好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

東西二大ポップ馬鹿の融合と確執 - XTC『Skylarking』

skylarking 1 1986年リリース、バンドとしては通算8枚目のアルバム。後期の代表作として知られているこの作品、当時のUKチャート最高90位はちょっと低すぎるんじゃないかと思うけど、USでは最高70位と、彼らにしては珍しく、本国よりアメリカでの評価が高い。やはりシングル"Dear God"がカレッジ・ラジオ・チャートにランクイ・ンしたことが大きかったのだろう。いくらインディー・チャートとはいえ、イギリスや日本と比べてセールスの規模が圧倒的に違うため、影響力はハンパない。
 さすがに総合チャートへは届かず、一般リスナーにまで浸透したわけではないけど、Donovanを意識した、ちょっぴりフォーキーでネオ・アコっぽいサウンドは、R.E.M.ファンに代表される、ちょっとダサめの大学生らの支持を受け、カレッジ・ラジオではそこそこヘビロテされていた。
 ここ日本においても、これまでロック~ニュー・ウェイヴの文脈で語られていたXTC、このアルバムから「密室ポップ」を強調したプロモーションが展開されたことによって、新たなファン層を獲得し、その後のBig in Japanの流れの源流になる。
 
 XTCとしても転換点となったアルバムであり、その後、連綿と続く箱庭ポップ路線の礎となっている。これまでよりかなりポップス寄りに傾いたサウンド・メイキングはもちろんだけど、それ以上に、完成までに至る制作過程が何かと取沙汰されているアルバムでもある。

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 プロデューサーのTodd Rundgrenは、当時、長年所属していたBearsvilleレーベルと契約終了(解除?)、自身のバンドUtopiaもセールス不振で解散、ソロ活動もパッとしてなかったため、アーティストとしては開店休業中の状態だった。ただ印税生活で食っていけるほどのセールス実績もなく、取り敢えず長年音楽業界に携わっていたおかげで無闇に顔だけは広かったので、他人のプロデュース依頼はしょっちゅうあり、それが本業となりつつあった。Todd自身はチャートを賑わせたことはないけど、The BandやGrand Funkなど、アメリカでもメジャーどころのアーティストをプロデュースしており、業界内での評価は高かった。
 それまでのプロデュース実績から言って、なぜイギリスの偏屈バンドのオファーを請け負ったのか、今となっては定かではないけど、まぁ大方は金のためなんじゃないかと思われる。それか業界内で顔が広いのが災いして、いろいろな義理やしがらみなんかがあったのかもしれないし。
 
 片やAndyの方も、立場は違えど事情は差し迫っていた。Steve Lillywhiteによる革新的なドラム・サウンドの導入、ニュー・ウェイヴ版Lennon & McCartneyとも形容された、Colin Mouldingとの相互作用による楽曲レベルの向上など、音楽的・業界内評価は上がっていたのだけど、やはりモノを言うのはセールスである。ましてやステージ・フライト発症のため、ライブ活動からは引退、レコーディングと作曲活動を優先したため、プロモーションも満足に行なわれず、活動は次第に地味になっていた。
 で、タチが悪いことに、それをまたレーベルのせいにする被害妄想を広言するものだから、目も当てられない。確かにCulture Clubばかりに力を入れていたVirginにも非はあるけど、堅実なレーベル運営としてはそれが当然だし、何かとイチャモンをつけてロクに働こうともしないアーティストを飼い殺しにするのも、わからないではない。
 双方険悪の状態が続き、意思疎通もままならぬまま、業務連絡的にVirginがプロデューサーを指名、契約に縛られたバンドは受け入れざるを得なかった、という次第。

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 そんなこんなで、アメリカとイギリスを代表するへそ曲がり二人が、それぞれの事情を抱えて仕方なくタッグを組むのだから、まぁ一つや二つ、衝突が起こっても不思議ではない。
 もちろん双方、才能とスキルを充分に持ったミュージシャンなので、共同作業のうち、お互いに顔を見合わせ、ニンマリ笑う瞬間だってあったと思う。ブースを隔ててアイ・コンタクトを取り合う、理想的なプロデューサーとミュージシャンとの構図も、わざわざ言うのは恥ずかしいけど、何度かあったんじゃないかと察する。
 リリース直後は、2人の衝突具合がクローズ・アップされ、お互い、メディアを通して罵り合いを続けていたのだけど、お互い年を取ったせいなのか、近年では回顧ネタの定番として、使い回しの鉄板エピソードをそれぞれ披露しあっている。
 
 パンク/ニュー・ウェイヴのフォーマットを使って、変拍子使いまくりのギター・ポップ・サウンドでデビューした後、当時はまだほとんど注目されていなかったダヴ・サウンドで丸ごと一枚アルバムを作ってしまい、それにも飽き足らず、せっかくの初ソロ・アルバムなのに、またまたダヴでもう一枚作ってしまう男、Andy Partridge。
 歴代のプロデューサーとことごとくケンカ別れしてきた男であり、レコーディング後はいつも出来映えに不満タラタラなので、二度と同じプロデューサーと仕事をすることはないけど、だからと言ってセルフ・プロデュースはできない男でもある。偏執狂的な完璧主義と優柔不断とが相まって、レコーディング作業を終わらせることができないことを一番よく知っているのは、Andy本人である。

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 アメリカ人Toddがプロデューサーとして送り込まれたということは、当然、アメリカ市場も視野に入れたVirginの戦略であり、バンド側としては不本意な面も多々あっただろうけど、結果として出来上がったサウンドは、Virginのほぼ思惑通りに仕上がった。
 コードとは無関係に流れるメロディ、リバーヴをかけたドラム・サウンドなど、マニアックなギミック中心だった今までのXTC像と違って、このアルバムはインドア志向、ライブ感の薄い室内型ポップにまとめられている。マニアックな音像は変わらないけど、メロディを引き立たせた曲が多いため、これまでよりファン層を広げるきっかけ作りができたのは、やはりToddの功績が大きい。当時のAndyは認めてなかったけど。
 大きく分けて、耳に馴染みやすいキャッチーなA面曲と、地味な室内四重奏を思わせるB面曲に大別されるのだけど、しばらく意識的に聴き込んでいけば、次第に大英帝国特有の、ペーソスやら皮肉やら嫌味やら揶揄やら中二病やらが、ジクジクとかさぶたの下から滲み出てくるはずだ。


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1. Summer's Cauldron
 どこからともなく聴こえてくる、虫の鳴き声、緩やかなピアニカの調べ。朗々と歌い上げるAndyのヴォーカル。薄くバックに流れる、不安げなシンセの和音。夏の夜長、怪しげな楽団がアコースティックな響きを奏でる。
 時代だけに、ドラムの音だけが騒々しく浮いているが、これはこれで良い。
 
2. Grass
 前曲からシームレスに続くメドレー。この繋ぎだけでも、Toddの今回のベスト・ワークに数えられる。
 ちょっぴりチャイナ風のオープニングから、オーガニックな響きのアコギのストロークが気持ちいい。実際、PVもイギリスの田舎の農場を舞台に作られている。イギリス英語に詳しい人ならご存知だと思うが、いわゆる「ハッパ」の隠語である。
 ラストのコーダで再び、前曲の不安げなシンセ和音と虫の鳴き声で終わる。

 

3. Meeting Place
 2.に引き続き、Colin作。良い意味であまり捻らないポップ・ソング。
 Andyよりもわかりやすく、シングル向けの曲を書く人でもある。
 
4. That's Really Super, Supergirl
 おもちゃみたいなビート・ボックスのオープニングから始まる、Andyらしい凝った作りのポップ・ソング。このアルバムではアコギに専念することが多く、間奏のギターソロもColinによるもの。豆知識だけど、たまたまスタジオにEric Claptonから譲られたのギブソンが置いてあり、それを使用した、とのこと。
 XTCとしてはポップで可愛らしい、シングル向きの曲であり、実際バンド側もシングル・カットを主張したのだけど、Toddは却下した、とのこと。よくわからん。



5. Ballet for a Rainy Day
 Andy作による、珍しくストレートにムーディーな曲。次のアルバム・タイトルである、『Oranges & Lemons』が歌詞冒頭に出てくる。一見ロマンチックな曲だけど、ドラムはゲート・エコーを使用しており、XTCっぽさを主張している。
 
6. 1000 Umbrellas
 前曲と繋がり、弦楽四重奏をバックに、Andyが本アルバムでのベスト・ヴォーカルを聴かせる逸品。
 サウンドが注目を浴びるあまり、取り上げられる機会は少ないが、よく響くAndyのヴォーカルは結構表現力もあり、ライブ映えするはずである(もう多分しないだろうけど)。特に低音域の通る声は、サウンドをも凌駕する。後年制作される、『Apple Venus』シリーズの前哨戦といった趣き。
 でも、この頃の方が若さがあって良い。
 
7. Season Cycle
 レコードでは、ここまでがA面。
 2部構成となっているが、仰々しくなく仕上がっているのは、プロデューサーのまとめ方が良かったのだろう。
 数少ない共通項である、Beatlesライクな小品。

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8. Earn Enough for Us
 前曲より更にビート・ポップ成分を強調した曲。
 パワー・ポップ系の若手がカバーすると、意外とイイ線いけるんじゃないかと思う。
 
9. Big Day
 サイケ調のポップ・ソング。このアルバム・リリースの前後に、モロサイケ・サウンドのシングルを変名で制作(The Dukes of Stratosphear『25 O' Clock』)、その流れに続く、趣味全開のサウンド。
 
10. Another Satellite
 同じく、サイケ・サウンドが続く。ドヨ~ンとしたエフェクトを利かせたギターがサウンドを支配、気だるいアフロ・ビートのパーカッションがリズムを切る、よく聴けばやっぱり変な曲。
 
11. Mermaid Smiled
  基本、アコギのストロークで歌われているのだけれど、微かに聴こえるアフロ・パーカッションのうねり。ピッコロ・トランペットの響きとのマッチングは、やっぱりTodd。こんなシンプルな曲でこんな組み合わせ、どっか変。
 
12. Man Who Sailed Around His Soul
 スパイ映画のテーマ曲みたいなオープニング。この曲だけちょっと毛色が違い、70年代ジャズ・ファンクっぽいサウンド・アレンジが展開されている。もっとファンクっぽくやっても面白かったんじゃないかと思う。ライブやってればねぇ…。
 
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13. Dying

  再びColin登場。アメリカのフォーク寄りのシンガー・ソングライター的なナンバー。でもやっぱり英国人、コード進行はどこか変。
 
14. Sacrificial Bonfire
  初回ヴァージョンはこの曲でラスト。ここまでシンプルなフォーク・ナンバーを複数収録しているアルバムは、これまでのXTCではなかったこと。この辺から既にAndyとColinとの方向性の違いが明確になってきている。
 
15. Dear God
 華やかなA面と比べ、B面は比較的地味な曲が並ぶのだけれど、この曲は別格。XTCの曲なのに、冒頭ワン・コーラスまるまる、変声期前の少年にリードを取らせること自体、XTCとしてはかなりの異例だった。
 サイケ時代のアシッド・フォークを模したサウンド、タイトル通り、神への不信感、というよりは、現実の前にはあまりに無力な宗教への疑心を歌った歌詞など、宗教観に疑問を持ち始めるアメリカの若者にとっては受け入れやすいものだった。
 オリジナル・リリースではアルバム未収録(やはりToddの横槍が入った)、シングルのみのリリースの予定が、突然のスマッシュ・ヒットによって、急遽アルバムに収録された、という事情があるため、リリース時期や国によって、曲順に結構違いがある。

 




 アメリカでそこそこのセールス実績を残せたため、密室ポップ・サウンドへの方向性に手応えをつかんだXTC(特にAndy)、大英帝国テイストのパワー・ポップ路線をさらに強め、『Oranges & Lemons』、『Nonsuch』とメジャー・サウンドを意識したアルバムを立て続けにリリースする。2作とも、Toddとのレコーディング時に得たノウハウを巧みに吸収し、シングル候補となる曲も多い、ポップ小品集ではある。
 あくまで「小品集」である。『Abbey Road』張りに片面すべてを組曲風に繋げ、トータルでの作品のパワーの相乗効果を持たせた『Skylarking』との最大の違いが、ここ。
 
  このアルバムのレコーディング当時、バンドがセッションを済ませた後、Toddはかなりの時間、スタジオに残ってコンソールを操っていたらしい。結果、XTCを素材とした、Todd色の濃いアルバムが出来上がった次第。バンドが良い顔をしないのも、まぁ当然である。

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 この後、ライブ活動を再開しなかったことが、バンドの崩壊・自然消滅にも繋がる。
 ステージで容易に再現できるようなサウンドではなかったのだけど、やはりバンドの求心力を考えると、短期でもツアーに出れば、状況はまた違ったんじゃないだろうか。
 多少の危機感とレコード会社からの要請だと思うけど、この時期、ラジオ局でのスタジオ・ライブを頻繁に行なっており、その音源も正規・非正規ともリリースされているのだけど…、
 
 そうじゃないんだよっ! 
 バンドは生き物なんだから、動き続けなきゃダメなんだよ、 
 人前に出ないで演奏しなくちゃ、 
 バンドも楽曲も、 
 そしてメンバーたちのやる気も死んじゃうんだよっ。 
 
 『Apple Venus』以降、XTCとしての活動は次第にフェードアウトしてゆき、Andy監修による大量のデモ・テープ集、初期のライブ・アーカイヴなど、まるでRobert Frippのように、過去の遺産で食いつなぐ商売をダラダラと続けている。最近になって、『Skylarking』のニュー・バージョン(レコーディング段階でToddが機材の繋ぎ方を間違えてしまい、バンド側意向として、正しい極性でミックスし直された)がリリースされたのだけど、「なんだそれ?」である。
 もうそんなものに興味はない。あの時代の輝きは、あの時代だけのものだ。


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もともとは色モノっぽいバンドだった - Police 『Reggatta de Blanc』

61A9SxXbbML  1979年リリース、2枚目のアルバム。UKチャートでは最高2位、ちなみに日本でも、オリコン・チャート最高16位まで上がっている。本格的にポピュラリティを確立したのは、やはり代表作『Synchronicity』の頃だけど、当時から既に日本でも、そこそこの知名度はあったのだ。
 
 今でこそ「Creamと並ぶ歴史的なロック・トリオ」としての評価が高いPoliceだけど、当時の日本での評価は、「バカテクだけど、やたらに日本好きなバンド」という受け止められ方だった。
 デビューして間もない頃に来日しているのだけれど、なぜかライブの予定は組まれず、ちょっとしたプロモーションとPVの撮影のみに終わっている。で、その時に撮影されたのが、デビュー曲"So Lonely"なのだけど、これがまた意味不明。ほぼ全編、営業中の都内地下鉄でロケーションしているのだけれど、当然新人バンドのため、車両丸ごと貸し切る予算があろうはずもなく、無許可のゲリラ撮影を強行している。なぜこのシチュエーションを選んだのか、監督の意図は何だったのか、後年行なわれたメンバーへのインタビューでも、口を揃えて「意味不明だった」とのコメントしか出て来ないのだけれど、まぁ意味なんてないのだろう。MTV以前のPVはこのように、コンセプト不明の映像作品が粗製乱造されていたのだ。

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 通常運行中の地下鉄車内にて、正体不明の外人3人がアテレコで好き放題歌い踊る様は、とてつもなく異様である。普通に通勤・通学中の一般人の微妙なリアクションと、半分ヤケクソ気味な外人3人のハイ・テンションとのギャップとが微妙にすれ違うことによって、逆にそれが当時のバンドの意味不明な勢いを引き立たせ、時代に風化されない怪作に仕上がっている。
 
 Police時代を通して、またメンバー3人のソロ・キャリアを通して言えるのは、壊滅的なビジュアル・センスのズレ具合である。オリジナル・アルバム5枚のアルバム・ジャケットを並べてみればわかるように、その卓越した音楽的センスとのあまりのギャップに気づくはず。

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 ニュー・ウェイヴからコンテンポラリーなロックバンドへ華麗な脱皮を遂げた『Ghost in the Machine』からはスタイリッシュに垢抜けているけど、それ以前、特にこの『Reggatta de Blanc』のジャケットのセンスはひどい。
 デビュー作(『Outlandos d'Amour』)はまだわからないでもない。ポッと出の新人にそれほど予算もかけられないだろうし、新進パンク・バンドとして売り出すわけだから、逆に武骨なデザインの方が良い。でも2枚目ともなると、それなりにセールスも見込めたわけだから、もうちょっと何とかならなかったの?と言いたくなってしまう。
  
 噂では、マネジメントを行なっていたStewartの兄Miles Copelandが、実はCIAの秘密諜報員で、Policeがブレイクしたのも、世界ツアーという大義名分のもと、各国の情報収集に動きやすくなれるよう、CIAがチャート操作した、という説がある。あまりに荒唐無稽過ぎて、今なら2ちゃんねるの過疎版にでもコッソリ書かれていそうなネタだけど、なかなか無責任で面白いエピソードである。

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 個々の音楽的才能・スキルは、ほんと同世代のミュージシャンと比してもダントツのレベルなのだけど、『Synchronicity』前後のビジュアル戦略以外は、デザインやPV、フォト・セッションなど、どれも微妙さが付きまとう。
 それなりに年齢や経験も重ね、それなりに洗練された近年においても美的センスのレベルは変わらず、再結成後のライブ・アルバム(『Certifiable』)なども、サウンドは全盛期を維持しながら、ジャケットはホント、素人自作のブート紛いのレベルだった。
 
 なぜ周りの誰も、何も言わないのか。
 それがPolice最大の謎とも言える。


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1. Message In A Bottle
 俺が一番最初に買ったPoliceのCDということで、個人的にも特に思い出深いのが、このアルバム。
 『Synchronicity』全盛期の中、高校生の少ない手持ちの中、札幌の玉光堂でこのアルバムを選んだのだけど、多分この曲が入っていたのが決定打だったと思う。それくらい、この曲のインパクトは強い。
 「無人島で空き瓶にSOSのメッセージを入れて海に流したが、ある朝浜辺を見ると、世界中からSOSのメッセージの入った無数の空き瓶が漂着していた」という、イギリスの珠玉の短編のような歌詞は、もはやロック史においても燦然と輝くクオリティ。しかも、粗野で暑苦しいパンク・バンドが、見た目に似合わずハイ・レベルのサウンドでこれを歌うのだから、注目されない方が不思議である。
 Stewartのテクニカルなドラムが主にサウンドを牽引しているのだけれど、有名なAndyのギター・リフ、ヴォーカルながら、ただのダウン・ビートでは終わらせない、Stingの独創的なベース・ラインといい、すべてのピースがうまくかみ合った、全キャリアを通しての傑作。



2. Regatta De Blanc
 空間を活かしたドラミング、スペイシーなギター、Stingのフェイクで構成される、タイトル・ナンバーなのにインスト。
 最初っからインスト前提でレコーディングされたのか、それともメロディーや歌詞がうまくはまらなかったのか、はたまたタイム・スケジュール的にカツカツとなったため、何となく雰囲気っぽいセッションでお茶を濁したのか。どうとでも解釈できる曲である。
 
3. It's Alright For You
 Policeとしては、比較的シンプルに作られた8ビート。ただStewartの手数が相変わらず多いため、素直には聴かせないぞ、という意思すら感じられる。
 後半に進むにつれ、Andyによるギターのトラック数が増えており、あらゆるサウンドの重層構造になっている。Stingのキャッチーなメロディーが、当時のニュー・ウェイヴっぽさを反映している。
 
4. Bring On The Night
 Andyの初期ベスト・ワークに数えられるナンバー。細かいリフを散りばめたクリア・トーン・サウンドは、後年、あらゆるギタリストによって模倣されまくった。
 レゲエ・ビートとStingのハイトーン・ヴォーカルが南国っぽい。間奏のベース・ソロも、シンプルながら曲を盛り立てている。

 
 
5. Deathwish
  初期Policeとしては4分超の長尺曲。イントロもたっぷり1分と長く、焦らすだけじらさせる。基本、4.と同じコード進行なのだけれど、ベースの音が他の曲より重く、それが全体のサウンドに影を落としている。まぁタイトルもタイトルだけど。でも、ギターの構成がカッコいいので、埋もれてしまうには惜しい曲。
 
6. Walking On The Moon
 Stewartのハイハット・ワークの小技が光る。4.に続き、こちらも後年に大きく影響を与えた、サスティンを大きく利かせたAndyのギター・サウンドが心地よい。Beatles"A Hard Day’s Night"にも匹敵する、有名なサスティン・サウンドがここにある。しかも、こちらはほぼ全編に渡って鳴りまくっている。
 陳腐ではあるけど、ほんと" Walking On The Moon"、月の上を歩いているかのようなサウンド・プロダクションである。

 
 
7. On Any Other Day
 この辺になるとパンクやレゲエというよりむしろ、モッズ・バンド的な風情すら感じてしまう。 初期のKinksの未発表音源だとレクチャーされてから聴くと、何の疑いもなく納得してしまいそう。
 
8. Bed's Too Big Without You
 ロックの視点からフォーカスされた、本格的なレゲエ・サウンドだけど、この曲を最後にPoliceのレゲエ・テイストは次第に薄れてゆく。というより、パンクやレゲエを消化した、最強のロック・トリオへと進化してゆく。
 凡百のパンク・バンドに埋もれぬよう、戦略的な付加価値として選択したレゲエ・サウンドには、もうそれほど魅力を感じなくなったのか、それともミュージシャン・シップに目覚めて新規路線の開拓に走ったのか。
 
9. Contact
 Stingのベース・ラインが歌っている、ちょっと怪しげながら、実はポップな曲。Andyのリフも、ややBeatlesテイストになっている。
 この曲に限ったことではないのだけど、どれもStingが歌っていなくても十分成立するサウンド・プロダクション、というのがPoliceサウンドのもう一つの特徴でもある。
 この曲だって、ほんとはヴォーカル抜きで聴いていたいくらいである。

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10. Does Everyone Stare
  珍しくピアノが導入された、パンク~ニュー・ウェイヴというラインではなく、後年Stingがカバーすることになる Kurt Weillテイストの強いナンバー。なので、ロック的な要素はほとんど感じられない。アルバム構成的にはこういうのもアリだろうけど、これだけを抜き出して聴くことは、これからも恐らくないと思う。

11. No Time This Time
 パンク時代への惜別のような、急き切ったハイ・テンション・ナンバー。あまりテクニックをひけらかさないタテノリ・ビート、少しエフェクトを利かせたハイ・トーン・ヴォーカル、大きく歪ませたギター、バットマンのテーマを思わせるベース・ライン。ヤケクソ気味なコーラスも気持ち良い。
 9.と同じく、これ以降、ここまでストレートなガレージ・サウンドは少なくなってゆく。



 パンク~ニュー・ウェイヴ時代には、既成の価値観を覆したとされる、様々なアーティストが輩出されたのだけど、その後も末永く生き残ったのは、結局のところ、初期衝動だけでなく、きちんと方向性が確立された者ばかりだった。
 過去の否定には勢いとパワーが不可欠だけど、持続させるためにはテクニックと知識、つまりは基本の演奏力、それと過去の音楽から得た素養にかかっている。セミ・プロ上がりのPoliceにとっては、浮かれたニュー・ウェイヴ・シーンなどはただの足掛かり、通過点に過ぎなかったのだろう。




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あやつり人形じゃないことを証明した、DIY精神あふれる傑作 - Talking Heads 『Little Creatures』

 talking heads_little creatures1985年リリース、6枚目のアルバム。US最高10位UK最高6位。ちなみに日本でも最高59位という記録が残っており、この手のバンドとしては、結構売れた方である。確かにPVや雑誌の露出は多かったと記憶している。
 ちょっとセオリーを外したアート系のアーティストやアルバムが、アメリカ本国よりウケが良いのは、『Pet Sounds』あたりから続く、イギリスの伝統。

 インタビューでの発言や、解散後の地道な活動から見て、知的というよりはむしろ天然系と評した方が良さげなDavid Byrne、もうキャリアもそれなりに長く、セールス・作品のクオリティとも、それなりの実績を上げているにもかかわらず、なんかイマイチ評価が薄い、というか、大物感があまりない。
 もともとあまり偉ぶらない人なので、マイナーなイベントやフェスにも積極的に参加するくらいフットワークが軽いのだけれど、あまりに気軽なので、レア感が薄いというか、若手からのリスペクトも薄いような印象が強い。一応、長年の功績は認められており、Hall of Fameにも呼ばれるほどの人なのに、である。

 パンク~ニュー・ウェイヴ・ムーヴメントの発信源として、派手に隆盛を極めていたロンドンに対し、地味なアングラ系が多いと思われがちなニューヨークのミュージック・シーンだけど、あながち間違ってはいない。ヒッピー幻想の終焉と入れ替わりのベトナム戦争の長期化が災いして、何とも形容しがたい陰鬱と混沌、正体不明の閉塞感が蔓延していた。
 そんな中で地道に活動していたのが、Talking Headsである。デビュー間もなくは、ごくごく平均的なフォーマットのパンク・バンドだった彼らだけど、じきに大きく飛躍するチャンスを与える人物が現れる。
 その名は、Bryan Eno。

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 歌うことも楽器を弾くこともなく(できず)、ましてやまともな作詞・作曲もできないのに、いつの間にか音楽業界に潜り込み、気づいた時には大御所ステージにまで上り詰めた男である。
 デビューのきっかけとなったRoxy Musicでは、「テープレコーダー担当」という出まかせのポジションを獲得、David Bowie張りのキッツいメイクでステージ上で踊りまくる、という、少なくともサウンドとはまるで関係ない、エキセントリックなパフォーマンスを行なっていた。脱退後は、まぁ言ったもん勝ちだと思うけど、退屈なシンセ和音を独りよがりに延々と鳴らし続けた冗長なインストに、「環境音楽」という、これまたいかにも「らしい」コンセプトを掲げて、アルバムを量産。自称スノッヴな連中の自尊心をくすぐるような活動を展開した。

 こうして書いてると、とんでもなく胡散臭いサギ師っぽく思えてしまうけど、何でも突き詰めていけば、その筋で一流になってしまうのは、致し方ないことである。きちんと客観的に身の振り方をわきまえて、流行の臭いを嗅ぎつけてすぐさまツバをつけてゆくところなど、秋元康並みにスゴイ、と認めざるを得ない。若手の有望株にうまく取り入って、プロデュースと称して気分次第で好き放題なことをそれっぽく語り、うまくブレイクしたら「おれの手柄」っぽく振る舞う男である。
 うん、やっぱり秋元康っぽい。

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 そんな彼が興味を持ったのが、単なるアングラ・シーンからメジャーへ進出しつつあったNYパンクのアーティストである。何となくモノになりそうなバンドをいくつか寄せ集めて、コンピレーション・アルバム(『No New York』)を作る。大して売れないのはわかりきっている。これ自体で儲けるつもりではない。これは単なるアドバルーン、センセーショナル話題作りでマス・メディアに取り上げられてもらうことが目的なのだ。
 その中で、こいつらなら俺の意のままに操れそう、とEnoが選んだのが、Talking Headだった、という次第。

 そんな彼ら、この後は高い評価を得た『Remain in Right』をある種の終着点として、Enoとのコラボレーションは発展的解消の途をたどることになる。Enoが得た名声と高評価とは対照的に、あまりに見返りの少ないバンドの評価、そして増大するプレッシャーももちろんだけど、あれこれ突拍子もない指示を出すEnoに対して、ほとほと愛想が尽きたのだろう。
 その後、彼らの活動ペースは急激に落ち、集大成とも言えるライブ映画、それに伴うサウンドトラック(『Stop Making Sense』)を作ったあと、『Remain in Right』の搾りカスのようなアルバム(『Speaking in Tongues』)を作り、それぞれが長期休養に入ったり、Tom Tom Clubを始めたりする。
 
  特にギミックに凝ることもない、楽しく踊れる音楽をコンセプトにしたTom Tom Clubが高セールスを記録したことによって、メンバー4人とも気づいたのだろう。
 次はゲストを入れず、4人だけのアルバムを作ろう。
 何の装飾もギミックもない、ただ「歌」のためにある『普通』のアルバムを。
 それが、この『Little Creatures』である。


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1. And She Was

 ちょっとフォーク・ロック調の3枚目のシングル。US54位UK17位。Byrneのヴォーカルも、気が抜けてリラックスした印象。
 前作まで、神経症的なカン高い声を無理して張り上げていたが、「Hey,Hey」のかけ声も、どこか牧歌的でおだやか。
 バンド4人で顔を突き合わせ、ヘッド・アレンジで練り上げた曲なのか、後半のChris Frantzによるドラム・ロール、Byrneがかき鳴らすギターも楽しそう。セッションの楽しさが凝縮された曲である。



2. Give Me Back My Name
 前半がややEno臭さの残る曲。
 リズムもややオルタナっぽさが残っているけど、これまでTalking Headsでは使われたことのない、スチール・ギターの響きが全体を和ませている。
 サビに入るとカントリーっぽいメロディーが展開する、ライブ映えしそうな曲。

3. Creatures Of Love
 ほぼタイトル・ソングであり、アルバム全体の流れを象徴した、ややファンクっぽいギターをバックに、やはり楽しい曲。何ということもない曲だけど、やはりクセになってリピートしてしまう魔力を持つ、アルバム・ジャケットそのまんま、ファニーな曲。



4. The Lady Don't Mind
 UKのみシングル・カット、最高81位まで上昇した、先行1stシングル。Eno時代は付け焼刃的なファンク・リズムのミスマッチ感が、ニュー・ウェイヴ的なサウンドとして相乗効果を醸し出していたけど、ここでは「ちょっとヘタでもいいから自分たちでやってみよう」というバンドの意思が結実した、Talking Headsの進化形態とも言えるナンバー。
 評論家受けの強かったEno時代を真っ向から否定するのではなく、消化・吸収した上で自分たちのオリジナリティを確立し、ライト・ユーザーがラジオで聴いても好感を持たれる曲を作り上げた。
 サビのホーン・セクションと、Byrne+バンド・コーラスとのコール&レスポンスが最高。



5. Perfect World
 ややスタンダードなロック調。ギター・カッティングがPoliceっぽい瞬間がある。サビに入ると再びスチール・ギターが出てきて、普通のミドル・テンポが和んだ感じになる。

6. Stay Up Late
 Jerry Harrisonのキーボードから始まる、意外に珍しい曲。Jerryが終始リードを取っており、ちょっとひと昔前のニュー・ウェイヴ調。
 中間辺りでEnoっぽさが出ているけど、そこまで強いわけでもなく、エッセンス程度。やはりバンド単体で練り上げた曲だと思う。

7. Walk It Down
 今度はChris FrantzとTina Weymouthによる、Tom Tom Clubチームがイニシアティヴを取っており、ファンクともロックとも似つかない、エスニック系の変則ビートが他2人を引っ張っている。
 誰か一人、例えばByrneがすべてメインを張るのではなく、4人それぞれがアイデアを持ち寄り、合議制によって採用された作者が責任を持つ、という極めて当たり前なバンド民主主義が、このアルバムの最大の成果であり、好調要因である。
 まんまTom Tom Clubではなく、やはりTalking Headsというフィルターを通しているため、単純にカラッと明るいものではなく、やや不穏な重めのサウンドに仕上がっている。

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8. Television Man
 前曲と同じく、リズムを強調。ていうか、ほとんどリズム・セクションとByrneの特色である、不安定な響きのギター・リフによって出来上がっている曲である。
 このアルバム全体に言えることだけど、鍵盤系のJerryの出番は少ない。細かなエフェクトのアイデアなど、目に見えずらい貢献度は高いのだけど、あまり見せ場を作ってもらえなかったのか、どうにも影が薄い。この後、ふて腐れてバンド活動に消極的になって、結果バンドを活動休止に追い込んだのも、まぁ気持ちはわかる。
 後半はモロ『Remain in Right』だけど、リズム中心ではなく、当時よりメロディーが立っている。

9. Road To Nowhere
 最初のアカペラ・コーラスから行進曲のようなドラム、まさしくアルバムのフィナーレを飾る名曲である。ちょっとエフェクトをかけたアコーディオンからして、もう楽しげ。Byrneもすっごく楽しそうに歌っている。
 4.と並ぶ、このアルバムの要となる曲である。

  




 「普通の楽曲を作りたかった」Talking Headsが、『普通』をコンセプトにアルバムを一枚作った。
 セールス的にもトータルで200万枚という、十分及第点な数字だった。
 でも、Byrneだけはどこか満足できなかったのか、もっと『普通』を極めたかったのか。通常パターンならプロモーション・ツアーを行なうところだけど、思うところのあったByrne、ツアーはキャンセルし、映画製作に乗り出す。その名も『True Stories』、アメリカのごく『普通』の人々を主人公に、ごく『普通』の生活を淡々と、それに若干のフェイクを加えた作品を作り上げた。
 Byrneのスケジュール待ちだった他3人、撮影終了まではヒマを持て余していたのだけれど、サウンドトラックをTalking Headsが担当することになり、再びレコーディングに臨むことになる。バンド側としては当然、この後はツアーに出る気まんまんだったのだけど、Byrneの多忙によって、ツアーは再びキャンセルされる。
 その後もライブ一つすら行なわれることなく、結局のところ、それが活動休止→解散の要因となる。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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