好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

アメリカ代表ポップ馬鹿、完コピに熱中する、の巻 - Todd Rundgren 『Faithful』

folder ずっと引っかかっていたのだけど、要はコンセプトありきの人なのだと思ったら、妙に納得してしまった。
 
 Nazzを解散して最初の2枚はシンガー・ソングライター・ブームの先駆けとも言えるシンプルなサウンド、続く『Something / Anything』では一転して、レコード溝の振り切れる限界まで音を詰め込み、こちらも宅録の先駆けとも言えるセルフ・レコーディングを2枚組大作で極めるつもりだったが、途中で力尽きたのかネタ切れしたのか、最後の2枚目D面はゆるいジャム・セッションでグダグダのエンディング。体力と気力の限界を痛感した反省を踏まえてなのか、続く『A Wizard, A True Star』ではAbbey Road方式を採用、A面のみ丸ごと組曲という構成に落ち着いた。
 「2枚組アルバムを作るんだ!!」という以外は特別なコンセプトのないセルフ・タイトルの2枚組は、一応まとまってはいるけど、逆にこれといったフックが少なく、やや散漫な印象。中途半端な仕上がりに再び反省したのか、続く『Initiation』ではB面が1曲のみ、アメリカン・ハード・自己満足・ポップ・プログレ” A Treatise on Cosmic Fire“で埋め尽くした。
 
 コンセプトがしっかりしているアルバムは、結果的に構成もしっかりしているので何度も愛聴できるのだけど、冗長な2枚組ともなると、ピントのボケた単なる寄せ集め的なアルバムになってしまい、聴く機会もほんとわずかになってしまう。多分アルバム片面くらいなら集中力も続くのだろうけど、それ以上となると関心が他の方面へ、例えば次に制作予定のアルバムへ意識が向いてしまうのだろう。

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 で、今回の『Faithful』。A面が60年代ロックのカバー、B面がオリジナルという構成。これまでの経緯を踏まえると、「コンセプト系+オーソドックス系」といった風に二面性を効果的に演出する方が、一枚フルに通したテーマよりまとまりやすいのだろう。
 Todd自身としては、こうした二面性を「絶妙なバランス感覚」と良い方に受け取っているのだろうけど、客観的に見ればどっちもどっち、それほど大差はない。
 そう、それは趣味性全開の密室ポップ。どこから切っても金太郎アメ、個性の強い馬ヅラToddの顔面が視界いっぱいに広がり、そしてむせ返るようなToddの世界観を凝縮した濃密サウンドが展開される。
 
 それが如実に現れるのが、やはりA面のカバー群。
 今なら素人でもちょっと勉強すれば、フリー・ソフトを駆使することによって、そこそこのスペックのパソコンでもそれなりのサウンドを作ることも可能になったけど、何しろ時は1976年、電卓がやっと卓上式になり、やっとマッキントッシュが創業された頃である。シンセでさえまだアナログの時代、そんな中、Toddは限定された条件の中であらゆる手法を駆使、自らも生きてきた60年代の空気感の再現に挑戦している。
 さすがにこだわりが強かったのか、レコーディング当時でも既にヴィンテージ扱いだったギターやドラムなどの楽器類だけでなく、マイクやテープ・レコーダーなどのレコーディング機材も、可能な限りオリジナル・ヴァージョンと同じ条件のものを揃えている。
 
 駆け出しのコピー・バンドならまだしも、経歴の長いプロのミュージシャンが有名曲のカバーを行なうことは、時としてデメリットになる場合がある。
 ミュージシャンとしてのスキルが高ければ高いほど、プロならではの視点・独自性が求められ、よって要求されるハードルは高くなる。これが思いっきり的はずれのアレンジなら、それはまたそれで潔く受け止められるかもしれないけど、大してひねりもない、アレンジもほぼそのまんまのカバーだと、同業者だけでなく、長年のファンからもソッポを向かれ兼ねない。下手すると、それまで築き上げてきたファンとの信頼関係も、一瞬にして失いかねない危険性を孕んでいる。
 それだけカバーという行為は、下手なオリジナル曲よりシビアな目で評価される。

