好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

誰も文句のつけようがない音楽。 - U2 『The Joshua Tree』

folder 一気にスターダムを駆け上がる彼らの80年代を見てきた俺世代はともかく、今の若い世代にとって、U2はどんな存在なのだろうか。
 「ボノ」でググってみると、トップに出るのが、昨年話題になった「流出したパラダイス文書の顧客リストに彼の名があった」というニュース。その次に出てくるのが、「Bonoが億万長者リストに載らない理由」、「トランプ大統領を激しく非難」、「アウン・サン・スー・チー氏への辞任要求」などなど、音楽的な話題は全然引っかかってこない。
 もともとデビュー当時から、ポーランドの「連帯」をテーマに書かれた「New Year’s Day」、辛辣なIRA批判を表明した「Sunday Bloody Sunday」を発表するなど、政治的なスタンスを明確にしており、それについては一貫してブレがない。自身でも、そんな「ロックご意見番」的なスタンスを受け入れているのか、政治や人権問題なんかで動きがあれば、コメントを求められることが多く、またきちんと真面目に応えてしまう。
 まだ当選回数の少ない二世議員だったら、100人束になっても敵わないほどの洞察力、そして存在感を持つ男、それがBono である。

 そんな按配なので、彼のことをミュージシャンって知らない人も、結構いるんじゃないんだろうか、と余計な心配までしてしまう。大御所アーティストゆえ、そんなマメに活動しているわけじゃないし、来日したのはもう10年以上前なので、20代以下のライトな音楽ユーザーなら、わざわざ自分から「U2聴こう」って思わないだろうし。
 「なんかよく知らないけどスゴイ人」、または「ロックのレジェンドの人」程度の認識しかないのかもしれない。日本ではAppleのCMソングとして認知の高い「Vertigo」だって、もう15年くらい前だし。調べてみると、オレンジレンジや大塚愛の時代なんだよな。そりゃ若い子たち知らないわ。
 U2としての音楽的な話だと、近年のアルバムでは、イキのいい若手であるDanger Mouse やKendrick Lamarが参加している。話題性は充分あるのだけど、肝心の音がどうかと言えば、なんかイマイチ伝わってこない。他のレビューを読んでみても、絶賛はしていてもなんかゴニョゴニョといった感じで、安易な批判は許されない雰囲気が伝わってくる。

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 そんな圧力団体みたいになってしまった現在のU2だけど、トップギアで突っ走っていた時代を知らない若いユーザーにアピールするため、旬のアーティストとコラボしたり、何かと生き残り策を講じている。Stones同様、もはや単なるバンドではなく、多くのスタッフが関与した複合企業体みたいになっているため、あらゆる方面へ目配り気配りが必要なのだ。
 Stonesの場合、スポークスパーソンであるMick Jaggerもまた、内部活性化なのか、ライブではやたら若手をゲストに呼んだりコラボしたりしているけど、バンマスのKeith Richards があんな感じの人なので、サウンドのコアはあんまり変化がない。
 90年代以降はDust Brothersをプロデューサーにしてみたり、やたらトレンドを意識したサウンド・デザインを指向していたけど、今世紀に入ってからは落ち着いちゃったのか、リリースされた音源はどれもブルース色が濃くなっている。Mickの場合、まだヤマっ気が強いから、「せめてステージでは」と若いヤツとやったりしてるけど。

 U2の場合だと、同じく90年代にはっちゃけたテクノ路線3部作の後、世紀末に突如原点回帰、憑き物が落ちたように、オーソドックスなギター・ロック・アルバム『All That You Can't Leave Behind』をリリースした。ここからStones同様、王道ロック路線を極めてゆくのかと思われたけど、そうはならなかった。それはあくまで前へ進むための足もと確認的なモノだったようで、その後は再び、アルバムごとにサウンドが変化してゆく。
 Stonesが「深化」だとすれば、U2は「進化」することを選んだ、ということなのだろう。ベクトルがちょっと違うだけで、本質を極めてゆくという行為は、どちらも何ら変わりはない。
 ないのだけれど、でも。
 そうは言っても、いまのU2が作る音楽に俺が惹かれているか、といえば話は別である。カタルシスは感じる。でも、共感はできない。そういうことだ。

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 80年代、俺がU2に抱いていたイメージは、「垢抜けない熱血ロック・バンド」というものだった。ロキノンで紹介される彼らのビジュアルは、ニューロマ全盛期においては野暮ったく映り、目を惹くような存在ではなかった。インタビューでは、政治的発言を中心に時事問題を熱く語っていたため、すでに若年寄みたいな雰囲気が紙面からも漂っていた。政治的スタンスを明確にすることを嫌う日本人の特性もあって、U2はいまいちブレイクしきれずにいた。
 ポジション的には、Echo & the BunnymenやPsychedelic Fursなど、若手UKギター・バンドといったカテゴリでひと括りされていた。Edgeのギターは当時から一定の評価を受けてはいたけど、そこから頭ひとつ飛び抜けるには、どの項目もまんべんなくインパクト不足だった。SmithsにおけるMorrissey 、またはCureのRobert Smith のような、アクの強いキャラが不在だったことも要因だった。感覚的には、エコバニの方が評価が高かった。
 ただ彼らは、愚直なほど生真面目で、しかも努力家だった。理想主義を口だけのものにしないがため、あらゆる問題提起と並行して、サウンドでも試行錯誤を繰り返した。トレンドに流されない硬派な楽曲を世に問い、キャリアを重ねるたび、その完成度は高まっていった。
 そんな地道な努力と飽くなき探求、加えて、ファッションからは遠く離れた無骨なダンディズムが爆発したのが、『The Joshua Tree』である。

