好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

無記名の音楽として世に出されるはずだったアルバム - Prince 『Black Album』

folder 活動歴の長いアーティストになるほど、様々なしがらみが付きまとってくる。レコード会社の都合やファンの勝手なニーズに、いちいち従順に応えていくと、本来自由であるはずの表現活動の幅は、次第に先細りになってゆく。ただ、とにかく必死なデビュー間もない頃は、そんなことを考える者は少ない。
 最初に世に出る頃は、それまでの蓄積を吐き出すだけで精いっぱい。数年後のビジョンまで視野に入れて行動しているのはほぼ皆無、ほとんどのアーティストにとっては、次のレコーディング契約・次のライブ会場ブッキングを継続させることにしか、意識が行かない。
 それでも無我夢中にもがいた末、どうにかセールス・動員数などで結果を出し、ようやく次のアルバム、ライブができる目処がつく。規模やランクはあれど、大方はこのサイクルの繰り返しだ。
 デビューして数年までの行動はすべてアウトプット、これまでの自分の貯金を切り崩す作業・身を削る作業が主なため、当然アイディアはすぐに枯渇する。そんなにそんなにデビュー前から、革新的なアイディアを蓄積している者はいない。そこでアイディアを仕入れる作業、インプットが必要になる。それは座学や実践もそうだけど、異ジャンルの他者との交流によって生まれる場合もある。創作のアイディアを受信するアンテナを広げ、自ら様々な場所に出向き、情報を収集してゆくことが必要になる。そして、そこからが本格的にアーティストとしてのスタート地点になる。
 ほとんどのアーティストはそこへ行き着く前に息切れ/ネタ切れして、そしてフェード・アウトしてゆく。もう少し世渡りの上手い者は、過去のアイディアの拡大再生産で凌いでゆく。そのような選択肢が潔いとは思わないが、次第に過酷になりつつある音楽業界をサヴァイヴしてゆくためには、必要悪な生き残り策ではある。
 
 そういった小手先の技を使う必要がない、革新的なアイデアが常日頃湯水のように湧き出てくる者もいるにはいるけど、そういった天才肌タイプの人間はごく少数、限られた数しかいない。
 昔ならJimi HendrixやFrank Zappaあたりだろうけど、存命している中での代表格と言えば、お待たせしましたPrinceである。

blackalbum 1

 とはいっても、芸術の神に微笑まれる時期というのはごくわずか、彼もまた一生涯にわたって才気煥発だったわけでなく、本当に創作力のピークだったと言えるのは、デビュー当時の70年代後半から80年代いっぱいくらいまで(『絶頂期』の解釈については、様々な意見がある)、以降はサウンド的な進歩は微々たるもので、凡百のアーティスト同様、やはりこれまでアウトプットしてきたパーツの拡大再生産に甘んじている。
 
 で、この『Black Album』、ちょうど創作力のピーク、時期で言えば『Sign “O” the Times』と『Lovesexy』の間にリリースされる予定だったアルバムである。当時のPrinceのワーカホリック振りは今でも語り草となっており、大量の未発表曲ストックがこの時期に集中している。
 自前のスタジオ「Paisley Park」を所有していたPrinceにとって、レコーディングを行なうということは、即ち息をするのと同然の行為であり、とにかく思いついたら昼夜を問わず、手当たり次第にテープを回していたらしい。夢の中でアイディアが生まれたため飛び起きて、真夜中にバンド・メンバーを呼びつけた、という胡散臭い逸話も残っているけど、まぁ当時は独裁者同然に振る舞っていたらしいので、多分ほんとのことなのだろう。

 まずは何曲かレコーディング→なんとなくアルバム・コンセプトを決める→テーマに沿った曲を選ぶ→アルバム一枚に繋いで微調整、といった風に、結構システマティックにレコーディングは行なわれ、まるで工業製品のようにぞくぞくアルバム単位のマテリアルが製造されていった。
 
n_a
 
 『Black Album』においても、最初はほぼこの流れで制作された。かなりディープなファンク寄りの曲が多く出来上がるに連れ、次第にコンセプトも固まってゆく。
 どうせやるならもっとマニアックに、セールスは度外視でやってみよう。せっかくならもっと「ど」が付くくらいのファンクで、これでもかというくらい「濃い」アルバムを作ろう。契約枚数オーバー?だったら名前も出さない顔も出さない、ブートみたいな真っ黒ジャケットで出しゃいいんじゃね?
 -ま、だいたいこんな感じで作っちゃったんじゃないかと思う。ただ最終的にPrinceがチキンになったおかげで、最終工程寸前で発売差し止めになっちゃったけど。
 
 サウンドについてはこれまで散々語られているので、知らない人でも何となく知ってると思うけど、問答無用のファンク・ミュージックである。
 言い訳しようのない、真性の「ど」が付くファンク。
 前作『Sign “O” the Times』では、全方位的なコンテンポラリー・ミュージックの片鱗を見せたPrince、今回はポップに振り切り過ぎた反動なのか、「一見さんお断り」の看板を掲げた密室ファンクを緻密に創り上げ、そして無造作に、何の飾りもなく放り投げてきた。あまりに閉鎖的な空間で鳴っているので、自己完結してしまうがあまり、最早どこへ繋がることもない、出口なし袋小路の音楽。当時のPrinceの体臭がツンと臭ってくる、そんなアルバムである。


ブラック・アルバム
ブラック・アルバム
posted with amazlet at 16.02.04
プリンス
ダブリューイーエー・ジャパン (1994-12-21)
売り上げランキング: 84,246



1. Le Grind
 リズム・トラックだけで、もう何時間も聴いていたいくらい、とにかく気持ちいい。シンセの使い方にZappっぽい瞬間があるけど、どこからどう切り取ってもPrinceの体臭がプンプン臭ってくる。
 ホーンをひと固まりの音として扱うのではなく、エッセンス的なエフェクトとして使うのが、この人の特徴。そこが他のファンク・アーティストとの大きな違いである。なので、ダンス・チューンにもかかわらず、どこか踊りづらく密室的なのはそのせい。
 この頃よく駆り出されていたBoni Boyerの弾けっぷりが爽快。
 
2. Cindy C.
 ベシャッと響くドラムが時代を感じさせるけど、Prince自身による冒頭のファルセットな雄叫びがファンキー。ラップというには躍動感が足りないCat Gloverの「語り」が、うまくリズムと対比している。
 ホーンの使い方はジャズ・テイストも加わって、サウンドに厚みを加えている。しかしPrinceの「語り」、まぁ下手くそなラップよりは全然良い。
 でもこの人、どうしてこんなにベースを入れるのを避けるのだろうか?
 ちなみに豆知識、タイトルの由来は当時のセレブ・モデルとして名を馳せたCindy Crawford。
 
PrinceBlackminiPosters

3. Dead On It
 ギターのカッティング・ソロが絶品。さすが「Rolling Stone」で「最も正当に評価されていないギタリスト」に選ばれただけのことはある。
 俺自身としては、恍惚の表情でギター・ソロを弾きまくるPrinceよりはむしろ、こういった的確な場所でちょっとセンスのあるオブリガードを聴かせる感じの曲の方が好きである。だって、ソロに酔いしれるPrinceって、あんまりカッコよくないんだもん。
 プリセット丸出しのドラム・ループの音はショボくチープだけど、ここでは比較的マシなPrinceのラップがイイ味出している。ギターの代わりにスラップ・ベースを入れたら、さらにファンキー指数は上がるのだろうけど、そうはしないのが、PrinceのPrinceたる所以なのだろう。
 
4. When 2 R In Love
 『Lovesexy』ヴァージョンとほぼ同じ。このアルバムの中では異色の、流麗なメロディで勝負した曲。余計な装飾を省いたアルペジオと、エフェクトをかけたドラム、次第に音数が増え、中盤ファルセットの多重コーラスがもっともファンクを感じさせる瞬間。複雑なリズム・パターンに頼らずとも、ファンキー指数をあげることができるというお手本の曲。
 
5. Bob George
 ブートレグ並みにくぐもった音質のシンセ・ドラムに合わせて「語る」Prince。思いっきりエフェクトを変えて低音にしているため、最初本人だとは思えなかった。その別人のようなPrinceが不穏なバック・トラックに合わせて語り、霧の遥か向こうで響き渡るギター・ソロ。
 いわゆる一般的なファンク・サウンドではないのだけれど、どこかP-Funk的な、負のパワーを内包した攻撃的なデンジャラス・ファンク。あまりに攻撃性が強いため、普通のアルバムに当てはめることは不可能。
 『Black Album』とは、まさしくこの曲のためにあるアルバムだろう。

prince1987

6. Superfunkycalifragisexy
 チープなシンセ和音から始まる、タイトルから想起されるイメージとは裏腹に、疾走感のあるファンク・ナンバー。元ネタはもちろん映画『Mary Poppins』挿入曲” Supercalifragilisticexpialidocious”から。
 ちなみに日本のバンドBOOWYも同時期、” SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS”という、ワン・スペル違いの曲をリリースしていた、というのは、あまりいらない情報か。
 曲調としては、これぞPrince!といった感じの、優秀なファンク。そうだよ、こういったのを求めてたんだよ、やりゃできるじゃん、とでも言いたくなってしまう、ノリッノリでいて、しかもどこかクールさを感じさせる、ドライな質感。
 
7. 2 Nigs United 4 West Compton
 6.と同じく疾走感溢れる極上のファンク・チューン。7分という長尺のインスト・ナンバーのため、やはりPrince名義でリリースするのはちょっと…、といった感じの曲。こういった通常のアルバム・コンセプトから外れてしまう曲も受け入れてしまうのが、この『Black Album』の懐の深さだろう。
 リリース当時はダルいインストが退屈で、歌が入ってればもっといいのに、と思っていたけど、世間的にも俺的にも、状況はかなり変わってきた。この後、いち早くインターネットに興味を持ったPrinceは『NPG Music Club』を設立、メジャーではリリースしづらい曲を次々に独自配信するようになり、その中にはジャム・セッションを延々と収録した物も含まれており、Princeのような多作アーティストにとっては良い時代になってきた(と言っても数年で飽きてしまい、すぐ活動は休止してしまうのだけど)。
 俺的にはここ数年、新旧問わずジャズ・ファンク系の音を漁るようになってきたので、このようにファンキーなインストは、結構ツボである。
 
8. Rockhard In A Funky Place
 『Parade』に入っててもおかしくない、このアルバムの中では比較的マイルドなファンク・チューン。ややスローなミドル・テンポも聴きやすい。
 中盤のギター・ソロはPrinceのベスト・プレイの一つ。決して引き出しの多い人ではないけど、やはりこのリズム、このエロいヴォーカルの後ろで鳴っていると、より効果を発揮する音である。
 本人的にはSantanaの影響が多いと言っているのだけど、いやいやどう聴いてもジミヘンでしょ、これって。




 四半世紀も前のアルバムだけあって、どうにも音が軽いのが弱点。初リリース予定当時は、既にレコードからCDへの移行時期だったため、LPは未聴だけど、やはりリズムの音質自体、現代のサウンドと比べると貧弱だ。どうにかリマスターしてほしいのは全世界のファンの願いなのだけど、何しろワーナーとの関係が微妙なため、それもなかなか進展しない状況が続いている。
 『Purple Rain』30th Annversary Editionはどうなった?
 ほんと、どうにかしてほしいものである。


Hits & B-Sides
Hits & B-Sides
posted with amazlet at 16.02.04
Prince
Warner Bros / Wea (1993-09-27)
売り上げランキング: 10,436
Prince: Live at the Aladdin Las Vegas [DVD] [Import]
Hip-O Records (2003-08-19)
売り上げランキング: 84,695

マイナスすることで創りあげた独自のファンク・サウンド - Prince 『Parade』

folder 大幅にロック・サウンドへ舵を切った『Purple Rain』が大ヒットしたPrince。このまま同路線で突き進むかと思いきや、続く『Around the World in a Day』では60年代サイケと、自ら開発したロックとのハイブリット・ファンクを融合したサウンドを提示。一部の熱狂的なファンからは絶賛されたものの、『Purple Rain』からファンになったライト・ユーザーにとっては、肩すかしを食うような内容だった。
 Princeにとっては必然だったとしても、大多数のファンのニーズとは微妙にかけ離れていたのだろう、 前作の勢いを借りてUS1位UK5位という好成績を収めはしたけど、セールスに悪影響が出てくるのはその次、今回はその『Parade』である。
 
 US3位UK5位という成績は、決して悪いものではない。ただ、やはり自らファンを選別するようなアルバムをリリースしたことによって、セールス的にはどうも分が悪い。がしかし、ネットの評判をみても、またリリース当時から、このアルバムは既に名盤扱いされていた。
 前述した通り、聴く者を選ぶアルバムである。好き嫌いがはっきり分かれると言ってもよい。一聴すると地味なアルバムでとっつきにくい印象だけど、一度虜になってしまうと抜け出すことのできない、恐ろしく中毒性の高いアルバムをリリース、Princeはファンや音楽業界へガチの問題提起を行なった。
 
 音響的・サウンド的には、かなり地味、新規ユーザーを拒絶するかのような、味もそっけもないスッカスカな音である。
 時代は80年代中期、もっと音量のデカいへヴィ・メタルが台頭し、ヤマハDX7を代表とする、きらびやかなシンセ・サウンドが隆盛を極めていた頃である。ひねくれた言い方をすれば、どいつもこいつもマルチ・トラックのチャンネル数は目いっぱい使ってるくせに、どうにもメリハリのない、ノッペりした平面的な音が売れていた時代である。
 そんな中、この男はほとんどベースを使わず、それでいて独特なリズム感覚を最大限に利用して、これまでにありそうでなかった我流のファンク・サウンドを編み出した。

0a645261a33f1cf4ec13049301499a04

 そこそこソウルをかじってる人ならわかってもらえるはずけど、音数の少ないファンクと言えば、真っ先にSly & Family Stoneが連想される。ほとんどのファンク・ミュージシャンの例に漏れず、Princeもまたその影響下にはあるのだけれど、『There's a Riot Goin' On』『Fresh』と立て続けに重要作をリリースした後、次第に活動がフェード・アウトしていったSlyと違って、Princeの場合はあくまで通過点、Prince流ファンク・ミュージック制作の中間状況報告といった趣きで、順調に、しかもマイペースでアーティスト活動を継続している。
 もともと酒もドラッグもほとんど嗜むことがなく、女遊びとレコーディング活動が生活の大部分を占めるPrinceにとって、性欲と仕事欲以外の欲望は薄かったせいもあるのだろう。いま現在においても、そういった方面のスキャンダルは、ついぞ聞いたことがない。
 

 Wikiや他のファン・サイトを見てみると、この時期はヒマさえあればレコーディングばかりしていたらしく、中途で投げ出したり発売寸前で中止になったアルバムも数知れず、ということ。
 俺自身、Princeのブートは集めていたことがあり、そりゃあもう大量の未発表曲を聴いたことはあるけれど(ていうか、ちょっとディープなPrinceのファンにとって、ブートを聴き漁ることは珍しいことではない)、やはりこの時期前後のクレジットがとても多い。創作意欲があふれ出ていた時期なのだろう。
 
 ただし、いくら天才の仕事とはいえ、すべてが手放しで絶賛されるとは限らない。
 一応このアルバム、Prince主演・監督を務めた『Under the Cherry Moon』のサウンドトラックという体裁なのだけれど、肝心の映画は興業的に大コケ、しかも『裏アカデミー賞』とも言える『ラジー賞』において、最低作品賞・最低男優賞・最低助演男優賞・最低監督賞・最低主題歌賞と、みごと5部門において栄冠を獲得している。
 
 Princeが悪いのではない。
 彼の美意識に追いついていけない、我々大衆が愚かなだけなのだ。


パレード
パレード
posted with amazlet at 16.02.04
プリンス&ザ・レヴォリューション
ワーナーミュージック・ジャパン (2005-05-25)
売り上げランキング: 155,559



1. Christopher Tracy's Parade
 テープ逆回転?したドラム・サウンドが画期的だった。ほんとはもっと昔から使われていた手法だったのかもしれないけれど、これほどメジャーなアーティストが使用することによって、世に広めたことが重要なのだ。
 タイトル通り”Parade”に相応しく、ヴァーチャルなマーチング・バンドによるファンファーレが、華々しくオープニングを彩っている。こうしたアレンジも、ファンキー・リズム一辺倒な普通のアーティストには発想できないことだ。前作”Around the World in a Day”のフレーズをチラッと流用しているのはご愛嬌。
 
2. New Position
 1.と同じドラム・ループを基本に、スティール・パンっぽいリズムが絡む。構造的には単純な曲なのだけれど、シンプルなだけあって、もの凄くファンク臭がプンプンする曲。多分、当時のPrinceならこんな感じの曲を作ることは朝飯前であり、無数のストックがあったのだろうけど、その中で出来の良いのを抽出してきた感じ。
 この当時、ほぼ蜜月状態にあったSheila E(Dr)が大活躍している。Prince独りでもある程度のレベルのサウンドは作れただろうけど、彼のイメージを即独特のリズムとして具現化できた彼女の存在は大きい。
 
3. I Wonder U
 サウンドトラックらしく、大勢の笑い声の混じる喧騒からスタート。と言っても、この映画は未見なので、シーンに合ってるのかどうかは不明。
 ブリッジ的な小品だけど、Princeはファルセットを駆使しながら丁寧に歌っており、抑えめながら暴力的なリズムとの対比を楽しむのも、一つの楽しみ方。

Prince_kiss

4. Under The Cherry Moon
 正式でなものではないけど、実質タイトル・トラックのようなもの。
 アンニュイなイントロが映画的・映像的で、やはり凡百のファンクとは一味もふた味もちがう。メロディをそのままなぞるピアノのフレーズは、静かでいながら熱い響き。クレジットがないので、多分Prince自身によるものなのだろう。リズムだけでない方面でも、独特のセンスの良さが窺える(テクニックについては…、ま、それはいいじゃない)。
 
5. Girls & Boys
 急に曲調がガラリと変わり、ファンキーを前面に押し出したナンバー。思いっきり音色をいじったギターと、エッセンス程度に絡むホーン、そしてペシャッペシャッと響きのないドラム。脱力的なWendy & Lisaのバック・ヴォーカル。そして一番重要な、ファンク・ミュージックにおいては不可欠とされる、ベースの不在。これだけの材料にもかかわらず、ここまで捻じれたファンキーさを感じさせる曲は、あまりないはず。
 ファンクの要素を「プラス」するのではなく、不要な要素を徹底的に「マイナス」してゆき、残った要素が結果的に、ドロリと濃縮された極上のファンク・エッセンスだった、というお手本の曲。考え方としては、一時期のSlyにとても近い。
 
6. Life Can Be So Nice
 メロディ、コードだけ聴いてみると、それほどファンクっぽさは感じられないのだけど、ベシャッとしたドラム・サウンド(アタック音を抜いているんじゃないかと思われる)が独特。リコーダーっぽいシンセ音など、そういったエフェクトによって、Princeオリジナルのファンクを演出している。
 
7. Venus De Milo
 サウンドトラックという特性もあって、トータル・コンセプトを意識したピアノ・ソロ。どこかのシーンで実際に使用しているかもしれないけど、未見のため不明。ていうか、実はそれほど見る気が起きない。だって俺、『Purple Rain』だってまともに見てないし。
 
mountains-u-s-12_

8. Mountians
 5.と並び、発表当時から人気の高い曲。大編成バンドによる華麗なるファンク・マーチといった趣きで、曲調もキャッチー、バンド・サウンドっぽさが一番感じられる。”Kiss”の次にシングル・カットされ、US23位という微妙なセールスではあったが、俺的にもこのアルバムの中では好きな部類に入る。
 
9. Do U Lie?
 当時おフレンチにかぶれていたらしく、まぁお遊びというか実験的な小品。バリエーションを持たせるために入れたと思われるけど、わざわざこれだけ抜き出して聴くほどのものではない。サウンドを無視してヴォーカルだけ抜き出して聴いてみても…、ダメだヤッパ。
 
10. Kiss
 前曲で肩透かしを食らったせいなのか、この曲のファンキーさが一層引き立ってくる。US1位を獲得しただけあって、比較的ポピュラーな曲ではあるけれど、どうしてこんな味も素っ気もなく聴こえる曲があれだけ売れたのか、いまいち謎である。
 それだけアーティスト・パワーの勢いがあったということなのだろうけど、それだけでは片づけられないくらい、当時のサウンドのトレンドからは明らかに外れている。
 ショボイ響きのドラム・ループとシンプルなギター・カッティング。サウンドを構成する主要素は、たったこれだけ。Princeのヴォーカルもオフ気味、エコー成分はほとんど含まれていない。
 前述したように、考え方としては「マイナス」の美学、日本の「侘び寂び」的なものである、と強引につなげてしまったけど、あながち間違っていないんじゃないかと思う。余計な成分が入っていない分だけ、ハマってしまえば中毒性の高い、そして時代におもねることのない曲である。

 
 
11. Anotherloverholenyohead
 『Parade』はリズムの革新性が大きくフィーチャーされたアルバムであるため、あまり語られることは少ないのだけど、Princeのもう一つの売りである、ギター・プレイを強調したナンバー。ギター・ソロを入れるとこの人の場合、どうしてもロック・テイストが強くなるのだけれど、それが悪い方に行くとPrinceのパーソナルが薄くなりがちになる。これはちょっぴり悪い方、特にこのアルバムの中では、他のリズム主体の曲に埋もれてしまっている。
 
12. Sometimes It Snows In April
 ファンクというカテゴライズをはずしてPrinceというアーティストを捉えると、ドライなサウンドの奥底には、センチメンタルなメロディという一面が垣間見える瞬間がある。この曲はそういった面を初めてさらけ出した曲。
 それまでセクシャルな面ばかりフィーチャーされていたため、誤解されることも多かったPrinceだけど、この曲によって見方が変わったファンも多かったはず。
「いつか4月に雪が降るかも…」
…北海道ではそれが当たり前だったため、「だから何?」と思ってしまった当時の俺、なんてひねくれていたんだろう。




 『Parade』リリース後、再び世界ツアーに出て、バック・バンドThe Revolutionは解散する。Wendy & Lisaのどちらかと痴話喧嘩になった、との諸説もあるけど、まぁ今となってはわからない。
 Prince本人としてはこのアルバム、実はあまり気に入っていなかったらしく、本人曰く「価値があるのは”Kiss”だけ」ということだけど、今でもコアなファンの間では3本の指に入るほどの人気がある。まぁ滅多にインタビューを受けない彼のことだから、メディアに対して捻くれた発言をしただけなのかもしれないけど。



プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン 特別版 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2013-11-06)
売り上げランキング: 32,376
Hits & B-Sides
Hits & B-Sides
posted with amazlet at 16.02.04
Prince
Warner Bros / Wea (1993-09-27)
売り上げランキング: 10,436

どこにも当てはまることのないミッシング・リンク - 佐野元春『Visitors』

 1984年リリース、佐野元春2年ぶり4枚目のオリジナル・アルバム。この間にセレクション・アルバム『No Damage』のリリースがあったため、ファン的にはそれほど長いブランクとは感じなかったけど、あまりの音楽性の変化に戸惑うファンは多く、ここをターニング・ポイントとして、新旧ファンの交代が著しく進んだ、キャリア最大の問題作でもある。
 最近になって30周年記念エディションがリリース、NHK-BSでは制作にまつわるドキュメンタリーまで放送された。20周年の時もそれなりにファンの間では話題になったけど、ここまで大げさに取り上げられるとは思わなかった、というのが正直なところ。
 
 10、20年前と比べて音楽業界は激変&衰退の一途を辿っている。かつて音楽のメイン購買層であったはずの10~20代の若者は、もうそれほど音楽に興味がなくなっている。今のメイン・ユーザーは団塊ジュニア以降、音楽を比較的シリアスに捉えていたアラフォー世代をターゲットにしないと、成り立ってゆかないのだ。
 そういった状況の中、佐野元春は潜在的な認知度も固定ファンも多く、確実な収益プランを立てられる、優良コンテンツの一つである。先細りしつつある音楽業界がこぞって盛り立てるのも無理はない。
 
 初期の総決算としてまとめられた『No Damage』を置き土産として、元春は単身NYへ飛び立つことになる。当時は1年間限定で、と言っていたような気もするが、最近明らかになった事実では、どうやら無期限、特別に期間も決めず、自分が納得ゆくまで滞在することを決心していたらしい。
 長い不在とはいえ、決して音信不通だったわけではなく、週に一度のモトハル・レイディオ・ショウ、月曜夜10時からのNHK-FM『サウンド・ストリート』は律儀に継続していた。また、ラジオ収録やレコーディング準備の合い間を縫って、責任編集として名を連ねたストリート・カルチャー雑誌のハシリ『This』を創刊、NY滞在中に4冊刊行している。ちなみに当時、俺自身も1冊買った覚えがあるのだけど、北海道の片田舎の中学2年には到底理解しがたい、ハイ・センスでシャレオツな、斜め上のスカしたコンセプトのビジュアル中心の雑誌だった。元春の名前がなかったら絶対手に取ることもない、どうにも「意識高い系」の好きそうな内容だった。
 なので、具体的にどんな内容だったのか、さっぱり覚えてない。

IMG_20141029_0002

 リリース当時から名盤と称され、それと同時かなりの異端作と評されていたのを覚えている。
 あれだけポップな"Someday"や"ガラスのジェネレーション"を作った人が、どうしてこんなサウンドになったのか?従来スタイルのポップ・チューンは"Tonight"くらいで、あとは当時最先端だったNYヒップホップ・カルチャーをメインとしたサウンド・コンセプトで制作されており、保守的なファンの間では微妙な反応が多かった、と記憶している。
 ナイアガラ・トライアングル経由で興味を持った俺的にも、そのあまりの変質振りには当初戸惑いもあったけど、最先端やらトレンディやらは別として、とにかくこの尖りまくったサウンドに魅了された。これまでのように、気軽に口ずさめるようなサウンドじゃないけど、どこか引っかかりが強く、確実に傷跡を残す質感は、長く心に残っている。
 
 ちょっと長くなったけど、ここまでが前置き。ここからが本題である。
 『Visitors』リリースの1984年、元春はツアーに明け暮れる。年明けには、初のオリコン上位にチャート・インしたシングル"Young Bloods"をリリース。元旦の代々木公園でのゲリラ・ライブを敢行したPVがメッチャかっこよかった。
 この後、少しブランクを置いて、こちらも名作『Cafe Bohemia』をリリースするのだけど、ここで元春、なぜか再びポップ路線に回帰してしまうのだ。

215

 『Cafe Bohemia』もまた、当時のジャジー・ポップ・カルチャー、Style CouncilやStingなど、ジャズのエッセンスを盛り込んだサウンドに倣った名盤なのだけど、ある意味このアルバム、初期のティーンエイジ・ポップ・サウンドをベースとした、アダルト・コンテンポラリーな進化形である。なので、決して新機軸ではない。その後の元春のソングライティングの変遷の流れで見れば、ごくごく自然な経緯ではある。
 だけどしかし。
 この『Visitors』だけが、どうにも異色なのだ。

 どこにも当てはまらない、どこから湧き出て来たのか、そして、どこかへ辿りつくかも知れない、元春の足跡の中でのミッシング・リンクとなっている。
 これ以上発展するわけでもなく、そしてどこへも行き場のない、ある意味元春が創り出した、純粋にオリジナルと言える唯一の作品かもしれない。一応は日本のヒップホップ/ラップ・カルチャーのルーツとも言われているけど、そんなカテゴリー分類さえ拒否してしまう、そんな強力なエゴイズムを、この作品は内包している。
 そんな癖の強い、そんな規格外の音楽が、俺は愛おしくてならない。


VISITORS
VISITORS
posted with amazlet at 16.02.07
佐野元春
ソニー・ミュージックダイレクト (2013-02-20)
売り上げランキング: 4,974



1. COMPLICATION SHAKEDOWN
 言葉とリズムの嵐。これでもかというくらいの情報の洪水である。
 並みのアーティストならもっとアイディアを薄めて、軽くアルバム1枚分くらいのマテリアルを作れるほどの情報量を、惜しげもなく一曲に詰め込んでしまったのが、当時の元春の潔いところ。クリエイターとして、そして時代のイノベイターとして、1980年代初期のNYヒップホップ・カルチャーの空気感を凝縮したサウンドを薄めることは、プライドが許さなかったのだろう。誇り高い人である。
 ちなみに、リリース当時にPVも同時制作されたのだけど、当時としてはあまりに先鋭的過ぎて公開を見送られた(発禁だったかな?)。近年、解禁されたので見たところでは…、まぁ当時の普通のMTVクリップである。このフィルムのどこに誰がケチをつけたのか。あっきり言って普通じゃん、こんなの。
 むしろ80年代という気恥ずかしい時代に寄り添いすぎたビジュアルが、黒歴史的でもある。

 
 
2. TONIGHT
 アルバム先行シングル。アルバム全体に流れる、生傷に沁みるようなヒリヒリした刺激的サウンドの中で唯一、ポップ性の強い曲。
 とは言っても、前作までバッキングを務めていたHeartlandのサウンド・テクスチュアではなく、NYチームでの演奏のため、質感はまるで違う。
 実際、アルバムの中ではこの曲だけ妙に浮いており、「1曲ぐらいは一般ウケするような曲も入れとかなきゃ」と思い立ったもか、それとも大人の事情なのかと勘繰ったりもしたけど、30年経って聴いてみると、それほどアルバム中異彩を放っているわけでもなく、ちゃんと流れの中に納まっていることに、軽い驚き。
 Mixの違い?それとも俺が年を取ったせい?
 ま、どっちでもいいか。

3. WILD ON THE STREET
 ワシントン発祥、ゴーゴーのリズムが時代を感じさせるけど、80年代初期はこれが最先端だったのだ。
 端を発するとルーツはすべてJames Brownという結果になってしまうのだけれど、当時はそんな経緯は思いつきもしなかった。今にしてみれば、有名なソウル・ショウのサウンドを発展させたものと分類できるけど、当時落ち目だったJBはゲロッパだけの一発屋という認識しかなく、復活は『ロッキー4』まで待たなければならなかった。
 
"君に壊してほしい
 バラバラになるまで
 オレを壊してほしい
 バラバラになるまで"
 
 破壊衝動に満ちあふれた歌詞を強いアタックのダンス・ビートに乗せる、というのが、それまでの日本のアーティストにはなかった発想である。破壊的な歌詞を破壊的衝動そのまんまのサウンド(例えばハードコア・パンクや前衛的な現代音楽など)に乗せるのではなく、享楽的なサウンドの使用を提示する―、元春の功績のひとつである。

img_2

4. SUNDAY MORNING BLUE
 衝撃的なサウンドで日本の音楽業界を席巻した、と後に語り継がれた『Visitors』、当時日本のヒップホップ・カルチャーはまだ創生期すら迎えておらず、それをシリアスに分析・批評できる者もほとんどいない状況だった。もし深く理解できた者がいたとしても、彼らは現場で皿を回してたり踊ってたりする方が性に合い、評論するなんて考えはなかったことだろう。
 『Visitors』収録のバラードは2曲、特にこの曲はヒップホップ色が薄く、メロディ、ヴォーカルともシンプルに仕上げられている。ただし従来の甘いバラードではなく、NYの若手ミュージシャンらによる太い質感のサウンドに彩られているのが、これまでよりちょっぴり進化。
 
"世界はこのまま何も変わらない
 君がいなければ"
 
 殺伐としたドライなサウンドの最後、元春はこう歌を締めくくる。その声は感情を抑えてはいるが、力強い。ギターのリフとサックスとが絡むエンディングが美しく、また気持ちいい。

5. VISITORS
 急に音が分厚くなる。
 初めて聴いた時、すごく未来的なサウンドに感じたのが、これ。少なくとも、それまで聴いてきた中で、こんなサウンドを出していた日本人アーティストは他にいなかった。アンダーグラウンド・シーンには少しはいたかもしれないけど、まぁ少なくとも俺はその辺はよく知らない。元春ほどのメジャーなアーティストが、ここまでストリート・カルチャーに根差したサウンドを創り
上げたことは、すでにこの時点で衝撃的だった。
 この曲もまた、アルバム1枚分くらいのアイディアが惜しげもなく詰め込まれている。どうして、この路線を続けられなかったのか、それとも、あの時代、あのNY、あの年代の元春でなければ創れなかったのか?
 危うく絶妙なバランスの基に成り立っている、奇跡的な楽曲。

 

6. SHAME - 君を汚したのは誰
 元春がNYから吸収してきたのは、その先鋭的なサウンドだけではなかった。その空気感は人種や世代を超えた「言葉」に形を変え、特にこの曲に強く封じ込められている。
 
"偽り 策略 謀略 競争 偏見 強圧 略奪 追放 悪意 支配"
 
 『Visitors』収録曲は、中途半端な歯の浮いた比喩を極力使わず、サウンドに負けない直接的な言い回しが多い。特にこの曲においては、とにかく言葉の力が強い。
 ほんとは気に入ってるフレーズを書いてゆきたいところだけど、そうなるとあれもこれもと、結局は全文書くことになっちゃうので、結局、全部聴いてくれ、ということになってしまうので、これだけに止めておく。
 人間のプライドや自尊心をテーマとした、普遍的な内容の歌詞である。
 何年経っても考えさせられる、単純だがどの世代にも通ずる、これだけは聴いてほしい曲。

 
 
7. COME SHINING
 1.と同じ方向性を持つ、やはりNYの空気感満載の曲。
 こうして聴いてみると、元春が先鞭をつけたはずの日本のラップ/ヒップホップ・シーンが、現状どうしてこんなことになっているのか、80年代のサブカル周辺や90年代末のDragon Ashの台頭などによって、何度か独自文化の形成のチャンスはあったはずなのに、今では見る影もない。あったとしてもアンダーグラウンドに潜ってしまい、メジャー・シーンでは痕跡すら見当たらなくなってしまった。ファンモン?いや、あれはないっしょ。
 元春もこの路線はこの時限り、ヒップホップ・カルチャーへの大幅な接近はその後行なっていない。
 やはり日本で根付かせるのは無理なのだろうか?
 
8.NEW AGE
 これも3.同様、ゴーゴー系のリズムのバリエーションなのだけど、そこに重心の低いバンド・サウンドを融合することによって、やはり近未来的なサウンドを演出している。パーツそれぞれは従来品なのだけど、ミックス加減やちょっとした小技のエッセンス具合によって、どのカテゴリーにも属さない無国籍サウンドに仕上がっている。
 ステージでは再現が難しかったのか、長らくライブでは別仕様のヴァージョンで演奏されていたけど、やはり時代を感じさせないオリジナル・ヴァージョンの方が俺は好き。
 



May12686

 あの時代/あの場所で、あのメンバーでなければ創れなかった音楽を、佐野元春はほぼ独自の感性で創りあげた。クリエイターとして一歩進むために、元春的にはどうしても創っておかなければならない作品だった。ただ、それがもろ手を挙げての歓迎だったかといえば、そこは微妙なところ。当時の日本に、このサウンドを受け止められるほどの土壌は、まだなかった。
 
 大きな好評を得ることはできなかったけど、確実に日本の音楽シーンに爪痕は残した。
 そして歌詞も大きく変容を遂げ、むき出しの言葉はもっと直接的な方向へ-。ポエトリー・リーディングという、言葉の力を信じ、強靭な散文を選択することになる。
 そして、その戦いは今もまだ続いている。



VISITORS DELUXE EDITION(DVD付)
佐野元春
ソニー・ミュージックダイレクト (2014-10-29)
売り上げランキング: 8,795
EPIC YEARS THE SINGLES 1980-2004
佐野元春
Sony Music Direct (2006-06-28)
売り上げランキング: 51,279
カテゴリー
記事検索
Twitter
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村

アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: