好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Joeさん、あれこれ詰め込んだ世界一周旅行の巻 - Joe Jackson 『Big World』

folder で、しつこくJoe Jackson の続き。
 大ヒット作『Night & Day』には及ばなかったけど、前作『Body & Soul』もそこそこのヒットを記録し、いわゆるヒット・メーカーの仲間入りを果たしたJoe、でも純粋な作品クオリティの面においては満たされぬままだった。
 いくらヒット・チャートの常連になったとはいえ、すべてはポップ・フィールドでの出来事、前述したようにRoyal Academy of Musicで学んできた音楽的素養を十全に活用しているとは言えず、実際、ヒット・ソングとは対極の世界である現代音楽界においては、ほとんど評価は与えられていなかった。

 ちょっとその気になれば、フル・オーケストラのスコアを書くことくらい何でもない事なのに、来るオファーはポップ・ソングの依頼ばかり。ちょっとした片手間仕事でサウンドトラック(『Mike’s Muerder』)を手掛けてみたはいいけど、セールス的にも作品クオリティ的にも、評価はほとんど無に等しかった。
 現代音楽の世界においては、セールスはさほど重要な事柄ではない。そこは非常に内部完結した仲間うちの狭い世界であり、ごくごく少数の愛好家や評論家に一目置かれることが何よりも重要なのだ。
 
 セールスが膨れ上がれば膨れ上がるほど、その手のコンプレックスが増大してゆくのは、アーティストの常である。どこかでガス抜きをしなければならない。
 
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 そういった事情もあったのか、アルバム・リリースの狭間の仕事として、ちょうどこの頃開催されたつくば万博で上映された映画『詩人の家』のサウンドトラック制作で来日、東京交響楽団とのリハーサル・レコーディングを5週間かけて行なっている。
 『Mike’s Murder』での実績はあったものの、映画畑においてはほぼ無名のJoeにどうしてお声がかかったのか、その経緯はいまいち不明だけど、当時の日本はちょうどバブル突入目前、プラザ合意によって好景気の波が押し寄せつつあった頃で、要するに金があったのだろう。まとまった時間を取れるアーティストがたまたまJoeだけだった、とも考えられるけど。
 
 当然、かなり限定された環境での公開ゆえ、反響はほぼ皆無に近かったのだけど、久しぶりのオーケストラとの作業によって、アーティスト・エゴを満たすことができたのだろう、Joeはここで一旦現代音楽モードをリセットし、再度ポップのフィールドに帰還することになる。
 とは言っても生粋の英国人、そんなにストレートな物を作るはずもなく、ちょっとひねったアルバム・コンセプトに着手する。
 
 前述しているけどこの『Big World』、正確にはニューヨークのRoundabout Theatreという古めかしいホールでの「実況録音盤」である。何故わざわざ「実況録音盤」という古めかしい物言いかといえば、ライブ特有の歓声や拍手など、その他諸々の客席の状況が一切排除された、ライブ感がまったくないライブ・アルバムとなっているからである。
「ライブ会場を使っての一発録り、間違えたら最初からやり直し、観客は静かに見ているだけで、声援禁止」
 以上、このようにかなり屈折したコンセプトで制作されたアルバムとなっている。
 要するにコンサート・ホールを巨大なレコーディング・スタジオとして使用しているのだけど、だったらわざわざ観客入れる必要ないんじゃね?とツッコミたくもなる。
 
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 もう一つ変わっている点として、LPレコードでリリースされたこのアルバム、リリース当初は2枚組だったのだけど、すべての面を使っているわけではなく、溝が刻まれているのは2枚目A面まで、B面に当たる箇所には溝が刻まれておらず、ツルツルの平面になっている。
①当初シングル・アルバムの予定だったのが、思ったより曲があふれ出てこのような結果になったのか、
②それとも最初から3面のみ使用の予定だったのか、
③はたまた4面すべて埋めるつもりだったのが、曲が足りなくなったためこのような結果に落ち着いたのか。
 それについてJoeのコメントはないのだけれど、俺的には多分②だと思う。こういったコンセプトが、現代音楽経由のアーティストにとっては、とても重要なのだ。


