好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Prefab Sprout

イギリスのネオ・アコ・ポップ馬鹿、最初の覚醒 - Prefab Sprout 『Steve McQueen』

folder 1985年にリリースされた2枚目のアルバム。UK最高21位は、22位を記録したデビュー作『Swoon』とあまり変わらないけど、最高25位のスマッシュ・ヒットのシング”When Love Breaks Down”が話題となってロング・セラーになった。
 それほど愛想もないインディー出身のバンドとしては、なかなかのセールスになったため、ほんとは間髪入れずリリースする予定だったアルバム『Protest Songs』がオクラ入りしてしまったのは、うれしい悲鳴であり、ちょっと不本意なアクシデントではあったけど。

 ほぼ同世代のバンドAztec Cameraと同じネオ・アコ・シーンから出てきた人たちだけど、接点があった話は聞いたことがない。ていうかAztecに限らず、他のバンドとの交流はほとんどないバンドである。
 孤高の存在といえば聞こえはいいけど、いま思えばコミュ障をこじらせてる人間ばかり。今じゃすっかり達観した仙人のような風貌のPaddyを始めとして、ベースのMartinは実の弟だし、恋人だか単なるメンバーだか、ずっと微妙な立場に甘んじていたWendy Smithも、結局は煮え切らないPaddyとのパートナーシップ解消と共にバンドを去り、今ではすっかり業界から足を洗っている。唯一のバンドマンであるNeil Contiが早々に見切りをつけてバンドを去ったのは、正しい判断だったと言える。

 Aztec Cameraとの直接的な関係はなかったけど、彼ら同様、Prefabもまた、このメジャー2作目でガラリと作風を変えてきた。『Swoon』がインディー時代の集大成として、粗削りでどこか未完成の可能性を秘めた習作だったのに対し、ここではメジャー販売網を意識したポップ・サウンドになっている。普通の感性ならまず使おうとしないコード進行や不安定なメロディはそのままに、不愛想な4ピースのシンプルなサウンドだった『Swoon』 と比較して、ここではメジャー・ヒット作と遜色ないものに仕上がっている。

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 この変化はPaddy独自のものではなく、その後長らくコラボすることになる盟友Thomas Dolbyの影響が大きい。
 今もミュージシャンとしての活動は行なっているけど、ネット関連のビジネスマン的側面が強いThomas、この頃は最新機材を駆使したシンセ・サウンドが好評を得て、David BowieやJoni Mitchellなど、大物ミュージシャンからも引く手あまたの活躍だったのだけど、それがどうしてバジェットも小さい新人バンドのプロデュースを引き受けたのか。
 多分双方とも、「ぜひ彼とタッグを組みたい」と指名したわけでもなさそうなので、エージェントからの要請がきっかけだと思う。その後も何かと共同作業を行なっているというのは、目指す方向性が同じだったのだろう。

 『Steve McQueen』は今をもっても彼らの代表作と言われており、実際、Paddy自身にとっても大きなターニング・ポイントとなっている作品である。もしThomasに出会えてなかったら、『Swwon』だけの泡沫バンドで終わっていた可能性もあるし、時代の徒花として片づけられていたかもしれない。
 そんなアルバムが、レコード会社の要請によって、レガシー・エディションが発売されることになる。本来は発売20周年に合わせて2005年にリリースされる予定だったのだけど、大幅に制作が遅れに遅れ、実際リリースされたのは2007年、さらに2年が経過してからだった。

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 普通、こうしたデラックス・エディション形式のアルバム制作の場合、アーティスト本人が関与してくることは、ほとんどない。中心となる作業が、収録トラックのリマスタリングやリミックス、または当時のデモ・テープやライブ・トラックの発掘が主たるもので、実作業はディレクターやエンジニア主体である。せいぜい、形ばかりの監修くらい、名義貸しくらいしかやることはないのだけれど、なぜかPaddy、どこで本気を使ってるのか、新緑アコースティック・ヴァージョン8曲を新たにレコーディングしている。しかも、単なるアコギの弾き語りではなく、時間をかけて熟成され、緻密なオーヴァー・ダヴによって新たな命を吹き込まれている。
 80年代を象徴するDX7サウンドのヴェールを剥ぎ取った中から現れたのは、Paddyのピュアで透徹としたヴォーカルと、丁寧に重ねられた明瞭な響きのギター・サウンドだった。その繊細さからは、20年という時間すら忘れてしまう、エヴァーグリーンなテイストが漂っている。