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 前作『The Unforgettable Fire』から続く「強いアメリカ」への憧憬によって、小さくまとまりがちだった初期のギター・オリエンテッドなサウンドは、徐々に変化していた。プロデューサーBrayan Eno は、緩やかなアンビエント音を通底音として使い、浮遊感漂う音響空間を創り出した。
 80年代ニューウェイヴの影響下で、いわゆるギター・ロック的な音を出していたEdgeのプレイにバイタリティが生まれてきたのが、この頃である。もともとプレイヤビリティをゴリ押しせず、冗長なソロを弾くタイプではなかったけど、トータル・サウンドを意識した引き出しの多さが、サウンドごとに彩りを添えている。
 鉄壁のリズム・セクションによって導き出されたビートは、シンプルで力強い。ヒット・シングルにありがちな、キャッチ―で複雑なリフはない。時に叩きつけるように奏でられるストロークは、楽曲のボトムをがっちり支える。
 基本、演奏陣はクレバーなプレイに徹しており、どれだけBono が熱くなろうとも、サウンドはどこまでも冷静だ。押しても動じないサウンドがあってこそ、Bonoの奔放さは際立ち、そしてギリギリのバランスで見事に成立する。そういったのはやはり、相互信頼がモノを言う。
 「古き良きアメリカ」へのリスペクトを露わにしながら、土着的なバタ臭さが少ないのは、空間コーディネーターEnoの手腕に依るところが大きい。基本この人の場合、突発的な思いつきで動くことが多いんだけど、結果的には的を射ているんだよな。俺個人的に、「口だけ番長」のイメージは拭えないけど、U2との仕事だと貢献度大きいんだよな。なんか悔しい。

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 Anton Corbijn撮影によるアルバム・アートワークは、粒子の粗いモノクロ写真が主体で、求道者的にストイックな佇まいの4人が、うつむき加減で肩を寄せ合っている。埃っぽく乾燥した砂漠の中、何を思っているのか。
 そんなフォト・セッションが象徴するかのように、『The Joshua Tree』のサウンドもまた、解像度が粗く、乾いた埃が舞うテクスチャーで統一されている。「With or Without You」のPVが、その音世界を忠実に映像化している。
 アメリカを視野にれたことによって、有象無象のギター・ロックからいち抜けしたU2。ロックがカッコいいモノである、というのを教えてくれたのが、彼らである。そんな70年代的なメンタリティを貫き、そしていまも彼らは遂行し続けている。
 その行為はある意味、奇跡だ。


 U2について語ると、どうしても長くなる。これでやっと、下書きの半分。続きはまた次回。






1. Where the Streets Have No Name
  海外の音楽誌で「壮大なイントロを持つヒット曲」として選ばれたのも納得できる、そんな曲。延々と性急なリズムを刻むEdgeのカッティング、そして案外ボトムの太いAdamのベース・ライン。
 Beatlesリスペクトのルーフトップ・ギグをドキュメンタリー・タッチで構成したPVは、いま見ても「ロックのカッコよさ」をまんま体現している。自由奔放に屋上を駆け回るBono、そしてクレバーな態度を貫こうとしながら、最後に満足しきった微笑みを見せるくらい興奮しているEdge。明らかに、ロックの世代交代が行なわれた瞬間が鮮明に記録されている。
 3枚目のシングル・カットとして、UK4位US13位を記録。



2. I Still Haven't Found What I'm Looking For
 UK6位US1位を記録した、2枚目のシングル・かっと。ギターの音色はカントリーというかブルーグラスに近く、大河の如き雄大さを思わせるコーラスやメロディは、ゴスペルからインスパイアされている。あんまり泥臭くない、ホワイト・ゴスペルの方ね。
 ラスベガスの大通りを闊歩しながら歌うPVも、アメリカン・テイストにどっぷり浸かっている。



3. With or Without You
 問答無用の代表曲。ていうか、「80年代のロックは何があったのか」と問われれば、これを挙げる同年代は数多いはず。リアルタイムでこのPVを観て、ぶっ飛んだ者は数知れず。日本でも、ここから人気が爆発した。
 楽曲自体から発せられる神々しさをそのまま移植した、演奏シーン主体のシンプルな映像である。余計な装飾をとことんはぎ取った結果、残ったのはロックのカッコよさのエッセンスが凝縮されている。
 アコギを肩に背負ったまま、結局最後まで弾かないBono、デューク更家のようなポーズを決めるBono、アウトロのソロを弾く間際、体でリズムを取るEdge。今だから言えるけど、どれだけマネしたことか。マネをする=一体化したいという感情を喚起させることは、楽曲のパワー、そしてカリスマ性の強さに比例する。
 同時代で洋楽ロックを聴いていながら、この曲に反応しなかった者、それは人生の多くを損している。それか、よほどのひねくれ者だ。



4. Bullet the Blue Sky
 冒頭3曲が神すぎて、その後の曲はどうしてもインパクトが薄れてしまうけど、イントロの演奏の重厚さには圧倒されてしまう。「Whole Lotta Love」に質感が似ている、硬派なチューン。みんなZEPみたな演奏だもの、まぁリスペクトしているnだろうな。
 ニカラグアとエルサルバドルへ旅行で訪れたBonoが、米軍の軍事介入への抗議として書き上げた歌詞は、シリアスでハードボイルド・タッチ。殺伐とした現状をリアルなタッチで歌い上げ、演奏も当然ダークな怒りを発している。全世界で2000万枚も売れたアルバムに入ってるとは思えない、陰鬱とした雰囲気が漂っている。

5. Running to Stand Still
 Robert Johnsonが憑依したような、古典ブルースっぽいギターからスタートする、即興セッションから生まれたバラード。テーマとして取り上げられたヘロイン・ジャンキーは、アイルランドでは深刻な社会問題であり、そんな現状を嘆くだけではなく、冷酷な事実として捉え、淡々と口ずさむBono。彼が取り上げるテーマは、ほんと多岐に渡る。

6. Red Hill Mining Town
 今度のテーマは炭鉱ストライキ。同名タイトルの本にインスパイアされて書き上げられた、とのこと。重いテーマながら、楽曲自体はスケール感あふれる雄大なスタジアム・ロックで、実際、シングル・カットの予定もあった、とのこと。
 発売中止の原因となった、お蔵入りPVが近年発掘されたので見てみると、ちょっとマッチョ色が強いよな。大掛かりな炭鉱のセットの中、タンクトップ姿のメンバー、そしてやたら熱く咆哮するBono。ステレオタイプなアメリカン・ロックみたいになっちゃったのが、お気に召さなかったらし。おいおい、撮る前に言えよ、そんなの

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7. In God's Country
 1.のアウトテイクのようなバッキングで、サビのメロディはちょっと甘め。初期のギターロック路線のアップグレード版と捉えればよいのかな。疾走感のある3分弱の曲だけど、味わいは意外とあっさり。タイトルが大風呂敷っぽいので、曲のインパクトがちょっと弱め。

8. Trip Through Your Wires
 wikiで見ると、Country Rock、Blues Rock両方でカテゴライズされていた。そのまんまの曲。言葉遊びも兼ねて書かれた曲のため、歌詞はこれまでの中では最も軽い。A面で気張り過ぎたのか、ラフなテイストの曲が続く印象。

9. One Tree Hill
 手数の多い変則8ビートで歌われるのは、不慮の事故で若くして亡くなった、オーストラリアのローディGreg Carrol。ちょっと民族音楽っぽさも入ったミニマル・ビートは、先住民族だったGregへの敬意を表している。徐々にテンションが上がり、最後はエモーショナルなシャウトとなるBonoの漢気といったら。

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10. Exit
 レコーディング終盤のジャム・セッションがベースとなった、ラフでありながら緩急のある構成のナンバー。と思ってたらEnoがうまく編集した、とのこと。呪詛的なBonoとAdamのベースから始まる静かなオープニングから、突然トップギアで割り込んでくるEdgeのギターとLarryのドラム。最後は再びAdamのソロ。サイコキラーの深層心理を活写した歌詞の世界観が、剥き出しのリアルで表現されている。
 ライブ映えする曲ではあるのだけれど、リリースされて2年後、悲惨な結末となったストーカー殺人犯の「『Exit』に影響を受けた」というコメントが流布されたため、30周年アニバーサリー・ツアーまで、事実上封印されていた。

11. Mothers of the Disappeared
 前述のニカラグアとエルサルバドルへの旅行から生まれたもうひとつの曲。政権闘争に伴う内紛が多い南米諸国では、子供を誘拐して強制的に傭兵部隊に加入させる組織があり、その母親の目線から描かれた悲劇と諦念。行方知れずとなった子供たちを捜索する団体があり、Bonoもまた彼らに同行して実情を知り、言葉としてしたためた。
 握りこぶしを挙げるだけなら、事は簡単だ。ただ、その拳ひとつひとつはあまりに弱い。その握った拳を一旦下ろし、前を向きながら事実を淡々と述べる。ヒットすることによって、実情が広く知れ渡り、隠蔽されていた事実が晒される。
 曲を聴いて何か感じた者は、拳を握り、声を上げる。それがいくつにも束ねられれば、それでよい。そんな表情で、Bonoは歌い、Edgeは淡々とギターを弾く。





「ケンカするほど仲はいい」とは言うけれど。 - Police 『Synchronicity』

folder 実質5年という短い活動期間の中、Policeは世界ツアーとレコーディングのルーティンを繰り返し行なっていた。やり手マネージャーMiles Copeland の戦略に基づき、次々とスケジュールが組まれため、『Ghost in the Machine』のレコーディングまで、ほぼ休みのない状態だった。
 明確なビジョンと行動力のあるマネジメントのおかげもあって、Policeは早い段階からワールドワイドな活動を行なっており、実際結果もついてきたわけだけど、実働部隊からすればたまったものではない。
 いま自分たちがどの国にいるのかもわからない、長く終わりなき世界ツアーの最中も、膨大な取材やフォト・セッション、当て振りの演奏を強要されるテレビ出演がねじ込まれる。訪れる国は変わっても、求められることは大体似たようなものだ。
 場所が変わっただけで、やる事は大体いつも同じ。そんな日々が長く続けば、時々フラストレーションが爆発するのも無理はない。定番の乱痴気騒ぎだったり、またはメンバー間のゴタゴタが絶えなかったり。

 そんな間を縫って、彼らは断続的にスタジオに入り、レコーディングを行なった。ライブで練り上げてきた曲もあるけど、ほとんどはスタジオに入ってから書き上げ、ほぼぶっつけ本番で演奏を組み立てる。何しろ時間が足りないので、短期間でチャチャっとまとめなければならなかった。
 メインのソングライターであるStingがハイレベルの多作家であったこと、またStewart Copeland もAndy Summers もテクニック的には折り紙つきだった上、下積みが長かったこともあって、場数を踏んでいた。なので、彼ら3人が顔を合わせて音合わせ、すぐ本テイクがレコーディングされ、それでいっちょ上がり、という具合が続いていた。
 Stonesのように、ダラダラ長時間セッションを行なうよりはずっと合理的だけど、逆に言えば、じっくり練り上げることがなかったため、若干やっつけ仕事っぽいテイクがあることも事実。「De Do Do Do, De Da Da Da」なんて、語感の勢いとインパクト勝負だけだもんな。その力技が強烈なんだけど。

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 デビューからずっと、そんなレコーディング事情だったため、意外なことにPoliceの未発表曲というのは、ほぼ存在しない。1993年にリリースされた5枚組ボックス・セット『Message in a Box』にも、シングルのみリリースの曲がいくつか収録されているけど、ほとんどは耳慣れたアルバム収録曲ばかりで、レア物といえるものはない。その後も、大物アーティストにありがちなデラックス・エディションの企画も立ち上がらないところからみると、よほど発掘ネタがないんじゃないかと推測される。
 プリプロダクションの段階でキッチリ絞り込んだおかげか、それともほんとに年末進行状態で手早く作業していたのか。まぁどっちもありえるな。
 それにもともと彼ら、長時間一室に閉じ込めて成果が上がるタイプのバンドではない。むしろ、普段はできるだけ遠ざけておいた方がよい、どいつもこいつも血気盛んな輩なのだ。
 スタジオ内やステージでのつかみ合い、または怒号。真剣さが高じて殺意が飛び交うバンド。それがPoliceだ。よく何年も一緒にやってたな。

 働きづめだった彼らへのご褒美として、彼らはモンセラット島でのバカンス休暇を与えられる。とはいえ、そこはマネジメントの抜け目ないところ、バカンスと兼ねて次回作のレコーディングもセッティングされていた。
 まぁ本人たちも、その辺は同意の上だったんだろうな。デビューしてからずっと、時間に追われたレコーディングだったし、ゆっくり手間ひまかけた作業ができる環境を用意してもらったんだし。

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 Policeの基本サウンドは、Sting × Stewart × Andyによるシンプルな3ピースが主体で、これは活動休止前まで変わることはなかったけど、このレコーディングでは時間的な余裕もたっぷりあったおかげで、メンバーそれぞれ寄ってたかって、サウンドでの実験に力を入れている。骨格のギター・ベース・ドラムのトライアングルに加え、ポリフォニック・シンセやホーンが、あらゆる曲で効果的に使用されている。最低1曲は入っていたレゲエ・ビートも一層され、シンセポップへ大胆にアプローチした楽曲が主体になっている。
 これまでと勝手が違うセッションだったせいもあって、ここに来てリハーサルやリテイクの数が多くなっている。なので、ブートで流出しているスタジオ・セッションというのは、ほぼこの時期に集中している。公式では未発表なので、聴きたい人は各自調べてみてね。
 「ケンカするほど仲が良い」とはよく言ったもので、いくら殴り合いが多かった3人とはいえ、この時期は一緒にレコーディング・ブースに入るだけ、まだマシだった。3人そろって「せーの」で音を出し(この時点でつかみ合いになることも多いけど)、ラフ・ミックスを聴きながら、あぁだこうだと意見を出し合いながら、シンセやエフェクトを加えたりして(この辺だと殴り合いだな)。基本は、従来のバンド・スタイルと大差ない。

 『Synchronicity』レコーディングは、『Ghost in the Machine』で培ったメソッドを、さらに深く推し進める形で行なわれた。基本、演奏は3人で行なわれ、ほぼ外部ミュージシャンを使うことなく、あらゆる機材が使用された。されたのだけど、レコーディングで3人が顔をそろえることはほとんどなく、大抵は個別のブース、スタジオを使用して別々に行なわれた。
 3人ともソロ活動を開始していたため、スケジュール調整が困難だった、というのが表向きの理由だった。シンセ機材の導入によって、特にStingの楽曲なんかは、ほぼ独りで完結させたトラックもあり、グループとしての必然性が薄い状況が垣間見える。
 当時からすでにささやかれていたことだけど、実際はグループ内の人間関係の悪化に尽きる。以前までは、せいぜい殴り合い程度で済んでいたのが、ここに来て蔓延しつつあった、シャレにならない殺気立った空気を、本人・スタッフとも按じての処置だった。
 3人そろってスタジオ入りしても、2人はそれぞれ別のブース、もう1人が調整卓の前とバラバラだったため、以前のような顔を合わせてのセッションは、ほとんど行なわれなかった。
 そんな按配だったため、『Synchronicity』のアウトテイクというのは、原則存在しない。ほとんどの楽曲はStingの手によるものだけど、彼の場合、もともと音源管理がしっかりしているのか、デモ・ヴァージョン的なものも発掘されない。30年経っても流出しないのだから、本当にないんだろうな、そういったのも。

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 言っちゃえば、Stingのソロ・アルバムの助走みたいな形となった『Synchronicity』 、初期の中心コンセプトだった「レゲエとパンクの融合」といったお題目はどこへやら、万人向けにすっきりコンテンポラリーにまとめたサウンドは、コアなロック・ユーザー以外にも強くアピールし、大ヒットを記録した。何しろ、あの『Thriller』と対等に渡り合っていたくらいだから、人気のほどが窺える。
 取り敢えず、一触即発が続きながらもレコーディングを終え、大規模な世界ツアーに出る3人。もうこの頃になると、いろいろ突き抜けてしまった挙句、ビジネスライクな関係へ変化していた。
 ちょっとした小競り合いくらいはあったけど、基本は不干渉。顔を合わせるのは最小限に抑え、貼り付けたような笑顔で人前に立ち、インタビューを受ける。もともとフレンドリーな関係ではなかったけど、えも言えぬ殺伐さは隠しきれなかった。もう隠す気もなかったんだろうな。
 『Synchronicity』プロジェクトをひと通りこなし、3人はソロ活動に入る。
 -もうしばらくは、姿も見たくなければ名前も聞きたくない。
 一旦、クールダウンの意味も含めて、バンドは暫し活動休止となる。

 それから3年ほど経過して、再度彼らは集結する。再びPoliceが動き始めた。
 長いブランクは、誰にとっても良い結果をもたらすはずだった。
 3年も経つと、大抵の悪感情は吹き飛んでしまう。わだかまりは薄れ、過去を振り返る余裕が生まれてくる。あの時ががむしゃらで気づかなかったけど、俺たちすごい事を成し遂げたんだし、考えてみれば、そんなに悪い奴らじゃなかったよな。
 誰もが、そう思っていたはずだった。ここはひとつ気持ちを改めて、もう一度バンドでやってみようじゃないか。
 そのはず、
 だったのだ、
 けど―。

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 結局、そのセッションは、何も生み出すことなく終わった。レコーディングにあたり、メインのソングライターであるはずのStingが、新曲を提供するのを渋ったのが主因だった。
 すでにソロ活動が軌道に乗っていた彼にとって、出来の良い楽曲は自分のものという認識だった。まぁ間違っちゃいない。いないのだけれど。
 かつてのように、スタジオでは怒号が飛び交い、掴み合いが始まった。それが一段落すると、延々と重い沈黙が続いた。時間だけが、無為に過ぎて行った。
 フレーズの断片や単調なリズム・トラックだけでは曲が構成できず、結局形になったのは、「Don’t Stand So Close To Me」のセルフ・カバーのみ。まぁこれが中途半端な仕上がりで、再始動のリード・トラックとして、一応は絶賛されていたけど、オリジナルを知ってる人なら「何これ?」と思っていたはず。PV制作を担当したGodley & Cremeの映像テクニックでごまかされたけど、アレンジは至って凡庸。多分、本人たちにとっても黒歴史だな。
 どうしてもキャンセルできなかったと思われるライブを3回行なった後、その後音沙汰はなく、Policeは自然消滅した。多分、アルバム契約も残っていたんだろうけど、「Don’t Stand So Close To Me ‘86」を無理やりねじ込んだベスト・アルバム発売で事態収拾した。多分、Michael Copelandがうまくねじ伏せたんだろうな。

