好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

タモリが教えてくれたColtrane - John Coltrane 『My Favorite Things』

john_coltrane___my_favorite_things__1983694168  これまでリリースされた多くのジャズ・アルバムの中でも、王道中の王道。一般紙のディスク・ガイドでも、名盤として高い確率で紹介されており、CMやTVのBGMなどでたまに使用されているので、なnとなく聴いたことがある人は多いと思う。
 1961年にリリースされているのだけれど、ジャズの場合、カウントの仕方が結構いい加減なので、何枚目のリーダー・アルバムかはわからない。

 Miles Davis『On the Corner』のレビューで書いたのだけど、ジャズのジャム・セッションが一度行なわれると、アウトテイクも含め、優にアルバム2~3枚分のテイクが残される。大抵はレコード会社の意向、または言い出しっぺのバンド・マスターがリーダーとなってアルバムがリリースされるけど、ごく稀に、使用スタジオやレコーディング契約の関係によって、バンド・マスターでありながら、クレジットが出せないケースもある。
 その場合、状況にもよるけれど、作曲やアドリブにやや多めに貢献したプレイヤーが、名義上のリーダーとなる。レコード会社イチ押しの期待の新人や、諸事情によって、まとまった金を稼ぎたい(大抵はドラッグの借金)者に花を持たせる場合も同様だ。
 レコーディング契約も口約束が多かったり、書面すら取り交わしてない場合も多かった、大らかな時代の話である。
 
 享年41歳ということもあって、活動期間ははなはだ短く、コンポーザーとして活躍した期間は、実質10年程度のものである。ただ、この人はジミヘンと並んで死後の発掘作業が古くから進んでおり、今でも未発表テイクやライブの音源がブラッシュ・アップされ、リーダー・アルバムは優に200枚を超えている。かつて所属していたレーベル・レコード会社はもちろんのこと、世界中の有志・コレクターによって、テレビやらラジオの放送音源もその対象となっており、公式・非公式ともども、いまこの瞬間にも続々ネットにアップロードされたり、そりゃもう収拾がつかない状態になっているのが現状。よほどのマニアックなファンでも、すべてを追い切れてないのが現状である。

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 晩年のアバンギャルドな方向性によって、「頭で聴く」小難しいジャズの代表である反面、本作を含むアトランティック期の一連のアルバムは、メロウさとテクニカルな面とが上手く拮抗して、ビギナーにとっても親しみやすいアイテムが多い。取りあえず、「最近Coltrane聴いてるんだよね」と言っておけば、何となく通ぶれる、というのも、日本における人気の高さを支えるひとつでもある。
 これがインパルス移籍後になると、末期に近づくにつれ、抹香臭く混沌としてきて、筋金入りのジャズ・ファンでもハードルが高くなってしまうのだけど、このアトランティック期の一連の作品は、普通のジャズ・ビギナーの耳でも、「なんとなく高尚だけど、一般的なジャズっぽいサウンドのイメージに近くって、耳当たりの良い演奏」として、まだ広く受け入れられている。
 ちなみに、それ以前のプレステッジ、ブルー・ノート期になると、メロウさが際立っているのと、まだアドリブ・ソロの面での迷いが見られる。
 
 Coltraneの代名詞的に語られるのが、『シーツ・オブ・サウンド』という演奏法なのだけど、そこまで突っ込んでジャズを聴いたことがない人だとピンと来ないだろうし、実は俺もそれほど詳しい音楽理論まではわかってるわけではない。
 わかってないことを前提に、誤解を恐れず、すっごく簡単に言ってしまえば、「空間をすべて音で埋めてしまう奏法」と思ってもらえればよい。
 サックスのロング・トーンを一音で表すのではなく、その間にとてつもなく早いBPMで、細かなフレーズを吹きまくることを、この時期のColtraneは徹底して行なっていた。かつて師事していたMilesによる、空間と余白とのギャップにて奥行きを演出したモード奏法が「静」なら、Coltraneの奏法は陰陽の関係である「動」にあたる。その最初の成果報告が『Giant Steps』であり、そのまた進化形が『My Favorite Things』である。