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 ただこのアルバムのTodd、特徴のあるヴォーカル以外はオリジナルを忠実になぞった作り、批評性・客観性のかけらもないサウンドを提示している。ギターの音色やスネアの反響具合など、細かなディテールまでこだわって作り込んだトラックに合わせて、エコー成分やブレスのカウントまで忠実に再現するTodd。ここまで精密に作り込んでしまったら、もう笑うしかないくらいである。
 何のためにここまでするのか。
 そして、何の意味があるのか。
 多分、意味なんてない、ただの思いつきだ。思いつきという行為を突き詰めてゆくことによって、見えてくるものもあるのだろう。
 
 ただこの人、ここまで読んでいくと偏屈に思われそうだが、基本的には「いい人」なので、昔からのファンに向けて、B面は極上のポップ・ソングを用意している。これがまたイイ感じの美メロを取り揃えており、純粋なシンガー・ソングライターとしてのToddを存分に堪能できる、
 「ほんと、やりゃ出来るじゃん」とでも言いたくなってきてしまうけど、事はそう単純でもない。
 偏執狂的なポップ馬鹿のファンもまた同族、聴き手の方も屈折している者が多く、ただ流麗なだけ、ただ美メロなだけの曲、では肩透かしを食らった気になってしまう。
「え、これで終わりなの?これじゃちょっと素直すぎね?」
 ―ファンというのは身勝手なものである。


Faithful
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Todd Rundgren
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1. Happenings Ten Years Time Ago
 オリジナルはYardbirds、Jimmy PageとJeff Beckとの双頭ツイン・リード体制でリリースされた唯一のシングル、というのが一般的なインフォメーション。Toddのファンなら大体が同じはずだけど、俺が最初にこの曲を知ったのは、Toddのこのアルバムから。なので、オリジナルは後付けで知った、という人が案外多い。いや、リアルタイムで聴いてました、って人なら別ですけどね。
 当時はちゃんとやっていたPageのリフも、曲間のモノローグまでできる限り忠実に再現している。やりたかったんだろうな、こういうの。

2. Good Vibrations
 これは有名、Beach Boys、ていうかBrian Wilson作詞・作曲・プロデュースによる、一大ポップ・シンフォニー。ポップ馬鹿とは多分、この人が元祖。
 何重にも複雑にかみ合わせたコーラスを、これまた忠実にミックスして再現したところ、それとチューニングが難しいと言われているテルミンの音色もクリソツ。ま、でも最初に作った人が一番すごいんであって、結局は完コピに過ぎないんだけどね。
 それでもキワモノ的な珍しさがあったのか、アメリカではこのToddヴァージョンがシングル・カットされ、34位にランク・インしている。
 


3. Rain
 こちらもご存じBeatles、ただ後期のシングルB面曲だったため、ファン以外の認知度はちょっと少ない。Ringo Starr曰くが自身のベスト・プレイだったと振り返った、力強いバスドラの響きも忠実に再現。打楽器のニュアンスを再現するにはかなりの苦労があったと察するけど、そこは筋金入りのBeatlesオタク(後年Ringoのオール・スター・バンドに加入して世界中を廻ることになる)、この程度の苦労は苦労とも思わなかったのだろう。
 鼻濁音の辺りで、時々John Lennonが憑依したように聴こえる瞬間があるのだけれど、考えてみればこの頃Johnはまだ健在だった。憑依も何もないや。

4. Most Likely You Go Your Way [And I'll Go Mine]
 Bob Dylan『Blonde on Blonde』収録。この頃のDylanは一介のフォーク・シンガーから後のThe Bandとなる手練れの連中を従えロックのフィールドに進出し、更に音楽性を広げていた頃、世間一般のイメージよりもポップな曲となっている。ちょっと上ずり加減でダルそうに歌うと、誰でもDylanっぽく聴こえるというのは、アメリカ人でも同じなのだろうか。日本でいう森進一のような、マネしやすいシンガーの一人である。

5. If 6 Was 9
 あまり接点が感じられないけど」、Jimi Hendrixのカバー。ブルースを基調にした、ややポップ性を意識した曲なので、Toddもカバーしやすかったのだろう。
 初めて『Faithful』を購入した10代の頃、ジミヘンはほぼ接点がなかったため、このヴァージョンで聴くのが初。Jeff Beckと並んでジミヘンの場合、カスタムメイドのエフェクター使用などによって、完コピが難しいギタリストの一人に数えられるけど、Toddヴァージョンもまた、なかなか近い音色を作り出している。
 Lenny Kravitzのカバーしてたので、一応この機会に聴いてみたのだけど、ジミヘンっぽいギターの鳴り方はいいとして、そこかしこで中途半端にオリジナリティーを入れちゃってることにより、聴いていると次第に違和感の方が強くなってしまう。まぁどっちにしろ俺の場合、Lennyはイマイチ受け付けないので、どうしても点は辛くなってしまうけど。

