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ポリスのアルバム未収録音源について(プラス要望) - The Police 『Flexible Strategies』


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 2018年にリリースされたボックス・セット『Every Move You Make The Studio Recordings』のボーナス・ディスクとして同梱された、ポリスのシングルB面集。オリジナル・アルバム5枚をアナログ仕様でまとめたもので、そこから漏れた楽曲を集めた、よく言えばレア・テイク集、悪く言っちゃうと寄せ集め。
 ポリスのボックス・セットは、1993年にリリースされた5枚組コンピレーション『Message in a Box: The Complete Recordings』がすでにあり、これが長いこと決定版とされていた。タイトル通り、全アルバム楽曲収録に加え、シングルB面曲や企画オムニバス、サントラ提供曲まで網羅されていたため、これがあればスタジオ音源は大方カバーできていたすぐれものである。
 そんなコンプリートに近いアイテムを作ってしまったことによって、その後のA&Mは延々、ポリス関連の営業戦略に苦心することになる。その後、発掘ライブがリリースされたり、再結成による盛り上がりがあったりはしたけど、多くのベテラン・バンド/アーティストのリイッシューで行なわれる、新たなボックス・セットの編纂や、一時流行った2枚組デラックス・エディションの企画は上がらなかった。
 何しろポリス、実質活動期間が6年程度でオリジナル・アルバム5枚、特にキャリアの初期〜中期は世界ツアーの合い間を縫ってスタジオに飛び込み、簡単な音合わせをしたらチャチャっとレコーディングを済ませる、といった按配だった。なので、レコーディングはしたけどボツにした未発表曲というのが、ほぼ皆無と言っていい。
 多少レコーディングに時間をかけられるようになった『Ghost in the Machine』『Synchronicity』期になると、当時のレコーディングのアウトテイクがブートレグで流通しているのだけど、これも既発表曲のデモや初期ヴァージョンばかりで、完全な未発表曲というのはなし。別な角度から見ると、ムダな時間がないため、物凄く経済効率の良いバンドだった、ということでもある。
 もともと個々が優れたプレイヤーだったこともあって、新人バンドにありがちなミステイクもなく、リテイクもほぼ存在しない。プライドも高く、血の気も多いメンツが揃っていたため、何かと怒声や殴り合いが絶えなかったバンドではあったけれど、メインのソングライター:スティングの才能については、他2名もリスペクトを惜しまなかった。
 中途半端なミュージシャン・エゴを剥き出しにしたインタープレイや冗長なソロを抑え、ヴォーカルとメロディを引き立たせるため、アンサンブルの調和に重点を置いた姿勢は、キャリアを通して揺るぐことがなかった。なので、ポリスの楽曲はどれも、時代を超えても風化しづらい普遍性を有している。
 ヘヴィー・ユーザー向けのアイテムが久しくなかったため、ポリス・ファンは長らく欲求不満を抱えていた。この先、新たな発掘音源の目処もなさそうだし、ハイレゾ音源ったって配信中心だから、リリースしたって地味だし。
 そんな中、近年のアナログ復興ブームに乗じてリリースされたのが、このアナログ・ボックスだったんじゃないかと思われる。正直、新味はまるでないけど、意匠を変えることで多少は話題になったんじゃないか、と。
 -で、ここまで書いていま知ったんだけど、CDボックス・セットも発売されてるらしい。なんだそれ。プレミア感まるでねぇや。

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 アナログ・ボックスで思い出したのだけど、確か『Synchronicity』リリース時、日本独自の企画でシングル10枚組ボックス・セットという企画があった。北海道の中途半端な田舎の高校生だった俺は、(多分)ロキノンの広告でそれを知り、穴が開くほどそのページを見つめたものだった。…ゴメン嘘だ。穴までは開いてない。
 特殊仕様のスリーブに収められた10枚の7インチ・シングル、しかもゴールド・カラー。さらに、シリアル・ナンバーが刻印された豪華木箱入り。
 それほどポリス・ファンじゃなくても食指が動く、当時のユーザーのツボを突きまくったアイテムだった。それだけ日本のマーケット・シェアがデカかったこと、さらにA&M担当者の熱意が強かったことの証でもある。


 ただ、当時の定価11,800円のこのボックスは、当然、高校生が気軽に買えるものではなかった。ポリス以外にもいろいろ興味が広かった俺にとって、すでに聴いたことがある音源のために大枚叩くのは、さすがにちょっとためらわれた。
 「せめて現物の姿だけでも一目」と、何軒ものレコード屋を探してみたのだけど、北海道の中途半端な田舎では入荷数も少なかったのか、お目にかかることはなかった。もし入荷していたとしても、金のある大人がさっさと予約で購入し、店頭に並ぶことはなかったのだろう。
 このレビューを書くまで、存在をすっかり忘れていた日本限定シングル・ボックス。ヤフオクでいくつか出品されているようだけど、見るとやっぱり欲しくなる。

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 3年前のリリースだったため、この『Every Move You Make The Studio Recordings』の存在自体は知ってはいたのだけど、『Flexible Strategies』の存在は、実は知らなかった。だって、単なるアナログ・ボックス・セットだと思ってたんだもの。そこまでチェックしてなかったよ。
 前述したように、解散(正確には活動休止中)してからもう35年、新たな音源もなければ話題もそんなにない。ロック史的な評価やポジションもすでに確立してしまい、この後、急に再評価されるような気配もない。
 フリートウッド・マックがTikTokでフィーチャーされて全米No.1になったことは記憶に新しいけど、スティングが現役バリバリで活動している状況だと、そんな偶然も起こりそうにない。変に時流に捉われなかった分、リバイバルしづらいキャラと音楽性が、ここで仇となっている。
 で、そんなレア音源集『Flexible Strategies』の存在を知ったのが、去年の話。ライブ・ブートまでチェックしているヘヴィー・ユーザーの俺からすれば、目新しさのないラインナップである。『Message in a Box』が手元にあれば、プレイリストの組み合わせでコレを作っちゃうことも可能である。めんどいから、そんなことしないけど。
 ボックスを買わないと手に入らない、レア・アイテムの特典として、ビギナーのポリス・ファンなら喜ぶのかもしれないけど、そもそも今どき、ポリスのライト・ユーザー自体が少なそうだし、やっぱりマニア向けアイテムということになるのかね。一応、「アビー・ロード・スタジオでの最新リマスター音源」という触れ込みだけど、もともと録音の良いバンドだったし、う〜ん。
 ただ、ちょっとだけ擁護させていただくと、アーカイヴ・ビジネスで生計を立てている多くのベテラン・アーティストと比べれば、ポリスはずっと良心的な方である。メーカーの担当者からすれば、新たな企画の立てようがなくて苦労しているんだろうけど、音質の悪いデモ音源やリハーサル・テイクまでかき集めてボックス化しちゃう、どこかのアーティストと比べれば、ずっとマシである。
 「ヘヴィー・ユーザーは騙せない」と悟ったのか、それとも「どうせオマケだし」と開き直っちゃったのか、この『Flexible Strategies』も後日、独立してリリースされたのだけど、フィジカルでの販売はナシで配信のみ。多少やましい気持ちもあったんだろうか。