 それからさらに20年ほど経って、3人は再々集結する。綿密な準備と段取りによる、本格的なリユニオンだ。大規模な世界ツアーを行なったけど、Stingの強い希望によって、レコーディング・セッションは行なわれなかった。
 -あんな惨劇はもうまっぴらだし、もし続けられたとしても、『Synchronicity』のクオリティには絶対追いつけない。
 そう悟ったのだろう。3人とも。








1. Synchronicity I
 パンクでもニューウェイブでもない、その後、各自のソロでも似たようなのがない、突然変異的に生まれたPoliceオリジナルのサウンド。シンセというよりは、キーボードだな、特別音色もいじってないようだし。あとはいつもの手数の多いドラム、それと同じく手数の多いリード・ベース。あれ、ギターは?ここではAndy、鍵盤系を受け持っている。
 「意味のある偶然の一致」という哲学用語をテーマにサビを設定したことによって、発語やコンセプトは硬質となっている。サウンドは隙間なく埋められ、3ピース特有の「間」はほぼない。息が詰まる、でもあっという間の3分間。

2. Walking in Your Footsteps
 Stewartの繊細でマニアックな技が光る、ポリリズミックなパーカッションをベースとした、浮遊感あふれるトラック。アフリカ奥地のジャングルの夜、深い闇で行なわれる獣たちの宴。そんな感じ。途中、いきなりキーを上げて咆哮を上げるSting。その雄叫びは、帳を切り裂く。

3. O My God
 『Zenyatta Mondatta』期を思い起こさせる、シンプルに3ピースで構成されたチューン。こういったリズムから発展して作らてたような曲だと、ほんとStewartの貢献度が大きなものだったことがわかる。やや走り気味のドラムを制するような、Stingの効率的かつキャッチ―なリフ・プレイ。なのでAndy、ここでもあんまり存在感がない。

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4. Mother
 と思ったら、ここでAndyが覚醒。呪術的なイントロと、マッド・サイエンティストのようなヴォーカル。絶叫と嗚咽、そしてサイケなギター・プレイ。後半にはサックスとのユニゾンなのだけど、プレイするのはなぜかSting。
 アバンギャルドっぽい曲で遊ぼうぜ的な流れだったと思うのだけど、よく収録したよな、こんなの。彼らのディスコグラフィーでも異彩を放っている。

5. Miss Gradenko
 Stewart作による、1分ちょっとのブリッジ的な小品。とはいえ軽く見ることはできず、ドラム、ベース、ギターとも細かな技をこれでもかと投入している、聴けば聴くほど新たな発見の多い曲。やっぱりPoliceってリズムなんだよな。Stingのメロディも、彼あってのものだというのがわかる。

6. Synchronicity II
 3枚目のシングル・カットとして、UK17位US16位。シンプルな8ビートのロック。ベースは重く、スネアもキックもデカい。やっとAndyもまともなロック・ギターを弾いている。
 思えば、俺が生まれて初めて買った洋楽がPoliceで、しかもこの曲の12インチ・シングルだった。ラジオで聴いてカッコよさを全身で受け止め、ダイエーのレコード店でこれを買った。まだ中学生だったので、アルバムまでは手が出なかったのだ。最初に好きになったのが彼らで、結局のところ、俺にとってのロックとはPoliceが基準になっている。そりゃ並みのバンドじゃハードル高いわな。



7. Every Breath You Take
 UK・USともに1位を獲得、言わずと知れた代表曲。近年では、「大人のラブ・ソングだと思っていたけど、実は執念深いストーカーの歌だった」という評価が根付きつつある。アップライト・ベースの存在を知ったのが、このPV。この頃のGodley & Cremeは才気走っていた。

8. King of Pain
 UKは17位だったけど、USでは3位まで上昇、アルバム中、確実に3本の指に入る秀作バラード。シンプルなオープングから、徐々に音が増え、サビに入って3人そろう。B面では特にAndyの貢献度が多く、ここでも3分過ぎてのトリッキーなソロは絶品。そして4分近くになってのブレイク。音が急に薄くなり、緊張感はピークを迎える。
 激しいサウンドなのに、すごく冷たい芯を持った、そんな不思議な曲。

9. Wrapped Around Your Finger
 無数のキャンドルに囲まれた3人、静かに燃える炎越しに、軽やかに舞うSting。とことんシンプルながら、サウンドとのシンクロ感がハンパない。映像エフェクトは何も使っておらず、ひたすら手間をかけたPVは、楽曲のグレードアップに大きく貢献した。ていうか、もし映像がなかったら、地味なバラードで終わっていたかもしれない。
 UK7位US8位を記録。



10. Tea in the Sahara
 ラストはベース・ラインを主体とした地味なバラード。いやほんと地味だから。アナログではこれがラストだったのだけど、まさかキャリアのシメがこれになるとは、本人たちも思ってなかったんじゃないだろうか。かなりStingのソロ色が強い、ミステリアスかつジャジーなバラード。

11. Murder by Numbers
 というわけなので、リアルタイムでは聴いていないため、いまだに馴染みの薄い曲。StingとAndy共作による、こちらもジャジーだけど、もうちょっとテンポ感のある曲。まぁ入れる場所、なかったんだろうな。ボーナス・トラックなので、まぁCD買ったらおまけがついててラッキー、っていう程度の印象。







プログレ村住人じゃない俺が語るフロイド概論 - Pink Floyd 『The Wall』

folder 1979年リリース、2枚組にもかかわらず、全世界で2300万枚を売ったモンスター・アルバム。アルバム発売後、ストーリー・コンセプト補完も含めて映画が作られ、こちらも大ヒット。実際にステージ上に壁を作り、メンバーはその中で演奏、最後に壁が崩壊してやっと姿をあらわす、という凝った演出のステージも好評を得た。得たけど予算がかかり過ぎて、すぐ普通のステージになっちゃったけど。
 その後もリーダーRoger Waters主導による、ベルリンの壁の前での大規模ライブ、リリース当時の発掘ライブの発売、同じく世界中を回ったRoger 主導の再現ツアー、3枚組・7枚組のコレクターズ・ボックスの発売など、手を替え品を替え、いろいろ切り口を変えたアプローチが続いている。「フロイドのニュー・アイテムが出る」と聞けば、条件反射でポチってしまうロートル音楽ファンが世界中にいるんだよな、いまだに。
 言っちゃえば、暴落する確率の少ない証券みたいなものなので、乱発してブランド価値を下げない限り、メンバーの老後は保証されたようなものである。もうみんな年金世代だから、確定拠出年金だな、正確に言えば。

 Yes「Owner of a Lonely Heart 」に抜かれるまで、多分プログレ界では最大のヒット・シングルだった「Another Brick in the Wall (Part 2)」の影響もあって、世界各国で軒並みチャート上位を記録、日本でもオリコン最高16位にチャートインしている。2枚組だというのに、しかもプログレというジャンル自体が絶滅寸前だったはずなのに。
 それまでFloydに関心がなかった人をも惹きつける、強力な磁場を放っていたことは否定できない。従来プログレのように、レコード片面で1曲とか、聴く前から中だるみしそうな冗長な構成にせず、コンパクトなサイズの楽曲をシームレスに繋げた組曲方式にしたことも、若い層への間口を広げる要因となった。

 俺の人生で2枚目のプログレ・アルバムとなった「The Wall」。購入したのは、当時まだ健在だった長崎屋の中古レコード特設会場で、しかも輸入盤だった。いくらで買ったか覚えてないけど、国内盤新品を買うより、ずっと安かったはず。ちなみに1枚目は『Final Cut』、これは国内盤新品だった。
 中途半端な田舎の高校生が、なんで「そっち」方面へ行っちゃったのか、自分でもさっぱり記憶に残ってない。多分、「正統なロックの歴史も学ばなきゃ」って勘違いしちゃってたんだろうな。
 途中で勘違いに気づいたため、それ以上、Floydは深堀りしていない。いまだに『狂気』も『おせっかい』も、YouTubeで流し聴きしただけで、まともに聴いたことないもの。
 ちなみに3枚目はYesの『90125』。前述の「Lonely Heart」が純粋にカッコよく、プログレ特有の冗長さとは無縁なので、よく聴いていた。でもやっぱり、『危機』も『こわれもの』もちゃんと聴いてないんだよな。

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 Pink Floydの歴史はRoger Watersの歴史であり、初代リーダーSyd Barrettの歴史でもある。実質的な音楽上のリーダーであるDavid Gilmourもいるし、その他大勢的なNick MasonやRick Wright もいるけど、バンド運営に必要なコンセプト提示と舵取りを担ってきたのは、この2人である。
 その後のプログレ路線とは対局の、ポップでシニカルでエキセントリックなキャラ全開だったSyd のバイタリティーによって、Floydはメジャー・デビューを果たした。当初は「Sydプラスその他3名」といった印象が強く、よってRogerの影は薄かった。楽曲制作だってほとんどSydだったし、楽器プレイだって自信は持てなかった。
 デビューして間もなくSydがリタイアし、バンドはRogerが引き継ぐことになる。なったのだけれど、Sydが描いてきた初期ビジョンをRogerが続けるのは、ちょっとできない相談だった。よって、バンドは方向転換を余儀なくされる。

 その後のFloydのサウンドは、しばらく迷走期に入る。キャリアを重ねるにつれ、Sydの影は薄まり、Rogerによるサウンド・メイキングが定着してゆく。ゆくのだけれど、その形は茫漠として、そしてまだ曖昧だった。
 深刻なことを深刻に考えて、深刻にプレイする。Rogerが掲げた主題をもとに、メンバーがあれこれ深堀りしてゆくため、自然と曲は長くなる。じゃあ、何をそんなに深刻に考えているのかといえば、答えは濁される。「それを探求してゆくのがプログレなのだ」と言われれば、とりあえずは納得せざるを得ない。分からないのは修練が足りないからであり、また端的に理解を求めてもダメなのだ。
 あぁ、プログレってめんどくさい。

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 次第にSyd抜きでのアンサンブルにも慣れ、セールス・知名度ともに安定、プログレとしてのFloydサウンドも確立されたはずなのだけど、Rogerだけは相変わらず深刻な表情のままだった。どれだけポジションが確立されようとも、常にSydの影を感じずにはられなかった。
 Rogerにとって、彼はかつての盟友であり、同時に仮想敵でもある。Syd時代と離れれば離れるほど、作品は長大化する。伝えたいことは山ほどあるはずなのに、伝えようとする前に、二の足を踏む。果たしてそれは、他人に伝えるべき事象だろうか?そもそも、他人語るべき自身なんて、存在するのだろうか?
 曖昧な姿勢で発せられた曖昧な主張は、意味不明と切り捨てられるか、または曲解される。思いもよらぬ見方によって、誤解が誤解を生む。理解しづらいことが高尚とされ、不気味な存在感と伝説ばかりが肥大化してゆく。もはや、本人でもコントロールが効かない。
 それらが積み重なって、あれよあれよと孤高のバンドに祭り上げられてしまったのが、中期のFloydである。

 大味なのを好むアメリカ人をターゲットに、これまで長尺だった曲のサイズをコンパクトに圧縮、難解なメッセージをかみ砕いて詩情性を加えたのが『狂気』だった。テクニック至上主義に移行しつつあった他プログレ勢とは一線を画し、音響派のハシリとも言えるムード演出と構成による一大組曲は、世界中で大ヒットした。アメリカでは特に、ビルボード・チャートに長期間ランクインするほどの売り上げだった。
 アポロが飛ぶまで誰も見たことのなかった、月の裏側。そこでRogerが見たのは、閉ざされた自我の中で独り、思念のとぐろを巻くSydの姿だった。
 遥か月の裏側にいたと思われたSydが、久しぶりにメンバーの前に姿をあらわした。かつてRogerにとって、また他のメンバーにとっても羨望の対象だったはずのSyd。でも、みんなが思い描いていたSydの姿はそこになかった。
 デブでよろよろのハゲ散らかしたおっさんは、ブツブツ呟きながらスタジオ内を徘徊し、そして手持無沙汰に消えていった。その姿を見て、メンバーはみな涙したというエピソードが残っている。
 『炎』で「狂ったダイヤモンド」と称えたはずのSydの現実は、誰にとっても辛いものだった。そのままずっと、月の裏側に行ってればよかったのに。

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 Sydの呪縛から解放されたことによって、バンド・コンセプトはさらに変化する。
 次作『Animals』は、アジテーターRogerのイデオロギーが前面に出たアルバムになった。登場人物を動物に置き換えた寓話的ストーリーを軸に、痛烈な社会批判とぼやきが主題になっている。これまで培った音響効果やSEは最小限に抑えられ、シンプルなロック・サウンドが全編で展開されている。なので、音楽的な新境地は少なく、左翼がかったイデオロギーばかりが話題になった。
 Rogerのバック・バンド化は、着実に進行していた。

 で、Roger = Pink Floydの図式が完成し、総決算として制作されたのが、『The Wall』。
 これまでのSydの呪縛、リーダー交代から始まった音楽的変遷、もっと遡ってRoger自身の生い立ち、それに由来する過去のトラウマと苦悩、そしてディスコミュニケーションから誘発される、絶望的な孤独。
 それらのエピソードを組み合わせ、虚実織り交ぜて寓話として再構成、コンテンポラリー・サウンドで彩ることによって、ストーリーに奥行きと深みを与え、角度によっては親しみさえ感じさせる仕上がりとなった。
 WhoやKinksらによる一連のコンセプト・アルバム/ロック・オペラ同様、オーソドックスなロック一辺倒ではなく、あらゆるジャンルが混在している。当初から映像化も視野に入れていたと思われ、ストーリーやシーンに応じた適切な曲調で構成されているため、バラエティに富んだ、言っちゃえばとっ散らかったサウンド・コンセプトとなっている。だってディスコ4つ打ちも入れちゃうんだもの、思い切ったよな。
 こうやって書いちゃうと散漫な作品に思われてしまうけど、実際に1曲目から聴いてみたが最後、そのまま最後まで一気に聴き切ってしまうパワーが、『The Wall』にはある。歌詞やメッセージがわからなくても、多彩なサウンドと周到な構成力が強い求心力を生み出している。
 最初に買ったのが輸入盤だったため、歌詞もストーリーも理解できなかったけど、「なんかスゲェ」と圧倒された、当時高校生の俺。ただ、先に聴いてたせいもあって、いまだに俺、『Final Cut』の方が好きなんだよな。ここまで書いてきて何だけど。



The Wall
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Pink Floyd
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1. In the Flesh? 
 重厚なギター・リフから始まるオープニング。スタジアム・ロックを思わせる劇的なラストに、爆撃機の飛来するSEがフェードイン、主人公Pinkの父親が爆撃されて亡くなったことを暗示している。

2. The Thin Ice
 前半がGilmour、後半をRogerと、ヴォーカルを分けている。どちらも卓越したヴォーカリストではないけど、ソフトな歌詞の前半と、やや写実的な後半とを一人で歌い分けるよりは、賢明だったんじゃないかと思われる。1.同様、シンプルなパワーコードからブルース・スケールのソロへの移行は、Gilmourの真骨頂。基本、引き出しの多い人ではないけれど、決めどころはしっかり押さえている。

3. Another Brick in the Wall (Part 1) 
 アルバムの主題曲の第1楽章。シリアスな独白に合わせたスロー・テンポ。疎外感から誘発された壁がひとつ、静かに積み上がってゆくのを象徴している。不穏なストーリーの序章。

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4. The Happiest Days of Our Lives
 残響をカットしたバスドラが印象的な、ソリッドなロック・サウンドの小品。ブリッジで済ませてしまうのは惜しいくらいだけど、ダラダラ引き伸ばすと、活きてこないんだよな、こういうのって。プログレなのに簡潔、っていうのも相反する表現だな。

5. Another Brick in the Wall (Part 2) 
 ただ、そのあっさりさが、この曲へのつなぎだと思えば、充分に納得できる。いやこのつなぎだけでも充分カッコいい。
 US・UKともチャート1位を獲得、Floydだけじゃなく、プログレのヒット・シングルとしては断トツの知名度を誇るナンバーであり、耳にしたことがある人は数多い。
 当然、あんな人たちの集まりだから、当初はディスコ・ビートを導入する予定があるはずもなかった。ただ「シングル・ヒットがどうしても必要だ」と熱弁するプロデューサーBob Ezrinの要請に従い、Rogerは実地調査のため、彼と共にディスコで研究を重ねた、とのエピソードが有名。ゲスく言っちゃえば、「夜の勉強会」だよな。
 まぁディスコとは言っても、取ってつけたような踊りづらいビートなのだけど、そんなぎこちなさでもヒットに結びつけちゃうというのは、やはりアーティスト・パワー。一般的には「We don't need no education」で始まる子供のコーラスが有名だけど、ほんとの聴きどころはGilmourの後半ギター・ソロ。やはりメロディがはっきりしてる曲だと、彼のプレイも映える。



6. Mother
 アコギ弾き語りによる、静かに語りかけるナンバー。メロディだけ聴いてると、苦み走った大人の歌といった風情だけど、実際はまったく逆で、過保護の母親を愛憎交えて語っている。時々出てくるRogerのヒステリックな叫びが、マザコン男の現状の嘆きをあらわしている。

7. Goodbye Blue Sky
 さわやかなフォーク・タッチのメロディに乗せながら、始終飛び交う爆撃機によって汚され失われた、かつての青い空を嘆き悲しんでる様を歌っている。思想的にかなり左寄りであることは、以前から小出しにされていたけど、ここに来てそのメッセージがフル稼働している。よくメンバーも付き合ってたよな。

8. Empty Spaces
 空虚さを感じるたび、その隙間をレンガで埋める作業。非生産的なその作業は、次第に強固で高い壁を創り出す。人間不信から誘発される孤立感は、留まるところを知らない。

9. Young Lust
 観念ばかりが先行するWatersの楽曲に対し、一介のミュージシャンであるスタンスを崩さないGlmourの楽曲の方が出来が良い。ソリッドで簡潔な、ちょっとダークな味わいのロックンロール。
 でもこの人、対Watersという姿勢で書くんならいいんだけど、Roger脱退以降になると、なんかモワッとした感じでメリハリがないんだよな。なので、『鬱』も『対』も最後までちゃんと聴いたことがない。

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10. One of My Turns
 『Final Cut』に入ってても違和感のない、地味なモノローグ調のナンバー。でも飛ばしちゃいけないよ、2分台から急にアップテンポになって、そこはシャキッとしてるから。いい意味での爽快なスタジアム・ロックが展開されている。

11. Don't Leave Me Now
 彼女に去られ、嘆き悲しむPink。ストレートな哀切を歌いながら、理想の女性像に母親の影を追い求めてしまう深層心理が綴られている。ドラマティックに描かれているけど、どこまで行ってもやっぱりマザコンの愚痴。
 まぁ男なら、多かれ少なかれマザコン気ってあるんだけど。極端だよな、感情表現が。あ、そんなんだからアーティストなのか。

12. Another Brick in the Wall (Part 3) 
 オーソドックスな8ビートにアレンジメントされた、シリアスさが漂ってくるヴァージョン。「所詮、誰も彼も自分自身を壁で守っている。ほんとうの相互理解なんて、できやしないんだ」。そんな想いのたけをぶつけるRoger。あぁよかった、1分ちょっとで終わって。
 最初は無口な人だと思ってたけど、親しくなるにつれ饒舌になり、そのうち傲慢な姿勢で「わかってくれない」とかほざく奴。あぁめんどくさい。

13. Goodbye Cruel World
 で、そんな強烈な思い込みが高じて厭世観に陥り、「この世界からさよなら」。でもこういう人って、実際、すぐいなくはならないんだよな。やめるやめる詐欺みたいなもので。吐き出しちゃうと、多少はすっきりするのかな。
 そんな曲なので、ほぼRogerの独演会、音楽的にはあんまり面白くない。ここまでで、レコードまたはCD1枚目終了。

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14. Hey You
 左とん平ともジャニー喜多川とも似つかない、何ともネガティブな掛け声から2枚目スタート。主題曲のフレーズを展開したギター・パートが絶品。メランコリックなアルペジオとハードで重厚なリフとのコントラストも、一世一代の名演。
 以前、バラードの名演でPaul McCartney 「No More Lonely Nights」を挙げたけど、ロック・サウンドでの名プレイとして、双璧を成す出来栄え。

15. Is There Anybody Out There? 
 後にリリースされた、発掘ライブのタイトルとしても採用されたナンバー。アコギのアルペジオと重々しいユニゾン・コーラスで構成されたサウンドは、どこまでも救いがない。
「そこに誰かいるのか?」。
 自ら築き上げた壁の中で、苦悶するPink。その声は、誰に届くはずもない。届いたら届いたで、狼狽してまた苦悶するタイプだな、きっと。

16. Nobody Home
 荘厳なストリングスとピアノに彩られた、ほぼRogerによる流麗なバラード。『The Wall』の中で最後に書かれた楽曲であり、いわば実質的な締めとなる。Rogerといえば理屈ばかりが先行しがちだけど、ちゃんとやればこういう曲だって書けるのだ。一応、ミュージシャンだし。
 イデオロギーや主張を声高にがなり立てるのではなく、誰にとっても耳ざわりの良いポップなサウンドに包んだ方が、真意は伝わることが多い。陰鬱な表情で「ぼくは孤独だ」と歌われるよりは、ずっといい。

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17. Vera
 タイトルは、第二次世界大戦時に活動していたイギリスの女性歌手Vera Lynnを指す。帰還を果たせずに亡くなった父親の時代を描いており、そこにクローズアップしたのが、『The Wall』最終章となるはずだった『Final Cut』。3枚組はさすがにキツイ。

18. Bring the Boys Back Home
 ヒステリックなコーラスに導かれた行進曲で歌われるのは、高度管理社会下の情報統制、または少年期からのシビリアン・コントロール。ただ、主人公は意識混濁なのか、最後にあの声が。
「Is There Anybody Out There?」。

19. Comfortably Numb
 主題曲は有名だけど、いわゆる裏名曲となると、ここに落ち着く。Roger脱退以降、Gilmour主導のFloydサウンドともリンクする、壮大なバラード。キャリア通じてだけど、余計な湿っぽさがないのがGilmourの特質のひとつである。ドラマティックだけどウェットに寄り過ぎないのは、プログレでは異端とされるブルースマン気質によるもの。同じブルースマンでも、Claptonならもっと手数が多くなるところを、謙虚に程よい加減で抑えるのも、Gilmourならでは。



20. The Show Must Go On
 Beach Boysとドゥーワップをごっちゃにしたようなコーラス・ワークが脱力感。ショーはまだもうちょっと続く。ステージの幕が上がろうとしている。

21. In the Flesh
 で、冒頭にループ。ここまでは、長い長い序章だった。本編自体は重要ではない。ここに至るまでの過程を書くことが、Rogerにとってはむしろ重要だったのだ。前置きが長い人だこと。

22. Run Like Hell
 Gilmour作曲による、疾走感あふれるコンテンポラリー・ロック・サウンド。フランジャーを強く効かせたギターが印象的で、Watersによるウェットなテイストをうまく中和している。前述したようにこの人、仮想敵や、または脇に回った時はいい仕事をするのに、いざ自分がメインになると、なんか印象が残らない。根っからのミュージシャンなんだろうな、いわゆるメッセージ性とかは薄そうだし。



23. Waiting for the Worms
 20.で披露された流麗なコーラスをバックに歌われるのは、「ウジ虫たちを待ちながら」。やっぱり屈折してるよな。タイトルだけ見ると、まるでResidentsみたい。まぁ作曲にGilmourが絡んでるので、音だけ聴くにはオーソドックスでゴスなハード・ロック。

24. Stop
 自らを守る壁だったはずなのに、いまはもう、自身を縛りつけるものになってしまった。あぁもうどこへも行けない。そんな独白。あぁめんどくさい。

25. The Trial
 映画音楽のようなピッコロ・トランペットと、オペラ調のモノローグ。ついに物語はラスト。Rogerのヴォーカル、っていうか語りもMAXで力が入り、ていうかヒステリック。この辺になると、いわゆるストーリーテリング、イデオロギーや主張のニュアンスが強いので、音楽的にはあんまり面白いところはない。

26. Outside the Wall
 静かな語り主体のエピローグ。主人公Pinkはどうなったのか、明確な答えは出されない。訳詩を読んだり他のレビューを読んだりしたのだけど、解釈は様々。まぁそれで良いのだろう。終わらせることばかりが重要じゃない。いかにして語ったのか。重要なのは、むしろそっちだ。






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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