好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

首根っこ捕まえて奥歯ガタガタ言わせてまう音楽 - Miles Davis 『On The Corner』

 folderPrinceのルーツを辿ってゆくと、SantanaやSly Stone、そして最終的には今世紀最大のファンク・マスターJames Brownにたどり着く。ポピュラー音楽史上最大の影響力を持つリズムを産み出したJamesは、その後多くのフォロワーを生み出したのだけど、それは「ファンク」というジャンルそのものだけに留まらず、異ジャンルのジャズへも多くの影響をもたらした。
 円環構造を持つファンクのミニマズムと、ジャズの感覚的なインプロビゼーションとを融合した、『ジャズ・ファンク』という、そのまんま、両方のイイとこ取り新ジャンルの誕生である。テレビとビデオをくっつけたら『テレビデオ』になったようなものだ(また例えが思いつかなかった…)。
 
 ひと括りに『ジャズ・ファンク』といっても、その2つのジャンルの混合比によって、結構なバラつきがある。
 Herbie HancockやJohnny Hammondら鍵盤楽器系のアーティストは、どちらかといえばジャズ成分が多く、逆にDonald ByrdやFreddie Hubbardらの管楽器系になると、ファンク・テイストが強くなる傾向がある。直接息を吹き込む楽器を操ることは、それだけ肉声に近い分だけ、肉体的な要素が強くなるのだろう。
 この双方のバランスを調整し、さらにロックやソウルのエッセンスを加えると、今度はフュージョン/クロスオーバーという化学反応を起こし、また新たなジャンルの誕生となる。
 不確定性アドリブを含んだジャズ、中毒性のある反復リズムを延々展開するファンク、電気増幅により高いHPを放出するロック、エモーショナルなナチュラル・パワーは最上級のソウル、それらの混合比の振り分け具合によって、さらにジャンルは細分化される。
 これから聴き始める目安として、初心者向けに大まかなジャンル分けは必要だけど、細分化し過ぎるのも考えものである。むしろ各ジャンルのマニアの増殖をあおり、ジャンル仕分けの無数の奴隷を産み出すだけだ。

liebman_miles_041511

 そういった状況はお構いなし、混合比なんて細かいことを考えず、ジャズもファンクもソウルもロックも何もかも、とにかく全部ぶち込んでグッチャグッチャに混ぜ合わせた挙句、ジャンル分け不可能な音楽を作ったのが、Miles Davisである。HerbieやChick CoreaらMiles Bandの卒業生らが中心となったフュージョン・ブームとは、結局のところ、Milesが既にやっていたことの焼き直し・大衆化に過ぎない。

 このフュージョンというジャンル、当初は目新しさも手伝って、セールス的にはかなりの成功を収めた。Miles直系のWeather ReportやReturn to Foreverなどは、ここ日本においても安定した人気を誇り、来日公演も頻繁に行なわれていた。
 Milesの側近だった彼らの作品はまだよい。直系だけあって、一定水準のクオリティは充分クリアしている。問題はその他の連中、ブームの活況と共に、劣化型のフォロワーが多数デビューするようになると、その様相は徐々に変化してゆく。
 展開の薄い予定調和なアドリブ、やたら手数が多いだけのリズム・セクション、フレーズの早弾きだけが評価基準となったギター・プレイ。
 もともとスタンダード・ジャズにもその傾向はあったのだけど、フュージョンはそれに輪をかけて、次第に曲より演奏テクニックが重視されるようになってゆく。彼らのライブはレコードの忠実な再現、機械的な演奏のテクニック品評会と化していった。演奏において最も大切な、エモーションを置き去りにして。
 次第に自家中毒を進行させていったフュージョンというジャンルは、リズムどころか作品内容すらもミニマル化してゆく。どれを聴いても変わり映えしない金太郎アメ状態になったブームは終息する。

mdavis3_gq_8aug11_rex_b

 1972年発売、もう何枚目のリーダー作なのか。かなりのマニアでさえわからないくらい、Milesは多くのレコーディング・セッションを行なっている。ジャズの世界ではよくある話だ。
 巷でよく言われるように、ジャズというジャンルの中では、かなりの異端であり、問題作である。ていうか、自らジャンル分けを拒絶する、ほんとMiles Davisしかできない音楽であり、それこそが彼の目指すとことだったのだろう。
 これまでモダン・ジャズを聴いてきた正統派ユーザーなら、「こんなのはジャズではない!」と拒絶反応を示しただろう。かといって、これまでジャズを聴いたことがない人間に、「これがジャズだ!」と最初にお勧めできるアルバムでもない。一般的なモダン・ジャズのイメージとは大きくかけ離れている、混沌の美そのものである。
 
 当時、ワイト島ロック・フェスティバルなど、比較的ポピュラー寄りのコンサートにも頻繁に顔を出していたMilesにとって、従来の冗長なモード・ジャズは退屈で、前述のSlyやJBなどのファンク・ミュージックの方に、むしろ現在進行形的なリアルを感じていたのだろう。
 当時はあまりに先を行き過ぎたせいで、ジャズ・シーンの内側、そして外界でもほとんど理解を得られなかったのだけど、後年、真っ先に積極的なリスペクトを行なっていったのは、世界的なレア・グルーヴ・ムーヴメントによる過去の再評価、ヴィンテージ・ソウルやファンクを消化したDJ達だった。今ではジャズ界でも相応の評価はされるようになってきてはいるけど、まぁMilesにとって既存のジャズ・ファンはほぼ眼中になかっただろうと思われる。むしろ彼らのようにHIPな連中からの支持こそが、Milesの本意でもあった。

51NHwuvTCqL

 前述のフュージョンの要素だけでなく、さらにMilesは試行錯誤を繰り返し、このセッションにおいては現代音楽家Stockhausenやアフロ・ビートなどのエッセンスもぶち込んだ。スタジオでテープを長回しにしたまま、膨大なセッションを繰り返すうち、次々生み出される混沌の怪物は制御不能となり、挙句の果て、Milesはひとつの作品としてまとめることに嫌気が指したのか、中途半端で作業を投げ出してしまう。まぁこれも結局いつものことなのだけど、結局はプロデューサーTeo Maceroに丸投げしてしまうことで決着を見る。
 一人スタジオに残されたTeoは、大量のセッション・テープを聴き直し、Milesの意図・ビジョンに沿って切り貼りしながら編集し、かなりいびつな形ではあるが、強引にひとつの作品としてパッケージした。
 
 そしてユーザーの前に提示されたのが、このあらゆるリズムのごった煮である。メンバーの誰もが、一曲をちゃんと構成しようとだなんて思っていない。
 というか、バンド・マスターでありながら、まとめることを拒否し、好き放題勝手にやらせた結果が、この怪物だ。
 それもMilesの思惑通りであり、その意をくみ取ったTeoの仕業でもある。


On The Corner
On The Corner
posted with amazlet at 16.02.06
Miles Davis John McLaughlin Herbie Hancock Dave Liebman Jack DeJohnette Collin Walcott Chick Corea
Colum (2008-04-14)
売り上げランキング: 4,640



1. On The Corner/New York Girl/Thinkin' Of One Thing And Doin' Another/Vote For Miles
 ハイハットの16変則ビートと、ギターのカッティングで始まる。他にパーカッションが裏で鳴っているが、なんというか、突っかかってるような拙速なリズムが、単純なノリというのを減衰させる。
 この頃のMilesは電気的にエフェクターを利かせたトランペットを吹いており、後年のようなミュートはあまり使用していない。ただ、エレクトリック期以前のスタンダードな吹き方ではなく、リズムに背中を押されながら急かされて吹いているような印象。
 とにかく落ち着きがない。リラックス&ムーディーなスムース・ジャズとは正反対の位置にいる、あまりに殺伐とした音楽。
 ちなみにタイトル通り組曲となっているが、どこからどこまでが切れ目なのか、よくわからない。
 
2. Black Satin
 ジャズなのに、シングル・カットされた曲。といっても5分を超えるので、当時のシングルとしては、やはり異色。
 かなり音色をいじった、Milesのトランペットのリフが印象に残る。
 比較的、アルバムの中ではポップであり、当時のダンス・フロアでもかけられたことがあるらしい(こんなので踊れたのか?)後半のタブラが元祖ワールド・ミュージック。

 
 
3. One And One
 アコースティック期よりずっと、Milesは何も変わっていないことに気づかされる曲。
 冒頭のソロもエフェクトで歪められているし、ポリリズムを主体としたビートも不協和音となり、リズムの洪水が全体を支配しているけれど、その中で燦然と、しかも微動だにせず吹きまくるMilesがいる。
 
4. Helen Butte/Mr. Freedom X (Unedited Master)
 23分18秒の混沌の饗宴。
 2.をテーマとしてセッションが始まり、さらにどす黒いビートが深い底なし沼を成し。リズムの暗黒にリスナーを引きずり込む。暴力的なアフロ・ビートが宙を舞い、麻薬的な反復が脳内を駆け巡る。
 アルバム全体の特徴として、とにかく音が悪い。あらゆる音を詰め込み過ぎたせいで解像度が悪く、それぞれの楽器パートの音だけ取り出すことが、非常に困難となっている。
 ただ、それこそがMilesの狙いである。
 従来のモダン・ジャズと違い、アドリブ・ソロの羅列ではなく、壮大な一曲の構成要素はどれも不可分である。すべてのパートは等価であり、それはリーダーMilesでさえも例外でなく、どのソロも音の洪水に埋もれながら、瀕死の音で鳴っている。
 
Miles_Davis-On_The_Corner-Interior_Frontal




 ちなみにビルボード最高156位と、決して売れたアルバムではない。ていうか、この時期、ジャズは既にアウト・オブ・デイトな音楽として認知されており、ヒップな若者はジャズなんて聴くはずもなかった。 
 
 すごくわかりづらい音楽である。ただ、わかりづらくはあるが、決して難解ではない。
 多くのライト・ユーザーが好むのは、もっと八方美人的、あらゆるユーザーに対応できる幕の内弁当的な音楽だ。予定調和で分かりやすく構築された、まるでサプリメントのような音楽からは、安らぎやらリラックスやら癒しやら何やらは得られるけど、首根っこ捕まえて奥歯ガタガタ言わせたろか的な、強烈な吸引力はそこにはない。
 逆に、まったくジャズに興味のなかった人間、または俺のように、ヒップホップやソウルを通過してきた耳の持ち主なら、比較的スムーズに受け入れられるんじゃないかと思う。
 
 Milesの混沌の探求はさらに続き、この後も実験的な作品を立て続けにリリースするのだけど、日々湧き出る創作意欲とのギャップに、長年酷使された肉体が悲鳴を上げたのだろう。ドラッグの乱用も相まって、体は次第に限界に近づいてゆく。遂には日本公演のライブ・アルバム『Agharta』『Pangaea』を残し、この後療養のため、長期に渡る休業に入る。



Complete On the Corner Sessions
Miles Davis Collin Walcott
Sony Legacy (2007-11-06)
売り上げランキング: 317,840
Perfect Miles Davis Collection (20 Albums)
Miles Davis
Sony Import (2011-09-30)
売り上げランキング: 6,708

『アメリカの岡村ちゃん』?『日本のPrince』? - Prince 『Around The World In A Day』

folder 『アメリカの岡村靖幸』(?)とも評された、Prince1985年のアルバム。ビルボード最高1位、UKチャート5位。
 メガ・ヒット・アルバム『Purple Rain』のすぐ後だけあって、一般的には馴染みの薄いアルバムだけど、"Raspberry Beret" ”Pop Life”など、重量級のポップ・ソングがラインナップされており、話題性を抜きにすれば、前作と充分対抗できる内容になっている。

さすがにモンスター・アルバム『Purple Rain』ほどのセールスは獲得できなかったけど、既にこの頃から売り上げ枚数やらチャート・アクションやら、そういった下々の人間がウジウジ悩んでることからは、興味が薄れていたのだと思う。当時アゲアゲの上り調子だったPrinceにとって、もはや各国ゴールド・ディスクの枚数よりはむしろ、独立レーベル設立の喜びの方が大きかったんじゃないだろうか。
 これで好き放題やりたい放題のことができる、といった思いの方が強かったのだろう。

 とはいえ、いくら天才的なアーティストとはいえ、メジャー・レーベルと契約しているわけだから、それなりのプレッシャーはあったはず。レコーディングにおける、ほぼすべての作業(プロデュース・アレンジ・演奏その他諸々)を自前で行なえるくらいのスキルはあるけれど、やはり先立つものは「お金」ということになってしまう。
 スタジオ使用料、バンドの維持費、プロモーション費用など、こういった大きなお金もそうだけど、もっと細かな出費も相当なものだ。スタッフに出す弁当代や移動費だって、積もればバカにならないのだ。

tumblr_le4vmvU1Ab1qchhp6o1_500

 だからこそ大抵のミュージシャンは、予想される出版印税の中から必要経費として、それらのコストをレコード会社に負担してもらう。いわば、分け前の先取りだ。
 当然、ポッと出の新人アーティストなら、そのディールは微々たるもので、逆にレコード会社の持ち出しになる。ただしPrinceクラスの中堅どころになると、そろそろ自分の売り上げから、すべてを捻出しなければならない。金額的な負担は大きいけれど、その方が自分の意に適ったプロモーション展開ができる、といったメリットもある。そのためには分母を大きくしなければならないので、アーティスト、レコード会社とも、色々と策を講じることになる。

 黒いビキニ・パンツの上にコートを羽織っただけという、モロ変質者の風体でアルバム・ジャケットを飾ったり(『Dirty Mind』)、既に大御所だったChaka Khanに曲を書いてスマッシュ・ヒットさせたり(”I Feel For You”)、Rolling Stonesアメリカ・ツアーのオープニング・アクトに抜擢されたはいいけど、古株Stonesファンに猛烈なブーイングを浴びてまともに演奏できず、早々にステージ袖に引っ込んで泣いてしまったり、などなど。

 そんなこんなをしているうちに、『Purple Rain』の大ヒットである。
 これまでは、的のはずれた中途半端なプロモーションや、経費捻出のためレコード会社から無理やり押し付けられた仕事をジッと我慢してこなさなければならなかったけど、おかげで一気に借りを返してしまった。もちろん、当時ポピュラー音楽における絶対的存在だったCBSのMichael Jacksonへの対抗馬として、Warner主導による、映画・音楽双方によるメディア・ミックス戦略が当たった、ということもあるのだけれど。
 レコード会社のバックアップのおかげ、と頭では理解していながら、さすがに調子の乗ってしまったPrince、この勢いのまま、すぐに独自レーベル「Paisly Park」を設立、そして本作がリリース第1弾となる。

Prince-Raspberry-Beret-3314

 このアルバムがリリースされた頃はいわゆるライティング・ハイ、創作力のピークにあったPrince、通常2~3年に1枚とされていた、メジャー・アーティストのリリース・ペースのルーティンからはずれ、ほぼ年に1枚のペースでアルバムをリリースしていた。
 レコード会社の言い分としては、「一枚のアルバムをじっくりプロモートしたいので、余裕を持ったリリース・ペースで」というところだけど、まぁまだチャートに残っているのに、すぐ次のアルバムを出されたりしたら、商業政策上、たまったものではないだろう。売る側の言い分としては、当然のことだ。

 ただし、作る側であるPrinceの心情としては、とにかくあふれ出てくる音楽を、片っぱしからリリースしたくてたまらなかったはず。だからという理由もあって、彼は独立レーベルを作り、リリース音源のコントロールを開始した。
 自分名義でリリースするだけでは間に合わないので、グループ名義(Family、Timeなど)、他人名義(Sheila.Eのバック・トラック、ドラム以外ほぼ全部)を使って、とにかく正規音源を大量に世に送り出した。何しろライブと”Make Love”以外は、ほとんどの時間をスタジオで過ごしている男である。このくらいのことは何でもない。
 ありとあらゆる手段を講じても、それでも需要と供給のアンバランスは解消されず、前回にも述べたように、その大量の未発表曲は、すぐにもリリースできる形に整えられながらも、いまだリリースの目途さえ立たないままである。時々一部のマテリアルが流用されている場合もあるけど、それもごく稀なケースであり、ワーナーとの完全な和解がない限り、そしてPrinceが亡くなりでもしない限りは、倉庫に眠ったままなのだろう。


アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ
プリンス&ザ・レヴォリューション
ワーナーミュージック・ジャパン (2005-05-25)
売り上げランキング: 59,539




1. Around The World In A Day
 中近東風のイントロが、アルバム・タイトルである「世界一周」を予兆させる。
 とはいっても、回るのはこの現実世界ではなく、ファンク & サイケデリック・マスター “Prince”によって奏でられる、サイケデリックに彩られた脳内世界。

2. Paisley Park
 新レーベルの名前を冠した、メモリアル的なサイケ・ポップ。タイトルからしてペイズリーだし。
 全世界的に70年代リバイバルが始まった頃で、身近な所ではペイズリー柄のネクタイが流行った記憶がある。
 好評を得つつあった、Princeのギター・ソロも堪能できる。

3. Condition Of The Heart
 たっぷり2分半にも及ぶイントロの後、またシアトリカルとも言えるエモーショナルなヴォーカルを聴かせるPrince。"Purple Rain"ほどベタでなく、普通に女性アーティストにカバーされたら、それなりにドラマティックに聴けてしまう。
 あまりに多作だった時期ゆえに埋もれてしまいがちだけど、こういったストレートなナンバーも作れるほど、当時のPrinceの守備範囲は広かった。

4. Raspberry Beret
 1stシングル全米2位。Princeの曲で人気投票を行なったら、確実にベスト10に入ってくる、良質のポップ・ソング。
 珍しく全般的にストリングスを使用。それほど前面に押し出したミックスではないが、それ故、優雅さが伝わってくる。コーラスのWendy & LisaとPrinceとのヴォーカルが噛み合っていないところが、また良いのだろう。
 完璧な調和は、時として無味乾燥なものとなってしまう。

Poplifeprince

5. Tamborine
 この時期では珍しい、正当なファンク・ナンバー。
 変態リズムと1コードで押し通してしまう、2分程度のブリッジ扱いの曲。
 多分Princeにとって、こういったアイディア一発とも言えるこのタイプの曲なら、いくらでも作れるのだろうし、またストックも大量に残っているのだろう。同じような曲の断片なら、ブートでも腐るほど聴いてるし。
 その中でも辛うじて世に出ることができた、ある意味幸せな曲。

6. America
 Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』を意識したのかどうかは不明だけど、最大のポップ・イコン『アメリカ』に正面から取り組み、まんまストレートにタイトルに持ってきたナンバー。
 ストレートな8ビートと、ポップの王道的なコード進行によって構成された曲なので、Prince自身の個性的なヴォーカルを抜けば、比較的正当なパワー・ポップである。
 Bruceは現在(1984年当時)のアメリカを取り巻く現状に嘆き、それを敢えて前向きなサウンドに乗せることによって、皮肉を込めたつもりだったけど、大多数のバカなアメリカ人は、皮肉が理解できず、純粋なアメリカ応援歌として受け取ったため、その後Bruceは世間との乖離に長く苦しむことになる。
 Princeの場合は?世間的に、そこまで熱狂的に支持された曲ではないので、誤解を受けることはなかったけど、Prince的世界をこの一曲に凝縮するつもりだったのか、あらゆる構成要素の坩堝と化している。
 何しろ、アルバムでは3分足らずのこの曲、オリジナル・ヴァージョンは20分を超えるのだから。

20070803_344400

7. Pop Life
 サウンドはタイトル通り、ポップそのもの。こうして聴いてみると、『Purple Rain』よりも、サウンドといいメロディーといい、優れてる面が多い。
 今でこそフラットな視点で見ることができるが、『Purple Rain』は空前のビッグ・セールスによってメジャーになり過ぎてしまい、一般ファンにも「あのキモい風体の」Princeとして広く知られるようになったけど、昔からの頑固な洋楽リスナーにとっては、むしろ『Around The World In A Day』のマニアックなサウンドの方が人気が高かった。
 一部のElvis Costelloファンにとって、この曲は一時期ライブで何度かカバーされていたことで記憶に残っているのだけれど(ほんとに一部だな、この小ネタ)、正式にレコーディングしたい、というCostelloのオファーを無下もなく断った、Princeの了見の狭さに呆れたことでも、ごくごく一部では語り草である。

8. The Ladder
 荘厳としたストリングスから始まる、なんとなく”Purple Rain”を思わせる曲。ドラムの音処理が時代を感じさせるのと、ソウル・レビューっぽい語りとサビの盛り上がりとがクセになる。Eric Leedsの情感あふれるSaxが、時たま粗いAORっぽく聴こえるのはご愛嬌。

9. Temptation
 ディストーションをかなり効かせたPrinceのギター・ソロに、フリー・ジャズっぽいサックスが絡む、よく聴けば変な曲。一応バンド名義になっているだけあって(ほとんどのプレイがPrince自身のものであることは有名)、セッションっぽい響きの録音になっている。
 前半は、「ハード・ロックとハード・バップの融合」とでも形容すればわかりやすいかも(いや逆にわかりづらいか)。何しろこの時代にしては珍しく、8分の長尺曲。
 後半は一転して、フリー・ジャズ・テイストのサウンドにPrinceの陰鬱な語りと、時々叩きつけるようなピアノが絡み、混沌の世界一周が強引に幕を閉じる。




 この後、『Purple Rain』の二番煎じを狙おうとしたのか、Princeは再び映画の撮影に入る。一応ワーナー側のオファーを受け入れた形だけど、前回とパワー・バランスが変わったことによって、今回はPrinceの意向がかなり受け入れられた。よって映画主演第2弾『Under the Cherry Moon』は、幼少時のPrinceが好んで見ていたモノクロ画面のドタバタ・コメディといったコンセプトで製作され、当然歴史的な大コケとなる。
 それと同時に作られたサウンドトラック(いつ作ったんだ?)はセールスこそ目立たなかったものの、音楽的な評価は後年まで語り継がれるほどの代表作になる。
 その『Parade』の話は、また今度。


Hits & B-Sides
Hits & B-Sides
posted with amazlet at 16.02.04
Prince
Warner Bros / Wea (1993-09-27)
売り上げランキング: 10,436
Prince: Live at the Aladdin Las Vegas [DVD] [Import]
Hip-O Records (2003-08-19)
売り上げランキング: 84,695

モテたくてモテたくって…、イヤつまりその、君のコト好きなんだ - 岡村靖幸『家庭教師』

kateikyoshi  1990年発売、岡村ちゃんにとっては、4枚目のオリジナル・アルバム。オリコン・アルバム・チャート最高7位…、って、えっ、こんなにチャート低かったのっ?、ていうのが正直なところ。
 1990年といえば、空前絶後のバンド・ブームもちょっと落ち着いてきて、ユーミン、サザンなど、ベテラン・ミュージシャンらが息を吹き返し、ビッグ・セールスを叩きだしていた頃である。TVドラマやCMの主題歌が幅を利かせ、アニメ『シティー・ハンター』以外、強力なタイアップのなかった岡村ちゃんにとっては、分が悪かった時代でもある。
 というわけで、シングルはまぁ仕方ないとしても、アルバムはもう少しチャート的に健闘していると思っていた。

 もう少し詳しく調べてみると、発売月が11月、各レコード会社は年末商戦に差し掛かる頃である。よほどの知名度がない限り、それほど話題性のない、ましてや若手アーティストを、力を入れてプロモーションするはずもない。強力なヒット・シングルが入ってるわけでもなく、ましてや夜ヒットやMステに出たわけでもないので、宣伝する方もセールス・ポイントが定まらなかったのだろう。

 当時の所属レコード会社であるソニーは、岡村ちゃんに限らず、そういったクセのあるアーティストを多数抱えていた。従来なら、そういった彼らを世に広く知らしめるためには、地道なラジオ局廻りか音楽雑誌媒体しかなかったのだけど、手軽にPV製作ができるようになってからは、映像によるプロモーション展開が可能になった。ただ、日本ではまだスペースシャワーもなかった頃、なのでソニー、自社制作によるPV紹介番組『ez』を深夜帯にオンエアしていた。ゴールデン・タイムではお呼びのかかりづらいソニー系アーティストは、ここを踏み台にして知名度を上げてゆくのが定石だった。岡村ちゃんもデビューしてからしばらくは、そのローテーションの中に組み込まれていた。"だいすき"や"Peach Time"なんて、ここで何度か見たかわからないくらいである。
 よって、当時岡村ちゃんの姿を拝めるメディアは限られており、昼間やゴールデン・タイムに動く姿を見ることは、ほんと稀だった。

no title

 最初に岡村ちゃんの名前を知ったのは、アーティストとしてではなく、渡辺美里のアルバムで作曲家デビューしてのこと。シングルにもなった"Long Night"、今もライブでは重要曲である"Lovin’ You"など、気になった曲のクレジットを見てみると、すべて岡村ちゃん作曲のナンバーだった。
 当時TMネットワークがボチボチ知られつつあった小室哲哉も、主要ブレーンとして深く関わっていたけど、俺としては、まだデビューもしていない、無名の岡村ちゃんの楽曲の方に強く惹かれていた。

 その後、『シティー・ハンター』のエンディングでちょっと名が売れたりもしたけど、これについてはTMの"Get Wild"の方が圧倒的にネーム・バリューが強く、そして後世に伝えられる名曲となった。

 俺が再び興味を抱いたのはもう少し後、セルフ・タイトル『靖幸』、ベスト『早熟』とが続けざまにリリースされた頃だ。"聖書"、"だいすき"と、今でもファンの間では人気の高いキラー・チューンがシングルでも発売され、一般層にも少し知名度が上がってきた頃である。
 この辺で、確か主演映画も撮っていたはず。大してヒットはしなかったけど、「ちょっと変態チックな歌を歌う、ダンスの上手いPrinceフォロワーがいるらしい」という風評は広まった。形はどうあれ、岡村ちゃんのパフォーマンスは人々の記憶に残り、ある者は拒絶反応を示し、そしてある者は熱狂的に虜になった。

20110828_983817

 そして、この『家庭教師』である。
 "どぉなっちゃってんだよ"がリード・シングルとして先行発売され、ラジオで一発目に聴いたとき、マジで衝撃が走ったのを覚えている。車のCMソングにもなった"だいすき"からほんの2年弱、それが"どぉなっちゃってんだよ"になってしまったのである。
 この人はこれからどこへ行こうとしているんだろう、と思いつつ、日本ではまだ馴染みの薄かったファンク・ミュージックを自分流に消化して、「スター」岡村ちゃんへと昇華してゆく様は、20歳前後の男にとっては、暑苦しくってもどかしくってイカ臭くってちょっと女々しい、リアルなメッセージだった。


家庭教師
家庭教師
posted with amazlet at 16.02.06
岡村靖幸
ソニー・ミュージックダイレクト (2012-02-15)
売り上げランキング: 4,234




1. どぉなっちゃってんだよ
 初っぱなを飾る、これ以上はないというくらい、理想的なオープニング。岡村ちゃんの場合、セルフ・レコーディングが基本であり、ほぼすべての楽器を自分で演奏しているのだけど、どれもプロ顔負けの音を出している。いやもちろん、いわゆるハイ・テクニックなプレイではない。技術的にはアレなのだけど、スタジオ・ミュージシャンがお仕事でやってるような、無表情な音ではない。聴けば一発で、岡村ちゃんだとわかる、非常に記名性の高いサウンドなのだ。特にギター、アコギのカッティング・センスはスゴイ。

「俺なんかもっと頑張ればキット 女なんかジャンジャンモテまくり」

 とにかく、この詞のインパクトが強い。これだけむき出しの欲望を、エロく切実に、しかもポップに表現するアーティストなんて、これ以前も以降もいなかった。エロとポップの微妙なバランスがピタリとかみ合った瞬間、それが『家庭教師』というアルバムの形で残された。
 こうやって詞だけ抜き出して書いてみると、何だかとても間が抜けているのだけど、これが岡村ちゃんのヴォーカルで歌われると、切実な思いが胸に刺さる。
 『モテキ』の挿入歌として、または桜塚やっくんのカバーによって、発表当時よりはも少し知られている曲。



2. カルアミルク
 岡村ちゃんのバラードの中では3本の指に入る名曲。どのカラオケにも必ず入ってるし、岡村ちゃんビギナーにもとっつきやすく、しかも長年のファンの間でも人気のある、幸せな楽曲。
 「ファミコン」「ディスコ」「レンタルのビデオ」「六本木」など、1980年代後半の若者風俗がリアルに窺える、しかしそれでも古く聴こえない、不思議な曲。



3. (E)na
 モロPrince『Parade』『Lovesexy』期のサウンド引用によって作られた曲。イヤ、オマージュ、リスペクトというべきか。
 過去・現在を通して、Princeサウンドのフォロワーは、古今東西数多く出現しているのだけど、この頃の岡村ちゃんはサウンドだけでなく、存在意義・概念までをも体得し、しかもほんの一瞬ではあったけど、オリジナルを凌駕するまでに至った、数少ない一人だったと思う。
 岡村ちゃんのPVの中では、最も好きな曲。やはりPrinceを強く意識したダンスがタップリ見られる。



4. 家庭教師
 全編岡村ちゃん自身によるアコギの弾き語りによる、めっちゃファンキーなナンバー。タイトル・ナンバーながら、アルバムの中では異色の出来という、何だかよくわからない曲なのだけど、岡村ちゃんの暗黒面を露わにした曲と言えばいいのか。
 後半の長い長いモノローグ、感情をむき出しにしたギター・ソロなど、Prince"Crystal Ball"の世界に近いものがある。

5. あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう
 アコギのストロークによるオープニングが、とても気持ちいい。いつもよりレベルの大きい、ノン・エコーのヴォーカル、人工的な少年少女合唱団(風)のコーラスなど、結構遊びの多い曲。展開もめぐるましく、珍しくエフェクターを利かせたギター・ソロ、中盤にマーチング・バンドが入り、またアウトロが妙に長く、ファンクというよりはむしろ、プログレ的展開さえ窺える。
 アルバム・リリース直前に先行発売された当時、ライト・ユーザー対象のメディアでは、タイトルの長さばかりがよく取沙汰されていたけど、もう少しシリアスなメディア(といってもロキノン周辺くらいしかチェックしていなかったが)では、手放しで称賛し、色めき立っていたのを覚えている。それまではむしろ、暑苦しくってもどかしくってイカ臭くってちょっと女々しい、リアルなメッセージの歌詞ばかりが注目されていたのだけど、このアルバム・リリースの前後辺りから、その作り込まれた密室ファンク・サウンドにも注目が集まった。
 やはり『モテキ』で再び注目を浴びた。



6. 祈りの季節
 なんか古臭いサウンドだな、とずっと思ってて、改めて聴き直してみたら、ドラムのエコーがちょっと違和感があった。間奏のMilesっぽいトランペット・ソロはカッコイイと思うのだけど、そこがちょっと惜しい。
 日本の少子高齢化社会を先取りした歌詞はメッセージ性が強いと思われがちだけど、要するにヤリたいだけである。目的を成就するためには、それなりの設定、舞台装置が必要なのだ。

7. ビスケット Love
 再びPrinceテイスト、スカスカなビートボックスから始まるスロウ・ファンク。日本ではまだ一般的でなかった、テンポのゆったりしたネチッこいファンク・サウンドに、これまたネチっこく絡みつくヴォーカルで、ダブル・ミーニング入れまくりの歌詞が乗る。
 イチャイチャするのが好きなんだ好きなのはSEXだけじゃないんだけど君のことがとっても大事でもちろん体だけじゃないんだけどでも…、
でもやっぱり君とSEXがしたいんだ!
 っていうことをエロく、けれど真剣に歌い上げる岡村ちゃん。まさしく岡村ちゃんワールドである。
 実は、この曲の最大の聴きどころは歌が終わってから、終盤アウトロでネチネチと続く、先輩の彼女へのピロー・トーク(?)である。

e0qNoiA

8. ステップUP↑
 今度は同じファンクでも正統派、JB風ブラス・バンド入りファンク。「倫社と現国学びたい」というサビがクセになる。さすがに管楽器は岡村ちゃんの手に負えるるものではなく、外部ミュージシャンの起用によって、スタジオ・セッション風の音作りになっているけど、前曲の密室感から一転、開放感に溢れている。

9. ペンション
 ベッタベタなピアノ・バラード。でも日本人でこういったメロディが嫌いな人は、よほどの偏屈者か才能に妬む同業者のどっちかしかいないはず。

 「あだ名から 「さん」づけ呼びへの 距離を測れないだなんて
  ちょっぴり僕より 大人だね ねぇリボン」


 プライドの高い童貞っぽさがプンプン臭う歌詞を書く岡村ちゃんは、とても清々しいのだけど、この曲、その岡村ちゃんエキスがかなり濃く、静かなバラードなのに、最後のアドリブでは絶叫にも近いフェイクを入れている。
 女性シンガーが歌ったら、曲自体の良さはもっと引き立つはず。



 このアルバム・リリース後、それまでの蓄積を出しきったのか、岡村ちゃんはスランプに陥り、次のアルバム『禁じられた生きがい』リリースまで、なんと5年を要することになる。さらにこの後は、アレがこうしてあぁしてと開店休業状態、ここ数年でようやく復活の目途がついた感じとなっている。

 もちろん、現在の岡村ちゃんには、当時ほどキレッキレのイメージはない。才能と人格と感性とを削るような、あの切羽詰まった感覚は、もともと長く持つ類のテンションではないのだ。

 Princeと松田聖子をリスペクトし続けて、ここまでやって来た岡村ちゃん自身にも数多くのフォロワーが生まれ、彼らに助けられたりしながら、少しずつではあるが創作活動を再開している。

20090927095254

 近作"愛はおしゃれじゃない"のように、積極的に若手フォロワーとコラボしていった方が、良い物を作れると思う。
 いくら気持ちの若い岡村ちゃんでも、もうアラフィフである。普通の50代前後のアーティストなら、自分のスタイルを頑固に貫き通すがあまりファンにソッポを向かれるか、若者に迎合しようとして媚びて取り入ったはいいものの、逆に「ウザい親父」認定されてしまって自爆してしまうか、どちらにしろロクなことはない。

「昔の岡村ちゃんもいいけどさ、いまの岡村ちゃんもスンゴイんだぜ?」とリスペクトする若手たちをアゴでこき使い、手弁当でプロデュースさせ、しまいには共作までやってしまったのが、このシングルである。



 50近くになって、こんな歌を歌える岡村ちゃん、そして歌わせた小出君の功績はデカい。
 結果的に、少しずつではあるけれど、すべては良い方向へ向かいつつあるので、
 無理しない程度にがんばってね、岡村ちゃん。



OH!ベスト
OH!ベスト
posted with amazlet at 16.02.06
岡村靖幸 CAPTAIN FUNK (TATSUYA OE) 西平彰
エピックレコードジャパン (2001-03-28)
売り上げランキング: 26,136
岡村ちゃん大百科 [8CD + 2DVD] (完全生産限定盤)
岡村靖幸
ERJ (2005-02-23)
売り上げランキング: 154,748
カテゴリー
月別アーカイブ
記事検索
Twitter
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村

アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: