好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

アメリカ代表ポップ馬鹿、極上の思いつきサウンド - Todd Rundgren 『A Cappella』

folder 1985年にリリースされた、ソロとしては12枚目のアルバム。他にもアメリカン・プログレッシヴ・ハード・ポップ・バンド(長い!!)Utopiaとして9枚のアルバムを制作しているので、彼の70~80年代は膨大な仕事量に明け暮れている。その他にもソロ・グループ両方のツアーを行ない、また長らく所属していたBearsvilleレーベル・スタジオのハウス・エンジニアとして、数多のアーティストのプロデュースを行なっているので、一体いつ寝てるのか、こっちが気になってしまうくらい。
 それに付け加えて、巡り巡った縁により女優Liv Tyler(ご存じ父親はAerosmithのSteven Tyler)の育ての親として奮闘している。ま、これは単なる豆知識。
 
 当時のToddは古巣Bearsvilleを離れ、大メジャー・レーベルのワーナーに移籍して間もない頃。それまで特別大きなセールスを上げることもなく、そしてまたこれからもビッグ・セールスは期待されていないはずなのに、どういった経緯でワーナーとの契約に至ったのか。
 
 前回のToddでも述べたように、この人はアメリカでも日本でも、そして全世界の音楽業界関係者からの受けが良く、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしての評価がとても高い。絶対数は少ないけど、世界中に満遍なくマニアックなファンが点在しているため、すべてかき集めればそこそこのセールスは見込めるし、またレコード会社から見ても、「別にいなきゃいないでいいけど、特別拒む理由もないから取りあえずうちにいてもいいよ」的な扱いのアーティストだったせいもある。

a cappella 2

 まだ音楽配信なんて技術もなく、CD・レコードなど物理メディア以外に音楽流通の手段がなかった頃、まだ業界全体に余裕があり、音楽出版というのは文化事業的な側面を担っていた。
 例えば日本でも、あまりセールスの見込めない童謡や純邦楽、落語・朗読などのセクションは、規模こそ縮小されているけど、カタログのラインナップにはほぼ必ず残っている。当然、社内的には窓際ポジションなのだけど、企業としてのアイデンティティ、儲け一辺倒な活動だけではないことをアピールしていくためには、必要不可欠なものである。新陳代謝が少なく、もはや先細りの文化を保護してゆくことは、社会的責任を担う企業の社会貢献として、当然のことと受け止められていた。ま、経営的観点から見れば、税金対策でもあるのだけれど。

 稼ぎ頭であるポピュラー部門も例外でなく、少しアバンギャルドでちょっぴりプログレッシブな音楽もまた、いますぐ収益を生み出すものではないけれど、将来への投資を兼ねて、また未来の成長分野として育成してゆくため、ビッグ・セールスで得た儲けを、そういったマイナー部門へ注ぎ込んでいた。当時のElton JohnやCarpenters、ABBAらに救われたアーティストらは無数にいたはずだ。
 物理メディアによる流通が崩壊しつつある現代において、アーティスト契約自体がシビアになりつつあるけど、1985年当時はまだ、Toddのように大きな収益を生まないアーティストでも、どうにかメジャー・レーベルの隅っこで息をつけるくらいの余裕はあった。
 
 で、この『A Cappella』、サウンド的にはかなり凝っていて、ていうか、もうなんていうかこう…、目の付けどころが変態である。あ、もちろん褒め言葉です。
 いわゆる一般的なドゥー・ワップ、山下達郎やゴスペラーズ的なロマンティックなものを想像すると、ひどくバカを見る形になる。アカペラといっても、一般的な和声コーラスを重ねたものではなく、ごく普通のバンド・サウンド、例えばギターやドラム、ベースといった楽器の音色を、すべてToddの肉声を加工して、ピッチや音程を整えて貼り付けた代物である。思いつきにしては膨大な手間のかかる、普通に演奏するか普通にアカペラにするかのどちらかにすればいいのに、わざわざこんなしちめんどくさい所業を行なうのは、とても悪趣味な行為である。

todd-rundgren-a-cappella-21

 で、肝心の出来栄えだけど、これが案外良い。ていうか、サウンドの奇抜さに埋もれて分かりづいけど、何回か聴き込めばいつものToddだということに気づかされる。メロディは従来のTodd、DNAに刷り込まれたアメリカン・ポップスと敬愛するノーザン系ソウルとのいいとこ取りとなっており、さすがメジャー移籍第一弾として、気合の入ったところを見せてくれている。
 それなのにリリース当時から、そして現在でも、トリッキーな変態サウンドのことばかり先行しているおかげで、肝心の中身についての評価はとても少ない。
 今だからこそ、ぜひ再評価してほしいアルバムである。


