好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Elvis Costello

コステロさん、ビートルズっぽくやってみる。 - Elvis Costello 『Imperial Bedroom』

 というわけではないけど、もう一回ちゃんと聴いてみようと思い立ち、実際聴いてみた。当初は最新作『Look Now』との関連性がどうした、とか半分アラ探し・ネタ探し的な向き合い方だったのだけど、しばらくぶりに聴いてみたら「アラ案外いいじゃないの」と見方がコロッと変わってしまった。コステロに限らず、しばらく振りに昔のアルバムを引っ張り出して聴いてみると、たまにこんなことがある。
 前回もチラッと触れたけど、コステロ7枚目のオリジナル・アルバム『Imperial Bedroom』、UK6位US30位を記録している。必要以上に地味で、必要以上に老成したカントリーのカバー・アルバム『Almost Blue』さえ、UKゴールドを獲得しているにもかかわらず、それすら届かなかったアルバムである。
 実際、聴いてみると中期ビートルズからインスパイアされたと思われるサウンドは、丁寧で手が込んでおり、気合いの入りようが伺える。ただリリース当時は、コステロのコア・ユーザーに、そんな混み入ったスタジオ・ワークの意図が伝わらず、何となくスルーしてしまった感が強い。

 あくまでザックリした分類だけど、ファンの中では、デビューからこのアルバムまでが、初期コステロとして位置づけられている。『Punch the Clock』以降からワーナー移籍までが第2期、でワーナー時代が第3期というカテゴライズになっている。その後、ユニバーサル移籍から現在に至るまでが、何となく第4期といった感じ。
 で、その第1期をさらに要約してみると、『Armed Forces』までが、初期衝動に突き動かされたパワーポップ・テイストのパブ・ロック、続く『Get Happy』では、モータウンからビートルズから、過去に影響を受けたR&Bへのリスペクトをあらわにし、『Trust』でニューウェイブ色を一掃して中堅アーティストの仲間入り、その後は直球ストレートのコンテンポラリー路線を目指すのかと思ったら、何をとち狂ったか単身アメリカへ乗り込んで、問題作『Almost Blue』でのカントリー回帰、そして吹っ切れた末の『Imperial Bedroom』、といった流れになる。
 こうして書いてみると支離滅裂だけど、コステロ自身の中では、多分筋は通ってるんだろうな。
 いや、ないか。

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 なにゆえ今さらここに来て、40年近く前のアルバムをフィーチャーしたツアーを行なったのか。Bruce SpringsteenもStevie WonderもSteely Danも井上陽水も、過去の名作の再現ライブを行なっているけど、選ばれているのはいずれも好セールスを記録したアルバムばかりである。
 正直、『Imperial Bedroom』は彼の代表作ではない。セールス基準で行けば、選ばれるのは『Spike』あたりだろうし。
 会心の出来とは言いがたいけど、でも大コケしたほどの失敗作でもない。一般的に名作の基準となっている、ローリング・ストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」では166位にランクインしており、評論家筋からの再評価はされているのだけど、でもファンの間では何となくスルーされがちである。
 当時はあまり高い評価は得られなかったけど、年月を経てクオリティの高さが再評価されたということなのだろう。考えてみれば、彼の数あるディスコグラフィーの中では、最もライブ感の薄いアルバムである。
 なので、返して言えば、ライブ向けにアレンジするには、最もやり甲斐があるのも、このアルバムである。他のアルバムで再現ライブをやろうとしても、通常営業のセットになってしまうため、あまり面白くない。
 いっそ極端に、オーケストラを率いてシンフォニー・アレンジにしちゃうの手だけれど、まぁしないわな。「Watching the Detectives」のストリングス・ヴァージョンなんて、どこからも需要なさそうだし。

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 とはいえ、デビューからずっとアトラクションズと一蓮托生でやってきたのだから、たまには凝ったアレンジを試したくなったり、ストリングスやホーン、女性コーラスを入れたゴージャスなサウンドに憧れたりするのは、それはそれで自然の流れである。日々書き溜めてきた作品の中には、4ピースのバンド・サウンドにはそぐわないものも、どうしたって出てくる。
 楽曲にフィットしたサウンドを得るため、後のポップ・スター路線やクラシックへの接近、ヒップホップの大胆な導入も、そういう考えで言えば、筋が通っている。すべては楽曲ありきなのだ。
 アトラクションズとのプレイを前提としたサウンド・メイキングに行き詰まりを感じたコステロ、ここでは中期ビートルズのスタジオ・ワークを司ったジェフ・エメリックにプロデュースを委ねている。ここまでのキャリアからすれば、突然変異的なキャスティングだけど、こういった試みは何もコステロに限ったことではない。
 同じくニューウェイブで括られていたPoliceは『Ghost in the Machine』で大々的にシンセを導入し、Joe Jacksonはジャズやラテンなど、違うジャンルの音楽性に活路を求め、『Night & Day』でひとつの到達点を迎えた。パンク第一世代のClashやJamも、直情的なロックンロールには収まりきれない雑多な音楽性を志向していた。
 ほぼ同時多発的に、真摯にクリエイティブな音を志向するアーティストにとって、「ロックはダセェ」という価値観が芽生えていたのだ。

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 せっかくなので、『Imperial Bedroom』を主軸に置いた、去年のツアー音源を入手して聴いてみた。一部はYouTube にも映像がアップされているけど、スマホでの撮影がほとんどのため、遠いアングルなのは仕方ないにしても、大抵音も割れててあまり良くない。しかも1曲単位の細切れ動画しかないので、全貌が掴みづらい。
 なので、どうしてもフルセットの音源が聴きたかったため、大声では言いづらいルートから入手した。あんまり推奨はできないけど、ブート関連で検索すれば、簡単に見つけることはできる。興味がある方はご勝手に。
 再現ツアーと銘打ってはいても、1曲目から通しで演奏するのではなく、ランダムに組み合わせて時々代表曲を挟む、といった構成になっている。基本、ライブではあまり演奏されて来なかった楽曲が多いので、コアなファンからすれば、レア曲揃いでウケがいいんだろうけど、ビギナーにはちょっと着いて行きづらい流れかな。なので「Accident Will Happen」など、知名度の高い曲も時々織り交ぜている。
 もともと『Imperial Bedroom』、ライブでの再現を前提としないサウンド・メイキングだったため、盛り上がる要素の多い初期楽曲と比べると、キャッチーなメロディやフックはちょっと弱い。そんなハンデを背負いながらも、ライブ向けにバランスの良い構成にすることによって、きちんとエンタテインメントとして成立させている。この辺は、コステロを始め、メンバーらの成長に依る部分も多いのだろう。

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 このアルバムを製作するにあたり、コステロはこれまでのギターによる作曲から、初めてピアノにコンバートしている。そのせいもあって、これまでの8ビート主体のロックとは趣きが違っている。
 これまでとは違うメソッドの使用によって、つい出てしまいがちなギターの手癖が抑えられ、これまでとは違うコード進行や展開が可能になった。スタジオ・ワークを重視したレコーディング作業は、これまでのラフなヘッド・アレンジから一歩進んで、より緻密なサウンド・メイキングが可能になった。
 エメリックとのコラボで培った、ギター・ポップにこだわらないサウンド・メイキングは、後の『Spike』や『All This Useless Beauty』でも活かされることになる。逆に言えば、ここで得たスキルは、すぐ成果には繋がらなかった。当時のコステロやアトラクションズらでは、このサウンドに応じた表現力・演奏スキルが至らなかったせいもあるだろうし。
 じゃあ、コレをもっとわかりやすく、キャッチーな方向性でやってみたら、どうなるだろうか?トップ40ナンバーと並べても遜色ない、売れ線のサウンドにしてみたら。
 そんな感じで色気が出てしまったのが、その後のポップ・スター時代ということになる。本人的には気合いを入れてやったはずだし、俺世代としては、むしろこっちの方が好みだったんだけど。


Imperial Bedroom
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1. Beyond Belief
 てっきりシングルかと思ってたのは勘違い。生まれて初めて買ったコステロのベストに収録されていたので、俺の中では知名度の高い曲である。ストレートなロックンロールかバラードの二択だったサウンド傾向に当てはまらない、なんとも不思議な味わい。スパイ映画のサントラみたいなイントロのベースが印象的。
 終始クレバーに徹するヴォーカルと演奏、だけど後半に差し掛かった頃、Steve Nieveのオルガンが炸裂するのを皮切りにカオスさが増してゆく。考えてみりゃ、シングル向きじゃないよな、これ。なんでベストに入ってたんだろうか。



2. Tears Before Bedtime
 レゲエ・ビートを使った軽めのポップ・チューン。英国人がレゲエを扱うと、大抵重たくなる傾向があるのだけど、ちょっとソウル風味のコーラスも入った肩の力の抜けよう。初期ヴァージョンはもっと店舗を落としたカントリー・ロック風でまとめており、こっちはこれでイイ感じ。で、去年のライブはもっとスローになって、ゴスペル・タッチのドラマティックなバラードに変貌している。

3. Shabby Doll
 『White Album』期のJohn Lennonがマジメにレコーディングしたら、こんな感じに仕上げただろうロッカバラード。コステロが絶賛したように、ここでのBruce Thomasのベース・プレイ、ブレイクを効果的に使って緊張感をうまく演出している。
 
4. The Long Honeymoon
 ランバダを思わせるアコーディオン・ソロから始まるポップ・バラード。キーとテンポを下げると『Spike』に入れても違和感がなさそう。すでにこの時代から、ロック以外の可能性を模索していたのかしら。

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5. Man Out of Time
 Dylanっぽい歌い方でスタートする、コステロ史上最も凝りに凝ったサウンド。自分なりの解釈による「俺的A Day in the Life」なのだろうけど、UK最高58位とあまり受け入れられなかったことは、コステロの野心を挫いたことだろう。ラウドなロック・サウンドを冒頭とエンディングに使い、大半を中期ビートルズ的ソフト・サウンドという展開は、当時としては冒険だったのだろう。
 初期ヴァージョンはそのラウド・サウンドで全篇通しており、これはこれで荒ぶる感じがバンド・イメージを象徴しているのだけれど、まぁアルバム・コンセプトにはちょっと当てはまらない。むしろシングルのみの別ヴァージョンでリリースしていれば、世間の反応もちょっと違ってたかも。



6. Almost Blue
 なんでこの曲がこのアルバムに入ってるのか、いまだによくわからん。そう思ってるのは、俺だけじゃないはず。前のアルバムのタイトル・チューンが収録されている。ここまではギリギリわかる。でも、本来ならメインとなるべき「Imperial Bedroom」という曲があるにもかかわらず、こちらはアルバム未収録となっている。どうなってんだこりゃ、と思って「Imperial Bedroom」を聴いてみたら、なんか腑抜けしたワルツでピント来ない曲だった。これじゃ「Almost Blue」の方が出来はいいよな。でもなんでこの曲が…(以下無限ループ)。

7. ...And in Every Home
 エメリックのプロデュース・ワークが強く反映された、コステロ版「Magical Mystery Tour」。先に書いた「Imperial Bedroom」をボトムアップして本気で取り組んだら、こんな感じに仕上がる。そう考えると、「Imperial Bedroom」が叩き台となった、と考えればよいのかな。

8. The Loved Ones
 エメリックとコステロとのバランスが最も良いバランスで形になったのが、このパワー・ポップ・チューン。「Help!」期ビートルズのビート・バンド的エッセンスのコステロと、ほど良いデコレーション・スキルを持つエメリックとの嗜好がうまくシンクロしている。
 昨年のツアーでもオープニングで演奏されており、ノリの良さとオーディエンスのつかみはOK的な楽曲。

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9. Human Hands
 ヴォーカルのキーが高いので、初期コステロ色が強い。歌心のあるBruceのベース・ラインは聴き入ってしまう。性格には難があって袂を分かつことになった彼だけど、考えてみればアトラクションズはみんな英国人、みんなひと癖ふた癖あるに決まってる。

10. Kid About It
 明らかにこれまでとは文脈も作風も違う、メロディ・ライクなナンバー。こういう曲まで無理やりアトラクションズ単体でやるには、そろそろ限界だったんだろうな、作家性としては。リヴァーブ多めのサビ部分なんかは、すっかりAORシンガー。別名義でシングル切ってもよかったんじゃないか、と思うのは今さらヤボだね。
 デモ・ヴァージョンは、シンプルなバンド・アンサンブルはまぁいいとして、コステロのヴォーカルが探り探りといった印象。ちゃんとプロデュースされたサウンドでこそ活きる曲なのだ。その後は、こういった性質の楽曲が増えてゆく。

11. Little Savage
 軽めのR&Bタッチなので、むしろ『Get Happy』の方がうまくハマっている。なんで入れちゃったんだろうね?昨年のツアーまで、ライブではほとんど演奏されていないし、しかもやったりやらなかったりで、扱いにくい曲なのかもしれない。
 デモ・ヴァージョンは、やたらオルタナ的なラフなセッション風。うまくまとめづらかったのかね。

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12. Boy with a Problem
 10.同様、バンド・サウンドでは表現しづらい楽曲。実際、この曲も去年まではほとんどライブでは披露されていない。年月を経て、ワーナー時代ならもっとうまく広げられたんじゃないかと思われるけど、当時はコステロもNieveも若すぎた。

13. Pidgin English
 2タイプの曲を強引につなげた「Man Out of Time」と比べて、素直にコステロとエメリックとの意図が合致したのが、これ。ポップ性と疾走感とが同居して相乗効果を生み出している。間奏のアコギ・ソロが何気にいい味出している。
 去年のライブ・ヴァージョンはImpostersよりのアレンジになっているので、これは逆にスタジオ・ヴァージョンの方が的を射ている印象。

14. You Little Fool
 昔だったら勢い一発で片づけていたのを、きちんと段取り付けたプロダクションで組み立てると、こんな感じのヒット性を併せ持ったパワー・ポップに仕上がるといった典型。でもシングルはUK最高52位。時代的にはちょっと早すぎた。
 デモは簡素なアレンジで、初期ビートルズっぽい。このままバンド単体でレコーディングしたら、いつものコステロで終わっちゃったんだろうな。

15. Town Cryer
 ラストでこんないい曲を持ってくるとは。ベタなストリングスも気にならない楽曲の腰の強さ。オーケストレーションがかなり強く入っているけど、コステロのヴォーカルの見事さが、イージー・リスニングに陥らずに食い止めている。Paul McCartneyならもっとロマンティックになりがちなところを、オンリー・ワンのコステロ・サウンドとして構築している。
 ここで方向性をつかんだはずだったのに、当時のマーケットの反応は薄かった。ポップなセンチメンタリズムを獲得したコステロはその後、マスに寄り添ったアーティスト戦略を図ることになる。



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大人になった(風を装う)コステロ - Elvis Costello 『Look Now』

folder 何かと物議を醸したヒップホップ・ユニットRoots とのコラボ・アルバム『Wise Up Ghost』 以来、5年振りのオリジナル・アルバムとなる。さらに遡ってImposters名義だと、『Momofuku』以来10年振り。さらにさらに、その10年の間にリリースされた『Secret, Profane & Sugarcane』と『National Ransom』はソロ名義、しかも思いっきりレイドバックした、マジのカントリー・アルバムだった。どちらも通好みの趣味性が強いアルバムなので、きちんと商業性を意識したアルバムというのは、ずいぶん久し振りということになる。
 特にこの5年、まとまった新作はなかったのだけど、だからといって隠遁していたわけではない。オフィシャル・サイトより詳しくマニアックな、唯一無二のニュース・ソースであるwikiを見ると、ソロやバンド名義を使い分けて、年間100本近くのライブを世界中で行なっている。ここ最近、コステロ名義のアルバム・リリースは、ベストやライブ・アーカイブばかりだったけど、単発的にあちこちのプロジェクトに顔を出し、音源提供したりしている。まぁこういうのは昔からだけど。
 とっくに還暦を迎えているはずなのに、活動ペースは何ら昔と変わってない。むしろ音楽以外の活動、トーク・ショーのホストや自伝執筆など、若い頃より行動範囲は確実に広がっている。
 なので、あまりブランクが空くこともなく、案外話題が提供されていたので、まぁ元気でやってるんだな、と思ってはいたのだけど、そんな矢先、今年の夏アナウンスされたのが、悪性腫瘍の手術というニュースだった。俺を含め、世界中のコステロ・ファンは居ても立っても居られなかっただろうけど、幸い回復も早く、みんなホッとした。俺もホッとした。
 そんな不穏なニュースからさほど間を空けず、『Look Now』のリリース・インフォメーションが届いた。世界中の音楽ファンが喜び、そして俺も喜んだ。

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 デビューしてからずっと創作ペースが落ちることがなかったコステロ。リリース契約の関係でブランクが空くことは何度かあったけど、5年も空いたのは多分初めてなんじゃないかと思われる。前述したように、ライブ・パフォーマーとしてはずっと第一線で活動していたため、現場感覚が失われたわけではない。
 21世紀に入ってからの音楽業界の主流が、音源リリースからライブ活動にシフトしてしばらく経つけど、もともとデビューから一貫して、ライブ活動に主軸を置いてきた人なので、活動ペースにあまり変化はない。ただ21世紀に入ってからは、アルバム・プロモーションのためのツアーは少なくなる。
 以前、巨大ルーレットを回して針の止まった曲をプレイする「Spinning Wheel Tour」がちょっとだけ話題になったけど、あの時もニュー・アルバムがあったわけではない。コステロだけではなく、アルバム宣伝のためのライブ自体が少なくなっているのが、今のご時世なのだ。
 それが顕著になったのが、2010年代に入ってから。コステロもまた、新曲リリースの機会が格段に少なくなる。

 オフィシャルでリリースされた楽曲が少ないとはいえ、単純に「創作ペースが落ちた」「才能が枯渇した」というのは早計である。ここまでのキャリアを振り返ってみると、そんな短絡的な理由じゃないのは、ファンなら誰でも知ってるはず。
 今はもう廃盤だけど、かつてライコからリリースされていた、『My Aim is True』から『All This Useless Beauty』までの2枚組デラックス・エディションを持っているファンも多いと思う。持ってない人もいるかもしれないけど、たぶん「多い」という前提で進める。
 リイッシュー・レーベルとして評価が高かったライコの丁寧な編纂によって、1枚目がオリジナル・テイク、2枚目には各曲のデモ・テイクとアルバム未収録曲が詰め込まれていた。『Get Happy』なんて50曲入りだもの、そりゃファンならみんな買うでしょ。
 ユニバーサル移籍後も、アルバムごとに結構な量のボーナス・トラックを収録したりして、ソングライティングへの意欲は失われていない。近年はあまり流出しなくなったけど、ブートレグ・サイトを覗いてみると、スタジオ・アウトテイクもあちこちで見つけることができる。興味があったら探してみな、大声でお勧めはできないけど。

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 さすがにペースは落ちているだろうけど、息を吐くように作曲する人なので、今さら特別な行為じゃないんだろうけど、ベテランゆえの問題も出てくる。歳を経るにつれ、レベルの水準は上がってゆく。以前なら充分アベレージ越えだったとしても、今の基準で測ると「発表できるレベルに達してない」と、ボツにしちゃう曲も多いんじゃないかと思われる。
 それとやっぱり、環境の劇的な変化。ストリーミング・サービスの普及に伴うCDメディアのマーケット縮小によって、欧米ではとっくの昔に、音楽出版は旨味がないビジネスになってしまっている。
 労力に見合うリターンが、以前より比べものにならないくらい少なくなっちゃったので、いくら曲を書いても報われない。そりゃ新曲書くより、ライブで定番曲歌う方に向かうわな。モチベーションだって違ってくるし。

 で、『Look Now』。
 通常、コンボ・スタイルでのレコーディングだったらある程度の期間、スタジオにこもって一気呵成に作り上げるのが一般的だけど、今回はバラバラの時期に行なわれた、いくつかのセッションを組み合わせたスタイルになっている。20年振りの競演となったバート・バカラックとの作品は、ここでは2曲のみだけど、これまでも断続的にセッションを繰り返していた事実が明らかになっている。まだ25曲ほどストックがあるらしいのだけど、それらは後日小出しにされるのか、それとも充分なレベルに達していなかったのかさて。
 今回のアルバムのテーマは、そのバカラックとのアルバム『Painted from Memory』、そして82年リリースの『Imperial Bedroom』との融合だ、とコステロはコメントしている。実際に聴いてみると、あまりロックっぽさを感じないサウンドで統一されているため、前者は雰囲気的にわかるけど、後者については、なんかピンと来ない。

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 これまでコステロのアルバム・レビューをさんざん書いてきた俺だけど、『Imperial Bedroom』にはまだ手をつけていない。要するに、「俺の好きなアルバムたち」とはちょっと違う、俺にとってあんまり思い入れの少ないアルバムでもある。
 ニューウェイブの流れを汲んでデビューしたコステロ、基本、ライブ映えする楽曲を中心にレパートリーを増やしていた。それはそれで好評だったけど、でもキャリアを重ねるにつれ、ロックだけでは表現しきれないテーマも出てくる。いつまでもシンプルなパワー・ポップだけでは、せっかくのSteve Nieveも宝の持ち腐れだったし。
 もっとワールドワイドな市場に色目を使おうとしたのか、ここではライブ仕様、4ピースで再現しやすいアレンジやアンサンブルを一旦チャラにして、スタジオ・テクニックを駆使したサウンドに挑戦している。主にソングライティングにはギターを使用していたコステロ、ここではそれをピアノに変えたことによって、今までと違うコード進行を多用している。スタジオさえ1つの楽器として捉えるGeoff Emericのプロデュースによって、後期ビートルズを彷彿させる、ライブ・パフォーマンスを前提としないサウンドに仕上がっている。
 コステロの中に眠っていたビートルズDNAを全面開放した自信作だったはずなのだけど、マーケットの反応は芳しいとは言えなかった。あれだけ地味だった前作『Almost Blue』さえUKでゴールド獲得しているのに、『Imperial Bedroom』はゴールドに届かなかった。マジか?俺もいま知ったわ。
 そんな結果を踏まえてコステロ、サウンドにこだわるんだったら、もっとキャッチーに、もっと徹底的にやらなくちゃダメだ、と思い直したのか、当時の売れっ子Clive Langer & Alan Winstanleyにプロデュースを依頼、トップ40ソングとも引けを取らない、ポップ・スター路線を志向することになる。
 まぁこれも、結局頓挫するんだけどね。

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 いわゆるMOR、コンテンポラリー色の強いアレンジから強いパッションは感じられない。だからと言って、リラックスできる癒しのサウンドでもないんだよな。言っちゃえば、「イイ感じでうまく枯れたよなぁ」といった印象。
 とはいえコステロ、昔からサウンドの振り幅が激しい人として知られている。地味なサウンドの後はラウドなサウンドに回帰する、そんなのを幾度も繰り返している。『King of America』の後の『Blood & Chocolate』 、『Juliet Letters』の後の『Brutal Youth』、前述した『Painted from Memory』の後の『When I Was Cruel』といった具合で、ひとつの音楽性にとどまらないのが、彼の魅力でもあるのだ。
 なので、本当のコステロ・ファンは、むしろこの後に淡い期待を抱いている。近いうちにラウドなロック・アルバムに回帰するんじゃないか、と。
 すでにそれを期待しながら、今日も俺はコステロを聴く。


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1. Under Lime
 イントロはCCRっぽいフォーク・ロック調だけど、次第にコーラスやホーンが入ってきて、ビートルズのオマージュ的なアレンジ。その辺がちょっぴり『Imperial Bedroom」っぽい。昔だったらシングル候補だったんだろうけど、もうそんなの興味ないんだろうな。リリースしたって、大して意味ないだろうし。
 ベーシックな部分はImpostersの演奏だけど、中盤の能天気なコーラス・ワークなど、いろいろ遊びも交じっててやりたい放題。誰が仕切ってんだと思ってプロデューサーを調べてみたら、Sebastian Krysという、もともとラテン畑の人。グロリア・エステファンやシャキーラを手掛けてた人らしい。まったく畑違いじゃん。

2. Don't Look Now
 バート・バカラックとの共作となった大人のアーバンなバラード。彼とのコンビでは、どうやっても名曲になっちゃうのは保証付き。時にイージー・リスニングになりがちなメロディを、コステロのアクがいい感じで作用してキリッと締めている。
 ヴォーカル・スタイルは思いっきりベッタベタなんだけど、やっぱキャラクターが強い分、ロック・ユーザーの耳にも違和感ない仕上がりになっている。3分弱でコンパクトにまとめてるのが、大人の粋を感じさせる。

3. Burnt Sugar Is So Bitter
 こちらもリリース前からインフォメーションされていた、Carole Kingとの共作。もともと1999年頃からステージではプレイされていた古い曲で、ここにきて正規レコーディングとなった。
 ここではちょっぴりKing色が強いメロディとなっているのだけど、それをうまく自分のフィールドに取り入れながら、Kingのエッセンスもしっかり残す、バランスのとれたコラボレーションになっている。何気にPete Thomasの後半ドラム・プレイが圧巻。



4. Stripping Paper
 並行して『Painted From Memory』も聴いていたのだけど、大きく変わったのがコステロのヴォーカル力の向上だった。いやうまくなってるわ、この人。以前だったらこのサウンド、このメロディだったらアーバンなAORに流されちゃってたところを、きちんとコステロ独自の色に染めてしまっている。
 このトラックではバカラックは絡んでおらず、一聴するとコラボ曲なのかな?と勘違いしてしまったけど、すっかり自分の中に取り込んでしまっている。

5. Unwanted Number
 ソリッドなロッカバラード。ここではコステロ自身もミニ・ムーグをプレイしており、このアルバムの中ではライブ映えしそうな楽曲。でもね、敢えて言うとコーラスはちょっと余計。Imposters単独で聴きたかったな。



6. I Let the Sun Go Down
 中期ビートルズというより、以前コラボしたポール・マッカートニー色の強いポップ・バラード。甘く凝ったメロディ、そこにストリングスとコーラスが絡む。『Imperial Bedroom』のビジョンが強く反映されている。
 以前はスキルやアイディアが至らず志半ばだったけど、ようやくここで形にできた。雑多な音を詰め込むでのはなく、然るべき音を、適切かつ最小限に配置することによって、アレンジの輪郭がはっきりした。

7. Mr. and Mrs. Hush
 ダークに堕ちたビートルズのような、ちょっとソウル風味も入ったロック・ナンバー。こういったソリッドな楽曲はお家芸のようなもので、安心して聴ける。気の抜けたフレンチ・ホルンがちょっと余計だけど、お遊び的なものと思えば気にならない。昔からのコステロ・ファンには、最もウケはよいと思われる。

8. Photographs Can Lie
 再びバカラック共作ナンバー。多分、2人でピアノやギターを介しながら、このレベルの楽曲はいくらでも書いてるんだろうけど、発表するかしないかの基準はどこにあるのだろうか。ハイレベル過ぎて、もはや常人には感知しえない世界。
 プレイヤーとしてのバカラックのピアノは、伴奏に徹して抑制が効いている。ドヤ顔でしゃしゃり出ないところが、重鎮としてのこだわりか。

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9. Dishonor the Stars
 やっとここにきて、Imposters単独のトラック。コステロ自身の多重コーラスがダビングされているけど、ほぼ100%通常営業のスタイル。バカラック・スタイルをバンドでやってみた体のアレンジ・メロディになっている。でもwikiを見てみると、現時点でこの曲、最新ツアーでも披露されていない。ライブ映えしそうなのにね。

10. Suspect My Tears
 Elton Johnあたりが歌うと、もっとウェットになっちゃうところを、独特のアクの強さで甘いアレンジにビターな風味を加えている。「Man Out of the Time」をヴァージョン・アップさせると、こんな感じになる。かつてはとっ散らかったサウンドでしか表現できなかったけど、ここに来てやっとビジョンが具現化できた。

11. Why Won't Heaven Help Me?
 この流れにきて、フェンダー・ローズから始まるイントロで不意を突かれた。カクテル・ラウンジっぽいムードのサウンドをベースに、Impostersが徐々に絡んでくる。ある意味、このサウンドって新境地だよな。なんとなくディナー・ショーっぽいけど。

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12. He's Given Me Things
 ディナー・ショー風味をさらに強めるかのように、ラストは3たびバカラック。ヴォーカルもここに来て、かなりドラマティックかつ直情的。レコーディング・アーティストとしてのコステロの方向性は、今のところはこういったコンテンポラリー系なのだろう。
 このサウンドではもうやり切ってしまった感が強い。なので、次回作だな。
 弾けたコステロが聴きたくなってきた。



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コステロさん、立つ鳥跡を濁さず。 - Elvis Costello 『All This Useless Beauty』

folder 1996年リリース、17枚目のオリジナル・アルバム。ワーナーに移籍してから企画モノが多かったCostello としては、『Brutal Youth』以来、2年ぶりの新曲アルバムとなる。「他アーティスト提供曲のセルフ・カバー」&「他アーティストへ提供することを想定して書かれた楽曲」で構成されているので、厳密な意味で言えば「全曲書き下ろし」ではないのだけれど、ほとんどの曲が初出ということなので、まぁざっくり言っちゃえばオリジナルみたいなものである。あぁめんどくせぇ。
 チャート・データを見ると、UK28位・US53位という、まぁまぁのアベレージ。ワーナーでは最後のオリジナルとなってしまったため、正直、それほど力を入れてプロモーションされたわけではない。
 この後、ベスト・アルバム『Extreme Honey』をリリースして、ワーナーとは契約終了、すでにマーキュリーとのワールドワイド契約が決まっていたため、いわば敗戦処理的ポジションのアルバムである。セールス推移やプロモーション体制において、不満は山ほどあったのだろうけど、マーキュリーの件も決まっていたこともあって、多分売れようが売れまいが、どっちだってよかったのだろう。
 そもそもこの人、レコード会社に対してボヤくのは、今に始まったことではない。「まぁた始まったよ」と、多くのファンは思っていたはずである。

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 ワーナー時代のCostello は、4枚のオリジナル・アルバム以外にも、やたら多方面へ足を突っ込み首を突っ込み、フットワークの軽い活動を展開している。その行動範囲はやたら広範に渡り、良く言えば精力的、悪く言っちゃえば、脈絡なく支離滅裂である。
 ワーナーとのワールドワイド契約を機に、Costelloは活動の拠点をアメリカへ移すことを決意する。世界レベルで本格的にブレイクするのなら、やはりエンタメの中枢に身を置いておいた方が、何かと都合が良かったためである。
 F-Beat / コロンビア時代とは段違いの予算とプロモーション体制をバックに従え、これまでのUK発パワー・ポップから、大幅にアメリカン・コンテンポラリーに寄せた2作『Spike』 『Mighty Like a Rose』をヒットさせた。Paul McCartney やRoger McGuinnら豪華ゲストを迎えてはいるけど、単にネーム・バリューに頼るだけでなく、Mitchell Floom やT-Bone Burnett ら堅実なコンポーザーも揃えたことで、従来ファンにも訴求できるサウンドを作り上げた。

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 コンテンポラリーAOR路線は、アメリカはもちろん、世界中でも好セールスを記録した。以前、ポップ・スター路線に色目を使ったはいいけど、思ったほどの結果を残せなかった『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』で味わった雪辱を、ここで克服したのだった。
 達成したとなると、もう満足しちゃったのか、その後はCostello 、ワーナーによるコントロールから逃れるように、音楽性があっちこっちフラつくようになる。あ、それは昔からか。
 次にリリースしたのが弦楽四重奏Brodsky Quartet とのコラボ・アルバム『Juliet Letters』。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にインスパイアされ、「ジュリエットに宛てた手紙」というテーマで作詞された作品、というコンセプトで作られており、そりゃ芸術性やアーティストとしての必然性は高いのだろうけど、まぁ売れるはずないよな。本人も売れるとは思ってなかったみたいだし。
 その後はロック/ソウル・クラシックスのカバー・アルバム『Kojak Variety』、何を急に思い立ったか、解散状態のAttractionsを招集、原点回帰のラウドなロック・アルバム『Brutal Youth』を作って、再びBruce Thomasと大ゲンカ。「ソリが合わない」って、そんなの昔っから、わかってたことじゃん。なんでわざわざ、蒸し返したりするの。

 どういった契約内容だったかは不明だけど、この時期のCostello 、ワーナーの外でもいろいろやらかしている。大抵はワンショットの単発契約だったと思われるけど、UKのプログレ・バンドGryphon のメンバーだったRichard Harveyと、BBCからの依頼でテレビのサントラを作ったり、UKのメルトダウン・フェスティバルにジャズ・ギタリストBill Frisell と出演、地味なライブ・アルバムをリリースしたりしている。
 どれも、メジャーでは取り扱いづらいプロジェクトである。マイナーなジャンルにも目移りしてしまうのは、これまた昔からのクセなのだけど、もうベテランなんだから、あちこち脇道それないで王道行けよ、と余計な心配さえしてしまうのが外野である。

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 もともとデビュー当時から、多様な方向性とヘソ曲がりが性分で、あっちへフラフラこっちへフラフラ、音楽性が定まらない人である。
 考えてみればCostello 、同じコンセプトのアルバムを2作続けると、次は思いっきり真逆の方向へ方向転換してしまう傾向がある。
 『My Aim is True』と『This Year’s Model』は、リリース時期が近かったのと、デビュー前のストックが多かったせいもあって、どちらも「パブ・ロックの延長線上に位置するパンク寄りのロックンロール」というスタイルだったけど、次の『Armed Forces』では、原石のカドが取れて、「ヒット要素も多いパワー・ポップ系」のサウンドに進化している。
 前述のポップ・スター希望アルバム『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』不発で打ちひしがれた後は、単身アメリカへ発ち、思いっきりレイドバックしたカントリー/ロックンロール・アルバム『King of America』をリリース、厭世観に囚われた改名騒動を引き起こす。
 で、再度メジャー展開を、とワーナーに移籍して『Spike』『Mighty Like a Rose』をリリース。ようやくアメリカでも浸透してきたかな、と思ったら気が抜けちゃったのか、全然違う路線の『Juliet Letters』、といった次第。
 ここらでもうひとつ、開き直って『Spike』2的なアルバムでも作っておけば、セールス的にも安定してたんじゃないかと思われるけど、それよりもアーティスティックな探究心の方が勝っちゃうのが、やはりCostelloである。まぁ、そこまでのスケベ心はない人だしね。そう考えると、Rod Stewartってすごいよな。

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 で、ワーナーの最後に出してきたのが、『All This Useless Beauty』。これまでの支離滅裂なカタログ・ラインナップからは予想できなかった、熟練した職人による泰然とした作風でまとめている。断続的にノー・コンセプトでレコーディングされた楽曲たちは、どれも違う個々の輝きを放ちながら、「Elvis Costello」という強力なプリズムによって一点に集約され、ひとつの完成された組曲を形作っている。
 時に彼の書く楽曲は、「何をやってもコステロ」という記名性の強さによって、一般ユーザーに浸透しづらい部分がある。どれだけメジャーになろうとも、商業性から大きくはみ出た個性は、スタンダードとなるにはアクが強すぎた。
 ここでのCostello は、自分以外のシンガーが歌うことを前提に楽曲を書き下ろしているため、自身の個性は若干抑え気味になっている。よって、本人は意識していないだろうけど、どうしても滲み出てしまうキャラクター・エゴを後退させ、純粋な楽曲の良さ・普遍性が引き立った。
 地味ではあるけれど、末永く聴き続けていられるアルバムである。あ、それって通常運転のCostelloか。


All This Useless Beauty
All This Useless Beauty
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Elvis Costello
Warner Bros UK (1996-05-08)
売り上げランキング: 445,950



1. The Other End of the Telescope
 'Til Tuesdayの女性ヴォーカルAimee Mannとの共作による1988年のナンバー。さわやかなカントリー・ポップのAimeeヴァージョン(Costelloもコーラス参加)の「粗野な女性がちょっと無理したポップ・アレンジ」感も良いのだけれど、ここでのCostelloは正しく王道ストレートの正攻法バラード。その後の正攻法スタンダード集『Painted From Memory』への布石とも取れる。Attractionsの演奏も抑制が効いており、アウトロのSteve Nieveのピアノ・ソロも完璧。シングル・カットはされているけど、UK最高96位。確かにシングル単体で目立つキャッチーさはない。いい曲だけどね。

2. Little Atoms
 Bruceのベース・サンプリングがループでずっと鳴っている、続けて落ち着いたバラード。ここでもCostello、とてもヴォーカル・プレイに気を遣っている。かつて、既存のスタンダードを壊す側だったCostelloが、ここではそのスタンダードのポジションに収まっているのだけれど、ひいき目じゃなくても、凡百の懐メロや二番煎じバラードとは一線を画している。目新しいサウンドも積極的に導入しながらも、先人へのリスペクトも忘れぬ姿勢。過去の良質な音楽遺産をベースに新たな視点を見出すという、考えてみれば極めて真っ当な手法である。

3. All This Useless Beauty
 1992年に発表された、イギリスのフォーク・シンガーJune Taborに提供されたバラード。他人へ提供したきりではもったいないと思ったのか、構成もメロディもすべての調和が取れている。アレンジも双方、大きな違いはない。Attractionsも堅実なバッキングに徹しており、とにかく歌を聴かせる演奏である。



4. Complicated Shadows
 ここまで冒頭3曲がバラードという、なかなか珍しい構成。ここまでシックなテイストでまとめられているのは、後にも先にもほとんどない。あ、『North』があったか。
 ネットリしたオープニングのロック・チューン。抑えた演奏だったバンドも、ここでは一気にフラストレーションを爆発させるかのように、ギアを上げている。Costelloもギターをかき鳴らしており、従来使用のAttractionsのプレイが堪能できる。
 手数の多いBruce Thomasの存在感は議論の分かれるところだけど、こういったアップテンポのナンバーでは相性は決して悪くないと思う。初期のサウンドが好きな俺的にはアリなのだけど、ロック一辺倒の人ではないので、スロー・テンポになるとちょっとウザくなっちゃうのかな。

5. Why Can't a Man Stand Alone? 
 「Deep Dark Truthful Mirror」を思わせる、Al Greenからインスパイアされたようなディープ・サウス・テイストのソウル・バラード。と思ってたら、Sam & Daveからインスパイアされた曲、とのこと。そうだよな、もっと泥臭いもの。

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6. Distorted Angel
 ドラム・ループと不安感漂うコード進行が印象的な、彼にとって珍しいタイプの楽曲。こういった凝った構成に敢えて挑んでいることから、常に前へ進む姿勢、目新しモノ好きなスタイルが窺える。シングルではトリップホップで一世を風靡したTrickyにミックスを委ねており、俺的にはすごく食いつくサウンドではないのだけど、「あ、こういったことをしたかったんだ」と腑に落ちた覚えがある。

7. Shallow Grave
 Paul McCartneyとの共作。彼とのコラボは「Veronica」「So Like Candy」など多岐なジャンルに渡っており、これは50年代のロックンロール/ロカビリーをモチーフとしている。ある意味、すでに完成されたジャンルなので、それほど新味を付け加えることはできないのだけど、イントロやサビ前のドラム・ロールなど、Paul単独では無難な仕上がりになってしまうところを、Costelloのヘソ曲りテイストでスパイスを利かせている。

8. Poor Fractured Atlas
 正攻法で書かれた、すごく地味なバラード。コードも特別凝った組み合わせは使われていない。でも、今回聴き直してみて、メロディ、ヴォーカルとも最も惹きつけられたのが、この曲だった。小細工も何もない、ほぼピアノだけがバックの、混じり気なしの「ただの歌」。普遍的な楽曲というのは、こういったものを指すのだろう。

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9. Starting to Come to Me
 ブルーグラスとロカビリーをくっつけたような軽快なナンバー。『Almost Blue』『King of America』でも同様のアプローチはあったけれど、ここでは前2作に漂っていた閉塞感はなく、一皮むけて突き抜けた爽快感に満ち溢れている。肩の力を抜いてサラッとプレイしているのは、アーティストとしての成長なのだろう。

10. You Bowed Down
 1991年、元ByrdsのRoger McGuinn提供曲のセルフ・カバー。初出時もCostelloとのデュエットでリリースされており、試しに聴いてみるとアレンジもほぼそのまんまだった。McGuinnといえば独特の12弦ギターということになっているけど、60年代サウンドはあんまり詳しくない俺にとっては、やはりこれはCostelloがオリジナル。
 中盤のフェイザーを通したヴォーカルや逆回転ギターが、当時のサイケ・ポップなムードを醸し出してるような気がするけど、ごめん、Byrdsにはあんまり興味ないので知ったかぶりはできない。
 シックなアルバムの中、こういったポップ・テイストの曲は必要だよね。

11. It's Time
 このアルバムのクライマックス。ていうかワーナー時代の締めくくりとして、最高のバラード。ウェットかつ激情あふれるヴォーカルとバンド・プレイをクールダウンさせるため、敢えてシーケンス・ドラムを入れるアイディアは秀逸。Costelloが考えたのか?いやそこまで器用な人じゃないよな。やっぱりNieveだよな。デラックス・エディションのデモ・ヴァージョンだと、何だか勢いだけの中途半端な曲だし。
 もはや円熟の域に達していたAttractionsであるからして、単なるイケイケだけのプレイだと空回り振りが目立ってしまう。逆に抑制したアレンジを施すこと、そして緩急をつけたヴォーカライズによって、楽曲の良さを最大限に引き出している。



12. I Want to Vanish
 3.同様、June Taborに提供されたナンバーのセルフ・カバー。ラストはCostelloとNieve、そしてBrodsky Quartetとのコラボ。最初は『Juliet Letters』のアウトテイクかと思ってたけど、どうやら新録であるらしい。
 堂々としたクラシック・テイストの正統派バラードは、後を引かぬ3分程度の小品にまとめられている。変にドラマティックに壮大な楽曲を持ってこないところは、やはりCostelloである。その辺は照れなのだろうか。




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エルヴィス・コステロ
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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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