PSY・S

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

これまでのファンの期待を打ち砕く、やりたい放題のサウンド - PSY・S 『Emotional Engine』

folder PSY・Sの代表的なアルバムといえば、フェアライトCMIを全面的に使用した初期のテクノ・ポップか、Live PSY・Sに象徴される、Jポップ・テイストを導入した中期の作品に人気が集中している。ざっくり分類すると、『Collection』までが初期で、『Mint Electric』から『Signal』 までが中期といった感じ。あくまで俺の独断なので、異論があればどうぞ。
 で、中堅ポップ・バンドとしてのスタンスを確立して以降、後期の作品にスポットが当てられることは少ない。中期のシングル・ヒットの影響もあって、名前はそこそこ知られていたため、タイアップ付きのシングル・カットも多いのだけど、大きなヒットに結びついたわけでもない。アンサンブルやメロディ・センスもこなれてきており、全体のクオリティは上がっている。
 けれど、90年代を象徴するビーイングやTKサウンドと比べると、ヒットの条件である明快な下世話さが足りず、「センスが良い音楽」というレベルにとどまっている。中堅という立場上、ニッチな隙間を狙ってゆくというポジションではなかったため、ザバダックのようなマニアック路線という選択肢もなかった。
 コンポーザーである松浦の意向と、ソニーの方向性とがどれだけ噛み合っていたのかはわかりかねるけど、幸福な相互理解が失われつつあったのがこの時期である。

 そんなわけで『Emotional Engine』、一応音源は持ってはいるけど、長らくきちんと聴いてなかったアルバムである。そもそも購入したのも「これまでも聴いてたから」という惰性によるものであって、すっごく聴きたくて発売日に並んだものでもない。多分2、3度聴いてそのまんまになって、すぐに売っぱらってしまった記憶がある。
 近年になって俺の中でPSY・Sの再評価の機運が高まり、まとめてブックオフで購入したのだけど、やっぱり初〜中期の作品ばかり聴いていたので、ちゃんと聴いてみたのはコレが初めてである。
 当初は時系列に沿って、初期の作品から順を追って聴き進め、それに則ってレビューしてゆくつもりだったのだけど、初っぱなの『Different View』から行き詰まってしまった。どうにも文章が進まない。
 なので視点を変え、最終作から逆に追って聴いてみようと思い立ち、これを聴いてみた。理由なんてない。なんとなくだ。
 すると―。
 いいじゃないの、これ。
 思ってた以上に引き込まれる作品だった。

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 冨田勲によって開眼したシンセ少年が、紆余曲折を経て宅録上等のシンセ青年へと成長し、当時はめちゃめちゃ高価だったフェアライトCMIを個人購入、そこから導き出される緻密に構築されたアンサンブルが、初期PSY・Sの基本コンセプトである。
 ユニットとして最小単位の2名体制は、すっごく単純に分けると「歌担当」と「それ以外の音担当」と、きっちりした分業体制が確立されていた。互いの仕事を尊重するため、また効率的なバンド運営を志向する彼らの共同作業は、至極システマティックに行なわれた。
 初期のPSY・Sは主に松浦がイニシアチブを取っており、彼の意向がそのままコンセプトとして反映されることが多かった。デビュー前から関西方面でのライブ活動で実績を積んでいたチャカはといえば、キャリアは上にもかかわらず、逆に「まな板の鯉」的な状況を面白がっており、どんな具合に料理されるのかを楽しんでいた。
 ここではヴォーカリストとしてのエゴは必要ない。声もまた、構成パーツの一部でしかない。中途半端にプライドの高いアーティストならありえない扱いだけど、それだけ自分のヴォーカル・スキルに自信があった証でもある。
 チャカが引くことでバランスが維持されていた、平和な時代のエピソードである。

 ライブ活動を並行して行なうようになって、関わるミュージシャンも増えてゆき、次第に生音比率が多くなっていったのが、中期のPSY・Sである。
 コラボレーション・アルバム『Collection』 にて、他者との共同作業に目覚めた松浦。それまでは単独で作り込んで完結させる「個」の作業が中心だったけど、予測不能なアクシデントも多いセッション作業を重ねることによって、これまでになかったバンド・グルーヴへのカタルシスを得ることになる。
 すべての音を自分のコントロール下に置き、制御しないと気が済まなかったため、孤独な打ち込み作業に没頭していた松浦。そんな彼がエンジニアからミュージシャンへと成長して行く過程を赤裸々に記録しているのが、この時期である。

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 いわゆる80年代ソニーを象徴する「インパクト重視のサビ」、「MIDIシンセをメインとした耳触りの良いアレンジ」。それをPSY・Sサウンドの定義とするならば、ここで鳴っているサウンドは明らかに逸脱している。
 ブリッジ的なインスト小品もあれば、全編英語で歌われている楽曲もある。オリコン・チャートを意識したポップ・チューンもあるにはあるけど、全体を支配しているのはいびつで実験的、それでいて商業ベースのアベレージもクリアしたサウンドだ。クオリティは高いけど、これまでのキャッチーなPSY・Sを求めるユーザーからすれば、期待はずれ感は強い。
 しかし、その中期をすっ飛ばして、2枚目の『Pic-Nic』からの地続きとして考えると、流れはスッキリする。
 メンバー構成としては最小限の2人ユニット、やれることは限られてしまうけど、その限定された条件の中でやりたい放題ができる。前述したように、唯一のフィジカル要素であるチャカの肉声をサウンド構成パーツの一部として捉え、他者の介在を許さぬ閉じたサウンドが本来の資質だと考えれば、初期のヴァージョン・アップとしてのPSY・S像が見えてくる。

 PSY・S解散後、松浦は大ヒット作「パラッパラッパー」に代表される、いわゆる音ゲーのフロンティアとして独自路線を邁進するわけだけど、そこに肉声のヴォーカルはない。近年になって久しぶりに現場復帰して、マイペースでライブやSoundcloudへの音源アップを行なっているけど、使用されているのはヴォーカロイド機材であり、フィジカルな要素を導入する気持ちはさらさらなさそうだ。
 彼にとってヴォーカルとはサウンドの一部であって、それ以上のものではない。それは長く活動を共にしたチャカでさえも同様であり、逆に言えば中・後期PSY・Sで展開されたサウンドの方が、彼のキャリアの中では異色だったと言える。
 敢えて道具として扱われることに逆説的な快感を見出していた初期のチャカだったけど、次第にヴォーカリストとしてのエゴが表出するようになり、それは松浦が提唱した初期コンセプトを揺らがせるようになる。ライブやセッションにおけるバンド・マジックは、チャカにとっては経験済みのものだったけど、宅録少年として青春を過ごした松浦にとっては未知の体験であり、それは確実にフィジカルな要素への憧憬を掻き立てた。
 主にチャカによるフィジカル・テイストの導入は、初期のゴツゴツしたテクノ・ポップに彩りを与え、人工的な質感を払底させることによって、より多くのユーザーを獲得した。ただし、キャリアを重ねるに連れて初期の尖ったテイストが薄くなり、凡庸なJポップ・ユニットに変容していったこともまた事実である。

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 多勢のJポップ・サウンドと同化しつつあるのに危機感を抱いていた反面、PSY・Sというプロジェクトが大きくなり過ぎて、もはや2人の同意だけでは操縦できなくなっていた。アコースティックのセルフ・カバーなんて、もともと松浦の資質にはないものだし、ある意味やけっぱち感も垣間見えてくる。
 後期のインタビューや、解散後それぞれの動向を見ると、肝心の2人の意思疎通ですら困難になっていたことがわかる。惰性でルーティンをこなして行くことを潔しとせず、すべてをリセットしないと、互いのメンタルが持たなかったのだろう。
 そんな反動もあってなのか『Emotional Engine』、これまでに培われた「アコースティックとデジタルとの程よいミクスチュア」はどこへやら、同時代性の強いハイパー・デジタルなサウンドが展開されている。90年代中盤のJポップの流れに倣って、音圧は強くピーク・レベルも高い。だけど、基本構造は初期を彷彿させるハイパー・テクノ・ポップだ。使用機材のスペックがアップデートしたおかげで、トータルとしてのダイナミクスが増した。
 でも、チャカのヴォーカルは変わらない。彼女の立ち位置はそのまんまだ。彼女はいつもそうだった。ただ、純正テクノ・ポップを追求した松浦のディレクションによって、人工的な響きに加工されている。
 そこに中途半端なJポップの響きはない。あるのは、サウンドの一部としてパーツに徹したチャカそのものだ。

 『Emotional Engine』の音は、これまでのファンには優しくない。
 松浦とチャカはもう、彼らへの想いを叶えることはない。もっと先を見ることを選んだのだ。

 そのもっと先が何なのか?
 彼らにもわかってないのかもしれない。
 けれど、
 「いるべきなのはここじゃない」。
 それははっきりしている。


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1. Power Stone 
 いきなりハイテンションなヴォーカルとハードなシーケンス・サウンドにのけ反らされる。基本構造は初期そのものだけど、マシンが違うとここまで違うのか。全編、アコースティックな雰囲気はさらさらない。例えるなら、再結成したYazooといったところか。
 惜しいのは、作詞が松本隆。ここでのドライなサウンドに彼のウェットなリリックは似合わない。まぁチャカのヴォーカルのパワーなら、言葉なんてなんでもいいんだけどね。イメージ優先の内容のない歌詞、そういうのはサエキけんぞうの独壇場だ。

2. Believe in Music
 ひねったコード進行はPrefab Sproutを連想させるところも。タイトル自体、Paddy McAloonが選びそうなテーマだし。松浦が作るシーケンス・ドラムの音色は、生音ともマシン音のそれぞれよいところを組み合わせた響き。これだけでも聴く価値がある。
 前回レビューした山下達郎『Pocket Music』からわずか10年。デジタル・レコーディングはここまで進化した。 

3. be with YOU [ALBUM MIX]
 ウェット感を払底したハードなテクノ・サウンドが支配する、暴力的とも形容できる音世界。これがシングルだったんだなぁ。辛うじてチャカのヴォーカルによってJポップとして踏みとどまっているけど、バック・トラックだけだったらかなり乱暴な作り。
 でも、そのギャップ感こそがPSY・Sの初期コンセプトだったことを思い出させてくれるナンバー。
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4. sign
 ブリッジとして挿入された1分程度のインスト・ナンバー。作り込まれた雰囲気重視のシンセ・サウンドに、ディストーションの効いたギター・ソロが少しだけ。不穏なムードはエピローグか、それともプロローグなのか?
 
5. 魔法のひとみ [ALBUM MIX]
 このアルバムの中では比較的ポップな感触のナンバー。3.のB面としてシングル・カットされている。こっちがA面でも良かったんじゃないか、とは俺の個人的感想。
 中期を彷彿とさせるメロディ・ラインを持ち、凡庸なJポップ・チューンになってしまうところを、ハモンドを模した金属的な鍵盤系がスパイスを添えている。この辺が一筋縄では行かない時期である。

6. 花のように [EDIT VERSION]
 PSY・Sとしてはほぼ初めてとも言える、ベタなバラードで始まるミディアム・スロー。逆説的に考えると、ここまで大衆におもねったナンバーは今までなかった分、彼らとしてはアバンギャルドの類に入る。
 う~ん、聴けば聴くほどつまんねぇな、この曲。前半のインパクトが強かった分だけ、なおさら。

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7. もうちょっとだね 
 こちらものどかなポップ・チューンなのだけど、こちらの方が彼らの本質に近い。ベタなバラードだと、せっかくのチャカの幅広い声域を活かしきれないのだ。
 ハモンドとナチュラルなスネアが心地よく聴けるのだけど、これさえも松浦の完璧なシミュレートの賜物だと考えると、なかなか感慨深い。でも、こればっかりだとユル過ぎてつまんないんだろうな。

8. 月夜のドルフィン 
 サイバー感あふれるブレイクビーツ仕様のテクノ・ポップ・チューン。ダンス・チューンに仕上がっているのに踊れない、それがPSY・Sナンバーである。やはりどこかで肉体性を信じ切っていない男によるサウンドである。その性急なビートは躍動感ではなく、強迫観念から来るものである。

9. 雨のように透明に 
 かなり屈折したレゲエ・ビートを効果的に使ったバラード・ナンバー。8.同様、レゲエなのに踊れない。そして熱くない。そのサウンドのコアはあくまで冷静だ。肉体の幸福な偶然を排除し、緻密にミリセコンド・レベルに調整されたリズムは芸術品でさえある。
 チャカのヴォーカルは無色透明で、決して熱くなることはない。メインであるはずなのに匿名性を貫くように、その声はサウンドに埋没している。

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10. Seeds
  英語詞で歌うのは、おそらくデビュー・アルバム以来。最後はほぼギミックも使わず、ピアノをメインとした王道バラード。この辺はチャカに敬意を表したものと思われる。
 と思ったのだけど、中盤を過ぎて突然のブレイク、リズミカルなストリングスとドラムをバックにしたハイパー英語ラップ、というよりはポエトリー・リーディングが挿入される。ほんと脈絡のないところで登場するので、ドキッとさせられる。
 最後は再びピアノ・バラードに戻り、終焉。

11. Lotus
 アルバム全体をトータル・アートとして捉え、そしてPSY・Sというプロジェクトのラストを飾るのは、壮大なストーリーのエピローグ的なインスト・バラード。こういう展開って、やっぱりプログレだな。特別コンセプトを掲げていたわけではないけど、雰囲気重視のサウンドはPink Floydを連想させる。



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80年代ソニー・アーティスト列伝 その3 - PSY・S 『Atlas』

atlas 前回のレビューで、どうしてPSY・Sが大きくブレイクできなかったのかをダラダラ書いてしまったのだけど、別にイチャモンではなく、あくまで愛情あっての自分なりの分析ということなので、誤解のないように。
 アニメ『シティー・ハンター』のおかげもあって、現役当時からそこそこの認知はあったけど、決定的なヒット・シングルがなかったため、一般的にはちょっと曖昧な立ち位置のPSY・S。ただし変に大衆に迎合した楽曲はなく、どの曲も高いレベルのクオリティを維持していたので、今でもネット上ではアンチの少ないアーティストである。
 ポップ・ソングというのは基本、大衆消費財としての側面を持つのだけど、そういった中でも、きちんと作り込まれた楽曲は普遍性を持ち、そしてごく狭い範囲ではあるけれど、確実に人々の心に残る。
 前回は主にクリエイター担当松浦のサウンドを中心に取り上げたけど、今回はヴォーカル兼賑やかし担当のチャカについて。

 「歌が上手い」とひとことで言っても、解釈はいろいろと分かれる。「音程が正確に取れる」、「ピッチの正確さ」、「表現力の豊かさ」など、いまパッと思いついただけでもこれだけあり、多分ほかにも基準はいっぱいあるはず。ニコ動やyoutubeを見てみると、プロ顔負けの歌唱力の人はいっぱいいるし、モノマネ番組のガチなコーナーなら、プロそっくりな、またはそれ以上に歌いこなしてしまう芸人だって珍しくない。
 テレビのオーディション番組でよくある話だけど、収録に参加できるくらいだから、みんな一定以上のレベルに達してはいるのだけれど、時々、何でこの人がグランプリ?という結果が出るケースがある。まぁ大体は、事務所的なアレがアレでアレなのだけど、ガチな大会においても、稀にそういったケースがある。
 テクニック的・ビジュアル的にもほとんど優劣がなさそうなのに、最終的な決め手は何なのか。
 プロのミュージシャンやスタッフが務める場合が多い審査員側の話によると、最終予選通過レベルになると、歌唱力や表現力などで優劣をつけるのは難しいらしい。
 数ある最終チェック・ポイントのひとつ、それは声質である。

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 四半世紀前のバブル期の流行語の中に、「ファジィ」という言葉がある。直訳すれば「曖昧」、または「1/f 揺らぎ」というキーワードで表現されるのだけど、「規則的な揺らぎに不規則な揺らぎが加わったもの」という意味も持つ。
 これだけじゃわかりづらいので具体例を出すと、そのファジィ理論に基づいて開発されたのが、ビデオ・カメラの手ブレ補正機能。不規則な人間の動きや持ち手の動きに応じて、映像の乱れを電子的に調整する機能のことである、と仰々しく言ってみたけど、今じゃ当たり前か。
 ICチップの演算処理速度の激的な進化によって、素人撮影のホーム・ビデオを見て酔ってしまうこともなくなり、誰でもそこそこの映像が撮れるようになった。

 で、このファジィ=1/f ゆらぎ理論というのは、実は音響的にも応用されており、「ある特定の揺らぎ、ある特定の周波数を持つ声の人物は、強力なカリスマ性を持つ」と、まことしやかに言い伝えられている。そこで昔からよく引き合いに出されているのが「John Lennonと某独裁者の声紋が非常に似ている」という噂。まぁいわゆるトンデモ理論のニュアンスが強すぎるきらいはあるけど、どちらも強烈な求心力があった、という点においては共通している。方向性はまったく違うけどね。

 で、「カリスマ・シンガー」と称される人物に共通する特徴というのが、決してきれいな美声ではないということ。いわゆる透き通って濁りのない声質ではなく、若干のノイズ成分が加わっているシンガーが多い。その不完全さこそが人を惹きつけるのだろうけど、多かれ少なかれ、一時代を築いたシンガーというのは、固有の揺らぎを持っている。
 わかりやすい揺らぎの持ち主として、有名どころで挙げると宇多田ヒカル。楽理的に見ると決してうまいシンガーではなく、むしろかなり不安定な声質なのだけど、あの揺らぎがあってこそ、多くの人の心をつかんだと言える。また、その個性的なヴォイシングがあのサウンドを希求して、演出効果を高めたことは歴史が証明している。聴き流してしまうには記名性が強く、あまりに耳に残るその声は、まさしく宇多田ヒカル固有の持ち味であり、強みだった。
 Johnは自分の声があまり好きじゃなかったらしいけど、それがどうこじれちゃったのか、逆にフランジャーをかけまくって、揺らぎ全開となったのが、あの"Tomorrow Never Knows"。常人ではわかり得ぬ世界もあるのだろう。

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 ここまで読んでもらえれば何となくわかってもらえると思うけど、チャカの声質というのは、ほぼ雑味成分のない、非常にフラットな声というのが特徴。きれいなサイン・カーブを描くその正弦波的ヴォイシングは、どれだけボリュームを上げても歪むことがない。音響的に言えば純音に近い発声のため、聴いていて不快になるようなこともない。
 で、その引っかかりのなさ、揺らぎの少なさこそが、ファン層を広げられなかった要因でもある。
 声というのは、そりゃきれいに越したことはないけど、人の心に引っかかりを残すというのは、そういったこととはまた次元が違うのだ。
 松浦がPSY・S結成において目指したコンセプトとして、最新ツール「フェアライトCMI」によるポリリズミカルなサウンドをベースに、デビュー前からアマチュアのファンク・バンドで名が売れていたチャカのエモーショナルなヴォーカルとのミスマッチ感、そのズレによって生まれる新感覚のポップが狙いだった。
 YMOが切り開いたテクノ・ミュージックが、ロック/フュージョンの文脈から派生したものだったことに対し、そこからさらに派生したイギリスのエレクトロ・ポップ・シーンで活躍したYazooをモチーフとし、日本向けに展開したのが、PSY・Sというユニットである。なので、そこら辺のコンセプトに基づいて作られた1、2枚目のアルバムまでは、テクノ・ポップの新展開として、うまく機能している。
 ただ、前回レビューで紹介した企画アルバム『Collection』の次、3作目としてリリースされた『Mint Electric』によって、フェアライトを使用してのエレクトロ・ポップ・サウンドをある意味極めてしまった松浦、次に向かったのは、生音との融合、マシーン・ミュージックという縛りを解き放ち、もっとコアな音楽を作る方向性を模索することになる。

 これまでのシステムを一旦チャラにした上で、手間と時間をかけて作り込まれたアルバムになる―、事前のインフォメーションからある程度明らかになっていたのだけど、その作り込み感のベクトルは大きく変化している。
 フェアライトの使用比率は減り、外部ミュージシャンの積極的な起用によって、生演奏のテイクが増加した。またフェアライト使用においても、プリセット音源をそのまま使うのではなく、ゲスト・ミュージシャン演奏による音源を一度機材に取り込み、加工・サンプリングするなどしてから出力するなど、ヴァーチャルなバンド・スタイルのサウンド構築に力を割いている。

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 その後も松浦のサウンドは変遷を続け、コンピューターとの対峙作業に煮詰まりを感じていたのか、次第に他アーティストとのコラボが多くなってゆく。特にバービーボーイズのいまみちともたかとは一時バンド結成の構想もあったくらいで、その辺りから音楽へ対峙する姿勢も変わっていったのだろう。
 それまではいわゆるバンド・サウンド、他者との一体感によって得られるカタルシスなるものには冷笑的だった松浦だったけど、レコーディング作業だけでなく、ライブ活動にも積極的になってゆく。近未来的でありながら、ちょっとズレたセンスによってコケティッシュさを増したチャカのステージ・コスチューム、今も一線で活躍する振付師南流石による個性的なステージ・アクションや振り付けなどは、バンドブーム・バブルというフィルターをはずしても、現在でも充分通用するレベルである。各アクター・各スタッフのポテンシャルが高いので、普遍性を持つのだろう。

 ライブも終盤に入り、バンドのテンションもMAXの中で独り、うず高く積み上げられた機材の奥で、クレバーな表情で演奏に集中する松浦。
 全体を司るコンサートマスターとして冷静さを失わず、淡々と機材を調整しているその姿。
 でもよく見ると、その口角はわずかに緩んでいるのだ。


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1. Wondering up and down~水のマージナル
 恐らく新旧問わず、PSY・Sファンへのアンケートを募ったとしたら、ほぼ間違いなくトップ3にランクインすると思われる稀代の名曲。これ以前、そしてこれ以降もこのタイプの楽曲は生まれなかったため、ある意味突然変異的なものである。
 正直、歌詞にそれほど意味はない。タイトル通り『水』に関するキーワードからイメージを広げた、言ってしまえばフワッとして抽象的な内容なのだけど、ここでのチャカは力強く、それでいて説得力を込めたエモーショナルなパワーを発揮している。
 アコギとエレキのせめぎ合い、そして薄く被さるシンセ・サウンド。でもここで一番の聴きどころは、縦横無尽天衣無縫に響き渡るベース・ライン。バービーでは見せないいまみちのギター・プレイばかり取り上げられるけど、この手数の多いベースには耳を惹きつけられる。



2. WARS
 PSY・S初のレゲエ・ナンバー。リズム・メインの楽曲のため、ここでもベース・ラインが際立っている。フェアライト特有のひしゃげたドラムは軽すぎて、あまりこういったリズムには合わないのだけど、ここは松浦にとって未知のフィールドだったということで、まぁ大目に見るとして。チャカのクールなヴォーカルが、逆に並みのレゲエで終わらせない気概を感じる。
 歌詞は相変わらず、思わせぶりなキーワードを散りばめた感じなので、これもそんな深く捉えなくてもよい。あくまでメインは演奏と歌なのだから。

3. ファジィな痛み
 ほぼ1.と同じサウンド・デザインで、こちらはもう少しポップ寄りのナンバー。陰陽の関係と思えばわかりやすい。ここでのチャカは少し肩の力を抜き、メロディと演奏を聴かせるような、ちょっとだけ引いた感じで歌っている。時々ダブル・ヴォーカルも使ってるくらいだし。
 思わせぶりなキーワードの羅列は相変わらずだけど、ここではもう少しラブ・ストーリー仕立て。一般リスナーにわかりやすいストーリーを設定した点が、チャート・アクション的なモノも意識したと思われるけど、オリコン・シングル・チャートでは最高83位。まだ下世話さが足りなかったのだ。
 ちなみに俺的に、詞の中にある「ぺしゃんこ」というキーワード、日本のポップスの中で使われているのを聴くのは初めてで、なんかすごく新鮮だった、という記憶がある。



4. Stratosphere~真昼の夢の成層圏
 ピアノ・メインの演奏と、静かに淡々と歌うチャカのヴォーカルのみ。あとは雰囲気作りのシンセが薄く乗ってるだけ。起伏のない曲のため、あくまでブリッジ的な立ち位置の曲。こういった曲をメインにできるようになるには、まだアーティストとしてのステイタスが足りなかった。

5. 遠い空
 松浦本来のエレクトリック・テイストと、目指すところのアコースティックとの融合具合が最もうまく行っているのが、このナンバー。バービーいまみちとの交流によって生演奏に目覚めたのか、このアルバムではアコギのストロークが多くフィーチャーされている。このトラックでもかなり厚めにミックスされており、サビのメロディが立っているため、結果的にドラマティックな効果を演出している。
 このトラックで俺の一番のお気に入りは、終盤に出てくるハモンド。話題になったレズリー・スピーカーの響きがイイ感じで使われている。

6. (北緯35゜の)Heroism
 前曲同様、アコギとチャカがリードすることによってフェアライト色が抑えられ、普通のパワー・ポップ調にまとめられたナンバー。で、森雪之丞がこの曲のみ作詞を担当している。PSY・Sへの作詞ということで、基本思わせぶりなキーワードが頻発しているのだけど、当時からメジャー・シーンでの活躍も多かったためか、「マシンガン」「ダイナマイト」「B級映画」など、ポップ・ソングではあまり使われない言葉をうまく組み合わせながら、恋する女の子の気持ちを上手く代弁する作品に仕上げている。
 録音が良いせいもあって、アコギの左手、コードを変える際の指が弦をこする音もしっかり入っており、俺的にはその臨場感がお気に入り。

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7. See-SawでSEE
 ちょっとダルな感じの入った、最もロック・テイストの強いナンバー。主にポップ・サウンド好みな人の多いPSY・Sファンの中ではイマイチ人気が薄いけど、ロック好きな人なら「お、なかなかやるじゃん」と思ってくれそうな、ちゃんとタメも効いてるナンバーでもある。ハモンドも入ってるし、チャカも無表情ながら、一番楽しそう。

8. STAMP
 一聴すると初期のサウンドをモチーフにしているようだけど、シタールっぽくエフェクトされたギターの響きを始めとして、目立たないけどエスニックなリズムは、これまでの引き出しにはなかったもの。

9. 引力の虹
 これまでの彼らのアルバムにも必ず1曲はあった、メランコリック調のメロディアスなナンバー。こういうのを聴いていると、松浦というのはやはり日本人で、いくらスカしていようとも、どこか日本の歌謡曲、抒情的なメロディ・ラインを求めているのがわかる。じゃないと、チャカのような人と組もうとは思わないはず。この辺は『Mint Electric』サウンドの良い部分を引き継いでいる。

10. WARS(Reprise)
 2.のダブ・ヴァージョン。1989年リリースのアルバムなので、すでにこの時点でダンス・ミックスや単なるロング・ヴァージョンなど、12インチ・シングル用の別ヴァージョンというのは一般的になってはいたけど、このトラックのように、原曲をグッチャグチャに解体して再構築するダブという手法は、まだそれほど知られたものではなく、しかもメジャー・レーベルのアーテストがそれを行なうというのはかなりの冒険だった。5年くらい先取りし過ぎたんじゃないかと思えてしまうくらい、特にこのアルバムでは浮いているとらっくである。あ、だからラストのボーナス・トラック的扱いなのか。




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80年代のソニーは面白い人材がいっぱいいた - PSY・S 『Collection』

folder 80年代ソニー黄金時代にデビュー、演奏・作曲担当の松浦雅也、ヴォーカル担当のChakaによる2人組テクノ風ポップ・ユニットPSY・S。爆発的なヒットは残せなかったけど、アニメ「シティ・ハンター」の主題歌"Angel Night"や、マンガでありながら疾走感あふれる高い作画能力によって、実在のロック・バンドよりロックらしかった稀代の傑作「TO-Y」のオリジナル・ビデオ・アニメの主題歌”レモンの勇気”など、アーティストとしてはよく知らないけど、曲の認知度はそこそこ高い。

 筋金入りのシンセ少年だった松浦は、シンセ・サウンドをお茶の間レベルにまで浸透させたYMOや、その始祖的存在であるMike OldfieldやJean Michel Jarreを通過した後、筋金入りのシンセ青年へと成長した。当時日本での個人所有者は冨田勲を含め数人程度しかいなかったフェアライトCMIを個人で購入して、まだエフェクト効果の用途しかなかったサンプリング機能やペンライト使用によるタッチ・スクリーン上での波形操作を最大限に活用して、まだデジタル化突入間もない音楽業界で名を売った。その実績をベースにPSY・Sの雛型となるデモ・テープを製作、後にソニーからメジャー・デビューしている。
 解散後はゲーム音楽の世界に足を踏み入れ、最初に手掛けたのがあの「パラッパラッパー」、リズムに合わせてラップを奏でるという新発想が評判を呼んで大ヒットを記録、PSY・S時代を遥かに超える脚光を浴びることになった。今もゲーム業界周辺でウロウロしつつ、最近では悠々自適なペースではあるけれど、本格的な音楽活動を再開したりしている。

 PSY・Sとしてデビューする前は、関西のライブ・シーンでも有数のソウル・ヴォーカリストとしてブイブイ言わせていたチャカ。ちょっと大きめ程度のホールくらいなら、マイクなしでも最後尾まで充分響かせることができる声量と、確実な音程コントロールを持ち味として、デビュー前はファンク・バンドで活動していた。そこからどういった馴れ初めなのか松浦との出会いによって、これまでの熱いグルーヴィーなサウンドから一転、人為的な揺れのないジャストなリズムをベースとした無機的なサウンドとのミスマッチに興味を抱き、松浦と共にPSY・S結成に動く。
 ゲスト・ヴォーカルや他アーティストのコーラスなど課外活動もこなしつつ、徐々にソロ活動の割合が増えてくると共に、松浦との共同作業との間にすれ違いが大きくなってゆく。もともと音楽性のまったく違う2人が10年以上もコラボレートしてきたこと自体が奇跡であり、発展的解消は避けられない事態だった。

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 で、基本的なプロフィール紹介はここまで。
 それほどポテンシャルの高い2人が手を組んだにもかかわらず、また様々なヒット要素を抱えていながら、なぜ大きなブレイクに至らなかったのか―、それが今回のレビューのテーマである。

 彼らと同時代・同形態のエレクトロ・ポップ・ユニットといえば、YazooやEurythmicsあたりの名が挙がる。山積みのキーボードやシンセに取り囲まれ、リアルタイムでプログラミングやセッティングに夢中になるがあまり、ほとんどステージ・アクションもなく、黙々と演奏に没頭しているサウンド担当の男と、やたら声量があって、ライブ映えするビジュアルや身のこなしを見せる華麗な女性ヴォーカルという点は、ほぼ世界中、どのバンドにも共通する基本フォーマットとなっている。
 当初、所属事務所やレコード会社が設定した路線も、その辺のラインをビジネス・モデルとして設定していたと思われる。特に初期のPSY・Sは、博覧強記の知識と技術を併せ持つ松浦のテクノ・ポップ的サウンドに、デビュー前は爆発させていた昂る感情やグルーヴを敢えてセーブしたチャカのヴォーカルが乗る、というサウンド・コンセプトを明確に押し出してプロモーション展開していた。新進気鋭のサウンド・クリエイター松浦が最新機材を操って近未来的なビジョンを提示する、というニュアンスが強かったため、爆発娘チャカの覚醒はもう少し後になる。

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 彼らがデビューした80年代中盤は、テープの切り貼り編集や職人的なマイク・セッティングなど、アナログ的な作業が中心だったレコーディング現場に、デジタル録音の波が進出しつつあった時代である。シンセ機材と言えばエレクトーンまがいの無味乾燥な単音の手弾きか、実は結構原始的な構造のメロトロンくらいしか選択肢がなかったのが、midi規格の普及によって音色の選択肢が無限に広がった。まるでメトロノームのようなクリック音しか出せなかったシーケンスなどのリズム機材は、物理エコーの急速な進化によって、こちらも様々な響きを選べるようになった。
 これまで軽音楽部上がりが支配していたレコーディング・スタジオの空間に、ロジカルな思考を持つ理系ミュージシャンへの門戸が開かれた時代でもある。この辺りからエンジニア系の作業が爆発的に増え、アナログ的思考ノリ一発系のミュージシャンは次第にスポイルされてゆくのだけれど、それはもうちょっと後の話。

 周囲の環境・条件は結構いい感じに整えられていたにもかかわらず、ソニーの皮算用ほどのブレイクに至らなかったのは、様々な要因が考えられる。
 そのひとつが、フェアライト使用を前面に押し出し過ぎたプロモーション展開。それぞれの楽器のスペシャリストであるスタジオ・ミュージシャンらがトラックごとに個別のテクニックを注入する既存の手法に対して、生楽器を使用せず、すべてのバック・トラックを1人のコンポーザーが最新機材で作り上げる、というスタイルは斬新だった。
 楽器としてのシンセサイザーのスペックがまだ低く、ちょっとした効果音やエフェクトなど、スパイス的に使用するか、それとも開き直って喜多郎のようにニュー・エイジ的に展開するかのどちらかしかなかった時代、松浦のようなスタイルは珍しかったのだ。珍しかったのだけど、それ以上のインパクトを与えられなかったのは、純粋にサウンド本体の弱さ。
 いくらフェアライトが画期的だったとはいえ、所詮は30年以上前の機材、スペック的には3DSにも劣るくらいである。当時のアナログ・レコーディング技術は完成の極みに達しており、音圧やダイナミズムなどは比べるべくもなかった。数字では表せないスペックの部分では、明らかにアナログ楽器の方に分があった。ポピュラー音楽におけるデジタル音源のミックスや録音のノウハウがまだ確立していなかったことも、彼らの不幸だろう。
 敢えてそのサウンドのチープさを逆手に取って、複合的なメディア・ミックスを駆使してヒットに導いたのが、Trevor Horn率いるArt of Noiseなのだけど、Trevorに匹敵する山師的プロデューサーの不在が、これまたPSY・Sの不運。もうちょっと下世話なメロディ・ラインがあったら、情勢は変わってたかもしれない。

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 で、『Collection』。
 このアルバムは通常フォーマットのオリジナルとは違い、当時松浦がパーソナリティを務めていたNHK-FM「サウンド・ストリート」内の企画から派生したアルバム。NHKというパブリックな発表の場所と、微々たるソニーの予算とコーディネート権を得た松浦が、ほぼ自分の興味本位でミュージシャンをセレクト、そんな彼らとコラボして楽曲を作り込み、その結果を月イチの割合でオンエアしてゆくという企画である。番組でオンエアすること以外に共通のテーマはなく、ユニットごとに合わせたサウンド・アレンジとなっており、出来栄えはそれぞれ見事にバラバラである。

 参加アーティストのほとんどはソニー系なのだけど、その当時のソニー系アーティストは結構バラエティに富んでいて、特にクセのあるメンツの参加が多い。当時はまだ知る人ぞ知る的ポジションだったけど、スキルとポリシーのしっかりしたアーティストを人選する先見の明があったのか、ほとんどのアーティストは現在でも現役で活動を続けている。そう考えれば、ソニー系アーティストのショー・ケース的オムニバスという見方もできる。

 しつこいようだけど、大きなブレイクは遂に果たせなかったPSY・S、とはいえ今でも再結成を願うファンは多く、時々思い出したようにリマスターや未発表音源映像がお蔵出しされている。当時のファン層は俺と同じアラフォー以上、ちょっとしたセンチメンタルな気まぐれで小金を吐き出すことのできる年代だ。まだCDという物理メディアに愛着を抱いてる世代なので、比較的マーケティングしやすいのだろう。

 今ではまったく別のベクトルに向かってる2人なので、多分復活はありえないだろうけど、時々思い出したように聴きたくなるアーティストである。


Collection(紙ジャケット仕様)
PSY・S
Sony Music Direct (2007-10-24)
売り上げランキング: 450,206




1. ウェイク・アップ (ア・ショート・ヴァージョン)
 ご存じ「ミュートマJAPAN」のオープニングで流れまくっていたため、80年代に青春を過ごしてきた者にとってはDNAに刷り込まれているはず。誰の曲かは知らないけれど、誰もが必ず一度は聴いたことがある、俺世代周辺にとっては有名な曲。
 ドラム・エフェクトが時代性を感じさせるのだけど、そんなところが俺世代は脊髄反射で過敏に反応してしまう。ちなみにゲスト・ミュージシャンは鈴木賢司。一般には馴染み薄い名前だけど、その求道的なギターへの切磋琢磨ぶりは、あのJack Bruceさえも手玉に取るほどだった。後に渡英して音信が途絶えたけど、気がつけばいつの間にかSimply Redのメンバーになっていた。

2. ドリーム・スープ
 ムーンライダーズの岡田徹(kb)とゼルダの高橋佐代子(vo・作詞)、それとChirorinというガールズ・テクノ・ポップ・ユニットの島崎夏実(vo)参加。最後の人だけよく知らんけど、アニメ声っぽいスウィート・ヴォイスは全国の青臭い童貞たちの下半身をやんわりと刺激した。
 当時のムーンライダーズは偏執狂的なサウンド・メイキングが極限に達しており、この曲もほぼすべての楽器が本来の音色ではなく、様々に歪んだエフェクトを噛ませた上で鳴り響いている。こういった屈折した音楽が持てはやされた時代だったのだよ、80年代とは。

3. 本当の嘘
 ゲストはゴンチチ、ていうか作詞作曲ギター演奏ヴォーカルもすべて彼らによるもの。ゲストというよりはほぼゴンチチの曲である。ギター以外の演奏が松浦によるものなのだけど、実はゴンチチ、デビュー作からしばらくは松浦にアレンジを依頼しており、切っても切れぬ旧知の仲なのだった。90年代初頭までそのコラボは続いたので、相性が良かったのだろう。
 なので、いつものゴンチチである。変わんねぇな、ホント。

AReB9

4. ビー玉坂
 れっきとした音大出ピアニストながら、ポップ・フィールドでの活動が多い村松健と松浦との連弾によるピアノ・インスト。
 何というか、郷愁を掻き立てる曲。一時期よくテレビのサウンド・クリップにも多用されたらしく、非常にわかりやすいながらも技巧を凝らした曲であり、しかもひどく心に残る曲である。
 そう感じるのは俺だけかと思ってたら、調べてみると、意外とこの曲のファンが多いことにちょっと驚き。決して売れたアルバムでもないし、曲順からいっても目立つ配置でもない。
 なのに、いい曲というのはきちんと残っていく、という好例。



5. ウーマン・S (ボサ・ノヴァ・ヴァージョン)
 前年にリリースされたセカンド・アルバム『Pic-Nic』収録曲のリアレンジ・ヴァージョン。夏の午睡にはぴったりの曲。バドワイザー片手にまどろんだら、ちょっとした村上春樹の気分に浸ることができる。
 ゲストはくじらの杉林恭雄。コーラスのみの参加だけど、その個性的なヴォイスは存在感タップリ。ソロ・ユニットとなってしまったけど、今でも地道な活動を続けているのは、ちょっと驚いたこと。

6. サイレント・ソング
 バービーボーイズのいまみちともたかが作曲・ギターで参加。このアルバムの中では最も松浦色が薄い楽曲である。ていうか、そのバービーの”Noisy”という曲とメロディがまったく同じで、ここではチャカが作詞・ヴォーカルを担当している。もちろん本家はバービーなのだけど、いま現在ググってみて多くヒットするのは、圧倒的にPSY・Sの方。それだけファンの間でも人気の高い曲である。



7. 絵に描いたよりPictureness
 6.に続き、ストレートなギター・ポップ。ちょっとハスキーで少年性を感じさせるヴォーカルは、蒼いセクシャリティを感じさせる。
 作詞・作曲・ヴォーカルの久保田洋司は当時、THE 東南西北でデビューして間もない頃。プラトニックなカップルの甘酸っぱい放課後を飾り気なく表現した”内心Thank You”をスマッシュ・ヒットさせた。その後はどうにもパッとせず、フェード・アウトしてしまったと思ってたら、いつの間にジャニーズ御用達作詞家となっていてビックリした。俺の好きな”ファンタスティポ”が彼の手による作だとは、これもついさっき知ってビックリ。もっと最近ではももクロとも仕事していたのをwikiで知って、これまた3度ビックリ。

8. 風の中で
 当時はまだ無名だったにもかかわらず、ソニー所属による企業パワーによって、様々なアーティストへのコーラス参加、そして今回のようなコラボが多かった楠瀬誠志郎。”ほっとけいないよ”で本格的なブレイクを果たすのはもう少し先のこと。
 
 眠れない時間 通り過ぎて
 人ごみの中 近づく 鼓動きいた

 作曲松浦・作詞チャカによる、何ていうこともないメロディ・ライン、何ていうこともない歌詞である。しかし、この何でもなさが誠志郎の丁寧なヴォイシングにかかると、何ともいえない郷愁を掻き立てられる。
 このアルバムのリリース当時、やはり華やかな6.や7.の方に興味が強かったけど、リリースから四半世紀を経過して、そして自分も年を取ると、むしろ強く惹かれるのはこういった曲。歌を邪魔しない松浦のシンプルな、そして後半になるにつれて壮大になるバック・トラック。チャカと誠志郎による多重コーラスは、心が弱ってる時に聴くと、つい涙もろくなってしまう。

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9. 私は流行,あなたは世間(インストゥルメンタル・ヴァージョン)
 マルチな才能のチェロ奏者溝口肇のオーケストラ・アレンジによる、PSY・Sデビュー・アルバム収録曲のインスト・ヴァージョン。この曲は彼らにとっての出発点であって、そして到達点とも言える。コンセプト・メロディ・歌詞、どれを取ってもポップ・ユニットPSY・Sのエッセンスが凝縮されている。それだけベースがしっかりしている曲なので、フル・オーケストラで演奏されても遜色なく、きちんとメロディが立っているし、壮大なアレンジにも充分拮抗している。
 メロディが引き立っているので、演奏においてのパーソナリティはやや弱く聴こえてしまい、しばらく聴いていると、普通にBGMとしても聴き流せてしまう。俺のイメージとしては『世界の車窓から』が連想されたのだけれど、調べてみたらテーマ曲を作ってたのはこの人だった。




 この後、PSY・Sはメジャー展開を図るべく、デビューしてからほとんど行なっていなかったライブ活動に積極的になる。孤独で地道な作業となるレコーディングとは一線を画し、「Live PSY・S」と称してバンド・スタイルでのエンタテインメントを追求、シンセ素材はほぼ使用せず、生楽器の多用とチャカの爆裂ヴォーカルを最大限に活かしたショーを行なっていた。彼女のエキセントリックなステージ衣装と、振付師南流石による奇抜なパフォーマンスが話題になったのは、「ミュートマJAPAN」を見てた人なら記憶に残っているはず。
 思えば、このアルバム製作に伴う他アーティストとのコラボ・共同作業が、個人主義の松浦の心を動かしたのだろう。多分、相当なひねくれ者と思われるので認めたがらないだろうけど、他人とのモノづくりの歓びは、これまでの引きこもり作業よりはずっと前向きである。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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