好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

「ケンカするほど仲はいい」とは言うけれど。 - Police 『Synchronicity』

folder 実質5年という短い活動期間の中、Policeは世界ツアーとレコーディングのルーティンを繰り返し行なっていた。やり手マネージャーMiles Copeland の戦略に基づき、次々とスケジュールが組まれため、『Ghost in the Machine』のレコーディングまで、ほぼ休みのない状態だった。
 明確なビジョンと行動力のあるマネジメントのおかげもあって、Policeは早い段階からワールドワイドな活動を行なっており、実際結果もついてきたわけだけど、実働部隊からすればたまったものではない。
 いま自分たちがどの国にいるのかもわからない、長く終わりなき世界ツアーの最中も、膨大な取材やフォト・セッション、当て振りの演奏を強要されるテレビ出演がねじ込まれる。訪れる国は変わっても、求められることは大体似たようなものだ。
 場所が変わっただけで、やる事は大体いつも同じ。そんな日々が長く続けば、時々フラストレーションが爆発するのも無理はない。定番の乱痴気騒ぎだったり、またはメンバー間のゴタゴタが絶えなかったり。

 そんな間を縫って、彼らは断続的にスタジオに入り、レコーディングを行なった。ライブで練り上げてきた曲もあるけど、ほとんどはスタジオに入ってから書き上げ、ほぼぶっつけ本番で演奏を組み立てる。何しろ時間が足りないので、短期間でチャチャっとまとめなければならなかった。
 メインのソングライターであるStingがハイレベルの多作家であったこと、またStewart Copeland もAndy Summers もテクニック的には折り紙つきだった上、下積みが長かったこともあって、場数を踏んでいた。なので、彼ら3人が顔を合わせて音合わせ、すぐ本テイクがレコーディングされ、それでいっちょ上がり、という具合が続いていた。
 Stonesのように、ダラダラ長時間セッションを行なうよりはずっと合理的だけど、逆に言えば、じっくり練り上げることがなかったため、若干やっつけ仕事っぽいテイクがあることも事実。「De Do Do Do, De Da Da Da」なんて、語感の勢いとインパクト勝負だけだもんな。その力技が強烈なんだけど。

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 デビューからずっと、そんなレコーディング事情だったため、意外なことにPoliceの未発表曲というのは、ほぼ存在しない。1993年にリリースされた5枚組ボックス・セット『Message in a Box』にも、シングルのみリリースの曲がいくつか収録されているけど、ほとんどは耳慣れたアルバム収録曲ばかりで、レア物といえるものはない。その後も、大物アーティストにありがちなデラックス・エディションの企画も立ち上がらないところからみると、よほど発掘ネタがないんじゃないかと推測される。
 プリプロダクションの段階でキッチリ絞り込んだおかげか、それともほんとに年末進行状態で手早く作業していたのか。まぁどっちもありえるな。
 それにもともと彼ら、長時間一室に閉じ込めて成果が上がるタイプのバンドではない。むしろ、普段はできるだけ遠ざけておいた方がよい、どいつもこいつも血気盛んな輩なのだ。
 スタジオ内やステージでのつかみ合い、または怒号。真剣さが高じて殺意が飛び交うバンド。それがPoliceだ。よく何年も一緒にやってたな。

 働きづめだった彼らへのご褒美として、彼らはモンセラット島でのバカンス休暇を与えられる。とはいえ、そこはマネジメントの抜け目ないところ、バカンスと兼ねて次回作のレコーディングもセッティングされていた。
 まぁ本人たちも、その辺は同意の上だったんだろうな。デビューしてからずっと、時間に追われたレコーディングだったし、ゆっくり手間ひまかけた作業ができる環境を用意してもらったんだし。

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 Policeの基本サウンドは、Sting × Stewart × Andyによるシンプルな3ピースが主体で、これは活動休止前まで変わることはなかったけど、このレコーディングでは時間的な余裕もたっぷりあったおかげで、メンバーそれぞれ寄ってたかって、サウンドでの実験に力を入れている。骨格のギター・ベース・ドラムのトライアングルに加え、ポリフォニック・シンセやホーンが、あらゆる曲で効果的に使用されている。最低1曲は入っていたレゲエ・ビートも一層され、シンセポップへ大胆にアプローチした楽曲が主体になっている。
 これまでと勝手が違うセッションだったせいもあって、ここに来てリハーサルやリテイクの数が多くなっている。なので、ブートで流出しているスタジオ・セッションというのは、ほぼこの時期に集中している。公式では未発表なので、聴きたい人は各自調べてみてね。
 「ケンカするほど仲が良い」とはよく言ったもので、いくら殴り合いが多かった3人とはいえ、この時期は一緒にレコーディング・ブースに入るだけ、まだマシだった。3人そろって「せーの」で音を出し(この時点でつかみ合いになることも多いけど)、ラフ・ミックスを聴きながら、あぁだこうだと意見を出し合いながら、シンセやエフェクトを加えたりして(この辺だと殴り合いだな)。基本は、従来のバンド・スタイルと大差ない。

 『Synchronicity』レコーディングは、『Ghost in the Machine』で培ったメソッドを、さらに深く推し進める形で行なわれた。基本、演奏は3人で行なわれ、ほぼ外部ミュージシャンを使うことなく、あらゆる機材が使用された。されたのだけど、レコーディングで3人が顔をそろえることはほとんどなく、大抵は個別のブース、スタジオを使用して別々に行なわれた。
 3人ともソロ活動を開始していたため、スケジュール調整が困難だった、というのが表向きの理由だった。シンセ機材の導入によって、特にStingの楽曲なんかは、ほぼ独りで完結させたトラックもあり、グループとしての必然性が薄い状況が垣間見える。
 当時からすでにささやかれていたことだけど、実際はグループ内の人間関係の悪化に尽きる。以前までは、せいぜい殴り合い程度で済んでいたのが、ここに来て蔓延しつつあった、シャレにならない殺気立った空気を、本人・スタッフとも按じての処置だった。
 3人そろってスタジオ入りしても、2人はそれぞれ別のブース、もう1人が調整卓の前とバラバラだったため、以前のような顔を合わせてのセッションは、ほとんど行なわれなかった。
 そんな按配だったため、『Synchronicity』のアウトテイクというのは、原則存在しない。ほとんどの楽曲はStingの手によるものだけど、彼の場合、もともと音源管理がしっかりしているのか、デモ・ヴァージョン的なものも発掘されない。30年経っても流出しないのだから、本当にないんだろうな、そういったのも。

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 言っちゃえば、Stingのソロ・アルバムの助走みたいな形となった『Synchronicity』 、初期の中心コンセプトだった「レゲエとパンクの融合」といったお題目はどこへやら、万人向けにすっきりコンテンポラリーにまとめたサウンドは、コアなロック・ユーザー以外にも強くアピールし、大ヒットを記録した。何しろ、あの『Thriller』と対等に渡り合っていたくらいだから、人気のほどが窺える。
 取り敢えず、一触即発が続きながらもレコーディングを終え、大規模な世界ツアーに出る3人。もうこの頃になると、いろいろ突き抜けてしまった挙句、ビジネスライクな関係へ変化していた。
 ちょっとした小競り合いくらいはあったけど、基本は不干渉。顔を合わせるのは最小限に抑え、貼り付けたような笑顔で人前に立ち、インタビューを受ける。もともとフレンドリーな関係ではなかったけど、えも言えぬ殺伐さは隠しきれなかった。もう隠す気もなかったんだろうな。
 『Synchronicity』プロジェクトをひと通りこなし、3人はソロ活動に入る。
 -もうしばらくは、姿も見たくなければ名前も聞きたくない。
 一旦、クールダウンの意味も含めて、バンドは暫し活動休止となる。

 それから3年ほど経過して、再度彼らは集結する。再びPoliceが動き始めた。
 長いブランクは、誰にとっても良い結果をもたらすはずだった。
 3年も経つと、大抵の悪感情は吹き飛んでしまう。わだかまりは薄れ、過去を振り返る余裕が生まれてくる。あの時ががむしゃらで気づかなかったけど、俺たちすごい事を成し遂げたんだし、考えてみれば、そんなに悪い奴らじゃなかったよな。
 誰もが、そう思っていたはずだった。ここはひとつ気持ちを改めて、もう一度バンドでやってみようじゃないか。
 そのはず、
 だったのだ、
 けど―。

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 結局、そのセッションは、何も生み出すことなく終わった。レコーディングにあたり、メインのソングライターであるはずのStingが、新曲を提供するのを渋ったのが主因だった。
 すでにソロ活動が軌道に乗っていた彼にとって、出来の良い楽曲は自分のものという認識だった。まぁ間違っちゃいない。いないのだけれど。
 かつてのように、スタジオでは怒号が飛び交い、掴み合いが始まった。それが一段落すると、延々と重い沈黙が続いた。時間だけが、無為に過ぎて行った。
 フレーズの断片や単調なリズム・トラックだけでは曲が構成できず、結局形になったのは、「Don’t Stand So Close To Me」のセルフ・カバーのみ。まぁこれが中途半端な仕上がりで、再始動のリード・トラックとして、一応は絶賛されていたけど、オリジナルを知ってる人なら「何これ?」と思っていたはず。PV制作を担当したGodley & Cremeの映像テクニックでごまかされたけど、アレンジは至って凡庸。多分、本人たちにとっても黒歴史だな。
 どうしてもキャンセルできなかったと思われるライブを3回行なった後、その後音沙汰はなく、Policeは自然消滅した。多分、アルバム契約も残っていたんだろうけど、「Don’t Stand So Close To Me ‘86」を無理やりねじ込んだベスト・アルバム発売で事態収拾した。多分、Michael Copelandがうまくねじ伏せたんだろうな。

 それからさらに20年ほど経って、3人は再々集結する。綿密な準備と段取りによる、本格的なリユニオンだ。大規模な世界ツアーを行なったけど、Stingの強い希望によって、レコーディング・セッションは行なわれなかった。
 -あんな惨劇はもうまっぴらだし、もし続けられたとしても、『Synchronicity』のクオリティには絶対追いつけない。
 そう悟ったのだろう。3人とも。








1. Synchronicity I
 パンクでもニューウェイブでもない、その後、各自のソロでも似たようなのがない、突然変異的に生まれたPoliceオリジナルのサウンド。シンセというよりは、キーボードだな、特別音色もいじってないようだし。あとはいつもの手数の多いドラム、それと同じく手数の多いリード・ベース。あれ、ギターは?ここではAndy、鍵盤系を受け持っている。
 「意味のある偶然の一致」という哲学用語をテーマにサビを設定したことによって、発語やコンセプトは硬質となっている。サウンドは隙間なく埋められ、3ピース特有の「間」はほぼない。息が詰まる、でもあっという間の3分間。

2. Walking in Your Footsteps
 Stewartの繊細でマニアックな技が光る、ポリリズミックなパーカッションをベースとした、浮遊感あふれるトラック。アフリカ奥地のジャングルの夜、深い闇で行なわれる獣たちの宴。そんな感じ。途中、いきなりキーを上げて咆哮を上げるSting。その雄叫びは、帳を切り裂く。

3. O My God
 『Zenyatta Mondatta』期を思い起こさせる、シンプルに3ピースで構成されたチューン。こういったリズムから発展して作らてたような曲だと、ほんとStewartの貢献度が大きなものだったことがわかる。やや走り気味のドラムを制するような、Stingの効率的かつキャッチ―なリフ・プレイ。なのでAndy、ここでもあんまり存在感がない。

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4. Mother
 と思ったら、ここでAndyが覚醒。呪術的なイントロと、マッド・サイエンティストのようなヴォーカル。絶叫と嗚咽、そしてサイケなギター・プレイ。後半にはサックスとのユニゾンなのだけど、プレイするのはなぜかSting。
 アバンギャルドっぽい曲で遊ぼうぜ的な流れだったと思うのだけど、よく収録したよな、こんなの。彼らのディスコグラフィーでも異彩を放っている。

5. Miss Gradenko
 Stewart作による、1分ちょっとのブリッジ的な小品。とはいえ軽く見ることはできず、ドラム、ベース、ギターとも細かな技をこれでもかと投入している、聴けば聴くほど新たな発見の多い曲。やっぱりPoliceってリズムなんだよな。Stingのメロディも、彼あってのものだというのがわかる。

6. Synchronicity II
 3枚目のシングル・カットとして、UK17位US16位。シンプルな8ビートのロック。ベースは重く、スネアもキックもデカい。やっとAndyもまともなロック・ギターを弾いている。
 思えば、俺が生まれて初めて買った洋楽がPoliceで、しかもこの曲の12インチ・シングルだった。ラジオで聴いてカッコよさを全身で受け止め、ダイエーのレコード店でこれを買った。まだ中学生だったので、アルバムまでは手が出なかったのだ。最初に好きになったのが彼らで、結局のところ、俺にとってのロックとはPoliceが基準になっている。そりゃ並みのバンドじゃハードル高いわな。



7. Every Breath You Take
 UK・USともに1位を獲得、言わずと知れた代表曲。近年では、「大人のラブ・ソングだと思っていたけど、実は執念深いストーカーの歌だった」という評価が根付きつつある。アップライト・ベースの存在を知ったのが、このPV。この頃のGodley & Cremeは才気走っていた。

8. King of Pain
 UKは17位だったけど、USでは3位まで上昇、アルバム中、確実に3本の指に入る秀作バラード。シンプルなオープングから、徐々に音が増え、サビに入って3人そろう。B面では特にAndyの貢献度が多く、ここでも3分過ぎてのトリッキーなソロは絶品。そして4分近くになってのブレイク。音が急に薄くなり、緊張感はピークを迎える。
 激しいサウンドなのに、すごく冷たい芯を持った、そんな不思議な曲。

9. Wrapped Around Your Finger
 無数のキャンドルに囲まれた3人、静かに燃える炎越しに、軽やかに舞うSting。とことんシンプルながら、サウンドとのシンクロ感がハンパない。映像エフェクトは何も使っておらず、ひたすら手間をかけたPVは、楽曲のグレードアップに大きく貢献した。ていうか、もし映像がなかったら、地味なバラードで終わっていたかもしれない。
 UK7位US8位を記録。



10. Tea in the Sahara
 ラストはベース・ラインを主体とした地味なバラード。いやほんと地味だから。アナログではこれがラストだったのだけど、まさかキャリアのシメがこれになるとは、本人たちも思ってなかったんじゃないだろうか。かなりStingのソロ色が強い、ミステリアスかつジャジーなバラード。

11. Murder by Numbers
 というわけなので、リアルタイムでは聴いていないため、いまだに馴染みの薄い曲。StingとAndy共作による、こちらもジャジーだけど、もうちょっとテンポ感のある曲。まぁ入れる場所、なかったんだろうな。ボーナス・トラックなので、まぁCD買ったらおまけがついててラッキー、っていう程度の印象。







プログレ村住人じゃない俺が語るフロイド概論 - Pink Floyd 『The Wall』

folder 1979年リリース、2枚組にもかかわらず、全世界で2300万枚を売ったモンスター・アルバム。アルバム発売後、ストーリー・コンセプト補完も含めて映画が作られ、こちらも大ヒット。実際にステージ上に壁を作り、メンバーはその中で演奏、最後に壁が崩壊してやっと姿をあらわす、という凝った演出のステージも好評を得た。得たけど予算がかかり過ぎて、すぐ普通のステージになっちゃったけど。
 その後もリーダーRoger Waters主導による、ベルリンの壁の前での大規模ライブ、リリース当時の発掘ライブの発売、同じく世界中を回ったRoger 主導の再現ツアー、3枚組・7枚組のコレクターズ・ボックスの発売など、手を替え品を替え、いろいろ切り口を変えたアプローチが続いている。「フロイドのニュー・アイテムが出る」と聞けば、条件反射でポチってしまうロートル音楽ファンが世界中にいるんだよな、いまだに。
 言っちゃえば、暴落する確率の少ない証券みたいなものなので、乱発してブランド価値を下げない限り、メンバーの老後は保証されたようなものである。もうみんな年金世代だから、確定拠出年金だな、正確に言えば。

 Yes「Owner of a Lonely Heart 」に抜かれるまで、多分プログレ界では最大のヒット・シングルだった「Another Brick in the Wall (Part 2)」の影響もあって、世界各国で軒並みチャート上位を記録、日本でもオリコン最高16位にチャートインしている。2枚組だというのに、しかもプログレというジャンル自体が絶滅寸前だったはずなのに。
 それまでFloydに関心がなかった人をも惹きつける、強力な磁場を放っていたことは否定できない。従来プログレのように、レコード片面で1曲とか、聴く前から中だるみしそうな冗長な構成にせず、コンパクトなサイズの楽曲をシームレスに繋げた組曲方式にしたことも、若い層への間口を広げる要因となった。

 俺の人生で2枚目のプログレ・アルバムとなった「The Wall」。購入したのは、当時まだ健在だった長崎屋の中古レコード特設会場で、しかも輸入盤だった。いくらで買ったか覚えてないけど、国内盤新品を買うより、ずっと安かったはず。ちなみに1枚目は『Final Cut』、これは国内盤新品だった。
 中途半端な田舎の高校生が、なんで「そっち」方面へ行っちゃったのか、自分でもさっぱり記憶に残ってない。多分、「正統なロックの歴史も学ばなきゃ」って勘違いしちゃってたんだろうな。
 途中で勘違いに気づいたため、それ以上、Floydは深堀りしていない。いまだに『狂気』も『おせっかい』も、YouTubeで流し聴きしただけで、まともに聴いたことないもの。
 ちなみに3枚目はYesの『90125』。前述の「Lonely Heart」が純粋にカッコよく、プログレ特有の冗長さとは無縁なので、よく聴いていた。でもやっぱり、『危機』も『こわれもの』もちゃんと聴いてないんだよな。

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 Pink Floydの歴史はRoger Watersの歴史であり、初代リーダーSyd Barrettの歴史でもある。実質的な音楽上のリーダーであるDavid Gilmourもいるし、その他大勢的なNick MasonやRick Wright もいるけど、バンド運営に必要なコンセプト提示と舵取りを担ってきたのは、この2人である。
 その後のプログレ路線とは対局の、ポップでシニカルでエキセントリックなキャラ全開だったSyd のバイタリティーによって、Floydはメジャー・デビューを果たした。当初は「Sydプラスその他3名」といった印象が強く、よってRogerの影は薄かった。楽曲制作だってほとんどSydだったし、楽器プレイだって自信は持てなかった。
 デビューして間もなくSydがリタイアし、バンドはRogerが引き継ぐことになる。なったのだけれど、Sydが描いてきた初期ビジョンをRogerが続けるのは、ちょっとできない相談だった。よって、バンドは方向転換を余儀なくされる。

 その後のFloydのサウンドは、しばらく迷走期に入る。キャリアを重ねるにつれ、Sydの影は薄まり、Rogerによるサウンド・メイキングが定着してゆく。ゆくのだけれど、その形は茫漠として、そしてまだ曖昧だった。
 深刻なことを深刻に考えて、深刻にプレイする。Rogerが掲げた主題をもとに、メンバーがあれこれ深堀りしてゆくため、自然と曲は長くなる。じゃあ、何をそんなに深刻に考えているのかといえば、答えは濁される。「それを探求してゆくのがプログレなのだ」と言われれば、とりあえずは納得せざるを得ない。分からないのは修練が足りないからであり、また端的に理解を求めてもダメなのだ。
 あぁ、プログレってめんどくさい。

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 次第にSyd抜きでのアンサンブルにも慣れ、セールス・知名度ともに安定、プログレとしてのFloydサウンドも確立されたはずなのだけど、Rogerだけは相変わらず深刻な表情のままだった。どれだけポジションが確立されようとも、常にSydの影を感じずにはられなかった。
 Rogerにとって、彼はかつての盟友であり、同時に仮想敵でもある。Syd時代と離れれば離れるほど、作品は長大化する。伝えたいことは山ほどあるはずなのに、伝えようとする前に、二の足を踏む。果たしてそれは、他人に伝えるべき事象だろうか?そもそも、他人語るべき自身なんて、存在するのだろうか?
 曖昧な姿勢で発せられた曖昧な主張は、意味不明と切り捨てられるか、または曲解される。思いもよらぬ見方によって、誤解が誤解を生む。理解しづらいことが高尚とされ、不気味な存在感と伝説ばかりが肥大化してゆく。もはや、本人でもコントロールが効かない。
 それらが積み重なって、あれよあれよと孤高のバンドに祭り上げられてしまったのが、中期のFloydである。

 大味なのを好むアメリカ人をターゲットに、これまで長尺だった曲のサイズをコンパクトに圧縮、難解なメッセージをかみ砕いて詩情性を加えたのが『狂気』だった。テクニック至上主義に移行しつつあった他プログレ勢とは一線を画し、音響派のハシリとも言えるムード演出と構成による一大組曲は、世界中で大ヒットした。アメリカでは特に、ビルボード・チャートに長期間ランクインするほどの売り上げだった。
 アポロが飛ぶまで誰も見たことのなかった、月の裏側。そこでRogerが見たのは、閉ざされた自我の中で独り、思念のとぐろを巻くSydの姿だった。
 遥か月の裏側にいたと思われたSydが、久しぶりにメンバーの前に姿をあらわした。かつてRogerにとって、また他のメンバーにとっても羨望の対象だったはずのSyd。でも、みんなが思い描いていたSydの姿はそこになかった。
 デブでよろよろのハゲ散らかしたおっさんは、ブツブツ呟きながらスタジオ内を徘徊し、そして手持無沙汰に消えていった。その姿を見て、メンバーはみな涙したというエピソードが残っている。
 『炎』で「狂ったダイヤモンド」と称えたはずのSydの現実は、誰にとっても辛いものだった。そのままずっと、月の裏側に行ってればよかったのに。

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 Sydの呪縛から解放されたことによって、バンド・コンセプトはさらに変化する。
 次作『Animals』は、アジテーターRogerのイデオロギーが前面に出たアルバムになった。登場人物を動物に置き換えた寓話的ストーリーを軸に、痛烈な社会批判とぼやきが主題になっている。これまで培った音響効果やSEは最小限に抑えられ、シンプルなロック・サウンドが全編で展開されている。なので、音楽的な新境地は少なく、左翼がかったイデオロギーばかりが話題になった。
 Rogerのバック・バンド化は、着実に進行していた。

 で、Roger = Pink Floydの図式が完成し、総決算として制作されたのが、『The Wall』。
 これまでのSydの呪縛、リーダー交代から始まった音楽的変遷、もっと遡ってRoger自身の生い立ち、それに由来する過去のトラウマと苦悩、そしてディスコミュニケーションから誘発される、絶望的な孤独。
 それらのエピソードを組み合わせ、虚実織り交ぜて寓話として再構成、コンテンポラリー・サウンドで彩ることによって、ストーリーに奥行きと深みを与え、角度によっては親しみさえ感じさせる仕上がりとなった。
 WhoやKinksらによる一連のコンセプト・アルバム/ロック・オペラ同様、オーソドックスなロック一辺倒ではなく、あらゆるジャンルが混在している。当初から映像化も視野に入れていたと思われ、ストーリーやシーンに応じた適切な曲調で構成されているため、バラエティに富んだ、言っちゃえばとっ散らかったサウンド・コンセプトとなっている。だってディスコ4つ打ちも入れちゃうんだもの、思い切ったよな。
 こうやって書いちゃうと散漫な作品に思われてしまうけど、実際に1曲目から聴いてみたが最後、そのまま最後まで一気に聴き切ってしまうパワーが、『The Wall』にはある。歌詞やメッセージがわからなくても、多彩なサウンドと周到な構成力が強い求心力を生み出している。
 最初に買ったのが輸入盤だったため、歌詞もストーリーも理解できなかったけど、「なんかスゲェ」と圧倒された、当時高校生の俺。ただ、先に聴いてたせいもあって、いまだに俺、『Final Cut』の方が好きなんだよな。ここまで書いてきて何だけど。



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1. In the Flesh? 
 重厚なギター・リフから始まるオープニング。スタジアム・ロックを思わせる劇的なラストに、爆撃機の飛来するSEがフェードイン、主人公Pinkの父親が爆撃されて亡くなったことを暗示している。

2. The Thin Ice
 前半がGilmour、後半をRogerと、ヴォーカルを分けている。どちらも卓越したヴォーカリストではないけど、ソフトな歌詞の前半と、やや写実的な後半とを一人で歌い分けるよりは、賢明だったんじゃないかと思われる。1.同様、シンプルなパワーコードからブルース・スケールのソロへの移行は、Gilmourの真骨頂。基本、引き出しの多い人ではないけれど、決めどころはしっかり押さえている。

3. Another Brick in the Wall (Part 1) 
 アルバムの主題曲の第1楽章。シリアスな独白に合わせたスロー・テンポ。疎外感から誘発された壁がひとつ、静かに積み上がってゆくのを象徴している。不穏なストーリーの序章。

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4. The Happiest Days of Our Lives
 残響をカットしたバスドラが印象的な、ソリッドなロック・サウンドの小品。ブリッジで済ませてしまうのは惜しいくらいだけど、ダラダラ引き伸ばすと、活きてこないんだよな、こういうのって。プログレなのに簡潔、っていうのも相反する表現だな。

5. Another Brick in the Wall (Part 2) 
 ただ、そのあっさりさが、この曲へのつなぎだと思えば、充分に納得できる。いやこのつなぎだけでも充分カッコいい。
 US・UKともチャート1位を獲得、Floydだけじゃなく、プログレのヒット・シングルとしては断トツの知名度を誇るナンバーであり、耳にしたことがある人は数多い。
 当然、あんな人たちの集まりだから、当初はディスコ・ビートを導入する予定があるはずもなかった。ただ「シングル・ヒットがどうしても必要だ」と熱弁するプロデューサーBob Ezrinの要請に従い、Rogerは実地調査のため、彼と共にディスコで研究を重ねた、とのエピソードが有名。ゲスく言っちゃえば、「夜の勉強会」だよな。
 まぁディスコとは言っても、取ってつけたような踊りづらいビートなのだけど、そんなぎこちなさでもヒットに結びつけちゃうというのは、やはりアーティスト・パワー。一般的には「We don't need no education」で始まる子供のコーラスが有名だけど、ほんとの聴きどころはGilmourの後半ギター・ソロ。やはりメロディがはっきりしてる曲だと、彼のプレイも映える。



6. Mother
 アコギ弾き語りによる、静かに語りかけるナンバー。メロディだけ聴いてると、苦み走った大人の歌といった風情だけど、実際はまったく逆で、過保護の母親を愛憎交えて語っている。時々出てくるRogerのヒステリックな叫びが、マザコン男の現状の嘆きをあらわしている。

7. Goodbye Blue Sky
 さわやかなフォーク・タッチのメロディに乗せながら、始終飛び交う爆撃機によって汚され失われた、かつての青い空を嘆き悲しんでる様を歌っている。思想的にかなり左寄りであることは、以前から小出しにされていたけど、ここに来てそのメッセージがフル稼働している。よくメンバーも付き合ってたよな。

8. Empty Spaces
 空虚さを感じるたび、その隙間をレンガで埋める作業。非生産的なその作業は、次第に強固で高い壁を創り出す。人間不信から誘発される孤立感は、留まるところを知らない。

9. Young Lust
 観念ばかりが先行するWatersの楽曲に対し、一介のミュージシャンであるスタンスを崩さないGlmourの楽曲の方が出来が良い。ソリッドで簡潔な、ちょっとダークな味わいのロックンロール。
 でもこの人、対Watersという姿勢で書くんならいいんだけど、Roger脱退以降になると、なんかモワッとした感じでメリハリがないんだよな。なので、『鬱』も『対』も最後までちゃんと聴いたことがない。

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10. One of My Turns
 『Final Cut』に入ってても違和感のない、地味なモノローグ調のナンバー。でも飛ばしちゃいけないよ、2分台から急にアップテンポになって、そこはシャキッとしてるから。いい意味での爽快なスタジアム・ロックが展開されている。

11. Don't Leave Me Now
 彼女に去られ、嘆き悲しむPink。ストレートな哀切を歌いながら、理想の女性像に母親の影を追い求めてしまう深層心理が綴られている。ドラマティックに描かれているけど、どこまで行ってもやっぱりマザコンの愚痴。
 まぁ男なら、多かれ少なかれマザコン気ってあるんだけど。極端だよな、感情表現が。あ、そんなんだからアーティストなのか。

12. Another Brick in the Wall (Part 3) 
 オーソドックスな8ビートにアレンジメントされた、シリアスさが漂ってくるヴァージョン。「所詮、誰も彼も自分自身を壁で守っている。ほんとうの相互理解なんて、できやしないんだ」。そんな想いのたけをぶつけるRoger。あぁよかった、1分ちょっとで終わって。
 最初は無口な人だと思ってたけど、親しくなるにつれ饒舌になり、そのうち傲慢な姿勢で「わかってくれない」とかほざく奴。あぁめんどくさい。

13. Goodbye Cruel World
 で、そんな強烈な思い込みが高じて厭世観に陥り、「この世界からさよなら」。でもこういう人って、実際、すぐいなくはならないんだよな。やめるやめる詐欺みたいなもので。吐き出しちゃうと、多少はすっきりするのかな。
 そんな曲なので、ほぼRogerの独演会、音楽的にはあんまり面白くない。ここまでで、レコードまたはCD1枚目終了。

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14. Hey You
 左とん平ともジャニー喜多川とも似つかない、何ともネガティブな掛け声から2枚目スタート。主題曲のフレーズを展開したギター・パートが絶品。メランコリックなアルペジオとハードで重厚なリフとのコントラストも、一世一代の名演。
 以前、バラードの名演でPaul McCartney 「No More Lonely Nights」を挙げたけど、ロック・サウンドでの名プレイとして、双璧を成す出来栄え。

15. Is There Anybody Out There? 
 後にリリースされた、発掘ライブのタイトルとしても採用されたナンバー。アコギのアルペジオと重々しいユニゾン・コーラスで構成されたサウンドは、どこまでも救いがない。
「そこに誰かいるのか?」。
 自ら築き上げた壁の中で、苦悶するPink。その声は、誰に届くはずもない。届いたら届いたで、狼狽してまた苦悶するタイプだな、きっと。

16. Nobody Home
 荘厳なストリングスとピアノに彩られた、ほぼRogerによる流麗なバラード。『The Wall』の中で最後に書かれた楽曲であり、いわば実質的な締めとなる。Rogerといえば理屈ばかりが先行しがちだけど、ちゃんとやればこういう曲だって書けるのだ。一応、ミュージシャンだし。
 イデオロギーや主張を声高にがなり立てるのではなく、誰にとっても耳ざわりの良いポップなサウンドに包んだ方が、真意は伝わることが多い。陰鬱な表情で「ぼくは孤独だ」と歌われるよりは、ずっといい。

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17. Vera
 タイトルは、第二次世界大戦時に活動していたイギリスの女性歌手Vera Lynnを指す。帰還を果たせずに亡くなった父親の時代を描いており、そこにクローズアップしたのが、『The Wall』最終章となるはずだった『Final Cut』。3枚組はさすがにキツイ。

18. Bring the Boys Back Home
 ヒステリックなコーラスに導かれた行進曲で歌われるのは、高度管理社会下の情報統制、または少年期からのシビリアン・コントロール。ただ、主人公は意識混濁なのか、最後にあの声が。
「Is There Anybody Out There?」。

19. Comfortably Numb
 主題曲は有名だけど、いわゆる裏名曲となると、ここに落ち着く。Roger脱退以降、Gilmour主導のFloydサウンドともリンクする、壮大なバラード。キャリア通じてだけど、余計な湿っぽさがないのがGilmourの特質のひとつである。ドラマティックだけどウェットに寄り過ぎないのは、プログレでは異端とされるブルースマン気質によるもの。同じブルースマンでも、Claptonならもっと手数が多くなるところを、謙虚に程よい加減で抑えるのも、Gilmourならでは。



20. The Show Must Go On
 Beach Boysとドゥーワップをごっちゃにしたようなコーラス・ワークが脱力感。ショーはまだもうちょっと続く。ステージの幕が上がろうとしている。

21. In the Flesh
 で、冒頭にループ。ここまでは、長い長い序章だった。本編自体は重要ではない。ここに至るまでの過程を書くことが、Rogerにとってはむしろ重要だったのだ。前置きが長い人だこと。

22. Run Like Hell
 Gilmour作曲による、疾走感あふれるコンテンポラリー・ロック・サウンド。フランジャーを強く効かせたギターが印象的で、Watersによるウェットなテイストをうまく中和している。前述したようにこの人、仮想敵や、または脇に回った時はいい仕事をするのに、いざ自分がメインになると、なんか印象が残らない。根っからのミュージシャンなんだろうな、いわゆるメッセージ性とかは薄そうだし。



23. Waiting for the Worms
 20.で披露された流麗なコーラスをバックに歌われるのは、「ウジ虫たちを待ちながら」。やっぱり屈折してるよな。タイトルだけ見ると、まるでResidentsみたい。まぁ作曲にGilmourが絡んでるので、音だけ聴くにはオーソドックスでゴスなハード・ロック。

24. Stop
 自らを守る壁だったはずなのに、いまはもう、自身を縛りつけるものになってしまった。あぁもうどこへも行けない。そんな独白。あぁめんどくさい。

25. The Trial
 映画音楽のようなピッコロ・トランペットと、オペラ調のモノローグ。ついに物語はラスト。Rogerのヴォーカル、っていうか語りもMAXで力が入り、ていうかヒステリック。この辺になると、いわゆるストーリーテリング、イデオロギーや主張のニュアンスが強いので、音楽的にはあんまり面白いところはない。

26. Outside the Wall
 静かな語り主体のエピローグ。主人公Pinkはどうなったのか、明確な答えは出されない。訳詩を読んだり他のレビューを読んだりしたのだけど、解釈は様々。まぁそれで良いのだろう。終わらせることばかりが重要じゃない。いかにして語ったのか。重要なのは、むしろそっちだ。






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いまも軽く扱われている、最後のオリジナル・アルバム - Wham! 『Music from the Edge of Heaven』

folder 1986年リリース、頂点を極めたUKポップ・デュオWham! 3枚目にして最後のオリジナル・アルバム。ちなみにこのアルバム、正式なオリジナル・アルバムのはずなのに、発売されたのは日本とアメリカのみ、本国イギリスを含む他の国では、2枚組ベスト・アルバム『The Final』がリリースされていた。しかも日本では、ちょっとだけ時期をずらして『The Final』もリリースしてしまうという、まことに意味不明な営業戦略。
 解散が決まっていたこともあって、プロモーションだってもちろん本人不在、本国UKエピックも混乱した無法状態の中、チャート的にはUS10位・オリコン9位。案外そこそこの成績を残している。
 ちなみに『The Final』も、UK2位のほか、世界各国でトップ10に入る売り上げを記録している。さらに日本でも11位と、2枚組にもかかわらず『Music from the Edge of Heaven』(長ぇ)と並ぶ成績。しかもベストだというのに、ボーナスDVDを抱き合わせた25周年記念エディションまでリリースされている。
 それに引き替え『Music from the Edge of Heaven』(長ぇ)、リマスター化もずっと後回しにされ、iTunesに登録されたのも、つい去年の話。最後のオリジナル・アルバムだというのに、何だかえらくぞんざいな扱いである。

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 人気絶頂のアイドル・ユニットによる、唐突な解散宣言の影響は、応援していたファンだけでなく、元凶となったエピックにも大きく波及した。
 せっかくの稼ぎ頭がいなくなって、今年度の営業計画はどうする?ニュー・アルバムだってまだ製作中なのに、ほとんどでき上がっていないみたいだし、リリース計画はどうしよう?
 それまでの段取りやこれからの展望も全部吹っ飛んでしまい、世界中のエピック・レコード支社は、もう上へ下への大騒ぎ。対応に追われるがあまり、指示命令系統はグッチャグチャになった。
 本国UKエピックにお伺いを立てても、国際電話やテレックスだけでは意思疎通もままならず、朝令暮改がハイペースで行なわれる始末。使えねぇよな、こういう時、ホワイトカラーって。

 全8曲中、純粋なアルバム用書き下ろしは3曲のみ、残りは過去のシングルやGeorge のソロ、既発曲「Blue」のライブ・バージョンで構成されている。普通、書き下ろしオリジナルに、ライブなんて収録するか?それって要するに、ボーナス・トラックじゃん。それくらい、タマがなかったのが見え見えである。
 それならそれで、こじつけたようなオリジナルなんか作らずに、『The Final』一本に絞っちゃえばよかったのに、なんで作っちゃったのかね。まぁエピック上層部の思惑やら契約枚数やら、叩けば埃っぽいキナ臭い話があるんだろうけど。大口注文先のアメリカ・エピックが、何としてでもオリジナルを作れ、ってゴリ押ししたんじゃないか、と邪推。
 第一、『Music from the Edge of Heaven』、『The Final』とは、収録曲が相当かぶっている。どうしても「Blue」ライブ・ヴァージョンと「Wham Rap!」ニュー・ヴァージョンが聴きたいというのなら話は別だけど、そんなのは多分ごくごく少数、どうひいき目に見たって、『The Final』の方がお得感が強い。
 エピック・ジャパン的には、英米エピックのパワー・ゲームに挟まれながら、解散騒動のどさくさで手を変え品を変え、複数のアイテムをリリースしてうまく売り逃げた、という結果オーライ。コレクションはなんでもコンプを目指してしまう、日本人の特性とうまくシンクロした。

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 Wham! の解散理由というのが、「エピックの親会社であるソニーが、当時アパルトヘイトを実施していた南アフリカ共和国と貿易を続けていることへの抗議」という説。チャラいポップ・ユニットの発言っぽくないな。
 大抵、バンドの解散といえば、金や女がらみ、もしくは人間関係のゴタゴタと相場が決まっている。なので、Wham! の場合だと、フロントマンGeorge Michaelにとって、相方Andrew Ridgeleyの存在がジャマになっただけなんじゃないの?と単純に思ってしまうけど、一面的な見方だけでそうとは言い切れない。
 1980年代、サッチャー政権下のUKでは、フォークランド紛争と経済政策の失敗が引き起こした不況によって、一般大衆は常に不満は募らせていた。労働者階級出身が多いミュージシャンやアーティストらは、事あるごとに政権や王室への批判を歌い、また発言を繰り返していた。国営であるBBCがモンティ・パイソンを放映しちゃうお国柄である。息を吐くように体制批判を吐露する人種、それが伝統的な英国人である。
 なので、1986年前後の欧米ミュージック・シーンを俯瞰してみると、その公式ステートメントが単なる建前じゃないことが理解できる。

 1980年代は、ポピュラー系のアーティストが、弱者救済に積極的に介入を始めた時代である。欧米を中心としたキリスト教的倫理観のもと、無償の善意を振りかざした、様々なプロジェクトが誕生した。
 エチオピア難民の現状を嘆いたBob Geldof が言い出しっぺとなったバンド・エイドを皮切りに、アフリカ飢餓救済を目的としたUSA for Africa 、アパルトヘイト政策への反対声明としてサン・シティが立ち上がり、多くのユーザーから支持を得た。豪華アーティスト集結による、音源作成や大規模コンサートは一種のブームとなり、その後もチャリティの名のもと、様々なプロジェクトが企画されることとなる。
 「遠いアフリカやアジアの難民を嘆くのも結構だけど、自分たちの身近で苦しんでいる人たちも救おうじゃないか」と、アメリカの零細農民救済で立ち上がったファーム・エイドまで行くと、もうお題目なんて適当につけちゃって、大勢で集まって盛り上がろうぜ的なムードが漂ってくる。それも国難には変わりないけど、なんか方向性違くね?とツッコミたくなってしまう。

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 信仰の度合いの差はあれど、プロテスタントから由来する教条主義の支配下にある大英帝国民、George Michael もまた例外ではなかった。20代ですでにあり余る成功を収めてしまい、望むものは大方手に入れてしまった。となると、目指すのは形あるものではなく、名誉や虚栄心、それらの充足ということになる。
 Boomtown Rutsが失速して、開店休業状態だったBob Geldofは純粋な使命感に基づいての行動だったに違いないけど、その他の参加メンバーといえば、Paul McCartneyを始めとして、Sting、Phil Collins といった錚々たるメンツ。いずれもロック・セレブのハシリの面々である。
 80年代に入ると、それまでレコード会社の言いなりで不遇をかこっていたアーティストらの権利主張が通るようになり、著作権管理や法整備がキチンとなされるようになった。ド派手な高級車や使い放題のドラッグでごまかされていたアーティストらも、税理士の尽力によって正当な印税配分を受けられるようになり、ひとかどの財産を築けるようになった。
 生活の心配がなくなると、心に余裕もできる。周囲の恵まれない者に施しを行なうのは、欧米セレブの義務である。海外のスターが有名になると、やたら寄付やボランティアに精を出すのは、言っちゃえば税金対策の一環でもあるのだけれど、そんな宗教観が根付いているからである。

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 前時代的な人種差別がまかり通っている南アフリカ。何の罪もない弱者が不当な扱いを受け、虐げられている中、白人専用の高級デパートでは、自分たちのレコードが販売されているのだ。不当な差別に無自覚な白人たちがポップ・ミュージックを買い求め、そしてその収益を当然の営業活動の成果として、悦に入る無自覚な経営陣たち。そこから得た金は、虐げられた者たちの血と汗でまみれているかもしれないのに。
 若く清廉潔白なGeorge は、そんな理不尽な状況を打開するため、Wham! の活動終了を決意する。周囲の説得や干渉は強かったけれど、最終的には2人で出した結論だった。
 長く疲弊するツアーの影響もあって、盟友Andrew との関係は、以前ほど親密ではなくなっていた。ビジネスでの関係修復は、もう手遅れの域に達していた。
 でも。
 GeorgeにとってAndrewにとって、2人はお互い、随一無二の友だちだ。
 これ以上、関係をこじらせるわけにはいかない。
 一旦、活動休止してソロ活動するのもアリだったかもしれない。Andrew なら、きっと許してくれるだろう。
 でも。
 これ以上、無自覚な彼らを利するのは、絶対にイヤだ。

 Georgeの勇気ある決断によって、Wham! はレコード会社、そしてマスに消費されることなく、伝説となった。
 そのおかげで、刹那的な流行りものと思われていた歌たちは、いまも多くの人たちに永く愛され続けている。



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1. The Edge of Heaven
 1986年シングル・リリース、UK1位US10位を記録、解散がインフォメーションされていたこともあって、世界各国でベスト10入りを記録した。これまでのモータウン・ポップを基調としながら、ブロウしまくるサックスやハード・ドライビングなギターもフィーチャーされ、従来のお手軽ポップとは一線を画してる。Georgeのヴォーカルも甘さは少なく、ワイルドさが引き立っている。

2. Battlestations
 普通、大物ポップ・アーティストのアルバムだったら、冒頭3曲くらいはノリノリのイケイケな勢い重視のアップテンポが多いはずなのだけど、ここでは一転して地味なチューン。ほぼリズム・ボックスだけのバッキングに、エフェクトをかけてコンプしたヴォーカル。ていうかこれ、デモ・テイクじゃね?と疑ってしまうクオリティ。
 すごく深読みすると、後の「I Want Your Sex」に繋がるデジタル・ファンクへの伏線といった見方もできるけど、ちょっとファンクネスが足りない。

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3. I'm Your Man
 「Freedom」のリズム・トラックだけ抜き出して再利用したような、典型的なモータウン・ポップの80年代版。『Make it Big』期は聴いててワクワクしたものだけど、やっぱり二番煎じや三番煎じともなると、感動も薄くなる。
 多分、それは演者側にも言えることで、こんなポップ・ナンバーならいくらでもできるんだろうけど、もうこういった曲を量産できる場所に、Georgeはいなかった。次のステップはもう見えていたのだ。
 シングル・チャートでは、UKはもちろん1位、USでも3位を獲得。

4. Wham! Rap '86
 1982年のデビュー・シングルのリミックス・ヴァージョン。オリジナルに既発のリミックスが入ること自体が奇妙だし、80年代に流行した12インチ・シングル仕様のダンス・ミックスなので、冗長な部分が多い。ダンスフロアで流す分にはいいけど、リスニング的にはやっぱりオリジナルかな。どうにか尺を稼ごうとしたのがミエミエのトラック。

5. A Different Corner
 最後の世界ツアー後、ユニットとして沈黙していた頃、前触れもなく突如リリースされた、Georgeのソロ・デビュー・シングル。だからWham! 名義のアルバムなのに、なんでソロ名義の曲が入ってるの?もうわかってると思うけど、これがザッツ大人の事情。
 UK1位US7位を記録しながら、曲調はえらい地味なバラード。静かでありながら情熱的、エモーショナルなヴォーカライズはFreddie Mercury を連想させる。のちの追悼公演で話題となったパフォーマンスを予感させる名演。

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6. Blue (live in China) 
 1983年リリース、5枚目のシングル「Club Tropicana」のB面に収録されたのが初出で、アルバムでは初収録。オリジナルは半分デモ・テープみたいなテクノ・ポップで、埋め曲みたいな扱いだったけど、ここではAOR調のコンテンポラリー・ポップとして生まれ変わっている。
 当時は表現力やスキルが追いつかず、消化不良気味だったのを、女性コーラスやホーン・セクションで武装して見事なアンサンブルで組み、ライブの定番バラードとして蘇生させた、といったところ。

7. Where Did Your Heart Go? 
 ここ20年くらいでStonesのプロデューサーとして名を馳せたどころか、いつの間にかブルーノートの社長の座に収まっていたDon Wasが80年代に率いていたバンド、Was (Not Was) が1981年にリリースしたシングルのカバー。
 アレンジはオリジナルに比較的忠実だけど、ヴォーカルのポテンシャル的にGeorgeの方が圧倒的に勝っている。バラードとなると、感情移入マックスで世界観を牛耳っちゃうので、並みのシンガーでは歯も立たない。
 UK1位US10位をマークした、現役活動時最後のシングルとなるけど、日本ではその曲の良さが充分伝わらなかった。だって…、邦題「哀愁のメキシコ」だもの。サンタナじゃあるまいし、なんでこんなイロモノっぽいタイトルつけたんだか。



8. Last Christmas
 ラストは超有名曲。何の説明もいらないよな。重箱の隅もつつきようがない、ファニーでポップで完璧な歌。
 グダグダな経緯でリリースされることになった不幸なアルバムだけど、これが入ってることで、すべてのマイナス要素がチャラになってしまう。そんな名曲。
 







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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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