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 俺的に思い出深いのは、確かもう四半世紀も昔、NHK-FMでタモリがジャズの特番を1週間やっており、最後の最後で、自身が一番好きな曲として、このタイトル・ナンバーをオンエアした。管楽器にしては線が細く、それでいて力強さと強引さとをあわせ持ったソロが印象的だった。
 意識的にジャズを聴き始めるきっかけとなったのがこの番組であり、そしてソプラノ・サックスという楽器がこの世に存在することを知ったのも、このアルバムを通じてだった。


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1. My Favorite Things
 映画『Sound of Music』の挿入歌をモチーフとした、Coltraneといえばこれ、と言える代表作。オーディエンスの受けが良かっただけでなく、本人もお気に入りだったらしく、晩年までセット・リストに加えられていた。
 ジャズの特徴、特にColtraneの特徴として、様々なヴァージョンの"My Favorite Things"が残されており、晩年のアバンギャルド期に来日した時のヴァージョンなんかは、最初の数フレーズ以外は原形をとどめておらず、11分程度のオリジナル・ヴァージョンが延々1時間に拡大されている。
 映画版のオリジナル(と流布されてるけど、実はブロードウェイ・ミュージカル版が本当のオリジナル。映画が公開されたのは、このアルバム・リリースの後である)を聴いてもらえればわかるように、名優Julie Andrewsの表情豊かなヴォイシングと、黄金時代のハリウッドをほうふつとさせる、壮大なオーケストレーションが印象的だけど、「それ」が「こんな」風になってしまうのである。今で言えば、"Let It Go"をくるりがカバーするようなものだと思ってもらえればよい(どうも例えが難しい)。
 McCoy Tynerが、地味ながら堅実なプレイで活躍している。Coltraneの不穏なソプラノ・サックスの響きは最初の2分ほどで一旦捌け、McCoyが手堅いソロで場を繋ぐ。リズム隊の順繰りのソロが終わった後、再び御大登場、前半よりパワー・アップして、さらにアグレッシヴに吹きまくり、他メンバーも引っ張られるようにさらに熱を帯び、そして強引に幕引き。

 
 
2. Everytime We Say Goodbye
 5分程度のスロー・バラード。ほんとスタンダードなフォーマットのジャズに仕上がっている。McCoyの中盤ソロも、昔ながらのカクテル・ラウンジやジャズ・バーでいつもかかっているような、安心できる演奏。
 
3. Summertime
 有名なスタンダード・ナンバー。大抵のカバーはもっとスロー・テンポだけど、そのセオリーに反して強引に『シーツ・オブ・サウンド』を展開、アグレッシヴに吹きまくるソロを聴かせている。最初の♪Summertime~のサビの1フレーズ以外は、ほんと自由自在に展開したソロ。ていうか、ほぼ原形をとどめていない。
 途中から聴いてみると、まずColtraneのファンでもない限り、"Summertime"とわかる人はいないはず。辛うじて、やはり真っ当な普通人McCoyが、なんとなく"Summertime"らしいブリッジを聴かせている。

 
 
4. But Not For Me
 アトランティック初期の傑作『Giant Steps』を思い起こさせる、これも昔ながらのジャズ・クラブっぽい演奏を聴かせる良作。こちらも比較的有名なスタンダード・ナンバー。同じくシーツ・オブ・サウンド・スタイルだけど、もう少し肩の力を抜いたプレイになっている。軽快なアドリブが親しみを感じさせる。バックのリズム・セクションも楽しげで、やはりMcCoyは良い意味で凡庸なソロを聴かせている。
 ここまで散々、McCoyは凡庸だと書いているけど、誤解のないように。実際は、凡百のピアニストが束になっても適わないくらい、その演奏のポテンシャルは高い。
 ただColtraneが強烈すぎるのである。 




 前述したように、フリー・ジャズの台頭によって、Coltraneも情勢を無視できなくなり、次第にアバンギャルドなスタイルを志向するようになるのだけど、それはまだ晩年の話。ギリギリ、ジャズのコアなファンじゃなくても、まだ辛うじて理解できる傑作『Love Supreme』の話は、また別の機会に。



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首根っこ捕まえて奥歯ガタガタ言わせてまう音楽 - Miles Davis 『On The Corner』

 folderPrinceのルーツを辿ってゆくと、SantanaやSly Stone、そして最終的には今世紀最大のファンク・マスターJames Brownにたどり着く。ポピュラー音楽史上最大の影響力を持つリズムを産み出したJamesは、その後多くのフォロワーを生み出したのだけど、それは「ファンク」というジャンルそのものだけに留まらず、異ジャンルのジャズへも多くの影響をもたらした。
 円環構造を持つファンクのミニマズムと、ジャズの感覚的なインプロビゼーションとを融合した、『ジャズ・ファンク』という、そのまんま、両方のイイとこ取り新ジャンルの誕生である。テレビとビデオをくっつけたら『テレビデオ』になったようなものだ(また例えが思いつかなかった…)。
 
 ひと括りに『ジャズ・ファンク』といっても、その2つのジャンルの混合比によって、結構なバラつきがある。
 Herbie HancockやJohnny Hammondら鍵盤楽器系のアーティストは、どちらかといえばジャズ成分が多く、逆にDonald ByrdやFreddie Hubbardらの管楽器系になると、ファンク・テイストが強くなる傾向がある。直接息を吹き込む楽器を操ることは、それだけ肉声に近い分だけ、肉体的な要素が強くなるのだろう。
 この双方のバランスを調整し、さらにロックやソウルのエッセンスを加えると、今度はフュージョン/クロスオーバーという化学反応を起こし、また新たなジャンルの誕生となる。
 不確定性アドリブを含んだジャズ、中毒性のある反復リズムを延々展開するファンク、電気増幅により高いHPを放出するロック、エモーショナルなナチュラル・パワーは最上級のソウル、それらの混合比の振り分け具合によって、さらにジャンルは細分化される。
 これから聴き始める目安として、初心者向けに大まかなジャンル分けは必要だけど、細分化し過ぎるのも考えものである。むしろ各ジャンルのマニアの増殖をあおり、ジャンル仕分けの無数の奴隷を産み出すだけだ。

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 そういった状況はお構いなし、混合比なんて細かいことを考えず、ジャズもファンクもソウルもロックも何もかも、とにかく全部ぶち込んでグッチャグッチャに混ぜ合わせた挙句、ジャンル分け不可能な音楽を作ったのが、Miles Davisである。HerbieやChick CoreaらMiles Bandの卒業生らが中心となったフュージョン・ブームとは、結局のところ、Milesが既にやっていたことの焼き直し・大衆化に過ぎない。

 このフュージョンというジャンル、当初は目新しさも手伝って、セールス的にはかなりの成功を収めた。Miles直系のWeather ReportやReturn to Foreverなどは、ここ日本においても安定した人気を誇り、来日公演も頻繁に行なわれていた。
 Milesの側近だった彼らの作品はまだよい。直系だけあって、一定水準のクオリティは充分クリアしている。問題はその他の連中、ブームの活況と共に、劣化型のフォロワーが多数デビューするようになると、その様相は徐々に変化してゆく。
 展開の薄い予定調和なアドリブ、やたら手数が多いだけのリズム・セクション、フレーズの早弾きだけが評価基準となったギター・プレイ。
 もともとスタンダード・ジャズにもその傾向はあったのだけど、フュージョンはそれに輪をかけて、次第に曲より演奏テクニックが重視されるようになってゆく。彼らのライブはレコードの忠実な再現、機械的な演奏のテクニック品評会と化していった。演奏において最も大切な、エモーションを置き去りにして。
 次第に自家中毒を進行させていったフュージョンというジャンルは、リズムどころか作品内容すらもミニマル化してゆく。どれを聴いても変わり映えしない金太郎アメ状態になったブームは終息する。

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 1972年発売、もう何枚目のリーダー作なのか。かなりのマニアでさえわからないくらい、Milesは多くのレコーディング・セッションを行なっている。ジャズの世界ではよくある話だ。
 巷でよく言われるように、ジャズというジャンルの中では、かなりの異端であり、問題作である。ていうか、自らジャンル分けを拒絶する、ほんとMiles Davisしかできない音楽であり、それこそが彼の目指すとことだったのだろう。
 これまでモダン・ジャズを聴いてきた正統派ユーザーなら、「こんなのはジャズではない!」と拒絶反応を示しただろう。かといって、これまでジャズを聴いたことがない人間に、「これがジャズだ!」と最初にお勧めできるアルバムでもない。一般的なモダン・ジャズのイメージとは大きくかけ離れている、混沌の美そのものである。
 
 当時、ワイト島ロック・フェスティバルなど、比較的ポピュラー寄りのコンサートにも頻繁に顔を出していたMilesにとって、従来の冗長なモード・ジャズは退屈で、前述のSlyやJBなどのファンク・ミュージックの方に、むしろ現在進行形的なリアルを感じていたのだろう。
 当時はあまりに先を行き過ぎたせいで、ジャズ・シーンの内側、そして外界でもほとんど理解を得られなかったのだけど、後年、真っ先に積極的なリスペクトを行なっていったのは、世界的なレア・グルーヴ・ムーヴメントによる過去の再評価、ヴィンテージ・ソウルやファンクを消化したDJ達だった。今ではジャズ界でも相応の評価はされるようになってきてはいるけど、まぁMilesにとって既存のジャズ・ファンはほぼ眼中になかっただろうと思われる。むしろ彼らのようにHIPな連中からの支持こそが、Milesの本意でもあった。

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 前述のフュージョンの要素だけでなく、さらにMilesは試行錯誤を繰り返し、このセッションにおいては現代音楽家Stockhausenやアフロ・ビートなどのエッセンスもぶち込んだ。スタジオでテープを長回しにしたまま、膨大なセッションを繰り返すうち、次々生み出される混沌の怪物は制御不能となり、挙句の果て、Milesはひとつの作品としてまとめることに嫌気が指したのか、中途半端で作業を投げ出してしまう。まぁこれも結局いつものことなのだけど、結局はプロデューサーTeo Maceroに丸投げしてしまうことで決着を見る。
 一人スタジオに残されたTeoは、大量のセッション・テープを聴き直し、Milesの意図・ビジョンに沿って切り貼りしながら編集し、かなりいびつな形ではあるが、強引にひとつの作品としてパッケージした。
 
 そしてユーザーの前に提示されたのが、このあらゆるリズムのごった煮である。メンバーの誰もが、一曲をちゃんと構成しようとだなんて思っていない。
 というか、バンド・マスターでありながら、まとめることを拒否し、好き放題勝手にやらせた結果が、この怪物だ。
 それもMilesの思惑通りであり、その意をくみ取ったTeoの仕業でもある。


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1. On The Corner/New York Girl/Thinkin' Of One Thing And Doin' Another/Vote For Miles
 ハイハットの16変則ビートと、ギターのカッティングで始まる。他にパーカッションが裏で鳴っているが、なんというか、突っかかってるような拙速なリズムが、単純なノリというのを減衰させる。
 この頃のMilesは電気的にエフェクターを利かせたトランペットを吹いており、後年のようなミュートはあまり使用していない。ただ、エレクトリック期以前のスタンダードな吹き方ではなく、リズムに背中を押されながら急かされて吹いているような印象。
 とにかく落ち着きがない。リラックス&ムーディーなスムース・ジャズとは正反対の位置にいる、あまりに殺伐とした音楽。
 ちなみにタイトル通り組曲となっているが、どこからどこまでが切れ目なのか、よくわからない。
 
2. Black Satin
 ジャズなのに、シングル・カットされた曲。といっても5分を超えるので、当時のシングルとしては、やはり異色。
 かなり音色をいじった、Milesのトランペットのリフが印象に残る。
 比較的、アルバムの中ではポップであり、当時のダンス・フロアでもかけられたことがあるらしい(こんなので踊れたのか?)後半のタブラが元祖ワールド・ミュージック。

 
 
3. One And One
 アコースティック期よりずっと、Milesは何も変わっていないことに気づかされる曲。
 冒頭のソロもエフェクトで歪められているし、ポリリズムを主体としたビートも不協和音となり、リズムの洪水が全体を支配しているけれど、その中で燦然と、しかも微動だにせず吹きまくるMilesがいる。
 
4. Helen Butte/Mr. Freedom X (Unedited Master)
 23分18秒の混沌の饗宴。
 2.をテーマとしてセッションが始まり、さらにどす黒いビートが深い底なし沼を成し。リズムの暗黒にリスナーを引きずり込む。暴力的なアフロ・ビートが宙を舞い、麻薬的な反復が脳内を駆け巡る。
 アルバム全体の特徴として、とにかく音が悪い。あらゆる音を詰め込み過ぎたせいで解像度が悪く、それぞれの楽器パートの音だけ取り出すことが、非常に困難となっている。
 ただ、それこそがMilesの狙いである。
 従来のモダン・ジャズと違い、アドリブ・ソロの羅列ではなく、壮大な一曲の構成要素はどれも不可分である。すべてのパートは等価であり、それはリーダーMilesでさえも例外でなく、どのソロも音の洪水に埋もれながら、瀕死の音で鳴っている。
 
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 ちなみにビルボード最高156位と、決して売れたアルバムではない。ていうか、この時期、ジャズは既にアウト・オブ・デイトな音楽として認知されており、ヒップな若者はジャズなんて聴くはずもなかった。 
 
 すごくわかりづらい音楽である。ただ、わかりづらくはあるが、決して難解ではない。
 多くのライト・ユーザーが好むのは、もっと八方美人的、あらゆるユーザーに対応できる幕の内弁当的な音楽だ。予定調和で分かりやすく構築された、まるでサプリメントのような音楽からは、安らぎやらリラックスやら癒しやら何やらは得られるけど、首根っこ捕まえて奥歯ガタガタ言わせたろか的な、強烈な吸引力はそこにはない。
 逆に、まったくジャズに興味のなかった人間、または俺のように、ヒップホップやソウルを通過してきた耳の持ち主なら、比較的スムーズに受け入れられるんじゃないかと思う。
 
 Milesの混沌の探求はさらに続き、この後も実験的な作品を立て続けにリリースするのだけど、日々湧き出る創作意欲とのギャップに、長年酷使された肉体が悲鳴を上げたのだろう。ドラッグの乱用も相まって、体は次第に限界に近づいてゆく。遂には日本公演のライブ・アルバム『Agharta』『Pangaea』を残し、この後療養のため、長期に渡る休業に入る。



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『アメリカの岡村ちゃん』?『日本のPrince』? - Prince 『Around The World In A Day』

folder 『アメリカの岡村靖幸』(?)とも評された、Prince1985年のアルバム。ビルボード最高1位、UKチャート5位。
 メガ・ヒット・アルバム『Purple Rain』のすぐ後だけあって、一般的には馴染みの薄いアルバムだけど、"Raspberry Beret" ”Pop Life”など、重量級のポップ・ソングがラインナップされており、話題性を抜きにすれば、前作と充分対抗できる内容になっている。

さすがにモンスター・アルバム『Purple Rain』ほどのセールスは獲得できなかったけど、既にこの頃から売り上げ枚数やらチャート・アクションやら、そういった下々の人間がウジウジ悩んでることからは、興味が薄れていたのだと思う。当時アゲアゲの上り調子だったPrinceにとって、もはや各国ゴールド・ディスクの枚数よりはむしろ、独立レーベル設立の喜びの方が大きかったんじゃないだろうか。
 これで好き放題やりたい放題のことができる、といった思いの方が強かったのだろう。

 とはいえ、いくら天才的なアーティストとはいえ、メジャー・レーベルと契約しているわけだから、それなりのプレッシャーはあったはず。レコーディングにおける、ほぼすべての作業(プロデュース・アレンジ・演奏その他諸々)を自前で行なえるくらいのスキルはあるけれど、やはり先立つものは「お金」ということになってしまう。
 スタジオ使用料、バンドの維持費、プロモーション費用など、こういった大きなお金もそうだけど、もっと細かな出費も相当なものだ。スタッフに出す弁当代や移動費だって、積もればバカにならないのだ。

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 だからこそ大抵のミュージシャンは、予想される出版印税の中から必要経費として、それらのコストをレコード会社に負担してもらう。いわば、分け前の先取りだ。
 当然、ポッと出の新人アーティストなら、そのディールは微々たるもので、逆にレコード会社の持ち出しになる。ただしPrinceクラスの中堅どころになると、そろそろ自分の売り上げから、すべてを捻出しなければならない。金額的な負担は大きいけれど、その方が自分の意に適ったプロモーション展開ができる、といったメリットもある。そのためには分母を大きくしなければならないので、アーティスト、レコード会社とも、色々と策を講じることになる。

 黒いビキニ・パンツの上にコートを羽織っただけという、モロ変質者の風体でアルバム・ジャケットを飾ったり(『Dirty Mind』)、既に大御所だったChaka Khanに曲を書いてスマッシュ・ヒットさせたり(”I Feel For You”)、Rolling Stonesアメリカ・ツアーのオープニング・アクトに抜擢されたはいいけど、古株Stonesファンに猛烈なブーイングを浴びてまともに演奏できず、早々にステージ袖に引っ込んで泣いてしまったり、などなど。

 そんなこんなをしているうちに、『Purple Rain』の大ヒットである。
 これまでは、的のはずれた中途半端なプロモーションや、経費捻出のためレコード会社から無理やり押し付けられた仕事をジッと我慢してこなさなければならなかったけど、おかげで一気に借りを返してしまった。もちろん、当時ポピュラー音楽における絶対的存在だったCBSのMichael Jacksonへの対抗馬として、Warner主導による、映画・音楽双方によるメディア・ミックス戦略が当たった、ということもあるのだけれど。
 レコード会社のバックアップのおかげ、と頭では理解していながら、さすがに調子の乗ってしまったPrince、この勢いのまま、すぐに独自レーベル「Paisly Park」を設立、そして本作がリリース第1弾となる。

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 このアルバムがリリースされた頃はいわゆるライティング・ハイ、創作力のピークにあったPrince、通常2~3年に1枚とされていた、メジャー・アーティストのリリース・ペースのルーティンからはずれ、ほぼ年に1枚のペースでアルバムをリリースしていた。
 レコード会社の言い分としては、「一枚のアルバムをじっくりプロモートしたいので、余裕を持ったリリース・ペースで」というところだけど、まぁまだチャートに残っているのに、すぐ次のアルバムを出されたりしたら、商業政策上、たまったものではないだろう。売る側の言い分としては、当然のことだ。

 ただし、作る側であるPrinceの心情としては、とにかくあふれ出てくる音楽を、片っぱしからリリースしたくてたまらなかったはず。だからという理由もあって、彼は独立レーベルを作り、リリース音源のコントロールを開始した。
 自分名義でリリースするだけでは間に合わないので、グループ名義(Family、Timeなど)、他人名義(Sheila.Eのバック・トラック、ドラム以外ほぼ全部)を使って、とにかく正規音源を大量に世に送り出した。何しろライブと”Make Love”以外は、ほとんどの時間をスタジオで過ごしている男である。このくらいのことは何でもない。
 ありとあらゆる手段を講じても、それでも需要と供給のアンバランスは解消されず、前回にも述べたように、その大量の未発表曲は、すぐにもリリースできる形に整えられながらも、いまだリリースの目途さえ立たないままである。時々一部のマテリアルが流用されている場合もあるけど、それもごく稀なケースであり、ワーナーとの完全な和解がない限り、そしてPrinceが亡くなりでもしない限りは、倉庫に眠ったままなのだろう。


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1. Around The World In A Day
 中近東風のイントロが、アルバム・タイトルである「世界一周」を予兆させる。
 とはいっても、回るのはこの現実世界ではなく、ファンク & サイケデリック・マスター “Prince”によって奏でられる、サイケデリックに彩られた脳内世界。

2. Paisley Park
 新レーベルの名前を冠した、メモリアル的なサイケ・ポップ。タイトルからしてペイズリーだし。
 全世界的に70年代リバイバルが始まった頃で、身近な所ではペイズリー柄のネクタイが流行った記憶がある。
 好評を得つつあった、Princeのギター・ソロも堪能できる。

3. Condition Of The Heart
 たっぷり2分半にも及ぶイントロの後、またシアトリカルとも言えるエモーショナルなヴォーカルを聴かせるPrince。"Purple Rain"ほどベタでなく、普通に女性アーティストにカバーされたら、それなりにドラマティックに聴けてしまう。
 あまりに多作だった時期ゆえに埋もれてしまいがちだけど、こういったストレートなナンバーも作れるほど、当時のPrinceの守備範囲は広かった。

4. Raspberry Beret
 1stシングル全米2位。Princeの曲で人気投票を行なったら、確実にベスト10に入ってくる、良質のポップ・ソング。
 珍しく全般的にストリングスを使用。それほど前面に押し出したミックスではないが、それ故、優雅さが伝わってくる。コーラスのWendy & LisaとPrinceとのヴォーカルが噛み合っていないところが、また良いのだろう。
 完璧な調和は、時として無味乾燥なものとなってしまう。

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5. Tamborine
 この時期では珍しい、正当なファンク・ナンバー。
 変態リズムと1コードで押し通してしまう、2分程度のブリッジ扱いの曲。
 多分Princeにとって、こういったアイディア一発とも言えるこのタイプの曲なら、いくらでも作れるのだろうし、またストックも大量に残っているのだろう。同じような曲の断片なら、ブートでも腐るほど聴いてるし。
 その中でも辛うじて世に出ることができた、ある意味幸せな曲。

6. America
 Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』を意識したのかどうかは不明だけど、最大のポップ・イコン『アメリカ』に正面から取り組み、まんまストレートにタイトルに持ってきたナンバー。
 ストレートな8ビートと、ポップの王道的なコード進行によって構成された曲なので、Prince自身の個性的なヴォーカルを抜けば、比較的正当なパワー・ポップである。
 Bruceは現在(1984年当時)のアメリカを取り巻く現状に嘆き、それを敢えて前向きなサウンドに乗せることによって、皮肉を込めたつもりだったけど、大多数のバカなアメリカ人は、皮肉が理解できず、純粋なアメリカ応援歌として受け取ったため、その後Bruceは世間との乖離に長く苦しむことになる。
 Princeの場合は?世間的に、そこまで熱狂的に支持された曲ではないので、誤解を受けることはなかったけど、Prince的世界をこの一曲に凝縮するつもりだったのか、あらゆる構成要素の坩堝と化している。
 何しろ、アルバムでは3分足らずのこの曲、オリジナル・ヴァージョンは20分を超えるのだから。

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7. Pop Life
 サウンドはタイトル通り、ポップそのもの。こうして聴いてみると、『Purple Rain』よりも、サウンドといいメロディーといい、優れてる面が多い。
 今でこそフラットな視点で見ることができるが、『Purple Rain』は空前のビッグ・セールスによってメジャーになり過ぎてしまい、一般ファンにも「あのキモい風体の」Princeとして広く知られるようになったけど、昔からの頑固な洋楽リスナーにとっては、むしろ『Around The World In A Day』のマニアックなサウンドの方が人気が高かった。
 一部のElvis Costelloファンにとって、この曲は一時期ライブで何度かカバーされていたことで記憶に残っているのだけれど(ほんとに一部だな、この小ネタ)、正式にレコーディングしたい、というCostelloのオファーを無下もなく断った、Princeの了見の狭さに呆れたことでも、ごくごく一部では語り草である。

8. The Ladder
 荘厳としたストリングスから始まる、なんとなく”Purple Rain”を思わせる曲。ドラムの音処理が時代を感じさせるのと、ソウル・レビューっぽい語りとサビの盛り上がりとがクセになる。Eric Leedsの情感あふれるSaxが、時たま粗いAORっぽく聴こえるのはご愛嬌。

9. Temptation
 ディストーションをかなり効かせたPrinceのギター・ソロに、フリー・ジャズっぽいサックスが絡む、よく聴けば変な曲。一応バンド名義になっているだけあって(ほとんどのプレイがPrince自身のものであることは有名)、セッションっぽい響きの録音になっている。
 前半は、「ハード・ロックとハード・バップの融合」とでも形容すればわかりやすいかも(いや逆にわかりづらいか)。何しろこの時代にしては珍しく、8分の長尺曲。
 後半は一転して、フリー・ジャズ・テイストのサウンドにPrinceの陰鬱な語りと、時々叩きつけるようなピアノが絡み、混沌の世界一周が強引に幕を閉じる。




 この後、『Purple Rain』の二番煎じを狙おうとしたのか、Princeは再び映画の撮影に入る。一応ワーナー側のオファーを受け入れた形だけど、前回とパワー・バランスが変わったことによって、今回はPrinceの意向がかなり受け入れられた。よって映画主演第2弾『Under the Cherry Moon』は、幼少時のPrinceが好んで見ていたモノクロ画面のドタバタ・コメディといったコンセプトで製作され、当然歴史的な大コケとなる。
 それと同時に作られたサウンドトラック(いつ作ったんだ?)はセールスこそ目立たなかったものの、音楽的な評価は後年まで語り継がれるほどの代表作になる。
 その『Parade』の話は、また今度。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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