好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

『アメリカの岡村ちゃん』?『日本のPrince』? - Prince 『Around The World In A Day』

folder 『アメリカの岡村靖幸』(?)とも評された、Prince1985年のアルバム。ビルボード最高1位、UKチャート5位。
 メガ・ヒット・アルバム『Purple Rain』のすぐ後だけあって、一般的には馴染みの薄いアルバムだけど、"Raspberry Beret" ”Pop Life”など、重量級のポップ・ソングがラインナップされており、話題性を抜きにすれば、前作と充分対抗できる内容になっている。

さすがにモンスター・アルバム『Purple Rain』ほどのセールスは獲得できなかったけど、既にこの頃から売り上げ枚数やらチャート・アクションやら、そういった下々の人間がウジウジ悩んでることからは、興味が薄れていたのだと思う。当時アゲアゲの上り調子だったPrinceにとって、もはや各国ゴールド・ディスクの枚数よりはむしろ、独立レーベル設立の喜びの方が大きかったんじゃないだろうか。
 これで好き放題やりたい放題のことができる、といった思いの方が強かったのだろう。

 とはいえ、いくら天才的なアーティストとはいえ、メジャー・レーベルと契約しているわけだから、それなりのプレッシャーはあったはず。レコーディングにおける、ほぼすべての作業(プロデュース・アレンジ・演奏その他諸々)を自前で行なえるくらいのスキルはあるけれど、やはり先立つものは「お金」ということになってしまう。
 スタジオ使用料、バンドの維持費、プロモーション費用など、こういった大きなお金もそうだけど、もっと細かな出費も相当なものだ。スタッフに出す弁当代や移動費だって、積もればバカにならないのだ。

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 だからこそ大抵のミュージシャンは、予想される出版印税の中から必要経費として、それらのコストをレコード会社に負担してもらう。いわば、分け前の先取りだ。
 当然、ポッと出の新人アーティストなら、そのディールは微々たるもので、逆にレコード会社の持ち出しになる。ただしPrinceクラスの中堅どころになると、そろそろ自分の売り上げから、すべてを捻出しなければならない。金額的な負担は大きいけれど、その方が自分の意に適ったプロモーション展開ができる、といったメリットもある。そのためには分母を大きくしなければならないので、アーティスト、レコード会社とも、色々と策を講じることになる。

 黒いビキニ・パンツの上にコートを羽織っただけという、モロ変質者の風体でアルバム・ジャケットを飾ったり(『Dirty Mind』)、既に大御所だったChaka Khanに曲を書いてスマッシュ・ヒットさせたり(”I Feel For You”)、Rolling Stonesアメリカ・ツアーのオープニング・アクトに抜擢されたはいいけど、古株Stonesファンに猛烈なブーイングを浴びてまともに演奏できず、早々にステージ袖に引っ込んで泣いてしまったり、などなど。

 そんなこんなをしているうちに、『Purple Rain』の大ヒットである。
 これまでは、的のはずれた中途半端なプロモーションや、経費捻出のためレコード会社から無理やり押し付けられた仕事をジッと我慢してこなさなければならなかったけど、おかげで一気に借りを返してしまった。もちろん、当時ポピュラー音楽における絶対的存在だったCBSのMichael Jacksonへの対抗馬として、Warner主導による、映画・音楽双方によるメディア・ミックス戦略が当たった、ということもあるのだけれど。
 レコード会社のバックアップのおかげ、と頭では理解していながら、さすがに調子の乗ってしまったPrince、この勢いのまま、すぐに独自レーベル「Paisly Park」を設立、そして本作がリリース第1弾となる。

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 このアルバムがリリースされた頃はいわゆるライティング・ハイ、創作力のピークにあったPrince、通常2~3年に1枚とされていた、メジャー・アーティストのリリース・ペースのルーティンからはずれ、ほぼ年に1枚のペースでアルバムをリリースしていた。
 レコード会社の言い分としては、「一枚のアルバムをじっくりプロモートしたいので、余裕を持ったリリース・ペースで」というところだけど、まぁまだチャートに残っているのに、すぐ次のアルバムを出されたりしたら、商業政策上、たまったものではないだろう。売る側の言い分としては、当然のことだ。

 ただし、作る側であるPrinceの心情としては、とにかくあふれ出てくる音楽を、片っぱしからリリースしたくてたまらなかったはず。だからという理由もあって、彼は独立レーベルを作り、リリース音源のコントロールを開始した。
 自分名義でリリースするだけでは間に合わないので、グループ名義(Family、Timeなど)、他人名義(Sheila.Eのバック・トラック、ドラム以外ほぼ全部)を使って、とにかく正規音源を大量に世に送り出した。何しろライブと”Make Love”以外は、ほとんどの時間をスタジオで過ごしている男である。このくらいのことは何でもない。
 ありとあらゆる手段を講じても、それでも需要と供給のアンバランスは解消されず、前回にも述べたように、その大量の未発表曲は、すぐにもリリースできる形に整えられながらも、いまだリリースの目途さえ立たないままである。時々一部のマテリアルが流用されている場合もあるけど、それもごく稀なケースであり、ワーナーとの完全な和解がない限り、そしてPrinceが亡くなりでもしない限りは、倉庫に眠ったままなのだろう。


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1. Around The World In A Day
 中近東風のイントロが、アルバム・タイトルである「世界一周」を予兆させる。
 とはいっても、回るのはこの現実世界ではなく、ファンク & サイケデリック・マスター “Prince”によって奏でられる、サイケデリックに彩られた脳内世界。

2. Paisley Park
 新レーベルの名前を冠した、メモリアル的なサイケ・ポップ。タイトルからしてペイズリーだし。
 全世界的に70年代リバイバルが始まった頃で、身近な所ではペイズリー柄のネクタイが流行った記憶がある。
 好評を得つつあった、Princeのギター・ソロも堪能できる。

3. Condition Of The Heart
 たっぷり2分半にも及ぶイントロの後、またシアトリカルとも言えるエモーショナルなヴォーカルを聴かせるPrince。"Purple Rain"ほどベタでなく、普通に女性アーティストにカバーされたら、それなりにドラマティックに聴けてしまう。
 あまりに多作だった時期ゆえに埋もれてしまいがちだけど、こういったストレートなナンバーも作れるほど、当時のPrinceの守備範囲は広かった。

4. Raspberry Beret
 1stシングル全米2位。Princeの曲で人気投票を行なったら、確実にベスト10に入ってくる、良質のポップ・ソング。
 珍しく全般的にストリングスを使用。それほど前面に押し出したミックスではないが、それ故、優雅さが伝わってくる。コーラスのWendy & LisaとPrinceとのヴォーカルが噛み合っていないところが、また良いのだろう。
 完璧な調和は、時として無味乾燥なものとなってしまう。

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5. Tamborine
 この時期では珍しい、正当なファンク・ナンバー。
 変態リズムと1コードで押し通してしまう、2分程度のブリッジ扱いの曲。
 多分Princeにとって、こういったアイディア一発とも言えるこのタイプの曲なら、いくらでも作れるのだろうし、またストックも大量に残っているのだろう。同じような曲の断片なら、ブートでも腐るほど聴いてるし。
 その中でも辛うじて世に出ることができた、ある意味幸せな曲。

6. America
 Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』を意識したのかどうかは不明だけど、最大のポップ・イコン『アメリカ』に正面から取り組み、まんまストレートにタイトルに持ってきたナンバー。
 ストレートな8ビートと、ポップの王道的なコード進行によって構成された曲なので、Prince自身の個性的なヴォーカルを抜けば、比較的正当なパワー・ポップである。
 Bruceは現在(1984年当時)のアメリカを取り巻く現状に嘆き、それを敢えて前向きなサウンドに乗せることによって、皮肉を込めたつもりだったけど、大多数のバカなアメリカ人は、皮肉が理解できず、純粋なアメリカ応援歌として受け取ったため、その後Bruceは世間との乖離に長く苦しむことになる。
 Princeの場合は?世間的に、そこまで熱狂的に支持された曲ではないので、誤解を受けることはなかったけど、Prince的世界をこの一曲に凝縮するつもりだったのか、あらゆる構成要素の坩堝と化している。
 何しろ、アルバムでは3分足らずのこの曲、オリジナル・ヴァージョンは20分を超えるのだから。

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7. Pop Life
 サウンドはタイトル通り、ポップそのもの。こうして聴いてみると、『Purple Rain』よりも、サウンドといいメロディーといい、優れてる面が多い。
 今でこそフラットな視点で見ることができるが、『Purple Rain』は空前のビッグ・セールスによってメジャーになり過ぎてしまい、一般ファンにも「あのキモい風体の」Princeとして広く知られるようになったけど、昔からの頑固な洋楽リスナーにとっては、むしろ『Around The World In A Day』のマニアックなサウンドの方が人気が高かった。
 一部のElvis Costelloファンにとって、この曲は一時期ライブで何度かカバーされていたことで記憶に残っているのだけれど(ほんとに一部だな、この小ネタ)、正式にレコーディングしたい、というCostelloのオファーを無下もなく断った、Princeの了見の狭さに呆れたことでも、ごくごく一部では語り草である。

8. The Ladder
 荘厳としたストリングスから始まる、なんとなく”Purple Rain”を思わせる曲。ドラムの音処理が時代を感じさせるのと、ソウル・レビューっぽい語りとサビの盛り上がりとがクセになる。Eric Leedsの情感あふれるSaxが、時たま粗いAORっぽく聴こえるのはご愛嬌。

9. Temptation
 ディストーションをかなり効かせたPrinceのギター・ソロに、フリー・ジャズっぽいサックスが絡む、よく聴けば変な曲。一応バンド名義になっているだけあって(ほとんどのプレイがPrince自身のものであることは有名)、セッションっぽい響きの録音になっている。
 前半は、「ハード・ロックとハード・バップの融合」とでも形容すればわかりやすいかも(いや逆にわかりづらいか)。何しろこの時代にしては珍しく、8分の長尺曲。
 後半は一転して、フリー・ジャズ・テイストのサウンドにPrinceの陰鬱な語りと、時々叩きつけるようなピアノが絡み、混沌の世界一周が強引に幕を閉じる。




 この後、『Purple Rain』の二番煎じを狙おうとしたのか、Princeは再び映画の撮影に入る。一応ワーナー側のオファーを受け入れた形だけど、前回とパワー・バランスが変わったことによって、今回はPrinceの意向がかなり受け入れられた。よって映画主演第2弾『Under the Cherry Moon』は、幼少時のPrinceが好んで見ていたモノクロ画面のドタバタ・コメディといったコンセプトで製作され、当然歴史的な大コケとなる。
 それと同時に作られたサウンドトラック(いつ作ったんだ?)はセールスこそ目立たなかったものの、音楽的な評価は後年まで語り継がれるほどの代表作になる。
 その『Parade』の話は、また今度。


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モテたくてモテたくって…、イヤつまりその、君のコト好きなんだ - 岡村靖幸『家庭教師』

kateikyoshi  1990年発売、岡村ちゃんにとっては、4枚目のオリジナル・アルバム。オリコン・アルバム・チャート最高7位…、って、えっ、こんなにチャート低かったのっ?、ていうのが正直なところ。
 1990年といえば、空前絶後のバンド・ブームもちょっと落ち着いてきて、ユーミン、サザンなど、ベテラン・ミュージシャンらが息を吹き返し、ビッグ・セールスを叩きだしていた頃である。TVドラマやCMの主題歌が幅を利かせ、アニメ『シティー・ハンター』以外、強力なタイアップのなかった岡村ちゃんにとっては、分が悪かった時代でもある。
 というわけで、シングルはまぁ仕方ないとしても、アルバムはもう少しチャート的に健闘していると思っていた。

 もう少し詳しく調べてみると、発売月が11月、各レコード会社は年末商戦に差し掛かる頃である。よほどの知名度がない限り、それほど話題性のない、ましてや若手アーティストを、力を入れてプロモーションするはずもない。強力なヒット・シングルが入ってるわけでもなく、ましてや夜ヒットやMステに出たわけでもないので、宣伝する方もセールス・ポイントが定まらなかったのだろう。

 当時の所属レコード会社であるソニーは、岡村ちゃんに限らず、そういったクセのあるアーティストを多数抱えていた。従来なら、そういった彼らを世に広く知らしめるためには、地道なラジオ局廻りか音楽雑誌媒体しかなかったのだけど、手軽にPV製作ができるようになってからは、映像によるプロモーション展開が可能になった。ただ、日本ではまだスペースシャワーもなかった頃、なのでソニー、自社制作によるPV紹介番組『ez』を深夜帯にオンエアしていた。ゴールデン・タイムではお呼びのかかりづらいソニー系アーティストは、ここを踏み台にして知名度を上げてゆくのが定石だった。岡村ちゃんもデビューしてからしばらくは、そのローテーションの中に組み込まれていた。"だいすき"や"Peach Time"なんて、ここで何度か見たかわからないくらいである。
 よって、当時岡村ちゃんの姿を拝めるメディアは限られており、昼間やゴールデン・タイムに動く姿を見ることは、ほんと稀だった。

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 最初に岡村ちゃんの名前を知ったのは、アーティストとしてではなく、渡辺美里のアルバムで作曲家デビューしてのこと。シングルにもなった"Long Night"、今もライブでは重要曲である"Lovin’ You"など、気になった曲のクレジットを見てみると、すべて岡村ちゃん作曲のナンバーだった。
 当時TMネットワークがボチボチ知られつつあった小室哲哉も、主要ブレーンとして深く関わっていたけど、俺としては、まだデビューもしていない、無名の岡村ちゃんの楽曲の方に強く惹かれていた。

 その後、『シティー・ハンター』のエンディングでちょっと名が売れたりもしたけど、これについてはTMの"Get Wild"の方が圧倒的にネーム・バリューが強く、そして後世に伝えられる名曲となった。

 俺が再び興味を抱いたのはもう少し後、セルフ・タイトル『靖幸』、ベスト『早熟』とが続けざまにリリースされた頃だ。"聖書"、"だいすき"と、今でもファンの間では人気の高いキラー・チューンがシングルでも発売され、一般層にも少し知名度が上がってきた頃である。
 この辺で、確か主演映画も撮っていたはず。大してヒットはしなかったけど、「ちょっと変態チックな歌を歌う、ダンスの上手いPrinceフォロワーがいるらしい」という風評は広まった。形はどうあれ、岡村ちゃんのパフォーマンスは人々の記憶に残り、ある者は拒絶反応を示し、そしてある者は熱狂的に虜になった。

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 そして、この『家庭教師』である。
 "どぉなっちゃってんだよ"がリード・シングルとして先行発売され、ラジオで一発目に聴いたとき、マジで衝撃が走ったのを覚えている。車のCMソングにもなった"だいすき"からほんの2年弱、それが"どぉなっちゃってんだよ"になってしまったのである。
 この人はこれからどこへ行こうとしているんだろう、と思いつつ、日本ではまだ馴染みの薄かったファンク・ミュージックを自分流に消化して、「スター」岡村ちゃんへと昇華してゆく様は、20歳前後の男にとっては、暑苦しくってもどかしくってイカ臭くってちょっと女々しい、リアルなメッセージだった。


家庭教師
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1. どぉなっちゃってんだよ
 初っぱなを飾る、これ以上はないというくらい、理想的なオープニング。岡村ちゃんの場合、セルフ・レコーディングが基本であり、ほぼすべての楽器を自分で演奏しているのだけど、どれもプロ顔負けの音を出している。いやもちろん、いわゆるハイ・テクニックなプレイではない。技術的にはアレなのだけど、スタジオ・ミュージシャンがお仕事でやってるような、無表情な音ではない。聴けば一発で、岡村ちゃんだとわかる、非常に記名性の高いサウンドなのだ。特にギター、アコギのカッティング・センスはスゴイ。

「俺なんかもっと頑張ればキット 女なんかジャンジャンモテまくり」

 とにかく、この詞のインパクトが強い。これだけむき出しの欲望を、エロく切実に、しかもポップに表現するアーティストなんて、これ以前も以降もいなかった。エロとポップの微妙なバランスがピタリとかみ合った瞬間、それが『家庭教師』というアルバムの形で残された。
 こうやって詞だけ抜き出して書いてみると、何だかとても間が抜けているのだけど、これが岡村ちゃんのヴォーカルで歌われると、切実な思いが胸に刺さる。
 『モテキ』の挿入歌として、または桜塚やっくんのカバーによって、発表当時よりはも少し知られている曲。



2. カルアミルク
 岡村ちゃんのバラードの中では3本の指に入る名曲。どのカラオケにも必ず入ってるし、岡村ちゃんビギナーにもとっつきやすく、しかも長年のファンの間でも人気のある、幸せな楽曲。
 「ファミコン」「ディスコ」「レンタルのビデオ」「六本木」など、1980年代後半の若者風俗がリアルに窺える、しかしそれでも古く聴こえない、不思議な曲。



3. (E)na
 モロPrince『Parade』『Lovesexy』期のサウンド引用によって作られた曲。イヤ、オマージュ、リスペクトというべきか。
 過去・現在を通して、Princeサウンドのフォロワーは、古今東西数多く出現しているのだけど、この頃の岡村ちゃんはサウンドだけでなく、存在意義・概念までをも体得し、しかもほんの一瞬ではあったけど、オリジナルを凌駕するまでに至った、数少ない一人だったと思う。
 岡村ちゃんのPVの中では、最も好きな曲。やはりPrinceを強く意識したダンスがタップリ見られる。



4. 家庭教師
 全編岡村ちゃん自身によるアコギの弾き語りによる、めっちゃファンキーなナンバー。タイトル・ナンバーながら、アルバムの中では異色の出来という、何だかよくわからない曲なのだけど、岡村ちゃんの暗黒面を露わにした曲と言えばいいのか。
 後半の長い長いモノローグ、感情をむき出しにしたギター・ソロなど、Prince"Crystal Ball"の世界に近いものがある。

5. あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう
 アコギのストロークによるオープニングが、とても気持ちいい。いつもよりレベルの大きい、ノン・エコーのヴォーカル、人工的な少年少女合唱団(風)のコーラスなど、結構遊びの多い曲。展開もめぐるましく、珍しくエフェクターを利かせたギター・ソロ、中盤にマーチング・バンドが入り、またアウトロが妙に長く、ファンクというよりはむしろ、プログレ的展開さえ窺える。
 アルバム・リリース直前に先行発売された当時、ライト・ユーザー対象のメディアでは、タイトルの長さばかりがよく取沙汰されていたけど、もう少しシリアスなメディア(といってもロキノン周辺くらいしかチェックしていなかったが)では、手放しで称賛し、色めき立っていたのを覚えている。それまではむしろ、暑苦しくってもどかしくってイカ臭くってちょっと女々しい、リアルなメッセージの歌詞ばかりが注目されていたのだけど、このアルバム・リリースの前後辺りから、その作り込まれた密室ファンク・サウンドにも注目が集まった。
 やはり『モテキ』で再び注目を浴びた。



6. 祈りの季節
 なんか古臭いサウンドだな、とずっと思ってて、改めて聴き直してみたら、ドラムのエコーがちょっと違和感があった。間奏のMilesっぽいトランペット・ソロはカッコイイと思うのだけど、そこがちょっと惜しい。
 日本の少子高齢化社会を先取りした歌詞はメッセージ性が強いと思われがちだけど、要するにヤリたいだけである。目的を成就するためには、それなりの設定、舞台装置が必要なのだ。

7. ビスケット Love
 再びPrinceテイスト、スカスカなビートボックスから始まるスロウ・ファンク。日本ではまだ一般的でなかった、テンポのゆったりしたネチッこいファンク・サウンドに、これまたネチっこく絡みつくヴォーカルで、ダブル・ミーニング入れまくりの歌詞が乗る。
 イチャイチャするのが好きなんだ好きなのはSEXだけじゃないんだけど君のことがとっても大事でもちろん体だけじゃないんだけどでも…、
でもやっぱり君とSEXがしたいんだ!
 っていうことをエロく、けれど真剣に歌い上げる岡村ちゃん。まさしく岡村ちゃんワールドである。
 実は、この曲の最大の聴きどころは歌が終わってから、終盤アウトロでネチネチと続く、先輩の彼女へのピロー・トーク(?)である。

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8. ステップUP↑
 今度は同じファンクでも正統派、JB風ブラス・バンド入りファンク。「倫社と現国学びたい」というサビがクセになる。さすがに管楽器は岡村ちゃんの手に負えるるものではなく、外部ミュージシャンの起用によって、スタジオ・セッション風の音作りになっているけど、前曲の密室感から一転、開放感に溢れている。

9. ペンション
 ベッタベタなピアノ・バラード。でも日本人でこういったメロディが嫌いな人は、よほどの偏屈者か才能に妬む同業者のどっちかしかいないはず。

 「あだ名から 「さん」づけ呼びへの 距離を測れないだなんて
  ちょっぴり僕より 大人だね ねぇリボン」


 プライドの高い童貞っぽさがプンプン臭う歌詞を書く岡村ちゃんは、とても清々しいのだけど、この曲、その岡村ちゃんエキスがかなり濃く、静かなバラードなのに、最後のアドリブでは絶叫にも近いフェイクを入れている。
 女性シンガーが歌ったら、曲自体の良さはもっと引き立つはず。



 このアルバム・リリース後、それまでの蓄積を出しきったのか、岡村ちゃんはスランプに陥り、次のアルバム『禁じられた生きがい』リリースまで、なんと5年を要することになる。さらにこの後は、アレがこうしてあぁしてと開店休業状態、ここ数年でようやく復活の目途がついた感じとなっている。

 もちろん、現在の岡村ちゃんには、当時ほどキレッキレのイメージはない。才能と人格と感性とを削るような、あの切羽詰まった感覚は、もともと長く持つ類のテンションではないのだ。

 Princeと松田聖子をリスペクトし続けて、ここまでやって来た岡村ちゃん自身にも数多くのフォロワーが生まれ、彼らに助けられたりしながら、少しずつではあるが創作活動を再開している。

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 近作"愛はおしゃれじゃない"のように、積極的に若手フォロワーとコラボしていった方が、良い物を作れると思う。
 いくら気持ちの若い岡村ちゃんでも、もうアラフィフである。普通の50代前後のアーティストなら、自分のスタイルを頑固に貫き通すがあまりファンにソッポを向かれるか、若者に迎合しようとして媚びて取り入ったはいいものの、逆に「ウザい親父」認定されてしまって自爆してしまうか、どちらにしろロクなことはない。

「昔の岡村ちゃんもいいけどさ、いまの岡村ちゃんもスンゴイんだぜ?」とリスペクトする若手たちをアゴでこき使い、手弁当でプロデュースさせ、しまいには共作までやってしまったのが、このシングルである。



 50近くになって、こんな歌を歌える岡村ちゃん、そして歌わせた小出君の功績はデカい。
 結果的に、少しずつではあるけれど、すべては良い方向へ向かいつつあるので、
 無理しない程度にがんばってね、岡村ちゃん。



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日本のポップ馬鹿、有終の美を飾る名作 - 大滝詠一 『Each Time』

ent20140124_07  というわけで、ポップ馬鹿日本代表大滝詠一、ソロ・オリジナルとしては最後のアルバム。オリコン・アルバム・チャートにおいても、最初で最後の1位獲得アルバムでもある。

 前作『A Long Vacation』から約3年ぶり、3回に及ぶ発売延期を経て、待ちに待ったリリースということもあって、Michael Jackson『Thriller』全盛の中、年間チャートでも3位と大健闘した。俺としても、リアルタイムで入手したアルバムだったので、これまた思い入れも深い。
 
 このアルバムのリリース後、彼の活動ペースは格段に落ち、ほぼ表舞台からは身を引くようになる。楽曲提供やプロデュースなど裏方作業がメインとなり、表立った活動はといえば、せいぜい山下達郎との年に一度の新春放談くらい。
 そもそも昔からフロントマン・タイプの人ではなく、裏方でちょこちょこやってるのが好きな人だったので、この辺が潮時と判断したのだろう。一応大ヒット・アルバムも出したし、次回作のプレッシャーからも解放されたので、肩の荷が降りたことを機に、一線から身を引いて、マイペースな活動を続ける心づもりだったのだろう。
 一般受けする作品はもう作ってしまったので、これからは何年かに一度、趣味性の高いアルバムを、自分のペースでリリースしてゆこう-。

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 多分、そこからが本人以外には知りえない、苦難の途が始まったのだろう、と思う。
 もともとの創作スタイルが、昔聴き慣れ親しんだオールディーズへのオマージュ/リスペクトを、現代のアレンジによって作品にフィード・バックしてゆくのだから、膨大な専門知識が必要になる。それに伴う作曲レベルの向上も必須だが、専門的に音楽を学んだわけではないので、次第にパターンも決まりきってゆく。それを回避するため、あらゆるコード・メロディ・サウンドを順列組み合わせ/ミックスすることによって、どうにかこうにか仕上げてみるけど、あまりに捏ねくり回すことによって、原石の放つまばゆい輝きは、次第に失われてゆく。
 他人への曲提供なら、まだ良い。
 想定するキャラクターに合わせて、極端な話、ワン・アイディアで押し切ればよいのだから。しかし、自分自身となると、話は別だ。いくら趣味的作品とはいえ、外部へ向けて発表するのだから、それなりのクオリティが求められる。ましてや年月を経るに従って、周囲の期待も高まってゆく。
 
 下手なモノは迂闊に出せない―。
 
 ”幸せな結末“リリース前後、ニュー・アルバムを引っ提げて、本格的に活動再開予定だったことが、後年の関係者/事情通の証言で明らかとなっているが、体調を崩したことによって感性には至らず、半完成品のマテリアルは中途半端に放り出されたまま、大滝は再び沈黙の時期に入る。
 新作の目処が立たなくなったことと入れ替わるように、20周年・30周年ごとのアーカイヴ・シリーズがスタートし、それに伴って、新春放談以外のメディア(主にラジオ)への露出も増えてゆく。もう現役ミュージシャンとしての枷は外してしまったのだから、音楽以外の話も気楽に話すことができる。もともと音楽以外にも、多方面への考察・探究具合はプロ顔負けの場合も多く、特に晩年の映画関係への寄稿、発言は、アマチュア研究家としても特筆に値する。
 
 
「大滝詠一の沈黙は、松本隆の不在である」ことが、よく言われている。
 はっぴいえんど解散後、松本は歌謡曲の世界へ、そして大滝は第1ナイアガラ期にて、趣味趣味音楽探求の途を選んだ。
 既存の歌謡曲の文体より暗喩を多く含んだ松本の詞は、はっぴいえんど時代に培ったフォーマットを記号化、もう少し大衆にわかりやすいスタイルに咀嚼することによって、バンド時代より多くの支持を獲得した。
 そんな松本とは対照的に、この頃大滝が自ら書いた詞は、ほとんどが語呂合わせやパロディに終始し、まったく別のベクトルを向いていたことがわかる。詞の内容にはあまりこだわらず、語感やリズム、サウンドに重点をおいていたように思える。
 言霊に負けない曲を大滝は作り、そして松本は自らの世界観に染めてしまう詞を書いた。
 そして数年が経過、ほぼ同時期に、2人は互いの「不在」に気づくことになる。

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 第2ナイアガラ期を迎えるにあたり、大滝が松本に歌詞を発注するのは、当然のことだった。松本のウェットな詞世界は、既に円熟の域に達していた大滝のクルーナー・ヴォイスを求め、そして、これまでにない多重構造のナイアガラ・サウンドは、同じくダブル(トリプル)・ミーニングを含んだ、松本の世界観を求めた。
 そんな2人が再びタッグを組み、数年間の蜜月の中、数々の傑作を世に送り出した。松田聖子に始まり、薬師丸ひろ子、ラッツ&スター、森進一、小林旭…、挙げれば枚挙に暇がない。

 第2ナイアガラ期が一段落するにあたり、あまりに濃密な数年間を共有した二人は、それ故に再び離れることになる。これ以上タッグを組んだとしても、現状ではアイデアが枯渇しかけているし、もはや無理やり絞り出すしかない。もしそんなやり方でコラボレートを続けたとしても、それはもはやクリエイティヴな作業ではない。
 その前に一度、別れよう。
 違う世界を見て、いろいろと勉強するなり経験を積んで、
 そしてまた、年を取ったら、また一緒にやろう。

 ―そう思っていたはずだったのに、
 2013年12月末、彼は突然逝った。
 もう2人のチーム、そして、はっぴいえんどの4人が揃うことはない。
 
「ぼくの言葉と君の旋律は、こうして毛細血管でつながってると思いました。
だから片方が肉体を失えば、残された方は心臓を素手でもぎ取られた気がします」
(大滝詠一お別れ会 松本隆の弔辞より抜粋)

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EACH TIME 30th Anniversary Edition
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1. 魔法の瞳
 現行30th Anniversary Editionではかなり曲順が変更されているのだけど、ここは初出オリジナルで。
 当時としては最先端だった、SEてんこ盛りのポップ・ソング。そのため、サウンドだけ聴けば一番風化した印象が強い。歌われている内容は、はっきり言ってほとんど無意味に近いのだけど、逆に歌詞の内容に頼ることなく、音楽の吸引力、または言葉遊びや語感のみでどれだけ聴き手を引き込むことができるのか、という実験だったのではないだろうか。
 実はかなり練り込まれたサウンドとメロディー、ヴォーカルを純粋に堪能できる一曲。
 
2. 夏のペーパーバック
 現行エディションでは1曲目、オープニングも微妙に違っているのだけど、やはりこの位置、初回アレンジが一番シックリ来る。このアルバム制作スタート一発目に録音されたせいか、アルバム全体の空気感、今までよりアダルトな面を強調、ヴォーカルを前面に押し出したスタイルを象徴している。ほぼ全曲を担当した、長岡道夫のベースがよく鳴っている。
 
 「ただの脇役だよ 僕なんてね」
 
 決してリア充タイプではなかった大滝・松本両名、今回のアルバム全体に流れる、ネガティヴさが如実に表れている。
 
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3. 木の葉のスケッチ
 オープニングのクラリネットは、当時日本ジャズ界の重鎮だった北村英治によるもの。荘厳としたストリングスをバックにした、アダルト・ムードのロマンティックな曲。十代の若かりし俺の耳にとって、このサウンドは特に地味に聴こえたので、ほぼ大体飛ばして聴いていた。
 スペクター・サウンドを前面に押し出した『A Long Vacation』と対照的に、比較的地味なサウンドの印象がある『Each Time』だけど、前述したように、ウェットな質感の松本の歌詞と、円熟の域に達した大滝のヴォーカルを堪能するためには、どうしてもこのサウンドが必要となる。
 
 苦い別れ方をした二人が、偶然町で再会する。
 話をしても、昔のようには弾まない。
 食事に誘ってみても、困った横顔。
 引き止めたことを詫び、そして別れる二人。
 風散る二つの木の葉は、もう出会うことはない。
 
4. 恋のナックルボール
 リズムで聴かせる曲。どこかに元ネタがあったはずだけど、忘れた。この人の作曲スタイルとして、古いマイナー曲の一部的な引用が多い構成なので、「この曲がベースだ」と特定できるわけがない。
 1. 同様、SEを多く多用しているため、賑々しい曲ではあるけれど、やはりこのアルバム全体のトーンである、ウェットなヴォーカルが、どこか影を落とす。
 
5. 銀色のジェット
 飛び立つ飛行機のことを歌っているのに、夏の空はいつまでも晴れることがない、ぐずついた雲は今にも雨が降り出しそう。
 サウンドはもろ、同時期に書かれた薬師丸ひろ子“探偵物語”。
 
6. 1969年のドラッグレース
 これまでは敢えて封印していた、はっぴいえんど時代について書かれた曲。松本がこの詞を提示してきたことによって、大滝も思い至るところがあったのだろう。
 再び出会うための別れの詩が、大滝のこれまでにないヴォーカル・スタイルを求め(はっぴいえんど以降、シャウトする大滝なんて初めて聴いた)、それに伴って盟友鈴木茂が呼び出され、思いっきりドライブするギターを弾いた。
 細野晴臣がいれば完璧だったのだけど、多分YMOなんかで忙しかった頃だったはず。

 

7. ガラス壜の中の船
 前作『A Long Vacation』収録”雨のウェンズデイ“と対を成すと思われる歌詞とサウンド。やはりヴォーカルがすごく良い。
 ストリングスとシンプルなリズム・セクション(やはりベースがすごく鳴っている)で構成されており、どうしてもヴォーカルに耳が行くような構造になっている。
 
8. ペパーミント・ブルー
 今アルバム中、一番フックの効いた曲。大滝本人による多重コーラス(何本重ねてる?)が聴きどころ。ドラムも一番軽快に鳴っており、タイトル通り、さわやかな印象。
 リゾートを連想させるタイトルがロンバケを連想させたので、当時シングル・リリースのなかった『Each Time』がメディアに紹介される際、流れる曲は大体これだった。
 “一番きれいな角度から君を見たいため、斜め横の席に座る“なんて、田舎の中学生から見ると、あまりにアダルティー過ぎて実感が湧かなかったけど、実際アダルトな年になると、そんな感情すら失せてしまうこと。大人になるというのは、そういうことだと理解できる。

 
 
9. レイクサイド・ストーリー
 オリジナル・バージョンと、現行フェード・アウト・バージョンとではラストが違うため、解釈によって、それぞれ意見が分かれるらしいけど、はっきり言ってそんなのはマニアの戯言であって、曲本体に大きな影響はない。俺自身、オリジナルに馴染んではいるけど、現行バージョンだって普通に聴くことができる。だって、アウトロの終わり方なんて、正直、どっちだっていい。
 比較的起承転結のはっきりした、映画的な歌詞である。“スケート・ラインで描くハートの絵“なんて、ビジュアルにしたら、それはもう…、かなり恥ずかしい。結構ストレートで情緒的な内容に、大滝本人としても、「これが最後だから」という気持ちもあったのだろう。かなり情感のこもった、力の入ったヴォーカルである。




 晩年はラジオ出演や執筆活動が多く、音楽的な創作活動は次第にフェード・アウトしてゆくのだけれど、自分の興味あるジャンルに出会うと、常に真摯に向き合い、素人ながら深く深~く探求・考察して行けたことは、"Happy End"な人生だったんじゃないかと思う。
 無数のエピゴーネンやしたり顔の関係者やら評論家やらが、自らの思い込みを押し付けてきても基本受け入れていた点は、多分おだてに弱いかお人良しだったのか、まぁ人徳もあったのだろう。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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