好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

ロック嫌いな男、ひねくれ度が一回転して傑作を生み出す - Joe Jackson 『Body & Soul』

folder 前作『Night & Day』がUK・US以外にも世界各地で最大のヒットを記録し、同時代のミュー・ウェイヴ系アーティストをより大きく引き離し、特にアメリカで大きく知名度を上げたJoe Jackson。
 可能な限り、いわゆるロック的な要素を排除した『Night & Day』後に彼が向かったのは、更なるワールド・ミュージックへの傾倒、特に50年代以前のモダン・ジャズのムードと性急で享楽的なラテンのリズムだった。
 
 1984年にリリースされたこのアルバム、US20位UK14位と、セールス的には前作ほどではないけど、まぁアベレージはクリア、そこそこの成績を収めている。
 ちなみに、ついでに1984年のアルバム・チャートを調べてみたのだけど、とんでもない事実が明らかになった。年間通して1位を獲得したのは、Michael Jackson『Thriller』、Original Soundtrack『Footloose』、Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』、Prince『Purple Rain』。以上である。たったの4枚しかないのだ。フットルースのサントラは別として、どのアルバムも80年代名盤として確実にリスト・アップされる、モンスター級のセールスを記録したアルバムばかりである。
 こうして見ると、彼らに比べてダントツに知名度の低いJoeが、ここまで上位にチャート・インしたというのは、かなりの大健闘である。どんな時代にでも、ヒット・ソングだけでは満足できない、逆にヒット・ソングからは敢えて目を背け、マイナー・シーンを探索するリスナーは多いのだろう。
 
 このアルバムがレビューされる際、よく取沙汰されるのが、やはりアルバム・ジャケット。オマージュなのかパロディなのかは不明だけど、多分前者だろう。ジャズの歴史的名盤である、Sonny Rollins『Vol.2』をまんまパクッたレイアウトは、ここまで思いきりやっちゃえば、むしろ清々しささえ感じるくらいである。

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 アルバム・タイトルもジャケット同様、古いジャズ・スタンダードの曲からインスパイアされてるし、細かなディティールでジャズのエッセンスが散りばめられているけど、肝心のサウンドは、ジャズだけにこだわったものではなく、むしろラテン系のジャズ、特に第三世界のリズム面からの影響が大きい。
 モダン・ジャズ特有のシンプルな4ビートの曲はなく、むしろポリリズム的ラテン・ビートの存在感が大きい。
 一口にラテンと言っても、ごく一般的に連想される、享楽的なリオのカーニヴァルのそれではない。このアルバムに通じて流れているのは、メインストリートの健康的なリズムではなく、もっと漆黒でドロッとした、裏路地の妖しげなクラブで夜通し垂れ流される、肉感的でエロティックな饗宴のリズムだ。


Body & Soul
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Joe Jackson
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1. The Verdict
 ホンダの車のCMにも起用されたくらいだから、同世代なら結構耳にした人もいるんじゃないかと思う。80年代のTVCMは、全般的に予算が潤沢だったおかげもあって、映像的にも音楽的にも手が込んでいた。CMクリエイターやプランナーという職業が出始めの頃でもあり、特に車関係のCMはセンスも良く、それでいて二番煎じ的な模倣を嫌う傾向があったように思う。
 オープニングのブラスがとにかく印象的。主にクラシックの録音が多いスタジオを使用してレコーディングしているので、特にこの曲のように大編成での録音では大きな効果があり、空間の響き方が良い。

 
 
2. Cha Cha Loco
 冒頭のカリプソ風味のトイ・ピアノっぽい音はほんと享楽的だけど、オープニングの妖しげなベースによって、いつものJoe Jacksonワールドに引き込まれる。
 リズムはほんとマンボかカリプソそのものだけど、マイナー調のメロディが怪しげなB級スパイ映画の様相を呈している。どうしてラテンなのにこんなに怪しげなのか?
 余談だけど、ラテン・アメリカの文学は俗に「マジック・リアリズム」と称され、現実と幻想の境目が曖昧になるうち自我も曖昧となってしまうストーリーが多い。一言で言ってしまえば「壮大なホラ話」なのだけど、そういったインチキ臭さを醸し出しているのが、この付け焼刃的ラテン・ミュージックである。
 
3. Not Here, Not Now
 シンプルなピアノ・ソロから始まり、そのままシンプルなバラードで終わる、この時代のJoeにしては珍しくストレートな良曲。ライブでもたまに取り上げるくらいだから、本人としてもお気に入りの曲なのだろう。余計な装飾がない分、ピアノ映えしやすい曲だし。
 ただ、ストレートすぎるがゆえに、ひと癖も二癖もある曲ぞろいのこのアルバムの中では、どうにもインパクトが薄く、印象に残りづらい。後半はドラマティックな展開になるので、多分他のアルバムに入っていたら、もっと感動していたと思う。
 
4. You Can't Get What You Want (Till You Know What You Want)
 やっぱりこれ、これだってばJoeは!!!! 
 この曲だけなんか立ち位置が違うというか、一番光っている曲であり、このアルバムの要でもある。
 前作『Night & Day』ではことごとくロック色を排除していたけど、このアルバムではロックの象徴であるギターが復活しており(と言っても、一般のポピュラー・アルバムと比べると、その使用比率はかなり低いのだけど)、疾走感がまるで違っている。
 この曲のバンド編成は、通常の4ピースバンド+ブラス・セクションとなっているのだけど、ロックとジャズが違和感なく融合している。
 語り出したら切りがない。期待感を盛り上げるオープニングのブラス、サビ前の一瞬のブレイク、時代を感じさせるスラップ・ベースとチャカポコ・ギターとの絡み、今回からバンドに加入したVinnie Zummoによる、多彩なエフェクトを駆使した間奏のギター・サウンドなどなど。
 明快なインパクトと、キャッチーなメロディ。この単純かつ普遍な方程式が、多くの新規ユーザーを魅了した。USシングル・チャートでも15位まで上昇したというのもうなずける。

 

5. Go For It
 ”You Can't Hurry Love"で有名な、モータウンの基本リズム・パターンからヒントを得た、Joe流のポップ・ソング。Joeとモータウンという結びつきは結構意外なので、なんでこんなアレンジにしちゃったんだろ?と、聴くたびにいつも疑問に思ってしまう。
 あまり多くを求めちゃいけないけど、Joeにしてはごく普通のポップ・ソングなので、ていうかJoe がわざわざこれをやる必然性が、あまり感じられないのである。レコーディングが進むにつれ、とにかく思いつく限りのリズム・パターンを試しているうち、次第にネタが尽きてきて、まぁ無難なアレンジにしたんじゃね?と穿った見方を、ついしてしまう。
 
6. Loisaida
 まるで金曜ロードショーのオープニングを思い起こさせる、もろAORなSaxのむせびが印象的な、三部構成のインスト。アルバム全体を一つの作品として捉える手法はプログレが一番ポピュラーだけど、そもそもはクラシックの世界のノウハウである。
 主旋律であるSaxソロの間に、ブリッジ的なブラス・セクションを入れ、再びSaxソロを挟み込む入れ子構造という、いかにもインテリめいたJoeの仕業。こういった手法は多分、Royal Academy of Musicで習得済みだったと思うけど、実践してみたのはこれが初めて。
 この手法に自信を得たJoeはその後、アルバム全体をこのスタイルで押し通す構想を立て、それが後年、『Will Power』『Symphony #1』という、非常に現代音楽的な、もっとはっきり言ってしまえば、冗長で自己満足的な作品を量産することになる。
 多分、今にして思えば、一連の作品は壮大な勘違いだった、とJoe自身も思っているのだろうけど、シリアスなアーティストとしては避けては通れない流れだったのだろう。ファンやレコード会社から見れば、アルバムの中のブリッジ的小品で抑えておけば良かったのに、と思うところだけど、まぁアーティストとは、時に独善的じゃないと、一流とは言えない。
 
7. Happy Ending
 で、前曲のまったり感をプレリュードとして捉えれば、この曲が活きてくる。Elaine Caswellという女性ヴォーカルとのデュエット。正直、ソロ・ピアノとしての腕は微妙だと思うけど、こういった誰かの歌伴としてのピアノになると、その饒舌さがいい方向へ作用している。
 Joe特有のぶっきら棒さと、ハスキーでやや高めのアバズレっぽいElaineのヴォーカルの掛け合いが絶妙。Aメロ→Bメロ→サビ→Saxとの流れが完璧すぎて、時々無性に聴きたくなって引っ張り出してくる曲である。
 女性ヴォーカルが必要なので、そういえばライブではあまり聴いたことがない。

 
 
8. Be My Number Two
 3.同様、シンプルなピアノ・バラードなのだけど、いやいや非常にファンの間で人気の高い曲。ライブでもかなりの確率で演奏している、多分自身でもお気に入りの曲である。
 もともとはパンク~ニュー・ウェイヴの流れから出てきた人なのに、アップ・テンポの曲では声が苦しそうになっている時があって、あまりシャウトする曲は向いてないのでは?と思ってしまう。むしろこういったバラード~ミドル・テンポの方が、独特の渋みが出ている。
 近年のライブもまた、自身のピアノを中心とした3ピースバンド編成なので、必然的にシャウトする曲は少なくなる。自分の音楽的素養と持って生まれた声質とのギャップとの乖離に対し、うまく折り合いをつけてきての結果なのだろう。

 

9. Heart Of Ice
 ラストも組曲。細かく刻まれるハイハットをバックに、フルート~フリューゲル・ホーンが互いにソロを取り合い譲り合い、次第に構成楽器が多くなってゆく。非常に現代音楽的な構成だけれど、このアルバムまではギリギリ、ポップの範疇に留まっている。あくまでアルバムの中の一曲なので、退屈さは感じない。
 多分、これをアルバムまるまる一枚にまで広げられると、俺的にはムリ。ほぼ発売間もない頃に『Will Power』を購入したものの、多分1回聴いただけでギブアップ、後は聴かずじまいだった覚えがある。
 ちなみにこの曲、トータルで約7分という大作なのだけれど、うちイントロが5分という、ラスト曲だけあって、なかなかプログレ度合いの強い曲である。こういった曲を、昔は高尚な曲だと信じて無理して聴いていたのだけど、今となってはカッタルイと思ってしまうだけ。
 シンプルでエモーショナルな4.のような曲こそが、Joeの真骨頂である、と俺的には思う。




 出世作となった『Night & Day』ほどではなかったけど、こちらもUS/UKチャートにおいて好セールスを記録し、Joeの音楽的探求心は更に深まってゆく。セールス的も高目安定傾向に落ち着いたため、それほどガヤガヤ言ってくる連中もいなくなった。今のところは、自分のやりたいことをやってきて、幸いそれが良い感じで受け入れられている。
 じゃあ、こういったのはどうだ?
 そうやって出来たのが、あの『Big World』である。


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ロック以外にこだわった偏屈者の非ロック的アルバム - Joe Jackson 『Night & Day』

folder デビュー作『Look Sharp』と2作目『I’m The Man』がストレートなタテノリ・パンク(を装った高度なロックン・ロール)、3枚目『Beat Crazy』でレゲエに色目を使い、4枚目『Jumpin’ Jive』では、何をとち狂ったのか、本格的な1920年代ジャイヴ・ミュージックにまで手を伸ばしたJoeが行きついた先は、人種のるつぼNYだった。ここでGraham Maby以外の従来のバンド・メンバーを一掃し、心機一転、前代未聞のポップ・アルバムを完成させた。
 
 節操がないというのか音楽的な探求心が強いというのか、はたまたただ単に落ち着きがないのか、とにかく様々なジャンルにあっちこっち手を出し、縦横無尽に動き回っていたのが、当時のJoeの印象である。
 
 あくまで一般論として、大きなヒットが一つあると、大方のミュージシャンやレコード会社は、更なる二匹目のドジョウの存在を捕まえようと目論むため、できるだけそのイメージを崩さぬまま、拡大再生産を図るものである。もちろん、ほとんどのミュージシャンの場合、ヒットはおろか、人知れずして消えゆくパターンの方が遥かに多いのだけど、Joeの場合、あまり大きな圧力はなかったらしい。まぁ確かに商売優先で考えるのなら、『Jumpin’ Jive』のようなアルバムをリリースしようとはしない。
 
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 Joe自身も自分のポジションは一応認識はしていたようで、レコード会社主導による大掛かりなプロモーション活動はあまり行われず、ライブを中心とした草の根的な、ブレの少ない活動を現在も行なっている。そんなマイペースな活動にもかかわらず、意外にセールス的にはほぼ及第点ともいうべき成績を収めている。
 トータルの数字は多分それほどでもなさそうだけど、デビュー作から『Big World』まではUSトップ40に入っており(サントラ『Mike's Murder』を除く)、同じ英語圏とはいえ、大概が苦労しているUKのミュージシャンの中では恵まれている方。
 Royal Academy of Music出身という、クラシック畑のミュージシャンがアメリカで受け入れられるのは少し意外だけど、ただ単純にゴキゲンな、それでいて少しモダンなロックン・ロールとして認知されていたのだろう。
 理屈はいらないのだ、だってロックン・ロールなんだもん。
 
 当時Joeが所属していたA&Mは、もともとミュージシャンであるHerb Alpertらによって設立された会社であり、比較的自由というか緩いというか、ミュージシャンの自主性を重んじていた。
 代表的なアーティストとしてPoliceやCarpenters、Quincy Jonesがおり、こうして並べてみると、かなり支離滅裂な組み合わせである。一見まとまりがなさそうだけど、どのアーティストにも共通して言えるのが、どこかひと癖あってアクが強く、一筋縄ではいかない連中ばかりである。
 そんな彼らを呼び寄せる磁力というのか、他のレコード会社には収まりきれない連中の吹き溜まり的要素が、この会社にはある。もちろん、吹き溜まりと言ってもそれぞれのレベルは相当なものだけど。

 そんな中、メジャーでありながら独自の配給網はそれほど強くなく、十分なプロモーションも行なわれないA&Mにおいて、Joeは試行錯誤しながら、自らの音楽レベルを高めていった。そんな求道的なアーティスト・モラルを尊重する気風が、この頃のレコード会社にはまだあった。
 
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 デビュー前のストックも交えた最初の2枚を最後に、それ以降のJoeのアルバムは、ロックン・ロール一辺倒の内容から脱皮して、様々な音楽性をやたらめったら導入するようになる。純正のロックン・ロールの割合はアルバム・リリースごとに減少してゆき、サルサ、レゲエ、ジャズなどのワールド・ミュージック的要素やエッセンスを絡めた曲の割合が多くなってゆく。
 前述したように、長らくクラシック系の勉強をしてきただけあって、もともとロックに対してさほど執着があるわけではなく、というかむしろ単純なロックを毛嫌いしていたため、こういった流れは自然の結果でもある。
 
 今作『Night & Day』ではロックへの拒否反応がピークに達したのか、ロックン・ロールの象徴であるギター音の排除を行なっている。ミュージシャン・クレジットに目を通し、そして実際に音を聴いてみても、ギターの音色は聴こえない。ほとんどのリード楽器は、ピアノかホーンに限られている。
 とにかくロック的なテイストを悉く排除し、またはロック以外のサウンドに置き換えて構築されたのが、この『Night & Day』である。
 その姿勢こそがまさしくロック以外の何物でもない、というのは穿った見方だろうか。


Night & Day
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Joe Jackson
A&M (1989-10-20)
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1. Another World
 サルサっぽいオープニングからJoeが吠える。出だしはかなりヤケクソ気味な荒れたヴォーカルだけど、すぐに持ち直す。
 このアルバムでの鍵盤系はほとんどJoeの演奏だけど、主旋律を司る、カリンバっぽいエスニック調の軽めのエレピ、重厚なピアノの音との対比が良い。
 
2. Chinatown
 前曲と切れ目なく続く、不穏なムードのオープニング。どことなく20世紀初頭のギャング街のチャイナタウンを想起させる。チープなスパイ映画のサウンドトラックっぽさはJoeの狙い通りだろうか。
 同じくピアノの音が分厚い。通常のリード楽器であるギターと置き換えた、というべきだろうけど、ここはむしろ、あまりにもギターレス編成での演奏が良かったため、ギターの入る余地がなかった、もし無理に入れたとしても曲調が変わってしまい、まったくの別物になってしまうことをJoeが察知したのだろう、と思いたい。
 
3. T.V. Age
 さらにシームレスに曲は続く。同じくエスニック調で、Joeのラップっぽいヴォーカルを、ちょっぴりだけ聴くことができる。
 タイトルが象徴するように、TVのチャンネルをザッピングしているかのように、4分足らずの中で曲調がコロコロ変わるのだけど、せわしない印象はない。
 
4. Target
 まだまだ曲は終わらない。アフリカンなミニマル・リズムを基調とした、カリンバっぽいピアノが特徴。その上に80年代DX7プリセットの懐かしのシンセ音が乗り、そのミスマッチ感が時代を感じさせる。多少意識的なミュージシャンなら、他ジャンルとの融合を真剣に取り組んでいた頃である。
 
5. Steppin' Out
 結局A面はすべてひと繋がり、一つの組曲と思ってもらえれば良い。そのシメが、最初にシングル・カットされたこの曲。
 同じくプリセット・シンセのソロに乗せて、幾分しっとりしたヴォーカルでJoeが丁寧に歌っている。UK・USともシングル・チャートで最高6位まで上った、今でもJoeの代表作。
 Joe Jackosnといえばコレ、というかコレしか知らない人も多いだろう。あまりにポップな仕上がりのため、Joeの長年のファンの間ではあまり重要視されていないけど、ここまでヒットしたからには、多くの大衆の心をつかんだ何かがあるのだろう。
 ただJoe自身もプレイするのに飽きているのか、これ以降のライブではスロー・バラードのアレンジで歌っており、レコードのままのアレンジで歌われたことはほとんどない(敢えて言えばBBCライブくらい)。

 
 
6. Breaking Us In Two
 ここからB面。一応A面が「Night Side」、B面が「Day Side」という括りらしいけど、Joe本来の正統なバラードはB面に集中しており、あまり昼っぽさは感じられない。むしろ多国籍なA面の方に夜の妖しさが感じられる。
 ライブでも定番のナンバーであり、このアルバムからは2枚目のシングル・カットなのだが、それでもUS18位まで上がっている。
 決してポップではないのだけど、大人のバラードである。それが当時のカフェバー文化の発展の一翼を担ったのだろう。

 
 
7. Cancer
 A面の流れを汲んだ、サンバのリズムがDay Sideっぽいけど、曲が進むにつれて、ただの明るい曲ではないことがわかってくる。陽光燦々とした南国の陽射しの中、青っちょろい不健康な顔立ちの男が、一心不乱にピアノを叩いている。
 ピアノとは打楽器である、そしてここは真昼の暗黒。
 
8. Real Men
 6.同様、こちらもライブの定番であり、ファンの間でも特に人気の高い曲。なぜかオランダのみでシングル・カットされて、17位まで上がっている。
 Joeによる冒頭の流れるピアノから徐々にテンションが上がって行き、サビでは哀しき雄叫びを上げている。ギターを入れてもそれほど違和感もなさそうだけど、それではアルバムの調和が取れなくなることをJoeが恐れたのだろう。
 随所に流れる弦楽四重奏も良いアクセントとなっている。

 
 
9. A Slow Song
 長らくライブのエンディングを飾っていた、アルバムのシメとして相応しい曲。ファン、アーティストともども思い入れが深く、長らく愛されてきた曲である。
 基本、とてもシンプルなバラードだけど、世界一周ともいえる音楽的冒険を、このアルバムの中で縦横無尽に行ない、すべてをやり尽くした上でたどり着いたのが、この曲である。
 特別なギミックや技術を弄することなく、ただピアノに向かいながら、感情の赴くままタイトルを連呼するJoeの姿は、ある意味神々しく映る。

 



 このアルバムによって、アメリカでゴールド・ディスク(100万枚)を獲得し、Joe Jacksonは一流アーティストの仲間入りを果たす。作品クオリティと大衆の支持とが見事に合致したことは、時代の流れも良かったろうし、タイミングも絶妙だったのだと思う。どちらが欠けてもうまくはいかないのだ。
 この路線に確信を得たJoeは更に音楽的な探求心を強め、今度はジャズにターゲットを変え、こちらも傑作『Body & Soul』をリリースすることになる。
 
 ちなみに後年、Joeは諸々のトラブルによって鬱病を患い、しばらく表舞台から遠ざかることになる。
 周囲の尽力などによって徐々に回復することになるのだけど、そのリハビリ過程でで制作されたのが、もろ続編の『Night & Day Ⅱ』である。同じ道を通ることを良しとしなかったJoeが、初めて過去を振り返り、続編を作った唯一の作品である。
 そこに至るまでの事情は色々あったろうが、傑作とまでは行かずとも、こちらも秀作である。

 Joe Jacksonについてはもう少し続けたいので、また次回。


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Costelloさんメジャー・シーンに躍り出る、の巻 - Elvis Costello 『Spike』

folder 続けてCostelloの紹介。
 リリース当時、日本では未発売となった『Blood & Chocolate』発表後、メジャーのレコード会社から契約を外れたCostelloの動向は掴みづらくなる。途切れ途切れ単発的な情報のみが、雑誌に申し訳程度に発信された。ネットもない当時、なおさら情報は入ってこない。
 
 リリース契約もないので、次回作未定のまま、気楽なツアーを単発的に行なうことになるのだが、その内容が前代未聞である。
 リリース直後の1986年から翌年にかけて、彼は2つのバンドを率いている。ひとつは従来のAttractions、そしてもうひとつは『King Of America』のレコーディング・メンバー(James Burton、Jerry Scheff 、Jim Keltner、Benmont Tench、T-Bone Wolk)で構成したConfederates。
 時期によってこの2つを短期間に使い分けているのだけど、当然バンドのニュアンスが全然違うので、企画したはいいが、Costello自身もかなりのストレスが生じたと思う。どっちにしろ、Costelloのヴォーカルが入ってしまえば、どんなサウンドもすべてCostello節になってしまうのだけど、わざわざ自分から苦労をしょい込むちうか、こういったことを平気でする人なのだ。
 
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 それすらもマンネリが生じてきたのか、バンドを変えるだけではなく、もっと行き当たりばったりのスリリングなライブをやりたい、という意向で行なわれたのが、今や伝説となった『Spectacular Spinning Songbook』である。
 ランダムに曲名を羅列した巨大なルーレットをステージに上げ、それを指名された観客が手回しして、針が刺した曲をリクエストとして歌う、という、まるで東京フレンドパークのラストみたいなアトラクションを行なっていた。
 何が歌われるかわからない、というのは、熱心なファンにとってはサプライズ満載の楽しいライブになるだろうが、一見さんだと、もしかして知らない曲ばかりが歌われる可能性もあり、非常にギャンブル性の高いショーとなる。
 それは演者にとっても言えることで、当然ルーレットの全ての曲を熟知していなければならず、ストレスは溜まる一方。
 主役のCostelloと言えば、いざとなればギター1本で大観衆を沸かせることもできるほど、ミュージシャン・スキルの高い人なので、どうということはない。いつも振り回されるのは脇役ばかりだ。

 ちなみに、Costello本人はこのスタイルのライブが気に入ったらしく、近年この形でのツアーを復活させ、それまであまり乗り気ではなかったライブ・アルバムまでリリースしている。ここまでのキャリアになると、何かしらの緊張感で自分を追い立てないと、テンションも上がらないのだろう。
 
 マイナー映画のサントラへの参加や他アーティストとのコラボ(Nick Lowe、Jimmy Cliffや実父まで様々)など、主に単発的な活動が続いている。
 おそらく契約的な縛りもあったのだろう、1987年いっぱいで大々的なツアーを終えるとAttractionsは解散(Steve NieveだけはCostelloの元に残り、その後現在まで続く長いパートナーシップを築くことになる)、大メジャーWarnerとの全世界契約を結ぶことになる。今まではUK、US、他の国でもそれぞれ微妙にレーベルやレコード会社が違っていたのだが、これを機にWarnerで全世界統一されることになる。

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 このアルバムのジャケットは、タータン・チェックの柄の中央にWarnerのロゴ型の窓、そこから顔を出す陰陽のメイクを施したピエロ姿のCostelloといった構図となっている。大メジャーの販売ルートに乗ることが出来て、よほどうれしかったと見えるCostelloがそこにいる。
 この頃のワーナーはRed Hot Chili Peppersを筆頭に、オルタナ・ロック系に力を入れていた時期である。Princeを取締役に入れたりインディー・チャートの常連だったR.E.M.を多額の契約金で獲得したり、今の惨状と違い、勢いがあった。
 
 とにかくメジャー感溢れるアルバムである。前述した『Punch The Clock』『Goodbye Cruel World』のような無理やり感がなく、きちんとしたスタッフによってしっかりお金をかけて作られた作品・サウンドに仕上がっている。メジャーの販売ルートなので、プロモーションにかけられる予算もノウハウも段違いである。
 そのあまりのメジャー感によって、リリース当時は「CostelloにしてはPOP過ぎる」として、好評不評が入り交じった微妙な評価だったが、25年も経った今となっては、プロフェッショナルなエンターテイナーElvis Costelloの誕生が記録された、貴重な作品である。


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1. ...This Town
 なぜかここでも『King Of America』時に使用したDeclan Patrick Aloysius MacManusでのクレジット。作詞作曲はすべてこの名義なのだが、この曲だけMacManus名義でのプレイ。
 ちなみにRoger McGuinnが12弦ギター、Paul McCartneyがベースをプレイ、という超豪華メンツでのレコーディング。
 またちなみに、ちょうどPaulとのコラボを積極的に行なっていた時期であり、この曲もBeatles っぽく聴こえるが、作ったのはCostello。逆にPaulがCostelloっぽい曲を書いたりして、相互作用がいい感じで結果に表れている。

  
 
2. Let Him Dangle
 Marc Ribotのギターがイイ味出している、やや怪しげなムードの曲。もともとはジャズや現代音楽のフィールドの人なので、多ジャンルとの化学反応が良い方向に働いた好例。こういった幅広い人選ができるのも、メジャーの底力なのだろう。
 ドラムのJerry MarottaはHall & OatesからPeter Gabrielまで、幅広いジャンルを網羅する職人肌の、それでいて個性バリバリのドラマー。
 
3. Deep Dark Truthful Mirror
 のちにコラボ・アルバムまで出すことになる、Allen Toussaintのピアノが南部アメリカっぽいムードを醸し出す。
 ホーン・セクションもいい感じで泥臭く、Costelloのヴォーカルも一皮むけた感じで、このアルバムのおすすめ曲の一つ。『King Of America』セッションを通過したことによって、味のあるヴォーカルである。

  
 
4. Veronica
 このアルバムの、というよりCostelloの有名曲としては三本の指に入るほどのネーム・バリュー。
 日本中のTVの朝8時に一斉に流れていたが、もともとリリース当時もUK31位US19位とヒットしており,古参のファンの間でも認知度の高い曲だった。なので、何を今さら感が強かったのは確かである。
 ちなみにPaulとの共作なのだが、Costelloの創作力に対し脅威を感じていたのか、これまでの蓄積をさらけ出した上、敢えて禁じ手としていたBeatles路線のメロディに回帰している。おかげでその後のソロ・ツアーでBeatlesナンバーが大量に演奏されるようになったのだから、PaulファンにとってはCostello様々である。

  
 
5. God's Comic
 Marc、Jim Keltner(Dr)参加による激シブの一曲。Marc参加の曲はどれも一癖あり、これまでのCostelloの曲とテイストが違っている。やはりこれも相互作用のあらわれなのか。
 
6. Chewing Gum
 こちらもMarc参加、リズムがかなりアブストラクトな、通常フォーマットのロック/ポップスの範疇から外れた曲。ホーン・セクションが入ると変態ファンクになる。タイトルもどことなくファンキー。
 
7. Tramp The Dirt Down
『コンドルは飛んでゆく』を連想させる、南米民謡っぽさ溢れる曲。
 何故かAttractionsのPete Thomas(Dr)参加だが、大して目立った活躍はしていない。というか、非常に存在感が薄い。もうCostelloにとってはこの時点で、Attractionsとの蜜月は遠い昔の事だったのだろう。
 ロック一辺倒ではできない曲。

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8. Stalin Malone
 後にリリースされるDeluxe Editionでは短編小説的な歌詞が朗読されているが、このヴァージョンはインスト。Dirty Dozen Brass BandのセッションはCostelloにアメリカ南部への郷愁を想起させ、この後も度々南部テイストの作品・コラボを繰り返すことになる。

9. Satellite
 スタンダードな3連バラード。少しワルツっぽく聴こえる瞬間もあり。
 何となくAttractionsっぽいプレイも聴こえるが、メンツはまったく別物である。
 ちなみにバック・ヴォーカルでChrissie Hyndeが参加しているらしいが、ほとんど目立ってない。そういえばPretendersも『とくダネ』のオープニング歌ってたよな(”Don’t Get Me Wrong”)。
 
10. Pads, Paws And Claws
 Paulとの共作3曲目。ちなみにMarc参加のため、これもアバンギャルド風味が添加されている。
 よって、大御所の作品にしては面白い構成の曲なのだけれど、サビのところはごく普通のロックン・ロール。ここがポップ職人としての性なのだろう。
 
11. Baby Plays Around
 ほぼCostelloのフル弾き語り。PoguesのCait O'Riordanとの共作。
 この時、彼女と結婚していたことは今回初めて知った。一度バンドのプロデュースを請け負ったことが縁らしいが、後に離婚。
 しかし、地味な曲なのに、どうしてシングル・カットしたのだろう。ライブでは時たま取り上げられているので、本人としてはお気に入りに曲だと思われる。

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12. Miss Macbeth
 Dirty Dozen Brass Band大活躍の、なんか変な構成の曲。曲調がコロコロ変わる、実は実験的な曲。
 
13. Any King's Shilling
 アイルランド民謡っぽさがVan Morrisonを連想させる、地味だけど染み入る曲。
 
14. Coal-Train Robberies
『Spike』の中で一番疾走感溢れる曲。タイトル通り石炭列車強盗の事を歌っているのだが、怪しさ満載のVoxのオルガンの響きが、70年代スパイ映画っぽい。
 こう言った曲はAttractionsの専売特許だったのだが、もう彼らを必要としなくなったCostelloが弾けている。
 
15. Last Boat Leaving
 ラストはしんみり、でもせわしなくCostello自身が様々な楽器をとっかえひっかえして演奏している。
 今年になってから急にライブのレパートリーに復活し、定番の位置に収まっていた。後半の盛り上がりは確かにCostelloの真骨頂。




 チャート的にはUK5位US32位と久々のヒットとなり、シングルも多数カットされた。作品のクオリティとセールスとがうまく合致した、幸せな結果となった。
 この路線に自信を持ったおかげで、続けて同路線の『Mighty Like A Rose』をリリースすることになるが、それはまた後日。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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