好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Herbie Hancock

3匹目のドジョウ、もしくは3度目の正直。 - Herbie Hancock 『Perfect Machine』

folder 1984年にリリースされた『Future Shock』の功績は、既存ジャズの流れを大きく変えただけではない。それまで「知る人ぞ知る」といったヒップホップという音楽を大々的にフィーチャーしたことで、80年代黒人カルチャーの大きな飛躍に寄与した。
 ネット環境のない当時は、情報の伝播が手旗信号並みに遅かったため、日本に正確な情報が届くまでは、途方もない時間を必要とした。「デカいラジカセを担いだ屈強な黒人が、リズムに合わせて、踊り叫んでレコードをこする」。肝心の音も映像もなく、耳に入ってくるのはゲスな豆知識ばかり。これじゃ伝わらんわ。
 すでにジャズ・フュージョン界のスーパースターだったハービーが、まだニューヨークの下町のストリート・カルチャーに過ぎなかったヒップホップに、どうして目をつけたのか。まさかここまで売れちゃうとは、本人もCBSも思っていなかったはず。
 とにもかくにも、ヒップホップ・カルチャーがお茶の間レベルにまで浸透したのは、彼の功績である。

 グラミー受賞とUSプラチナ獲得の勢いを借りたハービー、早くも翌年、わかりやすいくらいの二番煎じ『Sound System』をリリースする。あまりに堂々とした二匹目のドジョウ狙いのため、したたかさを通り越して漢を感じさせる。
 曲がりなりにもメジャーのアーティストなので、「サウンド・プロダクトは同じだけど、コンセプトやアプローチは全然違うんだ」と言い張るんだろうけど、いや単なるヴァージョン・アップだし。正直、『Future Shock』とシャッフルしても、まったく違和感はない。
 それでも『Sound System』、プラチナ獲得には至らなかったけど、そこそこは売れた。さすがに『Future Shock』ほどではないけど、これまでのジャズ・フュージョンのアルバムとは、ケタ違いの売り上げだった。キャリア中、最も売れていた「Watermelon Man」でさえかすんでしまうくらい。
 ロックやポピュラーの売り上げと比べれば、ジャズの売り上げなんてたかが知れている。採算面だけで考えるのなら、ジャズなんて真っ先に切り捨てた方が効率的ではある。でも、パイは小さいけど売り上げは安定しているし、文化事業としての使命感が、単純な割り切りにストップをかける。
 極端な話、そこまで売れなくてもよい。中途半端に新譜が売れてしまうと、予測不能なバック・オーダーで在庫がかさんでしまい、事業計画にブレが生じる。それよりも、往年のジャズ名盤のリイッシュー企画の方が、売り上げ読みやすいし。

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 それまでは「ジャズ村の中でのスーパースター」だったハービーだったけど、『Future Shock』以降は、ジャズ以外のジャンルからのオファーが多くを占めるようになる。ミック・ジャガーのソロ・プロジェクトに参加したのもこの頃だ。
 とはいえ、ロック/ポップスでのセッション・ワークはあくまで余技であり、メインの仕事ではない。これで調子に乗って、ジャズから足を洗っていたら、いまのハービーはない。
 R&Bやディスコ、ファンクなど、あらゆるジャンルに手を出してはきたけど、結局のところ、ハービーが行き着くところは、原点のジャズである。ジャズ界で巧成り名を遂げた裏づけがあったからこそ、『Future Shock』はあれだけ注目されたのだ。
 CBS的には「さらにもうひと押し」との思惑で、勝手に3部作構想を練っていたのだけど、それを知ってか知らずかハービー、ここで一旦、ヒップホップ路線から撤退してしまう。次に彼が向かったのは原点回帰、本流のメインストリーム・ジャズだった。

 1986年に公開された米仏合作映画『Round Midnight』は、ジャズをテーマとした映画としては珍しく、全世界で1000万ドルという興行収入をたたき出した。ミュージシャン・シップに沿った丁寧な映像と音楽は、今もジャズ映画の金字塔として語り継がれている。
 この映画ではハービー、単なる音楽監督だけでなく、主人公デクスター・ゴードンのバンド・メンバーとして、重要な役で出演している。演技レベルはさておき、テーマの性質上、企画制作にも深く関与している。当然、片手間で行なえる仕事ではない。
 そんな状況だったため、いくら『Future Shock』続編を求められたとして、物理的にそんな時間はないし、またそういったテンションにもなれない。ヒップホップ路線の作品が片手間と決めつけるのは乱暴だけど、メインのジャズ製作と比べれば、向き合う姿勢は全然違ってくる。
 で、『Round Midnight』が一段落し、ビル・ラズウェルとのコラボが再開する。するのだけれど、彼らが手がけたのはヒップホップでもジャズでもない、言ってしまえばあさっての方向だった。
 アフリカの弦楽器コラを操るFody Musa Susoとのコラボ作『Village Life』は、静かな流行となっていたエスニック音楽とニューエイジ系とのミクスチャー、要は「ミュージック・マガジン」が絶賛しそうなサウンドだった。ディスコ期突入前のE,W & Fのインスト・ナンバーをヴァージョン・アップしたようなサウンドは、いま聴くと程よいアンビエント感が心地よいのだけど、まぁ第2・第3の「rockit」を求めていたCBSからすれば、肩透かし感もハンパない。質が高いのはわかるけど、こりゃ売れんわな。
 80年代CBSのジャズ・ラインナップは、ウィントン・マルサリスを筆頭とした若手中心の新伝承派と、復活した帝王マイルスによるエレクトロ・ジャズ=ファンク路線を両軸としていた。若手に保守的な懐古ジャズをやらせ、ロートルが革新的なボーダーレス・サウンドを新規開拓してゆくというのも変な話だけど、両極端な戦略というのは、リスクヘッジとしては悪くない。
 ハービーのポジションは当然マイルス寄りだけど、電化一辺倒だけじゃなく、並行してメインストリーム寄りのVSOPもやっていた。ひとつのジャンルで括られることを極端に嫌う人なのだ。

