Donny Hathaway

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

長い青春期の終わり - 『Roberta Flack Featuring Donny Hathaway』

Folder 1980年リリース、旧友Donny Hathaway との2枚目、前回より7年ぶりのデュエット・アルバム。前年のDonnyの急逝を受けた追悼盤として、ビルボード総合で最高25位、ゴールド・ディスクを獲得している。
 Roberta といえば、なんと言っても1973〜74年にリリースされた大ヒット・シングル「Killing Me Softly」「Feel Like Making Love」が広く知られており、他の曲はあまり知られていない。ていうか俺もそんなに知らない。もともとDonnyつながりで入手したアルバムだし。
 その時期をピークとして、チャート的には緩やかに下降線をたどり、70年代末になると、アルバム・トップ40も危ういポジションにまで落ち込んでいる。とはいえ、もともと人目を派手に惹くルックスや作風ではないことから、「落ち目になった」というよりむしろ、「然るべき場所に収まった」という印象の方が強い。
 ソウルのディーヴァといえば、関西のおばちゃんみたいに「どやさどやさ」と前に出て行きたがる印象が強いけど、彼女の場合、そこまでエゴをむき出しにした印象はない。あまり黒さを前面に出さず、白人ポピュラー層へのウケの良さなど、表層的な部分だけ見ると、Diana Rossとの共通点が多い。あの人はもっと野心家だけどね。
 表立った活動からはしばらく身を引いていたけど、70年代初頭のニュー・ソウル・ムーヴメントにおいて、大きな役割を担ったDonnyの死によって、Robertaはどこにもぶつけようのない怒りと悲しみ、そして無常観に苛まれた。再び立ち上がるには、相応の期間を要した。

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 以前、Leroy Hutsonのレビューで、大学の同窓としてDonnyとRobertaがおり、メジャー・デビュー以前はキャンバスで共作したり、日毎セッションを行なっていた、と書いた。
 3人に共通しているのは、いわゆる労働者階級からの叩き上げではなく、大学というアカデミックな教育機関で音楽理論を学んでいること、泥くささの拭えなかった既存のソウル・ミュージックとは別のベクトルの、都会風にソフィスティケイトされた音楽性にある。いくら才能ある若者たちとはいえ、人種差別や公民権問題で騒がしかった60年代末のアメリカにおいて、彼らの肩身が狭かったことは、想像に難くない。どうしたって少数派なため、一緒にいることが多くなる。

 DonnyとLeroy は共に1945年生まれ、同じ年にハワード大学に入っている。一時はシェアハウスしていたくらい親密な仲であり、その時期に共作もよく行なっていた。そのうちのひとつが名曲「The Ghetto」だったというのは、ファンの間ではよく知られた話。
 当然、Robertaも同年代くらいかと思いきや、wikiを見ると1939年生まれ、なんと6歳差である。学生と社会人が友達付き合いするようなもので、世代間の開きはわりと大きい。音楽という共通項がなかったら、話題にも事欠くくらいである。
 結構な年齢まで大学に居残っていたくらいだから、よほどの苦学生か、それとも院でモラトリアム期間を満喫しているだけかと思ってたら…。
 いやいや、全然思い違いでした。

 幼少期からクラシック英才教育を受け、当時の黒人層としてはかなり恵まれた環境で育ったRoberta 、なんと15歳でスカラシップを獲得、大幅な飛び級でハワード大学に入学している。スタートから並みの才能ではなかったということだ。もちろん、「努力し続ける才能」というのも併せて。
 もともとピアノ専攻で入学したRoberta、その後も貪欲な向学心と好奇心が後押しして、声楽も本格的にマスター、後のポピュラー・シンガーとしての基盤がここで培われた。卒業後は黒人女性としては初めて、白人主体の学校で教鞭を取り、後進への指導もしっかr行なっている。

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 メロウな作風とは対照的に、音楽に関しては貪欲で唯我独尊なRobertaの周りには、才能あるニュー・ソウル世代のアーティストが集まっていた。彼らよりひと世代上に属する彼女は、そんな中では面倒見の良い姉御肌的存在だった。Roberta からすれば、Donny もLeroy も小生意気な弟程度にしか見えなかったのだろう。
 同世代アーティストの中では芸歴も長く、自主レーベル・カートムを設立するなど、親分風をブイブイ吹かせていたCurtis Mayfieldでさえ、彼女より2歳年下だったため、逆らえるはずもなかった。デビューして間もなく、野郎3人をスタジオに呼びつけてレコーディングを手伝わせるくらいだから、彼女の手綱さばき具合が窺える。
 ま、何にせよ、女が強い方が集団はうまく回るもので。

 そんなRobertaを中心としたコミュニティの中で、最も彼女と親交が深く、寵愛を受けたのがDonny だった。男女の関係があったかどうかは不明だけど、純粋に音楽性がフィットしていたのだろう。
 1973年、彼女はDonny と組んで、珠玉のバラードを揃えたアルバムを作った。当時の彼らの作風である、Carole King的にシンプルかつシュアなバッキング、あまり黒さを感じさせないシンガー・ソングライター的サウンドは、後のR&Bのルーツとなった。それぞれ単体でも素晴らしい楽曲を創り上げてはいたけど、2人揃ってピアノの前に座り、いくつかコードを押さえるだけで、独特のマジックが生まれた。
 そのマジックの結晶として、もっとも純度の高い「You've Got a Friend」は、永遠のスタンダードになった。

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 その後間もなくして、Hathawayは体調を崩し、表舞台から身を引くことになる。彼が抱く心の闇は想像以上に深く重く、強い自己嫌悪と厭世観とが歩みを妨げた。光の見えぬ深淵を克服するには、とてつもなく長い時間と周囲の手厚いケアを必要とした。
 家族以外では、公私ともに彼の支えとなったのが、Robertaだった。シングル「The Closer I Get to You」のパートナーとして、RobertaはDonnyの声を欲した。しばらく人前に出なくなってから久しく、腰を上げるまでには躊躇したけれど、彼女の細やかな気遣いやパワーに触発され、どうにか力を振り絞って相手を務めた。
 ビルボード総合2位という好成績をマークできたのは、それだけ彼の復活を待ち望むファンが多かったこと、皆が彼の声を欲していたということだ。
 そして、その成功を誰よりも喜んでいたのがRoberta だった、ということも併せて。

 エキシビジョン的な復活ではあったけれど、取り敢えず健在ぶりはアピールしたDonny、これを機に本格的な復活を果たすはずだった。何よりも、彼自身がそう思っていたはずだから。
 全盛期のテンションはまだ完全に取り戻せていないけど、ゆっくりと慎重に、徐々にギアを上げて、再度ファンの前に姿を現わすはずだった。幸い、Roberta がまた一緒にアルバムを作ろう、と呼びかけてくれていた。
 急ぐことはない。ゆっくりと、慎重に。

 前回のアルバムは、荘厳なムードの漂うバラード中心の選曲だったが、この2枚目は比較的アップテンポ、前向きな未来を予想させる同時代的なアレンジが多い。シリアスなニュー・ソウル真っ只中で製作された72年とは時代が変わり、もっとライトな感触のアーバン・ソウル風の楽曲が多くなった。70年代は終わろうとしていたのだ。
 70年代末のアップテンポなソウルといえば、大抵は下世話なファンクかディスコのどちらかだけど、そこは才女であるRoberta、安易なシーケンスは用いずバカテク・プレイヤーをズラリと並べ、生音主体のサウンド・デザインで統一している。
 強靭なメロディがビートを支配し、伸びの良いヴォーカルを前面に出したミックスも、アナログ・レコーディングの最終進化形の特徴である。リズムを抑えることによって、凡庸なダンス・チューンとして消費されてしまうのを回避したのだろう。

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 社会批判や内的自己の深化を主題としたニュー・ソウルは、一時の刹那的なムーヴメントで終わったが、既存ソウルに捉われぬ音楽性の間口の広さは、ジャズ〜フュージョンの要素も貪欲に取り込み、その後の80年代R&Bの礎となった。
 安定したサウンドとメソッドを創り上げたことによって、Robertaの音楽性もまた安定期に入る。根幹のメロディや言葉こそ大きく変わらないけど、時代のトレンドに応じてアップデートしてきたアレンジは、成長することをやめて、普遍的なものに変化していった。

 じゃあ、Donny はどこへ行こうとしていたのか?
 その中間報告となったのが、ここに収録されている2曲であり、それはRobertaにとってもひとつのマイルストーンになるはずだった。
 でも、その先が示されることはなく、Donnyの死によって中途半端な形で終わってしまった。まるで自ら成長するのを放棄したかのように。
 2人のハーモニー、2人の成長はこれが最期となった。

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1. Only Heaven Can Wait (For Love) 
 今日共作者としてクレジットされているEric Mercuryとのデュエットというかたちになっているけど、ほぼRobertaの独壇場。このアルバムでほぼ出ずっぱりで女性コーラスを担当しているのがGwen Guthrieだけど、Roberta以外にもAretha FranklinやMadonnaまで、あらゆるヴォーカリストから絶大な信頼を得ている、いわば「プロのバック・コーラス」。Ericの出番は後半になってからほんの少しだけである。
 一聴する限りでは、オーソドックスなバラードなのだけど、やたらリズム・セクションの音が深い。特にベース。「え、ここで?」といった場面でスラップを入れてきたりで、メリハリのあるサウンドを演出している。

2. God Don't Like Ugly
 Gwen作によるボトムの効いたディスコ・チューン。後に本人によってセルフ・カバーされている。もともとアップテンポ・ナンバーではいまいち印象の薄いRobertaなので、ここでは比較的無難に歌いこなしている。ちょっと洗練され過ぎてアクが少ないのも、彼女の場合は欠点でもあるけれど、大きな利点でもある。
 対してGwenヴァージョンも聴いてみたけど、こちらはテンポを落としたバラード調のアレンジ。俺個人としては、Gwenヴァージョンの方が、ベタな感情移入が強くて好み。このわかりやすいセンチさが好きなのだけど、でもこれってライト・ユーザーにはアクが強いんだろうな。
 多少、薄めた方が万人受けするという好例。

3. You Are My Heaven
 やっとここでDonny登場。そして、なんとStevie Wonder作曲。この時期のStevieは『Songs in the Key of Life』リリース後の虚脱感によって、いわば自作の方向性ン迷っていた時期。デビューから付き合いの深かったMinnie Ripertonにも手を貸したりしている。
 実際に彼が演奏しているわけではないのだけど、イントロから歌い出しから、まんまStevieの色が濃く出ている。ただ彼の曲って、メロディがポピュラーのセオリーから大きく外れて歌いこなすのが難しいはずなのだけど、そこは2人とも音楽理論がしっかりしているだけあって、きちんと世間に流通するポップスとして消化している。
 ビルボード最高47位まで上昇。



4. Disguises
 60年代のソフト・ロック・グループSpanky And Our Gangのプロデュースを手掛けたギタリスト、Stuart Scharf唯一のアルバムの収録曲。まんまDiana Rossなんだよな、俺からすれば。もしかして向こうが真似たのかもしれないけど。流麗ではあるけれど、俺的にはただそれだけ。ムーディだけど引っかかりがない。ライト・ユーザー向けだな。

5. Don't Make Me Wait Too Long
 なので、作曲だけにとどまらず、演奏にも全面的に参加しているStevie作のこの曲が、ひどく良く聴こえてしまう。80年代のバラード時代を予感させる、通り過ぎてしまいそうなメロディ・ラインは、それでも十分4.の凡庸さを凌駕している。ドラムも叩いているだけあって、リズム・パターンはすでに『In Square Circle』の音になっている。
 実は7分超という長尺で、中盤はRobertaによるラップ(ていうかモノローグ)が延々と展開されている。普通ならダレてしまうところを、構成がしっかりしているおかげで飽きさせない展開となっているのは、やはりStevieだからこそ。どうせなら、シャッフルしてこれをトップに持ってゆくのも、ひとつの聴き方である。

6. Back Together Again
 再度、Donny登場。これまでにないファンキーなエフェクトとシーケンスによる、地味なサウンドが多い2人にとっては、これまであまり縁のなかったサウンドである。楽曲製作チームのReggie Lucas & James Mtumeに乗せられたんだろうけど、Robertaは器用な人なので、それなりにアップテンポにも対応できるスキルはある。Donnyもどうにかゴージャス・サウンドに着いてきてはいるけれど、これが生前最後の録音だった、という事実を耳にしてしまうと、何だか複雑である。
 ちなみに、俺がこのアルバムに引き込まれたのはこの曲がきっかけだけど、聴いたのは彼らのヴァージョンではない。何年か前、Soundcloudを使ってレアグルーヴ系のDJミックスを漁ることに夢中になった。その中のラヴァーズ・ロック・ミックスの中に、この曲のレゲエ・ヴァージョンが収録されていた。若い女性ヴォーカリストが歌うこの曲に取りつかれ、オリジナルを探し求めたところ、ここにぶち当たった次第。答えは案外、近いところにあったのだ。



7. Stay with Me
 なんと作詞がGerry Goffin書き下ろし。この時代でもまだ現役でやってたんだ、と思ってから、そういえばCarole Kingは現役バリバリだったんだよな、と思い直した。作曲はDiana Ross 「Touch Me in the Morning」Whitney Houston「Saving All My Love for You」を手掛けたMichael Masserと来てる。プロのソングライターが気合を入れて書いているだけあって、詞曲・アレンジ・ヴォーカルとも完璧な仕上がり。無難なバラードでは収まらないスケール感を思わせるのは、やはりDonnyへのはなむけのためだったのか。


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新しきソウルの光と道 - Donny Hathaway 『Everything is Everything』

MI0001537701 1970年にリリースされたデビュー・アルバム。デビュー前はCurtis Mayfieldのところで下積みを経験、その時代にミュージシャン仲間とのコネを作り、このアルバムでもギターで参加しているKing Curtisの引きによってメジャー・デビューという流れ。
 ちなみにビルボードでは最高73位、R&Bチャートで最高33位というまことに地味なスタートだった。当時の反応がどうだったのかはわかりかねるけど、正直大ヒットするような作風ではない。

 1970年のソウル・ヒット・チャートで目立ったのが断然Slyの”Thank You”で、その後にCurtisが続いており、ニュー・ソウルの流れがチャートにも影響を及ぼし始めているのがわかる。この年は70年代ポップ・ソウルの頂点であるJackson 5がデビューしているし、スタックス/ヴォルト系の泥臭いサザン・ソウル勢ら、いわゆる保守層が上位にチャート・インしているのだけど、Edwin Starの”War”やTemtationsの”Ball of Confusion”など、保守層の代名詞ともいうべきモータウンでさえ、従来のよう伝統的なソウルに捉われないサウンドを続々送り出している。
 そんな玉石混交なチャートにおいて、Donny も”The Ghetto” を10位に チャート・インさせている。これまでのヒット・パターンやフォーマットに基づいた商品ではなく、作り込んだサウンドやコンセプトを前面に出して、表現手段としてのステップ・アップが、この時期のソウル・ミュージックの大きな特徴である。

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 当時のソウル系のアルバム・ジャケットといえば、大抵はきちんとしたスタジオでニカッと歯を見せながら笑う、アップのポートレートが多かった。アングルやシチュエーションは違えど、真っ白な歯を強調するような満面の笑み、それはソウル・アーティスト共通の表情である。
 考えてみると、これってポピュラー系だけの現象で、ジャズのジャケットにはあまり見られない。管楽器系は口元がふさがってるので仕方ないとして、鍵盤や弦楽器、打楽器系のミュージシャンにも笑顔はなく、大抵は深刻な悩みを抱えたシリアスな表情でフレームに収まっている。確かに演ってる音楽の性質上、天真爛漫な笑顔は似合わない気はする。もっと昔のビッグ・バンド系ならともかく、モダン・ジャズに笑顔はあまり似合わない。

 で、ここでのDonny 、その例に漏れず、確かに満面の笑みである。ダウンタウンの壁際で子供たちと手をつなぎ、日本で言うところの「かごめかごめ」っぽい遊びに興じている。その表情には一点の曇りもなく、誠実なクリスチャンとしての人柄が垣間見える。
 ただ、そのショットは引きで撮られており、デビュー・アルバムのジャケットとしてはいささか控えめ、自身も引きの立場に甘んじているようである。この後もリリースされたアルバムのどれもが引きのショットで、エゴを前面に出す様子がない。歴史的名作の『Live』は横顔のアップだけど、スタジオでポーズを取ってるのではなく、ライブ・プレイ中のワン・ショットである。
 さすがに宣材用のポートレートではキチンとしたポーズを取っているのだけど、心なしかその笑顔からは覇気が感じられず、畏まってはにかんだ程度の微笑みが多い。悲劇的な末路を知ってしまってるせいもあるのだろうけど、アーティストにしては押しが弱く、あまりグイグイ前に出るようなキャラクターではないことが窺える。

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 そのポートレートやアルバム・ジャケットを見ると、ほとんどの場面で帽子をかぶっていることに気づく。大きめの白いハンチングがお気に入りだったらしく、紹介される際に使われる写真では、大体これをかぶっている。
 たまに被ってない写真もあるのだけど、別に頭髪が薄いわけでもない。単にオシャレで被っていたということになるのだけど、ここまで徹底してるとなると、どうやらそれだけではなさそうである。いやもちろん、似合ってはいるんだけどね。

 心理学のフィールドでは「帽子と仮面の違いによる精神分析」というのがあるらしく、「仮面」は劣等感を隠すためのもの、変身願望 を表す象徴である、とのこと。自我の隠蔽によって、別の人格を演じてカタルシスを得る、というのは何となくわかる。仮面とはちょっと違うけど、ロックにおける過剰なメイクの歴史を紐解いてみると、納得できる部分が多い。
 あれだけヒットを連発したKissも素顔でやってた時はセールスがガタ落ちしたし、70年代のDavid Bowieもアルバムごとに、キャラクターからコンセプトからまるっきり変えてパラノイア気味だったし。デーモン閣下は‥、まぁあれは「素顔」か。
 
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 で、「帽子」という意匠はそのまったく逆であって、被ることによって自我の強調を表しているとのこと。隠すべき自我ではなく、自我そのものの顕示、剥き出しのエゴを象徴しているらしい。
 帽子をかぶってるアーティストといえば、と記憶を探ってみたのだけど、手塚治虫か藤子不二雄Fなど、漫画家ばかりしか思い浮かばなかった。アーティストのパーソナルとはプライベートのそれとは別人格なので、よほどの天才でもない限り、多かれ少なかれ演じるという部分はついて回るのだろう。

 ミュージシャンで誰かいないものか、と記憶を辿っていった結果、やっと思い出したのがThelonious Monk。
 彼もDonny 同様、残されてるポートレートでは帽子をかぶっていることが多い。Monkの場合、その帽子がすっかりトレード・マークとなってしまったため、外すに外せなくなってしまった事情もあったらしい。ただそこまで行っちゃうと逆に開き直って色々なデザインを試すようになり、中国帽・コサック帽・山高帽など、多種多様なファッションで聴衆を楽しませている。