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 「ポリスの全音源収録」と謳っているわけではないけど、これが新たな決定版とすると、問題は他の残りの楽曲。『Message in a Box』には収録されていたけど、今回見送られた楽曲の立ち位置はどうなってしまうのか。
 ポリスの二大黒歴史として挙げられるのが、まずひとつ目、来日記念でリリースされた「De Do Do Do, De Da Da Da」の日本語ヴァージョン。アーティストというよりまだ若手バンド(これも嘘)というポジションだった当時のポリスが、多分、「クイーンも日本語で歌ってから人気が上がった」というヨタ話にそそのかされてレコーディングした珍品である。
 ちなみに日本語詞を担当したのが湯川れい子。「ドゥドゥドゥデダダダは愛の言葉」って邦題は失笑ものだけど、原曲の詞が詞だけに、充分健闘したんじゃないか、とは思う。ていうか、同情しちゃうよな、こんな力技の仕事。
 もうひとつが「Don't Stand So Close to Me ‘86」、邦題「高校教師」の1986年ニュー・レコーディング・ヴァージョン。既発表のリ・アレンジというパンチの弱さに加え、肩透かしのショボさも相まって、US46位・UK24位と、セールス的にもショボかった現役時代最後のシングル。
 『Synchronicity』のワールド・ツアー終了後、ソロ活動に専念していたスティングのスケジュールが空いた時点から、ポリスのアルバム・レコーディングはスタートした。この時点でのバンドの状態は公式では「活動休止中」、解散するとかしないとかの話題は、まだなかった。
 ただ、メンバーの想像以上に作業は進まず―、ていうか、すっかりソロ・アーティスト然としていたスティングが曲を書いてこず、また手持ちの曲も出そうとしなかった。「誰もが誰かのきっかけ待ち」という状況が長らく続き、取っ掛かりとして手をつけたのが、「高校教師」のリ・アレンジだった、という次第。
 オリジナルからテンポをグッと落としたことでスティング色が濃いわ、レコーディング途中でスチュワート・コープランドが鎖骨骨折でドラムを叩けず、已むなくプログラミングでの参加になるわ、アンディ・サマーズは相変わらず自分の持ち分以外の仕事はしないわで、メンバーにとっても「無かったことにしたい」と思うのも無理はない。結局、どうにかまともに仕上がったのはこの一曲だけで、リリースされた時点ではすでに事実上解散状態だったという、まことにいわくつきのトラックである。
 他の未収録音源もなんらかの形でサルベージしてほしいけど、個人的にこの2曲は、早急にご検討願いたい。メンバーの意向もあるんだろうけど、全音源コンプしたいのがヘヴィー・ユーザーの願いなんだから、その辺はどうにか説得しようよ。
 ついでに、豪華木箱入りシングル・ボックスの復刻も、できたらぜひ。今なら即買いできるよ、大人だもの。





1. Dead End Job
 1978年のシングル「Can't Stand Losing You」のB面としてリリース。まだEU界隈を連日ドサ回りしていた頃の演奏で、「パンクって、こんな感じじゃね?」って風に勢い優先のストレート・パンク。
 「どうせB面だし」といった投げやり感は伝わってくるけど、さらに遊び心なのか実験性を追求したのか、左チャンネルでずっとサマーズが何か呟いている。どうやら新聞を読んでいるらしい。ちなみに「Can't Stand Losing You」の初版ジャケット、首を吊った人形が思いっきり写っているため、かなりセンシティヴ。とてもここでは紹介できない。

2. Landlord
 UK1位の出世作となったシングル「Message in a Bottle」のB面としてリリース。1.と同じくハードでシンプルなロックンロール。
 サマーズがかなりノッてるのか、それとも単調なプレイにすでに飽きてるのか、いちいちオブリガードをぶっ込んできている。そんな中でもスクエアなプレイのコープランド。

3. Visions Of The Night
 1979年のシングル「Walking on the Moon」のB面としてリリースされているけど、レコーディングされたのは1.と同じセッションのため、2年ほど寝かされてから世に出たトラック。「寝かせた」というよりは、没テイクを引っぱり出してきた感じかね。
 シンプルというよりは、単調で大味な印象。どんな経緯があったかは不明だけど、あのジョン・ケイルがプロデュースした、とのことだけど、どこまでの貢献度だったかも、ちょっと不明。ていうか、名義貸しただけだろ、こんな出来だったら。
 この時のテイクに満足行かなかったのか、再度『Outlandosd'Amour』のセッションでもリトライしているのだけど、こちらは未発表。多分、そんなに変わり映えしなかったのだろう。どれだけいじっても、何か変わりそうとは思えないシンプルさだし。

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4. Friends
 「高校教師」のUK盤シングルB面としてリリースされた、サマーズ作曲のインスト・ナンバー。1.同様、ここでもサマーズ、なんかミステリアスっぽいモノローグを挿入している。時期的に『Zenyatta Mondatta』セッション時に制作したと思われ、メンバー全員によるコーラスが、同じくインストだった「Reggatta de Blanc」っぽい。
 この時代にまでなると、アンサンブルも少し凝ってきて、ライブ仕様に捉われないオーバーダヴも多くなってくる。なので、3ピース・バンドとしては円熟期であり、一番面白い時代の貴重な演奏なのだけど、でもやっぱモノローグは余計。普通にインストで聴きたかったな。

5. A Sermon
 「高校教師」のUS盤シングル、またUKでは「De Do Do Do, De Da Da Da」のB面としてリリースされた、コープランド作曲によるロック・チューン。時系列・リリース順に収録されているはずだけど、何かここだけ急に古くさくなったな、って思って調べてみると、『Outlandos d'Amour』セッション時の音源だった。要はボツ音源のお蔵出し。
 なので、そりゃもちろんポリスの音源だから、同時代のバンドと比べてクオリティは高いんだけど、全体的にアンサンブルがこなれてないというか、演奏と歌がバラバラ。まぁB面だしな、ってことなのだろう。もうちょっとギターを引っ込ませた方がバランスが取れると思うんだけど、ひと世代上でプロ歴も長いサマーズに忖度しちゃったのかね。

6. Shambelle
 シングル「Invisible Sun」のB面としてリリースされた、サマーズによるインスト・チューン。変なモノローグや変拍子もない、ちゃんとしたロック・チューンとして仕上げられている。やればできるじゃん、アンディ。
 3人のプレイもしっかりしてるので、うまくコンセプトとマッチしていれば『Ghost in the Machine』に入れても良かったんじゃね?と勝手に思ってしまう。アンサンブルの様子から察するに、ヴォーカルを入れることを想定してレコーディングしてるようだけど、アンディがうまく歌えなかったのか、それともスティングに頼んだけど断られちゃったのか。いずれにせよ、その辺がちょっと謎っぽい。

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7. Flexible Strategies
 「Every Little Thing She Does Is Magic」のB面としてリリースされた、こちらはメンバー全員がクレジットされたインスト・ナンバー。サマーズのギター・ソロがフュージョンっぽいのと、リズム・セクションがファンク・アプローチなことから、「One World」との類似性が見えてくる。そっちの方が出来が良かったのか、はたまたここから「One World」に発展したのか。
 アルバム・タイトルに選ばれるくらいだから、メンバーそれぞれに思い入れがあるのかもしれないけど、その辺のコメントがないので不明。でも、メイン・トラックっていうほどのインパクトはないんだよな。

8. Low Life
 「Spirits in the Material World」のB面としてリリース。『Ghost in the Machine』とテクスチュアが違うな、と思って調べたら、『Reggatta de Blanc』セッションの没テイクだった。
 ライブやレコーディングを手伝っていたドイツのアーティスト:Eberhard Schoenerとのセッションで着想を得たスティングが書き上げた曲で、そのためかいつもと違うブルース・テイストがあるのはご愛敬。ほんとスティング、ブルースって似合わないよな。

9. Murder By Numbers
 彼ら最大のヒット「見つめていたい」のB面として、また『Synchronicity』日本盤CDのボーナス・トラックとしてリリースされていたため、このアルバムの中では比較的存在が知られているトラック。でも、いつの間にアルバムからは外されちゃったんだよな。まぁそれがバンド側の意向なんだろうけど。
 でも『Synchronicity』、アルバムを通して聴いてみると、サマーズ作の「Mother」やコープランド作「Miss Gradenko」など、アナログA面は何かとアラが目立つのも事実。ほぼスティングのソロであるアナログB面の完成度の高さが際立つゆえ、バンド内の不協和音が通底音として流れている。そんなスティングも、大トリの「サハラ砂漠でお茶を」が超絶地味なエンディングになっちゃってるし。
 そう考えると、曲順さえうまく調整すれば、「Murder By Numbers」も『Synchronicity』に組み込めたんじゃないか…、っていうのは大きなお世話。

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10. Truth Hits Everybody (remix)
 オリジナルは『Outlandos d'Amour』収録、このテイクは「見つめていたい」の2枚組シングル・セットとしてリリースされている。「リミックス」という表記になっているけど、実際はテンポも違えばアンサンブルもまるで違う、実質ニュー・レコーディング。
 ストレート・パンクのオリジナル・ヴァージョンと比べ、グッとテンポを落としてボトムの効いたサウンドは、確かに『Synchronicity』期。ちなみにこのトラック、正規にリリースはされているけど、コープランドが演奏した記憶がなく、実はスティング単独のデモ・レコーディングという説がある。
 このサイトでは「ギターがサマーズっぽくない」とのことだけど、イヤイヤちょっと雑ではあるけど、サマーズだろこの音は。


11. Someone To Talk To
 「Wrapped Around Your Finger」のB面としてリリースされた、サマーズ:ヴォーカルによるチューン。スティングが書いた初期ポリスの楽曲を82年のサマーズ主導でアレンジしたような、ちょっと古さが感じられるのは致し方ないことか。
 当時のサマーズはあのロバート・フリップと交流を深めていた頃で、当時、ハイペースで2枚のコラボ・アルバムをリリースしていた時期と一致する。向こうも向こうでクリムゾン関連で何かとこじれていた頃で、バンド内の立ち位置でこじれていたサマーズとの相性が良かったんじゃないかと思われる。
 フリップの影響を受けてこれや「Mother」みたいな曲を書いたとは思いたくないけど、少なくともソングライターとしての力量は、スティングに大きく引き離されたことは確かである。

12. Once Upon A Daydream
 「Synchronicity II」のB面としてリリース。当時、日本でも発売された12インチ・シングルのB面にも収録されており、思えばそれが初めて俺が買ったポリスのレコードであり、個人的に思い出深いトラックでもある。
 『Ghost In The Machine』セッションのアウトテイクらしいけど、すでに『Synchronicity』っぽさ、ていうかスティング:ソロのテイストが感じられる。作曲にはサマーズも噛んでいるらしいけど、スティング色が濃いため、あの変なアングラ臭は感じられない。








「ケンカするほど仲はいい」とは言うけれど。 - Police 『Synchronicity』

folder 実質5年という短い活動期間の中、Policeは世界ツアーとレコーディングのルーティンを繰り返し行なっていた。やり手マネージャーMiles Copeland の戦略に基づき、次々とスケジュールが組まれため、『Ghost in the Machine』のレコーディングまで、ほぼ休みのない状態だった。
 明確なビジョンと行動力のあるマネジメントのおかげもあって、Policeは早い段階からワールドワイドな活動を行なっており、実際結果もついてきたわけだけど、実働部隊からすればたまったものではない。
 いま自分たちがどの国にいるのかもわからない、長く終わりなき世界ツアーの最中も、膨大な取材やフォト・セッション、当て振りの演奏を強要されるテレビ出演がねじ込まれる。訪れる国は変わっても、求められることは大体似たようなものだ。
 場所が変わっただけで、やる事は大体いつも同じ。そんな日々が長く続けば、時々フラストレーションが爆発するのも無理はない。定番の乱痴気騒ぎだったり、またはメンバー間のゴタゴタが絶えなかったり。

 そんな間を縫って、彼らは断続的にスタジオに入り、レコーディングを行なった。ライブで練り上げてきた曲もあるけど、ほとんどはスタジオに入ってから書き上げ、ほぼぶっつけ本番で演奏を組み立てる。何しろ時間が足りないので、短期間でチャチャっとまとめなければならなかった。
 メインのソングライターであるStingがハイレベルの多作家であったこと、またStewart Copeland もAndy Summers もテクニック的には折り紙つきだった上、下積みが長かったこともあって、場数を踏んでいた。なので、彼ら3人が顔を合わせて音合わせ、すぐ本テイクがレコーディングされ、それでいっちょ上がり、という具合が続いていた。
 Stonesのように、ダラダラ長時間セッションを行なうよりはずっと合理的だけど、逆に言えば、じっくり練り上げることがなかったため、若干やっつけ仕事っぽいテイクがあることも事実。「De Do Do Do, De Da Da Da」なんて、語感の勢いとインパクト勝負だけだもんな。その力技が強烈なんだけど。

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 デビューからずっと、そんなレコーディング事情だったため、意外なことにPoliceの未発表曲というのは、ほぼ存在しない。1993年にリリースされた5枚組ボックス・セット『Message in a Box』にも、シングルのみリリースの曲がいくつか収録されているけど、ほとんどは耳慣れたアルバム収録曲ばかりで、レア物といえるものはない。その後も、大物アーティストにありがちなデラックス・エディションの企画も立ち上がらないところからみると、よほど発掘ネタがないんじゃないかと推測される。
 プリプロダクションの段階でキッチリ絞り込んだおかげか、それともほんとに年末進行状態で手早く作業していたのか。まぁどっちもありえるな。
 それにもともと彼ら、長時間一室に閉じ込めて成果が上がるタイプのバンドではない。むしろ、普段はできるだけ遠ざけておいた方がよい、どいつもこいつも血気盛んな輩なのだ。
 スタジオ内やステージでのつかみ合い、または怒号。真剣さが高じて殺意が飛び交うバンド。それがPoliceだ。よく何年も一緒にやってたな。

 働きづめだった彼らへのご褒美として、彼らはモンセラット島でのバカンス休暇を与えられる。とはいえ、そこはマネジメントの抜け目ないところ、バカンスと兼ねて次回作のレコーディングもセッティングされていた。
 まぁ本人たちも、その辺は同意の上だったんだろうな。デビューしてからずっと、時間に追われたレコーディングだったし、ゆっくり手間ひまかけた作業ができる環境を用意してもらったんだし。

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 Policeの基本サウンドは、Sting × Stewart × Andyによるシンプルな3ピースが主体で、これは活動休止前まで変わることはなかったけど、このレコーディングでは時間的な余裕もたっぷりあったおかげで、メンバーそれぞれ寄ってたかって、サウンドでの実験に力を入れている。骨格のギター・ベース・ドラムのトライアングルに加え、ポリフォニック・シンセやホーンが、あらゆる曲で効果的に使用されている。最低1曲は入っていたレゲエ・ビートも一層され、シンセポップへ大胆にアプローチした楽曲が主体になっている。
 これまでと勝手が違うセッションだったせいもあって、ここに来てリハーサルやリテイクの数が多くなっている。なので、ブートで流出しているスタジオ・セッションというのは、ほぼこの時期に集中している。公式では未発表なので、聴きたい人は各自調べてみてね。
 「ケンカするほど仲が良い」とはよく言ったもので、いくら殴り合いが多かった3人とはいえ、この時期は一緒にレコーディング・ブースに入るだけ、まだマシだった。3人そろって「せーの」で音を出し(この時点でつかみ合いになることも多いけど)、ラフ・ミックスを聴きながら、あぁだこうだと意見を出し合いながら、シンセやエフェクトを加えたりして(この辺だと殴り合いだな)。基本は、従来のバンド・スタイルと大差ない。

 『Synchronicity』レコーディングは、『Ghost in the Machine』で培ったメソッドを、さらに深く推し進める形で行なわれた。基本、演奏は3人で行なわれ、ほぼ外部ミュージシャンを使うことなく、あらゆる機材が使用された。されたのだけど、レコーディングで3人が顔をそろえることはほとんどなく、大抵は個別のブース、スタジオを使用して別々に行なわれた。
 3人ともソロ活動を開始していたため、スケジュール調整が困難だった、というのが表向きの理由だった。シンセ機材の導入によって、特にStingの楽曲なんかは、ほぼ独りで完結させたトラックもあり、グループとしての必然性が薄い状況が垣間見える。
 当時からすでにささやかれていたことだけど、実際はグループ内の人間関係の悪化に尽きる。以前までは、せいぜい殴り合い程度で済んでいたのが、ここに来て蔓延しつつあった、シャレにならない殺気立った空気を、本人・スタッフとも按じての処置だった。
 3人そろってスタジオ入りしても、2人はそれぞれ別のブース、もう1人が調整卓の前とバラバラだったため、以前のような顔を合わせてのセッションは、ほとんど行なわれなかった。
 そんな按配だったため、『Synchronicity』のアウトテイクというのは、原則存在しない。ほとんどの楽曲はStingの手によるものだけど、彼の場合、もともと音源管理がしっかりしているのか、デモ・ヴァージョン的なものも発掘されない。30年経っても流出しないのだから、本当にないんだろうな、そういったのも。

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 言っちゃえば、Stingのソロ・アルバムの助走みたいな形となった『Synchronicity』 、初期の中心コンセプトだった「レゲエとパンクの融合」といったお題目はどこへやら、万人向けにすっきりコンテンポラリーにまとめたサウンドは、コアなロック・ユーザー以外にも強くアピールし、大ヒットを記録した。何しろ、あの『Thriller』と対等に渡り合っていたくらいだから、人気のほどが窺える。
 取り敢えず、一触即発が続きながらもレコーディングを終え、大規模な世界ツアーに出る3人。もうこの頃になると、いろいろ突き抜けてしまった挙句、ビジネスライクな関係へ変化していた。
 ちょっとした小競り合いくらいはあったけど、基本は不干渉。顔を合わせるのは最小限に抑え、貼り付けたような笑顔で人前に立ち、インタビューを受ける。もともとフレンドリーな関係ではなかったけど、えも言えぬ殺伐さは隠しきれなかった。もう隠す気もなかったんだろうな。
 『Synchronicity』プロジェクトをひと通りこなし、3人はソロ活動に入る。
 -もうしばらくは、姿も見たくなければ名前も聞きたくない。
 一旦、クールダウンの意味も含めて、バンドは暫し活動休止となる。

 それから3年ほど経過して、再度彼らは集結する。再びPoliceが動き始めた。
 長いブランクは、誰にとっても良い結果をもたらすはずだった。
 3年も経つと、大抵の悪感情は吹き飛んでしまう。わだかまりは薄れ、過去を振り返る余裕が生まれてくる。あの時ががむしゃらで気づかなかったけど、俺たちすごい事を成し遂げたんだし、考えてみれば、そんなに悪い奴らじゃなかったよな。
 誰もが、そう思っていたはずだった。ここはひとつ気持ちを改めて、もう一度バンドでやってみようじゃないか。
 そのはず、
 だったのだ、
 けど―。

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 結局、そのセッションは、何も生み出すことなく終わった。レコーディングにあたり、メインのソングライターであるはずのStingが、新曲を提供するのを渋ったのが主因だった。
 すでにソロ活動が軌道に乗っていた彼にとって、出来の良い楽曲は自分のものという認識だった。まぁ間違っちゃいない。いないのだけれど。
 かつてのように、スタジオでは怒号が飛び交い、掴み合いが始まった。それが一段落すると、延々と重い沈黙が続いた。時間だけが、無為に過ぎて行った。
 フレーズの断片や単調なリズム・トラックだけでは曲が構成できず、結局形になったのは、「Don’t Stand So Close To Me」のセルフ・カバーのみ。まぁこれが中途半端な仕上がりで、再始動のリード・トラックとして、一応は絶賛されていたけど、オリジナルを知ってる人なら「何これ?」と思っていたはず。PV制作を担当したGodley & Cremeの映像テクニックでごまかされたけど、アレンジは至って凡庸。多分、本人たちにとっても黒歴史だな。
 どうしてもキャンセルできなかったと思われるライブを3回行なった後、その後音沙汰はなく、Policeは自然消滅した。多分、アルバム契約も残っていたんだろうけど、「Don’t Stand So Close To Me ‘86」を無理やりねじ込んだベスト・アルバム発売で事態収拾した。多分、Michael Copelandがうまくねじ伏せたんだろうな。

 それからさらに20年ほど経って、3人は再々集結する。綿密な準備と段取りによる、本格的なリユニオンだ。大規模な世界ツアーを行なったけど、Stingの強い希望によって、レコーディング・セッションは行なわれなかった。
 -あんな惨劇はもうまっぴらだし、もし続けられたとしても、『Synchronicity』のクオリティには絶対追いつけない。
 そう悟ったのだろう。3人とも。








1. Synchronicity I
 パンクでもニューウェイブでもない、その後、各自のソロでも似たようなのがない、突然変異的に生まれたPoliceオリジナルのサウンド。シンセというよりは、キーボードだな、特別音色もいじってないようだし。あとはいつもの手数の多いドラム、それと同じく手数の多いリード・ベース。あれ、ギターは?ここではAndy、鍵盤系を受け持っている。
 「意味のある偶然の一致」という哲学用語をテーマにサビを設定したことによって、発語やコンセプトは硬質となっている。サウンドは隙間なく埋められ、3ピース特有の「間」はほぼない。息が詰まる、でもあっという間の3分間。

2. Walking in Your Footsteps
 Stewartの繊細でマニアックな技が光る、ポリリズミックなパーカッションをベースとした、浮遊感あふれるトラック。アフリカ奥地のジャングルの夜、深い闇で行なわれる獣たちの宴。そんな感じ。途中、いきなりキーを上げて咆哮を上げるSting。その雄叫びは、帳を切り裂く。

3. O My God
 『Zenyatta Mondatta』期を思い起こさせる、シンプルに3ピースで構成されたチューン。こういったリズムから発展して作らてたような曲だと、ほんとStewartの貢献度が大きなものだったことがわかる。やや走り気味のドラムを制するような、Stingの効率的かつキャッチ―なリフ・プレイ。なのでAndy、ここでもあんまり存在感がない。

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4. Mother
 と思ったら、ここでAndyが覚醒。呪術的なイントロと、マッド・サイエンティストのようなヴォーカル。絶叫と嗚咽、そしてサイケなギター・プレイ。後半にはサックスとのユニゾンなのだけど、プレイするのはなぜかSting。
 アバンギャルドっぽい曲で遊ぼうぜ的な流れだったと思うのだけど、よく収録したよな、こんなの。彼らのディスコグラフィーでも異彩を放っている。

