好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Joe Jackson

下々の連中にもわかりやすいポップ・ソング - Joe Jackson 『Laughter & Lust』

folder 1982年にリリースされた『Night and Day』は、Joe Jackson にとって代表作であり、セールス的にも最も成功したアルバムである。既存のロックにとって、必須であるはずのギターを使わず、ジャズやラテンなど、非ロック的な手法を駆使することによって、オンリーワンの「Joe Jackson’s Music」を確立した。ストレートなロックンロールからジャイブ・ミュージックまで、ありとあらゆるジャンルを縦横無尽、アルバムごとに実験を繰り返していたJoeにとって、その後のキャリアを決定づけるマイルストーンとなったのが、このアルバムである。

 あまりブランクを置かずにリリースされた『Body & Soul』も、同様のアプローチで制作されており、これまた渋すぎる内容であったにもかかわらず、マーケットでは好意的に受け入れられた。
 主にビジュアル先行型のニューロマ系アーティストが幅を利かせていた第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの最中において、どうひいき目に見ても見劣りするJoeが売れた背景には、もちろん本人の才覚も大きいけど、所属レコード会社A&Mの存在が無視できない。
 時代に寄り添いすぎて、アッという間に消費し尽くされてしまう流行歌ではなく、末永く鑑賞に耐えうるロング・テール型のアーティストを多く擁していたのが、A&Mの特色である。Carpenters のような鉄板スタンダードから、Tubesに代表される変態ニューウェイヴまで、ポップ/ロック以外では、Ornette Colemanを筆頭としたフリー・ジャズからMilton Nascimentoまで、節操なく幅広いジャンルを網羅しているのも、独立系レーベルの強みである。

 もともと創業者のHerb Alpert自身が、現役ミュージシャンだったこともあって、アーティストの自主性を重んじ、過度な干渉を行なったりしないのが、A&Mの企業風土だった。これも非メジャー・独立系の強みで、株主がほぼ身内で固められている小規模企業のため、収益性より芸術性を重んじることが、潔しとされていた。
 ただ、企業が継続するためには営利を追求していかなくちゃならないから、きれい事ばっか言ってるわけにはいかない。自転車操業的な局面も何度かあっただろうけど、その度にCarpentersやPeter Frampton、Policeなんかがうまくヒットしてくれて、屋台骨を支えてくれたのだった。
 普通のレコード会社だと、大ヒットが続いたら二番煎じ・三番煎じを重ねて要求するものだけど、そういった営業的な都合を無理に押しつけず、アーティストの表現の自由を優先していたことが、A&M流マネジメントだった。
 彼らの個性に変に干渉せず、有能なプロデューサーが的確な方向へ導いてゆく。結果、それが互いにwin-winな関係になるのだから、良好なパートナーシップの理想形である。
 なので、JoeにとってのA&M時代は、クリエィティヴ面において、理想的な環境だったと言える。他のメジャーだったら、いつまで経ってもポスト・パンク〜ロックンロールの路線を強いられていただろうし。

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 そんなレーベルだからして、大して制約もなかったはずである。何しろ、絶対売れそうにない『Will Power』や『Jumpin’ Jive』をリリースさせてくれる会社だもの。いくらアーティストに甘いからって、懐が深すぎる。
 そこまで庇護してくれていたにもかかわらず、Joeは集大成的なライブ・アルバムをリリース後、A&Mとは円満な形で契約満了、当時イケイケ状態だったヴァージンに移籍してしまう。
 もともとイギリスの中古レコード通販からスタートしたヴァージンは、マイナーなプログレや、アバンギャルドなジャズ・ロックを小ロットでリリースする、創業者Richard Bransonの趣味性が強いレコード会社だった。最初にヒットしたのが、映画「エクソシスト」で採用されて一気にブレイクした、Mike Oldfieldの『Tubular Bells』だもの。たまたまタイミングよくフィーチャーされたことで注目を浴びるようになったけど、もしこれがなかったら、早晩資金繰りが行き詰って短命に終わったものと思われる。
 Sex Pistolsがヒットした70年代後半くらいから、ヴァージンの良心的なアーティスト・ラインナップに変化が生じ始める。80年代の第2次ブリティシュ・インベイジョンの追い風によって、Culture Clubが大ヒットする頃には、初期とはまったく別の会社に変容していた。採算度外視のニッチなレコードを売り続けていたBransonも、ビジネス規模の拡大に伴ってヤマッ気が出てきて、アメリカや日本に進出、世界的な規模で事業所やレコード・ショップをオープンしていた。
 Rolling Stones の獲得をピークとして、その後、音楽産業としてのヴァージンは、緩やかな下降線を描くことになる。Branson の事業欲は次第に広範化、航空事業に進出した頃には、もう何が本業なのかわからない状態になっていた。もう、音楽なんてどうでもよくなってたんだろうな。

 Joeが移籍した1991年は、Stonesもまだ移籍していなかった頃、ヴァージンは音楽業界でのシェア拡大を純粋に目指している状況だった。当時、世界中に散らばったヴァージン社員は、ヒット実績のあるアーティストに片っぱしからオファーをかけていた。すでに欧米では、そこそこのポジションにいたJoeに声がかかるのは、いわば必然だった。
 Joe自身、ここらが勝負時だと感じたのだろう。A&Mとヴァージン、同じ非メジャーで比べたら、そりゃ勢いのある方へなびくのは、人間、当たり前の話。
 加えてA&M、ちょうどその80年代後半くらいから、これまでの勢いにブレーキがかかり始める。LAメタルやヒップホップ/ラップの台頭によって、得意分野であったメロディアスなAORやコンテンポラリー・ロックが押し出され、ヒットチャートでのシェアが目減りしつつあった。辛うじてJanet Jacksonが、同時代性をリードするサウンドを堅持していたけど、レーベル全体に波及するほどの影響力ではなかった。次第にA&Mのブランド力も落ちて離脱するアーティストも増え、Joeもまたその中に含まれていた。
 世界進出を視野に入れたヴァージンは、自前の新人だけじゃなく、あり余る資金を投入して、他レーベルの中堅アーティストをヘッドハンティングしまくっていた。頭数と前年対比をクリアするため、即戦力となる中途入社を、ヴァージンは諸手を挙げて歓迎した。
 勢いのある企業は、手段を選ばない。

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 そんなグローバル企業から何を求められているか。キャリア的に中堅だったJoeもその辺は察しており、これまで以上にヒット性を意識した『Blaze of Glory』 をリリースした。
 自身の半生をフィクション的に解釈し、コンパクトでありながらもトータルでの組曲形式で描写した移籍第1作は、おおむね好意的な評価を得た。幾分肩に力が入りすぎているきらいはあったけれど、インテリ御用達の洗練されたポップ・ソングは、高い完成度を維持していた。いたのだけれど。
 以前のレビューでも書いたけど、ちょっと頭でっかちなコンセプトにとらわれ過ぎて、トータルとしては良いのだけれど、個々の楽曲のインパクトが弱く、それがパンチの弱い作品になってしまったことは否定できない。いわゆる『Abbey road』のB面現象である。
 ここで変にマーケットに色目を使わず、StingやElvis Costello、Peter Gabrelのように、都会のホワイト・カラーをターゲットにした「大人のロック路線」へシフトしていれば良かったものを、それをどう勘違いしちゃったのか、「ナウいヤング層」にターゲットを合わせ、過剰なポップ路線にしちゃったのが、この『Laughter & Lust』である。
 -ほんとは、こんなガキ向けの音楽なんてやりたくないんだけど、お前らの望むモノ作ってやったぜ。コレが欲しかったんだろ?
 囚人服に足枷、その鎖の先のデカい重りを抱えて苦笑いする、アルバム・ジャケットJoe。「ポップの奴隷」に成り下がっちゃったぜ、的な自虐の笑み。

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 「下々の連中にもわかりやすいポップ・ソング」というのがJoeのコンセプトだったのだろうけど、そんな「上から目線」的な態度が露骨に出てしまったのだろう。大衆はそこまでバカじゃないことを、Joeはわかっていなかった。結果、『Laughter & Lust』は前作を下回るセールスで終わってしまう。
 クオリティは問題ない。そりゃベテランの仕事だから、体裁はきっちり整っている。でも、ほのかに漂ってくるブルジョア臭・中途半端なインテリ姿勢を、多数を大衆が占めるマーケットが歓迎するはずがなかった。
 ここには、「どんな手段を使ってでも売れるんだ」、「とにかく聴いてもらおう」とする意欲、言っちゃえば、ヒット・ソング特有の下世話さがどこにもない。売れ線を狙うことが卑賤な行為であるかのように、変に斜め上からスカした感じが、なんか腹立ってしょうがない。上品さを捨てきれなかったことで、アクも少ない無難なポップに仕上がり、結果、個性も薄~くなってしまった。
 サウンドはちゃんとしている。でも、面白くない。ワクワクもしない。

 「ここまで歩み寄ったんだから」と、多分ヒットを確信していたのだろうけど、あまりの反応の薄さ、セールス不振によって、Joeは深く深く落ち込んでしまう。ヴァージンからも契約を切られ、踏んだり蹴ったりである。
 この後しばらく、Joeは長い長い混迷期に入ることになる。



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1. Obvious Song
 ロックセレブへの痛烈な皮肉やベルリンの壁崩壊など、珍しく時事的なテーマを多く取り上げた、Joe 流のトピカル・ソング。浮世離れしたアーティストではなく、きちんと現実にもコミットしていることを、冒頭でアピールしている。サウンド自体も後期A&Mのアップグレード版となっており、冒頭のつかみはOK。



2. Goin' Downtown
 出だしのシンセ・ブラスの安っぽさが興醒め。音が多すぎなんだよな。いつもの盟友Graham Maby (b)もいるので、リズム自体は問題ないのだけど、変にマーケット意識し過ぎちゃって、シンセ周りのエフェクトがウザい。もっとシンプルな編成で聴いてみたい。

3. Stranger than Fiction
 とはいえ、楽曲そのものの力が強ければ、多少のアレンジの可否はどうでもよくなってしまう。今も時々ライブで取り上げることもある、ヴァージンのニーズとJoeのポップ職人性とがうまくシンクロしたナンバー。



4. Oh Well
 イントロでいつもDeep Purple 「Highway Star」を連想してしまう、ギター・フレーズがちょっぴり印象的なナンバー。自虐を超えて卑屈さが露わな歌詞は、この後の沈滞期の兆候がうかがえる。

5. Jamie G. 
 なので、ここで一転、躁的なラテン・ナンバーが続いたとしても、どこかやけっぱち感が漂ってしまう。これまで何度もフィーチャーしてきたから、充分手慣れているはずなのに、リズムに乗り切れていない。かつてはどんなビートもねじ伏せていたはずなのに、ここでは持ち前のクリエイティヴィティが作用せず、振り回されてしまっている。
 もっと、うまくできるはずなのに。

6. Hit Single
 タイトル通り、まぁ当然Joeだからヒット・シングルを皮肉った内容のポップ・ソング。ヴォーカルのキーも通常より少し高め、過剰にポップに寄せている。
 ヒット・ソングをみんな聴きたがり、じゃあアレもコレも、とやり出すと、「おいおい」とストップさせられる。「ヒット曲だけを聴きたいんだ、アルバムの曲はいいよ、みんなそんなヒマじゃないし」。
 Joeのようなアーティストに、ヴァージンがそこまで露骨に言ったとは思えないけど、ヒット・シングルを出さねば、というプレッシャーがあったのは確か。やっぱキャラに合わないことをやろうとすると、無理がたたってくる。

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7. It's All Too Much
 楽曲の構造としては、従来のJoeクオリティなのだけど、ライブ映えを意識したアレンジがやっぱり受け付けない。シンセを入れると途端に安っぽくなっちゃうのは、やっぱ相性なのか。

8. When You're Not Around
 なので、7.同様、ライブ映えを意識した大味なアレンジが面白くない。ていうかJoe、キー高すぎだって。

9. The Other Me
 この時期のバラードとしては特に秀逸、際立ったメロディ・ラインを持ったトラック。もったいぶったストリングス(もちろんシンセ…)がジャマだけど、それに負けないパワーを秘めている。ちょっと大袈裟なアレンジだけど、このアルバムのクライマックスとして、使命はきちんと果たしている。



10. Trying to Cry
 箸休め的な、浮遊感漂うアンビエントなバラード。ブリッジとしてコンパクトな小品としてならアリだけど、6分超もあるんだな、これ。後年のミュージカル調コラボで頻出してくるパターンだけど、ヒット・アルバムを狙うには、ちょっと尺が長すぎ。

11. My House
 『Beat Crazy』のアウトテイクっぽいナンバー。あの辺の楽曲をアップグレードしたような。10.同様、その後のコンセプチュアルな作風の予行演習的な構造。やっぱライブ映え意識してるよな、この時期って。彼ほどのポテンシャルなら、3、4ピースで充分オーケストラに匹敵するサウンドを創り出せるというのに、この時はまだそれに気づいていない。

12. The Old Songs
 ここまで聴いていると、やっぱ楽曲の出来にムラが多いこと、またヒット優先のバンド・アンサンブル先行型の楽曲がアベレージ越えしていないことが如実にはっきりする。この楽曲だって、ちょっとやそっとのアレンジで損なわれるパワーじゃないもの。
 歌詞の内容的には、「古い歌」を捨てて新たな路線を歩もうよ、という前向きなものだけど、こういった旧タイプの楽曲の方が、彼のパーソナリティがうまく表れているというのも、ちょっとした皮肉。やっぱポップ路線、やりたくなかったんだな。

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13. Drowning
 ラストは過剰にドラマティックなバラードで締めくくるのは、昔からのこの人のパターン。最後は直球勝負、主にピアノによる弾き語り。
 Joeの場合、これだけ名曲があるにもかかわらず、カバーされることは未だ持って少ない。あまりにアーティスト・エゴが強すぎるため、誰が歌っても世界観を再現できない、または新たな切り口が見いだせない、というのも要因である。
 Joe Jacksonの歌は、Joe Jackson しか歌えない。
 ほんとはそれだけやってればよかったのに、違う自分もあるんじゃないか、と光の射す方へ寄り道してしまった。
 その後、方向修正するまでには、何年もかかることになる。






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「人間Joe Jackson」によるメッセージ・ソング - Joe Jackson 『Blaze of Glory』

folder 1989年リリース、Joe Jackson 8枚目のオリジナル・アルバム。10年ちょっとのキャリアの中で、サントラ2枚とライブ・アルバム、オーケストラと共演のインスト・アルバムも製作しており、A&M時代の彼が相当なワーカホリックであったこと、またアイディアが溢れまくっていたことが窺える。何となくの印象だけど、特別趣味もなさそうだし、ヒマさえあればピアノに向かっているようなイメージが強い。気分転換がヘタそうなので、そういった点が後に尾を引くことになるのだけど。
 で、今回はそのデビューから長く所属したA&Mでは最後のアルバムとなっている。ここでひとつの節目をつけて心機一転、新天地ヴァージン・レコードでキャリアの再スタートを図るはずだった。だったのだけど。

 80年代後期のJoe Jacksonと言えば、StingやPeter Gabrielと並び称される、今で言う「意識高い系」のミュージシャン的スタンスにあった。
 正統なクラシック教育というアカデミックなバックボーンがありながら、デビュー・アルバムで披露したシンプルな3コードのロックンロールを起点として、当時はまだキワモノ扱いだったワールド・ミュージックのエッセンスを導入、オンリーワンの無国籍サウンドを確立した。
 ここで重要なのが、当時のポスト・パンクの潮流の真っ只中にあったJoeのスタンス。「ロック以外の何か別のサウンド」と謳いながら、結局は旧来のロックにカテゴライズされるサウンドしか提示できなかった大方のニューウェイヴ・アーティストとは一線を画し、明確に「ロックとは違うサウンド」を志向していたのがJoeであり、またはPoliceだった。既存のロックとは別の地平を切り開くその姿勢は、逆説的にロック的でありパンクのイディオムと同調するのは、ある意味皮肉でもある。「オンリーワンこそがロックである」という証明にもなっている。
 ロックとは別の地平という点において、バンド・スタイルに捉われない方向性も模索していたJoe、キャリアの初期に制作されたサントラ『Mike’s Murder』は習作レベルの出来ではあったけれど、オーケストラと共演した現代音楽アルバム『Will Power』ではある程度の成果を出し(セールスは別)、短いスパンでリリースされたサントラ第2弾『Tucker』では、1940年代という時代設定に合わせた本格派スウィング・ジャズで全編をまとめている。まぁ以前、『Jumpin’ Jive』で同じアプローチで経験済みなので、その辺はお手のものか。とは言っても、何かと制約の多いハリウッド・メジャーの作品からの細かな要請をすべてクリアし、映像ともストーリーともフィットしたサウンドを提供、しかもアーティストとしての作家性も維持しているのだから、この仕事についてはもっと評価されてもいい。

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 それまでは主にポピュラーのフィールドで活動していたJoeだったけど、『Will Power』『Tucker』という、プレイヤーとしてでなくコンポーザーとして携わった一連のプロジェクトを経たことが、ひとつの節目となったと思われる。この時期、Joeはインタビューで「もうポップ・シンガーとしての自分の役割は終わりだ」という発言を繰り返している。従来のシンガー・ソングライターとしての表現手段に限界を感じ、もっと大編成のオーケストラを相手にしたコンポーザーとしての将来性に可能性を見出すのは、自然の流れである。そうなると、これまでのポピュラー・サウンドというのはルーティンでしかない。
 とはいっても現代音楽のフィールドは収益という面においては不安定この上なく、いまだ太っ腹なパトロンや、スポンサーのバックアップがないと成り立たない世界である。特にこの世界でまだ目立った実績のないJoeに対し、支援を申し出る者がいるはずもない。なので、必然的にこれまでのポピュラー・ミュージックとの二足の草鞋といった活動形態となる。
 中堅ポップ・シンガーとして、次のレコーディング契約が継続される程度にセールス実績を上げ、そこで得た活動資金を現代音楽方面へ投資する、というのがJoeの理想とする活動スタイルだったんじゃないかと思われる。アーティストとしてのアイデンティティを失わず、それでいて収支的にバランスの取れた経営計画は、今にして思えば理想論過ぎると思うのだけど、それを本気で考えていたフシがあったのは、それだけJoeのポピュラリティがミュージック・シーンに浸透していた証左でもある。

 『Blaze of Glory』では、これまで彼が培ってきた音楽の集大成として、総決算的なサウンドはもちろんのこと、全体がひとつのストーリー仕立てとして、歌詞においても半自伝的な内容が綴られている。楽曲によっては曲間のないシームレスな繋ぎとなっていたり、ドラマティックな展開のコンセプト・アルバムとなっている。これまでと比べてバラエティに富んだサウンドが展開されており、これまでの集大成といった力の入りようは充分感じ取れる。Joe自身の少年時代からスタートして、青年期を経、そして現代に至るまでの変遷を描いているらしいのだけど、正直訳詞は読んだことがない。
 ていうか俺、Joeの人生にさほど興味はなかったのだった。

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 11歳からバイオリンとピアノを嗜んでいたJoe Jackson。あらゆる楽器をちょっとの努力で習得してしまうマルチな才能はとどまるところを知らず、16歳からパブやバーで演奏、机上の論理に収まらない現場のスキルを得ることになる。
 その後、本格的に楽理と作曲を学ぶため、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックに奨学生として入学する。音楽以外、これといって趣味のないJoeであるからして、そこで勉学に演奏活動に励み、将来はオーケストラの作曲家になることを目指していたけど、幼少時からアカデミックな教育を受けていた同級生との格差に絶望、クラシックの道は諦め、興味を惹かれつつあったロックの世界に身を投じることになる。
 地元ポーツマスのバーやパブで演奏活動を続けながら大学を卒業、その後もいくつかのバンドを転々としながら実地経験を積み、クラブ専属のピアニスト兼音楽監督としての職を得る。それと並行して、デモテープを作ってはレコード会社に送る地道な作業も続けていた。そのうちのひとつがA&Mの目に留まり、レコード・デビューの道筋をつけることになった。

 -以上が、ほぼwikiから引っ張ってきたデビューまでのあらすじ。順風満帆とまでは行かないけど、それほど大きな起伏もない、ごく普通のミュージシャン・ヒストリーである。デビュー後も、音楽的変遷への言及は多々あるのだけれど、ストーリーにとって重要なファクターである枝葉の部分については、取り立てて大きなエピソードもない。
 「悪徳マネージャーの搾取がひどかった」とか「厳格な両親への反抗が創作意欲の原点である」とか「ホモセクシャルというコンプレックスの反動が、ショー・ビジネスへの憧憬を募らせた」など、何かしらストーリーのフックとなるエピソードでもあればまた違うのだけど、そんなこともなさそうである。
 いやいや邦訳されてないだけで、もっとエグいエピソードのひとつやふたつはあるんじゃないの?といったゲスの勘繰りで、英語版のwikiや例のJoe Jackson Archiveも探してみたのだけど、やはり特筆するほどのことはなさそうである。Joe自身のプライバシー保護が徹底しているのか、もしかしてとても公表できないエピソードもあるのかもしれないけど、とくにそんな感じでもなさそうである。

