好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

「お前が欲しいんだぜベイベェ」をアルバムまるまる一枚使って表現 - Marvin Gaye 『I Want You』

i want you  久しぶりにMarvinのレビュー。前回『What’s Going On』の後、こちらも有名な『Let’s Get It On』をリリースしているのだけれど、こちらはすっ飛ばして、まずは個人的に好きな『I Want You』をご紹介。
 
 1976年リリース当時のデータを見ると、ビルボード総合チャートでは最高4位、R&Bチャートでも堂々の1位、UKでも4位にランクインしている。
 後期Marvinの代表作である『What’s Going On』『Let’s Get It On』にも引けを取らない売り上げを誇っているのだけど、あまりに両盤の評価が高すぎるのか、現状『I Want You』はあまり語られることの少ないアルバムである。Amazonでのレビュー数でも、その差は歴然としている。

 俺の個人的な位置づけとしては、両盤で確立した多重コーラスを更に深化させたサウンドは、フュージョン~スムース・ジャズへの重要な橋渡しになっていると思うのだけれど、あまりそういった掘り下げ方はされていないようである。デラックス・エディションも制作され、当時のアウトテイクも多数発掘されてるし、もっと評価されてもいいはずなのだけれど、依然日本での評価は可もなく不可もなく。
 
 Marvinにとって転換期の作品である『What’s Going On』は、それまでの享楽的なポップ・ソウルとは一線を画した、いわゆる社会的メッセージ性の強い作品だった。ベトナム戦争、公民権問題、人種差別などなど、これまでの「強いアメリカ」が世界情勢的に通用しなくなり、これまでは巧妙に隠されていた綻びが見え隠れしてきた頃、Marvinに限らず、先鋭的なアーティストは赤裸々なメッセージを声高に叫び、若者たちの支持を得た。

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 翻って『Let’s Get It On』はもっと個人的なメッセージ、要するに「今夜お前とヤリたいんだぜベイベェ」といった本能的な事柄を、これまたありのままに打ち出してきた。
 普通のミュージシャンなら『What’s Going On』路線を継承し、そのまま「愛と平和の人」に成り下がってしまうところだけど、そこは案外俗物のMarvin、外野の忠告など無視して自分のやりたい事、ていうかその時のマイ・ブームをそのままコンセプトにしてしまうことによって、聖人君子に祭り上げられるムードを一掃した。
 清濁併せることによって重層的な深みが生まれ、結果的にアーティストとしては上手い路線変更となったのは、まぁ単に結果オーライだと思うけど。
 
 ほぼ趣味的に作ったと思われる『Trouble Man』のサントラ仕事も終えて、次に出したのが、この『I Want You』。タイトルそのまんま、「お前が欲しいんだぜベイベェ」を二番煎じ的にやってはみたものの、いやシングルも売れた(ビルボード総合15位、R&B1位)のだけど、いまいち前作のインパクトが強すぎたせいもあるのか、まぁアベレージは維持しましたよ、という程度の売り上げ。
 
 前2作と比べて多少薄味にはなっているのは、一応理由がある。このアルバム制作に当たって、Marvinはサウンド・コンセプトにおいて、主要的に関わっていない。
 大部分のベーシック・トラックを作ったのはLeon Ware、当時モータウンの専属作家兼エンジニアだった人である。もともとは自分用のソロ・アルバム用に制作した"I Want You"を、たまたま耳にしたMarvinが気に入ったため、完成直前だったヴァージョンをオクラ入りさせ、Marvin自ら多重ヴォーカルを被せて完成させた、というのが一連の経緯である。そこからアルバム制作に向けてコンセプトを膨らませていったのだろう。
 
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 いささかムラッ気はあれど、いまだ会社の屋台骨を支える大スター,片や才能はあれど表舞台へ出るチャンスに恵まれなかった裏方スタッフとでは、社内での力関係は歴然としている。
 作品のクオリティは理解できる。ただ営業的にも経営的にも、ポッと出の新人より、大スターの看板で売った方が良いに決まってる。
 作った方は、それはそれで複雑だ。自社スタジオで作った音源だから、営業政策的に会社が強く言ってくるのは当然だ。大スターに認められたことは、それはそれで喜ばしいとして、でも自分のためにとっておいた自信作をかっさらわれるのだから、あまりいい気はしない。
 双方、事は荒立てたくない。互いの妥協点を見出すため、何かと駆け引きがあったようだ。

 Marvin、イコール会社側が出した条件として、曲を譲り受ける代わりにプロデュースを任せたい、との懐柔策が提示される。
 まぁいいようにこき使われるわけだけど、何しろ大スターMarvin Gayeのアルバム、ある程度のセールスは見込まれるわけだから、印税の取り分だって今までより破格だし、何より業界に顔を売り込むチャンスである。
 互いの利害関係が一致したおかげで、"I Want You"を柱としたアルバムは完成した。
 Leon自身もこれで注目を浴びることとなり(レコード会社との取引があったことも考えられる)、古巣モータウンから本格的デビュー(『Musical Massage』)、こちらも高評価を得ることになる。


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1. I Want You (Vocal)
 柔らかなストリングスに交じって、丁寧に重ねられた多重ヴォーカルが厳かに響き、小さなヴォリュームでディストーション・ギターがスパイスのようにリズムを刻む。
 Marvinの伝えたいことはただ一つ、「お前が欲しい」。たった一つの言葉を伝えるために作られた、大掛かりな舞台装置。Leonだけでは物足りなかったサウンドが、エモーショナルなMarvinのヴォーカルによって完成される。

 
 
2. Come Live With Me Angel 
 基本、1.と同じテイストの曲というより、このアルバムのほとんどが"I Want You"のヴァージョン違いみたいなものだけど、ややリズムが強くなっている。ささやきかけるようなヴォーカルが、またエロい気分にさせる。
 
3. After The Dance (Instrumental)
 Arpとエレピによって作られた、同じくエロいムードの曲。このアルバム制作前にサントラ仕事を手掛けているせいもあって、どことなく映像的な構成になっている。
 
4. Feel All My Love Inside  
 こうして続けて聴いてみると、バック・トラックはほとんど同じに聴こえてしまうし、Marvinのヴォーカルもどれもみな同じウィスパー・ヴォイスなのだけれど、単体で評価するのではなく、総体としてのアルバムの一構成要素として捉えた方がわかりやすい。中盤から女性の喘ぎ声が入っているのが、Marvinのほんとにやりたかったこと。
 
5. I Wanna Be Where You Are
 少しテンポが速く、ややシャッフル気味のリズムが、まったりムードだったアルバムにメリハリをつけている。でも、ほとんどブリッジ扱いのため、1分少々で終わってしまう。もうちょっと長く聴きたい人には、デラックス・エディションがオススメ。6分ほどの完成版を聴くことができる。

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6. I Want You (Intro Jam 1)
 ほんとイントロのみ。次の曲とのつなぎだけど、要はすべての曲が"I Want You"のバリエーションで、すべてがひと繋がりで一曲を成していることを言いたいのだろう。
 
7. All The Way Around
 テンポが"Marcy Marcy Me"っぽい、ミドル・テンポの曲。アレンジ次第では、純正モータウン風ポップ・ソウルに聴こえてしまいそうだけど、共同プロデューサーであるLeonの手腕によって、レベルを一段も二段も上げている。
 
8. Since I Had You 
 マリンバとメロディアスなベースで構成されている、シンプルな曲。と思いきや、Marvinの多重コーラスに交じって甘い囁きがほのかに響く。
 当時のMarvinはセックス・シンボルとしても人気を得ていたということだけど、確かにこの甘くとろけるようなヴォイスなら、どんな女性でも口説けたことだろう(だからこそ、後に収拾がつかなくなり、修羅場にはまり込むのだけれど)。
 
9. Soon I'll Be Loving You Again 
 『What’s Going On』で確立した、破裂音の少ないコンガでリズムをキープする、ヴォーカルを引き立たせる曲。とにかくこのアルバムは良い意味でワン・パターンで、隙間なく自分のバック・ヴォーカルで埋め尽くしている。ナルシスト全開。
 
10. I Want You (Intro Jam 2)
 再びブリッジ的な小品。しかも今度は少し長めに尺を取ってある。ブラスがちょっと『金曜ロードショー』のオープニングを思い起こさせる。水野晴郎の怪しげな笑顔を思い出してしまうのは、俺だけだろうか?
 
11. After The Dance (Vocal)
 3.のヴォーカル入りヴァージョン。やはりサウンドのテイストは"I Want You"だけど、こちらは少しラウンジ・ジャズ風。もともとはこういった路線に進みたかった人だから、ノッてるのがよくわかる。
 これもシングル・カットされているけど、全米総合74位とチャート的には低迷。
 地味だけどいい曲、いい曲だけど地味。言葉通りの曲であり、まぁ妥当な評価ではある。Marvinに求められているのは、もっとエネルギッシュでアグレッシヴ、しかもちょっとセクシーなエロさこそが、ファンのニーズである。
 





 本作リリース後、アーティスト的ビジネス的には順調と思われたのだけれど、先妻との離婚の泥沼(やっかいなことに、彼女はモータウン社長Berry Gordy, Jr.の姉であったため、社内的にも微妙な立場に追い込まれた)、本人の麻薬依存など、私生活でのトラブルが頻発する。
 慰謝料を稼ぐためでもあるが、そのストレスと苦悩をそのまんま表現したのが、次作『Hear My Dear』である。
 ちなみに当時の邦題が『離婚伝説』(!)、こちらもそのまんまだけど、これは日本のディレクターにも責任がある。なんていうか、悪意むき出し皮肉たっぷりのタイトルである。女性週刊誌や内部告発本みたいなネーミングだな、こりゃ。



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少年のように無邪気に笑える大人でい続けることは、とても難しいことだと思う - 佐野元春『No Damage』

 1983年にリリースされた、佐野元春4枚目のアルバム。当時、中学生だった俺の周りでは佐野元春の存在自体、知ってる者は誰もいなかったので、今回改めて調べてみて、4週連No.1を獲得していたことは、ちょっとビックリ。まさかそんなに売れてたとは思わなかった。ちなみに、年間チャートでも17位にランク・イン、トータル売り上げは36.5万枚に達している。
 ちなみにその年の年間チャート1位は『Flash Dance』のサントラ。ほぼ100万枚に迫る、ダントツのトップである。そういえばヒットしてたよな。
 
 前年の"Someday"やナイアガラ・トライアングルへの参加によって、先物買いの音楽ファンには多少の知名度はあったものの、当時、佐野元春は決してメジャーな存在ではなかった。北海道の片田舎の中学二年の周囲で流行っていたのは、オフコースかユーミンであり、あとは地元つながりの松山千春、ちゃんと聴いたことはないけど名前だけは辛うじて知ってる山下達郎くらいであり、元春の名前を知る者は誰もいなかった。少なくとも俺の周りでは、テレビの露出もなく、メジャーなヒット曲もない元春は、まだ知る人ぞ知る存在だった。
 
 現在の達観した表情というか、飄々とした物腰からは想像しづらいけど、デビューするまではいろいろ紆余曲折があった人である。バンドとしてポプコンに出場、独特のポップ・センスが評価されて、一応それなりの評価は得たけど、デビューするまでには至らず、バンドは空中分解、その後たまたま知り合った佐藤奈々子の制作ブレーンとして、音楽業界に足を踏み入れる。ブレーンといえば聴こえは良いが、要は何でも屋であり、デモ・テープ制作からマネジメントなど、ほとんどすべての付帯業務を一手に担い、その甲斐あってどうにかデビューにこぎ着けるけど、ほぼ同期デビューだった竹内まりやや杏里、尾崎亜美ほどのスター性・大衆性はなかったので、セールス的には苦戦、仕事でプライベートでこじれにこじれた挙句、男女の関係の破局と共にコンビは解消。ごく短期間、広告代理店のサラリーマンとして勤務、それと並行して作ってたデモ・テープが認められて、念願のソロ・デビュー、といった流れ。

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 Bruce SpringsteenやJackson Browne張りの熱いライブ・スタイルが口コミで好評を得、徐々に評判は上がって行ったが、大きなヒットを生み出すまでには至らなかった。
 当時の元春の歌詞の最大の特徴として、シーン設定のNowhwre性と英単語の多用が挙げられる。当時の日本人にとって、元春の歌詞世界は感情移入しにくく(現実に"NYから流れてきた寂しげなAngel"と接点のある日本人がどれだけいるのか?多分今もあまり変わらないけど)、まだまだ歌謡曲が元気だった時代において、そのバタ臭さを受け入れる余地は、あまりに少なかった。

 空気が変わったのは、大滝詠一との出会いである。ナイアガラ・トライアングルへのユニット参加を経て、飛躍的に世間の注目度が高まった。
 その絶好のタイミングでシングル『Someday』をリリース、同名アルバム共にスマッシュ・ヒットを記録し、ようやく一定のステイタスを築こうとした頃だった。
 
 そうした追い風の状況だというのにもかかわらず、元春は敢えて活動休止を宣言、単身NYに渡ることになる。
 前から考えていたのか、それとも周囲の急激な変化に戸惑いを覚えていたのか、ほんとのところは本人にしかわかりえないけど、このタイミングで日本に踏みとどまり、国内をベースに活動を続けていれば、日本のロック&ポップスの歴史も少し変わってたんじゃないかと思う。ベストテンの常連アーティストになっていたかもしれないし、バンド・ブーム以前の日本のロックの礎を築いてきたうちの一人であるからして、今頃サザンくらいのポジションにいたかもしれない。
 ただ、NYにて制作された傑作『Visitors』は作られなかっただろう。

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 NYへ発つ直前、ファンへの置き土産として残していったのが、ここまでの総決算としてまとめられたこのアルバム、『No Damage』である。ヒット・シングルが入ってるわけではないので、グレイテスト・ヒッツではない、とは本人の弁。
 
 レコード会社主導のベスト・アルバムとは違って、いわゆる契約消化的なものではなく、本人監修の元、きちんとしたコンセプトにのっとって制作されたアルバムになっている。本人としては認めないと思うけど、その後のキャリアにおいても重要な曲がてんこ盛りなので、ざっくりした初期ベストと考えてもいいんじゃないかと、俺は勝手に思ってる。
 レコード時代のA面/B面が、Boy’s Side/Girl’s Sideに振り分けられているけど、あくまで便宜的なものであって、それほど厳密なコンセプトに縛られているわけではないので、あまり深読みしなくてもよいと思う。もしかすると、元春自身ににしかわからないこだわりがあるのかもしれないけど、少なくとも俺的にはよくわかんない。


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1. スターダスト・キッズ
 Bruce SpringsteenとPhil Spectorの幸せな融合。一発目でこの曲が流れた瞬間、田舎の中学生にとっては結構衝撃だった。
 後年になって、この曲のオリジナル・ヴァージョン(今アルバム収録はリミックス・ヴァージョン。初出はシングル"Downtown Boy"のB面だった)を聴いてみたら…、なんかすっごくショボかった。いくらB面とはいえ、なんでこんなサウンドにしたのか、これが良いと本気で思っていたのか。ちょっとチープなガレージ・サウンドに憧れたのか。
 結果的にリミックスして大正解だった曲。

2. ガラスのジェネレーション
 初期の代表曲。ちょっとモータウンっぽい導入部から始まる、ポップ・ロックのお手本みたいな曲である。「つまらない大人にはなりたくない」というメッセージに、当時何万人ものティーンエイジャーが耳を傾けただろう。かつてPete Townshendが歌った「年取る前に死んじまいたい」というより、ずっと前向きな言葉だ。
 他にも「見せかけの恋ならいらない」「君はどうにもかわらない 悲しいけれど」など、必殺フレーズがボコボコ飛び出してくる、ほんと油断ならない曲である。

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3. SOMEDAY 
 ここまでほぼ曲間がなく、メドレー形式で曲が続く。アルバム本来のコンセプトである「パーティー・シーンでのBGM」として、このように疾走感のある構成は正解だと思うけど、当時の日本において、果たして実際にパーティー・シーンで使用した者がいただろうか?元春的には多分、アメリカン・グラフィティ的なシーン設定で制作したんじゃないかと思われるけど、そもそもそういったパーティー・シーンが存在したのか?という疑問も残るが、まぁそれはそれで。
 これもロック史にとどまらず、日本の歌謡史にも残る傑作。のちに元春自身述懐しているように、大滝詠一との出会いが大きかったと思われる。Phil Spectorサウンドを大々的に導入した、奥行きと厚みのあるサウンドは、当時の日本のロック・シーンでは結構画期的だった。テクノ・ポップに代表されるシンセ中心の音作りと逆行した、バンド全員でせーので音を出して構築してゆく手法は、すでにこの頃から時代遅れになりつつあったけど、結果的にこのアルバムのサウンドは後年まで残り、逆に当時のトレンドだったテクノ・ポップは時代の徒花として、風化し忘れられていった。
 
 「ステキなことはステキだと無邪気に 
       笑える心が好きさ」

 
 元春の歌詞の中で、一番好きなフレーズだ。今では45歳でヒネクレまくってしまった俺だけど、この言葉は俺の中で長く心に留まっている。


 
4. モリスンは朝、空港で
 地味なサウンドの曲で、こちらはシャッフルなリズムの、ちょっと不思議な感触のナンバー。アウトロ辺りからオフ気味に収録されている、ラウドに弾きまくってるギター・ソロが、ミスマッチ感を演出してるのがなかなか。
5. IT’S ALRIGHT 
 2枚目のアルバム『Heart Beat』に収録。疾走感というか、ほんとノリ一発のロックン・ロール・ナンバー。語呂と気分と思い付きで羅列した歌詞はロックン・ロール・クラシックへのオマージュであるため、まぁそんなに意味はない。意味なんてあるもんか、踊れ踊れ。
 
6. Happy Man 
 ドラムの音がモロ80年代なパーティー・ソング。こちらも何も考えなくてもよい、ほんとハッピーで楽しい曲。シングル・カットされたのも頷ける。売れなかったけどね。
 このアルバムのリリース当時、『ストップ!! ひばりくん!』という、今で言うBL系の先駆けだったマンガがあり、主人公のひばりくんがこの曲の歌詞を口ずさみながら原宿の街を歩いている、というシーンがあった。週刊少年ジャンプ連載だったので、それなりの影響力があった記憶がある。

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7. グッドバイからはじめよう 
 渡米前最後のシングルとなった曲。A面最後を締めくくる、これまでの喧騒とは打って変わって、ストリングスのみで構成された静謐なナンバー。余計な装飾を削ぎ落した、すごくシンプルな歌詞とメロディー、ほんの3分ちょっとの短い曲だけど、この時点での元春の集大成。何のギミックもテクニックも使用せず、ただ純粋に曲のクオリティを追求した結果が、これ。
 元春の曲の中でも、地味にコアなファンの間では人気が高いことで知られている。

8. アンジェリーナ
 パクリ疑惑も多い曰くつきの曲だけど(元曲は忘れた、調べればわかることだけど、どうでもいい)、ある意味オマージュと考えれば納得するくらい、それだけ瞬発力のある曲。ある程度下積みを経てからのデビュー曲だっただけに、それまで培ったすべてが詰め込まれており、元春本人としても特別思い入れの深い曲。
 長年のファンとしても同じ気持ちなのか、ライブ映像を見ていると、この曲のイントロが始まると、会場のテンションが一気に上がることがわかる。セット・リストでも、いくつかあるハイライトの中でも常に大一番的なポジションに配置されており、それだけ本人、そしてファンにとっても大切な曲。


 
9. So Young
 もともとは山下久美子に提供した曲で、後にセルフ・カバーとして、シングル1.のB面に収録された。
 まぁ元気いっぱいノリの良いポップ・ロック・ナンバー。ロックン・ロール・テイストの強い曲の場合、元春の歌詞は大体内容がない。これも前述したように、偉大なるロックンローラーへの敬意を表したものなのだろう。
 
10. Sugartime 
 3枚目のアルバム『Someday』の先行シングル・カットとしてリリース。ポップ・ロックの中でもややロック・テイストが強いので、系譜としては2.の流れにある。当時ナイアガラ・トライアングルで交流のあった杉真理がコーラス参加しており、一聴して彼とわかるスウィート・ヴォイスを披露しているのだけど、まぁセールス・ポイントとしてはちょっと弱め。俺は好きだけどね。
 
11. 彼女はデリケート
 オリジナルは『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』に収録。アルバム・リリースと同時にシングル・カットされた。オリジナルはイントロ前に、空港の公衆電話での友人との会話が収録されていたけど、このヴァージョンではカットされている。
 こちらも8.同様、かなりの勢いで突っ走る、疾走感バリバリのロックン・ロール。ロックンローラー佐野元春としての一面が、かなり強調されている。
 ナイアガラ・トライアングル参加時、どちらかといえばポップス寄りだった大滝・杉とのサウンド・カラーに合わせるため、元春はこの曲を、一旦候補から外したのだけど、大滝のイチ押しによって収録に至った、というエピソードがある。敢えて自分とのミスマッチを選択することによって、逆にアルバムのトータル性に広がりを演出した、プロデューサー大滝のベスト・ワーク。

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12. こんな素敵な日には(On The Special Day)
 シングル・カットされた11.のB面としてリリース。ラウンジ・ジャズ・テイストの濃いナンバーで、初期はこういったあらゆるサウンドを実験的にプレイしていた感が強い。まぁ今としてはこういったのもアリだと思うけど、リリース当時は眠たくなる曲として、いつも飛ばしてしまうのが定番だった。
 
13. 情けない週末 
 
「もう他人同士じゃないぜ」

 田舎の中二にとって、それはすごく大人の言葉に響いた。響きはしたがしかし、だからといって実感が湧くはずもなく、アウトロのフリューゲル・ホーンの切ない咽びの方が、まだリアルに響いた。
 「生活という うすのろがいなければ」という歌詞も、当時はなんとなくカッコよく聴こえたが、アラフォーを過ぎた今にしてみれば、ちょっとう~んという気もしないでもない。純粋な恋愛だけじゃ、男と女の関係は続かない。そんなカッコいいものじゃないのだ。長く続けてゆくには、所帯じみてはいても、「生活感」というのも必要なのだ。
 
14. Bye Bye Handy Love
 パーティーももう終わり。みんなを家路へ送り出すためのエンド・ロール。でも最後は湿っぽくならず、楽しく別れよう、そんな歌。意味はあまり考えなくてもいい、ストレートなロックン・ロール。




 リリース30周年を経て、デラックス・エディションも発売されている。限定生産なので、もうかなり入手が難しいと思うけど、当時の貴重なライブ音源と映像が追加収録されているので、できればこちらも見て聴いてほしい。
 ライブCDとDVDには、これも初期元春の代表作なのだけれど、『No Damage』のコンセプトに合わなかったため収録が見送られた、"R&R Night"と"Heartbeat"が収められている。どちらも7~8分超の長い曲で、アーティスト佐野元春の人生観が凝縮されているので、必聴。
 
 バラエティに出てる時、見当違いのことを言って芸人にいじられても、不快な表情ひとつ見せることなく、いつもニコニコ笑っている元春を見ていると、こういった大人になるのも悪くないな、と思う。
 ベタな表現だけど、少年のように無邪気に笑える大人でい続けることは、とても難しいことだと思う。
 そんなことを思う、45歳の初秋の夜長。



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世界のジャズ・ファンク・バンド巡り:フランス編 - Electro Deluxe Big Band 『Live in Paris』

folder 日本ではまだあまり紹介されていない、ていうかこのアルバム、日本未発売。フランス産のバンドのご紹介。
 
 あくまで俺の私見だけど、「フランスの音楽」といって思い浮かんだのが、シャンソンかMichel Polnareff(古すぎるか?)、それかSerge Gainsbourg。でもちょっと調べてみたところ、現在のフランスは、政府主導による移民政策の強力な後押しによって、全人口の10%以上がイスラム系という、アメリカも顔負けの多民族国家になっており、前記のような古典的な音楽はむしろ少数派となっている。
 ジャズ畑のミュージシャンがJames Brownに憧れたのか、ファンク系ミュージシャンがジャズを演奏したくなったのか、それともヒップ・ホップ系DJがトラックを繋ぐだけでは飽き足らなくなったのか―。
 いろいろ経路はあるだろうが、ここ十年くらいの間に自然発生的に、しかも世界中でほぼ同時多発的に静かに盛り上がったのが、この現代ジャズ・ファンク・ムーヴメントである。
 特別、ビッグ・ヒットを放ったアーティストがいるわけではない。ただ演奏したい、聴いてもらいたい、という純粋な発想が先だって、現在でも静かに長く続いている現象である。
 
 非英語圏という言語的な問題のため、ただでさえ日本人にとっては敷居の高いフランスの音楽だけど、このバンドも含め、現代ジャズ・ファンク・バンドの多くは英語で歌っているので、比較的とっつき易い部類に入る。全世界的な流れとして、英語で歌っていればグローバルな活動ができるので、特に情報がボーダーレス化した近年では、アメリカ・イギリスなどの英語圏にこだわらず、スペインやドイツ、フランスなど、非英語圏でのリリースが多いのも、このジャンルの特色である。

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 前述したようにitunesやamazon、youtubeなどの手段によって、低コストで情報発信が瞬時に行なえるようになってきたため、口コミでの情報伝達は早いけど、メジャー・レーベルがあまり参入しづらい、すき間産業的なジャンルのため、大きなブレイクが見込めないことも、このジャンルの広がりづらさの一因でもある。
 
 日本での紹介も少ないため、情報があまりないのだけれど、2001年Gaël Cadoux(key)とThomas Faure(sax)が中心となってバンド結成、James Copley(vo) Jérémie Coke(per) Arnaud Renaville(dr)が加わり、2005年『Stardawn』、2007年『Hopeful』、2010年『Play』と3枚のアルバムをリリースしている。で、今回紹介するのが、それまでの総集編とも言うべきライブ・アルバムである。
 ちなみにバンドの正式名称はElectro Deluxe、主要メンバーは5人だけど、ゲスト・ヴォーカルやミュージシャンの参加が多いため流動的で、しかも今回のようなライブ編成、ブラス中心のビッグ・バンド総勢13名が加わると、かなりの大所帯バンドに進化する。
 調べてみて分かった情報は、ほんとこれだけ。俺自身、フランス語はネイティヴではないので、あとは勉強するしかないけど、どちらにしろ情報開示の少ないバンドではある。

 何となくのイメージなので、誤解だったらすぐ謝るけど、フランス人というのはプライドが高く、ライフスタイルや主義主張などもすごく洗練されているのだけれど、なんというかこう、英語圏と比べて閉鎖的というのか、「わかんないんだったらそっちで調べろよ、なんでこっちがわざわざ教えてやんなきゃいけないの?」的な、ぶっきら棒で不親切なイメージがある。
 HPを見ても、バイオグラフィーは制作中、簡単なディスコグラフィーとツアー・データが載せられてるだけ。もうちょっと何とかなんないの?と言いたくなる。

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 そのツアー・データを見ても、ほとんどがフランス国内のライブに限られており、せっかく認知度も上がってきているはずなのに、非常にドメスティックな活動振りである。よほど愛国心が強いのか、それとも海外渡航がヤバいメンバーがいるのか、せっかく英語で歌っているのだから、もっと幅広い活動を行なえばよさそうなのに、である。
 現実的なところで言えば、ビッグ・バンドを抱えた大所帯ゆえ、いろいろな経費が掛かるのだろう。Prince『Lovesexy』のレビューでも述べたように、バンドというのは、それはもう、存在するだけで膨大な経費がかかるのだ。
 
 基本はジャズ・バンドから始まったのだろうけど、そこにファンク要素と若干のエレクトロ風味(デビュー当時はエレクトロ色が強かったため、一聴するとただのアシッド・ジャズに聴こえる曲もあったけど、ここ最近の2枚では生音主体のため、有名無実化している)を絶妙なバランスでミックスしている。移民が多いお国柄ゆえ、ラッパーとの共演も多いので、ジャジー・ラップ好きの人にも充分アピールしやすいんじゃないかと思う。
 シンセや日雇いのミュージシャンではなく、自前のブラス・セクションを抱えているため、ジャズ要素も強く、これが一番言いたいのだけれど、物量的に他のバンドよりも音が厚い。
 
 でも売れないんだろうな、日本やアメリカだったら。
 日本ではP-VINEがすごく頑張ってくれてるんだろうけど、結局はごく小さなムーヴメントなので、いくらプロモートしたとしてもたかが知れており、横には大きく広がらない。

 コンスタントにライブを重ねているバンドなので、盛り上げ方が上手く、サマソニやFUJI ROCKなんかに出たら、それこそ日本でも人気が出るのだろうけど、何しろ大人数のため、呼ぶにしてもかなりの出費を覚悟しなければならず、主催者側が二の足を踏んでしまうのも、なんとなくわかる。
 世界中のコアなファンの間では、twitterで情報やレビューが飛び交っているのだけれど、日本では相変わらず発売すらされない有様である(しつこいかな)。


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1. Let's Go to Work
 オープニングは、当時のレイテスト・アルバム、3枚目『Play』からの曲。
 オリジナル・ヴァージョンは、演奏自体はほぼ同じアレンジながら、ラッパーGaël Fayeとの共演。ライブではJamesがほぼメインで歌いまくっている。
 ビデオを見てもらえばわかるけど、とにかく楽しそう。演ってる方も見てる方も楽しい、そんなライブ。

 

2. Black and Bitter
 こちらも『Play』より。往年のビッグ・バンド・スタイルとFunkの融合。ブリッジのハーモニカがまたドライ。
 普通ハーモニカの音色といえば哀愁を漂わせることがセオリーみたいになっているが、Jamesのハープは普通にビッグ・バンド・ジャズと果敢に渡り合っている。
 
3. California
 出だしがStevie Wonder“Too High”っぽい導入部で始まる、バンド主体の曲。
 現代ジャズ・ファンクの特徴として、インストとゲスト・ヴォーカル入り楽曲で構成されており、メジャーに近くなるほどヴォーカルの比率が高くなるのだけれど、彼らもまた例外でなく、Jamesの出番が多くなってきているが、それに比例するかのようにビッグ・バンドの出番も多くなり、エレクトロ要素は次第に少なくなってきているので、結果的にはOK。

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4. Play
 
5. Between the Lines
 彼らの中では比較的メジャーな部類に入る曲。俺もこの曲から彼らに興味を持ち始めた。
 今までジャジー・ラップというジャンルに興味がありながら、どれもいまいちピンと来なかったのだけど、この曲は目から鱗だった。ラップとの親和性を重視した、寄り添うバック・トラックではなく、ライムに負けないブラス・セクションの圧倒的なパワー、一見慇懃無礼で胡散臭いフランス人そのままのJamesとの掛け合いが、この曲を際立たせている。

 

6. Please Don't Give Up
 前曲に引き続き、こちらもライブでは定番のキラー・チューン。ビデオでは、ガタイの良い黒人ラッパーBen L Oncle Soulと、蝶ネクタイの胡散臭い中年男Jamesとの掛け合いが面白い。
 CD版では、ここまでが1枚目。

 

7. Back to the Riddle
 2枚目トップは少しシックな、ジャズ・テイストの強いサウンド。それでも相変わらずJamesのヴォーカルはねちっこい。1分半ほど過ぎてからのブラス・セクションがカッコイイ。
 
8. Point G
 
9. Old stuff
 
10. Where Is the Love
 再びキラー・チューン。オリジナル同様、6.でデュエットしたBen L Oncle Soul 再登板。ライブなので互いにエキサイトした、ねちっこい歌い方だけど、オリジナルはもう少しマイルドになっている。
 昔風の言い方なら、全体的にバタ臭いテイストのバンドなので、例えばこの曲なんかも、外資系企業のCM、例えばappleなんかが使ってくれたら、イメージ的にもマッチするんじゃないかと思うんだけど。まぁapple じゃムリか。

 

11. Talking About Good Love
 
12. …Talking After Good Love
  ややエレクトロ風味の鍵盤からの導入部、ホーン・セクションがけたたましく響き、相変わらず胡散臭いJamesのヴォーカル。ビジュアル面から見て、さすがフランスだけあって、主要メンバーの誰もが、ラフでありながらケレン味があるというのか、どいつもこいつもおしゃれ番長である。それでありながら、ひとりごっついMorrisseyのように異彩を放つ、Jamesの存在感。
 ここまで書いてみて、方向性はまるで違うのだけれど、バンドの安定した演奏力、アクの強いヴォーカルというのが、日本で言えばウルフルズに結構近いんじゃないか、とふと思ってしまった初秋の夜長。
 
13. Peel Me




 最近では胡散臭さに輪をかけたように、売れない映画俳優みたいな風貌になってきたJamesを筆頭とするElectro Deluxe、あくまで自分たちの活動ペースを崩したくないのか、当面フランスから出る気配はなさそうである。
 札幌に来るなんてことは夢物語になりそうなので、取りあえずは解散せず、時々作品を作ってくれれば、それでよい。幸い、HPをチェックしていれば、不定期にビデオ・クリップをUpしてくれるので、それがビデオ・レター代わりになってくれている。
 
 つい先日も、新しい便りが届いた。今回はスタジオ・セッション風、もう少しラフな、素のElectro Deluxe達だ。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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