5. Miss Gradenko
 Stewart作による、1分ちょっとのブリッジ的な小品。とはいえ軽く見ることはできず、ドラム、ベース、ギターとも細かな技をこれでもかと投入している、聴けば聴くほど新たな発見の多い曲。やっぱりPoliceってリズムなんだよな。Stingのメロディも、彼あってのものだというのがわかる。

6. Synchronicity II
 3枚目のシングル・カットとして、UK17位US16位。シンプルな8ビートのロック。ベースは重く、スネアもキックもデカい。やっとAndyもまともなロック・ギターを弾いている。
 思えば、俺が生まれて初めて買った洋楽がPoliceで、しかもこの曲の12インチ・シングルだった。ラジオで聴いてカッコよさを全身で受け止め、ダイエーのレコード店でこれを買った。まだ中学生だったので、アルバムまでは手が出なかったのだ。最初に好きになったのが彼らで、結局のところ、俺にとってのロックとはPoliceが基準になっている。そりゃ並みのバンドじゃハードル高いわな。



7. Every Breath You Take
 UK・USともに1位を獲得、言わずと知れた代表曲。近年では、「大人のラブ・ソングだと思っていたけど、実は執念深いストーカーの歌だった」という評価が根付きつつある。アップライト・ベースの存在を知ったのが、このPV。この頃のGodley & Cremeは才気走っていた。

8. King of Pain
 UKは17位だったけど、USでは3位まで上昇、アルバム中、確実に3本の指に入る秀作バラード。シンプルなオープングから、徐々に音が増え、サビに入って3人そろう。B面では特にAndyの貢献度が多く、ここでも3分過ぎてのトリッキーなソロは絶品。そして4分近くになってのブレイク。音が急に薄くなり、緊張感はピークを迎える。
 激しいサウンドなのに、すごく冷たい芯を持った、そんな不思議な曲。

9. Wrapped Around Your Finger
 無数のキャンドルに囲まれた3人、静かに燃える炎越しに、軽やかに舞うSting。とことんシンプルながら、サウンドとのシンクロ感がハンパない。映像エフェクトは何も使っておらず、ひたすら手間をかけたPVは、楽曲のグレードアップに大きく貢献した。ていうか、もし映像がなかったら、地味なバラードで終わっていたかもしれない。
 UK7位US8位を記録。



10. Tea in the Sahara
 ラストはベース・ラインを主体とした地味なバラード。いやほんと地味だから。アナログではこれがラストだったのだけど、まさかキャリアのシメがこれになるとは、本人たちも思ってなかったんじゃないだろうか。かなりStingのソロ色が強い、ミステリアスかつジャジーなバラード。

11. Murder by Numbers
 というわけなので、リアルタイムでは聴いていないため、いまだに馴染みの薄い曲。StingとAndy共作による、こちらもジャジーだけど、もうちょっとテンポ感のある曲。まぁ入れる場所、なかったんだろうな。ボーナス・トラックなので、まぁCD買ったらおまけがついててラッキー、っていう程度の印象。







アーサー・ケストラーなんて怖くない- Police『Ghost in the Machine』

folder 1981年リリース、前作『Zenyatta Mondatta』 からきっちり1年のブランクで制作された、4枚目のオリジナル・アルバム。この時期になると、世界的にもパンク~ニューウェイヴバンドのオピニオン・リーダーとしてのポジションが確立されており、UK1位US2位は指定席みたいなものだけど、日本ではオリコン最高29位と。
 これだけ見ると、洋楽アーティストとしてはまぁ健闘したかな?といった感じだけど、前作が16位、これの次の『Synchronicity』が17位となっているため、このアルバムで失速してしまった感が強い。なので、日本ではちょっと影の薄く、習作的扱いとなっている論調が強い。「『Synchronicity』において完成されたPoliceサウンド」に至るまでの過渡期の作品、てな感じで。

 世界中で売れに売れた『Zenyatta Mondatta』を引っ提げて行なわれた世界ツアーは、1年強で全86回ものショウに及んでおり、その間に『Ghost in the Machine』制作に向けてのプリプロや曲作りも行なっているのだから、彼らが質量ともにハンパないレベルのハードワークをこなしていたか。それにつけ加えて、各メディアからの取材やらTV・ラジオ出演やらも行なっているので、とにかく休まるヒマがなかったはずである。彼らだけに限らず、この時代のアーティストらのワーカホリックぶりが窺える。

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 今ではアーティスト・サイド主導による余裕を持った活動ペースが主流となっているけれど、90年代くらいまではレコード会社コーディネートによる「アルバム・リリース → プロモーション・ツアー → アルバム・リリース」という無限ループが当然とされていたため、楽曲制作に多くの時間をかけられないケースが多々あった。ツアーの合間を見ながらレコーディングしたり、またはレコーディング最中に楽曲制作に追われたりなど、クオリティの追求とは相反する状態こそが、むしろ通常でさえあった。当然、ライブ会場とツアー先のホテルとの往復ばかりの毎日では、アーティストとしての耐用年数は加速度的に減じてゆく。作品の出来はムラが多く、同じ曲ばかりリクエストされるライブでは、心身ともに消耗が激しくなる。
 何やかやのストレスの捌け口、爆発手前のガス抜きとして、大抵のアーティストなら一度は過剰な酒やセックスに走ったりする。もともと清廉潔白な者の方が少ない業界なので、多少のおいたは致し方ないところ。ある程度遊び慣れてる者ならそれで済んじゃうんだろうけど、変に真面目というか依怙地な人だったら、その辺の切り替えがうまくできなくて、終いには怪しげな宗教やドラッグに走っちゃったり、あげくの果てには自ら死を選択したり。何ごとも根を詰めすぎるのは良くないよね。
 Policeの場合だと、そこそこ分別はあった人たちっぽいので、大きくハメを外したエピソードは聞かない。まぁ世界各国を回ってるうち、ちょっと過剰サービスの接待や乱痴気騒ぎはあったんじゃないかと思われる。そういった情報統制やメンバーのメンタル面のケアなど、世界的にメジャーなアーティストになると、きちんとした管理が重要となる。その辺はStewart Copeland の実兄Milesのマネジメント力によるものが大きい。

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 新人パンク・バンドとしてデビューしたPoliceだけど、新人というわりには3人ともとうが立っており、素人に毛が生えた程度の他のバンドとは明らかに毛色が違っていた。パブ・ロック上がりのようにパンク以前からの下積みが長かったわけではない。別のジャンルで相応のキャリアを積んでいた熟練プレイヤー達が、パンク・ムーヴメントの追い風に乗って戦略的に結成されたバンドである。「売れる」ことが大前提にあったため、そもそもの成り立ちが違っていたのだ。
 プログレやジャズ、60年代ロックをバックボーンに持つ卓越したプレイヤー達が、敢えてそのテクニックを封印し、単調な8ビートとルート音のベース、シンプルな3コードでデビューしたのも、戦略のうちだった。変拍子や速弾きプレイが前時代的なものとして受け入れられなくなった70年代中葉、注目を集めるためには熟練の職人技はむしろジャマでしかなかった。
 後方伸身宙返りもマスターした優秀な体操選手が、近所の体操教室のレベルに合わせてでんぐり返しばっかりやっていると、フラストレーションは溜まるし技術レベルも低下する。朱に交れば何とやらで、自らミッションを課しないと思考レベルまで周囲に引き寄せられてしまうのだ。そんな事態を憂慮したのか、他のチンピラバンドとの差別化としてレゲエを取り入れたり、暗喩や隠喩を絡めた歌詞世界など、自分たちで飽きが来ないように手を尽くしていたわけで。

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 今でこそ、wikiやらファン・サイトやらで、彼らの詳細なバイオも簡単に調べることができるけど、活動当時は前述のバックボーンや音楽性のルーツなど、よほどのマニアでもない限り、広く知られていなかった。Curved Airや後期Animalsのファンと、パンク〜ニューウェイヴのファン層とがほぼ被らなかったおかげもあって、彼らの前歴がばれることもなかった。その辺はマネジメントの方も、巧妙に隠していたわけで。
 なので、前歴を知っていたPoliceファンというのはほぼいなかったため、3ピース・パンク色が払底された『Ghost in the Machine』の登場は、青天の霹靂だった。これまではあくまでパンク~ロックンロールの文脈で組み立てられていたサウンドが、80年代を代表するプロデューサーHugh Padghamの手によってコンテンポラリー色が一気に増した。前作とは大きく色合いを変えたサウンドは、ほんの少しだけ物議を醸した。
 シンプルな3ピース・パンクこそ至上のサウンドである、とするPolice原理主義者らはその路線変更を良しとしなかったけれど、そこまでガチガチだったのはごく少数で、彼らの声は論議にもならずフェードアウトした。

 破壊と創造の連鎖だった70年代が終わり、虚無と享楽の80年代が始まっていた。「何でもアリ」のニューウェイヴ・ムーブメントの最中に提示された「プロフェッショナルにカスタマイズ」されたサウンドは、新たなファン層の拡大に貢献した。
 シンプルなサウンドも3枚続けば、さすがに新味も薄くなってしまう。わずか3つの楽器だけでは、バリエーションといったって限界がある。あとは自己の無限コピーか拡大再生産、または思いっきりアバンギャルドに向かうしかなくなってしまう。「売れる」ことは一先ず達成したけど、「売れ続ける」には臨機応変な判断が必要となる。3ピースで構成されるサウンドの臨界点が『Zenyatta Mondatta』だとすれば、次回作は新たな切り口が必要となる。
 路線の軌道修正には、ちょうどいい頃合いだった。周囲に右ならえのでんぐり返しから、いきなり2回転半宙ひねりを繰り出した瞬間である。
 彼らが本気で世界レベルでのスターダムに向けて動き始めた。

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 デビューからの3作がプラモデルでいう、色もデカールもつけていない素組みだったとすれば、その後の2作はカラーリングや陰影をつけた立体感のある完成品である。ただ、半ば活動休止を前提として制作された『Synchronicity』を総決算として捉えるとすれば、この『Ghost in the Machine』こそがPoliceサウンドの完成形ということになる。今後の3人それぞれの方向性を示唆する作品の集合体『Synchronicity』以前、ソングライターStingの覚醒を素材として、他2人が対等の立場で料理していった結果が、『Ghost in the Machine』という近未来テイストの濃い作品として結実している。
 彼らの演奏スキルを持ってすれば、そのStingの成長より以前、もっと早い段階から完成形のビジョンは見えていたはずである。ここまで哲学的にならなくとも、楽曲テーマの深化、またサウンドのゴージャス感アップは可能だったんじゃないかと思われる。
 ただ、彼らはここに至るまではそこに手をつけなかった。
 「機が熟すのを待っていた」という見方もあるけど、彼らのアイディアの具現化に、レコーディング技術やマシン・スペックがやっと追いついた、というのが真相に近いだろう。これがもう1、2年早かったら、リズムにメリハリの効いたプログレ程度で終わってたんじゃないかと予想される。

 デビュー当時からほぼエンドレスで続けてきた、足かけ3年に及ぶ世界ツアーを終え、彼らはカリブ海に浮かぶ孤島モンセラートへ向かう。そこにはGeorge Martin所有のエアー・スタジオがあり、当時は数々の著名アーティストらがレコーディングで訪れていた。人里離れたリゾート地も兼ねていたため、まぁ長期休暇には格好の立地だったとも言える。実際、どのアーティストもレコーディングよりビーチでくつろぐ時間の方が多かったらしいし。
 Policeの場合も例外ではなく、バカンスを兼ねてだったけれど、そこは前述のCopeland兄の仕切りによってレコーディングの方に比重が置かれていた。バカンスのくせに作業工程表はタイトに組まれており、しかも凝り性ばかりの3人がゆえ、結局はスタジオ内にいることが多かったというのは何とも皮肉。
 デビュー当時から、3人顔を突き合わせると殴り合いのケンカになるのは日常茶飯事で、この時も何かあるたびに衝突が絶えなかったらしいけど、Hugh Padghamの采配によって、どうにかレコーディングは工程通り進められた。バンドとして一丸となってサウンド・メイキングに注力した最後の作品が、この『Ghost in the Machine』である。個の集合体としての結果報告が『Synchronicity』なら、バンド総体の相乗効果の最終形は『Ghost in the Machine』ということになる。
 マルチ・レコーディングの功罪として、メンバー個別でブースに入ることが多くなるのが、この時期からである。この後は、バンド・サウンドとしてのPoliceを第一として考えていたCopelandから、バンドの主軸がSting に移り、ソングライター視点でのパーソナルな色彩の楽曲が多くなってゆく。次第にバンドとしての存在意義が薄くなってゆくのだ。