 「リハーサルを一切行なわない」「いきなりステージ上で踊り出す」など、その奇行振りが大きく取り沙汰されたMonkだけど、音楽的な評価、特に同業ミュージシャンからは羨望の的とされ、独特のリズムやコード展開、エキセントリックな演奏スタイルは多くの後続ミュージシャンらの指針となった。
 多くのモダン・ジャズ・レジェンド同様、Monkもまたキャリアのピークは50〜60年代にかけてである。その間に歴史的なアルバムを数々残し、多くのミュージシャンと共演した。
 そんなMonkも70年代に入ると急激に活動ペースが落ちる。以前からその気配はあったのだけど、長年押さえ込んでいた躁鬱病が深刻になり、ステージはおろか人前に出ることも困難になった。ほとんどすべての演奏活動から手を引き、あとはひたすら内向きの世界に隠遁してしまった。その後、ステージに上がったのはほんの数回程度、いずれの時も往年のMonk’s Magicが訪れることはなく、脳溢血で亡くなるまで引き篭もり、失意の晩年 を過ごした。

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 終生唯我独尊な態度を貫いたMonkと、敬虔なクリスチャンだったDonnyとを単なる帽子つながりで比較してしまうのは、俺的にもちょっと強引過ぎるんじゃないかと思ったのだけど、どちらも強烈なオリジナリティを有していたのは確かである。
 なので、正確に言えば「帽子をかぶることがライナスの毛布となって、自我の発散を促していた」ということなんじゃないかと思う。

 このアルバムからは、従来のソウル・ミュージックでは収まらない才能のほとばしりが感じ取れる。使い古されたパターンではなく、ゴスペルやジャズ、ファンクの要素も一緒くたにされているにもかかわらず、すべての構成要素がギリギリのところでハーモナイズされているため、統一感がある。新人のデビューとしてはかなりの完成度ではある。
 ただ、そのサウンドは熟成された「静」のグルーヴが流れており、勢いは感じられない。ソウルというよりはシンガー・ソングライター的、内省的なムードが漂っている。ニュー・ソウル・ムーヴメントのカテゴリーに入れられたのも納得できる音作りである。
 彼の作り上げたその繊細なサウンドは、70年代初頭という時代に受け入れられたのだけど、そのあまりの完成度は「ここ」が到達点であることも同時に意味しており、その後の展開に彼は苦しめられることになる。

 晩年のMonkはそのトレード・マークであるはずの帽子を脱ぎ捨てていた。自己顕示とはまた別の、他人には理解しがたい世界で彼はメロディを奏でていたのだろう。
 Donnyが命を絶った時、帽子を被っていたのか。
 それはわからない。


Everything Is Everything
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1. Voices Inside (Everything Is Everything)
 ジャズのフレーズを奏でるベース、次に飛び込んでくるのはゴスペル・コーラス、ホーン・セクションもピアノも基本はジャズなのだけど、どこかソウルの香りも漂ってくる。ソフトな響きの音を出すPhil Upchurch(b)のプレイも影響してるのだろう。
 ちなみにこの曲を捧げられているHerb Kentとは、シカゴのAMラジオWVON(The Voice of A Nation)のDJ。



2. Je Vous Aime (I Love You)
 オーソドックスなスウィート・ソウル。この曲はDonnyの妻Eulaulahに捧げられており、これは終盤のPhilが弾くギター・ソロが聴きどころ。

3. I Believe to My Soul
 初出は1959年Ray Charlesがオリジナル。ブルースを基本としながら、歌心にあふれた曲をこの時点で書いていたことに、辛気臭いブルースが全盛だったこの時代においては異色だったことが窺える。
 もちろんRayほどパワフルではなく、どこか線の細さが見え隠れするDonnyのヴォーカルは、まぁ好き好き。俺はこういった情けなさの漂うソウルは好きだけどね。Marvinだって似たようなものだし。

4. Misty
 もともとはジャズ・ピアニストErroll Garnerが1954年にリリースしたのが初出だけど、実際にヒットして知れわたるようになったのはJohnny Mathisのヴァージョン。その後もElla FitzgeraldやSarah Vaughanなど大物ジャズ・ヴォーカリストによるカバーが続くのだけど、ポピュラー畑でこれをカバーしたのは比較的早い方。
 スタンダードのニュー・ソウル的解釈で、これまでこういったスタイルを理想形としてMarvinが何度も挑戦してそのたび玉砕したのを、ここでDonnyは軽々とアベレージをクリアしている。

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5. Sugar Lee
 スロー・テンポで紡がれる、和気あいあいと言った雰囲気のジャム・セッション。なので、それほど厳密な構成ではないのだけど、Donnyとシノプシスを共作したRic Powellの鳴り物プレイは必聴。彼がこのセッションをリードしているといっても良い。そんなサウンドの中で縦横無尽に自由に駆け巡るDonnyのピアノ、ヴォーカライズ。

6. Tryin' Times
 レコードで言えば、これがA面ラスト。最後はシンプルなピアノ・ブルース。大学時代の盟友Leroy Hutsonとの共作であり、同じく同窓だったRoberta Flackに大きくインスパイアされている。まぁシンプルなブルースなので、習作といった趣き。

7. Thank You Master (For My Soul)
 ここからB面スタート。このアルバムでは唯一Donny単独の作曲クレジットとなっている。シンガー・ソングライター的な印象が強い彼だけど、実際キャリアを通して単独での曲は少なく、大抵はLeroyや後にはRobertaなど、または知る人ぞ知るといった感じのマイナー曲のカバーが多い。自己主張がもっと強くてもいいはずなのに、どこか他人に助けを必要としてしまうところが、終生断ち切れなかった線の細さともつながるのだろう。
 この曲も単純なソウル・ナンバーではなく、ジャズ的展開のコードやテンションが散りばめられて、エモーショナルでありながらどこかクレバーな側面が垣間見える。
 最後のフレンチ・ホルンの響きにいつもドキッとさせられる。

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8. The Ghetto
 Donny自らつま弾くウーリツァーに導かれて、この頃はまだ珍しいアフロ・ビートが展開する、大きなヒットとなったこのアルバムの中のキラー・チューン。オルガン・ソロとスキャット、野太いコーラス、もともとはジャム・セッションのワン・シーンを切り取ったようなサウンドなので、どこから聴いても良く、そして何時か続いても心地よい安息の空間。
 ライブではもう少しテンポ・アップするのだけど、俺的には最初に聴いたこのヴァージョンが一番落ち着いてすき。グルーヴィーだけど、どこか客観的に冷めた頭脳のDonnyには、この冷静さが似合っている。



9. To Be Young, Gifted and Black
 このアルバムと同年にリリースされたNina Simoneのナンバー。共作者にはあのWeldon Irvineが共作者として名を連ねている。タイトルから察せられるように、この時期のNinaは黒人社会の地位向上・意識改革に燃えていた頃。それに煽られた形でWeldonなどの周囲のミュージシャンらも意欲作を制作することになるのだけど、その熱さに煽られた一人がDonnyであり、その後もAretha Franklinが続いてカバーすることになる。ずっと後にElton Johnがカバーしてるらしいけど、何かの冗談か?
 そういったメッセージ性は抜きにして、ひどく素晴らしい曲である。基本、こちらもブルース・ベースの曲なのだけど、黒人への迫害を歌にしていながら、きちんとしたエンタテインメントとして成立しているのは、やはりNinaのスターたる所以だろう。
 正直、Donny1が歌わなくても全然曲の良さは変わらないのだけど、デビュー作でありながら、きちんと自分なりに解釈でもってこの曲を料理しているのは、やはり才能のなせる力か。



10. A Dream
 初リリース時には収録されていなかったけど、後にCDの時代になってからは、ボーナス・トラックとして定番になっている。こちらもエモーショナルあふれるバラードで、なぜ当時収録されなかったのか不明なくらいの良い出来。
 コーラスは入ってないけど、ゴスペル的な響きに聴こえるのは、主題が神だから。敬虔なクリスチャンでもあるDonnyだからこそ歌える内容であり、その歌声には一点の曇りもない。




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プライベート・パーティのような居心地の空間 - Donny Hathaway 『Live』

folder あくまで一般論だけど、ソウル/ファンク系ミュージシャンのライブ・アルバムというのは、会場の熱気をそのまま逃さず、すぐさま真空パックに封じ込めたような、とにかくエネルギッシュなものが多い。これはソウルだけに限らず、ロックでもポップスでも似たようなものだ。一度、日本のアシッド・フォーク(森田童子だったかな?)のライブ・アルバムを興味本位で耳にしたのだけど、なんかすっごいダウナー系で、聴いてるうちにやり切れない心境になった記憶があるけど、そういったのはごく少数だろう。

 特異な例外は抜きにして、ほぼすべてのライブ・アルバムに共通しているのは、スタジオだけでは再現できないリアルな臨場感だろう。直にオーディエンスの前で反応を見ることによって、演奏にもパフォーマンスにもアッパー系の化学反応が生じる。オーディエンスから多量のアドレナリンが放出されることによって、会場は興奮の熱気に包まれ、そしてアーティスト側も普段じゃとてもできないプレイを繰り出すことが可能となる。ライブ・パフォーマンスの理想的なフォルムである。

 で、 Donny Hathaway のこのライブ・アルバム。ビルボードでは最高18位だけど、ロング・ヒットになったおかげでゴールド・ディスクを獲得しており、いまだソウルのライブ・アルバムの中では、確実に5本の指に入る名盤である。で、他の4本は何かと言われたら、え~、JBとファンカ、Sam Cookeにアースと…、ダメだ思いつかね。

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 時代はちょうど70年代初頭、ニュー・ソウルの嵐が吹き荒れていた頃である。ヒット・ファクトリーでの大量生産的極甘ポップ・ソウルばかり歌わされることに辟易したソウル・アーティストらが、自分の深層心理に深く切り込み、または外部の社会情勢や政治に辛辣な視点を向けたり、様々な角度からオリジナリティを追求していったその時代。
 Donnyもまた、既存のパーティ・ソングからは距離を置き、博愛主義的自己主張を強めた、サウンド的にも歌詞世界的にも内省を極めたアルバムをリリースしていた。誰もが右なり左の立場に立ち、そしてその根拠や主張を求められる時代。ベトナム戦争と公民権問題に揺れるアメリカにおいて、意識的な黒人アーティストは、確固たるステイトメントを求められていた。

 シャイな人柄ゆえ、パフォーマーというよりはむしろコンポーザーに向いていたのだと思う。このアルバムにおいては素晴らしいパフォーマンスなのだけど、常に最上のプレイができるとは限らない。もし彼がKeith Richards並みのメンタルだったら、多少の躓きくらいなら、ジャック・ダニエルをあおってドラッグのひとつでもキメてしまえば忘れてしまうのだろうけど、あいにくDonnyはそういったタイプではなかった。Keithのような、ある種の図太さ・図々しさが足りなかったのだろう。
 作品への強いこだわりがこじれて捻じれてしまったがゆえ、晩年はなかなか作品を仕上げられず、半隠遁状態に陥ってしまう。
 そしてその後、悲劇的な結末へと繋がる。

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 Donnyの心の闇がどれだけ深かったのか、主因は如何なるものだったのか、今でもはっきりとはわかっていない。創作上のトラブルなのかプライベートな問題なのか、それとももっと根の深い問題だったのか―。
 それは家族でさえ、そして盟友Roberta Flack でさえ触れることのできない、とてもとても深く暗い核があったのだろう。
 もしその苦しみを、ほんの少しでも和らげるものがあったのなら―。
 
 Keithを含む様々なミュージシャンのように、酒やドラッグに走ることが最も手っ取り早い手段のはずだが、自らを厳しく律するDonnyの人柄から、そういった方面へ逃げることは考えにくい。逆境から逃避することもひとつの方法のはずなのに、それもまた自己修練として捉えてしまい、さらに負のスパイラルに嵌まる。
 そして、結局自分で自分の尻尾を喰ってしまうような自家中毒に陥った挙句、最終的にはホテルの屋上から飛び降りることによって、自ら強引に人生の幕を引いてしまった。何もそこまで思い詰めなくても良かったのに…、とは、残された者の戯言に過ぎない。
 彼にとっては、これが最上の方法だった。
 自らすべての落とし前をつけるためには、この方法しか残されていなかったのだ。


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1. What's Goin' On
 大定番のMarvin Gaye。このアルバム・リリースが1972年、『What’s Going On』が1971年リリースのため、ほぼ直後にライブで披露されている。ライブのオープニングからカバー曲というのは、オリジナリティ的にはかなりマイナスのはずなのだけど、いい曲であれば無問題なのか、そういったこだわりは薄いのだろう。オーディエンスの反応も良く、バンドのプレイも冒頭からグルーヴ感あふれまくり。
 ギターはPhil Upchurchというセッション系のミュージシャン。自己主張はそれほど強くないのに存在感があり、ナチュラル・トーンとメロディに沿ったオブリガードが特徴。David T.Walkerが好きな人なら気に入るはず。
 
2. The Ghetto
 早くもA面クライマックスとなる12分超の長尺曲。デビュー・アルバム『Everything is Everuthing』に収録。アタックの弱いドラムとコンガをメインとしたソフト・リズム・サウンドは、一聴するとMarvin Gayeへのリスペクトと思われがちだけど、本人的にはさほどそんな意識はなく、ただメロディと歌詞に合った響きを求めると、こんな感じになりました、という結果。確かにMarvinと比べると、自らエレピを弾いているだけあって、鍵盤系の出番が非常に多い。この辺がやはり他アーティストとの差別化、オリジナリティなのだろう。
 オリジナルも7分超の大作。音の分離が良いため、リズムと鍵盤とがきれいにキッチリ分かれており、スロウ・ファンク的な趣があるのだけど、このライブ・ヴァージョンではもう少しまったりと、バンド・グルーヴを重視した演奏になっている。俺的には、このライブ・ヴァージョンの方が好み。
 


3. Hey Girl
 コンガで参加しているEarl DeRouenによる作品。Donnyといえば重く考えさせられる社会的な歌も多いのだけど、本人作ではないせいか、全キャリアを通してもポップな作りである。リズムが立っているのが特徴だが、メロディも覚えやすく口ずさみやすいことが、この曲の魅力。
 ドラマー制作による楽曲は往々にしてリズム中心で、歌はおざなりな曲が多いのだけれど、Donnyとの相性が良かったのか、ヴォーカルの個性を生かした音作りになっている。前にも取り上げたけど、Alice Clarkもカバーしているので、ミュージシャン好み、プロとしても取り上げたくなる楽曲なのだろう。
 


4. You've Got A Friend
 イントロのピアノのフレーズが始まった途端、会場から沸く歓声。オリジナルはご存じCarole King、同じ年に盟友James Taylorもカバーしており、すでにこの時点から名曲扱いされていたと思われる。Roberta Flackとのデュエット・ヴァージョンもあり、そちらも有名なのだけれど、圧倒的にこのライブ・ヴァージョンの方が良い。
 この曲に限らずこのアルバム、全編通して「白熱のライブ!!」とか「熱狂の観衆!!」など、一般的なライブ・アルバムとはちょっと方向性が違っている。熱狂と表現するには根幹の部分はクレバーであり、いい感じに温かみのあるムードが漂っている。
 サビに入る頃、Donnyは客席へマイクを向け、みんなにコーラスを求める。彼の自宅で行なわれるホーム・パーティがステージ・サイズにスケール・アップしたような、非常に居心地の良い空気感とムードが、ここでは流れている。

5. Little Ghetto Boy
 ここからはレコードで言えばB面。ちなみにA面がLAのライブハウスTroubadour、そしてこちらはNYはBitter Endでの収録。
 この曲はEarl DeRouenとDonnyとの共作。オリジナルはアルバム未収録で、サウンドトラック『Come Back Charleston Blue』が初出。タイトルからわかるように、ゲットー在住の黒人少年へ呼びかける歌詞で、微かな希望と正義を訴える内容である。性善説が信条のDonnyにとって、これほどしっくりくる歌はないだろう。彼のメッセージのエッセンスが、ここには凝縮されている。
 歌詞はシリアスで重い内容だけど、ライブではそこまで深刻な流れになっていない。ひとつの良質なソウル・ナンバーとしてしっかり作られており、決してメッセージ優先というわけではない。
 NYという土地の空気がそうさせるのか、LAよりも少しファンキー指数が高まっているのは、気のせいだろうか。それともギターがCornell Dupreeにチェンジしたせいもあるのか。
 ちなみに近年ではJohn LegendがThe Rootsとコラボしたアルバム『Wake Up!』にて、愛情あふれるカバーを披露している。サウンドはモダンになっているが、根っこの部分はしっかり押さえているので、こちらも必聴。

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6. We're Still Friends
 ちょっとしたMCの後、シンプルなコード演奏、ミステリアスな導入部。すこしダークでネガティブな曲調が、ライブの一連の流れのアクセントとしては絶妙。でもやっぱ重いな、ちょっと。

7. Jealous Guy
 ご存じJohn Lennonの屈指の名曲。情けなくちょっぴり弱気な数多くの男たちへの応援歌でもあり、それはDonnyにとっても同じだったのだろう。Johnよりはもう少し力強いヴォーカルで、ピアノも打楽器的なアプローチでプレイされている。

 


8. Voices Inside (Everything Is Everything)
 オリジナルは3分程度だけど、ここではなんと13分超、ほぼジャム・セッション的に演奏が延々と続く。Donnyのエレピ・ソロを中心として、各メンバーのソロを挟めつつ、観客の興奮のヴォルテージと比例して、グルーヴも最高潮に達してゆく。特にWillie Weeks(B)、この時点では若干24歳。なのに、どうしてこんなベースが弾けたのだろう。Donnyとの相性が良かったのか、それともこのライブという空間がそうさせたのか。




 もともと量産タイプの人ではなかった。
 人ひとりが言いたい事訴えたい事なんて限られてる。そう次々と新しいメッセージや主張がポンポン出てくるわけがないのだ。
 多くの表現者が過去作の拡大再生産や主張の水増しによって延命を図ることは、Donnyにとってはファンへの裏切り、そして自身に対する欺瞞として映った。そのあまりの誠実は逆に自身の表現活動を窮屈にし、そして遂には自身の生活をも追い込んでいった。
 自身の表現を妥協せずに追求してゆくことは、必然的に寡作にならざるを得ない。どれだけ作業に打ち込んだとしても、ファースト・インプレッションからは次第に遠のいてゆき、そしてそれは二度と戻って来ないのだ。

 早逝したDonnyの死を悼むファンは今でも多い。いま現在においても未発表音源やライブの発掘は続いているが、やはりこのアルバム以上のクオリティの物は存在しない。
 あの時代、あのメンバーで、そしてあの場所の磁力が生み出したサウンドである。
 歌は永遠に残るけれど、あの空気感を再現することは、もはや不可能だ。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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