好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

ポップ馬鹿、アップル商法に手を染める。 その2 - XTC 『Apple Venus Vol. 2』

folder 前回の続き。
 2000年5月、予告通り『Apple Venus Vol. 2』、サブタイトル『Wasp Star』がリリースされる。もともと大量のデモ・テイクをレコーディングしていたAndy PartridgeとColin Molding、当初は40曲以上の候補があり、そこから厳選して半分に絞り、さらに営業サイドからの助言により、一気に2枚組で出すより、時期を置いて2枚に分けるという条件を飲んだ、という経緯がある。どうせなら、Guns N' Roses方式で2枚同時発売にしてもよかったんじゃないか、と思われるけど、その辺は意味不明。どうせマニアが買い支えるんだから、強気の姿勢でもよかったんじゃない?

 肝心のチャート・アクションはといえば、UK40位US108位と、前作とあんまり変わらない数字。世界中のコアなXTCファンが集結しているここのサイトでも、日本での売り上げは載ってなかった。さすがにVol. 1ほどの売上には届かなかったんだろうけど、一応、次回作が出せる程度には売れてたんじゃないかと思われる。
 考えてみればポニー・キャニオンって、洋楽部門ってあったっけ?代表的なアーティストと言えば中島みゆきやaiko、またはフジサンケイグループつながりの歌手が多いという印象で、海外部門に力を入れていたという印象がまったくない。
(追記:Paul Wellerも一時期ここだった。ご指摘ありがとうございます。)
 業界内ファンのディレクターあたりが、どさくさに紛れて新規で洋楽部門立ち上げたのか?大して売れてるわけじゃないけど、社内に洋楽営業のノウハウを持つ人間がいなかったため、お咎めもなく好き放題に営業展開していたのだろうか。
 謎は尽きないけど、コアなマニアにとっては周知の事実なのかな、これって。広く浅く雑食系の俺には知りえない世界。誰か知ってたら教えて。

980x

 グランジ系のラフなパワー・コードによるギターから始まる、ダルなムードの「Playground」からスタートする『Wasp Star』もまた、好意的に受け入れられた。ちょっとくたびれた感は否めなかったけど、バンド・シーンへの前線復帰という決意が感じられ、ラジオでもよくオンエアされていた。
 中期Beatlesと『Pet Sounds』~『Smily Smile』期のBeach Boysに強くインスパイアされたVol. 1も良かったけど、でも往年のファンが待ち望んでいたのは、Vol. 2のサウンドだった。大人になって一皮むけて、かしこまっちゃうのは仕方ないけど、過去の自分を完全否定することはできない。どんなに粗削りであろうと、それもまた自分、経験値の積み重ねの連続が人生なのだ。
 敢えて突っ込みどころを言えば、インディーゆえの低予算もあって、トラック数は少ない。ラウドなパワーポップ・サウンドという性質上、パーツはそれほど必要ではないけど、もう少しエンジニアリングに手間をかけて、ボトムとエッジを利かせれば、若手バンドにも十分対抗できたんじゃないかと思われる。ジャンルは全然違うけど、ほぼ同時期にリリースされたレッチリ『Californication』なんて、どのパートもぶっとい音像に仕上がってるし。

 露悪的な見方をすれば、キリがない。7年越しの活動再開だし、そんな細かいことは、どうだってイイじゃん。何はともあれ、XTCとして活動しているんだから、我々はそんな幸福な現状を素直に受け入れるべきだ。
 -俺たち(私たち)が思うところのXTCと現在のXTCとは、ちょっと方向性違ってるかもしれないけど、Andy もいるしColinもいる(この頃、Daveの存在は誰も気にもかけなかった)。オリメン2人そろってるんだし、これは誰が何を言おうとXTCに違いないんだっ。
 ぶっちゃけて言うと、2枚ともパンチの利かない音でまとめられていたため、どこか消化不良気味だったのは、誰もが思っていた事実である。低バジェットのプロジェクトだったため、メジャー在籍時よりサウンドが小粒になったのは致し方ないとして、彼ら特有の英国的な毒やペーソスまで小粒になってしまったのは、予想の範囲外だった。
 インタビューや発言において、過激な毒を発し続けていたAndyだけど、そのエネルギーを創作面に振り向けてもらえれば、サウンドや歌詞にも適度なスパイスが効いたはず。ご意見番として憂さを晴らしちゃったため、『Apple Venus』の楽曲は破綻も少なく、均整が取れている。大人のポップとしては、優秀な部類に入る。
 入るのだけれど、でも。
 手の込んだ精進料理もいいけど、それを求めてるわけじゃない。どちらかといえば俺たち、ケチャップとマスタードの利いたビッグマックが好きなんだ。大きな声じゃ言えないけどね。

xtc-apple-venus-volum-411008

 「Vol. 1同様、シンプルなアレンジだからこそ、メロディの良さが引き立つ」「敢えて隙間の多いサウンドに仕上げたことによって、バンド・サウンド本来のラウド感が演出されている」。
 『Apple Venus』の肩すかし感は声密かに囁かれていたけど、表だって言うことは、何となく憚られた。業界内ファンを自称する音楽ライターたちもまた、奥歯に物が挟まったかのような論調で、一応は賛美していた。
 誰に何を強制されたわけでもない、そんな強迫観念に取り憑かれたかのように、世界中のコアなXTCファンはAndyのコメントに一喜一憂した。特に従順だったのが、ここ日本。矢継ぎ早に発信される最新情報を鵜呑みにして、次々発売される『Apple Venus』アイテムを買い支えた。
 1年後の2001年5月、大方の予想通り、『Wasp Star』のデモ・テイク集『Homegrown』がリリースされる。この頃になると、もう誰も驚かない。「あぁ、やっぱりね」といった声が大多数。
 『Vol. 1』リリース時に激増したにわかXTCファンはすでに離れ、残ったのは古くからの従順なファンだけだった。もはや「嬉しい」とか「またかよ」という問題ではない。リリースされたら、入手しなければならないのだ。「買うか買わないか」で悩むのではない。頭を痛めるのは、度重なる出費に対する言い訳、そしてお小遣いの捻出手段だ。
 意思決定の入る余地もなく、惰性と義務感に急かされた、盲目的な信者の群れ。
 XTCカルトの完成である。

418SV41410L

 企画盤2種を含んでいるとはいえ、2年間で4枚もアルバムをリリースしているのだから、その創作意欲だけは称賛に値するものだ。ごくミニマムではあるけれど、それ相応のニーズもあるわけだし、コアな世界の中ではwin-winの関係が成り立っている。あんまりそこには入りたくはないけど。
 そんな多忙を極めるAndy、『Apple Venus』と並行してさらに2つ、アーカイブ・プロジェクトを進行させている。
 ずっとサボっていたヴァージンとの契約消化にケリをつけるため、2002年3月、アンソロジー・ボックス・セット『Coat of Many Cupboards』がリリースされる。4枚組60曲に及ぶその内容は、41曲がデモ・テイクや未発表ライブ、入手困難なレア・テイクで構成されており、「ヴァージン時代の裏ベスト」と言っても間違いない充実さだった。XTCサイドにとって不利な契約内容だったため、印税取り分は微々たるものだったらしいけど、そこはポップ馬鹿の悲しい性、不必要に張り切り過ぎてしまう。AndyもColinも積極的にお蔵出しテイクを提供するだけであく、ありったけの写真を引っ張り出してきて、60ページに及ぶ豪華ブックレットの作成協力までしちゃう始末。ヴァージンのいいカモじゃん、それって。
 で、もうひとつがAndy単独のプロジェクト『Fuzzy Warbles』。2006年まで続く、足掛け5年の壮大なプロジェクトは、これまでブートで流出していたAndy作の未発表テイクをオフィシャルな形でまとめたもの。年に1回、2枚同時発売のペースで進行し、最終的には全8枚に及んだ。後に、それらをボックス・セットにまとめた『Fuzzy Warbles Collector's Album』がリリース、特典としてつけられたボーナス・ディスクもさらに分売する、といった商魂の逞しさ。その後も『Fuzzy Warbles』プロジェクトは忘れられた頃になると突如復活し、3枚組3セットの仕様で再販されたり、「ベストFuzzy Warblesを出す」という本人コメントがあったりで、ネタ切れの際は何かと重宝されている。
 Andyからすれば、「過去の遺産で食ってる奴なんて、俺以外にもいくらでもいるじゃないか」ってことなんだろうけど、それにしてもあんた、節操なさ過ぎ。

XTC_-_Coat_Of_Many_Cupboards

 話は戻って『Apple Venus』、使えるモノは何だって無駄なく使う、アップル商法は手を変え品を変えてまだ続く。
 2002年10月、リリースされたのは、Vol. 1のインストゥルメンタル・ヴァージョン『Instruvenus』。同趣向のVol.2『Waspstrumental』も同時発売された。
 もともと彼ら、変態コード進行に基づいたメロディ・ラインと、過去のポップ・レジェンドへのオマージュと形容されるサウンド・メイキングに定評があったため、ヴォーカル抜きのトラックにニーズがあったとしてもおかしくはない。ていうか、ニーズのない所にニーズを創り出す、それこそが一流のビジネスマンだ。
 はっきり言っちゃえば、いわゆるカラオケ集であり、それこそボーナス・トラックで出す類のものだけど、それを単独販売しちゃうんだから、彼らの商魂といったらもう、それはそれは。でも、ここまで突き抜けちゃうと、逆に中途半端なファン・サービスだと納得しないんだろうな、マニア側からすれば。
 特に日本のファンには発売前から潜在的な需要があったらしく、本国イギリスでは2003年1月発売なのに、3か月も早く先行発売している。どれだけ従順なんだ日本のXTCマニア。
 ふと振り返ってみると、大滝詠一もまた、ロンバケリリース後まもなく、カラオケ集『Sing ALONG VACATION』をリリースしていた。しかもロンバケと同時発売で、第1期ナイアガラ・レーベルの6枚プラス編集盤オムニバス3枚を加えたボックス・セット『Niagara Vox』まで作ってしまうという、Andyも顔負けのラインナップ。
 そんなわけで、コレクター気質の強い日本人にとって、彼らの所業は責めるものではない。むしろ称賛されるべきものなのだ。潜在ニーズを掘り起こせば掘り起こすほど、コア・ユーザーの購買意欲はさらに高まってゆく。

Waspstrumental-cover

 とはいえ、さすがに一部ユーザーやメディアからの批判が高まったのか、はたまたネタ切れしちゃったのか、アップル商法は沈静化を余儀なくされる。せっかくなら大滝詠一に倣って、ストリングス・ヴァージョンでリ・レコーディングするのもアリだったんじゃなかと思われるけど、さすがにやり過ぎちゃったのかな。短いスパンで乱発し過ぎたし。
 ポニー・キャニオンとの契約も更新されず、日本では窓口がなくなってしまったXTCの活動は、この辺からフェードアウトしてゆく。当時、Andyは『Fuzzy Warbles』プロジェクトに没頭していたため、レコーディング・スケジュールは白紙となっていた。
 2005年10月、本編とデモ各2編をまとめた4枚組『Apple Box』発表。英国のみリリースのコレクターズ・アイテムであり、日本では入手困難だった。
 続く2006年12月、7インチ・アナログ・シングル13枚組の『Apple Vinyls』をもって、長きに渡ったアップル商法は終焉を迎えることになる。もちろんこれも、発売はUKのみ。コアなファンなら、個人輸入で手に入れたんだろうけど。



Wasp Star: Apple Venus 2
Wasp Star: Apple Venus 2
posted with amazlet at 18.05.17
Xtc
Tvt (2000-05-23)
売り上げランキング: 310,732




1. Playground
 Marc Bolanのようなグリッターなリフからスタートする、ボトムの効いたロックンロールからスタート。テンポを落としたブギのリズムは、ラフでありながら神経質に整頓されている。間奏のアホっぽいオールディーズなコーラスには、Andyの実娘Hollyが参加している。さすがハウス・レコーディング。



2. Stupidly Happy
 Stones的にシンプルさを極めた反復リフをベースに、サウンドの主軸はとてもポップ。『English Settlement』期を彷彿させる抑えめのギターポップは、そのワイルドなリズムギターによってビターな味わいを醸し出している。コアな古参ファンにも人気の高い一曲。

3. In Another Life
 Colin作によるフォーキーなロック・チューン。Vol. 1では達観したかのようなポップ仙人ぶりを発揮していたけど、ここではもう少し生気が戻っている。まぁテンポは確かに良いけど、一般的なロック・サウンドからは程遠い仕上がり。やっぱ仙人だわ、これじゃ。

4. My Brown Guitar
 Prairie Prince (dr)によるリズム・アレンジが秀逸。今回のAndyの作風である、グッと腰を落としたダルなロックンロールととなっており、コメント通り、後期Beatlesのエッセンスが強い。ていうか、それに憧れたJeff Lynne = ELO的ロックンロールのテイストに近い。Beatlesマニアって、大体こんな風になっちゃうんだな。

R-3832013-1346150036-9918.jpeg

5. Boarded Up
 再びColin作。深い闇の奥から鳴り響くギターと声。英国ゴシック風味が強く打ち出され、全宝は浮いているため、ブリッジ的な小品と思えば腹も立たない。だから、アルバム・コンセプトと全然違うってば。

6. I'm the Man Who Murdered Love
 「Statue of Liberty」をヴァージン後期の環境でリメイクしたら、こんな風になっちゃいました的な、このアルバムの中でも飛び抜けて出来の良いトラック。かつての神経質に凝りに凝ったリズムから一転、シンプルでボトムがぶっとくなったため、いい感じで肩の力が抜けて大味になって聴きやすくなっている。全編、この感じでやってくれてたら、アルバムの評価も良かったはずなのに。

7. We're All Light
 ほとんど語呂合わせのような言葉の羅列の向こうに見えるのは、純粋なメロディの良さと、歌詞から希求された跳ねるリズムの洪水。そこかしこに思いつきという名のアイディアが散りばめられ、過去の延長線上にありながらも、確実にアップデートしたパワーポップ。

8. Standing in for Joe
 前2曲が珠玉の仕上がりだったため、Colin作になると途端にテンションが下がってしまう。いや悪いわけじゃないんだよ。コンセプトに合わないだけで。ていうかColin、絶対XTCを意識して作曲してないだろ、単なるソロ曲だもの、これじゃ。
 当初、楽曲選定の段階ではこれを収録する予定はなかったのだけど、レコーディングに入ってからColinが強硬に主張して、Vol. 2収録に至った、というエピソードが残っている。いるのだけれど、そこまで力説してまで入れなければならない曲かと言えば、ちょっと疑問。正直、俺的にはそんなに思い入れはない。

AppleBox-WSsleeve

9. Wounded Horse
 Stonesオマージュなサウンド・プロダクトになると、人はどうしてもラフで脱力した歌い方になってしまう。時々、Liam Gallagherみたいに聴こえてしまう瞬間が多々あるけど、まぁ気のせいか。

10. You and the Clouds Will Still be Beautiful
 変則リズムと転調の嵐が飛び交う、往年のニューウェイヴ風味満載のロック・チューン。変にメロディ・ラインに頼らず、力技でたたみかける饒舌さこそが、Andyの真骨頂であることがあらわれている。



11. Church of Women
 XTC久しぶりのレゲエ・チューン。ねじれたStonesの模倣より、実験性を優先していった方が、Andyは面白いものができる。全体的にいいんだけど、スロー・テンポの情緒的なギター・ソロだけはちょっと浮いている。もっとメチャメチャに、簡潔にまとめた方が良かったのに。

12. The Wheel and the Maypole
 ラストはファンのツボを余すところなく押しまくった傑作。初期のラジカルさと中期のサウンド・ディティールへのこだわり、後期の音圧の強さとがうまく絡み合い、XTCオリジナルの空間を形成している。饒舌に歌い飛ばすAndy、ひと手間かけた様々なエフェクト。試しに『Homegrown』収録のデモ・ヴァージョンも聴いてみたのだけど、これはこれでまた良い。やっぱり骨格がしっかりしてると、どんなアレンジでも観賞に耐えうるといった好例。






ホームグロウン
ホームグロウン
posted with amazlet at 18.05.17
XTC
ポニーキャニオン (2001-03-14)
売り上げランキング: 329,312



XTC コンプリケイテッド・ゲーム アンディ・パートリッジの創作遊戯
アンディ・パートリッジ トッド・バーンハート
DU BOOKS
売り上げランキング: 118,686

ポップ馬鹿アンディ、アップル商法に手を染める。 その1 - XTC 『Apple Venus Vol. 1』

folder 1999年リリース、前作『Nonsuch』から7年ぶりとなった、XTC久しぶりのオリジナル・アルバム。デビューから長らく所属していたヴァージンとは袂を分かち、Andy Partridge 設立の個人レーベルAPEからのリリースということもあって、プロモーション以前にインフォメーションが行き渡らず、本国UKでは最高42位と不発に終わる。せっかく「Dear God」で獲得したカレッジ・チャート層も、ブランクが長かったせいもあって、USでも最高106位と、これまた不発。地道なドサ廻りライブは行なわず、ラジオ局でのラフなスタジオ・ライブでお茶を濁していたこともあって、欧米ではすっかり過去の人になっていた彼ら。よほどの音楽ファンじゃない限り、リリースされたことも知らなかったんじゃないかと思われる。
 そんな長い沈黙が、逆に大御所オーラとして作用したのが、ここ日本。なんと、オリコン最高14位の大ヒットを記録している。欧米の配給元がいずれもインディーだったのに対し、日本ではメジャーのポニー・キャニオンが彼らの発売権を獲得、待ちに待った再始動を盛り上げるため、各メディアを巻き込んだ一大キャンペーンが展開された。

 サブカル系中心の業界人ががっちりスクラムを組み、XTC復活プロジェクトは異様な熱気によって盛り上がりを見せていた。リリースの何ヶ月も前からAndy 自身によるコメントや曲目解説が、ファッション雑誌から情報誌までジャンルを問わず、かなりの広範囲で出稿された。
 「Apple Venusは2部作で構成される」というのも、かなり早い段階からインフォメーションされていた。ヴァージン後期に顕著となる、緻密に作り込んだシンフォニック・ポップを基調としたVol. 1、そして、デビュー当初を彷彿させる、ギター中心のハードなサウンドのVol. 2、これらを短いスパンでリリースする、と。
 もともと7年も沈黙していたのは、所属レーベル・ヴァージンとの契約がもめて拗れたことに端を発する。新譜リリースの展望も見えず、移籍もままならない飼い殺し状態が長く続いていた。
 不本意な開店休業中も、彼らは来たる新譜レコーディングに備え、地道なデモ・テープ制作作業に勤しんでいた。当時、その成果はオフィシャルな形で世に出ることはなかったけど、Andy自身から提供されて会員制ファンジンの付録として流通し、そこから派生して違法ブートレグとして流出したりしている。
 この時期の膨大な音源は、のちに一部が『Fuzzy Warble』シリーズとしてコンパイルされており、そのラインナップを見る限り、彼らの沈黙は決してネタ切れが要因ではなかったことが窺える。

maxresdefault

 現在のように、公式サイトやSNSでつぶやく手段もなかった時代、動向を知る/発信するためには、テレビや雑誌、ラジオなどの既存メディアに頼らなければならなかった。基本、大勢の前に出るのが苦手なAndy、ライブ活動はとっくの昔に廃業しているため、何か物申したい時は、積極的にオファーを受けた。
 考えてみれば、特別表立った活動をしているわけでもないのに、新譜プロモーション以外の依頼が来るのも変な話だけど、雑誌でちょくちょく目にする機会は多かった。沈黙することでポップ界のご意見番に収まっちゃったという、何とも芸能界チックな話。
 当然、新しいネタもないので、お題としては、ヴァージンへのヘイト発言、それと『Skylarking』セッションで勃発したTodd Rundgrenとの確執、主にこの2つが鉄板ネタ。特に後者、年を追うごとに小ネタが追加されて、今じゃ古典名人芸みたいになってるもんな。
 そんな按配が長らく続き、いい加減待ちくたびれた世界中のXTCファンのもとに、降って湧いたような活動再開の知らせが届く。もうそんなに期待していなかったはずだけど、でもやっぱり動き出すとなれば、そりゃあもう大騒ぎ。
 ファンより先に待ちくたびれちゃったDave Gregoryはバンドを去り、いつの間にか2人ユニットになっちゃってたけど、そんなのは過ぎたことだし小さいこと、とにかくXTCの新譜が出るんだから、めでたいじゃないの。

 1999年2月、待望のVol.1がリリースされた。UK以外でもそこそこ売れた『Oranges & Lemons』以降に顕著だった、音圧の強いパワー・ポップは後退し、静謐なバラード中心で構成されている。レコーディングは自宅スタジオを中心に少人数で行なわれたため、トラック数は少ない。録音トラックをすべて埋め尽くすような、カオティックで混み入ったエフェクトは一掃された。シンプルなアコースティック・セットを主軸としたアンサンブルは、風通しが良く、熟成されたメロディの綾を堪能できる作りになっている。
 レコーディングや作曲のプロセスは、リリース前からAndyの口から語られていたため、何となく予想がつく仕上がりではあった。ポップ・ソングというには躍動感に欠けていたし、ザラザラと枯れたテイストが肩すかしではあったけれど、ニュー・アイテムに飢えていたファンにとっては、「7年振り」というバイアスがかかっていたこともあって、おおむね好意的に迎えられた。ポップ界隈の大騒ぎに引き寄せられたビギナー・ファンたちもまた、「レジェンドの新譜」というバイアスのもと、「こういうものか」と自分に言い聞かせた。
 リリース前から、Vol. 1は落ち着いた作風になるというのはわかっていたので、古参ファンは早くもVol. 2に期待を寄せた。雑味を削ぎ落とした熟練の技は、コンポーザーとしての成長と受け止めよう。でもやっぱり、大部分のXTCファンは『English Settlement』以降のゴチャゴチャ詰め込んだサウンドに惹かれたのであって、そういうのも求めてしまう。職人の目で吟味されて作られた十割そばは美味いけど、時々ジャンクフードだって食べたくなる。若くて金がない頃は、それだって充分美味かったのだ。
 そんなわけで、Vol. 2への期待値は上がっていった。いったのだけど、しかし。

R-1118008-1279535673.jpeg

 Vol. 1がリリースされて間もなく、新たなお知らせが届く。
 「Vol.1のデモ・ヴァージョンを、オリジナルの曲順通りに収録したアルバム『Homespan』! 10月発売」。
 え?ちょっと早すぎない?先にインフォメーションされたVol. 2もまだ出てないのに、もうデモ・テイク集出しちゃうの?
 ハウス・レコーディング中心だったVol. 1自体、シンプルなサウンド・プロダクトなので、凝りに凝ったヴァージン時代のアルバムと比べれば、丸ごとデモ・テイクみたいなものである。時間はたっぷりかけられたけど、自主レーベルという特性上、外部のミュージシャンを招聘する金もなければ、助言してくれるプロデューサーもいない。自宅スタジオでは機材スペックの問題もあって、そんなに凝ったサウンド処理もできないし、歴代のプロデューサーたちとはほぼ喧嘩別れだし。
 なので、シンプルを通り越して隙間の多い簡素なアレンジにならざるを得ない。せいぜい、ストリングスのダビング前と後、そのくらいしか違いがない。よほど聴き込んだマニアなら、ピッチやフレーズの細部までわかるんだろうけど、そこまでこだわるのはごくごく少数だろうし。多分、完パケとデモ、シャッフルしちゃうと、どっちがどっちだか、誰も判別できないんじゃないかと思われる。
 初回盤や日本独自仕様のボーナス・トラックで、ライブやアウトテイクを入れることは珍しくなく、ファン・サービスの一環として歓迎すべきことだけど、特典だけまとめて分売するのは、彼らくらいのものだろう。David BowieやBruce Springsteenクラスの大物が、ボックス・セットのみ収録されたトラックを後日分売するケースはあったけど、それだって大昔のアーカイブであって、半年経ってすぐ舞台裏を見せるような真似はしていない。
 とはいえ、そこは7年も耐え忍んだXTCファン。買っちゃうんだよな、これが。極端な話、パッケージに「XTC」って書いてりゃ反応しちゃうんだもの。
 日本盤では、独自規格のボーナス・ディスクが付属しており、そこにはAndy とColin Moulding による楽曲解説のオーディオ音声が収録されている。曲じゃないよ、オッさん2人のしゃべりだよ。これで金取ろうとしてるんだから、どれだけ面の皮厚いんだか。

AVV1_AD

 で、そこから半年ほど経った2000年5月、ようやくVol. 2がリリースされる。ご大層に、『Wasp Star』なんて自虐めいたサブタイトルまで付けちゃったりして。
 従順なファンからとことん搾取しまくるアップル商法はまだ続くのだけど、ここまでで結構長くなったので、一旦ここで終わり。続きはまた次回。



アップル・ヴィーナス
XTC
ポニーキャニオン (1999-02-17)
売り上げランキング: 118,555






1. River of Orchids
 コンパクトなオーケストレーションをバックに、ノン・エコーで朗々と歌い上げるAndy。構成も録音も緻密に組み立てられ、プログレッシブ・ポップとしての到達点。安易なシンセやシンクラヴィアに頼らず、生音にこだわったのは正解だった。Toddなら、時間も手間もかかるストリングス・アレンジは使わず、チャチャッとシンセ手弾きで済ませちゃっただろうし。

2. I'd Like That
 2枚目のシングル・カット。UK最高121位をマーク。いいんだよ、成績なんて。どうせ大した枚数プレスされていないんだから。
 アコギのストロークを主体とした軽快なリズムは、ヴァージン後期を彷彿させ、きちんとしたプロデューサーに任せてギターポップに仕上げれば、もうちょっと注目されたかと思うのだけど、そこまで手が回らなかったんだな。案外、Andyってテクノロジー弱いみたいだし。



3. Easter Theatre
 トータル・コンセプトを代表させるため、これがリード・シングルとして切られたと思うのだけど、復活の一発目としては、ちょっと地味だよな。アルバムの中の隠れ名曲としてなら、充分「Chalkhlls ~」と比肩するポテンシャルなのだけど。
 『Sgt. Pepper’s』と『Pet Sounds』のミックスアップとしては優秀。ストリングスの使い方も堂に入ってるし。

4. Knights in Shining Karma
 『Pet Sounds』オマージュはさらに続く。メランコリックな大人の子守唄を思わせる小曲。

5. Frivolous Tonight
 『Pest Sounds』かぶれはAndyだけじゃなく、むしろColinの方が顕著だった。Paul McCartneyによるBryanWilsonリスペクト。ちょっぴりケルティック風味も添加され、英国民謡的なテイスト。

hqdefault


6. Greenman
 なんか気の抜けたような、腰に力の入ってない小手先技が続くなぁ、と思っていたら、やっと真正XTCとも言えるトラックが、これ。彼らのサウンドの特徴として、凝ったリズム・アレンジが語られるけど、その要となるコーラス・ワークがうまく作用している。天空を駈け上がるようなメロディの妙と、アラビック主体のオリエンタルなリズム・エフェクト。ヴァージン時代と比べて、多くの音が入っているわけではないけど、パーツそれぞれにきちんと主張がある。ボトムさえしっかりしていれば、骨格だけでも充分説得力があるというモデル・ケース。

7. Your Dictionary
 前半はほぼAndy弾き語りで、徐々にパートが追加されてゆく、という構成。離婚経験を綴ったパーソナルな歌なので、歌詞については他人がどうこう言うものではない。
Andyはその体験を1曲に凝縮したけど、かつてMarvin Gayeはアルバム2枚組というボリュームで、妻Annaへの想いを切々と訴えかけた。そこがポテンシャルの違いかな。良いとか悪いとかじゃなく。

8. Fruit Nut
 やたら力が入ったAndyに対し、Colinが書き下ろしたのは、5.とこの曲のみ。簡素なホーム・デモっぽさは、オフィシャル・リリースを意識していないかのように、肩の力が抜けまくり。「When I’m 64」にインスパイアされてギターをいじってたら、こんなのできちゃました的なお手軽さ。最後の意味不明なエコーも、遊び心たっぷり。その辺でユニット内バランスが取れてるんだろうな。

Independent040328

9. I Can't Own Her
 対してAndy、やたら気合いの入ったバラード。力むあまり、歌い出しで誰の声かわからなかった。
 後期XTCの到達点とされる「Chalkhills and Children」をゴージャスなストリングスでアップデートしたような、完成度を極めて高く設定したようなトラック。『Pet Sounds』のイディオムを完全に取り込んだかのような、XTC流シンフォニック・ポップの完成形が、ここにある。揶揄や皮肉も寄せ付けない、まさに問答無用のサウンド。

10. Harvest Festival
 9.から11.までは一大ポップ・シンフォニーとなっており、ここでも同じ世界観が流れている。一歩間違えればElton Johnになってしまいそうなロマンチシズムでありながら、演歌的様式美に陥らないのは、イージー・リスニング一辺倒ではないLondon Sessions Orchestraの助力によるもの。
 問答無用の美しく繊細なメロディ、クセはあるけど力強いパッションを放つAndyのヴォーカル。アルバム全編とは言わなくても、B面全部使って展開すればよかったのに。

11. The Last Balloon
 ラストも正攻法、力強く、それでいて優雅さを失わないポップ・シンフォニー。悲観的な終末観の中、見上げた空に遠く浮かぶ「希望」という名のバルーン。皮肉と自虐で構成された英国人といえども、たまにはポジティブになるのだ。






ホームスパン(限定盤)
ホームスパン(限定盤)
posted with amazlet at 18.05.15
XTC
ポニーキャニオン (1999-09-17)
売り上げランキング: 60,658



Coat of Many Cupboards
Coat of Many Cupboards
posted with amazlet at 18.05.15
XTC
Caroline (2002-04-02)
売り上げランキング: 626,373



レビュー300回記念企画その2:俺の好きな曲たち邦楽編

 100回ごとにランダムにピックアップし、今回で3回目。順位づけはなし、単なる年代順で並べている。



山本達彦 「MY MARINE MARILYN」

01251447_52e34fe18bb3f 1983年リリース、JAL沖縄キャンペーンとタイアップしたため、テレビやラジオで大量オンエアされて、知名度を大きく上げた。でも、チャート的にはオリコン最高44位。あれ?もっと売れたと思ってたんだけどな。
 モデルや俳優といっても通用する端正なルックスから、80年代シティ・ポップの追い風に乗って、颯爽とデビューしたものだと思っていたけど、実は、ムッシュかまやつのバックでドサ回りなど、何かと下積みの長かった苦労人。育ちの良さは伝わってくるんだけど、ドロップアウトしちゃったんだろうな。
 本来はジャジー・スタイルのシックな作風が多いのだけど、キャンペーン・ソングというオファーに従って、ここでは軽快なリズムとキャッチーなアレンジを前面に出し、さらにゴージャスな女性コーラスをフィーチャーした、ブラコン風ポップに仕上げている。サビ以外のコード進行がちょっとひねり過ぎな感はあるけど、そういった些細な点をも凌駕する勢いはあったはず。はずなのだけど、案外チャートで苦戦するとは、誰もが思わなかったはず。
 生真面目すぎるがゆえの純音楽主義もあって、次第に活動は地味になってゆくのだけど、落ちぶれた感があまりないのは、あくせく働く必要がないからなのかな。どうせなら、そのルックスを生かして俳優業とかに進出していたら、福山雅治くらいはねじ伏せていたのかもしれないのに。



飯島真理 「セシールの雨傘」

41MyOHpMyBL 1985年リリース、彼女にとって大きなターニング・ポイントとなった5枚目のシングル。デビュー作がなんと坂本龍一プロデュースという超期待株、ビクターの箱入り娘として、蝶よ花よと育てられた飯島真理:通称まりン。初期3部作までは、スウィートなアイドル風テクノポップな楽曲が主体だったけど、このシングル・リリースを機にアーティスティックな作風へ路線変更、ミスDJや「マクロス」のリン・ミンメイで獲得したアイドル/アニメおたくファンをバッサリ切り捨てた。
 アイドルとアーティストの中間というスタンスは、ちょうど太田裕美が休業に入った時期と重なったため、まりンがその空席を埋める形となる。加えて、マクロス関連のオファーもあったため、そのまま行けば、今ごろアニソン界でもそれなりのポジションを築けてたんじゃないかと思われる。
 ただまりン本人としては、アニメ界隈やアイドル仕事はあんまり好きじゃなかったらしい。「アイドル顔とアニメ声の現役音大生」という付加価値が、本人の意向とは逆に作用し、自作曲のまともな評価がされなかった事に不満を持っていたことが、その後の発言やインタビューで明らかになっている。
 60年代フランス映画からインスパイアされた、思わせぶりなアンニュイ感を主軸として、ナイーブな少年少女の逢瀬を描いた歌詞を書いたのは松本隆。短編小説の1シーンを切り取ったかのような、映像を想起させる繊細な言葉の綾は、アーティスト飯島真理が希求していた世界観と合致していた。
 セールス的にはパッとしなかったけど、アーティスト・イメージの切り替えには大きく寄与した。実際、ネット界隈でもこの曲の評価は飛び抜けて高い。







パール兄弟 「バカ野郎は愛の言葉」

20111124050924 1986年リリース、デビュー・アルバム『未来はパール』に収録。今もって彼らの代表作として輝く、最強のニューウェイブ・ロック。「彼らこそ日本のTalking Headsだ!」ってキャッチコピーはどうかな、と一瞬思ったけど、パンチ弱いよな。立場を変えて、「アメリカのパール兄弟…」。もっと微妙になった。
 ハルメンズやビブラストーンなど、実力派インディー・バンド出身のメンバーによって結成されたパール兄弟は、ソニー系が幅を利かせていた80年代音楽シーンとは対極のポジション、「ミュージック・マガジン」を筆頭とするサブカル系からの期待と支持が熱かった。「ロキノン」でも「宝島」でも「PATi PATi」でもない、スノッブ臭が強烈なミューマガ界隈は、ロック界随一の論客であるサエキけんぞうとの相性は良かったけど、それがセールスに直結したかといえば、それはちょっと疑問。
 旧世代のロックを鼻で笑い、斜に構えた視点で「こういったロックもアリでしょ?」的な問題提起を行なってきたサエキけんぞうの登場は、産業化・画一化が進みつつあった日本のロック/ポップス・シーンへのアンチテーゼとして、重要なファクターとなるはずだった。だったのだけど、むしろ職人気質が多かった演奏陣との乖離は次第に大きくなり、ギター窪田晴男の脱退を機に次第に失速してゆく。コンセプト先行のイメージが強かったこともあって、もともと長く続けるべきユニットではなかったのだ。
 単発的なユニット/思いつきの瞬発力といった見地では、江戸時代とレゲエを合体させた「江戸時代の恋人達」に代表されるように、『未来はパール』にはいろんな可能性やらアイディアが詰まっている。どのトラックも、21世紀の今でも充分通用するポテンシャルを持っている。ただ可能性って、無闇に広げても、尻切れとんぼになっちゃうんだよな。ここで解散していたら、伝説のバンドになっていたかもしれないのに。
 反語表現を効果的に用いた愛情表現は古くからあったけど、日本語の歌詞でここまでポップで、しかも簡潔に表現したという意味で、サエキは先駆者である。同時期に作詞を手掛けたムーンライダーズ「九月の海はクラゲの海」もまた、同じ手法を用いた秀作。



モダンチョキチョキズ 「エケセテネ」

_SL500_ 1994年リリース、近年はナレーションや女優など幅広く活躍し、芸能界でのポジションを盤石にした濱田マリが在籍していた伝説のバンド、モダンチョキチョキズ6枚目のシングル。ちなみに同期のレーベルメイトとして、同じくマルチな活動ぶりのユースケ・サンタマリアが在籍していたビンゴボンゴがいる。この時期のキューン・ソニーは、電気グルーヴなど、アウトサイダーなメンツのオンパレード。どんな営業方針だったんだキューン・ソニー。
 それはひとまず置いといてモダンチョキチョキズ、「オバQ」や「恋の山手線」のカバー、またはCM出演でちょっとだけ話題になった「あたまはクラクラおめめはグルグル」くらいでしか知られていないため、いまだコミック・バンド的な扱いをされることが多い。まぁ実際にその通りなんだけど、サムいギャグばかり連発していた初期と比べ、後期になると多様な音楽性をベースとしたマイナー・メロディの佳曲がシングルで切られるようになり、単純なおちゃらけ集団ではない側面が見られるようになる。
 Jackson 5とThree Dog Nightを足して2で割ってBootsy Collinsが乱入したようなサウンド、語感の気持ち良さを羅列した、幼稚な言葉遊びの無意味性。彼らのコンセプトの最終形、到達点がここにはある。
 米米クラブでもなし得なかった、「くっだらねぇのその先」を具現化したこの曲、もっと世に知られるべきだったのだけど、バンド自体の知名度が追いつかず、チャート的には大惨敗、バンド活動継続が難しくなったのか、この後は各自ソロ活動の比重が大きくなってゆく。







中山美穂 「Sea Paradise -OLの反乱-」

north_garden_kk-img600x311-1275448440gkca1r7016 ミリオンセラーを記録した「ただ泣きたくなるの」の次のシングルとしてリリースされ、一気に10分の1にまでセールスが落ち込んだ、ミポリン1994年リリースの異色作。カラオケ・バブルとうまくリンクして、今井美樹と並んでキャリアOL御用達となったシックな大人路線から大きくコース・アウトした、ポップなジャパニーズ・ラップは歓迎されなかった。
 ちょっとエッチに興味がある、背伸びしたティーンエイジャー路線からスタートしたミポリンは、角松敏生「You're My Only Shinin' Star」に出会ったことで、ミドル・バラード中心の大人AORへ路線変更する。ヤンチャしまくったヤンキーが年齢を重ねて落ち着くプロセスをそのまんまなぞることによって、同世代ファンの内的成長と同調し、強い共感を得た。
 同時代のMariah Careyにならい、コンテンポラリー路線を志向していたミポリンだったけど、日本ではストリート・カルチャー発信による「DA.YO.NE 」などのジャパニーズ・ラップが台頭してきた頃。シックな大人路線は、カラオケ・ニーズに沿った手堅い市場ではあるけれど、そればっかりではマンネリ化してくるだろうし、ミポリンもプライベートでは24歳の女の子。よそ行きのかしこまったファッションだけじゃなく、ちょっとくだけたカジュアルな表情だって見せたくなる。
 同世代のOLに詳しいリサーチを行なったかどうかは不明だけど、「多分みんな、こんな風に考えてるんじゃない?」ってな感じで、自ら歌詞を書き下ろしている。いるのだけれど、さすが一般大衆の生活経験がないミポリン、どこか浮世離れしてる感は拭えない。「えーウソやだー」とか「ジョーダンじゃないわよハニー」なんて言葉遣いは、この頃すでに死語と化していた。セレブが無理して一般OLの口調を真似た、そんなぎこちなさが漂ってくる怪作。



ジャングルスマイル 「おなじ星」

414vHkCNl-L 1998年リリース、男女ユニット「ジャングルスマイル」5枚目のシングル。90年Jポップ大ヒットの発信源だったFMのパワー・プレイにピックアップされたため、耳にした人は結構多いはず。スピッツやミスチルなど、ここで大量オンエアされてヒットにつながった例は数多い。
 期待株として、彼らもそのルートに乗っかってヒットするはずだったのだけど、オリコン・チャートは最高27位、思ってたよりもブレイクしなかった。この時期はCDバブルのピークであり、ミリオンセラーもなんと14枚と大量。ジャングルスマイルに限らず、今なら充分トップ10圏内に入る売り上げだったのに、埋もれてしまったアーティストや楽曲が多々あるのも、CDバブルの功罪である。
 その当時、大量発生していた男女混成ユニットは、大抵、音圧強目のダンス・チューンが多いのだけど、彼らのサウンドは他と違って、ピーク・レベルは比較的抑えめだった。タイアップ狙いが先行して、サビ以外のメロディは単調なものが多かった90年代アーティストの中では、どのパートも手を抜かず、丁寧に作られていたのも、彼らのサウンドの特徴である。
 オレンジ・ペコーやピチカートほどの洒脱さ・スノッブさはなく、タイアップ一発勝負のパメラやフェイバリット・ブルーなんかと同じカテゴリに入れられることが多い彼らだけど、ヴォーカル高木郁乃が手掛ける歌詞は、あまりタイアップ向きではない、ちょっと後ろ向きでプチメンヘラっぽい傾向が強い。この曲も、20代女性の揺れ動く心の綾を丁寧にすくい取ったストーリーなのだけど、「この腕が千切れそうになっても離さない」「ずっと2人で生きていこうね」「たとえあなたが女に生まれたとしても守るわ」など、男目線でみれば、重い言葉のオンパレード。どんな恋愛遍歴を重ねてきたのか、膝詰めで問い質したくなってしまう。
 楽曲自体はフォーキー・タッチの丁寧なメロディ・ラインなのだけど、そんな言葉の重さがちょっと敬遠されたのかもしれない。時代のタイミングで埋もれてしまったのが、ちょっと惜しい。







Chappie 「Welcoming Morning」

220123999 1999年リリース、ネット上のキャラクターとして普及したアバターの先駆けとなった、ヴァーチャル・キャラクターChappieのデビュー・シングル。ジャングルスマイル同様、こちらもFMパワー・プレイで大量オンエアされ、清涼感あふれる夏の木陰を想起させるサウンドは、俺的にはすごくお気に入りだったのだけど、チャートではオリコン最高86位。ジャングルスマイル以下だったんだ。
 ネット社会がまだ未成熟だった20世紀末、雑誌やテレビ・ラジオが情報発信の周流だった最後の時代、Chappieは静かに、そっと誕生した。積極的なキャラクター・ビジネスでもコンテンツ販売でもない、あえて例えるならコンセプトの拡散とでも言うのかな、明確な形を持たず増殖を繰り返すChappieは、メディアに静かに浸透していった。
 周到かつ控えめなメディア・ミックスは、安易な商業主義に走らず、20代までをターゲットしたサブカル/ストリート・カルチャー方面に向けて、下世話にならぬよう配慮されていた。敢えて詳細なキャラクター設定を行なわず、シーンに応じて増殖を繰り返すChappieは、陳腐な商品化やブームに乗らなかったため、マスに消費し尽くされるのを回避した。
 Chappieにとって音楽活動というのはサイド・ワークに過ぎず、売上追求というよりはむしろ、「Chappieイズムの啓蒙」といった意味合いの方が強かった。決して大ヒットを狙っていたわけではないし、また下手に売れちゃったら二番煎じ三番煎じを要求されて、クールなスタンスは維持できなかっただろう。
 ソフトなハウス・ビートに乗せて、矢継ぎ早に畳み掛けるノン・リヴァーブの女性ヴォーカルは、爛熟化しつつあったガールズ・ポップに終止符を打つ。セックスの香りを極力消したティーンエイジャーの夏、プールサイドでまどろむひとときを切り取った、そんな情景が思い浮かぶ。
 ちなみに、バックでループされている「ダイスキ」ヴォイスは、川本真琴によるもの。



レピッシュ 「ワダツミの木」

_SX355_ 2002年リリース、元ちとせのデビュー・シングル。タイアップなしにもかかわらず、年間チャートで3位、あゆと宇多田に続いての売り上げを誇る。宇多田もある意味異色だけど、当時のラインナップの中で、「ワダツミの木」は明らかに浮いていた。
 闇の中から響くような呪術的なリズム、絶海の孤島に鎮座した女神による、訥々と綴られる物語。歌われている時代や場所は特定されず、島国で語り継がれる旧い言い伝えをそのまま移植したような世界観。時代やトレンドを超越した、そんな地味な歌なのに、なぜ多くの人が共鳴したのか。
 作詞作曲アレンジ・総合プロデュースを行なったのは、元レピッシュの上田現。当時、現ちゃんはバンドを脱退したばかりで、ソロ活動を始めたばかりだった。主要メンバーであるMAGUMIも杉本恭一もまた、レピッシュを再始動させることなく、各自ソロでやっていた。20年近くもずっと一緒にやってたんだ、そりゃ他の空気だって吸いたくなる。
 バンド結成20周年を迎えるにあたり、レピッシュは再始動する。現ちゃんも正式に復帰し、フェス出演と並行した全国ツアーを行なうはずだった。
 はずだったのだけれど。
 ステージに現ちゃんの姿はなかった。「長く患っていた腰痛治療に専念するから」というのが、当時のインフォメーションだった。
 事実は違っていた。腰痛というのは実は嘘で、肺ガンに冒された現ちゃんの躯は、すでにシャレにならない状態に悪化していた。
 翌2008年、現ちゃんはこの世を去る。
 要のひとつを失ったレピッシュは、膝を抱えて泣き続けるより、自ら動くことを選ぶ。旧友や仲間に声をかけ、現ちゃんのトリビュート・アルバム「Sirius」は、こうして完成した。
 ここでレピッシュとしてプレイしているのが、「ワダツミの木」。音といい映像といい、彼ら一世一代の飛び抜けた傑作に仕上がっている。
 現ちゃん自身もこの曲をセルフカバーしているのだけれど、正直、MAGUMIがヴォーカルを取るこのヴァージョンの方が、全然いい。
 「お前の曲を歌いこなせるのはオレだけなんだよっ」という想いが静かに、そして強く込められている。







カテゴリ
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
QRコード
QRコード
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村




アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: