好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

モータウンのお家事情1972 - Stevie Wonder 『Music on My Mind』

_SL1060_ モータウンとの契約切り替えのバタついた時期にレコーディングされたため、クオリティ的には例の3部作と何ら引けを取らない出来なのに、習作的ポジションに位置付けされているのが、このアルバム。タイミング的にもStevie自身のバイオリズム的にも、この後からが本格的なピーク・ハイの時期に当たるため、あくまでウォーミング・アップ的な立ち位置のスタンスのまま、なかなかまともな再評価に繋がっていない状況が続いている。

 若干12歳で本格デビューした Stevie、当時はモータウンの戦略上、名前に「Little」をつけることによって天才少年ぶりをアピールしていたのだけど、そんな彼も20歳、思春期を通過し声変わりすることによって、もはや「Little」が似合わない年代になっていた。音楽的にも人間的にも著しく成長し、アーティストとしての自我の目覚めも始まっていた頃である。いろいろやりたい事だって出てくるだろう。大抵の楽器演奏は自分でできたし、作詞作曲だって、ほぼ自分で賄うことも可能だった。それでもしかし、ヒット・ファクトリーであるモータウンの締め付けはシビアなもので、はやく制作上の束縛から抜け出したかったのが、本音である。

 このアルバムがリリースされた1972年頃のモータウンの稼ぎ頭の筆頭は、まずは何と言っても文句なしにJackson 5とMichael Jacksonである。デビュー・シングルから4曲連続でビルボード1位というのは、未だ持って破られていない記録だし、その勢いに乗ってソロ・デビューを果たしたMichaelもまた、モータウンの生産ラインに忠実に乗って、”Ben”をヒットさせている。次に売れていたのが、Supremesを脱退したばかりのDiana Ross。”Touch Me in the Morning”は大ヒットしていたし、女優業にも進出、Billie Holidayの伝記映画で主演を務め、すっかりセレブと化していた。こうして見ると、この頃のモータウンはポピュラー路線に迎合したMORが中心のように見えるけど、当時の猫も杓子もサイケ・ムーヴメントの波を無視することはできず、鬼才Norman Whitfieldの手によって、Temptationsはあのサイケ・ファンクのひとつの到達点である”Papa Was a Rollin' Stone”を、Edwin Starrはかなり力の入ったプロテスト・ソング”War”をヒットさせたりなど、ヒップな若者の取り込みも怠っていなかった。そのサイケ路線と並行して、巷で勃興しつつあったニュー・ソウル路線の波に乗ったMarvin Gayeは、『What's Going On』の大ヒットによって、レーベル内で独自のスタンスを築きつつあった。
 こうした別々の流れがそれぞれ、決して大所帯とは言えない独立レーベルの中で、ほぼ同時進行で行なわれていたのだから、そりゃもうしっちゃかめっちゃかである。ましてやこの頃のモータウン、本拠地をデトロイトからロサンゼルスへ移転するかしないかの頃、ある程度VIP級のミュージシャンらはともかくとして、その他の有象無象のアーティストらの細かなマネジメントまでは、とてもとても手が回らなかったのが実情である。
 なので、独立だ製作権だとわめき散らすStevieとは、スタッフ側から見れば、相当めんどくさい存在であり、いちいち手をかけていられなかった、という見方もある。
ていうかこの時期、Stevieのレーベル内においての立場は、結構微妙な位置にあった。
 
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 この時点で芸歴10年強、キャリアの節目ごとにヒット・シングルは出ていたものの、何ていうかStevieのチャート・アクションはムラが多かった。”Uptight”、”A Place in the Sun”、"For Once in My Life”、” My Cherie Amour”など、今でも充分に代表曲と言える作品がリリースされているのだけれど、そのヒットも大抵はワン・ショット、次のシングルでは大きくセールスを落としてしまい、次の勢いに続かない、という状態がループし続けていた。ここらでもう一つ、二番煎じでもいいから、似たテイストの曲をリリースしていれば、アーティスト・イメージも固まって、ヒットも出やすくなるというのに、そうはしなかった、またはできなかったのが、Stevieの60年代のプロダクションである。

 そのプロダクションの思惑と、Stevieのアーティスティックな方針との間に大きな溝があって、そこがなかなか埋めきれずにいたことが、この時期の乱高下の激しさの要因でもある。
 モータウンのレーベル・ポリシーでもある「明快なポップ・ソウル」、デビュー当初は会社の意のままに動いていたStevieだけれど、だんだんポップ・テイストのサウンドから徐々にジャズ的要素もミックスされた複雑なコード進行に基づくスタンダード・ポップが彼の持ち味となり、レーベル定番のサウンドとはかけ離れたものになりつつあった、というのがこの時代の流れである。
 モータウン的には、やはり子供らしい曲、シンプルなダンス・ナンバー中心でプロモートしていきたかったのだろうけど、まぁそんなうまくは行かないものである。

 モータウン創業者の一人であるSmoky Robinson率いるMiraclesを礎としてできあがったのが、2拍目にアタックの強いビートを入れた独特のリズム、黒人特有の泥臭いブルース臭を極力廃除したメロディ・ラインという、ヒット・ソングの黄金パターンは60年代初頭に既に完成されていた。
「Funk Brothers」と命名された名うてのスタジオ・ミュージシャンらによって、日々大量生産される分業制のバック・トラックは一定のルールに則って制作され、所属アーティストの誰が歌ってもサマになるように調整されていた。とにかく毎週のようにヒット・シングルを量産しなければならないため、James Jamersonを筆頭にしたFunk Brothersの面々は、連日膨大な量のトラックをレコーディングした。ヴォーカルは抜き、大体のコード進行とテーマを決めると、ほぼ流れ作業的にプレイをこなしていった。この時点では、誰が歌うのかは大きな問題ではない。会社の経営戦略に則ったアーティストをブースに突っ込み、そしれ歌入れさせる。これもまたレコーディング即発売決定というわけではない。毎週行なわれる営業会議において遡上に上げられなければ、そこで倉庫行き。なので、全盛期のモータウンには膨大な量の未発表音源が眠っており、その発掘作業は今でも続けられている。
 
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 どうにか法的な問題もクリアして、創作上の自由を獲得したStevie、前作『Where I’m Coming From』では、その解放感から来る勢いが先走りすぎたのか、アイディア先行でサウンドや曲がうまくまとまっていない印象もあったけど、ここではもう少し冷静になったアルバム作りを行なっている。もちろんFunk Brothersらを始めとする外部ミュージシャンにも多少は手伝ってもらっているのだけれど、ほとんどはStevie自身、そしてここから顔を出してきたのが、シンセ・オペレーターとしてクレジットされている、Robert MargouleffとMalcolm Cecilの二人によって練り上げられたもの。なので、これまでのポップ・ソウルと比べて、音の存在感・重厚感がまるで違っている。

  モータウンの場合、あくまでシングル・ヒットが最重要課題であったため、基本的な販売戦略としては、当時としてはなかなか先駆けだったマス・メディアの有効活用、特にAMラジオでのオンエアを重視していた。そのためには、ファースト・インパクトが大事なので、わかりやすく明快な、タイトル連呼のサビはもちろんだけど、パワー的には貧弱なポータブル・ラジオでの響きを重視した音作り、モノラル・サウンド特有のドンシャリ感、オーディオ的な見地では決してありえない定位のサウンドを奨励していた。多少ダンゴになったとしても、音圧の強いモータウン・サウンドは、多くのリスナーの耳に残り、無数のヒット曲を輩出した。
 で、このアルバムでのStevieだけど、もともとそうなのだけど、それほどキャッチーな音作りをするアーティストではない。テンション・コード多発の不安定な、楽理的な意味合いで言えば、かなり破綻した曲作りなのだけれど、でもStevieが歌うと、それらのバラけたピースがそれぞれピッタリはまってしまう不思議。
 このようにキャッチーさからはちょっと離れたアルバムをリリースするに当たっては、独立問題も含め、色々なダンジョンをクリアしなければならなかった事は、想像に難くない。
 それでもやらなければならなかったStevieの覚悟が赤裸々に刻まれたアルバムである。


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1. Love Having You Around
 いきなり始まるファンキーなナンバー。Ray Charlesを髣髴させるグルーヴはほぼ独りで作り上げたモノ。スクエアながら手数も多くノリの強いドラム、どこか脱力系なコーラスはもちろんだけど、やはりここでインパクトが強いのはZappより数年先駆けたトーク・ボックスの使い方。StevieとRogerのおかげか、ファンク・ミュージック以外ではほとんど使われない楽器になってしまった。
 なぜかこの曲だけSyreeta Wrightとの共作。どの辺まで関与しているのかは、前回『Where I’m Coming From』でも書いたように怪しいものだけど、この頃はまだ二人ともラブラブだったので、まぁそういうことと思ってもらえれば。



2. Superwoman (Where Were You When I Needed You)
 “You’re the Sunshine of My Life”と同じ構造の、ミドル・テンポのバラード。この辺はちょっとジャズ的なコードも使用しているため、『Innnervisions』とテイストが似ており、俺的にはこのアルバムではもっとも好きな曲。US最高33位まで上がった曲なので、この時期の曲としては有名な方。
 ここで有名なシンセサイザーT.O.N.T.O.が登場。といっても、それほどエキセントリックにこれ見よがしな使われ方ではなく、むしろ生楽器にできるだけ近づけた音色を奏でている。ちなみに正式名称は"The Original New Timbral Orchestra"、直訳すれば「独創的な新しい音色のオーケストラ」。うん、よくわからん。



3. I Love Every Little Thing About You
 リズム・トラックがかなり凝っており、こちらも俺の好きな曲。すごくハッピーなミドル・テンポのナンバーなのだけど、裏で鳴ってるFender Rhodesが恐ろしくファンキー。この時期のStevieはT.O.N.T.O.使用による面白い音色からインスパイアされた曲が多いのだけれど、こうして聴いてみると、あまりサウンドには凝らず、従来の楽器を使用してアンサンブルに凝った曲にむしろ、良い曲が多い。少なくとも、当時の流行りのサウンドよりも、こういった曲の方が風化せず、今でも普通に聴くことができる。

4. Sweet Little Girl
 ここで初めてハーモニカが登場。やっぱり、Stevieと言えばハーモニカがないと始まらない。その音にも少しエフェクトを加えているのか、ファンキー成分が増えている。思えばStevie、案外ブルース要素が少ない人でもある。ブルースの場合、もうちょっと演奏に隙というのか、感情移入ができないと、なかなか入り込めないものである。Stevieの場合、あまりにオンリーワン、完成し尽くされたトラックのため、ブルース的な憐憫の余地がないのだ。
 ほんのちょっぴりだけど、後半でSyreetaのコーラスが薄く被さっている。こうしたエッセンス的な使い方こそが、Stevieの天才たる所以である。

5. Happier Than the Morning Sun
 ここからがB面。クラビネットを効果的に使用した、朝もやに紛れたテラスを思わせる、さわやかな清涼感あふれるナンバー。すごく美しい曲なのだけど、やっぱこれって、ラジオ向きの曲じゃないよね。もうそういった俗世間の浮き沈みを超越してしまったサウンドである。若いうちなら、俺も多分飛ばして聴いてただろうけど、今の年齢になると、こういった癒し系の曲も、まぁいいんじゃない?という心境になってしまう。
 でもちょっと長いよな、この曲。5分強、ほぼずっと一本調子で曲が続くため、ちょっと飽きてしまう場合もある。3分くらいにまとめてしまえば、もう少し印象も違ったかもしれない。
 
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6. Girl Blue
 わかりやすいマイナー・コードを、これまた転調しまくって作り上げたナンバー。ちなみに共作のYvonne Wrightは、何となく想像つくように、Syreetaの姉。どちらかと言えば、自分で歌うより、裏方として作曲活動の方が多く、妹の七光りだけでなく、きちんと実績を残している。

7. Seems So Long
 後年の”Overjoyed”を想起させる、シンプルなバラード・ナンバー。曲自体はあまり趣向を凝らしているわけでもなく、ごく普通の構造だけど、ここでもやはりT.O.N.T.O.が幅を利かせている。
 エフェクトの使い方が宇宙空間を連想させ、この辺もStevieのスケールの大きさが実感できる。

8. Keep on Running
 ビルボード36位まで上昇、というわけで、当時のStevieにしては、チャート・アクションが地味だった曲。ほんとオカズが多いよね、Stevieって。ファンキー感よりむしろ、疾走感にあふれる曲が多く、当時のまったりしたフィリー・ソウルなんかを聴いてた連中の度肝を抜いた。
 後半からゴスペルっぽいコーラスがあることからわかるように、当時の彼らのアイデンティティの源である、Ray Charkesなどのミュージシャンらによって作りだされたこのグルーブ。Stevieの才能と最新鋭機材を持ち込んだ彼らとのベクトルがうまく一致した、シングルで切っても動じることのない、こちらもついつい踊りたくなってしまう曲である。



9. Evil
 『Key of Life』の’Saturn”を連想させる。ここまで5、6分強の尺の曲がズラリと並んでいるのだけれど、このラスト曲は3分少々短め。エモーショナルなヴォーカルの前では、T.O.N.T.O.の前衛性も無意味である。この辺のバラード系は、後年になっていくらでも聴けるので、俺的にはいまだ飛ばして聴いてしまう曲。




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たった独りで創りあげた濃厚エキスの塊 - Prince『Sign ‘O’ the Times』

202173143 2枚組大作のため、全曲レビューしようと思ったらめちゃめちゃ長くなりそうなので、取り上げるのを後回しにしてきたのだけど、これまで散々Princの変遷を紹介してきて、やっぱ流れとして、そろそろ取り上げねぇとなぁ、と思ったので、ここで紹介。

 すべての楽器の音から「リズム」のみを引きずり出して構成された『Around the World in a Day』から一転、とにかく必要最低限の音以外は、抜いて抜いて抜きまくり、骨格だけを残して作り上げた『Parade』。全盛期のSlyをイメージさせる「引き算のファンク」はすごく内面的で、バンド感が希薄だったにもかかわらず、長いこと行動を共にしたバック・バンドRevolutionを従えてのアルバムだった。
 新旧メンバーとの亀裂、Princeのあまりの独裁振りに嫌気が指したり、その他諸々の理由でRevolutionが空中分裂した後、ほぼ完成したバンドとのアルバムを破棄、新たに独りスタジオにこもって作り上げたのがこの『Sign ‘O” the Times』なのだけど、またまた前作からサウンドが一転、Prince独自のむせ返る個性をプンプン匂わせながらも、きちんと同時代性も意識した80年代モダン・サウンドに仕上がっている。バンド名義にもかかわらず、他者の介入を遠ざけるような内向きのサウンドから、ほぼ独力でアンサンブルからグルーヴやらカタルシスまでまかなった、DIY精神丸出しのサウンドである。
 ここまでバラエテイに富んだ構造というのは、これまでのバンド・メンバーに対する当てつけなのか、それとも涙目で「ひとりでできるもんっ」とでも言いたかったのか。

 でもよくよく考えてみると、この頃のPrinceは創作ピークの絶好調、まさに俺様王子様意識が強く、ドラムのオカズひとつ、ベースのフレーズひとつにしたって、いちいち口出ししていたため、メンバー達に演奏の自由はほとんどないに等しかった。なので、ただ単に第三者を介することなく、直接自分で演奏するようになっただけ、本質は何も変わってないとも言える。
 結局のところ、デビュー前から長らく行動を共にしていたBobby ZやMatt Finkでさえも、Princeの巨大な才能の前では、単なる手足以上の存在ではなかったわけで。逆に、Princeを凌駕するほどの演奏スキルを持つSheila Eなんかは、とっとと見切りをつけてバンドを去ったりするくらいだし、バンド運営というのはなかなか難しいものである。
 
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 で、この頃のPrince、映画撮影だツアーだ女の子とイチャイチャだで忙しいはずなのに、レコーディング作業はめちゃめちゃ絶好調に進み、正式リリースされた曲の他にも大量のアウトテイクを残している。
 もちろんその中には、後のアルバムに収録されたり、リミックスしたり構成し直したり結合させたりなどして、新たな曲に仕上げたりなどしているのだけど、その殆どはお蔵入り、倉庫に眠っている状況が続いている。
 当時からかなりの量の未発表曲が流出しており、古いPrinceファンなら、ブートの10枚や20枚(一桁では済まないくらいの量なのだ)くらいは持ってるか、それか聴いたりはしているものだけど、そのほとんどは「海賊盤」的な音質、マスターとなるカセット・テープがフニャフニャになるくらいまでコピーしまくったため、ヨレてゆれてドンシャリな音質レベルのものが多い。それでもマニアなら、「どうせいつもと変わり映えしねぇだろ」と思いつつも、イイ感じに興味をそそるブート業者の誘い文句に乗せられて、ついつい入手してしまい、で、結局ほとんど聴いたことのあるトラックばかりで後悔してしまう、ここまでがいつものお約束。
 今ではYoutubeや無料ダウンロードが主流となってしまったため、ブートレグ業界も斜陽の一途を辿っており、新たな音源が発掘されることも少なくなってしまった。今後は望みの薄いデラックス・エディションの登場を待つしかないのだけど、それもすべては殿下の気分次第なので、まぁどうなることやら。

 で、Revolution名義でリリース予定だった2枚組『Dream Factory』を、前記の経緯ですべてボツにした後、今度は単独名義で3枚組の『Crystal Ball』を製作(のちにリリースされた同名アルバムとは別内容)、自信作だったはずなのに、ワーナーが短いスパンでの複数枚リリースに難色を示したため(当たり前だ)、どうにか曲数を絞って2枚組に収めたのが、この『Sign ‘O’ the Times』という経緯。
 この他にも、多分アルバムとしてまとめられなかった曲も多数あるだろうし、またThe FamilyやThe Timeのように、ヴォーカルだけは他人にやらせて、バック・トラックはほぼ自分でやってしまったアルバムというのも数多く存在するので、すべてを追いきれている人は、ほぼいないのが実情である。もしかすると、明言していないだけで、いつの間にかリリースされてたアルバムもあるかもしれないしね。

 ポピュラー音楽のカテゴリーでPrince同様、多作家で思い出すのがFrank Zappaである。
 この人も2枚組3枚組は当たり前で、しかも取り扱うジャンルがロックだけにとどまらず、ジャズ、現代音楽、ミュージカル、ドゥーワップまで多岐にわたり、遂にはレコード会社のとんちんかんな干渉にブチ切れして、メジャーの力がまだ強かった70年代後半にインディーズ・レーベルを設立して独立している。メジャーの流通ルートが使えなかった、または意地でも使いたくなかったため、通信販売という、なかなか画期的な方法を選択した。
 普通のアーティストなら、一旦メジャー落ちしてしまうと再浮上するのはなかなか困難で、活動自体がそのままフェード・アウトしてしまうことが多いのだけど、そこは昔から戦略家であり、狡猾な商売人でもあったZappa、一見無謀と思われたシステムでありながらも、きちんと目論見を立てて周到なマーケティングを行なったため、インディーズとしては異例のセールスを記録してしまった。こうなると、逆にメジャーの方がZappaに頭を下げて契約、メジャーに流通を「委託してあげる」状態になってしまう。
 そこに至るまでは、何かと目に見えない苦労もあったと思うけど、その交渉に至るまでの駆け引きや懐柔、時に恫喝などを使い分け、事が有利に運ぶよう籠絡してゆくその手口は、もはや単なるミュージシャンではなく、有能なビジネスマンそのものである。
 
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 BeatlesとRolling Stonesとを比較して、音楽性以外での大きな違いが、バンド内のビジネス・パーソンである。60年代を疾走した挙句、バンドとしては短命に終わったBeatlesに対し、Stonesが老害だロートルだ金の亡者だと罵られながらも、常に何かしら話題を提供し、シーンの第一線から消えずにいられるのは、戦略参謀Mick Jaggerの存在が大きい。ロンドン大学で経済学を専攻していたMickにとって、Stonesという存在が「音楽を通しての自己実現の場」であったのは、デビューから数年程度のことで、その後はクレバーなバンド運営、株式会社Rolling Stonesの冷徹な経営者としての顔の方が多い。
 ライブのセット・リストより、会場使用料や損益分岐点の方に気を病むミュージシャン。一見、ロックとはかけ離れた実像ではあるけれど、その二面性こそがバンドを生き長らえさせてきた秘訣でもある。

 すごく極論で言ってしまえば、Princeは結局のところ一介のミュージシャンに過ぎず、特に目立ったビジネス展開は行なっていない。ワーナーとの決裂も、当初はビジネス上の行き違いという点から始まっているけれども、最終的にはPrinceのワガママ、ダダをこねた末の結末といった塩梅で、とてもビジネス交渉と言えたものではない。もしPrinceに信頼できる優秀なビジネス・アドバイザーの存在があったなら、もう少し展開は変わっていたかもしれないけど、まぁないな、きっと。簡単に他人を信用するようなタマじゃないし。
 
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 ちなみにこのアルバム・リリース時のチャート・アクションは、UK4位US6位という、当時のPrinceとしてはまぁまぁの成績だけど、考えてみれば2枚組でこのセールスなので、充分といえば充分である。そしてなんと、日本でもオリコン最高13位という、かなりの好成績をマークしており、それだけPrinceというキャラクターが一般にも浸透していたのがわかる。
 1987年のオリコン年間アルバム・チャートを見てみると、1位がなんと意外なことに荻野目ちゃん、続いてユーミン、明菜、トップ・ガンのサントラ、そしてMichael Jackson 『Bad』と続く。さすがに年間チャートにまではランク・インしていないものの、当時はまだCDバブルの前、あのユーミンでさえミリオンに届いていない、レコード売り上げ低迷期にもかかわらず、それなりの実績を上げていたのは、ちょっとした驚き。
 今に至るPrinceのパブリック・イメージ、「キモい」とか「エロい」などという風評が確立し広まったのはこの頃からで、名前を聞くだけで拒否反応を示す人も多かったはず。あまり日の当たらない洋楽マニアの間でだけ流通していたはずなのに、悪評以外の実績を残していたのは、ちょっと意外だった。


Sign O the Times
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1. Sign o' the Times
 印象的だった、タイポグラフィを効果的に使った、本人出演のないPV、ほぼ無機的なリズムと、ちょっとブルースを入れたエモーショナルなギター、そしてあらゆる暗示を内包し、哲学的とも取れるメッセージ性の強い歌詞。
 確かその年のグラミーか何か、音楽賞のイベントだったと思うけど、リリースされたばかりのこの曲を、Princeがソロで演奏したのを見た。ギター1本でステージに登場、簡素なリズム・ボックスをバックに、饒舌にメッセージを発するPrince、少しずつバックが参加、最後はドラム隊によるロールの饗宴で会場のテンションはマックス、そして静かにエンディング、という流れ。
 リード・シングルとして、US3位UK10位になったのも頷ける。ペラペラな音を厚く盛った80年代サウンドへの強烈なアンチテーゼとして、シンプルながらも自己主張の強い音が満載の、ほんと衝撃的だったナンバー。

2. Play in the Sunshine
 あまりに才気走った前曲から一転、今度は軽快なダンス・ナンバー。バック・トラックはほぼすべてPrinceによるものだけど、デュエットというくらい前面に出たバック・ヴォーカルは、当時恋仲だったSusannah Melvoinによるもの。思えば、彼女が引き金となってRevolution崩壊の一因となったわけだけど、そこまでPrinceが肩入れするほどの才能があるかといえば、ちょっと疑問。まぁ結局のところ、Princeだってただの男である。
 3分過ぎの間奏がちょっとZappaっぽくてエキセントリック。ライブだと断然盛り上がる曲でもある。

3. Housequake
 前曲からシームレスに続く、Prince公式ナンバーとしては初のラップ導入曲。まぁよく言われるように、Prince自身のラップについてはひとまず置いといて、トラックはかなりヒップホップに接近した音作りとなっている。ほとんどリズムだけで構成されたサウンドに、テープ回転スピードを速くして創りあげたPrinceの別のキャラクター、Camilleが時々顔を出す。
 この曲こそシングルで切ってれば、イマイチウケが良くなかったヒップホップ世代へのアピールにもなって、もうちょっと時代も変わってたんじゃないかと思うのだけど、当時のPrinceはヒップホップ・ムーヴメントにはあまり本腰を入れていなかったので、あくまでエッセンス導入程度にとどめている。
 この時期、グラミーを争っていたU2へのコメントとして、「僕はU2の曲を演奏できるけど、彼らに”Housequake”は演れないよね」とのたまったのは、あまりにも有名。捨て台詞としては、気が利いている。

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4. The Ballad of Dorothy Parker
 ほとんどリズム・マシーンのみ、たまにチープなシンセがからむ程度、なのに、このファンキーさはどういうこと?PrinceというアーティストがSlyの直系であること、そしてまたその影響下にあって、そこからSlyの進化形を続々生み出していたのが、この80年代という激動の時代だった、ということがわかってしまう曲。すごく地味な曲なのに忘れられない、かなり中毒性の強いナンバーである。

5. It
 80年代ハード・ロックの香り漂う、あまりファンキーさは感じられないナンバー。血管ブチ切れそうなくらいにシャウトするPrinceが、ちょっと珍しい。ドラムの音はカッコイイのだけれど、曲がちょっとね。

6. Starfish and Coffee
 Susannahとの共作、との触れ込みだけど、彼女がどれだけ制作に関わったかは疑問。ただ、あまりにポップなメロディはいつものPrinceとは明らかに違うので、結構深い部分まで作り込んだのかもしれない。冒頭の目覚ましベルがやたら音量がデカいことが印象的なのだけど、あとは普通のポップ・ソング。

7. Slow Love
 共作者であるCarole Davisについて調べてみると、イギリス出身の歌手兼女優だそうで、この頃はまだレコード・デビュー前。どのような経緯でPrinceとの共作に至ったのかは不明だけど、まぁワーナー繋がりで何やかやあったんじゃないかと思う。
 ちなみに「女優」とは書いてみたけど、その代表作というのが『殺人魚フライング・キラー』という、いかにもB級テイスト満載の映画なので、まぁそういった人なんじゃないかと思う。オリジナルも聴いてみたけど、まぁ普通の女性ヴォーカル・ナンバー。Princeヴァージョンもそうだけど、結構ベタな仕上がりである。
 
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8. Hot Thing
 ファンク・オーガナイザーとしてのPrinceが好きな人なら気に入ること間違いなし、俺的にもこのアルバムのベスト・トラックでもある。JBやSlyなどのオールド・ファンクとの最大の違いが、ここでのシンセの使い方である。凝った音色でなく、チープなプリセット音をそのまんま使いながら、それでもファンキーさを醸し出してしまうそのセンスは、Zappと双璧である。

9. Forever in My Life
 シンプルなドラム・マシーンのみをバックに、珍しくエモーショナルにソウル・テイストを強めに出したヴォーカルを聴かせる、Princeとしては巣の面を出してきた曲。主旋律を追いかけるようなフーガのコーラスがクール。
LPではここまでが1枚目。

10. U Got the Look
 2枚目のトップは景気よく、明快なスタジアム・ロック風。ややフラットに変調させたPrinceのヴォーカルに絡むのは、あのSheena Easton。ポピュラー・シーンのヴォーカルとして、世間では一定の評価を得ており、日本でもTVCM出演などでそこそこの知名度はあったSheena、まったく畑違いのPrinceとコラボするのは、まったくの予想外だった。
 日本で例えれば、岡村ちゃんと薬師丸ひろ子がデュエットするようなもので、先入観が強ければ、まったくのミスマッチである。
 曲自体は普通のポップ・ロックなので、俺的にはさほど思い入れはないのだけれど、シングル・チャートにおいてはUS2位、UK11位となかなか健闘している。
 
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11. If I Was Your Girlfriend
 結婚行進曲のイントロからスタートする、こちらはかなりファンク成分の濃いナンバー。Parade同様、余分な音はすべて抜いてしまう、大胆なファンク・サウンドが時代を先取りしている。終盤に連れて盛り上がるモノローグに対し、演奏はあくまで冷静。別人格Camilleになると、途端にファンキーさが増してしまうのも、この時期の特徴。
 でもシングル向きじゃないよね、これって。それでもUS67位UK20位は健闘した方。

12. Strange Relationship
 ちょっとマイナー調から始まる、同じくCamilleでのミドル・テンポ・ファンク。むしろこっちの方がシングル向きだったんじゃないかと思えるけど。メロディも立ってるしね。でも、それじゃチャートに風穴を開けることはできないのだろう。

13. I Could Never Take the Place of Your Man
 一転してストレートなポップ・ロック。ファンキーさのかけらもない。サウンドはキラキラしてるし、サビもキャッチー。でもやっぱりPrinceのヴォーカルはあんまり爽やかさが感じられないので、そのミスマッチ感がナイス。
 みんな前半ばかり印象に残っているとおもうけど、後半のアウトロは3分近くあり、しかもブルース調からジャズ・テイストに変わり、次第に陰鬱としたセッション風に変貌してゆく。バンドならまだ理解できるけど、これをソロ・ワークで作り込んだのは、どういった意図があったのか。
 US10位UK29位まで上がったシングル。

14. The Cross
 Prince流の正統派ゴスペル。厳かに始まりながら、次第に熱が入り、ディストーションの入ったギターがハード・ロックへとサウンドを変化させる。十字架というタイトルから想像できるように、もちろんキリスト教の影響下にある曲。
 
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15. It's Gonna Be a Beautiful Night
 86年パリでのライブ音源を使用。ライブ・ヴァージョンだけあって、グルーヴ感はこのアルバムの中では最も強い。曲の構造としてはジャム・セッションの延長線上なので、あまり深く考える曲ではない。しかし、前曲の壮大なバラードで厳かに幕を下ろしたところなので、アンコール的な扱い。
 Eric Leedsを始めとした、ライブでのブラス・セクションの使い方、Princeはほんとうまい。それとSheila E.のラップ。ていうかモノローグっぽいかんじなので、まぁセッションのちょっとしたお遊び。やはりこの人には打楽器が良く似合う。

16. Adore
 ファンの間でも人気の高い、初期を思わせる正統派バラード。シンセの使い方が西海岸系AORを想起させる、ファンキー成分を抑えたナンバー。こういったのも普通にできるはずなのに、やんないんだよな。
 70年代のメロウ・ヴォーカル・グループが歌ったら、更にツボにはまる、Princeのキャラクターに頼ることなく、純粋に美メロなナンバー。




 この後のPrinceだけど、あまりにオープンなサウンドへの反動なのか、それともあまりに肥大化したユーザー層の絞り込みを行なおうとしたのか、あまり大衆に支持されるとは思えない、マニアックなファンク・アルバムをリリースしようと思いつく。
 それがかの有名な『Black Album』騒動に続くのだけど、それについてはこちらで。
 
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それでもColtraneを使い続けたMilesの侠気 - Miles Davis 『’Round About Midnight』

6812569398_10d2497af8_b アコースティック期の Milesの中では、俺的に一番のお気に入りの作品。普段はあまり聴くことはないけど、こういったメロウなのを無性に聴きたくなるのは、いろいろ疲れて癒しが欲しい時と決まってる。

 ジャズに興味は持ち始めたけど、最初は何を聴いて良いのかわからなかった昔、ネットがなかった頃は、タワーの試聴機かディスク・ガイド本くらいしか情報がなく、取り敢えず有名どころのアーティスト、Miles以外にも、Bill EvansやSonny Rollins、初期のHerbie Hancockなど、名前を聞いたことがありそうなモノはひと通り聴いてみた。いわゆるモダン・ジャズの名盤というやつが多く、俺が聴いていた80年代後半から90年代初頭というのは、フュージョン系がとてもダサいものと定義されていた頃だったので、結果、ロックやポップスに慣れた耳では退屈だったのが、正直なところ。
 それでも最初は「ここを乗り越えれば」と、どうにか必死に喰らいついていたけど、何だか無理して聴いているのがバカらしくなってきて、だんだん興味もフェード・アウト、結局それから20年近く、ジャズからは離れてしまっていた。

 で、時代は飛んで、ここ数年のこと、急にハマり出したレア・グルーヴの角度から、ソウル・ジャズやジャズ・ファンクと出会うことになり、それに伴って再びMilesを聴き直してみた。グルーヴ感満載のエレクトリック期を取っ掛かりとして、そこからモード時代まで遡って、これまで見過ごしていた魅力を再発見した次第。
 こうした廻り巡った聴き方というのは、ジャズ一筋の人からすれば邪道なのだろうけど、まぁどのような過程であれ、受け取る側の感性の問題である。リズムの革新性で言えば、断然『Bitches Brew』以降だし、アンサンブルの妙や各パートのソロ・プレイのせめぎ合いを聴きたいのなら、アコースティック期の方が良い。

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 このアルバムのリリース直前、Milesは、それまで長く所属していたジャズ専門レーベルPrestigeとの契約を終え、大メジャーCBSへの移籍を果たしている。ジャズという狭いカテゴリーの中だけでなく、さらにワールドワイドなスタンスで活動してゆくためには、メジャーの販売力やプロモーションが必須だったのだ。
 このアルバムからがCBSリリースのため、当然、レコーディング時期は結構微妙なところ。まだPrestigeとのリリース契約が残っていたため、CBSとはあくまで仮契約、まずはPrestigeとの契約をクリアにしなければならなかった。
 なのでMiles、そこにケリをつけるために行なったのが、後年にも語り継がれた、通称「マラソン・セッション」と名付けられた、長時間のレコーディングである。

 要は契約消化のためのやっつけ仕事だったのだけど、Milesからしてみれば、とっとと契約枚数をクリアしたいため、作品のクオリティよりは録れ高を最優先事項として、レコーディングに臨んでいる。とにかく短時間で効率良く、アルバム4枚分のマテリアルが揃ってしまえばそれでオッケー的な作業。
 どっかで似たような話を聞いた気がすると思ったら、ワーナーから離脱する際のPrinceも、似たようなことをやっていた。彼もまた、ワーナーとのガチガチの契約から逃れたいがため、レコーディングからミックスまでを、たった3日程度で仕上げたり、過去のマテリアルの寄せ集め的なアルバムを連発していた時期があった。その辺はみんな、似たようなものである。

 で、そのマラソン・セッションの内容・クオリティだけど、今では名盤『Cookin'』『Workin'』『Relaxin'』『Steamin'』として語り継がれているように、当時のクール・ジャズ諸々の作品としても、出来はかなり良い方。
 すでに心はCBSに行っていたMiles、いくら消化試合だったとはいえ、やはりリーダー・アルバムともなれば、それなりのクオリティで仕上げないと、恥をかくのは自分の方。各メンバーに逐一細かい指示を出しながら、それでいてシステマティックに作業は進んだ。
 よって、従来のセッションとはまた違う緊張感がスタジオ内に流れ、結果的に「伝説のセッション」として語り継がれることになった次第。
 多分、公式にリリースされた以上に、膨大なマテリアルがあるのだろう。既存ファンの購買意欲を掻き立てるがごとく、リマスターや再発ごとに、未発表セッションが発掘されているけど、まぁそれを全部追いかけるほどのマニアではないので、そこはスルーで。

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 このアルバムの参加メンバーは、
 Miles Davis  (tr)
 John Coltrane  (t.sax)
 Red Garland  (p)
 Paul Chambers  (b)
 Philly Joe Jones  (dr)
 という面々。
 こうして並べてみると、錚々たるメンツ。当時はみな、ほんの若造だったけど、どのプレイヤーもかなりの実力者、のちのジャズ・シーンを牽引するレジェンド級が揃っている。そういった未知の才能を見抜く/見出す、または才能を開眼させるMilesの先見性は、ジャンルは違うけど、JBとタメを張るくらいである。

 で、よく取り沙汰されるのが、この時期のColtraneのヘタレっぷり。ジャズ歴が長い人が聴くと、スイングしてないだのオリジナリティーがないだの、結構散々な言われ方をされてることが多い。
 俺はそこまで深いジャズ・マニアではないので、彼のヘタレなプレイ振りがわからず、「何もそこまで言わなくたって」と、つい同情までしてしまうくらいの言われようである。

 ただ、Coltraneにも原因はある。ここでの彼のプレイって、よく聴いてみると、別にColtraneじゃなくてもいいんじゃね?と思ってしまう瞬間が少なくないのも、また事実である。取りあえずコードの流れに沿って、Milesが恐いんでそれほど前に出ず、出番が来たら無難なソロで埋めるなど、あまり印象に残らないプレイが多いので、そこは言われても仕方のないところ。
 ただ、あくまで「Atlantic~Impulseでの創造的なColtraneではなく、その前段階のヘタレな時期」という先入観を持って聴くからそう思うだけで、普通のライトなリスナーだったら、そこまで気にすることはないと思う。


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1. 'Round Midnight
 Thelonious Monkによる作曲のため、本来はピアノ・メインの曲なのだけど、そう前置きがないと気づかないくらい、すっかりMilesの曲となっている。当時、ノン・エコーのミュート・トランペットの音色は珍しかったらしく、これはもうMilesの発明と言ってもいいくらい、独自の世界が流れている。
 夜の帳の妖しさを見事に演出しており、雰囲気バツグンなのだけど、やはりColtraneのソロになると、ガラリと雰囲気が変わる。うん、やっぱ下手くそだ。テクニックの問題じゃなく、暴君Milesに恐れながら、無難なプレイでお茶を濁す感じが、逆鱗に触れたのだろう。



2. Ah-Leu-Cha
 次はMilesの師匠、Charles Parker作曲による、ちょっと早めの4ビート・ナンバー。昔ながらのハード・バップと言った風情のため、ここで注目してほしいのは、リズム・セクション。ChambersとPhilly Joeとの鉄壁のリズムは盤石の如く安定しており、特にPhily Joeのフィル・インは、その都度ドキッとしてしまう。GarlandとColtraneと言えば、旧来のジャズ・スタイルで思いきり羽を伸ばし、自由奔放にソロを展開する。

3. All Of You
 サビ辺りは結構聴いたことがある人は多いと思うけど、こちらの作曲はCole Porter。日本ではあまり聴きなれず、馴染みも薄いけど、20世紀アメリカを代表する作曲家の一人である。
 ムーディなMilesの冒頭のソロに対し、ここでのColtrane、中盤ソロを取っているのだけれど、Milesよりテンポを上げている。のちのシーツ・オブ・サウンドに通ずるように饒舌なプレイなのだけど、まだやはり試行錯誤しているのか、素人目線でもまとまりが弱いのが分かる。そこから軌道修正するかのように、Garlandのピアノ・プレイは流暢で、それでいてきちんと存在感がある。
 オリジナルLPでは、ここまでがA面。

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4. Bye Bye Blackbird
 こちらも有名なスタンダード・ナンバー。Blackbirdについての解釈が分かれているそうだけど、まぁこのトラックは歌が入ってないので、そこはスルー。YouTubeや手持ちのCD、ファイルから他アーティストのヴァージョンも聴いてみたのだけど、まぁだいたいこんなシットリした感じ。
 元の曲がよくできているので、セッションもしやすいのだけど、やっぱりColtraneが、ねぇ…。なんか一音一音がバラバラで、バンドのシックなサウンドとちょっと浮いている。メリハリがついていいんだろうけどね。
 
5. Tadd's Delight
 Milesとほぼ同世代で活躍したピアニスト、Tadd Dameronのナンバー。しかし、自作曲に自分の名前を入れてしまうのは、シャレでやってるのかそれとも自己顕示欲が強いのか。自作じゃないので微妙に違うのだけど、小林旭の世界観と近い物を感じる。
 4分程度の小品だけど、テンポが速いおかげでColtraneのソロが結構イイ感じでまとまっている。Garlandのソロも、特に左手のリズムがスイングしてて、こちらも俺は好き。
 考えてみたら、昔ながらのビバップなナンバー。全編これだったらちょっとクドイけど、アルバム構成的に1、2曲くらいなら、全体のまとまりも良く見える。



6. Dear Old Stockholm
 古いトラディショナル・ナンバーで、Stan Getz演奏のアレンジをフォーマットとしてプレイしたため、実際参加したわけではないのだけど、彼の名前がクレジットされている。
 安定したリズム・セクションに対し、やはりColtraneの滑舌は若干おぼつかないのだけど、それでも勢いがあるのか、他の曲よりは気にならない。Milesがこのアルバムで彼を使い続けたのは、やはりこういった、時々光る部分を認めてのことだったのだろう。
 どんな仕事もそうだけど、不慣れな新人をただ切り捨てるだけではダメなのだ。敢えて使い続けることによって、成長させるのもまた、リーダーの務めである。
 Milesのソロは、このアルバムの中では一番脂がのっている。Coltrane始めバンド・メンバーに対するドヤ顔が思い浮かぶ。



 まだTeo MaceroともMarcus Millerとも出会ってない頃のMiles、丸投げできるプロデューサー不在のため、ほぼすべてを自分で仕切らざるをえず、結構細かいアンサンブルやソロまで指示を出し、ダメ出しをし、あちこちへ縦横無尽に飛び回ることによって、これまでとは一味違う、クール・ジャズの一つの完成形を作り出している。
 完璧にこだわったプロダクション、そして、独裁者Milesに叱咤されながらも必死に喰らいつく若手ミュージシャンたち。
 その後30年以上続くことになる、CBS時代のスタートに相応しい傑作である。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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