Marvin Gaye

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

ある意味、モータウンの正直者 - Marvin Gaye 『Let's Get It On』

marvin_gaye_1973_-_lets_get_it_on_a-scaled10001 で、Stevie同様、モータウン特有のヒット・ソング製造システムになじめず、ニュー・ソウル・ムーヴメントの時流に乗って、大傑作『What's Going On』をリリース、これまでのソウル・ミュージック界に革命を起こすほどの好評、そしてアーティストとしての絶対的なスタンスを確立したにもかかわらず、それでもまだスタンダード・ジャズへの憧れが断ち切れず、コンプレックスでウジウジしていたのが、このMarvinである。

 Stevieの場合はまだ未成年だった事もあって、まぁ若気の至りで少々はっちゃけても、周囲の大人たちが生温かく見守ることによって許される部分もあったけど、この時のMarvinはすでに32歳、それなりに分別のある大人の年齢である。普通の会社でいけば働きざかり、主任程度になっていてもおかしくないポジションである。
 モータウンの中でも中堅クラスのトップに位置し、当然それなりのセールス実績を要求される立場のため、表立っては言われはしないけど、いろいろとプレッシャーや重圧もあったんじゃないかと思う。

 シングル・チャートでブイブイ言わせてた絶頂期にもかかわらず、Nat King Coleのカバー・アルバムを強行リリースするなど、「俺はほんとはこんなチャラいポップシンガーじゃないんだホントはシナトラみたいなスタンダード・ナンバーを歌いたいんだ」というコンプレックスに苛まれ苦しみ続けたのが、Marvinの素顔である。どれだけヒット・ソングを連発し、ポップ・アーティストとしてのステイタスが上がったとしても、ストレスは比例して募るばかりだった。

 だったのだけど、やはりMarvinもショー・ビジネスの世界に生きる男、清廉潔白な理想とは裏腹に、かなり俗っぽい一面もあったらしい。口では何かとボヤきながらも、環境に適応して、いろいろゴニョゴニョしてたらしく、そこはやっぱりただの男である。

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 そこそこ器用だったおかげもあって、作詞・作曲・演奏もひと通りこなすことができ、モータウンにも重宝されることによって、表舞台に出るチャンスも多かったことが、Marvinの持って生まれた幸運であり、才能でもあった。それにつけ加えて、シュッとしたスマートな見映えもまた、Marvinにとっては都合の良い方向に働いた。モータウンのセックス・シンボル担当として、ティーンエイジャーを含む女性らへのアピールは絶大で、その官能的な美声も相乗効果となって、多くのファンを獲得した。

 社長Berry Gordyの姉Annaと結婚したのが、純粋な理由だったのか政略的なものだったのかどうか、この時点では何とも分かりかねるけど、後のアルバム『Hear My Dear』において、延々2枚組ほぼすべてを使い切って、離婚にいたる想いやら泣き言やらを収録しているくらいだから、まぁ政略半分愛情半分くらいはあったんじゃないかと思う。
 そういった経緯もあって、レーベルの中ではかなり経営陣にも近い立場となり、このままコンスタントに活動していれば順風満帆だったはずなのだけど、やっぱNat King Coleへの憧憬は捨て難かったらしい。

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 なので Marvin、多忙を極めている間にも時間を作って、コッソリとスタンダード・ナンバーを録音しており、そのうちの幾つかは実際にリリースされている。いるのだけれど、モータウン的には別路線をあまり好ましく思ってなかったため、まともにプロモーションもせず、最低限の枚数だけプレスして、ほんとただ流通させただけ。なので、セールス的には惨敗している。
 内容的にも、まぁ自慢のクルーナー・ヴォイスを最大限に活かしたカクテル・ムード満載、大人のラウンジ・ミュージックめいたもので、とうぜんレベルは高いのだろうけど、これって別にMarvinじゃなくてもいいんじゃね?的な仕上がり。誰も彼にその方向性は求めていなかったのだ。

 Marvinの没後、便乗商法で過去の音源が発掘され、この辺の未発表トラックもまとめてリリースされているのだけれど、あまり評判は芳しくないようである。俺自身、この辺の音源はほんとサラッと聞き流しただけ、何の印象も残っていない。

 こうして書いてみて、「これって似たような人いたよな」って思ったのが、EXILEのATSUSHI。俺的認識としては、EXILEが増殖して、そこからtribeが派生、最近では3代目が人気を上回りつつある、ってところなのだけど、合ってるかな?
 で、その激動の流れから独りはずれ、現在独自路線を貫いているその姿は、かつてのMarvinとダブって見えてしまう時がある。彼の場合、EXILEの時は常にサングラスを外さず、見た目オラオラ系のリア充御用達アンちゃん的風貌にもかかわらず、ソロ活動ではサングラスを外し、するとそこにはEXILEとはかけ離れたつぶらな瞳、という往年の少女マンガ的パターン。オフコースや尾崎豊をこよなく愛し、もっぱらアコースティックなバラード系がレパートリー。
 これもEXILE的にはガス抜きの一つだと思われる。ダンス系の彼らのイメージとして、線の細いニュー・ミュージック的な側面はあまり受け入れられるものではない。EXILEグループも最近では世代交代の波が押し寄せ、3代目の方に人気がシフトしているため、以前より負担も少なくなっただろうけど、まぁこれからどうなるか。少なくともATSUSHIに『Let’s Get It On』は作れそうにない。その辺を求められるキャラでもないしね。

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 で、Marvin、前作『What's Going On』ではベトナム戦争などの社会問題を題材に選ぶことによって、ジャケットもなんだか聖人君子的な佇まいだったのだけど、ここでは一転、「お前とやりたいんだぜベイベェ」と、まるで正反対の顔を見せている。リリース当時なら、そのあまりのイメチェンに驚いたと思うけど、当然俺が初めて聴いたのは、リリースからもう20年近く経ってから、別に時系列に沿って聴いてたわけじゃないので、ただ単に訳詞を読んで、何だかエロい曲と思っただけ。ただ、そのあまりに直接的な内容から、モータウンの営業スタッフらの苦労が偲ばれる。

 一見、それぞれのテーマ設定が極端過ぎるため、この2枚のアルバムは接点がなさそうだけど、ものすごくこじつけて言えば、結局のところ、どちらのメッセージも人間の根源に基づくものであるし、彼にとっては、どちらも本質的には同じものなのだろう。


Let's Get It on
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Marvin Gaye
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1. Let's Get It On
 USでは2週連続1位だったにもかかわらず、なぜかUKでは最高31位までしか上がらなかった。やはりあまりに直接的なタイトル・メッセージが、むっつりスケベな英国人には敬遠されたのか。
 粘っこいWah Wah Watsonの特色あふれるワウ・ペダル・ギターは、ちょっと奥に引っ込んだミックスのMarvinのヴォーカルの官能をさらに引き立たせる。
 この時期のMarvinのサウンドはまだ多重コーラスにさほど力を入れておらず、緩やかなボンゴと程よいストリングスで構成されていて、良質なAORのルーツとしても聴くことができる。これがもう少し後になると、怒涛の多重コーラスの嵐で、むせ返るくらいのMarvinの体臭が堪能できる。


 
2. Please Stay (Once You Go Away)
 比較的モータウンの通常フォーマットに近いメロディとサウンド。とはいっても、バックを担当しているのが主に西海岸のスタジオ・ミュージシャンのため、演奏にメリハリがあり、特にドラムのPaul Humphrey、終盤のフィル・インは語り草となっている。

3. It I Should Die Tonight
 流麗なストリングスを主体として、アクセントに使われたヴィヴラフォンの響きが印象的な、ジェットストリーム的スロウ・ナンバー。中盤でダブル・ヴォーカルを披露しているけど、まだ濃密さは少ない。このアルバムのMarvin、比較的ヴォーカル処理はフラットなので、彼の素の声を堪能したいのなら、『What’s Going On』よりは、むしろこのアルバムの方がオススメ。

4. Keep Getting' It On
 タイトルでもわかるように、1.から派生してできたナンバー。ていうかこのアルバム、1.から4.までは同じセッションで録音されたものなので、ここまでが一つの組曲と考えても良い。ただ、前作と比べて曲の関連性・繋がりはちょっと緩やかというか、ちょっとアバウト。まぁその辺はあまり気にせずに。
 俺的には、1.よりもう少し軽いセッションっぽいので、この4.の方が気軽に聴けるのだけれど、いかがだろうか?

5. Come Get To This
 もともと西海岸界隈でストリングス中心のアレンジを一手に引き受けていたGene Pageなる人との共同アレンジによる、こちらも3.同様、シャッフルの入ったスタンダード風ナンバー。シングルとして、US21位UK51位はまぁまぁの成績か。
 ディナー・ショーっぽいアレンジだから、本人としても気に入っていたはずなのに、ライブではなぜか、熱い官能的なナンバーとなっている。何をしたいんだ、この人…。



6. Distant Lover
 で、こちらもライブでは血管がブチ切れそうになるほど、クライマックスで取り上げられていたナンバーなのだけど、ここでは比較的大人しく、スロウなポップ・ソウルの仕上がり。5.同様、ここではシンプルなアレンジなのだけど、ライブになるとエモーショナル全開エロ満載の激情バラードに変貌する。Marvinがセックス・シンボルだったことがよくわかるナンバー。



7. You Sure Love To Ball
 俺だけじゃなく、誰もが大大大好きなDavid T. Walkerのメロウなギター・プレイが全編で堪能できるナンバー。US50位はまぁ仕方ないかな、シングル向きのサウンドじゃないしね。『What’s Going On』で確立したファルセットの使い方が絶妙で、これがストリングスと絡んでくると、そりゃあもう、女性ウケは間違いない。

8. Just To Keep You Satisfied
 ラストは正統ハリウッド映画のサントラっぽいテイストの、まさしくMarvinとしてはズッパマリのスタンダード。せっかくJames Jamerson(B)を使っているのに、それほど持ち味が発揮されていないことが、ちょっと残念。



 このアルバム、やはり前半4曲の組曲風セッションがメインで、残りは結構時期もバラバラに録音されているため、前作ほどの統一感はちょっと薄い。それだけ『What’s Going On』が素晴らしすぎるのだけれど。
 後年リリースされているデラックス・エディションには、Herbie Hancockとのセッションなどが収録されており、この辺をうまく膨らませてくれれば、1.を核として、もうちょっとコンセプトもしっかりしたアルバムになったと思うのだけれど、まぁ勢いで作りました感が否めない。
 そういった反省もあって、しっかり作り込んだ『I Want You』や『Trouble Man』なんかがリリースされるのだけど、過渡期的アルバムと思ってもらえればいいんじゃないかと思う。




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「お前が欲しいんだぜベイベェ」をアルバムまるまる一枚使って表現 - Marvin Gaye 『I Want You』

i want you  久しぶりにMarvinのレビュー。前回『What’s Going On』の後、こちらも有名な『Let’s Get It On』をリリースしているのだけれど、こちらはすっ飛ばして、まずは個人的に好きな『I Want You』をご紹介。
 
 1976年リリース当時のデータを見ると、ビルボード総合チャートでは最高4位、R&Bチャートでも堂々の1位、UKでも4位にランクインしている。
 後期Marvinの代表作である『What’s Going On』『Let’s Get It On』にも引けを取らない売り上げを誇っているのだけど、あまりに両盤の評価が高すぎるのか、現状『I Want You』はあまり語られることの少ないアルバムである。Amazonでのレビュー数でも、その差は歴然としている。

 俺の個人的な位置づけとしては、両盤で確立した多重コーラスを更に深化させたサウンドは、フュージョン~スムース・ジャズへの重要な橋渡しになっていると思うのだけれど、あまりそういった掘り下げ方はされていないようである。デラックス・エディションも制作され、当時のアウトテイクも多数発掘されてるし、もっと評価されてもいいはずなのだけれど、依然日本での評価は可もなく不可もなく。
 
 Marvinにとって転換期の作品である『What’s Going On』は、それまでの享楽的なポップ・ソウルとは一線を画した、いわゆる社会的メッセージ性の強い作品だった。ベトナム戦争、公民権問題、人種差別などなど、これまでの「強いアメリカ」が世界情勢的に通用しなくなり、これまでは巧妙に隠されていた綻びが見え隠れしてきた頃、Marvinに限らず、先鋭的なアーティストは赤裸々なメッセージを声高に叫び、若者たちの支持を得た。

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 翻って『Let’s Get It On』はもっと個人的なメッセージ、要するに「今夜お前とヤリたいんだぜベイベェ」といった本能的な事柄を、これまたありのままに打ち出してきた。
 普通のミュージシャンなら『What’s Going On』路線を継承し、そのまま「愛と平和の人」に成り下がってしまうところだけど、そこは案外俗物のMarvin、外野の忠告など無視して自分のやりたい事、ていうかその時のマイ・ブームをそのままコンセプトにしてしまうことによって、聖人君子に祭り上げられるムードを一掃した。
 清濁併せることによって重層的な深みが生まれ、結果的にアーティストとしては上手い路線変更となったのは、まぁ単に結果オーライだと思うけど。
 
 ほぼ趣味的に作ったと思われる『Trouble Man』のサントラ仕事も終えて、次に出したのが、この『I Want You』。タイトルそのまんま、「お前が欲しいんだぜベイベェ」を二番煎じ的にやってはみたものの、いやシングルも売れた(ビルボード総合15位、R&B1位)のだけど、いまいち前作のインパクトが強すぎたせいもあるのか、まぁアベレージは維持しましたよ、という程度の売り上げ。
 
 前2作と比べて多少薄味にはなっているのは、一応理由がある。このアルバム制作に当たって、Marvinはサウンド・コンセプトにおいて、主要的に関わっていない。
 大部分のベーシック・トラックを作ったのはLeon Ware、当時モータウンの専属作家兼エンジニアだった人である。もともとは自分用のソロ・アルバム用に制作した"I Want You"を、たまたま耳にしたMarvinが気に入ったため、完成直前だったヴァージョンをオクラ入りさせ、Marvin自ら多重ヴォーカルを被せて完成させた、というのが一連の経緯である。そこからアルバム制作に向けてコンセプトを膨らませていったのだろう。
 
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 いささかムラッ気はあれど、いまだ会社の屋台骨を支える大スター,片や才能はあれど表舞台へ出るチャンスに恵まれなかった裏方スタッフとでは、社内での力関係は歴然としている。
 作品のクオリティは理解できる。ただ営業的にも経営的にも、ポッと出の新人より、大スターの看板で売った方が良いに決まってる。
 作った方は、それはそれで複雑だ。自社スタジオで作った音源だから、営業政策的に会社が強く言ってくるのは当然だ。大スターに認められたことは、それはそれで喜ばしいとして、でも自分のためにとっておいた自信作をかっさらわれるのだから、あまりいい気はしない。
 双方、事は荒立てたくない。互いの妥協点を見出すため、何かと駆け引きがあったようだ。

 Marvin、イコール会社側が出した条件として、曲を譲り受ける代わりにプロデュースを任せたい、との懐柔策が提示される。
 まぁいいようにこき使われるわけだけど、何しろ大スターMarvin Gayeのアルバム、ある程度のセールスは見込まれるわけだから、印税の取り分だって今までより破格だし、何より業界に顔を売り込むチャンスである。
 互いの利害関係が一致したおかげで、"I Want You"を柱としたアルバムは完成した。
 Leon自身もこれで注目を浴びることとなり(レコード会社との取引があったことも考えられる)、古巣モータウンから本格的デビュー(『Musical Massage』)、こちらも高評価を得ることになる。


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1. I Want You (Vocal)
 柔らかなストリングスに交じって、丁寧に重ねられた多重ヴォーカルが厳かに響き、小さなヴォリュームでディストーション・ギターがスパイスのようにリズムを刻む。
 Marvinの伝えたいことはただ一つ、「お前が欲しい」。たった一つの言葉を伝えるために作られた、大掛かりな舞台装置。Leonだけでは物足りなかったサウンドが、エモーショナルなMarvinのヴォーカルによって完成される。

 
 
2. Come Live With Me Angel 
 基本、1.と同じテイストの曲というより、このアルバムのほとんどが"I Want You"のヴァージョン違いみたいなものだけど、ややリズムが強くなっている。ささやきかけるようなヴォーカルが、またエロい気分にさせる。
 
3. After The Dance (Instrumental)
 Arpとエレピによって作られた、同じくエロいムードの曲。このアルバム制作前にサントラ仕事を手掛けているせいもあって、どことなく映像的な構成になっている。
 
4. Feel All My Love Inside  
 こうして続けて聴いてみると、バック・トラックはほとんど同じに聴こえてしまうし、Marvinのヴォーカルもどれもみな同じウィスパー・ヴォイスなのだけれど、単体で評価するのではなく、総体としてのアルバムの一構成要素として捉えた方がわかりやすい。中盤から女性の喘ぎ声が入っているのが、Marvinのほんとにやりたかったこと。
 
5. I Wanna Be Where You Are
 少しテンポが速く、ややシャッフル気味のリズムが、まったりムードだったアルバムにメリハリをつけている。でも、ほとんどブリッジ扱いのため、1分少々で終わってしまう。もうちょっと長く聴きたい人には、デラックス・エディションがオススメ。6分ほどの完成版を聴くことができる。

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6. I Want You (Intro Jam 1)
 ほんとイントロのみ。次の曲とのつなぎだけど、要はすべての曲が"I Want You"のバリエーションで、すべてがひと繋がりで一曲を成していることを言いたいのだろう。
 
7. All The Way Around
 テンポが"Marcy Marcy Me"っぽい、ミドル・テンポの曲。アレンジ次第では、純正モータウン風ポップ・ソウルに聴こえてしまいそうだけど、共同プロデューサーであるLeonの手腕によって、レベルを一段も二段も上げている。
 
8. Since I Had You 
 マリンバとメロディアスなベースで構成されている、シンプルな曲。と思いきや、Marvinの多重コーラスに交じって甘い囁きがほのかに響く。
 当時のMarvinはセックス・シンボルとしても人気を得ていたということだけど、確かにこの甘くとろけるようなヴォイスなら、どんな女性でも口説けたことだろう(だからこそ、後に収拾がつかなくなり、修羅場にはまり込むのだけれど)。
 
9. Soon I'll Be Loving You Again 
 『What’s Going On』で確立した、破裂音の少ないコンガでリズムをキープする、ヴォーカルを引き立たせる曲。とにかくこのアルバムは良い意味でワン・パターンで、隙間なく自分のバック・ヴォーカルで埋め尽くしている。ナルシスト全開。
 
10. I Want You (Intro Jam 2)
 再びブリッジ的な小品。しかも今度は少し長めに尺を取ってある。ブラスがちょっと『金曜ロードショー』のオープニングを思い起こさせる。水野晴郎の怪しげな笑顔を思い出してしまうのは、俺だけだろうか?
 
11. After The Dance (Vocal)
 3.のヴォーカル入りヴァージョン。やはりサウンドのテイストは"I Want You"だけど、こちらは少しラウンジ・ジャズ風。もともとはこういった路線に進みたかった人だから、ノッてるのがよくわかる。
 これもシングル・カットされているけど、全米総合74位とチャート的には低迷。
 地味だけどいい曲、いい曲だけど地味。言葉通りの曲であり、まぁ妥当な評価ではある。Marvinに求められているのは、もっとエネルギッシュでアグレッシヴ、しかもちょっとセクシーなエロさこそが、ファンのニーズである。
 





 本作リリース後、アーティスト的ビジネス的には順調と思われたのだけれど、先妻との離婚の泥沼(やっかいなことに、彼女はモータウン社長Berry Gordy, Jr.の姉であったため、社内的にも微妙な立場に追い込まれた)、本人の麻薬依存など、私生活でのトラブルが頻発する。
 慰謝料を稼ぐためでもあるが、そのストレスと苦悩をそのまんま表現したのが、次作『Hear My Dear』である。
 ちなみに当時の邦題が『離婚伝説』(!)、こちらもそのまんまだけど、これは日本のディレクターにも責任がある。なんていうか、悪意むき出し皮肉たっぷりのタイトルである。女性週刊誌や内部告発本みたいなネーミングだな、こりゃ。



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モータウンの良心、社会に怒る - Marvin Gaye 『What’s Going On』

e0267928_1117519 1971年に発表された、Marvin初のセルフ・プロデュース・アルバム。発表当時はビルボード最高6位という、今にしてみれば中途半端なセールス・アクションだったけど、その影響力は実際の販売枚数以上の威力があり、記録よりも記憶に残る名盤として、今でもソウル史の中でも重要な立ち位置にいる。同名シングルは全米2位(R&Bチャートでは1位)まで上昇しているので、ヒット・ソングとしては上々の成績だったので、モータウン的にも面目がついたんじゃないかと思う。
 ちなみにアメリカの雑誌「ローリング・ストーン」による「All Time Beat Album 500」でも、堂々の6位。Beatles、Beach Boys、 Bob Dylanと続く中でのランク・インなので、アメリカでもなかなかの知名度があることがわかる。ちなみに、いきなりスケールは小さくなるけど、ここ最近では、「レココレ」の「ソウル/ファンクの名曲ベスト100」にて、タイトル曲がNo.1を獲得した。 

 発表当時から名盤扱いされ、40年以上経ってもその地位が揺らぐことのない、永遠のマスター・ピース、ほんと優等生のようなアルバムである。ほぼ10年おきぐらいのペースで、最新鋭のリマスターが行なわれており、デラックス・エディションや高品質アナログ盤など、節目節目に出されるアイテムも多岐に渡る。それだけ根強いファンが多いこと、そして、このアルバム単体の求心力が、とてつもなく強いということなのだろう。 

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 モータウンのヒット曲製造システムのフォーマットに則って作られた、60年代初期のポップ・ソウルには、当時まだ大国としての威厳が残っていた、享楽的なアメリカの夢が詰まっている。
 最初はそのとっつき易さが良かったのだけれど、人工甘味料や着色料でゴテゴテ装飾された、ジャンク・フード的楽曲ばかりでは、あまりに他のシンガーと大差なく、飽きが来てしまう。
 大量生産(全盛期のモータウンでは、流れ作業的に次々とバック・トラックのレコーディングが行なわれており、入れ代わり立ち代わり次々とシンガーらが歌を吹き込んでいた)された音楽のレーンに乗ることを自ら拒否し、そして作り上げたのが、このアルバム『What’s Going On』である。

 ファルセットを多用したソフト・ヴォイシング、破裂音の少ないパーカッションやコンガによる柔らかいリズム、Marvin自身による、幾重にも重ねられた、薄く柔らかく奏でられる多重コーラス。 パワフルなホーンとバスドラでデコレートされていた、モータウン特有の、「前に出る」サウンドから一転して、音の感触としては、派手な部分はそぎ落とし、ヴォーカル、コーラス、バッキングそれぞれが前に出過ぎることなく、それぞれのパートの絶妙なハーモニーによって、サウンド総体を作り上げている。
 当たり前の話だけど、オーソドックスなサウンドでも、手間暇とコストをかけることによって、複合的な厚みが生じ、そこに普遍性が誕生する。そのため、どの時代においても音のテイストは古びることなく、確実に一定のアベレージを維持できる、ほんと不思議なアルバムである。

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 「名盤」と呼ばれる定義はいろいろあるだろうけど、俺が勝手に思ってる定義として、「数年に一度,何となく聴きたくなって、つい最初から最後まで聴き通してしまう」アルバムこそが「名盤」だと、勝手に思っている。
 コアとなる曲が数曲あり、誤解を恐れず言えば、多少クオリティの落ちる曲がいくつかあったとしても、トータルのサウンド・メイキング、またはコンセプトの妙によって、それらはアルバムの一構成要素として組み込まれることになる。ヒット曲やタイアップ曲、馴染みのあるカバー曲ばかりを寄せ集めれば良いというわけではない。そんなのは、トータルなテーマを無理やりこじつけただけの、ただのベスト・アルバムに過ぎない。

 このアルバムについては、発表当時から、既に多くのことが語り尽くされている。
 「ベトナム戦争を背景にした曲」、「ソウルとしては初めて社会問題に言及しているため、モータウンが発売に難色を示した」、など、様々なエピソード、逸話などが、まぁ出てくる出てくる。
 そのような時代背景、当時荒んでいたMarvinの私生活事情を念頭に入れながら聴くのも一興だろうけど、あまり肩ひじ張らず、心地よいサウンドに身を委ねるだけで良い。
 我々は、批評をするために音楽を聴いているのではないのだ。


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1. What's Going On
 夕映えの場末のバーの喧騒の間を縫って、高らかに響くソプラノ・サックス、Marvinのソフト・タッチのヴォーカル、Marvin自身の多重バック・コーラスがレスポンスしながら、終始入れ代わり立ち代わり鳴り響く、珠玉のナンバー。
 泥沼化したベトナム戦争などの社会的な状況、ロックの本格的な台頭、それに伴う商業主義による音楽ビジネスの肥大化にも呼応し、ダイレクトなメッセージ性を強め、ヴォーカルもリズムも等価に並んだサウンドが心地よい。
 まずはとにかく、サウンドを聴いてほしい。メッセージはその次だ。



2. What's Happening Brother
 ベトナム戦争に従軍した弟から聴いた逸話をもとに作られた、シリアスな歌詞。前曲から続く、軽いソフト・タッチのヴォーカルは、そんな重さを見事に中和させ、英語がネイティヴでなければ、普通に美しい一曲。

3. Flyin' High (In the Friendly Sky)
 妖しげなファンキー・ソウル。冒頭のドラっぽい打楽器の音色が、B級カンフー映画テイストを醸し出している。無国籍なサウンドを狙ったのかと思われるけど、そこは狙い通り。
 ベトナム帰還兵の事を歌っているのだけれど、今で言うPTSDによりドラッグ依存が強く、タイトルは底の中毒症状とかけている。

4. Save the Children
 冒頭から、Marvinの不穏さを予感させる語りから始まる、こちらもメッセージ性の強い一曲。レスポンスするのは、抑え気味ながらもソウルフルなMarvinのヴォーカル。
 あまり語られることはないけど、この曲に限らず、このアルバムはベースが聴きどころ。手数が多い割にはうるさくなく、きちんと曲を引っ張るベース・ラインというのは、こういったプレイを言うのだろう。全盛期モータウンの屋台骨を支えた、職人James Jamersonの技が堪能できる。

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5. God Is Love
 6.のInterrude的な小品。セッションの肩慣らしというか、あまり力を入れずにサラッとしたメイン・ヴォーカルが、歌詞の重苦しさを和らげている。短めだけど、コンパクトにポイントをまとめており、次の曲へ繋ぐブリッジで終わらせるには、ちょっともったいなかったかもしれない。

6. Mercy Mercy Me (The Ecology)
 最近CMでも起用されていたため、知らずに耳にしていた人も多い、Marvin初心者でも馴染みやすい曲。実際、カバーも多い。
 ピアノとギター・カッテイングが軽いタッチでリズムを引っ張り、ノン・リバーヴのマルチ・ヴォーカルが軽く、心地よいサウンドに乗せられている。  
 LPでいうところの、ここまでがA面となっており、ほぼ同じサウンドがシームレスにつながっており、一つの組曲として聴くことができる。このソフト・サウンディングの中に、深刻な社会問題やシリアスなメッセージを内包したことが、当時のソウル・ミュージックの中では画期的だったのだろう。
 時事問題も含めたメッセージは、現代人には通じにくい部分も多いが、サウンドだけはずっと普遍的なものだ。



7. Right On
 このアルバムの中では一番長尺の、ちょっとジャズ・テイストの入った、妖しげなコード進行のナンバー。全編に流れるグィロの響きがまたラテンの暗黒面を象徴するかのよう。比較的緩やかなセッション風のナンバーなので、演奏が進むにつれ、曲調が次第に変化してゆく。5分くらいから怪しげさが薄れ、このアルバムのカラーに戻ってくる。どちらかと言えば演奏主体のナンバーなので、Marvinのヴォーカルも構成楽器の一つとして捉えればわかりやすい。だけど聴いてる方にとっては、インパクトはちょっと薄い。

8. Wholy Holy
 タイトル通り、神を讃え、神に捧げる曲。欧米の人なら、神に対して無防備に惜しみない愛情を表明できるのだろうけど、やはり日本人にはわかりづらい世界。広い意味で捉えればゴスペルなのだけど、そこを超越した讃美歌の世界。荘厳としたストリングスに彩られたバックグラウンドは、実はスタンダード・ナンバーをこよなく愛するMarvinならでは。

9. Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)
 ブルースというよりはジャズ・ヴォーカルっぽく聞こえる曲。他の曲にも共通するのだけど、スキャットの多用、ほとんどリード楽器と思われるくらい前面に出た、コンガとベースによるリズム・ライン。最後はオープニングとループするかのように、“Mother, Mother“で終わる。





 本編はここまでだけど、最近発表された 『40th Anniversary Edition』では、この後、延々と未発表テイクが続くのだけれど、やはりオリジナル・ヴァージョンと聴き比べると、完成度のレベルの差が大きいため、「だから当時は未発表だったんだな」と納得してしまうテイクが多い。タイトル曲のシングル・ヴァージョンなんて、あまりにもサウンドが素っ気なくて、よくこれで当時売れたものだと、逆に感心さえしてしまう。
 いやもちろん、掘り出し物もあるんですよ。ま、俺もめったに追加テイクは聴くタイプじゃないけど。

 アーティスト、サウンド・コンポーザーとしての名声を今作で得たMarvinだったけど、その後も自分の適性と理想とのギャップに、遂に最後まで折り合いをつけることができなかった。ジャズ・シンガーの夢潰えて落ち込んだかと思えば、今度はプロ・フットボール・プレイヤーに憧れる、という中二病を患うなど、さらに迷走。
 この後、離婚を挟んだり、親族との不和に疲れ果て、スイスに雲隠れした挙句、一世一代のソウルのマスターピース的名作『Midnight Love』を、ほんと最後の最後に生み出すのだけど、そこまで一気に書こうとしたら、とても体力と根気が続かない。。
 Marvinについては、また次回。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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