好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Brand New Heavies

「何でもアリ」だった頃のアシッド・ジャズ - Brand New Heavies『Heavy Rhyme Experience Vol. 1』

folder ― アシッド・ジャズ(acid jazz)は、1980年代にイギリスのクラブ・シーンから派生したジャズの文化。ジャズ・ファンクやソウル・ジャズ等の影響を受けた音楽のジャンル。

 Wikiではこのように定義されているアシッド・ジャズ。以前レビューしたWorking Weekを基点として、20年代のスイング・ジャズから70年代のジャズ・ファンクまでを網羅、その他にもラテンにボサノヴァ、カリプソやソウル、ファンクやラップ、ヒップホップまで、要は「踊れるか・踊れないか」というシンプルな基準でもって貪欲に吸収。さらにクラブ・ユース仕様と記録メディアの販売促進を見据えて、ソウルフルなヴォーカルを載っける、という定義が確立したのが90年代。
 なので、非常にアーバンでトレンディでソフィスティケイトされたジャンルに思われるけど、根っこはひどく雑食性、「何でもアリ」の音楽である。

 そもそものルーツであるWorking Week自体が、80年代初頭のUKニューウェイヴ出身だったため、当初はクラブ・シーンを主体とした現場感覚バリバリの音楽であり、DJ文化との相互作用もあって、純粋なライブ音楽としての需要がメインだった。CDなどの記録メディアで堪能するモノではなかったのだ。
 それが80年代末に入ってから、UKグラウンド・ビートを「発明」したSoul Ⅱ Soulの登場によって、一気に流れが変わる。いまだアシッド・ジャズ界の親玉として君臨するカリスマDJ Gilles Petersonが設立したレーベルTalkin' Loudから、Incognito やGallianoらがデビュー、本格的なアシッド・ジャズ・ムーヴメントを巻き起こすに至る。

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 その後は日本発のKyoto Jazz Massiveやモンド・グロッソ、60年代モッズ的なイメージ戦略を打ち出したCoduroyなど、多種多様なアーティストがわんさか登場してきたけど、一般的にイメージされている「アシッド・ジャズ」とはIncognito的、「ちょっぴりダンス寄りビートのアーバンR&B」といった認識である。その後の二番煎じ・三番煎じ的に登場したユニットは、ほぼ彼らが創り出したフォーマットを踏襲している。
 そんな中、声質的にはソウルっぽさの薄いJay Kayをメイン・ヴォーカルに据えたJamiroquiは、フォーマットを基準とすれば異端に思われるけど、彼がデビューしたての90年代初頭は、一緒くたにアシッド・ジャズと言っても百花繚乱、70年代ニュー・ソウルっぽさを特質とした彼らもまた、冒頭の定義に沿えば充分アシッド・ジャズのアーティストである。
 今ではすっかりジャンルに収まらないポジションを確立してしまった彼らだけど、そういったバイタリティをも広くカバーしていたのが、初期のアシッド・ジャズであり、「何でもアリ」という本来の意義に沿うと、本質をしっかり捉えていたのは彼らだったということになる。

 Marvin GayeやIsaac Hayesらからインスパイアされた、繊細かつダンサブルなグラウンド・ビートを載せることで、一気にシーンを席巻したのがJamiroqui だとすると、さらにメロウR&Bの要素を付加したのが、『Brother Sister』以降のBrand New HeaviesでありIncognito。勃興期は他のアーティストとの差別化として、様々なアイディアや新たな発想がボコボコ生まれていたのだけど、シーンの安定化と共にクリエイティヴ性が失われてゆく。
 ブーム末期のプログレやハードコア・パンクが次第に様式美化してゆくのと同じ途を辿るかのように、アシッド・ジャズもまた、どれを聴いても大差ない、ごく平均的なサウンドへと収束してゆく。
 Maysa LeakやN'Dea Davenportらをメインに据えたヴォーカル & インストゥルメンタル路線も多様性のひとつに過ぎなかったはず。第一Brand New Heavies自体、UK版デビュー・アルバムはヴォーカル無しのオール・インストだったし。その他にもシーン全体が、DJカルチャーの影響によって、様々な音楽性を内包していたはずなのに。
 どこでどう、袋小路にはまり込んでしまったのか。

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 クラブ・ミュージックという大枠で捉えられるアシッド・ジャズは、もともとじっくり腰を据えて鑑賞する類の音楽ではない。「聴く」というよりは「感じる」、言ってしまえば、ダラダラ酒でも飲みながら、ユラユラ体を任せて聴く音楽である。海外なら、これにドラッグ・カルチャーが絡んでくるのかな。
 他のダンス・ミュージック同様、いわゆるムード音楽/環境音楽としてのリスニング・スタイルが主だったため、トレンドの消費サイクルの早さに追いつけなかったこと、また、時代の徒花的な有象無象のユニットの乱立によって、永続的なクオリティ維持が図られなかったことが、アシッド・ジャズの悲劇だったわけで。

 多くのユニットでイニシアチブを握っていたのが、プレイヤーではなくコンポーザーが多かったことも、ブーム終焉を速めた要因のひとつである。
 一般的なロック/ポピュラー・グループと違って、フィジカルな演奏者より、DTMを主体としたトラックメイカー、もしくはレア物掘りに執心したビニール・ジャンキー上がりのDJがシーンを牽引していたのだけど、市場シェアが大きくなるのと比例して、徐々に現場との乖離が大きくなる。市場原理に基づいた、最大公約数的なフォーマット「無難なアーバンR&B」の乱立が、急激なマンネリ化を招いた。要は飽きられてしまったのだ。
 マンネリ化を招いたのは一部クリエイターの責任もあるけれど、そもそもクラブ・シーン自体が急速なペースでアップデートを繰り返す空間であり、消費し尽くすことは、むしろ善である。クリエイトし尽くした後は、新たなアプローチを探すなり、または見つければよいのであって、しがみつくことは逆に「ダッセェ」と受け取られる。
 なので、優秀なクリエイターはブームの終焉を待つことなく、とっととテクノやレイブ、ゴアトランスなど、とっくの昔に最新トレンドの二歩先・三歩先へと鞍替えしてしまった。じゃないと生き残れないものね、あの人たちって。

 常に最先端のサウンドを追い求める層は、どの時代においても一定数は確実に存在する。けれど、皆が皆、トレンドばっかりを追いかけているわけではない。マスの大多数は音楽に対してそこまで深入りしてはいない。むしろ良いコンテンツは比較的後世にも残る場合が多い。
 アクティブなダンス・ミュージックとしてではなく、例えばフュージョン~AORのような機能的なドライブ・ミュージックとして、アシッド・ジャズのエッセンスは連綿と生き残っている。もしかして日本だけなのかもしれないけど、週末の夕方や平日深夜のFMなど、彼らのオンエア率は一時、かなりの高率をマークしていた。
 ま、たまたまFMを聴くことが多いのがその時間帯だった、という俺の主観ではあるけどね。

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 前述の「メロウなR&B」といったアシッド・ジャズ特性を持つBrand New Heaviesだけど、Incognitoと比べるとダンス・シーンとの親和性が高く、いわゆるバラード系よりも横揺れ16ビートの使用率が高い。本人たちはそこまで意識していないかもしれないけど、結果的に市場ニーズに基づいた彼らのサウンドは、静・動併せ持つあらゆるシーンにおいて活用できる。汎用性高いんだよな。
 オール・インストとなったデビュー作は、そこそこの評価を得た。通好み仕様としてあまり多くは広まらず、かといって惨敗するまでもなく。最初にしては堅実な成績だった。
 普通なら、インスト・サウンドの完成を目指すべく、深化という名の自己増殖を繰り返すものだけど、プレイヤビリティの強い彼らは、そこから別の深化を志すようになる。
 現在のR&B的アシッド・ジャズのセオリーから一旦外れて、ガチのヒップホップやラガマフィンを貪欲に取り込む実験作となったのが、この『Heavy Rhyme Experience Vol. 1』。vol.2も製作する予定だったらしいけど、いつまで経ってもリリースはおろか制作状況すら伝わって来ず、結局、だいぶ経ってからリリースされたVol.1のデラックス・エディションで、この件は終いになったっぽい。

 いわゆるアシッド.・ジャズ「っぽい」音楽ではなく、彼らのディスコグラフィの中では実験作的なポジションなので、あんまり売れなかったのかなと思いきや、チャート上ではそこそこの成績を残している。当時はこういったサウンドも「アリ」とジャッジされていたのだ。ちょっとうるさ型の評論家やマニア筋からは、絶大な評判だった。
 だったのだけど、せっかくのブームの真っ只中に便乗しない手はなく、さらなる拡販策を講ずるため、彼らは方向修正を余儀なくされる。
 世間のニーズが一般的に認知された「アシッド・ジャズ」セオリーに則ったサウンドにあったため、またヴォーカルを含めたバンド・アンサンブルへの興味もあったため、ソウルフルな歌姫N'Dea Davenportを召還、次作『Brother Sister』で本格的な世界的ブレイクを果たす。
 ただこれが売れに売れてしまったがため、彼らのアーティスト・イメージが固定されてしまったことが、逆に彼らの迷走に拍車をかけてしまったわけで。

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 脱・アシッド・ジャズなのか脱・N'Deaだったのかは不明だけど、その後の彼らはアルバム毎に女性ヴォーカルを入れ替えて『Brother Sister』越えを模索する。するのだけれど、ワンショット参加だったはずのN'Deaが残したインパクトは予想以上に大きく、また新メンバーとの相性もなかなか折り合いが合わなかったため、試行錯誤を繰り返すことになる。しばらくの間、オリジナル・リリースは散発的、空白の期間はレーベル主導による大量のベストやリミックス・アルバムでお茶を濁すことになる。オリジナル:非オリジナルの対比は、まるでジミヘンを思い起させるほどのアンバランスさである。
 良く言えばレーベルの不断の努力の甲斐もあって、シーンからの完全撤退は免れてはいたけど、近年になるまでユニットとしての活動は不安定だった。
 2013年『Forword』にて、久し振りにN'Deaとのコラボが復活した。双方ともこれまで何かといろいろあったけど、年月を経て色んなわだかまりが解けたのだろうと思われる。

 日本では何となく地味なポジションになってしまったBrand New Heavies。でも未だ前向きな姿勢を忘れていないBrand New Heavies。そんな彼らが2015年にリリースしたレイテスト・アルバムは、なんとここに来て、デビュー以来のオール・インスト。開き直ってアーバンR&Bに復帰したと思ったら、またここで原点回帰である。
 守りに入ることを拒み、前のめりで進むことを選択した彼ら、そのルーツとなったのがヒップさを強調した粋なデビュー作であり、そしてプログレッシヴ・ヒップホップ・アシッド・ジャズとも称される『Heavy Rhyme Experience Vol. 1』である。長いな、こりゃ。たった今、思いつきで書いちゃったけど。

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1. Bonafied Funk (featuring Main Source)
 90年代初頭に活動していた、アメリカ/カナダの混成ヒップホップ・グループとのコラボ。リーダーのLarge Professorはその後、ソロと並行してプロデューサーとしても活躍している。とは言っても俺、そっち方面の知識はほとんどないので、いま必死こいて調べている。これまで手掛けたリストは長大にのぼり、さすがに俺も名前くらいは知っているNASにも深く関わっていたらしい。

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2. It's Gettin' Hectic (featuring Gang Starr)
 21世紀に入るまで長きに渡って活動していた、NY出身のヒップホップ・ユニット。メンバーのDJ Premier、これも名前だけは知ってる。この人もプロデューサー/コンポーザーとして多くのアーティストとコラボしており、あくまで俺が知ってるところでは、前述のNASを始めとして、D'Angelo、Dr. Dre、Mos Def など、有名どころからはほぼお声がかかっている。近年もChristina AguileraやKanye Westなどジャンルを飛び越えた活動も展開しており、なかなか衰えを知らぬところ。
 生演奏とヒップホップとのミックスはBeckも先駆けて行なっていたけど、バンド・アンサンブルを巧みに織り交ぜてる面において、グルーヴ感としてはこちらの方が上。

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3. Who Makes the Loot? (featuring Grand Puba)
 オールドスクール時代から活動しているラッパーで、近年も肩の力の抜けたグルーヴィー・ソウルなソロ・アルバムをリリースするなど、精力的に活動中。ちらっと視聴してみたけど、ヒップホップ・アレルギーのある俺でも聴きやすいテイストでまとめられている。
 その力の抜け方は昔も今も変わらず、ここでも脱力系ラップを披露。

4. Wake Me When I'm Dead (featuring Masta Ace)
 NY出身の伝説的グループJuice Crew出身で、その後、ソロに転身したMasta Ace。軽快なラガマフィン調のフロウに疾走感があって、これもロック/ファンク好きのユーザーとは相性が良い。この人もそうだけど、みんな今に至るまでコンスタントに活動続けてるんだな。

5. Jump 'n' Move (featuring Jamalski)
 このアルバムの中では最もキャッチーで親しみやすいトラック。ラップ本来のライムの連射が聴いてて気持ちいい。ラップはほんと全然知らないけど、こういう人が俗に言う「上手いラッパー」なんだろうな。ほんとは全然違うのかもしれないけど、俺はそんな気がする。



6. Death Threat (featuring Kool G. Rap)
 そうか、バック・トラックのエッジが立ってるから、どのライムも数段上手く聴こえるのか。どんなに上手くトラックをつないでも、やはりフィジカルな演奏には敵わない。多分にジャジー・ラップに理解のあるキャラクターを中心に人選しているのだろうけど、ヒップホップの方へと歩み寄った整然としたアンサンブルは、簡単に構築できるものではない。
 ソロのPVを見ると、典型的なギャングスタ・ラップなので、やはり俺には興味の薄い世界。でもここではその悪童振りもバンド・サウンドに圧倒されている。

7. State of Yo (featuring Black Sheep)
 活動休止と再始動を繰り返しながら、時々思い出したように活動しているNY出身のヒップホップ・デュオ。ちなみにラッパーDresの息子がHonor Titusで、彼もまたミュージシャン。でも何故だかやってるのはハードコア・パンク。なんだそりゃ。
 単調なギター・リフはともかくとして、ラップ自体は取り立てて面白くはない。ロックの耳ではちょっと難しいのかな。

8. Do Whatta I Gotta Do (featuring Ed O.G.)
 キャリアとしてはレジェンド級のラッパーなのだけど、考えてみればこのアルバムのリリースが92年、Run-D.M.C.のブレイクが86年なので、この時点ではみんなまだ大御所感もなく、ちょっと若手の中堅どころといったポジションなのだった。そう考えると、こういったサウンドをも取り込もうとしていたBrand New Heaviesの先見性が窺える。ただちょっと早すぎたし、アシッド・ジャズの客層にはフィットしなかったんだけどね。

9. Whatgabouthat (featuring Tiger)
 さすがにほとんど予備知識のない状態で書いてるので、「Tiger」だけじゃどんなアーティストなのか、さっぱり調べがつかなかった。Youtubeに転がっていた静止画によって風貌がわかったけど、う~ん胡散臭い。

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10. Soul Flower (featuring The Pharcyde)
 ラストは大団円、パーティ・トラックっぽいハッピー・チューン。なんとなくリップスライムっぽいところも日本人ウケしそう。マシンガン・トークを思わせる高速ラップはクドさがなく、しかも程よいチャラさがあるので俺的には好み。すっごい遅ればせながらだけど、これはちゃんと聴いてみようかな。「Passin' Me By」も良かったしね。





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チャラいと思われてるアシッド・ジャズの中では男臭い方 - Brand New Heavies 『Forward』

folder 2013年リリース、オリジナルとしては多分6枚目か7枚目かのアルバム。結成されたのは1985年だけど、アシッド・ジャズの名門その名も「Acid Jazz」レーベルからデビューしたのが1990年なので、キャリアとしてはそれほど長いわけではない。
 なのに、なんでこんな曖昧なカウントになるのかと言うと、USとUKとで収録曲が違っていたりリミックス盤がリリースされていたりで、その辺がどうもはっきりしない。それに加えてヒップホップ・アーティストとのコラボものやライブ・アルバム、まぁこの辺はいいとしても、やたらとベスト盤が多いのもディスコグラフィを混乱させている要因である。しかもここに来日記念盤として、日本独自規格のアイテムもあったりする。
 それだけ粗製乱造寸前のリリース状況にもかかわらずこの『Forward』、前回のオリジナル・アルバム『Get Usedto It』から7年のインターバルがある。それだけニーズがあってのリリース・ラッシュという見方もできるけど、その辺は実のところそう簡単でもなく、何やら契約のトラブルによって、思うようなリリース計画が立てられなかった事情もあるらしい。その辺にケリがつくまでは、大人同士のキナ臭い取り引きもあったんじゃないかと思われるけど、それについてはこのインタビューでもある程度語られている。何かと複雑な経緯があったらしく、ここでも慎重に言葉を選んではいるけど、ほとんどの作詞・作曲を手掛けるリーダー兼コンポーザーのAndrew Levyが、その辺をできるだけ正直に語っている。
 まぁいろいろめんどくさい事情が絡んではいたのは察せられるけど、そういった権利関係をどうにかクリアして、久し振りにリリースされたのが、これ。この後はリリース関係も活発化して、コンスタントなリリースを続けている。

 「1980年代にイギリスのクラブシーンから派生したジャズの文化。ジャズ・ファンクやソウル・ジャズ等の影響を受けた音楽のジャンル」というのが、wikiから丸々コピペしたアシッド・ジャズの定義。代表的なアーティストとして、JamiroquaiとIncognitoがこのジャンルの2大巨頭として永く君臨しており、そこからちょっと遅れたところで後塵を拝しているのが、このBrand New Heaviesといった具合。彼らの後に続くのがJames Taylor Quartet やCorduroyらで、ここら辺から一気に小粒になる。
 ジャンル発祥から四半世紀が過ぎようというのに、未だ創成期のレジェンド達を超える存在が出てこない、ジャンルのピークが90年代でMAXに達してしまい、サウンドの進歩があまり見られないことも、イマイチ伸び悩みの要因でもある。
 21世紀に入ってからもSnowboy やOmarらの新世代がシーンの活性化を図っており、実際ファン層も拡大しているのだけれど、反面、彼ら自身はアシッド・ジャズにそれほど強い執着は無さそうにも感じられる。何も好きこのんで斜陽気味のジャンルに義理立てする必要もないし、逆にこだわり過ぎて小さくまとまってしまうのもつまらない。
 レコード会社サイドからすれば、何がしかのジャンル付けを行なわないとプロモーションがめんどくさくなるし、一時の勢いはないとはいえ、過去の実績と根強いニッチなニーズを考慮すると、大きな爆発力はないけど、確実な収益を見込めるジャンルであることは間違いない。なので、レジェンド枠のアーティストらはいつまでもアシッド・ジャズにカテゴライズされ続けることになる。アーティスト・サイドとしても、そういった看板の方が食いっぱぐれが少ないので、まぁいつも通りといった具合になる。

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 逆に言えばこのジャンル、あまり大幅な構造改革は歓迎されない傾向にある。どのバンドも基本、ヴォーカル&インストゥルメンタルといった構成なのだけど、アルバムごと曲ごとにヴォーカルが変わることも多いため、一見自由な音楽性として捉えられがちだけど、前述した定義のフォーマットを大きく逸脱することは、ほとんどない。一応、時代に即した音作りとして、流行りのエッセンスを入れることもなくはないけど、基本は「アーバンでトレンディでハイソサエティな世界」、独り暮らしの高層マンションや深夜のドライブのカーステが似合う世界観は変わらない。
 なのでこのアシッド・ジャズ、サウンドの基本フォーマットはライトな70年代ファンク&ソウルとファンキー・ジャズの程よいミックス、と相場が決まっている。有名無名を問わず、多くのアーティストはその配合比率の微妙な違いのみ、キャリアを通してもほぼ一貫した音楽性を維持している。他のジャンルだと、バンドの技術スキルや音楽性の変化に伴って、デビュー時と最新作とではまったく別物になっている場合も多いのに、このジャンルにおいては、はっきり言って新旧それほどの差は感じられない。そりゃ90年代の全盛期と現在とでは取り巻く環境も違うけど、ベーシックな部分は盤石である。ある意味、すでに完成され尽くしたジャンルとも言える。
 近年のジャズ・ファンクにも同じことが言えるのだけど、もともと高い演奏スキルが要求されるジャンルのため、基本、プレイヤビリティに長けた敏腕プレイヤーらが自然と集まることになる。もともとライブで演奏するのが好きな連中がほとんどなため、音楽性の進化なんて小難しいことは考えず、とにかく好きなプレイができてりゃそれでオッケーさ、というアーティストが多い。

 なんかこう書いてると、アシッド・ジャズとはほんと行き詰まりのジャンルのように思われそうだけど、それでも新陳代謝は図られているし、実際根強いニーズはある。カップ・ヌードルのCMにまで登場したJamiroquaiはお茶の間での認知度は上がったし、IncognitoなんてVenturesとタメを張るくらい、何かにつけしょっちゅう来日している。FMやテレビでのムーディーなBGMにおいても需要が高く、ちょっとシャレオツなショップやサロンにおいてもインテリアの一部として機能する、汎用性の高い音楽である。前述のアーバンでトレンディな空間演出には格好のアイテムでもある。
 なので、ある程度使用される空間が限定される分だけ、ちょっと損してるきらいはある。はっきり言ってしまえばバブリーな、チャラい印象が先立ってしまうジャンルである。先入観さえ抜いてしまえば、高い音楽性に裏づけされている完成度の高い音楽だというのに。

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 で、このBrand New Heavies、アシッド・ジャズの中では代表的ではあるのだけど、バンド・サウンドのベクトルが強いため、二大巨頭とは方向性がちょっと違っている。極端な話、ヴォーカルを入れなくても成立するトラックも多く、サウンドだけ取り出すと「ファンク成分多めのジャズ・ファンク」といったスタイルである。
 そもそもの成り立ちがインスト・ファンク・バンドとしてスタートし、メジャー・デビューにあたって女性ヴォーカルN'Dea Davenportが加入したといういきさつなので、よくある「サウンド・クリエイター+女性ヴォーカル」という構図とは微妙に違っている。バンド・サウンドを前提として楽曲が構成されているので、いわゆるウワモノであるヴォーカルをいろいろ変えても、根本的なところはほとんど揺るがない。アシッド・ジャズの常道であるソウルフルなヴォーカルにこだわらず、ヒップホップ/ラップ系のアーティストとも積極的にコラボしていたりするところが、他のアシッド・ジャズとの差別化となっており、ジャンルに収まらない活動を行なっている。
 まぁそれがすべてうまくハマっているわけでもなく、新機軸がイマイチ馴染まない時はN'Deaを呼び戻したりなど、それなりに試行錯誤しているようである。安定したバンド運営だけを考えるのなら、彼女固定で活動すればよいものの、きっとそういった路線だけでは彼らのアーティスト・エゴは満たされないのだろう。
 そういった意味で、Brand New Heaviesはアシッド・ジャズの範疇に収まらないバンドである。


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1. Forward
 ややオリエンタルなテイストなキーボード・ソロと、軽く心地よいリズムとの対比が絶妙なインスト・ナンバー。ただ心地よいだけじゃなく、構成的にもメリハリがあるので、飽きが来ない。こういうのってどこかで聴いたような…、そう、YMOだった。

2. Sunlight
 ここでディーヴァN'Dea登場。冒頭のハミングだけで、バンドの雰囲気を一変させる。そう、ここは輝かしかった90年代。サビに向かうに従って徐々に盛り上がりを見せるカノン・コードは日本人的にもめちゃめちゃシックリ来る。演奏陣もまた、時たま見せる白玉コード、荘厳かつリズミカルなストリングス、チャラいホーン・セクション.どれを取っても王道アシッド・ジャズ。下手な小細工も入れず、高らかに復活をアピールしている。



3. Do You Remember
 多彩なサウンドを展開するBrand New Heavies、今度は一気に80年代、プレ・ユーロビートな世界へ跳ぶ。ドラムは軽く、シンセ・ベースも当然軽い。すべての音はきちんと鳴ってるはずなのに、まるでここだけリマスターしていない80年代のCDのような響き。でもそこがStock Aitken Waterman的なレトロ・フューチャー。
 再びヴォーカルはN’Deaだけど、こういったライトなダンス・チューンも普通に歌いこなしてしまうのが、この人の味。

4. On The On
 と、ここでリズムのボトムが一気にグッと下がる。ここでのヴォーカルはドラムのJan Kincaid。正直、そんな上手いわけでもなく、さりとて味があるわけでもないまぁやりたかったんだろうね。正直、バック・ヴォーカルのDawn Josephがメインで歌った方がいいんじゃないかと思ってしまうのだけど、まぁやりたかったんだろうね。

5. A Little Funk In Your Pocket
 で、そのDawnがメインとなる、いい感じのアシッド・ジャズ直球ナンバー。レゲエを基本リズムにファンキーで泥臭いギターがミスマッチ感を煽っているけど、これはこれでうまくハマっている。やっぱりサウンド・デザインがしっかりしてるから、ちょっとハズした音でも受け止めちゃうんだよな、きっと。

6. Addicted
 一時期、FMのパワー・プレイとして流れまくったキラー・チューン。クレバーかつホットさを秘めたN’Deaのセクシーなヴォーカル。メロディ・パターンもほぼ固定、サビも大きな盛り上がりはないのだけど、これほどクールなダンス・チューンは久しぶり。やればできるじゃん。まぁすったもんだでできなかったんだけど。



7. Lifestyle
 再びDawn。ここまで聴いてみて、歌い上げるグルーヴ・チューンをN’Deaに、リズムの強いダンス・チューンを彼女に振り分けているみたいだけど、その辺は長い経験の上でいい判断なんじゃないかと思われる。Dawnの場合、そのハスキーさがライトなリズムとの親和性は高いのだけど、ある意味アシッド・ジャズのフォーマットとしてはやや定石をはずしている。ただ、「それでも俺たちがやりゃ全部Brand New Heaviesさ」とでも言いたげに、様々な挑戦を行なっている。

8. Itzine
 ドス黒いスラップ・ベースを前面に押し出した、ミドル・テンポのインスト・ファンク。ギターが入ると途端にフュージョンっぽくなってしまうのはご愛敬。ここは鉄壁のリズム・セクションの独壇場。ボトムがしっかりしているので、どうやっても上物のメロディが引き立つ仕組み。ホーン・セクションはアシッド・ジャズ・オールスターズ・プロジェクトSound Stylisticsからの絡みで参加しているので、そりゃもう手慣れたもの。
いわゆるスタジオ・セッション的なナンバーだけど、こんなのいくらでもできるんだろうな。

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9. The Way It Goes
 再びJan登場。ここで一気にガレージ・ロック的な空気になるのだけど、独特のコード進行にほどほどにファンキーなホーン・セクション、強いリズム・セクション。そう、この空間はSteely Dan。どうりで俺、居心地がいいはずだ。ほんといい意味でも悪い意味でも、Steely Danの新作といった趣き。俺的には好きな世界だけど、アシッド・ジャズ的には賛否両論だろうな。

10. Lights
 俺的にこのアルバムのキラー・チューン。演奏陣とDawnとの拮抗したセッションが一番堪能できるのがこのトラック。ややおフレンチが入ってるところもツボ。地味なんだけどクセになる。それこそがアシッド・ジャズの本質でもある。チャラくてキラキラしてるだけじゃないんだよ。



11. Turn The Music Up
 本編エピローグ的なインスト・ナンバー。と言いたいところだけど、Manhattan Transfer的にN’DeaとギターのSimon Bartholomewによるコーラスが入る。もしかして、メロディがうまく乗らなくて、こういった形でリリースしたんじゃないかと思ってしまうくらい、それほどキャッチーなナンバー。でも、これはこれでいいのかな。中途半端なメロディを乗せても、確かにこの享楽的な世界は壊れてしまうかも。

12. Heaven
 さて、ここからは男の世界。キラキラした本編が終わり、ここからは男性ヴォーカルが3連発。本来ならN'Deaが歌いそうなところを、なぜかコーラスから何から男性で固めている。なので、どこかデモ・テープ的にも聴こえてしまう。歌いたかったのかな?

13. Spice Of Life
 ここではさらにパブリック・イメージからかけ離れ、お子ちゃまの掛け声からスタートする、チープなリズム・ボックスを模したニュー・ウェイヴ的なナンバー。お遊び的なところを狙ってるのか、ここでのヴォーカルはギターのSimon。まるで脱力系オルタナのようなガレージ・サウンドは、まぁ真剣に取らない方が良い。

14. One More For The Road
 ラストは荘厳としたストリングスからスタート、ラウンジっぽいリズムとホーンがムードたっぷり。男性ヴォーカル・パートでは多分、これが一番じゃないかと思われる。Janのヴォーカルは決してうまくはないけど、ゆったりした横揺れリズムと脱力感とがうまくマッチしており、独特の世界を創り出している。
 気分はウエスト・コースト。70~80年代のAORが好きな人ならおススメ。



 アシッド・ジャズについてはもうちょっと書いておきたいので、続きは次回、Incognitoで。


The Brand New Heavies: The Best of 20 Years
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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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