A Cappella
A Cappella
posted with amazlet at 16.02.06
Todd Rundgren
Rhino (1990-10-25)
売り上げランキング: 357,379




1. Blue Orpheus
 インドネシアの伝統的な男性コーラス唱法「ケチャ」を取り入れている、だからスゴイ!!という論調ばかりで語られる曲だけど、まぁ確かにその通り。まだワールド・ミュージックという概念自体が語られることも少ない時代。ポピュラー界で目をつけていたのは、せいぜいPeter Gabrielくらいだったはず。Toddがどういった成り行きでこのジャンルに出会ったのかは定かではないけど、アルバム一曲目のつかみとしてはベストだったんじゃないかと思う。
 ただこの曲、サウンドのエフェクト的な部分だけでなく、純粋にメロディが絶品。あくまでケチャ云々は装飾の部分であり、メインのメロディ、そしてややメジャー感を意識したToddのヴォーカルを堪能してほしい。
 
2. Johnee Jingo
 ちょっぴりゴスペル調。コーラスがアフロっぽいので、黒人霊歌という単語を思い出してしまった。
 ここで今さらToddの特徴だけど、この曲に限らず、正確なピッチというものにあまりこだわりのない、ベテラン・ミュージシャンとしては珍しいタイプの人である。口ベースのリズムの揺れは、気になる人は気になるのだろうけど、Todd自身としてはトータルの出来栄えが重要であって、ニュアンス的な部分は結構雑である。
 この曲もTodd自身によるドゥー・ワップ調多重コーラスが大きなうねりを作り出しており、そこかしこに詰めの甘さは見られるのだけれど、トータルで見れば結果オーライ。
 ま、「作り込んだってしょうがねぇやどうせ売れねぇんだし」という気持ちもあるのだろう。
 
3. Pretending To Care
 このアルバムにおいてのベスト・トラック。流麗なア・カペラ・コーラスが全体の曲調を支配しているのだけれど、コーラスを抜きにしても、きれいなメロディである。そうだよ、こういうことが普通にできるんだよ、この人は。
 それにしてもTodd、ゴスペルに代表される黒人コーラスを意識しているのだろうけど、やはりそこはもともとの声質の細さ、ダイナミズムを感じさせるには迫力が足りない。それでもイコライザーやサンプラーを駆使して精いっぱい肉声グルーヴを作り出している。何が何でもDIY、というのがこの人、Todd Rundgrenなのである。

 
 
4. Hodja
 スタンダードなドゥー・ワップから始まる、3.同様、こちらも正当なア・カペラ。昔から変なコード進行が取沙汰される人だが、この曲についてはまとも。もしかすると素人目にはわからないくらい巧妙な構成なのかもしれないけど、メロディの終わりが中途半端ではないので、安心して聴ける。
 なんだ、やっぱやりゃできるじゃん。
 
5. Lost Horizon
 1.同様、Toddヴォイスを加工したリズム・トラックを使用している。普通にやればとってもきれいな曲なのに、そうはせずに一回転も二回転もよじれ捻るところが、やっぱりTodd。
 直訳すれば「失われた地平線」、コーラスがとても幻想的で、濃密な夜の密林、怪しげなジャングルを連想させる。
 
6. Something To Fall Back On
 またまた変態リズム・トラック使用。今度はToddお得意の60年代フィリー・ソウルをベースにしたポップ・ソング。楽しんで作ったのか、リズムのオカズも弾んだ声になっている。
 しっかし、これも普通にやればハッピーになれる曲なのに、やはりエフェクトの部分だけでしか語られないのが惜しい。いやほんと、この頃のToddは極上のメロディ・メイカーだったと思う。

 
 
7. Miracle In The Bazaar
 Utopiaのアルバムに入っててもおかしくない、まるでYesのように荘厳としたコーラスが宇宙的な広がりを見せるプログレッシヴ・ポップ。これをUtopiaでやったとすれば、恐らくアルバム片面をまるまる使った組曲になりそうなところだけど、ここでは4分程度に凝縮している。プログレッシヴという本来の意味に沿った、Toddしかできない(やりそうにない)野心作。
 
8. Lockjaw
 ちょっぴりガレージ・ロック風味の、メイン・ヴォーカルにもコンプをかけてニュー・ウェイヴっぽく仕上げている。
 もともとバンドでデビューしただけあって、ロック・サウンドへの憧憬が深い人なのだけど、元来の声質の細さ、ロック・ミュージックにしては変則的なメロディ、コード進行によって、ロックになり切れない自分に気づいてる節がある、それがTodd Rundgren。どちらかといえば重厚なパワー・ポップに仕上がっているのだけど、Toddの声質ではここまでが限界。
 
9. Honest Work
 加工していない素の声を使い、ちょっとしっとりした導入部。ソングライターとしての側面を良い方向で表現した佳曲。2分足らずの曲だけど、白人としてのアイデンティティ、黒人サウンドへの憧れとが同居した、Toddならではの持ち味が発揮されている。
 
ToddRundgrenA
 
10. Mighty Love
 60年代ソウル・グループSpinnersのカバー。シンプルなドゥー・ワップに仕上げている。
 少年時代の憧れのサウンドをそのまんま、ほとんど加工していない多重コーラス、シンプルなフィンガー・スナップとハンド・クラッピング、そして熱くソウルフルに近づけたヴォーカルで構成されている。ほんとに好きやってみたかったのだろう。
 これ一曲だけならヴァリエーションとしてありだが、コーラス・テクニックだけを取り上げるのなら、本家の方が秀逸だし、またゴスペラーズの方が上手い。
 ただ、そういった問題ではない。重要なのは、その曲、そのアーティストへの愛情、リスペクトの具合だ。それがなければ、ただのテクニック品評会に終わってしまう。




 というわけで、どうにかこうにかアルバムを完成させたTodd、次は外注仕事、プロデュースの依頼が舞い込み、しばらくそちらに専念することになる。専念するも何も、ほんとはそんなつもりはなかったはずなのだけど、専念せざるを得ない事情が出てくる。
 何しろ相手はXTC、あの『Skylarking』のレコーディングに駆り出されることになる。


The Complete Bearsville Album
The Complete Bearsville Album
posted with amazlet at 16.02.19
Todd Rundgren
Bearsville (2016-02-26)
売り上げランキング: 4,821
TODD~未来から来たトッド2010ライヴ 【ボーナス映像インタビュー約78分 日本語字幕入】【日本語解説書付】 [DVD]
ヤマハミュージックアンドビジュアルズ (2012-03-07)
売り上げランキング: 115,593

無記名の音楽として世に出されるはずだったアルバム - Prince 『Black Album』

folder 活動歴の長いアーティストになるほど、様々なしがらみが付きまとってくる。レコード会社の都合やファンの勝手なニーズに、いちいち従順に応えていくと、本来自由であるはずの表現活動の幅は、次第に先細りになってゆく。ただ、とにかく必死なデビュー間もない頃は、そんなことを考える者は少ない。
 最初に世に出る頃は、それまでの蓄積を吐き出すだけで精いっぱい。数年後のビジョンまで視野に入れて行動しているのはほぼ皆無、ほとんどのアーティストにとっては、次のレコーディング契約・次のライブ会場ブッキングを継続させることにしか、意識が行かない。
 それでも無我夢中にもがいた末、どうにかセールス・動員数などで結果を出し、ようやく次のアルバム、ライブができる目処がつく。規模やランクはあれど、大方はこのサイクルの繰り返しだ。
 デビューして数年までの行動はすべてアウトプット、これまでの自分の貯金を切り崩す作業・身を削る作業が主なため、当然アイディアはすぐに枯渇する。そんなにそんなにデビュー前から、革新的なアイディアを蓄積している者はいない。そこでアイディアを仕入れる作業、インプットが必要になる。それは座学や実践もそうだけど、異ジャンルの他者との交流によって生まれる場合もある。創作のアイディアを受信するアンテナを広げ、自ら様々な場所に出向き、情報を収集してゆくことが必要になる。そして、そこからが本格的にアーティストとしてのスタート地点になる。
 ほとんどのアーティストはそこへ行き着く前に息切れ/ネタ切れして、そしてフェード・アウトしてゆく。もう少し世渡りの上手い者は、過去のアイディアの拡大再生産で凌いでゆく。そのような選択肢が潔いとは思わないが、次第に過酷になりつつある音楽業界をサヴァイヴしてゆくためには、必要悪な生き残り策ではある。
 
 そういった小手先の技を使う必要がない、革新的なアイデアが常日頃湯水のように湧き出てくる者もいるにはいるけど、そういった天才肌タイプの人間はごく少数、限られた数しかいない。
 昔ならJimi HendrixやFrank Zappaあたりだろうけど、存命している中での代表格と言えば、お待たせしましたPrinceである。

blackalbum 1

 とはいっても、芸術の神に微笑まれる時期というのはごくわずか、彼もまた一生涯にわたって才気煥発だったわけでなく、本当に創作力のピークだったと言えるのは、デビュー当時の70年代後半から80年代いっぱいくらいまで(『絶頂期』の解釈については、様々な意見がある)、以降はサウンド的な進歩は微々たるもので、凡百のアーティスト同様、やはりこれまでアウトプットしてきたパーツの拡大再生産に甘んじている。
 
 で、この『Black Album』、ちょうど創作力のピーク、時期で言えば『Sign “O” the Times』と『Lovesexy』の間にリリースされる予定だったアルバムである。当時のPrinceのワーカホリック振りは今でも語り草となっており、大量の未発表曲ストックがこの時期に集中している。
 自前のスタジオ「Paisley Park」を所有していたPrinceにとって、レコーディングを行なうということは、即ち息をするのと同然の行為であり、とにかく思いついたら昼夜を問わず、手当たり次第にテープを回していたらしい。夢の中でアイディアが生まれたため飛び起きて、真夜中にバンド・メンバーを呼びつけた、という胡散臭い逸話も残っているけど、まぁ当時は独裁者同然に振る舞っていたらしいので、多分ほんとのことなのだろう。

 まずは何曲かレコーディング→なんとなくアルバム・コンセプトを決める→テーマに沿った曲を選ぶ→アルバム一枚に繋いで微調整、といった風に、結構システマティックにレコーディングは行なわれ、まるで工業製品のようにぞくぞくアルバム単位のマテリアルが製造されていった。
 
n_a
 
 『Black Album』においても、最初はほぼこの流れで制作された。かなりディープなファンク寄りの曲が多く出来上がるに連れ、次第にコンセプトも固まってゆく。
 どうせやるならもっとマニアックに、セールスは度外視でやってみよう。せっかくならもっと「ど」が付くくらいのファンクで、これでもかというくらい「濃い」アルバムを作ろう。契約枚数オーバー?だったら名前も出さない顔も出さない、ブートみたいな真っ黒ジャケットで出しゃいいんじゃね?
 -ま、だいたいこんな感じで作っちゃったんじゃないかと思う。ただ最終的にPrinceがチキンになったおかげで、最終工程寸前で発売差し止めになっちゃったけど。
 
 サウンドについてはこれまで散々語られているので、知らない人でも何となく知ってると思うけど、問答無用のファンク・ミュージックである。
 言い訳しようのない、真性の「ど」が付くファンク。
 前作『Sign “O” the Times』では、全方位的なコンテンポラリー・ミュージックの片鱗を見せたPrince、今回はポップに振り切り過ぎた反動なのか、「一見さんお断り」の看板を掲げた密室ファンクを緻密に創り上げ、そして無造作に、何の飾りもなく放り投げてきた。あまりに閉鎖的な空間で鳴っているので、自己完結してしまうがあまり、最早どこへ繋がることもない、出口なし袋小路の音楽。当時のPrinceの体臭がツンと臭ってくる、そんなアルバムである。


ブラック・アルバム
ブラック・アルバム
posted with amazlet at 16.02.04
プリンス
ダブリューイーエー・ジャパン (1994-12-21)
売り上げランキング: 84,246



1. Le Grind
 リズム・トラックだけで、もう何時間も聴いていたいくらい、とにかく気持ちいい。シンセの使い方にZappっぽい瞬間があるけど、どこからどう切り取ってもPrinceの体臭がプンプン臭ってくる。
 ホーンをひと固まりの音として扱うのではなく、エッセンス的なエフェクトとして使うのが、この人の特徴。そこが他のファンク・アーティストとの大きな違いである。なので、ダンス・チューンにもかかわらず、どこか踊りづらく密室的なのはそのせい。
 この頃よく駆り出されていたBoni Boyerの弾けっぷりが爽快。
 
2. Cindy C.
 ベシャッと響くドラムが時代を感じさせるけど、Prince自身による冒頭のファルセットな雄叫びがファンキー。ラップというには躍動感が足りないCat Gloverの「語り」が、うまくリズムと対比している。
 ホーンの使い方はジャズ・テイストも加わって、サウンドに厚みを加えている。しかしPrinceの「語り」、まぁ下手くそなラップよりは全然良い。
 でもこの人、どうしてこんなにベースを入れるのを避けるのだろうか?
 ちなみに豆知識、タイトルの由来は当時のセレブ・モデルとして名を馳せたCindy Crawford。
 
PrinceBlackminiPosters

3. Dead On It
 ギターのカッティング・ソロが絶品。さすが「Rolling Stone」で「最も正当に評価されていないギタリスト」に選ばれただけのことはある。
 俺自身としては、恍惚の表情でギター・ソロを弾きまくるPrinceよりはむしろ、こういった的確な場所でちょっとセンスのあるオブリガードを聴かせる感じの曲の方が好きである。だって、ソロに酔いしれるPrinceって、あんまりカッコよくないんだもん。
 プリセット丸出しのドラム・ループの音はショボくチープだけど、ここでは比較的マシなPrinceのラップがイイ味出している。ギターの代わりにスラップ・ベースを入れたら、さらにファンキー指数は上がるのだろうけど、そうはしないのが、PrinceのPrinceたる所以なのだろう。
 
4. When 2 R In Love
 『Lovesexy』ヴァージョンとほぼ同じ。このアルバムの中では異色の、流麗なメロディで勝負した曲。余計な装飾を省いたアルペジオと、エフェクトをかけたドラム、次第に音数が増え、中盤ファルセットの多重コーラスがもっともファンクを感じさせる瞬間。複雑なリズム・パターンに頼らずとも、ファンキー指数をあげることができるというお手本の曲。
 
5. Bob George
 ブートレグ並みにくぐもった音質のシンセ・ドラムに合わせて「語る」Prince。思いっきりエフェクトを変えて低音にしているため、最初本人だとは思えなかった。その別人のようなPrinceが不穏なバック・トラックに合わせて語り、霧の遥か向こうで響き渡るギター・ソロ。
 いわゆる一般的なファンク・サウンドではないのだけれど、どこかP-Funk的な、負のパワーを内包した攻撃的なデンジャラス・ファンク。あまりに攻撃性が強いため、普通のアルバムに当てはめることは不可能。
 『Black Album』とは、まさしくこの曲のためにあるアルバムだろう。

prince1987

6. Superfunkycalifragisexy
 チープなシンセ和音から始まる、タイトルから想起されるイメージとは裏腹に、疾走感のあるファンク・ナンバー。元ネタはもちろん映画『Mary Poppins』挿入曲” Supercalifragilisticexpialidocious”から。
 ちなみに日本のバンドBOOWYも同時期、” SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS”という、ワン・スペル違いの曲をリリースしていた、というのは、あまりいらない情報か。
 曲調としては、これぞPrince!といった感じの、優秀なファンク。そうだよ、こういったのを求めてたんだよ、やりゃできるじゃん、とでも言いたくなってしまう、ノリッノリでいて、しかもどこかクールさを感じさせる、ドライな質感。
 
7. 2 Nigs United 4 West Compton
 6.と同じく疾走感溢れる極上のファンク・チューン。7分という長尺のインスト・ナンバーのため、やはりPrince名義でリリースするのはちょっと…、といった感じの曲。こういった通常のアルバム・コンセプトから外れてしまう曲も受け入れてしまうのが、この『Black Album』の懐の深さだろう。
 リリース当時はダルいインストが退屈で、歌が入ってればもっといいのに、と思っていたけど、世間的にも俺的にも、状況はかなり変わってきた。この後、いち早くインターネットに興味を持ったPrinceは『NPG Music Club』を設立、メジャーではリリースしづらい曲を次々に独自配信するようになり、その中にはジャム・セッションを延々と収録した物も含まれており、Princeのような多作アーティストにとっては良い時代になってきた(と言っても数年で飽きてしまい、すぐ活動は休止してしまうのだけど)。
 俺的にはここ数年、新旧問わずジャズ・ファンク系の音を漁るようになってきたので、このようにファンキーなインストは、結構ツボである。
 
8. Rockhard In A Funky Place
 『Parade』に入っててもおかしくない、このアルバムの中では比較的マイルドなファンク・チューン。ややスローなミドル・テンポも聴きやすい。
 中盤のギター・ソロはPrinceのベスト・プレイの一つ。決して引き出しの多い人ではないけど、やはりこのリズム、このエロいヴォーカルの後ろで鳴っていると、より効果を発揮する音である。
 本人的にはSantanaの影響が多いと言っているのだけど、いやいやどう聴いてもジミヘンでしょ、これって。




 四半世紀も前のアルバムだけあって、どうにも音が軽いのが弱点。初リリース予定当時は、既にレコードからCDへの移行時期だったため、LPは未聴だけど、やはりリズムの音質自体、現代のサウンドと比べると貧弱だ。どうにかリマスターしてほしいのは全世界のファンの願いなのだけど、何しろワーナーとの関係が微妙なため、それもなかなか進展しない状況が続いている。
 『Purple Rain』30th Annversary Editionはどうなった?
 ほんと、どうにかしてほしいものである。


Hits & B-Sides
Hits & B-Sides
posted with amazlet at 16.02.04
Prince
Warner Bros / Wea (1993-09-27)
売り上げランキング: 10,436
Prince: Live at the Aladdin Las Vegas [DVD] [Import]
Hip-O Records (2003-08-19)
売り上げランキング: 84,695

マイナスすることで創りあげた独自のファンク・サウンド - Prince 『Parade』

folder 大幅にロック・サウンドへ舵を切った『Purple Rain』が大ヒットしたPrince。このまま同路線で突き進むかと思いきや、続く『Around the World in a Day』では60年代サイケと、自ら開発したロックとのハイブリット・ファンクを融合したサウンドを提示。一部の熱狂的なファンからは絶賛されたものの、『Purple Rain』からファンになったライト・ユーザーにとっては、肩すかしを食うような内容だった。
 Princeにとっては必然だったとしても、大多数のファンのニーズとは微妙にかけ離れていたのだろう、 前作の勢いを借りてUS1位UK5位という好成績を収めはしたけど、セールスに悪影響が出てくるのはその次、今回はその『Parade』である。
 
 US3位UK5位という成績は、決して悪いものではない。ただ、やはり自らファンを選別するようなアルバムをリリースしたことによって、セールス的にはどうも分が悪い。がしかし、ネットの評判をみても、またリリース当時から、このアルバムは既に名盤扱いされていた。
 前述した通り、聴く者を選ぶアルバムである。好き嫌いがはっきり分かれると言ってもよい。一聴すると地味なアルバムでとっつきにくい印象だけど、一度虜になってしまうと抜け出すことのできない、恐ろしく中毒性の高いアルバムをリリース、Princeはファンや音楽業界へガチの問題提起を行なった。
 
 音響的・サウンド的には、かなり地味、新規ユーザーを拒絶するかのような、味もそっけもないスッカスカな音である。
 時代は80年代中期、もっと音量のデカいへヴィ・メタルが台頭し、ヤマハDX7を代表とする、きらびやかなシンセ・サウンドが隆盛を極めていた頃である。ひねくれた言い方をすれば、どいつもこいつもマルチ・トラックのチャンネル数は目いっぱい使ってるくせに、どうにもメリハリのない、ノッペりした平面的な音が売れていた時代である。
 そんな中、この男はほとんどベースを使わず、それでいて独特なリズム感覚を最大限に利用して、これまでにありそうでなかった我流のファンク・サウンドを編み出した。

0a645261a33f1cf4ec13049301499a04

 そこそこソウルをかじってる人ならわかってもらえるはずけど、音数の少ないファンクと言えば、真っ先にSly & Family Stoneが連想される。ほとんどのファンク・ミュージシャンの例に漏れず、Princeもまたその影響下にはあるのだけれど、『There's a Riot Goin' On』『Fresh』と立て続けに重要作をリリースした後、次第に活動がフェード・アウトしていったSlyと違って、Princeの場合はあくまで通過点、Prince流ファンク・ミュージック制作の中間状況報告といった趣きで、順調に、しかもマイペースでアーティスト活動を継続している。
 もともと酒もドラッグもほとんど嗜むことがなく、女遊びとレコーディング活動が生活の大部分を占めるPrinceにとって、性欲と仕事欲以外の欲望は薄かったせいもあるのだろう。いま現在においても、そういった方面のスキャンダルは、ついぞ聞いたことがない。
 

 Wikiや他のファン・サイトを見てみると、この時期はヒマさえあればレコーディングばかりしていたらしく、中途で投げ出したり発売寸前で中止になったアルバムも数知れず、ということ。
 俺自身、Princeのブートは集めていたことがあり、そりゃあもう大量の未発表曲を聴いたことはあるけれど(ていうか、ちょっとディープなPrinceのファンにとって、ブートを聴き漁ることは珍しいことではない)、やはりこの時期前後のクレジットがとても多い。創作意欲があふれ出ていた時期なのだろう。
 
 ただし、いくら天才の仕事とはいえ、すべてが手放しで絶賛されるとは限らない。
 一応このアルバム、Prince主演・監督を務めた『Under the Cherry Moon』のサウンドトラックという体裁なのだけれど、肝心の映画は興業的に大コケ、しかも『裏アカデミー賞』とも言える『ラジー賞』において、最低作品賞・最低男優賞・最低助演男優賞・最低監督賞・最低主題歌賞と、みごと5部門において栄冠を獲得している。
 
 Princeが悪いのではない。
 彼の美意識に追いついていけない、我々大衆が愚かなだけなのだ。


パレード
パレード
posted with amazlet at 16.02.04
プリンス&ザ・レヴォリューション
ワーナーミュージック・ジャパン (2005-05-25)
売り上げランキング: 155,559



1. Christopher Tracy's Parade
 テープ逆回転?したドラム・サウンドが画期的だった。ほんとはもっと昔から使われていた手法だったのかもしれないけれど、これほどメジャーなアーティストが使用することによって、世に広めたことが重要なのだ。
 タイトル通り”Parade”に相応しく、ヴァーチャルなマーチング・バンドによるファンファーレが、華々しくオープニングを彩っている。こうしたアレンジも、ファンキー・リズム一辺倒な普通のアーティストには発想できないことだ。前作”Around the World in a Day”のフレーズをチラッと流用しているのはご愛嬌。
 
2. New Position
 1.と同じドラム・ループを基本に、スティール・パンっぽいリズムが絡む。構造的には単純な曲なのだけれど、シンプルなだけあって、もの凄くファンク臭がプンプンする曲。多分、当時のPrinceならこんな感じの曲を作ることは朝飯前であり、無数のストックがあったのだろうけど、その中で出来の良いのを抽出してきた感じ。
 この当時、ほぼ蜜月状態にあったSheila E(Dr)が大活躍している。Prince独りでもある程度のレベルのサウンドは作れただろうけど、彼のイメージを即独特のリズムとして具現化できた彼女の存在は大きい。
 
3. I Wonder U
 サウンドトラックらしく、大勢の笑い声の混じる喧騒からスタート。と言っても、この映画は未見なので、シーンに合ってるのかどうかは不明。
 ブリッジ的な小品だけど、Princeはファルセットを駆使しながら丁寧に歌っており、抑えめながら暴力的なリズムとの対比を楽しむのも、一つの楽しみ方。

Prince_kiss

4. Under The Cherry Moon
 正式でなものではないけど、実質タイトル・トラックのようなもの。
 アンニュイなイントロが映画的・映像的で、やはり凡百のファンクとは一味もふた味もちがう。メロディをそのままなぞるピアノのフレーズは、静かでいながら熱い響き。クレジットがないので、多分Prince自身によるものなのだろう。リズムだけでない方面でも、独特のセンスの良さが窺える(テクニックについては…、ま、それはいいじゃない)。
 
5. Girls & Boys
 急に曲調がガラリと変わり、ファンキーを前面に押し出したナンバー。思いっきり音色をいじったギターと、エッセンス程度に絡むホーン、そしてペシャッペシャッと響きのないドラム。脱力的なWendy & Lisaのバック・ヴォーカル。そして一番重要な、ファンク・ミュージックにおいては不可欠とされる、ベースの不在。これだけの材料にもかかわらず、ここまで捻じれたファンキーさを感じさせる曲は、あまりないはず。
 ファンクの要素を「プラス」するのではなく、不要な要素を徹底的に「マイナス」してゆき、残った要素が結果的に、ドロリと濃縮された極上のファンク・エッセンスだった、というお手本の曲。考え方としては、一時期のSlyにとても近い。
 
6. Life Can Be So Nice
 メロディ、コードだけ聴いてみると、それほどファンクっぽさは感じられないのだけど、ベシャッとしたドラム・サウンド(アタック音を抜いているんじゃないかと思われる)が独特。リコーダーっぽいシンセ音など、そういったエフェクトによって、Princeオリジナルのファンクを演出している。
 
7. Venus De Milo
 サウンドトラックという特性もあって、トータル・コンセプトを意識したピアノ・ソロ。どこかのシーンで実際に使用しているかもしれないけど、未見のため不明。ていうか、実はそれほど見る気が起きない。だって俺、『Purple Rain』だってまともに見てないし。
 
mountains-u-s-12_

8. Mountians
 5.と並び、発表当時から人気の高い曲。大編成バンドによる華麗なるファンク・マーチといった趣きで、曲調もキャッチー、バンド・サウンドっぽさが一番感じられる。”Kiss”の次にシングル・カットされ、US23位という微妙なセールスではあったが、俺的にもこのアルバムの中では好きな部類に入る。
 
9. Do U Lie?
 当時おフレンチにかぶれていたらしく、まぁお遊びというか実験的な小品。バリエーションを持たせるために入れたと思われるけど、わざわざこれだけ抜き出して聴くほどのものではない。サウンドを無視してヴォーカルだけ抜き出して聴いてみても…、ダメだヤッパ。
 
10. Kiss
 前曲で肩透かしを食らったせいなのか、この曲のファンキーさが一層引き立ってくる。US1位を獲得しただけあって、比較的ポピュラーな曲ではあるけれど、どうしてこんな味も素っ気もなく聴こえる曲があれだけ売れたのか、いまいち謎である。
 それだけアーティスト・パワーの勢いがあったということなのだろうけど、それだけでは片づけられないくらい、当時のサウンドのトレンドからは明らかに外れている。
 ショボイ響きのドラム・ループとシンプルなギター・カッティング。サウンドを構成する主要素は、たったこれだけ。Princeのヴォーカルもオフ気味、エコー成分はほとんど含まれていない。
 前述したように、考え方としては「マイナス」の美学、日本の「侘び寂び」的なものである、と強引につなげてしまったけど、あながち間違っていないんじゃないかと思う。余計な成分が入っていない分だけ、ハマってしまえば中毒性の高い、そして時代におもねることのない曲である。

 
 
11. Anotherloverholenyohead
 『Parade』はリズムの革新性が大きくフィーチャーされたアルバムであるため、あまり語られることは少ないのだけど、Princeのもう一つの売りである、ギター・プレイを強調したナンバー。ギター・ソロを入れるとこの人の場合、どうしてもロック・テイストが強くなるのだけれど、それが悪い方に行くとPrinceのパーソナルが薄くなりがちになる。これはちょっぴり悪い方、特にこのアルバムの中では、他のリズム主体の曲に埋もれてしまっている。
 
12. Sometimes It Snows In April
 ファンクというカテゴライズをはずしてPrinceというアーティストを捉えると、ドライなサウンドの奥底には、センチメンタルなメロディという一面が垣間見える瞬間がある。この曲はそういった面を初めてさらけ出した曲。
 それまでセクシャルな面ばかりフィーチャーされていたため、誤解されることも多かったPrinceだけど、この曲によって見方が変わったファンも多かったはず。
「いつか4月に雪が降るかも…」
…北海道ではそれが当たり前だったため、「だから何?」と思ってしまった当時の俺、なんてひねくれていたんだろう。




 『Parade』リリース後、再び世界ツアーに出て、バック・バンドThe Revolutionは解散する。Wendy & Lisaのどちらかと痴話喧嘩になった、との諸説もあるけど、まぁ今となってはわからない。
 Prince本人としてはこのアルバム、実はあまり気に入っていなかったらしく、本人曰く「価値があるのは”Kiss”だけ」ということだけど、今でもコアなファンの間では3本の指に入るほどの人気がある。まぁ滅多にインタビューを受けない彼のことだから、メディアに対して捻くれた発言をしただけなのかもしれないけど。



プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン 特別版 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2013-11-06)
売り上げランキング: 32,376
Hits & B-Sides
Hits & B-Sides
posted with amazlet at 16.02.04
Prince
Warner Bros / Wea (1993-09-27)
売り上げランキング: 10,436

カテゴリ
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
QRコード
QRコード
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村




アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: