folder 恒例となった『世界のジャズ・ファンク・バンド巡り』シリーズのUK編、狭くてニッチでセールス的にも恵まれないジャズ・ファンク界において、New MastersoundsやSpeedometerと並んで知名度もそれなりに高く、セールスも堅調なBaker Brothersのご紹介。
 
 で、このバンド、ジャズ・ファンクというカテゴリーの性質上、ソウル/ジャズっぽいテイストもあるのだけれど、前者2組と比べるとファンク/ダンス臭が強く、現在進行形のクラブ・シーンでも取り上げられる機会が多い。ヴォーカル・ナンバーも多いので、ロック系の耳のユーザーにも充分アピールできるサウンドになっている。ロキノン系など、イキのいいギター・ロックを聴いてきた人なら抵抗なく聴けるので、ここ日本でもファンは多い。
 ちなみにこれはキャリア初のカバー・アルバム、正直マニアックなセレクトのため、俺自身も知らなかった曲の方が多く、今回これを書くため調べてみたところ、初めてカバー集だと知ったくらい。多分、俺以外にもよく知らないで聴いてた人は多いんじゃないかと思う。いや多分そうだ、そういう事にしとこう。

 ごく普通のレビューっぽく書いていくと、まずDanとRichardのBaker兄弟に加え、友人であるChris Pedley (B、Vo)の3人でスタート、2003年にメジャー・デビューを果たすと、コンスタントなライヴ& アルバム・リリースを重ねるにつれ、メンバー間に徐々に音楽性の違いが生じてくる。そんなこんなの入れ替えやら脱退やらが相次いで起こり、2015年現在は前述のchrisをリーダーとして、Geoff Lai (G)、Paul Young (Sax、Vo)、Ted Carrasco (D)、Scott Baylis (Tr、Key)といった布陣になっている。いるのだけれど、ご覧いただいてお分かりのように、バンド名の由来となっているBaker兄弟が2人ともいないくなっており、何とも気持ち悪い状態になっている。
 一応、バンド内で金だ女だの下世話な軋轢があったわけではなく、あくまで音楽性の相違による発展的解消によるものらしいけど、第三者から見れば、なんか奥歯に物が挟まったような経緯のため、なんかいろいろ勘ぐってしまう。甲斐よしひろのいない甲斐バンド、または滝沢秀明のいないタッキー& 翼…、いやなんか違うな例えが。

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 主力メンバーが抜けたバンドのその後として、まったく音楽性が変わってしまうタイプと、まるで何事もなかったかのように、これまでの路線を引き継いで活動するタイプの2種類に分かれる。俺が知る限り、前者の代表格がPink Floyd やJoy Division で、後者がBeach Boysだと思う。
 どのバンドにも共通して言えるのは、メンバーの自殺や精神的なストレスの末、やむを得ない事情によって、というのが多い。Joy Divisionなんてバンド名さえ変わっちゃったし。
 第3のケースとして、全オリジナル・メンバーが脱退してしまったにもかかわらず、事務所やレコード会社の都合上、まだまだ収益が見込めるという判断の上、メンバー総取っ替えして看板だけそのまま使うというパターンもある。Temptationsや日本のWANDSがその例なのだけれど、だんだん本題から遠ざかって行きそうなので、この話題はこれで終わり。

 で、話がずれたけどBaker Brothers、そんな紆余曲折はあれどコンスタントな活動を続けている。性格の悪い英国人の割には非常に親日的で、日本限定のライブ・アルバムもリリースされているくらいである。なので、日本のクラブ・シーンにおいてもそこそこ名前も知られているポジションにあるのだけれど、何しろジャンル自体が非常にニッチなマーケットのため、『ジャズ・ファンク界の大物』といった、どうにも中途半端なポジションで待機中の状況が続いている。
 このジャンルのバンドの常として、数多のポピュラー系バンドとは違って、積極的な拡販策を取ろうとしないのが一般的である。もっと名の売れたヴォーカリストをフィーチャーしたり、世界的な企業とのタイアップなど能動的なアクションを起こせば、もう少し世間の認知も広がるのだろうけど、まぁみんなやろうとしない。大方は地道なライブ活動か、そのライブをyoutubeにアップするくらいが精いっぱいで、独創的なポリシーを持つ者はほとんどいないのが現状である。セールスだけを目的にするのなら、わざわざこのジャンルに留まる意味もないしね。
 
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 ほぼすべてのジャズ・ファンク・バンドとしては、セールスを第一義とするのではなく、大事なのはプレイする音楽そのもの、このまま音楽性を曲げることなくコンスタントな活動を続けていられれば、多くを望んでいないのがほとんどである。しかも、本来ならそんな彼らのケツを叩くはずのレコード会社も小規模ハウス・メーカー的なレーベルがほとんどのため、当然のことながらプロモーション能力はごく僅かなもの。わざわざこの時代にニッチなジャンルを好きで手掛けるているくらいだから、スタッフらも趣味性の強い連中が多いため、バンドを発奮させるなんて芸当はできるはずもない。逆にまかり間違ってJustin Bieber並みに売れてしまったら膨大な周辺業務が発生するため、めんどくさがりそうである。

 ライトユーザーへ向けての入門編「はじめてのじゃず・ふぁんく」として、この『Avid Sounds』をオススメしたいと思ってここまで書いてみたのだけど、考えてみればなかなか難しい部分もある。
 これまでロック/ポップスを聴いてた人がライト・ユーザー向けのこのアルバムを聴いて興味を持ち、そこから派生的に他の作品を聴いたとしても、それ以上深く掘り下げてゆくのは実のところハードルが結構高い。もともとインストが大半を占めるバンドでありジャンルであるので、ジャム・バンドやフュージョン系を通過していない人なら、たちまち退屈してしまう恐れが強い。俺自身、このジャンルの魅力に目覚めるまでは時間がかかったのだけど、やっぱヴォーカルの有る無しは大きい。
 ただ、世界に幅広く点在するジャズ・ファンク・バンド、ジャズ寄り・ファンク寄り・クラブ寄りなどなど個性も特徴も様々なので、その中で自分にしっくり来るサウンドを見つけてもらえれば、紹介してる俺もちょっと嬉しい。


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1. Family Tree 
 レア・グルーヴ~ディスコ系ではかなり知られたナンバーらしいけど、俺が知ったのはこのアルバムから。Youtubeでオリジナルが聴けたのだけど、ほぼまんまのストレートなカバーだった。音圧の違いを除けば構成もまるっきり同じなので、要は現在形にビルド・アップしたものと思ってもらえればよい。いやほんと、そのまんまだから。
 ヴォーカルを取るVanessa Freemanは、ジャズ・ファンク界周辺では盛んにフィーチャリングされている、シャウター・タイプの女性ヴォーカリスト。使い勝手の良さがバンド側には好都合なのだろうけど、便利屋的な扱いは彼女にとってはちょっと不幸。



2. Shack Up
 1976年リリース、B級ディスコ・バンドBlackbusterの、こちらもストレートなカバー。1.同様、基本サウンドはそのまま、発掘音源のマルチ・テープを磨き上げたような仕上がりになっている。なので、多分世界中に数人はいるかと思われるオリジナル・ヴァージョン大大リスペクトなユーザーでも抵抗なく聴けるし、また踊れる。

3. Couldn’t Get It Right
 同じく1976年リリース、Climax Blues Bandのカバー。やはりサウンドの構造はほぼ同じなのだけど、オリジナルはギターの存在感がちょっと強いのがしつこ過ぎるため、俺的には威勢の良いホーンも入ったBakerヴァージョンの方が好み。ブルース・バンドのナンバーにしてはポップな路線なので、これはこれで新しい発見。

4. Space Funk
 1977年リリース、こちらもディスコ・バンドManzelによる幻のナンバー。ということらしいけど、何やかやで耳にしたことがある人は多いはず。オリジナル盤はレアモノだけど、サンプリングによるフレーズ借用で使われることが多い。スペイシーに響くシンセのフレーズは耳に残る。



5. If You Want Me To Stay
 これはさすがに有名、俺でも知ってたSly & The Family Stone『Fresh 』収録曲。濃厚なファンク・ミュージックをさらに煮詰めて濃縮したエッセンスを抽出して密封して熟成させた、とにかくドロッドロのナンバーなのだけど、実は俺、Slyはちょっと苦手。ディープなファンクが嫌いなわけじゃないのだけど、なぜか俺の嗜好とは微妙に合わずにいる。ちゃんと聴いてみようと思ってはいるのだけど、いつもアルバム途中で断念してしまうアーティストの一人である。ただSlyが歌ってなければ全然受け入れられるので、このようにちょっぴりベクトルを変えたカバーなら、普通にヘビロテできる。
 ちなみにいつも断念してしまう他のアーティストが、Isley BrothersとCurtis Mayfield。どちらも充分レジェンド級のファンク・マスターである。あるのだけれど、多分俺は生理的にファルセットが苦手なのだろう。

6. Street Player
 1979年リリース、この頃はまだブラス・ロックで有名だったChicagoのナンバー。ディスコやAOR隆盛の波に押されてセールスも不振、世の流れにつられてソフト&メロウな路線に傾きかけていたけど、これはまだ初期Chicagoとしての良心が窺える名曲。

7. Rock Creek Park
 レジェンド級ジャズ・ミュージシャンDonald Byrdが、自ら教授を務めていたワシントンDCハワード大学の学生数人を集めて結成、ファンク&ディスコ・バンドBlackbyrdsによる1975年のナンバー。この頃のByrdは同じく大学の教え子だったMizel兄弟と組んで、ディスコ/ファンクに大きく接近したジャズ・ファンクを量産していた時期だった。理論派Byrdのオーガナイズによるため、各プレイヤーの基本能力は折り紙付き、オリジナル自体も古びた印象はほとんどない。Bakerヴァージョンはもちろんノリも良くて最高なのだけど、是非オリジナルも聴いてほしいところ。



8. Lady Day And John Coltrane
 ジャズ吟遊詩人として謳われたGil Scott-Heron1971年のナンバー。ちなみにLady Dayとは、伝説のジャズ・シンガーBillie Holiday。「Lady Dayに救いを求め、Coltraneにすべてをぶちまけるんだ」というテーマに強く感情移入して、ファンキーなプレイを繰り広げている。

9. Fly Like An Eagle 
 アメリカのブルース・バンドSteve Miller Band1976年の大ヒット曲ということらしいけど、70年代アメリカン・ロックはほとんど興味がなかった俺にとって、これは未知の楽曲なのだった。もともとブルースも馴染んだことがなく、多分これからも積極的に興味を持つことはないだろうけど、でもこの曲は全然ブルースっぽくないのが良く、オリジナルも浮遊感満載でなかなかクールな仕上がり。

10. Cola Bottle Baby
 Roy Ayersのバンドで長らくキーボードを務めていたEdwin Birdsong1981年のファンク・ナンバーということだけど、むしろ有名なのはDaft Punk 2009年のヒット、”Harder, Better, Faster, Stronger”、邦題『仕事は終わらない』、ていうか松本零士のあのPVで有名な曲の元ネタとしての知名度が一番デカい。オリジナルはファンクながら少しマイルドに、Daft Punkヴァージョンはやっぱりエレクトロ/ダンス・テイストバリバリ、Bakerヴァージョンが一番ゴリゴリのファンク・スタイルでプレイしている。

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11. The Mexican 
 ラストはイギリスのプログレッシヴ・ポップ・バンド(なのに名前がなぜか)Babe Ruth1972年のナンバー。現役当時はバンド自体がマイナーで、プログレ村界隈でしか話題にならなかったのに、80年代に入ってから、この曲のカバー・ヴァージョンがなぜかダンス・シーンで取り上げられるようになり、今ではレア・グルーヴ系のクラシックとして生き延びているらしい、とはwikiで読んだほぼそのまんま。
 マリアッチというのか、俺的にはフラメンコっぽくも聴こえるけど、どちらにせよ肉体の躍動に直接訴えかけるサウンドであり、オリジナルをまんま踏襲しているのも、安易なカバーでは超えることができないことがわかっているからと思われ。
 ところでヴォーカルでフィーチャーされているKatie Holmesって、あの女優の?そこがよくわからん。まさか、ねぇ。




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