好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

UKポップ馬鹿、古き良きアメリカへの思いを馳せる - Prefab Sprout 『The Gunman and Other Stories』

folder   ヨーロッパ界隈ではスマッシュ・ヒットを記録した『Andromeda Heights』から4年後の2001年、いつの間にか古巣Epic/SONYから移籍、EMI系列の新興レーベルからリリースされた、Prefab Sprout8枚目のオリジナル・アルバム。

 この間に集大成的2枚組ベスト『38 Carat Collection』をリリース、それを置き土産としてSONYとの契約を解消している。
 大ブレイクとまではいかないまでも、そこそこのセールスは記録しており、確かにレコーディング経費のかかる、会社的にはめんどくさいアーティストだったかもしれないけど、まぁセールス的な伸びしろは少なかっただろうし、当時のSONY取締役Muff Winwood (あのSteve Winwoodの実兄)と折り合いが悪かったらしいので、お互い潮時だったのだろう。
 当時のSONYはMariah CareyやCeline Dionなど、確実に資本回収しやすいアーティストに力を入れていたので、手間のかかるロートルを少しずつリストラしており、企業体質の強化に努めていた。冷静に見て、今後も大きなセールスが見込めそうもないPrefabが、そういった企業論理に巻き込まれるのは、資本主義の流れとしては自然の摂理でもあった。
 結果的に、SONY時代を最後にアルバム・セールスはだんだん縮小、そういった状況に比例して、ますます密室系ポップの閉じた迷宮にはまり込んでゆくPrefabだけど、日本の人口の半分足らずのUKだけの売り上げだけではたかが知れているので、レコード会社としてはどうしても、同じ英語圏であるアメリカでのブレイクを期待する。というか、今も昔もそのような戦略なのだけど。

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 UKのバンドは、なぜアメリカでブレイクしづらいのか?
 また、アメリカでブレイクするために必要な要素とは何なのだろうか?
 古くはBeatlesやRolling Stonesあたりが第一次ブリティッシュ・インベイジョンで大きなセールスを記録して、そこから少しおいてLed Zeppelinが同じくアルバム・セールスで成功を手中にしている、で、その後は…。
 Duran Duranなど、80年代MTV系が単発でヒットしたりはしているけど、継続的なムーヴメントまでには至っていない。それくらい、UKアーティストがアメリカで活動してゆくのは難しいのだ。

 じゃあ、ブレイクした彼らに共通するモノとは何か?ということになると、もちろんアーティストの個性や時代状況も加味されるのだけど、結局のところ「ブルースの有無」に収束するんじゃないかと思う。
 幼少時からクラシックの伝統が根づいているUKでは、ブルース的要素に憧れるミュージシャンは多いのだけど、それ以外にも、クラシック教育を受けてきたミュージシャンも案外多い。アメリカでブレイクするためには、まず国内の支持を得なければならない、しかしきちんと曲をまとめたりアレンジ構成能力が上なのは、やはり音楽的素養の高い方である。
 UKチャートで上位に上がるのは、商品としてコンパクトにまとめられた楽曲たちが優位となる、ただし大きな市場であるアメリカでは、それほどアピールできるものではない。

 故に、QueenもDeep Purpleもアメリカでのセールスは中ヒット程度、逆にUK色をバッサリ切り捨てることによって、アメリカでメタルの帝王となったBlack Sabbathは、今も帝国勢力の拡大中である。一応UK(正式にはアイルランドだけど)の括りで語られるU2もまた、名盤『The Josua Tree』でブレイクした後、本格的にアメリカ市場を意識、「R&B再発見の旅」的な『Rattle & Hum』をリリースすることによって、世界的なマーケットを手に入れた(入れたはいいけど、最近になってitunesの件で世界中からド顰蹙を買っているけど)。

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 Paddy McAloonもまた、昔からアメリカへの憧憬が深い人である。
 Bruce Springsteenを当てこすった"Cars & Girls"のジャケットやPV、Steve McQueenやManhattan、Memphisなど、アルバムごとにアメリカへの思いを歌に散りばめている。ただ、彼もまた生粋のUK気質のため、ブルース的要素はほぼ1%もない。彼が見ているアメリカとは、WASP的要素、Elvis Presley以前のアメリカなのだろう。
 今回もガンマンやカウボーイなど、どちらかといえば50年代TVドラマの中のアメリカをモチーフとして作られている。そういったフェイク的なところも狙っているのだろう。
 
 ちなみにプロデューサーが、あのTony Visconti。グラム・ロック期に頭角をあらわした名プロデューサーであり、有名どころではT.RexやDavid Bowieを手掛けた人である。そのツテなのか、参加ミュージシャンの一人として、これまた有名なセッション・ギタリストのCarlos Alomarの名前がある。
 わざわざアメリカにまで出向いてレコーディングしているのに、どうしてブリティッシュ風味の強いスタッフを同行させたかというと、Paddyの狙いとしては、David Bowie『Young Americans』のようなアルバムを目指したらしい。
 ブリティッシュの視線を通して描く架空のアメリカ、古き良き時代のアメリカを想起させるかのようなアルバムを作りたかった、と本アルバムのライナーノーツで述べている。そう考えると、Bowie人脈のCarlosの参加は納得がゆく。
 出来上がった作品は『Young Americans』とは全然違うテイストだけど、目指す方向は一緒だということなのだろう。


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1. Cowboy Dreams
 冒頭から抒情的なバンジョーの音色とスチール・ギターで始まる、カントリー風味満載のポップ・ソング。もともとはPaddyと同郷の俳優兼シンガーJimmy Nailのソロ・アルバム用に書き下ろされた曲で、いわゆるセルフ・カバー。Jimmyのアルバムは未聴だけど、タイトルそのまんま往年の西部劇のワンシーンと思える情景が描かれている。
 プロデューサーとして参加しているVisconti、演奏面においても多くの貢献をしており、この曲でもベースを弾いているのだけど、リズム重視ではなく、時々リード楽器的なプレイを見せてくれる。

 
 
2. Wild Card In The Pack
 こちらは書き下ろしの新曲で、1.とほぼ同じテイストのカントリー・タッチ。前作『Andromeda Heights』同様、ブロウするSaxがフィーチャーされているのだけれど、もう少し音色が泥臭くなっているのが、やはりいい意味でのアメリカ・ナイズ。ホント美メロ満載の曲なので、アルバム中オススメの曲。
 
3. I'm A Troubled Man
 1.同様、Jimmy用に書かれた曲。JimmyとPaddyの相性は良かったらしく、実はアルバム2枚分のコラボレイトを行なっており、こちらは2枚目の方。あくまでUK内に限られるけど、セールス的にも好評だったのだろう。
 こちらは少しアメリカン・ロックに寄り添ったスロー・バラード。Troubled Man=悩める男、正しくPaddy自身を投影した歌である。
 
4. Streets Of Laredo/Not Long For This World
 カントリー・ソングとしては大御所らが歌い継いできた有名曲を、自作" Not Long For This World"でサンドイッチした、なかなかに野心的な曲。元曲を知らないので、曲の切れ目が何となくしかわからないのだけど、それほど違和感なくつなげている。
 不穏さが特徴的なストリングスの音色は、やはりViscontiならではのもの。このサウンドが欲しくて、Paddyは彼と組んだのだろう。
 
5. Love Will Find Someone For You
 またまたJimmyへ書いた曲。カントリー成分の薄い、どちらかといえば従来タイプのメロディ・ラインのPrefabソング。その分、これまでのファンにも受け入れられやすい曲である。
 シンプルなミドル・テンポのバラードなので、一般受けも良い。こういった曲を若手の誰かにカバーしてもらえれば、もう少し認知度も高まるのだろうけれど、まぁ無理だな、地味だしな。

 
 
6. Cornfield Ablaze
 題材がトウモロコシ畑、メロディはカントリーなのだけど、やや生音成分が薄まり、シンセやバンド・サウンドが前面に出ているため、こちらも従来型に近いタイプの曲。
 アレンジはAOR、歌詞はモロ中南部っぽい情景のミスマッチが、逆にメロディの良さを際立たせている。
 
7. When You Get To Know Me Better
 終盤に近付くにつれ、サウンドとしてのカントリー成分は薄くなってゆく。
 こちらも『Jordan The Comeback』辺りに入っていてもおかしくない、正統派のPrefabソング。
 Thomas Dolbyならもっとシンセ成分を多くしているところだけど、そこは熟練プロデューサーViscontiの判断によって、アルバム全体の整合性を保つため、泥臭いスチール・ギターを柔らかく鳴らしている。
 
8. The Gunman
 このアルバムのメインとなる曲。といっても、これもCherのために書き下ろされた曲なのだけど、この曲がガイドラインとなって、アルバム制作がスタートしたことは間違いないだろう。曲の本編が始まるまでのイントロがたっぷり2分以上あるのだけど、まるで極上の短編映画のサウンドトラックのような構成である。
 これまでPaddyは『Jordan The Comeback』に代表されるように、どちらかといえば3分前後の小曲を20個程度組み合わせて、一つの壮大なシンフォニーを作ることを得意としていたのだけど、これまでのアメリカへの愛憎混じった思い、それにこれまでの作曲能力を可能な限り投入した結果、このような9分弱の大作となったのだろう。
 Prefabとしては異質な、Carlosの泣きまくるギターが、感傷的な曲とマッチしている。

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9. Blue Roses
 壮大なシンフォニーの後、少し肩の力を抜いた、こちらも美メロ満載の小曲。俺的に、このアルバムの中ではベスト・トラック。意外とベタなアコースティック編成のバラードなのだけど、変なコード進行に頼らず、素直なメロディを大げさなテクニックを使うことなく、朗々と歌うPaddyが良い。なんか一皮むけたみたいで。
 
10. Farmyard Cat
 農家の猫。ただそれだけ。農家の庭で軽快なフィドルの調べに合わせながら、使用人の男女が楽しげな歌い踊る休日の風景が目に浮かぶよう。ラッキーなおまけのような曲なので、あまり深く追及することは野暮。




 このアルバムのリリース前後、PaddyはPrefab SproutとしてUK国内限定の短いツアーを行ない、そのツアー終了後、スタジオにこもって初のソロ・アルバム『I Trawl The Megahertz』をリリースするのだけど、何と形容していいかわからないが、「どうしてこんなのリリースしちゃったの?」と言ってしまうくらい、ほんと趣味的なアルバムになっている。エレクトロニカに興味を持った、と言えば聴こえは良いが、はっきり言ってスタジオでの遊びをそのままパッケージしたようなものである。確か俺も1回しか聴いていないはず。
 
 ただ、思えばこの『I Trawl The Megahertz』までが、Paddyの表立った創作活動の終焉となり、続く『Let's Change the World with Music』と『Crimson/Red』は、いわゆるアーカイヴ的な作品なので、純粋な新作とは言い難い。
 
 Paddyの視力障害も、今は結構落ち着いてきているらしいけど、いろいろと体にボロの出始める年代である。
 できれば生きてるうちにもう一度、純粋な新作を聴くことができれば―。
 それが、全世界のPrefab Sproutファンの、たった一つの願いである。


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UKポップ馬鹿とヘルマン・ヘッセとの類似点 - Prefab Sprout 『Andromeda Heights』

folder  小説家よしもとばななが「王国1 アンドロメダ・ハイツ」で引用したことで、やや幅広いジャンルで認知度のある、Prefab Sprout通算7枚目のアルバム。本国UKを含むヨーロッパではそこそこのチャート・アクションを展開し、健在ぶりをアピールした。

 前作『Jordan The Comeback』から7年、あのBostonにも負けず劣らず振りのブランクの長さは、熱心なファンでさえも20世紀中のリリースはおろか、もはや活動自体がフェード・アウトしてしまったのではないか、と危惧する者も少なくなかった。取りあえずはリリースされたこと、そしてバンドがまだ存続していたことを、俺を含めたファンは素直に喜んだ。
 
 7年も経過すると、バンドにもいろいろ変化が現れる。メンバー変更が著しく、まったく別のバンドに変貌してしまうことも珍しくはない。
 Prefabの場合も例外でなく、今回のクレジットを見ると、演奏が「Andromeda Heights Orchestra」名義となっている。そして肝心のメンバーも、Paddy McAloonとその弟Martin、そして紅一点Wendy Smithの3人だけとなっている。もともとPrefabというバンドに執着がなく、メンバー中、生粋のミュージシャンだったNeil Conti(Dr)の名はない。バンド自体もほぼ開店休業の状態が長く続き、7年も手持無沙汰だったのだから、まぁ誰も止められないところ。

 もともと『Prefab Sprout』と"バンド"を名乗ってはいるものの、サウンドの性質上、演奏のアンサンブルやバンド・マジックを売りにしているのではなく、リーダーでありメイン・ソングライターであるPaddyのコンセプトを具現化するためのプロジェクトのようなものだから、逆にコンパクトな編成の方が小回りが利きやすくなったはず。何しろ実弟とフィアンセ(この頃になると関係性は微妙になってるけど)がメンバーなのだから、意思の疎通もしやすくなった。

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 同世代のミュージシャンと比べて作曲センスが抜きんでており、Burt BacharachやCole Porterなど、往年の大作曲家らと比べられることの多いPaddy、『Jordan The Comeback』リリース後、音沙汰はなかったけど、表に出ない時期においても、膨大な数の作曲とレコーディング・データを残している。
 このPaddy、とにかく曲を書くのが好きな男で、極上のメロディ・ラインや上手い比喩のフレーズを思いつくと、すぐさまピアノやギターを抱えて口ずさんだりするのが日常のため、結果、かなりの量のデモ・テープを製作している。
 特にこの時期、Paddyは創作意欲のピークに達していたようで、ピーク・ハイのミュージシャンがよく口にするように、「神が降りてきた」状態が長く続いた。とにかく次から次へと新しいアイディアが湧き出てくるため、レコーディングするのが間に合わないくらいである。
 一時期のStevie WonderやPrinceがそうだったように、彼もまた、音楽のミューズとの蜜月を過ごした男だった。
 
 これが前2者のようにソロ・アーティストなら、いくらでもマイペースで作業できるのだけどれど、彼はバンドのフロントマンだったため、そうそう自分勝手な活動には限界がある。いくらワンマン・バンドとはいえ、メンバー達だって人間だ、7年もほったらかされたら死活問題である。
 創作活動に没頭するがあまり、ツアーへ出る時間も惜しむようになり、ますますスタジオに籠りがちになるPaddyへの不信感はますます募り、メンバーは次第に距離を置くようになる。メンバー中、最も信頼関係が良好であったはずのWendyもまた、その独裁振り引きこもり振りにすっかり愛想が尽きたのか、このアルバムでは簡単なコーラス程度の貢献しかしていない。
 せっかくの女盛りをないがしろにされたらそりゃ、一応義務的には付き合うかもしれないけど、もうビジネス上の接点しかないよね。気持ちはわかる。

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 こうして話を進めていると、何だかPaddyがメチャメチャ付き合いづらい奴だと思われてしまいそうだけど、いや実際、音楽に殉ずることを喜びと思ってしまう男なので、実生活での付き合いはちょっとめんどくさそうなのだけど、真面目な男であるのは確かである。
 これといった遊びも道楽もせず、ただひたすら最上の楽曲を作ろうと、身を粉にして働いていただけである。ただ漫然と、ダラダラスタジオに籠っていたわけではない。すべての曲は、それぞれのコンセプトに基づき、テーマごとに熟考し練られた物ばかりである。ただ、それがちょっと度を過ぎていたわけで、しかもひとつのプロジェクトを完成してから次へ進むのではなく、思いついた先から次々手を付けてゆくため、曲の断片やサウンド・チェックまがいのテイクも数多く存在する。

 今世紀に入ってからリリースされた『Let’s Change The World With Music』、『Crimson/Red』の2作とも、実はこの時期に構想が練られ、レコーディングされた作品である。未完成状態のまま、10年前後投げ出されたテイクを、Paddyがサルベージしてリニューアルした、何とも微妙な作品である。俺は好きだけどね。
 その他、Michael Jacksonの生い立ちをテーマにしたアルバム『Atomic Hymnbook』、天地創造からElvis Presleyまで、清濁併せ呑んだ壮大な世界の歴史を語り尽くすコンセプト・アルバム『Earth: The Story So Far』など、中途半端な状態で投げ出されてしまったアルバムはまだまだある。これらが日の目を見る機会が訪れるのは、いつのことになるのやら。

 ファン有志が運営するHPを確認したところ、こういったアルバムがまだ15作くらいはあるらしいのだけど、前述したように、まともな形になっているのは、ごく少ないはず。革新的(と思える)コンセプトとテーマが次々と浮かんでは消え浮かんでは消え、を繰り返すうち、実際のレコーディング作業が追い付かず、結局曲の断片ばかりが残ってしまったのが真相だろう。
 
 これまではThomas Dolbyという有能なプロデューサーがいたため、「あうん」の呼吸で作業工程を整えてくれていたけど、当時はThomasもPaddyばかりに構っていられず、ちょうど自分のビジネスに没頭していた頃だったので、スケジュールが合わず、やむを得ない形ではあるけれど、初めてのセルフ・プロデュース作となっている。
 で、また悪いことに、ちょうどこの時期からPaddyが自前のスタジオ(Andromeda Heights)を構えたため、時間やコストを気にすることなく、レコーディング作業に没頭することが可能となり、ますますアルバム・リリースは遅延遅延遅延の連続になった。で、またメンバーが暇を持て余す。

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 『Jordan The Comeback』が好セールスを記録したことによって、確立したサウンド・コンセプトに自信を得たのか、今作は『Jordan』の進化形、さらなる珠玉のメロディとクワイエット・ストーム的なサウンドを追求している。
 よって、"Cars & Girls"、"King Of Rock’n’ Roll"のようなギター・ポップ的なサウンドは姿を消しており、もはやロックの文脈では語れなくなっている。
 これまではアクセント的な意味合いで使用されていたストリングスの割合が多くなり、シンセで代用していたホーンも生音になっている。
 そのため、リリース当時は「AORみたい」と揶揄されており、いわゆるロキノンを中心としたロック・リスナーの受けは、あまり良くなかった。俺は好きだったけどね。
 
 リリースから十数年経ち、ギター・サウンドを中心とした洋楽シーンもずいぶん変化した。巡り巡った今になって聴いてみると、よくある「Steely Danのエピゴーネン』的な、単純なAORというカテゴライズでは収まりきれず、「Prefab Sprout’s Music」とでも言うべき、オンリー・ワンのサウンドを追求していたことがわかる。
 もちろん使用機材の音の古さは仕方ないとしても、最近のヒット・チャートの音楽と違って、リズムやエフェクトのインパクトではなく、しっかりメロディで勝負しているのが、彼の強みであり、そしてビッグ・セールスを見込めない弱みでもある。
 地味かもしれないけど、確実にスタンダードになりうる音。
 それが当時、Paddyの目指していたところである。


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1. Electric Guitars
 透明感を感じさせるアコギのアルペジオから始まる、タイトルとは打って変わって静かな曲。この曲でのアコギの音は、エンジニアCalum Malcolmのベスト・ワークの一つ。
 前作までのThomasでもアコギは結構フィーチャーされていたけど、エンジニア出身のミュージシャンという出自の彼の場合、エレ・ポップ的なエフェクトをかけることが多いので、メジャー・コードならしっくりはまるのだけれど、落ち着いた曲になると、その音だけがきれいに浮き出てしまっている。
 純粋に素直な響きを求めるのなら、Calumの方が良い仕事。

 

2. A Prisoner Of The Past
 "Be My Baby"っぽいドラム・ビート(Complexじゃないよ、もちろんRonettesの方)から、壮大なホーン・セクションで幕を開ける、ゴージャス・サウンド。元祖ポップ馬鹿であるPhillip Spectorが現役なら、こういったサウンドを志向していたんじゃないかと思われる、現役ポップ馬鹿Paddyによって丁寧に作られた曲。
 この人の声質はどちらかといえば、それほどインパクトの強い声ではないのだけど、これだけ音を重ねた分厚いサウンドでも埋没することなく、ヴォーカルをしっかり届かせることができるのは、自分の声質を熟知しているからだろう。
 Calumのミックスも歌を引き立たせているし、Paddy自身も最終マスタリング工程まで想定した上でのサウンド作りを行なっている。

 
 
3. The Mystery Of Love
 間奏のSaxがAORっぽいのと、サビでのWendyとのデュエットが心地よい、シンプルな小品。
 『Jordan』あたりから、抽象的だった歌詞に宗教観が加わることになり、歌詞だけ読めば、非常に高尚な、ていうか聖人君子的な内容。
 日本でいい大人が「恋の謎」なんて歌を歌うことは、あまり考えられない。あまりに高尚過ぎるため、訳詩を読むと、むしろ気恥ずかしささえ感じてしまうくらいである。
 
4. Life's A Miracle
 やはりヨーロッパという風土では、幼少の頃からキリスト教的思考が根付いているため、「人生とは奇跡なんだ」という、日本人ならこっ恥ずかしくてネタでしか言えないことも、サラッとさり気なく歌えるのだろう。
『Jordan The Comeback』の項でも書いたけど、コンセプトに捉われることなく、素直にサウンドとメロディに心奪われることが、日本人としては最も受け入れられやすいスタイルと思う。

 
 
 ここまで書いてきて思ったのだけど、もしかしてゆとり世代の若い人なら、結構素直に聴き入れられるのかな?
 
5. Anne Marie
"Bonny"(『Steve McQueen』)、" Nancy"(『From Langley Park to Memphis』)、"Diana"(『Protest Songs』)、"Michael"(『Jordan The Comeback』)と、連綿と続く、アルバム一枚に必ず一曲は入る人名シリーズ。
 実名の誰かに向けて送ったのではなく、単に短編小説のお題的な、不特定の誰かを対象として描いた歌詞なのだと思う。こういった抽象性が好きな人である。
 未練がましい男の泣き言が、不穏なメロディによって奏でられる。
 
6. Whoever You Are
 大々的にストリングスをフィーチャーした、オーケストラをバックに朗々と歌い上げている曲。Patti LaBelleあたりが歌ったら、もっとゴージャスになるんじゃないかと思われる。
 膨大な作曲量を誇るPaddyだけど、この曲のように「これって、僕より他の人が歌った方がいいんじゃないか」とジャッジした上でボツになった曲も、相当数あるんじゃないかと思われる。そのうちのいくつかはCherやJimmy Nailがサルベージしているのだけど。
 
7. Steal Your Thunder
 ちょっぴりだけ静かなスウィング・ジャズ風のオープニングの、Paddyとしては珍しいタイプの曲。まぁ歌のパートに入ってしまえば、いつものPaddyなのだけど。
 サウンドはすごく磨き上げられているけど、歌詞の内容は相変わらず、自分からアプローチできず、待ちの姿勢のままグダグダ思い悩む、Paddyそのまんまである。Wendyをもっと構ってあげればよかったのに。

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8. Avenue Of Stars
 喧騒とした都会のビル街、見上げると、満天の星空がビルの隙間から見え隠れし、大きな星を形作っていた…。アルバム・ジャケットを想起させる歌詞が、それを彩るサウンドとマッチしている。
 派手な曲ではない。でも、80年代を通過してきた者にとって、数多の整理されたヒット曲よりむしろ、こういった何気ない情景の切り取りの方が、心の琴線をさり気なく刺激する。
 
9. Swans
 シンプルなAOR的バラードの小品。ブリッジ的に短い曲だが、美メロが凝縮されて詰め込まれている。
 
10. The Fifth Horseman
 エフェクトされたハープが、次作『The Gunman and Other Stories』を想起させる、次回の予告編といった感じのサウンド。この曲だけ、どこかサウンドの毛色が違って聴こえる。
 
11. Weightless
 朗々とブロウするSaxが、夕暮れ時をイメージさせる。
 ソ連の宇宙飛行士Yuri Alekseyevich Gagarinを題材にするミュージシャンは、そうなかなかいないと思う。
 サウンドのどの辺が無重力なのかは意味不明だけど、素直にサウンドの心地よさを満喫できれば、それでよい。
 
12. Andromeda Heights
 静謐としたサウンドに乗せて、穏やかながら熱のこもったヴォーカルで、キリスト教条主義的な歌詞を歌い上げるPaddy。
 この透徹とした世界は、Hermann Hesseの『ガラス玉演戯』の世界観と酷似していると思うのだけど、いかがだろうか。




 そしてまた4年のブランクを置いて、次作『The Gunman and Other Stories』がリリースされる。
 Prefab Sproutについてはまだ語り尽くし切れない部分があるので、続けて次回に持ち越し。


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「お前が欲しいんだぜベイベェ」をアルバムまるまる一枚使って表現 - Marvin Gaye 『I Want You』

i want you  久しぶりにMarvinのレビュー。前回『What’s Going On』の後、こちらも有名な『Let’s Get It On』をリリースしているのだけれど、こちらはすっ飛ばして、まずは個人的に好きな『I Want You』をご紹介。
 
 1976年リリース当時のデータを見ると、ビルボード総合チャートでは最高4位、R&Bチャートでも堂々の1位、UKでも4位にランクインしている。
 後期Marvinの代表作である『What’s Going On』『Let’s Get It On』にも引けを取らない売り上げを誇っているのだけど、あまりに両盤の評価が高すぎるのか、現状『I Want You』はあまり語られることの少ないアルバムである。Amazonでのレビュー数でも、その差は歴然としている。

 俺の個人的な位置づけとしては、両盤で確立した多重コーラスを更に深化させたサウンドは、フュージョン~スムース・ジャズへの重要な橋渡しになっていると思うのだけれど、あまりそういった掘り下げ方はされていないようである。デラックス・エディションも制作され、当時のアウトテイクも多数発掘されてるし、もっと評価されてもいいはずなのだけれど、依然日本での評価は可もなく不可もなく。
 
 Marvinにとって転換期の作品である『What’s Going On』は、それまでの享楽的なポップ・ソウルとは一線を画した、いわゆる社会的メッセージ性の強い作品だった。ベトナム戦争、公民権問題、人種差別などなど、これまでの「強いアメリカ」が世界情勢的に通用しなくなり、これまでは巧妙に隠されていた綻びが見え隠れしてきた頃、Marvinに限らず、先鋭的なアーティストは赤裸々なメッセージを声高に叫び、若者たちの支持を得た。

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 翻って『Let’s Get It On』はもっと個人的なメッセージ、要するに「今夜お前とヤリたいんだぜベイベェ」といった本能的な事柄を、これまたありのままに打ち出してきた。
 普通のミュージシャンなら『What’s Going On』路線を継承し、そのまま「愛と平和の人」に成り下がってしまうところだけど、そこは案外俗物のMarvin、外野の忠告など無視して自分のやりたい事、ていうかその時のマイ・ブームをそのままコンセプトにしてしまうことによって、聖人君子に祭り上げられるムードを一掃した。
 清濁併せることによって重層的な深みが生まれ、結果的にアーティストとしては上手い路線変更となったのは、まぁ単に結果オーライだと思うけど。
 
 ほぼ趣味的に作ったと思われる『Trouble Man』のサントラ仕事も終えて、次に出したのが、この『I Want You』。タイトルそのまんま、「お前が欲しいんだぜベイベェ」を二番煎じ的にやってはみたものの、いやシングルも売れた(ビルボード総合15位、R&B1位)のだけど、いまいち前作のインパクトが強すぎたせいもあるのか、まぁアベレージは維持しましたよ、という程度の売り上げ。
 
 前2作と比べて多少薄味にはなっているのは、一応理由がある。このアルバム制作に当たって、Marvinはサウンド・コンセプトにおいて、主要的に関わっていない。
 大部分のベーシック・トラックを作ったのはLeon Ware、当時モータウンの専属作家兼エンジニアだった人である。もともとは自分用のソロ・アルバム用に制作した"I Want You"を、たまたま耳にしたMarvinが気に入ったため、完成直前だったヴァージョンをオクラ入りさせ、Marvin自ら多重ヴォーカルを被せて完成させた、というのが一連の経緯である。そこからアルバム制作に向けてコンセプトを膨らませていったのだろう。
 
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 いささかムラッ気はあれど、いまだ会社の屋台骨を支える大スター,片や才能はあれど表舞台へ出るチャンスに恵まれなかった裏方スタッフとでは、社内での力関係は歴然としている。
 作品のクオリティは理解できる。ただ営業的にも経営的にも、ポッと出の新人より、大スターの看板で売った方が良いに決まってる。
 作った方は、それはそれで複雑だ。自社スタジオで作った音源だから、営業政策的に会社が強く言ってくるのは当然だ。大スターに認められたことは、それはそれで喜ばしいとして、でも自分のためにとっておいた自信作をかっさらわれるのだから、あまりいい気はしない。
 双方、事は荒立てたくない。互いの妥協点を見出すため、何かと駆け引きがあったようだ。

 Marvin、イコール会社側が出した条件として、曲を譲り受ける代わりにプロデュースを任せたい、との懐柔策が提示される。
 まぁいいようにこき使われるわけだけど、何しろ大スターMarvin Gayeのアルバム、ある程度のセールスは見込まれるわけだから、印税の取り分だって今までより破格だし、何より業界に顔を売り込むチャンスである。
 互いの利害関係が一致したおかげで、"I Want You"を柱としたアルバムは完成した。
 Leon自身もこれで注目を浴びることとなり(レコード会社との取引があったことも考えられる)、古巣モータウンから本格的デビュー(『Musical Massage』)、こちらも高評価を得ることになる。


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1. I Want You (Vocal)
 柔らかなストリングスに交じって、丁寧に重ねられた多重ヴォーカルが厳かに響き、小さなヴォリュームでディストーション・ギターがスパイスのようにリズムを刻む。
 Marvinの伝えたいことはただ一つ、「お前が欲しい」。たった一つの言葉を伝えるために作られた、大掛かりな舞台装置。Leonだけでは物足りなかったサウンドが、エモーショナルなMarvinのヴォーカルによって完成される。

 
 
2. Come Live With Me Angel 
 基本、1.と同じテイストの曲というより、このアルバムのほとんどが"I Want You"のヴァージョン違いみたいなものだけど、ややリズムが強くなっている。ささやきかけるようなヴォーカルが、またエロい気分にさせる。
 
3. After The Dance (Instrumental)
 Arpとエレピによって作られた、同じくエロいムードの曲。このアルバム制作前にサントラ仕事を手掛けているせいもあって、どことなく映像的な構成になっている。
 
4. Feel All My Love Inside  
 こうして続けて聴いてみると、バック・トラックはほとんど同じに聴こえてしまうし、Marvinのヴォーカルもどれもみな同じウィスパー・ヴォイスなのだけれど、単体で評価するのではなく、総体としてのアルバムの一構成要素として捉えた方がわかりやすい。中盤から女性の喘ぎ声が入っているのが、Marvinのほんとにやりたかったこと。
 
5. I Wanna Be Where You Are
 少しテンポが速く、ややシャッフル気味のリズムが、まったりムードだったアルバムにメリハリをつけている。でも、ほとんどブリッジ扱いのため、1分少々で終わってしまう。もうちょっと長く聴きたい人には、デラックス・エディションがオススメ。6分ほどの完成版を聴くことができる。

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6. I Want You (Intro Jam 1)
 ほんとイントロのみ。次の曲とのつなぎだけど、要はすべての曲が"I Want You"のバリエーションで、すべてがひと繋がりで一曲を成していることを言いたいのだろう。
 
7. All The Way Around
 テンポが"Marcy Marcy Me"っぽい、ミドル・テンポの曲。アレンジ次第では、純正モータウン風ポップ・ソウルに聴こえてしまいそうだけど、共同プロデューサーであるLeonの手腕によって、レベルを一段も二段も上げている。
 
8. Since I Had You 
 マリンバとメロディアスなベースで構成されている、シンプルな曲。と思いきや、Marvinの多重コーラスに交じって甘い囁きがほのかに響く。
 当時のMarvinはセックス・シンボルとしても人気を得ていたということだけど、確かにこの甘くとろけるようなヴォイスなら、どんな女性でも口説けたことだろう(だからこそ、後に収拾がつかなくなり、修羅場にはまり込むのだけれど)。
 
9. Soon I'll Be Loving You Again 
 『What’s Going On』で確立した、破裂音の少ないコンガでリズムをキープする、ヴォーカルを引き立たせる曲。とにかくこのアルバムは良い意味でワン・パターンで、隙間なく自分のバック・ヴォーカルで埋め尽くしている。ナルシスト全開。
 
10. I Want You (Intro Jam 2)
 再びブリッジ的な小品。しかも今度は少し長めに尺を取ってある。ブラスがちょっと『金曜ロードショー』のオープニングを思い起こさせる。水野晴郎の怪しげな笑顔を思い出してしまうのは、俺だけだろうか?
 
11. After The Dance (Vocal)
 3.のヴォーカル入りヴァージョン。やはりサウンドのテイストは"I Want You"だけど、こちらは少しラウンジ・ジャズ風。もともとはこういった路線に進みたかった人だから、ノッてるのがよくわかる。
 これもシングル・カットされているけど、全米総合74位とチャート的には低迷。
 地味だけどいい曲、いい曲だけど地味。言葉通りの曲であり、まぁ妥当な評価ではある。Marvinに求められているのは、もっとエネルギッシュでアグレッシヴ、しかもちょっとセクシーなエロさこそが、ファンのニーズである。
 





 本作リリース後、アーティスト的ビジネス的には順調と思われたのだけれど、先妻との離婚の泥沼(やっかいなことに、彼女はモータウン社長Berry Gordy, Jr.の姉であったため、社内的にも微妙な立場に追い込まれた)、本人の麻薬依存など、私生活でのトラブルが頻発する。
 慰謝料を稼ぐためでもあるが、そのストレスと苦悩をそのまんま表現したのが、次作『Hear My Dear』である。
 ちなみに当時の邦題が『離婚伝説』(!)、こちらもそのまんまだけど、これは日本のディレクターにも責任がある。なんていうか、悪意むき出し皮肉たっぷりのタイトルである。女性週刊誌や内部告発本みたいなネーミングだな、こりゃ。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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