Marvin Gaye

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

ある意味、究極の羞恥プレイ - Marvin Gaye 『離婚伝説』

folder 商業主義が強くなり過ぎた既存ソウル・ミュージックのアンチテーゼとして、70年代初頭に興ったニュー・ソウル・ムーヴメントは、1976年のStevie Wonder 『Songs in the Key of Life』を頂点として、その後は緩やかな衰退の道を辿ることになる。
 Donny Hathawayは心身ともに疲弊し切って入退院を繰り返していたし、Isaac Hayes はとっととニュー・ソウルに見切りをつけてディスコに鞍替え、その特異な風貌を生かして俳優業にも手を染めていた。Curtis Mayfieldも次第にニュー・ソウル路線に行き詰まりを感じ、それでディスコに手を染めてみたけど、これがもう目を覆っちゃうくらいの駄作の連発、レアグルーヴ・ムーヴメントで再評価されるまでは、リタイア同然になっていた。栄枯盛衰。

 それまで保守的だったソウル・ミュージックの世界に、ジャズやアフロなど異ジャンルの要素を積極的に取り入れたニュー・ソウルは、お手軽なポップ・ソウルよりずっとソフィスティケイトされたサウンドで構成されていた。ブラック・ミュージックのメイン・ユーザーがブルー・カラーの黒人層だけでなく、ホワイト・カラーの白人層リスナーの割り合いが多くなったのは、ニュー・ソウルの影響が大である。他愛ないステレオタイプのラブ・ストーリーが多かった歌詞も、ベトナム戦争から着想を得た反戦や環境問題、人種差別にも鋭く切り込む内容が多くなった。
 シリアスな事象をシリアスに語るスタンスは、何も彼ら独自のものではなく、むしろ白人フォーク/ロック勢の成熟に呼応して生まれたものである。左翼的なスタンスを表明することが、アーティストとして最もヒップであったのが、60〜70年代前半のミュージック・シーンである。

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 ただ人間、事あるごとに眉をひそめ、人生の意義だ精神の深淵だについて考え続けることは肩が凝る。みんながみんな、音楽に哲学を求めているわけではないのだ。部屋に独り籠ってレコードのライナーノーツを読み漁るより、外に出てみんなでディスコでフィーバーすることも必要なのだ。
 グダグダな結末となったベトナム戦争の終焉と前後するように、ニュー・ソウルのアーティストはことごとく失速するか、ディスコへ鞍替えすることになる。

 1978年のビルボード年間シングル・チャートのトップ100リストを見てみると、上位はほぼBee Gees一派の独り勝ちとなっている。トップ10中、Bee Geesが3曲で末っ子のAndy Gibbが2曲、これだけでもう半分を制覇しており、当時のディスコ・ブームの勢いがどれだけだったのかが象徴されている。
 で、ロック系でチャートインしているのはもっと下、やっと15位でClapton が登場。続く16位がStonesだけど、これが「Miss You」。やっぱディスコだ。ずっと辿っていくと、John Travolta やChicも顔を出しており、全体的にロック系は影が薄い。1978年といえば、ちょうどパンク/ニューウェイブで一旦トドメを刺されちゃった頃なので、分が悪かったのだ。
 別の見方として、これをモータウン縛りで見てみると、10位にCommodoresが入ってるのみ、かつては「ヒット・ファクトリー」とも称された60年代の栄華と比べると、かなり深刻な状況になっている。しかも彼らもディスコだし。稼ぎ頭だったJackson 5は独立、Diana Rossはハリウッドに行ったままだったし、Stevieも『Secret Life』なんて、ヒット性無視したアルバム作っちゃうし。

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 チャート的には目立たなくとも、新たな方向性を模索して前に進んでいるだけ、彼らはまだ良い。そんな彼らを横目で見ることすらやめてしまい、すっかり後ろ向きにひねくれちゃったのが、お待たせしましたここでMarvin登場。
 この時期に限らず、彼の歩んできた道のりは常にこじれて歪んでいたのだけど、特に70年代はプライベート面でのトラブルが頻発していた。

 何しろ、活動休止して本気でアメフトの選手を目指したり、Nat King Coleのようなジャズ・スタンダード歌手への憧れが過ぎるあまり、会社の方針に沿ったポップ・ソウルのヒットの見返りとして、ジャズ・スタンダードを集めた自己満足アルバムをリリース、しかもそれが全然売れず周囲に白い目で見られても、それでも好きだからしつこくコンサートでもわざわざ1コーナー設けて悦に入ったりして、こうして書いてると、なかなかめんどくさい男である。
 これって典型的なミッドライフ・クライシス、若いうちに会社の敷くレールに乗って、いつの間にか中堅ポジションになっちゃったけど、自分で成し遂げた感が薄いので、まだ別の可能性があるんじゃないかと思い立って一念発起、突然会社を辞めてバックパッカーとして世界一周に旅立つサラリーマンと思考は一緒だな。

 普通のサラリーマンも大スターどちらにも言えることだけど、いくら思い立ったとはいえ即行動は困難、これまでのしがらみを整理することは容易ではない。好調不調はあれど、Marvinは終始モータウンの稼ぎ頭だったし、ほぼ創業当時からのメンバーだけあって、それなりに営業責任も負わざるを得なかった。単なる生え抜きだけならまだしも、社長Berry Gordyの実姉Anna と結婚しちゃってるので、良く言えば出世街道まっしぐら、悪く言っちゃえば会社とズブズブの関係である。ここまで外堀を埋められては、会社中心の人生を送らざるを得ない。
 彼がAnna と結婚したのは1963年。モータウンは設立から4年、Marvinも24歳と、まだどちらも成長過程を歩んでいる段階だった。ちなみに彼に対して当時のAnna、なんと17歳年上の41歳という年の差婚だった。普通に考えて、Marvinからのアタックとは考えずらく、やり手中年女性の手練手管による若いツバメの籠絡、といった感が強い。
 まぁほんとのところは2人だけにしかわからないので、熟練の技に翻弄されたのか、それとも純粋な恋愛結婚だったのか、今となっては不明。でも、その後10年に渡って婚姻関係は続いて一男を授かっているし、当時はツアーだレコーディングだでMarvinも家を空けることが多かったから、たまに逢うことで新鮮が保たれていたんじゃないかと思われる。