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6. Strawberry Fields Forever
 超有名なBeatlesのカバー。懐かし番組でBeatlesの足跡が語られる場合、だいたい中盤あたりでこのPVが流されるので、まったく興味がなくても聴いてる人は多いはず。思えばこの曲、Beatlesがライブ活動を停止してレコーディングに没頭していた頃の産物である。当時のトップ・アーティストがレコーディング中心の活動にシフトしたことによって、ポピュラー音楽の音響技術は飛躍的にアップしたけど、それに伴って後年有象無象のポップ馬鹿を産み出す次第となったのは、彼らの功罪のひとつである。
 そのポップ馬鹿集団のトップ・ランナーに位置するTodd、テープ逆回転やスプライシング技術などを可能な限り解明して、Beatesサウンドの再現に努めている。よくやるよ、ほんと。

7. Black And White
 Utopiaでの課外活動、またGrand Funkのプロデュースなどで得たアメリカン・ハード・サウンドのノウハウを全開、重いギター・リフを中心とした、単純明快なハード・ポップ。そう、Toddがからんでくると、どんなハードな曲でもポップになってしまう。
 後半で重くトリッキーなギター・ソロが挿入されるけど、やはり音色はどこかポップで変態チック。

8. Love of the Common Man
 何かに似てると思ったら、George Harrison”My Sweet Road”に構成がそっくりだった。バック・トラック固定のまま、互いの歌だけ取り換えても、何ら違和感がない。Toddにしては珍しくコード進行も安定しており、よって独特なメロディの揺れやムラもなく、きちんと一曲にまとまっている。
 こういった曲だけ集めて作ったアルバムもあるのだけど(『Hermit of Mink Hollow』)、それはまた後日。
 


9. When I Pray
 ゴスペル・コーラスが中心となって構成された曲。珍しくメイン・ヴォーカルのキーが低く設定されており、そこにやや違和感。バック・トラックだけ聴けば、伝統的なゴスペル・ソングの白人的解釈とも言える小品なのだけど、ヴォーカルとのミスマッチ感の方が強く印象に残る。でもそのギャップ感こそが、普通のポップスとはひと味違うところ。

10. Cliché
 Runtシリーズに入ってててもおかしくない、シンガー・ソングライターとしてのスペックを最大限活用したナンバー。コードの不安定感やサスティンを効かせたギターの揺れる音色によって、Toddの楽曲の最大の特徴である「未完成ゆえの調和」を演出している。ただ俺的にはちょっと甘口。もう少しビターな風味があったら、さらに良かったかも。

11. The Verb To Love
 「甘さはチョット…」と言いながら、この曲は別格なのだった。Toddが得意とするスウィートなフィリー・ソウルをベースとした、ドラマティックなポップ・バラード。もともとこのアルバム全体が、当時のUtopiaのメンバーをそのまま演奏に起用しているため、特にこの曲においてはそれがうまく作用して、Utopia特有のアメリカン・プログレ風味とがうまくマッチしている。
 


12. Boogies [Hamburger Hell]
 ラストはGrand Funkっぽいブギ・テイストのロックン・ロール。こういった曲ならいくらでも書けそうだし、Todd自身も好んでこういったタイプの曲をアルバムごとに2~3曲くらいはぶち込んでくるのだけど、まぁあまり需要がないのだろう。世間的に、ロックンローラーとしてのToddはあまり求められていないのである。




 この後、Utopiaはプログレ風味を薄めてハード・ポップ路線を強めてゆくのだけど、その路線変更が功を奏したのか、そこそこのセールスを記録するようになる。次第に活動のメインがUtopia中心にシフト、Toddのソロは次第にフォーカスが定まらなくなる。
 その迷走状態の直前、ソロとバンドとの均衡が取れていた最後の状態を記録したのが、この『Faithful』である。


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アメリカ代表ポップ馬鹿、極上の思いつきサウンド - Todd Rundgren 『A Cappella』

folder 1985年にリリースされた、ソロとしては12枚目のアルバム。他にもアメリカン・プログレッシヴ・ハード・ポップ・バンド(長い!!)Utopiaとして9枚のアルバムを制作しているので、彼の70~80年代は膨大な仕事量に明け暮れている。その他にもソロ・グループ両方のツアーを行ない、また長らく所属していたBearsvilleレーベル・スタジオのハウス・エンジニアとして、数多のアーティストのプロデュースを行なっているので、一体いつ寝てるのか、こっちが気になってしまうくらい。
 それに付け加えて、巡り巡った縁により女優Liv Tyler(ご存じ父親はAerosmithのSteven Tyler)の育ての親として奮闘している。ま、これは単なる豆知識。
 
 当時のToddは古巣Bearsvilleを離れ、大メジャー・レーベルのワーナーに移籍して間もない頃。それまで特別大きなセールスを上げることもなく、そしてまたこれからもビッグ・セールスは期待されていないはずなのに、どういった経緯でワーナーとの契約に至ったのか。
 
 前回のToddでも述べたように、この人はアメリカでも日本でも、そして全世界の音楽業界関係者からの受けが良く、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしての評価がとても高い。絶対数は少ないけど、世界中に満遍なくマニアックなファンが点在しているため、すべてかき集めればそこそこのセールスは見込めるし、またレコード会社から見ても、「別にいなきゃいないでいいけど、特別拒む理由もないから取りあえずうちにいてもいいよ」的な扱いのアーティストだったせいもある。

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 まだ音楽配信なんて技術もなく、CD・レコードなど物理メディア以外に音楽流通の手段がなかった頃、まだ業界全体に余裕があり、音楽出版というのは文化事業的な側面を担っていた。
 例えば日本でも、あまりセールスの見込めない童謡や純邦楽、落語・朗読などのセクションは、規模こそ縮小されているけど、カタログのラインナップにはほぼ必ず残っている。当然、社内的には窓際ポジションなのだけど、企業としてのアイデンティティ、儲け一辺倒な活動だけではないことをアピールしていくためには、必要不可欠なものである。新陳代謝が少なく、もはや先細りの文化を保護してゆくことは、社会的責任を担う企業の社会貢献として、当然のことと受け止められていた。ま、経営的観点から見れば、税金対策でもあるのだけれど。

 稼ぎ頭であるポピュラー部門も例外でなく、少しアバンギャルドでちょっぴりプログレッシブな音楽もまた、いますぐ収益を生み出すものではないけれど、将来への投資を兼ねて、また未来の成長分野として育成してゆくため、ビッグ・セールスで得た儲けを、そういったマイナー部門へ注ぎ込んでいた。当時のElton JohnやCarpenters、ABBAらに救われたアーティストらは無数にいたはずだ。
 物理メディアによる流通が崩壊しつつある現代において、アーティスト契約自体がシビアになりつつあるけど、1985年当時はまだ、Toddのように大きな収益を生まないアーティストでも、どうにかメジャー・レーベルの隅っこで息をつけるくらいの余裕はあった。
 
 で、この『A Cappella』、サウンド的にはかなり凝っていて、ていうか、もうなんていうかこう…、目の付けどころが変態である。あ、もちろん褒め言葉です。
 いわゆる一般的なドゥー・ワップ、山下達郎やゴスペラーズ的なロマンティックなものを想像すると、ひどくバカを見る形になる。アカペラといっても、一般的な和声コーラスを重ねたものではなく、ごく普通のバンド・サウンド、例えばギターやドラム、ベースといった楽器の音色を、すべてToddの肉声を加工して、ピッチや音程を整えて貼り付けた代物である。思いつきにしては膨大な手間のかかる、普通に演奏するか普通にアカペラにするかのどちらかにすればいいのに、わざわざこんなしちめんどくさい所業を行なうのは、とても悪趣味な行為である。

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 で、肝心の出来栄えだけど、これが案外良い。ていうか、サウンドの奇抜さに埋もれて分かりづいけど、何回か聴き込めばいつものToddだということに気づかされる。メロディは従来のTodd、DNAに刷り込まれたアメリカン・ポップスと敬愛するノーザン系ソウルとのいいとこ取りとなっており、さすがメジャー移籍第一弾として、気合の入ったところを見せてくれている。
 それなのにリリース当時から、そして現在でも、トリッキーな変態サウンドのことばかり先行しているおかげで、肝心の中身についての評価はとても少ない。
 今だからこそ、ぜひ再評価してほしいアルバムである。


A Cappella
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1. Blue Orpheus
 インドネシアの伝統的な男性コーラス唱法「ケチャ」を取り入れている、だからスゴイ!!という論調ばかりで語られる曲だけど、まぁ確かにその通り。まだワールド・ミュージックという概念自体が語られることも少ない時代。ポピュラー界で目をつけていたのは、せいぜいPeter Gabrielくらいだったはず。Toddがどういった成り行きでこのジャンルに出会ったのかは定かではないけど、アルバム一曲目のつかみとしてはベストだったんじゃないかと思う。
 ただこの曲、サウンドのエフェクト的な部分だけでなく、純粋にメロディが絶品。あくまでケチャ云々は装飾の部分であり、メインのメロディ、そしてややメジャー感を意識したToddのヴォーカルを堪能してほしい。
 
2. Johnee Jingo
 ちょっぴりゴスペル調。コーラスがアフロっぽいので、黒人霊歌という単語を思い出してしまった。
 ここで今さらToddの特徴だけど、この曲に限らず、正確なピッチというものにあまりこだわりのない、ベテラン・ミュージシャンとしては珍しいタイプの人である。口ベースのリズムの揺れは、気になる人は気になるのだろうけど、Todd自身としてはトータルの出来栄えが重要であって、ニュアンス的な部分は結構雑である。
 この曲もTodd自身によるドゥー・ワップ調多重コーラスが大きなうねりを作り出しており、そこかしこに詰めの甘さは見られるのだけれど、トータルで見れば結果オーライ。
 ま、「作り込んだってしょうがねぇやどうせ売れねぇんだし」という気持ちもあるのだろう。
 
3. Pretending To Care
 このアルバムにおいてのベスト・トラック。流麗なア・カペラ・コーラスが全体の曲調を支配しているのだけれど、コーラスを抜きにしても、きれいなメロディである。そうだよ、こういうことが普通にできるんだよ、この人は。
 それにしてもTodd、ゴスペルに代表される黒人コーラスを意識しているのだろうけど、やはりそこはもともとの声質の細さ、ダイナミズムを感じさせるには迫力が足りない。それでもイコライザーやサンプラーを駆使して精いっぱい肉声グルーヴを作り出している。何が何でもDIY、というのがこの人、Todd Rundgrenなのである。

 
 
4. Hodja
 スタンダードなドゥー・ワップから始まる、3.同様、こちらも正当なア・カペラ。昔から変なコード進行が取沙汰される人だが、この曲についてはまとも。もしかすると素人目にはわからないくらい巧妙な構成なのかもしれないけど、メロディの終わりが中途半端ではないので、安心して聴ける。
 なんだ、やっぱやりゃできるじゃん。
 
5. Lost Horizon
 1.同様、Toddヴォイスを加工したリズム・トラックを使用している。普通にやればとってもきれいな曲なのに、そうはせずに一回転も二回転もよじれ捻るところが、やっぱりTodd。
 直訳すれば「失われた地平線」、コーラスがとても幻想的で、濃密な夜の密林、怪しげなジャングルを連想させる。
 
6. Something To Fall Back On
 またまた変態リズム・トラック使用。今度はToddお得意の60年代フィリー・ソウルをベースにしたポップ・ソング。楽しんで作ったのか、リズムのオカズも弾んだ声になっている。
 しっかし、これも普通にやればハッピーになれる曲なのに、やはりエフェクトの部分だけでしか語られないのが惜しい。いやほんと、この頃のToddは極上のメロディ・メイカーだったと思う。

 
 
7. Miracle In The Bazaar
 Utopiaのアルバムに入っててもおかしくない、まるでYesのように荘厳としたコーラスが宇宙的な広がりを見せるプログレッシヴ・ポップ。これをUtopiaでやったとすれば、恐らくアルバム片面をまるまる使った組曲になりそうなところだけど、ここでは4分程度に凝縮している。プログレッシヴという本来の意味に沿った、Toddしかできない(やりそうにない)野心作。
 
8. Lockjaw
 ちょっぴりガレージ・ロック風味の、メイン・ヴォーカルにもコンプをかけてニュー・ウェイヴっぽく仕上げている。
 もともとバンドでデビューしただけあって、ロック・サウンドへの憧憬が深い人なのだけど、元来の声質の細さ、ロック・ミュージックにしては変則的なメロディ、コード進行によって、ロックになり切れない自分に気づいてる節がある、それがTodd Rundgren。どちらかといえば重厚なパワー・ポップに仕上がっているのだけど、Toddの声質ではここまでが限界。
 
9. Honest Work
 加工していない素の声を使い、ちょっとしっとりした導入部。ソングライターとしての側面を良い方向で表現した佳曲。2分足らずの曲だけど、白人としてのアイデンティティ、黒人サウンドへの憧れとが同居した、Toddならではの持ち味が発揮されている。
 
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10. Mighty Love
 60年代ソウル・グループSpinnersのカバー。シンプルなドゥー・ワップに仕上げている。
 少年時代の憧れのサウンドをそのまんま、ほとんど加工していない多重コーラス、シンプルなフィンガー・スナップとハンド・クラッピング、そして熱くソウルフルに近づけたヴォーカルで構成されている。ほんとに好きやってみたかったのだろう。
 これ一曲だけならヴァリエーションとしてありだが、コーラス・テクニックだけを取り上げるのなら、本家の方が秀逸だし、またゴスペラーズの方が上手い。
 ただ、そういった問題ではない。重要なのは、その曲、そのアーティストへの愛情、リスペクトの具合だ。それがなければ、ただのテクニック品評会に終わってしまう。




 というわけで、どうにかこうにかアルバムを完成させたTodd、次は外注仕事、プロデュースの依頼が舞い込み、しばらくそちらに専念することになる。専念するも何も、ほんとはそんなつもりはなかったはずなのだけど、専念せざるを得ない事情が出てくる。
 何しろ相手はXTC、あの『Skylarking』のレコーディングに駆り出されることになる。


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無記名の音楽として世に出されるはずだったアルバム - Prince 『Black Album』

folder 活動歴の長いアーティストになるほど、様々なしがらみが付きまとってくる。レコード会社の都合やファンの勝手なニーズに、いちいち従順に応えていくと、本来自由であるはずの表現活動の幅は、次第に先細りになってゆく。ただ、とにかく必死なデビュー間もない頃は、そんなことを考える者は少ない。
 最初に世に出る頃は、それまでの蓄積を吐き出すだけで精いっぱい。数年後のビジョンまで視野に入れて行動しているのはほぼ皆無、ほとんどのアーティストにとっては、次のレコーディング契約・次のライブ会場ブッキングを継続させることにしか、意識が行かない。
 それでも無我夢中にもがいた末、どうにかセールス・動員数などで結果を出し、ようやく次のアルバム、ライブができる目処がつく。規模やランクはあれど、大方はこのサイクルの繰り返しだ。
 デビューして数年までの行動はすべてアウトプット、これまでの自分の貯金を切り崩す作業・身を削る作業が主なため、当然アイディアはすぐに枯渇する。そんなにそんなにデビュー前から、革新的なアイディアを蓄積している者はいない。そこでアイディアを仕入れる作業、インプットが必要になる。それは座学や実践もそうだけど、異ジャンルの他者との交流によって生まれる場合もある。創作のアイディアを受信するアンテナを広げ、自ら様々な場所に出向き、情報を収集してゆくことが必要になる。そして、そこからが本格的にアーティストとしてのスタート地点になる。
 ほとんどのアーティストはそこへ行き着く前に息切れ/ネタ切れして、そしてフェード・アウトしてゆく。もう少し世渡りの上手い者は、過去のアイディアの拡大再生産で凌いでゆく。そのような選択肢が潔いとは思わないが、次第に過酷になりつつある音楽業界をサヴァイヴしてゆくためには、必要悪な生き残り策ではある。
 
 そういった小手先の技を使う必要がない、革新的なアイデアが常日頃湯水のように湧き出てくる者もいるにはいるけど、そういった天才肌タイプの人間はごく少数、限られた数しかいない。
 昔ならJimi HendrixやFrank Zappaあたりだろうけど、存命している中での代表格と言えば、お待たせしましたPrinceである。

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 とはいっても、芸術の神に微笑まれる時期というのはごくわずか、彼もまた一生涯にわたって才気煥発だったわけでなく、本当に創作力のピークだったと言えるのは、デビュー当時の70年代後半から80年代いっぱいくらいまで(『絶頂期』の解釈については、様々な意見がある)、以降はサウンド的な進歩は微々たるもので、凡百のアーティスト同様、やはりこれまでアウトプットしてきたパーツの拡大再生産に甘んじている。
 
 で、この『Black Album』、ちょうど創作力のピーク、時期で言えば『Sign “O” the Times』と『Lovesexy』の間にリリースされる予定だったアルバムである。当時のPrinceのワーカホリック振りは今でも語り草となっており、大量の未発表曲ストックがこの時期に集中している。
 自前のスタジオ「Paisley Park」を所有していたPrinceにとって、レコーディングを行なうということは、即ち息をするのと同然の行為であり、とにかく思いついたら昼夜を問わず、手当たり次第にテープを回していたらしい。夢の中でアイディアが生まれたため飛び起きて、真夜中にバンド・メンバーを呼びつけた、という胡散臭い逸話も残っているけど、まぁ当時は独裁者同然に振る舞っていたらしいので、多分ほんとのことなのだろう。

 まずは何曲かレコーディング→なんとなくアルバム・コンセプトを決める→テーマに沿った曲を選ぶ→アルバム一枚に繋いで微調整、といった風に、結構システマティックにレコーディングは行なわれ、まるで工業製品のようにぞくぞくアルバム単位のマテリアルが製造されていった。
 
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 『Black Album』においても、最初はほぼこの流れで制作された。かなりディープなファンク寄りの曲が多く出来上がるに連れ、次第にコンセプトも固まってゆく。
 どうせやるならもっとマニアックに、セールスは度外視でやってみよう。せっかくならもっと「ど」が付くくらいのファンクで、これでもかというくらい「濃い」アルバムを作ろう。契約枚数オーバー?だったら名前も出さない顔も出さない、ブートみたいな真っ黒ジャケットで出しゃいいんじゃね?
 -ま、だいたいこんな感じで作っちゃったんじゃないかと思う。ただ最終的にPrinceがチキンになったおかげで、最終工程寸前で発売差し止めになっちゃったけど。
 
 サウンドについてはこれまで散々語られているので、知らない人でも何となく知ってると思うけど、問答無用のファンク・ミュージックである。
 言い訳しようのない、真性の「ど」が付くファンク。
 前作『Sign “O” the Times』では、全方位的なコンテンポラリー・ミュージックの片鱗を見せたPrince、今回はポップに振り切り過ぎた反動なのか、「一見さんお断り」の看板を掲げた密室ファンクを緻密に創り上げ、そして無造作に、何の飾りもなく放り投げてきた。あまりに閉鎖的な空間で鳴っているので、自己完結してしまうがあまり、最早どこへ繋がることもない、出口なし袋小路の音楽。当時のPrinceの体臭がツンと臭ってくる、そんなアルバムである。


ブラック・アルバム
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1. Le Grind
 リズム・トラックだけで、もう何時間も聴いていたいくらい、とにかく気持ちいい。シンセの使い方にZappっぽい瞬間があるけど、どこからどう切り取ってもPrinceの体臭がプンプン臭ってくる。
 ホーンをひと固まりの音として扱うのではなく、エッセンス的なエフェクトとして使うのが、この人の特徴。そこが他のファンク・アーティストとの大きな違いである。なので、ダンス・チューンにもかかわらず、どこか踊りづらく密室的なのはそのせい。
 この頃よく駆り出されていたBoni Boyerの弾けっぷりが爽快。
 
2. Cindy C.
 ベシャッと響くドラムが時代を感じさせるけど、Prince自身による冒頭のファルセットな雄叫びがファンキー。ラップというには躍動感が足りないCat Gloverの「語り」が、うまくリズムと対比している。
 ホーンの使い方はジャズ・テイストも加わって、サウンドに厚みを加えている。しかしPrinceの「語り」、まぁ下手くそなラップよりは全然良い。
 でもこの人、どうしてこんなにベースを入れるのを避けるのだろうか?
 ちなみに豆知識、タイトルの由来は当時のセレブ・モデルとして名を馳せたCindy Crawford。
 
PrinceBlackminiPosters

3. Dead On It
 ギターのカッティング・ソロが絶品。さすが「Rolling Stone」で「最も正当に評価されていないギタリスト」に選ばれただけのことはある。
 俺自身としては、恍惚の表情でギター・ソロを弾きまくるPrinceよりはむしろ、こういった的確な場所でちょっとセンスのあるオブリガードを聴かせる感じの曲の方が好きである。だって、ソロに酔いしれるPrinceって、あんまりカッコよくないんだもん。
 プリセット丸出しのドラム・ループの音はショボくチープだけど、ここでは比較的マシなPrinceのラップがイイ味出している。ギターの代わりにスラップ・ベースを入れたら、さらにファンキー指数は上がるのだろうけど、そうはしないのが、PrinceのPrinceたる所以なのだろう。
 
4. When 2 R In Love
 『Lovesexy』ヴァージョンとほぼ同じ。このアルバムの中では異色の、流麗なメロディで勝負した曲。余計な装飾を省いたアルペジオと、エフェクトをかけたドラム、次第に音数が増え、中盤ファルセットの多重コーラスがもっともファンクを感じさせる瞬間。複雑なリズム・パターンに頼らずとも、ファンキー指数をあげることができるというお手本の曲。
 
5. Bob George
 ブートレグ並みにくぐもった音質のシンセ・ドラムに合わせて「語る」Prince。思いっきりエフェクトを変えて低音にしているため、最初本人だとは思えなかった。その別人のようなPrinceが不穏なバック・トラックに合わせて語り、霧の遥か向こうで響き渡るギター・ソロ。
 いわゆる一般的なファンク・サウンドではないのだけれど、どこかP-Funk的な、負のパワーを内包した攻撃的なデンジャラス・ファンク。あまりに攻撃性が強いため、普通のアルバムに当てはめることは不可能。
 『Black Album』とは、まさしくこの曲のためにあるアルバムだろう。

prince1987

6. Superfunkycalifragisexy
 チープなシンセ和音から始まる、タイトルから想起されるイメージとは裏腹に、疾走感のあるファンク・ナンバー。元ネタはもちろん映画『Mary Poppins』挿入曲” Supercalifragilisticexpialidocious”から。
 ちなみに日本のバンドBOOWYも同時期、” SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS”という、ワン・スペル違いの曲をリリースしていた、というのは、あまりいらない情報か。
 曲調としては、これぞPrince!といった感じの、優秀なファンク。そうだよ、こういったのを求めてたんだよ、やりゃできるじゃん、とでも言いたくなってしまう、ノリッノリでいて、しかもどこかクールさを感じさせる、ドライな質感。
 
7. 2 Nigs United 4 West Compton
 6.と同じく疾走感溢れる極上のファンク・チューン。7分という長尺のインスト・ナンバーのため、やはりPrince名義でリリースするのはちょっと…、といった感じの曲。こういった通常のアルバム・コンセプトから外れてしまう曲も受け入れてしまうのが、この『Black Album』の懐の深さだろう。
 リリース当時はダルいインストが退屈で、歌が入ってればもっといいのに、と思っていたけど、世間的にも俺的にも、状況はかなり変わってきた。この後、いち早くインターネットに興味を持ったPrinceは『NPG Music Club』を設立、メジャーではリリースしづらい曲を次々に独自配信するようになり、その中にはジャム・セッションを延々と収録した物も含まれており、Princeのような多作アーティストにとっては良い時代になってきた(と言っても数年で飽きてしまい、すぐ活動は休止してしまうのだけど)。
 俺的にはここ数年、新旧問わずジャズ・ファンク系の音を漁るようになってきたので、このようにファンキーなインストは、結構ツボである。
 
8. Rockhard In A Funky Place
 『Parade』に入っててもおかしくない、このアルバムの中では比較的マイルドなファンク・チューン。ややスローなミドル・テンポも聴きやすい。
 中盤のギター・ソロはPrinceのベスト・プレイの一つ。決して引き出しの多い人ではないけど、やはりこのリズム、このエロいヴォーカルの後ろで鳴っていると、より効果を発揮する音である。
 本人的にはSantanaの影響が多いと言っているのだけど、いやいやどう聴いてもジミヘンでしょ、これって。




 四半世紀も前のアルバムだけあって、どうにも音が軽いのが弱点。初リリース予定当時は、既にレコードからCDへの移行時期だったため、LPは未聴だけど、やはりリズムの音質自体、現代のサウンドと比べると貧弱だ。どうにかリマスターしてほしいのは全世界のファンの願いなのだけど、何しろワーナーとの関係が微妙なため、それもなかなか進展しない状況が続いている。
 『Purple Rain』30th Annversary Editionはどうなった?
 ほんと、どうにかしてほしいものである。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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