好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Joe Jackson

純度100%のロックンロールなデビュー作 - Joe Jackson 『Look Sharp!』

folder 1979年にリリースされた、Joe Jacksonのデビュー・アルバム。この手のストレートなロックン・ロールには固定的なファンがついているらしく、デビューにもかかわらずそこそこの売り上げ、UKでは最高40位まで上がっている。
 上がっているのだけれど、実はそれ以上に、アメリカではなんとビルボード最高20位まで上がっている。単純に両国人口比率で考えると、ほぼ4倍の開きがあり、しかも順位的にも倍なので、8倍の開き。ちょっと単純すぎる計算だけど、当初よりイギリスよりアメリカで好評を得たことは間違いない。

 1979年デビュー当時のツアー・データがファン・サイトで公開されているのだけれど、推移を見てみると、最初こそ地元イギリスを中心に回っているけど、この年の後半ではアメリカ・カナダが中心となっており、その成果が実を結んだのか、その年の内にアメリカでゴールド・ディスク(売り上げ50万枚以上)を獲得している。
 (当時から)髪も薄くて男臭くてムサ苦しいメンツのUKパンク・ロッカーとしては、大成功の部類に入るんじゃないかと思う。キャリアのスタートからアメリカで好セールスを記録したという点と、シンプルなロックンロール・サウンドという共通項から、当初はElvis Costelloとセットで紹介されることが多かった。

 以前も書いたようにこの人、もともとは根っからのロック/パンクの人ではなく、Royal Academy of Musicという、王立の由緒正しき音楽アカデミーにて、きちんとクラシックを中心とした音楽理論を学んできた人であり、本来ならポピュラー音楽畑の人ではない。クラシック業界から挫折した末にこちら側へやってきた、意に沿わない形でのデビューであり、当時の本人の心境としては、なかなか複雑だったんじゃないかと思われ。
 ほんとは高度な作曲理論を習得していたり、プレイヤーとしても演奏スキルがめちゃめちゃ高いにもかかわらず、敢えてそれを封印してレベルを落とし、パンク~ニューウェイヴ・ムーヴメントの勢いに乗ってデビューしたというのは、Policeとも共通している。
 そういえば、どちらも所属レーベルは同じA&M、何かと共通項の多い人である。
 
Joe-Jackson-Look-Sharp_Trasera_LP

 デビュー・アルバムとは、そのアーティストの今後の方向性がすべて詰まっている羅針盤のようなもの、とよくたとえられるけど、特にJoeの場合、ここに収録されているほぼ半数の曲が、今でもライブの定番レパートリーであり、結果代表曲となっているものも多い。
 特に3枚目『Beat Crazy』までは名曲のオンパレードであり、ここまでのラインナップだけで充分ライブが成立してしまうというのも、スゴイ話。アンコールにチョロっと”Stepping Out”でも歌っておけば完璧だ。

 別にデビュー当時から成長していないわけではない。
 この後Joeは『Beat Crazy』まででストレートなロック・ナンバーを一旦究め、その後はジャズやらラテンやら現代音楽やらを交えた、Joe独自のジャンルレスな音楽を形作ってゆく。それはそれで好評なのだけど、古くからのファンから見れば、ライブの締めやアンコールでは、やっぱり拳を振り上げて”One More Time”がサイコー、というノリになってしまうのだ。
 近年のライブはロック・バンド・スタイルではなく、ピアノ・トリオ編成が多いこと、またJoe自身の体力的な問題もあって、初っ端からトバシまくり、オール・スタンディングとはいかないけれど、興が乗るに連れて、鍵盤を叩きつけ唾を飛ばしまくって熱唱するJoeのテンションは、昔から変わってない。
 
5153803_bb99532a9d

 アルバムごとに変遷しまくる音楽性のため、一言ではカテゴライズしにくい人なのだけど、一応このアルバムと2枚目までは、ほぼセットと言って良いほど音楽性が似ており、パンク/ニュー・ウェイヴ系のサウンドとして分類されている。まぁ俺個人としてはむしろ、パンクの前にちょっとだけ盛り上がったパブ・ロック系だと思うのだけれど。
 ヴォーカル/ピアノ、ギター、ベース、ドラムという4ピース、ロック・バンドとしての基本、必要最低限のメンバーのみでサウンドは作られており、余計なエフェクト成分が入っていないことが、時代性を超えて通用する音なので、逆にいつまでも古びた感じがないことが、この時期の魅力なんじゃないかと思う。
 時代を象徴する、これ見よがしなモノ・シンセの音色、もう少し歴史を下ると80年代特有のゲート・エコーや、残響音をカットしたバス・ドラなどが出てくるのだけれど、そういった最新鋭のサウンドやトレンドには、昔から関心を持たない人である。このような一貫したサウンド・ポリシーが、ミュージシャンとして、そしてそれ以上に真摯な音楽家としての矜持の正しさが感じられる。

 小手先でいじくり回した音色にこだわるのではなく、きちんとした楽曲を、きちんとした演奏で再現すること。
 そのためには、バンド・アンサンブルを緻密に構成したり、有名無名を問わず、腕の良いミュージシャンと組む、リハーサルは入念に、ライブではいつも真剣勝負、現場での鍛錬によって、さらに演奏・作曲スキルは向上してゆく。
 書いてみれば至極当たり前のことなのだけど、当たり前のことに精力を傾けることは、何においても大事なことだ。
images

 デビュー当時の時代背景としては、やはりパンクの全盛期、既成概念にとらわれた旧来のロックを否定・破壊行動に向かったと思われているけど、ファッション的な要素を抜きにして、純粋に音楽的な意義で考えると、正確には原点回帰というニュアンスの方が近い。
 プログレに代表される、冗長で高尚なものになってしまった音楽ビジネスを一旦リセットし、シンプルでコンパクトなロックンロールへのリスペクトというのが、パンク・ムーヴメントの音楽的な成果である。
 そういった現状への不満から、ロンドンの街角レベルで芽吹いたのがパブ・ロック・ムーヴメントであり、それをもっとスキャンダラスに、そして大々的に展開したのが、パンク・ロックの勃興という次第。
 
 で、Joe Jackson、若いうちはメイン・ストリートの音楽をアカデミックな環境で学んでいたため、いわゆるスタンダードな音楽への造詣は深い。深いがゆえ、特に対極的な価値観のもの、先人によってほぼ完成され尽くされたクラシック漬けの人間が、既成概念の破壊をテーマとしたパンクと出会ってしまった場合、どうなるのか。
 強力な拒否反応を示すか、またはそのインパクトに当てられて深みにはまり込むか。その対極の差が広ければ広いほど、比例してその振れ幅も強くなる。

 てっとり早くメジャー・デビューするため、敢えて戦略的にシンプルなロックンロールを選択した、という見方も出来るけど、そうは言っても人間、まったく興味のない事をし続けられるようにはできていない。やりたくないことをやり続けても、どこかにガタがでるか、それともボロが出るかのどちらか。
 なので、まったく下心がなかったわけじゃないけど、それなりにリスペクトはしていた、と考える方が自然である。


Look Sharp! (Remastered)
Look Sharp! (Remastered)
posted with amazlet at 16.02.11
Universal Music LLC (2015-02-13)




1. One More Time
 オープニングは渋めのロックンロール。バックは基本の3ピースなのだけど、驚きなのは、どのパートもサウンドに埋もれず、しっかりディティールが判別できること。デビューしたてのバンドなので、レコーディングにそれほど時間をかけられたわけでもない。
 これはもともとの演奏力、楽器のポテンシャルを最大限に引き出せるテクニック、から来るもの。いくら録音技術が良くたって、下手くそなら意味がない。既にそれだけのスキルを積み上げていたのだ。
 ちなみに、このアルバムからシングル・カットされた3枚目のトラックである。USカレッジ・チャートでは最高17位。



2. Sunday Papers
 引き続き、今でもライブではほぼ定番となっているナンバー。すでにレゲエ・ビートを導入しており、やはり他のパンク・バンドとの差別化が図られている。昔から語られているけど、やはりこのバンドの要はGraham Mabyである。とにかく手数が多いのにうるさくなく、しかも適切なフレージングで曲をリードする。終盤でテンポ・アップしてパーティ・ソングっぽくなるのはご愛嬌。
 ちなみにこれは2枚目のシングル。USカレッジ・チャートでは最高20位、イギリスのデータは見つからなかった。それだけアメリカ主導で人気が出たのだろう。

   

3. Is She Really Going Out with Him?
 三たびライブの必須アイテム・ナンバー。これはJoeもかなりのお気に入りらしく、後年の『Live 1980-86』では様々なヴァージョン違いで3トラック収録しているくらいの別格扱い。この曲も様々なアレンジによって、長年親しまれているけど、この初期ヴァージョンが一番、というファンも多い。
 前曲同様、レゲエ・ビートが一部導入されていることも、エキゾチックなアレンジに一花添えている。
 これがデビュー・シングルであり、アルバム先行という形でリリースされた。UK13位でも充分スゴイのだけれど、アメリカではビルボード総合でなんと21位にチャート・インしている。そりゃ思い入れもあるよな、きっと。



4. Happy Loving Couples
 ちょっとモッズ・ビートの入ったビート・ロック。やっぱりベースだよな、この曲も。ここまでハードな質感のナンバーが続いたけど、ここで少しペース・ダウン。当時のJoeにしてはポップなメロディの、親しみやすい曲。

5. Throw It Away
 前曲が突然カット・アップされ、間髪入れず、Joeのカウントで始まる、疾走感溢れるドライヴ・ナンバー。一番パンクっぽいのが。多分この曲。Joeもここでは本腰を入れ、ピアノを弾きまくり、エコーまでかけている。中盤でのシャウトはどこか”Beat Crazy”を連想させる。
 ここはギターのGary Sanfordが頑張ってリフを弾きまくっている。

6. Baby Stick Around
 ここからB面スタート。
 こちらも性急な8ビートで、やはりライブの定番。盛り上がること必至である、ロカビリー成分もちょっぴり入った、暴力的なビートながら、覚えやすいメロディーが人気の高いナンバー。

7. Look Sharp!
 俺的にはDr. Feelgoodを連想させる、ステージで練り上げられたように演奏し慣れた体も感じとれるトラック。これも定番だよな、ブートでよく聴いてたし。
 ここでのバンドは比較的クール。リズムも走ることなく、スクエアなリズムをキープしている。はっちゃけるのはやっぱり、いつもJoe である。

8. Fools in Love
 こんなにレゲエばっかり入ってたっけ?というのが正直な感想。
 Policeもそうだけど、Joeもまた、当時のレゲエに溢れていたシリアスな部分、じっとりした冷や汗のようなサウンドを展開している。これも定番であり、名曲。
 USカレッジ・チャートでは9位まで上昇。こんなハードなサウンドがウケてしまうのが、アメリカという市場の大きさ、懐の深さである。



9. (Do the) Instant Mash
 これはJoeにしては珍しく、ロックン・ロールではなく、普通のロック。Garyによるオーソドックスなギター・リフが、それを象徴している。中盤でのJoeのハープがまた、中途半端なブルースを演じている。この人の場合、あまりブルースは似合わないし、こういったサウンドなら、Dr. Feelgoodの方がずっとうまい。

10. Pretty Girls
 これも何だかな、普通のロックかな。アルバム制作のためにかき集めたのか、それともサウンドの幅を持たせるため、敢えてこういったベタな曲にも手を出したのか。まぁいいんだけど、俺的にはそれほど印象に残ってなかった曲。

11. Got the Time
 冒頭のベース・ソロがおどろおどろしさを醸し出し、ヴォーカルも何かにせっつかれるような、テンポの速い曲である。一番わかりやすいフォーマットのパンク・ロックである。これも定番なんだよな、ライブの。特にこの曲、パートごとの見せ場がうまく設定されている曲なので、メンバー紹介に使われることも多い。
 USカレッジ・チャートでは11位まで上昇。




 デビューから『Beat Crazy』までは、ほぼブレることもなく、この路線を邁進してゆくのだけれど、しばらくすると他のジャンルに色目を使い始めるのは、これまたアーティストとしては致し方ないこと。ジャズやラテンなど、ポピュラー音楽の枠組みで貪欲に吸収しているうちはいいものの、時代を追うに連れて、バックボーンであるクラシックや現代音楽にも足を突っ込むようになる。
 そうなると音楽性と商業性との緩やかな乖離が進行し始め、下降してゆくセールスと共にJoeの精神状態も思わしくなくなり、遂には90年代に入ってからの活動は地味になって行く。

 この時代はまだそんなことも頭にない、純度100パーセントの純粋なロックンロールである。


ステッピン・アウト
ステッピン・アウト
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2002-09-21)
売り上げランキング: 234,696
A&Mイヤーズ
A&Mイヤーズ
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2007-07-25)
売り上げランキング: 629,457

Joeさん、あれこれ詰め込んだ世界一周旅行の巻 - Joe Jackson 『Big World』

folder で、しつこくJoe Jackson の続き。
 大ヒット作『Night & Day』には及ばなかったけど、前作『Body & Soul』もそこそこのヒットを記録し、いわゆるヒット・メーカーの仲間入りを果たしたJoe、でも純粋な作品クオリティの面においては満たされぬままだった。
 いくらヒット・チャートの常連になったとはいえ、すべてはポップ・フィールドでの出来事、前述したようにRoyal Academy of Musicで学んできた音楽的素養を十全に活用しているとは言えず、実際、ヒット・ソングとは対極の世界である現代音楽界においては、ほとんど評価は与えられていなかった。

 ちょっとその気になれば、フル・オーケストラのスコアを書くことくらい何でもない事なのに、来るオファーはポップ・ソングの依頼ばかり。ちょっとした片手間仕事でサウンドトラック(『Mike’s Muerder』)を手掛けてみたはいいけど、セールス的にも作品クオリティ的にも、評価はほとんど無に等しかった。
 現代音楽の世界においては、セールスはさほど重要な事柄ではない。そこは非常に内部完結した仲間うちの狭い世界であり、ごくごく少数の愛好家や評論家に一目置かれることが何よりも重要なのだ。
 
 セールスが膨れ上がれば膨れ上がるほど、その手のコンプレックスが増大してゆくのは、アーティストの常である。どこかでガス抜きをしなければならない。
 
JOE JACKSON_1986_11_16

 そういった事情もあったのか、アルバム・リリースの狭間の仕事として、ちょうどこの頃開催されたつくば万博で上映された映画『詩人の家』のサウンドトラック制作で来日、東京交響楽団とのリハーサル・レコーディングを5週間かけて行なっている。
 『Mike’s Murder』での実績はあったものの、映画畑においてはほぼ無名のJoeにどうしてお声がかかったのか、その経緯はいまいち不明だけど、当時の日本はちょうどバブル突入目前、プラザ合意によって好景気の波が押し寄せつつあった頃で、要するに金があったのだろう。まとまった時間を取れるアーティストがたまたまJoeだけだった、とも考えられるけど。
 
 当然、かなり限定された環境での公開ゆえ、反響はほぼ皆無に近かったのだけど、久しぶりのオーケストラとの作業によって、アーティスト・エゴを満たすことができたのだろう、Joeはここで一旦現代音楽モードをリセットし、再度ポップのフィールドに帰還することになる。
 とは言っても生粋の英国人、そんなにストレートな物を作るはずもなく、ちょっとひねったアルバム・コンセプトに着手する。
 
 前述しているけどこの『Big World』、正確にはニューヨークのRoundabout Theatreという古めかしいホールでの「実況録音盤」である。何故わざわざ「実況録音盤」という古めかしい物言いかといえば、ライブ特有の歓声や拍手など、その他諸々の客席の状況が一切排除された、ライブ感がまったくないライブ・アルバムとなっているからである。
「ライブ会場を使っての一発録り、間違えたら最初からやり直し、観客は静かに見ているだけで、声援禁止」
 以上、このようにかなり屈折したコンセプトで制作されたアルバムとなっている。
 要するにコンサート・ホールを巨大なレコーディング・スタジオとして使用しているのだけど、だったらわざわざ観客入れる必要ないんじゃね?とツッコミたくもなる。
 
pr2007_1

 もう一つ変わっている点として、LPレコードでリリースされたこのアルバム、リリース当初は2枚組だったのだけど、すべての面を使っているわけではなく、溝が刻まれているのは2枚目A面まで、B面に当たる箇所には溝が刻まれておらず、ツルツルの平面になっている。
①当初シングル・アルバムの予定だったのが、思ったより曲があふれ出てこのような結果になったのか、
②それとも最初から3面のみ使用の予定だったのか、
③はたまた4面すべて埋めるつもりだったのが、曲が足りなくなったためこのような結果に落ち着いたのか。
 それについてJoeのコメントはないのだけれど、俺的には多分②だと思う。こういったコンセプトが、現代音楽経由のアーティストにとっては、とても重要なのだ。


Big World
Big World
posted with amazlet at 16.02.11
Joe Jackson
A&m (1989-08-08)
売り上げランキング: 86,040



1. "Wild West" 
 ここ2作では封印していたアコースティック・ギターのストロークからスタート。Joeのリコーダーがどことなく西部劇っぽい趣き。『Body & Soul』から参加しているVinnie Zummoが大活躍。敢えてシンセを使わず、生演奏での真っ向勝負を選んだJoeがリード・プレイヤーとして選んだだけあって、テクニック・表現力ともずば抜けている。

 
 
2. "Right and Wrong" 
 日本ではシングル・カットされているのだけれど、海外ではどうだったのだろう、データが見つからなかった。
 ”Stop, Everything”後のブレイクが絶品。これが大人のロックなのか、と思った18の頃。ソリッドなロックン・ロールである。
 初参加のRick Fordの、リード・ベースと言ってもよいリフも、かなり黒い。

 

3. "(It's A) Big World" 
 香港の妖しげな夜会を思わせるオープニング。しかし引き出しの多いバンド・メンバーが、よくもこれだけ揃えられたものだ。
 中国雑技団のようなハイハットが、無国籍な淫靡さを演出。
 
4. "Precious Time" 
 このアルバムの中では、ややハードめのギター・リフが演奏を引っ張っている。ここでコーラスが前に出てきており、ゴージャスなサウンドとなっている。
 『Beat Crazy』辺りに入ってても違和感のない、ストレートなロックン・ロール。
 
5. "Tonight and Forever" 
 同じくデビュー間もない頃のテイストのサウンドが続く。ただし編成は同じだとしても、ミュージシャンの力量がまるで違う。
 考えても見てほしい、これらはすべてワン・テイク、一発録りなのだ。疾走感がハンパないので、曲自体もものの2分程度で終わる、勢い勝負の曲。
 でもこれこそが、ロックン・ロール。
 
6. "Shanghai Sky" 
 ちょっぴり落ち着いて、ピアノ・ソロを聴かせるJoe、サスティンを聴かせまくったVinnieのアルペジオが幕間のようにまったりと流れる。たっぷり2分半の長い長い前奏に続き、感傷的なJoeのヴォーカルが朗々と続く。
 でも、どの辺が上海?

69208

7. "Fifty Dollar Love Affair" 
 哀しげに響くバンドネオンが、善からぬ男と女の情事を掻き立てる。
 
8. "We Can't Live Together" 
 今度はベースがスパイ映画のようなサウンドを奏でる。次第に演奏は情熱的に、しかし冷や汗交じりにヒート・アップする。
 モノクロ映画のぎらつく太陽のように、それ自体に色はないけれど、内にこもる熱は周囲を焼き尽くす。
 
9. "Forty Years" 
 タイトル通り、リリースから40年前、第二次世界大戦前後のヨーロッパを歌った曲。
 辛辣ながら諦念さえ感じさせる、あまり前向きではないメッセージを、それでもピアノ一本でがなり立てるJoe。
 まるで孤軍奮闘するかのように。
 ここまでが、レコードでは1枚目。

10. "Survival"
 ライブで完全生演奏という縛りのため、サウンド的には『Night & Day』『Body & Soul』と比べて、小編成で再現しやすい曲が多い。
 この曲も例外にもれず、シンセやホーンも使っていないので、シンプルなサウンドがこのアルバムの特徴。
 ただし演奏スキルは過去最高レベル、現在においても、ここまでのバンド・アンサンブルには至っていない。
 
rectangle
11. "Soul Kiss" 
 ソウルというよりは、ブギウギ・ピアノが楽しげ。緊張感で張りつめることの多かったセット・リスト中、比較的自由度が高くラフな感じの曲。
 Joeのヴォーカルもいい意味で力が抜けて、ラフ気味に歌っている。
 
12. "The Jet Set"
 日本語ではジェット族、ジェット機で遊び回る金持ち連中とwikiにあったので、要するにセレブの方々と言えば分かりやすい。
 アメリカやヨーロッパなどの有閑階級、由緒正しき生い立ちの方々の事を皮肉っている。日本ではあまりリアルではないと思う。
 
13. "Tango Atlantico" 
 タイトル通りタンゴの曲だが、いまいちバンドの消化能力が足りない。そりゃそうだ、だって一発録音だもの、完奏することで精一杯なので、踏み込みが足りなくなるのは仕方ない。
 音楽による世界一周というコンセプトのため、あらゆるジャンルの音楽を入れたかったのだろうけど、普段やり慣れてないものは、やっぱり付け焼刃っぽくなってしまう。まぁ、あれこれ詰め込みすぎだったのだろう。
 
14. "Home Town" 
 このアルバムの中では、最もポップと言える曲。テンポも軽やか、ギター・リフも余計なエフェクトはごく最小限、ナチュラル・トーンのため、初心者でもとっつき易いサウンド。
 相変わらずJoeは肩に力の入った歌い方をしているが、逆にこれがクルーナーのように甘い囁きだったら拍子抜けだろう。たまにライブでも演奏しており、お気に入りだと思われる曲。

 
 
15. "Man in the Street" 
 この曲だけ本編ではなく、前日のリハーサル音源より。ややインドっぽいオープニングから、次第に演奏が熱を帯び、最期は大団円。
 コーラスもJoe同様、思いっきり前のめりになっている。



 この後、Joeは古巣A&Mと契約終了、これまでの集大成『Live 1980-85』、またまた現代音楽『Will Power』、懲りずにサントラ仕事『Tucker』リリース後、当時飛ぶ鳥を追い落とす勢いだったVirginと契約、2枚のポップ・アルバムをリリースすることになる。
 Virginの持つ巨大な販売網を足掛かりとして、さらにワールド・ワイドな活動を展開しようと目論んでいたのだろうけど、この『Big World』をピークにセールスは下降の一途を辿り、そのおかげでJoeは鬱病を発症、しばらく表舞台から遠ざかるようになる。
 俺的にも今でも良く聴くのはこの時代まで、Virgin以降はそれほど熱心に聴いていない。
 
 最近は3ピース・バンド編成でコンパクトなツアーをヨーロッパ界隈で行なっているようだけど、全盛期をリアルタイムで追っかけてきた者としては、一応活動はしているけれど、その地味さ具合は寂しささえ感じる。できることなら、もっと大編成のバンドでハデな音を鳴らしてほしいのだが、まぁ予算もあまりないのだろう。
 
 どうせなら手練れの職人的バンドより、もっと威勢の良いサウンドを聴きたいと思っているのは、多分俺だけではないはず。どうせなら固定メンバーでツアーを廻るのではなく、現地の若手バンド、特にブラス・セクションの入ってる連中と組むのはいかがだろうか。
 日本にもSOIL&"PIMP"SESSIONSやPe’Zなど、イキの良いバンドはたくさんいるし、ヨーロッパにも、ジャズ・ファンク系のソリッドなバンドが腐るほどいる。そういった世代間交流を行なっていった方が、互いの創作意欲も湧くんじゃないだろうか。
 取りあえず日本のイベンターの方、これを読んでいたら、一度ご一考くださいませ。



ステッピン・アウト
ステッピン・アウト
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2002-09-21)
売り上げランキング: 234,696
A&Mイヤーズ
A&Mイヤーズ
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2007-07-25)
売り上げランキング: 629,457

ロック嫌いな男、ひねくれ度が一回転して傑作を生み出す - Joe Jackson 『Body & Soul』

folder 前作『Night & Day』がUK・US以外にも世界各地で最大のヒットを記録し、同時代のミュー・ウェイヴ系アーティストをより大きく引き離し、特にアメリカで大きく知名度を上げたJoe Jackson。
 可能な限り、いわゆるロック的な要素を排除した『Night & Day』後に彼が向かったのは、更なるワールド・ミュージックへの傾倒、特に50年代以前のモダン・ジャズのムードと性急で享楽的なラテンのリズムだった。
 
 1984年にリリースされたこのアルバム、US20位UK14位と、セールス的には前作ほどではないけど、まぁアベレージはクリア、そこそこの成績を収めている。
 ちなみに、ついでに1984年のアルバム・チャートを調べてみたのだけど、とんでもない事実が明らかになった。年間通して1位を獲得したのは、Michael Jackson『Thriller』、Original Soundtrack『Footloose』、Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』、Prince『Purple Rain』。以上である。たったの4枚しかないのだ。フットルースのサントラは別として、どのアルバムも80年代名盤として確実にリスト・アップされる、モンスター級のセールスを記録したアルバムばかりである。
 こうして見ると、彼らに比べてダントツに知名度の低いJoeが、ここまで上位にチャート・インしたというのは、かなりの大健闘である。どんな時代にでも、ヒット・ソングだけでは満足できない、逆にヒット・ソングからは敢えて目を背け、マイナー・シーンを探索するリスナーは多いのだろう。
 
 このアルバムがレビューされる際、よく取沙汰されるのが、やはりアルバム・ジャケット。オマージュなのかパロディなのかは不明だけど、多分前者だろう。ジャズの歴史的名盤である、Sonny Rollins『Vol.2』をまんまパクッたレイアウトは、ここまで思いきりやっちゃえば、むしろ清々しささえ感じるくらいである。

3e4063e4

 アルバム・タイトルもジャケット同様、古いジャズ・スタンダードの曲からインスパイアされてるし、細かなディティールでジャズのエッセンスが散りばめられているけど、肝心のサウンドは、ジャズだけにこだわったものではなく、むしろラテン系のジャズ、特に第三世界のリズム面からの影響が大きい。
 モダン・ジャズ特有のシンプルな4ビートの曲はなく、むしろポリリズム的ラテン・ビートの存在感が大きい。
 一口にラテンと言っても、ごく一般的に連想される、享楽的なリオのカーニヴァルのそれではない。このアルバムに通じて流れているのは、メインストリートの健康的なリズムではなく、もっと漆黒でドロッとした、裏路地の妖しげなクラブで夜通し垂れ流される、肉感的でエロティックな饗宴のリズムだ。


Body & Soul
Body & Soul
posted with amazlet at 16.02.11
Joe Jackson
A&M (2006-07-18)
売り上げランキング: 32,811



1. The Verdict
 ホンダの車のCMにも起用されたくらいだから、同世代なら結構耳にした人もいるんじゃないかと思う。80年代のTVCMは、全般的に予算が潤沢だったおかげもあって、映像的にも音楽的にも手が込んでいた。CMクリエイターやプランナーという職業が出始めの頃でもあり、特に車関係のCMはセンスも良く、それでいて二番煎じ的な模倣を嫌う傾向があったように思う。
 オープニングのブラスがとにかく印象的。主にクラシックの録音が多いスタジオを使用してレコーディングしているので、特にこの曲のように大編成での録音では大きな効果があり、空間の響き方が良い。

 
 
2. Cha Cha Loco
 冒頭のカリプソ風味のトイ・ピアノっぽい音はほんと享楽的だけど、オープニングの妖しげなベースによって、いつものJoe Jacksonワールドに引き込まれる。
 リズムはほんとマンボかカリプソそのものだけど、マイナー調のメロディが怪しげなB級スパイ映画の様相を呈している。どうしてラテンなのにこんなに怪しげなのか?
 余談だけど、ラテン・アメリカの文学は俗に「マジック・リアリズム」と称され、現実と幻想の境目が曖昧になるうち自我も曖昧となってしまうストーリーが多い。一言で言ってしまえば「壮大なホラ話」なのだけど、そういったインチキ臭さを醸し出しているのが、この付け焼刃的ラテン・ミュージックである。
 
3. Not Here, Not Now
 シンプルなピアノ・ソロから始まり、そのままシンプルなバラードで終わる、この時代のJoeにしては珍しくストレートな良曲。ライブでもたまに取り上げるくらいだから、本人としてもお気に入りの曲なのだろう。余計な装飾がない分、ピアノ映えしやすい曲だし。
 ただ、ストレートすぎるがゆえに、ひと癖も二癖もある曲ぞろいのこのアルバムの中では、どうにもインパクトが薄く、印象に残りづらい。後半はドラマティックな展開になるので、多分他のアルバムに入っていたら、もっと感動していたと思う。
 
4. You Can't Get What You Want (Till You Know What You Want)
 やっぱりこれ、これだってばJoeは!!!! 
 この曲だけなんか立ち位置が違うというか、一番光っている曲であり、このアルバムの要でもある。
 前作『Night & Day』ではことごとくロック色を排除していたけど、このアルバムではロックの象徴であるギターが復活しており(と言っても、一般のポピュラー・アルバムと比べると、その使用比率はかなり低いのだけど)、疾走感がまるで違っている。
 この曲のバンド編成は、通常の4ピースバンド+ブラス・セクションとなっているのだけど、ロックとジャズが違和感なく融合している。
 語り出したら切りがない。期待感を盛り上げるオープニングのブラス、サビ前の一瞬のブレイク、時代を感じさせるスラップ・ベースとチャカポコ・ギターとの絡み、今回からバンドに加入したVinnie Zummoによる、多彩なエフェクトを駆使した間奏のギター・サウンドなどなど。
 明快なインパクトと、キャッチーなメロディ。この単純かつ普遍な方程式が、多くの新規ユーザーを魅了した。USシングル・チャートでも15位まで上昇したというのもうなずける。

 

5. Go For It
 ”You Can't Hurry Love"で有名な、モータウンの基本リズム・パターンからヒントを得た、Joe流のポップ・ソング。Joeとモータウンという結びつきは結構意外なので、なんでこんなアレンジにしちゃったんだろ?と、聴くたびにいつも疑問に思ってしまう。
 あまり多くを求めちゃいけないけど、Joeにしてはごく普通のポップ・ソングなので、ていうかJoe がわざわざこれをやる必然性が、あまり感じられないのである。レコーディングが進むにつれ、とにかく思いつく限りのリズム・パターンを試しているうち、次第にネタが尽きてきて、まぁ無難なアレンジにしたんじゃね?と穿った見方を、ついしてしまう。
 
6. Loisaida
 まるで金曜ロードショーのオープニングを思い起こさせる、もろAORなSaxのむせびが印象的な、三部構成のインスト。アルバム全体を一つの作品として捉える手法はプログレが一番ポピュラーだけど、そもそもはクラシックの世界のノウハウである。
 主旋律であるSaxソロの間に、ブリッジ的なブラス・セクションを入れ、再びSaxソロを挟み込む入れ子構造という、いかにもインテリめいたJoeの仕業。こういった手法は多分、Royal Academy of Musicで習得済みだったと思うけど、実践してみたのはこれが初めて。
 この手法に自信を得たJoeはその後、アルバム全体をこのスタイルで押し通す構想を立て、それが後年、『Will Power』『Symphony #1』という、非常に現代音楽的な、もっとはっきり言ってしまえば、冗長で自己満足的な作品を量産することになる。
 多分、今にして思えば、一連の作品は壮大な勘違いだった、とJoe自身も思っているのだろうけど、シリアスなアーティストとしては避けては通れない流れだったのだろう。ファンやレコード会社から見れば、アルバムの中のブリッジ的小品で抑えておけば良かったのに、と思うところだけど、まぁアーティストとは、時に独善的じゃないと、一流とは言えない。
 
7. Happy Ending
 で、前曲のまったり感をプレリュードとして捉えれば、この曲が活きてくる。Elaine Caswellという女性ヴォーカルとのデュエット。正直、ソロ・ピアノとしての腕は微妙だと思うけど、こういった誰かの歌伴としてのピアノになると、その饒舌さがいい方向へ作用している。
 Joe特有のぶっきら棒さと、ハスキーでやや高めのアバズレっぽいElaineのヴォーカルの掛け合いが絶妙。Aメロ→Bメロ→サビ→Saxとの流れが完璧すぎて、時々無性に聴きたくなって引っ張り出してくる曲である。
 女性ヴォーカルが必要なので、そういえばライブではあまり聴いたことがない。

 
 
8. Be My Number Two
 3.同様、シンプルなピアノ・バラードなのだけど、いやいや非常にファンの間で人気の高い曲。ライブでもかなりの確率で演奏している、多分自身でもお気に入りの曲である。
 もともとはパンク~ニュー・ウェイヴの流れから出てきた人なのに、アップ・テンポの曲では声が苦しそうになっている時があって、あまりシャウトする曲は向いてないのでは?と思ってしまう。むしろこういったバラード~ミドル・テンポの方が、独特の渋みが出ている。
 近年のライブもまた、自身のピアノを中心とした3ピースバンド編成なので、必然的にシャウトする曲は少なくなる。自分の音楽的素養と持って生まれた声質とのギャップとの乖離に対し、うまく折り合いをつけてきての結果なのだろう。

 

9. Heart Of Ice
 ラストも組曲。細かく刻まれるハイハットをバックに、フルート~フリューゲル・ホーンが互いにソロを取り合い譲り合い、次第に構成楽器が多くなってゆく。非常に現代音楽的な構成だけれど、このアルバムまではギリギリ、ポップの範疇に留まっている。あくまでアルバムの中の一曲なので、退屈さは感じない。
 多分、これをアルバムまるまる一枚にまで広げられると、俺的にはムリ。ほぼ発売間もない頃に『Will Power』を購入したものの、多分1回聴いただけでギブアップ、後は聴かずじまいだった覚えがある。
 ちなみにこの曲、トータルで約7分という大作なのだけれど、うちイントロが5分という、ラスト曲だけあって、なかなかプログレ度合いの強い曲である。こういった曲を、昔は高尚な曲だと信じて無理して聴いていたのだけど、今となってはカッタルイと思ってしまうだけ。
 シンプルでエモーショナルな4.のような曲こそが、Joeの真骨頂である、と俺的には思う。




 出世作となった『Night & Day』ほどではなかったけど、こちらもUS/UKチャートにおいて好セールスを記録し、Joeの音楽的探求心は更に深まってゆく。セールス的も高目安定傾向に落ち着いたため、それほどガヤガヤ言ってくる連中もいなくなった。今のところは、自分のやりたいことをやってきて、幸いそれが良い感じで受け入れられている。
 じゃあ、こういったのはどうだ?
 そうやって出来たのが、あの『Big World』である。


ステッピン・アウト
ステッピン・アウト
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2002-09-21)
売り上げランキング: 234,696
A&Mイヤーズ
A&Mイヤーズ
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2007-07-25)
売り上げランキング: 629,457

カテゴリ
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
QRコード
QRコード
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村




アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: