好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

80年代のMilesも結構イイ。 - Miles Davis 『Star People』

Miles_Davis-Star_People_Japan-Front- 1983年にリリースされた、Milesが演奏活動に復帰してから2枚目のアルバム。当時のジャズ・シーンはすでに世界的に厳しいセールス状況だったのだけど、さすがはMiles、アメリカでもそこそこのセールスを記録しており、ビルボード最高136位、まぁこれは健闘した方なのだけど、なんと日本ではオリコン最高29位と、かなりのセールスを記録している。
 当時の日本のジャズ・シーンは世界でも有数の優良市場とされており、結構な頻度で大物ミュージシャンの来日公演や野外ジャズ・フェスティバルが行なわれている。Milesもこの前年に来日しており、その公演がライブ・アルバムとして発売されるなど、盛り上がりを見せている。

 このアルバムのリリース時、俺はまだ中学生、ジャズなんてまったく興味のなかった頃である。確かこの前後に、当時のFM北海道、現Air-Gが開局してしており、その流れでFM番組を聴く習慣がつくようになる。最初は新聞の番組欄を参考に聴いていたのだけど、そのうちFM雑誌という存在を知って驚くことに。タイム・スケジュールと曲名アーティスト名はもちろんだけど、NHK-FMだと、実際のオンエア秒数やレコードのメーカー品番まで、事細かに記載されていた。当時はエア・チェック・ユーザーが多かったため、どの雑誌もあらゆる詳細情報を詰め込んでいたのだ。
 こんな夢のような雑誌を知ったと同時に本屋へ走り、初めて買ったのが週刊FM。ちなみに全盛期には4誌がしのぎを削っていたFM雑誌業界、この頃は発行部数もすでにピークを過ぎて全体的に右肩下がりとなってきており、真っ先に廃刊の憂き目に会ったのが、これ。
 で、その初めて買った週刊FMでグラビア紹介されていたのが、この『Star People』リリース時のMiles。俺的にはこれがMilesの第一次接近遭遇だったため、何となく思い入れは深い。CD買ったのは、もっとずっと先だけど。

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 そのグラビアでも紹介されていたのだけど、当時のMilesは絵画に凝っていて、来日公演と合わせて個展も開いていたことを覚えている。まぁ今見れば、後期のピカソのパクリ、ステレオタイプの抽象画なのだけど、当時の素直な中学生には、「なんかよくわかんないけどカッケー」と映ってしまい、しかもその中の1枚がアルバム・ジャケットのデザインに使用されており、「なんかスッゲー多才でカッケー」と、また素直に思ってしまった。
 一緒に書かれていたディスク・レビューもまた「とにかくスゴい人」と持ち上げまくりだったこともあって、アホな中学生の頭には、Miles Davisがレジェンド級のアーティストとして刷り込まれた。まぁ間違ってはいないのだけど。

 当時のMilesはイッセイ・ミヤケ・デザインのファッションがお気に入りで、個性的な原色使いのゾロっとしたスーツで写真に収まるその姿に、芸術家というのは凡人の考える範疇を超えているのだな、と、よくわからない感心をしたことも、今では遠い思い出の中。

 70年代までのMilesの功績があまりにレジェンド級のため、復帰後のMilesのアルバムは、あまりまともな評価がされていない。ていうか60年代末からのエレクトリック期の再評価も今世紀に入ってから始まったようなもので、保守的なジャズ界はいまだアコースティックなモード時代が本流、70年代Milesは長いご乱心状態が続いた、ということになっている。『On the Corner』だって『Bitches Brew』だって、当時はゲテモノ扱いされ、やっと再評価されたのが90年代近くになってから、クラブ方面のDJたちがサンプリング素材として使用してからであり、特に日本においては、今でも不肖の息子的扱いは変わっていない。

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 で、邪道どころか空気扱い、ほぼ注目されることもないのが、この復活後の一連のアルバム。最後の最後で『Doo-Bap』という、めっちゃリアルタイムのストリート感覚あふれるヒップホップ・サウンドを展開、さすがMilesといった風に最後っ屁をかましたのだけど、結構な部分のサウンド・メイキングを他人まかせにしてしまった80年代は、まともに評価すらされていないのが現状である。
 この『Star People』だって、最終形態アガパンにて、もはや収拾のつかないカオスな世界観となった70年代ジャズ・ファンクを、新世代のメンバーを率いて整理しコンテンポラリーなサウンドにブロウ・アップさせた、優秀なアルバムだというのに。

 ただこの時期のMiles、一応復帰はしたけれど、まだフル・スロットルではなかったのと、健康状態が万全でなかったこともあって、細かなアンサンブルは他人まかせ、ちょっとツメの甘い部分もそこかしこに見られる。ちなみに長い間、実質的な総合プロデュースを務めていTeo Maceroが今作を最後に身を引いており、よって編集が粗くなってしまったことも一因ではある。

 このエッジの効いたハイパー・ジャズ・ファンク路線をもうちょっと推し進めてゆけば、すでにネタ切れ感も醸し出しつつあった70年代フュージョン系の残党らも軽く蹴散らしていたのだろうけど、やはり単発では、そこまでのインパクトはない。

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 ここでちょっと考えられるのは、かつての愛弟子Herbie Hancockの動向。彼もまた使い古されたジャズ・ファンクとは見切りをつけ、ちょうどこの時期Bill Laswellと組んだアブストラクトなヒップホップ名盤『Future Shock』をリリースしている。
 以前も書いたのだけど、これまたインパクトの強いサウンドと衝撃的なPVが大きな話題となり、お茶の間レベルにヒップホップという新しいジャンルを広めるきっかけとなったアルバムである。
 Milesももう少し体調が万全なら、Herbie同様、同じような方向性を目指していたのかもしれないけど、あいにくそこまでの気力体力がおぼつかなかったのだろう。

 なので、Teoとの決別後はMarcus Millerへプロデュースを丸投げ、しばらくはアイドリング運転のような活動でお茶を濁すことになる。


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1. Come Get It
 全体的に80年代MilesはMarcusが出しゃばり過ぎて、Milesのオリジナリティが希薄だと言われているのだけれど、いやいやこれは充分に70年代にMilesが創り上げたジャズ・ファンクの進化形、そこにMarcusが乗っかっただけに過ぎない。確かにベースが前に出過ぎるような感じはあるけど、まぁそこはバンマスだし。
 ここでの新顔はMike Stern(G)。70年代Milesバンドのギタリストがほぼファンクをベースにしたプレイを聴かせるのに対し、Sternは比較的ロック寄りのサウンドを聴かせている。この辺は混沌を良しとしないアレンジャーGil Evansの意向が強いんじゃないかと思われるのだけど、いかがだろうか。
 ちなみにこのトラックはニューヨークのライブ・テイクをベースとしたテイク。ここでもやはりTeoの技が光る。

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2. It Gets Better
 メドレーで続く、現代版ジャズ・ブルース。1.ではそれほど目立たなかったMilesのソロが光っている、と言いたいところだけど、前半はヘロヘロ。ここでの主役はまたまた新顔のギタリストJohn Scofield。スロー・ナンバーのため、ファンキーなプレイはなく、白人らしくソフィスティケイトされたプレイを聴かせている。どっか上品すぎるんだよな、この人。
 中盤になってから興が乗ったのか、往年を思わせるプレイを聴かせるMiles。やっぱりバンドとは相乗効果なのだな、と思わせるナンバー。

3. Speak
 いきなりシンセ・プレイをかます御大Miles。このフレーズがリードして、1.同様、ハイパーなジャズ・ファンク・ナンバーとして成立している。Sternのブチ切れたギター・プレイ、絶対名前で損してるBill Evans(S.Sax)とMilesとのユニゾン・プレイ、中盤のジャズとアバンギャルドとのハイブリッドなプレイのScofield。
 聴きどころの多いナンバー。



4. Star People
 メロウなプレイを聴かせる、この時期としては珍しいMilesのオーソドックスな側面。古臭いモード・ジャズとしてではなく、エフェクト類などを駆使して、あくまで現代に通用する音像処理を施しているのが、やはり御大のバランス感覚か。
 スロー・ブルースとしては、全キャリアを通してかなりイイ感じの部類じゃないかと思え、Miles自身も当時自画自賛してたような記憶がある。過去を振り返らないMilesとしては、珍しい発言である。

5. U'N'I
 ファンキーかつメロディもしっかりした、俺的にこのアルバムのベスト・トラック。あまり肩ひじ張らず、何かウォーミング・アップがてら録音したんじゃないかと思えるくらい、とにかくMilesのペットが軽やかで楽しそう。いつもシリアスな御大をイメージした俺にとって、こういった側面もあることは新鮮だった。
 あまり出番の少なかったBill Evansも楽しそうにソロを吹いている。

6. Star On Cicely
 タイトルのCicelyとは、当時Milesと結婚していたCicely Tysonのこと。こういったことを恥ずかし気もなく、自分の妻の名前を冠したナンバーを収録してしまうのが、さすが浮世離れした天才の所業である。






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一度やってみたかった、Quincy Jonesのマネ - Herbie Hancock 『Lite Me Up』

1280x1280 21世紀に入ってからのHerbieはGershwin、Joni Mitchellとすっかりカバー三昧、メインストリーム・ジャズの方は時たまやる程度になってしまっている。ゴリゴリのジャズ・ファンからみれば、そのあまりにマルチなジャンルへの越境振りに難色を示す評も多いのだけど、過去の埋もれつつある音楽遺産を、ジャズ以外のリスナーに受け入れられやすい形で後世に残すその意義は、もっと認められてもいいんじゃないかと思う。

 彼がピックアップする音楽は、そのどれもが発表当時、大きなポピュラリティを獲得した音楽であるし、次世代に遺してゆく価値は充分あるものばかり。それを考古学的に、当時のままをストレートに再現するのではなく、現代のサウンドに昇華させて、今の世代へきちんとした形で伝えてゆくベテランといえば、今のところHerbieクラスじゃないと説得力がない。
 若い連中が同じことをやったとしても、商売の臭いが強すぎるか、奇をてらったアレンジになってしまい、本来の意義を見失ってしまう。

 多分Bob Dylanあたりから端を発すると思うのだけど、すでに功なり名も遂げてしまったベテラン・アーティストが、かつて影響を受けた音楽へのリスペクトを込めた作品をリリースすることに積極的になってきている。
 いまだ現役でステージに立つPaul McCartneyだって、必ず古いロックンロール・ナンバーをレパートリーに入れているし、日本だと最近、井上陽水が往年の名曲カバー集の2作目をリリースした。
 今さら中途半端なオリジナル・ナンバーを作ったとしても、どうしても過去の焼き直しになってしまうことは避けられない。所詮1人の人間のメッセージやオリジナリティなど限られているのだから。それなら開き直って、他人の曲の別解釈や自身のアーカイブの整理に走るのは、当然の帰結でもある。
 
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 そもそもHerbieがジャズ一辺倒の人間だったのかといえば、そんなことはなく、それこそ年季の入ったジャズ・ファンほど、その辺は詳しいはず。
 ベースとして「スタンダード・ジャズ」という柱はあるのだけど、何がなんでもジャズの伝統を守るという姿勢ではなく、ジャズをスタート地点としたジャンルレスな活動を展開しているのが、純粋な音楽探求者としてのHerbieである。
 なので、膨大なディスコグラフィの中でも、純然たるモダン・ジャズというのはおそらく半分くらい、残りは他ジャンルとのミクスチュアで占められている。

 今回紹介する『Lite Me Up』は、その経歴の中でもジャンルレスが突出した時代、70年代のジャズ・ファンク〜ソウル・ジャズから、アドリブ・プレイなどの不確定要素を排除して、ヴォーカルを中心に据えたサウンドを展開している。
 はっきり言ってしまうと、もはやジャズの要素はほとんどなく、ステレオタイプのブラック・コンテンポラリーなサウンドである。あまりに同時代のソウル・ヴォーカル・サウンドとも拮抗する仕上がりになっているため、一聴してHerbieのアルバムだと気づく人はほとんどいないはず。ソウル/ファンク・アルバムとしてあまりに出来が良いので、逆にHerbieの存在感はほとんどない。いくつかの曲で自らヴォーカルも取るくらいの気合いの入れようだけど、どうせならHerbie名義じゃない方がよっぽど売れたんじゃないか、とまで思ってしまう。

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 で、このアルバムで大々的に導入された、ソウル/ファンク系ヴォーカルをフィーチャリングした、ダンス・シーンへの強力なアプローチを表明したサウンドだけど、ジャズ界からポピュラー・シーンへの進出は、何もHerbieが初めてではない。
 当時の疲弊しきったモダン・ジャズに見切りをつけ、もっとファンキーなリズムに寄ったダンス・シーンを意識して、Marlena Shawなどブルー・ノート発信のシンガーが台頭してきたのが60年代末からの傾向だけど、70年台中盤からのディスコ・ブームの勃興と共に、そこをもっとコンテンポラリーに展開していったのが、Quincy Jonesである。

 スタンダード・ジャズをメインで活動していた頃はパッとせず、どちらかといえばB級映画のサントラ職人的な立場に甘んじていたQuincyだったのだけど、日本でも大ヒットした”愛のコリーダ”でポップ・チャートに華々しく登場し、次に組んだMichael Jackson との『Off the Wall』がさらに世界的な大ヒット、敏腕プロデューサーとしての地位を確立した。
 と、ここでアーティストとしてのQuincyを語ろうとすると、ちょっとした疑問が出てくる。
 Herbieとほぼ同時期にリリースした自身のソロ・アルバム『Dude』、ほとんどの作曲をRod Tempertonに任せ、ヴォーカルもPatti AustinやJames Ingramがメインで歌ってるし、当然演奏もQuincy自身がそれほど大きく関与しているわけでもない。
 じゃあ結局、お前何やってたの?という疑問が真っ先に浮かぶのは、俺だけじゃないはず。クラシックで言うところのオーケストラ指揮者、または演劇における総合演出といったスタンスが最も近く、プレイヤーというよりはコンポーザー的な立場のアーティストである。当然コンセプト立案はQuincyだろうし、PattiやJames名義でリリースしたとしてもセールス的にはちょっと弱かったはず。すでに名門CTIからデビューしていたPattiはともかくとして、Quincyとのコラボによって注目を浴びたJamesにおいては、ソロ・デビューがもう少し遅くなっていたかもしれない。
 なので、その辺はいわゆるギブ・アンド・テイクなのだろうけど、自らは直接的な作業には関与せず、いわゆる類型的なプロデューサー像、録音ブースでふんぞり返って、あぁだこうだとボヤきまくるQuincyの姿を想像してしまうのだ。
 自らは実質プレイはしないのに、アーティスト然としているその姿は、Bryan Enoを連想してしまいがちだけど、Quincyの場合、そこまでひどくはない。だって一応トランペット吹けるし。

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 で、そのQuincyのブレーンだったRodを抱き込み、同じ手法に沿ってHerbieが作ったのが、このアルバム。考えようによっては、Enoよりアコギかもしれない。リリース時期もそれほど離れておらず、あまりに露骨過ぎてマズイと思ったのか、一応それなりの新機軸は打ち出している。
 Quincyサウンドでは定番の四つ打ちディスコ・ビートはあまり使用せず、これまで培ったジャズ・ファンクのフォーマットを主体とすることによって、16ビートのハイ・リズムのナンバーが多い。なので、Quincyより甘さやメロウな感じが薄れ、時にかなりロック・サウンドに接近している曲もある。

 前にも書いたのだけど、Herbieのバイオリズムはほぼ10年周期でポップシーンへの興味が強くなり、この『Lite Me Up』のように、極端に大きく針が振れる時がある。特にこの時期はBill Laswellとのコラボ3部作があとに続き、10年くらいレッド・ゾーンに振り切れっぱなしという状態が続く。
 ただ前述したように、Herbieのキャリアのほぼ半数は、そうした純正ジャズ以外のジャンルとのコラボレーションが占めている。
 遡ればデビュー間もないBlue Note時代に発表した”Watermelon Man”や”Cantaloop”が、ヒップホップ・クラシックのアンセムとして広く認知されているように、ピアニストにしてはリズムへのアプローチに独自性のある、ヒップな感性が持ち味の人である。スタンダード・ジャズをベースとした活動が中心ではあるけれど、最も彼が興味があったのが、時代ごとの最先端のサウンドであり、初期はそれがたまたまファンキー・ジャズだった、というわけである。
 既存のジャズ・サウンドに捉われないスタイルがMilesに見込まれてジャズ・ファンクの世界に進んだのだろうし、またその後のR&B、ヒップホップ・サウンドへ向かったに過ぎない。長い目でみれば、彼の姿勢は一貫しているのだ。

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 で、近年の彼の強い関心が、過去の音楽遺産の継承であって、それはある意味自らの音楽キャリアの総決算的なものも含んでいると思われる。新しいサウンドよりむしろ、これまでの足跡をまとめて次世代へ繋げる、ある種の使命感のようなものもあるのだろう。
 それともうひとつ、近年の音楽状況の行き詰まり感によって、彼が強く感心を寄せるほど、革新的なサウンドが見当たらないというのは、ひとつの寂寥感さえ感じられる。


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1. Lite Me Up
 80年代産業ロックを思わせるオープニングのギターはSteve Lukatherによるもの。当時のスタジアム・ロックを思わせるエフェクト具合は、まぁ時代が時代なので。冒頭を飾るには最適のノリの良いナンバーだけど、ジャズらしさのカケラもないこのサウンドに、当時のファンは絶句したことだろう。だって「Herbieの新譜だ!!」と思って買ったLP、楽しみにして家に帰り、いざ針を落としてみたら、まぎれもないディスコ・ビートの嵐。「これ中身違うじゃねぇか!」とレコード店に怒鳴り込んだ人も少なからずいたんじゃないかと思う。
 なので、ジャズというフィルターを外して聴いてみると、極上のブラコン・サウンドである。サビもフックが効いているし、バラードのイメージが強いPatti Austinのバック・ヴォーカルも力が入ってる。Herbieのヴォーカルも味のある声質で、これもなかなか。



2. The Bomb
 テンポが上がり、さらにファンキー指数の増したダンス・ナンバー。なので、Herbieの出番は中盤ブレイクのシンセ手弾きくらいで、あとはたまにヴォコーダーで遊ぶくらい。
 どんな面持ちで弾いてたんだろうか、やっぱノリノリでステップ踏んだりしながらプレイしていたんだろうか。

3. Gettin' To The Good Part
 少しアフロっぽいムードのリズム、どこかで聴いたと思ってたら、Sade『Smooth Operator』だった。ミディアム・テンポのまったり加減が心地よいのだけど、時折現われるHerbieのヴォコーダー・ヴォイスが台無しにする。それこそPattiに歌わせればよかったのに。
 中盤からはホーン・セクションが入り、Steely Danっぽく変化するのも、俺的にはツボ。

4. Paradise
 ほとんどAORか、それともEarth, Wind & Fireあたりを狙ったのか。アースならもっと下世話だけど、ここは無難なポップ・バラードに仕上げている。
 この曲のみパーソナルが違い、別のセッション・メンバーが起用されているのだけれど、コンポーザーとしてHerbieと併記されているのが、Bill Champlin(B.Vo)、David Foster(P)、 Jay Graydon(G)という、錚々たる面々。Herbieは演奏を彼らに任せ、これまで使っていたヴォコーダーをはずして、生の肉声を聴かせている。いるのだけれど、ほんとオーソドックスな曲なので、わざわざここで気合を入れたメンツでやるほどのものではない。さすがにヴォーカルもちょっと自身なさげだし。
 特別自分から歌う気などなかったのだけど、思わせぶりな態度を取っていたがため、いつの間にか流れでやる事になってしまい。引っ込みがつかなくなって仕方なく歌ってみた、ていう感じ。



5. Can't Hide Your Love
 この曲も制作メインはNarada Michael Waldenで、Herbieはほぼ歌に専念。前曲同様、覇気が少なくハリも少ない声質のため、このようなリズムの強い曲では埋もれてしまっている。
 俺的にNarada Michael Waldenといえば、James Mason『Rhythm of Life』での一連のプレイ。アタック音が強すぎず、正確無比なタムやスネアの跳ね具合はここでも華麗に披露されている。
 なのにHerbie、気持ちよさそうに歌ってるのだけど、なにぶん声質が細く、サウンドに負けてしまっている。誰か何も言わなかったのか、と思ったら、この曲のプロデュースはHerbie自身。まぁ何も言えないわな。

6. The Fun Tracks
 これもEarth、またはIsley Brothersを彷彿させるリズムとギター・シンセからスタート。ヴォーカルがHerbieからWayne Anthonyに交代したためか、ノリがまるで違ってる。やっぱ本職が歌うとグルーヴ感が違ってくる。Herbieのシンセもエフェクト的に使いまくられて、良い意味でバッキングに徹している。

7. Motor Mouth
 この辺はモロQuincyを意識したような、同時代的なディスコ・サウンド。Herbieはまたまたヴォコーダーを使ってカウンター的に絡んでくるのだけど、この程度の使い方なら、テクニックの稚拙さが目立たない。まぁやりたかったんだろうね。俺的にこの曲、Pattiのバック・ヴォーカルが好み。



8. Give It All Your Heart
 ラストはメロウ・グルーヴな80年代Isleyっぽいサウンドに乗せて、またまたHerbieがヴォコーダーで登場。それはもう慣れたのだけど、せっかくPatrice Rushenが参加してくれているのに、彼女にまでヴォコーダーをかけるのは、ちょっとどうかと思ってしまう。
 でも終盤のHerbieのソロはやはり聴き入ってしまう。最後はうまく締めるんだな、やっぱ。




 このアルバムは8曲中6曲がRod中心の制作になっているのだけど、どれもHerbieの強烈なオリジナリティに染まることなく、この曲もきちんと類型的なR&Bバラードに仕上げている。ヴォコーダーを使うアイディアがRodから出たのかHerbieから出たのかは不明だけど、どうにか違和感が少なくなるようにミックスされているので、それほど気にはならない。
 この方法論をもう少し推し進めて、Zapp的なヴォコーダーの使い方を習得したら、もっとファンキーなサウンドが展開されたと思う。まぁでもHerbieはQuincyみたいになりたかったわけだし、そっちの方面にはいかないよな、きっと。



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世界のジャズ・ファンク・バンド巡り:UK編 - Speedometer feat James Junior『No Turning Back』

_SL1500_ 最近音沙汰ないけど何してんのかなぁ、と思ってたら、何の前触れもなく突然リリースされたSpeedometerの新作アルバム。前回レビュー時には、ユルいラウンジ風カバーのPharrell Williams 『Happy』がリリースされて、まだ本気出してないよなぁ、と思ってた矢先の出来事である。もしかすると、ただ単に俺がチェックしてなかっただけなのかもしれないけど、突然の急展開と思ってしまったのは、多分俺だけじゃないはず。

 前回のMartha Highとのコラボ同様、今回も単独名義ではなく、若手黒人男性シンガーJames Juniorとのコラボ作というスタイルになっている。これまで単独名義アルバムの構成パターンとして、ほぼ半数がインスト、もう半分で複数のゲスト・ヴォーカリストをフィーチャリングしてのヴォーカル・ナンバーという流れだったのだけど、今回はMartha同様、インストは2曲のみ、Jamesがほぼ出ずっぱりで歌っており、ちょっと泥臭いネオ・ソウル系、バラエティ色あふれたソウル系のヴォーカル・アルバムに仕上がっている。
 ナショナル・チャートのサウンドと比較しても、何ら引けを取らない作りになっており、「もしかしたら売れちゃうんじゃないか」とも思ってしまったけど、相変わらずのマイペースは変わらず、チャートの隅っこにすら顔を出す気配はなさそうである。ま、しょうがないか、レーベルがFreestyaleだし、日本じゃP-VINEだし。日本盤が出るだけ良しとしなくちゃな。

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 で、今回抜擢された謎のシンガーJames、詳細な情報がほとんどない。P-VINEはもちろん、この手のジャンルに強そうなネット・ショップのインフォメーションも、「新進シンガーである」という以上の事は書かれていない。
 なので自力でいろいろ調べてみると、10年くらい前からMyspaceに音源をアップして地道な売り込みを行なっていたようだけど、まぁアマチュアに毛が生えた程度の活動状況。もちろん、パッケージとして音源がリリースされるのは、これが初めてである。もしかすると、あまり公表されていないだけで、ほんとは実績のあるアーティストなのかもしれないけど、わかったのはこれくらいである。
 こうして書いてると、何か大したシンガーじゃないように思われてしまいそうだけど、いやいやジャズ・ファンク界はめちゃめちゃ裾野が広いため、無名でも熟練のテクニックを持つ者は、それこそ腐るほどいる。ましてやUK有数のジャズ・ファンク・バンドSpeedometerに見込まれたくらいだから、相応のポテンシャルはある。
 実際、聴いてもらえばわかってもらえるはずだけど、バンドと一歩も引かず渡り合い、曲によっては充分主導権を握っているものもある。

 数多あるUKファンク・バンドの中でも、Speedometerは極めてオーソドックスなスタイルのバンドである。全体的にファンク・テイストが濃いUKにおいて、正統派のジャズ成分が多いサウンドを展開しているので、へんなクドさや独特のクセも少なく、比較的ビギナーでも抵抗なく受け入れやすいのが特徴である。
 なので、ヘヴィーからライト・ユーザーまで幅広く支持を得ており、このジャンルの中ではセールスも安定している。そこまで大ヒットとまでは行かないけど、バンド運営的には余裕があるので、無理なプレッシャーも少ない。よって、マイペースな活動ができている。
 いるのだけれど、逆に言えば安定しすぎ。
 破綻が少ないのは結構だけど、それがサウンドにまで現れてしまっては、ちょっとまずいんじゃないかと思う。時にはベタな定番もいいだろうけど、そればかりじゃ飽きが来るのも早くなる。川の流れは止まってしまうと水は澱み、そして腐ってゆくのだ。

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 セールスの上昇に伴って、バンドのサウンドが予定調和なジャズ>ファンクに偏りつつあり、あのまま何の手立ても講じなければ、単なるラウンジ・ジャズ・バンドになってしまったことだろう。そういったヌルい状況に危機感を覚えたのか、前回行なった荒療治が、他の血を大々的に導入すること、それが大御所ソウル・ファンク・ディーヴァMartha Highとのセッションだった。
 彼女とは、そのまた前作『Shakedown』で共演済みだったのだけど、そこではひいき目に見たとしても、ディーヴァのド迫力に圧倒され、完全に気合負け・迫力負けしていた。バンドのHPを上げていかないと、とても太刀打ちできない相手である。そこで尻をまくって路線変更という安易な道には逃げず、敗北を糧として態勢を立て直し、ガチの再戦を挑んだことが、結果的にバンドとしては良い方向へ向くことになった。
 サシでぶつかり合ったコラボ作『Soul Overdue』は、Marthaのパワーに振り回されるギリギリのところでバンドが踏み止まり、拮抗したセッションとなった。前回はディーヴァの迫力に圧倒されてしまうところを、ねじ伏せるとまではいかないけど、なんとか五分の闘いにまでは持っていくことができた。自分たちのサウンド・ポリシーをゴリ押しするのではなく、Marthaの間合いに合わせ、時にはMarthaの勢いを利用して、全体的なグルーヴを創り出せるまでに至り、これが多分自信になったんじゃないかと思う。

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 前回が五分五分の真剣勝負だったのに対し、今回のSpeedometerのエンジン出力は8割くらい、イキのいい若手に胸を貸すといった感じである。Marthaの時のような緊張感はないけれど、自分たちの自己主張はしつつ、極力Jamesに花を持たせるようなプレイを見せている。
 どちらもエゴが強すぎると散漫になるし、お互いが譲り合い過ぎても、漫然としたプレイになってしまうのだけど、ここではヴォーカルと演奏がイイ感じでバランスが取れている。
 きちんとしたコンテンポラリー・サウンドながら、アルバム1枚を中だるみさせことなく聴き通させてしまうのが、今のSpeedometerの実力なのだろう。


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1. Don’t Fool Yourself (feat. James Junior)
 60年代スタックス・ソウルの伝統を汲んだ、キャッチーなメロディ・ラインのソウル・ナンバー。すっかり歌モノのバッキングが手慣れたバンドの面々だけど、それにひるまずオリジナリティを前面に出したヴォーカルを披露している。

2. Bad Note (feat. James Junior)
 ホーン・セクションがもろソウル・レビュー・スタイルなので、ちょっと気づかないけど、メロディ・ラインは正統なR&B。もっとムーディに仕上げれば、スムース・ジャズでも通用するクオリティなのだけど、そうはしないのがこのバンドの肝の据わったところ。まぁ似合わないしね。ヴォーカルはねっとりしたスロウ・ファンク・スタイルで、このミスマッチ感が絶妙。

3. No Turning Back (feat. James Junior)
 タイトル・ナンバーで、しかもスウィング・ジャズ・スタイル。新人とはいえ、今回のフロントマンを務めているくらいだから、テクニックの幅の広いヴォーカルを聴かせている。中盤のブレイクの軽さもまた、レンジの広さを見せつけている。
 でも、このスタイルでアルバム1枚なら、ちょっとキツイ。やっぱり1、2曲程度のスパイス的な使い方なら、アリ。



4. Just the Same (feat. James Junior)
 かなり泥臭いディープ・ソウル。これはちょっと思ったのだけど、案外女性ヴォーカルの方が映えるナンバーだったんじゃないかと思う。それこそ前回のMartha、またはSpeedettesを呼び戻すとか。
 でも、曲とマッチしないから別のヴォーカルを呼ぶ、という態度なら、それはバンドではないのだ。敢えて若いJamesに課した試練、そしてそれをきちんとバッキングするメンバーたち、それによって信頼関係が生まれるのだ。

5. Orisha's Party
 少しBPMを速くした、バンド全体のグルーヴが感じられるインスト・ナンバー。若いヴォーカルに刺激されたせいもあるのか、ここはみんな良いところを見せようと必死。若手に胸を貸す、なんて余裕ばっかりぶっこいていられない。ミュージシャンなのだから、やっぱり目立ってナンボである。

6. Troubled Land (feat. James Junior)
 アフロ・ジャズっぽいオープニングに、ホーン・セクションが気合が入るナンバー。長い長いイントロの後、スロウ・ファンク・スタイルで肩の力を抜いて歌うJames。ここはバンドの力が強い。ビッグ・バンドでのJBスタイルのファンクは、やっぱり強い。しっかしゴチャ混ぜだな、この曲。Metersも入ってるし、イイとこどり。
 LPでは、ここまでがA面。
 


7. Middle of the Night (feat. James Junior)
 爽やかなフルートの調べから始まるオープニングに乗せて、70年代っぽいニュー・ソウルのウィスパー・ヴォイスからスタート。この曲もそうだけど、シャウター・スタイルの人ではない。微妙な陰影を表現する人なので、ファンク色の強いバンドではなく、Speedometerにはよくマッチしていると思う。

8. Mirage (feat. James Junior)
 ファンク・マナーの則ったギター・カッティングがカッコイイ。こういったシンプルな音をきれいに聴かせられるLeigh Gracieを始めとした、バンドの底力が垣間見えてくる。こういった疾走感、Jamesはすごく歌いやすそう。メロディもすごく立ってるし。

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9. I Showed Them (The Ghetto) [feat. James Junior]
 ここでボサノヴァが登場。ジャズの素養があるので、バンドはこういったことも全然できると思うけど、あくまで自分のスタイルを崩さず、世界観に溶け込んでいるJamesもナカナカ。”Do it Again”なんか歌ってくれたら、結構サマになるんじゃないかと思う。

10. Homebreaker (feat. James Junior)
 今度はノーザン・ソウル。オルガンと、アクセント的に使われてるプリセット音源のストリングスが、チープでありながら逆にソウル・スピリッツを感じさせる。ドラムやベースが前面に出てなくても、充分にファンキーに演奏できることを証明したナンバー。






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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