好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Amyの遺していったもの - Amy Winehouse 『At the BBC』

folder 近年の女性シンガーの中では圧倒的にキャラが強くてゴシップも多く、それでいてただの流行りものではない、記名性の強いヴォーカライズで世間を魅了したAmy、非業の死からそろそろ4年経過しているのだけど、今ではすっかり話題に上ることもなく、潮が引いたように忘れられつつある。亡くなった直後はそれなりにエンタメ業界にも激震が走り、アウトテイクをかき集めたようなラスト・アルバム『Lioness: Hidden Treasures』がリリースされたのだけど、その後はこのBBCライブがリリースされたのみで、それ以降の動きはほとんどない。未発表音源や他アーティストによるトリビュートの動きもあると思っていたのだけど、そういった盛り上がりもなさそうである。

 音楽業界に限らず、現在エンタテインメントの第一線で活躍するアーティストには、その才能とは別に、コンプライアンスの遵守が強く求められている。かつてのようなドラッグまみれで自堕落なロックン・ロール・ライフを送る者への風当りは強く、今じゃチャンスすら与えられない状況が続いている。
 スキャンダラスな言動やパフォーマンスによって注目を浴び、スターダムにのし上がる行為自体は、今でも続いている。しかし、一旦ヒットを産む存在になると、そこから路線変更を強いられる。ソフィスティケートされたエンタメ業界において、ファッションとしてのアウトローは、今でも十分セックス・シンボルとしての需要はあるけど、あくまでビジネスとして割り切って演じなければ、次第に隅に追いやられてしまう。イメージの世界以外では、常識人としての立ち振舞いが求められるのだ。

 そういった制約を窮屈に思っていたのか、はたまたそこまで考えが及んでなかったのか。結果的に破滅的な生涯ばかりが取り沙汰されるAmy、ある意味、生まれ来る時代を間違えてしまったんじゃないかと、都度思ってしまう。

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 Amyと同じような流れを歩んだアーティストで、俺が真っ先に思い出したのがJanis Joplin。彼女もまたAmy同様、本当に心を開ける友人や恋人が周りにいなく、孤独な生涯を短く生きた人である。キャリアの絶頂でオーバードースで亡くなってしまった部分も、Amyと重なっている。ちょうど次のアルバムのレコーディング途中だったため、残された音源をどうにかこうにかつなぎ合わせ、追悼盤として『Pearl』が作られ、皮肉にもJanis最大のヒットとなったのは有名な話。
 Janisの場合、その後も破天荒な生き様が70年代ロック特有のロマンチシズムと合致して、無数のフォロアーやインスパイアされた作品も含め、彼女自身の発掘音源も時々リリースされているのだけど、Amyに至っては、そういった動きもほとんどない。

 Janisが亡くなったのが70年代初頭、当時はまだロック・ビジネスも黎明期で、彼女のように波瀾万丈なストーリーも、話題性のひとつとして寛容に受け入れられるような雰囲気はあったのだけれど、現在ではAmyのようなアーティストにとって生きづらい時代になっている。表舞台での破天荒ぶりは許容されているけど、一旦プライベートに返ると、良き家庭人としての側面を見せなければならないのだ。

 Amyの場合、生前フル・アルバムとしてリリースされたのは実質2枚、死後に1枚と、物量的にはかなり少ない。しかも最近のリリース傾向として、1年も経たないうちに2枚組デラックス・エディションが出るという流れ なので、すでにマテリアルが使い尽くされている状況である。実際の活動期間も短いため、掘り返したとしてもリリースできるほどのクオリティのアイテムがどれだけあるか。
 あとはライブ発掘に期待するしかないのだけど、これまた末期はアル中の度合いがひどすぎて、まともにフル・ステージ演じ切れなかったケースも多々なので、さてどれくらい残っているか。

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 Mark Ronsonのディレクションによる華々しいデビューによって、主にポップのフィールドで活躍してた人だけど、本来はBilly HolidayやHelen Merrillの流れを汲んだ、正統なジャズ・ヴォーカルの人である。特にそのスキャンダルに翻弄された生き方は、Billyと被る部分が多い。
 AmyとBilly、そして前述のJanisにも言えることだけど、どうしてもこの3人、スキャンダラスな面ばかりが強調されてしまい、純粋に音楽的観点での評価がしづらいところがある。音楽と対峙するその姿勢はとても真摯であるのだけれど、どうしても音楽自体より、そのバックボーン、音楽以外の生きざまやら行動様式に注目が行ってしまうことは、アーティストとしては不幸なスタンスである。

 Amyに絞って話を進めると、コンディションの違いはあれど、どのライブでも一回一回が真剣勝負、全身全霊を込めて感情を叩きつけるような姿勢でステージに上がっている。なので、ライブ・テイクを聴いてみると、どれひとつ同じ歌がないことに気づかされる。いい時は歴史に残る名演になるのだけれど、悪い時は、そりゃもう呂律も回らないくらいひどいもので、とにかくムラがある。
 ユルい構成によるサプライズが許容された昔と違って、緻密に構成されたエンタテインメントが求められる現代において、玉石混交な彼女の歌は規格外なのかもしれない。

 だけど、音楽に規律を求め過ぎるのは、ちょっと違うんじゃないかと思ってるのは、俺だけじゃないはず。


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1. Know You Now (Live At Leicester Summer Sundae 2004)
 デビュー・アルバム『Frank』収録。スタジオ・ヴァージョンはシンプルなバッキングでAmyのヴォーカルを引き立たせるサウンドだったけど、ここではホーン・セクションが目立っており、Amyの歌もサウンドの一部に過ぎない。
 やはり生バンドが入ると気合も違うのだろう。

2. Fuck Me Pumps (Live At T In The Park 2004)
 同じく『Frank』収録。UKでは4枚目のシングルとして切られ、最高65位。まだ”Rehab”フィーバー前なので、この時期のシングルはどれもチャート・アクションは弱い。
 基本、スタジオ・テイクと変わらないシンプルなアレンジで、60年代ソウルとジャズの融合した形。ジャジー・ソウルではない。そんな洒落たテイストの曲ではない。

3. In My Bed (Live At T In The Park 2004)
 『Frank』からの3枚目のシングル・カット。これだけの数のシングルがあったということは、アルバムもそれなりのアクションだったのだろう。最終的にはUKではプラチナ獲得まで行ってるのだけど、多分”Rehab”以降のセールスも多かったと思われるので、リリース直後の動向は、ちょっとわからない。
 スタジオ・テイクはMark Ronsonコーディネートによるムーディーな現代版ビッグ・バンド的アレンジだったのだけど、ここではブラス・セクションが大活躍している。俺的には、スウィング時代のディーヴァが甦ったという設定の、スタジオ・ヴァージョンも好き。
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4. October Song (Live At T In The Park 2004)
 この時期もそうだけど、Amyは主にバック・バンドDap-Kingsとの行動が多かった。以前も書いたけど、Amyとのコラボによってバンドの維持費を稼ぎ、そこで得たノウハウや資金をSharon Jonesとの活動につぎ込む、というループだったのだけど、近年ではSharonとの活動も軌道に乗り、安定した活動振りである、と言いたいのだけど、肝心のSharonも最近体調がよろしくない、とのこと。無事を祈りたい。
 ここまでがデビュー間もないAmyのパフォーマンスが聴けるのだけれど、まぁ見事に変わってないアバズレ振り。手練れのバンドの振り回し具合、そしてどれだけAmyが脱線しようとも、最終的には帳尻を合わせてくるバンド陣。絶妙なコラボレーションが堪能できる。

5. Rehab (Live At Pete Mitchell 2006)
 ここから2枚目『Back to Black』収録曲が続く。UKではチャート最高7位だけど、世界各国でゴールド、プラチナムを獲得しまくった、言わずと知れた大ヒット・ナンバー。日本でもFMを中心にヒットしたし、結構TVでもサウンド・クリップとして、いろいろなところで使われている。なので、老若男女、知ってる人は意外に多い、データだけでは計り知れない認知度を誇る楽曲でもある。
 ここでのアレンジは至ってシンプルなため、ドスの効いたAmyのヴォーカルが前面に出て迫力が引き立っている。Rehabの意味は文字通りリハビリ。その後の経緯を思うと、歌詞が突き刺さってくる。

6. You Know I m No Good (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 こちらもUK最高18位にとどまったけど、同じく人気の高い曲。俺的には”Rehab”よりこっちの方が好きだし、実際ネットでもこの曲へのリスペクトは高い。50~60年代の古いジャズ・ソングかと思ってたのだけど、後にオリジナルと知って、ちょっとビックリ。2枚目でこの貫禄だったのだから、さらにキャリアを積んだら、とんでもない存在になってたんじゃないかと思うのだけど、うまくいかないものだ。



7. Just Friends (Live At Big Band Special 2009)
 この曲もそうだけど、『Back to Black』における双頭プロデュース体制というのはかなり的を射ていたんじゃないかと思ってしまう。ヴィンテージなソウル・テイストのジャズ・ヴォーカル・ナンバーはSalaam Remi、キャッチーなポップ・ソウルはMark Ronsonと役割分担することによって、アルバム的にもバラエティ感が出、チャートでも十分健闘できるスタイルを、この時点ですでに築き上げていた。
 実はスタジオ・テイクはちょっと大人しめなのだけど、やはりここはDap-Kings、そろそろヘロヘロになりつつあったAmyをサポートしつつ煽り立てている。

8. Love Is A Losing Game (Live At Jools Holland 2009)
ご存じイギリスの有名な音楽番組『Later With Jools Holland』からのテイク。時々CSミュージック・エアでも再放送しているので、うまくいけば見れるかもしれない。
 この曲もスタジオ・テイクは無難なポップ・バラードなのだけど、ここではAmyがドスを効かせたジャズ・バラードに仕上げている。ミックスのせいなのか、ピアノのアタック音も強く、演奏陣も力が入っている。やはりJools Hollandの前では手を抜けないのか?
 
9. Tears Dry On Their Own (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 UK最高16位まで上昇した、こちらもファンの間では人気の高い曲。なので、追悼盤『Lioness: Hidden Treasures』にも初期ヴァージョンが収録され、ここでもまだ元気な声の頃のAmyのヴァージョンで収録されている。俺的にAmyは『Lioness: Hidden Treasures』が最初だったため、どうしてもこのヴァージョンが基本となってしまっている。



10. Best Friends, Right (Live At Leicester Summer Sundae 2004)
 ヴォーカル・プレイとしては、多分これがベスト・テイク。もっとも声も通ってるし、フェイクやアドリブも効いている。ジャズ・ヴォーカル特有の崩し加減が苦手なビギナーも多いのだけど、このレベルなら充分人を惹きつけられる。

11. I Should Care (Live At The Stables 2004)
 ただ、この曲以降になると、本格的なジャズ・ヴォーカルが多くなる。まぁアルバム構成上そうなったのだし、普段のライブでも、何曲かはこのようなスタイルのスタンダード・ジャズを演っている。
 もともとは1944年、Bing Crosbyに書かれた曲ということなので、スウィングの入ったジャズ・ソングである。

12. Lullaby Of Birdland (Live At The Stables 2004)
 同じライブから、もう1曲。Birdlandはもちろん、Charlie Perkerのライブハウスにちなんだもので、こちらもゴリゴリのジャズ・ナンバー。Ella FitzgeraldのためにGeorge Shearingが書いたことは、いま知った。

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13. Valerie (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 オリジナルは2006年UKインディー・バンドZutonsによるもので、2006年のワールドカップで頻繁にメディアに使用され、イギリスではお馴染みの曲らしいけど、まぁそんなことは俺もいま初めて知ったくらい。
 Mark Ronsonとのフィーチャー・シングルとしてリリースされ、こちらもUK2位、EU圏でも数々のトップ10入りを果たしている、近年にしてはめずらしくジャズ・テイストの強いポップ・ソング。

14. To Know Him Is To Love Him (Live At Pete Mitchell 2006)
 これも昔から有名な、Phil Spectorによるオールディーズ・ポップ・ソング。シンプルなバッキングに、素直なヴォーカルを乗せる、ゆったりとした秋の夜長を感じさせる、夜にピッタリのナンバー。



 と、ここまで書いてから、Amyのドキュメンタリー映画がひっそり公開されていたのを、すっかり忘れていた。7月にイギリスで上映されたのだけど、その後日本で公開されるのか、それともDVDのみの発売なのか、情報は入ってこない。そこそこのヒットはしたようだけど、まぁ作品の性質上、大々的なロードショーというわけにはいかないようだ。
 本国イギリスでは、まだ忘れられていないことがわかっただけでも、充分としよう。



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80年代ソニー・アーティスト列伝 その4 - レベッカ 『Maybe Tomorrow』

Folder 1985年リリース、バンドとして4枚目のアルバムだけど、これまでの3枚が6曲前後収録のミニ・アルバムだったため、フルとしてはこれが最初。バンド自身もここからが実質的なファースト・アルバムとして認識しており、ちょっと長めの助走だったことを述懐している。

 当時彼らが所属していたのが、ソニー内に設立された、あの後藤次利率いるFitzbeat。LPレコード、7インチ・シングルの価格がそれぞれ2,800円、700円だった時代に、今で言うブロックバスター的なコンセプトをブチ立て、アルバム1,500円シングル500円という低価格路線でスタートした。ソニーが抱えるロック/ポップス系アーティストを廉価で短いスパンで提供することを目的として、基本アルバムは6曲のミニ・アルバム仕様、シングルも片面のみという販売スタイルだった。
 これは当時、結構話題になり、当初はレーベル・オーナー後藤を始めとして、レベッカや聖飢魔IIも同様のスタイルでリリースしていたのだけど、その肝心の後藤が多忙を理由に早々と離脱してしまってから、初期コンセプトの破綻が始まる。もともとこういった形態のパッケージをアーティスト側が望んでいたわけではなく、今で言うマキシ・シングルが普及していない当時においては、やっぱり通常のフル・アルバムがスタンダードであり、取り敢えずメジャー契約にありつくために同意しただけ。ミニ・アルバムの速報性は評価できるけど、作り手側からすれば、やはり格落ち感は拭えないのだ。
 もともとバンド自体のポテンシャルが高かった聖飢魔II同様、レベッカもまたフル・アルバム志向へとシフトしてゆく。

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 この時期のソニー手法というのが、いわゆる青田買いである。ライブハウスで活きのいいバンドを見つけると、すぐに担当ディレクターを仕向け、業界事情やバンド強化のアドバイスやらで徐々に囲い込み、ある程度モノになった時点で自社オーディションに参加させて入賞させ、箔をつける、というパターン。まぁどこのレコード会社でもやっていたことであり、今でも状況はそんなに変わっていない。
 当時のソニーはまだ設立して10年ちょっと、音楽出版事業としてはまだまだ基盤が脆弱で、他のメーカーと比べてドル箱アーティストは数えるほどしかいなかった。他社の売れっ子を引っ張って来れるほどのブランド・イメージも確立されていなかったため、自前で新人アーティストを育成していかなければならなかった。
 この辺の事情は、マガジン/サンデー創刊から大きく後れを取っていた少年ジャンプが、大御所ではなく、編集者が新人漫画家と二人三脚で作品づくりを行ない、のちの快進撃の下地となったストーリーと重なる部分がある。

 そのように手塩にかけた新人ミュージシャンをさらに成長させるため、自社主催イベントにまとめて参加させたり、先輩ミュージシャンのライブやレコーディングにコーラス要員として起用したり、または自社制作のPV紹介番組にブッキングしたりなど、のちのビーイング系やモーニング娘。系列にも応用された、自社内メディア・ミックスの先駆けとなったのが、このソニー商法だったんじゃないかと思う。

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 マドンナ”Material Girl”のパクリと揶揄された3枚目のシングル“Love is Cash”のスマッシュ・ヒットによって、お茶の間レベルでも認知されるようになったレベッカ、初のフル・アルバムとして発売されたいのが、この『Maybe Tomorrow』。オリコン最高1位はもちろんのこと、年間チャートでも安全地帯、クワタ・バンドに次いで3位という、女性ヴォーカルの新人ロック・バンドとしては、初の快挙である。何しろ130万枚も売れたので、雨後の筍のごとくコピー・バンドが出現して、のちのバンド・ブームの礎になったくらいだから、そりゃあもう大騒ぎで。

 正直、初期3枚のミニ・アルバムは曲を寄せ集めただけの印象が強い。収録されている曲も、なんかひとつ物足りない感じで、いかにもディレクターの指示に沿って作りました感が漂っている。もともとライブ活動中心だったレベッカ、レコーディング作業に不慣れな部分もあって、細かな詰めなどは、どうしてもスタッフへ委ねる部分が多かったのだろう。
 なので、俺もこの辺の作品は一回サラッと聴いた程度で、あまり印象に残ってない。もう二度三度聴く気になれないというのはつまり、その程度のクオリティという事である。
 それがこのアルバムからは、大きく雰囲気が変わる。サウンドの感触、音のボトムがグッと下がり、シンセ・サウンド中心だったチャラついたテイストから一転、リズム・セクションを前面に押し出すことによって、ハード・ロック的なテイストとファンクのグルーヴ・エッセンスが投入され、本格的なバンド・サウンドを志向するようになってきている。
 直近のシングル”Love is Cash”から較べると、この大胆なモデル・チェンジは、結構ギャンブルだったんじゃないかと思う。普通なら、次のシングルやアルバムもこの路線を踏襲して、ヤマハDX7使いまくりのチャラいガールズ・ポップ路線を続ける方が、短期的な戦略としては常道だったはず。しかしバンド側も、そしてスタッフ・サイドももっと長期的な視点で考えていたのか、敢えて流行に流されることのない、長期的なビジョンを見据えたサウンド作りを行なっている。
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 当時から演奏力構成力に定評のあったレベッカは、1980年代のUKニュー・ウェイヴ〜ポスト・パンクの流れにも通ずる、重厚なサウンドとテーマを持ってレコーディングに挑み、ソニーというレーベル・カラーとマッチさせることによって、ポピュラリティーもキープしたアルバムを創り上げた。

 当時はソニーのアーティスト全体のレベルも高かったため、レベッカだけが突出していたわけじゃないけど、後年聴き直してみても、そのサウンド・デザインは今でも充分通用するレベルに仕上がっている。
 こういったバンドが日々量産され、クオリティはもちろんのこと、商業性もきちんと考慮された作品が続々輩出されていた、それこそがソニーの全盛期、80年代である。

 実のところ、俺がこのアルバムを手に入れたのはずっと後のことだけど、どの曲もみんな覚えているという不思議。そう、レベッカのこのアルバムは、友達の家に行けば高確率で誰かが持っている、わざわざ自分で買わなくてもよいアルバムだった。
 収録曲である”フレンズ”は、今でもカラオケの定番だし、高校の文化祭のコピバンでレベッカを歌った同世代女子も多い。実際の数字上に表れたセールス・データ以上に、特にピン・ポイントで40代以上には凄まじい影響力のあったアルバムであり、バンドである。



1. Hot Spice
 発売時のキャッチ・コピーが「明日へ飛翔しつづけるレベッカの最新超強力アルバム!!」というもので、リーディング・トラックとしてはピッタリのナンバー。ノリが良く、歌詞は特別内容もなし。だけど、それがいい。意味なんてあるもんか。
 ゲート・エコーの効いたドラムとサンプリング・ヴォイスのコンビネーション、ファンクとロックをうまく融合させたギター・カッティングなど、演奏陣の聴きどころも多い。

2. プライベイト・ヒロイン
 改めて聴いてみると、Nokkoのヴォーカル・テクニックに驚かされる。適所にビブラートを利かせ、緩急を使い分けた表現は、やはり天性のディーヴァだったのだろう。ただ音程が取れてるだとか声質が良いというのではなく、サウンドに応じた声色を選べるだけの幅があるというのは、ポテンシャルの高さという他にない。それを的確にバッキングする演奏陣も抜群の安定感。

 “Tonight 悲しみはプライベイト ひとりで踊ってる
  つよがりな ヒロインなの“

かつて日本のガールズ・ロックはアバズレ感が強く、またはエキセントリックなサブカル系の女子など、大多数の普通の女の子とは乖離した場所で鳴っていたのだけど、レベッカ以降、等身大の女の子がちょっぴり背伸びした範囲の歌詞を歌うアーティストが増えた。こういったのは、80年代ソニーの功績のひとつ。



3. Cotton Time
 UKニュー・ウェイヴの香りが強く漂う、イントロだけ聴いてるとDuran Duranのようなサウンドを、この時代の日本のバンドで表現できるのはレベッカだけだった。いやもちろん、もっと先鋭的なアーティストはいたのだけれど、きちんと大メジャーのソニーの設備と予算を使うことによって、海外と同じクオリティにできたのは、やはりバンドの基礎体力の違い。頭でっかちな理屈だけじゃできないのだ。
 メロウなサウンドとシックなメロディ・ライン、そしてNokkoのウェットになり過ぎないヴォーカル。

 “Three Step Cotton Time
  明日になれば またつらいことの繰り返し
  Four Step Cotton Time
  やさしい このひと時を 夜よどうぞ奪わないで“
  
 案外ネガティヴな歌詞だったことに気づかされる。ここはやはりバブルに浮かれる前の日本、70年代の延長線上だった80年代中期を象徴している。

4. 76th Star
 ちょうどハレー彗星が話題になった頃だったので、それにからめた歌詞が時代性を感じさせる。
 リズム・セクションも音自体はアウト・オブ・デイトなのだけど、基本的なリズムがしっかりしているので、今でも充分通用する。しかしボトムが低いサウンドだよな。

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5. 光と影の誘惑 (Instrumental)
 UKポスト・パンクの流れを汲んだ、演奏陣によるナンバー。こういったナンバーをきちんとポップ・アルバムの流れに組み込めること、それはやはりきちんとしたサウンド・コンセプトに則ったもの、と考えたいのだけど、まさか時間が足りなくてヴォーカルを入れられなかった、ってわけじゃないよね?

6. ボトムライン
 ファンキーさを強調したCindy Lauperといった感じ。シングル・カットはされていないのだけれど、ライブでもよく演奏されていたため、ファン以外にも認知の高い曲。ダンス・ナンバーとしても優秀。



7. ガールズ ブラボー!
 ファンキーさとロック・テイスト、それでいて切ないポップ・メロディも内包した、きちんとしたプロによるナンバー。こういった凝った作りのサウンドを量産していたソニーのパワーも然ることながら、ハード・スケジュールの中、緻密なアンサンブルを構築した演奏陣も高いレベルの仕事をしている。
 ちなみに先日のMステ出演時、過去の出演シーンでNokkoが「バンドが自分たちの演奏を覚えてなくて、レコードを聴き直してライブの練習をしてる」と愚痴っていた。もしかしたらやっつけ仕事的なものもあったのかもしれないけど、できあがった音にそんな気配は感じられない。

8. フレンズ
 オリコン最高3位、年間チャートでも30位。しかも、14年後にドラマ『リップスティック』の主題歌として再リリースされた際も、オリコン最高6位まで上昇している。あのCDバブルの90年代にベスト10入りしているのだから、それだけ求心力の高い、恐ろしいパワーを秘めた曲。
 前述したように、あのチャラい”Love is Cash”の後にリリースされたシングルである。このモデル・チェンジは衝撃的だったことをリアルタイムで覚えている。

 “口づけを 交わした日は
  ママの顔さえも 見れなかった
  ポケットのコイン 集めて
  ひとつずつ 夢を数えたね“

 この友達が男の子なのか、それとも女の子なのか。どちらとも取れる、切ないティーンエイジャーの心の揺らぎを活写した歌詞。めちゃめちゃ大ヒットしながらも、決して使い古されることのない、永遠のエヴァーグリーンな時間。



9. London Boy
 シャッフル・ビートと"Be My Baby"のリズムをうまくクロスさせた、親しみのあるロッカ・バラード。結構複雑なリズム・パターンなのだけど、そこをサラッと歌いこなすNokkoだけど、もしかすると、こんな歌いづらいトラックにしやがって、と内心ムッとしてたかもしれない。

10. Maybe Tomorrow
 “Flashdance”と同じ音色のオープニングながら、壮大なスケールを感じさせる正統派バラード。

 “だけど明日は きっといいこと
  あると信じてたいの Maybe Tomorrow”

 このナンバーに象徴されるように、ソニー系のアーティストは総じてネガティヴな一面を持っており、単純な人生応援歌的な曲ばかり歌っているわけではないことに気づかされる。
「いいことあるさ」じゃなく、「いいことあることを信じていたい」と言い切ってしまう弱さをさらけ出してしまう勇気。
 元気100%のレベッカだけでなく、ちょっと切ない面も持ち合わせていること。
 リアルタイム世代がレベッカに魅かれる理由が、ここにある。



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大滝詠一の業界フィクサー振りが発揮された、夢のコラボレーション - 大滝詠一・佐野元春・杉真理 - 『Niagara Triangle Vol.2』

1200x1200-75 1982年にリリースされたナイアガラ・トライアングル・シリーズの第2弾。と言っても、第1弾リリース時、時代は大滝詠一にとっては逆風の頃、山下達郎も伊藤銀次も無名の若手ミュージシャンだったため、それほど大きな盛り上がりも見せず、速攻廃盤となった。なので、世間的にはこれが実質的な初お目見えとなった。
 大滝以外は常に若手ミュージシャン2人を起用する、というコンセプトのもと、今回のメンツは佐野元春と杉真理。どちらも音楽業界ではそこそこキャリアは積んでいたけど、一般的な認知はvol.1と大して変わらない程度だった。

 一応3人とも、当時はソニー系列のレーベル所属だったため、レコード会社の違いによる調整は比較的スムーズに行ったと思っていたのだけど、逆にグループ内から生ずる微妙な上下関係がこじれたため、企画自体がアウトになりかけたらしい。そこを大滝が、2人が出演するライブ・イベントにサプライズ登場、観客の前で大々的に告知して既成事実を作り、そこから話を進めていった、とのこと。
 まぁどうにか結果オーライで良かったけど、今の時代なら契約が複雑過ぎて、絶対まとまらない案件である。まだルーズな70年代を引きずっていた80年代初頭の音楽業界だからできた力業である。こうしたフィクサー的な役割、楽しんでやってたんだろうな、この人。

 前年リリースのロンバケの勢いもあってか、オリコン最高2位、年間チャートでも10位とかなりの売れ行きだった。前年末のシングル『A面で恋をして』のスマッシュ・ヒットが前評判を煽る形となり、話題性はあったのだろうけど、この時点では大滝以外、ほとんど知名度がなかったにもかかわらず、である。

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 ちなみに、ロンバケ・リリース後のナイアガラ・レーベルは怒涛のリリース・ラッシュを展開している。
 3/21にロンバケ・リリース後、4/1には過去のアーカイブ7枚を一挙再発、そして7/21にはロンバケのインスト版アルバム『Sing a Long Vacation』、そして年末には過去アーカイブをひとまとめにして、さらにコンピレーション2枚プラス新規ユーザー向けにナイアガラ第1期の詳細解説書とも言うべき『All About Niagara』を同梱したボックス・セット『Niagara Vox』をリリースしている。
 もちろんすべてはロンバケの大ヒットによって派生した企画であるのだけれど、ちょっと考えてみればわかるように、これだけの物量をいきなり短期間で用意できるわけがない。当然、それなりの準備期間は必要だったのだけど、ここでちょっと疑問が生じてしまう。
 ロンバケ以前は、はっきり言って収益性のかけらもなく、むしろ負債が原因で閉鎖の憂き目に遭った第1期目ナイアガラ・レーベル。なので、ロンバケがヒットする確率はかなり低い、と誰もが予想していたはず。こういった企画は通常、ヒットの兆しが見えてきて、ある程度期間を置いてからスタートするのが常である。なのに、このリリース・スケジュールだと、ロンバケが「ほぼ高確率でヒットすること」前提で進められたとしか思えない。
 それかまたは、フィクサーとして暗躍した大滝とソニーとの密約説など、考えればキリがない。

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 Miles Davis『Star People』のレビューでも書いたのだけど、このアルバム・リリース時の俺は中学生、やっとFMに興味が出始めた頃である。何となく名前だけでも聴いたことのあるアーティストが特集されたら、とにかく片っぱしからエア・チェックしており、彼らもまたその中のひとつだった。
 なので、特別狙って聴いたわけでもなく、新聞のラジオ欄をチェックして、たまたま聴いたのが、NHK-FMの「ニュー・サウンズ・スペシャル」だった。内容はほとんど覚えていないのだけど、やたらハイ・テンションで饒舌な杉、今と変わらずスクエアな口調でロジックな語りの元春、時々ボソッとオヤジ・ジョークを挟みながら、マイペースな語りぐちの大滝というのが、当時の印象。
 いわゆるプロモーション出演なので、アルバムの曲を間に挟みながらの軽快なトークで番組は進行したのだけど、いかにもギョーカイ人っぽい言葉のやり取り、そしてこれまでの歌謡曲やニュー・ミュージックとも質感の違う世界に、田舎の中学生は魅了され、番組終了時にはすっかり虜になっていた。
 どこか懐かしくありながら、分厚い音の壁をぶち立てる大滝、元春のはっちゃけたロックンローラー振りは、田舎の中学生にとっては、これまでとはまるで別世界の洗練された音楽として映ったのだ。杉は…、あんまり印象に残ってない。Gilbert O'SullivanやBeatles直系のポップ・センス、今は好きだけどね。

 前から思っていたのだけど、ここでの大滝のスタンスについて。
 佐野が「ちょっとやんちゃな末っ子のロックンローラー」、杉が「やや浮世離れして楽天家のポップな次男」と考えると、長男としての大滝の役回りは何だったのか、ということ。総合プロデュースという役割ではなく、彼がここで担った音楽性は何だったのか。
 
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 大滝詠一というアーティストは、ほんと日本のロックの黎明期から活動していた人だけど、そのキャリアの半分以上は裏方作業とご隠居状態で占められており、純粋にミュージシャンとして活動していたのは、10年強程度である。さらに脚光を浴びて活動していた時期というのは、ほんの4〜5年程度に絞られる。多分本人の中ではプロデューサー、またはレーベル・オーナーが本職なのであり、裏方意識の強い人である。
 なので、このアルバムもミュージシャンとしてのエゴよりもむしろ、アルバム全体トータルとしての完成度を優先している。ナイアガラ・トライアングルの初期コンセプトとして、若手ミュージシャンのショー・ケース的な意味合いを持っているので、プロデューサー的判断としては、あくまで狂言回し、大滝自身はそれほど目立たなくても良く、よって2人よりもインパクトの少ない楽曲を提供している。

 ほんとは一言で、ナイアガラ・サウンドとはこういうものなんだ、と言ってしまえば話は終わるし、無理やりカテゴライズする必要もないのだけど、敢えてジャンル分けするのなら…。
 あ、要するに歌謡曲なんだよな、と考えればスッキリする。
 ロンバケに引き続き、作詞を引き受けた松本隆。かつての盟友であり、また当時、歌謡界でブイブイ言わせていた売れっ子作詞家である。『Each Time』のレビューでも書いたのだけど、彼のウェットな感性が、ベタになるギリギリのラインを回避した、日本的情緒を想起させるサウンドとメロディを求めることによって、大滝のサウンドも変化していった。
 リズムにこだわるサウンド・メイキングのあまり、第1期ナイアガラ終焉時には音頭にまで到達してしまった大滝が次に向かったのは、メロディの追求だった。正確には日本人の琴線に直接響くメロディを引き立たせる、参加ミュージシャンが一斉に合奏することによって生じるナチュラルな音圧の構築だった。
 ゴージャスなサウンドは、小細工のないストレートなメロディを生み出し、芸術性と大衆性の両立によって、より大きな支持を得ることになった。その王道サウンドに言い訳はなく、新しい形のスタンダードなフォーマットとなり、松本によって創造された新感覚の歌謡曲となった。


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1. A面で恋をして
 オリコン最高14位。資生堂化粧品秋のキャンペーン・ソングとして、それなりに売れたのだけど、CMに出演していたモデルのスキャンダルによって、放映して1週間で自粛、当時放映されていたTBS「ザ・ベストテン」においても、「もうすぐベストテン」コーナーで出演か?!とも噂されていたのだけれど、結局噂で終わってしまった因縁の曲。
 サウンドはど直球のスペクター・サウンドであしらわれており、本人はそうは言ってないけど、どう見ても売る気マンマンのテクニックを披露している。まぁ単独名義じゃないし、若手にミソつけるわけにもいかないものね。



2. 彼女はデリケート
 
  “出発間際にベジタリアンの彼女は
         東京に残した恋人の事を思うわけだ
    そう、空港ロビーのサンドウィッチ・スタンドで。
    でも彼女はデリケートな女だから、
         コーヒーミルの湯気のせいで、
    サンフランシスコに行くのをやめるかもしれないね“
 
 シングル・ヴァージョンにはない、印象的なモノローグからスタート。ちょうど同時代の村上春樹と同じ匂いを感じるのだけど、俺的に双方のスノッヴな世界観は、当時の憧れでもあった。同世代でそういう人は、結構多いはず。
 元春の曲の中でも1,2を争う疾走感、あっという間の3分間。Buddy Hollyの現代版とも言うべきロックンロール・サウンドは、他のアーティストの追随を許さぬパワーにあふれていた。
 ちなみに、もともとは沢田研二に書き下ろされた曲で、そちらも軽快なロックンロールに仕上げている。

3. Bye Bye C-Boy
 もともとはデビュー前に作られていた、元春のポップ寄りナンバー。多分、ナイアガラ的なものを入れた方が良い、という元春の判断によって、ストックから引っ張り出してきたんじゃないかと思われる。ちょっとフォーク・テイストも入って、当時としても古臭く聴こえたのだけれど、まぁこういった一面もアリっちゃアリ。
 
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4. マンハッタンブリッヂにたたずんで
 歌詞にはマンハッタンもNYも出てこないのだけど、スノッヴなキーワードが自然に溶け込んでおり、どこか永遠の旅行者的な佇まいさえ感ぜられる、元春初期の傑作。
 基本はフォーク・ロックなのだけど、敢えてギターを前面に出さず、ベーシックなリズムと鍵盤系を多用、珍しく女性ヴォーカルをバックに従えることによって、これまでと、そしてこの後もあまり類を見ないサウンドになっている。

 「ストレートに誰かに愛を告げて
 その愛がまた 別の愛を生む世界」

 なのに、ここでの元春はその後すぐ、「そんな夢を見てた君はクレイジー」と言い放ってしまうのだ。歌詞中にあるように、どこかでシニカルで、それでいてどこか地に足のついていない、不思議な感触の曲。



5. Nobody
 John Lennonをテーマに書いたということで、思いっきり初期Beatlesのオマージュとして、精巧に仕上がっている。パロディやパクリという次元ではない、古くなることのない永遠のポップ・ソング。

6. ガールフレンド
 ついさっき知ったのだけど、もともとは旧友竹内まりやに書いた”目覚め"の歌詞をリライトしたセルフ・カバー。ベッタベタなポップ・バラードで、ちょっと甘さがキツイのだけれど、まぁ当時のまりや向けだから、ファニー過ぎるメロディは致し方ない。

7. 夢みる渚
 シングル・カットもされた、杉のナンバーの中でも歴代トップ3に確実に入ってくる、人気の高い曲。ホント優等生的なポップ・ナンバーなのだけど、ここまでBeatles、特にPaulのサウンドを消化してた人は、日本ではほとんどいなかった。歌詞中の「Long Vacation」というキーワードを使ってても、嫌味が見られないのは、やはりこの人の人徳。
 
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8. Love Her
 もしかすると、このアルバムの中では最も完成されたポップスかもしれない。すぐ口ずさめてしまう歌詞、過剰でない程度のBeatlesへのサウンド・オマージュ、特に70年代までのPaulが憑依したようなポップ・センス、ラストのコーダで徐々に熱が入る杉のヴォーカルも、完璧。

9. 週末の恋人たち
 Elton Johnのポップ加減がBilly Joelのロックンローラー振りを抑えつけてしまったようなサウンド。この時期としては珍しく分厚いストリングスを導入、かなりポップス寄りの老成したポップスを演じている。この頃の元春は、今で言う「意識高い系」なオーラが漂っており、現実の生活と遊離したライフスタイルを歌にすることが多かった。ある意味、今も浮世離れしたようなキャラクターだけど、それを貫いていってるのは、この世代の特徴。

10. オリーブの午后
 本人曰く、松田聖子”風立ちぬ”のアンサー・ソング的スタンスの楽曲である、とのこと。まぁ確かにテイストは似てるだろうけど、この人の場合、後付けのこじつけも結構多いため、話半分に聴いておいた方がいい。結果的に似ちゃったんだろうけど。
 歌詞はもう、なんてこともないリゾート・ソング。改めて歌詞に目を通してみたけど、イメージ先行で中身はない、と言っていい。これでいいのだ、だってリゾート向けの歌だもの。

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11.  白い港
 こちらも改めて聴いてみると、ヴォーカルが一番熱が入ってるのは、この曲だと気がついた。なんかすごく朗々と歌ってたようなイメージがあったのだけど、全編に流れるストリングスが錯覚させただけで、かなりフレーズごとに丁寧に歌っているのがわかる。
 レコーディング自体も、多分ストリングスは別録りだろうけど、基本サウンドはロンバケで確立したオール・キャスト一発取り。後半の鍵盤系のダイナミズムは、今じゃ再現できない。

12. Water Color
 最初に聴いた中学生の頃、一番好きなナンバーがこれだった。当時の北海道の夏は今と違い、もっと曇り空も多くて肌寒い日も多かったけど、この曲から想起させる、本州の長い夏休み、突然の夕立の情景に憧れたものだった。

「斜めの 雨の糸 破れた 胸を縫って」

 こういった詩的な情景、宮沢賢治を思わせる描写こそ、中学生の心を鷲づかみするものだった。



13. ハートじかけのオレンジ
 『Each Time』収録”魔法の瞳”に直結する、シンセを中心としたエフェクトをメインにサウンドを構成したらどうなるか?という実験のもとに作られたような曲。ポップでファニーでメロディアスでいて、そして可能な限り歌詞から意味を取り去った、完璧なポップ・ソング。具体的なキーワードばかりながら、散文詩のような言葉の羅列は、メッセージや主張を読み取ることを拒否している。
 メロディはいろいろなオールディーズからのオマージュにあふれているので、親しみやすく口ずさみやすい。ナイアガラーの人なら、「このフレーズは1958年にマイナー・ヒットした何とかからの~」と分析しているのだろうけど、俺的にはそこにあまり意味を見いだせないし、そこまで深く掘り下げるよりは他の音楽を聴いていた方がいいので、そういったのはパスで。




 杉はパブリック・イメージ通りの中期Beatlesサウンドを演じきったのだけど、ここでの元春は、あらかじめ想定された枠内でのロックンローラー、いわゆるナイアガラ・ユーザー向けのロックンロールで収まってしまっている。それが大滝からの無言のプレッシャーだったのか、それとも自らの思い込みで枠組みを作ってしまったのか。
 どちらにせよ、元春の一面でしかないポップ・サイドの強調は、ここでは不完全燃焼に終わっている。なので、そのポップ性とバンド・サウンドの融合を実現した次のシングル『Someday』で勝負をかけることになる。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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