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 デュエットにおける最高のパートナーTammi Terrell とのロマンスが「あった」とか「なかった」とか、三面ゴシップ的な噂は当時から囁かれていたけど、実際のところはそれほど色っぽい関係ではなかったらしい。四六時中、仕事で顔を突き合わせているため、恋愛対象として見るには双方ともあまりに近過ぎてしまい、むしろ兄妹のような関係だった、というのが近年の通説になっている。
 当時のアルバム・ジャケットやポートレートを見ればわかるように、水も滴るセックス・シンボルとして売り出されていたMarvinだからして、生涯女性の影が切れることはなかった。往年のスター伝説によくある乱痴気騒ぎも一度や二度ではなかった、とは当時の事情通、または関係者の弁。ほんとかよ。
 年上女房ゆえの余裕か、はたまた芸人の妻としての心構えだったのか、Anna はそんな彼の所業を諌める素振りは見せなかったようである。まぁ、「亭主元気で留守がいい」とはよく言ったもので、彼女自身も悠々羽根を伸ばしてセレブライフを楽しんでいたんじゃないかと思われる。

 音楽キャリア的には『What's Going on』を契機とする、「静謐でありながらグルーヴィーなジャジー・ソウル」という新境地を見いだし、ここからニュー・ソウル期に突入する。ただ、未曽有の成功と引き換えに増大するプレッシャーはハンパなかったのか、同時にますますセックスとドラッグに耽溺するようになる。
 1973年、その後2番目の妻となるJanis Hunterと恋に落ち、一男一女を授かるのだけれど、すでに別居中だったAnnaとの関係を清算していなかったため、事態はグタグタになる。泥沼のプライベートから刹那的に逃避するため、ますますドラッグにのめり込むMarvin。
 それでもこの時期、『Let’s Get it on』 〜 『I Want you』といった、後世に残る名作を連発しているのだから、人ってわからぬもので。

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 いつまでもはっきりした態度を示さないMarvin に痺れを切らしたAnna、遂には彼に見切りをつけ、離婚に向けて訴訟を起こすことになる。Marvinへの請求額は100万ドル。当時の貨幣価値はよくわからんけど、いくらトップスターとはいえ、右から左へ簡単に動かせる金額ではないことは確か。ていうか、これってもはや単なる夫婦間の問題じゃなくって、Marvinが相手にするのは事実上モータウンだし。勝てるわけねぇよなぁ。
 長きに渡る示談交渉の末、支払い能力のないMarvin に課せられたのが、次回リリース予定のアルバム印税を、慰謝料の補填に充てること。Anna 側としては、最初からそんな筋書きだったんじゃないかと思われるけど、わかっていながらできるだけMarvinを消耗させることが目的だったのだろう。
 その思惑通り、長期化した裁判によってMarvin、心身ともに大きく消耗した。安定した地位と家庭を棄てるほどの熱愛だったJanisとも不仲になり、結局、短期間で離婚という結末を辿る。そりゃそうだよな、大抵の不倫カップルって慰謝料・養育費が負担になるから、将来性が限定されちゃって、結局あんまりうまく行かないんだよな。
 で、結審後は当然だけど、モータウンの中でも微妙なポジションとなってしまい、活動も次第に地味になってゆく。会社側としても、正直、積極的なプロモーションはしたくなかっただろうし、ぶっちゃけ「契約満了したらとっとと出てけ」とまで思ってたことは想像できる。

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 そんな経緯で製作されたのが、この『離婚伝説』。原題は『Here, My Dear』だけど、正直こっちの邦題の方がしっくり来る。しっかしこんなタイトル、よくモータウンが許したよな。
 恐ろしくネガティヴな内容ゆえ、ディスコグラフィの中でも鬼っ子扱いの期間が長かった『離婚伝説』。数少ないレビューを読んでも、詳細なのは制作経緯ばかりで内容に触れられることはほとんどなく、聴く前から気持ちが萎えてしまった『離婚伝説』。CBS移籍後の復活作『Midnight Love』が名盤過ぎたうえ、しかもそれが遺作となってしまったがため、どうしても影が薄い『離婚伝説』。印税稼ぎと早期の契約消化が目的なのか、ソウルにしては珍しく2枚組の大作で、高くて買いづらい『離婚伝説』。
 ただ、近年はデラック・スエディションでリリースされるなど再評価の兆しが見え、またソウルというジャンルにおいて、私小説的スタイルの作風のパイオニアとして、以前より間口は広がっている。
 ベーシックのサウンドは、「多重コーラス+マイルドな響きの複合リズム」という路線を確立した『I Want you』の進化形なので、先入観を抜きにすれば、熟成された後期Marvinを堪能できる。


Here My Dear
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1. Here, My Dear
 『Let's Get it on』的ネチッこいギターを弾くのは、これがMarvinセッション初参加となるGordon Banks。以後、彼は最期まで最良のパートナーとしてMarvinに尽くした。荘厳と鳴り続けるフェンダー・ローズを操りながら、全編モノローグで通すMarvin。
 語られる内容はタイトル通り、Annaへの愛の言葉。泥沼離婚にもかかわらず、自己憐憫にも満ちた独白で幕を開けるのは、穿った見方をすれば揉め事にならぬための事後対策とも取れる。冒頭から怒りをぶつけて名誉棄損で訴えられるとシャレにならないし。ていうか、そんな歌詞をモータウンが通すはずもないか。
 当時の邦題『ある男のひとりごと』。そのまんまやないけっ。

2. I Met a Little Girl
 シームレスで続くこちらも『Let's Get it on』風サウンドでまとめられている。ただ内容が内容だけにヴォーカルに覇気が薄く、ファルセットにも力がこもっていない。歌詞は思いっきり後ろ向きな内容なだけに、正直、歌詞の内容さえ無視すればサウンド的にはMarvinサウンドの完成形。いつまでもエンドレスで聴いていられる桃源郷。
 ちなみに邦題『愛の試金石』。

3. When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You
 ここからメロディは不穏に満ち、モノローグも少し不安げになっている。これが演技だったとしたら、すごい人たらしだよな、この人って。
 ソフトなファルセット・コーラスにシンプルなリズム・セット、薄くかぶせたローズを基本サウンドとして、そこにアクセントとしてサックスを噛ませてしまうところが、彼の絶妙なセンスを感じさせる。2分過ぎの唐突なシャウトが好きで、時々聴きたくなってしまう曲。後年、Daryl Hallがソロ・アルバム制作時、この曲にインスパイアを受けて「Stop Loving Me, Stop Loving You」を書き下ろしている。
 邦題は「涙のむこう側」。



4. Anger
 安めのTVサントラにでも収録されてそうな、幕間的なメロウ・ファンク。「Let’s Get it on」を共作したEd Townsendと再度タッグを組んでおり、確かにその時代のテイストが強い。
 タイトル通り、邦題もそのまんま「怒り」。一応、人生への苦悩や精神的な苦痛に対しての怒りをテーマとしているらしいけど、まぁ正直、Annaへの怒りだよな、これって。Marvinも聖人ではないのだから、自己憐憫だけじゃなく、内に秘めた怒りだって外に出したっていい。でも、内輪でグチるだけならまだしも、記録媒体で流通させる類の内容じゃないよね、これって。それとも、究極の羞恥プレイか?
 一応、カナダではシングル・カットされたらしいけど、チャートインせず。

5. Is That Enough
 ここからアルバムB面。スムース・ジャズの先駆け的な、フュージョン色の濃いトラックに乗せて、脱力系のヴォーカルを披露するMarvin。楽曲としては、後期Marvin好きにはたまらない世界ではある。でも邦題は「恋鎖反応」。凝りすぎたがあまり、逆に笑っちゃうタイトルで損してる。サックスの音色はジャズ成分は薄く、ソウル風味が強いので、退屈にならない。

6. Everybody Needs Love
 再びEdとの共作。やっぱり「Let’s Get it on」の世界。そっちに混ぜちゃっても判断つかないし、むしろもっと早く正統な評価が得られたんじゃないかと思われる。今となっては「隠れた名曲」扱いだけど。
 邦題は「愛の重さ」。原題と全然違うじゃん。誤解されやすいタイトルばっかりつけやがって。

Marvin Gaye

7. Time to Get It Together
 ここまで脱力系やらスムース・ジャズっぽい、まったりした音が多かったけど、数少ないアップテンポ・ナンバー。とは言ってもBPMは早いけど得意の複合リズムによって、性急な印象はない。
 効果的なファルセットの使い方、ドラッグ禍や自身の鬱病を告白する歌詞など、リアルな緊張感がクオリティを押し上げており、この時期の彼の作品の中でも秀逸の出来栄え。でもやっぱり邦題が「時の流れにまかせて」。確かにその通りだろうけど、なんでテレサ・テンなの。でも考えてみれば、こっちの方が先に出てるか。

8. Sparrow
 ここからアルバムは2枚目に突入。オープニングはデキシーっぽいホーンによって彩られたジャズ・ナンバー。ソウルMarvin好きなら常識だけど、彼のスタンダード・チューンははっきり言って面白くない。この曲もホーン・セクションがメインとなって、Marvinのコーラスもサウンドの一部として引っ込んでいる。ちょっとフリーが入ったErnie Fieldsのサックス・ソロがちょっと面白いけど、全体のムードにはあってないよな、これって。

9. Anna's Song
 ついに真っ向から、Annaへの思慕や悔恨を歌い上げるMarvin。過剰なエコーと薄いバックトラックは、もう彼の独壇場。作ってるときはほんとこんな気分だったのだろうけど、二度と聴き返したくなかったんだろうな。作ってから後悔してしまう類のウェットなバラード。
 中島みゆきも「うらみ・ます」は一発録りだった、とのことだし、この曲からも同じ臭いを感じる。邦題は「別れた女へ」。そのまんまやないけ。

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10. When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You (Instrumental)
 多少のヴォーカルは入っているけど、まぁほぼカラオケ的なトラック。サックスがヴォーカル代わりに唸っている。こういうインタールード的なインストって、普通は1~2分程度のコンパクトなものだけど、ここでは何故か6分以上も尺を取っている。正直、必然性はあまり感じられない。収録時間のバランス調整で引き伸ばされた、と言われても素直に納得してしまうくらい、正直冗長な曲。
 逆の見方をすれば、冗漫な婚姻生活を象徴するため、敢えて引き伸ばしたのかもしれない。考え過ぎかな。

11. A Funky Space Reincarnation
 シングル・カットされ、R&Bチャート最高23位、ポップ・チャートでは106位を記録。これまでのMarvinシングルのアベレージはクリアできていないけど、従来のアーバンなグルーヴィー・ソウルではなく、同時代に活躍していたPerliament / FunkadelicやEarth, Wind & Fireから着想を得たスペース・ファンクは新境地。長すぎるのがちょっと惜しいけど、この路線はもう少し進めてもアリだったんじゃないかと思われる。だってカッコいいんだものMarvin。
 邦題はそのまんま「輪廻」。いや確かにその通りだけど、売ろうとする気がまるで見られない。何やってたんだ、当時の日本盤ディレクター。



12. You Can Leave, but It's Going to Cost You
 Marvinお得意のジャジー・ソウルだけど、ジャズ成分はこのくらいに抑えておいた方が彼の場合、ヴォーカルも多種多様で面白い。かしこまり過ぎると、途端につまらなくなってしまうのは、遂に最期まで治ることはなかった。邦題は「愚かな代償」。これもその通りなんだけどね。しかしネガティヴなタイトルばっかりだな。

13. Falling in Love Again
 細かく刻まれるリズム・パターンと、程よく情熱的なサックス・ソロ。「What’s Going on」が好きなライト・ユーザーにも聴きやすい、様々なレアグルーヴのコンピにも使われることの多いグルーヴィー・チューン。ほんと、このアルバムに収録されているのが惜しいくらいの出来である。「I Want You」にでも収録されていれば、もっと早く注目されていたかもしれないのに。4分強というコンパクトなサイズの中に、Marvinの良質なエッセンスが詰め込まれている。
 邦題「男は夢追い人」。ここに来て開き直ったな。

14. When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You (Reprise)
 最後はほんとあっさり、1分に満たないエピローグ。長い曲ばっかりだったので、ここに来てやっと一息。でも、同じ曲を意匠変えて3回も繰り返すのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかと思う。



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ブラコン・サウンドの始まりがコレ - Marvin Gaye 『Midnight Love』

folder 1982年リリース、オリジナルとしてはMarvin生前最後の作品。当時US7位UK10位というチャート・アクションは「あれこんなもんだったの?」という印象。ただアメリカではトリプル・プラチナム獲得というデータもあるので、相当息の長い売り上げ動向だったことがわかる。
 明確に表れた数字もそうだけど、その後数十年に渡るメロウ系R&Bの方向性を決定づけた一大名曲「Sexual Healing」が収録されているおかげもあって、Marvinとしては後期の名盤として位置づけられているアルバムでもある。あるのだけれど、反面、この曲の印象が強すぎて、他の収録曲は影が薄い。正直、俺も他にどんな曲が入ってるのか、つい最近まで知らなかった。何度も繰り返し聴いているので、知らないというのは正確じゃないのだけど、あまり印象に残っていないのは確か。それくらい「Sexual Healing」のインパクトが強すぎるのだ。

 基本のリズム・セクションをしっかり組み立て、その上にホーンだコーラスだ混声ヴォーカルだ鍵盤だパーカッションだと、これでもかというくらいまで音を重ねてサウンドに厚みを出す。アンサンブルが安定してくると、今度は必要のないパートを抜いていく。サウンドのバリエーションは減衰するけど、その分、各パートの受け持つ比重が大きくなり、結果的にひとつひとつの音は太くなる。さらに必要な音だけを残し、全体をビルドアップしてゆくと、最後には強靭なリズムが残る―。
 これがJBを始祖とするファンクの基本的な流れであり、これまでのMarvinの音楽性の変遷も同様なのだけど、このアルバムの場合、ちょっと事情が違っている。構築された音からマイナスしてゆく作業ではなく「最初から条件が限られていた」という点において、ニュアンスが違ってくる。結果的にはリズムの強さは残ってるんだけどね。

 モータウン創成期から在籍していたMarvin、その卓越した才能は誰もが認めるものだったけど、レーベル・オーナーBerry Gordyの姉Annaと結婚することによって、社内での立場はさらに盤石のものになった。レーベルの要請に応じてヒット狙いのポップ・ソウルを歌いながら、もともとの志向であるスタンダード・ジャズのアルバムもリリースされていたのは、オーナー一族の威を借りていたからに他ならない。セールス的には充分な売り上げとは言えなかったけど、モータウンからすれば、それまでの貢献に応える功労賞的なもの、穿った見方をすれば、一種の税金対策でもあったのだろう。
 自己陶酔の色彩が強い一連のアルバムからは、Marvinのメロウな感性がほとばしっており、従来のモータウン・ユーザーにアピールするものではない。ただ労務管理的な視点で見れば、時にこういったガス抜きをしておくことによって、何かと弄しやすくなるし。

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 そんな感じで、肩までどっぷりモータウンの社風に浸かり、幹部クラスの立場を謳歌していたMarvin だったけど、Annaとの別離を機に状況は一変する。もともとMarvin自身、それほど彼女に興味があったわけでもなく、交際に積極的だったのはAnnaの方である。Marvinとしては一種の政略結婚という判断で入籍しただけで、当初から愛情はなかった、というのが定説となっている。
 ハナから愛情がないのだから、冷めようもない。すれ違いの生活が続いた末、結局は離婚という結論に落ち着くのだけど、そうなるとMarvin の社内での立場も変わってくる。
 いくらレーベル内でもトップの稼ぎ頭とはいえ、所詮、経営陣は身内で固めた同族企業、一旦外様になってしまえば待遇も違ってくる。膨大な慰謝料を支払うために2枚組大作『Hear My Dear』をリリースするのだけど、これがセールス的には大幅に苦戦したため、目論見が狂ってしまう。最後にはGordy一族に身ぐるみ剥がされてしまった上、モータウンとも契約解除、自己破産の憂き目に会ってしまう。
 ちょっと冷静に考えれば、オリジナル2枚組のソウル・アルバムなんて、そうそう売れるはずもないのに、手っ取り早く稼いで楽になろうと思ってしまったのが、そもそもの転落の始まりである。まぁ、それだけ追い詰められていたのだろうけど。

 捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったもので、そんな落ちぶれた彼を支援する者がいた。
 彼の名はHarvey Fuqua 。Marvin ソロ・デビュー前に所属していたドゥーワップ・グループMoonglows のリーダーで、彼をエンタテインメントの世界に導いた恩師である。かつてはFuqua自身もモータウンに所属していた縁もあって、その後もMarvinとの交流は続いていた。
 wikiを見ると、Fuqua自身はヒット・メーカーというよりは、裏方的なコーディネーター、もっと言ってしまえば仕掛け人・フィクサーという印象が強い。そんな人物だからして、失意のどん底にあったMarvinに、純粋な好意だけで手を差し伸べたとは思えないのだけど、まぁ結果的にはみんなが丸く収まったわけで。
 あらゆる方面へのツテを持つFuquaの助力によって、なぜか新天地ベルギーにてコロンビアとの契約を取り付け、第2の黄金期に突入したのは周知の通り。

 かつてのMarvinなら、自身の声を重層的に組み合わせたコーラスで空間を埋め、柔らかなアタック音のコンガやパーカッションによって有機的なポリリズム・ビートを配し、David T. Walkerのまったりしたギター・プレイをあしらったりしていたのだけど、ここではそれが一変している。これまで培ってきたレコーディング・テクニックをすべてチャラにして、最小限で調達したパーツを無駄なくシンプルに活かしたサウンド・デザインになっている。
 名作『I Want You』で完成を見た分厚いコーラスは影を潜め、エコーも最小限にとどめている。小さなバジェットという条件下、シンセやキーボード、リズム・ボックスの基本的なシーケンスもMarvin 自身が行なっており、そこで浮いた予算をブラス・セクションとGordon Banksのギターに投入している。曲によってはコンガやドラムも自身で叩いているのだけど、まぁもともとドラマーでデビューしているのだから、その辺はお手の物だとして。何しろ予算が限られているのだ。
 自社スタジオを構えていたモータウン在籍時には気にも留めなかった、スタジオや機材のレンタル費用などにもシビアにならざるを得ず、サウンドとしてはチープである。演奏パートだけ聴いていると、デモテープ・レベルのクオリティの楽曲もある。もう少し予算と時間があれば、サウンドもじっくり熟成されるのだろうけど、そうしちゃうと「Sexual Healing」のニュアンスも失われてしまうわけで、なかなか難しいところ。

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 時代を彩った名機TR-808を駆使して創り上げられた名曲「Sexual Healing」について散々語られているのが、「経済的な事情が云々〜」というのが定説となっている。いるのだけれど。
 ちょっと穿った見方かもしれないけど、いわゆるアナログ・レコーディングの頂点を極めたMarvinに、「このサウンドしか選択肢がなかった」というのもちょっと考えづらい。確かに予算は少なかったはずだけど、ヨーロッパ諸国にだって、無名でも腕利きのミュージシャンはいくらでもいるはずだし、ましてやMarvinが一声かければ、手弁当でレコーディングに駆けつける者も少なくなかったんじゃないかと思われる。いくら没落したとはいえ、それだけのネーム・バリューはあったわけだし。
 むしろ、「Marvin 自身が能動的にこのサウンドを選んだ」と考えた方が自然である。
 このアルバムがリリースされた80年代初頭とは、70年代の長いエピローグの最中であり、まだディスコ・ムーヴメントの残り香が漂っていた時代だった。特にソウル系のアーティストは、猫も杓子もディスコ・サウンドに手を染めており、若手もベテランもその潮流に飲み込まれていた。
 もちろん、そのブームに乗っかったからといって、誰もがヒットにありつけたわけではない。むしろ、一定の評価を築いていたベテランほど、風当たりは強いものだった。年月を経て熟成されたサウンドを捨て、時流に迎合して変に若作りしたベテランの醜態は、嘲笑の的になるケースの方が多かった。
 そういった失敗例を横目に見ていたのか、安易に流行りに乗っからなかったMarvinの姿勢は、結果的に正解だった。もしかすると、モータウン時代に何曲かシャレでディスコ・アレンジを試していたのかもしれないけど、今のところそれっぽい音源が発掘された話は聞かない。
 キンキラのジャンプ・スーツに身をまとい、不慣れなステップをキメるMarvinも見てみたい気もするけど、…いや、ないなやっぱ。

 と、ここまで書いて気づいたことがある。
 -これって、UKニューウェイヴの流れと似てるんじゃないの?
 ストレートなロックンロールへの原点回帰を謳ったパンク・ムーブメントがひと段落し、80年代初頭のイギリスのミュージック・シーンは、一時的な真空状態に陥った。既存のロックを混乱に招き、破壊の後の再生に至るまでは、幾らかのタイムラグがあった。大きなムーヴメントに育つ動きはなかったけど、その分、アイディア一発・ハッタリとも言える新機軸の音楽が続々生まれていた。
 楽器もロクに弾けないくせに、「ロックじゃなければ何でもいい」とうそぶいて実験的なサウンドを提示したwire 。既存の楽器にとどまらず、叩いて音のなる物なら何でも素材として取り入れ、今でもインダストリアル・ミュージックのレジェンドとして君臨するEinstürzende Neubautenなど、従来の概念では捉えきれない音楽に日が当たり、続々メジャー展開しつつあったのが、 この時代である。
 オールド・ウェイヴに属するMarvinが、そんなUKシーンの動静を本気で追いかけてたわけでないだろうけど、その余波は確実に受け止めていたんじゃないかと思われる。


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1. Midnight Lady
 日本ではMC Hammerの元ネタとして有名なRick James 「Super Freak」のベース・ラインからインスパイアされて制作した「Clique Games/Rick James」を元に作られたナンバー。あぁややこしい。
 今でこそ70年代終盤のディスコ・ファンクの一翼を担ったオリジネイターとして一定の評価を得ているRick だけど、当時はそのビジュアルの特異さから、色モノ的扱いの域を出ず、まともな評価がされていなかった。
 そういった色メガネを外し、チープな音色のサウンドでも充分グルーヴ感を引き出せることに着目したMarvin の慧眼は鋭い。
 ヴォーカル的には初期のポップ・ソウル的なアプローチで、中期のウェット感を抑えることによって、サウンド全体の疾走感を演出している。中盤のドラム・ブレイクにいつもドキッとしてしまう。

2. Sexual Healing
 前に出過ぎないリズム、尾を引きすぎないカッティング、全編に薄く漂う雰囲気シンセの調べ。
 いわゆる「ブラコン・サウンド」のパーツをすべて詰め合わせた、Marvinサウンドの最終形。この後のメロウ系ブラコンはここに端を発しており、無数のヴァリエーションが今も増殖中。
 アルバム・リリースと同時にシングル・カットされ、US3位UK4位という成績を収めてるけど、前述したように、この曲はチャート・アクションのみで語られるものではない。ここ日本においても、男性ソロ・ヴォーカリストといえば、尾崎紀世彦や松崎しげるに代表される熱情シャウト中心の傾向が強かったけど、Marvinによるソフト・タッチのソウル・チューンは新たな方向性の位置づけとなり、後に徳永英明を輩出する下地となった。



3. Rockin' After Midnight
 8.のB面としてシングル・カットされた、1.と同じ方向性のダンス・ファンク・チューン。細かく刻まれるギターのフレーズはスパイス以上のアクセントを添えている。モータウン時代ならもっとまったりしたアレンジだったと思われるけど、限定された条件を最大限に活かしてるのが、このナンバー。でも、ロックじゃないよね?

4. 'Til Tomorrow
 2枚目のシングル・カット。USブラック・チャートでは31位。往年のフィリー・ソウルをヴァージョン・アップしたような、『I Want You』期を思わせるメロウ・チューン。年季の入ったファンには人気の高いナンバーでもある。間奏のサックスがAORっぽいのは時代を感じさせる。でも、好きだ、こういう世界。

5. Turn On Some Music
 デモテープを思わせるシンプルなリズム・パターン。構成パーツも多くはない。けれど、Marvinマジックが最も強く放たれているのが、実はこの曲。
 このアルバム・セッションで大活躍しているJupiter-8のウニョウニョした音色、奥に引っ込んだミックスのホーン・セクション。あとはほぼMarvinの声しかない。それだけでここまでの世界観を形作ってしまうとは。

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6. Third World Girl
 タイトル通り、秘境のジャングルの中でのMarvinの雄たけびからスタート。エスニック・ムードの先取り感がほのかに感じられる。シンセのエフェクト音でいろいろ遊んでるうちにできちゃったような、そんないい意味でのお気軽さが窺えるナンバー。間奏のブルース・ハープはご愛嬌といったところ。

7. Joy
 3枚目のシングル・カットとして、USブラック・チャート78位を記録。1分に及ぶイントロがカッコいい。ダンス・ミックスとかリリースしていれば、新たな方向性が見つかったかもしれない。そのくらい、ダンスフロア・ライクなファンキー・チューン。
 なので、ここでの主役はMarvinというよりむしろギターのGordon。軽快かつムダのないカッティングはずっと続いてても飽きない。中盤のコンパクトなソロも簡潔にまとめている。ラストはサックスを中心として、なんかグダグダに終わる。

8. My Love Is Waiting
 ソウル・レビューの終わり、Marvinによるディナー・ショーの締めくくりを連想させる、モノローグからスタートする爽やかなグルーヴ・チューン。2.のアンサー・ソング的なコード進行・メロディを持ち、このアルバム全体が「Sexual Healing」を軸として発展していったことを示している。
 作り込まれているけどラフな感触は、海辺のドライブにもピッタリ。ギターの音色がいい。




 既存のフォーマットを借りるのではなく、新たにフォーマットそのものを創り上げてゆく行為は、時代を彩るアーティストとしての使命である。まだ何者でもなく、また何も持たぬ若い才能に秘められているのは、正体不明のパワーであり、恐れを知らぬ無方向性だ。
 そういった動きに触発されたかのように、原初的な響きのリズム・マシンを操るMarvin 。古き筵を捨て、新たに生まれ変わったひとりの男は、未踏の新境地を切り開いた。過去からの決別と、既存概念からの脱却を図って。
 そう考えた方が、この変節はスッキリする。


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1973年のモータウン事情 その1 - Diana Ross & Marvin Gaye 『Diana & Marvin』

folder 1973年リリース、それぞれモータウンを代表する大物シンガー2人によるデュエット・アルバム。日本で例えると、山下達郎と竹内まりやが揃ったようなものである、と思ったのだけど、夫婦や恋人関係じゃないんだよな、この2人。
 一説には2人揃ってレコーディングされたものではなく、お互いバラバラにヴォーカル録りしたというエピソードも残ってるくらいなので、親密な間柄からは程遠い関係性が窺える。会社で言えば、第1・第2営業部の部長同士の共同プロジェクトといった方が正解かもしれない。そこは2人とも大人だから、親密さをアピールしてはいるけど。

 当時の2人のアーティスト・パワーからして、US26位UK6位という成績は、はっきり言っちゃえば大コケしたという印象。1+1のそれぞれ1は大きいため、相乗効果を狙ってはいたはずだったのだけど、単純な足し算効果も得られなかったのは、いま見ても不思議。6組ものプロデューサーを起用した贅沢なプロダクションで臨んだ結果、ジャケット・イメージ通りのトロけそうなメロウ・チューンを揃えているのね。
 Wiki を調べてみて驚いたのが、なんとこのアルバム、オリコン1位を獲得している。確かに名曲が詰まったアルバムではあるけど、そこまで当時の日本人に希求するほどの内容ではない。さすがに信憑性に欠けるので他のデータでも調べてみると、こっちではチャート・インすらしていない。一体、どれが正しいんだか。この時代は情報が錯綜している。

 1973年のモータウンがどんな顔ぶれだったのかというと、MarvinとStevie Wonderを中心とした革新派と、旧来のモータウン・ポップ・ソウルを遵守した保守派との2つに大別される。この他にもサブ・レーベルとして、Mo-westがSyreetaなど、保守・革新どちらにも分類されないオルタナ・ソウルを展開していたのだけど、大きな潮流には育たなかった。もう少し経てばCommodoresの登場によって、一気にディスコ・シーンへすり寄った音作りも導入されるようになるのだけど、それはもう少し後の話。
 革新派で前面に出ていたのがMarvinとStevieなのだけど、この2人ともそれぞれ独自の活動を展開していたため、派閥とは言えないゆるい結びつきだった。そもそもこの2人がコラボしてるところなんて見たことがない。オンリーワンの音楽性を持つニュー・ソウル勢が結束することはなかった。
 で、保守派の筆頭がDianaだったと言いたいところだけど、彼女は当時、モータウンの象徴的存在であって実績的にはそこそこ恥ずかしくない成績程度、実際のヒット・メーカーはJackson 5勢だった。Michael も本格的にソロ活動を始めたこともあって、この年だけでもライブを含めてアルバム4枚・シングル10枚をリリースしている。アメリカ公式だけでこれだけの物量なのだから、各国独断でリリースしたアイテムも含めると相当なものになる。実際の彼らの人気のピークはもうちょっと前に頂点に達しており、1973年は緩やかな下降カーブを描いていた頃なので、在庫総ざらえ感が否めない。

Diana & Marvin -  Inside 2
 

 これまでのモータウンのヒット必勝パターンが通用しづくなってきたのがこの1973年であり、そのヒット製造ラインにおんぶに抱っこだった保守派もまた、生き残りを賭けて各自模索していたため、強固な一枚岩とは言えなくなってきている。
 保守派の代名詞的存在とも言えるTemptations も意外に早くポップ・ソウル路線からの離脱を果たし、60年代末から隠れ革新派Norman Whitfieldプロデュースによる一連のプログレッシブ・ソウルへの傾倒具合を強めている。とは言っても彼ら、内実までエキセントリックなキャラクターになったわけではなく、ステージでは相変わらず気持ち良さそうに”My Girl”も歌っていたし、オーソドックスなコーラス・グループというスタイルを変えることはなかった。たまたまオルタナティヴな若手プロデューサーNormanが担当についたため、「まぁ好きにやってみろや」といった鷹揚な態度でサウンドを作らせていたらしい。「懐の深いベテラン上司をバックにつけた、若手社員主導による社内ベンチャー」と言えばわかりやすいかもしれない。リーダー格だったEddie Kendricksあたりが「ケツ持ちはやるから好きにやってみろ」とか言ってたのかな。
 日本で例えると、中田ヤスタカがダークダックスをプロデュースするようなものである。いや、ちょっと違うかな。

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 60年代をSupremesのメイン・ヴォーカルとしてスターダムの階段を駆け上がったDianaだったけど、次第にグループの勢いも落ち着いてきたため、70年代に入ると共にSupremesを卒業している。それを機に、モータウン定番のポップ・ソウルから音楽性を一新、アダルト・オリエンテッドなバラード・シンガーを志すようになる。
 US1位を獲得した”Touch Me in the Morning”を始めとして、ネスカフェのCMソングで有名になった”マホガニーのテーマ”(Theme from Mahogany ) など、日本のお茶の間レベルでも一定の認知はあった。カテゴリー的にはソウルではあるけれど、彼女が発する透明感のあるウィスパー・ヴォイスには黒人ヴォーカル特有のダイナミズムが希薄で、逆にオーソドックスにジャジー・テイストなサウンドとの親和性が高い。なので、彼女にとって この方向性は間違っていなかった。
 この時期のDianaはモータウン、ていうかオーナーBerry Gordyの方針として、単なるシンガーの枠に収まらないオールマイティなエンターテイナーを志向していた。その一環としての新たな試みが映画界への進出、それも結構真剣に女優としてのキャリアを歩んでいた。アカデミー主演女優賞にもノミネートされた「ビリー・ホリディ物語 (Lady Sings the Blues)」や、そこそこのヒットになった「マホガニー物語 (Mahogany) 」など、まぁカネに物を言わせた部分もあるだろうけど、とにかくハリウッド・セオリーに基づいた映画に次々と出演している。 多分DianaもGordyも理想像として描いていたのがBarbara Streisandのライフスタイルだったのだろうけど、あいにくDiana、彼女ほどのカリスマ性も足りなければ、真性のエンターテイナーに求められる『品格』が足りなかったのが決定的だったんじゃないかと思われる。
 こういった活動方針は先に述べたGordyの意向もあったけど、Diana自身の野心の目覚めも大きかったんじゃないかと思われる。単なるいちシンガーというだけでなく、ハリウッドへの進出を足がかりとして、行く末はセレブリティの仲間入りを目論んでいた節もある。実際はスタッフの尽力であったにもかかわらず「デビュー前の Jackson 5を発掘した」と喧伝してフィクサー気取りになったり、いい意味でも悪い意味でも、モータウンの中では別格扱いになっていた。

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 そういったDianaのお姫様気取りを面白く思わなかったのがMarvinである、と言いたいところだけど、そう単純な構図でもなかったんじゃないかと思われる。1970年代のMarvinはモータウンの枠組みにとどまらず、もっと広いフィールドで活動していた。ニュー・ソウル・ムーヴメントの最高傑作である『What's Going On』 をリリース、ここで「シリアスな社会派メッセージを訴える孤高のシンガー」というスタイルを確立すると、その次はまったく逆のベクトル、思いっきり個人的な「ただただ女の子とエッチしたいだけの精力みなぎる男」を描いた『Let's Get it On』によって、聖俗併せ持った奇妙なスタンスを獲得した。当時のMarvinの動向はソウル・シーンに限らず最重要項目であり、ミュージシャンなら誰もが彼の次のアルバムを心待ちにしていた。
 そんな状況だったので、Marvin的には自身の音楽活動と夜のクラブ活動で精いっぱいであり、モータウン内の勢力争いからは一歩身を引き、「俺関係ねぇし」といった態度を貫いていた。いたのだけれど、それもまた単純には行かない。当時のMarvinはオーナーGordyの姉と結婚していたのだけど、この頃から夫婦関係がこじれ始め、後に離婚をめぐる泥沼にはまり込むことになる。のちにMarvin、「妻Annaへの慰謝料稼ぎのために作られた」と揶揄されることになるアルバム『Hear My Dear』(邦題『離婚伝説』っ)において、延々未練がましい愛を歌うことになる。
 オーナーの身内と結婚しちゃってるのだから、一応Marvin自身もオーナー一族のひとり、完全に知らんぷりするわけにもいかない。業務命令で嫌々Dianaと組まされても、それなりにやる気をアピールしなくてはならない。いわゆる入り婿状態だったから、微妙に肩身も狭いだろうし、発言権も少なそうだしね。まぁ、黎明期から互いに屋台骨を支えてきたいわゆる戦友でもあるし、最近の女王さま的態度はちょっと鼻につくけど、別に俺メインじゃないからいっか、という感じで引き受けたんじゃないかと思われる。
 もともとモータウンでもドラマーとして入社して、「いつかNat King Coleみたいになれればなぁ」と思ってた人なので、強烈なスポットライトは好まず、むしろ裏方気質の人である。なのでこのアルバムでのMarvin、「そういった華やかな部分はDianaに任せとけばいいんじゃね?」的に開き直ったのか、悠然とした態度でサポート役に徹している。メインじゃない分だけプレッシャーも少ないので、ここではめっちゃロマンティックな歌声を披露している。
 このくらいはやればできる人なのだ。


Diana & Marvin
Diana & Marvin
posted with amazlet at 16.03.06
Diana Ross Marvin Gaye
Motown (1990-10-25)
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1. You Are Everything 
 今回はじめて知ったのだけど、これって、アメリカではシングル・カットされていないのだった。これだけ有名な曲なのに、なに考えてんだモータウン。
 UK6位なぜかオランダ6位という、なんとも微妙な成績を残している。チャート以上のインパクトがある、「70年代ソウル・バラードの一番搾り」と言っちゃってもよいキラー・チューン。もともとオリジナルは当時のフィリー・ソウルのトップ・グループStylistics 1971年のヒットだけど、今じゃすっかりこっちのヴァージョンの方が有名。線の細いヴォーカルのDianaに比べて、ここぞとばかりにエロさ全開のMarvinの印象が強い。
 だからシングルにしなかったんだな、Gordy。



2. Love Twins 
 心地よい流麗なストリングスと、金属的な響きのウーリッツァーとのコントラストが印象的なミディアム・ナンバー。ストリングス・オンリーだったら甘くなりがちなところを、ノイジーなエフェクト的エレピとの対比によってサウンドが引き締まり、ただユルいだけじゃない、ひと味違うスロー・ファンクに仕上げている。

3. Don't Knock My Love 
 言わずと知れた「ドリフの早口言葉」のテーマ・ソング。ある年代以上の日本人にとっては、確実にDNAに刷り込まれてしまっているナンバーである。
 もともとはソウル・シンガーWilson Pickett作曲による泥臭いファンキー・チューンなのだけど、ここでは強烈なブラス・セクションによるリフレインによって、メロディアスなダンス・チューンに仕上げている。
 ここで特筆すべきなのは、やはり志村けん。当時の日本人のどれだけが、サザン・ソウルにまで目配りしていただろうか。しかも、このイントロをコントのテーマに使おうだなんて、並みのセンスではない。彼監修による『Free Soul』コンピレーションなんてのも聴いてみたい気がするけど、きっと照れちゃってダメなんだろうな、そういうのって。

4. You're A Special Part Of Me 
 USポップ・チャート12位を記録したシングル・カット第1弾、メロウなフィリー・ソウル・ナンバー。ここでのDianaとMarvinの力関係はほぼ互角、Marvinもユニセックスなファルセットからマニッシュなシャウトまで多彩な技を披露しているけど、ここではもう少しDianaががんばっている。ていうか、ヴォーカル・ミックスそのものがDiana 寄りになっているのに気づく。気づいてからクレジットを見ると、プロデューサーに「Berry Gordy」の名。
 なんだ、そういうことか。

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5. Pledging My Love 
 オリジナルが1954年ということなので、ロックンロール創世記にリリースされたソウル・バラードのカバー。こうして歌い上げるナンバーはMarvin の専売特許、スタンダード・ナンバー特有のバタ臭さも少なく、しかもエモーショナルにキメてしまうのは、やはり持って生まれた才能である。
 こういったソウル色の薄いナンバーはDianaとも相性が良い。キャッチーさは少ないけど、2人の声質には最もフィットしたナンバー。

6. Just Say, Just Say
 これを最後にモータウン所属のお抱えソングライターから卒業、後に自らアーティストとしてヒットを連発することになるAshford & Simpson、彼ら夫妻による珠玉のミディアム・バラード。なんと、これもシングルじゃなかったんだ。
 ここはさすが夫婦デュオによる製作だったためか、最も自然にデュエットっぽい仕上がりになっている。きれいに絡み合うユニゾン、互いの見せ場となるソロ・パート、どれをとってもきちんと計算されている。

7. Stop, Look, Listen (To Your Heart) 
 イントロが1.と似てるよなぁ、といつも思ってたのだけど、同じStylisticsのカバーだった。こういった世界観は当時のフィリー・ソウルが最強だった。
 Marvinにとってはメロウ過ぎるけど、Dianaには最も居心地の良い世界。ただ単にメロディアスなだけではなく、サビの「Stop」「Love」「Listen to Your Heart」、この流れが最高に心地よい。

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8. I'm Falling In Love With You
 ソフト・サウンディングながらも不思議なグルーヴを感じさせるミディアム・スロウ。Marvinのエモーションに煽られたのか、それとも「静」と「動」の対比を意識したのか、ここでのDianaのヴォーカルは熱い感情を秘めながらも、クレヴァーなスタイル。感情をむき出しにできるMarvinとはそもそもスタイルが違いすぎるので、敢えて引きずられないような抑え加減が絶妙。そうか、こういった歌い方もできるんだ。
 作曲クレジットのMargaret Gordyって誰だっけ?と思って調べてみると、Berry Gordieの当時の愛人Margaret Johnsonのペンネーム。他ではDianaのソロ・アルバムくらいでしかクレジットされていないので、実力のほどは測りかねるけど、少なくともこの曲はなかなかのもの。もしほんとに書いてたらね。
 ちなみに豆知識、このBerryとMargaretの間に生まれたのが、後にモータウンよりデビューすることになるRockwell。一発屋とも言えぬくらい微妙なセールスで終わってしまったけど、今ごろ何してるんだか。

9. My Mistake (Was To Love You)
 US19位にチャート・インした、ちょっとメロウながら8.同様ファンキーなサビを持つポップ・チューン。こういった曲調の時のMarvinは最強。ていうかDianaじゃなくってTammi Terrellとやって欲しかったと思ってるのは俺だけじゃないはず。
 作曲に携わっているGloria Jones、聴いたことあるよなぁと思って何気に調べてみると、やっぱりMarc Bolanの奥さんだった。さらについでに調べてみると、パソコンの中に彼女のソロ・アルバムが入っていた。レアグルーヴの流れで聴いてたんだな、確か。一曲目の”Share My Love”はなかなか奇妙なプログレッシヴ・ソウルでオススメ。



10. Include Me In Your Life
 ラストはポップでジャジーなテイスト。コール&レスポンスで2人のシンプルな掛け合いが絶品。地味だけど曲順的にはしつこくならず、最適な位置。モノローグの掛け合いも収録されているので、せめてこれくらいは一緒にレコーディングしたものだと信じたい。




 かなりメロウな作り、AOR的・フィリー・ソウル調など、従来のモータウン・スタイルとはまた性質の違ったサウンドになっている。もちろんMarvin的要素は薄く、かなりDianaのフィールドに寄せたサウンド構成になっているにもかかわらず、でもMarvinが全然負けてる気がしないのは、Marvinファンのひいき目だけじゃないと思われる。だってDianaって、聴いてても面白くないんだもん。俺的にはMarvinのヴォーカルの強さばかりに耳が行ってしまう。Dianaファンだったら「Marvinうぜぇ」って思うのかな。

 1973年のモータウンについてはもうちょっと語っておきたいので、次回のStevie Wonderに続く。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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