もともとはアメリカが誇る長寿人気プログラム『Saturday Night Live』の企画モノがスタートだった。
 John BelushiとDan Aykroydによる、ほんの1コーナーが発端となって評判を呼び、ほんのお遊びでバンド結成、ほんの趣味の延長線上でライブを行なってたところ、脱力感あふれながらもプロフェッショナルなサウンドがさらに評判を呼んでしまう。ほんのお遊びのつもりが周囲がその気になって、トントン拍子に映画制作が決定、まぁ音楽映画だからということで、サウンドトラックも作ってみようかと作業を始めたところ、ほんのシャレのつもりで声をかけた大御所アーティストらがみんなオファーを受けてしまい、とんでもない豪華メンツをそろえたアルバムになってしまう。当然、前評判も高かったため、映画もアルバムも大ヒット、最終的にはビルボード総合チャート13位と、かなりの成功を収めてしまう。
 テレビの番組企画でバンド結成なら、日本ではほぼ同時期に「欽ちゃんバンド」が健闘していたのだけど、音源リリースまでには至らなかった。ここら辺が、シャレの通じ加減による日米の文化の違いだろう。
 
 ちなみにこの『Blues Brothers』、俺が大好きな映画のひとつである。ていうか多分、世界中で一番好きな映画は何だ?と問われれば、真っ先に思い浮かぶのがこれ。気分によって、インディー・ジョーンズかダイ・ハードと答える日もあるかもしれないけど、まぁこういったアメリカ映画が一番好きだというのに変わりはない。
 
 良い映画には必ず熱狂的なファンがつき、そして彼らはその映画の魅力について、それはもう百科全書的知識と情熱を駆使して語り尽くす。その熱量に圧倒され影響を受けた者が、またその映画を見、そして虜になる。そしてまた彼らはこの感動を誰かに伝えたく、布教に励むのだ。
 『Blues Brothers』自体、すでに作者(Dan Aykroyd、またの名をElwood Blues、John Belushi演ずるJake Bluesの弟である)の手を離れてしまっているけど、ファンにとって末永く愛され続けられるのは、とても幸せなことだ。
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 で、俺もこの映画は多分100回くらいは繰り返し見ているので、完全ではないけど、プロットはほぼソラで語ることができる。ちょっとした小ネタやエピソードを加えれば、多分2時間くらいはぶっ続けで喋れるんじゃないかと思う。ススキノの飲み屋のモニターにこの映画が流れていて、ベロンベロンになりながら、初対面の人に語り尽くしたのは、もう遠い昔の話。呂律も回ってなかったはずなので、迷惑だったろうな、あの人。
 そんな風にこの映画、何か熱く語りたくなる、強く人にお勧めしたくなってしまう映画である。
 暴力的なシーンも多々あるけど、最高の音楽とギャグ、そしてちょっぴりのロマンスと、あの有名なラス前カー・チェイス・シーン。どのシーンもシリアスになり過ぎないのは、エンタメ映画職人監督John Landisの手腕であり、どこか憎めない主演2人のキャラクターでもあるのだろう。

 ちなみに俺、映画が好き過ぎてたまらなかったため、サウンドトラックを聴くのは、実は今回が初めて。厳密に言っちゃうと、これまで聴いたことのないアルバムを紹介するのはちょっと…、という気もするのだけど、まぁ今回は特別。だって、ほとんど全部知ってるんだもん。

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 教会でのJames Brownの客席への煽りっぷり、食堂の太々しい女将振りが板についたAretha Franklinのソウル・レビュー的パフォーマンス、本編エピソードとはあまり関係ないネオ・ナチへの皮肉っぷり(最近のTV放映では大体カットされているのは時代の流れ)、西部警察並みに乱暴な愛車ブルースモービルの扱い、ショッピング・モールやラストの逃走中に仕掛ける大がかりなカー・チェイスなどなど、見る側にとってはどのシーンも愛おしく、いちいち映画への愛に満ちあふれている。

 ちなみに、結構映画のネタバレ的な事を書いているので、未見の人はこれ以降はスルーで。


The Blues Brothers
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Blues Brothers
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1. She Caught The Katy / Blues Brothers Band
 ムショ帰りの兄Jakeを迎えに、ブルースモービルで独り門の前で待つElwood。刑期を終え、かつてのバンド仲間が迎えてくれると思いきや、いるのはElwoodただ独り。
 不満げに車に乗り込むJake。向かうは、かつて2人を育ててくれた孤児院。
 オリジナルはブルース・ギタリスト、Albert King。
 