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 もし『Round Midnight』がなかったら、CBSの思惑に沿って、『Perfect Machine』はもっと早く製作されていたのかもしれない。「モダン・ジャズの復権」という崇高な目的の前では、目先のトップ40ヒットにもハービーの食指は動かなかった。ただどちらにせよ、ビル・ラズウェルも当時は売れっ子プロデューサーとして、ジョン・ライドンや坂本龍一、前述のミック・ジャガーに関わっていたため、スケジュール調整は相当苦労しただろうけど。
 で、ある程度まとまった時間が取れたのは、『Sound System』から4年も経ってのことだった。もうこれだけブランクが空くと、煎じるものもドジョウもいなくなってる。
 Run D.M.C.によって、より深く世間に浸透したヒップホップも、一様なオールド・スクールだけではなく、LL cool JやPublic Enemy、Beasty Boysなど、よりクセの強いパフォーマーが台頭していた。そんな秒進分歩の流れにおいて、長く前線を退いていたハービーの感性では、とても太刀打ちできなかった。
 たとえブランクが短かったとしても、粗製乱造と捉えられ、どっちにしろ市場には受け入れられなかったんじゃないか、というのが俺の私見。

 当時のCBSジャズ部門は、経営陣主導による、商業主義と芸術至上主義との振り幅が大きかったため、多くの所属アーティストが翻弄されていた。
 長くCBSの主だったマイルスも、オクラ入りしていた『Aura』のリリースを巡って、当時の副社長ジョージ・バトラーと対立する。交渉は平行線をたどり、最終的にマイルスはCBSと袂を分かち、ワーナーへ移籍する。
 ハービーもまた、そんなマイルスへの処遇を目の当たりにし、CBSに見切りをつける。次回リリースのアルバムを最後に、ジャズの名門レーベル「ヴァーブ」への移籍を決断する。
 そうと決まれば、早めに契約は満了したい。今さらCBSには恩義も義理もないハービー、早速新作に取りかかる。
 言ってしまえば契約消化のための作品なので、CBSの利になるモノは作りたくない。かといって、単純な手抜きの駄作はプライドが許さないし、ファンにも失礼だ。名を汚さない程度のクオリティは保っておきたい。
 イチから企画立ち上げは面倒だし、良い企画ならヴァーブで使いたい。どちらにせよ後ろ向きな企画なので、モチベーションも上がりようがない。
 そうなると、誰かにお膳立てしてもらうしかない。じゃあやっぱビルだよな。
 せっかく2人でやるんだったら、CBSのお望み通り、時代遅れのヒップホップでもやってみようか。どうせ売れないだろうけど、強引に「3部作完結!」とか言えるし。
 
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 始まる前までは気乗りがしなかったはずだけど、スタジオに入れば気持ちも切り替わり、いつも通りのプレイを披露している。前2作ではビル・ラズウェルのサウンド・プロダクトがかなり強かったけど、3作目ともなると自身のソロもちょっと多めになっている。
 セッションが進むにつれてミュージシャン・シップも触発されたのか、いつものフェアライトだけじゃなく、様々なヴィンテージ・エレピまであれこれ引っ張り出してきている。それに対してビル・ラズウェル、クレジットはされているけど、ほとんど何もしてねぇ。
 当時、Pファンクもラバー・バンドも自然消滅し、ビル・ラズウェル絡みの仕事が多かったブーツィー・コリンズ、協調性とは無縁の人なので、脈絡もないフレーズをブッ込んできたり、相変わらずのやりたい放題ぶりである。アンサンブル?何それ。
 そんな異物をも寛容に受け入れるハービーの懐の深さ、という見方もあるけど、いや単にどっちでもよかったんだろうな。まとめるような音楽じゃないし。
 楽面で言えば、取り立てて新機軸はないのだけど、これまで履修してきたヒップホップのエッセンスと、ジャズ以外のエッセンスも貪欲に取り込んできた末に培われたリズム・パターン、そして、スパイスのくせに粘着力の強い、ブーツィーのベタっとしたベース・ラインとがごちゃ混ぜになった怪作に仕上がっている。
 しかし、レーベルの置き土産となる、有終の美を飾るはずの作品が、これとは。マスター・テープを受け取ったCBSディレクターの微妙な表情がチラついてしまう。


