし。
 -じゃあこの際だから、ちょこちょこ直すんじゃなく、最初っから全部レコーディングし直しちゃった方がいいんじゃね?
 よく思いつくな、こんなこと。
 実際に作業には着手したらしい。特にオーバー・プロデュースだったデビュー作なんかは、何かと不満もあっただろうし。技術的・スペック的に実現できなかった当時のアイディアだって、今ならもっと理想的な形で表現できるかもしれないし。
 で、やってはみたけど、まとめてるうちに新しいアイディアの方に気を取られてしまったのか、プロジェクトは中途半端で頓挫する。発表されたのは、予告ダイジェスト的な「Purple Medley」と「1999」のリマスターくらいで、その後はいつの間にかフェードアウトしていった。
 21世紀に入ってから、どういった経緯かワーナー編纂によるベストにリマスター音源が収録されたことはあったけれど、死後リリースされた『Purple Ran』30周年エディションを除いて、大掛かりな音源処理が行なわれることはなかった。

 しばらくNPG中心のリリース活動だった殿下、世紀末を間近に控えて、いよいよ動き出す。単発とはいえ、メジャーのアリスタと契約、新作『Rave Un2 The Joy Fantastic』のリリースがアナウンスされる。
 そうなると面白くないのがワーナーで、これまではNPGリリースだったから相手にしていなかったけど、競合メジャーからとなれば、事情がちょっと違ってくる。
 こっちはこっちで「1999」をプッシュしようと動いているのに、余計なタイミングで余計に動きやがって。どうにか潰さなければならない。
 アリスタに横槍入れるのは、同業者として物騒になるし、できるだけ穏便かつ合法的にジャマはしたい。さて、どうしたものやら。
 だもんで、ワーナーが切った最後のカードが、このアルバムである。

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 そういった経緯が早い段階から囁かれていたせいもあって、微妙にオリジナル扱いされておらず、おまけ的な印象が強い。ジャケット・アートワークだって、アーカイブから引っ張ってきた感がミエミエだし。
 もともと3年前にレコーディングされた音源であるからして、正直、新機軸と言えるものはない。未発表曲の寄せ集めなので、中には古い作品も含まれている。従来のアルバムと比べて、ちょっとジャズ・テイストが強いことが、新たな側面と言えば言えるけど、そんなに目新しいものではない。
 ただ、極端にディープなファンクや、過剰にナルシスティックなバラードは収録されていないので、ヒット曲から入ったビギナーからすれば、案外スッと馴染みやすいかも知れない。『Purple Rain』から『Batman』まで聴いた初心者が次に聴くアルバムとして、『Diamonds and Pearls』から先をすっ飛ばしてこれを聴くと、すんなり殿下の世界観に入っていけるんじゃないかと思う。



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1. The Rest of My Life
 オープニングは肩慣らし程度、短い1分ちょっとのナンバー。ピアノ・ブギといった軽快なノリであっという間に終わる。殿下にしては珍しくベースがブリブリ鳴っていたり唐突にギターソロが挟み込まれたりで、案外実験的に攻めている楽曲。

2. It's About That Walk
 ファルセットで通したスロウ・ファンク。ホーン・セクションはセオリー通りだけど、ギターがブルースっぽかったり中盤のブレイクなんかに、一筋縄で終わらせない気概を感じる。通常モードの殿下と違ってエッセンスは薄いので、案外ビギナーにはウケがいいいんじゃないかと思われる。ただ、ここから深みに入るのはちょっと無謀かな。

3. She Spoke 2 Me
 オリジナルは1996年リリースのサントラ『Girl 6』より。もともとは『Love Symbol』時期の曲で、アルバムから漏れたところをサントラに突っ込み、さらにロングサイズに仕上げたくらいだから、何かしら思うところがあったのだろう。ジャジーなメロウ・グルーヴといった曲調のため、当然『Love Symbol』にはフィットしないし、ていう過度のアルバムにも入れようがない作風ではある。
 殿下はその後、ソウル・インスト~ジャズ・ファンク~フュージョンといった要素が強くなっていくのだけど、その端緒として考えれば、納得は行く。8分という長尺ながら、昔なら「Temptation」みたいに収拾がつかなくなるカオス・ファンクといった展開になるところを、終始きっちりジャズ・タッチでまとめているのは、成長と言えるのかな。



4. 5 Women
 こちらもゆったりジャジーなスロウ・ブルース。メロディ・ラインはベタなバラードとしてうまくまとまっており、時にClaptonっぽく泣かせるオブリガードも、殿下としては珍しい。と思ってたら、1991年にJoe Cockerに提供した楽曲のセルフカバーだということ。知らなかった。
 ついでなのでJoe CockerヴァージョンもYouTubeで聴いてみると、これが意外に良かった。往年の大味なアメリカン・ロッカーといった印象が強かったのだけど、思ってたよりソフィスティケイトされたサウンド・プロダクションだったので、ワーナー時代のElvis Costelloが好きな人なら気に入ると思う。
 もうちょっと深く調べてみると、収録されたアルバムをプロデュースしていたのが、あのJeff Lynnだった。納得。



5. When the Lights Go Down
 ラテン風味のパーカッションとラウンジ風ピアノのコンビネーションは、Steely Danを彷彿とさせる。ピアノの音の録り方なんてそっくりだもの。あまりダビング感は少なく、ライブっぽさが強いセッション風。アフターショウなんかだと、インターバルっぽくこういうのもやってたんだろうな。

6. My Little Pill
 ブリッジ的な扱いの1分程度のナンバー。呪術的にダークに囁く殿下の声は、夜にはあんまり聴きたくない。なので、このサイズくらいでちょうどいい。

7. There Is Lonely
 こちらも2分程度と短いバラード。序盤の雰囲気からすると壮大なスケールを感じさせるけど、なぜかそこまで盛り上がらずに終わってしまう。だってたった2分だもの。もっと大きな組曲の序盤といった印象。ここから膨らませることができなかったのか、それとも飽きちゃったのか。

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8. Old Friends 4 Sale
 タイトル・ナンバーであるこれも、バラードにしては3分程度とコンパクト。こちらもストリングスなんか入れちゃってるのでスケール感は大きそうだけど、同じく尻切れトンボで終わってしまう。もっと壮大なサントラかミュージカルの断片だったのかな。やっぱり膨らまし切れずに終わってしまう。

9. Sarah
 出だしはファンキーだけど、本編はどちらかといえばロック・テイストの方が強い。ファンクを取り入れたロック、といった感じ。これも短い曲だけど、アップテンポならこのスピード感はアリ。パッと始まってパッと終わる。長けりゃいいってもんじゃない。

10. Extraordinary
 ラストは殿下のメロウな一面を強く打ち出した定番バラード。2分程度にサラッと終わるのも、体調がよろしくない時には優しく響く。何だそりゃ。
『Purple Rain』に入れたら違和感ないんじゃないかと思われる。要するに、マイルドなサウンドの殿下、ということで。






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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