Ghost in the Machine (Dig)
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Police
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1. Spirits in the Material World
 コード弾きシンセのリズムはレゲエというより、もはや優美なワルツの如く。のっけから「僕たちは物質文明社会の魂なんだ」という、ポップ・ミュージックの語彙にはないサビを無機的にリピートするSting。ゴシック・ロック調のミニマル・フレーズは淡々と、それでいて既存のPoliceのイメージを次第に浸食してゆく。明らかに手触りが違っている。よく初っ端からこんな重い曲持ってきたよな。

2. Every Little Thing She Does Is Magic
 入口をダークなテイストで彩ることによって「これまでと違う」感を演出したのだけど、営業政策的なのか打って変わってポップなロック・チューン。彼らにしては歌詞もお手軽なラブ・ストーリー仕立てとなっており、シングルとして選出されたのも頷ける。シングルでUK1位US3位は、彼らの歴史の中でも大きく売れた部類に入る。



3. Invisible Sun
 『Ghost in the Machine』が彼らの作品の中でもダークな部類に入ることはファンなら周知の事実であり、大抵の楽曲なら好意的に受け取るものだけど、しかしこの曲をリード・シングルとしたことに違和感を覚えたユーザーは多かったんじゃないかと思われる。あまりに違うもの、以前とまったく別のバンドだし。
 当時、社会問題として英国では深刻化していた北アイルランド紛争をテーマとした楽曲は、必然的に陰鬱なテイストで彩られることになった。そういったメッセージ性・告発を行なうことはアーティストとしての義務である、と目覚めたのがStingだけど、他2名はあまり気乗りしなかったことは、後のインタビューでも明らかになっている。そういった視点を持つことが後のロック・セレブ化に繋がるわけだけど、いまにして思えば胡散臭さの方を強く感じてしまう。

4. Hungry for You 
 なので、極端にメッセージ性を露出させていない、旧来Policeサウンドに最も近いこの曲は、重苦しいムード漂う中においてはひと休みできるポイントであり、ごく普通に楽しめる。そうだよな、初めてこのアルバム聴いた時、何回か聴いただけで投げ出しちゃったけど、この曲だけはよくリピートして聴いてたもんな。



5. Demolition Man
 後にSylvester Stallone主演の同名映画に発展した、ソリッドなロック・ナンバー。ここではAndy Summersが大きくフィーチャーされて、印象的なリフとオブリガードを数多く披露している。ちょっと不協和音気味のホーンもアンバランスな状況を示唆しており、ダークではあるけれど当時から好んで聴いていたナンバー。もともとはGrace Jonesのために書かれた曲らしいけど、そっちはまだ未聴。ちなみにこの曲、彼らの中では6分と、最も長尺の曲。内容的にはプログレ的なテイストであるので、そういったテーマをたった6分で収めてしまうところに、彼らの気前の良さと構成力の妙が発揮されている。

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6. Too Much Information
 ここからアルバムではB面。ちょっと軽快なホーンとフリーキーなAndyのギター・ソロ、威勢のいいStingの掛け声。何となくこの辺にリゾートっぽさを感じてしまうけれど、リズムの重さはダークな世界観を支配する。たった3分にまとめられた勢い一発のナンバー。

7. Rehumanize Yourself
 B面曲のくせにやたらとポップで性急なスカ・ビートが印象的なナンバー。以前だったらこういった曲を軸にアルバムが制作されていたのだけれど、この配置だとまるでオマケの曲、アウトテイクから引っ張り出してきたかのような場違い感を醸し出している。いや俺はこういったPoliceが好きなんだけど。間奏の消防車のサイレンのようなホーンは特に印象的。

8. One World (Not Three)
 前曲に続き、リゾートっぽさが出たポップ・レゲエ。リズムの組み立ては完全にダブで、ほぼワン・コードでサビのフレーズのみで構成されている。灼熱の太陽の下、ジンライムでも飲みながら延々と聴き続けていたい曲である。

9. Ωmegaman
 多分、2枚目か3枚目に収録されていれば、アルバムの核として人気を博したナンバーになったのだろうけど、ここではいまいち場違い。程よいロック・テイストとちょっぴりの狂気。シンプルな8ビートは疾走感に支配され、リズム・アレンジも絶品。だからこそ惜しいのだ、こんな扱いで。

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10. Secret Journey
 アメリカでなぜかシングル・カットされ、46位にチャートインしたロック・ナンバー。ちょっと骨太なニューウェイヴ・バンドのシングルB面的な扱いの曲で、構造的にはシンプルでありながらエフェクトなんかで遊んでる感じ。曲はいいと思う。想うのだけれど。要するに、俺はこの曲、それほど興味がないのだ。


11. Darkness
 ここまでいわゆる「ロック」の文脈で構成されてきたこのアルバムだけど、Stewart作のこの曲だけ、ちょっとテイストが違っている。落ち着いたテイストでありながら、地を這うように鳴り響いているのは複雑に細かく刻まれたリズムの洪水。Andyも滅多に使うことのない逆回転ギターで存在感をアピールしている、。よく聴くとかなりアバンギャルドな実験が飛び交う曲でもある。
 そんな中でただ一人、朗々とペースを崩さず歌い、リズム・キープに徹したベースを奏でるSting。みんながみんな、あっちこっちへ行ってしまっては収拾がつかなくなる。それぞれのポジションを窺いながら振る舞うことが、バンド維持の秘訣でもある。



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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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