Big World
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Joe Jackson
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1. "Wild West" 
 ここ2作では封印していたアコースティック・ギターのストロークからスタート。Joeのリコーダーがどことなく西部劇っぽい趣き。『Body & Soul』から参加しているVinnie Zummoが大活躍。敢えてシンセを使わず、生演奏での真っ向勝負を選んだJoeがリード・プレイヤーとして選んだだけあって、テクニック・表現力ともずば抜けている。

 
 
2. "Right and Wrong" 
 日本ではシングル・カットされているのだけれど、海外ではどうだったのだろう、データが見つからなかった。
 ”Stop, Everything”後のブレイクが絶品。これが大人のロックなのか、と思った18の頃。ソリッドなロックン・ロールである。
 初参加のRick Fordの、リード・ベースと言ってもよいリフも、かなり黒い。

 

3. "(It's A) Big World" 
 香港の妖しげな夜会を思わせるオープニング。しかし引き出しの多いバンド・メンバーが、よくもこれだけ揃えられたものだ。
 中国雑技団のようなハイハットが、無国籍な淫靡さを演出。
 
4. "Precious Time" 
 このアルバムの中では、ややハードめのギター・リフが演奏を引っ張っている。ここでコーラスが前に出てきており、ゴージャスなサウンドとなっている。
 『Beat Crazy』辺りに入ってても違和感のない、ストレートなロックン・ロール。
 
5. "Tonight and Forever" 
 同じくデビュー間もない頃のテイストのサウンドが続く。ただし編成は同じだとしても、ミュージシャンの力量がまるで違う。
 考えても見てほしい、これらはすべてワン・テイク、一発録りなのだ。疾走感がハンパないので、曲自体もものの2分程度で終わる、勢い勝負の曲。
 でもこれこそが、ロックン・ロール。
 
6. "Shanghai Sky" 
 ちょっぴり落ち着いて、ピアノ・ソロを聴かせるJoe、サスティンを聴かせまくったVinnieのアルペジオが幕間のようにまったりと流れる。たっぷり2分半の長い長い前奏に続き、感傷的なJoeのヴォーカルが朗々と続く。
 でも、どの辺が上海?

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7. "Fifty Dollar Love Affair" 
 哀しげに響くバンドネオンが、善からぬ男と女の情事を掻き立てる。
 
8. "We Can't Live Together" 
 今度はベースがスパイ映画のようなサウンドを奏でる。次第に演奏は情熱的に、しかし冷や汗交じりにヒート・アップする。
 モノクロ映画のぎらつく太陽のように、それ自体に色はないけれど、内にこもる熱は周囲を焼き尽くす。
 
9. "Forty Years" 
 タイトル通り、リリースから40年前、第二次世界大戦前後のヨーロッパを歌った曲。
 辛辣ながら諦念さえ感じさせる、あまり前向きではないメッセージを、それでもピアノ一本でがなり立てるJoe。
 まるで孤軍奮闘するかのように。
 ここまでが、レコードでは1枚目。

10. "Survival"
 ライブで完全生演奏という縛りのため、サウンド的には『Night & Day』『Body & Soul』と比べて、小編成で再現しやすい曲が多い。
 この曲も例外にもれず、シンセやホーンも使っていないので、シンプルなサウンドがこのアルバムの特徴。
 ただし演奏スキルは過去最高レベル、現在においても、ここまでのバンド・アンサンブルには至っていない。
 
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11. "Soul Kiss" 
 ソウルというよりは、ブギウギ・ピアノが楽しげ。緊張感で張りつめることの多かったセット・リスト中、比較的自由度が高くラフな感じの曲。
 Joeのヴォーカルもいい意味で力が抜けて、ラフ気味に歌っている。
 
12. "The Jet Set"
 日本語ではジェット族、ジェット機で遊び回る金持ち連中とwikiにあったので、要するにセレブの方々と言えば分かりやすい。
 アメリカやヨーロッパなどの有閑階級、由緒正しき生い立ちの方々の事を皮肉っている。日本ではあまりリアルではないと思う。
 
13. "Tango Atlantico" 
 タイトル通りタンゴの曲だが、いまいちバンドの消化能力が足りない。そりゃそうだ、だって一発録音だもの、完奏することで精一杯なので、踏み込みが足りなくなるのは仕方ない。
 音楽による世界一周というコンセプトのため、あらゆるジャンルの音楽を入れたかったのだろうけど、普段やり慣れてないものは、やっぱり付け焼刃っぽくなってしまう。まぁ、あれこれ詰め込みすぎだったのだろう。
 
14. "Home Town" 
 このアルバムの中では、最もポップと言える曲。テンポも軽やか、ギター・リフも余計なエフェクトはごく最小限、ナチュラル・トーンのため、初心者でもとっつき易いサウンド。
 相変わらずJoeは肩に力の入った歌い方をしているが、逆にこれがクルーナーのように甘い囁きだったら拍子抜けだろう。たまにライブでも演奏しており、お気に入りだと思われる曲。

 
 
15. "Man in the Street" 
 この曲だけ本編ではなく、前日のリハーサル音源より。ややインドっぽいオープニングから、次第に演奏が熱を帯び、最期は大団円。
 コーラスもJoe同様、思いっきり前のめりになっている。



 この後、Joeは古巣A&Mと契約終了、これまでの集大成『Live 1980-85』、またまた現代音楽『Will Power』、懲りずにサントラ仕事『Tucker』リリース後、当時飛ぶ鳥を追い落とす勢いだったVirginと契約、2枚のポップ・アルバムをリリースすることになる。
 Virginの持つ巨大な販売網を足掛かりとして、さらにワールド・ワイドな活動を展開しようと目論んでいたのだろうけど、この『Big World』をピークにセールスは下降の一途を辿り、そのおかげでJoeは鬱病を発症、しばらく表舞台から遠ざかるようになる。
 俺的にも今でも良く聴くのはこの時代まで、Virgin以降はそれほど熱心に聴いていない。
 
 最近は3ピース・バンド編成でコンパクトなツアーをヨーロッパ界隈で行なっているようだけど、全盛期をリアルタイムで追っかけてきた者としては、一応活動はしているけれど、その地味さ具合は寂しささえ感じる。できることなら、もっと大編成のバンドでハデな音を鳴らしてほしいのだが、まぁ予算もあまりないのだろう。
 
 どうせなら手練れの職人的バンドより、もっと威勢の良いサウンドを聴きたいと思っているのは、多分俺だけではないはず。どうせなら固定メンバーでツアーを廻るのではなく、現地の若手バンド、特にブラス・セクションの入ってる連中と組むのはいかがだろうか。
 日本にもSOIL&"PIMP"SESSIONSやPe’Zなど、イキの良いバンドはたくさんいるし、ヨーロッパにも、ジャズ・ファンク系のソリッドなバンドが腐るほどいる。そういった世代間交流を行なっていった方が、互いの創作意欲も湧くんじゃないだろうか。
 取りあえず日本のイベンターの方、これを読んでいたら、一度ご一考くださいませ。



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ロック嫌いな男、ひねくれ度が一回転して傑作を生み出す - Joe Jackson 『Body & Soul』

folder 前作『Night & Day』がUK・US以外にも世界各地で最大のヒットを記録し、同時代のミュー・ウェイヴ系アーティストをより大きく引き離し、特にアメリカで大きく知名度を上げたJoe Jackson。
 可能な限り、いわゆるロック的な要素を排除した『Night & Day』後に彼が向かったのは、更なるワールド・ミュージックへの傾倒、特に50年代以前のモダン・ジャズのムードと性急で享楽的なラテンのリズムだった。
 
 1984年にリリースされたこのアルバム、US20位UK14位と、セールス的には前作ほどではないけど、まぁアベレージはクリア、そこそこの成績を収めている。
 ちなみに、ついでに1984年のアルバム・チャートを調べてみたのだけど、とんでもない事実が明らかになった。年間通して1位を獲得したのは、Michael Jackson『Thriller』、Original Soundtrack『Footloose』、Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』、Prince『Purple Rain』。以上である。たったの4枚しかないのだ。フットルースのサントラは別として、どのアルバムも80年代名盤として確実にリスト・アップされる、モンスター級のセールスを記録したアルバムばかりである。
 こうして見ると、彼らに比べてダントツに知名度の低いJoeが、ここまで上位にチャート・インしたというのは、かなりの大健闘である。どんな時代にでも、ヒット・ソングだけでは満足できない、逆にヒット・ソングからは敢えて目を背け、マイナー・シーンを探索するリスナーは多いのだろう。
 
 このアルバムがレビューされる際、よく取沙汰されるのが、やはりアルバム・ジャケット。オマージュなのかパロディなのかは不明だけど、多分前者だろう。ジャズの歴史的名盤である、Sonny Rollins『Vol.2』をまんまパクッたレイアウトは、ここまで思いきりやっちゃえば、むしろ清々しささえ感じるくらいである。

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 アルバム・タイトルもジャケット同様、古いジャズ・スタンダードの曲からインスパイアされてるし、細かなディティールでジャズのエッセンスが散りばめられているけど、肝心のサウンドは、ジャズだけにこだわったものではなく、むしろラテン系のジャズ、特に第三世界のリズム面からの影響が大きい。
 モダン・ジャズ特有のシンプルな4ビートの曲はなく、むしろポリリズム的ラテン・ビートの存在感が大きい。
 一口にラテンと言っても、ごく一般的に連想される、享楽的なリオのカーニヴァルのそれではない。このアルバムに通じて流れているのは、メインストリートの健康的なリズムではなく、もっと漆黒でドロッとした、裏路地の妖しげなクラブで夜通し垂れ流される、肉感的でエロティックな饗宴のリズムだ。


Body & Soul
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1. The Verdict
 ホンダの車のCMにも起用されたくらいだから、同世代なら結構耳にした人もいるんじゃないかと思う。80年代のTVCMは、全般的に予算が潤沢だったおかげもあって、映像的にも音楽的にも手が込んでいた。CMクリエイターやプランナーという職業が出始めの頃でもあり、特に車関係のCMはセンスも良く、それでいて二番煎じ的な模倣を嫌う傾向があったように思う。
 オープニングのブラスがとにかく印象的。主にクラシックの録音が多いスタジオを使用してレコーディングしているので、特にこの曲のように大編成での録音では大きな効果があり、空間の響き方が良い。

 
 
2. Cha Cha Loco
 冒頭のカリプソ風味のトイ・ピアノっぽい音はほんと享楽的だけど、オープニングの妖しげなベースによって、いつものJoe Jacksonワールドに引き込まれる。
 リズムはほんとマンボかカリプソそのものだけど、マイナー調のメロディが怪しげなB級スパイ映画の様相を呈している。どうしてラテンなのにこんなに怪しげなのか?
 余談だけど、ラテン・アメリカの文学は俗に「マジック・リアリズム」と称され、現実と幻想の境目が曖昧になるうち自我も曖昧となってしまうストーリーが多い。一言で言ってしまえば「壮大なホラ話」なのだけど、そういったインチキ臭さを醸し出しているのが、この付け焼刃的ラテン・ミュージックである。
 
3. Not Here, Not Now
 シンプルなピアノ・ソロから始まり、そのままシンプルなバラードで終わる、この時代のJoeにしては珍しくストレートな良曲。ライブでもたまに取り上げるくらいだから、本人としてもお気に入りの曲なのだろう。余計な装飾がない分、ピアノ映えしやすい曲だし。
 ただ、ストレートすぎるがゆえに、ひと癖も二癖もある曲ぞろいのこのアルバムの中では、どうにもインパクトが薄く、印象に残りづらい。後半はドラマティックな展開になるので、多分他のアルバムに入っていたら、もっと感動していたと思う。
 
4. You Can't Get What You Want (Till You Know What You Want)
 やっぱりこれ、これだってばJoeは!!!! 
 この曲だけなんか立ち位置が違うというか、一番光っている曲であり、このアルバムの要でもある。
 前作『Night & Day』ではことごとくロック色を排除していたけど、このアルバムではロックの象徴であるギターが復活しており(と言っても、一般のポピュラー・アルバムと比べると、その使用比率はかなり低いのだけど)、疾走感がまるで違っている。
 この曲のバンド編成は、通常の4ピースバンド+ブラス・セクションとなっているのだけど、ロックとジャズが違和感なく融合している。
 語り出したら切りがない。期待感を盛り上げるオープニングのブラス、サビ前の一瞬のブレイク、時代を感じさせるスラップ・ベースとチャカポコ・ギターとの絡み、今回からバンドに加入したVinnie Zummoによる、多彩なエフェクトを駆使した間奏のギター・サウンドなどなど。
 明快なインパクトと、キャッチーなメロディ。この単純かつ普遍な方程式が、多くの新規ユーザーを魅了した。USシングル・チャートでも15位まで上昇したというのもうなずける。

 

5. Go For It
 ”You Can't Hurry Love"で有名な、モータウンの基本リズム・パターンからヒントを得た、Joe流のポップ・ソング。Joeとモータウンという結びつきは結構意外なので、なんでこんなアレンジにしちゃったんだろ?と、聴くたびにいつも疑問に思ってしまう。
 あまり多くを求めちゃいけないけど、Joeにしてはごく普通のポップ・ソングなので、ていうかJoe がわざわざこれをやる必然性が、あまり感じられないのである。レコーディングが進むにつれ、とにかく思いつく限りのリズム・パターンを試しているうち、次第にネタが尽きてきて、まぁ無難なアレンジにしたんじゃね?と穿った見方を、ついしてしまう。
 
6. Loisaida
 まるで金曜ロードショーのオープニングを思い起こさせる、もろAORなSaxのむせびが印象的な、三部構成のインスト。アルバム全体を一つの作品として捉える手法はプログレが一番ポピュラーだけど、そもそもはクラシックの世界のノウハウである。
 主旋律であるSaxソロの間に、ブリッジ的なブラス・セクションを入れ、再びSaxソロを挟み込む入れ子構造という、いかにもインテリめいたJoeの仕業。こういった手法は多分、Royal Academy of Musicで習得済みだったと思うけど、実践してみたのはこれが初めて。
 この手法に自信を得たJoeはその後、アルバム全体をこのスタイルで押し通す構想を立て、それが後年、『Will Power』『Symphony #1』という、非常に現代音楽的な、もっとはっきり言ってしまえば、冗長で自己満足的な作品を量産することになる。
 多分、今にして思えば、一連の作品は壮大な勘違いだった、とJoe自身も思っているのだろうけど、シリアスなアーティストとしては避けては通れない流れだったのだろう。ファンやレコード会社から見れば、アルバムの中のブリッジ的小品で抑えておけば良かったのに、と思うところだけど、まぁアーティストとは、時に独善的じゃないと、一流とは言えない。
 
7. Happy Ending
 で、前曲のまったり感をプレリュードとして捉えれば、この曲が活きてくる。Elaine Caswellという女性ヴォーカルとのデュエット。正直、ソロ・ピアノとしての腕は微妙だと思うけど、こういった誰かの歌伴としてのピアノになると、その饒舌さがいい方向へ作用している。
 Joe特有のぶっきら棒さと、ハスキーでやや高めのアバズレっぽいElaineのヴォーカルの掛け合いが絶妙。Aメロ→Bメロ→サビ→Saxとの流れが完璧すぎて、時々無性に聴きたくなって引っ張り出してくる曲である。
 女性ヴォーカルが必要なので、そういえばライブではあまり聴いたことがない。

 
 
8. Be My Number Two
 3.同様、シンプルなピアノ・バラードなのだけど、いやいや非常にファンの間で人気の高い曲。ライブでもかなりの確率で演奏している、多分自身でもお気に入りの曲である。
 もともとはパンク~ニュー・ウェイヴの流れから出てきた人なのに、アップ・テンポの曲では声が苦しそうになっている時があって、あまりシャウトする曲は向いてないのでは?と思ってしまう。むしろこういったバラード~ミドル・テンポの方が、独特の渋みが出ている。
 近年のライブもまた、自身のピアノを中心とした3ピースバンド編成なので、必然的にシャウトする曲は少なくなる。自分の音楽的素養と持って生まれた声質とのギャップとの乖離に対し、うまく折り合いをつけてきての結果なのだろう。

 

9. Heart Of Ice
 ラストも組曲。細かく刻まれるハイハットをバックに、フルート~フリューゲル・ホーンが互いにソロを取り合い譲り合い、次第に構成楽器が多くなってゆく。非常に現代音楽的な構成だけれど、このアルバムまではギリギリ、ポップの範疇に留まっている。あくまでアルバムの中の一曲なので、退屈さは感じない。
 多分、これをアルバムまるまる一枚にまで広げられると、俺的にはムリ。ほぼ発売間もない頃に『Will Power』を購入したものの、多分1回聴いただけでギブアップ、後は聴かずじまいだった覚えがある。
 ちなみにこの曲、トータルで約7分という大作なのだけれど、うちイントロが5分という、ラスト曲だけあって、なかなかプログレ度合いの強い曲である。こういった曲を、昔は高尚な曲だと信じて無理して聴いていたのだけど、今となってはカッタルイと思ってしまうだけ。
 シンプルでエモーショナルな4.のような曲こそが、Joeの真骨頂である、と俺的には思う。




 出世作となった『Night & Day』ほどではなかったけど、こちらもUS/UKチャートにおいて好セールスを記録し、Joeの音楽的探求心は更に深まってゆく。セールス的も高目安定傾向に落ち着いたため、それほどガヤガヤ言ってくる連中もいなくなった。今のところは、自分のやりたいことをやってきて、幸いそれが良い感じで受け入れられている。
 じゃあ、こういったのはどうだ?
 そうやって出来たのが、あの『Big World』である。


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ロック以外にこだわった偏屈者の非ロック的アルバム - Joe Jackson 『Night & Day』

folder デビュー作『Look Sharp』と2作目『I’m The Man』がストレートなタテノリ・パンク(を装った高度なロックン・ロール)、3枚目『Beat Crazy』でレゲエに色目を使い、4枚目『Jumpin’ Jive』では、何をとち狂ったのか、本格的な1920年代ジャイヴ・ミュージックにまで手を伸ばしたJoeが行きついた先は、人種のるつぼNYだった。ここでGraham Maby以外の従来のバンド・メンバーを一掃し、心機一転、前代未聞のポップ・アルバムを完成させた。
 
 節操がないというのか音楽的な探求心が強いというのか、はたまたただ単に落ち着きがないのか、とにかく様々なジャンルにあっちこっち手を出し、縦横無尽に動き回っていたのが、当時のJoeの印象である。
 
 あくまで一般論として、大きなヒットが一つあると、大方のミュージシャンやレコード会社は、更なる二匹目のドジョウの存在を捕まえようと目論むため、できるだけそのイメージを崩さぬまま、拡大再生産を図るものである。もちろん、ほとんどのミュージシャンの場合、ヒットはおろか、人知れずして消えゆくパターンの方が遥かに多いのだけど、Joeの場合、あまり大きな圧力はなかったらしい。まぁ確かに商売優先で考えるのなら、『Jumpin’ Jive』のようなアルバムをリリースしようとはしない。
 
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 Joe自身も自分のポジションは一応認識はしていたようで、レコード会社主導による大掛かりなプロモーション活動はあまり行われず、ライブを中心とした草の根的な、ブレの少ない活動を現在も行なっている。そんなマイペースな活動にもかかわらず、意外にセールス的にはほぼ及第点ともいうべき成績を収めている。
 トータルの数字は多分それほどでもなさそうだけど、デビュー作から『Big World』まではUSトップ40に入っており(サントラ『Mike's Murder』を除く)、同じ英語圏とはいえ、大概が苦労しているUKのミュージシャンの中では恵まれている方。
 Royal Academy of Music出身という、クラシック畑のミュージシャンがアメリカで受け入れられるのは少し意外だけど、ただ単純にゴキゲンな、それでいて少しモダンなロックン・ロールとして認知されていたのだろう。
 理屈はいらないのだ、だってロックン・ロールなんだもん。
 
 当時Joeが所属していたA&Mは、もともとミュージシャンであるHerb Alpertらによって設立された会社であり、比較的自由というか緩いというか、ミュージシャンの自主性を重んじていた。
 代表的なアーティストとしてPoliceやCarpenters、Quincy Jonesがおり、こうして並べてみると、かなり支離滅裂な組み合わせである。一見まとまりがなさそうだけど、どのアーティストにも共通して言えるのが、どこかひと癖あってアクが強く、一筋縄ではいかない連中ばかりである。
 そんな彼らを呼び寄せる磁力というのか、他のレコード会社には収まりきれない連中の吹き溜まり的要素が、この会社にはある。もちろん、吹き溜まりと言ってもそれぞれのレベルは相当なものだけど。

 そんな中、メジャーでありながら独自の配給網はそれほど強くなく、十分なプロモーションも行なわれないA&Mにおいて、Joeは試行錯誤しながら、自らの音楽レベルを高めていった。そんな求道的なアーティスト・モラルを尊重する気風が、この頃のレコード会社にはまだあった。
 
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 デビュー前のストックも交えた最初の2枚を最後に、それ以降のJoeのアルバムは、ロックン・ロール一辺倒の内容から脱皮して、様々な音楽性をやたらめったら導入するようになる。純正のロックン・ロールの割合はアルバム・リリースごとに減少してゆき、サルサ、レゲエ、ジャズなどのワールド・ミュージック的要素やエッセンスを絡めた曲の割合が多くなってゆく。
 前述したように、長らくクラシック系の勉強をしてきただけあって、もともとロックに対してさほど執着があるわけではなく、というかむしろ単純なロックを毛嫌いしていたため、こういった流れは自然の結果でもある。
 
 今作『Night & Day』ではロックへの拒否反応がピークに達したのか、ロックン・ロールの象徴であるギター音の排除を行なっている。ミュージシャン・クレジットに目を通し、そして実際に音を聴いてみても、ギターの音色は聴こえない。ほとんどのリード楽器は、ピアノかホーンに限られている。
 とにかくロック的なテイストを悉く排除し、またはロック以外のサウンドに置き換えて構築されたのが、この『Night & Day』である。
 その姿勢こそがまさしくロック以外の何物でもない、というのは穿った見方だろうか。


Night & Day
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1. Another World
 サルサっぽいオープニングからJoeが吠える。出だしはかなりヤケクソ気味な荒れたヴォーカルだけど、すぐに持ち直す。
 このアルバムでの鍵盤系はほとんどJoeの演奏だけど、主旋律を司る、カリンバっぽいエスニック調の軽めのエレピ、重厚なピアノの音との対比が良い。
 
2. Chinatown
 前曲と切れ目なく続く、不穏なムードのオープニング。どことなく20世紀初頭のギャング街のチャイナタウンを想起させる。チープなスパイ映画のサウンドトラックっぽさはJoeの狙い通りだろうか。
 同じくピアノの音が分厚い。通常のリード楽器であるギターと置き換えた、というべきだろうけど、ここはむしろ、あまりにもギターレス編成での演奏が良かったため、ギターの入る余地がなかった、もし無理に入れたとしても曲調が変わってしまい、まったくの別物になってしまうことをJoeが察知したのだろう、と思いたい。
 
3. T.V. Age
 さらにシームレスに曲は続く。同じくエスニック調で、Joeのラップっぽいヴォーカルを、ちょっぴりだけ聴くことができる。
 タイトルが象徴するように、TVのチャンネルをザッピングしているかのように、4分足らずの中で曲調がコロコロ変わるのだけど、せわしない印象はない。
 
4. Target
 まだまだ曲は終わらない。アフリカンなミニマル・リズムを基調とした、カリンバっぽいピアノが特徴。その上に80年代DX7プリセットの懐かしのシンセ音が乗り、そのミスマッチ感が時代を感じさせる。多少意識的なミュージシャンなら、他ジャンルとの融合を真剣に取り組んでいた頃である。
 
5. Steppin' Out
 結局A面はすべてひと繋がり、一つの組曲と思ってもらえれば良い。そのシメが、最初にシングル・カットされたこの曲。
 同じくプリセット・シンセのソロに乗せて、幾分しっとりしたヴォーカルでJoeが丁寧に歌っている。UK・USともシングル・チャートで最高6位まで上った、今でもJoeの代表作。
 Joe Jackosnといえばコレ、というかコレしか知らない人も多いだろう。あまりにポップな仕上がりのため、Joeの長年のファンの間ではあまり重要視されていないけど、ここまでヒットしたからには、多くの大衆の心をつかんだ何かがあるのだろう。
 ただJoe自身もプレイするのに飽きているのか、これ以降のライブではスロー・バラードのアレンジで歌っており、レコードのままのアレンジで歌われたことはほとんどない(敢えて言えばBBCライブくらい)。

 
 
6. Breaking Us In Two
 ここからB面。一応A面が「Night Side」、B面が「Day Side」という括りらしいけど、Joe本来の正統なバラードはB面に集中しており、あまり昼っぽさは感じられない。むしろ多国籍なA面の方に夜の妖しさが感じられる。
 ライブでも定番のナンバーであり、このアルバムからは2枚目のシングル・カットなのだが、それでもUS18位まで上がっている。
 決してポップではないのだけど、大人のバラードである。それが当時のカフェバー文化の発展の一翼を担ったのだろう。

 
 
7. Cancer
 A面の流れを汲んだ、サンバのリズムがDay Sideっぽいけど、曲が進むにつれて、ただの明るい曲ではないことがわかってくる。陽光燦々とした南国の陽射しの中、青っちょろい不健康な顔立ちの男が、一心不乱にピアノを叩いている。
 ピアノとは打楽器である、そしてここは真昼の暗黒。
 
8. Real Men
 6.同様、こちらもライブの定番であり、ファンの間でも特に人気の高い曲。なぜかオランダのみでシングル・カットされて、17位まで上がっている。
 Joeによる冒頭の流れるピアノから徐々にテンションが上がって行き、サビでは哀しき雄叫びを上げている。ギターを入れてもそれほど違和感もなさそうだけど、それではアルバムの調和が取れなくなることをJoeが恐れたのだろう。
 随所に流れる弦楽四重奏も良いアクセントとなっている。

 
 
9. A Slow Song
 長らくライブのエンディングを飾っていた、アルバムのシメとして相応しい曲。ファン、アーティストともども思い入れが深く、長らく愛されてきた曲である。
 基本、とてもシンプルなバラードだけど、世界一周ともいえる音楽的冒険を、このアルバムの中で縦横無尽に行ない、すべてをやり尽くした上でたどり着いたのが、この曲である。
 特別なギミックや技術を弄することなく、ただピアノに向かいながら、感情の赴くままタイトルを連呼するJoeの姿は、ある意味神々しく映る。

 



 このアルバムによって、アメリカでゴールド・ディスク(100万枚)を獲得し、Joe Jacksonは一流アーティストの仲間入りを果たす。作品クオリティと大衆の支持とが見事に合致したことは、時代の流れも良かったろうし、タイミングも絶妙だったのだと思う。どちらが欠けてもうまくはいかないのだ。
 この路線に確信を得たJoeは更に音楽的な探求心を強め、今度はジャズにターゲットを変え、こちらも傑作『Body & Soul』をリリースすることになる。
 
 ちなみに後年、Joeは諸々のトラブルによって鬱病を患い、しばらく表舞台から遠ざかることになる。
 周囲の尽力などによって徐々に回復することになるのだけど、そのリハビリ過程でで制作されたのが、もろ続編の『Night & Day Ⅱ』である。同じ道を通ることを良しとしなかったJoeが、初めて過去を振り返り、続編を作った唯一の作品である。
 そこに至るまでの事情は色々あったろうが、傑作とまでは行かずとも、こちらも秀作である。

 Joe Jacksonについてはもう少し続けたいので、また次回。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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