Perfect Machine
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1. Perfect Machine
 テレビのドキュメンタリーやバラエティのバックで使われることが多いため、結構な確率で耳にしたことのある人が多い。ファンクというよりはテクノ・ポップ成分が強く、フュージョン寄り。なのでBGMとしての汎用性が高い。

2. Obsession
 サンプリング音源を多用したエレクトロ・ファンク。これ見よがしなスクラッチやヴォコーダーは、この時代、すでに古びた印象となっていた。もう3年早ければ、大御所のお戯れとして許されたかもしれないのに、タイミングが悪すぎた。
 ヴォーカルを取るのはオハイオ・プレイヤーズのシュガーフット。オハイオ自体がドメスティックなドロドロのファンクなので、逆にこういった無機的なサウンドとのミスマッチ感を狙ったのだろう。案外面白いんだけど。

3. Vibe Alive
 ブーツィーのリズム・アプローチが前面に出た、ボトムの効いたファンク。キャッチ―なサビは当時のソフト・ファンクにも引けを取らぬメロディとなっており、実際R&Bチャートでも25位と健闘した。ハービーの場合、こういったファンク・アプローチの場合は自身が前面に出ない方が出来がよい。



4. Beat Wise
 ビル・ラズウェル仕切りによって、ブーツィーに自由奔放にやらせたら、こんな感じになりました的なトラック。どんな状況でも対応してしまうハービーゆえ、予測不能のブーツィーのフレーズにもちゃんとカウンターを決めている。最後に、できあがったベーシック・トラックにビルがエフェクトかましたりスクラッチ入れたりすると、どうにか形になってしまう。

5. Maiden Voyage/P. Bop
 「処女航海」のリメイクというより、ヒップホップのトラック作成にサンプリング素材として使用したトラック。US3 がヒットさせた「Cantaloop Island」のように、ジャジー・ラップでのアプローチなら、もっとスマートだったのかもしれないけど、まぁビル・ラズウェルだし一筋縄ではいかない。そんなうまくまとめようだなんて、ハービーだって思っていなかっただろうし。

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6. Chemical Residue
 ラストはほぼハンコック主導、崇高ささえ漂うメロディアスなフュージョン。サンプリングも多用しているのだけど、あくまで隠し味的な使い方で、メロウさを前面に押し出したサウンド・アプローチは嫌いじゃない。でも耳障りが良すぎる分、ディスカバリーやナショナル・ジオグラフィックのBGMに収まっちゃうんだよな。




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正妻と愛人との狭間で - Herbie Hancock 『Magic Windows』

7591 80年代コロンビア・ジャズ部門の一端をリードしていたのが、新伝承派のWynton Marsalis一派であり、その対極でアブストラクトなキャラクターを放っていたのがHerbie だった、というところまで前回書いた。今回はその続きから。

 70年代末からストリート・レベルで盛り上がってきたヒップホップは、80年代に入ってからしばらくはカウンター・カルチャーのポジションであり、当時はまだ知る人ぞ知る未知の音楽だった。「11PM」や「ポパイ」などで独自のファッションやライフスタイルは紹介されてはいたけど、まだ物珍しい時事風俗レベルの発信のされ方であって、肝心のサウンドが届けられることは少なかった。当時はまだ刹那的な流行りモノとして、あまり重要なムーヴメントと捉えられていなかったのだ。
 そんな怪しげな音楽にいち早く目をつけ、すでにこの時点でNYアングラ・シーンの中枢に鎮座していたBill Laswellとの出逢いが、Herbieの、そしてヒップホップの成功を決定づけた。当時、彼が率いていたMaterialのコネクションを総動員し、そこにHerbieが乗っかることによって、『Future Shock』、ていうか「Rockit」は大ヒットに至った。
 ここで重要なのは、すでに大御所であったはずのHerbieが、Billのサウンド・コーディネートにほとんど口を出さず、彼が集めてきた有象無象の新進アーティストに好き放題にプレイさせた点である。同じ頃、Miles DavisもHerbie同様、バックトラックを当時青二才のMarcus Millerに丸投げ発注している。ただ、Milesの場合は前回書いたように、あくまで信頼関係に基づくもの、「ジャズ」という共通言語をお互い理解していたからこそ可能だったわけで、Herbieの場合とはちょっと事情が違っている。『Future Shock』で奏でられたサウンドは、これまでのジャズの文脈とはひとつも当てはまらない、まったく異なるジャンルとのコラボである。
 普通なら「保険」として、ベーシックなジャズ・サウンドはそのままに、「何となく新味を盛り込みました」的に、スクラッチやシーケンス・ビートも申し訳程度しか使わないものだけど、Herbieの場合、その辺は徹底している。「エッセンスを取り込む」なんてレベルじゃなく、ベテラン自らが体を張って、別のジャンルに飛び込んじゃうんだからもう。
 ベテランのリアクション芸人が率先して体を張って笑いを取り、若手が中途半端なガヤ扱いで盛り上がりに欠けるシーンがバラエティでよくあるけど、あんな空気と同じものを感じる。
 前に出すぎるベテランは、扱いに困ってしまう。でも力技で笑い取っちゃうんだよな。

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 「Rockit」の成功は、数字で表せるセールス実績だけでなく、ひとつの「現象」、音楽の「世代交代」として、ヒップホップという新たなジャンルを広く世の中に知らしめる結果となった。Godley & Crèmeによる、マネキンやジャンク小道具を効果的に使ったPVもレトロ・フューチャー感を演出、お茶の間のテレビで何度もリピートされるほどの知名度を得た。ジャズ界ではすでに大物だったHerbieもまた、MTVでのヘビロテからポップ・チャートでのチャートインに結びつき、その後のボーダーレスな活動を行なう上で強力な後ろ盾となった。この後も同コンセプトでのアルバムを2枚リリース、そしてほぼ10年周期でテクノ~エレクトロニカ系の作品を手掛けるようになる。
 年功序列的にいえば、ジャズ界においては文句なしのレジェンド級、Milesを始めとしてあらゆる有名セッションをこなし、ソロ名義でだって数々の名盤をリリースしてきているのにでも、そんなHerbie、いわゆるオーソドックスなモード・ジャズのプレイは極めて少ない、珍しいキャラクターでもある。
 デビュー作の「Watermelon Man」然り、ヒップホップ以降、方々でサンプリングされまくった「Cantaloupe Island」然り、よく聴いてみると、セオリー通りの4ビートではプレイしない人である。本人のルーツとして、カリプソやラテンがバックボーンにあることは想像できるけど、フォーマットに沿った「ジャズ」とは無縁なのは昔からである。

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 Milesクインテット以降は、フェンダー・ローズを思いっきりフィーチャーした『Head Hunters』を発表、ジャズ・ファンク~フュージョンのオピニオン・リーダーとなった。なったのだけど、総合チャートにランクインするほど売れまくった『Head Hunters』のイメージで固定されることを嫌ったのか、はたまたポップ・チャートの魔力に取りつかれたのか、次第にヴォーカル・パートの割合が激増、ディスコ~ブラコンに手を染めるようになる。
 「ヒットチャートに魂を売った」的な声も内輪から上がったこの時期の作品は、今でこそ90年代以降のクラブ・シーンからのリスペクトもあって、一定の評価もされてるけど、チャラ路線と思われていたことも確かである。どうひいき目に見たって、メインストリームのジャズからは大きく逸脱しているし、Herbieのクレジットがなければ、単なるソフトR&Bである。
 ただHerbie側に立って考えてみると、ディスコ/ファンク一色に塗りつぶされた70年代後半のミュージック・シーンにおいて、新しモノ好きな彼がそこに食いつくのは、ある意味必然だった。前回のBranford Marsalis のレビューでも書いてるけど、ジャズの発祥並びに成長過程において、「ダンスビート」という要素を切り離して考えることはできない。特にHerbieのような、時代の趨勢に目ざといアーティストならなおさらである。
 まぁ当時「愛のコリーダ」でブイブイ言わせてたQuincy Jonesへの嫉妬というか、対抗心もあったんだろうけど。

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 ポップスターのポジション獲得のため、手段を選ばなかったHerbie、挙げ句の果てにはQuincy のプロダクションを丸ごと引き抜いてアルバムを作る(『Lite Me Up』)など、結構エグい手を使ったりもしている。ただ、そこまでしても『Head Hunters』を超える鵜セールスを上げることができなかった。
 才気走った感情の赴くままに作った作品が、思いのほか大ヒットして、いざ体制を整えて本腰を入れた途端、「売れ線に走った」と酷評される始末。なかなか難しいものだ。
 とは言ってもHerbie、その辺の空気を読む力は健在であり、ディスコ路線ばかりやっていたわけではない。あくまで本業あってこそのHerbie Hancockであることを自覚していたのか、メインストリーム路線もちゃんと押さえており、この時期はMilesバンドの同窓会的プロジェクトVSOPと並行して活動している。本妻と愛人宅とを行き来するかのように、どちらの家庭にも目配りを怠らないのは、マメな男の証左である。当然、ジャズ村界隈ではこっちの路線の方が高く評価されており、しかもセールスもそこそこ高かった。
 やっぱり本妻は、それだけ強いのか。

 そんな事情もあって、「愛人宅でのお戯れ」「羽を伸ばして趣味に走った」時期の作品として位置づけられているのが、この『Magic Windows』。しつこく、とにかく執拗に続けてきたポピュラー路線は、思うような結果を出せず、何をどうやっても空振りが続いた。もうこの辺になると方向性がグダグダで、はっきり言って迷走状態である。Herbie Hancockというエクスキューズがなければ、キッチリ作り込んだブラコン・サウンドとして、もうちょっと売れたかもしれないくらい、ちょっとかわいそうな作品である。
 ただ逆に考えれば、外部でのお戯れによってストレス発散ができ、それが功を奏して、本業において会心の出来のモダン・ジャズがプレイできた、という見方もできる。ブラコンあってのVSOPか。なんか微妙な持ち上げ方だな。
 もともと器用な人ではあるけれどしかし、「好きこそ物の上手なれ」という風にいかないのは、何も音楽に限った話ではない。「下手の横好き」って言葉もあるしね。
 そんな空振り状態解消のためのテコ入れなのか、『Magic Windows』は後にも先にもないくらい、ゲスト・ミュージシャンが豪華である。多分、一気にレコーディングしたんじゃなくて、断続的なセッションをひとまとめにしているのだろう。それにしてもこれだけ幅広いメンツを集められるのは、さすがレジェンドである。これだけミュージシャン・クレジットが豪華なのは、あとはSteely Danくらいしかいないんじゃないかと思われる
 Ray Parker Jr.とAdrian BelewとWah-Wah Watsonのプレイを、一枚でまとめて聴けるアルバムなんてまずないので、そういった幕の内弁当的オールスター・メンツを一度に堪能できると考えれば、十分お得、コスパ的にも優秀なアルバムである。何かスーパーのまとめ買いみたいな言い回しだな。
 ちなみにリリース当時のチャート・アクションだけど、ビルボード最高では140位。R&Bチャートでは40位、ジャズ・チャートでは13位にランクインしている。なんだかんだ酷評してたはずなのに、さすがは保守的なジャズ・ユーザー、きちんと買い支えてる。
 やっぱ彼らにとってHerbieって、何やってもジャズ扱いなんだな。


Magic Windows
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1. Magic Number
 有名どころとして、Ray Parker Jr.がギターで参加。アラフィフの俺でさえ、彼の印象と言えばゴーストバスターズだけど、もともとはファンク・バンドRaydio出身、ソロに転じてからもStevie WonderやBoz Scaggsのバックを務めていた職人肌の人である。それがどうしてあんな色モノに転じてしまったのやら。
 この頃はまだいわゆるセッション・ミュージシャンとしてのカラーが強く、オーソドックスなカッティング・プレイに徹している。ネームバリューに頼らない堅実なリズムの上で、ディスコやらカリプソやら技を繰り出すHerbie。まぁジャズには聴こえないな。

2. Tonight's the Night
 初っぱながインパクト勝負過ぎたバランスなのか、2曲目はオーソドックスなブラコンでまとめている。ヴォーカルのVicki Randleは当時のフュージョンでは引っ張りだこの人気だった人で、すごく上手いのにソロ作がないのがむしろ不思議。Randy Crawfordほど下世話だったら、もっとフィーチャーされてもおかしくなかったほど、惜しいヴォーカリストである。引っかかりが少ないのかな。
 ここでのスペシャル・ゲストはMichael Brecker、正直、あまり見せ場の少ない無難なプレイである。時期的に脂の乗り切ったプレイを見せてもおかしくないのに、何で弾けきらないのかと思ってクレジットを見たら、なぜかドラムがRay Parker Jr.、ベースはHerbieというリズム・セクション。何だそりゃ。

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3. Everybody's Broke
 「Money」をパクったようなキャッシャーのエフェクトから始まる、ボトムの効いたどファンク・チューン。ヴォーカルのGavin ChristopherはかつてRufus周辺で活動していた人で、いい意味で下品な泥臭さがファンクネス指数を爆上げしている。ブイブイ響くベースを奏でるLouis Johnsonも、もともとはBrothers Johnsonで弾いていた人で、後にMichael Jacksonに引き抜かれて『Off the Wall』~『Dangerous』で名を上げることになる。
 なので、ほぼディスコ・ファンクがベースで、Herbieはほとんどエフェクト的扱い、変な音担当としてシンセを操っている。リーダー・アルバムなのに存在感が薄い、寛容の心の持ち主ではある。

4. Help Yourself
 カッティングのリズム感がガラッと変わったと思ったら、Al McKayだった。ご存じEarth,Wind & Fireの中心メンバーである。Alが加わったことによって、サウンドは一気に洗練され、さっきまでベッタベタなファンクっぽさを前面に出していたLouisも、ここではオーソドックスなソウル・ヴォーカルである。それとも、これが本質なのかな。
 Herbieのプレイはすでに『Future Shock』以降の音になっており、やはりヒップホップというエッセンスは重要だったんだな、と確認できる。しかし再登場のMichael Brecker、もうちょっと顔出せよ。それとも、吹きまくったけどカットされちゃったのかな。



5. Satisfied with Love
 もっとエコーが強ければ、まんま80年代のブラコンそのものだけど、エフェクト系は抑え気味なので、今だったら逆にこの程度の響き具合の方が馴染むかもしれない。なので、歌もサウンドの一部として溶け込んでおり、いい感じのフュージョンにしあがっている。ドラムのAlphonse Mouzonは70年代Herbieのアルバムでも出席率が高く、いわゆる「あ・うん」の呼吸のアンサンブルである。この辺の曲は、もうちょっとまとめて聴きたかったな。



6. The Twilight Clone
 最後は飛び道具的なキャスティングのAdrian Belewとの共作。時期的にはまだKing Crimsonとの合流前であり、多分にTalking Head 『Remain in Light』にインスパイアされて作られたものと思われる。しかしリスペクトするのに必ずキーパーソンを引っ張ってくるというのは、相変わらずの荒業である。
 ほぼパーカッションで構成された曲であり、Herbieは何となく「らしい」コードを押さえるくらいで、特別目立ったプレイを見せているわけではない。70年代ジャズ・ファンクの進化形とアフロ・アンビエントとでも形容すべき楽曲は、やはりHerbie独自の視点である。
 思えば5.と6.でそれぞれ1枚ずつアルバム作っていたら、後世の評価もまた変わっていたかもしれない。そこを素直にやらず、「とにかくポップスターになりたいんだ」というあさってのベクトルが、さらに泥沼にはまるきっかけとなる。




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二番煎じと片づけるには、もったいない。 - Herbie Hancock 『Sound System』

folder 前回のMilesに続き、1980年代前半のジャズ・シーンについて。大きな流れとしては、70年代フュージョンの流れを汲んだ、いわゆるコンテンポラリー・ジャズ。もう一つは温故知新的な新伝承派を中心としたアコースティック回帰の流れ。他にも傍流は数々あるけれど、すごくザックリ分類すると「電化と非電化」。乱暴だよな、自分で言っといて。
 で、当時のHerbieが何をしていたのかというと、電化といえば電化だけれど、ジャズのメインストリームから大きく外れた『Future Shock』バブルを謳歌していた。以前のレビューでも紹介した、「お茶の間ヒップホップ」の先駆けとして、ジャズの人脈、しがらみとはまったく関係のないところに軸足を置いていた。

 30年前の北海道の中途半端な田舎の中学生にとって、ラジオでもほぼかかることのない「ヒップホップ」という音楽は、未知なる存在だった。実際の音楽よりむしろ、テレビの海外ニュースからのピックアップ、時事風俗的なカルチャー面の情報の方が先立っていた。
 ニューヨークから発生した黒人カルチャーとして、「複数のターンテーブルを使って、レコードの音をつなげたり直接擦ったりしているらしい」「デカいラジカセを肩に抱えてアディダスのジャージで踊ったりしてるらしい」「メロディはほとんどなく、語りや叫びなど、歌とはいえない」など、興味本位の情報ばかり発信されていたけど、肝心の音はほとんど紹介されなかった。実際の「音」よりも「行為」「ファッション」の方ばかりが喧伝されたため、日本のヒップホップ・カルチャーは諸外国に比べて大きく遅れを取ることになる。

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 現代と違って、外国人と触れ合う機会がほとんどなかった30年前の日本において、ガタイが良く強面の黒人たちが、語気を荒げて早口の英語でシャウトする音楽を受け入れる土壌は、まだ整っていなかった。オールドスクール期のヒップホップは、まだニューヨークのストリート・カルチャーの域を出ておらず、ブレイクダンスに端を発する目新しモノ好きが飛びつくことはあったけれど、マスへ広く波及するほどのまとまった力はなかった。ムーヴメントとして結集するほど横のつながりも少ない、ニッチなジャンルだったのだ。

 で、そんな中。保守的なジャズ界の中での革新派、すでに70年代後期からファンク~ディスコ~R&B寄りの作品を続けてリリースしていたHerbieが、そのヒップホップを大々的に導入したアルバムを制作したことで、一気にお茶の間レベルにまで浸透することになる。ネームバリュー的に、彼クラスの大御所が取り上げることによって、レコード会社・メディア、特にMTVも大々的にピックアップするようになる。
 これが普通の大御所だったら、「ご乱心」だの「若手に媚びた、すり寄った」だの、ボロクソにこき下ろされるのだろうけど、多くのファンは彼の新展開を歓迎した。まぁ保守的なジャズ村界隈では、多少そういった意見もあったようだけど、それまでの彼の足跡をたどっていくと、「まぁHerbieならそれもアリか」と納得してしまう。そういった大御所なのだ、Herbieとは。

 もともとこの人、音楽フォーマットとしてのジャズへの執着は相当薄い。いや違うな、既成スタイルとしてのジャズに固執していない、というべきか。あらゆる他ジャンルの音楽を貪欲に取り込んで、ジャズの可能性を広げてゆくことに生きがいを感じている人である。キャリアのスタートこそDonald Byrdの後押しによるブルーノート本流を歩んでいたけど、Milesスクールに加入したあたりから他ジャンルとのハイブリットを志向するようになる。ていうか、通常のハード・バップ・スタイルだけじゃ帝王が満足しないんだもの。必死になるわな、そりゃ。
 で、ファンクのエッセンスを導入、ほぼファンクだらけの『Head Hunters』を経てディスコへ走り、メインストリーム・ジャズでは目立った実績のないQuincy Jonesに敵意を剥き出しにしたようなR&Bアルバムを制作したり。前回レビューした『Lite Me Up』なんて、ほぼQuincyのプロダクションそのまんまだしね。

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 ただMilesと彼との大きな違いは、どの活動時期においてもファンク一色/ジャズ一色じゃなく、必ずサブ/メインのファクターを用意していること。ヘッドハンターズ期にも必ずアコースティック・セットはプレイしていたし、ディスコ~R&B期にも並行してV.S.O.P.の活動も行なっていた。ジャズとしての軸足は確保した上で、他ジャンルへ首を突っ込むのが、彼の行動指針である。その辺は師匠Milesの70年代ジャズ・ファンク期を傍目で見ての反面教師なのか、それとも単なる営業政策上のことなのか。多分、どっちもだろうな。

 「既成のジャズに捉われたくない」「ジャズをぶち壊す」と称し、他ジャンルの要素を取り入れるアーティストは、何もHerbieに限った話ではない。またジャズだけのものでもない。どの時代・どのジャンルにおいても、既存フォーマットの中だけでは十分な表現ができず、多方面からのリズム/コンセプトを借用して咀嚼するアーティストは多い。
 とはいえ、あらゆる試行錯誤を経て仕上げてはみたものの、「今までより変わったコード進行かな?」、または「リズムがボサノヴァっぽいね~」など、ちょっとわかりづらいマイナーチェンジ程度で「新境地」と謳ってしまうアーティストの多いこと。演じる人間は変わらないのだから、もっと根本的なところ、スタッフを総取っかえしてしまう、または自らが身ひとつで別の環境へ飛び込むくらいの覚悟が必要なのだ。

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 なので、『Light Me Up』においてQuincyの作曲ブレーンだったRod Tempertonを抱き込んで、ほぼそのまんまのアルバムを作ってしまったのは、ジャズのコンテンポラリー化としては正しい。そのジャンルを極めるには、旬のスペシャリストと仕事をするのが手っ取り早いのだ。まぁあまりにもQuincyのコンセプトにクリソツなのは、それってちょっとどうなのよ、と思ってしまうけど。
 この一連のヒップホップ3部作でがっちりタッグを組んでいるのが、ニューヨークのアングラ・ライブ・シーンにおいて、ミクスチャー・バンドのハシリであるMaterialを率いてきたBill Laswell。今も相変わらず世界中のオルタナ・シーンで名前を聞くことが多く、それでいながらMilesやSantanaなどのアーカイヴ・リミックスを手掛けたりなど、何かと幅広い活動を続けている人である。
 彼にとってもこのHerbieとのコラボが出世作となっており、キャリア的にもメジャーへの分岐点となった作品となっている。何かと多才な人なので、多分Herbieと組まなくてもそのうちメジャーには出てきていただろうけど、ここまでオーバーグラウンドな展開ではなかったはず。例えればJohn Zorn的なポジションで終わってたんじゃないかと思われる。

 Milesとの相違点として挙げられるのが、カリスマ性の有無。まったくエゴがないわけじゃないけど、Milesほどの「俺が俺が」感がこの人からはあまり感じられない。いや、イイ意味でだよ。
 アドリブやインプロのフレーズにしろ、Herbieならではの展開や節回しはあるし、記名性も強いのだけれど、自分がフロントで出張るようなゴリ押し感は少ない。アンサンブルやサウンド・コンセプトを重視するする人であって、クオリティの追及のためには、一歩も二歩も身を引いてしまう。V.S.O.P.プロジェクトを聴けばわかるように、白熱のソロ・プレイやインプロビゼーションなどはお手の物だけど、それを全編に渡って演ることには、あまり興味がない。その辺はMilesと似てるよな。
 セッションにおいて、絶対君主的な立場で現場を仕切っていた復活前のMilesに対し、Herbieの場合、下手するとサウンド・メイキングはほぼ丸投げにしちゃってる作品も多い。前述のR&B期も、ただキーボードを弾いてるだけのトラックもあり、誰のアルバムだかわからないモノもあるし。あ、それってQuincy的なメソッドなのか。

Herbie_Hancock-Sound_System_(1999)-Trasera

 わかりやすいほど、もう開き直ったんじゃないかと思ってしまうくらい、堂々とした二番煎じのアルバムである。そりゃ前作と参加メンバーはほぼ一緒、ヒップホップ・ベースのジャズ・ファンクという路線もまったく同じ。なので、『Future Shock 2』、またはアウトテイク集と位置付けても違和感はない。3枚目?さすがに出がらしだよね、あそこまで行っちゃ。
 チャート・アクション的には、前回のビルボード43位からちょっと落ちて71位、プラチナ獲得まで行ったセールスも、今回は無冠となっている。そうは言っても彼にとって2作目のグラミー受賞作となっており、なぜか日本では、前作と変わらずオリコン最高51位をキープしている。まぁ、『Future Shock』の勢いで売れてしまった、という面はあるのだけど。
 あまりにあからさまな2匹目のドジョウなので、正直、不当と言っていいくらい影が薄い。薄いので存在すら忘れられており、今をもって真っ当な評価を受けられずにいる、そんな可哀そうなアルバムである。
 2作目のプレッシャーよりはむしろ、ヒットによる恩恵の方が多いアルバムである。レコーディングにかけられる予算も増え、タイトなスケジュールではあったけど、Laswellのスタジオ・ワークは丁寧に作り込まれている。バンド自体もコミュニケーションが取れてきて、アフリカン・リズムのアプローチなど、楽曲的には前作より面白くなっている。時代を感じさせるオーケストラ・ヒットやスクラッチなどで見えなくなりがちだけど、根幹の楽曲レベルは、前作よりこなれてきている。

 Milesを創造者=イノベーターとするのなら、Herbieの場合、時代のトレンドをいち早く取り込んで紹介するキュレーター的なスタンスと捉えればスッキリする。もし『Future Shock』がBill Laswell/Material名義でリリースされたとしても、一部の先進的な音楽メディアはフィーチャーするだろうけど、所詮は時代のあだ花として、NYアンダーグラウンドの時代風俗のワンシーンとして消費され、ここまでの盛り上がりは見せなかっただろう。
 敢えて自分のミュージシャン・エゴを抑え、ジャズ・レジェンドとしてのネームバリューを最大限に活用したこと、それによってヒップホップ・カルチャーを広く知らしめた功績は、もっと評価されてもいい。
 若手の才能にうまく乗っかった、という見方もできなくはないけど、それも大ヒットしたゆえの功罪であって、Herbie本人も正直ここまで売れるとは思ってなかっただろうし。
 特にこの『Sound System』、せっかくの二番煎じなのに、ジャケットもキモかったしね。


Sound System
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1. Hardrock
 シンセのフレーズはまんま「Rockit」。アウトテイクというか別ヴァージョンと思えば、まぁ納得。これだけ短いスパンで自己模倣したというよりは、別ミックスと捉えた方がスッキリする。その「Rockit」よりはビートが強く効いており、タイトル通りギターのディストーションも深い。なので、Herbieの存在感は薄い。エレドラが前面に出たミックスは、Herbieをダシに使ったLaswellの好き放題からくるものか。妙にジャストなリズムのスクラッチは、いま聴くと逆に違和感が強い。きっちりジャストなリズムっていうのもね。



2. Metal Beat
 ほぼリズムで構成されている、インダストリアル・サウンドが中心のナンバー。なので前半、Herbieの存在感はほんと薄い。カリンバっぽい響きのアフリカン楽器的な音色のDX7を奏でるところで、やっと「あぁいたんだね」と気づかされる。

3. Karabali
  続いてこちらもアフロ・ビートとコーラスを前面に押し出した、当時のLaswellの趣味全開のスロー・ファンク。この時期にしては珍しくメインストリーム的なスタイルでHerbieがプレイしている。そこにアフロ・テイストとWayne Shorterのソプラノ・サックスがミスマッチながら絶妙なコントラストを醸し出している。こういった発想、ジャズ内部からは出てこないものね。やっぱりリズムが立ってるからこそ、ベテラン2名のメロディが引き立っている。
 言っちゃ悪いけど、このアルバムに入ってるのが惜しいくらい、特にShorterにとってのベスト・プレイのひとつに入るくらいの出来ばえ。



4. Junku
 1984年開催ロサンゼルス・オリンピックの公式アルバムにも収録された、ヒップホップ色を薄めたライトなファンク・チューン。当時のヒップホップはアングラ・シーンの色が強かったため、このくらい希釈しないと受け入れられなかったのだ。まぁわかりやすい万人向けの「Rockit」といったところ。アコギの音を模したようなシンセ・ベースが爽やかさを演出しているのだろうけど、作り物を無理やりナチュラルに見せようとしてるのが、逆に気持ち悪い。後半の取ってつけたようなスクラッチも微妙。

5. People are Changing
 1973年リリース、ビルボードR&B最高23位まで上昇した、Timmy Thomasのカバー。ここでメイン・ヴォーカルを取るのは、前作「Future Shock」ではバッキング扱いだったBernard Fowler。一般的なロック好きにとっては、Bill Wyman脱退後のStonesのベーシストといった方がわかりやすい。もともとはヴォーカルがメインだったのだ。
 曲調としては、ファンクというよりはAOR的なロック寄り。楽曲自体の良さもあるけれど、アングラ・シーンでの活動が多かったLaswellも、こういったオーセンティックなサウンドも操れることが証明された1曲でもある。こういった積み重ねが後のMick Jaggerらとの仕事に結びつくことになる。

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6. Sound System
 ラストはタイトル・ナンバー、こちらもバックトラックはほぼ「Rockit」、シーケンス・ビートをベースとして、エフェクト的に薄くかぶさるシンセ、時々アクセント的にデカく響くオーケストラ・ヒットとの波状攻撃は、聴いてて疲れるよな。これでも当時は目新しさの方が先立っており、各界に衝撃を与えたのだ。
 注目すべきは3分半以降、当時、ジャズ本流からは逸脱してジャンルレスな活動をしていた近藤等則がトランペット・ソロを取っている。70年代Miles的にワウワウで変調された音色と痙攣するようなフレーズは、機械的なビートにも充分渡り合っている。ここでデジタル・ビートに飲み込まれないためには、Miles的なメソッドが必要だったのだろうし、また、そのデジタルを凌駕できるトランぺッターは、当時は近藤しかいなかった。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。ただでさえ時間ないのに、また新しい音楽ブログ『80年代の歌謡曲のアルバムをちゃんと聴いてみる』を始めてしまい、どうしようかと思案中。
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