好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

俺たち、イギリスが大好きっ! - Beautiful South 『Solid Bronze: Great Hits』

CS1822110-02A-BIG 2001年に発表された、バンドとして2枚目のベスト・アルバム。地味ながら根強い人気を誇るバンドなので、いろいろな形態のベストが出ているのだけど、冗長でなくコンパクトにまとめられてるモノを選ぶのなら、これが一番とっつきやすいはず。
 もちろん、選に漏れた曲の中にも、いい曲はほんとたくさんあるのだけれど、ほぼ全キャリアを俯瞰するのなら、これが一番。

  もともと、アルバムごとにきっちりしたコンセプトを設定しているわけではなく(悪い意味ではない)、コンスタントにシングルをリリース、いくつか溜まった頃にアルバムとしてまとめるタイプのバンドなので、良く言えば安定したクオリティ、ちょっと意地悪な見方をすれば、どのアルバムも寄せ集め感覚の似たテイストなのだけど、カタログ的な聴き方を試しにしてもらって、もし気に入った曲があったのなら、そこからオリジナル・アルバムを辿って聴いてもらえばよい。
 逆に言えば、1曲気に入った曲があれば、ほぼハズレのないバンドなので、この世界観を気に入った人には、入り口として最適のアルバムでもある。
 
 ちなみに今は解散しており、それぞれがソロ活動中。今ではすっかり忘れられた存在だけど、時々コンピレーションや未発表ライブのリリースなどがアナウンスされるくらいなので、多分イギリスでも懐メロ的扱いなのだろうけど、それなりにリターンの見込める、確実なコンテンツなのだろう。地味だけど息の長い、ロング・テール型のビジネス・モデルとしては、優良でもある。

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 現役当時から言われてることだけど、「イギリスでは誰もが知ってる国民的なバンドなのに、日本ではイマイチ」というのが、このバンドの一般的な評価である。でも、だからといってイギリスと日本以外で売れているのかといえば、そういうわけでもない。徹底的にイギリス本土を主要マーケットに据えた、ドメスティックなバンド、国内需要を主としたバンドである。
 リスクの分散がうまく行かなかったため、本国で活動が失速した際、他国へ活路を求めるべきだったのだけど、その英国的スノッブな作品性は、輸出するにはなかなか困難だった。英国ポップには比較的寛容な日本においても、なかなかブレイクできなかったのは、活動のピーク時に来日しなかったことが大きい。
 
 前身であるHousemartinsが発展的解消した後、主要メンバーであり、ツイン・ボーカルを務めていたPaul HeatonとDave Hemingwayが再結集、装いも新たにBeautifthul Southを結成する。
 Housemartinsよりバンド色を薄め、ピアノや、時にはストリングスも導入するなど、マンチェスター・シーンが盛り上がりつつあった当時の動向には背を向け、サウンド的には、アンダーグラウンドなネオ・アコから転身して、グローバルかつオーソドックスなポップスを志向していたEverything But The Girlと近い道を歩むようになる。もう少しBurt Bacharach成分を注入して歌を抜けば、あら不思議、ホテルのロビーに流れるBGMに早変わりする。
 
 サウンド的には脱ロック的な、親しみやすいポップなメロディー、それに乗せて、辛辣な政治批判や焼身自殺、グロテスクな殺人事件を題材とした歌詞を、男性2人に女性1人が爽やかに歌いあげる、という、大英帝国特有の捻くれまくったコンセプトが360度ひと巡りした結果、案外素直に聞き流せてしまえるくらい、イギリスのお茶の間にも浸透し、いきなりUKチャートで上位にランク・イン。以後、皮肉とペーソスを好む固定客(ほとんどが英国人)をしっかりつかんで、安定した人気を得るようになる。

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 サウンド、メロディ的には古びることのない、スタンダードなポップスを志向していたバンドなので、表面的なサウンドの変化は少なく、ゆえに終始安定していたイメージが強いけど、実は活動期間中に女性ボーカルが2人も変わっていたり、ハウス系のプロデューサーにサウンド・メイキングを依頼したりなど、まぁ中堅バンドとしては有りがちな、そこそこのマイナー・チェンジも行なっている。
 チャート・アクションが地味になってきた頃、Housemartins時代のバンド仲間でありながら、業界での力関係はすっかり逆転してしまったNorman Cookにプロデュースを依頼、ややビッグ・ビート気味なサウンドが、どうにも声とミスマッチだったりしている。これも迷走した中堅バンドに有りがちである。
 
 その迷走の最中にリリースされたのが、このベスト・アルバムなのだけど、まぁ契約消化的な意味合いもあって、本人達的には不本意な選曲もあるだろうが、全キャリアからまんべんなくセレクトされているので、よく言えば俯瞰した作り、意地悪く言えば無難な作りになっている。
 この後も迷走は止まらず、脈絡もなくカバー・アルバム『Golddiggas, Headnodders and Pholk Songs』をリリースする。日本でもそうだけど、アーティストが脈絡もなくカバー・アルバムを出す時、それは大抵、レコード会社からの要請、オリジナルじゃ売れないから、みんなが知ってる歌でセールスを補填することと相場は決まっている。で、当然だけど、大して思い入れのない付け焼刃のカバーは誰の共感も得ることができず、案の定、セールスはさらに下降線を辿ることとなる。
 結局、バンドもレコード会社も、方向性の行き詰まりを解消することができず、遂に2007年、Beautiful Southは18年の歴史に幕を閉じることとなる。楽曲のワン・パターンぶりは致し方ないとしても、バンド内のささくれ立った人間関係に限界を感じていたのだろう。
 
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 日本では、2枚目の『Choke』あたりからメディアの取り上げが多くなり、俺もこの辺りから聴き始めた覚えがある。
 Beautiful Southが精力的に活動していた1990年代は、リアル・タイムのバンドとして、REMやレッチリ、Oasisなど、他にインパクトの強いバンドが数多く活動していた。
 熱狂的なカリスマ性を持ったバンドではないので、特にこのバンドが一番好きだった時期はないのだけど、何というか、腐れ縁のカップルのように、何年かに一度、ふと思い出して引っ張り出したり、何となく気になり始めた頃にニュー・アルバムが出たりして、ズルズル聴き続けていた次第。

 で、今回うちのCD在庫を漁ってみると、なぜか7枚も持っていた。
 多分、イギリスでの売れ方もこんな感じだったんじゃないかと思う。
 なんとなく買ってしまう、家族か友人の誰かが持ってるので、何の曲は知らないけど耳にしたことがある、など。日本でも昔なら、レベッカかBOOWY、最近(といっても前世紀だが)ならglobeかGLAYのアルバムのようなものだ。
 最近はそういったアルバムも少なくなったけど、昔はたとえ自分で持ってなくても、何となく全曲口ずさめるアルバムというのがあった。


Solid Bronze
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Beautiful South
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1 Rotterdam (Or Anywhere)
 『Blue Is The Color』収録、シングル最高6位。シングルとしては珍しく、Jacqui Abbottのソロ・ナンバー。ちょっとボサノバの入ったリズムとアコギのリード、気だるいヴォーカルが、休日の朝の目覚めを思い起こさせる。前述のコンテンポラリー・サウンドのお手本のような曲。チャートで支持されたのもうなずけるし、リード・トラックとしては最適。

2 Perfect 10
 『Quench』収録、シングル最高2位。バンドとしては一番脂の乗っていた時期。やや怪しげな響きを奏でるハモンドから、コール&レスポンスでのPaulとJacquiのツイン・ヴォーカルが、サウンドをリードしてゆく。イギリス版「3年目の浮気」と評した人がいたけど、的を得ていると思う。
 ちなみにPaul Wellerがギターで参加しているのだけど、それほど目立った活躍でもない。
 
 

3 You Keep It All In
 『Welcome to the Beautiful South』収録、シングル最高8位。間の抜けたリズム・ボックスに乗せて歌う2人。こういった曲がチャート上位に食い込んでくる状況というのは、アイドルやダンス系だらけの日本のチャートよりは、バラエティに富んで健全だと思う。
 何となくだけど、日本で言えば浜田省吾がシングル・チャートで健闘するイメージかな?
 
4 Don't Marry Her
 『Blue Is The Color』収録、シングル最高8位。Beautiful Southといえば、必ず取り上げられるくらい、最大の話題作であり、問題作。
 「Rotterdam」と同じく、Jacquiの爽やかなヴォーカルと、アコースティックを基調としたバンド・サウンドが良質なポップスを演出しているのだけど、歌詞の内容は近親相姦をテーマとしており、タイトルではカットされているが、正式名称は「Don't Marry Her, (Fuck Me)」である。しかもはっきり、「Fuck」って歌ってるし。
 このようなシングルがきちんと評価され、チャート・インするのも、まぁイギリス特有の国民性なんだろうな。
 
 

5 A Little Time
 『Choke』収録、シングル最高1位。バンドとしては唯一のNo.1シングル。まぁいい曲なのだけれど、初代女性ヴォーカルBrianaはちょっと甘さが強く、俺としては中期のJacqui の声の方が好み。
 
6 Everybody's Talkin'
 『Miaow』収録、シングル最高12位。皮肉やウィットの強い歌詞世界を持つこのバンドには、ちょっとアバズレた雰囲気のJacqui の声質が合っている。
 
7 Good As Gold (Stupid As Mud)
 同じく『Miaow』収録、シングル最高23位。
 
8 Dream A Little Dream
 シングル発売はないけど、前ベスト『Carry On up the Charts』収録。もともとは有名なスタンダード・ナンバーらしく、最近ではRobbie Williamsもカバーしていた。

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9 Song For Whoever
 デビュー・シングル。『Welcome to the Beautiful South』収録、シングル最高2位。
 
10 Old Red Eyes Is Back
 『0898』収録、シングル最高22位。Beautiful Southはアルバムも含め、シングルもジャケット・デザインが凝っており、ちょっと悪趣味で面白い。
 
11 The Root Of All Evil
 新曲。バンド・アンサンブルのまとまりが良い頃なので、良曲。
 いかにもイギリスの労働者階級っぽい、見た目の冴えないオヤジどもの集団だが、ライブでは、なぜかカッコよく見える。観客の反応も良く、大衆に愛されたバンド、という感じでホッコリしてしまう。
 
12 One Last Love Song
 前ベスト『Carry On up the Charts』収録、シングル最高14位。Brianaのベスト・トラック。これを最後に彼女はバンドを脱退するのだけど、置き土産としては最高。Beautiful Southとしては珍しく直球のバラード。
 
 

13 Dumb
 『Quench』収録、シングル最高16位。「くたばれ」というスラングをポップなメロディー、コーラスでコーティングした、ほんと両方の意味でイギリス人らしい曲。ラス前のJacqui のカウンター・メロディが秀逸。
 
14 How Long's A Tear Take To Dry?
 同じく『Qench』収u録、シングル最高12位。アルバムのリード・トラック。PaulとJacquiの掛け合いがバービーボーイズを思い起こさせる。
 
15 Blackbird On The Wire
 『Blue Is The Color』収録、シングル最高23位。俺自身としては、Beautiful Southで最も好きな曲。
 チャート・アクションはそこそこ、曲としても地味だけど、Paulのセンチメンタルな面が多く出たヴォーカルが最高。ピアノ・ソロを主体としたバック・トラックが、情感たっぷりに歌い上げるヴォーカルを引き立たせている。
 
 

16 Closer Than Most
 『Painting It Red』収録、シングル最高22位。
 バンドとして煮詰まっていたのか、ウニョウニョしたシンセ・サウンドをバックに、徐々にドライブするギター、珍しくホーン・セクションも導入した一曲。
 この路線は結構好きだったのだけれど、バンド活動自体が次第に地味になっていった。
 
 

17 The River
 『Painting It Red』収録、シングル最高59位。ストリング・セクションをバックに、PaulとJacquiがしっとり歌い上げるのだけど、もう『Quench』の頃のようなマジックは生まれなかった。
 
18 Pretenders To The Throne
 1995年発表、オリジナル・アルバム未収録、シングル最高18位。リリース時期でいえば『Miaow』の少し後なだけに、良質なポップ・チューン。
 
19 The Mediterranean (Morcheeba Mix)
 『Painting It Red』収録、シングル発売はなし。Dave Hemingwayによるナンバー。オリジナル2枚組アルバムということでバラエティ色を出したかったのだろうが、逆に裏目に出て散漫な印象となっている。一つ一つは良い曲なのだけど、もう少し曲数を絞ってシングル・アルバムにしていたら、すごく良くなっていたと思う。



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 前~中期までのベスト・アルバムという位置づけ。この後、解散までの3枚のアルバムが後期とされているのだけど、次第に地味になってゆく印象は拭えない。この後もキャッチーではないけれど、ポップな良曲がリリースされているので、まずはこのアルバムを入り口に、いろいろ聴いてみてほしい。
  PaulとJacquiは久しぶりにコラボレーションを行ない、つい先日、連名でアルバムをリリースした。やはり、何か惹かれあうものがあったのだろうと思う。



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すべての人に聴いてほしい、天才の傑作 - Stevie Wonder 『Innervisions』

Innervisions  1973年発売、Stevie若干23歳にして、既に16枚目のオリジナル・アルバム。何しろ12歳でデビューしているのだから、とにかく芸歴が長い。
 レーベル全盛期を支えた多くの所属アーティストらが、まぁそれぞれいろいろあって、次々と他社へ移籍したり、またはいつの間に活動自体がフェード・アウトしてしまったりする中、Stevieはデビューから一貫して古巣モータウンに所属し続けている。活動ペースのムラはあれど、一途に浮気もせず、脇目も振らず、いまだ現役の稼ぎ頭として、老舗レーベル・モータウンの屋台骨を支え続けている。
 
 Berry GordyとSmokey Robinsonによって創設されたモータウンは、 Marvin Gaye『What's Going On』のレビュー でも述べたように、スタジオ・ミュージシャンを缶詰め状態にして、とにかく大量のバック・トラックを制作、ツアーやテレビ・ラジオ出演の合間を縫って、スタジオに飛び込んできたシンガーらがチャチャッと歌を吹き込み、熟練のエンジニアらがラジオで最適の音質で聴こえるようにミックス・ダウン、毎週月曜日の会議を経て、次々と高クオリティのポップ・ソウルをリリースしていった。ここ日本においてでも、90年代初頭に流行したビーイング・サウンドの席巻は、モータウンのノウハウが十二分に活用されている。
 
 そういったイケイケ状態の新興レーベルに所属している状況だったので、まだセールス実績もそこそこの十代で、しかも盲目というハンディキャップを背負っている少年にとって、まともな発言権などあろうはずもなかった。キャリアを重ねるに連れ、次第に表現欲求や自己主張も増えていったことだろう。ちょっと口を挟みたい時だって、数知れずあったと思う。しかし、当時の音楽業界に携わっていた者は、多かれ少なかれ山師的な胡散臭さと老獪さを持ち合わせており、デビュー間もない小僧の戯言にまともに耳を傾けることはなかった。
 社会的・音楽的にも激動の時代を迎えた60年代のまっただ中にいるにもかかわらず、いつまでたっても永遠の少年扱いのままのStevie、相も変わらず社命によって、「ちょっと音楽的に器用な黒人の少年」というレッテルのもと、お仕着せのポップ・ソングを歌い続けなければならなかった。

StevieWonder-Grover

 モータウンによる音楽的な過干渉に耐え切れなくなり、抑えきれなくなったフラストレーションのガス抜きのため、Stevieはこれまでとはちょっと流れを変えた、ほぼすべての楽器を自分で演奏したジャズ・インスト・アルバム『Alfee』を制作したのだけど、あまりにこれまでのStevie Wonderのイメージとかけ離れていたため、営業戦略上、まともな形で発売することを渋ったモータウンは、老獪な懐柔の末、『Stevie Wonder』ではなく、別名義(Stevie Wonderのスペルを逆に綴ったEivets Rednow名義)でのリリースを提案する。
 Stevieとしては、とにかくアーティスティックな一面をアピールできれば、セールスは二の次だったので、その提案にホイホイ乗ってしまう。モータウンとしても、多分大きなセールスは見込めないと判断したのか、プレス枚数は最低限度、プロモーションもほんの申し訳程度で済ませてしまったため、当然、リリースされたこともほとんどのファンが気づかず、リリース当時から幻のレア・アイテムとなってしまった。
 モータウンとしては、一時的な売り上げ減少にはなったけど、先を見越した考えでゆけば、頭に乗ってきた若手に差し出した、ちょっとしたアメ玉的プレゼントでしかなかった。結局のところ、周囲の大人にうまく丸め込まれた、というのが、ここまでの経緯。
 
 二十歳の誕生日を迎えたと同時に、それまで抑圧されていたStevieの反撃は始まる。
 これまで稼ぎに稼いだ挙句、未成年という理由でプールされていた正当なギャランティを、完全に合法的な手続きに則って、管財人となっていたモータウンから、ほぼ全額奪い返す。しかも、自前のプロダクションと音楽出版社も用意し、法的武装も怠らなかった。さらには、自作のプロデュース権まで獲得することによって、最も自分の音楽を作りやすい環境づくりに成功する。
 ここまで用意周到な交渉過程の裏には、もちろん弁護士など専門家からの助言アドバイスも大きかっただろうし、いろいろ甘言を吹き込む取り巻きなどの尽力もあったのだろうけど、それにも増して、自らの音楽的信念を曲げず、進むべき道を邁進するために手練手管を尽くした、Stevie自身の手腕が大きく物を言っている。

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 金と自由を手にし、あとは音楽を作るだけである。
 これまでは子ども扱いされて、ミキサー卓に触れることも容易にできず、お仕着せの売れ線ソングを歌うだけだった頃と比べ、もう容易に口出しできる者はいない。今までは常に上から目線だった会社のお偉方も、今となっては、Stevieに対しては愛想笑いを浮かべるばかりである。
 もっとも、モータウン側にも、Stevieばかりに構っていられない事情があった。当時のポイント・ゲッターの椅子が、Michael Jacksonをヴォーカルに据えたJackson 5、それとSupremesを脱退してソロ活動をスタートさせていたDiana Rossらに移っていたため、正直、Stevieが勝手に事を起こしても、レーベル全体にとっては、それほど大きな脅威にはならなかった。
 というわけで、結果的に雑音の少ない状況となった中、Stevieは次々と歴史的な傑作を制作してゆく。
 
 昔から名盤扱いされていたこのアルバムだけど、俺が本当に好きになったのは、ここ半年くらいのことである。20代前半、アルバム・ガイドに載っていたモノを片っぱしから買い集めていた時期に聴いたものの一つだったのだけど、当時ロックをメインに聴いてきた耳では、イマイチピンと来なかった。
 というより、80年代のStevie自体が、アップ・トゥ・デイトな存在ではなくなっていた。
 当時の彼の代表作は、「I Just Called to Say I Love You」と「Part-time Lover」、ポップ・ソウルの基準で行けば、余裕でアベレージ超えなのだけど、かつて3部作+ 『Songs in the Key of Life』を世に問うた頃の彼と比べれば、ほんと凡人と天才ほどの格差が開いていた。80年代のStevieとは、無難なポップ・ソングを作り続ける「愛と平和の人」であり、、いわば革新的なソウル/ポップ・アーティストの基準で見れば、「とっくに終わった人」程度の扱いだったのだ。

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 ここ2、3年、自分の音楽的嗜好が、ロックやポップスなどから、レアグルーヴやジャズ・ファンク、アシッド・ジャズ、ディープ・ファンクなどに変化し、一時はマニアックなジャンルへも進んだのだけど、いろいろ聴いてきてひと回りしたのだろう。ベタな名作を再度聴き直すバイオリズムに入ったため、ほんとつい最近になって再び、『Innervisions』と巡り合った。
 すると、今まで退屈でちょっと小難しく聴こえてきてしっくり来なかったサウンドが、数十年経った今となっては、Stevie自身によって濃厚に調味されディスプレイされた記名性の高いサウンドが、驚くほどスルリと耳に馴染み、そして完全に虜になった。
 若い頃の耳では理解できなかったことが、年を経るにつれ、少しずつではあるけれど、噛みしめる度に理解が深まってゆく。
 44歳になって、初めてStevie Wonderが、本っ当に好きになった。


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1.Too High
 ムーグとスネアによる導入部、スキャットっぽい女性コーラスの後、少しEQをかけた、くぐもったStevieのヴォーカル。バック・トラックは一定ながら、曲調は結構いろいろ変化し、最後はジャズ・セッションっぽく終わる。
 最初はサビとコーラスが気持ちよくて、何となく聴いていたに過ぎなかったのだけど、通して最後まで聴いてみると、普通のアルバム一枚分のアイデアがぎっしりと詰め込まれた、かなり完成度の高い、なんかすごい、そしてなんかヘンな曲である。でも、クセになる曲。
 
 

2.Visions
 比較的ストレートなスロー・バラード。ちょっとフラメンコっぽいギターが曲調をリードしているのだけれど、時々変なオブリガードが入っており、やはり一筋縄ではいかない曲。
 
3.Living For The City
 このアルバムが紹介される際、最も取り上げられる頻度が高い曲。すべての楽器プレイをStevie自身が行なっている。一人でドラムを叩いてリズム・トラックを作り、それに上物である鍵盤類を被せて、自分でヴォーカルも乗せる。音を合わせてゆくだけでも大変なのに、若干20歳前後の少年がこんなグルーヴを作ることができたのは、やはりこの時期のStevieは神がかっていたとしか思えない。
 この時期の未発表曲は山ほどあるらしく、完成・未完成問わず含めると、その数は1000曲近く、そこから厳選されたのが、俗に言われる『Talking Book』、『Innervisions』、『Fulfillingness First Finale』、『Songs in the Key of Life』の4部作である。
 
 

4.Golden Lady
 一般的に人気の高いのは、これのひとつ前の3.なのだけど、俺的には、これがこのアルバムでのベスト・トラック。
 シンプルなピアノ・ソロから始まるInterludeの後、ミドル・テンポが淡々と続く。この時期のStevieの特徴として、ヴォーカルの緩急の付け方が上手くなった、という点が大きい。比較的抑え気味のヴォーカルが演奏の一部として楽曲に溶け込み、徐々に熱くなってくるリズム・セクションに引っ張られてゆく。終盤に差しかかるに連れて、ヴォーカルもフェード・インするように、次第に熱量が大きくなってくる。
 一聴して地味な曲だけど、非常に吸引力の強い、麻薬的な習慣性を引き起こす。
 
 

5.Higher Ground
 Red Hot Chili Peppersのカバーが最も有名。演奏・アレンジもほぼ完成の域に達しており、かなりの腕達者の集団であるはずのレッチリでさえも、この作品世界を壊すことはできなかった。手練れのプレイヤー集団が一堂に会しているのだから、いろいろ試行錯誤しながらセッションを重ねたのだろうけど、結局、新たな価値観を創造することができず、ストレートにカバーせざるを得なかった。
 ちなみにこの曲も、すべてのトラックを一人で演奏している(驚)。
 
 

6.Jesus Children Of America
 邦題が"神の子供たち"。まぁ意訳として間違ってはいない。Stevieのアンチの意見として、その博愛主義、宗教めいた教条主義に拒否反応を示す、という意見を読んだことがあるけど、80年代のほんの一時期の傾向のみを切り取って、大げさに語っているに過ぎない。
 『Innervisions』発表直前、Stevieは従兄弟の運転する車に同乗した際、交通事故に遭う。この事故の後遺症で一時味覚と嗅覚を失うのだけど、その後のリハビリが功を奏し、肉体的には、ほぼ完全に回復した。ただ、この時のボーダー体験が、彼を内的世界(Innnervisons)へと誘うきっかけになったのだと思われる。
 「究極の信仰は自分の中にある」というのなら、Stevieもその時に得た世界観に従って、このアルバムを制作したのだろう。
 
7.All In Love Is Fair
 シンプルにまとめられた、ドラマティックなバラード。ちょっとElton Johnをモチーフにした、ストレートで、しかも時代の風化を感じさせない曲。
 
8.Don't You Worry 'Bout A Thing
 Stevieの曲はジャンルを問わず、かなり多くのアーティストにカバーされているのだけど、Incognito のヴァージョンは最高!俺的には、カバーがオリジナルを上回った、稀有な例だと思っている。
 リズムの面白い曲だけど、アシッド・ジャズの基本フォーマットである、4つ打ちドラムが心地よい。
 
 

  

9.He's Misstra Know-It-All
 一聴して地味な曲調が多い『Innnervisions』、ラストを飾るこの曲も、長い間聴き流しており、魅力に気づいたのは、つい最近。
 基本は単調なメロディの反復である。流麗なピアノ・ソロで始まり、徐々にコーラスとリズム・セクションが加わり、転調の後、Stevieのヴォーカルも熱を帯びる。後半はジャズのアドリブっぽくなり、混沌がピークに達しようとしたその時、コーラスとのコール&レスポンスで締める。






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モータウンの良心、社会に怒る - Marvin Gaye 『What’s Going On』

e0267928_1117519 1971年に発表された、Marvin初のセルフ・プロデュース・アルバム。発表当時はビルボード最高6位という、今にしてみれば中途半端なセールス・アクションだったけど、その影響力は実際の販売枚数以上の威力があり、記録よりも記憶に残る名盤として、今でもソウル史の中でも重要な立ち位置にいる。同名シングルは全米2位(R&Bチャートでは1位)まで上昇しているので、ヒット・ソングとしては上々の成績だったので、モータウン的にも面目がついたんじゃないかと思う。
 ちなみにアメリカの雑誌「ローリング・ストーン」による「All Time Beat Album 500」でも、堂々の6位。Beatles、Beach Boys、 Bob Dylanと続く中でのランク・インなので、アメリカでもなかなかの知名度があることがわかる。ちなみに、いきなりスケールは小さくなるけど、ここ最近では、「レココレ」の「ソウル/ファンクの名曲ベスト100」にて、タイトル曲がNo.1を獲得した。 

 発表当時から名盤扱いされ、40年以上経ってもその地位が揺らぐことのない、永遠のマスター・ピース、ほんと優等生のようなアルバムである。ほぼ10年おきぐらいのペースで、最新鋭のリマスターが行なわれており、デラックス・エディションや高品質アナログ盤など、節目節目に出されるアイテムも多岐に渡る。それだけ根強いファンが多いこと、そして、このアルバム単体の求心力が、とてつもなく強いということなのだろう。 

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 モータウンのヒット曲製造システムのフォーマットに則って作られた、60年代初期のポップ・ソウルには、当時まだ大国としての威厳が残っていた、享楽的なアメリカの夢が詰まっている。
 最初はそのとっつき易さが良かったのだけれど、人工甘味料や着色料でゴテゴテ装飾された、ジャンク・フード的楽曲ばかりでは、あまりに他のシンガーと大差なく、飽きが来てしまう。
 大量生産(全盛期のモータウンでは、流れ作業的に次々とバック・トラックのレコーディングが行なわれており、入れ代わり立ち代わり次々とシンガーらが歌を吹き込んでいた)された音楽のレーンに乗ることを自ら拒否し、そして作り上げたのが、このアルバム『What’s Going On』である。

 ファルセットを多用したソフト・ヴォイシング、破裂音の少ないパーカッションやコンガによる柔らかいリズム、Marvin自身による、幾重にも重ねられた、薄く柔らかく奏でられる多重コーラス。 パワフルなホーンとバスドラでデコレートされていた、モータウン特有の、「前に出る」サウンドから一転して、音の感触としては、派手な部分はそぎ落とし、ヴォーカル、コーラス、バッキングそれぞれが前に出過ぎることなく、それぞれのパートの絶妙なハーモニーによって、サウンド総体を作り上げている。
 当たり前の話だけど、オーソドックスなサウンドでも、手間暇とコストをかけることによって、複合的な厚みが生じ、そこに普遍性が誕生する。そのため、どの時代においても音のテイストは古びることなく、確実に一定のアベレージを維持できる、ほんと不思議なアルバムである。

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 「名盤」と呼ばれる定義はいろいろあるだろうけど、俺が勝手に思ってる定義として、「数年に一度,何となく聴きたくなって、つい最初から最後まで聴き通してしまう」アルバムこそが「名盤」だと、勝手に思っている。
 コアとなる曲が数曲あり、誤解を恐れず言えば、多少クオリティの落ちる曲がいくつかあったとしても、トータルのサウンド・メイキング、またはコンセプトの妙によって、それらはアルバムの一構成要素として組み込まれることになる。ヒット曲やタイアップ曲、馴染みのあるカバー曲ばかりを寄せ集めれば良いというわけではない。そんなのは、トータルなテーマを無理やりこじつけただけの、ただのベスト・アルバムに過ぎない。

 このアルバムについては、発表当時から、既に多くのことが語り尽くされている。
 「ベトナム戦争を背景にした曲」、「ソウルとしては初めて社会問題に言及しているため、モータウンが発売に難色を示した」、など、様々なエピソード、逸話などが、まぁ出てくる出てくる。
 そのような時代背景、当時荒んでいたMarvinの私生活事情を念頭に入れながら聴くのも一興だろうけど、あまり肩ひじ張らず、心地よいサウンドに身を委ねるだけで良い。
 我々は、批評をするために音楽を聴いているのではないのだ。


What's Going on
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1. What's Going On
 夕映えの場末のバーの喧騒の間を縫って、高らかに響くソプラノ・サックス、Marvinのソフト・タッチのヴォーカル、Marvin自身の多重バック・コーラスがレスポンスしながら、終始入れ代わり立ち代わり鳴り響く、珠玉のナンバー。
 泥沼化したベトナム戦争などの社会的な状況、ロックの本格的な台頭、それに伴う商業主義による音楽ビジネスの肥大化にも呼応し、ダイレクトなメッセージ性を強め、ヴォーカルもリズムも等価に並んだサウンドが心地よい。
 まずはとにかく、サウンドを聴いてほしい。メッセージはその次だ。



2. What's Happening Brother
 ベトナム戦争に従軍した弟から聴いた逸話をもとに作られた、シリアスな歌詞。前曲から続く、軽いソフト・タッチのヴォーカルは、そんな重さを見事に中和させ、英語がネイティヴでなければ、普通に美しい一曲。

3. Flyin' High (In the Friendly Sky)
 妖しげなファンキー・ソウル。冒頭のドラっぽい打楽器の音色が、B級カンフー映画テイストを醸し出している。無国籍なサウンドを狙ったのかと思われるけど、そこは狙い通り。
 ベトナム帰還兵の事を歌っているのだけれど、今で言うPTSDによりドラッグ依存が強く、タイトルは底の中毒症状とかけている。

4. Save the Children
 冒頭から、Marvinの不穏さを予感させる語りから始まる、こちらもメッセージ性の強い一曲。レスポンスするのは、抑え気味ながらもソウルフルなMarvinのヴォーカル。
 あまり語られることはないけど、この曲に限らず、このアルバムはベースが聴きどころ。手数が多い割にはうるさくなく、きちんと曲を引っ張るベース・ラインというのは、こういったプレイを言うのだろう。全盛期モータウンの屋台骨を支えた、職人James Jamersonの技が堪能できる。

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5. God Is Love
 6.のInterrude的な小品。セッションの肩慣らしというか、あまり力を入れずにサラッとしたメイン・ヴォーカルが、歌詞の重苦しさを和らげている。短めだけど、コンパクトにポイントをまとめており、次の曲へ繋ぐブリッジで終わらせるには、ちょっともったいなかったかもしれない。

6. Mercy Mercy Me (The Ecology)
 最近CMでも起用されていたため、知らずに耳にしていた人も多い、Marvin初心者でも馴染みやすい曲。実際、カバーも多い。
 ピアノとギター・カッテイングが軽いタッチでリズムを引っ張り、ノン・リバーヴのマルチ・ヴォーカルが軽く、心地よいサウンドに乗せられている。  
 LPでいうところの、ここまでがA面となっており、ほぼ同じサウンドがシームレスにつながっており、一つの組曲として聴くことができる。このソフト・サウンディングの中に、深刻な社会問題やシリアスなメッセージを内包したことが、当時のソウル・ミュージックの中では画期的だったのだろう。
 時事問題も含めたメッセージは、現代人には通じにくい部分も多いが、サウンドだけはずっと普遍的なものだ。



7. Right On
 このアルバムの中では一番長尺の、ちょっとジャズ・テイストの入った、妖しげなコード進行のナンバー。全編に流れるグィロの響きがまたラテンの暗黒面を象徴するかのよう。比較的緩やかなセッション風のナンバーなので、演奏が進むにつれ、曲調が次第に変化してゆく。5分くらいから怪しげさが薄れ、このアルバムのカラーに戻ってくる。どちらかと言えば演奏主体のナンバーなので、Marvinのヴォーカルも構成楽器の一つとして捉えればわかりやすい。だけど聴いてる方にとっては、インパクトはちょっと薄い。

8. Wholy Holy
 タイトル通り、神を讃え、神に捧げる曲。欧米の人なら、神に対して無防備に惜しみない愛情を表明できるのだろうけど、やはり日本人にはわかりづらい世界。広い意味で捉えればゴスペルなのだけど、そこを超越した讃美歌の世界。荘厳としたストリングスに彩られたバックグラウンドは、実はスタンダード・ナンバーをこよなく愛するMarvinならでは。

9. Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)
 ブルースというよりはジャズ・ヴォーカルっぽく聞こえる曲。他の曲にも共通するのだけど、スキャットの多用、ほとんどリード楽器と思われるくらい前面に出た、コンガとベースによるリズム・ライン。最後はオープニングとループするかのように、“Mother, Mother“で終わる。





 本編はここまでだけど、最近発表された 『40th Anniversary Edition』では、この後、延々と未発表テイクが続くのだけれど、やはりオリジナル・ヴァージョンと聴き比べると、完成度のレベルの差が大きいため、「だから当時は未発表だったんだな」と納得してしまうテイクが多い。タイトル曲のシングル・ヴァージョンなんて、あまりにもサウンドが素っ気なくて、よくこれで当時売れたものだと、逆に感心さえしてしまう。
 いやもちろん、掘り出し物もあるんですよ。ま、俺もめったに追加テイクは聴くタイプじゃないけど。

 アーティスト、サウンド・コンポーザーとしての名声を今作で得たMarvinだったけど、その後も自分の適性と理想とのギャップに、遂に最後まで折り合いをつけることができなかった。ジャズ・シンガーの夢潰えて落ち込んだかと思えば、今度はプロ・フットボール・プレイヤーに憧れる、という中二病を患うなど、さらに迷走。
 この後、離婚を挟んだり、親族との不和に疲れ果て、スイスに雲隠れした挙句、一世一代のソウルのマスターピース的名作『Midnight Love』を、ほんと最後の最後に生み出すのだけど、そこまで一気に書こうとしたら、とても体力と根気が続かない。。
 Marvinについては、また次回。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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