好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

孤高のポップ馬鹿、稀代の傑作 - Prefab Sprout 『Jordan The Comeback』

jordanthecomeback 1990年発表5枚目のアルバム。UKチャートでは最高位7位。時代はすっかりマンチェスター・シーンのまっただ中、Stone Roses なんかと対抗するには分が悪く、よって、セールス面だけ見れば、当時はそこそこの売り上げにとどまっている。
 
 Prefab Sprout が紹介される際、真っ先に挙げられるのは、大体が2枚目『Steve McQueen』(別名(『Two Wheels Good』、当然だけどアメリカでは遺族周辺からクレームがつき、原題ではリリースできなかった)であり、ディスコグラフィーの中では唯一、2枚組レガシー・エディションがリリースされている。何年か前に行なわれた「レココレ」の80年代アルバム・ランキングでも、確か上の方、トップ10には入っている。
 一般的な名作とされているのが『Steve McQueen』なら、長年のファンの中で心に残る名作と言えば、断然『Jordan The Comeback』の支持率が高い。

 前回のAztec Camera同様、このバンドも80年代ネオアコ・シーンから頭角をあらわし、デビュー当初は予測不能なコード進行と自由自在な転調、文学少年的にこじれすぎた抽象性の高い歌詞が話題となり、同じく中二病をこじらせていた、斜め上ばかり見ていた日本の若者(そのほとんどがロキノン読者とされている。うん、もちろん俺もそうだ)が食いついた。
 ただ若気の至りとも言える、ささくれ立ちヒリヒリしたサウンドはここで一旦幕を引き、次作『Steve McQueen』ではポップ職人としての覚醒がはじまり、一聴するとAORかと思われるメロディー・ラインと、今後長い付き合いになる、Thomas Dolby による凝ったサウンド・メイキングの妙によって、メジャー、マイナー・シーン共に高い評価を得ることになる。
 『Jordan the Comeback』とは、蒼き少年性のよじれた青臭い情熱が飽和点に達し、わずかに未成熟な部分を残すことによって、逆に完成度の高さを証明した、初期の秀作である。メイン・トラックでもあるシングル・カット「When Love Breaks Down」がUKチャート25位と、これまでの最高位を獲得したことも、大衆性を獲得できた一因である。
 
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 この後、3枚目『From Langley Park to Memphis』がリリースされるのだけど、これがかなりの難産で、完パケまで3年のブランクが空いている。彼らに限らず、近年になるに連れてアルバムのリリース・ペースは長くなる傾向にあり、3年くらいなら全然普通、決して長い方ではないけど、ポップ・スターのステップを昇り始めたばかりの若手バンドとしては、致命的とさえ言える異例の長さだった。
 ただ、サウンドの具体像が見えていたことによって、完成図はしっかりしており、よって長い時間をかけることは想定の範囲内であったこと、また、手間暇をかけることによって、それに見合う完成度をメンバー自身だけでなく、レコード会社もそれなりの理解を示していたことが、レコーディングの長期化を招いたと思われる。
 どういったコネクションだったかは不明だけど、なぜか Stevie Wonder や Pete Townsent など、あまり関連性はないけど、とにかく豪華なゲストを招き入れたことも手伝って、UKチャート最高5位と大健闘した。「Cars and Girls」「The King of Rock 'n' Roll」「Hey Manhattan!」と、シングル・カットも多い分、注目を浴びる期間も長かった。
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 決してライブには積極的ではない若手バンドのわりに、商業的には成功したと言えるけど、ここからリーダー兼ヴォーカリスト兼ソングライターである Paddy McAloon の迷走が始まることになる。
 同世代のソング・ライターの中では突出した能力を持った Paddy だからして、その作曲レベルの経験値は増し、技術的なスキルが上がってゆくことはもちろんだけど、それに伴って作品のクオリティの要求度合い、ジャッジメントのレベルも次第にアップしてゆくのは、自然の成り行き。盟友 Thomas と共に、試行錯誤を繰り返しながら、レコーディング・スタジオに籠りきりの日々が続く。
 先行きの見えないレコーディングがあまりに長引いたおかげで、次第にレコード会社からのプレッシャーは強くなり(多分レコーディング費用が思いの他かさんだおかげで、損益分岐ラインを割りそうになり、継続の条件として、何かしらのアイテム・リリースを要求されたのだと思う)、当時からすでに幻の名作扱いとなっていた『Protest Songs』をリリースすることになる。
 
 いわくつきのアルバム『Protest Songs』の制作は実は古く、『Steve McQueen』完成後、2週間で一気に作り上げたアルバムである。
 Thomas の緻密なコントロールによって練り上げられた『Steve McQueen』完成後、解放感に満ちあふれたメンバーらが、勢いの余っているうちに、今度はまったく逆のコンセプト、もっと肩の力の抜けた作品を作ろうと、一気呵成に制作された。メンバー(ていうか Paddy )側の意向としては、『Steve McQueen』と陰陽の関係で、間髪入れずにリリースしたかったのだけど、意外に『Steve McQueen』がチャート上で健闘したこと、またヒット・アルバムの次回作としては、あまりに地味な印象だったため、レコード会社がリリースを拒否する事態になってしまった。
 で、月日は流れ、当初は不満タラタラだったメンバー達でさえ、すっかり存在を忘れていた頃、レコード会社の都合によって、さもニュー・アルバムかのようにプロモートされてリリースされた、という経緯。
 長く待たされたファンは「あの幻の作品!」と歓喜し、相変わらず高いソングライティング・クオリティに満足した。Paddy 自身としては、もはやすっかり忘れていた作品を、今ごろになってニュー・アルバムまでの繋ぎとして持ち出されたことが不本意だったらしい(実際、プロモーションを拒否した、とのこと)。
 
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 リリース直前までゴタゴタが続き、長い長いレコーディング期間を経て完成したのが、この『Jordan The Comeback』。発表当時からすでに名盤の呼び声が高く、雑誌レビューでもほぼベタほめの内容が多かった。
 それぞれの曲のクオリティがとても高い。練り上げられたソング・ライティング、丹念に磨きこまれたサウンド・プロダクション。どれも一流の仕事である。個々の完成度は恐ろしくハイレベルだけど、良い意味でどの曲もアルバム中のワン・オブ・ゼムとなっており、すべてがこのアルバムのために構成されており、すべての音が大きな括りである『Jordan The Comeback』の世界のために鳴っている。
 なので、シングル・カットされた「We Let The Stars Go」が、このアルバムの中では比較的有名な曲だけど(実際、俺もこの曲のPVを見てファンになった)、シングル一曲だけを取り出して聴くより、アルバムを通して聴いて、前後の流れも把握しながらの方が、Paddy の創り上げた世界観を堪能できる。
 
 ジャケット裏を見ると全4パートで構成されており、それぞれにコンセプトもあるのだけど、あまり歌詞の内容にはこだわらず、心地よいサウンドとメロディに身を任せてる方がよい。このように全体を俯瞰した構造のアルバムは、コンセプト系が強いプログレのアルバムでよく見受けられるのだけど、そこまで一貫したストーリー性があるわけではない。理屈よりはまず、耳で心で聴いて、感じてほしい。
 コンポーザー Paddy McAloon 、プロデューサーである Thomas Dolby とのタッグで作り上げた、極上のポップ・ソングの集合体である。


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1.Looking For Atlantis
 軽快なドラムからアコギのかき鳴らし、紅一点である Wendy Smith による、透明感のあるコーラスで幕を開ける。アルバムの始まりとしては最適。明快な言い訳なしのポップ・サウンドは、メロディ自体はそれほどフックは聴いていないのだけど、やはりこのサウンド、そして Paddy のちょっぴりハスキーなヴォーカルによって、つい口ずさみたくなるようなラインが散りばめられている。
 なのにシングルはUK最高51位。世間はもっとハードでダンサブルな音を求めていた時代である。
 
 

2.Wild Horses
 Paddy といえばよくメロディ・センスが取沙汰されるけど、これは珍しくリズム・パターンに特徴のある曲。このアルバム以降、Paddy の嗜好によって、サウンドの質感を重視するがあまり、必然的にメロディー重視となってゆくのだけど、ここではまだ、リズムとメロディーの遊びがうまく融合している。
 
 

3.Machine Gun Ibiza
  なぜかプロモEPのみが存在してるのだけど、結局本リリースには至らなかった、謎の経緯を持つ曲。ドゥーワップ調のコーラスとリズムの調和が美しい。とてもポップな曲調なのだけど、タイトルがマシンガンって…。
 
4.We Let The Stars Go
 アコギのストロークの使い方、音像処理がうまい。このアルバムの中では。比較的知名度の高い曲。
 少し熱のこもったハスキーなPaddyの声質は、時にJohn Lennonを連想させる。『星をきらめかせて』という邦題はちょっと恥ずかしいけど、曲のイメージを端的にあらわしてる点で見れば、名邦題だと思う。
 
 

5.Carnival 2000
 4曲入りEP『Jordan:The EP』にも収録された、バック・トラックはほんと明るいカーニバルなのだけど、普通に歌っても、どこか憂いを感じてしまうPaddyのヴォーカルにウキウキ感は少なく、どこか狂騒から疎外されてるような、第三者的な視点を感じる。どうもポジティヴに考えることができない人なのだろう。と思ったら、そういえばPrefabってイギリスのバンドだった。なるほどね。
 
6.Jordan: The Comeback
 こちらも『Jordan:The EP』に収録。タイトル・トラックのくせに地味というのは、やはりどこか変化球を好む英国人気質のあらわれか。半分近くをナレーションのようなモノローグで埋めており、このアルバムが単なるポップ・ソングの寄せ集めでなく、きちんと考え抜かれたコンセプト・アルバムであることを暗示させている。
 
7.Jesse James Symphony
 出だしはマーチのリズムから始まるのに、次第に曲調が微妙に変化し、遂にはタイトル通りSymphonyになる、不思議な曲。
 うちの妻がこれを一聴して、「水戸黄門みたい」と評した。確かにその通りだ。
 
8.Jesse James Bolero
 7.とのメドレー。やはり水戸黄門が頭を離れない。
 
9.Moon Dog
 地味な曲だけど、サビに向けて少しずつ盛り上がりを作っていくのは、ポピュラー・ソングとしては非常にまっとうな構造の曲。なので、すごく地味なメロディ・ラインが続くのだけど、変にクセがないので、ずっと聴いてられる点として、俺の中で『Jordan』の中ではベスト・トラック。
 
 

10.All The World Loves Lovers
 コンパクトにまとめた3分間のエレ・ポップ。このアルバムの中では珍しくメロディが立っており、だいぶ後になってからシングル・カットされている。UK最高61位。まぁ地味な曲だけど、アルバム・リリース1年以内だったら、もうちょっと上に行ってたかもしれない。
 
11.All Boys Believe Anything
 とは言っても、この曲も同じく1分足らずで終わってしまう。普通に1曲にすればよかったのに、と思ってしまうのは、ちょっと合理的な考え過ぎる。あえて前・後半と分けたことに、コンセプト・アルバムとしての意図があるのだ。あるのだろうけど、でも、やっぱまとめちゃっても良かったんじゃない?
 
12.The Ice Maiden
 Thomas Dolbyのプロダクションが強いのだろう、曲としては地味なのだけれど、サウンドの妙で、ついつい最後まで聴いてしまう曲。
 どの曲もそうなのだけど、メロディ・メーカーとしては一流のPaddy、ただヒット・メーカーとしてはちょっと難があって、フックの効いたメロディが書けない。それとも書くのを恥ずかしがってるのかは知らないけど、アレンジという肉づけを取り払ってしまうと、案外素っ気ないメロディの曲も多い。
 そういったウィーク・ポイントを、自分でもわかっているのだろう。敢えてThomasに丸投げすることによって、これもきちんと楽曲として成立している。
 
13.Paris Smith
 
前曲から切れ目なく続く、同じく武骨なメロディ、ていうかモノローグっぽく始まる曲。でもサビはキャッチーなメロディを使用している。これも3分足らずの短めの曲なので、もう少し展開して長尺にしたら、シングルでもありだったんじゃないかと思うけど、まぁ売れないよな、きっと。
 
14.The Wedding March
 往年のハリウッド映画のサントラみたいな小品。アルバムの流れの中ではうまくはまってるけど、単品だとちょっとキツイ。アメリカを意識すると、こういった曲も入れてバラエティを持たせないとダメなのだ。

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15.One Of The Broken
 『Jordan:The EP』1曲目を飾る、このアルバムの中でも屈指の名バラード。基本Paddyのアコギ弾き語りなのだけど、薄く被さっているサウンド・メイキングが絶妙。キリスト教が基盤となった社会において、神を讃える歌というのは日常であり、ましてやPaddy世代ともなると、こういった荘厳とした曲を、しかもポップに聴かせることができるのは、ヨーロッパ人ならでは。
 
16.Michael
 シングル"Looking for Atlantis"B面ににも収録された、Paddyのモノローグから始まり、次第にゴスペルめいたコーラスが加わり、そして大団円へと収束してゆく。このように神を直接取り上げたテーマ、アメリカなら大人数のゴスペルとなって、次第にテンポも速くハイ・テンションになるのだけれど、ヨーロッパでは畏れ多い存在として、へりくだった姿勢が垣間見えてくる。
 
17.Mercy
 15.から続く組曲の締めくくりとなる、Paddyによるアコギの弾き語り。ほんとこれだけ。飾りも何もない、ほぼ素のままのPaddyの祈りが刻まれている。
 
18.Scarlet Nights
 このアルバムの中では、唯一バンド・サウンドっぽいポップ・ソング。前作『From Langley Park to Memphis』収録"Golden Culf"とサウンドのテイストが似てるので、もしかしたら制作時期は近かったのかもしれない。
 なかなかテンションの上がる曲なので、アルバム構成的には、もう少し前の方に入れてもよかったんじゃね?と勝手に思ってしまうけど、Paddy的にはここでOKなのだろう。
 
19.Doo-Wop In Harlem
 Paddy風ゴスペルの完成形。このアルバムにもゴスペル的要素を含んだ曲はいくつかあるけれど、これはゴスペル・ミュージックと、そしてキリスト教的信仰と正面切って向かい合って作られた曲。ゴスペルと言えばもっとアップ・テンポの、多勢によるアカペラが連想されてしまうけど、Paddyにとってのアカペラはどちらかと言えば讃美歌に近く、そしてすごくパーソナルなもの。宗教的体験を皆で共有するのではなく、あくまで神と対峙の姿勢というのが、Paddyのスタンスである。

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全19曲60分超。大作。一年に一度くらいは、特に"Looking For Atlantis"と"Moondog"が聴きたくなり、かけたら結局、最初から最後まで通して聴いてしまうことになる。
 そしてまた、一年が過ぎてゆく。
 
 どの曲もクオリティは高いのだけれど、ヒット・チューンとしては必須となるフックのメロディが少ないので、単体では地味な曲ばかりである。ただ、緩やかでもコンセプトを設定し、テーマに沿って曲順を構成することによって、個々の曲の輝きが増し、結果、全体のクオリティも向上する、という構造は、昔から『Abbey Road』や『Sgt.Pepper’s』などでも使われた手法だ。
  一曲だけを抜き出すより、通して聴きたくなるアルバムなので、時間のある時に、じっくり聴いてみてほしい。

  このアルバムの完成後、バンドとして一つの頂点を極めた、と判断したのか、Prefab Sproutは活動自体が縮小、遂にはPaddyのソロ・プロジェクトへと変貌していく。



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今までより、ちょっぴりチャラくしてみました - Aztec Camera 『Love』

love 1 1987年リリース3枚目のアルバム。UKチャートトップ10入りした、最初で最後のアルバムでもある。
 1983年、Roddy Frame (Vo,G)を中心とした、普通の5人編成バンドとして、当時メジャー・レーベルに対抗するインディー新興勢力だったラフ・トレードより、『High Land, Hard Rain』でデビュー。この頃はまだそれなり、ごく普通のギター・ポップ・バンドだった。シングル「Oblivious」(間奏ギターソロは必聴!)で脚光を浴び、「おっ、チョットそこらのバンドとは違うんじゃね?」と注目を浴びるとすぐ、メジャーWEAとワールドワイド契約、さらにネオアコ~ギター・ポップ路線を突き詰めた佳作『Knife』をリリースした。

 当時「Money For Nothing」の大ヒットによって、一気にメジャー・シーンに躍り出た Dire Straits のリーダー兼コンポーザー Mark Knopfler がプロデュースしたことも、大きな話題となった(なぜこの人選に至ったのか、今となっては経緯は不明。多分レコード会社主導で企画されたコラボだったと思う)。
 ちなみにこの辺りから、他メンバーの影は次第に薄くなってゆく。もともとほとんどの曲を自作、しかもメイン・ヴォーカルでありフロント・マンでもあった Roddy 、サウンド・メイキングにバンドの力を借りる必要はなかった。ほとんどのトラックを Mark と共に作りこんでゆき、バンド・メンバーも辛うじてクレジットはされているものの、ほぼサポート扱いだったことが、当時のメディアでも報道されている。わかりやすく言えば、 ZARD みたいなもの(これしか思い浮かばなかった)。
 
 バンドとしての Aztec Camera の活動は次第にフェード・アウトしてゆき、心機一転、 Roddy のソロ・プロジェクトとして再スタートを切った初めてのアルバムが、この『Love』である。この時代から、レコーディングやライブ毎に適時メンバーを編成する手法がスタートする。今でこそあまり珍しい形態ではなくなったけど、ここまでフレキシブルなバンド編成は、当時あまり類を見なかった。

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 それまでの Aztec Camera で思い浮かぶのが、「ネオアコ・ポップ界のギター・ヒーロー」、「青臭く繊細な文化部系バンド」という一般的なイメージである。俺個人としても、「Walk Out To Winter」を聴いていると、真冬の朝、白い息を吐きながら、静かな街中を軽快に歩く Roddy のビジュアルが思い浮かぶ。ツルンとした中性的な顔立ち、ユニセックスなビジュアルも、当時の洋楽オタク女子、今で言う腐女子らにアピールしていた。
 
 1980年代中盤から後半のブリティッシュ・シーンにて興ったムーヴメントの一つとして、ブルー・アイド・ソウル現象が挙げられる。もともとは Daryl Hall & John Oates に端を発する、アメリカが発端のムーヴメントなのだけれど、緻密なメディア・イメージ戦略とMTVパワー・プレイを最大限に活用することによって、メジャー・レーベルの思惑通り、イギリスを始めとした全世界に飛び火し、後追いするミュージシャンが続いた。
 既存のロックに"No"を突きつけた、パンク/ニュー・ウェイヴ・シーンが無残な末期を迎え、一転して先祖返りしたオーガニックなネオアコ・サウンドの流れが続いたのだけど、その路線も行き詰ってしまい、方向性を見失った彼らが目を付けたのが、ブリテッィシュの視点でブラック・ミュージックを消化(模倣)したサウンドだった。
 
 積み重なる人件費と、その他諸々の経費(主に酒・女・ドラッグなど)によって、多人数編成のバンド維持が困難になりつつあったソウル・ミュージシャン達にとって、簡易型のシンセサイザーの普及は、大きな革命に値するものだった。演奏機材の技術的向上、大量生産によるコスト・ダウンに伴う爆発的な普及化によって、多人数のホーン・セクションを雇わなくても、そこそこのクオリティのサウンドを作ることが可能となり、それが80年代 R&B の基本フォーマットとして定着した(その発端となったのが Marvin Gaye であり、機材の使い方によっては Zapp にもなった)。

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 多かれ少なかれ、アメリカへのコンプレックスを抱いていたイギリスの文化系ミュージシャンたちが、「これなら俺にもできそう!」と勘違いして、ヤマハDX7やフェアライトCMIのプリセット・サウンドを用い、プラスチック・ソウルを演じた。サクセス・ストーリーのまだ途中だった Jam を解散してまで  Style Council を結成した Paul Weller 、ソロでは Paul Young 、Dr. Robert  率いる Blow Monkeys  などが典型である。
 ただ、あまりにも時代の要請に応えすぎたあまり、そして当時の演奏機材のスペックの限界もあって、ほとんどのサウンドが、ヴォーカルを抜くと、どれを聴いても金太郎飴状態となってしまう。そうなれば行き着く先は決まっており、他アーティストとの差別化が困難なため、無理やり路線変更を強いられるか、はたまた空中分解してしまうか、どちらかである。
 結局のところ、最後に優劣を決めるのは曲そのもの、バンドやヴォーカル自体の地力の差という、当たり前の結論に落ち着くこととなる。
 そう考えると、サウンドは徹底的に作り込みながらも、ヴォーカルは線の細いままの Scritti Politti が成功を収めたのは、理に適っている(同様のコンセプトのサウンド・メイキングでありながら、さらにリズムを強調した New Order  は、更に大きな成功を手にした)。
 
 ほんの一瞬ではあったけど、時代の寵児であった Roddy  もまた、そんな尻馬に乗った一人である。メジャー・レーベルから提示されたビッグ・バジェットを最大限活用し、時代を象徴する、きらびやかなサウンド、悪く言えばチャラい路線を彼は選んだ。
 それまでは、イギリス国内でカレッジ・チャートを賑わせる程度の存在でしかなかった Roddy だったけど、同時代のアーティストの成功を横目で見て野心が湧いたのか、はたまたレコード会社の要請だったのか、有名どころの Steve Gadd (Dr)、Dan Hartman (B.Vo), Steve Jordan (Dr), Will Lee (Bass)などをそろえ、アメリカ市場を意識したゴージャスなサウンドを創出している。


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1.Deep And Wide And Tall
 一発目から80年代特有リヴァーブ・ドラムがさく裂する、さらに今回初導入したソウルフルな女性コーラスと共に、Roddy が爽やかに歌い上げる。当時のMTVでヘビロテされてもおかしくないレベルに仕上がった、Roddy 流メジャーポップ。
 
2.How Men Are
 俺が Aztec Camera に興味を持つきっかけになった曲なので、思い入れも一段と強い。
 Peter Barakan が深夜にやっていた「ポッパーズMTV」にてこのPVが流れ、そのセンチメンタリズムに魅了され、即座にファンになった。もともとセミ・アコを用いたギター・プレイに定評のあった Roddy だけど、このアルバムではサウンド・クリエイターの面を強く押し出しており、ギター・サウンドを前面に押し出した貴重な曲。
 セミ・アコによって奏でられる、間奏のソロの切なさ否たさがたまらないのだけれど、アウトロ前からかぶってくる、R&B風女性コーラスがちょっとクドい。でも好きな曲。

 

3.Everybody Is A Number One
 タイトル通り、アッパーで前向きなポップ・チューン。軽快なギター・リフと、時代を感じさせるシンセ・ブラスが特徴。間奏の女性コーラスとによるコール&レスポンスも、当時のヒット・チャートを意識したかのようなハデな作り。
 
4.More Than A Law
 ウエットなメロディとスウィートな旋律が日本人の感性にもフィットする、ネオ・アコ的なナンバー。この腹から声の出ない Roddy のヴォーカルは、当時のバンド系腐女子らのハートを狙い撃ちして、イチコロにした。
 
5.Somewhere In My Heart
 Aztec Camera としては最大のヒット曲。全英シングル・チャート3位。
 シンセ・ブラスとリヴァーブの利いたドラムで構成された曲。このアルバムのためにボイス・トレーニングを受けたのだろう、線は細いけど声が十分前に出ている。
 掻きむしるかのような、間奏のギター・ソロが絶品。

 

6.Working In A Goldmine
 UKシングル・チャート31位まで上昇した、切ないラブ・ソングっぽく聴こえる曲だけど、歌詞は金鉱で働く労働者の嘆きを歌っている、別な意味で切なくなってしまう曲。間奏のギター・ソロもまた郷愁を誘うようにドラマティック。淡々としてはいるけれど、メロディのフックも効いており、そこそこの売り上げだったことは理解できる。
 
7.One And One
 一転して、これまでの Aztec Camera の流れからは想像できないダンス・ナンバー。ファンキーなギター・カッティング、女性ヴォーカル Caroll Thompson との掛け合いは完全に気迫負けしてはいるけど、アメリカのコンテンポラリーなサウンドを背伸びして狙っていたことが想像できる。「プラスティック・ソウル」という形容がピッタリはまる曲。

8.Paradise
 80年代の典型的なフォーマットに則って作られたポップ・ソング。破綻も少ない凡庸なバラードなので、これって、別に Rodyy じゃなくてもいいんじゃね?といつも思ってしまう。Rick Springfield にでも歌ってもらった方が、こういった曲はずっとチャラくウエットに仕上げてくれるはず。
 
9.Killermont Street 
 ネオアコ風味が残ったラスト・ナンバー。後に自らのホームページのタイトルにもなっている、本人の思い入れも強いと思われる名バラード。



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 この時代のほとんどのアーティスト同様、思いっきりアメリカン・チャートを意識した音作りにもかかわらず、ビルボード最高193位という、どうにも不本意な結果に終わってしまう。この後、ほんとに神経質になったのか、まんま『Stray』というアルバムを作ったり( Clash の Mick Jones とコラボした「Good Morning Britain」がオススメ)、坂本龍一をプロデューサーに迎えてAORっぽいアルバムを作ったりと、しばらく迷走の日々が続く。
 それでも日本ではウケがよかったのか、アルバム未収録曲やライブ・ヴァージョンで構成された独自企画盤が2枚もリリースされており、Roddy 自身も温かく迎え入れてくるオーディエンスに応えて、何度も来日公演を行なっている。
 
 永遠の少年性を漂わせる、ツルンとした顔立ちと風貌、ライブでの気さくな人柄が功を奏したのだろう、名義を Roddy Frame 単独にして、地道に活動を継続、インディーズに戻ったことによって、余計なプレッシャーから解放され、自由かつマイペースな活動を続けた。リリース・ペースは長くなったけど、時々思い出したようにアルバムを制作、今年に入ってからも秀作『Seven Dials』を発表してくれた。
 今年50歳を迎え、さすがに童顔だった Roddy も寄る年波には抗えず、今回のジャケット写真では、年相応の老け込み具合が長年のファンにショックを与えた。しかし、何かを振り切ったのだろう、決してかつての名曲たちにはかなわないけど、極上のメロディを携えてシーンに帰ってきてくれたことを素直に喜びたい。




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第1期Joe Jacksonの集大成 - Joe Jackson 『Live 1980-86』

live198086 1 1987年リリース、文字通り1980年から1986年までに行なわれた4つのツアー(1980年『Beat Crazy』 、1983年『Night & Day』、1984年『Body & Soul』、1986年『Big World』)からセレクトされた、当時の集大成的アルバム。今でこそ時代が違うけど、当時はJoeの決定的なベスト・アルバムがリリースされておらず、全キャリアを手っ取り早く把握するには格好のアイテムだった。
 ちなみに当時のチャート・アクションとして、US91位UK66位というまずまずの成績。取り敢えずシングル「Steppin’ Out」のヒットの勢いがまだちょっと残っていたため、2枚組にしては健闘した方なんじゃないかと思う。
 まぁこの時期のJoeはとってもスカしていたので、セールスがどうしたとかいう発言はなく、非っ常にアーティスティックなポジションで斜に構えてた部分が多い。間違っても大っぴらに「ハゲのくせに」と言えた雰囲気ではなく、そこがまた「ビジュアルで売ってるわけではありませんよ」的なムードを醸し出していた。

 このJoeもまたElvis Costello同様、パンク~ニューウェイヴ・ムーヴメントから頭角を現してきた人で、デビューから数年は4ピースのシンプルなロック・バンドとして売り出されたところなどは共通している。その後はいわゆるロックのみにこだわらず、映画音楽やスゥイング・ジャズ、レゲエや現代音楽など、ほんと手当たり次第あちこちのジャンルを行き来しているところなど、結構似ている点が多い。
 こうやって書いてると、なんか節操のない人だと思われがちだけど、もともとはロンドン・ロイヤル・アカデミーで正統なクラシックを学んでいたため、音楽の基礎的な部分は同世代の誰よりもしっかりしている。基礎がしっかりしているからといって、それがすなわち創り出す音楽の面白さに直結するわけではないのだけど、この人の場合はきちんと楽理的なところも押さえつつ、それでいてプロも素人も納得させてしまうツボを心得ている。
 なので、世界中に幅広く、しかもディープなファンが数多く生息している。そんな状況のため、今さら大きなヒットを飛ばすことはないだろうけど、どうにか契約も切れず、思うがままのアーティスト活動を継続している。

 デビュー・アルバムとなった『Look Sharp!』と2枚目の『I’m The Man』はセットのようなもので、どちらもパブ・ロックの流れを汲んだストレートなロックンロールに仕上げている。
 ノリが良く直情的で、それでいてクール-。
 こうやって書いてしまうとステレオタイプのポスト・パンクになっちゃうのだけど、同時代のパンク・バンドの多くが場当たり的な楽曲制作とバンド運営によって、時代の徒花的に消えていったのに対し、場数を積んだバッキングとアカデミックな才能とのハイブリットは、得も知れぬ化学反応を起こしてオリジナリティを獲得している。
 話題性を狙ったスキャンダリズムを重視することが多かったニュー・ウェイブ勢の中で、すでに老成したようかのように安定した演奏技術を誇る彼らは、ある意味異彩を放っていた。ファッショナブルの「ファ」の字も見当たらない、武骨な印象の彼らは、同じレーベル・メイトのPoliceとの共通点も多かった。彼らもまた、手練れの腕利きミュージシャンらが「売れること」を目的として結成したバンドであり、その高い演奏秘術を隠してワザと下手くそに武骨なプレイを見せていた。
 Joeがどこまで商業性を重視していたかは不明だけど、取り敢えず次のアルバムが出せる程度には売れてほしいとは願っていたことだろう。まぁそれはどのアーティストでも同じだけど。

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 3枚目の『Beat Crazy』で実験的にレゲエを導入してみたけど、まぁ基本はまだゴキゲンなロックンロール。この辺まではまだ一般的なニュー・ウェイヴのカテゴリーに収まっている。問題は次、4枚目の『Jumpin’ Jive』から、バンド・サウンドにこだわらず、多彩な音楽性の片鱗を見せるようになると共に、あらゆる試行錯誤を伴ったJoeの変遷が始まることになる。
 時代の流れをまったく無視した、1920~30年代のジャンプ・ミュージックやスウィング・ジャズ…。この辺だと俺もリアルタイムではなく、聴いたのはもっと後、オリジナルとしては多分一番最後に聴いたんじゃないかと思う。もちろん買うのはちょっと勇気がいるのでレンタルで。一度試しに聴いてみて、もし気に入るようだったら買おうと思い、カセットにダビングしながら聴いてみたところ。…何だこれ。全然つまんねぇ。
 もしかして何回か聴いてたら、だんだん良さがわかってくるんじゃないかと思い、また時間をおいてから聴いてみようと思い、確かそのままほったらかしで、そのうち別のアルバムを上書きした記憶がある。というわけで、今回改めて聴いてみたけど、やっぱり最後まで聴き通せなかった。ジャズは全然嫌いじゃないけど、やっぱビバップ以前になるとダメだ俺、ついていけない。
 この後、日本では公開されなかったため、ほとんど話題にもならなかったサントラ『Mike’s Murder』をリリース、当然見たことも聴いたこともない。アカデミックな感性を持ちつつも、敢えて肉体的な衝動に身を任せ、直情的なロック・ナンバーを演じるところがカッコいいのに、これだと単にインテリ崩れの自己満足である。こういうのって、多分コンプレックスの裏返しでもあるのかな。

 まぁ来た仕事は断らなかったおかげもあるのだろうけど、そんなこんなであらゆる方向性を試してみた結果、取り敢えず趣味的音楽は一旦休止、自分の適性をシミュレートして、且つアカデミックな知的好奇心も満足させる方向性を得たのが、傑作『Night & Day』。
 あっちこっち音楽的変遷を経たJoeがこのアルバムで志向したのが、「すでに定められつつあったロックのサウンド・フォーマットの向こう」。ストレートなロックンロールを基調として、ジャズやワールド・ミュージックの多彩なエッセンスを散りばめたサウンドは、ここ日本においても好意的に受け止められた。
 「ロックの向こう」サウンドの実践として、従来のロック・サウンドでは必須であったギターのパートをばっさりカット、その抜けたリード楽器として、主にシンセ以外の鍵盤系をフィーチャーしている。さらにグルーヴ感の補強として、パーカッションの比率を多めに配分、多彩なビートを奏でるリズム・セクションが全体をシミュレートしている。4ピースではなし得なかったホーン・セクションの大々的な導入により、サウンド全体に厚みが出た。
 ここからシングル・カットされた「Steppin’ Out」が、なんとUS・UKとも最高6位の大ヒットを記録し、一気にステイタスが上がり、もうひと押しということで同コンセプトの『Body & Soul』を制作、前作には及ばないものの、それなりの成績を残した。

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 と、ここまでの変遷を記録したのが、このライブである。正確に言えばこの間に、「全曲書下ろしのライブ・レコーディング、しかもオーヴァーダヴなし」というめんどくさい縛りを自らに課した実験作『Big World』があるのだけど、ちょっと特殊な条件下で行なわれたライブのため、Joeのファンの中でもライブ・アルバム扱いされていない。なので、純粋なライブ・アルバムといえば、これが最初になる。
 大抵の場合、こういった節目でライブやベストが出る時は、レーベル移籍か首切りかのどちらかで、実際Joeもその例に漏れず、この後はメジャーな存在になりつつあったヴァージン・レーベルに移籍を果たしている。当時のヴァージンはあのStonesも獲得するくらいのイケイケ状態だったため、取り敢えず実績のあるアーティストには手当たり次第声をかけ、ほんと札束で横っ面を引っぱたく勢いでラインナップの充実を図っていた。
 もともとはMike Oldfield 『Tubular Bells』から出発したプログレ/アバンギャルド色の濃いレーベルが、なぜか航空会社を所有するまでに肥大化し、身近な例で言えば札幌の一等地のファッション・ビルの地下にショップを構えたりするくらいにまで勢力を拡大していた。あそこも五番館のWAVEと並んで興味深い品揃えだったのだけど、そういったショップは20世紀を終える前にどれも衰退していった。

 当時のヴァージンは多分社員でも把握しきれないくらい多彩なアーティストを擁しており、ヒットメイカーも十指に余るくらい所属していた。なので、Joeのような中堅アーティストにまで充分なマネジメントを行なうことができず、せっかくワールドワイドな販路を確保したというのに、イマイチくすぶった状態で契約終了してしまう。その後21世紀に入るくらいまでは健康上の理由もあって、表立った活動が行なえなくなってしまう、というのがその後の流れ。
 そういった行く末を思えば、Joeの最も良い時代の瞬間を切り取ってうまく配置したのが、このアルバムである。


Live 1980 / 86
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『Beat Crazy』 tour 1980
1. One to One
 3枚目のアルバム『Beat Crazy』収録、シングルとしてもリリースされたけど、チャート・インはできなかった。サウンドの構成はオリジナルとさほど変わらないのだけど、Joeのヴォーカルの熱量がまるで違う。ピアノのアタック音も力強い。初期を代表する名バラード。

2. I'm the Man
 前曲からそのままメドレーで続く、疾走感一発のドライヴ・ナンバー。セカンド・アルバムのタイトル・トラックで、シングルとしてはなぜかカナダで23位にチャート・イン。コーラスがいかにもB級パンクっぽいのだけど、いやいやこの人たち、もともと手練れのミュージシャンばかり。勢いだけと見せかけてるけど、とんでもないプレイを繰り広げている。やっぱりこの頃からカッコいいよなぁ、Graham Mabyのベース・プレイ。



3. Beat Crazy
 3枚目のアルバムのタイトル・トラック。これもシングル・カットされているけどチャート・インはせず。どの曲もチャート的には低いけど、ライブでは今でも定番ばかり、実際、ファンの間でも人気の高い曲が続いている。
 この辺からストレートなロックンロールばかりでなく、Duane Eddy的なサーフ・ロックっぽさも見せている。コーラスがまた安っぽいんだ、シンプルなタイトル連呼で。まぁ下手にハモるよりもライブ感が出てて俺は好きだけど。

4. Is She Really Going Out with Him?
 デビュー・アルバム『Look Sharp!』収録、最初のシングル・カット時は見事にカスリもしなかったけど、次の年にリリースし直したらUK13位US21位という好成績をマーク。初期の代表作となった。
 そんなわけでJoe的にも思い入れの深い曲、それはわかるのだけど、だからと言ってここで3ヴァージョンも入れなくてもいいんじゃない?まぁそれぞれアレンジは違うけどさ。

5. Don't Wanna Be Like That
 『I’m The Man』収録、これはアルバムのナンバー。だけどファンならみんな知ってるのは、これもライブでは長いこと定番だから。冒頭のメンバー全員での雄叫び的コーラスを聴くだけで、テンションが上がってしまう。
 ここではギターのGary Sanfordが大活躍。スタジオ・ヴァージョンでは押し込められていた勢いが解き放たれ、バンド全体をハイ状態に引き上げている。

6. Got the Time
 『Look Sharp』収録。このアルバムの中で「化けた」曲のひとつ。はっきり言っちゃうとスタジオ・ヴァージョンはなんだかスッカスカな地味曲扱いだったのだけど、ライブで練り上げられることによって、やっと本来の持ち味を発揮できた印象。間奏のベース・ソロなんて、スタジオじゃできないよね。やってもバッサリ切られちゃうし。

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『Night and Day』 tour 1983
7. On Your Radio
 『I’m The Man』収録、アルバムのオープニング・ナンバーであり、疾走感を感じさせるロックンロールではあるけれど、以前と違ってJoeのピアノが目立っており、単調な8ビートじゃ済ませない感が強くなっている。Joeの場合、ピアノと言ってもメロディアスさを演出するためでなく、単なる打楽器として使うことも多いので、勢いが削がれずに済んでいる。

8. Fools in Love
 『Look Sharp!』収録。オリジナルはもっとレゲエ・ビートを強調していたのだけど、ここではプログレのように不穏なシンセの響きから入り、徐々にバンドのテンションが暖まり出すといった演出。単調なロッカバラードに収まらず、一味違ったシアトリカルなナンバーに変化している。



9. Cancer
 当時のレイテスト・アルバムだった『Night & Day』からのナンバー。「冷気の漂うサンバ」といった趣きのエスニック・ムードに仕上がっている。以前もどこかで書いたと思うけど、この人は基本、昼間の灼熱が似合う人ではない。もっと不穏な漆黒、狂乱の中の静寂を思わせるピアノの音色は、得体の知れぬ妖しさを暗示している。

10. Is She Really Going Out with Him? (a cappella version)
 タイトル通り、アカペラ・ヴァージョン。俺もこの人のライブ・アルバムはオフィシャル/ブートで散々聴き倒したけど、このアレンジはここでしか聴いたことがない。まぁサプライズ的な意味合いの強いヴァージョンなので、こういったのもアリだよね?的な印象。ただそれだけ。

11. Look Sharp
 もちろんデビュー・アルバムのタイトル・ナンバー。ソリッドなロックンロール、しかもすでにオリジナリティの塊。ロックではあるけれど、既存のどのロックにもカテゴライズできない、まさしく「Joe Jackson’s Music」と言える初期の傑作。最初からこうだったんだから、その後はここを超えようとする悪戦苦闘の歴史が続くことになる。そういった葛藤を乗り越えて、最近ではすっかり枯れた雰囲気だと思われがちだけど、いやいやライブでは血管ぶち切れそうになるくらい、今でもシャウトしてますよ。

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『Body & Soul』 tour 1984
12. Sunday Papers
 『Look Sharp!』収録、シングルはチャート・インせず。オリジナルはダルいレゲエ・ビートだったのに、ここではホーン・セクションを大々的に導入、ジャングル・ビートによりゴージャスなサウンドに生まれ変わった。シンプルな編成もいいけど、こういった最も相応しいスタイルでアップデートできるのが、この人の才能。間奏の手弾きシンセの音色は時代を感じさせるけど、今だと逆にそこがファンキーなエッセンスを付け加えているように感じる。

13. Real Men
 『Night & Day』収録、先行シングルとしてUK89位という成績。リリース時期が近かったせいもあって、イントロが始まっての歓声がすごい。オリジナルはB面ラス前という地味な位置、サウンド自体もなんか地味だったのに、ここでは鮮やかに生まれ変わり、ロックのダイナミズムにドラマティックなストリングスが加わった名バラードになっている。
 こういったベタなバラードもプレイしながら、観客に唾を飛ばすようなシャウトを聴かせるアッパー・チューンも平気でレパートリーに入れてしまい、しかもそれが違和感なく溶け込んでしまうのは、基本を押さえたソングライティングの成せる業。



14. Is She Really Going Out with Him? (acoustic version) 
 これで3回目。『Body & Soul』というアルバム自体が既存のロックとの距離感を推し量るコンセプトだったため、敢えてストレートなロック以外の見せ方をしたかったのだろうけど、まぁ俺的にこの曲はオリジナルが一番しっくり来る。逆に今のピアノ・トリオ・スタイルでサラッと流す感じでプレイした方がフィットするんじゃないかと思う。

15. Memphis
 リアルタイムで馴染みがなかったため、最初は新曲だと思っていたのだけど、後になってからサウンドトラック『Mike’s Murder』収録曲だと知った。それを知ったのは『Night & Day』のデラックス・エディションに収録されていたので、多分これを手に入れてなかったら、今でも聴いてなかったと思う。
 オリジナルはChuck Berry 1963年のシングルなのだけど、もうちょっと調べてみたら、BeatlesやPresley、Rod Stewartなど錚々たるメンツがカバーしている、堂々たるロックンロール・クラシックだった。それはさすがに知らなかった。オールディーズ、あんまり興味なかったし。
 で、スタジオ・ヴァージョンと聴き比べてみると、ライブはオリジナルに忠実なストレートなロックンロールだけど、『Mike’s Murder』ヴァージョンも基本はロックンロール、だけどリズム・エフェクトに当時のCarsのようなテクノ・ポップ風シンセを使用しており、それが逆にモダンな雰囲気を演出している。キッチュなテイストの強いスタジオ・ヴァージョンも味がある。

16. A Slow Song
 『Night & Day』収録、この時期のライブの締めとして定番となっていた直球勝負のスロー・ナンバー。バラードでも大体ロッカバラード的にリズムの効いたナンバーの多いJoeにしては、珍しく歌い上げるスタイルなので、ファンの間でも人気は高い。こんなことだってできるんだ、という想いが強かった。
 デビュー当時から比べると大所帯になったライブ・メンバーをバックにして、ここは開き直ってディナー・ショー的な演出のもと、堂々7分に渡って繰り広げられるJoeの熱演。ミラー・ボールなんかきらめいてたら、もっとベタで良い。

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『Big World』 tour 1986
17. Be My Number Two
 『Body & Soul』収録、シングルとしてUK70位はちょっと地味だけど、これもライブの定番曲、シンプルなJoeのピアノ・ソロ・セットとして重要な位置を占めている。バンドの休憩曲として、ライブ構成では外せない。

18. Breaking Us in Two
 で、そのままこの曲に繋げるのが、当時のライブの定番だった。コード進行が前曲とほとんど一緒なため、メドレーにしても違和感がない。ていうか,ふたつ合わせて一曲と考えてもよい。
 オリジナルは『Night & Day』収録。制作時期が近いだけあって、曲調もほぼ一緒。タイトルも似てるし、いつもどっちがどっちだかわからなくなってしまうのは俺だけ?



19. It's Different for Girls
 『I’m The Man』収録、シングル・リリース時はUK5位とヒットを記録した。オリジナルは4ピースでどうにか工夫を凝らしてサウンドを形作っていたのだけど、どこか不本意な形だったのか、ヴォーカルに精彩を欠いていた。
 ここではアコギの掻き鳴らしによるオープニング、徐々にバンドが入るという構成。硬派なフォーク・ロックといった風情だけど、当時の基準のロック・サウンドに比べてボトムが太い。

20. You Can't Get What You Want ('Till You Know What You Want)
 このアルバムのハイライト。収録アルバム『Body & Soul』の中でも重要な曲であり、今を以てファンの間では初期の最高傑作とされるナンバーでもある。UKではシングル最高77位という微妙さだったけど、USでは最高15位と大化けした。
 アメリカっぽい感じではないのだけど、いわゆる「アメリカ人が思うところの英国人特有の屈折したロックのわかりやすい形」がウケたんじゃないかと思うのだけど、あぁここまで書いてきて自分でもややこしい。アレンジ自体はオリジナルとほぼ変わらずストレートだけど、何だこのカロリーの高さ。
 ここでバンドをけん引しているのは、『Body & Soul』から加入したVinnie Zummo。残念ながら、これ以降目立った活躍はしていないのだけど、ここでは一世一代とも思えるロック的なダイナミズムの復権を感じさせるプレイ。エスニック~ワールド・ミュージック寄りに傾いていたバンドに刺激を与える役割として、オーソドックスになりがちだったアンサンブルに喝を入れている。



21. Jumpin' Jive
 下手すると『Mike’s Murder』よりさらに地味な『Jumpin’ Jive』からのタイトル・トラック。一応シングルでUK43位を記録しているのだけど、誰が買ったんだこんなの。
 いま聴いてみると、ロカビリー的なギター・ソロが軽快で案外イケてるんじゃね?的に思って、パソコンに入ってた『Jumpin’ Jive』をチラッと聴いてみると…、ダメだ、スウィング・ジャズはまだ俺には早すぎる。

22. Steppin' Out" 
 最後はファン・サービス、言わずと知れた大ヒット・ナンバー。ほぼどのライブでもそうだけど、安手のシンセ・ポップっぽいアレンジのオリジナルより、ピアノ・ソロをメインとしたヴァージョンで演奏されることが多いこの曲。多分、当時はあんまりやりたくなかったんだろうな。なので、このようにオリジナルからできるだけ遠いアレンジに仕上げている。
 ヴォーカルが入ってから歓声が聴こえるくらいなので、最初何の曲かわからなかったんじゃないかと思われる。ドラムも重く響き、非常にドラマティック。アルバムの締めとしては完璧。




Steppin Out: The Very Best of
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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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