2. Peter Gunn Theme / Blues Brothers Band
 有名なTVドラマのテーマ曲のカバー。私立探偵が主人公なのだけど、ストーリーはよく知らない。テーマ曲は有名だけどね。
 シカゴの裏町のさらにまた裏町、電車の通過する音がモロに響く、高架下の寂れたアパートが、いまのElwoodの住処。バンド時代の名声も今は昔、すっかり落ちぶれた場末に招かれるJake。
 後ほど正体不明の爆発(謎の女によるバズーガ発砲による)によって、アパートは全壊する。あまりの惨状にもかかわらず、一命を取りとめた2人。まぁストーリーも序盤だから、そんな早くは死ぬはずもない。これがドリフなら、煤まみれで口から埃でも噴き出しそうなものだけど、ガレキから這い出た2人、何ごともなかったように立ち上がってスーツの埃を払い、スタスタとその場を立ち去る。その一連の動作が、何ともCOOOLである。
 
3. Gimme Some Lovin' / Blues Brothers Band
 こちらも有名なスタンダード・ナンバー。オリジナルはSteve Winwood作、Spencer Davis Groupによるもの。いわゆるブルー・アイド・ソウルのハシリ。
 JakeとElwoodによる胡散臭いブッキングで取ってきた、再編Blues Brothers Band最初の仕事が、典型的なカントリー・ミュージック・オンリーの『Bob's Country Banker』での演奏、そこでの一発目。
 バンドとしては比較的ウケの良い、みんなに知られた曲をプレイしたつもりだったが、カントリー目当てでやってきた観客からは、ブーイングの嵐。飛び交う怒声やビール瓶によって、最後まで演奏させてもらえない。

 

4. Shake A Tail Feather / Ray Charles
 話が前後するけど、何やかやで兄弟2人に乗せられて再編を決意したBlues Brothers Band、ほぼ全員が解散後、楽器を手放していたため、かつての馴染みの楽器店『Ray's Music Exchange』へ出向く。もちろん店主はRay Charles。にこやかにエレピをつま弾きながら話すRay、突然曲が始まると、どこからかバック・ダンサーが飛び出してきて、バンドも総出でスイムやモンキーダンスに興じる。
 もともとのオリジナルはFive Du-Tonesというシカゴのバンドらしいけど、やはりRay のヴァージョンが一番有名。最近ではTHE BAWDIESがアルバムでカバーしてた。



5. Everybody Needs Somebody To Love / Blues Brothers Band
 このアルバム、いや映画のクライマックスで流れるベスト・テイク。
 シカゴ一の動員数を誇るパレス・ホテルの大ホールは満員御礼、再編Blues Brothers Bandにとっては久しぶりの大舞台、警官隊による厳戒態勢をかい潜って颯爽とステージに登場、したはいいけど沈黙の観衆。演奏は最高、2人のノリも良い。でも、観衆はピクリとも反応しない。
 やっぱり俺たちの音楽はオールド・ウェイヴなのか?ダーク・スーツにレイバンのサングラス(WAYFARER)は時代遅れなのか?
 オリジナルはSolomon Burke、R&B創生期に活躍したソウル・シンガーである。初期のRolling Stonesによるヴァージョンなど、リリース当時から人気の高い曲である。

 
 
6. The Old Landmark / James Brown 
 兄弟二人が育った孤児院が閉鎖の危機に会ってることを知り、JakeとElwoodは上部組織であるトリプル・ロック・バプテスト教会へ向かう。ちょうど礼拝の時間。
 そこへ現れたは、ご存じ"Funk Godfather" James Brown牧師。恐ろしくテンションが高いゴスペル・ナンバーによって、次第に信徒(というよりオーディエンス)らは好き勝手に踊るわ歌うわ、もうわやくちゃ。
 その中でJakeも次第にその渦に巻き込まれ、遂に神の啓示を受ける。
 急に広がる天空より一筋の稲妻、体中に電気が走ったJakeもいても立ってもいられず、バク転しながら(どう見ても優に100キロは超える体格なのに)壇上へ。そこで吹っ切れたのか、遂にBlues Brothers Bandの再編を決意する。
 ちなみにChaka Khanがほんの一瞬映っているらしいけど、まだ確認中。

 

7. Think / Aretha Franklin
 こちらもご存じ"Soul Queen" Aretha Franklinによるナンバー。
 そういえば2人に共通することとして、ちょうどこの1980年前後、キャリアで言えばちょうどどん底の時期。未曾有のディスコ・ブームに翻弄されて、方向性を見失っていた頃である。低迷期で活動もトーン・ダウンしていたのだけど、この映画出演によって再評価の機運が上がり、再ブレイクのきっかけとなった。
 かつては一世を風靡したBlues Brothers Bandも今は昔、Jakeの逮捕によって解散後の食い扶持を、Matt Murphyは大衆食堂を営む妻に求め、"Blue Lou" Mariniと共に糊口を凌ぐ始末。貧しいながらも安定した生活を営む彼に、バンド再編の知らせを届けにやってくる、かつてのメンバー達。
 せっかく堅気の生活を送って社会復帰した夫を手放したくない妻Arethaは激昂し、しまいにはカウンターに座ってる女の子たちをコーラスに引っ張って、『You Better Think!!』と夫に問い詰める。なぜかバンドも含めたセッションとなり、最終通告を突きつけられたMattは、結局バンドを選ぶ。
 エプロンを投げ捨てて去るMatt、やり切れない表情のArethaは、煮え切らないまま取り残されたMariniに対し、こう言い放つ。
「さっさと行っちまいな!!」
 この間が好き。扮装と言いセリフ回しと言い、女優顔負けの怪演。

 

8. Theme From Rawhide / Blues Brothers Band
 映画では、3.に続いて演奏された曲。100%白人という観客のニーズに応えたのが、『ローハイド』のテーマ。2.同様、西部劇のTVドラマより。
 保守的な白人に大ウケなのと、苦虫を噛み潰したような表情で演奏するバック・バンドとの対比が面白い。
 
9. Minnie The Moocher / Cab Calloway
 5.の前、パレス・ホテルは満員の大観衆だけど、JakeとElwoodの到着が遅れている。観客のフラストレーションも、そろそろ限界に達している。
 時間までのツナギに、何かやろう、誰がやる?そうだ、バンドのみんな、あれはできるか?
 普段は小汚い普段着での演奏が主だったバンド・メンバーが、颯爽とした白スーツに身をまとい、往年のコットン・クラブ・スタイルの演奏。登場するのは、普段は孤児院の世話役Curtis、その正体はCab Calloway!! 
 本人希望としては、時流に合わせたディスコ・アレンジでやりたかったらしい。しかし、監督の意図として、オリジナルに忠実なアレンジが希望だったため、そこでちょっとモメたとのこと。だけど、これはオリジナルが正解。巨匠が若者に媚びを売る姿なんて、誰も見たくないものね。
 
10. Sweet Home Chicago / Blues Brothers Band
 5.の次に流れる、パレス・ホテルでの2曲目。ここから急に観客のテンションが上がる。待っていたのはこれだったのだ。俺的には5.の方が盛り上がれると思うのだけど、まぁ映画の流れとしては正解だろう。
 元を遡れば、悪魔に魂を売ったという伝説のブルース・ミュージシャンRobert Johnsonがオリジナル。ブルース・ナンバーにしてはキャッチーなメロディなので、カバーも多い。
 近年で最も有名なカバーが、オバマ・アメリカ大統領とB.B. Kingによる、ホワイト・ハウスでのパフォーマンス。まあ余興だったとしても、黒人由来の音楽であるブルースが公式の場で演奏されたことは画期的だった。

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10. Jailhouse Rock / Blues Brothers Band
 ご存じオリジナルは、言わずと知れたElvis Presley。オリジナルに忠実に、ごくシンプルな演奏。『監獄ロック』の方がなじみ深いかな?
 映画史に残る怒涛のカー・チェイスの末、Blues Brothers は逮捕され、収監される。しかし檻の中でも彼らの知名度は高く、昼の余興として繰り広げられる,贅沢なライブ・パフォーマンス。
 ちなみにこの曲で最初に踊り出したのが、EaglesのJoe Walsh。何やってんだ、この人。




 大ヒットを記録したこの映画、すぐに続編制作の予定もあったのだけど、Belushiの麻薬の過剰摂取による突然死によって、計画は白紙。その後、2代目Blues Brothers として、『Stand by Me』で一気にスターダムに躍り出たRiver Phoenixが名乗りを上げたが、彼もまたBelushi同様、オーヴァードースによる突然死。一時期、呪われた映画&コンビと呼ばれていた。
 18年後にやっと続編『Blues Brothers 2000』が制作されたけど、今のところ寿命以外による死者は出ていない模様である。



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