好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

多分あまり知られてない、『無記名の音楽』 - James Mason 『Rhythm Of Life』

folder グーグルで「James Mason」で検索しても、出てくるのはイギリスの古い映画俳優の名前ばかりで、ジャズ/フュージョン・ミュージシャンJames Masonについては、ほとんどヒットして来なかった。wikiでも一応調べてはみたのだけど、この『Rhythm Of Life』のこと以外、経歴・バイオグラフィー・ディスコグラフィーその他諸々の詳細は、ほとんどわからなかった。
 
 ギタリストとして、Roy Ayersの元にいたところまでは、割とよく知られているけど(といっても、世界中のレア・グルーヴ・マニアのごく一部だけだろうけど)、まともなソロ・アルバムはこれくらいしかないので、それ以前・以後のことはほとんど知られていない。
 生きてるのか死んでるのか、もし生きていたとして、ミュージシャンとしては現役なのか隠遁状態なのか。1980年ごろ、日野皓正のアルバムにチラッと参加したらしいけど、これは未聴なので、結局わからずじまい。
 それくらい謎のヴェールに包まれた、乱暴に言っちゃえば、それほど関心を持たれなかった人である。
 
 1977年リリース当時も、それほど売れたわけではない。当時の新人アーティストの慣例として、アルバム契約もワン・ショットだったと思われる。
 これが売れれば次のアルバム制作もあり得たのだろうけど、あいにくフュージョン・ブームに乗っかるにはナイーヴすぎたのかもしれない。Herbie Hancockほどの下世話さと政治力があれば、また歴史は違っていたのだけど、セールス的にも次を期待されるほどの成績は残せなかった。なので、その後は表舞台へ出ることもなく、そのまま時代に埋もれてしまう羽目となる。

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 彼が脚光を浴びたのはもっと後年、世界的なレア・グルーヴ・ムーヴメントでの再評価がきっかけだった。最初はヒップホップから、主にサンプリング・ソースとしての需要だった。
 ブームの最初の頃なら、James BrownやCurtis Mayfieldなど、ソウル/ファンクの有名どころから引っ張ってくればよかったのだけど、みんながみんな同じ音源を使いまわしてると、次第にそれも飽きられてくる。市場が爛熟化してゆくに連れ、まだ誰も手をつけてないソースを使って差別化を図らないと、生き残ってはゆけないのだ。
 そういった事情もあって、世界中の場末の中古レコード店のエサ箱は、クリエイター達によって発掘されることになる。時代の流れに埋もれたジャズ・ソウル・ファンク・フュージョンの旧作が彼らによってサルベージされ、「隠れた名作」というレッテルを張られ、市場に再出荷された。
 Jamesのこのアルバムも、リリースから15年の歳月を経て、DJや研究家によって再発見されて脚光を浴び、今ではレア・グルーヴ界ではスタンダードとなった。
 
 解明されている個人情報がほぼ皆無のため、アーティストのネーム・バリューなどの周辺情報を抜きにした、残された音楽のみが純粋に評価された、アーティストとしては、ある意味究極の理想である。「無記名の音楽」とは、最高の褒め言葉だろうか。
 
 初ソロ・アルバムだけあって、かなりの気合の入り方が窺えるけど、ジャズ/フュージョンというジャンルにしては珍しく、特にマルチ・プレイヤーとしての才能が開花。本来の担当楽器であるギターはおろか、ピアノやフェンダー・ローズ、ムーグなどの鍵盤系を操ることはおろか、アレンジ・プロデュースもほぼ独自で行なっている。
 
 時代的な背景もあるのだろうけど、どちらかといえばフュージョン寄りの人である。70年代のジャズ・シーンにおいて、正統なモダン・ジャズはほぼ衰退しており、この時期にジャズで身を立てていこうとすれば、スタジオ・ミュージシャンかフュージョンの途へ行くか、はたまたこのJamesのアルバムのように、ファンク成分を混ぜたジャズを演奏することがトレンドとなっていた。 
 ほとんどの曲がヴォーカル入りなので、普通のソウル、ファンク好きの人でも充分楽しめるだろうし、こうした演奏メインの音楽に新しい価値観を見出す人も、少なからずいると思う。俺もその一人だ。


Rhythm of Life
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1. Sweet power your embrace
 James自身のアープによるイントロから、印象的なギターのカッティング。ジャズ/フュージョンの場合、ある程度の基準で演奏テクニックが保証されているので、変にギターの音色にエフェクトをかける必要がなく、ごまかしのないクリア・トーンを聴くことができる。
 2分半も経ってから、やっとClarice Taylorのヴォーカルが入る。力強くありながら、曲に合わせて抑えたヴォーカル。Justo Almarioによるスタンダード・ジャズ・スタイルのサックス・ソロと、Jamesによる激しいギター・ソロが絡み合ってフェード・アウト。

 
 
2. Good thing
 Clariceの独壇場。レア・グルーヴのコンピに何度も収録された、クールなソウル・ナンバー。ギターはそれほど効いてなく、Jamesはトータルなサウンド・メイキングに徹している。
「パッパラッパッパー」と薄くかかるバック・コーラスもソウル・マナーに則っている。
 
3. Free
 Mustafa Ahmedによるコンガのアフロ・ビートとJamesのアープが絡む。
 ここでの主役はNarada Michael Waldenによる正確なハイハット。
 今ではプロデューサーとしての名声が上になってしまったNarada Michael Walden、かつてはジャズ・ミュージシャンとしての活動もコンスタントに行なっていた。これだけ曲を引っ張るドラムが叩けるのに…。
 ある時期から、Whitney Houstonに魂を売ってしまった結果なのだろう。
 
4. Mbewe
 ブリッジ的なインストの小品。ここはJustoの伸びやかなサックスが主役。ギター・カッティングに混じる生ピアノが心地よい。
 ところでこれ、何て読むの? 
 
5. Funny girl
 再びClariceの出番。これもよくコンピに収録されたり、ミックス・テープで使われたり、汎用性の高い音である。
 ジャズ/フュージョン系全般に言えることだけど、どれも非常に録音が良い。エンジニア達も効果的なマイク・セッティングや録り方を熟知しているのだろうし、ミュージシャン達もまた、楽器の鳴らし方をよく理解しているのだろう。マスターの状態が良い分だけ、後年再発売される際もリマスター効果は大きい。
 ロック・ポップス系の場合だと、昔の録音はやっつけ仕事的な物が多く、しかもテープの保存状態もぞんざいなので、最新のリマスターを施したとしても、妙に古臭く聴こえる場合が多い。一時的な流行ものとしての認識が強かったため、末永く残るように作る必要はない、と現場も上層部も判断していたのだろう。
 それに引き替えジャズの場合、昔からテープ管理も比較的良かったこと、また流行もの的なエフェクトをあまり使用していない分、風化することが少ない。
 この曲など、特にヴォーカルを含むすべてのパートが適切な状態で録音されており、それぞれの音が太く、独自の存在感を醸し出している。

 
 
6. Slick city
 シャッフル・ビートに乗って、横揺れしたClariceがハンド・クラップしながら、軽快に踊り歌う姿が思い浮かぶ、ノリのよい曲。やっぱりNarada Michael Walden(ナラダマイケルウォルデン、と一気に言いたくなってしまうような名前だな、これ)のドラムが歌っている。

 
 
7. Rhythm of life
 タイトル曲。少し走ったシャッフル・ナンバー。
 ドラムがDwayne Perdueに代わってるが、Narada Michael Walden同様、リズムが走る走る。
 Jamesが久しぶりにカッティングとソロと両方でフル回転、一番弾きまくってる曲である。Clarieも演奏に引っ張られて力が入るのか、声が太い。

8. Hey hey hey
 2分弱のブリッジ。タイトル通り、掛け声メインで作られた、シンプルなナンバー。後半でJames 自身のヴォーカルも聴ける。
 下手ではないけど、いかにもミュージシャンが片手間で歌ってみました風なので、若干の照れが見られる。ここで開き直って、もう少し色気があれば、George Bensonも夢じゃなかったのに…。
 
9. I've got my eyes on you
 これもよくコンピで聴ける曲。Dwayne参加のセッションは、どれもリズムが良い意味で走っている。
 ClariceとJustoの掛け合いが最高。一番歌い上げている曲だと思う。
 同じようなリズムなのに、ドラムが違うと、これだけヴォーカルの力の入れ具合も違ってくる、という良い見本。
 あっ、Jamesもモチロンいい味出してます。

 
 
10. Dreams
 ラストは少し軽めに。
 この辺りの曲を、いまのミュージシャンがアシッド・ジャズ風にカヴァーしてくれれば、もう少し知名度も上がるのに、と思う。
 けど、まぁ上がんないか、今どきアシッド・ジャズじゃ。
 でも俺はちょっと聴いてみたい。




 一般的にジャズのオススメといえば、Miles DavisやJohn Coltrane、Bill Evansなどの、いわゆるジャズ・ジャイアンツの面々をお勧めすることが無難なのだろうけど、ロックやポップスを聴いてきた耳で、いきなり歌が入ってない音楽を聴いても、そんなに楽しめないと思う。
 俺自身も若い頃、お勉強感覚でモダン・ジャズを片っぱしから聴いていたけど、次第にどれも同じに聴こえてきたので、一時期聴くのをやめてしまった。無理に聴いたとしても、やはり興味の薄いものは好きになれないのだ。
 ネーム・バリューに躍らされるのではなく、例えば俺のように、レア・グルーヴ経由でジャズ/フュージョンの世界に入った方が、ずっと間口は広いだろうし、好みの音を探す作業は楽しいものである。しかも、自分で苦労して探し求めたアイテムは、ずっと自分の宝物になる。



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レア・グルーヴ界の大姉御、自由な歌いっぷり - Marlena Shaw 『The Spice of Life』

Marlena-Shaw-The-Spice-of-Life-L602498818695 この人の代表作は、Roberta Flack作のスタンダード・ナンバー”Feel Like Makin’ Love”収録の『Who is This Bitch Anyway?』なのだけど、ここはあえて定番を外して、その前にリリースされた本作を紹介。
 
 ブルー・ノートと契約していた時期もあったため、ジャンル的にはジャズ・ヴォーカルの人として分類されているけど、一般的にイメージされているジャズ・シンガーとは一線を画し、エモーションあふれるソウルフルな歌いっぷりが特徴である。それだからか、純粋なジャズ・ファンよりもソウル系からのリスペクトが高く、特にレア・グルーヴ、ヒップ・ホップ系の世界では、サンプリング・ソースとしての需要がめちゃめちゃ高い。
 
 若い頃なら誰でも当てはまりそうな話だけど、例えばラジオ番組をエアチェックして、あとでまとめて聴いた中で、気になる曲があった、昔のFM雑誌なら、特にNHKならオンエア・リストがほぼ完全に載っているので、そこを取っ掛かりに雑誌やレンタル・レコードで情報を集める。PoliceやCostelloやPrefab Sproutだって、最初はそうやって見つけていった。
 情報源の少ない80年代は、自分で能動的に、しかも限られた予算の中でやりくりしながら、LPレコードを買い、そして何度も、ほんとに針が飛んでしまうくらいまで、一枚のレコードを舐めるように聴きまくっていた。時間だけはたっぷりあったので、クレジットや歌詞、訳詩や解説まで、ほんと何度も何度も目を通していた。

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 これが20代になると、ちょっと様相が変わってくる。少し自由になる小金を持ち、月に何枚もアルバムを買えるくらいの余裕ができてくる。すると、次から次へと欲しいアルバムが出てきて、何しろ札幌だとタワーで輸入盤が安く買えるので、ついつい吟味もせず大量購入してしまう。そうなると、一枚のレコード・CDにかける時間と思い入れが薄くなってゆく。
 ロックも十年以上聴いていると、実際に聴かなくても、ある程度、サウンドの予想ができるようになってくる。雑誌レビューやジャケットを見て、こんな感じのアルバムなら、多分DylanっぽいヴォーカルにR.E.M.系のアコースティック・サウンドだろう、と大よその予想がついてしまう。実際、聴いてみると、確かにその通りだ、個性的なヴォーカルも堅実なバンド・サウンドも良い。
 
 でも、ただそれだけだ。
 
 新しい音楽を耳にした時のかつての感動はもはや薄れ、ただの確認作業になってしまう。彼らが悪いのではない。こちらの受け入れ態勢が、もう既存のロックでは響いて来ないのだ。
 
 それでもロック周辺しか選択肢がなかったため、その界隈であれこれ嗅ぎ廻る状態が何年も続いたけど行き詰まり、とうとう仕方なく、といった体で、ほぼノーマークだったソウル系に手を出したのが始まり。
 ラップに興味を持とうとした時期もあったのだけど、言葉の壁はあまりに高くてすぐに挫折、その後ちょっとした冷やかし半分でレア・グルーヴ系のコンピレーションに手を出してみた。気になる曲があった、他にこういった傾向の曲はないか?いろいろググってみると、海外のMixcloudやSoundcloudに、ソレ系のMix Tapeがあった、しかも大量。そこからまた気に入った曲をiphoneアプリで検索、Youtubeで探し出す。サイド・バーに他のおすすめ曲が並んでいる。そこからまたYoutube検索&アルバム購入の無限ループ…。
 …あれ?俺のやってることって、昔と変わんないんじゃね?

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 昔よりも探す選択肢が増えたため、飛躍的に効率化は進んだ。当然ファイルは日増しに増大しているけど、かつての脳内インプットの流れ作業ではなく、新たなフィールドでの未知への好奇心は、とどまるところを知らない。そうやって、俺のitunesには大量のジャズ、ソウル、ファンク系のファイルが常時稼働し、そして増殖し続けている。


The Spice Of Life
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1.Woman of the Ghetto
 クラブ系の人気も高い、導入部のベースがクールな、ミドル・テンポのバラード。ジャズよりむしろ、ブルース・シンガー系統のパフォーマンスだけど、中盤のフェイクが絶品。スパイス的に織り込まれるカリンバの音色が効いている。
 これ以降の曲はせいぜい2~3分程度なのだけど、この曲だけ6分超、群を抜いてスケールが大きい。

 
 
2.Call It Stormy Monday
 冒頭のハープからして、完全にシカゴ・ブルース。そりゃブルース・スタンダードだから当たり前か。
 かなり抑制された歌声が、他のカバーとは一線を画す。1.と違い、こんな表情もあるんだ、というところが、彼女の幅の広さ、テクニックの多彩さを窺わせる。
 
3.Where Can I Go?
 ややジャズ寄りになってきたけど、それでもブルース臭が残るヴォーカル・スタイル。演奏はブルース、リズムは基本4ビートという、なんか変な曲。
 
4.I'm Satisfied
 今度はソウル寄り。Aretha Franklinあたりが歌っててもおかしくない、ポップなR&B。

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5.I Wish I Knew (How It Would Feel to Be Free)
 ハモンドの響きが時代を感じさせる、同じくソウル寄りの曲。モータウン・ポップとアトランティックのサザン・ソウルとの融合といったところか。
 普通にシングルで切っても、当時なら売れたんじゃないかと思う。
 
6.Liberation Conversation
 Marlena代表曲の一つ。
 ゲンゲンゴゴンゴン…(字で書いたら、なんか冗談みたいだが、ほんとにこんな感じ)と延々続くフェイクが主役。はっきり言って、他の歌詞はおまけに過ぎない。
 ほんの2分足らずの小曲だけど、強烈なインパクトを残した傑作。後年、こぞってクラブの連中がリスペクトしまくった気持ちもわかる。エンドレスでずっと聴いていたくなる、ほんと良い意味でノリ一発の曲。

 
 
7.California Soul
 ヴォーカル・スタイルはジャズだけど、演奏は何というか国籍不明の、これまた名曲。壮大なストリングスが、スケールの大きい超大作映画を思い起こさせる。
 この曲を聴いていると、スタンド・マイクの前に凛と佇むMarlenaの堂々とした歌唱が目に浮かぶ。もちろん、ステージ衣装は襟口の大きく開いた、妖艶なドレスでなければならない。

 

8.Go Away, Little Boy
 一転して、正統派のジャズ・スタイル。ほぼ抑え気味なヴォイシングで、サビ部分だけシャウトを強調。
 次第に興が乗ってきたのか、ブルース・スタイルになってゆく。
 スタンダードなホーン・セクションもMarlenaを盛り立てている。
 
9.Looking Thru the Eyes of Love
 ポピュラー・スタンダード寄りの曲。7.同様、壮大なストリングス・セクションが映像的効果を強調する。
 昔の録音なので、音の厚みがハンパない。
 ダビングを重ねた厚みではなく、ミュージシャン一同揃えて「せーの」で一発録音といった趣きが、このサウンドに重層的な深みを演出している。
 
10.Anyone Can Move a Mountain
 ラストはしっとり、ミディアム・バラードで。
 1.6.7.とアッパー系のサウンドとバランスを取る意味で、後半3曲は大人しめにまとめている。




 『Who is This Bitch Anyway?』の時代になると、多分ジャズではなく、フュージョン系のミュージシャンの参加が多いせいもあるのだろうけど、ここではもう少しメロウに、かつベタっぽいサウンドに仕上げている。
 ミックス自体もヴォーカルをやや奥に配置させているので、純粋にヴォーカルを堪能したい人には、こちらの方が向いていると思う。クラブ、ヒップ・ホップ系を通過してきた人なら、多分知ってる人も多いだろうけど、かなりのオススメ。



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タモリが教えてくれたColtrane - John Coltrane 『My Favorite Things』

john_coltrane___my_favorite_things__1983694168  これまでリリースされた多くのジャズ・アルバムの中でも、王道中の王道。一般紙のディスク・ガイドでも、名盤として高い確率で紹介されており、CMやTVのBGMなどでたまに使用されているので、なnとなく聴いたことがある人は多いと思う。
 1961年にリリースされているのだけれど、ジャズの場合、カウントの仕方が結構いい加減なので、何枚目のリーダー・アルバムかはわからない。

 Miles Davis『On the Corner』のレビューで書いたのだけど、ジャズのジャム・セッションが一度行なわれると、アウトテイクも含め、優にアルバム2~3枚分のテイクが残される。大抵はレコード会社の意向、または言い出しっぺのバンド・マスターがリーダーとなってアルバムがリリースされるけど、ごく稀に、使用スタジオやレコーディング契約の関係によって、バンド・マスターでありながら、クレジットが出せないケースもある。
 その場合、状況にもよるけれど、作曲やアドリブにやや多めに貢献したプレイヤーが、名義上のリーダーとなる。レコード会社イチ押しの期待の新人や、諸事情によって、まとまった金を稼ぎたい(大抵はドラッグの借金)者に花を持たせる場合も同様だ。
 レコーディング契約も口約束が多かったり、書面すら取り交わしてない場合も多かった、大らかな時代の話である。
 
 享年41歳ということもあって、活動期間ははなはだ短く、コンポーザーとして活躍した期間は、実質10年程度のものである。ただ、この人はジミヘンと並んで死後の発掘作業が古くから進んでおり、今でも未発表テイクやライブの音源がブラッシュ・アップされ、リーダー・アルバムは優に200枚を超えている。かつて所属していたレーベル・レコード会社はもちろんのこと、世界中の有志・コレクターによって、テレビやらラジオの放送音源もその対象となっており、公式・非公式ともども、いまこの瞬間にも続々ネットにアップロードされたり、そりゃもう収拾がつかない状態になっているのが現状。よほどのマニアックなファンでも、すべてを追い切れてないのが現状である。

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 晩年のアバンギャルドな方向性によって、「頭で聴く」小難しいジャズの代表である反面、本作を含むアトランティック期の一連のアルバムは、メロウさとテクニカルな面とが上手く拮抗して、ビギナーにとっても親しみやすいアイテムが多い。取りあえず、「最近Coltrane聴いてるんだよね」と言っておけば、何となく通ぶれる、というのも、日本における人気の高さを支えるひとつでもある。
 これがインパルス移籍後になると、末期に近づくにつれ、抹香臭く混沌としてきて、筋金入りのジャズ・ファンでもハードルが高くなってしまうのだけど、このアトランティック期の一連の作品は、普通のジャズ・ビギナーの耳でも、「なんとなく高尚だけど、一般的なジャズっぽいサウンドのイメージに近くって、耳当たりの良い演奏」として、まだ広く受け入れられている。
 ちなみに、それ以前のプレステッジ、ブルー・ノート期になると、メロウさが際立っているのと、まだアドリブ・ソロの面での迷いが見られる。
 
 Coltraneの代名詞的に語られるのが、『シーツ・オブ・サウンド』という演奏法なのだけど、そこまで突っ込んでジャズを聴いたことがない人だとピンと来ないだろうし、実は俺もそれほど詳しい音楽理論まではわかってるわけではない。
 わかってないことを前提に、誤解を恐れず、すっごく簡単に言ってしまえば、「空間をすべて音で埋めてしまう奏法」と思ってもらえればよい。
 サックスのロング・トーンを一音で表すのではなく、その間にとてつもなく早いBPMで、細かなフレーズを吹きまくることを、この時期のColtraneは徹底して行なっていた。かつて師事していたMilesによる、空間と余白とのギャップにて奥行きを演出したモード奏法が「静」なら、Coltraneの奏法は陰陽の関係である「動」にあたる。その最初の成果報告が『Giant Steps』であり、そのまた進化形が『My Favorite Things』である。

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 俺的に思い出深いのは、確かもう四半世紀も昔、NHK-FMでタモリがジャズの特番を1週間やっており、最後の最後で、自身が一番好きな曲として、このタイトル・ナンバーをオンエアした。管楽器にしては線が細く、それでいて力強さと強引さとをあわせ持ったソロが印象的だった。
 意識的にジャズを聴き始めるきっかけとなったのがこの番組であり、そしてソプラノ・サックスという楽器がこの世に存在することを知ったのも、このアルバムを通じてだった。


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1. My Favorite Things
 映画『Sound of Music』の挿入歌をモチーフとした、Coltraneといえばこれ、と言える代表作。オーディエンスの受けが良かっただけでなく、本人もお気に入りだったらしく、晩年までセット・リストに加えられていた。
 ジャズの特徴、特にColtraneの特徴として、様々なヴァージョンの"My Favorite Things"が残されており、晩年のアバンギャルド期に来日した時のヴァージョンなんかは、最初の数フレーズ以外は原形をとどめておらず、11分程度のオリジナル・ヴァージョンが延々1時間に拡大されている。
 映画版のオリジナル(と流布されてるけど、実はブロードウェイ・ミュージカル版が本当のオリジナル。映画が公開されたのは、このアルバム・リリースの後である)を聴いてもらえればわかるように、名優Julie Andrewsの表情豊かなヴォイシングと、黄金時代のハリウッドをほうふつとさせる、壮大なオーケストレーションが印象的だけど、「それ」が「こんな」風になってしまうのである。今で言えば、"Let It Go"をくるりがカバーするようなものだと思ってもらえればよい(どうも例えが難しい)。
 McCoy Tynerが、地味ながら堅実なプレイで活躍している。Coltraneの不穏なソプラノ・サックスの響きは最初の2分ほどで一旦捌け、McCoyが手堅いソロで場を繋ぐ。リズム隊の順繰りのソロが終わった後、再び御大登場、前半よりパワー・アップして、さらにアグレッシヴに吹きまくり、他メンバーも引っ張られるようにさらに熱を帯び、そして強引に幕引き。

 
 
2. Everytime We Say Goodbye
 5分程度のスロー・バラード。ほんとスタンダードなフォーマットのジャズに仕上がっている。McCoyの中盤ソロも、昔ながらのカクテル・ラウンジやジャズ・バーでいつもかかっているような、安心できる演奏。
 
3. Summertime
 有名なスタンダード・ナンバー。大抵のカバーはもっとスロー・テンポだけど、そのセオリーに反して強引に『シーツ・オブ・サウンド』を展開、アグレッシヴに吹きまくるソロを聴かせている。最初の♪Summertime~のサビの1フレーズ以外は、ほんと自由自在に展開したソロ。ていうか、ほぼ原形をとどめていない。
 途中から聴いてみると、まずColtraneのファンでもない限り、"Summertime"とわかる人はいないはず。辛うじて、やはり真っ当な普通人McCoyが、なんとなく"Summertime"らしいブリッジを聴かせている。

 
 
4. But Not For Me
 アトランティック初期の傑作『Giant Steps』を思い起こさせる、これも昔ながらのジャズ・クラブっぽい演奏を聴かせる良作。こちらも比較的有名なスタンダード・ナンバー。同じくシーツ・オブ・サウンド・スタイルだけど、もう少し肩の力を抜いたプレイになっている。軽快なアドリブが親しみを感じさせる。バックのリズム・セクションも楽しげで、やはりMcCoyは良い意味で凡庸なソロを聴かせている。
 ここまで散々、McCoyは凡庸だと書いているけど、誤解のないように。実際は、凡百のピアニストが束になっても適わないくらい、その演奏のポテンシャルは高い。
 ただColtraneが強烈すぎるのである。 




 前述したように、フリー・ジャズの台頭によって、Coltraneも情勢を無視できなくなり、次第にアバンギャルドなスタイルを志向するようになるのだけど、それはまだ晩年の話。ギリギリ、ジャズのコアなファンじゃなくても、まだ辛うじて理解できる傑作『Love Supreme』の話は、また別の機会に。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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