好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

僕だって一度くらい、チャラくしてみたかったんだ… - Prefab Sprout『From Langley Park to Memphis』

5850c068 かつてその憂いある風貌はNMEのグラビアを飾るほどで、80年代アーティスト組の中ではイケメンに分類されていたはずのPaddy McAloon 、今じゃすっかり脂が抜け落ちて、そのマイペース過ぎる活動そのまま、まるで仙人のような風貌になってしまっている。
 一時体調を崩したせいもあって、濃いサングラスを外すことができず、近影では杖をついていることも多く、世界中に点在するPrefabファンはその不調を案じていたのだけど、取り敢えず音楽活動を再開できるくらいには持ち直したようである。相変わらずリリースペースは遅いのだけど、それは健康だった頃も平気で7〜8年くらいは沈黙していたのだから、ほんの2、3年程度なら、誤差と言い切っちゃっていいくらいである。

 それでも前世紀くらいまでは、同時代のトレンドを自分なりの解釈、盟友Thomas Dolbyの助力によって、楽曲に反映させていたのだけど、今世紀に入ってからは、俗世間の些事にはこだわらなくなったのか、もはや時代との折り合いをつけることもやめてしまい、これまでの未発表アルバムのアーカイブ化が、主だった活動になってしまっている。
 まるでそこだけ時間が止まったかのような、90年代機材の香り漂うサウンドを、ほぼ真空パックのまま、限られたリスナーに向けて発信するPaddy、今じゃすっかりメインストリームから遠ざかってしまってるけど、「俺だって昔はがんばってたんだ」とでも言いたげな、彼らのディスコグラフィーの中では最もポピュラリティーが強いのが、このアルバム。

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 ジャケットを見てもらえれば想像つくように、この時代のPaddyはかなりフォトジェニック、前述したように音楽誌のカラー・グラビアを飾っており、他のニューロマ系アーティストと比較しても引けを取らないくらいである。
 Roddy Frame やEdwin Collinsに代表されるように、もともとネオ・アコ・シーンのアーティストに共通した特徴なのだけど、Paddyもまた、あまりセックスの匂いを感じさせない、中性的なルックスを強く押し出すことによって、昔で言うオリーブ系女子のファンを中心に獲得していた。
『Swoon』から『Steve McQueen』リリースくらいまでは、あまり使われないコード進行、抽象を通り越して、やや分裂傾向も窺える歌詞によって、どちらかといえばマニア好み、純粋に楽曲のクオリティによって注目されていたのだけど、その『Steve McQueen』でのブレイクがきっかけとなって、レコード会社主導のもと、新たな戦略を打ち出すことになる。
 特に、時に文学的に物憂げな表情を見せるPaddy の端正なルックスと、バンド唯一の女性メンバーWendy Smithの清楚な佇まいを前面に押し出したビジュアルは、透明感あふれるそのサウンドにはフィットしていた。公私ともに重要なパートナーとなっていた二人の行く末も、バンドの成長ストーリーに合わせて同時進行し、そういった相乗効果が、主に文科系の男子女子らの注目を浴びた。

 こういった一連の戦略が、レコード会社の要請によって仕方なく付き合っていたのか、それとも積極的にスター・システムの状況を享受していたのか。どっちが先なのかは、今となってはわかり兼ねるけど、多分本人たちもそれなりに楽しんでいたんじゃないかと思う。せっかく上り調子なんだから、使えるモノはとことん使っちゃった方がいいんじゃね?と周囲におだてられてその気になっちゃったのが、案外真相なんじゃないかと思う。

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 で、そういった状況が作風に影響したのだろうか、これまではネオ・アコ・サウンドの延長線上、シンプルなアレンジ主体だった楽曲も、ここに来て音数も多くなり、ヒット・チャートでも違和感のないアレンジに仕上げられている。もちろん基本の曲調、流麗なメロディは従来通りなのだけど、モノによってはリズム主体の曲も収録されており、この辺にレコード会社の思惑、中間管理職的立場のThomas Dolbyの心境とが交差していることが窺える。
 さらなるヒット狙いの担保としてなのか、これまでも、そして今後もあまり見受けられない大物ゲストの参加というのも、このアルバムの特異性をあらわしている。もちろんレコード会社CBSの政治力が大きく作用しているのだけれど、ただそれだけで、これだけ名の通ったアーティストがこぞって手を貸すはずもない。そこは彼ら自身の業界内での評判、若手の期待株であったことも大きな要因である。あのうるさ方のElvis Costelloが、自身のライブで彼らのデビュー曲”Cruel”を取り上げたりするなど、まぁほんと小さなムラ社会での評判だけど、この現役ミュージシャンからのウケが良いことは、悪いことではない。
 まぁでもそういう人って、セールス的には厳しいんだけどね。

 ところでこのアルバム・リリース、前回の『Steve McQueen』から、ほぼ3年のブランクが空いている。シングル”When Love Breaks Down”のスマッシュ・ヒットによって、CBS的には、これからさらにファン層を広げていこうと思ってた矢先のはずなのに、まだ駆け出しのバンドの行動としては、普通あり得ない。アルバム・セールスの好調を受けてのツアーが思いのほか長期化して、結構な本数を回っていたせいで、充分な創作期間を確保できなかった面もあるのだけれど、まぁ実際のところは、CBSとの行き違いによって、Paddyがヘソを曲げてしまったせいである。
 
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 以前『Jordan:the Comeback』のレビューでも書いたのだけど、例の『Protest Songs』リリースのタイミングの件でもめてしまい、加えてPaddyとしては不本意な長期間のロードは、かなりのストレスとなった。
ツアー終了時点では満身創痍、身も心もすっかり疲弊しきったPaddy(バンド自体はライブ活動に前向きだったのだけど)、長期のバカンスの後、再びスタジオに籠城、安住の地に落ち着いて作り上げたのが、今作である。

 今回のPaddy、一般大衆に開かれたサウンドを志向しながらも、どこか皮肉めいた目線、第三者的な視点も見受けられる。そこがやはり、素直にポジティブ・シンキングになり切れない英国人気質、エンタテイメントの本場アメリカへの憧憬と冷笑とが相まった感情から起因するものである。これにキリスト教圏独特の性善説も複雑に絡み合うのだから、ほんとめんどくさい人たちである。
 ただPaddyに限らず、まだヒット・チャートというものが絶大なる影響力を持っていた時代、煌びやかなメジャー・シーンに色目を使いながら、なのにどこか醒めた目線、レコード会社主導のマーケティングに従いながらも、外ヅラでは斜に構えてシニカルを気取るというのが、80年代英国のニュー・ウェイヴ以降のアーティストの特徴である。


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1. The King Of Rock 'N' Roll
 リリース当時からBruce Springsteenに象徴される、80年代アメリカン・スタジアム・ロックへの皮肉と揶揄とが盛り込まれた曲。ニュー・ウェーヴ系のアーティストにありがちな、ただ批判して終わるのではなく、チャート内でも見劣りしない、きちんと作り込んだパロディを演じたのは、さすがPaddyである。
 ただ、当時は敢えて「恥ずかしいけど演じてるんだぜ」的なスタンスだったのが、これだけ時間を置いてから聴いてみると、案外楽しんでたんじゃないかとも思われる。若いうちだから、そりゃチヤホヤされて悪い気はしないだろう。
 サビの「ホット・ドッグ、跳ねるカエル、アルバカーキ」の一節は、未だ持って意味不明。不明だけど、いいんだそれで。ただ語呂が良かったからやってみただけで、意味なんてあるもんか。
 UK最高7位まで上昇、バンドとしては唯一のトップ10シングル・ヒット。



2. Cars And Girls
 ほとんどブレイクも入れず、続くはまたアメリカへの皮肉たっぷりなポップ・ロック。ここでもPaddy、スタジアム・ロッカーを気取って、珍しくシャウトまで効かせているくらい、堂に入っている。
 車と女、まさしくアメリカン・ロックそのものを、ひ弱な英国人が皮肉交じりに演じるその構図は、当時なら有効だったのだろうけど、今になって聴いてみると、普通のポップ・ソングとして埋もれてしまいそう。時代背景も考慮して考えないと、その批評は成立しない。
 ま、別にそんなこと、いちいち考えなくてもいいけどね。
 UK最高44位は、彼らとしてはまぁ普通。



3. I Remember That
 一般的なPrefabっぽさを求めるのなら、このアルバムはここからがスタート。非常にドラマティックな音像は、さすがThomas。実は音数自体は少なく、基本のギター・ベース・ドラム、それに薄いシンセとアクセントのアルト・サックスくらいしか入っていないのだけど、なのに音の厚みを感じさせるのは、丁寧に重ね合わされたサイド・ヴォーカルやコーラス・ワークの重厚感。こういった作り込み感が、本来の持ち味である。

4. Enchanted
 浮遊感あふれるポップ・ソングなのだけど、妙にリズムが立っているのは、大きくミックスされたベースのルート音が大きく作用している。
 PrefabといえばどうしてもPaddyのカラーが強く出がちなのだけど、この辺までのアルバムなら、まだリズム隊の活躍するシーンも多い。ちなみにベース担当は、Paddyの実弟Martin。テクニック的にはそれほどバリエーションはないのだけれど、曲調に合わせたラインとボトムの太さが特徴。

5. Nightingales
 “When Love Breaks Down”の二匹目を狙ったかのようなサウンド・プロダクション。静謐でありながら情熱も併せ持ったPaddyのヴォーカルを彩るように、柔らかに、それでいてジャマすることのないシンセの響き。間奏のハーモニカは、なんとStevie Wonderによるもの。ちょっとエフェクトをかけたその音色は、『First Finale』期のサウンドを想起させる。
 これだけ万全の態勢だったはずなのに、シングルはUK最高78位。ちょっと地味すぎたかな?



6. Hey Manhattan!
 ここからがLPではB面。ハリウッド映画をイメージさせる流麗なストリングスに乗って始まるのは、Paddyのモノローグ。その後、Wendyも入ってサビを一緒に歌うのだけど、ここら辺が二人のデュエットとしてはピークだったんじゃないかと思う。だってこれ以降のサウンドって、はっきり言ってWendyがいなくても成立しちゃうし。
 精巧に組み立てられたストリングス・サウンドと、それに乗って酔いしれるPaddyのヴォーカルを堪能できるのが、この曲。本格的にポップ・シンフォニーへ移行する『Jordan : the Comeback』からはもう少しAOR成分が強くなるのだけれど、ここではまだニュー・ウェイヴ系アーティストとしての気概が見える。
 一応、Pete Townshendがアコースティック・ギターで参加している、とのことだけど、どこで弾いてるのか、よくわからなかった。この曲調でPeteにアコギ弾かせたって、目立たないに決まってるのに、なぜ?



7. Knock On Wood
 リズム主体に作られた、彼らとしては珍しい曲。若干エスニック・モードも入ってるのは、ニュー・ウェイブ系のアーティストとしては珍しくはない。ただリズム隊とヴォーカルとのミスマッチ感は否定できない。まぁ、一曲くらいはこういうのもあっていいとは思う。

8. The Golden Calf
 1.2.のような批評的な視点と違って、ここは彼らが初めて真正面からアメリカン・ロックに取り組んだ、Prefabとしてはほぼ唯一と言ってもよい、きちんとしたロック・ナンバー。ヒネリのない8ビート、ルート音から外れることのない、ダウン・ストローク中心のベース、ややサスティンを効かせたギター・サウンド。
 ここではPaddyも普通のロックン・ロールをプレイしようと決意したのか、ほぼ俯く気配も見せず、ずっと前を見据えてシャウトしている。

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9. Nancy (Let Your Hair Down For Me)
 初期から中期の彼らのアルバムに必ず一曲は入っている人名シリーズ、今回は『Nancy』。この辺は次作『Jordan』に入っていてもおかしくないサウンド・プロダクションで構成。
 この曲、どこにも帰着点のないコード進行にもかかわらず、きちんとした楽曲として成立してるのが奇跡的と言える。メロディだってよく聴けばバラバラだし、ほんと雰囲気だけで進行しているはずなのに、ちゃんと最後まで聴き通すことができるというのは、ほんとPaddyのソング・ライティング能力の高さを象徴している。

10. The Venus Of The Soup Kitchen
 前曲同様、これもPaddyの才気あふれるソング・ライティング能力が炸裂している、不思議な曲。終盤のヴァ―スは伝説と言ってもいいくらい。
 このアルバム以降、Paddyのソング・ライティングはもう少しわかりやすく明快になり、不安定なコードの頻度も減ってゆくので、技巧に凝った曲も相対的に少なくなってゆく。




 この後のPaddyは、ニュー・ウェーヴ特有のシニカルなスタイルを封印、素直にアメリカへの強い郷愁を露わにした作品が続くことになる。  それはそれで、アーティストとして、ひとつの成長なのだろう。


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君には僕のこと、もっと知ってほしいんだっ - 岡村靖幸 『早熟』

51ovm8WqP2L キャラの性質上、どうしてもセックスの臭いが強すぎるだエロチックだと誤解されやすい岡村ちゃんだけど、できるだけ先入観を抜きにして、この初期のベスト・アルバムを聴いてみると、下ネタ関連のキーワードというのは、岡村ちゃんサウンドの構成要素としてはあくまで副次的なものであることがわかる。
 その本質はピュアな恋愛シチュエーションを軸としたものであり、当時所属していたソニーが編み出した青春系歌謡の延長線上に位置するものであることは、年季の入ったファンなら、結構知られていることなのだけど。

 そのソニーに所属していたキャンディーズや山口百恵あたりに端を発する、主にティーンエイジャーのプラトニック性を前面に押し出した70年代アイドル歌謡は、従来の職業作家だけでなく、当時のリアルタイムの洋楽サウンドをダイレクトに吸収した若手作家を積極的に起用したことによって、当時の流行歌のフォーマットを一新していった。筒美京平や穂口雄右などは、特に従来の歌謡曲の詞曲より、ひと捻りふた捻りも手をかけた作品を量産し、それに続く宇崎竜童と阿木陽子のタッグが大胆なロック・テイストを持ち込み、それまで大御所クリエイターの変わりばえしない楽曲しかなかった歌謡界に一石を投じる結果となった。
 ニュー・ミュージックやソウル/フュージョンのテイストをも吸収して、次第に洋楽のクオリティに近づきつつあったアイドル歌謡なのだけど、ここで一旦、ピンク・レディーの登場によって、今度は全世界を席捲したディスコ・サウンドが台頭して、いわゆるソニー系アイドルは一時撤退を余儀なくされる。

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 で、国内での人気の勢いを借りて、ピンク・レディーがアメリカ進出、その空白期間が仇となって人気は急落、その空席に割り込むように攻勢をかけてきたのが、80年代アイドルのデビュー・ラッシュ。同時期にデビューした河合奈保子や柏原芳恵は、後に路線変更はあったけど、デビュー当初は従来の歌謡曲の延長線上だったのに対し、ソニーの松田聖子は作詞家松本隆のバックアップによって、自らのコネクション、はっぴいえんどやキャラメル・ママの人脈を駆使して、他のアイドルよりもクオリティの高い楽曲を提供、その後のソニー系アイドルの方向性を決定づけた。

 大滝詠一やユーミンなど、当時キャリアのピークに達していたニュー・ミュージック/シティ・ポップ系統の作曲家を積極的に起用したことが松田聖子の躍進につながったのはもちろんだけど、プロジェクト責任者として、イメージ戦略やアーティスティックな方向性を統括していた松本隆の功績は、計り知れないものがある。
 軽薄短小という言葉に象徴されるように、80年代初頭という時代は、70年代の虚無感から脱してライト・メロウに傾きつつあったので、阿久悠のような、ダイナミックかつ直情的な歌詞よりも、詩情あふれてちょっと言葉足らずな、行間に意味を持たせる松本隆の方が時代にはフィットしていたわけで。

 自分でも明言してるけど、初期の岡村ちゃんのサウンドは、松田聖子の一連の作品からの影響が強い。
 それはデビュー前、渡辺美里のブレーンとして活躍していた時期にまで遡るけど、基本、上昇系のコード進行でテンションを上げてゆくメロディに乗せて、仲よく手をつないでウィンドウ・ショッピングを楽しむ二人、そしていつまで経ってもそれ以上の関係になかなか進めないもどかしさとヒリヒリした痛がゆさとが相まった歌詞世界は、当時はまだ多勢を占めていた童貞処女のティーンエイジャーたちの妄想を、それはもうソフトに刺激していった。
 80年代初頭の普通の少年少女にとって、異性とのコミュニケーションはもっぱら夜の家(いえ)電か、授業中の手紙のやり取りが主だった時代、ケータイほどの簡便さがなかった分、彼らの歩みはひどくゆっくりだけど、時間をかけて濃密になっていったのだった。

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 で、本格的にデビューしてからの岡村ちゃん、裏方としての実績は十分積んでいたのだけど、思ったほどのセールスは得られなかった。
 これまでに培ったソニー系青春歌謡のシチュエーションはそのまま残し、美里向けに女性目線だった歌詞を男性目線に置き換えて表現してみたのだけど、このジャンルには松岡英明や大江千里という、同系列のアーティストが同じソニー・グループに所属していたため、既に実績のある彼らとの差別化を図ることは困難だった。ソニー内の岡村ちゃんセクションとしては、同系列のアーティストをひとまとめにして、互いの相乗効果を期待する戦略だったのだろうけど、このジャンルにおいては大江千里が一強過ぎたため、抜きん出ることは至難の技だった。

 岡村ちゃんからすれば、自身がメインのレコーディング作業は初めてだったため、取り敢えずプロデューサーさんにお任せせざるを得なかったのだろうけど、多分自分なりに試してみたかったこともあったはず。でも、のっけから自己主張を強く押し出すのもなんだし、一応言われた通りの作業を行なってみたけど、あまり自分の持ち味が活かされてなかったことを悔いていたんじゃないかと思う。
 -じゃあどうする?

 ということで、デビュー・アルバム『Yellow』がなんとも微妙な成績に終わり、それを受けた結果、岡村ちゃんが選んだのは、当時としては極端なほどのDIYスピリット。可能な限り、自分の作品は自分で作り込むことを決めた。
 取り敢えず、ポピュラー音楽を構成する上で必要最低限である、ギター・ベース・ドラム・キーボードの演奏はこなすことができた。もちろん、それを人に聴かせられるレベルに持ってくまでは努力したのだろうけど、でもなんとか自分の思い描くビジョンを具現化できるくらいにまでは上達した。
 初のセルフ・プロデュースによって岡村ちゃんが作ったセカンド・アルバム『DATE』は、これまでのソニー系アイドル歌謡を踏襲した覚えやすいメロディーはそのままに、そこにプラスしたのが、当時リスペクトしていたPrinceのエッセンス、ファンクのリズムとビートを強調したサウンドだった。
 で、最大の変化というのが、歌詞の世界観。
 これまでの岡村ちゃん的青春の1ページ、プラトニックなままの「友達以上恋人未満状態」で満足してます的にスカすのではなく、そのもっと先、「君とイチャイチャしたいんだっ」という欲望を、もっとストレートに出すようにした。これまでのうすら寒いハニカミ笑い的態度ではなく、もっと肉体と本能とが直結した、妄想とミックスされて熟成した想いをダイレクトに伝えることによって、インパクトの強いサウンドとの相乗効果が生まれた。

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 そうやってできあがったのが、岡村ちゃんの熱情が100パーセント詰まった濃厚エキス。歌うのは岡村ちゃんで、演奏するのも岡村ちゃん、曲も歌詞もアレンジも、何から何まですべてが岡村ちゃんワールドとなり、そのむせ返るような体臭やら滴り落ちる体液は、まだ一部ではあるけれど、熱狂的なファンを惹きつけた。

 ある意味、退路を絶って自らを崖っぷち状態に追い込んだことによって、ところどころ未整理な部分もあったけど、『DATE』には、妙に人を惹きつけるパッションで溢れていた。ソニー系のある意味弱点でもある、ドンシャリ感の強いサウンドと、眩しいくらいにポジティブ色の強い青春応援歌的な歌詞から脱脚して、サウンドのボトムは太くなり、「なんか小難しかったりスカしたことばっか言っちゃったけど、ほんとはただ女の子にモテたいだけなんだよねベイベェ」と素直に言えるようになった。
 で、その岡村ちゃん流ファンク・サウンドの最初のピークに達したのが"聖書 "であり、またそこから一巡して、再びまっ正面からメロディの強い歌謡ポップに取り組んだ末、完成形を見たのが"だいすき"である。
 曲調としては両極端なのだけど、どちらも岡村ちゃんのやりたかったことであり、赤裸々に欲望を吐露したメッセージそのものである。

 で、この『早熟』、デビューからのまとめとして、旧作またリ・アレンジ、リミックス・ヴァージョン満載の大サービス作となっているのだけど、それと共に、独自で練り上げた分裂型ファンク・サウンドに乗せて、ほとんど無内容な歌詞、ていうかほとんどその場で思いついたかのようなキーワードを羅列した傑作"Peach Time"を新機軸として打ち出している。プレ『家庭教師』ともいうべきそのサウンドは、これまでとは段違いに情報量が多く、これだけでもアルバム一枚分の熱量が真空パックされている。
 単なるベスト・アルバムと侮ってはいけない。
『早熟』とは、岡村ちゃんの今後の流れを決定づけた、キャリアの中でも結構重要な位置を占めるアルバムである。


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1. Peach Time
 『早熟』リリースに先立ちシングル・カットされた、このアルバム唯一の新曲。オリコンでは最高31位と地味なアクションだったけど、オープニングとしては最高の選曲。
 とにかくやりたい放題のサウンド。もうほんとにやりたいことが多すぎて、出したい音を詰め込みまくった印象。でも、そんなカオスな状態こそが岡村ちゃんワールド。
ところどころPrince、特に同時代である『Black Album』~『Lovesexy』あたりの影響がモロに出てるサウンドは、今にして思えばコピーそのまんまなのだけど、当時、日本のミュージシャンで、しかもほぼ独力でこのサウンドを創り出せる者はいなかった。
前述したように、「とにかくナンパをしようぜされようぜベイベェ」という歌詞世界は、あまり深読みする必要はない。そのまんまを素直に受け止めればよいのだ。

 「なんで僕らが生まれたのか ゼッタイ きっと 女の子なら知ってる」

 なのに、こんな意味深な言葉を平気でぶっ込んでくるのが、岡村ちゃんなのだ。



2. Dog Days
 1987年にリリースされた4枚目のシングル。オリジナル・アルバムには未収録なので、ここで初めて存在を知った人も多かった。まだ爽やか路線の名残りがあった頃で、強気な女の子に恋い焦がれているのに勇気を出せず、結局言えずじまいになっちゃった、というソニー系青春のフォーマット通りの歌詞は、どこかこそばゆくなってしまう。
 ちなみに1フレーズだけヴォーカルを取っているのは、PSY・Sのチャカ。特徴ある声質なので、すぐわかっちゃうよな。

3. Lion Heart (Hollywood Version)
 『DATE』収録曲のゴージャス・アレンジ・ヴァージョン。オリジナルはまるで久保田利信のバラードのようなアレンジだったのだけど、ハリウッドにふさわしく、荘厳としたストリングスを大々的にフィーチャーしている。
 確かにここでの岡村ちゃん、大きなステージと朗々と熱唱するように堂々としている。対して『DATE』での岡村ちゃんは、まだ充分自分のなかで消化しきれていないのか、時折自信なさげな、どこか歌いこなせてない雰囲気が漂う。
 ただこの曲、当時の岡村ちゃん的いくじなしな男の情けなさがテーマなので、ある意味、こうした未完成なサウンドも、味があって良い。ま、好みだけど、

4. だいすき
 恐らく岡村ちゃんの曲の中では、最も知名度の高い曲。多分、ここからファンになった人も多い。車のCMに起用されただけあって、良い意味で万人向けのポップ・ナンバー。
ファン歴も長くなると、ヒットした曲や有名曲などは避けられる傾向にあるけど、年季の入ったファンの中でも人気は相当高い。セルフ・カバー・シリーズ『エチケット・ピンク/パープル』において、どちらにも収録されているくらいだから、岡村ちゃん・ファン共に愛されている楽曲である。

 「ねぇ3週間 ハネムーンのフリをして 旅に出よう
 もう劣等感 ぶっ飛んじゃうくらいに 熱い口づけ」
  
 こんなぶっ飛んだ歌詞をメロディに乗せて、それでカッコよく歌い切れるのが、アーティストとして最初のピークを迎えていた岡村ちゃんならでは。いやほんと、ここの部分、歌ってると気持ちいいんだもの。

 終盤、アウトロに乗せて子供のコーラスと共に歌われる謎の言葉、「ヘポタイヤ」
 意味なんてない、多分。
 ただ何となく楽しくなる、ウキウキする言葉。それが「ヘポタイヤ」



5. Out of Blue
 記念すべきデビュー・シングルにして、しかも『Yellow』のトップを飾るリード・ナンバー。なのに、なんか地味なのはナゼ?
全編を彩るアコギのかき鳴らしはちょっとカッコいいけど、まぁ若手アーティストの普通の楽曲であって、まだ岡村ちゃんらしさはそれほどではない。歌詞も変にカッコつけてるというのか、横文字多用でスカしてるし。
 まぁ『Yellow』というアルバム全体がこういったコンセプトだったので、仕方ないか。

6. いじわる
 この曲はずっとシングル発売されてるものだと思ってたのだけど、調べてみると当時は『DATE』にのみ収録のナンバーだった。それくらい、インパクトの強い曲なのだ。
 セルフ・プロデュースでハジけた岡村ちゃんが、当時めちゃめちゃリスペクトしていたPrinceのサウンドをほぼそっくりコピーして創りあげたこの楽曲、とにかくサウンドの攻撃力がハンパない。ストレートなエロさを前面に押し出したファンク・サウンドからインスパイアされた歌詞は、これまでのスカした半笑い男ではなく、妄想がこじれてこじれてこじれまくった挙句、今で言うストーカー的視点を手に入れた。
 嘗めるように見つめまくる視線、偏執狂的にユカのディティールを丹念に活写する岡村ちゃん。ユカの一挙一動に過敏に反応し、気が狂いそうになるのを必死で抑える岡村ちゃん。
 ユカとは誰だ?それは誰の心の中にも少なからず残っている、妄想の中の彼女(彼氏)のはずだ。
 「君がどのくらいエッチな女の子だか知ってるよ…」から始まる、終盤のモノローグ。その最後のダイレクトな言葉は、きっとユカの耳に届きはしない。岡村ちゃんも、そんなことはわかっている。でも、この言葉を言いたいがため、このトラックを完璧に構築したのだ。じゃないと、この曲はまったくの無価値になってしまう。

7. イケナイコトカイ
 リリースされた当時から名曲認定された、岡村ちゃん初期の名作バラード。
 『DATE』が岡村ちゃんエキス100%注入の渾身作であり、女の子への妄想力のピークが6.で表現されていたけど、こちらは同じ『DATE』収録曲ながら、もう一つの側面である、ピュアな恋心をうまく切り取った作品に仕上がっている。
 流麗なストリングスを効果的に使ったアレンジは、舞台装置としてうまく機能しており、強く感情移入しながらステージで熱唱する岡村ちゃんをイメージできる。

 「風に尋ねてるんだ ねぇドン・ファン 空しいことなのか」

 字面で見ると、相変わらずスカした歌詞のように思えるけど、この曲での岡村ちゃんはピュアな男の子になりきっており、月夜の下、膝を抱えながら空を見上げるシルエットが思い浮かんじゃうのだ。



8. Vegetable
 オリジナルは『靖幸』、後にシングル・カットされた12.のB面に収録された。
 ちょうど『靖幸』リリース当時のことだけど、『ミュートマJAPAN』などの音楽番組で、この曲のPVがやたらヘビロテされていたため、記憶に残ってる人も少なからずいるはず。ていうか、これがA面だと思ってたけど、違うんかい。
 この頃の岡村ちゃんの好みだったのか、アコギのストロークが多用されており、カントリー・スタイルのロカビリーを高速で演奏したような印象。同時に、この頃のアップ・テンポ系のナンバーに共通するように、歌詞もほぼ無内容。なんだよ愛犬ルーって、「持ち帰りのジャンク・フードとパック入りのウーロン茶 冗談じゃない」…。
 こうやって書いてると、なんだかバカらしくなってきた。
 意味なんてない、楽しけりゃいいじゃん、「ていうか、俺が楽しいんだから、みんなも楽しいじゃん?」

9. 聖書
 この曲はいくつかヴァージョンがあり、圧倒的にここでのリミックス・ヴァージョンが人気があるのだけど、まぁ俺も同感。俺はこのアルバムが岡村ちゃんデビューであり、シングル・ヴァージョンについては後追いだったため、どうしても最初に聴いたヴァージョンに思い入れが強い。
 岡村ちゃんサウンドの一つの到達点であり、他の収録曲と比べても、詞曲・アレンジ・ヴォーカルともクオリティが段違い。一応ライトなファンクがベースとなっているのだけれど、西城秀樹を思い出させるオープニングのモノローグ、時々挿入されるピッコロ・トランペットの間の抜けた音色、ここで初登場の「ぶーしゃか」コーラス、うねるりまくるベース・ライン、ファンク直系のギター・カッティング。こうして羅列してみるとメチャメチャな組み合わせだけど、それらがこの一曲の中にすべてぶち込まれ、そしてなぜか奇跡的に融合し合って見事な調和を創り出している。
 
 「Baby なんか強引ですが今 
  ティーンエイジャーのあなたが
  なんで35の中年と恋してる 
  学校じゃもちきりだよ そのことで」

 俺だけに限らず、世の中の岡村ちゃんファンの男性はみな、35になると中年呼ばわりされること、そしてまだ若い女の子と恋愛できることを妄想した。
 妄想したあげく、35になってオジサン扱いはされたけど、若い子と付き合う機会は訪れなかった。そんなもんだよね。



10. Shining(君がスキだよ)
 シングル”Dog Days“のB面曲。これがアルバム初収録。
 実はあまり書くことがない。岡村ちゃんの楽曲だけど、なんかヴォーカルを取ってるだけで、それほど印象に残る曲ではない。
 美里あたりが歌ったら元気な応援歌的ムードになって盛り上がるのかもしれないけど、濃いテイストの楽曲が多いこのアルバムの中では、どうしても埋もれてしまう。

11. Young Oh!Oh!
 個人的に『Yellow』収録曲の中では、最もお気に入りのナンバー。どこかSwing Out Sister的アレンジが時代を感じさせるけど、速いテンポの中でメロディにメリハリがあるため、自然と気分が高揚してくるのが、この時期の中では気に入っている。
 キャッチーなナンバーゆえ、シングル・カットされたのも納得できる。けど、そんなに売れなかったけどね。
 まぁそんなうまくはいかないか。

12. 友人のふり
 サウンド的には2.と同じテイストの、ゴージャス感あふれるストリングス満載のバラード。ここでの岡村ちゃん、あまりギミックは用いずに、優柔不断で意気地なしな男の子を、素のままに演じている。なのに、卑屈にならないのは、やはりヴォーカルの基礎体力の強さ、そして女の子へのピュアな下心である。

13. Peach Time(修学旅行MIX)




 復活後はなんやかやで結構忙しく働いており、ファンの間では、そろそろアルバム・リリースも間近か?とも囁かれているけど、なかなか納得できるレベルの作品が少ないのか、相変わらず断続的なライブ・ツアーの情報しか入って来ないのが、今のところの現状。
 ここまで引っぱっているのだから、こうなれば変に妥協したりせず、納得ゆくまでじっくり仕上げてほしいものである。
 なので岡村ちゃん、間違いは起こさないでね。
 それが全国の岡村ちゃんファン共通の願いである。


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ある意味、モータウンの正直者 - Marvin Gaye 『Let's Get It On』

marvin_gaye_1973_-_lets_get_it_on_a-scaled10001 で、Stevie同様、モータウン特有のヒット・ソング製造システムになじめず、ニュー・ソウル・ムーヴメントの時流に乗って、大傑作『What's Going On』をリリース、これまでのソウル・ミュージック界に革命を起こすほどの好評、そしてアーティストとしての絶対的なスタンスを確立したにもかかわらず、それでもまだスタンダード・ジャズへの憧れが断ち切れず、コンプレックスでウジウジしていたのが、このMarvinである。

 Stevieの場合はまだ未成年だった事もあって、まぁ若気の至りで少々はっちゃけても、周囲の大人たちが生温かく見守ることによって許される部分もあったけど、この時のMarvinはすでに32歳、それなりに分別のある大人の年齢である。普通の会社でいけば働きざかり、主任程度になっていてもおかしくないポジションである。
 モータウンの中でも中堅クラスのトップに位置し、当然それなりのセールス実績を要求される立場のため、表立っては言われはしないけど、いろいろとプレッシャーや重圧もあったんじゃないかと思う。

 シングル・チャートでブイブイ言わせてた絶頂期にもかかわらず、Nat King Coleのカバー・アルバムを強行リリースするなど、「俺はほんとはこんなチャラいポップシンガーじゃないんだホントはシナトラみたいなスタンダード・ナンバーを歌いたいんだ」というコンプレックスに苛まれ苦しみ続けたのが、Marvinの素顔である。どれだけヒット・ソングを連発し、ポップ・アーティストとしてのステイタスが上がったとしても、ストレスは比例して募るばかりだった。

 だったのだけど、やはりMarvinもショー・ビジネスの世界に生きる男、清廉潔白な理想とは裏腹に、かなり俗っぽい一面もあったらしい。口では何かとボヤきながらも、環境に適応して、いろいろゴニョゴニョしてたらしく、そこはやっぱりただの男である。

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 そこそこ器用だったおかげもあって、作詞・作曲・演奏もひと通りこなすことができ、モータウンにも重宝されることによって、表舞台に出るチャンスも多かったことが、Marvinの持って生まれた幸運であり、才能でもあった。それにつけ加えて、シュッとしたスマートな見映えもまた、Marvinにとっては都合の良い方向に働いた。モータウンのセックス・シンボル担当として、ティーンエイジャーを含む女性らへのアピールは絶大で、その官能的な美声も相乗効果となって、多くのファンを獲得した。

 社長Berry Gordyの姉Annaと結婚したのが、純粋な理由だったのか政略的なものだったのかどうか、この時点では何とも分かりかねるけど、後のアルバム『Hear My Dear』において、延々2枚組ほぼすべてを使い切って、離婚にいたる想いやら泣き言やらを収録しているくらいだから、まぁ政略半分愛情半分くらいはあったんじゃないかと思う。
 そういった経緯もあって、レーベルの中ではかなり経営陣にも近い立場となり、このままコンスタントに活動していれば順風満帆だったはずなのだけど、やっぱNat King Coleへの憧憬は捨て難かったらしい。

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 なので Marvin、多忙を極めている間にも時間を作って、コッソリとスタンダード・ナンバーを録音しており、そのうちの幾つかは実際にリリースされている。いるのだけれど、モータウン的には別路線をあまり好ましく思ってなかったため、まともにプロモーションもせず、最低限の枚数だけプレスして、ほんとただ流通させただけ。なので、セールス的には惨敗している。
 内容的にも、まぁ自慢のクルーナー・ヴォイスを最大限に活かしたカクテル・ムード満載、大人のラウンジ・ミュージックめいたもので、とうぜんレベルは高いのだろうけど、これって別にMarvinじゃなくてもいいんじゃね?的な仕上がり。誰も彼にその方向性は求めていなかったのだ。

 Marvinの没後、便乗商法で過去の音源が発掘され、この辺の未発表トラックもまとめてリリースされているのだけれど、あまり評判は芳しくないようである。俺自身、この辺の音源はほんとサラッと聞き流しただけ、何の印象も残っていない。

 こうして書いてみて、「これって似たような人いたよな」って思ったのが、EXILEのATSUSHI。俺的認識としては、EXILEが増殖して、そこからtribeが派生、最近では3代目が人気を上回りつつある、ってところなのだけど、合ってるかな?
 で、その激動の流れから独りはずれ、現在独自路線を貫いているその姿は、かつてのMarvinとダブって見えてしまう時がある。彼の場合、EXILEの時は常にサングラスを外さず、見た目オラオラ系のリア充御用達アンちゃん的風貌にもかかわらず、ソロ活動ではサングラスを外し、するとそこにはEXILEとはかけ離れたつぶらな瞳、という往年の少女マンガ的パターン。オフコースや尾崎豊をこよなく愛し、もっぱらアコースティックなバラード系がレパートリー。
 これもEXILE的にはガス抜きの一つだと思われる。ダンス系の彼らのイメージとして、線の細いニュー・ミュージック的な側面はあまり受け入れられるものではない。EXILEグループも最近では世代交代の波が押し寄せ、3代目の方に人気がシフトしているため、以前より負担も少なくなっただろうけど、まぁこれからどうなるか。少なくともATSUSHIに『Let’s Get It On』は作れそうにない。その辺を求められるキャラでもないしね。

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 で、Marvin、前作『What's Going On』ではベトナム戦争などの社会問題を題材に選ぶことによって、ジャケットもなんだか聖人君子的な佇まいだったのだけど、ここでは一転、「お前とやりたいんだぜベイベェ」と、まるで正反対の顔を見せている。リリース当時なら、そのあまりのイメチェンに驚いたと思うけど、当然俺が初めて聴いたのは、リリースからもう20年近く経ってから、別に時系列に沿って聴いてたわけじゃないので、ただ単に訳詞を読んで、何だかエロい曲と思っただけ。ただ、そのあまりに直接的な内容から、モータウンの営業スタッフらの苦労が偲ばれる。

 一見、それぞれのテーマ設定が極端過ぎるため、この2枚のアルバムは接点がなさそうだけど、ものすごくこじつけて言えば、結局のところ、どちらのメッセージも人間の根源に基づくものであるし、彼にとっては、どちらも本質的には同じものなのだろう。


Let's Get It on
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1. Let's Get It On
 USでは2週連続1位だったにもかかわらず、なぜかUKでは最高31位までしか上がらなかった。やはりあまりに直接的なタイトル・メッセージが、むっつりスケベな英国人には敬遠されたのか。
 粘っこいWah Wah Watsonの特色あふれるワウ・ペダル・ギターは、ちょっと奥に引っ込んだミックスのMarvinのヴォーカルの官能をさらに引き立たせる。
 この時期のMarvinのサウンドはまだ多重コーラスにさほど力を入れておらず、緩やかなボンゴと程よいストリングスで構成されていて、良質なAORのルーツとしても聴くことができる。これがもう少し後になると、怒涛の多重コーラスの嵐で、むせ返るくらいのMarvinの体臭が堪能できる。


 
2. Please Stay (Once You Go Away)
 比較的モータウンの通常フォーマットに近いメロディとサウンド。とはいっても、バックを担当しているのが主に西海岸のスタジオ・ミュージシャンのため、演奏にメリハリがあり、特にドラムのPaul Humphrey、終盤のフィル・インは語り草となっている。

3. It I Should Die Tonight
 流麗なストリングスを主体として、アクセントに使われたヴィヴラフォンの響きが印象的な、ジェットストリーム的スロウ・ナンバー。中盤でダブル・ヴォーカルを披露しているけど、まだ濃密さは少ない。このアルバムのMarvin、比較的ヴォーカル処理はフラットなので、彼の素の声を堪能したいのなら、『What’s Going On』よりは、むしろこのアルバムの方がオススメ。

4. Keep Getting' It On
 タイトルでもわかるように、1.から派生してできたナンバー。ていうかこのアルバム、1.から4.までは同じセッションで録音されたものなので、ここまでが一つの組曲と考えても良い。ただ、前作と比べて曲の関連性・繋がりはちょっと緩やかというか、ちょっとアバウト。まぁその辺はあまり気にせずに。
 俺的には、1.よりもう少し軽いセッションっぽいので、この4.の方が気軽に聴けるのだけれど、いかがだろうか?

5. Come Get To This
 もともと西海岸界隈でストリングス中心のアレンジを一手に引き受けていたGene Pageなる人との共同アレンジによる、こちらも3.同様、シャッフルの入ったスタンダード風ナンバー。シングルとして、US21位UK51位はまぁまぁの成績か。
 ディナー・ショーっぽいアレンジだから、本人としても気に入っていたはずなのに、ライブではなぜか、熱い官能的なナンバーとなっている。何をしたいんだ、この人…。



6. Distant Lover
 で、こちらもライブでは血管がブチ切れそうになるほど、クライマックスで取り上げられていたナンバーなのだけど、ここでは比較的大人しく、スロウなポップ・ソウルの仕上がり。5.同様、ここではシンプルなアレンジなのだけど、ライブになるとエモーショナル全開エロ満載の激情バラードに変貌する。Marvinがセックス・シンボルだったことがよくわかるナンバー。



7. You Sure Love To Ball
 俺だけじゃなく、誰もが大大大好きなDavid T. Walkerのメロウなギター・プレイが全編で堪能できるナンバー。US50位はまぁ仕方ないかな、シングル向きのサウンドじゃないしね。『What’s Going On』で確立したファルセットの使い方が絶妙で、これがストリングスと絡んでくると、そりゃあもう、女性ウケは間違いない。

8. Just To Keep You Satisfied
 ラストは正統ハリウッド映画のサントラっぽいテイストの、まさしくMarvinとしてはズッパマリのスタンダード。せっかくJames Jamerson(B)を使っているのに、それほど持ち味が発揮されていないことが、ちょっと残念。



 このアルバム、やはり前半4曲の組曲風セッションがメインで、残りは結構時期もバラバラに録音されているため、前作ほどの統一感はちょっと薄い。それだけ『What’s Going On』が素晴らしすぎるのだけれど。
 後年リリースされているデラックス・エディションには、Herbie Hancockとのセッションなどが収録されており、この辺をうまく膨らませてくれれば、1.を核として、もうちょっとコンセプトもしっかりしたアルバムになったと思うのだけれど、まぁ勢いで作りました感が否めない。
 そういった反省もあって、しっかり作り込んだ『I Want You』や『Trouble Man』なんかがリリースされるのだけど、過渡期的アルバムと思ってもらえればいいんじゃないかと思う。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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