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 今回レビューするため、初めて訳詩を読んでみたのだけど、正直あまり面白いものではない。よくありがちな青年期の苦悩、また戦後40年を経た社会情勢を皮肉な視点で振り返る、といった生粋の英国人的なテーマを取り上げているのだけれど、どれもステレオタイプな視点なので、独自性があるものでもない。新聞の社説やニュース番組のコメンテーター相手にグチってる、街角インタビューのオヤジと大差ないレベルである。
 これがRay DaviesやPete Townshendだったら、ストーリーの骨組みは同じだとしても、もっと屈折した視点や自身のトラウマをさらけ出したりして、起伏の富んだストーリーをいくらでも量産できるのだろうけど、Joeにそこまでのストーリーテリングを求めるのは酷なのかもしれない。ていうか、そういったイメージの人じゃないし。

 言葉によるストーリー展開よりむしろ、純粋なサウンドの組み立て方・編成の妙で独自性を築き上げてきたのが、Joeの本質である。自我を全開にさらけ出すタイプのシンガー・ソングライターではないのだ。どちらかといえばサウンド・コンセプト重視の人である。
 「シンプルなロックンロールやるぞ」「第三世界のサウンドを取り込むぞ」「時代遅れだけどスウィング・ジャズ・スタイルでアルバム作るぞ」「観客に沈黙を強制して全曲新作でライブ・レコーディングするぞ」「世界中の都市をテーマに曲を作ってアルバムにまとめるぞ」など、何がしかの縛り、大喜利で言うお題的なものがあった方が、この人の場合、クオリティも高くまとまったものができる。A&M時代のアルバムは、ほぼこういったテーマがひとつ設定されていたため、自然とサウンドに統一感が生じ、結果的にアルバム・コンセプトが明確なものとなっている。
 ただ、『Blaze of Glory』ではサウンド・コンセプトよりも、むしろストーリー性の方に重点が置かれ、しかも要のサウンドもひとつのテーマに縛られず、言ってしまえば小品集を組曲的に再構成したような構造となっている。なので、「これまでのアルバムのオイシイところを寄せ集めた」とポジティヴに捉えれば、決して悪いアルバムではない。ないのだけれど、半自伝的なストーリー・コンセプトが主体となっているため、曲単体のポテンシャルが落ちてしまっているのも事実。他のアルバムと比べて、後のライブで再演されるような曲が少ないことが、それを証明してしまっている。
 言ってみれば、『Sgt. Pepper’s』をシャッフルして聴いても魅力が伝わらないように、通して聴かなければイマイチ伝わりづらいアルバムなのだ。でも、ストーリー展開の薄いコンセプト・アルバムって、聴いててもちょっとダルいよね。
 そういった「ストーリー性」やら「個人的感情」やら「メッセージ」やら、ウェットな感性とは無縁のドライなスタンスで、雑多な音楽性を次々と吸収して新たなオンリーワンのサウンドを創り上げてゆくのが、彼の魅力だったのだ。
 書いてみて、ようやく気づいた。
 そうだよ、理屈じゃないんだよ。


Blaze of Glory
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1. Tomorrow's World
 Joeの生まれた1950年代からの視点で描かれた、希望あふれる未来への賛歌。まぁそういった内容は別として、サウンド的にはA&M期の頂点と言ってよいクオリティとなっている。この一曲の中に多くのアイディアが詰め込まれ、ドラマティックな展開が幾度も訪れる。
 この曲を起点として、コンセプト・アルバムに展開していったのだろうけど、あいにくサウンド的なトータリティは継承されず、イデオロギーのみがアルバム・コンセプトとして設定されたため、どれもこの曲ほどの仕上がりには至らなかった。
 それくらいレベルが段違いに素晴らしいナンバー。



2. Me And You (Against The World)
 前曲のVinnie Zummoによるギターのアルペジオからシームレスで続く、ストレートなロック・ナンバー。この曲もアルバムの中では俺的には好みのナンバー。『Big World』で完成の域に達した、「ギターをメインとしないロック・ナンバー」の発展形として、自信に満ちあふれたJoeのヴォーカルが清々しくて圧巻。

3. Down To London
 ちょっとカリビアン・テイストの入った軽快なピアノを弾きながら、『Body & Soul』期の発展形のサウンドがここにある。ほぼデュエットと言っても良いほど前面に出ているJoy Askewのバッキング・ヴォーカルもツボを得ている。
 いやぁ、ここまで3連発、ほんと好きなんだけど。このままの感じで突っ切れば傑作だったのに。ここから俺的に、あんまり聴き返してない世界。

4. Sentimental Thing
 タイトル通り、非常にセンチメンタルなバラード・チューン。ポピュラー系というかロックンロール誕生以前、ほんと40~50年代のポップ・ナンバー的な趣きを感じさせる。この辺の曲にどんな需要があるのか、俺もまだその領域には達してないのでわからないけど、ぶっちゃけてしまえば退屈。まぁアルバム構成的にはこういった箸休め的ナンバーも必要。

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5. Acropolis Now
 ギリシャの政治・軍事的な拠点となった都市アクロポリスをテーマとしたインスト・チューン。Joeお得意の中近東テイストの入った無国籍サウンドと、正統派ロック・スタイルのVinnie Zummoのギター・ソロをミックスさせている。まぁでも、ただそれだけかな。あんまりタイトルとも関係なさそうだし、コンセプト・アルバムの幕間的ナンバー。

6. Blaze Of Glory
 珍しくアコースティック・ギターの弾き語りから始まる、入りはちょっとカントリーっぽいナンバー。これはこれで新境地的なサウンドとなっている。どこか「人間Joe Jackson」的な質感となっているのが、俺的にはちょっと気に食わない。まぁ個人的な感想だけど。

7. Rant And Rave
 ラテン・テイストの強い、『Beat Crazy』期の発展形的サウンド。良質なダンス・チューンとしては最高なのだけど、国家テロを扱った時事放談的な内容が水を差す。まぁ、でも俺的に英語のヒアリング能力はほぼ皆無なので、そんなに気にはならないけど。内容知っちゃうと印象が違ってくる。

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8. Nineteen Forever
 リリース当時からちょっとだけ話題になった、「35歳にはなりたくない、俺は永遠に19歳」と歌った当時34歳のJoe。そう言った気持ちを忘れずにいたい、という気持ちはわかるのだけど、ハゲかけたおっさんが歌うのは、当時からちょっと厳しいものがあった。松本伊代とはスペックが違いすぎるのも、不自然さが漂う要因でもある。

9. The Best I Can Do
 このアルバムの中でも白眉の出来となった傑作バラード。『Night & Day』サウンドの上位互換と呼んでも差し支えない、センチメンタリズムを可能な限り排除しながらも、聴く者の感情に訴えかけるものがある。そうだよ、Joeはやっぱりこうでなきゃ。なのに、こんな地味な曲順になってしまったのが非常に惜しい。せめて前半に入れて欲しかった。



10. Evil Empire
 国家間の冷戦状態を歌った、いわゆるプロテスト・ソングにカテゴライズされるアコースティック・ナンバー。まぁステレオタイプな社会批判なので、そこまで独自の視点があるわけでもない。こういったことも歌ってみたかったのだろう。だろうけど、誰もJoeにそんなのは求めてない。そういうことだ。

11. Discipline
 全編「修練」ともいうべきアブストラクトなナンバー。これまでのパーツを分解して再構築したような、そこかしこにエッセンスは残っているので、アバンギャルドな印象はそこまではない。まぁ10.でも言ったけど、Joeファンからすればあまりニーズのないナンバーである。

12. The Human Touch
 締めは正統なJoe Jacksonとしてのバラード・ナンバー。甘すぎずウェットにならず、それでいてエモーショナルな部分もきちんと残されている、ハードボイルドという言葉が最も似合っている。歌詞はちょっと陰鬱としているのだけど、サウンド的にはこれまでの良質なエッセンスのみを抽出して練り上げられた、今後の可能性も感じ取れる作りとなっている。なってはいたはずだったのだけど。




 その陰鬱とした加減が歌の中だけで納まっているのなら良かったのだけど、次作『Laughter & Lust』のセールス不振によって鬱病が表面化、しばらくポップ・シーンから遠ざかってしまうことになる。それまでほぼ順風満帆でキャリアを重ねてきたJoe Jackson、初めての挫折を味わうことになる。


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ここに来て覚醒、2015年型のJoe Jackson - Joe Jackson 『Fast Forward』

folder ほぼ事前アナウンスも無く突如リリースされた、Joe Jacksonの2015年ニュー・アルバム。この11月時点の情報では、今のところ日本リリースの予定はなし。前作『Duke』は一応、直輸入仕様でリリースされてはいるのだけど、正直俺も日本盤の現物は見たことないし、多分今回もそのうちどこかからリリースされるかもしれないけど、同じような扱いなんじゃないかと思う。
 だいたい日本でのJoeの扱いといえば、『Night & Day』周辺の作品くらいしかインフォメーションされておらず、あとはせいぜいデビュー・アルバム『Look Sharp!』がニュー・ウェイヴ期の代表作としてピックアップされるくらい。まぁ世界レベルにおいても似たような認知しかされていないので、ここ30年くらいは地道な活動に甘んじている状況である。近年は来日もしてくれなくなったから、取り上げる目立った話題もないという悪循環。

 そんなわけで、日本にはあまり情報は入ってこないけど、それでも精力的に活動は続けている。アルバム・リリースの間隔が広くなっているのは、ほかのベテラン・ミュージシャン同様、致し方ないことだけど、ライブ活動はコンスタントに行なっている。アルバム・プロモーション目的のツアーだけでなく、恒常的なライブ活動をメインに据えたミュージシャンが多くなっているのは、世界的な傾向である。

 パンク~ニュー・ウェイヴ期は4ピース編成のストレートなロック・バンド・フォーマット、『Night & Day』以降のアーバンAOR路線では、ホーン・セクションを導入した大編成ビッグ・バンド、21世紀に入ってからのJoe Jackson Bandリユニオンを経て、近年はさらにシンプルな3ピース編成、自身のピアノ&ヴォーカルにドラム、ベースを率いて、主にEU圏内を中心に公演活動を行なっている。身軽なフォーマットゆえ、基本、小さな会場を小まめに回るスタイルになっているのは良しとしても、もっとライブ感あふれるダイナミズムを見せてもらいたいのも正直なところ。

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 そういった想いもあって、以前『Big World』のレビューで書いたのが、現在の基本フォーマットである3ピース・スタイルだけじゃなく、単発でもいいから別のコラボレーションを試してみるのもアリなんじゃないかという内容。
 今のJoeのセールスから考えると、パーマネントな形での大所帯バンド編成を維持してゆくことは困難なので、逆にJoeが単身どこかの国へ乗り込んで、イキのいい地元のジャズ・ファンク・バンドとガッツリコラボしたら、面白いんじゃないかと。たとえば日本にも、いろいろ個性的かつテクニカルなバンドが揃っているので、ある程度まとまった期間滞在してもらって、じっくりサウンドを練り上げてみれば、と書いたのだけど。

 で、今回のアルバム。舞台は日本じゃなかったけど、結構俺が書いたことに近いコンセプトになっている。ニューヨーク、アムステルダム、ベルリン、ニューオーリンズ各地でのセッションから4曲ずつセレクトし、1枚のアルバムにまとめている。レコードで言えば、2枚組ABCD面の構成となっており、一応各面ごとにサウンド・スタイルも変えている。なかなかめんどくさい作業だったと思われるけど、我々が気にすることではない。
 こういうのが好きな人なのである。

 深刻な鬱状態を無為に過ごした90年代を経て、今世紀に入ってからのJoeはフル・スロットルの活動ぶりである。初期Joe Jackson Bandを再結成して、全盛期とまったく変わらぬハイ・テンションのロックンロール・アルバム『Vol.4』を発表後、それに伴う世界ツアーのライブ・アルバム『Afterlife』も併せてリリース、その後もシンガー・ソングライター的なソロアルバム『Rain』を経て、トリオ編成のヨーロッパ・ツアーを行ない、こちらもライブ・アルバム『Live Music Europe 2010』をリリース、で、前述のDuke Ellingtonトリビュート・アルバム。
 近年は『Rain』から繋がる、ピアノ中心のサウンドになっていたのだけど、同じアプローチであるはずの『Night & Day』とは違ってホーン・セクションもなくなっちゃって、ちょっと寂しいサウンドになってしまい、このまま枯れて行っちゃうのかなぁと思ってたのが正直なところ。

Joe-Jackson

 で、ここに来て突然覚醒したのか、あらゆるジャンルを縦横無尽にサヴァイヴするJoeの復活である。俺が求めてたジャズ・ファンクも入ってるし、従来のストレートなロック・ナンバー、またフィドルを効果的に使用した実験色強いポップナンバーも収録されている。
 思えば80年代のJoeは、「いかに既存のロックから遠ざかるか」をテーマに、ジャズやラテン、カリプソなどあらゆるジャンルの音楽を飲み込み咀嚼して、従来のロック/ポップ・ユーザーへわかりやすい形にして届けていた。そのジャンルレスな活動スタイルは、唯一無二オンリーワンのもので、音楽への純粋たる求道者的な佇まいは、多くの音楽通だけでなく、幅広いすべての洋楽リスナーにもアピールするものだった。
 それが近年では、その求道者たる方向性が純化の方へ向かってゆき、雑多な音楽性が薄れていた。キャリアを積んだアーティストが向かう方向としては必然なのだろうけど、新しい音楽に接した時の驚きも薄れてゆくのは、ちょっと寂しい気もしていた。
 そんな流れから急展開、雑食性のJoe Jacksonの再始動である。
 

Fast Forward
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Joe Jackson
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(New York Sessions)
1. Fast Forward
 クレジットにはないけど、ピアノはほぼJoe自身だと思われる。時代を超えたスタンダードとなるべき、悠然と堂々としたメロディ・ライン。目先の流行りに捉われない、Joeオリジナルのサウンド。自信に満ちあふれたオープニング・ナンバー。



2. If It Wasn't For You
 ちょっとポップめながら、疾走感あふれるビート・ロックになっているのは、盟友Graham Mabyがリズムを引っ張っているから。もう「あ、うん」の呼吸なんだろうね、この2人って。ドラムのBrian Bladeはもっぱらジャズのフィールドで活躍してた人らしいのだけど、今どきのジャズ・ミュージシャンだけあって、ロック系のビートも難なくこなせる人。サプライズはないけど、安心して聴くことができるリズム・セクション。

3. See No Evil
 Tom Verlaineといえば、あの70年代NYパンク・シーンのTelevisionのあの人かと思ってたら、ほんとそうだった。Joe恒例のカバー・シリーズだけど、今回は結構意外なところを突いてきた。
 なので、これまでTom Verlaineは聴いたことがなかったのだけど、Youtubeで初めて聴いてみたところ…、まんまじゃねぇか、これ。Bill Frisellが手慣れた感じでプレイしている情景が思い浮かぶ。

4. Kings Of The City
 珍しく、リズム・ループ使用だけど、アーバンチックなバラードに合っている。80年代を彷彿とさせる、メリハリの効いたナンバー。『Body & Soul』期っぽくて、往年のJoeが好きな人にはズッパマリなはず。

 Bill Frisell - guitar 
 Brian Blade - drums
 Graham Maby - bass 
 Regina Carter - violin

(Amsterdam Sessions)
5. A Little Smile
 ここからはオランダ録音。19世紀から活動しているロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とのセッションを収録。クラシックはほとんど知らないので、調べてみると200年超の歴史を誇る由緒正しいオーケストラ。ポピュラー・ミュージックとの共演はほとんどなかったらしいけど、アカデミックな楽理を学んでいたJoeとの相性は、まぁ悪くはない。
 Joeも完全にアウェーながら、ピアノ一本でオーケストラのサウンドに挑んでいる。



6. Far Away
 ここでゲスト・ヴォーカルを取るMitchell Sinkは、若干14歳の少年だけど、ブロードウェイにも出演歴のある、れっきとしたミュージカル・スター。壮大なドラマの幕間のような曲なので、単体では聴く気はないけど、アルバム単位ではメリハリとして、大きく作用している。
 ストリングス・アレンジもこれ見よがしではなく、控えめかつドラマティック。これまでの経験上、Joeにとってはお手のもの。

7. So You Say
 その6.をInterludeにしたかのような、こちらもドラマティックな小品。どことなく日本人好みなメロディは、ムード歌謡っぽく聴こえる瞬間もあり。布施明あたりが歌ってくれたらハマりそうだけど、さすがにちょっと古いか。徳永かな、今だと。

8. Poor Thing
 このAmsterdam Sessionをコーディネートしたのが、ダブルStefanなのだけど、この2人、もともとは地元オランダのバンドZuco 103の中心メンバー。ブレイクビーツとブラジル音楽のハイブリッド・サウンドをメインとしているのだけど、嫌みにならない程度のラテン・テイストはなかなかクール。ボサノバっぽさがシャレオツ。
 ここではそのラテンっぽさはほとんどなく、完全にJoeのカラーになっている。もともと脱ロック的なサウンドを志向していた時期もあるJoe、いつもと違うリズム・パターンになっても、即座に対応できちゃうところは、さすがベテラン。



 Stefan Kruger - drums 
 Stefan Schmid - keyboards
 members of Royal Concertgebouw Orchestra 
 Mitchell Sink - vocals

(Berlin Sessions)
9. Junkie Diva
 ドイツのセッションなのに、3人中2人はアメリカ人。ベースのGregはアバンギャルド方面で長らくやってた人で、主な共演者がJohn Zone、Tom Waits、Ornette Colemanと、錚々たるディープなメンツ。Earlは基本ジャズの人だけど、Jeff BeckやThe Theともレコーディングしたりなど、こちらも守備範囲の広い人。Dirkは地元ドイツで様々なコンセプチュアルなユニットに顔を出してるギタリスト。なので、ちょっとプログレ臭がある。
 そんなメンツを集めてできたのが、なぜかこんなストレートなAOR的ロック。いやいいんだけど、いい意味でちょっと拍子抜け。メンツで音を聴くのではない、あくまで出来上がった音で判断しないとね。

10. If I Could See Your Face
 と思ってたら次。ノイズ系ギターが延々鳴りまくっている。Joeのオルガンもクラシックっぽい弾き方でプログレ臭バリバリ。なかなかドラマティックな構成となっており、こういったのがやりたかったんじゃないかな、ベルリンでは。
近年、こういった曲には女性ヴォーカルをサブで入れてたりしてたのだけど、ここではJoeが独りで頑張っている。そうだよ親父、できるだけ独りで歌ってくれよ。

11. The Blue Time
 Joeには珍しく、変則アフロ・ビートを使用。大きくフィーチャーされてないので目立たないけど、コード多用のJoeのピアノにはフィットしている。タイトル通り、夜の深い闇を思わせる、佳曲バラード。

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12. Good Bye Jonny
 1930年代ベルリンで流行したキャバレー・ソングとのことだけど、なんで知ってんだ、こんな曲?ご当地ソング的な扱いなんじゃないかと思われる。まぁテクニック云々をどうこうって曲じゃないしね。

 Greg Cohen - bass
 Dirk Berger - guitar 
 Earl Harvin - drums 

(New Orleans Sessions)
13. Neon Rain
 ニュー・オーリンズとJoeとのコラボレーションは全然予想がつかず、これがアルバム一番のクライマックス。もともとヨーロッパ的な視点から第三世界の音楽を加工輸入していた人なのだけど、これまでブルース界隈のアプローチはなかったため、ちょっと意外だった。
 大勢の野太い男性コーラスが入ってること自体、これまでの流れではなかったこと。このキャリアにして、彼の中で何かが変わろうとしているのだろうか。

14. Satellite
 ニュー・オーリンズ・セッションの主軸は、地元のジャズ・ファンク・バンドGalacticが全面的にバッキングを担当。ブルースやヒップホップ・テイストも強い、ほんと何でもありのバンドで、多分このアルバムの中のメンツでは、もっとも知名度が高いはず。まぁ日本じゃ無名だけどね。Donald Harrisonという人は、これはもうメインストリーム・ジャズの第一線で活動しており、リーダー・アルバムも多数リリースしている人。なので、これはかなり贅沢なセッションとなっている。
 これまでのJoeと同じようなギター・カッティングなのに、同じように聴こえないのは、やはり土着性が強いリズムのおかげ。同じようなプレイのはずなのに、色合いが違って見えるのがバンド・マジック。

recording_studio

15. Keep On Dreaming
 これもいつものJoeと同じコード進行のはずなのに、セカンド・ラインのリズムによって、全然違うテイストに感じてしまう。泥臭いJoeというのもなかなか悪くない。バンド自身も、逆にここまでロックに接近したサウンドはあまりないので、新鮮だったんじゃないかと思う。リズムもそうだけど、Joe自身のピアノ・プレイにタメがあるのも、なかなかの趣き。

16. Ode To Joy
 ラストはあまりしんみりとしないのが、Joeのアルバムの定石。新しいリズム、質感に強く惹かれたのか、ここではJoe、自分の歌は少し引っ込め、Galacticにリードを委ね、楽しそうにキーボードをプレイしている。



 Stanton Moore - drums
 Robert Mercurio - bass
 Jeff Rains - guitar 
 Donald Harrison - saxophone



 各セッションで4曲のみレコーディングということはないはずなので、今後何らかの形でアウトテイクがリリースされると思うのだけど、各パートずつアルバム1枚作れるくらいのマテリアルが残ってたなら、面白い展開になるんじゃないかと、何かと想像は尽きない。
 楽しみだな、こりゃ。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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