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1. Faron Young
 トップに相応しい軽快なロックンロール・ナンバー。『Swoon』の延長線上で購入したネオ・アコ・ファンなら、きっとその変化に驚いたんじゃないかと思う。オールド・ロックンロールをリスペクトしたギターの音色、DX7のエフェクト、またバンジョーやブルース・ハープを入れる発想は、やはりThomasの貢献が大きい。ていうか新人バンドをテスト・ケースとした、彼の壮大な実験。
 シングルとしてもリリースされ、UK最高74位。2007年ヴァージョンはギターに薄くシンセを被せており、弦の擦る音までクリアに生々しく録音されている。



2. Bonny
 ここからしばらく続く、Prefab人名シリーズの第1弾。彼女であるBonnyと破局、家を出てゆく様をポップ・サウンドにコーティングして、他の曲とのバランスを取っている。2007年ヴァージョンはシンプルなサウンドをバッキングに、朗々と切なさを表現している。
 Paddyの意図としては、詞のストレートな解釈として、悲壮感漂うニュー・ヴァージョンのサウンドにしたのだろうけど、俺的にはオリジナルの方が逆にドライな質感で好み。

3. Appetite
 単純に"Appetite"という語感が好きだったのだけど、後になって「食欲」の意味だと知り、ちょっと拍子抜けしてしまった想い出。まぁそこをラブ・ソングと絡めて世界観を作ってしまうソング・ライティング能力は、同世代ソングライターと比べても段違い。
 こちらもシングル・カットされており、UK最高92位。でもなぜかオーストラリアでは45位にチャート・インしている。メロディ・ライン的には、このアルバムの中ではわかりやすい方なので、もっと売れてもよかったんじゃないかと思うけど。
 


4. When Love Breaks Down
 でも、この曲に比べると、ヒット・ナンバーとしてのキラキラ感が違っていることに気づかされる。ちなみにこのアルバム、総合プロデューサーはThomasなのだけど、この曲だけPhil Thomallyという人が制作を手掛けている。
 あまり聞いたことがない人なので、ちょっと調べてみると、もともとCureに在籍しており、ちょうどこの頃はプロデューサーやソングライターとして活躍していた頃。Bryan AdamsやThompson Twinsらを手掛けていた、いわゆるヒット請負人。Thomasの音作りだと、時にマニアックになり過ぎるところを、ヒット・チャート狙いで作り込みを減らし、ムーディさを強調することで、高級AORっぽいサウンドに仕上げている。
 なので、俺だけじゃないと思うけど、この曲の「これじゃない感」を持つPrefanファンが結構多いはず。

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5. Goodbye Lucille #1
 すでに『Jordan:The Comeback』への萌芽が垣間見える、このアルバムの中でもちょっと異質な、それでいて親しみやすいメロディを持つナンバー。若手バンドらしく、若き日のPaddyのシャウトするヴォーカルも聴くことができる。
 これもシングル・カットされており、UKでは64位なのだけど、アイルランドではその熱さが好評だったのか、最高28位、4.と同じくらいのチャート・アクションを見せている。

6. Hallelujah
 ギターで参加してるKevin Armstrongは、Thomasのお抱えギタリストとも言うべき、今をもって行動を共にしてる人。ちょっとブルースっぽい響きはあるけど、Thomasの創り出すテクノロジー・サウンドとのミスマッチ感が、逆に相性良く聴こえる。
 この曲もメロディのはっきりしない曲なのだけど、Prefabのファンはあまりキャッチーなメロディを求めていないので、逆にこれも人気は高い。『Swoon』サウンドをビルドアップさせたような、モダンなバンド・サウンドは完成形。なので、レガシー・エディションでもこの曲は再演されていない。ていうか、うまく行かなかったのかな?

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7. Moving The River
 LPでいえばB面は浮遊するメロディ、ちょっと凝ったコード進行の曲が多く収録されている。なので、今もってこのアルバムが多くの人を惹きつけるのは、このミステリアスさ他ならない。一聴して虜になってからも、どこかヴェールに包まれた核心の部分はひっそり残されているのだ。
 レガシー・エディションではオーヴァーダヴもなく、ほんとギター一本のみで歌っており、曲の構造が剥き出しになっているのだけど、クリアに明快になったわけではない。

8. Horsin' Around
 『Swoon』のアウトテイク的な、起伏の少ないメロディを持つナンバー。変則的なワルツは後半、ジャジーなテイストに変化する。Prefabの作品の中でも独特な、ちょっと実験色が濃いナンバーなのだけど、実はシングルB面だと、こういった曲はゴロゴロある。ほんと趣味的な色彩が濃いので、よくこれを収録したものだと思う。

9. Desire As
 ここでのゲスト・ミュージシャンは、前述のKevinとMark Lockhartというサックス・プレイヤー。ほぼ雰囲気づくり的なKenny G.テイストの音色なので、それほど目立った感じではない。
 ブリティッシュ・ジャズ系統のミュージシャンで、今もコンスタントに活動しており、特別代表作みたいなものはないのだけど、なぜかRadiohead 『Kid A』にクレジットされている。ちゃんと聴いてなかったけど、ちょっと意外。
 レガシー・エディションでも再演されているけど、まぁテイストはそんなに変わらない。

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10. Blueberry Pies
 こちらも『Swoon』の延長線上的ナンバーで、最小限のエフェクトによって、やや聴きやすくマイルドに仕上げている。2分程度の小品なので、まぁタイトル同様、お手軽で肩慣らし的な曲。

11. When The Angels
 最後を飾るのは、キリスト教原理主義に則ったナンバー。そこへは神への敬意と共に、どこか皮肉も入り混じった複雑な感情が入るのは、生粋の英国人。
 これもメロディ的には、それほどキャッチーなナンバーではないはずなのだけど、Thomas渾身のアレンジメントによって、ラストに相応しい華やかなサウンドに仕上げている。




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僕だって一度くらい、チャラくしてみたかったんだ… - Prefab Sprout『From Langley Park to Memphis』

5850c068 かつてその憂いある風貌はNMEのグラビアを飾るほどで、80年代アーティスト組の中ではイケメンに分類されていたはずのPaddy McAloon 、今じゃすっかり脂が抜け落ちて、そのマイペース過ぎる活動そのまま、まるで仙人のような風貌になってしまっている。
 一時体調を崩したせいもあって、濃いサングラスを外すことができず、近影では杖をついていることも多く、世界中に点在するPrefabファンはその不調を案じていたのだけど、取り敢えず音楽活動を再開できるくらいには持ち直したようである。相変わらずリリースペースは遅いのだけど、それは健康だった頃も平気で7〜8年くらいは沈黙していたのだから、ほんの2、3年程度なら、誤差と言い切っちゃっていいくらいである。

 それでも前世紀くらいまでは、同時代のトレンドを自分なりの解釈、盟友Thomas Dolbyの助力によって、楽曲に反映させていたのだけど、今世紀に入ってからは、俗世間の些事にはこだわらなくなったのか、もはや時代との折り合いをつけることもやめてしまい、これまでの未発表アルバムのアーカイブ化が、主だった活動になってしまっている。
 まるでそこだけ時間が止まったかのような、90年代機材の香り漂うサウンドを、ほぼ真空パックのまま、限られたリスナーに向けて発信するPaddy、今じゃすっかりメインストリームから遠ざかってしまってるけど、「俺だって昔はがんばってたんだ」とでも言いたげな、彼らのディスコグラフィーの中では最もポピュラリティーが強いのが、このアルバム。

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 ジャケットを見てもらえれば想像つくように、この時代のPaddyはかなりフォトジェニック、前述したように音楽誌のカラー・グラビアを飾っており、他のニューロマ系アーティストと比較しても引けを取らないくらいである。
 Roddy Frame やEdwin Collinsに代表されるように、もともとネオ・アコ・シーンのアーティストに共通した特徴なのだけど、Paddyもまた、あまりセックスの匂いを感じさせない、中性的なルックスを強く押し出すことによって、昔で言うオリーブ系女子のファンを中心に獲得していた。
『Swoon』から『Steve McQueen』リリースくらいまでは、あまり使われないコード進行、抽象を通り越して、やや分裂傾向も窺える歌詞によって、どちらかといえばマニア好み、純粋に楽曲のクオリティによって注目されていたのだけど、その『Steve McQueen』でのブレイクがきっかけとなって、レコード会社主導のもと、新たな戦略を打ち出すことになる。
 特に、時に文学的に物憂げな表情を見せるPaddy の端正なルックスと、バンド唯一の女性メンバーWendy Smithの清楚な佇まいを前面に押し出したビジュアルは、透明感あふれるそのサウンドにはフィットしていた。公私ともに重要なパートナーとなっていた二人の行く末も、バンドの成長ストーリーに合わせて同時進行し、そういった相乗効果が、主に文科系の男子女子らの注目を浴びた。

 こういった一連の戦略が、レコード会社の要請によって仕方なく付き合っていたのか、それとも積極的にスター・システムの状況を享受していたのか。どっちが先なのかは、今となってはわかり兼ねるけど、多分本人たちもそれなりに楽しんでいたんじゃないかと思う。せっかく上り調子なんだから、使えるモノはとことん使っちゃった方がいいんじゃね?と周囲におだてられてその気になっちゃったのが、案外真相なんじゃないかと思う。

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 で、そういった状況が作風に影響したのだろうか、これまではネオ・アコ・サウンドの延長線上、シンプルなアレンジ主体だった楽曲も、ここに来て音数も多くなり、ヒット・チャートでも違和感のないアレンジに仕上げられている。もちろん基本の曲調、流麗なメロディは従来通りなのだけど、モノによってはリズム主体の曲も収録されており、この辺にレコード会社の思惑、中間管理職的立場のThomas Dolbyの心境とが交差していることが窺える。
 さらなるヒット狙いの担保としてなのか、これまでも、そして今後もあまり見受けられない大物ゲストの参加というのも、このアルバムの特異性をあらわしている。もちろんレコード会社CBSの政治力が大きく作用しているのだけれど、ただそれだけで、これだけ名の通ったアーティストがこぞって手を貸すはずもない。そこは彼ら自身の業界内での評判、若手の期待株であったことも大きな要因である。あのうるさ方のElvis Costelloが、自身のライブで彼らのデビュー曲”Cruel”を取り上げたりするなど、まぁほんと小さなムラ社会での評判だけど、この現役ミュージシャンからのウケが良いことは、悪いことではない。
 まぁでもそういう人って、セールス的には厳しいんだけどね。

 ところでこのアルバム・リリース、前回の『Steve McQueen』から、ほぼ3年のブランクが空いている。シングル”When Love Breaks Down”のスマッシュ・ヒットによって、CBS的には、これからさらにファン層を広げていこうと思ってた矢先のはずなのに、まだ駆け出しのバンドの行動としては、普通あり得ない。アルバム・セールスの好調を受けてのツアーが思いのほか長期化して、結構な本数を回っていたせいで、充分な創作期間を確保できなかった面もあるのだけれど、まぁ実際のところは、CBSとの行き違いによって、Paddyがヘソを曲げてしまったせいである。
 
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 以前『Jordan:the Comeback』のレビューでも書いたのだけど、例の『Protest Songs』リリースのタイミングの件でもめてしまい、加えてPaddyとしては不本意な長期間のロードは、かなりのストレスとなった。
ツアー終了時点では満身創痍、身も心もすっかり疲弊しきったPaddy(バンド自体はライブ活動に前向きだったのだけど)、長期のバカンスの後、再びスタジオに籠城、安住の地に落ち着いて作り上げたのが、今作である。

 今回のPaddy、一般大衆に開かれたサウンドを志向しながらも、どこか皮肉めいた目線、第三者的な視点も見受けられる。そこがやはり、素直にポジティブ・シンキングになり切れない英国人気質、エンタテイメントの本場アメリカへの憧憬と冷笑とが相まった感情から起因するものである。これにキリスト教圏独特の性善説も複雑に絡み合うのだから、ほんとめんどくさい人たちである。
 ただPaddyに限らず、まだヒット・チャートというものが絶大なる影響力を持っていた時代、煌びやかなメジャー・シーンに色目を使いながら、なのにどこか醒めた目線、レコード会社主導のマーケティングに従いながらも、外ヅラでは斜に構えてシニカルを気取るというのが、80年代英国のニュー・ウェイヴ以降のアーティストの特徴である。


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1. The King Of Rock 'N' Roll
 リリース当時からBruce Springsteenに象徴される、80年代アメリカン・スタジアム・ロックへの皮肉と揶揄とが盛り込まれた曲。ニュー・ウェーヴ系のアーティストにありがちな、ただ批判して終わるのではなく、チャート内でも見劣りしない、きちんと作り込んだパロディを演じたのは、さすがPaddyである。
 ただ、当時は敢えて「恥ずかしいけど演じてるんだぜ」的なスタンスだったのが、これだけ時間を置いてから聴いてみると、案外楽しんでたんじゃないかとも思われる。若いうちだから、そりゃチヤホヤされて悪い気はしないだろう。
 サビの「ホット・ドッグ、跳ねるカエル、アルバカーキ」の一節は、未だ持って意味不明。不明だけど、いいんだそれで。ただ語呂が良かったからやってみただけで、意味なんてあるもんか。
 UK最高7位まで上昇、バンドとしては唯一のトップ10シングル・ヒット。



2. Cars And Girls
 ほとんどブレイクも入れず、続くはまたアメリカへの皮肉たっぷりなポップ・ロック。ここでもPaddy、スタジアム・ロッカーを気取って、珍しくシャウトまで効かせているくらい、堂に入っている。
 車と女、まさしくアメリカン・ロックそのものを、ひ弱な英国人が皮肉交じりに演じるその構図は、当時なら有効だったのだろうけど、今になって聴いてみると、普通のポップ・ソングとして埋もれてしまいそう。時代背景も考慮して考えないと、その批評は成立しない。
 ま、別にそんなこと、いちいち考えなくてもいいけどね。
 UK最高44位は、彼らとしてはまぁ普通。



3. I Remember That
 一般的なPrefabっぽさを求めるのなら、このアルバムはここからがスタート。非常にドラマティックな音像は、さすがThomas。実は音数自体は少なく、基本のギター・ベース・ドラム、それに薄いシンセとアクセントのアルト・サックスくらいしか入っていないのだけど、なのに音の厚みを感じさせるのは、丁寧に重ね合わされたサイド・ヴォーカルやコーラス・ワークの重厚感。こういった作り込み感が、本来の持ち味である。

4. Enchanted
 浮遊感あふれるポップ・ソングなのだけど、妙にリズムが立っているのは、大きくミックスされたベースのルート音が大きく作用している。
 PrefabといえばどうしてもPaddyのカラーが強く出がちなのだけど、この辺までのアルバムなら、まだリズム隊の活躍するシーンも多い。ちなみにベース担当は、Paddyの実弟Martin。テクニック的にはそれほどバリエーションはないのだけれど、曲調に合わせたラインとボトムの太さが特徴。

5. Nightingales
 “When Love Breaks Down”の二匹目を狙ったかのようなサウンド・プロダクション。静謐でありながら情熱も併せ持ったPaddyのヴォーカルを彩るように、柔らかに、それでいてジャマすることのないシンセの響き。間奏のハーモニカは、なんとStevie Wonderによるもの。ちょっとエフェクトをかけたその音色は、『First Finale』期のサウンドを想起させる。
 これだけ万全の態勢だったはずなのに、シングルはUK最高78位。ちょっと地味すぎたかな?



6. Hey Manhattan!
 ここからがLPではB面。ハリウッド映画をイメージさせる流麗なストリングスに乗って始まるのは、Paddyのモノローグ。その後、Wendyも入ってサビを一緒に歌うのだけど、ここら辺が二人のデュエットとしてはピークだったんじゃないかと思う。だってこれ以降のサウンドって、はっきり言ってWendyがいなくても成立しちゃうし。
 精巧に組み立てられたストリングス・サウンドと、それに乗って酔いしれるPaddyのヴォーカルを堪能できるのが、この曲。本格的にポップ・シンフォニーへ移行する『Jordan : the Comeback』からはもう少しAOR成分が強くなるのだけれど、ここではまだニュー・ウェイヴ系アーティストとしての気概が見える。
 一応、Pete Townshendがアコースティック・ギターで参加している、とのことだけど、どこで弾いてるのか、よくわからなかった。この曲調でPeteにアコギ弾かせたって、目立たないに決まってるのに、なぜ?



7. Knock On Wood
 リズム主体に作られた、彼らとしては珍しい曲。若干エスニック・モードも入ってるのは、ニュー・ウェイブ系のアーティストとしては珍しくはない。ただリズム隊とヴォーカルとのミスマッチ感は否定できない。まぁ、一曲くらいはこういうのもあっていいとは思う。

8. The Golden Calf
 1.2.のような批評的な視点と違って、ここは彼らが初めて真正面からアメリカン・ロックに取り組んだ、Prefabとしてはほぼ唯一と言ってもよい、きちんとしたロック・ナンバー。ヒネリのない8ビート、ルート音から外れることのない、ダウン・ストローク中心のベース、ややサスティンを効かせたギター・サウンド。
 ここではPaddyも普通のロックン・ロールをプレイしようと決意したのか、ほぼ俯く気配も見せず、ずっと前を見据えてシャウトしている。

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9. Nancy (Let Your Hair Down For Me)
 初期から中期の彼らのアルバムに必ず一曲は入っている人名シリーズ、今回は『Nancy』。この辺は次作『Jordan』に入っていてもおかしくないサウンド・プロダクションで構成。
 この曲、どこにも帰着点のないコード進行にもかかわらず、きちんとした楽曲として成立してるのが奇跡的と言える。メロディだってよく聴けばバラバラだし、ほんと雰囲気だけで進行しているはずなのに、ちゃんと最後まで聴き通すことができるというのは、ほんとPaddyのソング・ライティング能力の高さを象徴している。

10. The Venus Of The Soup Kitchen
 前曲同様、これもPaddyの才気あふれるソング・ライティング能力が炸裂している、不思議な曲。終盤のヴァ―スは伝説と言ってもいいくらい。
 このアルバム以降、Paddyのソング・ライティングはもう少しわかりやすく明快になり、不安定なコードの頻度も減ってゆくので、技巧に凝った曲も相対的に少なくなってゆく。




 この後のPaddyは、ニュー・ウェーヴ特有のシニカルなスタイルを封印、素直にアメリカへの強い郷愁を露わにした作品が続くことになる。  それはそれで、アーティストとして、ひとつの成長なのだろう。


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良い音楽に出会うことは、変わり映えしない日常に別の彩りを添えること - Prefab Sprout 『Let's Change The World With Music』

folder メイン・ソング・ライターでありヴォーカリストでありギタリストでもある、もはやソロ・プロジェクトと化したPrefab SproutのリーダーPaddy McAloon、彼の創作力の原点である、旧き良きアメリカへの憧憬をストレートにサウンドに反映させた『Gunman and  Other Stories』リリース後、再び長い沈黙に入ることになる。
 もちろん、ただ単にバカンスを満喫していたわけではない。だってそこはイギリス人、何週間も何か月も、能天気に仕事を忘れてのんびりする人種ではない。突き抜けるように高い青空よりも、くすみ淀んだ低い雨雲を好むのが、彼ら英国気質なのだ。

 ほんの身近な休息後、彼は再びレコーディング作業を再開するはずだったのだけど、大幅に体調を崩してしまったこともあって、その後のスケジュールに大幅な修正が講じられるることになる。
 長時間のスタジオ・ワークに加えて、趣味である大量の読書は、デリケートな視神経をじわじわ痛めつけ、遂には網膜剥離の診断が下され、休養を余儀なくされる。ロックン・ロール・ライフに憧れながら、私生活では清廉潔白に過ごしていたPaddyのことなので、それほど不摂生な生活を送っていたとは思えないけど、積年のストレスが溜まったのだろう。
 更なるトラブルとして、突発性難聴も加わることによって、状況は困難を極めることになる。それほどラウドなサウンドを作る人ではないのだけれど、やはりこれも長時間のレコーディングが祟ったのだろう。

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 この間も断続的ではあるけれど、様々なコンセプトを掲げて大量の楽曲を制作しており、優にアルバム10枚分くらいのデモは溜まっていた。ただ、どの楽曲も完全なものではなく、中途半端な曲の断片や、壮大な組曲のほんの一曲だけなど、未完成品ばかりがどんどん出来上がり、この期間、まともな形のアルバムとして纏められることはなかった。
 そのあまりに長い沈黙の中、時々無名の有志によって未発表テイクがネット上に流出し、その度世界中のファンたちはフォーラム上で一喜一憂していた。それがハプニングによるものなのか、それとも意図的なものだったのかは不明だけれど、こんなところばかりがAndy Partridgeに似てしまって、何となく複雑な気分になってしまうのも、ファン特有の心理である。

 で、Prefabとしての新作が袋小路に嵌まってしまい、気分転換に着手したアンビエント系のサウンドが意外にすんなりとまとまってしまい、ほとんど成り行きで初のソロ・アルバムとして2003年にリリースされたのが、『I Trawl the Megahertz』。これまでのPrefabとは似ても似つかない、まったりした環境音楽的サウンドに無機的なモノローグが延々と被さり、純粋なヴォーカル曲は一曲のみという、何ていうかリハビリのために出したんじゃないかと思われる、これで金取る気なの?とまで思ってしまうアルバムである。
 多分俺だけじゃないと思うのだけれど、よっぽど熱心なPaddy信者でもない限り、これをフェイバリットとは言えないはず。だって、Paddyにこんなサウンドは求めてないもの。
 一応Paddyの新作音源としてリリースされたので、通して一回か二回くらいは聴いたと思うけど、ほんとただそれだけ。流して聴いていつの間にか終わってた、という程度の印象しかない。
 ただ困ったことに、2015年現在、PaddyまたはPrefab名義で公式に発表されたオリジナル作品はこれが最後であり、これから紹介する『Let's Change The World With Music』も含めて、その後は過去のアーカイブを引っ張り出してきて、手を加えたものでしかない。
 
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 この作品も『Earth: The Story So Far』『Devil Came A-Calling』など、数々の未完のプロジェクトから派生した作品集であるため、一つの明確なコンセプトでまとめられているわけではない。壮大なプロジェクトが頓挫して、その残滓の中からいくつか拾い上げ、磨けば光る物に少し手を加え、どうにか形にしたものばかりである。しかも、ほぼゲスト・ミュージシャンは入れず、純粋にPaddyのソロ・ワーク、機材も一昔前のモノばかりのため、出来の良いデモ・テープ並みの音質である。
 かつての盟友Thomas Dolbyでもいれば、もうちょっとなんとかしてくれたんじゃないかとも思えるけど、当時はちょうどネット関連の事業の立ち上げに関わっていた最中のため、スケジュールが合わなかった、とのこと。まぁどちらにしろ、もう2人が組むこともないのだろう。彼らが仲睦まじくスタジオの中で起こした数々のマジックは、あの時かぎりのものであり、再現できる類のものではないこと、それは2人とも承知の上なのだ。

 これ以降もPaddy、『Steve McQueen』のリマスター作業など、断続的にアーカイブのリリースを行なっているのだけど、純粋な新作の話はとんと聞こえてこない。もちろん全盛期と違って体力的な不安はあるので、以前のようなペースでの作曲・レコーディング活動は難しいのだろうけど。
 
 でも、我々ファンは待つのだよ。いつかきっと、を信じて。
 


Let's Change the World With Music
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1. Let There Be Music
 いきなりリズムの立ったバック・トラックに乗せて、ちょっぴり黒っぽいナレーションが始まり、違うCDかと勘違いしてしまいそうだけど、Paddyの声が聴こえてくると、そこはもういつものPrefab Sprout。新機軸として、1990年当時流行だったハウス・ビートを見よう見まねで使用しているのだけれど、これが意外にはまっている。器用なんだよな、こういうとこが。
 


2. Ride
 こちらもリズムを強調したトラック。懸案だったMichael Jacksonをモチーフとしているためか、「リズムとメロディの融合」がテーマとしてあった模様。ソウル系の影響はほぼ皆無のPaddyだけれど、この打ち込みリズムは最新型ではない分だけ、妙に人力っぽさが漂っている。ただ、もうバンドの意味はないよね、これだと。
 


3. I Love Music
 ワルツを基調とした、リズム・パターンにこだわったトラック。間奏のプリセット丸出しのストリングスが時代を感じさせるけど、それ以外はいつものPaddy。普通のポップスのメロディ・ラインではなく、ジャズ・テイストを交えながら、一聴してPaddy’s Musicと分からせてしまうところが、強烈な個性でもある。

4. God Watch Over You
 重厚なエレピのリフレインが格調の高さを演出している、タイトル通り「神の視点」をテーマにした、シリアスな曲。朗々としたヴォーカルながら、重くなり過ぎないのはやはりメロディの美麗さ、敢えてチープなシンセの響きだろう。

5. Music Is a Princess
 直訳するとすごく気恥ずかしい、英語だからまだ堂々と歌うことのできる、非常に前向きで若々しさの残るナンバー。『Steve McQueen』あたりのアルバムに入っててもおかしくない、キラキラしたサウンドがバンド・サウンドを彷彿とさせる。こういった曲の割合がもう少し多ければ、もっとキャッチーになってセールス的にも健闘したのだけれど(UK最高39位)。

6. Earth, The Story So Far
 有名な未発表アルバムのタイトル・トラック。ここで初めて日の目を見ることになった、ということは、プロジェクト自体は完全お蔵入り?天地創造からPresleyまで、壮大な世界の歴史を語り尽くす予定が、サワリだけで終わってしまったってこと?タイトルとコンセプトばかりが独り歩きして、詳細は判明していないのだけれど、寸止めみたいな感覚がもどかしい。
 基本、『Jordan the Comeback』後に制作されたトラックが大半を占めるので、美麗なメロディを究めた後のテーマとして、リズムの工夫が目立つ曲が多い。アウトロのソプラノ・サックスも以前とは響きが違う。単品だけでも十分な味わいだが、これがフル・コースなら、一体どのような全体像になったのか。興味は尽きないが、すべてはPaddyの脳内にしまい込まれている。
 


7. Last of the Great Romantics
 『Jordan~』期を飛び越して、『Andromeda Heights』的サウンド、要するにAORを志向したトラック。もちろん極上のAORなのだけれど。ただ惜しいことに、急にこの曲だけ音質の劣化が見受けられる。全トラック、デモ・テープのリマスター版的サウンドなのだけれど、音の広がりが失われ、ダイナミック・レンジも妙に狭い。特に打楽器での響きが潰れた感じ。曲調はロマンティックなだけに、惜しい。

8. Falling in Love
 Paddy自身による打ち込みサウンドが多勢を占める中、比較的生音率の高いトラック。この曲のみ、地味な扱いではあるが生ギターが投入されており、ややカントリー・テイストのサウンドにオーガニックな彩りを添えている。

9. Sweet Gospel Music
 タイトルとは裏腹に、ちっともゴスペルっぽく聴こえないのだけれど、Paddyの中では立派にゴスペル・ミュージックなのだろう。黒人的なコーラスが入れば良いのではなく、要は神に捧げる音楽としては、ポップでありながら、そしてシリアスでもある。『Jordan~』的サウンドは荘厳としているため、テーマとの親和性は高い。

10. Meet the New Mozart
 ユニゾンではない多重コーラスを使うPaddyは意外に珍しい。コーラス・アレンジは『Jordan~』で、他のサウンドはエレクトロ・ベースのテクノ、時々ジャズも混入している。こういったリアルタイムの音楽にも目配りを行ない、「やってみた」はいいけれどイマイチしっくり来ず、結局いつものサウンドに落ち着いてしまうところが、これまたいつものPaddyである。
 案外保守的でなく、まずは恐れずに「やってみる」というのが、この人の妙に前向きなところである。自らの拡大再生産だけに終わらないところが、僅かではあるけれど新たなファンを獲得し続けている所以でもある。

11. Angel of Love
 ほぼヴォーカル・ラインだけで作ったサウンドに、グロッケンなどをエフェクト的に使用、Paddy率100%のトラック。ラストを飾る曲としてはドラマティックで良いと思うが、単品で聴いてみると、ちょっとお腹いっぱい。やはり壮大な組曲の一部として聴いた方が良さがわかる。

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 直訳すれば、「音楽で世界を変えてみよう」。
 当たり前の話だけれど、Paddyは音楽で革命を起こしたり、世界征服を目論んだりする人間ではない。また、音楽で人の心を掌握したり、世界平和を訴えたりなど、そういった大それた人間でもない。
 彼の本意はそういった大げさなものではない。もっと小ぢんまりとした、もっとパーソナルなものだ。
「良い音楽に出会うことは、心を豊かにすること、変わり映えしない日常に別の彩りを添えることなんだ」ということ。
 たったそれだけのことである。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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