Joni Mitchell

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

べ、べつに売れたかったわけじゃないンだからねっ!! -Joni Mitchell 『Chalk Mark in a Rain Storm』

folder 1988年リリース、前作『Dog Eat Dog』より約3年ぶり、彼女にとっては13枚目のオリジナル・アルバム。US45位UK26位という成績は、80年代のJoniとしてはまぁアベレージはクリア、と言った程度のそこそこの成績だったけど、本国カナダでは最高23位、初のゴールド・ディスクという栄冠を手にしている。もともと瞬間風速的なセールスを上げるタイプのアーティストではなく、地道なロングテール型の売れ方をする人なので、回収までの期間は相当要するけど、採算が取れる程度には売り上げが見込める、レーベル的には収益の目算が手堅い人でもある。
 一般的な知名度はそこまで高くはないけど、同業者からの評価は総じて高いので、「Joni Mitchell好きなんだよね」と言っておけば、何となく通ぶれるというメリットもある。矢野顕子やVan Morrisonも同じような空気感があるよな。

 CSN&Y「Woodstock」を代表とする、「ちょっと屈折したコード・ワークを自在に操るシンガー・ソングライター」として登場したJoniの活動のピークが70年代にあったことは、ほとんどのJoniファンが頷くところである。
 一般的な抒情派フォークの一言ではくくれない、彼女が本当の意味でオリジナリティを発揮するようになったのは、Weather Report勢をはじめとしたジャズ/フュージョン系セッション・ミュージシャンとの積極的な交流によって生み出された『Court & Spark』以降の作品群からである。

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 それまでポピュラー・ミュージックのメインとされていたロックが、70年代に入ってからは急速に疲弊していったのと前後して、ジャズやソウルのエッセンスを付加したソフィスティケートされたサウンドが喧伝されるようになる。大部分のAOR作品と比べて、Joniが創り出す作品からは大衆を惹きつける吸引力は弱かったけど、当時のフュージョン・ブームの流れに乗って堅実なセールスを上げていた。
 ここまでは問題ない。

 ここまでのJoniは、70年代に設立された新興レーベルのアサイラムに所属している。Neil YoungやEaglesといったメンツから推察できるように、大陸的なシンガー・ソングライターやカントリーをベースとしたロックを持ち味としたバンドが多く所属する、言ってみればアットホーム的な香りの漂うレーベルである。
 アーティストの自主性を重んじる社風は自由闊達なムードが蔓延し、採算さえどうにか取れれば自由な音楽性を追求できるということで、Joniにとっては心地よい居場所であった。
 その風向きが変わったのが、ゲフィンへの移籍ということになるのだけれど、事実上はアサイラムもゲフィンもオーナーは同じなので、ダイエー・ホークスがソフトバンクに屋号を替えたようなもの、アーティスト側からすれば親会社の名前が変わったんだなぁ程度の認識であったはずである。
 前述したように、旧来ロックは自家中毒を起こして疲弊しきっており、クリエイティヴな面においてはすでにその進歩を止めていた。いたのだけれど、そう考えていたのは一部の真摯なミュージシャンやマニアだけであって、ラジオから情報を得る大多数のライトユーザー向けに、イデオロギーより収益性を優先した産業音楽が量産されていた。
 玉石混合の70年代ミュージック・シーンを過ぎて、効率的に資本回収できるシステム作り、知的好奇心を軽く刺激する程度のアーティスト・エゴを商品化していったのが、ゲフィンというレーベルである。

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 5年ほどの長きに渡ったハウス・ハズバンド期を経て前線復帰したJohn Lennonを獲得したことによって、一気に業界内での評価がうなぎ上りとなったゲフィンだけど、この例に漏れず、初期はあまり新人の育成に積極的ではなく、むしろマンネリズムに陥ったアーティストの再生工場という経営戦略を推し進めている。その代表格と言えるのが、ELP、King Crimson、Yesなどのプログレ代表バンドの歴代メンバーを一堂に揃え、思いっきり売れ線狙いの産業ロックを大ヒットさせてしまったAsiaである。
 もともと小難しい理屈やらコンセプトやら鬱屈やらをテーマとして掲げて仰々しいサウンドでもって、有無を言わせぬハッタリで畳み掛ける、というのが俺的に、そして一般的なプログレに抱く印象なのだけど、実のところ、その辺を大真面目に考えているのはバンド内のブレーン担当くらいのもので、大方のプログレ・バンドのメンバーらは、ごく普通の分別と感性を持ったミュージシャンであり、それがちょっと他のジャンルよりはバカテクなだけである。売れるためにちょっぴり媚を売ったり魂を差し出したりすることに、それほどこだわらないのが大部分である。
 しちめんどくさいコンセプトに縛られず、ひたすらキャッチーなリフとポップなメロディにこだわった結果、彼らは産業ロックのフロンティアとして、爆発的な人気を得た。もともと各メンバーともリーダーを張れるほどの実力の持ち主であり、他バンドと比べてポテンシャルはハンパなかったので、いくらチャラチャラした楽曲やアレンジでも、どこかしら気品のようなものが漂ってしまうのは、やはりプログレ者としての業なのだろう。さり気なく変拍子や超絶アンサンブルなんかをぶち込んでるし。

 賞味期限の過ぎたベテラン・ミュージシャンでも、コーディネート次第では全然商品価値は上がる、ということを証明したのがAsiaであるとすると、当然、そこに目をつけるプロデューサーやマネージャーが跋扈したりもする。70年代を優雅に締めくくれず離合集散を繰り返したバンドの順列組合せが顕著になったのが、ちょうど80年代初頭からである。
 ソロ・アーティストもまた例外ではなく、これまで主にカントリー・ロック周辺で活動していたKenny Logginsは次第にロック色を強め、サントラ請負人として確固たるポジションを築いたし、他にも多くのシンガー・ソングライターらがKORGやRolandのシンセをこぞって導入し、ライトなAOR化へシフト・チェンジしていった。その路線がマッチした者もいれば無理やりこじつけっぽさが残る場合もあったけど、まぁそれはケースバイケース。

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 でJoni。
 『Wild Things Run Fast』から続く彼女のコンテンポラリー・サウンドへの急接近が、果たして本人の望むものだったのか、それともアゲアゲムードだったゲフィンの社内ムードに乗せられてのものだったのか。多分、どっちもだとは思う。
 大成功を収めたAsiaの成功体験が、ゲフィンのビジネスモデル、必勝パターンとして定着しつつあったため、アーティスト本人だけじゃなく、周囲のブレーンも浮き足立っていた、というのもあるのだろう。
 特にJoniの場合、ゲフィン移籍と前後して、公私認めるパートナーだったJaco Pastoriusとの関係の解消、同時進行で新パートナーLarry Kleinとの親交がスタートしている。以前のレビューでも書いたように、Joni Mitchellという人はアーティストであると同時に、女性でもある。こうやって書いてしまえば当たり前のことなのだけど、彼女のアイデンティティを構成する要素として、アーティスティックな側面と恋愛とは不可分である。言ってしまえば、その時その時で、付き合う男によってサウンドの傾向がまるで違ってしまうのが大きな特徴である。
 Larryは主にロック・フィールドでの活動が多かったため、自然と彼女の音もロック的、コンテンポラリー路線に傾倒してゆくのは自然の摂理とでも言うべきか。

 1980年設立という若い会社だったゲフィンに籍を置いていたことによって、また前身レーベルであるアサイラム時代からの古参ということもあって、下衆な勘繰りで言えば相応の印税率やディールは受け取っていたと思われる。キャリアを通して決して稼ぎ頭筆頭ではなかったけれど、社内的ポジションにおいてもかなり優遇されていたはず。
 レーベルも一新したことによって、これまでのような通好みの音楽ばかりを追求するのではなく、多少なりともシングル・ヒット的な功績のひとつでも残しておいた方が業界内ポジションの維持にも繋がるというのは、自明の理である。
 とは言っても、いきなり脈絡もなくダンス・チューンを多めに入れるとか単純にDX7のプリセット音で埋め尽くすというのも、彼女のプライドが許さない。これまでの文脈も念頭に入れてアーティスト・イメージを壊さず、それでいてポピュラリティを獲得できる方向性で進めなければならない。
 なので、大人のコンテンポラリー・ポップ、AOR路線というのがここで登場する。もともとAOR自体が、ジャズ/フュージョン、ファンクやソウルのハイブリット、いいとこ取りのジャンルのため、彼女がそちらの方向性へ向かうのは、至って自然の流れである。

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 ちょっとデジタル臭が強く出過ぎた『Dog Eat Dog』の反省もあって、この時期のJoniは視野を広げる目的もあったのか、以前から半分趣味的に続けていた絵画に本腰を入れるようになる。個展開催も積極的に行なうことによって、音楽の比重が少なくなり、実際、『Chalk Mark in a Rainstorm』リリースに至るまで3年のブランクが空いている。それだけ前作でのシーケンスとの格闘での疲弊が大きかったのだろう。
 ただそのインターバルが結果的に良い方向へ向かうきっかけとなったのか、クールダウンすることによって、デジタル・サウンドの使い方がこなれてきている。何が何でも徹頭徹尾打ち込みで埋め尽くすのではなく、従来のアコースティック楽器との絶妙なブレンドがナチュラルに溶け込んでいる。80年代特有のデジタル・サウンドは時代の風化に耐えられぬものが多く、Joniのサウンドもまた例外ではないのだけれど、スロー系では今も光るものが窺える。テンポが速くなると、ちょっと古臭くなっちゃうよな、やっぱ。無理にビートに乗ろうとするからまた。

 やたら多いゲスト陣というのが、このアルバムの大きな特徴。当時、Kate Bushとのデュエット「Don’t Give Up」がメチャメチャはまっていたPeter Gabrielや、アサイラム時代からの戦友Don Henleyを引っ張り出してくるのはまぁわかるけど、さすがにBilly Idolはないでしょ普通。単に意外性だけでキャスティングしたとしか思えない。その後も接点ないし。
 バラエティに富んだ豪華ゲスト陣と言うより、むしろ八方美人的に散漫な印象ばかりが先行してしまったこのアルバムの反省なのか、こういったコラボものはここで終了。Tom Pettyはまだわかるけど、Willie Nelsonはちょっと方向性違くない?とJoni自身思ったのだろう。

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 『Dog Eat Dog』がデジタル・サウンドをマスターするための習作だったとすると、この『Chalk Mark in a Rain Storm』はデジタルとアコースティックの混合比を見極めるための実験作、過渡期の作品という見方ができる。トップ40も十分狙える、ライト・ユーザーにもアピールするコンテンポラリー・サウンドを目指したけど、どうしても下世話に徹しきれなかった作品ではある。でも、その後のアーティスト・キャリアを思えば、ここで大きく道を逸れなくてよかったことは、歴史が証明している。
 次作『Night Ride Home』ではその実験成果がうまく具現化し、それ以降は絶妙の混合比バランスと世界観とを併せ持った円熟期が始まることになる。


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1. My Secret Place
 Peter Gabrielとのデュエットが話題となった、1枚目のシングル・カット。『Dog Eat Dog』で孤独なスタジオ・ワークに翻弄されていた感があったJoniだったけど、ここではシーケンスもまた楽器のひとつに過ぎないことを悟ったのか、デジタル臭はあまり前面に出ていない。エスニックなスタイルのヴォーカルを聴かせるGabriel、クレバーなトーキング・スタイルのJoniとのコントラストは絶妙。Kate Bushほどの幻想性はないけど、熟練のアーティスト同士の微妙な間合いが何とも。探り合ってるよな、2人とも。



2. Number One
 Manu Katchéが叩いているせいか、ポリリズミックなドラム・パターンが印象的。特徴的なリズムに乗せて歌うJoni、やはりいつも通り、メロディアスとはとても言えない、多分彼女以外が歌ったら支離滅裂になりそうな楽曲。こんな奇妙なコードを器用にまとめ上げてしまうのは、やはりこの人ならでは。
 ところでデュエットしているのは、当時活動休止中だったCarsのBenjamin Orr。正直Ric Ocasek以外のメンバーについてはほとんど知らないし、なんでこの人がここでフィーチャーされているのか、なんともさっぱり。

3. Lakota
 冒頭でむせび泣くような雄たけびを上げているのは、ネイティヴ・アメリカンの俳優Iron Eyes Codyによるもの。ちなみにLakotaとは、その部族のひとつ「スー族」を指す。
 サウンド自体はそこまで土着的なものではなく、普通にコンテンポラリーなロック・サウンド。Don Henleyがコーラスで参加しているけど、あまり目立った活躍はない。

4. The Tea Leaf Prophecy (Lay Down Your Arms) 
 揺らぎのあるメロディーが70年代からのファンにも人気の高い、それでいて力強く歌い上げるJoniの珍しいヴォーカルが聴ける、こちらも人気の高いナンバー。ドラムのエコーが深いのが時代を感じさせるけど、Joniのサウンド・コンセプトにはマッチしている。シングル・カットしても良かったんじゃないかと思われるのだけど、やっぱり地味なのかな。
 ここでのゲスト・コーラスは、当時、Princeのバック・バンドRevolutionやWendy & Lisaのバッキングを担当していたLisa ColemanとWendy Melvoin。Princeが自らのバックボーンのひとつとしてJoniを挙げていたのは有名なので、一応まったく関連がないわけではないのだけれど、やっぱり意外。ただ、特別ファンキーさを感じさせるものはない。彼らじゃないと、という必然性はあまり見えない。

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5. Dancin' Clown
 このアルバム中、またはJoniのキャリアの中でも最も異色さが際立つハードロック・チューン。だってデュエットしているのがBilly Idolだし。どういった経緯でJoniが彼にオファーしたのか、それともJoniのスタッフがプッシュしたのか、ていうか何でBillyがこの仕事を受けたのか、第一Joniのことを知っていたのか。
 疑問はいろいろ尽きないけど、めったに見ることのできないダンサブルなJoniを堪能したいという、マニアックな性癖のファンだったら喜ぶと思う。
 当時、BillyとよくつるんでいたSteve Stevensも参加しており、こちらもまた通常のBillyのスタイルでプレイしている。異分子を入れることによって予定調和を回避したかったのかもしれないので、まぁ「予定調和じゃない」というその一点だけ、目的は達成している。
 ていうかTom Petty、こんなとこで歌ってんじゃねぇよ。すっかり霞んじゃってるし。きちんと1曲腰を据えてデュエットすりゃ良かったのに。

6. Cool Water
 と、これまでは同世代のアーティストとのコラボが多かったのだけど、ここに来て格上が登場。当時でもすでにカントリー界においては大御所だったWillie Nelsonが参加している。もうちょっとスロー・テンポで色気があったら、『Top Gun』を代表とした80年代アメリカ・エンタメ映画のサウンドトラックにでも抜擢されたかもしれない。それくらいムードのある曲。一応、シングル・カットもされてはいるらしいけど、残念ながらチャートインは果たせず。



7. The Beat of Black Wings
 これまであまり起伏の乏しいメロディを歌ってきたJoniだったけど、このアルバムではメロディ・メーカーとしての側面を強調した楽曲が多い。やればできるじゃないの、と言いたくなってしまうミディアム・スロー。
 デュエット曲が多いため、相手にも見せ場を作る気配りという点もあったのだろう。ここで再びCarsのBenjaminが登場。特別、秀でたものとも思えないんだけどね。

8. Snakes and Ladders
 再びDon Henry登場。ここではもうちょっと見せ場を作られている。Eagles解散後、ソロ活動で最も成功を収めていたのが彼であったため、便乗目的ではないけど、ここでDonをフィーチャーする必要があったのだろう。
 こちらもシングル・カットされており、US Mainstream Rockチャートにて最高32位。サンプリング・ヴォイスのJoniが聴ける貴重な一曲。

9. The Reoccurring Dream
 ほぼゲストを入れることもなく、ほぼJoniとLarryの2人で制作された、密室間の強いメッセージ・ソング。『Dog Eat Dog』の延長線上的なサウンドは、ここで完結している「閉じた音像」ではあるけれど、デジタル特有の質感は柔らかく処理されている。

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10. A Bird That Whistles (Corrina, Corrina)
 古いトラディショナルのカントリー・ブルースをベースとした、変則チューニングで奔放に引きまくるJoniのアコギ、それと旧知の盟友Wayne Shorterとのセッション。お互い手の内は知り尽くしており、当初は和み感さえ漂っているけど、終盤に近づくにつれ、互いの技の応酬が激しくなる。興が乗ったセッションは次第に緊張感が蔓延しはじめ、そして唐突に幕を閉じる。その切り上げの加減こそが、一流アーティストらを手玉に取って操ってきたJoniの成せる業なのだ。



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難解だと思ってる人には、ここから聴いてほしい - Joni Mitchell 『Court and Spark』

folder 1985年からロキノンを読むようになった俺にとってのファーストJoniは『Dog Eat Dog』。この時期のJoniは高度なプレイヤビリティを封印、これまで敬遠していた無機的なシンセ・サウンドに果敢に挑戦している。熟練ミュージシャンの技術スキルに頼らず、あくまで他のアーティストと同じ条件のもと、どれだけオリジナリティを表現できるのか、を追求しており、これはこれで好きなのだけど、多分一番聴いてるのは、ジャズ/フュージョン・サウンドを導入し始めた、この『Court and Spark』だと思う。

 めちゃめちゃキャリアの長い人である。遡ればウッドストックの時代から活動しているので、ひと括りに「こういったサウンド」とまとめることは難しい。
 一応、サウンドの傾向として、俺なりにざっくり区切ってみたのが、これ。
 
 ① シンガー・ソングライター期(デビュー~『For the Roses』まで)
 ② ジャズ/フュージョン期(『Court and Spark』~『Shadown and Light』まで)
 ③ AOR的コンテンポラリー・サウンド期(『Wild Thing Run Fast』~『Taming the Tiger』まで)
 ④ オーケストラ・アレンジでセルフ・カバー期(『Both Sides Now』と『Travelogue』)
 ⑤ 引退表明後の復活(『Shine』~現在)

 分類の仕方は人それぞれだけど、まぁ②くらいまではほぼ間違ってないと思う。それ以降はいろいろ解釈が分かれると思うけど。
 こういった分類のほかに、これまで制作に関わってきたミュージシャン・エンジニア達、まぁ要するに男性遍歴だけど、「恋多き女」として評されるJoni、これまでDavid CrosbyやJames Tylor、Jaco Pastoriusなど、付き合う男によってそのサウンドが変わるという、一歩間違えれば田舎のミーハー娘と大差ない価値観での分類の仕方もあるのだけれど、まぁそれはまた別の機会に。

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 今回取り上げるのは②の時期、一般的にも名作が集中している、と評価の高い時期でもある。俺的にもよく聴くのはこの時期が多いのだけれど、①の時期、シンガー・ソングライターとしてのJoniは、正直苦手である。一応①から⑤まで、ひと通りは聴いているのだけど、初期の3枚を聴いたのは、多分2、3回程度、初期の名盤とされている『Blue』だって、重すぎてきちんと聴いたことがない。
 ちゃんと聴けばいい曲も多いのだろうけど、ほぼギター1本か、せいぜいバックにアコースティック・ピアノ程度、シンプルに削ぎ落とされたサそのウンドは、俺にはどうにも重い。あまりに飾り気ないJoniの声は、滲み出る情念が強すぎて、時に聴く者を不安へ誘う。男が聴くには、重すぎる女なのだろう。
 英語がネイティヴな者なら、多分そこまでの威圧感はないのかもしれない。だって俺、中島みゆきではそんな風に思ったことがないもん。
 俺が初期のJoniの良さをわかるようになるまでは、まだ歳月が必要なのかもしれない。

 なので、一度引退表明してからの時期、⑤の作品も俺的にはイマイチ。だってつまんないんだもん。純粋に楽曲の良さ「だけ」を堪能するのなら、このようなシンプルなアレンジがいいのだろうけど、俺は「本質」だけを求めてるんじゃないのだ。その他にも付随した「ムダ」な雑味も含めての嗜好であって、精進料理をたしなむには、まだちょっと早すぎる。
 理屈ではわかっているのだけど、やっぱまだ時間が必要なようで。

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 Laura Nyroのレビューでも書いたことなのだけど、彼女もまた、非常に通好みのアーティストである。同業者であるミュージシャンにもファンは多く、俺の知る限りではPrinceがキャリアの初期に影響された、と明言している。トリビュート・アルバムが企画されれば、多くの優秀なアーティストが挙って参加するし、またクオリティも高い。
でもセールスはイマイチ、というのが、この種のアーティストの特徴でもある。グラミー獲得など、それなりの実績はあるのだけど、多分すべてのアルバム・セールスを累計したとしても、Taylor Swiftの1枚にも及ばないはず。
 それでもレコード会社としては、文化遺産的な意味合いで受け止めているのか、メジャーでの契約が切れたことはなく、カタログには常に残っている状態である。

 もともとの販売数が少なくせいもあるのだけれど、ブック・オフを覗いても、JoniのCDが置いてあるのを見たことがない。1度手に入れてしまうと、なかなか手放せないのだろう。日常的にヘビロテになるタイプの音楽ではないけれど、どこか常に手元に置いておきたいアーティストである。

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 このアルバムは、これまで無骨なサウンド・ディレクションだったJoniにとって、大きなターニング・ポイントになっている。これまでは楽曲のクオリティの高さを信じて、シンプルなアコギ中心でレコーディングしていたのを、ここからはガラリと手法を変え、フュージョン系のミュージシャンを大量起用したことにより、音の厚みが格段に増している。
 Joniの楽曲の特徴としてよく語られているのが、変幻自在なコード進行、どこに終着するのか予測のつかないメロディ。バンド・アレンジならあまり目立たないけど、ほとんど装飾のない、初期のフォーク・サウンドを聴いてみると、どこか調和の取れてない、いびつなメロディ・ラインがそこかしこに見受けられる。日本人好みのヨナ抜き音階とは次元の違う進行なので、分かりづらい、または起伏の少ないメロディが馴染みづらい、という意見も多い。
 これがジャズを通過していると、自然とテンション・コードが理解できるようになり、「そういうのもアリだよね」となるのだけれど、それには長きにわたる経験が必要となる。そこに至るまでが、俺も長かった。
 考えてみれば大多数のアメリカ人だって、ほんとに好きなのはカントリー調の泣きのメロディ、またはスムース・ジャズと地続きのブラコン・サウンドだし、そこは日本と事情は同じである。

 なので、こんなキャッチーさのカケラもないアルバムが、いくら70年代とはいえ、上位にチャート・インしたというのは、極めて特殊な例である。最先端のサウンドで飾り付けられた、最強のメロディ、ヴォーカルが、ここにある。


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1. Court and Spark
 Joni自身によるピアノの弾き語りからスタート。ここから少しずつ目立たぬよう入ってくるリズム隊。このアルバムでほぼ全編を担当しているのが、John Guerin(Dr)、Wilton Felder(B)、Larry Carlton(G)の面々。いずれも手練れのミュージシャンらしく、あくまでJoniの引き立て役としての役割。
 ここではあくまでゆったりと、これまでのアコースティック路線を基調としたサウンド。静かなオープニングだ。

2. Help Me
 ビルボード最高7位まで上昇した、このアルバムに限らず、Joniの曲の中では明るめのサウンドのナンバー。タイトルが示す通り、歌詞自体はそれほど明るいモノではないけれど。ここでリズム隊が初めて自己主張。それと、ここでの主役はやはりTom Scott。ここで使用しているWoodwindsというのは、いわゆるクラリネットなど木管楽器の総称。
 きちんとアレンジや構成が練られたサウンドなので、普通に聴きやすい。ハイハットを多用したリズムも、ロックに飽きた耳には心地よい。



3. Free Man in Paris
 2.とほぼ同じコード進行が続く。同じくJoniの中ではポップな曲。ここでバンド隊が少し変更して、コーラスに参加しているのはDavid CrosbyとGraham Nash。この頃、Davidとの関係は惰性になっており、何となく義務感半ばでくっついていたのだけれど、後のJacoの登場によって、捨てられる運命にあるDavid。まぁこの頃はCS&Nがヒットしていたので、彼も女には困ってなかったのだろうけど。
 フュージョン・サウンドとの奇跡的な融合が成功しているにもかかわらず、歌ってる内容は、仕事をさぼりたがるDavid Crosbyの愚痴が主題。英語だからいい感じに聴こえるけど、もうちょっと何とかならなかったの?と思ってしまう内容。まぁシャレで歌っているのだろうけど、そのシャレが後年まで残ってしまっているので、下手すると黒歴史になってしまいそう。

4. People's Parties
 このアルバムでは全編Joni自身がアコギを弾いているのだけれど、この時代にこれだけきれいな音でストロークを録れたというのは、録音技術ももちろんだけど、やはりテクニックの部分が大きい。特にこの曲はアコギが主役となっており、彼女が名手と呼ばれているのがわかる。
 
5. Same Situation
 4.とメドレー形式の組曲となっており、同傾向のナンバー。今度はピアノが主役となっており、この辺は今後のフュージョン路線の原型となるソフト・サウンディングが展開されている。ここで初めてストリングスが使用されているのも、曲のムードを壊さない程度でマッチしている。


6. Car on a Hill
 LPではここからB面。メロディが立った曲なので、ちょっと親しみやすい。ブルース色濃いWayne Perkinsの浮遊感あふれるギター・プレイが、フュージョン・テイスト満載。Joni自身による多重コーラスは倍音が多く、夜聴くと不安げになってしまう時があるので注意。

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7. Down to You
 B面ではメインとなる、5分超のピアノ・バラード。ここでJoniはピアノとクラヴィネットをプレイ、ここはあまり他人を入れたくなかったのか、ほぼ独りで創りあげたオーケストレーション以外はDavidらコーラス隊のみ。歌詞も重いラブ・ソングなので、ある意味Davidへの当てつけのような曲。

8. Just Like This Train
 シンガー・ソングライターとしてのJoniが堪能できる、アルバムのフックとなるナンバー。こちらもメロディを引き立たせたアレンジなので、聴きやすい。この人はピアノに向かうと鬱々とした感じになってしまうので、ギターの方がイイ感じの軽みが出て親しみやすくなる。一見、強面なのだけど、笑ったらカワイイ表情、それがJoni。
 置き去りにされた負け惜しみの歌詞は相変わらず重いので、サウンドがこのくらい軽い方がちょうどいい。

9. Raised on Robbery
 あまり知られてないけど、Joniにとって唯一と言っていいロックンロール・ナンバー。まるで”Johnny B. Good”のようなリズムに乗って軽やかにスイングするJoni。演奏陣も楽しそうで、Tom Scottもこのアルバムで唯一、ブロウするサックスを聴かせている。
ここでギターで参加しているのがRobbie Robertson。まぁカナダ繋がりだし、何かと接点はあったのだろう。こういう人が一人入っていると、同じバンドでもノリがまるで違ってくる。それがバンド・マジックというやつなのだろう。

10. Trouble Child
 饗宴は終わり、ここから一気にジャズ・テイストが濃くなる。この終盤2曲が好きになってきたのは、俺が年を取った、ということ。だって、昔だったら全然興味なかったもの。
 ミュート・トランペットの響きは、当時のロック・ファンにとっては新鮮に映ったんじゃないかと思う。こういったサウンドはヒット・チャートではなかなか出会えなかったはずだし。



11. Twisted
 前曲のChuck Findleyによるトランペット・ソロから切れ目なしに続く、本格的なジャズ・ナンバー。このアルバムの中では唯一のカバー曲で、ジャズ・シンガーAnnie Rossの1952年のヒット曲。
youtubeでオリジナルを聴いてみたところ、Annieの方はちょっと硬い歌い方なのだけど、対するJoniはセクシャリティは前面に出したヴォーカルを聴かせている。まぁオマケの曲みたいなものなので、シャレっぽく歌ってみたのだろう。オリジナル曲なら、絶対しないはず。
 曲中で掛け合いを披露しているCheech Marin、Tommy Chongは、それぞれアメリカのコメディアン。歌詞の内容もスタンダップ・コメディアンがステージで披露しているような小噺風なので、起用に至ったんじゃないかと思う。




 今年になって動脈瘤で倒れたJoni、最近のステートメントでは、「順調に回復している」とのこと。もうあまり無理はできないだろうけど、まずは生きていてほしい。
彼女のような生き方の人は、創作活動とは「業」のようなものであり、意識が続く限りはそこへ向かわざるを得ない。それは誰のためでもない、
 生きること、それはすなわち表現し続けること―。
 彼女のためにあるような言葉である。


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カナダの歌姫、デジタルとの格闘 - Joni Mitchell 『Dog Eat Dog』

folder 1985年リリース12枚目のオリジナル・アルバム。ファンも、そして恐らく本人もあまり気にしていないだろうけど、ビルボード最高63位をマーク。もともとチャートを賑わすようなサービス精神は皆無な人のため、ファンもまたそういった展開は望んでいない節がある。「まぁ次のアルバムが出せるくらいに売れてれば、それでいいんじゃね?」的な認識である。
 なので、これだけ売れてればひと安心だし、まかり間違ってMTVでヘビロテになっちゃったりしたら、それはそれでなんか複雑な心境になってしまう。
 取り敢えずは、アメリカの音楽チャートにまだ良心が残っていた時代の作品である。

 一般的にJoniの代表作と言えば70年代に集中しており、amazonをはじめ、どこのレビューでもその時代の作品が多い。ジャズ/フュージョン時代の総決算となったライブ・アルバム『Shadows and Light』以降のアルバムは触れられる機会も少ない。
 そんな中、80年代洋楽世代の俺としては、リアルタイムで出会った最初のJoniがこれなので、思い入れは強い。もちろん追体験として70年代の作品も聴いたのだけど、ファースト・インパクトが強かった分もあって、どうしてもこの作品が基準となってしまう。50代以下はそういった人が多いはず。

 そのきっかけとなったのが渋谷陽一。NKH-FM金曜の「サウンド・ストリート」で聴いたのが最初だった。当時ロキノン厨だった俺にとって、ベテランから話題の新譜からZEPまで幅広い選曲を誇る彼のラジオは重要な情報源だった。軽妙かつちょっと胡散臭い渋谷のトークと、同じく胡散臭いながらも編集スタッフの熱気が感じられるロキノン・レビューに煽られて、次の日に俺は駅前の貸しレコード屋に向かったのだった。
 当時流行っていたエレポップのサウンド・フォーマットを使いながらも、キャッチーなメロディやフレーズはなく、決して取っつきやすいモノではなかった。ただお金のない十代だったため、「どうにか元を取ろう」という気概を持って何度も聴き続けていると、不思議と馴染んでしまうものである。朗々としたメロディ、ハスキー・ヴォイスと若干ミスマッチなエレポップ・サウンドも次第に気に入ってしまい、その後も何年かに一度は聴いていた。

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 とは言っても、ロキノンや渋谷が万能だったわけではない。金欠だった高校生の予算は当然潤沢ではなく、その限られた条件の中でラジオを聴き、ほんと穴が開くまで記事・レビューを読み漁った上で、購入or貸しレコを選択しなければならなかった。
 当然、吟味に吟味を重ねた末、実際聴いてみるとハズレだったモノも数えきれない。いまだにBauhausを筆頭としたゴシック系は退屈で苦手だし、ポスト・パンクの流れにあるCureもそれほど響かなかった。なので、一回聴いたきりで売っぱらっちゃたレコードやCD、すぐに上書き消去してしまったカセット・テープは数えきれない。
 でも、ほんとに好きな音楽を探すためには、そうやってひとつずつ自分の耳で確かめていかないとダメなのだ。メディアはあくまで目安のひとつであって、盲信するは自分の感性が成熟していない証拠である。

 前作『Wild Things Run Fast』からその傾向はあったのだけど、この『Dog Eat Dog』はこれまでの路線から大きく方向転換、中庸なコンテンポラリー・サウンドに基づいた音作りを志向している。これまでは各プレイヤーのアドリブ/ソロなど、バッキングとの絶妙なコラボレーションによってひとつの音世界を創り出していたわけだけど、主にThomas Dolbyがディレクションした今回のサウンドは、プレイヤーのテクニカルなエゴを引っ込め、Joniのヴォーカルを強調した作りになっている。
 ヴォーカルさえもサウンド構成パーツのひとつという考え方はSteely Danに通ずるものがあるのだけれど、いち早くそこから脱却し、敢えて無機的なシンセの音色を使ってどこまでエモーショナルな響きを演出できるか―、それがJoniの新しい挑戦である。
 新たなサウンド・スタイルの影響は作曲やヴォーカル・スタイルにも影響しており、独得の揺れを醸し出していたメロディは帰結点がまとめられ、シンセ・サウンドとの親和性が高い。下手するとトウの立ったLinda RonstadtのようなソフトAOR 的サウンドになっている。

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 前々作『Shadows and Light』でジャズ/フュージョン路線にひとまず区切りを打ったJoni 、次に打ち出したコンセプトがMOR的大人のロック的サウンドなのだけど、この変節は何だったのか。
 『Court and Spark』のレビューでも書いたように、その時付き合ってる男の音楽性次第でスタイルが変わってしまう人、それがJoni Mitchellである。こうして書いてみると、なんか「彼氏の影響で興味を持ちました♡」的なヤンキー少女と大差ないような気もするけど、根っこは少女性を持ってる人なので、そこら辺は世界共通である。
 もちろんアーティストとしてのコアな部分は不変なのだけど、この変化はそういったメンタル面だけのものではなく、レーベル移籍というビジネス面の変化も大きく影響している。

 80年代のロック好きな人なら大抵「ゲフィン・レコード」というキーワードを聞いたことがあるはず。1980年に設立されたばかりの新興レーベルだったにもかかわらず、今じゃ考えられないくらいの豪華メンツを擁していた。毎週トップ・チャートに誰かしら所属アーティストが入っているのは当たり前、タワレコで石を投げるとゲフィンのアーティストに当たるというくらいの快進撃だった。なにしろレーベル設立初のヒット・アルバムがJohn Lennon 『Double Fantasy』だったということからも、その破竹の勢いぶりは窺える。
 もちろんこんなモンスター・レーベルが一朝一夕にできたわけではなく、もともとは中堅レーベルのアサイラムのオーナーDavid GeffenがDon HenleyやElton Johnら旧知の大物アーティストに声をかけてできたのが基盤となっている。
 こう書いてみると、まるでGeffenが恩知らず的に見えてしまうけど、実はそのアサイラムも親会社アトランティックがGeffenと共同出資してできた会社であり、Laura NyroやCrosby, Stills, Nash & Youngらのマネジメントによって功績を収めたGeffenをどうにか引き留めるために設立されたようなもの。アトランティックの経営介入はそれほどではなかったと思われるけど、心理的にヒモ付きの環境から抜け出そうとするのは、充分独り立ちできる人間としては当たり前のことである。

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 そのようにコンセプトが明快なレーベル・オーナーの勢いに影響されたのか、それよりも移籍のきっかけとなった当時のパートナーLarry Kleinの影響が強かったせいもあって、Joniもこれまでの作風と様変わり、より一層コンテンポラリー路線を強く打ち出している。
 よく言われるようにJoniの場合、変則チューニングによるギター・プレイ/作曲によって、他のポピュラー音楽とは質感の違った旋律・構成が多いのだけど、今回はシンセサイザーでの作曲も多かったせいもあって、比較的オーソドックスなメロディ・ラインになっている。もちろん独特の譜割りによってオリジナリティあふれる響きになっているのだけど、アサイラム時代の作品よりはメロディがくっきり浮き出た作りになっている。
 それともうひとつ、これまでは大まかなコード進行だけを決めてフリー・スタイルのジャム・セッションでベーシック・トラックを作っていたのだけど、ここではJoni、リズム・セクションをレコーディングした後にスタジオ・ワーク中心で作り込んで行くという、近代マルチ・レコーディングの基本セオリーに則って製作したため、ごく一般の80年代サウンドと遜色ない音作りになっている。

 その急激なサウンドの変化は、中島みゆきで言うところの「ご乱心時代」ともリンクすると勝手に思っているのは俺だけだけど、80年代というテクノロジーの劇的な進歩とは、真摯なミュージシャンであるほど切実な問題であり、乗り越えて行かなければならない道程だったのだろうか。
 みゆきの場合もそうだったけど、Joniもまた新たなサウンド・フォーマットを形作ることが目的化してしまって、本来の独自性が充分に打ち出せていないことも事実。不慣れなハイテク機材の使いこなしを飲み込むことで精一杯だったため、ある意味過渡期だったことは後年Joniも認めている。
 ただ、本来の意味でプログレッシヴなアーティストがルーティンに収まることを良しとせず、敢えて違った表現方法に挑む過程を生々しく見せてゆくことは、よほど自信がないとできないことである。もちろん他のアーティストに比べるとアベレージは充分クリアしているのだけど、そもそもその設定ラインがまるで違うのだ。
 芸術とは、すべてが均質な工業製品ではない。いびつな所やデコボコはあれど、それもまた個性であり独自性である。その歪みさえも創作過程としてさらけ出してしまうところが、Joniが孤高のアーティストとして活動してし続けられる所以である。


Dog Eat Dog
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1. Good Friends
 ゲート・エコーを使用したクドいドラムの音だけど、きちんとアタック音が聴こえるのは、録音の秀逸さとFrank Zappaのバンドでも叩いていたVincent Colaiutaのテクニックから来るもの。Michael Landauが刻むリズム・ギターは、これまでにはないほどロック寄りのフレーズ。
 デュエットと呼ぶには少し引っ込み過ぎな、時々聴こえる男性ヴォーカルはご存知Michael McDonald。この頃の彼はヒット・メーカーとして第一線を突っ走っていたけど、Joniに指名されると断れない、そういった性格。
 アルバム・リリースとほぼ同時にシングル・カットされ、本国カナダのAORチャートでは12位、アメリカでも総合82位まで上昇した。いい感じでAORになってるオープニング。



2. Fiction 
 アフロビートを思わせるColaiutaのドラムはサンプリングにもかかわらず、どこまでも重い。ドライブ感あふれるロック・ビートは、これまでのジャズ/フュージョン系の軽やかさとは明らかに違っている。中盤のハンマー・ビートは腹に響くほど強烈だけど、まるで語りのように呟くJoniの歌声は、バックの強靭なサウンドにも決して負けてない。音量を絞ったヴォーカルが掻き消されないで聴こえるのは、丁寧に施されたミックスの妙もあるけど、それよりもきちんとしたヴォーカリゼーションであることの証し。

3. The Three Great Stimulants
 「サウンド・ストリート」で最初に聴いたのがこの曲で、俺的にJoniとのファースト・コンタクト。いま聴いてみるとオーソドックスな構成のシンプルなバラードなのだけど、奥行きを感じさせるドラム処理と空間を埋めるシンセ、細かく配置されたエフェクト類が80年代的で、ヒット・チャートに馴染んだ耳には入り込みやすいサウンドだった。
 ただ、普通のヒット曲とはどこか違う―。それが強く心に残った。なので、今でも時おり引っぱり出して聴いてしまうナンバー。シングルで切ってもよかったんじゃないかと思う。



4. Tax Free
 珍しくエモーショナルに歌い上げるようなヴォーカルを聴かせるJoniがいる、と思ってクレジットを見ると、バック・ヴォーカル陣はとんでもない豪華なメンツ。
 1.で参加のMichaelの他に、同じゲフィン仲間のDon Henley、当時Michaelの奥さんだったAmy Hollandは順当としても、とっくの昔に別れたはずのJames Taylorも参加している。この人はずっと後になってCarole Kingともリサイタルを行なっているくらいなので、どうやら昔から都合の良い男扱いされてたらしい。
 メロディ・ラインもJoniにしてはキャッチーで口ずさみやすいので、シングル・カットされなかったことが悔やまれる。話題性を考えれば、全然アリだったのに。

5. Smokin (Empty, Try Another)
 ベーシックな部分は前作『Wild Things Run Fast』のアウトテイクだったらしく、その時にエフェクト素材として録音した旧式のタバコ自販機を操作する音をサンプリング、基本リズムとして使用している。それをバックにJoniの多重コーラス「Try Another」というフレーズが延々ループする、このAOR的アルバムの中では比較的異端なナンバー。アサイラム時代なら、普通に馴染んでたはずだけど。。
 ほぼワン・コードで構成されているけど1分程度のブリッジ的な小品なので、冗長さは感じられない。Steve Lukatherがギターで参加してるそうだけど、正直「どこにいるの?」的な扱い。むしろLarry Kleinのベース・プレイの方が光っている。

6. Dog Eat Dog
 直訳すると「共喰い」。最初このアルバム・ジャケットを見た時は、Joniが野犬に襲われてるように見えていたけど、俺自身年を取ってからは、逆に獰猛な野犬達に崇め奉られ、熱狂のさ中にあるシャーマン的佇まいのJoniが見える。死に至るまで表現を続けなければならない、ディーヴァとしての宿命なのか。
 楽曲的には、ライブでも充分インパクトを与えられそうなスタジアム・ロック仕様。こういったサウンドがJoni思うところのメジャー路線だったのだろうけど、拳を振り上げるJoniはここでしか見られない。Larryにそそのかされちゃった極端な実例がこれ。

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7. Shiny Toys
 でもやるんだったらトコトン突き詰めていかないと気が済まないのが、この世代の特徴。Joniに限らず北米のシンガ・ーソングライターはほぼ誰もがみな、80年代サウンドの象徴である打ち込みサウンドとシーケンス・リズム、不自然な響きのゲート・リバーブに翻弄された。ちょっと真面目なアーティストなら誰しも、DX7系のプリセット・サウンドに身を委ねなければならない、という脅迫観念に囚われていたのだ。
 シングル・カットされたこの曲、Joniにとっては最初で最後の「エクステンデット・ダンス・ミックス」なるものが制作されている。ちなみここでもDonとJamesがコーラス参加。どちらも便利屋的な扱いなのは、Joniには逆らえないから。

8. Ethiopia
 5.同様、この曲もアルバム・コンセプトからはちょっと浮いており、フュージョン・テイストが強い。Thomas Dolbyのプロダクションは強く反映されてはいるけど、もともとの楽曲の骨格がJoniの作風を色濃く反映しており、彼女のイニシアチヴが強い。
 エフェクト的に使われる木管系はなんと尺八、演奏はカズ・マツイという人によるもの。プロフィールを見るとアメリカを中心に活動しており、共演アーティストには錚々たる名前が並んでいるのだけれど、日本においてはピアニスト松居慶子の夫という程度の扱い。ニューエイジ系の人なので、よくわからん。

9. Impossible Dreamer
 サウンドの雰囲気からして、小ぢんまりとしたセッションから生まれたような曲。パーカッション担当のMichael Fisherのソフトな響きはThomasのサウンドとの相性が良い。シンガー・ソングライター的なムードと遠くから聴こえるソプラノ・サックスが気怠い夕暮れ時を思わせ、心地よいAORだよなぁと思ってたらWayne Shorterだった。こちらもJoniとの相性はバツグン。



10. Lucky Girl
 この曲で顕著なように、今回のJoniがこれまでにないくらいリズム・アレンジに執心だったことがわかる。フュージョンの流れから生まれた変拍子と、コンテンポラリーなサウンドとの融合。いびつではあるけれど、調和を求めているわけではない。引っかかりこそが独創性であり、アートである。浮遊感あふれるメロディは宙を舞い、9.に引き続き参加のShorterのむせび泣きと絡まり合い、そして煙のようにいつの間に消える。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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