好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

Teo、これちょっとまとめといて - Miles Davis 『A Tribute To Jack Johnson』

folder
 いわゆる電化マイルス、"Electric Miles"と称される1968~1975年に至る間、Milesは多くのライブを行ない、それに伴った膨大な音源を残している。当時リアルタイムで発表された物も数多くあるが、それもほんのごく一部氷山の一角に過ぎず、1975年の最初に引退時から断続的に小出しに蔵出し音源がリリースされている。
 引退の真相は諸説あるが、多分ドラッグの乱用で心身ともにガタガタになってしまったことが多くを占めるだろう。70年代までのミュージシャンは嗜みとして、ドラッグと乱交が当たり前だった。
 
 いくら帝王Milesとはいえ、レコード会社の契約には勝てない。
 ジャズ・ミュージシャン、ましてや当時の黒人にとっては、その契約の内容は白人と比べても不利極まるものだった。
 いくらモダン・ジャズが大きなムーヴメントだったとしても、その契約内容によって、印税などは微々たるもの、その日の暮らしにも事欠くくらいの窮状においては、どうしてもドラッグに手を出してしまうのはやむを得ないことだ。その日のドラッグ代欲しさのため、たとえ不利な契約でもサインして小銭を稼ぐ、そしてまた同じように…、この無限ループが死ぬまで続く。

miles-davis-san-francisco-ca-1971-jim-marshall

 Milesの場合はそこまで極端ではなかったにしても、かなり歯がゆい思いはしていたはずだ。ましてや同時代のロック・サウンドが自分たちの何十何百倍も稼いでることを目の当たりにして、嫉妬に狂う夜もあっただろう。
-白人どもは俺たちから音楽をパクるどころか、稼ぎさえも自分たちで独り占めしていやがる。
 純粋に音楽的な成長といった面もあると思うけど、多分こういった嫉妬の面も多かったと思う。

 そんなMilesが自然と向かいつつあったのが、従来の行き詰まったモダン・ジャズとは対極の、フリーフォーム中心のエレクトリック路線である。
 Milesだけの問題ではなく、4ビート中心の生楽器演奏が限界に達しつつあり、もともと雑食性の強いジャズというジャンルが、ソウルやボサノヴァなど、他ジャンルの音楽を貪欲に吸収し侵食し始めた頃である。
 最初は電気ピアノなど従来の延長線上の楽器が導入されたが、次第にエレキ・ギター、ベースやドラムも電気的に増幅され、終いにはMiles自身のトランペットも電気的にエフェクトされ、何の音だかわからなくなってゆく。
 その凝縮された混沌の結果が引退前の最終作『Agharta』『Pangaea』に結実するのだけれど、この『A Tribute to Jack Johnson』くらいの時期は、まだそこまで突き抜けていない。
 
 このアルバムのコンセプトは一応、不当逮捕された黒人ボクサーを追ったドキュメンタリー映画のサウンドトラックという体だが、まぁそういった予備知識を抜きにしても問題ないと思う。コンセプトに縛られて音楽を聴くものではない。コンセプトに縛られてはダメなのだ。

Aem91


 ちなみにこのアルバム、よくレビューされているのが、「Milesが当時のロックに最も近付いた作品」「ロック好きな人にもオススメ」という感じなのだけれど、実際聴いてみると…、なんか微妙である。これまであまりジャズを聴いたことがない人でも、なんか普通のジャズと違うことは一聴してわかるだろう。
 一般的に「ジャズ・ビギナーが思い描くジャズ」とは、Bill EvansかSonny Rollins、または思いっきり飛んでケニーGあたりだ。そういった通常フォーマットの、口当たりの良いジャズではない。
 
 今回のアルバムのメインであるJohn McLaughlinによるギターのパワー・コードが延々と流れるサウンドが、一般的なロック・ファンにもとっつき易そう、とも言われているが、ほんとにそうか?という気もする。多分、これが当時のMilesの思い描いた、いわゆるロック寄りの音なのだろうけど、ロック/ポップスと違ってそれほど起承転結があるわけでなし、一般層が思うメインストリームのロックではない。
 後にMahavishnu Orchestraというバカテク・バンドを結成するMcLaughlinだが、ここでは単純なコードを押さえて適当にストロークしてるだけにしか聴こえない。ただファンク寄りのリズム・セクションは古びることなく、いま聴いても十分通用するレベル (このリズム感だけはMilesがしつこくメンバーに力説していたようである)。
 
 ここまで書いてみると、何だか悪口ばかりに聴こえるようだが、まぁ半分くらいは当たっているけど、言いたいのはそういうことじゃない。
 どのジャンルにも当てはまりづらく、居心地が悪そうな音楽がある。空気なんか読む気もない、独立独歩オンリーワンの音楽。ジャンル分けされることをとにかく嫌う音楽。
 それがMiles Davisというジャンル、Miles’ Musicである。


A Tribute To Jack Johnson
A Tribute To Jack Johnson
posted with amazlet at 16.02.06
Miles Davis
Colum (2005-02-28)
売り上げランキング: 80,505



1. Right Off
 影の主役はHerbie Hancock。
 McLaughlinだって、もともとロック方面の人ではない。Milesによって、なんとなく今までと違った感じのギターが弾けそうだから、とスタジオに押し込められて適当なパワー・コードを振り下ろしてたのを、「何かロックっぽいぜ」と勘違いしたMilesが長回ししたテープをいつものようにTeo Maceroに丸投げしただけである。
 そんな中、たまたま近くを通りかかったHerbieがFARFISAオルガンをつま弾くことにより、サウンド全体に締りが出た。
 Milesもそれで奮起したのだろう、久しぶりにトランペットのミュートを外し、オープン・スタイルで吹きまくっている。
 McLaughlinがいくらロック・スタイルでプレイしたとしても、所詮は付け焼刃であり、自分のスタイルを崩さず、よりファンきなープレイを魅せるHerbieこそが、Milesの意図だったのかもしれない。
 
 
 
2. Yesternow
『In A Silent Way』を思わせる、静かなオープニング。多少のヤマ場や盛り上がりはあるけれど、ほぼこのスタイルで演奏は続く。Michael Hendersonの地を這うベース、薄く被さるHerbieのオルガンに導かれて、再びMilesのオープン・トランペット。
 3分以上経ってからBilly Cobhamのハイハット中心のドラムが入ってくる。13分過ぎくらいからのMcLaughlinとHendersonの技の応酬は聴きどころ。
 俺的にはMcLaughlinのプレイはこちらの方が好き。変にロックにすり寄ってる感じがなく、アバンギャルド性が強いので。あ、もちろんMilesのプレイもいいっすよ。
 最後は映画の主役を務めていたBrock Petersのナレーションで終わるところがサントラっぽい。




 この時期のMilesはほんとライブが多く、まともなスタジオ音源が蔵出しされるのは、もっと後年のことである。レコード会社としてはオリジナル・アルバムをどんどん作って欲しかったのだろうが、あいにく帝王Milesはスタジオ・ワークよりライブを優先しており、日々変化してゆくMiles’ Musicの育成に忙しかった。もちろんそういった表向きの理由だけでなく、バンドを維持するためには日銭の入るライブを優先せざるを得なかったのだろうけど。
 
 やはりここでもTeo Maceroの出番となる。このアルバムだってぶっちゃけた話、彼がいなければまともな形にならなかった。というかこれまでの細切れのセッションを繋ぎ合わせ、無理やりオファーの内容にこじつけただけなのかもしれないが。そう言う時代だったのだろう。


Complete Jack Johnson Sessions (W/Book)
Miles Davis
Sony (2006-01-31)
売り上げランキング: 61,027
Perfect Miles Davis Collection (20 Albums)
Miles Davis
Sony Import (2011-09-30)
売り上げランキング: 6,708

Joeさん、あれこれ詰め込んだ世界一周旅行の巻 - Joe Jackson 『Big World』

folder で、しつこくJoe Jackson の続き。
 大ヒット作『Night & Day』には及ばなかったけど、前作『Body & Soul』もそこそこのヒットを記録し、いわゆるヒット・メーカーの仲間入りを果たしたJoe、でも純粋な作品クオリティの面においては満たされぬままだった。
 いくらヒット・チャートの常連になったとはいえ、すべてはポップ・フィールドでの出来事、前述したようにRoyal Academy of Musicで学んできた音楽的素養を十全に活用しているとは言えず、実際、ヒット・ソングとは対極の世界である現代音楽界においては、ほとんど評価は与えられていなかった。

 ちょっとその気になれば、フル・オーケストラのスコアを書くことくらい何でもない事なのに、来るオファーはポップ・ソングの依頼ばかり。ちょっとした片手間仕事でサウンドトラック(『Mike’s Muerder』)を手掛けてみたはいいけど、セールス的にも作品クオリティ的にも、評価はほとんど無に等しかった。
 現代音楽の世界においては、セールスはさほど重要な事柄ではない。そこは非常に内部完結した仲間うちの狭い世界であり、ごくごく少数の愛好家や評論家に一目置かれることが何よりも重要なのだ。
 
 セールスが膨れ上がれば膨れ上がるほど、その手のコンプレックスが増大してゆくのは、アーティストの常である。どこかでガス抜きをしなければならない。
 
JOE JACKSON_1986_11_16

 そういった事情もあったのか、アルバム・リリースの狭間の仕事として、ちょうどこの頃開催されたつくば万博で上映された映画『詩人の家』のサウンドトラック制作で来日、東京交響楽団とのリハーサル・レコーディングを5週間かけて行なっている。
 『Mike’s Murder』での実績はあったものの、映画畑においてはほぼ無名のJoeにどうしてお声がかかったのか、その経緯はいまいち不明だけど、当時の日本はちょうどバブル突入目前、プラザ合意によって好景気の波が押し寄せつつあった頃で、要するに金があったのだろう。まとまった時間を取れるアーティストがたまたまJoeだけだった、とも考えられるけど。
 
 当然、かなり限定された環境での公開ゆえ、反響はほぼ皆無に近かったのだけど、久しぶりのオーケストラとの作業によって、アーティスト・エゴを満たすことができたのだろう、Joeはここで一旦現代音楽モードをリセットし、再度ポップのフィールドに帰還することになる。
 とは言っても生粋の英国人、そんなにストレートな物を作るはずもなく、ちょっとひねったアルバム・コンセプトに着手する。
 
 前述しているけどこの『Big World』、正確にはニューヨークのRoundabout Theatreという古めかしいホールでの「実況録音盤」である。何故わざわざ「実況録音盤」という古めかしい物言いかといえば、ライブ特有の歓声や拍手など、その他諸々の客席の状況が一切排除された、ライブ感がまったくないライブ・アルバムとなっているからである。
「ライブ会場を使っての一発録り、間違えたら最初からやり直し、観客は静かに見ているだけで、声援禁止」
 以上、このようにかなり屈折したコンセプトで制作されたアルバムとなっている。
 要するにコンサート・ホールを巨大なレコーディング・スタジオとして使用しているのだけど、だったらわざわざ観客入れる必要ないんじゃね?とツッコミたくもなる。
 
pr2007_1

 もう一つ変わっている点として、LPレコードでリリースされたこのアルバム、リリース当初は2枚組だったのだけど、すべての面を使っているわけではなく、溝が刻まれているのは2枚目A面まで、B面に当たる箇所には溝が刻まれておらず、ツルツルの平面になっている。
①当初シングル・アルバムの予定だったのが、思ったより曲があふれ出てこのような結果になったのか、
②それとも最初から3面のみ使用の予定だったのか、
③はたまた4面すべて埋めるつもりだったのが、曲が足りなくなったためこのような結果に落ち着いたのか。
 それについてJoeのコメントはないのだけれど、俺的には多分②だと思う。こういったコンセプトが、現代音楽経由のアーティストにとっては、とても重要なのだ。


Big World
Big World
posted with amazlet at 16.02.11
Joe Jackson
A&m (1989-08-08)
売り上げランキング: 86,040



1. "Wild West" 
 ここ2作では封印していたアコースティック・ギターのストロークからスタート。Joeのリコーダーがどことなく西部劇っぽい趣き。『Body & Soul』から参加しているVinnie Zummoが大活躍。敢えてシンセを使わず、生演奏での真っ向勝負を選んだJoeがリード・プレイヤーとして選んだだけあって、テクニック・表現力ともずば抜けている。

 
 
2. "Right and Wrong" 
 日本ではシングル・カットされているのだけれど、海外ではどうだったのだろう、データが見つからなかった。
 ”Stop, Everything”後のブレイクが絶品。これが大人のロックなのか、と思った18の頃。ソリッドなロックン・ロールである。
 初参加のRick Fordの、リード・ベースと言ってもよいリフも、かなり黒い。

 

3. "(It's A) Big World" 
 香港の妖しげな夜会を思わせるオープニング。しかし引き出しの多いバンド・メンバーが、よくもこれだけ揃えられたものだ。
 中国雑技団のようなハイハットが、無国籍な淫靡さを演出。
 
4. "Precious Time" 
 このアルバムの中では、ややハードめのギター・リフが演奏を引っ張っている。ここでコーラスが前に出てきており、ゴージャスなサウンドとなっている。
 『Beat Crazy』辺りに入ってても違和感のない、ストレートなロックン・ロール。
 
5. "Tonight and Forever" 
 同じくデビュー間もない頃のテイストのサウンドが続く。ただし編成は同じだとしても、ミュージシャンの力量がまるで違う。
 考えても見てほしい、これらはすべてワン・テイク、一発録りなのだ。疾走感がハンパないので、曲自体もものの2分程度で終わる、勢い勝負の曲。
 でもこれこそが、ロックン・ロール。
 
6. "Shanghai Sky" 
 ちょっぴり落ち着いて、ピアノ・ソロを聴かせるJoe、サスティンを聴かせまくったVinnieのアルペジオが幕間のようにまったりと流れる。たっぷり2分半の長い長い前奏に続き、感傷的なJoeのヴォーカルが朗々と続く。
 でも、どの辺が上海?

69208

7. "Fifty Dollar Love Affair" 
 哀しげに響くバンドネオンが、善からぬ男と女の情事を掻き立てる。
 
8. "We Can't Live Together" 
 今度はベースがスパイ映画のようなサウンドを奏でる。次第に演奏は情熱的に、しかし冷や汗交じりにヒート・アップする。
 モノクロ映画のぎらつく太陽のように、それ自体に色はないけれど、内にこもる熱は周囲を焼き尽くす。
 
9. "Forty Years" 
 タイトル通り、リリースから40年前、第二次世界大戦前後のヨーロッパを歌った曲。
 辛辣ながら諦念さえ感じさせる、あまり前向きではないメッセージを、それでもピアノ一本でがなり立てるJoe。
 まるで孤軍奮闘するかのように。
 ここまでが、レコードでは1枚目。

10. "Survival"
 ライブで完全生演奏という縛りのため、サウンド的には『Night & Day』『Body & Soul』と比べて、小編成で再現しやすい曲が多い。
 この曲も例外にもれず、シンセやホーンも使っていないので、シンプルなサウンドがこのアルバムの特徴。
 ただし演奏スキルは過去最高レベル、現在においても、ここまでのバンド・アンサンブルには至っていない。
 
rectangle
11. "Soul Kiss" 
 ソウルというよりは、ブギウギ・ピアノが楽しげ。緊張感で張りつめることの多かったセット・リスト中、比較的自由度が高くラフな感じの曲。
 Joeのヴォーカルもいい意味で力が抜けて、ラフ気味に歌っている。
 
12. "The Jet Set"
 日本語ではジェット族、ジェット機で遊び回る金持ち連中とwikiにあったので、要するにセレブの方々と言えば分かりやすい。
 アメリカやヨーロッパなどの有閑階級、由緒正しき生い立ちの方々の事を皮肉っている。日本ではあまりリアルではないと思う。
 
13. "Tango Atlantico" 
 タイトル通りタンゴの曲だが、いまいちバンドの消化能力が足りない。そりゃそうだ、だって一発録音だもの、完奏することで精一杯なので、踏み込みが足りなくなるのは仕方ない。
 音楽による世界一周というコンセプトのため、あらゆるジャンルの音楽を入れたかったのだろうけど、普段やり慣れてないものは、やっぱり付け焼刃っぽくなってしまう。まぁ、あれこれ詰め込みすぎだったのだろう。
 
14. "Home Town" 
 このアルバムの中では、最もポップと言える曲。テンポも軽やか、ギター・リフも余計なエフェクトはごく最小限、ナチュラル・トーンのため、初心者でもとっつき易いサウンド。
 相変わらずJoeは肩に力の入った歌い方をしているが、逆にこれがクルーナーのように甘い囁きだったら拍子抜けだろう。たまにライブでも演奏しており、お気に入りだと思われる曲。

 
 
15. "Man in the Street" 
 この曲だけ本編ではなく、前日のリハーサル音源より。ややインドっぽいオープニングから、次第に演奏が熱を帯び、最期は大団円。
 コーラスもJoe同様、思いっきり前のめりになっている。



 この後、Joeは古巣A&Mと契約終了、これまでの集大成『Live 1980-85』、またまた現代音楽『Will Power』、懲りずにサントラ仕事『Tucker』リリース後、当時飛ぶ鳥を追い落とす勢いだったVirginと契約、2枚のポップ・アルバムをリリースすることになる。
 Virginの持つ巨大な販売網を足掛かりとして、さらにワールド・ワイドな活動を展開しようと目論んでいたのだろうけど、この『Big World』をピークにセールスは下降の一途を辿り、そのおかげでJoeは鬱病を発症、しばらく表舞台から遠ざかるようになる。
 俺的にも今でも良く聴くのはこの時代まで、Virgin以降はそれほど熱心に聴いていない。
 
 最近は3ピース・バンド編成でコンパクトなツアーをヨーロッパ界隈で行なっているようだけど、全盛期をリアルタイムで追っかけてきた者としては、一応活動はしているけれど、その地味さ具合は寂しささえ感じる。できることなら、もっと大編成のバンドでハデな音を鳴らしてほしいのだが、まぁ予算もあまりないのだろう。
 
 どうせなら手練れの職人的バンドより、もっと威勢の良いサウンドを聴きたいと思っているのは、多分俺だけではないはず。どうせなら固定メンバーでツアーを廻るのではなく、現地の若手バンド、特にブラス・セクションの入ってる連中と組むのはいかがだろうか。
 日本にもSOIL&"PIMP"SESSIONSやPe’Zなど、イキの良いバンドはたくさんいるし、ヨーロッパにも、ジャズ・ファンク系のソリッドなバンドが腐るほどいる。そういった世代間交流を行なっていった方が、互いの創作意欲も湧くんじゃないだろうか。
 取りあえず日本のイベンターの方、これを読んでいたら、一度ご一考くださいませ。



ステッピン・アウト
ステッピン・アウト
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2002-09-21)
売り上げランキング: 234,696
A&Mイヤーズ
A&Mイヤーズ
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2007-07-25)
売り上げランキング: 629,457

ロック嫌いな男、ひねくれ度が一回転して傑作を生み出す - Joe Jackson 『Body & Soul』

folder 前作『Night & Day』がUK・US以外にも世界各地で最大のヒットを記録し、同時代のミュー・ウェイヴ系アーティストをより大きく引き離し、特にアメリカで大きく知名度を上げたJoe Jackson。
 可能な限り、いわゆるロック的な要素を排除した『Night & Day』後に彼が向かったのは、更なるワールド・ミュージックへの傾倒、特に50年代以前のモダン・ジャズのムードと性急で享楽的なラテンのリズムだった。
 
 1984年にリリースされたこのアルバム、US20位UK14位と、セールス的には前作ほどではないけど、まぁアベレージはクリア、そこそこの成績を収めている。
 ちなみに、ついでに1984年のアルバム・チャートを調べてみたのだけど、とんでもない事実が明らかになった。年間通して1位を獲得したのは、Michael Jackson『Thriller』、Original Soundtrack『Footloose』、Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』、Prince『Purple Rain』。以上である。たったの4枚しかないのだ。フットルースのサントラは別として、どのアルバムも80年代名盤として確実にリスト・アップされる、モンスター級のセールスを記録したアルバムばかりである。
 こうして見ると、彼らに比べてダントツに知名度の低いJoeが、ここまで上位にチャート・インしたというのは、かなりの大健闘である。どんな時代にでも、ヒット・ソングだけでは満足できない、逆にヒット・ソングからは敢えて目を背け、マイナー・シーンを探索するリスナーは多いのだろう。
 
 このアルバムがレビューされる際、よく取沙汰されるのが、やはりアルバム・ジャケット。オマージュなのかパロディなのかは不明だけど、多分前者だろう。ジャズの歴史的名盤である、Sonny Rollins『Vol.2』をまんまパクッたレイアウトは、ここまで思いきりやっちゃえば、むしろ清々しささえ感じるくらいである。

3e4063e4

 アルバム・タイトルもジャケット同様、古いジャズ・スタンダードの曲からインスパイアされてるし、細かなディティールでジャズのエッセンスが散りばめられているけど、肝心のサウンドは、ジャズだけにこだわったものではなく、むしろラテン系のジャズ、特に第三世界のリズム面からの影響が大きい。
 モダン・ジャズ特有のシンプルな4ビートの曲はなく、むしろポリリズム的ラテン・ビートの存在感が大きい。
 一口にラテンと言っても、ごく一般的に連想される、享楽的なリオのカーニヴァルのそれではない。このアルバムに通じて流れているのは、メインストリートの健康的なリズムではなく、もっと漆黒でドロッとした、裏路地の妖しげなクラブで夜通し垂れ流される、肉感的でエロティックな饗宴のリズムだ。


Body & Soul
Body & Soul
posted with amazlet at 16.02.11
Joe Jackson
A&M (2006-07-18)
売り上げランキング: 32,811



1. The Verdict
 ホンダの車のCMにも起用されたくらいだから、同世代なら結構耳にした人もいるんじゃないかと思う。80年代のTVCMは、全般的に予算が潤沢だったおかげもあって、映像的にも音楽的にも手が込んでいた。CMクリエイターやプランナーという職業が出始めの頃でもあり、特に車関係のCMはセンスも良く、それでいて二番煎じ的な模倣を嫌う傾向があったように思う。
 オープニングのブラスがとにかく印象的。主にクラシックの録音が多いスタジオを使用してレコーディングしているので、特にこの曲のように大編成での録音では大きな効果があり、空間の響き方が良い。

 
 
2. Cha Cha Loco
 冒頭のカリプソ風味のトイ・ピアノっぽい音はほんと享楽的だけど、オープニングの妖しげなベースによって、いつものJoe Jacksonワールドに引き込まれる。
 リズムはほんとマンボかカリプソそのものだけど、マイナー調のメロディが怪しげなB級スパイ映画の様相を呈している。どうしてラテンなのにこんなに怪しげなのか?
 余談だけど、ラテン・アメリカの文学は俗に「マジック・リアリズム」と称され、現実と幻想の境目が曖昧になるうち自我も曖昧となってしまうストーリーが多い。一言で言ってしまえば「壮大なホラ話」なのだけど、そういったインチキ臭さを醸し出しているのが、この付け焼刃的ラテン・ミュージックである。
 
3. Not Here, Not Now
 シンプルなピアノ・ソロから始まり、そのままシンプルなバラードで終わる、この時代のJoeにしては珍しくストレートな良曲。ライブでもたまに取り上げるくらいだから、本人としてもお気に入りの曲なのだろう。余計な装飾がない分、ピアノ映えしやすい曲だし。
 ただ、ストレートすぎるがゆえに、ひと癖も二癖もある曲ぞろいのこのアルバムの中では、どうにもインパクトが薄く、印象に残りづらい。後半はドラマティックな展開になるので、多分他のアルバムに入っていたら、もっと感動していたと思う。
 
4. You Can't Get What You Want (Till You Know What You Want)
 やっぱりこれ、これだってばJoeは!!!! 
 この曲だけなんか立ち位置が違うというか、一番光っている曲であり、このアルバムの要でもある。
 前作『Night & Day』ではことごとくロック色を排除していたけど、このアルバムではロックの象徴であるギターが復活しており(と言っても、一般のポピュラー・アルバムと比べると、その使用比率はかなり低いのだけど)、疾走感がまるで違っている。
 この曲のバンド編成は、通常の4ピースバンド+ブラス・セクションとなっているのだけど、ロックとジャズが違和感なく融合している。
 語り出したら切りがない。期待感を盛り上げるオープニングのブラス、サビ前の一瞬のブレイク、時代を感じさせるスラップ・ベースとチャカポコ・ギターとの絡み、今回からバンドに加入したVinnie Zummoによる、多彩なエフェクトを駆使した間奏のギター・サウンドなどなど。
 明快なインパクトと、キャッチーなメロディ。この単純かつ普遍な方程式が、多くの新規ユーザーを魅了した。USシングル・チャートでも15位まで上昇したというのもうなずける。

 

5. Go For It
 ”You Can't Hurry Love"で有名な、モータウンの基本リズム・パターンからヒントを得た、Joe流のポップ・ソング。Joeとモータウンという結びつきは結構意外なので、なんでこんなアレンジにしちゃったんだろ?と、聴くたびにいつも疑問に思ってしまう。
 あまり多くを求めちゃいけないけど、Joeにしてはごく普通のポップ・ソングなので、ていうかJoe がわざわざこれをやる必然性が、あまり感じられないのである。レコーディングが進むにつれ、とにかく思いつく限りのリズム・パターンを試しているうち、次第にネタが尽きてきて、まぁ無難なアレンジにしたんじゃね?と穿った見方を、ついしてしまう。
 
6. Loisaida
 まるで金曜ロードショーのオープニングを思い起こさせる、もろAORなSaxのむせびが印象的な、三部構成のインスト。アルバム全体を一つの作品として捉える手法はプログレが一番ポピュラーだけど、そもそもはクラシックの世界のノウハウである。
 主旋律であるSaxソロの間に、ブリッジ的なブラス・セクションを入れ、再びSaxソロを挟み込む入れ子構造という、いかにもインテリめいたJoeの仕業。こういった手法は多分、Royal Academy of Musicで習得済みだったと思うけど、実践してみたのはこれが初めて。
 この手法に自信を得たJoeはその後、アルバム全体をこのスタイルで押し通す構想を立て、それが後年、『Will Power』『Symphony #1』という、非常に現代音楽的な、もっとはっきり言ってしまえば、冗長で自己満足的な作品を量産することになる。
 多分、今にして思えば、一連の作品は壮大な勘違いだった、とJoe自身も思っているのだろうけど、シリアスなアーティストとしては避けては通れない流れだったのだろう。ファンやレコード会社から見れば、アルバムの中のブリッジ的小品で抑えておけば良かったのに、と思うところだけど、まぁアーティストとは、時に独善的じゃないと、一流とは言えない。
 
7. Happy Ending
 で、前曲のまったり感をプレリュードとして捉えれば、この曲が活きてくる。Elaine Caswellという女性ヴォーカルとのデュエット。正直、ソロ・ピアノとしての腕は微妙だと思うけど、こういった誰かの歌伴としてのピアノになると、その饒舌さがいい方向へ作用している。
 Joe特有のぶっきら棒さと、ハスキーでやや高めのアバズレっぽいElaineのヴォーカルの掛け合いが絶妙。Aメロ→Bメロ→サビ→Saxとの流れが完璧すぎて、時々無性に聴きたくなって引っ張り出してくる曲である。
 女性ヴォーカルが必要なので、そういえばライブではあまり聴いたことがない。

 
 
8. Be My Number Two
 3.同様、シンプルなピアノ・バラードなのだけど、いやいや非常にファンの間で人気の高い曲。ライブでもかなりの確率で演奏している、多分自身でもお気に入りの曲である。
 もともとはパンク~ニュー・ウェイヴの流れから出てきた人なのに、アップ・テンポの曲では声が苦しそうになっている時があって、あまりシャウトする曲は向いてないのでは?と思ってしまう。むしろこういったバラード~ミドル・テンポの方が、独特の渋みが出ている。
 近年のライブもまた、自身のピアノを中心とした3ピースバンド編成なので、必然的にシャウトする曲は少なくなる。自分の音楽的素養と持って生まれた声質とのギャップとの乖離に対し、うまく折り合いをつけてきての結果なのだろう。

 

9. Heart Of Ice
 ラストも組曲。細かく刻まれるハイハットをバックに、フルート~フリューゲル・ホーンが互いにソロを取り合い譲り合い、次第に構成楽器が多くなってゆく。非常に現代音楽的な構成だけれど、このアルバムまではギリギリ、ポップの範疇に留まっている。あくまでアルバムの中の一曲なので、退屈さは感じない。
 多分、これをアルバムまるまる一枚にまで広げられると、俺的にはムリ。ほぼ発売間もない頃に『Will Power』を購入したものの、多分1回聴いただけでギブアップ、後は聴かずじまいだった覚えがある。
 ちなみにこの曲、トータルで約7分という大作なのだけれど、うちイントロが5分という、ラスト曲だけあって、なかなかプログレ度合いの強い曲である。こういった曲を、昔は高尚な曲だと信じて無理して聴いていたのだけど、今となってはカッタルイと思ってしまうだけ。
 シンプルでエモーショナルな4.のような曲こそが、Joeの真骨頂である、と俺的には思う。




 出世作となった『Night & Day』ほどではなかったけど、こちらもUS/UKチャートにおいて好セールスを記録し、Joeの音楽的探求心は更に深まってゆく。セールス的も高目安定傾向に落ち着いたため、それほどガヤガヤ言ってくる連中もいなくなった。今のところは、自分のやりたいことをやってきて、幸いそれが良い感じで受け入れられている。
 じゃあ、こういったのはどうだ?
 そうやって出来たのが、あの『Big World』である。


ステッピン・アウト
ステッピン・アウト
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2002-09-21)
売り上げランキング: 234,696
A&Mイヤーズ
A&Mイヤーズ
posted with amazlet at 16.02.11
ジョー・ジャクソン
ユニバーサル インターナショナル (2007-07-25)
売り上げランキング: 629,457
カテゴリー
記事検索
Twitter
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村

アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: