好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

完璧すぎてとっつきづらい、クセのある傑作 - Steely Dan『Gaucho』

folder 『Aja』リリース後の Steely Dan、Donald FagenとWalter Beckerはしばしの休養期間に入るはずだったのだけど、アメリカ人にしては珍しく享楽的ではない彼ら、結局のところはせっかくのバカンスも持て余し、これまでと変わらない日常が流れるだけなのだった。
 ライブ活動から長く遠ざかっていたせいもあって、今さらツアーに出ろと強制する者はいなかった。プロモーション活動と言っても、むさ苦しいヒゲ面の二人組では、TVショーでも絵面が持たないだろうし、またそれほど気の利いたことが言えるキャラクターでもない。せいぜい『Rolling Stone』など、有名雑誌のインタビューをいくつか受けて、それで終わり。あとはダラダラとバカンスが終わるのを待ち、手持無沙汰にレコーディング準備に入るくらいしか、やることがなかった。

 前作同様、世界的にも好セールスを記録したアルバムではあったけど、ほぼレコーディング・スタジオに入りびたりの毎日だった当の本人たちにしてみれば、大して実感は湧かなかったはずである。
 ビルボード最高9位と、地味なサウンドの割にはなかなか健闘していたし、タイムラグはあれど、次第にまとまった額の印税も入ってくる。ラジオをつければ、自分たちの曲が流れてくることも度々ある。でも、直接生の反応を聞いていないので、何だか別世界の出来事に思えてしまうのだ。
 確かに雑誌などでは好意的に書かれているし、実際、レコード・ショップの店頭を覗いてみれば、目立つ所にディスプレイされており、それで何となくではあるけれど、自分たちの周りで大きな力が働いているのが実感できる。
 でも、レコーディングを中心とした自分たちの生活は、以前となんら変わりがない。

 デビューして間もない頃は、とにかく自分たち名義のアルバムが出るだけで狂喜乱舞した。サウンドや曲のディテールなんて二の次だ。まずはリリースできることだけで大成功。
 キャリアを積み上げリリース・アイテムも増えてくると、それに比例して売り上げも増えてゆく。レコーディングにも慣れてくると、試してみたくなるアイディアやサウンドの理想形が、漠然とではあるけど描けるようになる。すると、ルーティンな作業では飽き足らず、アーティスティックな方向転換を図るようになる。これまで触れようとしなかったミキサー卓にも興味を抱き、理想の音を出してくれるミュージシャンを招聘する。
 それでも最初は妥協の連続だ。限られた時間と予算の中で、最良のものを作り上げようと、スタッフも含めて頭を寄せ合い、知恵をしぼり出し、完成形へ向かって努力する。さらに倍々ゲームでセールスが伸びてゆくに従って、主従関係の立場だったレコード会社とアーティストとの均衡が崩れ始める。微妙なバランスが一度崩れると、もう止まらない。膨大な売り上げ貢献によって発言権が増し、次第にアーティスト側が優位になってゆく。そしてアーティストは理想のサウンド実現のため、恐怖政治の王と化す。完璧なサウンドを具現化するため、ありとあらゆる暴挙を繰り返し、膨大な時間と予算を浪費する。

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 そうやって仕上がったアルバムに対して抱くのは、達成感や愛情ではなく、むしろ解放感だ。何やかや試行錯誤の末、やっとの思いで仕上げたアルバムだ。愛憎半ば、愛着はもちろんあるが、もはや顔も見たくなるくらい、彼らは疲弊してしまうのだ。
 ただ、休む時間はない。既に次のレコーディング予定が控えているのだ。

 思えばこのグループ、メイン・ソングライターを押しのけて、実質的に支配していたのはプロデューサーGary Katzであったことは、周知の事実である。
『Aja』から『Gaucho』 までのブランクが約3年、その間FagenとBekkerの確執、イージー・ミスによる完成マスター・テープの紛失、レーベル移籍のトラブルなど、様々な要素が複雑に絡み合って完成が遅れた、というのが定説だけど、そもそも引っかき回してるのはこの男に他ならない。
 
 70年代アメリカで活動するバンドの宿命として、初期のSteely Danも例外でなく、延々と続く長期ツアーを廻っていた。直接観客に晒されることによって鍛えられ、バンドのHPと結束力は日増しに強くなっていった。
 ただし、彼ら同様、理想のサウンドの確立と実現を目論んでいるKatzにとって、そんなウェットな感性には何の興味もなかった。彼にとって重要なのは、理想とするサウンドを具現化することであり、そのためには大してサウンドに貢献できないメンバーはむしろ排除すべきだ、と考えていた。。実際、彼はゆっくり時間と手間をかけてFagenとBekkerを巧みに誘導、次第にSteely Danというバンドを解体、理想のサウンドを実現するためのプロジェクト・チームへと造り替えていった。

 一流のセッション・ミュージシャンに同じフレーズを何度も弾かせ、ダメ出しとリテイクの連発(それでかなりヘコんでしまったのがMark Knopfler)、最終的に何十ものテイクの中から、ほんのちょっぴりのリフやフレーズを抜き出し、パズルのように当てはめてゆく作業。ひどい場合には、まったく使用されない場合もある。
 英米のミュージシャン組合はミュージシャンの権利システムがしっかりしているので、没テイクであったとしてもギャラはきちんと発生し、金銭的な面では問題ないのだけど、それでも傷つけられたプライドの問題は大きい。
 基本、彼らが指名するのは名うてのミュージシャンばかりなので、ボツやリテイクには不慣れな連中ばかりである。そういった感情的なケアを行なうのもプロデューサーの仕事の一つなのだけど、まぁKatzは多分うまくやっていたんじゃないかと思いたい。やってはいたのだけれど、そうはうまく割り切れないのも人間である。演奏クオリティに対する要求のインフレがひどすぎて、次第に参加ミュージシャンの確保が難しくなったことも、Steely Dan活動休止の要因の一つである。

MUSIC-STEELY-DAN

 そういっためんどくさい経緯を踏まえた上で、『Aja』『Gaucho』の2枚は制作された。死屍累々となった数多のミュージシャンたちの、もはや徒労とも言える犠牲のもと、完璧に磨き上げられたサウンドがパッケージングされた。あまりにも無駄を削ぎ落としたそのサウンドは、一部の隙もない分だけ、中途半端な感情移入すら寄せ付けない神々しさがある。
 同じ経緯を辿ったはずの2枚のアルバムだけど、アナログ・レコーディングの技術の粋を結集したのが『Aja』、そしてその最終進化型としての『Gaucho』がある、という位置付けである。
『Aja』と比較して地味に映る『Gaucho』のサウンドは、一聴してすぐ虜になる類のものではないのだけれど、繰り返し聴き込んでゆけば、ジワジワと魅力が伝わってくる作品である。俺自身も常時聴くわけではないけど、年に一、二度は聴きたくなってしまうため、どうしても手放せずにいるアルバムである。あるのだけれど、もっぱら聴くのはやはり『Aja』であり、『Gaucho』はそのついで、単体で聴くことはほとんどない。

 せっかく完璧を目指して作ったはずだったのに、支持されるのは、やや不出来な長男の方。
 音楽に限らず、ここが創作物全般の面白いところである。


Gaucho
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1. Babylon Sisters
 Chuck Rainey(B)とBernard Purdie(Dr)の最強タッグによるリズム・セクション。Tom Scott(T.Sax)とRandy Brecker(Tr)を中心としたブラス・アンサンブル。もうこれだけで名曲と保証されたようなものである。マニア/ビギナーを問わず、一般的に抱くSteely Dan的サウンドをそのまま具現化したナンバー。ジャズ・テイストとNYシンガー・ソングライター的抒情の融合としては、この時点においての到達点だったと思う。
 


2. Hey Nineteen
  Hugh McCracken (G)の印象的なチョーキングから始まる、彼らにしてはややロック寄りのナンバー。Rick Marotta(Dr)のスティックの跳ね具合が、全体的にサウンドの躍動感を与えている。
 エレピは全編Fagenによるもの。このメンツの中では拙いプレイだけど、曲のテーマに合った演奏が味わい深い。
 


3. Glamour Profession
 ここでのドラムはSteve Gadd。シンプルだけど、はっきりGaddとわかるようなプレイ。
 ここでもFagenはシンセをプレイ。まぁほとんどエフェクト的な扱いだけれど。
 前半は、やや硬質のAORといった感じのサウンドで、Fagenもヴォーカルに力を入れている。当時、ライブでやったら盛り上がったんじゃないかと思う。
 中盤のTom Scottによるホーン・セクションもなかなか。7分超の長い曲なので、飽きさせないよう聴きどころは多い。

4. Gaucho
 リゾート系のAORといった趣きの、ミディアム・テンポのタイトル・ナンバー。ここまでのサウンドに比べると、ヴォーカルを中心に据えている。
 ここでもTomが大活躍、全編に渡って流暢なソロを聴かせている。それほどテンポは速くないはずなのだけど、Jeff Porcaro(Dr)が叩くとやはり躍動感が出て、曲自体が跳ねる印象。
 ちなみにタイトルのGauchoとは、南米在住の先住民とスペイン人とのハーフを指す、とのこと。地元では、「他人のために自己犠牲を惜しまない人、人のために尽くす人」と捉えられており、かなりの人格者の総称であるらしい。それがこのSteely Danの音楽とどう関係があるのか、といえば、よくわからない。歌詞だってそんな感じでもないし。
 
5. Time Out of Mind
 ステレオタイプのSteely Danサウンドと言える、ファンやリスナーのニーズをリサーチして、そのまま作っちゃいました、という感じのサウンド。悪い意味ではない。スリルはないけど、安心できるサウンドである。
 Rickのドラムは良く跳ね、Michael BreckerのT.Saxもいい感じでブロウしているのだけど、やはりこの曲で一番注目されるのは、散々リテイクを繰り返された挙句、ほんのちょっぴり間奏で地味に採用されただけの、Mark Knopflerのギターだろう。
 
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6. My Rival
 古色蒼然としたハモンドっぽい響きと、Steely Danにしては珍しく、ロック的な響きのディストーションを効かせたギター。メロディ自体は相変わらず不安定なSteely Danそのものだけど、サウンド自体にやや練りが足りない印象。もうちょっと別なアプローチでも行けたんじゃないかと思う。
 で、何の気なしにクレジットを見ると、Rick Derringer(G)が参加していた。なるほど、フュージョン系の響きとは違うはずだ。

7. Third World Man
 不思議な響きの続く、何となく始まって、何となく終わる感じの曲。これも悪い意味ではない。これこそが彼らの追い求めていたサウンド、この時点での最終到達点だったと思う。
 ラジオを点けてみて、何となく流れている曲、何て曲だっけ?そう思うころには、曲はもうアウトロに入っている。
 夜の帳が降りる頃、枕元のラジオを点けてみる、またあの曲だ、何て曲だっけ?…いつの間にか寝入ってしまい、朝になっている。
 そして、あの曲はまだ続いている…。
 Joe Sample(P) 、Steve Khan(G)、 Chuck Rainey、Steve Gaddによる鉄壁のリズム・セクションに、Larry Carlton(G)がしつっこく情緒たっぷりなソロを聴かせる。一流ミュージシャンらの技術を極限まで結集した、地味ながらもこの時点での最高作。
 





 この後、彼らは明確な解散宣言を行なわず、長い長い休養、そしてソロ活動に入る。残されたKatzはといえば、その後もSteely Danの夢よもう一度、といった体で、フォロワー的ミュージシャンのプロデュースなど、いろいろ頑張ってはみたようだけれど、思うようにはいかなかったようだ。やはりあの時代、あの場所で、あの二人と出会ったことがむしろ奇跡であり、いくら敏腕とはいえ、同じフォーマット・同じシステムを使用したとしても、再現は難しいのだろう。
 その後、Fagenは名作『Nightfly』リリース後、超絶スランプに陥って、10年に渡る音信不通状態。
 Beckerはというと、音楽性はともかくとして、風貌の宮崎駿化がますます進行し、プロデュース業の傍ら、ハワイでドラッグ漬けの日々。
 二人とも、現場復帰を果たすまでには、長い長い休養が必要だったのだ。

 そして二人は再会し、今でも時々、アメリカ国内限定で短期のツアーを行なっている。ほぼ懐メロ・ツアーといった風情のため、全体的にユルい感じのステージ内容を、これまたダラダラと行なっている。
 復活後もオリジナル・アルバムを2枚リリースしており、それなりのアベレージはクリアしているのだけど、当然、『Aja』『Gaucho』ほどの求心力を持つ作品は、今のところない。



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もっと偉ぶってもいいのに軽く見られちゃう人たち – Talking Heads 『True Stories』

folder 1985年発表のアルバム『Little Creatures』 は、これまでのヴァーチャル・エスノ・ファンク路線から一転、シンプルなポップ・ロック・サウンドに原点回帰することによって、いわゆる意識高い系が多かったファン層が一気に一般ユーザーへと拡大し、チャート的にも健闘、特にアメリカ以外での売り上げが好調だった。
 当時のアメリカ・オルタナ系としては珍しく、シングル・チャートでも存在感をアピールできたTalking Heads、これまでは評論家ウケの良いサウンドや、映像的に高い評価を受けた映画(『Stop Making Sense』)によってスノッブなイメージが先行しており、レビューでの点数は高かったけど、肝心のセールスにはなかなか結びつかなかった。で、ようやく安定したポジションを獲得することができたのが、このアルバムである。

 特に日本では、ミュージック・マガジンを始めとする選民的なメディアでの取り上げ方によって、長い間、『通好みのバンド』として認識されていた。情報源と言えば、雑誌かラジオくらいしか手段のなかった時代である。
 特に話題となったのが『Remain in Light』、あまりにサウンド至上主義にこだわりすぎたあまり、バンドの存在感が希薄となり、これが純粋なバンド・サウンドと言えるのかどうか、今野雄二と渋谷陽一が雑誌上で熱いバトルを繰り広げていた、というのは、後になってから知った話。

 そういうわけでTalking Heads、日本ではそういった評論家たちの机上の空論に振り回されるがあまり、「わかる奴にしかわからない」「で、わかってると思い込んでる奴は、わかってるつもりなだけ」という、にわかな洋楽ファンにとっては敷居の高い存在になってしまっていた。
 80年代ロックの名盤として、ほぼ必ずといっていいほど『Remain in Light』がノミネートされていた時期があり、よって、名が示すような「頭で聴くバンド」としてのイメージが強く残ったことは、バンドとしても不幸だった。ロックを「勉強」「理解」するための必聴アイテムとして取り上げられることは、まぁレーベル側としては宣伝となって良かっただろうけど、そういった聴かれ方はByrneを始め、バンドの誰もが望んでいなかったはず。

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 内向きのムラ社会のみで評価されることから一歩先へ進み、もっと開かれた世界で受け入れられることを望み、それが最も良い形で叶えられた傑作『Little Creatures』で、その路線を推し進めて、更なる大衆性を獲得しようとしたのが、この『True Stories』。
 実はこのアルバム、一般的に思われてるようなサウンドトラックではなく、正確には「監督David Byrneが制作した映画をモチーフとしたオリジナル楽曲集」である。こうしたスタイルのアルバムで代表的なのが、The Who製作による『Tommy』。これも当初製作されたバンド4人でのオリジナル・アルバムが大ヒットを記録、そこから派生した映画なのだけれど、劇中ではWhoの曲を各演者が歌っており、なのでサントラは別にある。
 そういえばPrinceの『Batman』も、厳密な意味ではサントラではない。こちらの経緯はちょっとめんどくさくなるので、こちらのレビューをご参照の上。

 前作『Little Creatures』でメンバー4人の結束力をテーマとした結果、積極的なカントリーの導入など、純粋なアメリカ白人音楽のルーツへと回帰したTalking Heads、今作『True Stories』では、さらにその傾向が強くなっている。
 ごく普通の人々が営む、ごく普通の生活の中のちょっとしたズレ、ささやかなエピソードを丹念に拾い上げて映像化した作品なので、それにはまる音楽というのは必然的に最大公約数、普通のアメリカ人が日常的に聴いているジャンルということになる。みんながみんな、One Directionや Rihannaばかり聴いてるわけではないのだ。
 日本においても、誰もが口ずさめるヒット曲と最新のオリコン・シングル・チャートでは、その様相がまるで違っているように、アメリカの場合も同様である。メインの総合チャート以外にも、カントリー&ウエスタン・チャートもあれば、クリスチャン・ミュージック専用のチャートだってある。特に一般的なWASPが日常的に聴いているのは、こうした人畜無害、脱臭済みの音楽がほとんどなのだ。それは大きな刺激はないけど、日々の癒しや郷愁を掻き立てる要素が詰まっている。

 様々な音楽的変遷を経た末、最終的には自分たちの血肉となっている物から自然に湧き出て来たものを、ストレートに形にしたTalking Heads、特にフロントマンである Byrne にとって、こういった音楽スタイルに帰結したことは、必然のように思える。 
 NYのアート系ガレージ・バンドからスタートして、偉大なる詐欺師Bryan Eno との出会い、そこから始まったアフロ~ファンク・リズムの追求、バンド側の意思とは違うベクトルでの肥大化、もはや誰も制御不能のカオスに陥った末、バンドは空中分解、そこで一旦踏みとどまり、各々ソロ・プロジェクトにてリフレッシュ―。そういった経緯を踏まえてようやく辿り着いたのが、この等身大のサウンドである。
 以前のように、斜め上のロック・ファンをアッと驚かせるような仕掛けはないけど、メンバー4人それぞれが対等の立場のバンドとして、DIY精神に則ったかのように、自分達で賄えることは自分たちで行なっている。極めてオーソドックスなサウンドながらも、初心に戻ることによってガレージ・バンド的な要素がよみがえり、それでいて熟練も加わることによって、ソリッドにまとまった。外部プロデューサーやサポート・ミュージシャンらに丸投げするのではなく、あくまで自分たちで鳴らすことのできる音を素直に出すことによって、冗長気味になりつつあったサウンドはコンパクトになった。音のインパクトは薄れたけど、余計なデコレーションがなくなった分、そのメッセージはダイレクトに、多くのリスナーの耳に、また心に届いた。
 
 と、誰もが思っていたはず。そう、Byrne 以外は。
 
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 せっかくの力作・話題作にもかかわらず、大々的なツアーは行なわれなかった。Byrne の体調的な問題もあったらしいけど、まぁ他にもバンド内での衝突もあったんじゃないかと思われる。せっかくバンドの結束力が高まった頃だったというのに、ほんと惜しい。
 この路線を継続して行なってゆけば、 まぁ音楽性からしてビッグ・セールスは無理にしても、小さくまとまったR.E.M.くらいのポジションまでは行けたんじゃないかと思う。
 でもそれよりもByrne、これ以降も音楽的な変遷は続き、次回は享楽的かつ刹那的なラテンのリズムへ向かうことになる。


True Stories
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1. Love For Sale
 ポップなガレージ・ロックといった感じの、彼らにしては非常にキャッチーなメロディのナンバー。ある意味、Talking Headというバンドとしての到達点のサウンド。オルタナティヴとポップ・サウンドの奇跡的な融合、とは言い過ぎかな。それくらい、俺的には好きな曲。
 当時はMTVでもヘビロテされており、このPVを見てファンになった人も多いはず。人気投票では必ず上位に入っているというのに、なぜか当時のチャート記録がない。そんなに売れなかったっけ?
 


2. Puzzlin' Evidence
 で、何故か3枚目のシングル・カットとしてリリースされたのが、この曲。USメインストリーム・チャートで19位と、これまた微妙な成績。ここではメロディよりもリズム隊がメイン、つまりはByrneのヴォーカルもサウンドのパーツの一部、リズム・セクションとややゴスペルがかった女性コーラスが際立っている。ホワイト・ゴスペルとでも言えばわかりやすいかもしれない。
 でも、どうしてこれがシングル・カット?

3. Hey Now
 『Little Creatures』に入ってても違和感がない、ポップでリズムが立っててキュートな曲。アフロ・ビートがエッセンスとして使われており、それでいてWASPのテイストが基調なので、これまでのTalking Headsサウンドの進化形とも言える。
 なぜかオーストラリアとニュージーランドでシングル・カットされており、65位・45位と、こちらも微妙なチャート・アクション。

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4. Papa Legba
 同じくアフロ・ビート使用だけど、こちらもはもっとディープに、祝祭的な雰囲気漂う、やや怪しげなムードの曲。中盤でオフ気味で遠くから鳴っているByrneの雄叫びがニュー・ウェーヴ的。こうやって書いていると『Remain in Light』的な楽曲のように思われてしまうけど、一聴してまったくの別物であることは理解できるはず。
 Enoプロデュース時代の暴力的とも言えるリズムが、Byrneにとっては自由奔放すぎて制御不能だったことに対し、ここでのリズムはあくまでByrne主導で統率され、バンド本体の演奏との親和力が強い。強いリズムに振り回されることのない、バンドの強靭な基礎体力こそが成長の証だろう。

5. Wild Wild Life
 ファースト・シングルで、US25位UK43位と大健闘。PVの鮮烈さが最初にインパクトを与え、そして純粋に曲の良さが評価されて後年までファンに愛された、非常に幸せな曲。
 ニュー・ウェイヴ出身者の場合、チャート・アクションが好調だと古株ファンからの不興を買う場合が多いのだけれど、彼らについては何となく許してしまう、微笑ましい雰囲気が漂っている。
 


6. Radio Head
 「あのThom Yorkeに影響を与えた」、ただこの一点だけで広く世に知られている曲。ただ同時に、肝心の曲の内容はあまり知られていないという、逆に不幸な境遇の曲でもある。『Little Creatures』フォーマットを使用した、カントリー風味の強いポップ・ロックだけど、これがどうしてこうしてどうなったらRadioheadのサウンドになるのかは、いまいち不明。
 なぜかUKではシングル・カットされ、最高52位にチャートインしている。

7. Dream Operator
 ピアノとリズムによる、ミニマル要素の非常に強い曲。前奏が長く、なかなか歌が始まらないのだけど、1分20秒ほどすると、いつものようにタイトでエモーショナルなByrneのヴォーカルが入る。
 ややニュー・ウェイヴ要素が強いが、やはり『Little Crearures』効果なのか、カントリー・テイストの強いポップ・ロックに仕上がっている。

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8. People Like Us
 やや”Road to Nowhere”に間奏のギターなどが似ているけど、まぁそれはあまり大きな問題ではない。今作の特徴として、「カントリー&ウェスタンを吸収したニュー・ウェイヴ・サウンド」というのが大きなテーマの一つとなっており、実際『Little Creatures』との親和性が高い曲が多くを占めている。スティール・ギターやフィドルの入ったナンバーなんて、以前の彼らからは想像もつかない。それでも日和ったように聴こえないのが、Byrneのしゃくり上げるようなヴォーカルの力。

9. City Of Dreams
 最後はもう少し80年代ロック・テイストに。ラストに相応しい美しい旋律と堂々と風格のあるサウンドに仕上がっている。これまでよりもリズムが立っているし、Byrneのヴォーカルも程よく抑制されてサウンド、メロディを聴かせるようになっている。






 アルバム・リリース後、やはりByrneが拒否権を発動し、ツアーは行なわれなかった。もちろん他のメンバーらは不満を表明したが、もはや誰もその流れを止めることはできなかった。既にバンド自体が賞味期限を迎え、あとは終焉のタイミングを待つばかり、ということを理解していたのだろう。

 最後まで自らのサウンド追求に熱心だったByrne率いるTalking Heads、次に彼らが飛び立ったのはパリ、そこでなぜか純粋なラテン・ミュージックをテーマとして選び、最後のアルバム『Naked』を制作することになる。


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最悪の人間関係の中で生まれた過渡期の傑作 - Police 『Zenyatta Mondatta』

Police-album-zenyattamondatta 3ピース・バンド・サウンドの可能性を最大限まで追求した初期の名作『Reggatta de Blanc』と、大幅なサポート・メンバーの増員によって、サウンドが劇的に変化した『Ghost in the Machine』に挟まれているため、いくぶん影の薄いPolice3枚目のアルバム。
 Policeは俺が洋楽で初めて興味を持って聴き始めたアーティストのため、個人的に思いれが強い。基本どのアルバムにも愛着があるのだけれど、『Zenyatta Mondatta』は今のところPoliceの全アルバム(といっても5枚しかないけど)中3位という位置づけになっている。ちなみに1位は、最初に買った『Reggatta de Blanc』、次に『Synchronicity』といった感じ。

 もともと各メンバーのポテンシャルが高かったため、サウンド的・技術的にはデビュー当時から完成されていたバンドである。そんな彼らのデビュー当時のテーマとしてあったのが、ギター・ベース・ドラムという最小限のユニットにおいて、パンク・ビートを基調としたホワイト・レゲエをどこまで深化できるか、が一つの課題であったはず。
 パンク以降を席巻したニュー・ウェイヴ・ムーヴメントの潮流に乗ってデビューしたPolice、本来なら、これまで培ってきた三者三様の技術スキルを駆使すれば、いくらでも高度なサウンドを展開できたはずなのに、時代が時代なだけあって、卓越した技術や経験などは、逆に足かせとなった。なので、デビューに当たっては、ニュー・ウェイヴ・バンドとしては障害となる、経験値や演奏テクニックを敢えて封印、素人に毛の生えた程度のメンツに混じり、素知らぬ顔で新人ヅラして活動していた。
 当初は若干毛色の違う、ニュー・ウェイヴにしては平均年齢の高いバンドとして位置づけられていた彼らだったけど、基本スペックが他のバンドと比べて飛びぬけていたため、2枚目『Reggatta de Blanc』リリース時には、ニュー・ウェイヴ出身という看板が要らなくなっていた。

 前回のレビューでさんざん触れたのだけど、ジャケットの悪趣味さ(オレンジと黒!!)は言うまでもないが、それ以上に、なんだゼニヤッタモンダッタって。
 当時、バンドの主導権を握っていたStewartによる命名ということで、確かに彼の趣味を反映した、エスニック風味満載のタイトルなのだけど、ほんと誰か忠告する奴が居なかったのか、と当時の関係者がいれば、30分ほど問い詰めてみたくなるようなタイトルである。

 もともと音楽的な接点がほとんどないメンツであるため、感情のもつれ・音楽的な意見の対立によって何かともめ事も多く、ステージ裏では流血寸前の取っ組み合いになることもしばしばだった、とのこと。年長者ゆえ、基本は静観の構えのAndy 、兄貴がマネジメントを行なっていることを楯にして、リーダー面であれこれ独断専行のStewart、メインのソングライターであり、フロント・マンであるにもかかわらず、一番年下というだけで、バンド内カーストにおいては最下層に位置するSting。

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 ほとんどリハーサルの必要もなくレコーディングに突入した、とのことだけど、当時は殺人的スケジュールでの全世界ツアーが組まれていたため、練習する時間もなかったのだろう。とは言っても、個々の演奏スキルが相当高いレベルであったため、単純なミス・テイクはほぼ皆無、粛々と進行したらしい。まぁ下手なイージー・ミスでも起こそうものなら、途端に取っ組み合いにもなり兼ねなかったため、スタジオ内は張りつめた緊張感でいっぱいだったことだろう。
 逆に、同じ空気を吸っているのもイヤなので、とにかく一刻も早くレコーディングを終わらせるため、システマティックにビジネスライクに事を進めてたのかもしれないけど。

 まぁそんなこんなで色々ありながら、バンド内の均衡は辛うじて破裂寸前のレベルで抑えられていたものの、ちょっとした弾みやボタンの掛け違いによって、簡単に決裂する恐れも何度かあったはず。そんな中、バンドのほぼ実権を握っていたStewartが、半ば腕ずくで二人を服従させていたのだろうと思われているけど、実際のところ、Stingからすれば好きにプレイさせてくれればどっちでも良かっただろうし、 Andyも自由にギターを弾かせてくれるのなら、いちいち揉め事を作りたくなかったのだろうと思われる。
 そういった面、彼らの大人の対応、悪く言えばビジネスライクな人間関係が、人によっては好き嫌いが別れるのだろう。

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 三者三様の思惑が複雑に錯綜する中、唯一結びつける共通項はたった一つ、音楽のみだった。
そんなコンディションの中で生まれた意欲作である。
 何度も言う。ジャケットと邦題の悪趣味さで嫌いにならないでね。


Zenyatta Mondatta (Dig)
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1. Don't Stand So Close To Me
 Stingの高校の教育実習生体験をモチーフに書かれた歌詞なので、邦題が『高校教師』。まぁ確かにその通りだけど、何だか投げやりなネーミング。こんな風に何十年後も残るのだから、もうちょっと何とかならなかったの?と言いたくなるのだけど、当時はこの程度の扱いだったのだろう。
 不穏に薄く被さるシンセ音がこれまでと違うミステリアスなイメージだが、本編が始まれば、やっぱりいつものPolice。やはりこの頃までのPoliceはStewartのバンドである、と断言できるほどのリズムの奔放さ。リズム感の切れがハンパない。
 


2. Driven To Tears
 邦題が『世界は悲しすぎる』。世界の貧困問題を取り上げた内容なので、このタイトルはうまくはまっている。
 ギター・シンセも併用した、スペイシーなAndyのサスティン・ギターの音色が心地よい。ここでの主役はもちろんAndy。ややプログレッシヴな響きの間奏ギター・ソロに本気度がうかがえる。後半のStewartのハイハット乱れ打ちも最高。

3. When The World Is Running Down, You Make The Best Of What Is Still Around
 『君がなすべきこと』という邦題がしっくり来る。それほどアップテンポでもないのに、妙に疾走感のある曲。普通の8ビートなのに、肝はStingのベースだった。リード・ヴォーカル兼任のため、通常ベース・ラインはシンプルになりがちだけど、Stingの場合、かなりの割合で印象深いフレーズをぶち込んでくる場合が多い。特にこの曲においてはランニング・ベースというのか、手数は多いのだけれど、曲を壊さない絶妙のバランスでフレージングしている。
 


4. Canary In A Coalmine
 1980年時点でもそれなりに流行っていた、スカ・ビートの疾走感溢れる曲。勢い一発ではあるが、実はよく聴いてみると、結構複雑なアンサンブルで演奏しているのがわかる。あっという間の2分間。

5. Voices Inside My Head
 時々Stingによる「Cho!!」というシャウトが入る、ほぼインスト・ナンバー。前回の『Reggatta de Blanc』でもあったように、最初からインストのつもりで作ったのか、それとも歌入れが間に合わずに止むを得ずインストになったのか、それは不明。でもサウンド構成としてはヴォーカルを入れること前提で作ったように思われる。
 Andyの細かなフレーズのリフとStewartの複雑なリズムとが延々と続いているように思われるけど、そこはさすが手練れのメンツが揃ってるだけあって、ミニマル・ミュージック的な反復から徐々に細部が変化し始め、最後はクールな盛り上がりを見せている。

6. Bombs Away
 Stewart制作による、このアルバムの中では比較的ストレートなロック・ナンバー。PoliceといえばどうしてもStingのワンマン・バンドだと思われがちだが、実のところ演奏に関して言えば3人ともほぼ対等、ていうか誰もがほか二人を喰ってしまいそうな勢いでプレイしていた。この曲も3人それぞれの見せどころがあり、そのせめぎ合いがバンドに程よい緊張感を与えていた。
 そのバランスが崩れたのが第三者の介入、すなわちシンセサイザーの大幅な導入である。

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7. De Do Do Do, De Da Da
 レコードで言えばB面トップ、当時のヒット・チャートを知るものなら誰もが知っている、完璧なヒット・ナンバー。何しろメロディ・演奏・そして歌詞が完璧。特に歌詞の内容が徹底的に無内容なのが最高。ある意味ヒット・ソングの条件をすべて満たしていると言える。
 Andyのナチュラルなサスティンからスタート、珍しくドラム・アンサンブルもシンプル。この曲のサウンド面においては、何と言ってもAndyが主役。
 ちなみにこの曲、来日記念盤として日本語歌唱ヴァージョンが存在する。邦題は『ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ』と、まぁそのまんま。一応日本でもオリコン50位と、それなりには売れた模様。珍品としてしばらくCD化されていなかったのだけど、1997年になって初めてベスト・アルバムのボーナスCDとして、ひっそりリリースされた。日本では、大槻ケンヂによる失笑カバーによって、ごくごく一部では有名である。
 


8. Behind My Camel
 Andyによる、ギター・メインのインスト・ナンバー。これこそ純粋に、インスト前提で作られたと思われる。やはり経歴が長いだけあって、サウンド的にもどこか風格があり、後にデュオ・アルバムをリリースすることになるRobert Fripp色、イコールKing Crimsonっぽい瞬間が垣間見える。

9. Man In A Suitcase
 ちょっぴり能天気なスカ・ナンバー。なんか語呂が良いだけのサビで、7.同様、内容がありそうで、実はそれほどない歌詞。全体的にPoliceはリズムが立っているため、時として続けて聴くと重苦しく感じる場合がある。そう言った中での箸休めとして、こういった曲も必要なのだ。

10. Shadows In The Rain
 久々のレゲエ・ビート、ダブ・サウンドを前面に押し出しているが、この曲だけはどうにも退屈。どうしても後年のStingのセルフ・カバーと比べてしまうと分が悪い。それほどStingヴァージョンが秀逸なのだ。

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11. The Other Way Of Stopping
 ミステリアスな疾走感のあるオープニング。久々にニュー・ウェイヴ的サウンドを展開する。こちらも主役はStewart。なんだこのドラム。これも歌入れ前提だったと思われるインスト・ナンバー。
 当時のPoliceはワールド・ツアーの真っ最中、多分に充分アイディアを練り上げる暇もないままレコーディングに及んだことも多々あったはず。3人とも演奏スキルは充分過ぎるくらいあったので、スタジオに入って短時間でまとめることはた易かったかもしれないが、アレンジの更なる追求にまでは、とても手が回らなかったのだろう。




 そういったジレンマもあったのか、ワールド・ツアー終了後、もっとじっくりした環境でとことんサウンドを練り上げるため、彼らはカリブ海に浮かぶモンセラット島へ向かう。リゾート地に立つスタジオゆえ、半ば休養も兼ねてのレコーディングだったのだけど、スケジュールに追われない音作りは、結果、これまでにない緻密なサウンドとして結実した。それが次作『Ghost in the Machine』である。
 細部まで作り込んだサウンドは好評を得、さらに次作の『Synchronicity』への重要な橋渡しとなるのだけれど、それと引き換えるように、初期のエモーショナルなサウンドは次第に失われてゆく。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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